説明

ポリテトラフルオロエチレン繊維およびその製造方法

【課題】高温条件で使用される際の収縮率が低く、かつ繊度バラツキの低く高次加工性に優れるPTFE繊維、およびそれを安定して生産するための製造方法を提供する。
【解決手段】 230℃での乾熱収縮率が2.0%以下であって、繊度のバラツキが10%以下であることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維、および、ポリテトラフルオロエチレン樹脂をマトリックス紡糸法によって繊維状に紡糸した後、延伸し、さらにその後静置状態で熱処理することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温条件で使用される際の収縮率が低く、かつ繊度バラツキが低く高次加工性に優れるポリテトラフルオロエチレン繊維およびその製造方法に関するものである。これらは、不織布、織物、組紐に加工されたり、または単カットされた後樹脂に練り込まれることによって、高温下で使用されるフィルターやパッキング、摺動材として利用できる。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下PTFE)繊維は、耐熱性、耐薬品性、耐蒸熱性が高く、また表面抵抗の低い材料として知られており、その特性を活かして、高温下で使用されるフィルターやパッキング、摺動材として利用されている。しかし、それらの特性のゆえ、通常の溶融紡糸法や湿式紡糸で繊維化することは困難であり、マトリックス物質を利用し紡糸した後焼成工程を経るマトリックス紡糸法(特許文献1、2)やスプリット剥離法(特許文献3)、ペースト押出し法(特許文献4)が知られている。マトリックス紡糸法によって得られるPTFE繊維は、繊維断面が均一で繊度バラツキが小さいことが特徴であり、フェルトなどの高次加工性に優れるものの、欠点として、高温下での収縮率が比較的高い点があった。
【0003】
一方で、スプリット剥離法やペースト押出し法はPTFE樹脂を圧延、裁断する方法であり、一旦フィルムにした後細片状にするという非常に煩雑な方法である(特許文献5)。この方法によって得られるPTFE繊維状物質は、高温下での収縮率が低いものの(特許文献6、7、8)、繊維断面が均一でなく、繊度が小さいものから大きいものまで様々でバラツキも大きい。したがって高次加工性に劣るという欠点があった。また、高温で使用される繊維でその乾熱収縮率が低い例として、ポリフェニレンサルファイド繊維の例(特許文献9)や、溶融紡糸によるフッ素樹脂繊維の例(特許文献10)も見られるが、耐熱性という観点からはPTFEに劣り、高温での長期使用に適さない。したがって、高温での長期使用に耐えられるPTFE繊維に関して、繊度バラツキが小さく、加工性良好で、なおかつ高温下での収縮率が低いというものは得られていなかった。
【特許文献1】特開2002−282627号公報
【特許文献2】特許第2571379号公報
【特許文献3】特開昭51−88727号公報
【特許文献4】特開2002−301321号公報
【特許文献5】特開2004−244787号公報
【特許文献6】特開平7−102413号公報
【特許文献7】WO96/00807号パンフレット
【特許文献8】特表2002−513866号公報
【特許文献9】特開平11−104418号公報
【特許文献10】特開2002−180326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものであり、高温条件で使用される際の収縮率が低く、かつ繊度バラツキが低く高次加工性に優れるPTFE繊維、およびそれを安定して生産するための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、230℃での乾熱収縮率が2.0%以下であって、繊度のバラツキが10%以下であることを特徴とする PTFE繊維、および、PTFE樹脂をマトリックス紡糸法によって繊維状に紡糸した後、延伸し、さらにその後静置状態で熱処理することを特徴とするPTFE繊維の製造方法である。
【0006】
本発明のPTFE繊維の製造方法の好ましい態様としては、熱処理を、糸に張力をかけない状態で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温条件で使用される際の収縮率が低く、かつ繊度バラツキが低く高次加工性に優れるPTFE繊維、およびそれを安定して生産するための製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明におけるPTFE繊維は高温下での収縮率が低いものであり、具体的には230℃×30分での乾熱収縮率が2.0%以下である。PTFE繊維はその耐熱性のため、高温下でのフィルター用途や回転軸の軸受けパッキングなどに用いられる。現行では乾熱収縮率が2.0%以上のものも多く用いられているが、収縮率が高いほど使用していく中で収縮が起こり、フィルター用途では目詰まりが起こったり、パッキング用途では収縮のためにシール性の低下が生じたりすることがある。本発明のPTFE繊維では230℃での収縮率は理想的には0%であることが望ましいが、現実的には下限値は0.01%である。
【0010】
本発明において乾熱収縮率とは、JIS L1013:1999 8.18.2 b)方により、測定したものである、すなわち、試料に5mN×概算繊度(tex)の初期荷重をかけ、正しく500mmを測って2点を打ち、初荷重を取り、これを230℃の乾燥機中につり下げ、30分間放置後取り出し、室温まで冷却後再び初荷重をかけ、2点間の長さ(P(mm))を測り、次の式によって乾熱収縮率(%)を算出し、5回の平均値を小数点以下1桁に丸めたものをいう。
乾熱収縮率(%)=[(500−P)/500]×100。
【0011】
本発明のPTFE繊維の繊度バラツキは、該繊維の繊度の10%以下である。前述したとおり、スプリット剥離法やペースト押出し法で得られる繊維の断面はランダムでその繊度も不均一である。したがって繊度バラツキが大きく、フィルターとした際の捕集効率が良好であっても、フェルト加工時にネップなどが生成されやすく、加工が困難という欠点があった。本発明で繊度バラツキを10%以下に抑えたのは高次加工性を良好に保つためであり、繊度が10%を超えることは安定した加工を行うことが困難になり好ましくない。本発明のPTFE繊維では繊度バラツキは理想的には0%であることが望ましいが、現実的には下限値は0.1%である。
【0012】
本発明において繊度バラツキとは、ランダムに30本測定した繊維の繊度の平均値を求め、その平均値と最小繊度または最大繊度との差の大きい方のバラツキを算出したものである。繊維のそれぞれの単繊維繊度(dti)を計算し、その総和を総繊度(dt1+dt2+…+dtn)し、また、同じ単繊維繊度を持つ単糸の頻度(個数)を数え、その積を総繊度で割ったものをその単繊維直径の重量比率とする。
【0013】
本発明の繊維は、高温下での低収縮と繊度低バラツキをはじめて両立させたPTFE繊維であり、従来存在しなかったものである。この繊維をより厳密に表すには、(1)230℃での乾熱収縮率が2.0%以下であることおよび(2)繊度のバラツキが10%以下であることにより表現される。230℃での乾熱収縮率が2.0%以下であることは、200℃程度の高温下でパッキングやフィルターに使用する場合に、収縮が起こらないようにさせるための上限値であり、繊度のバラツキが10%以下であることは、ネップの生成なく高次加工を行うための上限値であり、これらが共に充足されたものが本発明である。しかも、本発明の新規なPTFE繊維は、例えば、以下の新規な製造法によって製造される。 PTFE樹脂を繊維状に形成するにはマトリックス紡糸法、スプリット剥離法、ペースト剥離法などが挙げられるが、なかでも繊度を均一にし良好な加工性を得るにはマトリックス紡糸法が用いられる。前述したとおり、スプリット剥離法やペースト押出し法で得られる繊維の断面はランダムでその繊度バラツキも大きく、仮にフィルターとした際の捕集効率が良好であっても、フェルト加工時にネップなどが生成されやすく、加工が困難という欠点があるためである。
【0014】
マトリックス紡糸法とは、マトリックスと呼ばれる物質とPTFEの分散液との混合液を凝固浴中に吐出して繊維化し、ついで精練した後、焼成を行い、PTFEポリマー融点以上にすることで、マトリックスポリマーの大部分を焼成飛散させながら、PTFEを溶融し、粒子間を融着させることで、PTFE樹脂を繊維化する方法である。
【0015】
本発明のPTFE繊維はマトリックスとしてビスコースを用い、PTFEの水分散液との混合液を、硫酸濃度7〜13重量%、硫酸ソーダ濃度7〜15重量%に制御した凝固浴槽に複数の口金孔から吐出し、紡糸、精練した後、焼成ローラーを用い、焼成ローラー間で1〜5%のリラックスを与えながら80℃以上320℃未満の温度で半焼成した後、320℃〜380℃の温度で焼成を行い、一旦巻き取るか、もしくはそのまま延伸することが必要である。
【0016】
マトリックス物質とはセルロースや変性セルロースのアルカリ溶液が知られており、本発明では通常レーヨン製造に用いられるもの、すなわちセルロース濃度5〜10重量%、アルカリ濃度4〜10重量%、二硫化炭素27〜32重量%(セルロースに対し)のビスコースが好ましく用いられる。
【0017】
本発明で用いるPTFE分散液は濃度が50〜70重量%、安定剤として非イオン系界面活性剤またはアニオン系界面活性剤をPTFE樹脂に対して3〜10重量%含有する水分散液が好ましく用いられる。またPTFE水分散液の分散粒子の大きさは0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下である。
【0018】
これらビスコースとPTFE水分散液を混合させて混合液を作製する。この際、混合液中のPTFE濃度は20〜40重量%、好ましくは25〜35重量%、一方セルロース濃度は2〜6重量%、好ましくは3〜5重量%である。
【0019】
この時、PTFE濃度が40重量%を超えて高すぎると凝固液中で糸条が凝固しにくくなる。また精練浴・アルカリ浴中で糸条からPTFE粒子が脱落して安定した紡糸が行えなくなってしまう。また、焼成時にPTFE粒子同士の融着が強固となり、単繊維間の融着が激しくなってしまう。PTFE濃度が20%未満になると、凝固液中で凝固はしやすくなるが、焼成後の繊維中に炭化成分が多く残存するようになるので、繊維強度が著しく低下し好ましくない。
【0020】
次にこの混合液は凝固浴中に浸漬された多数の吐出孔からなる成形用口金より吐出し凝固される。
【0021】
凝固浴としては、無機鉱酸および/または無機塩の水溶液が用いられるが、本発明では硫酸−硫酸ソーダの混合水溶液を用いることが好ましい。凝固浴中の無機鉱酸および/または無機塩の濃度は、使用するマトリックスや無機鉱酸および/または無機塩の種類によるが、例えば本発明の硫酸−硫酸ソーダの場合は、硫酸濃度が7〜13重量%、硫酸ソーダ濃度7〜15重量%に調整することが好ましい。硫酸濃度が7重量%未満の場合、凝固が適切な速度で起こらず、繊度バラツキの要因となってしまうことがある。硫酸濃度が13重量%を超えると、繊維表面に付着した硫酸が脱酸されにくく、焼成工程で糸切れが多発する。また、硫酸ソーダ濃度が7重量%未満または15重量%を超えると、凝固が適切な速度で起こらず、繊度バラツキの要因となってしまうことがある。
【0022】
半焼成には接触タイプの焼成ローラーまたは非接触タイプの焼成ヒーターを用いることができるが、好ましくは、接触タイプの焼成ローラーを用いる。精錬浴またはアルカリ浴から導かれた未焼成糸をそのまま、もしくはニップローラーなどで絞った後、焼成ローラー間で1〜5%のリラックスを与えながら80℃以上320℃未満の温度の半焼成工程を行うことが必要である。該温度に保った接触タイプの半焼成工程ローラーに導かれた未焼成糸はローラー上で急激に収縮し張力を増す。リラックス率が1%未満であると張力が高すぎて糸切れが多発してしまう。5%を超えるとリラックス率が高すぎて糸が弛み、工程通過性に問題が生じてしまう。半焼成工程は続いて行う焼成工程に入る前になくてはならない工程である。半焼成工程のローラー温度が80℃より低い場合は、続いて行う焼成工程で一気に繊維に熱がかかるため単繊維間の融着が生じてしまう。また320℃より高い場合は半焼成段階で一気に熱がかかるため、単繊維間の融着が生じてしまう。
【0023】
続いて半焼成された糸は320℃〜380℃の温度で焼成される。この段階でセルロースの大部分は燃焼飛散し、セルロース中のPTFE粒子は繊維状に熱融着してPTFE未延伸糸が得られる。焼成温度が320℃より低いと、繊維内のPTFE粒子同士の融着が不十分で、焼成後の延伸時に糸切れが多発する他、繊維強度も低くなり好ましくない。一方で380℃を超えると、単繊維間の融着が生じ、製品の品位に悪影響を及ぼす。
【0024】
本発明における、物性および加工性良好なPTFE繊維を提供するためには、PTFE樹脂が上記のマトリックス紡糸方により繊維状に形成された後に延伸され、さらにその後熱処理されるという順序が重要である。PTFE樹脂が繊維状に形成された後、熱処理されてから延伸された場合、最終的なPTFE繊維の乾熱収縮率が高くなってしまうだけではなく、熱処理時に単繊維同士の融着が生じてしまうことがある。融着した単繊維同士をガイドにこすらせたり、エアーを繊維の横手方向からあてる方法で強制的にさばけさせることも可能ではあるが、その工程における単繊維切れが起こり、製品の品位が低下を招いてしまう。
【0025】
PTFE樹脂を繊維状にした後の延伸方法は通常の方法で良く、速度の異なるローラーを通すことによって延伸する方法などが挙げられる。延伸の倍率は、繊維を構成する分子の配向を十分に進め、十分な強度を発現させるために、4倍以上であることが好ましく、さらには6倍以上であることが好ましい。延伸倍率が低く、強度が低い場合は、製品自体の強度に影響するだけではなく、外観の品位(毛羽や単繊維切れ)、加工時のフライ発生などを引き起こすことがある。
【0026】
延伸後に繊維を強制的に収縮させるため熱処理を行うが、その際糸は静置状態で行う必要がある。静置状態ではなく、例えば二つのローラー間を走行させながらそこに設置したヒーターや加熱浴をとおして熱処理を行う方法もあるが、そのような方法では糸の長手方向に均一に加熱することができず、糸品質にバラツキが生じるだけでなく、走行中の糸がヒーターとの接触や加熱浴の抵抗で切れてしまうことがあるため、品質および操業性の点で好ましくない。
【0027】
また、熱処理中の糸の状態は、張力がかからない状態であることが必要である。熱処理中に糸に張力がかかっていると、処理の途中で糸が切れてしまったり、収縮率に差が生じ物性のバラツキが高い粗悪な繊維になってしまう。
【0028】
静置状態でかつ張力がかからない状態で熱処理を行う方法としては、例えば延伸された糸を一旦綛巻き機で綛取りして、その綛を乾燥機中の棚板に直接置く方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0029】
熱処理における加熱の方法は特に問わず、例えば一般に知られる熱風乾燥機を利用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。なお、繊維の各物性の評価方法は以下のとおりである。
【0031】
(1)乾熱収縮率
PTFE延伸糸を用いてJIS L 1013:1999記載のB法により、230℃×30分でのフィラメントの乾熱収縮率を5回測定し平均値を求め、以下のように評価した。ただし、下記比較例5のサンプルはステープルであるため、JIS L 1015:1999記載の方法により10回測定し平均値を求め、同様に評価した。
【0032】
(2)繊度バラツキ
PTFE延伸糸からサンプルをランダムに抜き取り、下に記す包埋法により断面写真を撮影した。その上でそれぞれの断面写真を切り取り、重量を測定することで断面積を求め、PTFEの比重2.3g/cm3を用いて繊度を算出した。ランダムに30本測定し、平均値を求め、その平均値と最小繊度、最大繊度の大きい方のバラツキの程度を測定した。
【0033】
<包埋法>サンプル糸を形成枠にやや張力を加えセロハンテープで固定する。200℃で加熱してパラフィンとステアリン酸の混合物を溶融させる。130℃になったらエチルセルロースを少量ずつ加え、撹拌しながら1時間保温して泡を抜く。100℃まで落とした後、形成枠に流しこむ。冷却・固化させた後、適当な大きさのブロックに切り分ける。ミクロトームを用いて、ブロックから切片(厚さ7μm程度)を切りだし、スライドグラスの上にのせる。この時、スライドグラス上にアルブメンを薄く塗り伸ばしておく(アルブメンは卵の白身とグリセリン等量、防腐剤としてサリチル酸ソーダ1wt%添加したもの)。70℃に保った乾燥機に20分放置して熱処理を行い乾燥させた後、酢酸イソアミル浴に約1時間浸し、脱包埋を行い、その後風乾する。スライドグラスの上に流動パラフィンを一滴つけ、空気が入らないようにカバーグラスを静かに載せ、顕微鏡を用いて写真を撮影する。
【0034】
(3)カード通過性
室内温度30℃、相対湿度60℃とし、カード機に2g/mの原綿を投入しつつ、ウェブの様子を目視で観察し、3分間のネップの発生数を以下のように評価した。
◎(優秀):ネップが発生しない
○(良好):3分間でネップが1〜5個発生する
△(不良):3分間でネップが6〜20個発生する
×(不良):3分間でネップが20個以上発生する。
【0035】
(4)品位1(外観)
PTFE延伸糸を直径5cmのボビンに40m/分の速度で巻き取り、巻き姿10cm×10cmあたりの毛羽および単繊維切れの数を以下のとおり評価した。
◎(優秀):0〜1個
○(良好):2〜5個
△(不良):6〜10個
×(不良):11個以上。
【0036】
(5)品位2(強度)
PTFE延伸糸を用いてJIS L 1013:1999記載の方法にのっとり、定速伸長型引っ張り試験機を用いて、フィラメントの強度を10回測定し、平均値を求め、以下のように評価した。ただし、下記比較例5のサンプルはステープルであるため、JIS L 1015:1999記載の方法にのっとり、定速伸長型引っ張り試験機を用いて、ステープル強度を35回測定し、平均値を求め同様に評価した。
◎(優秀):1.0cN/dtex以上
○(良好):0.7cN/dtex以上、1.0cN/dtex未満
△(不良):0.5cN/dtex以上、0.7cN/dtex未満
×(不良):0.5cN/dtex未満。
【0037】
(6)開繊率
約30cmのマルチフィラメントの両端を固定し、50gf〜100gfの範囲で張力をかけながら該フィラメントの中央部を黒板消しの布面に押しつけ、50往復させた後のフィラメント本数F1を数えた。その際、融着しているものは1本としてカウントした。求めた実構成本数F1と、設計した構成本数(すなわちマトリックス紡糸法の場合は口金の孔数)F0を用いて、以下の式により開繊率を算出した。
開繊率(%)=F1/F0×100
◎(優秀):90%以上
○(良好):70%以上〜90%未満
△(不良):50%以上〜70%未満
×(不良):50%未満。
【0038】
実施例1
マトリックスとして塩点8.0、セルロース濃度9.0重量%のビスコースを用い、濃度60重量%のPTFE水分散液と混合した後、硫酸濃度10%、硫酸ソーダ濃度11%を含有する凝固浴に複数の口金孔から吐出し紡糸した後、80℃の温水で精練し、ニップローラーで絞った後1〜5%のリラックスを与えながら80℃以上320℃未満の温度で半焼成した後、320℃〜380℃の温度で焼成を行い、PTFE未延伸糸を得た。その後、2つの速度の異なるローラー間で330℃の熱ピンに接触させながら7.5倍に延伸した後、周径120cmの綛巻機にて巻き取った。出来上がった綛を熱風乾燥機の棚板に並べ、300℃の温度で5日間熱処理しPTFE繊維を得た。該繊維の乾熱収縮率は0.2%、繊度バラツキ3%であった。その後、捲縮を付与し、さらに70mmにカットし、上述の評価を行ったところ、表1に示すとおり良好な加工性および品位を示した。
【0039】
比較例1
実施例1と同様に延伸、エアーノズルを通した延伸糸をボビンに巻き取り、熱処理を行わなかった。引き続き実施例1と同様に捲縮付与、カットを行い評価したところ、結果は表1に示すとおり、乾熱収縮率が小さく、開繊率が悪い結果となった。
【0040】
比較例2
実施例1と同様の方法で得られた未延伸糸を、延伸する前に周径120cmの綛巻機にて巻き取った。出来上がった綛を熱風乾燥機の棚板に並べ、300℃の温度で5日間熱処理しPTFE繊維を得た。熱処理後の未延伸糸を実施例1と同様の方法で7.5倍に延伸してPTFE延伸糸を得た。評価結果は表1に示すとおり、乾熱収縮率が小さく、開繊率が悪い結果となった。
【0041】
比較例3
実施例1と同様の方法で得られた延伸糸を、綛巻機のクリールに掛けた状態、すなわち張力がかかった状態で熱処理を行った。結果は表1に示すとおり、本発明のフッ素繊維はいずれも良好な結果であったのに対し、比較例のものは外観が良好な結果を示さなかった。
【0042】
比較例4
実施例1と同様の方法で得られた延伸糸を、300℃の熱風乾燥機の中を1m/分の速度で十分に弛緩させた状態で走行させながら100mの距離で熱処理を行った。結果は表1に示すとおり、熱処理時間が十分に取れないため乾熱収縮率が高く、また糸の長手方向に収縮ムラが多いため、実施例に比べ繊度バラツキが高い繊維しか得られなかった。結果となった。
【0043】
【表1】

【0044】
比較例5
紡糸方法の異なるサンプルとしてスプリット剥離法のステープルサンプル(レンチング社製“プロフィレン”)を用いて乾熱収縮率、繊度バラツキ、加工性および強度の評価を行った。結果は表2に示すとおり、乾収と強度は優れているものの、繊度バラツキが高く加工性に劣っていた。
【0045】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のフッ素繊維は、不織布、織物、組紐に加工されたり、または単カットされた後樹脂に練り込まれることによって加工され、高温下で使用されるフィルターやパッキング、摺動材の素材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
230℃での乾熱収縮率が2.0%以下であって、繊度のバラツキが10%以下であることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維。
【請求項2】
ポリテトラフルオロエチレン樹脂をマトリックス紡糸法によって繊維状に紡糸した後、延伸し、さらにその後静置状態で熱処理することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。
【請求項3】
熱処理を糸に張力をかけずに行うことを特徴とする請求項2記載のポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。

【公開番号】特開2007−270389(P2007−270389A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98559(P2006−98559)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】