説明

ポリテトラフルオロエチレン繊維およびその製造方法

【課題】これまで得られていなかった生態系への残存と有害性・環境負荷が懸念されているフッ素化アニオン性界面活性剤、特にPFOA含有量を低減させたポリテトラフルオロエチレン繊維を提供する。
【解決手段】繊維中に含まれるフッ素化アニオン性界面活性剤、特にPFOA含有量が100ppb以下であることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維、及びマトリックスとしてのビスコースとPFOA含有量が1000ppm以下であるポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液を、凝固浴中に複数の口金孔から吐出し、紡糸、精練した後、リラックスを与えながら半焼成した後、焼成を行なう製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生態系への残存と有害性・ 環境負荷が懸念されているフッ素化アニオン性界面活性剤、特にパーフルオロオクタン酸(以下、PFOAと略称する)含有量を低減させたポリテトラフルオロエチレン繊維及びその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略称する)繊維に代表されるフッ素樹脂系繊維は、その優れた耐熱性、耐薬品性、電気特性あるいは低摩擦係数などから、産業資材用途に広く用いられている。
【0003】
その中でも、PTFEは不溶解性であり、また加熱溶融時に非常に高い溶融粘度を持っている。そのため製法は、従来公知のマトリックス法(エマルジョン法ともいう)、スプリット剥離法、またはペースト押出法などにより生産される。
【0004】
一方、フッ素化アニオン性界面活性剤は、一般には広く知られてないが、フッ素樹脂製造には重要で不可欠な化学物質である。更に、フッ素化アニオン性界面活性剤の幾つかは洗浄による排水放出、あるいは乾燥や焼成工程中の大気放出された場合、ヒトなどの体内
排出速度が遅く、環境側面から問題視されている。
【0005】
フッ素化アニオン性界面活性剤の中にPFOAがある。PFOAとは、パーフルオロオクタン酸(erluoroctanoic cid)の頭文字であり、これもフッ素樹脂製造には重要で不可欠な化学物質である。PFOAは水中での油や液体の乳化、微小粒子の懸濁、湿潤剤として作用する水溶性の界面活性剤であり、フッ素樹脂業界では、分子構造の炭素数からC−8と呼ばれることもある。
【0006】
最近の研究によりPFOA毒性が問題視されるようになってきており、日米においても本格的な調査が開始されている。極めて難分解性で蓄積性も高いことから各フッ素樹脂メーカーでは自主的に削減する動きも始まっている(特許文献1)。
【0007】
しかし、フッ素樹脂製造に使用されるPFOAは、樹脂製造の最終段階で殆どが除去されるが、どうしても一部が残存しており、ひいては最終製品の一部に微量ながら残存してしまう。
【特許文献1】特開2006−188703号公報(特許請求の範囲、第1,16頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生態系への残存と有害性・ 環境負荷が懸念されているフッ素化アニオン性界面活性剤、特にPFOA含有量を低減させたポリテトラフルオロエチレン繊維及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は課題を解決するために以下の構成を有する。
【0011】
繊維中に含まれるフッ素化アニオン性界面活性剤の含有量が100ppb以下、好ましくは10ppb以下であるポリテトラフルオロエチレン繊維であり、特にフッ素化アニオン性界面活性剤がPFOAであることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維である。本発明の好ましい態様としては、繊度が18.0dtex以下であって、その繊度バラツキが該繊度の10%以下であることを特徴とすることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、マトリックスとしてのビスコースとPFOA含有量が1000ppm以下であるポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液を、硫酸濃度7〜13%、硫酸ソーダ濃度7〜15%を含有する凝固浴中に複数の口金孔から吐出し、紡糸、精練した後、1〜5%のリラックスを与えながら80以上320℃未満の温度で半焼成した後、320〜380℃の温度で焼成を行ない、繊度が1.5dtex以上18.0dtex以下であって、且つ繊度ばらつきが10%以下であるポリテトラフルオロエチレン繊維を製造することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法である。
【0013】
本発明の好ましい態様としては、半焼成および焼成の前にアルカリ濃度0.08〜0.16wt%のアルカリ水溶液による洗浄を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生態系への残存と有害性・ 環境負荷が懸念されているフッ素化アニオン性界面活性剤、特にPFOA含有量を低減させたポリテトラフルオロエチレン繊維及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に記述する。
【0016】
本発明は、前述の課題、つまり生態系への残存と有害性・ 環境負荷が懸念されているフッ素化アニオン性界面活性剤、特にPFOA含有量を低減させたポリテトラフルオロエチレン繊維及びその製造法を提供し、解決できることを究明したものである。
【0017】
まず、本願発明のポリテトラフルオロエチレン繊維は繊維中に含まれるフッ素化アニオン性界面活性剤、特にPFOAの含有量が100ppb以下であることが必要であり、好ましくは10ppb以下であることが好ましい。ppbとは、arts er illionの頭文字で十億分率を意味する。
【0018】
また、本発明のPTFE繊維の繊度は18.0dtex以下であることが好ましい。一般に、フィルター用途等に用いる場合、ダスト捕集効率などを向上させる目的では表面積を上げるため細繊度化が求められるが、一方で通気性を確保する目的で太繊度化も要望される。18.0dtexまでの太繊度化の場合には、通気性とダスト捕集性能の両立が可能なフェルトが得られる。フェルト加工性の観点から、更に好ましくは、2.0dtex以上15.0dtex以下である。
【0019】
次に、本発明のPTFE繊維の製造法は特に限定されないが、PTFE繊維の繊度ばらつきは、該繊維の繊度の10%以下であることが好ましい。前述した通り、スプリット剥離法やペースト押出法で得られる繊維の断面はランダムでその繊度も不均一である。従って、その繊度ばらつきも非常に大きい。そのため、フィルターとした場合の捕集効率は良好であるが、その一方でフェルト加工時にネップなどが生成されやすく加工が困難という欠点があった。本発明で繊度ばらつきを抑えたPTFE繊維を発明したことでこれらの両立ができるようになったのである。繊度ばらつきが該繊維の繊度の10%を超えることは、断面形状および繊度が不均一であることを意味しており、安定した加工を行うことが困難となり好ましくない。
【0020】
一方、フェルト加工時に本発明で得られる繊度の異なる繊度ばらつき10%以下に抑えた繊維同士、もしくは繊度の異なる繊度ばらつきを10%以下に抑えた繊維と丸断面繊維やスプリット剥離法やペースト押出法で得られる繊維を適正な混合割合で用いても工程通過性に問題なく実施できる。
【0021】
更に、本発明のPTFE繊維をカットして短繊維として使用する際には、繊維長は30〜100mm程度であればよいが、特に限定されない。
本発明のPTFE繊維の単糸強度は0.7cN/dtex以上、単糸伸度は50%以下であることが好ましい。単糸強度が0.7cN/dtex未満、単糸伸度が50%を超えると、その繊維を加工する場合、単繊維が延伸され工程通過性不良となるので好ましくない。
【0022】
また、本発明の繊維の300℃×30分における乾熱収縮率は30%以下であることが好ましい。実際フェルトなどを作製して使用する場合、その素材のもつ耐熱性ゆえ、高温度下で使用される用途が多く、乾熱収縮率が高すぎるとフェルトが収縮し、目詰まりも起こしやすくなり、好ましくない。乾熱収縮率は、より好ましくは20%以下である。
【0023】
また、本発明に係る繊維は、三角、四角や3葉〜8葉などの多葉断面、扁平、Y、H形などの異形断面およびその他の異形断面などいずれの断面形状も用いることが出来、特に限定されない。紡糸時の糸切れの面からの生産安定性、繊維の表面積を増大させる観点などから、該繊維の凸部の数は3〜8葉であることが好ましく、更に好ましくは3〜5葉であることが好ましい。
【0024】
本発明に係るPTFE繊維を得るにはマトリックス紡糸法の実施が必要である。マトリックス紡糸法とはビスコースなどをマトリックスとしてPTFEの水分散液との混合液を凝固浴中に吐出して繊維化し、次いで精練した後、焼成を行う。ポリマーの融点以上とすることで、マトリックスポリマーの大部分を焼成飛散させながら、PTFEを溶融し、粒子間を融着させることで、初めてその後の延伸性が付与される。焼成後、未延伸糸は延伸されて、強度が発現する。
【0025】
本発明のPTFE繊維は、マトリックスとしてのビスコースPFOA含有量が1000ppm以下であるポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液を、硫酸濃度7〜13%、硫酸ソーダ濃度7〜15%を含有する凝固浴に複数の口金孔から吐出し、紡糸、精練した後、1〜5%のリラックスを与えながら80以上320℃未満の温度で半焼成した後、320〜380℃の温度で焼成を行ない、一旦巻き取るか、もしくはそのまま延伸することが必要である。
【0026】
本発明で用いるビスコースは通常レーヨン製造に用いられるもの、すなわちセルロース濃度5〜10重量%、アルカリ濃度4〜10%重量%、二硫化炭素27〜32重量%(セルロースに対し)が好ましい。
【0027】
本発明で用いるPTFEの水分散液はPFOA含有量が100ppm以下であることが必要であり、好ましくは10ppm、更に好ましくは5ppm以下である。
【0028】
また、PTFEの水分散液の濃度は50〜70重量%、安定剤として非イオン活性剤またはアニオン活性剤をPTFEポリマに対して3〜10重量%含有するものが好ましく用いられる。またPTFE水分散液の分散粒子の大きさは0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下である。
【0029】
この時、分散液中のPTFE濃度が40%を超えて高すぎると凝固浴中で糸条が凝固し にくくなる。また精練浴・アルカリ浴中で糸条からPTFE粒子が脱落して安定した紡糸が行えなくなってしまう。また、焼成時にPTFE粒子同士の融着が強固となり単糸間融着が激しくなるので好ましくない。PTFE濃度が20%未満となると、凝固浴中で凝固はしやすくなるが焼成時に均一な断面形状を保つことが困難になる他、焼成後の繊維中に炭化成分が多く残存するようになるため繊維強度が著しく低下し好ましくない。
【0030】
この混合された混合液は脱泡されるが、この時の温度が高いとビスコースが凝固してしまう懸念、また水分が蒸発しPTFEが凝集する懸念がある。そのため、脱泡時は15℃以下の低温に制御することが好ましい。真空度は約10Torr程度が好ましい。ビスコースとPTFEの水分散液と無機粒子を含む分散液の混合のタイミングについては脱泡前にこれらの水分散液を混合するか、それぞれ脱泡した後スタティックミキサーなどを用い口金に導く直前で混合する方法が採用できる。
【0031】
次に、この紡糸混合液は凝固浴中に浸漬された多数の吐出孔からなる成型用口金より吐出し、凝固される。
【0032】
凝固浴としては無機鉱酸および/または無機塩の水溶液が用いられるが、本発明では硫酸−硫酸ソーダの混合水溶液を用いる。
【0033】
このとき硫酸濃度は7〜13%が好ましい。硫酸濃度が7%未満であると凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に遅くなるため均一断面や所望の異形断面を得ることが困難となるので好ましくない。一方、硫酸濃度が13%を超えると繊維表面に付着した硫酸が脱酸されにくく焼成工程で糸切れが多発する他、凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に速くなり、この場合も断面形状のコントロールが困難となるので好ましくない。
【0034】
硫酸ソーダ濃度は7〜15%に調整することが好ましい。硫酸ソーダはセルロースの急激な凝固を抑制する。硫酸ソーダ濃度が7%未満の場合、凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に速くなり、断面形状のコントロールが困難となるので好ましくない。一方、硫酸ソーダ濃度が15%を超える場合、凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に遅くなるため所望の断面形状を得ることが困難となり好ましくない。すなわち、本発明ではマトリックス法を用いて上記した硫酸濃度及び硫酸ソーダ濃度の両方を特定の範囲内に調整することで均一なPTFE繊維を製造することができたのである。
【0035】
半焼成には接触タイプの焼成ローラまたは非接触タイプの焼成ヒーターを用いることができるが、好ましくは、接触タイプの焼成ローラを用いる。精練浴もしくはアルカリ浴から導かれた未焼成糸をそのままもしくはニップローラなどで絞った後、焼成ローラ間で1〜5%のリラックスを与えながら80以上320℃未満の温度の半焼成工程を行うことが必要である。80以上320℃未満の温度に保った接触タイプの半焼成工程のローラに導かれた未焼成糸はローラ上で急速に収縮し張力を増す。リラックス率が1%未満であれば張力が高くなりすぎて丸形もしくは異形の断面形状を均一に保つことが困難となり、また、特に3.3dtex以下の細繊度糸を製造する場合には収縮による糸切れが多発してしまう。5%を超えるとリラックス率が高すぎて糸が弛み工程通過性に問題が生じてしまう。但し、1〜5%のリラックスは、半焼成に入った直後の焼成ローラ間に1回だけではなく半焼成工程のローラ間や焼成工程のローラ間においても行うことができる。半焼成工程は次いで行う焼成工程に入る前になくてはならない工程である。半焼成工程のローラ温度が80℃より低い場合は、次いで行う焼成工程で一気に繊維に熱がかかるため繊維断面が変形もしくは単糸間での融着が発生する。一方、320℃より高い場合は半焼成段階で一気に繊維に熱がかかるため繊維断面が変形もしくは単糸間での融着が発生しやすい。従って、半焼成工程のローラは80以上320℃未満の温度の範囲に保つことが必要である。
この時、各ローラ温度は単独で変更出来、上記範囲内で有れば特に限定無く設定できる。
焼成ローラ数により半焼成工程のローラ温度は異なる。半焼成工程のローラ温度は、好ましくは150以上320℃未満、より好ましくは250以上320℃未満である。
【0036】
次いで、半焼成された糸は320〜380℃の温度で焼成される。この段階でセルロースの大部分は燃焼飛散し、セルロース中のPTFE粒子は繊維状に熱融着してPTFE未延伸糸が得られる。焼成温度が320℃より低いと繊維内のPTFE粒子同士の融着が不十分で、焼成後の延伸時に糸切れが頻発する他、繊維強度も低くなり好ましくない。一方、焼成温度が380℃より高いと熱により繊維断面形状が変形し所望の均一な断面形状を得ることが困難となってしまう。また、単糸間の融着も生じ製品の開繊性に悪影響を与える結果となるので好ましくない。また、焼成時、各ローラ温度は単独で変更出来、上記範囲内で有れば特に限定無く設定できる。
【0037】
次いでPTFE未延伸糸は、通常用いられる公知の延伸方法で一旦巻き取るか、もしくはそのまま300〜400℃の温度で熱延伸されてPTFE延伸糸が得られる。
【0038】
また、焼成の際に非接触タイプの焼成ヒーターを用い上記と同様にし製造することもできる。
【0039】
精錬された後、半焼成および/または焼成工程を行う前に0.08〜0.16%のアルカリ濃度でアルカリによる洗浄工程を行うことが好ましい。かかるアルカリ洗浄浴には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩から選ばれた化合物の水溶液を用いるが、一般にはアルカリ金属の水溶液、中でも苛性ソーダ水溶液が好適に用いられる。該化合物の濃度は0.08〜0.16wt%が好ましい。一般に、次工程の焼成温度範囲にもよるが、PTFE繊維は焼成工程に入る際、繊維表面に酸成分が残存していると焼成工程での糸切れが頻発する。アルカリによる洗浄は脱酸による糸切れ抑制の他に焼成具合つまり色目やフィブリル化しやすさにも影響を与える。本発明の半焼成及び焼成温度の範囲内であれば、アルカリ浴の濃度が0.08〜0.16%が好ましい。アルカリ浴の濃度が0.08wt%未満であると焼成時にセルロース分が分解しにくく、その結果、焼成後の繊維に分解しきれないセルロース分が多く残存し、その後の延伸がしにくくなり、延伸工程で糸切れが頻発する傾向となる。一方、アルカリ浴の濃度が0.16wt%を超えるとアルカリ洗浄時にセルロースが溶けだし、アルカリ浴中やガイドにカスが溜まりやすくなる。また半焼成・焼成工程に入る際の未焼成糸強度が弱くなり、工程通過性トラブルを発生しやすくなるので好ましくない。より好ましいアルカリ濃度は、0.10〜0.14wt%である。
【0040】
更にアルカリ浴の温度は、20℃以下が好ましい。アルカリ浴の温度が20℃を超えた場合もアルカリ濃度が高すぎる場合と同様にアルカリ洗浄時にセルロースが溶けだし、アルカリ浴中やガイドにカスが溜まりやすくなる他、半焼成・焼成工程に入る際の未焼成糸強度が弱くなり、工程通過性トラブルを発生しやすくなるので好ましくない。アルカリ浴の温度は、好ましくは15℃以下である。
【0041】
本発明のPTFE繊維は布帛に加工され使用されるが、その形態は織編物、不織布、フェルトなど特に限定されない。また、該布帛は本発明のPTFE繊維とともにガラス繊維やアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾールなどと混合して作製することができる。しかし、アラミドは分解温度が500℃以上と優れているが、耐酸性が低い弱点があり、ポリフェニレンサルファイドは耐薬品性に優れるものの、融点が285℃と耐熱性がやや低い。ポリイミドの場合耐アルカリ性にやや問題があり、ポリフェニレンベンゾオキサゾールは、高強度ではあるが、市場価格が非常に高価である。ガラス繊維は分解点が700℃以上と耐熱性は問題ないが、耐アルカリ性にやや問題がある。これに対してフッ素樹脂系繊維、中でもPTFEは特定の過フッ化有機液体に299℃以上で溶けることと、溶融アルカリ金属にわずかに侵される以外は、非常に優れた耐薬品性を示し、また耐熱性も融点が327℃と高温であることから総合的に見てフッ素樹脂系繊維が最もバランスよく優れた性能を発揮する。そのため、最もフィルター用途に好適である。その混合比率としては本発明のPTFE繊維を20〜100%、好ましくは40〜100%の割合で混繊することが好ましい。
【0042】
本発明により、生態系への残存と有害性・環境負荷が懸念されているフッ素化アニオン性界面活性剤、特にPFOA含有量を低減させたポリテトラフルオロエチレン繊維を提供することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、布帛の各物性の測定方法は以下の通りである。
【0044】
[繊度ばらつき]
PTFE延伸糸からサンプルをランダムに抜き取り下記の通り包埋法により断面写真を撮影する。その上でそれぞれの断面写真を切り取り重量を測定することで断面積を求め、本発明のPTFE繊維は比重2.30g/cmを用いて繊度を計算した。ランダムに30本測定し、平均値を算出する。その平均値と最小繊度、最大繊度の大きい方のばらつきの程度を測定した。
【0045】
[包埋法]
サンプル糸を成形枠にやや張力を加えセロテープ(登録商標)で固定する。200℃で加熱してパラフィンとステアリン酸の混合物を溶融させる。130℃になったらエチルセルロースを少量ずつ加え、攪拌しながら1時間保温して泡を抜く。100℃まで落とした後、成形枠に流し込む。冷却・固化させた後、適当な大きさのブロックに切り分ける。ミクロトームを用いて、ブロックから切片(厚さ7μm程度)を切り出し、スライドグラスの上に載せる。このとき、スライドグラス上にアルブメンを薄く塗り延ばしておく(アルブメンは卵の白身とグリセリン等量、防腐剤としてサリチル酸ソーダ1wt%添加したもの)。70℃に保った乾燥機に20分放置して熱処理を行い乾燥させた後、酢酸イソアミル浴に約1時間浸し、脱包埋を行ない、その後風乾する。スライドグラスの上に流動パラフィンを一滴つけ、空気が入らないようにカバーグラスを静かに載せ、顕微鏡を用いて写真を撮影する。
【0046】
[フッ素化アニオン性界面活性剤の含有量測定]
溶媒抽出によるLC−MS/MS法により測定した。
【0047】
(実施例1)
ビスコース熟成度(塩点)8.0、セルロース濃度9.0%、アルカリ濃度6.2%のビスコース50重量%とソルベイ ソレクシス(株)のPTFE水分散液(Algoflon D XPH 1220:濃度60%、PFOA含有量100ppm以下)50重量%を混合した後、10Torrの減圧下で脱泡して重合体濃度30%の成形用原液を得た。原液中のポリマーに対するPTFE樹脂含有量は87.0%であり、30℃における原液粘度は130ポイズであった。この原液を複数の吐出孔を有する成型用口金(0.12mmφ×400ホール)に導き、凝固浴中に吐出した。
【0048】
凝固浴は硫酸濃度10.0%、硫酸ソーダ濃度11.0%の混合水溶液であり、温度は10℃であった。次いで凝固した未焼成糸を温度80℃の温水で洗浄した後、濃度0.12%の苛性ソーダ水溶液を入れたアルカリ浴中に導いて精練し、酸成分を完全に除去した。その後、アルカリ浴から導かれた未焼成糸をニップローラで絞った後、4%のリラックスを与えながら280℃の温度で半焼成を行ない、次いで350℃に保った焼成ローラを用いて焼成を行い30m/分の速度で引き取り、未延伸糸を得た。次いで未延伸糸を350℃の温度で熱延伸し、PTFE延伸糸を得た。この紡糸、延伸工程において工程通過性は良好で1錘当たりの糸切れ回数は約15時間当たり1回の割合であった。PFOA含有量は7ppbであった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明はフッ素化アニオン性界面活性剤、特にPFOA含有量を低減させたポリテトラフルオロエチレン繊維を提供でき、生態系への残存と有害性・ 環境負荷を回避で出来るという効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維中に含まれるフッ素化アニオン性界面活性剤の含有量が100ppb以下であることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維。
【請求項2】
繊維中に含まれるフッ素化アニオン性界面活性剤の含有量が10ppb以下であることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維。
【請求項3】
フッ素化アニオン性界面活性剤がパーフルオロオクタン酸であることを特徴とする請求項1または2記載のポリテトラフルオロエチレン繊維。
【請求項4】
繊度が18.0dtex以下であって、その繊度バラツキが該繊度の10%以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のポリテトラフルオロエチレン繊維。
【請求項5】
マトリックスとしてのビスコースとパーフルオロオクタン酸含有量が1000ppm以下であるポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液を、硫酸濃度7〜13%、硫酸ソーダ濃度7〜15%を含有する凝固浴中に複数の口金孔から吐出し、紡糸、精練した後、1〜5%のリラックスを与えながら80以上320℃未満の温度で半焼成した後、320〜380℃の温度で焼成を行ない、繊度が2dtex以上18.0dtex以下であってかつ繊度ばらつきが10%以下である請求項3または4いずれか記載のポリテトラフルオロエチレン繊維を製造することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。
【請求項6】
半焼成および/または焼成の前にアルカリ濃度0.08〜0.16wt%のアルカリ水溶液による洗浄を行うことを特徴とする請求項5記載のポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。