説明

ポリテトラフルオロエチレンファインパウダー、ポリテトラフルオロエチレン製造方法

【課題】低押出圧力でも押出成形が可能であり、焼成時の熱収縮率が小さく、強度、平滑性に優れる成形体を得ることができるポリテトラフルオロエチレンを提供する。
【解決手段】標準比重(SSG)が、2.160以下であり、かつ、熱収縮率が、26.0%以下であるポリテトラフルオロエチレンファインパウダー。該ポリテトラフルオロエチレンパウダーは、テトラフルオロエチレンを水性媒体中で乳化重合することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレンファインパウダー、及び、ポリテトラフルオロエチレン製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕は、成形性に優れる点で、押出成形時に必要とされる押出圧力が低く、押出成形品を焼成した際の熱収縮率が小さいものが好ましい。また、成形品には、強度や平滑性が求められる。
【0003】
PTFEの製造方法として、焼成の際の寸法変化を制御ないし好ましい値に抑えるために、乳化重合時にジカルボン酸を添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では、得られるポリマーが低分子量ポリマーであり、充分に熱収縮率を小さくすることはできなかった。
【0004】
また、PTFEの製造方法として、懸濁重合時に実質的に非テロゲン性のカルボン酸を使用することによって、付着物の生成を低下せしめる方法が記載されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、乳化重合によるPTFEの製造方法については記載されておらず、得られるポリマーは、乳化重合によるポリマーとは著しく異なる製品である。
【0005】
【特許文献1】特開昭54−101888号公報
【特許文献2】特開昭55−798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、低押出圧力でも押出成形が可能であり、焼成時の熱収縮率が小さく、強度、平滑性に優れる成形体を得ることができるポリテトラフルオロエチレンファインパウダーを提供することにある。
【0007】
本発明の目的は、また、低押出圧力でも押出成形が可能であり、焼成時の熱収縮率が小さく、強度、平滑性に優れる成形体を得ることができるポリテトラフルオロエチレンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、標準比重(SSG)が、2.160以下であり、かつ、熱収縮率が、26.0%以下であるポリテトラフルオロエチレンファインパウダーである。
【0009】
本発明はまた、テトラフルオロエチレン〔TFE〕を水性媒体中で乳化重合することによりポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕を製造するPTFE製造方法であって、上記乳化重合は、上記水性媒体に対して30〜200ppmのジカルボン酸の存在下に行うものであり、かつ、1.5〜4.0MPaの圧力下で行うものであることを特徴とするPTFE製造方法でもある。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
PTFE製造方法において、焼成時の熱収縮率を小さくし、充分な強度を有する成形品を得ることができるPTFEを製造するためには、一般的に、PTFEの分子量を高くすることが好ましい。一方、低押出圧力と優れた平滑性を得るという観点からは、一般的に、PTFEの分子量を低くすることが好ましい。従って、原料としてのPTFEに要求される性能の全てを優れたものとするには、高分子量成分と低分子量成分がバランス良く存在するような分子量分布を有するPTFEを得る必要があると推測される。
【0011】
本発明のPTFE製造方法は、特定量のジカルボン酸を存在させ、高圧で乳化重合を行うことにより、高分子量成分と低分子量成分の両方の性質をバランス良く有するPTFEを得ることができるものである。
【0012】
本発明のPTFE製造方法は、TFEを水性媒体中で乳化重合することによりPTFEを製造するものである。
【0013】
上記PTFEは、使用用途に応じて、テトラフルオロエチレンホモポリマー〔TFEホモポリマー〕であっても、変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕であってもよい。上記TFEホモポリマーは、TFEの単独重合体である。上記変性PTFEは、TFEと、少量のその他の共単量体との共重合体である。
【0014】
上記変性PTFEにおけるその他の共単量体としてはTFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン等の水素含有フルオロオレフィン;フルオロビニルエーテル等が挙げられる。
上記フルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(I)
CY=CY−ORf (I)
(式中、Y及びYは、同一又は異なり、水素原子若しくはフッ素原子を表す。Rfは、フルオロ有機基を表す。)で表されるフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「フルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記フルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0015】
上記フルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(I)において、Y及びYがともにフッ素原子であり、Rfが炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基を表すものであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜6である。
【0016】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられるが、パーフルオロプロピル基が好ましい。
【0017】
上記変性PTFEの分子構造に占める上記その他の共単量体の割合(質量%)としては、上記その他の共単量体の種類にもよるが、得られる変性PTFEに溶融流動性を付与しない程度の少量であることが好ましく、0.001〜1質量%であることが好ましい。
【0018】
上記水性媒体としては、上記水性媒体としては特に限定されず、例えば、水、水と公知の水溶性溶媒との混合液等が挙げられるが、水であることが好ましい。
【0019】
本発明のPTFE製造方法において、上記乳化重合は、上記水性媒体に対して30〜200ppmのジカルボン酸の存在下に行うものである。上記ジカルボン酸が水性媒体に対して30ppm未満であると、成形品の熱収縮率が大きくなり、200ppmを超えると、反応効率が低下し、得られるポリマーが低分子量のものとなるために熱収縮率が大きくなる。上記ジカルボン酸は、150ppm以下であることが好ましい。上記ジカルボン酸は、重合反応の開始前に添加してもよいし、重合途中に添加してもよい。
【0020】
上記ジカルボン酸としては、例えば、一般式:HOOCRCOOH(式中、Rは炭素数1〜5のアルキレン基を表す。)で表されるものが好ましく、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸がより好ましく、コハク酸が更に好ましい。
【0021】
上記乳化重合は、更に、1.5〜4.0MPaの圧力下で行うものである。乳化重合時の圧力が1.5MPa未満であると、反応効率が低下したり、成形品の熱収縮率が大きくなったりすることがある。上記圧力は、反応効率に優れる点で、高いほうが好ましい。上記圧力は、2.0MPa以上であることが好ましい。
【0022】
上記乳化重合は、圧力を変化させて行ってもよい。圧力を変化させると、最終的に得られるディスパージョン中の粒子の物性を制御することができる。例えば、重合反応の初期段階では比較的低い圧力で重合を行い、一定時間経過後に昇圧して重合を行うと、反応初期に生成される重合の種(シード)の数を抑制できるので、最終的に得られるディスパージョン中の粒子の粒子径が比較的大きくなり、分子量分布がシャープになる。
【0023】
乳化重合時の圧力は、重合反応においてTFEが消費されることにより低下するので、上記圧力範囲を維持するようにTFEを供給する。
【0024】
本発明のPTFE製造方法において、上記乳化重合は、上記水性媒体に対して30〜200ppmのジカルボン酸の存在下に行うものであり、かつ、1.5〜4.0MPaの圧力下で行うものである。本発明のPTFE製造方法は、上記条件下で行うものであるので、得られるPTFEの性能を優れたものとすることができる。この理由としては明確ではないが、ジカルボン酸を特定量存在させた状態で、かつ、重合圧力を制御することによって、高分子量のPTFEを生成するとともに一定量の低分子量PTFEをも生成することができ、全体として高分子量と低分子量の両方の性質を引き出すことができるからであると推測される。
【0025】
上記乳化重合においては、界面活性剤、重合開始剤、その他の添加剤等を添加することができる。
【0026】
上記界面活性剤としては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができるが、なかでも、パーフルオロオクタン酸塩等のフッ素系界面活性剤であることが好ましい。上記界面活性剤の使用量は、通常、水性媒体に対して0.001〜5質量%の範囲である。
【0027】
上記重合開始剤としては、水溶性過硫酸塩が好ましく、なかでも、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等が好ましい。上記重合開始剤の使用量は、通常、水性媒体に対して0.0001〜0.1質量%の範囲である。
【0028】
上記乳化重合における重合温度は、通常、10〜100℃である。
【0029】
上記乳化重合は、通常、攪拌翼を備えた反応槽に、水性媒体、界面活性剤等を仕込み、TFEを圧入して、一定速度で攪拌しながら、重合開始剤を添加することにより重合反応を開始させる。
【0030】
本発明のPTFE製造方法において、上記攪拌は、攪拌速度を重合反応の進行に伴って低下させるものであることが好ましい。通常、反応効率の低下につながることから、乳化重合時の攪拌速度を低下させることは好ましくない。しかしながら、本発明のPTFE製造方法においては、攪拌速度を重合反応の進行に伴って低下させると、反応効率を犠牲にすることなく、強度、平滑性が優れ、熱収縮率の小さいPTFEを得ることができる。
【0031】
攪拌速度を重合反応の進行に伴って低下させるものであると、重合反応の初期段階では攪拌速度が速いため、特に高分子量のPTFEを効率よく製造することができると推測される。その後、攪拌速度を低下させると、必要以上に高い分子量を有するPTFEの生成を抑制することができ、加えて、反応槽等への生成ポリマーの付着量を減少させることができ、目的とするPTFEとは分子量や組成が大きく異なる成分の生成を抑制することができるものと推測される。
上記攪拌速度は、攪拌翼の回転数を制御することにより調整することができる。
【0032】
本発明のPTFE製造方法において、攪拌速度を重合反応の進行に伴って低下させるものであると、重合後における反応槽へのPTFEの付着量を、上記PTFEを製造するために仕込むモノマーの合計質量の4質量%以下とすることができる。より好ましい上限は2質量%、更に好ましい上限は1質量%である。
【0033】
上記反応槽への付着量は、反応槽において重合反応場に接した箇所への付着量であり、例えば、重合槽内壁、攪拌翼表面等への付着量の合計量であり、重合反応終了後に重合反応媒体を重合槽から除去したのち重合槽内に残存した付着量を実測することにより求めることができる。
【0034】
本発明のPTFE製造方法により得られるPTFEは、ディスパージョンに分散しているものであってもよいし、ファインパウダーとしたものであってもよい。上記乳化重合により得られるPTFEディスパージョンを、凝析、洗浄、乾燥することにより、PTFEのファインパウダーを得ることができる。得られたファインパウダーを公知の方法により成形し、焼成することによって成形体とすることができる。また、重合上がりのPTFEディスパージョンを濃縮、安定化して使用することもできる。
本発明のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーは、上述した製造方法により製造することができる。
【0035】
本発明のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーは、標準比重〔SSG〕が2.160以下である。上記SSGが2.160を超えると、焼成後の熱収縮率が大きくなる。
また、上記SSGは、2.153以上であることが好ましい。上記SSGが2.153未満であると、焼成後の成形品の平滑性が劣るおそれがある。
上記SSGは、ASTM D 4895に準拠して測定し得られる値である。
【0036】
本発明のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーは、また、ペースト押出成形によって得られる押出成形品を焼成して得られる成形体の押出方向の熱収縮率が、26.0%以下である。熱収縮率が大きすぎると、成形体の平滑性が劣り、焼成後の寸法が一定せず、品質管理が困難となる。
上記熱収縮率は、25.0%以下であることが好ましい。また、上記熱収縮率の下限は、特に限定されないが、21.5%であってもよい。
【0037】
上記熱収縮率は、ペースト押出成形によって得られる押出成形品を210℃の炉内で15分間保持し、室温で冷却した後、更に、380℃炉内に12分間静置し、10℃/minで冷却して炉内の温度が240℃になった時点で炉から取り出し、室温と同じ温度になるまで冷却した後、押出方向の押出成形品の長さを測定し、加熱前の長さと比較して求められる値である。
【0038】
本発明のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーは、ペースト押出成形時の押出圧力が7.6MPa未満であり、ペースト押出成形によって得られる押出成形品の生強度が、1.8MPa以上であることが好ましい。未焼成の押出成形品の強度(生強度)を上記範囲内とすることにより、直径が100mm以上の大口径チューブであっても容易に製造することができる。
上記押出圧力の下限は、特に限定されないが、6.6MPaであってもよい。
上記生強度は、2.1MPa以上であることがより好ましい。
また、上記生強度の上限は、特に限定されないが、2.4MPaであってもよい。
【0039】
上記ペースト押出し成形時の押出圧力は、上記ファインパウダーと押出助剤である炭化水素油とを混合して得られる混合物を、シリンダー付の押出ダイに充填し、シリンダーに挿入したピストンに5.7Mpaの負荷を加えて1分間保持し、その後、直ちに、室温でラム速度20mm/分、絞り比RR(Reduction Ratio)50の条件下でオリフィスから押出し、押出操作の後半部分で圧力が平衡状態になった時点の圧力をシリンダー断面積で除した値(MPa)を算出することで測定することができる。
【0040】
上記生強度は、本発明のファインパウダーと、押出助剤である炭化水素油とを混合し、室温で1時間熟成して得られた混合物を押出成形し、得られた押出成形品を210℃の乾燥機内で15分間乾燥させ、室温で24時間放置した後、引張試験機(500kgオートグラフ、株式会社島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0041】
乳化重合で製造されたPTFEのファインパウダーは、通常、ペースト押出法により成形される。ペースト押出法では、押出成形品を焼成する前に押出助剤を除去する工程が必須であるため、未焼成の押出成形品の強度(生強度)が小さいと、チューブの形状が、小口径で肉厚の薄いものに限られるという不利益があった。本発明のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーを使用すると、未焼成の押出成形品であっても優れた強度が得られるので、直径が100mm以上の大口径チューブをも容易に製造することができる。
【0042】
本発明のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーは、ペースト押出成形によって得られる未焼成の押出成形品を焼成して得られる成形体の表面平滑性が、0.7μm以下であることが好ましい。
上記表面平滑性は、0.5以下であることがより好ましい。
また、上記表面平滑性の下限は、特に限定されないが、0.2であってもよい。
【0043】
上記表面平滑性は、以下の方法により測定することができる。即ち、上記ファインパウダーに押出助剤を加えて混合し、室温で24時間熟成し、5MPaの圧力で30分間圧縮することにより1次予備成形品が得られる。上記1次予備成形品を、押出成形機のシリンダーに入れ、3分間20MPaの圧力をかけて2次予備成形を行い、押出成形機のラム速度5mm/分の条件下で押出すことにより、チューブ状の押出成形品が得られる。上記チューブ状の押出成形品を、それぞれ130℃、190℃、440℃に設定した乾燥炉を通すことにより焼成して得られるチューブ状の成形体の、押出圧力が平衡状態になっている状態で押出した部分を測定可能な大きさに切断し、長手方向の表面粗度(Ra)を表面粗度計(株式会社ミツトヨ社製)で測定することにより得られる値である。
【0044】
本発明のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーは、テープ、パイプ、チューブ、バルブ部品、フィルター、ライニング、フィルム、電線等の用途に好適に使用でき、特に大口径のチューブに好適に使用できる。
【発明の効果】
【0045】
本発明のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーは、上述の構成よりなるので、低押出圧力でも押出成形が可能であり、焼成時の熱収縮率が小さく、強度、平滑性に優れる成形体を得ることができる。
【0046】
本発明のポリテトラフルオロエチレンの製造方法は、上述の構成よりなるので、低押出圧力でも押出成形が可能であり、焼成時の熱収縮率が小さく、強度、平滑性に優れる成形体を得ることができるポリテトラフルオロエチレンを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下に実施例、比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例、比較例に限定されるものではない。
【0048】
反応槽への重合生成物の付着量、得られたPTFEのSSGは、以下の方法により測定した。
(1)付着量
重合反応終了後に重合反応媒体を重合槽から除去した後、重合槽内壁、攪拌翼表面に残存した付着量を実測することにより求めた。
(2)SSG
ASTM D 4895に準拠して測定した。
【0049】
実施例1
容積6Lの攪拌機を備えた横型オートクレーブに、純水(水性媒体)3.55L、パーフロオロオクタン酸アンモニウム〔APFO〕の10質量%水溶液54g、パラフィンワックス(融点62℃)180g、コハク酸0.108g(水性媒体に対し30ppm)を仕込み、ゆるやかに撹拌した。槽内を攪拌しながら窒素ガスで置換した後脱気し、槽内をTFEガスで置換した。80℃に昇温し、200rpmで攪拌し、TFEで2.7MPaに昇圧し、過硫酸アンモニウム〔APS〕0.0072g(水性媒体に対し2ppm)を投入して重合を開始した。その後、槽内圧力が一定に保たれるようにTFEを連続的に供給した。攪拌速度を、TFEが50g消費された時点で135rpmとし、TFEが70g消費された時点で120rpmとした。重合開始から3.8時間が経過した時点で、攪拌を停止し槽内をパージし、ディスパージョン(ポリマー含有量〔PC〕31.2wt%)を回収した。TFEの投入量は1640gであった。ディスパージョンを凝析させ、得られた固形分を145℃で18時間乾燥し、PTFEのファインパウダーを得た。得られたファインパウダーの標準比重〔SSG〕は2.157であった。また、反応槽の付着物の量は12gであった。
【0050】
実施例2〜5及び7、比較例1〜4
重合条件を表1及び2のように変更した以外は実施例1と同様にPTFEのファインパウダーを製造した。得られたファインパウダーの標準比重〔SSG〕、反応槽の付着物の量を表1に示す。
比較例3においては、反応終了後にディスバージョンが得られず、付着量、ディスパージョンとしての固形分濃度、SSGの測定ができなかった。
【0051】
実施例6
重合条件を表1及び2のように変更した以外は実施例1と同様にPTFEのファインパウダーを製造した。重合条件のうち、重合圧力については、重合を開始後、TFEガスの供給はせずに0.5MPaで重合を行い、25分間を経過した時点でTFEガスを供給して2.7MPaに昇圧し、その後は実施例1と同様に槽内圧力が一定に保たれるようにTFEを連続的に供給した。
【0052】
比較例5
重合条件を表1のように変更した以外は実施例1と同様にPTFEのファインパウダーを製造した。重合条件のうち、重合開始剤として、過硫酸アンモニウム〔APS〕を水性媒体に対し2ppm、及び、コハク酸パーオキサイド〔DSP〕を水性媒体に対し115ppm投入した。
【0053】
熱収縮率(MD)
上記の各実施例、比較例で得たPTFEのファインパウダー50gと、押出助剤として炭化水素油(商品名:アイソパーG、エクソン化学社製)10.2gとを3分間混合し、24℃で1時間放置し、混合パウダーを得た。ペースト押出成形機の直径1インチのシリンダー内に上記混合パウダーを入れて、ラム速度10mm/min、圧力0.5884kNで1分間保持した後、ラム速度を20mm/minに設定して、押出成形品の成形を開始した。成形開始後、押出圧力の安定した箇所よりサンプリングした。成形時、押出成形機のダイ径を3.59mmφ、シリンダー温度を23℃、ダイ温度を23℃に設定した。
得られた押出成形品を210℃(乾燥温度)の炉内で15分間保持し、室温で冷却した後、12cmのサンプルを2本切り出して、それぞれにセンターから押出方向に10cmの間隔で2箇所に印を入れた。
上記2本のサンプルを、380℃炉内に12分間静置した後、10℃/minで冷却して炉内の温度が240℃になった時点で炉から取り出し、更にサンプルが室温と同じ温度になるまで冷却した。冷却後、2本のサンプルについて、2箇所の印の間の距離を測定し、その平均値を求め、下記式に従い押出方向の熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)=(10cm−(測定距離の平均値))/10cm×100
【0054】
ペースト押出圧力
上記の各実施例、比較例で得たファインパウダー50gと押出助剤である炭化水素油(商品名:アイソパーG、エクソン化学社製)10.25gとをガラスビン中で混合し、室温(25±2℃)で1時間熟成し、混合物を得た。シリンダー(内径25.4mm)付の押出ダイ(外径3.59mmφ)に上記混合物を充填し、シリンダーに挿入したピストンに5.7Mpaの負荷を加えて1分間保持した。その後、直ちに、室温でラム速度20mm/分でオリフィスから押出した。このときの絞り比RR(Reduction Ratio)は50であった。押出操作の後半部分で圧力が平衡状態になる時期に押出された未焼成の押出成形品を採取した。押出操作で平衡状態になった時点の圧力をシリンダー断面積で除した値(MPa)を押出圧力とした。
【0055】
生強度
上記未焼成の押出成形品を、210℃の乾燥機内で15分間乾燥させた後、室温(25±2℃)で24時間放置した。次に、その押出成形品の長さを10cmとしたものを2本用意し、押出成形品の直径を測定した。引張試験機(500kgオートグラフ、株式会社島津製作所製)を用いて押出成形品の強度を測定し、その平均値を求めた。チャック間を50mmに開けて、押出成形品を挟んで固定し、引張速度300mm/分の条件下で切断するまでの引張荷重の最大値を押出成形品の直径の断面積で除した値を生強度(MPa/cm)とした。
【0056】
表面平滑性
上記の各実施例、比較例で得たファインパウダー100質量部に対して、押出助剤(商品名:アイソパーG、エクソン化学社製)17質量部を加えて混合し、ポリビン中で室温(25±2℃)で24時間熟成した。#10の篩で塊を取り除いた後、5MPaの圧力で30分圧縮して、1次予備成形を行った。得られた1次予備成形品を押出成形機のシリンダーに入れ、ヘッドを閉じて、3分間20MPaの圧力をかけて2次予備成形を行った。押出成形機のシリンダー内径は90mm、マンドレル外径は20mm、コアピンの外径は46mm、ダイ内径は49mmとし、ダイ温度を60℃に設定した。次いで、押出成形機のラム速度5mm/分で押出し、外径49mm、内径46mmのチューブ状の押出し成形品を作製した。上記チューブ状の押出成形品を、それぞれ130℃、190℃、440℃に設定した乾燥炉を通すことにより焼成し、チューブ状の成形体を得た。
押出圧力が平衡状態になっている状態で押出した部分を測定可能な大きさに切断し、長手方向の表面粗度(Ra)を表面粗度計(株式会社ミツトヨ社製)で測定し、チューブの表面平滑性を評価した。
【0057】
各実施例及び比較例についての、上記項目の測定の結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のPTFE製造方法により得られるPTFEは、テープ、パイプ、チューブ、バルブ部品、フィルター、ライニング、フィルム、電線等の用途に好適に使用でき、口径の大きなチューブに特に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準比重(SSG)が、2.160以下であり、かつ、熱収縮率が、26.0%以下であるポリテトラフルオロエチレンファインパウダー。
【請求項2】
押出成形時の押出圧力が、7.6MPa未満であり、かつ、押出成形により得られる押出成形品の生強度が、1.8MPa以上である請求項1記載のポリテトラフルオロエチレンファインパウダー。
【請求項3】
表面平滑性が、0.7μm以下である請求項1又は2記載のポリテトラフルオロエチレンファインパウダー。
【請求項4】
テトラフルオロエチレンを水性媒体中で乳化重合することによりポリテトラフルオロエチレンを製造するポリテトラフルオロエチレン製造方法であって、
前記乳化重合は、前記水性媒体に対して30〜200ppmのジカルボン酸の存在下に行うものであり、かつ、1.5〜4.0MPaの圧力下で行うものである
ことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン製造方法。
【請求項5】
ジカルボン酸は、コハク酸である
請求項4記載のポリテトラフルオロエチレン製造方法。
【請求項6】
乳化重合時の攪拌速度を重合反応の進行に伴って低下させるものである
請求項4又は5記載のポリテトラフルオロエチレン製造方法。

【公開番号】特開2008−223019(P2008−223019A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34455(P2008−34455)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】