説明

ポリチオフェンおよびその誘導体に基づく高い導電率を示す塗膜の製造方法

【解決手段】本発明は、置換されていてよいチオフェンに由来する少なくとも1種の導電性重合体を、必要であれば少なくとも1種の更なる導電性重合体、特にポリアニリンと共に、含有する高い導電率を示す塗膜の製造方法であって、まず、上記の少なくとも1種の導電性重合体を含有する水性または有機分散液または溶液を基体に塗布し;次に、形成されつつある又は形成された層を乾燥させ;上記の乾燥中または乾燥後に少なくとも1種の極性溶媒を上記の形成された又は形成されつつある層と接触させる、方法に関する。本発明は、本発明に係る塗膜が透明基体の表面に塗布された物品の製造にも関する。さらに、本発明は、置換されていてよいチオフェンに由来する少なくとも1種の導電性重合体を含有する塗膜の導電率を高めるために極性溶媒を使用することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオフェンおよびその置換されていてよい誘導体を、必要であれば更なる導電性重合体と共に含有する、高い導電率を示す塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極性溶媒を添加することによりポリチオフェンの導電率を高めることは知られている。したがって、例えばB. F. Louwet等は下記非特許文献1において、NMPを添加することによりPEDT/PSSH(PEDT=ポリエチレンジオキシチオフェン;PSSH=ポリスチレンスルホン酸またはその陰イオン;省略して“PSS”とも呼ぶ)の導電率を高めることを記載している。非特許文献1において、NMP(=N−メチルピロリドン)、DMSO(=ジメチルスルホキシド)またはジエチレングリコールの添加が優先的に記載されており、この際、PEDT/PSSHの水性分散液または溶液の相当する溶媒がほとんどの場合10%までの範囲で添加され、次にこの分散液/溶液から塗膜が形成されると、その溶媒が相当する量で含有されている。
【0003】
J. Ouyang等は下記非特許文献2において、導電率増大の原因について調べた結果を記載している。下記非特許文献3において、X. Crispin等は彼らの考察において、ポリチオフェン類またはチオフェン誘導体類に基づく導電性重合体の性質について、PEDT/PSSHに重点を置いて包括的に概説しており、極性溶媒を添加したときの導電率の増大の原因について検討した結果を相当する箇所で報告している。彼らは、この現象を、下記非特許文献4においてMacDiarmidおよびEpsteinがポリアニリンについて記載し、“二次ドーピング”と呼んだ現象に帰している。MacDiarmidおよびEpsteinは、本刊行物では以下の開示をもって引用されている:“現象学的に言えば、二次ドーピング剤は、一次ドープされた共役重合体の導電率のいっそうの増加を誘発する“不活性”物質のように見える。この二次ドーピング剤は、完全に除去された後でも、改善された性質が存続するという点で、一次ドーピング剤と異なる。”J. Ouyang等はさらに次のように開示している:
【0004】
“化学的に調製されたPEDT/PSSは、不活性溶媒が添加されると、0.8から80S/cmへと導電率の著明な増加を示す。上記の定義にしたがうと、この効果は二次ドーピングに分類できる。但し、その機序はポリアニリンについての機序と異なるようである。抵抗の温度依存性から、有機溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)およびテトラヒドロフラン(THF))を用いると、PEDT/PSS系は臨界的範囲(絶縁体−金属転移)に近いことが示されている。これらの新しいデータに基づき、我々はPEDT/PSSのDEGによる二次ドーピングの説明を提案する。乳濁液において、溶媒DEGは水中とPEDT/PSS粒子中との両方に存在する。PEDT/PSSに対するDEGの重量比0.5は、過剰の絶縁性PSSと導電性PEDT/PSSとを分離するのにPEDT/PSS粒子において必要なDEGの量の限度を表している。この相分離は可能である。何故なら、静電結合が弱まるので、水の蒸発後にDEGがPEDT/PSSを取り込むからである。”
【0005】
上記の全ての場合に、層が形成される前に、例えばDMSO、その他のような極性溶媒を水性分散液(または溶液と呼ぶことも多い)に添加する。その結果、極性溶媒は形態の変化をもたらすようである。これは、Crispin等も下記非特許文献5に記載している。彼らは、ジエチレングリコールの添加に起因してPEDT/PSSH分散液の導電率が3桁増加するが、これは、ジエチレングリコールを添加すると、PEDT/PSSH分散液が三次元網状構造を形成するからであると説明している。これに関連して、PSSHを対イオンとして含有している水性ポリアニリン分散液は、相当する極性溶媒の添加に対し導電率の増加をもって反応しないことに注目すると興味深い。むしろ、この現象は、対イオンである樟脳スルホン酸とポリアニリンおよびフェノール添加に限られる。
【0006】
特許文献には、これに相当する操作があり、様々な極性溶媒を水性ポリチオフェン分散液に添加する特殊なやり方が記載された一連の特許がある。例えば、下記特許文献1には、置換されていてもよいポリ−3,4−アルキレンジオキシチオフェン酸塩イオンと、関連のポリアニオンとの水性分散液と、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチルピロリドン(NMP)、エチレングリコールまたはそれらの混合物の少なくとも1種の1%(重量/容量)〜100%(重量/容量)との組合せからなる組成物を請求項1に開示しており、この際、上記水性分散液の水分の少なくとも30%(重量/容量)が上記組み合せから除去される。
【0007】
下記特許文献2は、置換されていてよいポリチオフェンを有機溶媒中に含有する分散液または溶液の製造方法であって、
a)水と混和性の有機溶媒または水と混和性の溶媒混合物を置換されていてよいポリチオフェンを含有する水性分散液または溶液に添加し、
b)得られた混合物から水を少なくとも部分的に除去することを特徴とする製造方法を特に請求項1に開示している。
【0008】
下記特許文献3は、以下からなる混合物を請求項1に開示している:
a)チオフェン基を陽イオン形で含有するオリゴマ(低重合体)、デンドリマ(樹枝状重合体)またはポリマ(重合体)と陰イオン性化合物、陰イオン性オリゴマ、陰イオン性デンドリマ、または陰イオン性ポリマと水から実質的になる分散液、および
b)以下の官能基の1種またはそれ以上:ケタール、ラクトン、カーボネート、環状酸化物、ジケトン、無水物、アミノ炭酸、フェノールおよび無機酸、およびこれらの官能基の誘導体の1種またはそれ以上、を含有する少なくとも1種類の添加剤。
【0009】
上記の従来技術に記載された、様々なポリチオフェン誘導体を含有する水性配合物は、市場においてある限定された重要性を発揮したが、依然として種々の不利益をこうむっており、その中には以下のものがある:
【0010】
− そのような極性有機溶媒の添加量は比較的に高く数パーセントである。
【0011】
− 500S/cmの範囲内の比較的高い導電率値(塗布した層の乾燥後の)は、例えばBaytron PH500(メーカー:H. C. Starck)のような特殊な分散液でしか達成できないが、この会社のBaytron P HCV4のような標準的製品は、同量のDMSOについて概ね200S/cmを達成するだけである。極性有機溶媒を同一に添加しても、EL 4083では、1S/cm未満の数値が達成できるだけである。
【0012】
− PEDTに加えて、ポリアニリンのような他の導電性重合体を含有する分散液は、明らかにより小さな導電率増加を示す。これは、ポリアニリン−PSSHは、DMSO、NMP等のような極性溶媒を通してこれらの溶媒の添加に対し導電率の増加をもって反応しないからである。
【0013】
− PEDT(または置換されていてよいポリチオフェン誘導体)を単独で、または例えばポリアニリンのような他の重合体と共に含有する水性分散液は、水を有機溶媒で置き換えることにより有機溶液へと変換されると、極性溶媒添加剤(DMS、NMP、DEGその他)の添加は遥かに小さな導電率増加(従来はせいぜい100S/cmまで)をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6692662号明細書
【特許文献2】国際公開第02/072660号パンフレット
【特許文献3】国際公開第04/021366号パンフレット
【特許文献4】欧州特許出願公開第1849815号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】B. F. Louwet et al., "Synth. Met.", 2003, 115, p. 35-136
【非特許文献2】J. Ouyang et al., "Polymer", 2004, 45, p. 8443
【非特許文献3】X. Crispin et al., "Polymer Science: Part B: Polymer Physics", 2003, Vol. 41, p.2561-2583
【非特許文献4】MacDiarmid and Epstein, "Synth. Met. (Special Issue)", August 1994, Vol. 65, Nos. 2-3, p. 103-116
【非特許文献5】Crispin et al., "Chem. Mater." 2006, 18, p. 4354-4360
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の基礎を形成する目的は上記の不利益を克服し、置換されていてよいチオフェンに基づく導電性重合体(例えばPEDT)を含有する極性溶媒による層(塗膜)の導電率を増大する(“二次ドーピング”)ための一般的に適用可能な方法であって、上記層は、水性または主として有機媒体に基づく(例えば、1%未満の水を含有する)分散液から形成できるはずの方法、を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、高い導電率を示す塗膜の製造方法であって、本明細書中で定義したような少なくとも1種の極性溶媒は、製造される塗膜の成分を含有する分散液には添加されない方法、により上記の目的が達成された。本発明によれば、その代わりに、上記少なくとも1種の極性溶媒は、実際の塗布工程後、すなわち、塗膜の付着後、すなわち、形成された塗膜の乾燥後または乾燥中、塗膜と接触される。
【0018】
他の側面によれば、本発明は、高い導電率を示す塗膜の製造方法であって、上記塗膜は第1の導電性重合体と少なくとも1種の更なる導電性重合体を含有し、上記第1の導電性重合体は置換されていてよいチオフェンに由来し、上記方法において、
a)まず、上記導電性重合体同士を含有する水性または有機分散液または溶液を以下により調製し、
i.上記第1の導電性重合体が由来する単量体を上記少なくとも1種の更なる重合体の分散液または溶液中で重合させるか、または
ii.上記少なくとも1種の更なる導電性重合体が由来する単量体を上記第1の重合体の分散液または溶液中で重合させるか、または
iii.上記導電性重合体同士が由来する単量体同士を分散液または溶液中で同時に重合させる、
b)上記導電性重合体同士を含有する上記水性または有機分散液または溶液を次に基体に塗布し、
c)次に、形成されつつある、または形成された層を乾燥させ、
d)少なくとも1種の極性溶媒を乾燥後の上記形成されつつある、または形成された層と接触させる、
方法に関する。
【0019】
本発明はまた、第1の導電性重合体と少なくとも1種の更なる導電性重合体を含有する水性または有機分散液または溶液の製造方法であって、上記第1の導電性重合体は置換されていてよいチオフェンに由来し、上記方法において、
i.上記第1の導電性重合体が由来する単量体を上記少なくとも1種の更なる重合体の分散液または溶液中で重合させるか、または
ii.上記少なくとも1種の更なる導電性重合体が由来する単量体を上記第1の重合体の分散液または溶液中で重合させるか、または
iii.上記導電性重合体同士が由来する単量体同士を分散液または溶液中で同時に重合させる、
方法に関する。
【0020】
最後に、本発明は、透明基体、被膜(例えばポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等に基づく)、特に、タッチパネル、デジタルペーパ、有機LED(OLED)、エレクトロルミネセンスディスプレ、充電式電池、コンデンサ、スーパコンデンサ、発光ダイオード、センサ、エレクトロクロムディスク、複写機ドラム、ブラウン管、帯電防止または電磁遮蔽プラスチックフィルム、成形部品および写真感光材料用の被膜のような軟質または硬質導電性基体からなる群から選ばれる物品の製造方法であって、本発明により製造された塗膜が用いられている、すなわち、上記物品の1つ以上の領域または部分が本発明に係る塗膜を設けられている、方法に関する。
【0021】
本発明のさらに好適な態様は添付の従属請求項に開示されている。
【0022】
用語“層”および“塗膜”は、本明細書中で同じ意味で用いられている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は様々な方法で実施でき、決定的な要因は、上記の少なくとも1種の極性溶媒は製造される層の成分を含有する分散液(水性または有機)に添加されないことである。その代わり、本発明によれば、上記の少なくとも1種の極性溶媒は、さらに形成されつつある層、すなわち、原則としていぜん乾燥中の層、と接触させることができるか、または、既に充分に形成された層、すなわち、原則として完全に乾燥した層、であって実際に塗布された後、すなわち、塗布される基体がもはや分散液/溶液の貯留槽とは直接接触していない後、の層と接触させることができる。上記分散液/溶液は、本明細書中に記載されたようにさらに調製される。
【0024】
上記少なくとも1種の極性溶媒との接触は、特に、上記塗膜の極性溶媒(類)が蒸気相から噴霧ミストとして提供されるか、または、追加の薄膜として(例えばスピンコーティングにより)提供されることにより、実施できる。
【0025】
驚くべきことに、比較的少量の極性溶媒(層に取込まれるものの量と比べ)を用いて達成された導電率値は、相当する溶媒を層形成の前に出発分散液に数パーセントの量で添加することにより達成される数値と少なくとも同等である。
【0026】
しかしながら、明らかにより良好な数値が達成できる場合もある:
【0027】
− ほぼ500S/cmがBaytron PH500だけでなく、HCV4でも達成できるが、極性添加剤をHCV4の分散液に添加した場合には、これは不可能である。
【0028】
− PEDTに加え、更なる導電性重合体として例えばポリアニリンを含有する分散液から析出された層も約500S/cmの導電率を示すことがあり、これは、極性添加剤を層の形成/乾燥中または形成/乾燥後に作用させた場合である。一方、同等の分散液が層形成前に極性溶媒を含有していると、ほぼ200S/cmの層をもたらすだけである。これは特に驚くべきことである。何故なら、これらの分散液はポリアニリンも含有しており、したがって、導電率の増加をもって極性溶媒に対しプラスの反応ができるPEDTはより少ないからである。一方、ポリアニリン単独の導電率は例えばDMSOまたはNMPを添加しても増加できない。
【0029】
− 逆に、本発明によれば、意外にも以下のことが観察された:PEDTに加え、更なる導電性重合体として例えばポリアニリンを含有する分散液から析出された層も約500S/cmまたはそれ以上の導電率を示すことがある。これは、クロロフェノールを極性添加剤として用い、層の形成/乾燥中または形成/乾燥後に作用させた場合である。一方、同等の分散液が層形成前に極性溶媒を含有していると、ほぼ200S/cm程度の層をもたらすだけである。これは特に驚くべきことである。何故なら、PEDTを含有している分散液の場合、従来技術の方法を適用すると、クロロフェノールは導電率を増加させず、ポリアニリンの場合だけ増加が得られる。言い換えれば、PEDTとポリアニリンとの組合せを用いる場合、クロロフェノールに対し敏感なポリアニリンの存在量はより少ないが、導電率の著しい増加が達成される。
【0030】
− 水性PEDTと、更なる導電性重合体として例えばポリアニリンを含有する分散液を例えば上記特許文献4の教示にしたがい有機分散液に変換すると、極性溶媒の添加によりせいぜい50〜100S/cmの導電率が従来可能であった。しかしながら、本発明に係る手順を適用すると、驚いたことに200〜300S/cmより高い導電率値が可能である。
【0031】
本発明にしたがう置換されていてよいチオフェン重合体の場合、以下の式の反復単位を持つものを用いるのが好ましい:
【0032】
【化1】

【0033】
式において、
Yは−(CH2m−CR12(CH2n−または炭素数3〜8の置換されていてよい1,2−シクロアルキレン残基を表し、
1およびR2は各々独立して水素、ヒドロキシメチル、炭素数1〜20の置換されていてよいアルキル残基、または炭素数6〜14の置換されていてよいアリール残基を表し、
mおよびnは同一または異なっており、0〜3の整数である。
【0034】
本発明に係る層は、ポリチオフェン(PTh)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDT)および/またはポリチエノチオフェン(PTT)、特にPEDTを含有するのが好ましい。
【0035】
したがって、沈着されて本発明に係る層となる分散液/溶液は、上に定義したように、置換されていてよいチオフェンに基づいた導電性重合体を単独または好ましくは、以下により詳細に説明した少なくとも1種の他の導電性重合体と共に含有している。これは、例えば共重合体またはグラフト共重合体のような化学的化合物、または物理的混合物の形態で実施できる。置換されていてよいチオフェンから派生する2種以上の異なった重合体の混合物も用いることができる。
【0036】
本発明に係るチオフェン系の重合体、または本発明に係る層に組込むことができる更なる導電性重合体について、以下のことが当てはまる:“固有導電性重合体”または“有機金属”とも呼ばれている導電性重合体として記載されているのは、低分子量化合物(単量体)から派生する物質であり、重合により少なくともオリゴマとなっている。すなわち、化学結合により連結された少なくとも3つの単量体単位を持ち、中性(非導電)状態で共役n−電子系を示し、酸化、還元またはプロトン化(しばしば“ドーピング”と呼ばれる)により、導電性であるイオン形に変換できるものである。導電率は少なくとも10-7S/cmである。
【0037】
ほとんどの導電性重合体は、温度の上昇につれてある程度著しい導電率増加を示すことで、非金属導体であることを示している。この部類の物質の少数の代表は、少なくとも室温に近い温度範囲において金属の挙動を示す。温度が上がると、導電率は下がるからである。金属挙動を認識するいっそうの方法は、低温(ほぼ0Kまで低下)での温度に対する導電率のいわゆる“低活性化エネルギ”をプロットすることである。導電率に金属的寄与をする導体は、低温で曲線の正の傾きを示す。このような物質は、“有機金属”と呼ばれる。
【0038】
本願中で用いられる“導電性重合体”という用語は、上述のような固有導電性重合体といわゆる有機金属との両方を包含する。
【0039】
ポリチオフェンまたはその誘導体に加え、本発明に係る層の成分である本発明に係る固有導電性重合体または有機金属の例は、特に、ポリアニリン(PAni)、ポリジアセチレン、ポリアセチレン(PAc)、ポリピロール(PPy)、ポリイソチアナフテン(PITN)、ヘテロアリーレン基が例えばチオフェン、フランまたはピロールであるポリヘテロアリーレンビニレン(PArV)、ポリ−p−フェニレン(PpP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリペリナフタレン(PPN)、ポリフタロシアニン(PPc)、その他、およびそれらの誘導体(例えば、側鎖または基で置換された単量体から作られる)、それらの共重合体、およびそれらの物理的混合物である。ポリアニリン(PAni)およびその誘導体が特に好ましく、ポリアニリンが最も好ましい。
【0040】
好ましい二成分混合物は、PAniとPTh、PAniとPEDT、PEDTとPPy、およびPEDTとPThからなるものである。
【0041】
層は更なる添加剤、湿潤助剤、抗酸化剤、潤滑剤、必要であれば非導電性重合体も含有することができる。特に、熱可塑性重合体を使用できる。例えば、Eastman Kodakから市販されているポリエチレンテレフタレート共重合体、またはDegussaのポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いることができる。
【0042】
本発明の極性溶媒と接触させる塗膜を形成するための分散液を調製するには、多くの方法がある。
【0043】
例えば、Baytron P HCV4またはPH 500のような市販のPEDT分散液を用いてもよいが、EDTその他の置換されていてよいチオフェン単量体を当業界で知られている方法にしたがって重合し、生成された製品を水に分散してもよい。置換されていてよいチオフェン重合体と、置換されていてよいポリアニリンのような他の導電性重合体との化学的または物理的混合物を用いてもよい。
【0044】
本発明の好ましい側面によると、沈着されて本発明に係る層を形成できる分散液/溶液を調製するには、上述の導電性重合体をもたらす単量体を重合させる。重合操作は例えば上に記載したとおりである。すなわち、選択肢(i)から(iii)に準じる。重合は、適当なドーピング助剤の存在下に行ってもよい。
【0045】
ポリアニリンの水性分散液(例えばOrmecon GmbHのORMECON(登録商標) D 1012またはD 1022 W)中でEDT(エチレンジオキシチオフェン)を重合させることにより、または、水性PEDT分散液中(例えばBaytron PH500中)でアニリンを重合させることにより、調製される分散液が好ましく、本発明を実施するのに特に適している。ドーピング用酸の存在下にEDTとアニリンの同時重合を行うことも可能である。
【0046】
第1の導電性重合体、特にPEDT(または置換されていてよいチオフェン重合体)と、上記少なくとも1種の更なる導電性重合体(存在する場合)、特にポリアニリン、との比率は自由に選択でき、透明度の必要性に応じて決定される。置換されていてよいチオフェン重合体とポリアニリンとの比率は、好ましくは1:10〜10:1であり、より好ましくは1:1〜8:1、例えば約2:1であり、各々が単量体単位のモル数に対する。
【0047】
このような導電性重合体分散液は、それぞれの重合体の酸化とプロトン化の程度に応じて、例えばPSSHのような多酸、メタンスルホン酸のようなその他のスルホン酸の電荷均等化に適した陰イオンを含有することが当業者に知られている。後者は、必ずしも本明細書中に明示されているわけではない。
【0048】
上に挙げた重合体の基礎となる単量体に由来する共重合体またはグラフト共重合体も適している。
【0049】
特にPEDTを必要に応じ他の導電性重合体と組み合わせて含有する水性分散液を必要であれば有機溶媒系に変換することは、既知の方法、例えば上記特許文献4において日産化学工業により記載された方法にしたがって実施できる。本発明に係る操作は、工程a)において水性分散液を調製するが、これは工程b)の前に、まず、分散液全体の重量に対し1%未満の含水量を持つ少なくとも1種の有機分散剤に基づく分散液に変換する。適当な有機溶媒は例えば、一価または多価の第一または第二アルコール類、特に炭素数1〜4のもの、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、プロパンジオール等である。
【0050】
例えば(置換されていてよい)ポリアニリンのような更なる導電性重合体を含有してよい(置換されていてよい)チオフェン重合体を含有する本発明に係る層は、層の乾燥中または乾燥後に本発明に係る極性溶媒と接触されることが不可欠である。
【0051】
誘電率(DE)が25より大きい有機溶媒は、層の導電率を高める極性溶媒と考えるのが好ましい。30〜55のDEを持つ溶媒が好ましい。
【0052】
特に、本発明に係る極性溶媒は常圧で100℃より高い沸点を持つ。
【0053】
本発明に係る溶媒は、脂肪族、脂環式、芳香族、複素環式(飽和および不飽和)および芳香族複素環式溶媒、さらに、総炭素数1〜10、特に1〜6のそれらの置換された誘導体からなる群から選ばれるのが好ましい。例えば、本発明に係る溶媒は、ホルムアミドおよびアセトアミド、特に、アミド基の窒素に単一または二重のメチル置換を示すホルムアミドおよびアセトアミド、のような蟻酸および酢酸誘導体、さらにスルホキシドからなる群から選ばれる。好ましい芳香族溶媒としては、窒素置換されたベンゼン誘導体、特に、ニトロベンゼンのような、ニトロ基で置換されたベンゼン誘導体がさらに挙げられる。本発明によれば、窒素含有の単核複素環式化合物も好適であり、例えば、N−メチルピロリドンである。クロロフェノールのようなハロゲン置換されたフェノールも使用でき、本発明によれば好ましい。フラン類、特にテトラヒドロフランも適している。
【0054】
本発明において適している溶媒は、特にホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−メチルカプロラクタムおよびN−メチルホルムアミドのような、蟻酸および酢酸に基づくアミド系溶媒が好ましい。
【0055】
エチレングリコール、グリセロール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、またはジオキサンのようなアルコール類およびエーテル類も本発明では適している。ジメチルスルホキシドのようなイオウ含有の有機溶媒も本発明では適しており好ましい。
【0056】
特に、DMSO、NMP、ジエチレングリコール、DMA(=ジメチルアセトアミド)、DMFおよび/またはニトロベンゼンが好ましい。DMSOは特に好ましい。
【0057】
さらに、有機溶媒を本発明の極性溶媒として用いてもよい。例えば、上記の誘電率と沸点の基準に合致する酸を用いてもよい。特に、炭素数1〜3の置換または未置換メタンスルホン酸誘導体のようなスルホン酸誘導体を用いてよく、特に、ハロゲン置換、より好ましくはフッ素置換の酸を用いてよい。特に好ましいのは、トリフルオロメタンスルホン酸である。
【0058】
本発明に係る塗膜を接触および乾燥させた後、得られた層厚さは約50〜80nmであった。塗膜の製造直後、すなわち、本発明に係る溶媒と接触させる前、の層厚さに比べ、驚くべきことに概ね25%〜70%層厚さが低下していた。
【0059】
本発明にしたがい製造、処理された塗膜の導電率は100S/cmより高く、特に300S/cmより高いか、または350S/cmより高いのが好ましく、例えば、100または300または350〜3000S/cmの範囲内であることができる。この導電率は、van der Pauwの4点プローブ法により測定される。
【0060】
本発明にしたがい製造された塗膜は、一般的に透明基体、殊に、被膜のような軟質または硬質導電性基体、例えば、タッチパネルや、“デジタルペーパ”、有機LED(OLED)、エレクトロルミネセンスディスプレ用に、または充電式電池、コンデンサ、スーパコンデンサ、発光ダイオード、センサ、エレクトロクロムディスクの製造において、あるいは、複写機ドラムやブラウン管上の塗膜として、また、プラスチックフィルムや成形部品用の帯電防止または電磁遮蔽仕上材として、また、写真感光材料上の被膜として、用いることができる。
【0061】
以下の実施例は、従来技術にしたがい達成できる結果と比べ、かつ本発明の範囲を限定することなく例示として、本発明に係る操作を説明するものである。導電率は4点測定法により測定し、層厚さは粗面計(Dektak Profilometer)を用いて測定した。
【実施例】
【0062】
実施例1(比較例)
Ormecon GmbHから市販されている分散液ORMECON D 1031 W、D 1032 WおよびD 1033 W(PEDTとポリアニリンを含有している)を5%のDMSOと反応させ(各々、H.C. Starckから市販されている分散液Baytron P HCV4およびBaytron P H500と比較)、ガラス上のスピンコーティングにより薄層に加工し、その後に乾燥させた(120℃で10分間)。層厚さは50〜100nmであった。
【0063】
前記特許文献4の指示に従い、D 1033 Wをメタノールまたはエタノールに変換し、DMSOを分散液に添加し、この混合物を同様に薄層に加工し、乾燥させた。層厚さは50〜100nmであった。
【0064】
以下の結果が得られた:
【0065】
【表1】

【0066】
PEDTを含有せず、ポリアニリンだけを含有する分散液、例えば、ORMECON D 1012またはD 1021 W(導電率0.1S/cm)に、これらの又は他の極性溶媒を添加すると、導電率の増加をもたらさなかった。
【0067】
分散液ET 574は、Baytron P HCV4中でアニリンを重合することにより調製された分散液であり、PEDT/アニリン比が2:1(単量体単位のモル数に対し)である。
【0068】
実施例2(本発明)
まず、実施例1に記載したように分散液を調製するが、各々の分散液にDMSOは添加しなかった。本発明にしたがう手順により、次に分散液を基体に塗布し、その後になってはじめて、DMSOまたは25より高い誘電率を持つ他の適当な溶媒を、形成されつつある層と、すなわち乾燥中に、接触させるか、または充分に形成された層と、すなわち実質的に完全に乾燥後に、接触させた。これは、以下のように行った:
【0069】
a)乾燥中:
基体に分散液を塗布し(例えばスピンコーティングにより)、次に出口に開口を持つ箱に入れて、50℃に設定した加熱板上に置いた。同一の加熱板上にDMSOが入った開放容器があった。その結果、層は、この温度に相当するDMSOの分圧を持つガス雰囲気に暴露された。24時間後、試料を取出し、導電率を測定した。
【0070】
b)乾燥後:
まず、基体に塗布した分散液を乾燥させた(例えば120℃で10分間)。塗布した基体を密封容器、例えばガラスフラスコ、中で、DMSOまたは他の極性溶媒の液面より上のガス空間中に1時間保持し、この間、それぞれの溶媒は例えば100℃に加熱した。
【0071】
c)スピンコーティングにより:
b)にしたがい乾燥させた基体上の層をスピンコータにおいてDMSO(または他の溶媒)と接触させ、過剰のDMSO/溶媒はスピン回転により除去し、次に乾燥を行った(120℃で10分間)。
【0072】
得られた層厚さは約50〜100nmであった。塗膜の製造直後、すなわち、本発明に係る溶媒の添加の前、の層厚さに比べ、それらの層厚さは約25%〜70%減少していた。層厚さは粗面計(Dektak profilometer)で測定した。
【0073】
導電率値は以下の通りであった:
【0074】
【表2】

【0075】
PEDTを含有せず、ポリアニリンのみを含有する分散液、例えば、ORMECON D 1012またはD 1021 W(導電率0.1S/cm)由来の分散液から形成された層をDMSOまたは他の極性溶媒と、乾燥中または乾燥後またはスピンコーティングにより接触させたが、導電率の増加は得られなかった。
【0076】
実施例3(本発明)
以下に挙げた分散液から形成された層の乾燥中、各種極性溶媒を実施例2、方法a)に記載された手順に準じて用いた。以下の結果が得られた(各々において導電率はS/cmで示す)。
【0077】
Baytron P HCV 4
− NMP:425
− 2−Br−プロピオン酸:505
【0078】
ORMECON D 1032 W
− NMP:330
− グリセロール:495
− エチレングリコール:425
− ホルムアミド:415
− 2−Br−プロピオン酸:385
【0079】
ORMECON D 1033 W
− NMP:360
− エチレングリコール:455
− ジーCl−酢酸:360
− クロロフェノール:685
− 2−Br−プロピオン酸:500−900
【0080】
実施例4
814gのPEDT−PSSH分散液(Clevios PHCV4)と370μLのアニリンを冷却ジャケットと攪拌器を備えた1Lの反応容器に入れた。このバッチを攪拌し、0℃の冷却液の温度で15分間冷却した。925mgのペルオクソ二硫酸アンモニウムを89.5mLの水に溶解させた溶液をバッチに4回に分けて添加した。この際、それぞれの回同士の間に15分の間隔を設けた。はじめの3回分の各々の容積は15mLであり、最後の添加分は溶液の残りからなっていた。添加の完了後、バッチを0℃の冷却温度で攪拌した。その後、バッチは20℃で16時間攪拌した。
【0081】
緑青色の分散液を冷却ジャケットを備えた容器中、攪拌により6℃に冷却し、攪拌しながら1000Wの音波発振器(sonotrode)で30分間処理した。
【0082】
次に、分散液を陽イオン交換材料のビーズを充填したカラム(カラムの直径:3cm;充填高さ:14cm)に通し、次に陰イオン交換材料のビーズを充填したカラム(カラムの直径:3cm;充填高さ:14cm)に通した。これにより、イオン導電率は、イオン交換前の350μS/cmからイオン交換後の150μS/cmまで低下した。イオン導電率を測定するため、1gの分散液を24gの脱イオン水と混合させた。
【0083】
得られた分散液は1%の固形分(残留水分分析器を用いて120℃で不揮発分として測定)を持っていた。ガラス基体上の分散液のスピンコート塗布層は、85nmの層厚さと1S/cmの導電率を持っていた。
【0084】
様々な後処理方法、殊に、その後の層へのDMSOのスピンコーティング、を用いることにより、500S/cmより大きな導電率が得られた。
【0085】
実施例5
455gのPEDT−PSSH分散液(Clevios PHCV4)と104μLのアニリンを冷却ジャケットと攪拌器を備えた1Lの反応容器に入れた。このバッチを攪拌し、0℃の冷却液の温度で15分間冷却した。266mgのペルオクソ二硫酸アンモニウムを50mLの水に溶解させた溶液を4回に分けてバッチに添加した。この際、それぞれの回同士の間に15分の間隔を設けた。はじめの3回分の各々の容積は10mLであり、最後の添加分は溶液の残りからなっていた。添加の完了後、バッチを0℃の冷却温度で攪拌した。その後、バッチは20℃で16時間攪拌した。
【0086】
緑青色の分散液を冷却ジャケットを備えた容器中、攪拌により6℃に冷却し、攪拌しながら1000Wの音波発振器(sonotrode)で30分間処理した。
【0087】
次に、分散液を陽イオン交換材料のビーズを充填したカラム(カラムの直径:3cm;充填高さ:14cm)に通し、次に陰イオン交換材料のビーズを充填したカラム(カラムの直径:3cm;充填高さ:14cm)に通した。これにより、イオン導電率は、イオン交換前の240μS/cmからイオン交換後の150μS/cmまで低下した。イオン導電率を測定するため、1gの分散液を24gの脱イオン水と混合させた。
【0088】
得られた分散液は1%の固形分(残留水分分析器を用いて120℃で不揮発分として測定)を持っていた。ガラス基体上の分散液のスピンコート塗布層は、62nmの層厚さと0.3S/cmの導電率を持っていた。
【0089】
様々な後処理方法、殊に、その後の層へのDMSOのスピンコーティング、を用いることにより、500S/cmより大きな導電率が得られた。
【0090】
実施例6
455gのPEDT−PSSH分散液(Clevios PHCV4)と139μLのアニリンを冷却ジャケットと攪拌器を備えた1Lの反応容器に入れた。このバッチを攪拌し、0℃の冷却液の温度で15分間冷却した。355mgのペルオクソ二硫酸アンモニウムを50mLの水に溶解させた溶液をバッチに4回に分けて添加した。この際、それぞれの回同士の間に15分の間隔を設けた。はじめの3回分の各々の容積は10mLであり、最後の添加分は溶液の残りからなっていた。添加の完了後、バッチを0℃の冷却温度で攪拌した。その後、バッチは20℃で16時間攪拌した。
【0091】
緑青色の分散液を冷却ジャケットを備えた容器中、攪拌により6℃に冷却し、攪拌しながら1000Wの音波発振器(sonotrode)で30分間処理した。
【0092】
次に、分散液を陽イオン交換材料のビーズを充填したカラム(カラムの直径:3cm;充填高さ:14cm)に通し、次に陰イオン交換材料のビーズを充填したカラム(カラムの直径:3cm;充填高さ:14cm)に通した。これにより、イオン導電率は、イオン交換前の300μS/cmからイオン交換後の150μS/cmまで低下した。イオン導電率を測定するため、1gの分散液を24gの脱イオン水と混合させた。
【0093】
得られた分散液は0.9%の固形分(残留水分分析器を用いて120℃で不揮発分として測定)を持っていた。ガラス基体上の分散液のスピンコート塗布層は、55nmの層厚さと0.4S/cmの導電率を持っていた。
【0094】
様々な後処理方法、殊に、その後の層へのDMSOのスピンコーティング、を用いることにより、500S/cmより大きな導電率が得られた。
【0095】
実施例7
455gのPEDT−PSSH分散液(Clevios PHCV4)と52μLのアニリンを冷却ジャケットと攪拌器を備えた1Lの反応容器に入れた。このバッチを攪拌し、0℃の冷却液の温度で15分間冷却した。133mgのペルオクソ二硫酸アンモニウムを50mLの水に溶解させた溶液をバッチに4回に分けて添加した。この際、それぞれの回同士の間に15分の間隔を設けた。はじめの3回分の各々の容積は10mLであり、最後の添加分は溶液の残りからなっていた。添加の完了後、バッチを0℃の冷却温度で攪拌した。その後、バッチは20℃で16時間攪拌した。
【0096】
緑青色の分散液を冷却ジャケットを備えた容器中、攪拌により6℃に冷却し、攪拌しながら1000Wの音波発振器(sonotrode)で30分間処理した。
【0097】
次に、分散液を陽イオン交換材料のビーズを充填したカラム(カラムの直径:3cm;充填高さ:14cm)に通し、次に陰イオン交換材料のビーズを充填したカラム(カラムの直径:3cm;充填高さ:14cm)に通した。これにより、イオン導電率は、イオン交換前の210μS/cmからイオン交換後の150μS/cmまで低下した。イオン導電率を測定するため、1gの分散液を24gの脱イオン水と混合させた。
【0098】
得られた分散液は0.9%の固形分(残留水分分析器を用いて120℃で不揮発分として測定)を持っていた。ガラス基体上の分散液のスピンコート塗布層は、55nmの層厚さと0.2S/cmの導電率を持っていた。
【0099】
様々な後処理方法、殊に、その後の層へのDMSOのスピンコーティング、を用いることにより、500S/cmより大きな導電率が得られた。
【0100】
実施例8:導電率向上のためのスピンコートされたICPの後処理法
スプレー塗装
実施例7のICP分散液500μLを新たに洗浄、火炎処理した試料スライド(約25×25mmの大きさ)上に塗布した。スピンコータ(Specialty Coatings Systems Inc.の型式P6700;プログラム3:500rpmで5秒、次に3000rpmで30秒)を用いて、スピン塗布層を作成した。
【0101】
次に、試料スライドを約85℃で1分間乾燥した。
【0102】
溶媒を充填したスプレー装置を用いて、このスピン塗布層をスプレーミストに2度暴露した。次に、試料スライドをティシュペーパ上に垂直に置いて、過剰の液を除去するようにした。その後、スピン塗布層を約85℃のヒーター板上で乾燥させた。以下の溶媒組成と総スプレー時間を用いた:DMSO/MeOH(1:1):約2分間;DMSO:約4分間;エチレングリコール:約6分間。
【0103】
浸漬塗装
実施例7のICP分散液500μLを新たに洗浄、火炎処理した試料スライド(約25×25mmの大きさ)上に塗布した。スピンコータ(Specialty Coatings Systems Inc.の型式P6700;プログラム3:500rpmで5秒、次に3000rpmで30秒)を用いて、スピン塗布層を作成した。
【0104】
次に、試料スライドを約85℃で1分間乾燥した。
【0105】
このスピン塗布層を水平位置に保ちながら溶媒(混合物)に浸漬し、次に試料スライドの下側をティシュペーパで清浄にした。次に、試料スライドをティシュペーパ上に10秒間垂直に置いて、過剰の液を除去した。その後、スピン塗布層を約85℃のヒーター板上で乾燥させた。以下の溶媒組成と浸漬時間を用いた:DMSO/MeOH(1:1):約2分間;DMSO:約4分間;エチレングリコール:約6分間。
【0106】
スピンコーティング
実施例7のICP分散液500μLを新たに洗浄、火炎処理した試料スライド(約25×25mmの大きさ)上に塗布した。スピンコータ(Specialty Coatings Systems Inc.の型式P6700;プログラム3:500rpmで5秒、次に3000rpmで30秒)を用いて、スピン塗布層を作成した。
【0107】
次に、試料スライドを約85℃で1分間乾燥させた。
【0108】
溶媒混合物500μLをスピン塗布層上に塗布し、次にスピンコータのプログラム3を実行した(500rpmで5秒、その後3000rpmで30秒)。次に、試料スライドを85℃で1分間乾燥させた。以下の溶媒組成を用いた:DMSO/MeOH(1:1);DMSO;エチレングリコール。
【0109】
実施例9
実施例5で記載したように調製した分散液にメタンスルホン酸の溶液を添加して、酸に対する固有導電性重合体(ICP)の重量比が1:0.2〜1:2になるようにした。希釈したメタンスルホン酸に対するICP分散液の重量比は約1:0.25であった。
【0110】
ICP分散液0.5mLの試料を試料スライド上に置き、スピンコータ(1500rpmで5秒、3000rpmで30秒)を用いて均一に分散させた。その後、試料を約85℃で1分間乾燥させた。
【0111】
次に、濃縮トリフルオロメタンスルホン酸0.5mLをスピン塗布層に添加し、スピンコータ(1500rpmで5秒、3000rpmで30秒)を用いて分散させた。その後、試料を約85℃で1分間乾燥させた。
【0112】
導電率を4点プローブ法を用いて測定した(電極間隔:2.5cm)。厚さはprofilometerを用いて測定した。スピン塗布層は1200〜1700S/cmの比導電率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明にしたがい製造された塗膜は、一般的に透明基体、殊に、被膜のような軟質または硬質導電性基体、例えば、タッチパネルや、“デジタルペーパ”、有機LED(OLED)、エレクトロルミネセンスディスプレ用に、または充電式電池、コンデンサ、スーパコンデンサ、発光ダイオード、センサ、エレクトロクロムディスクの製造において、あるいは、複写機ドラムやブラウン管上の塗膜として、また、プラスチックフィルムや成形部品用の帯電防止または電磁遮蔽仕上材として、また、写真感光材料上の被膜として、用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換されていてよいチオフェンに由来する少なくとも1種の導電性重合体を含有する高い導電率を示す塗膜の製造方法であって、
上記の少なくとも1種の導電性重合体を含有する水性または有機分散液または溶液をまず基体に塗布し;
次に形成されつつある又は形成された層を乾燥させ;
上記乾燥中または乾燥後に少なくとも1種の極性溶媒を上記の形成された又は形成されつつある層と接触させる、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
上記の高い導電率を示す塗膜は第1の導電性重合体と少なくとも1種の更なる導電性重合体を含有し、上記第1の導電性重合体は置換されていてよいチオフェンに由来し、上記方法において、
a)まず、上記導電性重合体同士を含有する水性または有機分散液または溶液を以下により調製し、
i.上記第1の導電性重合体が由来する単量体を上記少なくとも1種の更なる重合体の分散液または溶液中で重合させるか、または
ii.上記少なくとも1種の更なる導電性重合体が由来する単量体を上記第1の重合体の分散液または溶液中で重合させるか、または
iii.上記導電性重合体同士が由来する単量体同士を分散液または溶液中で同時に重合させる、
b)次に、上記導電性重合体同士を含有する上記水性または有機分散液または溶液を基体に塗布し、
c)次に、形成されつつある、または形成された層を乾燥させ、
d)少なくとも1種の極性溶媒を上記乾燥中または乾燥後の上記形成されたまたは形成されつつある層と接触させる、
方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
上記少なくとも1種の導電性重合体は以下の式の反復単位を持つ
【化1】

上式において、
Yは−(CH2m−CR12(CH2n−または炭素数3〜8の置換されていてよい1,2−シクロアルキレン残基を表し、
1およびR2は各々独立して水素、ヒドロキシメチル、炭素数1〜20の置換されていてよいアルキル残基、または炭素数6〜14の置換されていてよいアリール残基を表し、
mおよびnは同一または異なっており、0〜3の整数である、
方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法において、
上記第1の単量体および/または第2の単量体は以下の式を持つ
【化2】

上式において、
Yは−(CH2m−CR12(CH2n−または炭素数3〜8の置換されていてよい1,2−シクロアルキレン残基を表し、
1およびR2は各々独立して水素、ヒドロキシメチル、炭素数1〜20の置換されていてよいアルキル残基、または炭素数6〜14の置換されていてよいアリール残基を表し、
mおよびnは同一または異なっており、0〜3の整数である、
方法。
【請求項5】
上記請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法において、
上記塗膜は、チオフェンまたはその誘導体に由来しないか、またはチオフェンまたはその誘導体に由来し上記第1の重合体と異なる、少なくとも1種の更なる導電性重合体を含有する、
方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、
上記少なくとも1種の更なる導電性重合体が由来する上記単量体は、チオフェンまたはその誘導体ではない、
方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
上記少なくとも1種の更なる導電性重合体はポリアニリンである、
方法。
【請求項8】
請求項2に記載の方法において、
上記第1の単量体はEDTであり、上記少なくとも1種の更なる導電性重合体が由来する上記単量体はアニリンである、
方法。
【請求項9】
上記請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法において、
工程a)において水性分散液を調製し、上記水性分散液は工程b)の前に、分散液全体の重量に対し1%未満の含水量を持つ少なくとも1種の有機分散剤に基づく分散液に変換する、
方法。
【請求項10】
上記請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法において、
上記少なくとも1種の極性溶媒は25より高い誘電率を持つ、
方法。
【請求項11】
上記請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法において、
上記少なくとも1種の極性溶媒は、脂肪族、脂環式、芳香族、複素環式(飽和および不飽和)および芳香族複素環式溶媒、スルホン酸誘導体、および総炭素数1〜10のそれらの置換された誘導体からなる群から選ばれる、
方法。
【請求項12】
上記請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法において、
上記少なくとも1種の極性溶媒は、DMSO、NMP、ジエチレングリコール、DMA、DMFおよびトリフルオロメタンスルホン酸からなる群から選ばれる、
方法。
【請求項13】
上記請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法において、
上記層は少なくとも1種の非導電性重合体も含有している、
方法。
【請求項14】
上記請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法において、
上記層は湿潤助剤、抗酸化剤および潤滑剤からなる群から選ばれる添加剤も含有している、
方法。
【請求項15】
上記請求項1〜14のいずれか1つに記載の方法において、
上記少なくとも1種の極性溶媒は、上記層の上記乾燥中または乾燥後に上記溶媒の蒸気を含有するガス相から上記層と接触させられる、
方法。
【請求項16】
上記請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法において、
上記少なくとも1種の極性溶媒は、上記層の上記乾燥後、回転塗布沈着、ロール塗布、加圧、浸漬により上記層と接触させられ、次に遠心処理、吹飛ばしおよび/または二次乾燥により過剰量が除去される、
方法。
【請求項17】
上記請求項1〜16のいずれか1つに記載の方法において、
上記少なくとも1種の極性溶媒は、上記層の乾燥中または乾燥後、スプレーミスト、必要であれば二次乾燥により、上記層と接触させられる、
方法。
【請求項18】
第1の導電性重合体と少なくとも1種の更なる導電性重合体を含有する水性または有機分散液または溶液の製造方法であって、上記第1の導電性重合体は置換されていてよいチオフェンに由来する方法において、
i.上記第1の導電性重合体が由来する単量体を上記少なくとも1種の更なる重合体の分散液または溶液中で重合させるか、または
ii.上記少なくとも1種の更なる導電性重合体が由来する単量体を上記第1の重合体の分散液または溶液中で重合させるか、または
iii.上記導電性重合体同士が由来する単量体同士を分散液または溶液中で同時に重合させる、
方法。
【請求項19】
請求項18に記載の水性または有機分散液または溶液の製造方法において、
単量体は請求項3ないし8のいずれか1つに定義した通りである、
方法。
【請求項20】
透明基体、被膜、特に、タッチパネル、デジタルペーパー、有機LED(OLED)、エレクトロルミネセンスディスプレー、充電式電池、コンデンサ、スーパーコンデンサ、発光ダイオード、センサー、エレクトロクロムディスク、複写機ドラム、ブラウン管、帯電防止または電磁遮蔽プラスチックフィルム、成形部品および写真感光材料用の被膜のような硬質または軟質導電性基体からなる群から選ばれる物品の製造方法であって、
上記請求項1ないし13のいずれかにしたがい製造された塗膜が用いられる、
方法。
【請求項21】
置換されていてよいチオフェンに由来する少なくとも1種の導電性重合体を含有する塗膜の導電率を高めるための極性溶媒の使用。
【請求項22】
請求項21に記載の使用において、
請求項10ないし12のいずれか1つに定義した通りの極性溶媒が用いられる、
使用。
【請求項23】
請求項21または請求項22に記載の使用において、
請求項1ないし9または13ないし17のいずれかに定義したように製造された塗膜が用いられる、
使用。

【公表番号】特表2011−508954(P2011−508954A)
【公表日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541024(P2010−541024)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010934
【国際公開番号】WO2009/086902
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(504224957)オルメコン・ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】