説明

ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を合成溶融紡糸繊維に組み込んで特性が改善された繊維及び繊維製品を生産する方法

本発明は、従来からの溶融紡糸繊維と比較した場合に、摩擦係数が低下しており、耐摩耗性等のような他の特性が改善された溶融紡糸繊維の製造方法に関するものである。本発明の方法においては、紡糸口金を通過させる前に、溶融紡糸工程の途中で、繊維形成物質にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を組み込む。本発明において有用なPTFEとしては、低ミクロン又はサブミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末及びそのような高分散性のPTFE粉末の水性又は有機分散体が含まれる。また、本発明は、本発明のPTFEで増強された溶融紡糸繊維から製造される織物、編物、及びその他の製品に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年10月1日に出願された米国仮特許出願第60/415,039号による優先権を主張し、その開示は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般的に高分散性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を合成溶融紡糸繊維に組み込む方法に関するものであり、その結果得られる繊維は、従来からの溶融紡糸繊維と比較して、例えば、低い摩擦係数、改善された耐摩耗性、改善された耐汚染性、改善された光安定性、及び耐UV性といった一般的にPTFEと関連する改善された特性を有する。さらに本発明は、本明細書に記載された方法によって製造された溶融紡糸繊維及びこれらの合成溶融紡糸繊維から製造される編物、織物、及び他の製品に関する。
【背景技術】
【0003】
繊維産業においては、衣服の製造業者及び繊維の生産者は、より柔らかい感触、よりよい心地よさ、より明るく長続きする色合い、よりよい暖かさ又は涼しさ、よりよい湿気の輸送又は吸い上げ、及び他の繊維とブレンドするときのよりよいブレンド性を与える繊維のバリエーションを生み出すために、それぞれの一般的な型の合成繊維の基本組成を化学的に及び物理的に修正することを常に試みている。例えば “Fabric Link, Fabric University-Fabric Producers and Trademarks,” <http://www.fabriclink.com/Producers.html>を参照されたい。従って、繊維生産の技術においては、合成繊維の特性を改良するための新しい画期的な方法に対する要求が常に存在する。
【0004】
合成繊維を製造するための技術においては、様々な製造プロセスが知られている。多くの合成繊維は、押出しによって生産されており、この押出しプロセスでは、濃厚な粘稠性の液状高分子前駆体または組成物を紡糸口金の小さな穴を通して押し出して、半固形の高分子の連続したフィラメントが形成される。紡糸口金の穴からフィラメントが出てくるときに、液状の高分子は、まずゴム状態に変化し、それから凝固する。フィラメントを押出し成形し、凝固させるプロセスは、一般的には紡糸として知られている。溶融紡糸合成繊維のフィラメントを紡糸する一般的な方法は、「溶融紡糸」として一般的に知られている。
【0005】
典型的には、溶融紡糸プロセスにおいては、繊維形成物質は、紡糸口金を通して押出すために、ビスコース液状状態に溶融される。紡糸口金から押出した後、繊維材料又はフィラメントを空気冷却によって凝固させる。溶融紡糸によって成形される典型的な繊維としては、数ある中でもとりわけ、ポリエステル、ナイロン、及びポリプロピレンが挙げられる。
【0006】
より一般的な溶融紡糸繊維の一つであるポリエステル繊維は、連邦取引委員会によって、繊維形成物質が、少なくとも85重量%の置換芳香族カルボン酸エステルから構成される任意の長鎖の合成高分子である人造繊維として定義されている。ポリエステル繊維は、一般的には、ポリエステル溶融物を高圧(例えば3,000psig)且つ高温(例えば500°F)で複数の穴を有する紡糸口金を通して押出す(または紡糸する)ことによって生産される。一旦押出されると、ポリエステル繊維は、延伸され、所望の繊維特性をもつように織り込まれる。典型的には、約25〜500μmの直径である紡糸口金の小さな穴の閉塞を防止するために、繊維の紡糸に先立ち、溶融ポリエステルの流れ又は供給原料からミクロな汚染物質を除去する。低デニールの繊維の場合には、押出に先立ち、さらに小さな大きさの汚染物質や粒子を溶融物から除去しなければならない。“Pall Corporation-Polyester Fiber Production,” <http://domino.pall.com/www/weblib.nsf/pub/354559E3AFA95F9885256863004BF4C4?opendocument.>。
【0007】
得られる溶融紡糸繊維の質又は特性を改良するために、押出に先立ち、添加剤(例えば色素及び界面活性剤)を高分子又は繊維形成物質(ポリエステルの溶融物など)に添加してもよい。しかしながら、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粉末(ここで、粉末は低ミクロン又はサブミクロンの粒径に分散させることができるか、あるいはPTFE粉末の粒子は低ミクロン又はサブミクロンの範囲の一次粒径を有している)を繊維形成物質に添加することが、改良された溶融紡糸繊維の生成において何らかの利点になるということは、本発明以前には示されていなかった。
【0008】
PTFEは、他の材料に組み込まれると、その他の材料に改善された滑り性や非湿潤性のような特性を与えることが一般的に知られている。この目的のためには、粉末の形態であるか又は水性分散体もしくは有機分散体の形態であるPTFEが有用である。乾燥PTFE粉末の製品が当技術分野で知られており、一般的に産業上入手することが可能である。フルオロポリマー産業におけるいくつかの製造業者がPTFE粉末を生産しており、これらの製造業者の中には、粉末のPTFEの粒径を「サブミクロン」又はサブミクロンサイズに分散できるものとして記述している。
【0009】
小さな粒径又はサブミクロンのPTFEに対しては多様な最終用途が存在する。例えば、少量(例えば約0.1〜2重量%)の粉末PTFEを様々な製品組成物に組み込むことで、下記のような好ましい有益な特性を付与することができる:(i)インクに加えると、PTFEは、優れた耐表面損傷性及び耐摩擦性を与え;(ii)化粧品に加えると、PTFEは、絹のような感触を与え;(iii)日焼け止めに加えると、PTFEは、UV線に対する遮蔽の増強及びSPF(日焼け防止指数)の増強をもたらし;(iv)グリース及びオイルに加えると、PTFEは、優れた潤滑を与え;(v)コーティング及び熱可塑性物質に加えると、PTFEは、耐磨耗性、耐薬品性、耐候性、耐水性、及びフィルム硬度の改善をもたらす。
【0010】
サブミクロンのPTFE粉末及び分散体に関する他のより具体的な最終用途としては、(i)サブミクロンのPTFE粒子の均一な分散体を無電解のニッケルコーティングに組み込み、そのようなコーティングの摩擦特性及び磨耗特性を改良すること(例えばHadley et al. Metal Finishing, 85:51-53(December 1987)を参照されたい);(ii)電気コネクターの接触用の表面仕上げ層にサブミクロンのPTFE粒子を組み込むこと(ここでPTFE粒子は、表面仕上げ層に耐磨耗性を与える)(Abys et al.に対する米国特許第6,274,254号);(iii)サブミクロンのPTFE粒子を界面層における固形の潤滑剤としてフィルム形成バインダーにおいて使用すること(ここで界面層は、光導波繊維の一部をなす)(Chienに対する米国特許第5,181,268号);(iv)サブミクロンのPTFE粉末を(粒状にされたPTFE粉末及びTiO2と共に)乾燥したエンジンオイル添加剤において使用すること(ここで、添加剤は荷重を受ける表面の滑り特性を増強する)(McCreadyに対する米国特許第4,888,122号);ならびに(v)金属及び金属合金に対する表面処理系において使用するために、サブミクロンのPTFE粒子を自己触媒的に適用されるニッケル/リンと組み合わせること(ここで、PTFEは、その結果得られる表面に潤滑、低摩擦、及び耐摩耗性を付与する)(“Niflor Engineered Composite Coatings” Hay N., International, Ltd.(1989))が挙げられる。PTFEに関する最終用途の追加される具体例としては、エンジンオイルにPTFEを組み込むこと、グリースにおける増粘剤としてのPTFEの使用、及び産業上の潤滑用添加剤としてのPTFEの使用が挙げられる。Willson, Industrial Lubrication and Tribology, 44:3-5 (March/April 1992)。
【0011】
サブミクロンのPTFE粉末及びサブミクロンのPTFE分散体を組み込む多くの用途又は最終用途(上述したような最終用途)に関しては、用途又は最終用途系に付与される有益な効果は、PTFE粒子の化学的不活性さ及び/又はPTFE粒子の小さな摩擦係数に由来する。その上、小さい粒径を有するサブミクロンのPTFE粒子は、より大きなPTFE粒子と比較した場合に、重量に対して著しく高い比率の活性表面積を有している。従って、サブミクロンのPTFE粒子は、同じ重量の大きなサイズのPTFE粒子よりも、よりよく所望の用途系に対して有益な効果を広めることができる。
【0012】
繊維産業において、改善された特性を有する合成繊維を製造することに対する要求が常にあるという先の議論及び様々な用途におけるPTFEの有用性を考慮に入れると、PTFE、特に、低ミクロン又はサブミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末を繊維形成物質に組み込み、その結果、溶融紡糸プロセスにより紡糸された繊維に、PTFEに関連する改善された特性をもたせるような、便利で高価でない方法に対する要求が当技術分野において存在することは明白である。さらに、(単なる表面コーティングに対抗して)低ミクロン又はサブミクロンのPTFE粒子を溶融紡糸繊維全体にわたり均一に永続的に組み込むことで、そのような繊維から製造される編物、織物、及び衣服が、表面での磨耗及び引き裂きが原因となって、PTFEに関連する有益な特性を長時間にわたり失わないようにするという方法に対する要求が存在する。本発明は、これらの要求及び他の要求に取り組む。
【発明の開示】
【0013】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を合成溶融紡糸繊維に組み込む新規な方法に関するものであり、その結果得られる繊維は、従来からの溶融紡糸繊維と比較して、多くの改良された特性を有している。本方法においては、低ミクロン又はサブミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末を所望の繊維形成物質(ポリエステルの溶融物など)に組み込み、それからフィラメント又は繊維が溶融紡糸工程によって製造される。結果として得られた「PTFEで増強された」溶融紡糸繊維は、そのフィラメントの本体全体にわたり分散したPTFE粒子を有している。PTFEが直接フィラメントの本体に組み込まれたこれらのPTFEで増強された溶融紡糸繊維は、PTFEに関連する改良された特性を有している。例えば本発明の方法の結果得られる溶融紡糸繊維は、従来からの溶融紡糸繊維と比較すると、著しく低下した摩擦係数を示す。
【0014】
ある合成繊維を製造するのに使用される高分子又は繊維形成物質に対する添加剤として、低ミクロン又はサブミクロンの粒径のPTFE粉末を使用することは、PTFEが繊維及びそのような繊維から製造される繊維製品の非湿潤性を改良するという点において重要である。従って、PTFEを含む繊維は、工業的なろ過及び脱水装置を製造するのに使用される繊維製品を製造するのに有用である。PTFEを含むそのような繊維は、カーペット、スポーツ着や屋外着用の織物、熱気球、車や飛行機のシート、傘等を生産するのにも、有利に使用される。さらに、本発明の繊維は、パラシュート、ボートの帆、及び類似の用途に使用される密織の(tightly woven)織物を製造するのにも、有利に使用される。密織(tight weave)と撥水の組合せにより、撥水性があり、かつ通気性がある編物又は衣料用の織物が得られる。そのような繊維製品にPTFEを組み込むことは、結果として、繊維製品が洗浄しやすくなるといったような他の利点をもたらす。
【0015】
本発明の方法は、その結果得られるPTFEで増強された溶媒紡糸繊維が、従来からの合成溶融紡糸繊維と比較して、いくつかの特性が改善されているという点において有用である。これらの改善された特性は、以下に限定されないが、次のようなものが含まれる:摩擦係数の低下;湿潤性の低下;耐汚染性の改善;洗浄性の改善;不透明性の改善;紫外線(UV)からの保護の増強、これにより光に対する耐性及び繊維や織物の寿命が増大;色の耐性の増強;ガスの透過性の低下;良好な耐磨耗性;より密な織り方;磨耗指数の改善;繊維の柔軟性の向上;きしりの減少(きしりとは、一般的にある特定の織物によって作り出されるこすれの音のことを指す);PTFEで増強された繊維が織物や衣料製品に組み込まれたときのしわの量の低下。
【0016】
さらには、本発明の方法は、結果として改良された溶融紡糸繊維をもたらすのみならず、本方法は、また、典型的に合成繊維を製造するプロセス全体を著しく改善するのに役立つ。例えばPTFEを添加したことに起因する繊維形成物質の潤滑性や滑り性の増大は、結果として、繊維の製造のための生産時間の短縮、加工速度の著しい増大、処理量の増大および全体の生産速度の増大につながる。また、PTFEの添加に起因する繊維形成材料の潤滑性の増加により、繊維の製造装置の寿命が長くなり、繊維の製造装置を動かす際に消費されるエネルギーが全体的に削減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、改良された溶融紡糸繊維の生産方法に関するものであり、ここで、その繊維は、当技術分野で知られた溶融紡糸繊維よりも、耐摩耗性がよく、摩擦係数が小さい。本発明の方法は、繊維が溶融紡糸プロセスによって成形されるときに、低ミクロン又はサブミクロンの粒径に分散させることができるPTFEを高分子又は繊維形成物質に導入することによって、溶融紡糸繊維の質を改良するものである。本発明の方法により生産されたPTFEで増強された溶融紡糸繊維は、当技術分野で知られた従来からの溶融紡糸繊維と比較して、数ある特性の中でも、耐磨耗性、耐汚染性、耐水性が増大しており、及び摩擦係数が著しく低下している。
【0018】
本発明の結果として、PTFEが溶融紡糸繊維全体にわたり組み込まれ、そのため、繊維材料は、均一に分布したPTFE粒子を含む。これは、PTFEが溶融紡糸繊維の表面にのみ又は溶融紡糸繊維から製造される織物の表面にのみ塗布され、従って磨耗してなくなってしまうような当技術分野の工程及び繊維とは、対照的である。
【0019】
本発明の方法の好ましい実施形態においては、以下の型のPTFEが有用である。サブミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末;低ミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末;サブミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末の水性又は有機分散体;および低ミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末の水性又は有機分散体。本発明の方法において有用であるPTFEの一つの具体的な型は、2003年3月14日に出願され、同時に譲渡された国際特許出願PCT/US03/07978において記述されているPTFEであり、この文献は、ここでは参照により全体が本文に組み込まれる。
【0020】
本明細書においては、「サブミクロンの粒径」という指定は、所与の量のPTFE粉末がイソプロピルアルコール(IPA)中に分散して、約90%以上、好ましくは約95%以上、さらに好ましくは約99%以上のPTFE粒子が、約1.00μm以下の粒径を有することを示す。さらに「低ミクロンの粒径」という指定は、所与の量のPTFE粉末がイソプロピルアルコール(IPA)中に分散して、約95%以上のPTFE粒子が、約10.00μm以下の粒径を有することを示す。
【0021】
低ミクロン又はサブミクロンの粒径に至るPTFE粉末の分散性は、溶融紡糸プロセスを妨害されずに実行するために重要である。紡糸口金を詰まらせ、繊維の成形を困難にしてしまう大きなサイズのPTFE粒子と異なり、小さなサイズのPTFE粒子は、紡糸口金を容易に通過する。本発明の方法によって、低ミクロンの粒径に分散させることができるPTFEは、高デニールの繊維に使用することが可能となり、その一方、サブミクロンの粒径に分散させることができるPTFEは、低デニールと高デニールの両方の繊維の成形に有用であるということが予見される。PTFE粒子は、任意のデニールサイズの繊維の本体全体にわたり均一又は均質に分散される。
【0022】
粉末状のPTFE粒子の分散性は、ある量のPTFE粉末をイソプロピルアルコール(IPA)中に分散させることによって決定される。次いで、従来の粒径解析(例えば光散乱解析)により、PTFE粉末の平均粒径及び粒径分布の指標が得られる。従って、ユーザーは、例えばPTFE粉末の試料を完全に(100%)サブミクロンのサイズに分散させることができるかどうか、あるいはそうでなければ、溶融紡糸プロセスでの使用に適しているかどうかを検証又は確認することができる。
【0023】
上述したように、サブミクロンの粒径又は低ミクロンの粒径のいずれかに分散させることができるPTFE粉末の水性又は有機分散体は、本発明の方法において使用できる。本方法において最も有用なPTFEの分散体は、典型的には約20重量%〜約60重量%のPTFEを含んでいる。あるいは、サブミクロン又は低ミクロンの粒径のいずれかに分散させることができる乾燥したPTFE粉末を直接繊維形成物質中に分散させてもよい。
【0024】
本発明における使用が検討される繊維形成高分子物質としては、以下に限定されないが、数ある繊維形成熱可塑性樹脂の中でも、ポリエステル、ナイロン、及びポリプロピレンが挙げられる。
【0025】
ある好ましい実施形態においては、低ミクロン又はサブミクロンのいずれかの粒径に分散させることができるPTFE粉末を最初に提供する。その後、溶融紡糸繊維の製造に使用される繊維形成高分子中にPTFEを組み込む。典型的な実施形態においては、ポリ(エチレン)テレフタレート(PET)を繊維形成高分子として使用できる。
【0026】
サブミクロン又は低ミクロンの分散性のPTFE粉末は、繊維形成高分子(PETなど)中に三つの基本的な方法により組み込まれる:1)分散性のPTFE粉末を繊維形成高分子中に乾燥した粉末の形態で直接導入し、分散させる;2)分散性のPTFE粉末を繊維形成高分子中に水性又は有機分散体の形態で導入する;又は3)分散性のPTFE粉末を繊維形成高分子中にペレット化されたマスターバッチの形態で導入する。本質的には、本明細書で記述された高分散性のPTFEは、繊維形成高分子が紡糸口金を通過する前であれば、繊維製造の溶融紡糸プロセスの任意の段階で導入できる。
【0027】
上述したPTFEを組み込む第三の方法に関しては、顔料や難燃剤のマスターバッチを形成し、溶融紡糸繊維に組み込むのと同様の方法で、PTFEのペレット化されたマスターバッチを形成し、繊維成形高分子に組み込む。ある実施形態においては、ペレット化されたマスターバッチの形態の高分散性のPTFEの導入が好ましい。本発明において有用な繊維形成高分子中のPTFEのマスターバッチは、典型的には約5%〜約60%のPTFE、とりわけ約40%〜約45%のPTFEを含む。
【0028】
繊維形成高分子中への高分散性のPTFE粉末のこうした導入により、押出しの途中の流れ特性の改善、生産速度の改善、及び繊維形成プロセス全体に付与された潤滑性に起因する生産時間の著しい低下がもたらされる。
【0029】
ある実施形態においては、本発明に基づいて製造された溶融紡糸繊維は、約10デニール以下の細い繊維である。しかしながら、PTFEが組み込まれた、太くて粗い溶融紡糸繊維も生産できる。
【0030】
本発明の方法により生産されたPTFEで増強された溶融紡糸繊維は、織物や編物に組み込まれ、それによってその織物や編物は、製品や組成物へのPTFEの添加に典型的に関連する増強された特性を有する。例えば本発明の繊維により製造された織物や編物は、著しく低下した摩擦係数を示し得る。そのような特性を有する織物や編物は、スポーツやレクリエーション活動で着ることを意図した衣料品を製造するのに有用である。本発明のPTFEで増強された溶融紡糸繊維の他の望ましい特性としては、例えば、繊維により発現される例外的な耐摩耗性及び耐汚染性、繊維の耐光性及び耐UV性、繊維の色の耐性、及び繊維の分解に対する耐性が挙げられる。
【0031】
具体的に言うと、PTFEで増強された繊維及び/又は本発明のPTFEで増強された繊維から製造された織物について磨耗試験を行うことで、繊維の耐摩耗性を決定することができる。磨耗試験としては、Taber試験、Mace試験、及びPilling試験が挙げられる。同様に、試験を行って、織物の靭性(tenacity)、織物の伸び(elongation)、及び延伸(draw)を決定することができる。引張り強度、織物の伸度、及び延伸を決定する。一般的には、溶融紡糸繊維の特性を解析するのに普通に工業上使用されているのと同様の全範囲の試験を本発明の繊維を試験するのに使用できる。他の産業において使用されている試験及び他の科学的な試験方法も、本発明の繊維及び織物を特徴付けるのに使用することができる。
【0032】
本発明のある実施形態においては、合成複合繊維の紡糸の途中で、繊維形成高分子樹脂にPTFEを組み込むという本方法を利用して、複合繊維を成形することが望ましい。複合繊維は、一般的には、異なった化学的及び/又は物理的特性を有する二つの高分子を含み、同一の紡糸口金から押出し成形され、同一フィラメント内に両方の高分子を含む繊維として記述される。典型的には、複合繊維により付与される利点としては、二つの高分子の熱結合、繊維の自己かさ高さ(self-bulking)、独特の断面を有する繊維を製造できること、及び低コストで特別の高分子又は添加剤の利益が得られることが挙げられる。
【0033】
最も普通に市販されている複合繊維は、以下の構成の一つを有している。それは、シース/コア;サイド・バイ・サイド;又は偏心(eccentric)シース/コアである。しかしながら、いずれの複合繊維の構成も、本発明の方法から利益が得られる。複合繊維の製造に合成繊維産業で使用される典型的な高分子の組合せとしては、コポリエステルのシースを含みポリエステルのコアを有する繊維;ポリエチレンのシースを含みポリエステルのコアを有する繊維;及びポリエチレンのシースを含みポリプロピレンのコアを有する繊維が挙げられる。
【0034】
複合繊維が追求される本発明のある実施形態においては、ポリ(エチレン)テレフタレート(PET)のような高分子をコアとして使用し、その一方、シースは、本発明の方法に基づいて組み込まれた高分散性のPTFE粒子有する高分子(PETなど)を含むといったようなシース/コアの構成を有する繊維を製造することができる。例えば、ある実施形態においては、シースが約2%〜約40%又はそれ以上のPTFEを含む複合繊維が製造される。本方法に基づいて形成された複合繊維のいくつかの利点としては、PTFEが繊維のシース部分にのみ組み込まれているのでコストが軽減されることばかりでなく、繊維のコアが非常に強度が高いままなので、引張り強度が保持されるということが含まれる。
【0035】
本発明の方法及び構成は、以下に詳述される実施例を通して、よりよく理解されるだろう。その上、本発明のPTFEで増強された溶融紡糸繊維の改良された特性のいくつかは、以下の実施例において、より詳細に議論される。これらの実施例は、何ら本発明の開示を限定することを意図したものではなく、本発明により開示される方法及び繊維の特定の実施形態及び特徴を説明するつもりのものである。
【実施例】
【0036】
実施例1:PTFEで増強された溶融紡糸繊維で製造された織物の摩擦試験
本実施例においては、本方法に基づいてPTFEが繊維に組み込まれている溶融紡糸繊維から製造した一方の編んだ袖と、PTFEが組み込まれていない従来の溶融紡糸繊維から製造した他方の編んだ袖の特性を比較するために、摩擦試験を行った。
【0037】
溶融紡糸繊維の耐摩耗性、滑り性、及び全体の摩擦挙動を決定するための様々な摩擦試験が、当技術分野には存在する。本実施例の間に、典型的には印刷インクで使用される明確で非常に敏感な型の摩擦試験(ASTM D-5181に基づく)が、これらの編んだ袖の磨耗及び摩擦特性を試験する直接的且つ決定的な方法を与えてくれるということが決定された。この摩擦試験方法は、Sutherland Ink Rub Testerを用いて行われるものであるが、溶融紡糸繊維から製造された織物に使用するために、本実施例では適当に改作した。この摩擦試験は敏感であり、繊維又は繊維製品の産業において典型的に使用される他の標準的な摩擦試験よりも、訓練されたオペレターの影響をおそらく非常に受ける。
【0038】
具体的に言うと、本実施例のための袖を製造するのに使用された合成繊維は、PETで製造されており、これは、ポリエステル繊維の製造に典型的な、先に詳細に議論した高分子である。袖1に関しては、PTFEで増強されたポリエステル繊維を形成し、袖を製造した後に、得られた袖の中のPTFEの量が約5重量%となるように、低ミクロン又はサブミクロンの粒径に分散させることができるPTFEをPET高分子樹脂に組み込んだ。PTFEで増強された繊維のデニールは、240であり、フィラメント当たりのデニール(DPF)は、7.06であった。
【0039】
ジャージニット法における4インチのシリンダーと144個の針を用いて、本発明のPTFEで増強されたポリエステル繊維を編んで袖1を作った。袖2に関しては、袖を構成するポリエステル繊維を製造するのに使用したPET高分子樹脂に、PTFEを組み込まなかった。袖2で使用されたポリエステル繊維は、袖1の場合と同様の方法で溶融紡糸した。また、袖2は、袖1と同様のジャージニット法で編んだ。
【0040】
それから、摩擦試験を両方の袖について行い、それぞれの袖の耐摩耗性を決定した。Sutherland Ink Rub Testerを用いて摩擦試験を行った。テスター内で、4ポンドの重りにて、それぞれの袖を「遅い速度」(即ち1分間に32サイクル)で擦った。
【0041】
試験の間、Standard Receptor Stock(#5 ASTM D-1581)をまず4ポンドの重りに固定した。それから、袖1をSutherland Ink Rub Testerのパッドの上に置いた。Standard Receptor Stockを袖1の上に置き、Ink Rub Testerの重りの腕によって固定した。それから、ストローク数を450にセットし、摩擦磨耗試験を始めた。450ストロークが終了した後、4ポンドの重りを織物から取り除いた。同じ試験の手順を袖2に対して使用した。
【0042】
袖1及び2を目で比較して、摩擦試験により生じた磨耗のレベルを決定した。具体的に言うと、それぞれの袖のStandard Receptor Stockによって擦られた部分を目で注意深く調べて、どちらの袖が、擦過数が少ないかを決定した。編んだ袖1(5%のPTFE量の繊維から製造)が、袖2(0%のPTFE量の繊維から製造)よりも、擦過が少ないということが決定された。これらの結果は、PTFEの組み込みによって繊維に改良された耐磨耗性が付与されたことを示すものである。
【0043】
実施例2:PTFEで増強された溶融紡糸繊維で製造された織物の摩擦試験
本実施例においては、袖3及び4を、先の実施例1で議論した袖1及び2のそれぞれと全く同様の方法で形成した。従って、袖3は、PTFEが組み込まれたポリエステル繊維で製造し、その一方、袖4は、従来のポリエステル繊維で製造した。本実施例においては、Sutherland Ink Rub Testerを用いた摩擦試験を再び行った。しかしながら、本実施例においては、それぞれの袖の性能を、ワックスを有していないBlack Magenta Inkの基準印刷フィルム(reference printed film)に対抗して計測した。
【0044】
袖1及び袖2の試験(実施例1)に関して上述したのと同様の一般的な手順(遅い速度及び重り)を用いて、Sutherland Ink Rub Testerを通して、袖3及び袖4を処理した。しかしながら、本実施例においては、基準印刷フィルムをまずテスターのパッド上に置いた。試験の袖(袖3とそれから袖4)を4ポンドの重りに固定し、450ストロークにわたり、基準印刷フィルムに対して擦った。擦りストロークの後、袖3及び4を目で検査し、その上の擦過の数を評価した。基準印刷フィルムも、同様に検査し、それに対する損傷を評価した。目で観察したところ、袖3は、袖4よりも、擦過が少ないことが分かった。さらに、袖3は、袖4よりも、印刷されたインクフィルムに損傷を与えていなかった。これらの結果は、PTFEで増強された繊維を有する袖3が、PTFEを含んでいない従来の溶融紡糸繊維を有する袖4よりも、優れた耐摩耗性を有するということを示している。
【0045】
実施例3:PTFEで増強された溶融紡糸繊維で製造された織物の摩擦係数試験
本実施例においては、従来のポリエステル繊維で製造した織物、及び本発明に従いPTFEが組み込まれたポリエステル繊維で製造した織物に対する動的摩擦係数を決定し、比較するために、試験を行った。従来の繊維から製造された袖5及びPTFEで増強された繊維から製造された袖6を本実施例において試験した。これらの袖は、袖2及び1(実施例1)とそれぞれ同様の方法で製造され又は編まれた。
【0046】
本実施例で行った摩擦係数試験は、滑り又は引張り試験であり、これは、それぞれの袖の摩擦係数を計測するのに役立つ。試験の間、袖5(PTFEを含まない繊維を有するもの)を摩擦試験機械(ALTEK Company(245 East Elm Street, Torrington, CT 06790 USA)より発売されているAltek Model 9505A)の表面に先ず固定した。この機械には、2000グラムの滑動重りが備わっている。この滑動重りを袖5の上に置き、摩擦試験機械の摩擦係数指示器を係合させた。引張り速度を1分当たり20インチにセットし、引張りを開始した。機械の摩擦係数(COF)指示器から、COFの数値を得た。試験を6回繰り返し、袖5に関する平均のCOF値を得た。同様の試験手順を使用して、PTFEで増強された繊維を含む袖6に関する平均のCOF値を得た。得られたCOFの結果は、以下の表1に示してある。
【表1】

【0047】
表1に示された結果は、5%のPTFEを有する繊維で製造した編まれた袖(袖6)は、PTFEを含まない繊維から製造した袖(袖5)よりも、小さい摩擦係数を有していたということを示している。
【0048】
実施例4:滑り角度試験を用いる、PTFEで増強された溶融紡糸繊維で製造された織物の摩擦係数試験
本実施例においては、袖7及び8を、先の実施例3で記述したように袖5及び6とそれぞれ全く同様の方法で形成した。従って、袖7は、PTFEを含まないポリエステル繊維で製造され、その一方、袖8は、本発明に従ってPTFEで増強されたポリエステル繊維から製造した。本実施例で使用したCOF試験の手順は、それぞれの袖の摩擦特性を研究し、それぞれの袖の静的摩擦係数を決定するための滑り角度試験を包含する。Sliding Angle Coefficient of Friction Tester(Model #32-35)を本目的のために使用した。テスター内では、三つの異なった対になる表面材料を使用した。(1)Mylarフィルム;(2)印刷用紙(70# opus gloss);及び(3)処理されたC-184ホイル。
【0049】
試験を始めるために、袖7を重りに固定した。対になる表面材料をスライディングテスター内のホルダーに入れた。それから、重りをつけた袖7をその滑り角度を計測するために準備された対になる表面の材料の上にきちんと置いた。対になる表面の一方の端を持ち上げて、重りをつけた袖7が滑り始める角度を決定した。計測を5回繰り返し、その結果、袖7に関する滑り角度の平均値を計算することができた。平均の滑り角度の値からCOFの値を計算した。これらの計測及びCOFの計算を、三つの異なる対になる表面材料それぞれについて繰り返した。
【0050】
同じ試験手順を袖8(本発明に従ったPTFEで増強されたポリエステル繊維を有するもの)に対して使用した。本実施例の試験の結果は、以下の表2に示してある。
【表2】

【0051】
これらの結果は、5%のPTFEが繊維に組み込まれたポリエステルで編まれた袖である袖8が、PTFEの添加剤を含まない従来のポリエステル繊維から製造された袖7と比較して、小さい摩擦係数を有していたということを示している。
【0052】
実施例5:引張り強度試験を用いる、PTFEで増強された溶融紡糸繊維で製造された織物についてのUV保護の増大の計測
本実施例においては、PTFEで増強された溶融紡糸繊維で製造された織物についての紫外線(UV)劣化に対する耐性を調べた。
【0053】
ある調査においては、屋外で使用した際の紫外線劣化をシミュレートするために、実験室の装置中で、紫外線(UV)に対する制御された暴露前と後の両方について、不織繊維の引張り破断強度を試験した。工業規格試験手順であるSAE J1885を使用した。この手順は、自動車の内装の織物の耐光性を評価するために、一般的に自動車産業において使用されているものである。自動車産業において使用される手順では、226 kJ(例えばChrysler Group, Daimler Chrysler Corporation, Auburn Hills, MI48326)又は488 kJ(例えばFord Motor Company, Dearborn, Michigan 48126)の基準露光量が使用される。
【0054】
2.25%のPTFEの濃度を有するPTFEで増強された繊維材料(紡糸する溶融物に45%のPTFEのマスターバッチを5%組み込むことによって調製したもの)を試験材料として使用した。PTFEを含まないように調製した従来からの繊維材料を、対照材料として使用した。繊維を破断させるのに必要な破断力を決定するために、繊維に荷重をかけることによって、試験試料及び対照試料の引張り強度を決定した。UVの照射に先立ち、まず試料を試験した。試験試料及び対照試料の繊維を破断させるのに必要な力は、それぞれ260ニュートン、270ニュートンと計測された。これらの類似した破断力の値は、PTFEで増強された繊維及び増強されていない繊維が、比較できる引張り強度を有していることを示している。
【0055】
次に、試験試料及び対照試料を実験室の疲労シミュレーター(Atlas Electric Model No. Ci4000 Weatherometer(登録商標)、Atlas Electric Devices Company, 4114 N Ravenswood Ave, Chicago, IL 60613より販売)中で、様々なレベルのUVランプの放射にさらした。このシミュレーターでは、試験片の促進耐候試験のために、太陽の日射強度の二倍までのキセノンアークランプが使用されている。照射レベルは、225、490、600、800、及び1100 kJ/m2の量であった。照射量が増えると(即ち800 kJ/m2で)、対照試料は崩壊した。しかしながら、試験試料は、1100 kJ/m2も含めた全ての照射において、その構造の完全性を保っていた。600 kJ/m2の照射にさらした試験試料及び対照試料において、破断力を計測したところ、それぞれ169ニュートン(lbs./sq.in)及び85ニュートンであった。UV照射に起因する試験試料及び対照試料の引張り強度の減少は、それぞれ約(260-169)/(260)=35%、(270-85)/270=68%と計算された。これらの結果は、溶融紡糸繊維へのPTFEの添加により、UV劣化への耐性が約2倍改善されることを示している。
【0056】
800 kJ/m2及び1100 kJ/m2の照射後の試験試料の引張り強度を計測したところ、それぞれ約150ニュートン及び135ニュートンであった。図1は、二つの試料の引張り強度(lbs./sq.in)を照射量の関数として比較する棒グラフである。0kJ/m2〜1100kJ/m2の範囲の照射量のデータを示している。図2は、225 kJ/m2〜1100 kJ/m2の範囲の照射量での照射後の試験試料及び対照試料の正規化強度を示す棒グラフである。
【0057】
耐照射性のこれとは別の調査を独立した織物試験研究室(I.S. LABS, Inc, 209A East Murphy Street Madison, NC 27025)で行った。この研究室では、PTFEで増強された材料及び対照材料の引張り強度を従来の繊維産業の手順(SAE J1885)を用いて計測した。計測したパラメーターとしては、切断強さ(breaking tenacity)及び破断荷重時の伸度があった。これらのパラメーターを退色試験器(fadeometer)のもとで露光の前後に計測した。試験材料をAtlas Weatherometer装置中で488.8 kJの光にさらした後に、後露光計測を行った。四つの異なった製品カテゴリーからの試料を試験した。製品カテゴリー1及び3(それぞれ1/150/100及び1/150/50対照製品とラベル)は、それぞれPTFEの添加剤を含まない糸から編まれた袖であった。製品カテゴリー2及び4(それぞれ1/150/100及び1/150/50PTFE製品とラベル)は、PTFEで増強された糸から編まれた袖であった。ラベル中の連続する数字は、それぞれプライ、デニール、及び糸中のフィラメント数を指す。従って、1/150/100というラベルは、1プライ、150デニール、100フィラメント糸のことを指す。1/100/100及び1/100/50のPTFEで増強された繊維中のPTFEの濃度は、ともに約1.75%と測定された。それぞれの製品カテゴリーにおいて、チューブ糸(即ち織物に編まれていない又は織られていない糸)の試験片、及び製品糸から編まれた袖をほどいた糸を試験した。様々な製品カテゴリーに対する試験結果を表3に示してある。
【表3】

【0058】
表3においては、それぞれの製品カテゴリーの最初の行は、装置の較正又はチューブ糸の標準測定値を指している。第二の行は、Atlas Weatherometer装置中で試験露光量に暴露する前の試料の袖をほどいた糸の測定値を指している。同様に第三の行は、Atlas Weatherometer装置中での露光後の試料袖をほどいた糸の測定値を指している。最後の測定は、それぞれの製品カテゴリーに関して、三つの別個にほどいた撚り糸について繰り返した。
【0059】
露光した袖及び露光していない袖をほどいた糸に関する試験結果に見られる分散は、袖を製造した繊維織物の織り方又は編み方の構造と関係があるかもしれない。しかしながら、全体として見れば、ある濃度のPTFE添加剤を含む繊維は、PTFE添加剤を含まない繊維よりも、有意に強度が高いということを結果は示している。
【0060】
実施例6:PTFEで増強された溶融紡糸繊維で製造された織物の湿気管理特性の改善
本実施例においては、PTFEで増強された溶融紡糸繊維で製造された織物の湿気の取扱い又は管理の能力を調査した。織物の湿気の取扱い又は管理の能力は、水溶液に浸した織物のストリップにおける毛管吸い上げの度合いを計測することによって決定した。水はうまい具合に着色し、これにより、織物が水を吸収したときに、吸い上げのウォーターフロントを目視観察することができるようになった。着色した水溶液を、ビーカー中で緑色の食用色素を水に加えることによって調製した。水に加えられた色素の量は、色素溶液の伝導率を約1000 Mhos ± 100 Mhosに引き上げるのに十分な量であった。
【0061】
二つのPTFEで増強された繊維の織物のストリップ(PTFE-1及びPTFE-2とラベル)を試験した。二つのストリップを、二つの対照となる織物のストリップ(それぞれControl-1及びControl-2)と共に試験した。試験試料及び対照織物試料は、幅1インチ、長さ8インチのストリップに切断した。ストリップを、試験の直前まで、65%±2%の湿度雰囲気中で約華氏70度にて少なくとも4時間、コンディショニングした。織物のストリップを水溶液上で垂直に固定し、その端を着色した水溶液の入ったビーカーに浸した。試験の織物のストリップの下端1インチを色素溶液中に沈めた。織物のストリップの下端1インチが、着色した水溶液に沈められたときに、ストップウオッチを始動した。織物のストリップ中へと着色した水が上っていく吸い上げが観察された。吸い上げの水の先端が、ビーカー内の浸漬レベルよりも、1インチ、2インチ、及び3インチ上の印まで上がるのにかかる時間をストップウオッチを用いて計測した。それぞれの試行に対して、新しい織物のストリップを使用して、それぞれの織物について、二回試行を行った。
【0062】
様々な試料に対する時間の計測を表4に載せてある。
【表4】

【0063】
多くの例における水の吸い上げの先端は、表4のコメント欄でも記述したように、3”のレベルを均一に又は一貫して超えて上がることはなかった。このことは、試験条件下において、織物のストリップは、3”の印の手前又はほぼそこで、水で飽和してしまい、定常状態になるということを示している。しかしながら、PTFEで増強された織物は、一貫して、対照の織物よりも早く、1”及び2”のレベルまで水の吸い上げが生じるということを示していた。例えばPTFE-1のストリップにおいては、約2秒で1”のレベルまで水を吸い上げるのに対し、Control-1のストリップにおいては約6から8秒で観察された。同様に、PTFE-2のストリップにおいては、平均約28秒で2”のレベルまで水を吸い上げるのに対して、Control-2のストリップにおいては、平均約30.5秒で観察された。これらの試験結果は、PTFEで増強された糸から製造された織物が、PTFEの添加剤を含まない糸から製造した織物よりも、優れた湿気管理特性を有していることを示している。
【0064】
実施例7:PTFEで増強された溶融紡糸繊維で製造した織物の磨耗試験
本実施例においては、PTFEで増強された溶融紡糸繊維で製造した織物の耐摩耗性を評価した。耐摩耗性は、繊維製品を評価するのに使用されている従来からのTaber試験法を用いて評価した。本方法は、繊維織物の切れ端を試験ユニットの土台板上に固定し、荷重がかかった車輪を繊維織物の表面を横切るように繰り返し走行させて、繊維織物を擦り減らすということを包含する。試験の前と後について、繊維織物の切れ端の重量を測定した。磨耗が原因となった重量の損失は、織物の耐摩耗性の指標となる。
【0065】
PTFEで増強された繊維から製造された試料の織物を試験した。織物は、1/150/100のPTFEで増強された糸で製造した。試料は、PTFE添加剤を含まない従来の糸で製造された対照となる織物の試料と共に試験した。これらの試料(それぞれPTFE-3及びControl-3とラベル)を市販の装置(Taber Abraser Model 503、Taber Instruments Corporation, North Tonawanda, NY USAより販売)上で磨耗試験した。それぞれの織物の試料は、試験に先立ち、重さを量った。それから織物の試料を装置の土台板に真空により固定した。車輪(H-10サイズ)を織物の試料の表面上で200サイクル走行させた。車輪には500 gの重りが積んであった。
【0066】
全般的に目で観察したところ、PTFEで増強された織物及び対照の織物は、ともに試験条件下では類似しているということが判った。デジタルカメラを使用して試験試料を詳しく観察したところ、PTFEで増強された織物は、対照の織物よりも、磨耗後滑らかであるということが示された。磨耗後に織物の重量を量り、磨耗の量の定量的な測定値を得た。それぞれの織物の型は、4回試験した。様々な織物の試料に関する試験データは、表5に載せてある。
【表5】

【0067】
PTFEで増強された織物の試料における平均の重量損失(15%)は、従来の対照となる織物の重量損失(19%)の約4分の3であった。これらの試験結果は、適切な量のPTFEで増強された糸で製造された繊維織物は、PTFE添加剤を含まない糸から製造された織物よりも、優れた耐摩耗性を有していることを示している。
【0068】
これとは別の一連の試験においては、不織カーペットの用途向けのGeneral Motors標準法GM2794に基づいて、PTFEで増強された織物の試料(PTFE-4)及び対照となる試料(Control-4)の磨耗試験を行った。H-18サイズの1000 gの荷重を受けた車輪を用いて、試験を行った。不織カーペット用途向けのPTFE-4の試料は、約2.25%のPTFE量を有し(上記のPTFE-1及び2の試料に類似)、約1.5%の顔料を含む18デシテックスのPET繊維から製造した。対照となる試料は、未延伸のPET繊維(80デシテックス)から製造した。PTFE-4の試料は、2000回の車輪サイクルの磨耗を受けた。Control-4の試料は、600回だけの車輪サイクルの磨耗を受け、この時点で、Control-4は、車輪の動きを妨げるほど十分に形がくずれ、粗くなった。磨耗サイクルの前と後について、両方の試料の重さを量った。試験結果は、表6に示してある。
【表6】

【0069】
試験データは、PTFE-4の試料は、多数の車輪サイクル磨耗(2000対600)を受けているにもかかわらず、Control-4の試料よりも磨耗しにくいということを示している。従って、PTFEで増強された繊維は、不織カーペットの用途の従来の繊維よりも、磨耗しにくいということが期待される。
【0070】
実施例8:PTFEで増強された溶融紡糸繊維で製造された繊維織物の摩擦係数試験
本実施例においては、PTFEで増強された溶融紡糸繊維が組み込まれた織物の静的及び動的摩擦特性を、ASTM D-1894-00に従って、重りを変更して評価した。ALTEK摩擦係数試験装置(ALTEK Company, 245 East Elm Street, Torrington, CT 06790 USAより販売)を本目的のために使用した。概して試験装置は、先の実施例3で記述したスライド及び滑車の構成と同様であった。試験手順においては、織物で覆われた金属のスライドを、織物で覆われたスチール定盤上を滑らせる。スライドを、一定の速度でスチール定盤を横切るように引く。そりを始動させるのに必要な力(静的)及び動きを維持するのに必要な力(動的)を歪ゲージ又はフォースゲージを用いて計測した。ゲージで読み取った値をスライドの重量で割り、生の静的及び動的摩擦数を得た。2000グラムの標準金属そりを用い、装置の較正値を参照することによって、これらの数を摩擦係数に変換した(COF=(読取値×2000)/スライド重量)。
【0071】
二つのPTFEで増強された繊維の織物(PTFE-5及びPTFE-6とラベル)を試験した。二つの織物は、それぞれ1/100/50及び1/150/100のPTFEで増強された糸から製造した。これらのPTFEで増強された繊維織物のストリップからの試料を、従来の繊維で製造された二つの対照となる織物からの試料(Control-5及びControl-6とラベル)と共に試験した。
【0072】
摩擦試験に関して、織物から四角い切れ端(2.5”×2.5”)を切り取り、スライドの底の表面(即ち金属そりブロック)に取り付けた。同じ織物の別の長方形の切れ端(4”×12”)をスチール定盤の表面に取り付けた。各スライドを、スチール定盤上を約5”/分の速度で滑らせ又は引いた。スライドの動きの開始で、開始となる又は最初の歪ゲージの読みを静的摩擦の基準として記録した。可動スライドが3”走行した際の平均の目で見た歪ゲージの読みを動的摩擦の基準として記録した。三つの異なったスライドの重量(スライドの頂部に100グラム及び200グラムの重りを加えることによって得られる)を摩擦試験で使用した。取り付けられた織物の重量も含めて、使用した三つのスライドの重量は、それぞれ約184、284、及び384グラムであった。それぞれの織物は、それぞれのスライドの重量に対して、4回試験した。試験データ(歪ゲージの読み)及び倍率変更した摩擦係数(歪ゲージの読み×2000/スライドの重量)を表8及び9に示した。表8及び9は、試験したそれぞれのPTFEで増強された織物についての、対照となる織物に対するCOFの改善(パーセント)も示している。
【表8】

【表9】

【0073】
表8及び9中のデータは、比較用の棒グラフとして図3及び4にも示してある。PTFEの繊維への添加により、繊維織物の摩擦係数が減少することが、データより確認される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、本発明に基づいて準備したPTFEで増強された繊維と従来からの繊維の引張り強度を比較する棒グラフであり、両者は、照射暴露後である。
【図2】図2は、図1の繊維の相対的引張り強度を示す棒グラフである。
【図3】図3は、本発明に基づいて調製したPTFEで増強された繊維から製造された織物の静的及び動的摩擦係数と従来からの繊維で製造された織物の静的及び動的摩擦係数を示す棒グラフである。
【図4】図4は、本発明に基づいて調製したPTFEで増強された繊維から製造された別の織物の静的及び動的摩擦係数と従来からの繊維で製造された織物の静的及び動的摩擦係数を比較する棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成材料の溶融物を調製し;
溶融物にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)材料を添加し;
PTFE材料が添加された溶融物を、紡糸口金を通して押出し、繊維を形成させる
ことを含む、合成材料から繊維を製造する方法。
【請求項2】
溶融物にPTFE材料を添加することが、約1ミクロン以下の大きさを有するPTFE粒子を溶融物中に分散させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶融物にPTFE材料を添加することが、サブミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
溶融物にPTFE材料を添加することが、低ミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末の水性分散体を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
溶融物にPTFE材料を添加することが、低ミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末の有機溶媒分散体を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
PTFE粉末の有機溶媒分散体が、約20重量%〜約60重量%のPTFEを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶融物にPTFE材料を添加することが、紡糸口金の流路の大きさよりも小さい大きさを有するPTFE粒子を分散させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
溶融物にPTFE材料を添加することが、分散性のPTFE粉末をペレット化されたマスターバッチの形態で導入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
マスターバッチが、約5%〜約60%のPTFEを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
繊維が複合繊維であり、且つPTFE材料が添加された溶融物を押出すことが、複合繊維の一成分を成形することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
合成材料が、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、熱可塑性樹脂、及びこれらの組合せから成る群より選ばれる材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法により製造された繊維を含む織物。
【請求項13】
ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、熱可塑性樹脂、及びこれらの組合せから成る群より選ばれる材料の押出物;及び
押出物中のPTFE粒子の分散体:
を含む、製造された合成繊維。
【請求項14】
PTFE粒子の分散体が、約1ミクロン以下の大きさを有するPTFE粒子を含む、請求項13に記載の合成繊維。
【請求項15】
PTFE粒子の分散体が、約1ミクロン以下の大きさを有するPTFE粒子を含む、請求項13に記載の合成繊維。
【請求項16】
PTFE粒子の分散体が、押出物中に実質的に均一に分布している、請求項13に記載の合成繊維。
【請求項17】
請求項13に記載の合成繊維を含む織物。
【請求項18】
請求項13に記載の合成繊維を含む編物。
【請求項19】
請求項13に記載の繊維を含むカーペット。
【請求項20】
請求項13に記載の繊維を含む製品。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成材料から製造された繊維の特性を高める方法であって、
合成材料の溶融物を調製し;
溶融物にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)材料を添加し;
PTFE材料が添加された溶融物を紡糸口金を通して押出することにより、主として合成材料から構成される繊維を形成させること
を含み、合成材料が非PTFE材料である、方法。
【請求項2】
溶融物にPTFE材料を添加することが、約1ミクロン以下の大きさを有するPTFE粒子を溶融物中に分散させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶融物にPTFE材料を添加することが、サブミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
溶融物にPTFE材料を添加することが、低ミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末の水性分散体を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
溶融物にPTFE材料を添加することが、低ミクロンの粒径に分散させることができるPTFE粉末の有機溶媒分散体を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
PTFE粉末の有機溶媒分散体が、約20重量%〜約60重量%のPTFEを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶融物にPTFE材料を添加することが、紡糸口金の流路の大きさよりも小さい大きさを有するPTFE粒子を分散させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
溶融物にPTFE材料を添加することが、分散性のPTFE粉末をペレット化されたマスターバッチの形態で導入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
マスターバッチが、約5%〜約60%のPTFEを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
繊維が複合繊維であり、且つPTFE材料が添加された溶融物を押出すことが、複合繊維の一成分を成形することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
合成材料が、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、熱可塑性樹脂、及びこれらの組合せから成る群より選ばれる材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法により製造された繊維を含む織物。
【請求項13】
主として、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、熱可塑性樹脂、及びこれらの組合せから成る群より選ばれる材料の押出物;及び
押出物中のPTFE粒子の分散体
を含む合成繊維であって、PTFE粒子が合成繊維材料の小部分を形成している、合成繊維。
【請求項14】
PTFE粒子の分散体が、約1ミクロン以下の大きさを有するPTFE粒子を含む、請求項13に記載の合成繊維。
【請求項15】
PTFE粒子の分散体が、約1ミクロン以下の大きさを有するPTFE粒子を含む、請求項13に記載の合成繊維。
【請求項16】
PTFE粒子の分散体が、押出物中に実質的に均一に分布している、請求項13に記載の合成繊維。
【請求項17】
請求項13に記載の合成繊維を含む織物。
【請求項18】
請求項13に記載の合成繊維を含む編物。
【請求項19】
請求項13に記載の繊維を含むカーペット。
【請求項20】
請求項13に記載の繊維を含む製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−501381(P2006−501381A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542061(P2004−542061)
【出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【国際出願番号】PCT/US2003/031264
【国際公開番号】WO2004/030880
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(504467093)シャムロック テクノロジーズ インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】