説明

ポリテトラフルオロエチレン多孔質体及びその製造方法

【課題】本発明の課題は、ポリテトラフルオロエチレン多孔質体及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】ポリテトラフルオロエチレンの微粒子と極細繊維が一体化してなることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔質体。ポリテトラフルオロエチレン微粒子の水分散体に機械的せん断力を付加することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔質体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン多孔質体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリテトラフルオロエチレン繊維の製法としては、マトリックス紡糸法(例えば、特許文献1〜3参照)、スプリット剥離法、ペースト押出法(例えば、特許文献3、4参照)などがある。マトリックス紡糸法とは、ビスコース、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウムなどをマトリックスとしてポリテトラフルオロエチレン系樹脂の水分散液との混合液を凝固液中に吐出して繊維化し、次いで洗浄、精練した後、焼成する。スプリット剥離法とは、ポリテトラフルオロエチレンの粉末をシリンダ圧縮した後、焼結し、スプリット剥離させた後、延伸する。ペースト押出法とは、ポリテトラフルオロエチレンの粉末をワックス状潤滑剤と混練してペースト状にし、これを口金から押出して棒状やフィルム状に成形した後、潤滑剤を除去して延伸し、必要に応じて焼成する。これらの方法では、直径1μm以下程度の微細繊維を作製することは困難であり、従って微細繊維を含有する多孔質体を作製することも困難であった。
【0003】
ポリテトラフルオロエチレン多孔質体としては、ポリテトラフルオロエチレン粉末と造孔剤との混合物を押出成型又は圧縮成型した後、造孔剤を除去する製造方法が開示されている(例えば、特許文献5、6参照)。これらの多孔質体は、肉厚品として好適なものであり、直径1μm以下程度の微細な繊維を含有する多孔質体を作製することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−207097号公報
【特許文献2】特許第2571379号公報
【特許文献3】特許第3327027号公報
【特許文献4】特開平8−296114号公報
【特許文献5】特開平11−124458号公報
【特許文献6】特開2009−197147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ポリテトラフルオロエチレン多孔質体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリテトラフルオロエチレンの微粒子と極細繊維が一体化してなるポリテトラフルオロエチレン多孔質体及びその製造方法を見出した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレンの微粒子と極細繊維が一体化してなる特異的な多孔質体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1で作製したポリテトラフルオロエチレン多孔質体における表面の電子顕微鏡写真(10000倍率)の一例を示す。
【図2】本発明の実施例2で作製したポリテトラフルオロエチレン多孔質体における表面の電子顕微鏡写真(10000倍率)の一例を示す。
【図3】本発明の実施例5で作製したポリテトラフルオロエチレン多孔質体における表面の電子顕微鏡写真(10000倍率)の一例を示す。
【図4】本発明の実施例6で作製したポリテトラフルオロエチレン多孔質体における表面の電子顕微鏡写真(10000倍率)の一例を示す。
【図5】本発明の比較例1で用いたポリテトラフルオロエチレンの電子顕微鏡写真(5000倍率)の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明におけるポリテトラフルオロエチレン多孔質体は、ポリテトラフルオロエチレンの微粒子と極細繊維が一体化してなる多孔質体を意味する。即ち、ポリテトラフルオロエチレンの微粒子間に、ポリテトラフルオロエチレンの極細繊維が存在し、微粒子と極細繊維が3次元的なネットワークを形成している。必ずしも微粒子1つ1つが極細繊維とつながっていなくても良い。微粒子同士が直線的に連なっていても良く、2個以上の巾を持って凝集していても良い。極細繊維は2つの微粒子間に1本だけ形成されていても良く、複数形成されていても良い。極細繊維は、分岐していても良い。微粒子の大きさは、直径1〜1000nmが好ましく、10〜500nmがより好ましく、50〜500nmがさらに好ましい。1nm未満だと、多孔質体の製造効率が悪くなる場合がある。1000nmより大きいと、微粒子の凝集面積が必要以上に大きくなる場合があり、凝集した部分が圧着されると膜になる場合がある。極細繊維は、直径が0.1〜800nmであることが好ましく、1〜500nmであることがより好ましく、10〜200nmであることがさらに好ましい。0.1nm未満だと、繊維が細く弱いため、切れやすくなる。800nmより太いと、多孔質体の孔径が必要以上に大きくなる場合がある。
【0010】
本発明のポリテトラフルオロエチレン多孔質体は、ポリテトラフルオロエチレン微粒子の水分散液に機械的せん断力を付加することにより作製することができる。ポリテトラフルオロエチレン微粒子は、乳化重合により作製されたものが好ましい。水分散液は、界面活性剤を含有しても良い。界面活性剤は、非イオン性のものが好ましい。水分散液中のポリテトラフルオロエチレンの固形分濃度は、0.1〜70質量%が好ましく、1〜60質量%がより好ましく、10〜50質量%がさらに好ましい。0.1質量%未満だと、機械的せん断力の付加効率が悪くなる場合がある。70質量%より多いと乾燥後の自己結合力が強く、硬くなりすぎる場合がある。
【0011】
機械的せん断力を発生する装置としては、ペイントコンディショナー、ペイントシェーカー、高圧ホモジナイザー、高速ホモジナイザー、石臼、摩砕装置、ミルが挙げられる。本発明の多孔質体が形成される機構について詳細はわかっていないが、ポリテトラフルオロエチレン微粒子の水分散液に機械的せん断力を与えることにより、予め水分散液中で凝集、接着していた微粒子同士が引き裂かれて、微粒子間に極細繊維が形成され、微粒子と極細繊維が一体化した多孔質体が形成されると考えられる。本発明のポリテトラフルオロエチレン多孔質体は、乾燥状態で保存しても良く、湿潤状態で保存しても良い。
【0012】
本発明のポリテトラフルオロエチレン多孔質体は、単独で使用しても良く、他の材料と混合や、他の成型物と複合化して使用しても良い。単独で使用する場合は、繊維状やシート状、その他の成型物に加工しても良い。他の成型物との複合化は、他の成型物にポリテトラフルオロエチレン多孔質体を添加、混入、封入、埋め込み、漉きこみ、塗工、含浸することや、ポリテトラフルオロエチレン多孔質体を繊維状やシート状、その他の形状に成型し、これらを他の成型物と積層、貼り合わせ、所定の枠にはめることなどを指す。ポリテトラフルオロエチレン多孔質体は、単独、混合物、単独の成型物、複合の成型物にかかわらず、必要に応じて焼成処理しても良い。単独で使用しない場合の焼成の時期としては、他の材料と混合する前後、単独の成型物にする前後、複合の成型物にする前後のどちらでも良い。焼成温度は280〜450℃が好ましく、300〜420℃がより好ましく、320〜400℃がさらに好ましい。焼成は、所定温度の雰囲気中で行えば良い。
【0013】
図1〜4は、本発明の実施例で作製したポリテトラフルオロエチレン多孔質体の電子顕微鏡写真の一例である。ポリテトラフルオロエチレンの微粒子と極細繊維が一体化してなる多孔質体が形成されていることが確認できる。図1〜4の多孔質体を形成している微粒子の直径は200nm前後であり、極細繊維の径は40〜100nm程度である。
【0014】
図5は、本発明で用いたポリテトラフルオロエチレン微粒子の電子顕微鏡写真の一例である。機械的せん断力が付加されなかったため、微粒子が凝集した状態になっており、微粒子間に極細繊維が存在せず、微粒子と極細繊維が一体化した多孔質体は形成されていないことがわかる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0016】
(実施例1)
ポリテトラフルオロエチレンの水分散液(ダイキン工業製、ポリフロン(登録商標) PTFE D−210C、固形分濃度60質量%)をペイントコンディショナーで5時間処理した。直径4mmのアルミナボールを用いた。処理後、アルミナボールを除去して湿潤状態のポリテトラフルオロエチレン多孔質体を得た。
【0017】
(実施例2)
実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレンの水分散液にイオン交換水を加えて、固形分濃度を30質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、ペイントコンディショナーで処理した。処理後、アルミナボールと上澄み液を除去して、湿潤状態のポリテトラフルオロエチレン多孔質体を回収した。
【0018】
(実施例3)
実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレンの水分散液にイオン交換水を加えて、固形分濃度を10質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、ペイントコンディショナーで処理した。処理後、アルミナボールと上澄み液を除去して、湿潤状態のポリテトラフルオロエチレン多孔質体を回収した。
【0019】
(実施例4)
実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレンの水分散液にイオン交換水を加えて、固形分濃度を1質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、ペイントコンディショナーで処理した。処理後、アルミナボールと上澄み液を除去し、さらに遠心分離機にかけて固形物を沈殿させ、上澄み液を除去して湿潤状態のポリテトラフルオロエチレン多孔質体を回収した。
【0020】
(実施例5)
実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレンの水分散液にイオン交換水を加えて、固形分濃度を0.6質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、ペイントコンディショナーで処理した。処理後、アルミナボールと上澄み液を除去し、さらに遠心分離機にかけて固形物を沈殿させ、上澄み液を除去して湿潤状態のポリテトラフルオロエチレン多孔質体を回収した。
【0021】
(実施例6)
実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレンの水分散液にイオン交換水を加えて、固形分濃度を0.1質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、ペイントコンディショナーで処理した。処理後、アルミナボールと上澄み液を除去し、さらに遠心分離機にかけて固形物を沈殿させ、上澄み液を除去して湿潤状態のポリテトラフルオロエチレン多孔質体を回収した。
【0022】
(実施例7)
実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレンの水分散液にイオン交換水を加えて、固形分濃度を0.06質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、ペイントコンディショナーで処理した。処理後、アルミナボールと上澄み液を除去し、さらに遠心分離機にかけて固形物を沈殿させ、上澄み液を除去して湿潤状態のポリテトラフルオロエチレン多孔質体を回収した。
【0023】
(実施例8)
実施例2で用いたポリテトラフルオロエチレンの水分散液を高速ホモジナイザーで、6400rpmで60分間処理した。処理後、遠心分離機にかけて固形物を沈殿させ、上澄み液を除去して湿潤状態のポリテトラフルオロエチレン多孔質体を回収した。
【0024】
(比較例1)
実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレンの水分散液を遠心分離機にかけて固形物を沈殿させた。上澄み液を除去して、沈殿物を乾燥させ、ポリテトラフルオロエチレンを回収した。
【0025】
[評価]
本発明の実施例で作製したポリテトラフルオロエチレン多孔質体及び比較例で回収したポリテトラフルオロエチレンを電子顕微鏡で観察した結果、実施例1〜8で作製したポリテトラフルオロエチレン多孔質体は、ポリテトラフルオロエチレンの微粒子と極細繊維が一体化してなることを確認した。一方、比較例1のポリテトラフルオロエチレンは、微粒子のみで構成されており、微粒子と極細繊維が一体化してなる多孔質体は形成されていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のポリテトラフルオロエチレン多孔質体の用途としては、フィルター、セパレータ、人工血管、断熱材などが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンの微粒子と極細繊維が一体化してなることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔質体。
【請求項2】
ポリテトラフルオロエチレン微粒子の水分散液に機械的せん断力を付加することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔質体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−67875(P2013−67875A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205553(P2011−205553)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】