説明

ポリテトラフルオロエチレンの成形体、混合粉末及び成形体の製造方法

【課題】本発明は、樹脂の厚さが薄く、末端加工性、電気特性及び機械的強度に優れたポリテトラフルオロエチレンの成形体を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリテトラフルオロエチレンの成形体であって、示差走査熱量計による結晶融解曲線上の340±15℃の温度領域に少なくとも1つ以上の吸熱ピークが現れ、上記結晶融解曲線から算出される290〜350℃の融解熱量が62mJ/mg以上であり、硬さ(シェアA)が70以上であり、変性モノマーに由来するモノマー単位を全単量体単位の0.06質量%を超えて1質量%以下含有するものであり、かつ、非溶融加工性であることを特徴とする成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレンの成形体、混合粉末及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同軸ケーブルやLANケーブルのような高周波信号を伝送するケーブルには常に誘電損失が生ずる。同じく高周波信号を伝送する各種伝送機器に使用されるプリント配線基板についても、誘電損失が重要なファクターとなっている。
【0003】
誘電損失は誘電率(ε)と誘電正接(tanδ)との関数であり、いずれも小さい方が好ましい。誘電損失を低減するため、これらの電気的特性に優れたポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕を絶縁被覆層材料として使用している高周波ケーブルが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0004】
PTFEは熱処理(焼成処理)することによって融点、誘電率、誘電正接、さらには機械的強度が変化する。たとえば未焼成のPTFEは融点が340±7℃と高く誘電率(ε)は1.8、誘電正接(tanδ)は0.5×10−4(いずれも12GHzでの測定値。以下同様。)と低いが、不完全に焼成(半焼成)すると融点が327±5℃と下がり誘電率(ε)は2.0、誘電正接(tanδ)は0.7×10−4と高くなる。完全に焼成すると、融点は323±5℃とさらに低くなり、誘電率(ε)は2.1、誘電正接(tanδ)は2.0×10−4と高くなる。また、機械的強度は焼成することにより向上する。
【0005】
したがって、誘電損失の点からは未焼成または半焼成PTFEを使用することが有利であり、一方、末端加工や強度面からは焼成PTFEを使用することが有利である。
【0006】
そこで上記公報では、誘電率や誘電正接といった電気的特性を維持しつつ、加工性を向上させるために焼成PTFE、半焼成PTFEおよび未焼成PTFEを組み合せた絶縁被覆層が提案されている。
【0007】
特許文献4では、未焼成PTFE絶縁被覆層の焼成の仕方を外表面側の焼成度を高くする(ラジアル方向のPTFEの焼成度の傾斜化)方法を提案している。
【0008】
特許文献5では、絶縁被覆層を基本的に未焼成または半焼成PTFEとし、加工すべき末端部分(末端から10cm程度)のみ完全焼成PTFEを使用すること(芯線の長手方向での焼成度の傾斜化)を提案している。
【0009】
さらに特許文献6では、絶縁被覆層としてPTFEの多孔質層を用い、さらに表面部分を焼成して結晶化率を75〜92%と高くしている(ラジアル方向での焼成度の傾斜化)。
【0010】
しかし、ラジアル方向での焼成度の傾斜化では、ケーブルの末端をニッパなどで剥離したり切断したりしたとき、未焼成または半焼成PTFEでは綺麗に切れず繊維化し、糸を引いた状態となるなど、ケーブルの末端を加工するときの末端加工性が劣る。
【0011】
したがって、特許文献5のように完全焼成PTFEを使用しない限り、末端加工を綺麗に行うことはできないと考えられていた。
【0012】
この問題を解決するため、特許文献7では、分子量の相違するPTFEの混合粉末を採用することによって、電気的特性を維持しつつ、末端加工性を含めた加工性を向上させることを提案している。しかしながら、さらなる電気特性の改善が求められ、また、高リダクションレシオ押し出し性が求められている。
【0013】
【特許文献1】特開平11−31422号公報
【特許文献2】特開平11−283448号公報
【特許文献3】特開2000−21250号公報
【特許文献4】特開平11−31442号公報
【特許文献5】特開平11−283448号公報
【特許文献6】特開2000−21250号公報
【特許文献7】特開2001−357729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記現状に鑑み、樹脂の厚さが薄く、末端加工性、電気特性及び機械的強度に優れたポリテトラフルオロエチレンの成形体を提供する。
【0015】
本発明は、また、成形性に優れ、焼成温度管理が容易であり、成形体の樹脂の厚みを極めて薄くすることができ、優れた電気特性を有する成形体を得ることができる混合粉末を提供する。
【0016】
本発明は、更に、成形性に優れ、焼成温度管理が容易であり、成形体の樹脂の厚みを極めて薄くすることができ、優れた電気特性を有する成形体を得ることができる成形体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレンの成形体であって、示差走査熱量計による結晶融解曲線上の340±15℃の温度領域に少なくとも1つ以上の吸熱ピークが現れ、上記結晶融解曲線から算出される290〜350℃の融解熱量が62mJ/mg以上であり、硬さ(シェアA)が70以上であり、ヘキサフルオロエチレン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、フルオロジオキソール、パーフルオロメチルエチレン、及び、パーフルオロブチルエチレンからなる群より選択される少なくとも1つの変性モノマーに由来する変性モノマー単位を全単量体単位の0.06質量%を超えて1質量%以下含有するものであり、かつ、非溶融加工性であることを特徴とする成形体である。
【0018】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(A)と、ポリテトラフルオロエチレン(B)とを含み、上記ポリテトラフルオロエチレン(A)は、第1融点が323〜335℃であり、かつ、372℃での溶融粘度が100万ポアズ未満であり、上記ポリテトラフルオロエチレン(B)は、第1融点が335℃超であり、テトラフルオロエチレンと上記テトラフルオロエチレン以外の変性モノマーとからなり、変性モノマー単位を全単量体単位の0.01〜1質量%含有するものであり、かつ、非溶融加工性であり、上記変性モノマーは、ヘキサフルオロエチレン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、フルオロジオキソール、パーフルオロメチルエチレン、及び、パーフルオロブチルエチレンからなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする混合粉末である。
【0019】
本発明は、上記混合粉末を、290〜350℃で焼成することを特徴とする成形体の製造方法である。
【0020】
本発明は、上記混合粉末から得られる成形体である。
【0021】
本発明は、上記混合粉末を芯線に被覆した後、290〜350℃で焼成することを特徴とする高周波ケーブルの製造方法である。
以下に本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明の成形体は、示差走査熱量計による結晶融解曲線上の340±15℃の温度領域に少なくとも1つ以上の吸熱ピークが現れ、上記結晶融解曲線から算出される290〜350℃の融解熱量が62mJ/mg以上であり、硬さ(シェアA)が70以上であることを特徴とする。
【0023】
本発明の成形体は、特定の温度領域に現れる吸熱ピーク、特定の融解熱量及び特定のシェア硬度を有するものであることから、電気特性に優れ、薄い成形体や細い成形体とした場合でも機械的強度に優れ、末端加工性及び表面平滑性に優れる。
【0024】
本発明の成形体は、示差走査熱量計による結晶融解曲線上の340±15℃の温度領域に少なくとも1つ以上の吸熱ピークが現れる。本発明の成形体は、特定の温度領域に吸熱ピークが現れるものであるので、末端加工性及び電気特性に優れる。
【0025】
本発明の成形体は、290〜350℃で焼成されているにもかかわらず、結晶融解曲線から算出される290〜350℃の融解熱量が62mJ/mg以上である。本発明の成形体は、融解熱量が62mJ/mg以上であるので、末端加工性及び電気特性に優れる。上記融解熱量は、65mJ/mg以上であることが好ましい。
【0026】
上記結晶融解曲線は、示差走査熱量計(セイコー電子(株)製のRDC220)を用い、昇温速度10℃/分の条件にて描く一次スキャンの曲線である。上記融解熱量は、結晶融解曲線上に現れる吸熱ピークの数に関わらず、上記結晶融解曲線上の290℃から350℃までを結ぶ直線と結晶融解曲線とで囲まれた領域の面積から算出するものである。
【0027】
本発明の成形体は、硬さ(シェアA)が70以上である。硬さ(シェアA)が70未満であると、機械的強度が不充分である。上記硬さ(シェアA)は、80以上であることが好ましく、上限は99であってもよい。
【0028】
上記硬さ(シェアA)は、被覆電線から芯線を引き抜いて、デュロメータAにより測定する値である。
【0029】
本発明の成形体を構成するPTFEは、テトラフルオロエチレンと上記テトラフルオロエチレン以外の変性モノマーとからなり、成形体全体として、変性モノマー単位を全単量体単位の0.06質量%を超えて1質量%以下含有するものである。
【0030】
上記の変性モノマー単位の含有量は、成形体について、赤外分光分析を行うことにより得られる値である。
【0031】
上記変性モノマーは、ヘキサフルオロエチレン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、フルオロジオキソール、パーフルオロメチルエチレン、及び、パーフルオロブチルエチレンからなる群より選択される少なくとも1つである。これらの変性モノマー以外では、成形体の電気特性がしたり、成形性が悪くなったりするおそれがある。
【0032】
本発明の成形体は、少なくとも2種以上のPTFEからなる成形体であって、少なくとも2種以上のPTFEは、少なくとも1種がポリテトラフルオロエチレン(A)〔PTFE(A)〕であり、少なくとも1種がポリテトラフルオロエチレン(B)〔PTFE(B)〕であることが好ましい。
【0033】
上記PTFE(A)は、テトラフルオロエチレン〔TFE〕の単独重合体、又は、TFEと上記TFE以外の変性モノマーとからなる非溶融加工性の変性PTFEであってよい。
【0034】
上記PTFE(A)は、第1融点が323〜335℃であることが好ましい。第1融点が335℃を超えると、成形体の電気特性が悪化したり、成形時の焼成温度管理が困難となったりするおそれがある。
【0035】
本明細書において、「第1融点」は、融点以上に加熱した履歴の無いPTFEの粉末について、示差走査熱量計(セイコー電子(株)製のRDC220)を用い、10℃/分で昇温したときの融解ピークを記録したときの、極大値に対応する温度である。
【0036】
上記PTFE(A)は、372℃での溶融粘度が100万ポアズ未満であることが好ましい。溶融粘度が100万ポアズ以上であると、成形時に繊維化現象が現れる等、成形性が劣るおそれがある。上記溶融粘度は、15万ポアズ以上であることが好ましく、20万ポアズ以上であることがより好ましく、30万ポアズ以下であることがより好ましい。
【0037】
本明細書において、上記溶融粘度は、PTFEの粉末について、372℃におけるフローテスター法により測定して得られる値である。
【0038】
上記PTFE(B)は、TFEと上記TFE以外の変性モノマーとからなり、変性モノマー単位を全単量体単位の0.01〜1質量%含有するものであり、かつ、非溶融加工性で、第1融点が335℃超である。
【0039】
上記PTFE(B)は、第1融点が335℃を超えるものであり、348℃以下であることが好ましい。第1融点が335℃以下であると、成形体の電気特性が悪化したり、成形時の焼成温度管理が困難となったりするおそれがある。また、同じ理由で、PTFE(B)は、標準比重では、2.175以下であることが好ましく、これは数平均分子量では、560万以上に相当する。
【0040】
本明細書において、標準比重は、ASTM D−4895 98に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D−792に準拠した水置換法により測定する値である。
【0041】
本発明の成形体は、PTFE(A)及びPTFE(B)以外の他のPTFEを含有するものであってよい。
【0042】
本発明の成形体は、本発明の混合粉末から好適に得ることができる。
【0043】
本発明の混合粉末は、PTFE(A)と、TFEと上記TFE以外の変性モノマーとからなる非溶融加工性のPTFE(B)とを含むことを特徴とする。上記混合粉末は、このような特徴を有することから、成形性に優れ、焼成温度管理が容易であり、いわゆる細物や薄物であっても末端加工性及び表面平滑性に優れた成形体を容易に得ることができるとともに、電気特性及び機械的強度に優れた成形体を得ることができる。また、押出成形により細線に成形した場合でも線径ブレが極めて小さい。
【0044】
電気特性に優れる理由は、PTFE(A)とPTFE(B)とが混在することによって、成形体全体として適度な融解熱量を有するものとすることができ、成形体の結晶状態が電気特性にとって好適な状態となるからであると考えられる。
【0045】
機械的強度と表面平滑性に優れる理由は、PTFE(B)が存在することによって機械的強度が担保される一方、PTFE(A)の並存により成形品に残る成形時の痕跡が低減されるからであると考えられる。
【0046】
上記混合粉末から表面平滑性に優れた成形体を得ることができる理由、及び、成形時に線径ブレを抑えることができる理由は次のように考えられる。例えば、未焼成のPTFE粉末をペースト押出して絶縁被覆層を形成する場合、未焼成のPTFE粉末は容易に繊維化してしまうため、押出圧を高くする必要があり、また被覆層の表面がウネることがある。上記混合粉末は、2種以上のPTFEを含むものであるので、押出成形時の繊維化が抑えられ、押出圧を小さくすることができ、得られる被覆層表面を平滑にすることができ、線径ブレを抑えることができる。
【0047】
上記混合粉末の焼成温度管理が容易である理由は次のように考えられる。PTFEの焼成処理は、PTFEの優れた電気的特性を維持するため、できるだけ未焼成または半焼成の段階で止める必要がある。しかし、単一の物性を有するPTFEを単独で使用する場合、誘電率や誘電正接などの電気的特性が焼成温度の影響を大きく受けるため焼成温度管理を慎重にしなければならなかった。ところが上記混合粉末は、2種以上のPTFEを含むものであるので、焼成温度の電気的特性への影響が緩和され、多少焼成温度がブレても電気的特性が比較的類似したものが得られるので、焼成温度の管理が容易になり、また歩留も向上する。
【0048】
上記PTFE(A)、PTFE(B)、変性モノマーは、本発明の成形体において説明したとおりである。
【0049】
上記PTFE(A)は、第1融点が323〜335℃であることが好ましい。第1融点が335℃を超えると、成形体の電気特性が悪化したり、成形時の焼成温度管理が困難となったりするおそれがある。
【0050】
上記PTFE(A)は、372℃での溶融粘度が100万ポアズ未満であることが好ましい。溶融粘度が100万ポアズ以上であると、成形時に繊維化現象が現れる等、成形性が劣るおそれがある。上記溶融粘度は、15万ポアズ以上であることが好ましく、20万ポアズ以上であることがより好ましく、30万ポアズ以下であることがより好ましい。
【0051】
上記PTFE(B)は、第1融点が335℃を超えるものであり、348℃以下であることが好ましい。第1融点が335℃以下であると、成形体の電気特性が悪化したり、成形時の焼成温度管理が困難となったりするおそれがある。
【0052】
本発明の混合粉末は、上記第1融点が335℃超であるPTFE(B)が変性モノマー単位を有するので、一定の機械的強度が得られるとともに、成形性に優れ、リダクションレシオを大きくすることができ、平滑性に優れた成形体を得ることができる。
【0053】
上記PTFE(A)は、乳化重合により製造された粉末であることが好ましい。上記PTFE(A)の粒子の1次平均粒径(重力沈降法によって測定される濁度計の値から算出される粒径。以下同様。)としては、通常0.02〜0.5μm、好ましくは0.1〜0.3μmである。乳化重合は従来と同様の条件でよい。
【0054】
上記PTFE(B)は、乳化重合により製造された粉末であることが好ましい。上記PTFE(B)の粒子の1次平均粒径としては、通常約0.1〜0.5μm、好ましくは0.2〜0.3μmである。乳化重合は従来と同様の条件でよい。
【0055】
本発明の混合粉末は、PTFE(A)とPTFE(B)との質量比が(30〜1):(70〜99)であることが好ましい。PTFE(A)が多いと成型性に優れる傾向があり、PTFE(B)が多いと硬度が高くなる傾向がある。上記質量比は(20〜5):(80〜95)であることがより好ましく、(10〜5):(90〜95)であることが更に好ましい。
【0056】
本発明の混合粉末は、PTFE(A)及びPTFE(B)以外のPTFEを含んでもよい。
【0057】
上記混合粉末は、上記PTFE(A)とPTFE(B)とを混合して製造することができる。混合する方法としては、乾式混合法(ドライブレンド法)によりPTFE(A)の粉末とPTFE(B)の粉末とを混合する方法でも、PTFE(A)の水性ディスパージョンとPTFE(B)の水性ディスパージョンとを混合して共凝析する方法でもよい。また、上記PTFE(A)の粉末をPTFE(B)の水性ディスパージョンに混合して凝析させる方法や、逆にPTFE(B)の粉末をPTFE(A)の水性ディスパージョンに混合して凝析させる方法でもよい。
【0058】
特に、乳化重合で得られる微細なPTFE粒子(いわゆるファインパウダー)を使用するときは、共凝析法が好ましい。共凝析法は従来の条件でよく、2つの水性分散液を混合したのち機械的な撹拌力を作用させる方法が好ましい。その際、塩酸や硝酸などの無機酸類またはその金属塩を凝析剤として併用してもよい。また、有機液体を存在させたり、要すればフィラーを共存させたりしてもよい。ただし、これらの方法に限定されるものではない。共凝析後、脱水、乾燥して本発明の混合粉末が得られる。この混合粉末の平均粒径は、たとえば200〜1000μm程度とするのが、成形のし易さの点から好ましい。
【0059】
PTFE(A)の粉末とPTFE(B)の粉末とは、平均粒径がほぼ同じであることが、均一な混合、特に均一な共凝析ができ、均一に分散した混合粉末が得られる点から好ましい。
【0060】
かくして得られる上記混合粉末の誘電正接(tanδ)は通常、約0.5×10−4〜2.5×10−4の範囲にある。
【0061】
上記混合粉末は、従来公知の成形法にしたがって、各種のプリント配線基板や高周波ケーブルの絶縁層等に成形加工される。
【0062】
上記混合粉末から得られる成形体も本発明の一つである。上記混合粉末から得られる成形体は、上記混合粉末を、290〜350℃で焼成することにより得られたものであることが好ましい。
【0063】
上記混合粉末を、290〜350℃で焼成することを特徴とする成形体の製造方法も本発明の一つである。本発明の製造方法は、上記混合粉末を特定の温度で焼成するものであるので、末端加工性、機械的強度及び電気特性に優れる成形体を得ることができる。上記焼成は、315〜335℃で行うことが好ましい。
【0064】
上記焼成は、PTFE(A)の第1融点以上、PTFE(B)の第1融点以下の温度で行うことが、PTFE(A)のみを充分に溶融させ、成形体の優れた電気特性と機械的強度とを得ることができる点で好ましい。
【0065】
本発明の成形体及び上記混合粉末から得られる成形体としては、高周波信号伝送用製品が挙げられ、例えば、携帯電話、各種コンピュータ、通信機器等のプリント配線基板;同軸ケーブル、LANケーブル、フラットケーブル等の高周波ケーブル;ケーシング、アンテナのコネクタ等が挙げられる。上記混合粉末を使用して製造したプリント配線基板や高周波ケーブル等の高周波信号伝送用製品は、末端加工や剥離時に基板や絶縁被覆層が繊維化を起こしにくく、現場での作業性が向上する。
【0066】
プリント配線基板などの成形品は、上記混合粉末を圧縮成形、押出圧延成形などの従来公知の成形法により製造できる。
【0067】
上記高周波ケーブルは、上記混合粉末をディッピング法、ペースト押出法、ラッピング法等の被覆方法により芯線に被覆した後、又は、被覆後にさらに延伸した後、290〜350℃で焼成して絶縁被覆層を形成することにより製造できる。
【0068】
高周波ケーブルの製造において、焼成を上記特定の温度範囲で行うと、機械的強度及び電気特性に優れる高周波ケーブルを得ることができる。
【0069】
焼成温度は製品の特性に影響を与えるので、できるだけ正確に温度管理できる方法を採用することが好ましい。例えば、設定温度と樹脂の実温度とをほぼ同温度とすることが容易な熱風循環式焼成炉を使用する方法や、溶融塩中にペースト押出後のケーブルを通して加熱焼成する、いわゆるソルトバス法が好適に採用される。使用する溶融塩としては硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの1/1混合物などが好ましい。
【0070】
かくして得られる絶縁被覆層の誘電率(ε)は1.5〜2.3、好ましくは1.8〜2.2であり、誘電正接(tanδ)は2.0×10−4以下、好ましくは0.8×10−4〜1.2×10−4であり、0に近いほどよい。
【発明の効果】
【0071】
本発明の成形体は、上記構成からなるので、樹脂の厚さが薄く、末端加工性、電気特性及び機械的強度に優れる。
【0072】
本発明の混合粉末は、成形性に優れ、焼成温度管理が容易であり、成形体の樹脂の厚みを極めて薄くすることができ、優れた電気特性を有する成形体を得ることができる。
【0073】
本発明の成形体の製造方法は、成形性に優れ、焼成温度管理が容易であり、成形体の樹脂の厚みを極めて薄くすることができ、優れた電気特性を有する成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0074】
以下に実施例、比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、各実施例及び比較例において、各値の測定は以下の方法により行った。
【0075】
変性モノマー単位の含有量
赤外分光分析を行うことにより測定した。
【0076】
第1融点
示差走査熱量計(セイコー電子(株)製のRDC220)を用い、10℃/分で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度を融点とした。
【0077】
溶融粘度
上記溶融粘度は、372℃におけるフローテスター法により測定した。
【0078】
線径ぶれ
0.1秒ごとに測定した外径の標準偏差を、外径の平均値で割ることにより求めた。線径ぶれの値が小さいほど外径変化の少ないケーブルであると言える。
【0079】
融解熱
示差走査熱量計(セイコー電子(株)製のRDC220)を用い、昇温速度10℃/分の条件にて結晶融解曲線を描き、得られた融解曲線上の290℃から350℃までを結ぶ直線と結晶融解曲線とで囲まれた領域の面積から算出した。
【0080】
誘電率及び誘電正接(tanδ)の測定
株式会社関東電子応用開発製、空洞共振器摂動法金型3GHz用とそのソフト、さらにはネットワークアナライザとして、ヒューレットパッカード社(現アジレントテクノロジー社)のHP−8510Cを使用して測定した。
【0081】
硬さ(シェア硬度A)
硬さは、ケーブルから芯線を引き抜いた絶縁被覆層について、デュロメータAで測定した。
【0082】
糸引き
ケーブルの絶縁被覆層を剥がし、繊維化せずに容易に被覆層を切断できるかを調べることにより末端加工性を評価した。
【0083】
標準比重
ASTM D−4895 98に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D−792に準拠した水置換法により測定した。
【0084】
実施例1
乳化重合で得られたPTFE(B)粉(変性剤HFP、HFP単位が0.5質量%、溶融粘度100万ポアズ、第1融点341℃、平均粒径0.45mm。標準比重が2.172、分子量600万。)を80質量%と、PTFE(A)粉(変性剤HFP、HFP単位が0.17wt%、第1融点327℃、溶融粘度25万ポアズ。)を20質量%とを合計質量が2,000gとなるようにドライブレンドにより混合し、押出助剤として、炭化水素系溶剤(エクソンモービル製、アイソパーG)を380g配合して熟成し、12時間後に予備成形を行った。この予備成形機(田端機械工業製)は、シリンダー径φ50mm、マンドレル径φ16mmで構成され、上記混合粉をシリンダー内に充填して、3MPaで30分間加圧し、外径50mm、内径16mm、長さ700mmの予備成形体を作成した。
【0085】
この予備成形体を80ton電動ペースト電線成形機(田端機械工業製)へ挿入し、シリンダー温度を40℃に上げた。芯線は、銀メッキ銅被覆鋼線SPCWで線径0.511mmのAWG24を使用した。先端金型は、内径1.600mm、角度20°、直線部分の長さは9.6mm、60℃として、ラム速度を5.3mm、線速度5.0m/minで成形を開始した。安定時の押出圧力は、82KNであり、線径のぶれは0.81%であった。押出後、160℃のドライキャプスタンへ30m、220℃の乾燥炉8m、330℃に温度設定した熱風循環式熱処理炉(田端機械工業製)8mを通過させ、外径1.58mmのPTFE絶縁被覆層をもつケーブルを作成した。
【0086】
このケーブルから芯線を引き取り、示差走査熱量計により結晶融解曲線を調べたところ、327℃と341℃にピークをもち、融解熱量は、68mJ/mgであった。結晶融解曲線を図1に示す。
【0087】
また、このPTFE被覆で、誘電率とtanδを測定したところ、誘電率が1.75、tanδが0.0001であった。結果を表1に表す。
【0088】
実施例2
PTFE(B)粉の変性剤をPPVEとしたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0089】
実施例3
PTFE(B)粉の変性剤としてHFPとPPVEの2種類を使ったこと以外は実施例1と同様に行った。
【0090】
実施例4
PTFE(B)の水性ディスパージョンにPTFE(A)粉を凝析時に混ぜ込んで凝析し、分散度を上げたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0091】
実施例5
PTFE(B)の水性ディスパージョンと、PTFE(A)のディスパージョンとを混合して共凝析させ、分散度を上げたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0092】
実施例6
先端金型を1.92mmとして、RRを672まで上げて押出を行ったこと以外は実施例1と同様に行った。
【0093】
実施例7、8、9
PTFE(B):PTFE(A)=90:10(実施例7)、95:5(実施例8)、99:1(実施例9)としたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0094】
実施例10、11
炉の設定温度を360℃(実施例10)、320℃(実施例11)としたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0095】
比較例1
PTFE(A)粉を使用せずPTFE(B)粉のみを成形して焼成した以外は、実施例1と同様に行った。
【0096】
比較例2
PTFE(B)をホモのポリテトラフルオロエチレン(商品名:ポリフロンPTFE F−104、ダイキン工業製)としたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0097】
比較例3
PTFE(B)の変性剤にCTFEを使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0098】
比較例4
焼成炉の温度設定を380℃としたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0099】
比較例5
熱処理温度を280℃にしたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0100】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の成形体は、絶縁性が要求される部品や絶縁被覆層として好適に利用可能である。本発明の混合粉末は、絶縁性が要求される部品の材料や絶縁被覆層用材料として好適に利用可能である。本発明の成形体の製造方法は、優れた電気特性が要求される部品等の製造方法として好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例1の成形体の結晶融解曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンの成形体であって、
示差走査熱量計による結晶融解曲線上の340±15℃の温度領域に少なくとも1つ以上の吸熱ピークが現れ、
前記結晶融解曲線から算出される290〜350℃の融解熱量が62mJ/mg以上であり、
硬さ(シェアA)が70以上であり、
ヘキサフルオロエチレン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、フルオロジオキソール、パーフルオロメチルエチレン、及び、パーフルオロブチルエチレンからなる群より選択される少なくとも1つの変性モノマーに由来する変性モノマー単位を全単量体単位の0.06質量%を超えて1質量%以下含有するものであり、かつ、非溶融加工性である
ことを特徴とする成形体。
【請求項2】
ポリテトラフルオロエチレン(A)と、ポリテトラフルオロエチレン(B)とを含み、
前記ポリテトラフルオロエチレン(A)は、第1融点が323〜335℃であり、かつ、372℃での溶融粘度が100万ポアズ未満であり、
前記ポリテトラフルオロエチレン(B)は、第1融点が335℃超であり、テトラフルオロエチレンと前記テトラフルオロエチレン以外の変性モノマーとからなり、変性モノマー単位を全単量体単位の0.01〜1質量%含有するものであり、かつ、非溶融加工性であり、
前記変性モノマーは、ヘキサフルオロエチレン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、フルオロジオキソール、パーフルオロメチルエチレン、及び、パーフルオロブチルエチレンからなる群より選択される少なくとも1つである
ことを特徴とする混合粉末。
【請求項3】
ポリテトラフルオロエチレン(A)と、ポリテトラフルオロエチレン(B)とを共凝析して得られたものである請求項2記載の混合粉末。
【請求項4】
請求項2又は3記載の混合粉末を、290〜350℃で焼成することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項2又は3記載の混合粉末から得られる成形体。
【請求項6】
高周波信号伝送用製品である請求項1又は5記載の成形体。
【請求項7】
プリント配線基板である請求項1又は5記載の成形体。
【請求項8】
高周波ケーブルである請求項1又は5記載の成形体。
【請求項9】
請求項2又は3記載の混合粉末を芯線に被覆した後、290〜350℃で焼成することを特徴とする高周波ケーブルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−13520(P2010−13520A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173188(P2008−173188)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】