説明

ポリチオフェン類の製造方法、及び新規なチオフェンモノマー

【課題】溶媒等の高度な精製及び徹底的な脱水を要することなく、ポリチオフェン類の一次構造を良好に制御する
【解決手段】本発明は、下記一般式(P)で表されるポリチオフェン類の製造方法であって、少なくとも1種のエーテル系溶媒を含む溶媒存在下で、下記一般式(M1)で表されるチオフェンモノマーとジリチウムテトラ(tert-ブチル)ジンケートとを反応させる工程Aと、前記溶媒存在下で、工程Aの反応生成物に重合触媒を加えて溶液重合反応を行う工程Bとを有する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオフェン類の製造方法、及び新規なチオフェンモノマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体高分子分野において、ポリチオフェン類は有機EL、有機トランジスタ、及び有機薄膜太陽電池等を中心とする最新電子デバイス材料に多く用いられており、世界中で合成・機能化・デバイス特性を含めた広範囲の研究が繰り広げられている。中でもモノマー繰り返し単位の結合様式(2,5-位)が揃った頭尾結合型(以降、「レジオレギュラー」と呼ぶ)のポリ(3-アルキルチオフェン)(P3AT)類は、高い結晶性と高い溶解性、高い電荷移動度、及び商業的供給安定性のバランスに優れ、様々な光・電子機能材料に用いられている。
【0003】
McCulloughらが初めてグリニャール試薬型チオフェンモノマーを使用し、熊田カップリング反応によるレジオレギュラーP3ATを合成した(非特許文献1、2)。その後、Riekeらが活性金属亜鉛(Rieke Zinc)を用いて同様のレジオレギュラーP3ATを合成した(非特許文献3)。しかしながら、いずれの方法でも-40℃〜-78℃と極低温の反応条件が必要である点が工業化の障害になっていた。
McCulloughらは改良を加え、2,5-ジハロ置換チオフェン誘導体とグリニャール試薬を用いた金属・ハロゲン反応を使用して、室温や溶媒の還流温度での重合(以降、「GRIM重合」と呼ぶ)を可能にした(非特許文献4、5)。
【0004】
その後さらに、GRIM重合において、分子量及び分子量分布を制御する研究がなされた。モノマーとして、2-ブロモ-5-クロロマグネシオ-3-アルキルチオフェン、触媒として1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンニッケルジクロリド(Ni(dppp)Cl2)を用いた系で、モノマーの重縮合反応(熊田カップリング反応)が逐次的ではなく連鎖的に進行し、モノマーとNi(dppp)Cl2の仕込み比に応じて分子量が制御され、かつ分子量分布の狭い一次構造の明確なレジオレギュラーP3ATが得られることがMcCulloughらと横澤らによりほぼ同時期に独立に報告された(非特許文献6、7)。この発見により、従来困難であった、末端官能基化P3AT、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体等が次々と合成されるようになった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】McCullough, R. D.; Lowe, R. D. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1992, 70.
【非特許文献2】McCullough, R. D.; Lowe, R. D.; Jayaraman, M.; Ewbank, P. C.; Anderson, D. L. J. Org. Soc. 1993, 58, 904.
【非特許文献3】Chen, T. A.; Wu, X.; Rieke, R. D. J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 233.
【非特許文献4】Loewe, R. S.; Khersonsky, S. M.; McCullough, R. D. Adv. Mater. 1999, 11, 250.
【非特許文献5】Loewe, R. S.; Ewbank, P. C.; Liu, J.; Zhai, L.; McCullough, R. D. Macromolecules 2001, 34, 4324.
【非特許文献6】Iovu, M. C.; Sheina, E. E.; Gil, R. R.; McCullough, R. D. Macromolecules 2005, 38, 8649.
【非特許文献7】Miyakoshi, R.; Yokoyama, A.; Yokozawa, T. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 17542.
【非特許文献8】Kobayashi, M.; Matsumoto, Y.; Uchiyama, M.; Ohwada, T. Macromolecules 2004, 37, 4339.
【非特許文献9】Uchiyama, M.; Furuyama, T.; Kobayashi, M.; Matsumoto, Y.; Tanaka, K. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 8404.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、GRIM重合系では溶媒及びモノマーの高度な精製及び徹底的な脱水の必要があり、工業化に向かないことが大きな問題として残されている。それは、グリニャール試薬が本質的に、アルコール、水、チオール、フェノール、アミン、及びカルボン酸等のプロトン溶媒に極めて高反応性であることに帰している。
また、グリニャール試薬を用いる場合、ケトン、エステル、アミド、及びイミド等の溶媒も、求核置換反応等の副反応が生じる等の理由により、使用できない。
【0007】
また、ポリチオフェン類の重合においては、その分子量と分子量分布を良好に制御できることが好ましい。
ポリチオフェン類は分子量によって電荷移動度が異なる。光・電子機能材料として用いる場合、良好な電荷移動度が得られることから、ポリチオフェン類の数平均分子量は2500 g/mol以上であることが好ましく、5000 g/mol以上であることがより好ましく、9000 g/mol以上であることがより好ましく、10000 g/mol以上であることが特に好ましい。ポリチオフェン類は、分子量分布が大きいと、所望の範囲より分子量の小さいものが含まれ、所望の電荷移動度が得られなくなる恐れがある。
したがって、分子量分布が小さく、かつ、数平均分子量2500 g/mol以上のポリチオフェン類を製造できることが好ましい。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、溶媒及びモノマーの高度な精製及び徹底的な脱水を要することなく、ポリチオフェン類の頭尾結合様式、分子量、及び分子量分布等の一次構造を良好に制御することが可能なポリチオフェン類の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ポリチオフェン類の重合に関する研究ではないが、内山らは、新しく設計・合成した亜鉛錯体、ジリチウムテトラ(tert-ブチル)ジンケート(tBu4ZnLi2)を塩基性開始剤として用い、N-イソプロピルアクリルアミドのアニオン重合を水中で行っている(非特許文献8)。また、彼らは4-ヨードベンジルアルコールとtBu4ZnLi2を反応させたところ、水酸基を保護しなくても選択的・定量的に金属ハロゲン交換反応が進行することを報告している(非特許文献9)。
そこで、tBu4ZnLi2は活性プロトンに対する塩基反応性は弱いものの、選択的・定量的な金属ハロゲン交換を進行させ得る亜鉛錯体であると考えられる。本発明者はかかる知見に基づいて研究を行い、本発明を完成した。
【0010】
本発明のポリチオフェン類の製造方法は、下記一般式(P)で表されるポリチオフェン類の製造方法であって、少なくとも1種のエーテル系溶媒を含む溶媒存在下で、下記一般式(M1)で表されるチオフェンモノマーとジリチウムテトラ(tert-ブチル)ジンケートとを反応させる工程Aと、前記溶媒存在下で、工程Aの反応生成物に重合触媒を加えて溶液重合反応を行う工程Bとを有するものである。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
本発明のポリチオフェン類の製造方法の中間生成物は新規化合物である。この新規化合物は下記一般式(M2)で表されるチオフェンモノマーである。
【0014】
【化3】

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶媒及びモノマーの高度な精製及び徹底的な脱水を要することなく、ポリチオフェン類の頭尾結合様式、分子量、及び分子量分布等の一次構造を良好に制御することが可能なポリチオフェン類の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】未蒸留THFを用いた実施例3-サンプルS9において得られたポリマーのGPCチャートである。
【図2】未蒸留THFを用いた実施例3-サンプルS9において得られたポリマーの1HNMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
いくつかの反応スキームを示して本発明の反応機構を説明するが、これらの反応スキームは必ずしも明確なものはない。
【0018】
本発明のポリチオフェン類の製造方法は、
下記一般式(P)で表されるポリチオフェン類の製造方法であって、
少なくとも1種のエーテル系溶媒を含む溶媒存在下で、下記一般式(M1)で表されるチオフェンモノマーとジリチウムテトラ(tert-ブチル)ジンケートとを反応させる工程Aと、
前記溶媒存在下で、工程Aの反応生成物に重合触媒を加えて溶液重合反応を行う工程Bとを有するものである。
【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
モノマー(M1)はアルキル基Rの炭素数が4以上のとき、生成されるポリマーが溶媒溶解性を示し、溶液重合が進行する。アルキル基Rの炭素数が多くなる程、生成されるポリマーの溶媒溶解性は増す。アルキル基Rの炭素数は6以上が好ましい。
【0022】
工程Bの重合触媒としては特に制限されず、公知のポリチオフェン類の重合に使用される触媒を用いることができる。
重合触媒としては、ニッケル系触媒、及びパラジウム系触媒等が挙げられる。
反応速度、及び生成されるポリマーの一次構造制御等を考慮すれば、重合触媒としては、ニッケル系触媒が好ましく、ニッケルホスフィン系触媒が特に好ましい。
ニッケルホスフィン系触媒としては、下記一般式で表わされる0Ni(PPh3)IINi(dppe)Cl2IINi(dppp)Cl2,及びIINi(dppf)Cl2のうちいずれかが好ましい。
【0023】
【化6】

【0024】
本発明のポリチオフェン類の製造方法の考えられる反応スキームを以下に示す。ここでは、工程Bの重合触媒をニッケル系触媒として記載してある。
【0025】
【化7】

【0026】
チオフェンモノマー(M1)(2,5-ジハロ置換チオフェン)に対して、1当量のtBu4ZnLi2(亜鉛錯体)を反応させると、金属ハロゲン交換反応が起こり、モノマー(M1)の5位のハロゲンが置換されて、下記一般式(M2)で表される中間生成物が生成されると考えられる。
【0027】
【化8】

【0028】
中間生成物(M2)は化学的に安定なチオフェンモノマーあり、かつ適切な重合触媒を添加することで、クロスカップリング反応が起き、重合が重縮合でありながら逐次的ではなく連鎖的に進行する。
本発明の重合系中の活性種は活性プロトンに対する塩基反応性が弱い亜鉛錯体であるため、水分が含まれる未蒸留の市販溶媒を用いた重合系、アルコール、水、チオール、フェノール、アミン、及びカルボン酸等のプロトン溶媒、あるいは、ケトン、エステル、アミド、及びイミド等の溶媒を添加した系、及び水分を含む大気雰囲気下でも、ポリチオフェン類の重合及び一次構造制御が可能である。
【0029】
例えば、上記で例示したニッケルホスフィン系触媒を用いた場合には、Ni(0)が常に重合末端に移動することで連鎖的に重合が進行すると考えられる(「背景技術」の項の非特許文献7を参照)。この時の考えられる重合反応スキームを以下に示す。ここでは、モノマー(M1)のX/Yの組合わせがI/Brであり、重合触媒としてIINi(dppe)Cl2を用いた場合について図示してある。
【0030】
【化9】

【0031】
上記反応スキームに示すように、亜鉛錯体2(=モノマー(M2)、大過剰)と2価のNi触媒(1当量)とを反応させると、2当量の亜鉛錯体2(=モノマー(M2))が二量化反応に消費され、Zn(tBu)3LiとLiClが脱離して1当量の中間体3が生成される。中間体3に導入された2価のNi触媒は還元的脱離によって0価のNi触媒(Ni(0))となり、中間体4が生成される。Ni(0)がさらにC-Br結合に酸化的付加することで、中間体5が生成される。この中間体5に対して、余剰の亜鉛錯体2(=モノマー(M2))がさらに反応する。このようにNi(0)が還元的脱離・酸化的付加を繰り返すことで、重合は連鎖的・リビング的に進行する。従って、上記反応系ではNi(0)が実質的な触媒である。そのため、用いる重合触媒はNi(II)でもNi(0)でも構わない。
【0032】
チオフェンモノマー(M1)において、ハロゲンX、Yの組合わせによっては、5位のハロゲンだけでなく、2位のハロゲンについても金属ハロゲン交換反応が起こる場合がある。
理由は定かではないが、本発明者は、2位のハロゲンが置換されたチオフェンモノマーよりも5位のハロゲンが置換されたチオフェンモノマーの方が重合しやすいことを見出している。
本発明者は、2位のハロゲンの金属ハロゲン交換反応が起こった場合、反応終了後に、2位のハロゲンが置換されたチオフェンモノマーが重合せずに、そのまま残存することを確認している。アルキル基の電子供与効果はそれほど強くないので、おそらく立体障害の影響と考えられる。
2位のハロゲンが置換されたチオフェンモノマーが生成されても、5位のハロゲンが置換されたチオフェンモノマー(M2)によって目的生成物であるレジオレギュラーP3ATが得られるが、5位のハロゲンのみが金属ハロゲン交換した場合よりも、ポリマー収率は低下する。
【0033】
チオフェンモノマー(M1)において5位のハロゲンの金属ハロゲン交換反応を高選択的に起こすためには、チオフェンモノマー(M1)においてXとYが異なるハロゲン元素であることが好ましい。
X/Yの組合わせが、I/Br,Br/Cl,及びI/Clのうちいずれかであることが好ましい。
本発明者は、X/Yの組合わせがI/Brのとき、チオフェンモノマー(M1)とtBu4ZnLi2との反応において、5位のハロゲンの金属ハロゲン交換反応が100%起こることを間接的に証明している(後記[実施例]の予備実験を参照)。
上記のようにチオフェンモノマー(M1)においてXとYが異なるハロゲン元素であることが好ましいが、本発明者は、チオフェンモノマー(M1)においてXとYが同一の場合でも、金属ハロゲン交換反応は5位よりも2位の方が起こりやすく、目的生成物であるレジオレギュラーP3ATが高収率で得られることを確認している(後記[実施例]の項実施例4-S17を参照)。
【0034】
工程A、Bの反応温度は特に制限なく、使用するモノマー(M1)、溶媒、及び重合触媒の組合わせに応じて適宜選定される。
【0035】
工程Aは金属ハロゲン置換反応であり、例えば0℃〜35℃程度の条件で、10分間程度〜数時間程度で反応が終了する。
【0036】
工程Bは重合反応であり、反応温度が低すぎると、重合が進行しなかったり、反応に要する時間が長くなったり、得られるポリマーの分子量が不充分となったりする。これは、モノマーの立体障害によって、ポリマー末端とモノマー間のクロスカップリング反応が遅くなるためと考えられる。
【0037】
例えば、チオフェンモノマー(M1)においてX/Yの組合わせがI/Brであり、重合触媒がIINi(dppe)Cl2であるとき、工程Bの反応温度が30℃以下では重合が難しく、45℃以上で重合が進行した(後記[実施例]の実施例1-S6-7を参照)。
チオフェンモノマー(M1)においてX/Yの組合わせがI/Brであり、重合触媒がIINi(dppe)Cl2であるとき、工程Bの反応温度は45℃以上が好ましい。
チオフェンモノマー(M1)においてX/Yの組合わせがI/Brであり、重合触媒がIINi(dppp)Cl2であるとき、工程Bの反応温度が25℃でも重合が進行した(後記[実施例]の実施例2-S8を参照)。したがって、適切な重合触媒を用いることで、工程Bの反応温度が45℃以下でも重合は進行する。
【0038】
本発明で用いる溶媒は、少なくとも1種のエーテル系溶媒を含んでいればよい。
本発明で用いる溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、オキセタン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PEGMEA)から選択される少なくとも1種のエーテル系溶媒を含むことが好ましい。
【0039】
本発明の系では、用いる溶媒は微量の水分を含むことができ、例えば1000ppm以下の水分を含むことができる。
用いる溶媒は、アルコール、水、チオール、フェノール、アミン、及びカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種のプロトン溶媒を含むことができる。
用いる溶媒は、ケトン、エステル、アミド、及びイミドからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒を含むことができる。
【0040】
従来のいかなる方法でも、水分が含まれる未蒸留の市販溶媒中、アルコール、水、チオール、フェノール、アミン、及びカルボン酸等のプロトン溶媒、あるいは、ケトン、エステル、アミド、及びイミド等の溶媒を添加した系、及び水分を含む大気雰囲気下での重合によるレジオレギュラーP3AT(頭尾結合様式割合(レジオレギュラリティー)≧90%の合成は不可能であった。
【0041】
また、ポリチオフェン類の重合においては、その分子量と分子量分布を良好に制御できることが好ましい。
ポリチオフェン類は分子量によって電荷移動度が異なる。光・電子機能材料として用いる場合、良好な電荷移動度が得られることから、ポリチオフェン類の数平均分子量は2500 g/mol以上であることが好ましく、5000 g/mol以上であることがより好ましく、9000 g/mol以上であることがより好ましく、10000 g/mol以上であることが特に好ましい。ポリチオフェン類は、分子量分布が大きいと、所望の範囲より分子量の小さいものが含まれ、所望の電荷移動度が得られなくなる恐れがある。
したがって、分子量分布が小さく、かつ、数平均分子量が2500 g/mol以上のポリチオフェン類を製造できることが好ましい。
【0042】
低塩基性を示す立体障害の大きい亜鉛錯体tBu4ZnLi2を使用した本発明の重合系では、微量の水分、例えば1000ppm以下の水分を含む未蒸留の市販エーテル系溶媒中、アルコール等のプロトン溶媒存在下、及び水分を含む大気雰囲気下でも重合が進行し、分子量分布が小さく、かつ、数平均分子量が2500 g/mol、好ましくは5000 g/mol以上、より好ましくは9000 g/mol以上、特に好ましくは10000 g/mol以上のポリチオフェン類を製造することができる。
【0043】
具体的には、後記[実施例]に示すように、500ppmの水分を含む未蒸留の市販溶媒(テトラハイドロフラン(THF))中(実施例3-S9)、モノマーに対して当モルのアルコール(2-プパノール(iPrOH))を加えた系(実施例3-S10)、蒸留精製THFに1000ppmの純水を添加した系(実施例3-S11)、及び大気雰囲気下(実施例3-S12)でも重合が進行し、目的の分子量及び分子量分布の制御されたレジオレギュラーP3AT(頭尾結合様式90-99%、数平均分子量Mn 2500−30700 g/mol、及び分子量分布(1.15-2.40以下))が得られている。
【0044】
本発明によれば、溶媒及びモノマーの高度な精製及び徹底的な脱水を要することなく、ポリチオフェン類の頭尾結合様式、分子量、及び分子量分布等の一次構造を良好に制御することが可能なポリチオフェン類の製造方法を提供することができる。
本発明の製造方法によれば、溶媒及びモノマーの高度な精製及び徹底的な脱水が不要であり、市販の溶媒をそのまま使用することができ、大気雰囲気下で反応を行うことができるので、製造工程の簡便化、及び製造コストの低減等を図ることができる。
【実施例】
【0045】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
【0046】
(反応スキーム)
実施例1の考えられる反応スキームを以下に示す。
以降の説明において、化合物(モノマー)1、2の番号は、反応スキーム中の化合物の番号である。
【0047】
【化10】

【0048】
(測定法)
得られたポリマーの分子量及び分子量分布はサイズ排除体積クロマトグラフィー(SEC)(Jasco GULLIVER 1500システム, ポンプ(HITACHI, L-2131), UV検出器(Jasco, UV-1575, UV = 254 nm)を用い、標準ポリスチレンを用いた検量腺により求めた。クロロホルム(流速1.0 mL/min)を溶出液として用いた。
得られたポリマーの組成を確認するため、1H NMR測定を実施した。1H NMR測定はBruker DPX (300MHz)を用い、重クロロホルム中で実施した。トリメチルシランをδ=0ppmの標準試料として用いた。
【0049】
(予備実験)
最初に、2-ブロモ-5-ヨード-3-ヘキシルチオフェン(化合物1)と亜鉛錯体tBu4ZnLi2をアルゴン気流下、蒸留精製THF(ナトリウムベンゾフェノンから窒素気流下で蒸留したもの)中、0℃で反応させ、金属ハロゲン交換反応を検討した。
塩酸水溶液で反応停止することにより、2-ブロモ-3-ヘキシルチオフェンがほぼ定量的に得られた。別途、臭化アリルで反応停止することにより、5-アリル-2-ブロモ-3-ヘキシルチオフェンがほぼ定量的に得られた。これらのことから、金属ハロゲン交換反応は5位のヨード基上で選択的・定量的に起こり、対応する中間生成物の亜鉛錯体であるジリチウムトリス(tert-ブチル)-(2-ブロモ-3-ヘキシル-5-チエニル)ジンケート(化合物2)が100%得られることが間接的に示された。
【0050】
(実施例1-サンプルS3)
tBu4ZnLi2を用いたレジオレギュラーポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成>
アルゴン気流下、50 mL二口フラスコに、2-ブロモ-5-ヨード-3-ヘキシルチオフェン(化合物1)(0.286 g, 0.767 mmol)を量り取り、蒸留精製THF(50 mL)に溶解させた。この溶液に、tBu4ZnLi2のTHF溶液(0.535 M x 1.43 mL = 0.767 mmol)を加え、0 ℃で2時間攪拌した。さらにNi(dppe)Cl2(6.7 mg, 0.0127 mmol)を加えた。
25℃でクロスカップリング反応による重合を検討したところ、残念ながら、この条件下では重合物はほとんど得られなかった。これは、モノマーの立体障害の大きいため、ポリマー末端とモノマー間のクロスカップリング反応が極めて遅かったためと推察された。そこで、重合系の温度を60℃に上げ、同様の重合を再検討したところ、重合が進行した。
24時間後、5N-HCl水溶液を2 mL加え、重合反応を停止した。得られた溶液をメタノール/水(150 mL/75 mL)に注ぐことで、ポリマーを沈殿させた。沈殿物を吸引ろ過し、メタノールでよく洗浄した後、60℃で真空乾燥することにより、紫色固体を得た。
得られたポリマーの測定結果を以下に示す。
0.115 g, 収率90%, Mn (SEC) = 10200, 分子量分布(PDI) = 1.15, レジオレギュラリティー=97%、
1H NMR(δ, CDCl3): 6.95 ppm (s, 1H), 2.80 (t, 2H), 1.70 (t, 2H), 1.25-1.5 (m, 6H), 0.88 (t, 3H).
反応条件及び結果を表1-3に示す。
【0051】
(実施例1-サンプルS1,S2,S4-S7)
表1、2に示す反応条件に変更した以外は実施例1-S3と同様にして、反応を実施した。反応条件及び結果を表1-3に示す。
【0052】
(実施例1-S1-S7の結果のまとめ)
反応温度が60℃である実施例1-S1-S5では、収率80%以上で目的のポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)が得られた。本発明者は、本発明の重合系では分子量(数平均分子量Mn 2500−30700 g/mol)及び分子量分布(1.15-2.40)の制御がモノマーと触媒の仕込み比[化合物1]0/[Ni(dppe)Cl2]0を変えることにより可能であることを初めて見出した。さらに、得られたP3HTサンプルのプロトン核磁気共鳴法(1H NMR)によるスペクトル解析により、Mn ≧10000 g/molの場合、頭尾結合様式が97%以上であることが分かった。
【0053】
チオフェンモノマー(M1)においてX/Yの組合わせがI/Brであり、重合触媒がIINi(dppe)Cl2であるとき、工程Bの反応温度が30℃以下では重合が難しく、45℃以上で重合が進行した(S6-S7)。チオフェンモノマー(M1)においてX/Yの組合わせがI/Brであり、重合触媒がIINi(dppe)Cl2であるとき、工程Bの反応温度は45℃以上が好ましい。
【0054】
(実施例2-サンプルS8)
5-ブロモ-2-ヨード-3-ヘキシルチオフェンを出発物質としたNi(dppp)Cl2を用いたレジオレギュラーポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成>
アルゴン気流下、25 mL二口フラスコに、5-ブロモ-2-ヨード-3-ヘキシルチオフェン(0.346 g, 0.927mmol)を量り取り、THF(15 mL)に溶解させた。この溶液に、tBu4ZnLi2のTHF溶液(0.535 M x 1.90 mL = 1.02 mmol)を加え、0 ℃で2時間攪拌した。さらにNi(dppp)Cl2(3.0 mg, 0.00553 mmol)を加え、反応温度を25℃に昇温すると重合が進行した。2時間後、5N-HCl水溶液を2 mL加え、重合反応を停止した。得られた溶液をメタノール/水(150 mL/75 mL)に注ぐことで、ポリマーを沈殿させた。沈殿物を吸引ろ過し、メタノールでよく洗浄した後、60℃で真空乾燥することにより、赤紫色固体を得た。
得られたポリマーの測定結果を以下に示す。
0.140 g, 収率91%, Mn (SEC) = 6500, PDI = 1.55, レジオレギュラリティー=94%、
1H NMR(δ, CDCl3): 6.95 ppm (s, 1H), 2.80 (t, 2H), 1.70 (t, 2H), 1.25-1.5 (m, 6H), 0.88 (t, 3H).
反応条件及び結果を表1-3に示す。
チオフェンモノマー(M1)においてX/Yの組合わせがI/Brであり、重合触媒がIINi(dppp)Cl2であるとき、工程Bの反応温度が25℃でも重合が進行した。
【0055】
(実施例3-サンプルS9)
溶媒として未蒸留THF(脱水・安定剤含まず・和光純正化学・99.5%)(25 mL)を用いた以外は実施例1-S3と同様にして、反応を実施した。
反応条件及び結果を表1-3に示す。
得られたポリマーのGPCチャート及び1HNMRチャートを図1、及び図2に示す。
本発明の製造方法では、500ppmの水分を含む未蒸留THFを用いても、重合が進行することが確認された。
【0056】
(比較例1-サンプルS13)
<5-ブロモ-2-ヨード-3-ヘキシルチオフェンを出発物質とした未蒸留THF中でのGRIM重合によるレジオレギュラーポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成検討>
従来法(非特許文献7)に順じて、反応を実施した。
アルゴン気流下、30 mL二口フラスコに、5-ブロモ-2-ヨード-3-ヘキシルチオフェン(0.355g, 0.952 mmol)を量り取り、未蒸留THF(脱水・安定剤含まず・和光純正化学・99.5%)(25 mL)に溶解させた。この溶液に、iPrMgClのTHF溶液(2M x 0.478 mL = 0.956 mmol)を加え、0 ℃で2時間攪拌した。さらにNi(dppp)Cl2(8.5 mg, 0.0157 mmol)を加え、25 ℃で6時間重合反応を検討した。次に、5N-HCl水溶液を2 mL加え、重合反応を停止した。この反応条件では重合物は得られなかった。
従来の製造方法では、500ppmの水分を含む未蒸留THFを用いた場合、重合が全く進行しなかった。
【0057】
(実施例3-サンプルS10)
<アルコール存在下でのtBu4ZnLi2を用いたレジオレギュラーポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成>
アルゴン気流下、50 mL二口フラスコに、1(0.341 g, 0.914 mmol)とiPrOH (54.6 mg, 0.914 mmol)を量り取り、THF(50 mL)に溶解させた。この溶液に、tBu4ZnLi2のTHF溶液(0.535 M x 1.70 mL = 0.910 mmol)を加え、0 ℃で2時間攪拌した。さらにNi(dppe)Cl2(8.0 mg, 0.0152 mmol)を加え、反応温度を60℃に昇温すると重合が進行した。6時間後、5N-HCl水溶液を2 mL加え、重合反応を停止した。得られた溶液をメタノール/水(150 mL/75 mL)に注ぐことで、ポリマーを沈殿させた。沈殿物を吸引ろ過し、メタノールでよく洗浄した後、60℃で真空乾燥することにより、紫色固体を得た。
得られたポリマーの測定結果を以下に示す。
0.091 g, 収率60%, Mn (SEC) = 10900, PDI = 1.15, レジオレギュラリティー=97%、
1H NMR(δ, CDCl3): 6.95 ppm (s, 1H), 2.80 (t, 2H), 1.70 (t, 2H), 1.25-1.5 (m, 6H), 0.88 (t, 3H).
反応条件及び結果を表1-3に示す。
本発明の製造方法では、アルコールを含む系でも重合が進行することが確認された。
【0058】
(比較例1-サンプルS14)
<アルコール存在下でGRIM重合を用いたレジオレギュラーポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成検討>
従来法(非特許文献7)に順じて、反応を実施した。
アルゴン気流下、30 mL二口フラスコに、化合物1(0.350 g, 0.938 mmol)とiPrOH (56.5 mg, 0.939 mmol)を量り取り、THF(25 mL)に溶解させた。この溶液に、iPrMgClのTHF溶液(2M x 0.470 mL = 0.940 mmol)を加え、0 ℃で2時間攪拌した。さらにNi(dppp)Cl2(8.5 mg, 0.0157 mmol)を加え、25 ℃に昇温し、6時間重合反応を検討した。次に、5N-HCl水溶液を2 mL加え、重合反応を停止した。この反応条件では重合物は得られず、化合物1が回収された。
従来の製造方法では、アルコールを含む系では重合が全く進行しなかった。
【0059】
(実施例1-サンプルS11)
溶媒として蒸留精製THFに1000ppmの純水を添加したものを用いた以外は実施例1-S3と同様にして、反応を実施した。反応条件及び結果を表1-3に示す。
本発明の製造方法では、1000ppmの水分を含む溶媒を用いても、重合が進行することが確認された。
【0060】
(比較例1-サンプルS15)
溶媒として蒸留精製THFに1000ppmの純水を添加したものを用いた以外は比較例1-S13と同様にして、反応を実施した。反応条件及び結果を表1-3に示す。
従来の製造方法では、1000ppmの水分を含む溶媒を用いた場合、重合が全く進行しなかった。
【0061】
(実施例3-サンプルS12)
<大気雰囲気下でのtBu4ZnLi2を用いたレジオレギュラーポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成>
アルゴン気流下、50 mL二口フラスコに、2-ブロモ-5-ヨード-3-ヘキシルチオフェン(化合物1)(0.385 g, 1.03 mmol)を量り取り、THF(50 mL)に溶解させた。この溶液に、tBu4ZnLi2のTHF溶液(0.535 M x 1.93 mL = 1.03 mmol)を加え、0 ℃で2時間攪拌した。さらにNi(dppe)Cl2(9.1 mg, 0.0172 mmol)を加え、反応温度を60℃に昇温した後、系を大気下に開放した。24時間後、5N-HCl水溶液を2 mL加え、重合反応を停止した。得られた溶液をメタノール/水(150 mL/75 mL)に注ぐことで、ポリマーを沈殿させた。沈殿物を吸引ろ過し、メタノールでよく洗浄した後、60℃で真空乾燥することにより、紫色固体を得た。
得られたポリマーの測定結果を以下に示す。
0.156 g, 収率91%, Mn (SEC) = 9000, 分子量分布(PDI) = 1.98, レジオレギュラリティー=96%、
1H NMR(δ, CDCl3): 6.95 ppm (s, 1H), 2.80 (t, 2H), 1.70 (t, 2H), 1.25-1.5 (m, 6H), 0.88 (t, 3H).
本発明の製造方法では、水分を含む大気中でも重合が進行することが確認された。
【0062】
(比較例1-サンプルS16)
<大気雰囲気下でのGRIM重合によるレジオレギュラーポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成検討>
従来法(非特許文献7)に準じて、反応を実施した。
アルゴン気流下、30 mL二口フラスコに、5-ブロモ-2-ヨード-3-ヘキシルチオフェン(0.320g, 0.858 mmol)を量り取り、THF(25 mL)に溶解させた。この溶液に、iPrMgClのTHF溶液(2M x 0.430 mL = 0.860 mmol)を加え、0 ℃で2時間攪拌した。25 ℃に昇温した後、系を大気下に開放した。さらにNi(dppp)Cl2(7.8 mg, 0.0144 mmol)を加え、25 ℃で6時間重合反応を検討した。次に、5N-HCl水溶液を2 mL加え、重合反応を停止した。この重合条件では、重合物はほとんど得られず、収率は3.5%であった。
従来の製造方法では、水分を含む大気中では重合がほとんど進行しなかった。
【0063】
(実施例3-S9-S12、及び比較例1-S13-S16のまとめ)
グリニャール試薬よりも嵩高く弱い塩基性を有する亜鉛錯体の特徴を生かすため、未蒸留THF、不純物としてiPrOHを加えた系、蒸留精製THFに1000ppmの純水を添加した系、及び水分を含む大気雰囲気下での重合を検討した。これを達成するためには、以下の2点の条件を満たす必要がある。
(I)モノマー前駆体(化合物1)の金属ハロゲン交換反応の際に、反応試薬であるtBu4ZnLi2が不純物で失活しないこと。
(II)得られた亜鉛錯体モノマー(化合物2)が重合中に不純物で失活しないこと。
最初に未蒸留THF(脱水・安定剤含まず・和光純正化学・99.5%)中での重合を検討したところ(実施例3-S9)、設計通りの分子量Mn 11500と狭い分子量分布1.17のポリマーが得られた。
次に、iPrOHをモノマー(化合物2)に当モル量加えた系で同様の重合を行った結果、設計通りの分子量Mn 10900と狭い分子量分布1.15のポリマーを得ることに成功した(実施例3-S10)。
次に、蒸留精製THFに1000ppmの純水を添加した系で同様の重合を行った結果、設計通りの分子量Mn 16800と狭い分子量分布1.72のポリマーを得ることに成功した(実施例3-S11)。
次に、水分を含む大気雰囲気下で同様の重合を行った結果、設計通りの分子量Mn 9000と狭い分子量分布1.98のポリマーを得ることに成功した(実施例3-S12)。
従って、本重合系は条件(I)、(II)を共に満たすことが明らかとなった。
比較例として、未蒸留THF、不純物としてiPrOHを加えた系、蒸留精製THFに1000ppmの純水を添加した系、及び水分を含む大気雰囲気下で、化合物1のGRIM重合(従来法)を行ったところ、全く若しくはほとんど重合物が得られなかった。これらの比較例では、tBu4ZnLi2よりも塩基性が高く、水分に対して高反応性のグリニャール試薬を使用する必要があるためと考えられる。
【0064】
(実施例4-サンプルS17)
<2,5-ジブロモ-3-ヘキシルチオフェンを出発物質としたtBu4ZnLi2を用いたレジオレギュラーポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成>
アルゴン気流下、50 mL二口フラスコに、2,5-ジブロモ-3-ヘキシルチオフェン(0.311 g, 0.954 mmol)を量り取り、THF(50 mL)に溶解させた。この溶液に、tBu4ZnLi2のTHF溶液(0.535 M x 1.80 mL = 0.963 mmol)を加え、25 ℃で10分間攪拌した。さらにNi(dppe)Cl2(8.4 mg, 0.0159 mmol)を加え、反応温度を60℃に昇温すると重合が進行した。24時間後、5N-HCl水溶液を2 mL加え、重合反応を停止した。得られた溶液をメタノール/水(150 mL/75 mL)に注ぐことで、ポリマーを沈殿させた。沈殿物を吸引ろ過し、メタノールでよく洗浄した後、60℃で真空乾燥することにより、赤紫色固体を得た。
得られたポリマーの測定結果を以下に示す。
0.127 g, 収率80%, Mn (SEC) = 3470, PDI = 1.65, レジオレギュラリティー=94%、
1H NMR(δ, CDCl3): 6.95 ppm (s, 1H), 2.80 (t, 2H), 1.70 (t, 2H), 1.25-1.5 (m, 6H), 0.88 (t, 3H).
反応条件及び結果を表1-3に示す。
チオフェンモノマー(M1)においてXとYが同一の場合でも、金属ハロゲン交換反応は5位よりも2位の方が起こりやすく、目的生成物であるレジオレギュラーP3ATが高収率で得られることが示された。
【0065】
(実施例5)
tBu4ZnLi2を用いた後重合法によるレジオレギュラーポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成>
本発明の重合系が連鎖的かつリビング的(モノマーをすべて消費してもポリマー鎖末端の活性を失わず、モノマーを加えれば再び重合が可能であることを「リビング的」と呼ぶ)に進行することを証明するためにモノマー(化合物2)を2回に分けて重合系中に添加する方法(Postpolymerization Method(後重合法))を用いた。
アルゴン気流下、50 mL二口フラスコに、化合物1(0.298 g, 0.799 mmol)(第1モノマー)を量り取り、THF(50 mL)に溶解させた。この溶液に、tBu4ZnLi2のTHF溶液(0.535 M x 1.50 mL = 0.803 mmol)を加え、0 ℃で2時間攪拌した。さらにNi(dppe)Cl2(7.0 mg, 0.0133 mmol)を加え、反応温度を60℃に昇温すると重合が進行した。15分後、少量の反応溶液をサンプリングした。
最初に添加したモノマーが完全に消費されMn 9800、分子量分布1.15の第1ブロックP3HTが得られたことを確認した後、系に再度モノマー(化合物2)を加え、鎖延長反応(後重合)を行った。具体的には、残りの溶液に後述する方法で調製した第2モノマー溶液を加え、60℃でさらに6時間重合させた。5N-HCl水溶液を2 mL加え、重合反応を停止した。
第2モノマー溶液の調整法:アルゴン気流下、20 mL二口フラスコに、化合物1(0.500 g, 1.34 mmol)を量り取り、THF(10 mL)に溶解させた。この溶液に、tBu4ZnLi2のTHF溶液(0.535 M x 2.50 mL = 1.34 mmol)を加え、0 ℃で2時間攪拌することで第2モノマー溶液を得た。
重合反応後に得られた溶液をメタノール/水(200 mL/100 mL)に注ぐことで、ポリマーを沈殿させた。沈殿物を吸引ろ過し、メタノールでよく洗浄した後、60℃で真空乾燥することにより、紫色固体を得た。
本実施例では、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)曲線より、単峰性のピークが狭い分子量分布を保ったまま、高分子量側に移動し、Mn 25000、分子量分布1.29のP3HTが得られた。第1ブロックに相当する付近にSECの残存ピークが観察されなかったことから、この重合系は連鎖的かつリビング的に進行することが証明された。
得られたポリマーの測定結果を以下に示す。
0.284 g, 収率80%, Mn (SEC) = 25000, PDI = 1.29, レジオレギュラリティー=98%、
1H NMR(δ, CDCl3): 6.95 ppm (s, 1H), 2.80 (t, 2H), 1.70 (t, 2H), 1.25-1.5 (m, 6H), 0.88 (t, 3H).
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(P)で表されるポリチオフェン類の製造方法であって、
少なくとも1種のエーテル系溶媒を含む溶媒存在下で、下記一般式(M1)で表されるチオフェンモノマーとジリチウムテトラ(tert-ブチル)ジンケートとを反応させる工程Aと、
前記溶媒存在下で、工程Aの反応生成物に重合触媒を加えて溶液重合反応を行う工程Bとを有するポリチオフェン類の製造方法。
【化1】

【化2】

【請求項2】
前記一般式(M1)で表されるチオフェンモノマーにおいて、X/Yの組合わせが、I/Br,Br/Cl,及びI/Clのうちいずれかである請求項1に記載のポリチオフェン類の製造方法。
【請求項3】
前記重合触媒がニッケル系触媒である請求項1又は2に記載のポリチオフェン類の製造方法。
【請求項4】
前記重合触媒がニッケルホスフィン系触媒である請求項3に記載のポリチオフェン類の製造方法。
【請求項5】
前記重合触媒が下記一般式で表わされる0Ni(PPh3)IINi(dppe)Cl2IINi(dppp)Cl2,及びIINi(dppf)Cl2のうちいずれかである請求項4に記載のポリチオフェン類の製造方法。
【化3】

【請求項6】
前記一般式(M1)で表されるチオフェンモノマーにおいて、X/Yの組合わせがI/Brであり、前記重合触媒が前記一般式で表わされるIINi(dppe)Cl2又はIINi(dppp)Cl2である請求項5に記載のポリチオフェン類の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒が1000ppm以下の水分を含む請求項1〜6のいずれかに記載のポリチオフェン類の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒がテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、オキセタン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選択される少なくとも1種のエーテル系溶媒を含む請求項1〜7のいずれかに記載のポリチオフェン類の製造方法。
【請求項9】
前記エーテル系溶媒が1000ppm以下の水分を含む未蒸留物である請求項8に記載のポリチオフェン類の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒が、アルコール、水、チオール、フェノール、アミン、及びカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種のプロトン溶媒を含む請求項1〜9のいずれかに記載のポリチオフェン類の製造方法。
【請求項11】
前記溶媒が、ケトン、エステル、アミド、及びイミドからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒を含む請求項1〜10のいずれかに記載のポリチオフェン類の製造方法。
【請求項12】
下記一般式(M2)で表されるチオフェンモノマー。
【化4】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153860(P2012−153860A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16641(P2011−16641)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけタイプ)、「相互侵入型相分離ポリマーの合成と3Dナノ構造有機薄膜太陽電池への応用」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】