説明

ポリトリメチレンテレフタレート樹脂およびその製造方法

トリメチレンテレフタレート繰返単位(a)60〜100モル%、及び該単位(a)を得るのに用いた単量体以外であり且つ単位(a)を得るのに用いた単量体の少なくとも1つと共重合可能である単量体に由来する少なくとも1種の単量体単位(b)0〜40モル%からなり、該単位(a)と単位(b)との合計モル量が100モル%であって、下記(A)〜(D)の特性を有するポリトリメチレンテレフタレート樹脂。 (A)極限粘度[η]が0.6〜4dl/gであり; (B)分子量分布(Mw/Mn)が2〜2.7であり; (C)環状ダイマーの含有率が、2重量%以下であり; (D)明度指数L値が70〜100、クロマティックネス指数b*値が−5〜25である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂に関する。更に詳しくは、本発明は、主としてトリメチレンテレフタレート繰返単位からなるポリトリメチレンテレフタレート樹脂であって、極限粘度[η]が0.6〜4dl/g、分子量分布(Mw/Mn)が2〜2.7、環状ダイマーの含有率が2重量%以下、且つ明度指数L値が70〜100、クロマティックネス指数b*値が−5〜25であるポリトリメチレンテレフタレート樹脂に関する。本発明のポリトリメチレンテレフタレート樹脂を用いて成形品を製造すると、優れた強度、色調を示すだけでなく、成形品表面への環状ダイマーの滲み出しが無く、そのため塗料、糊剤の塗布性や、接着性に優れた成形品を工業的に安定して得ることが可能になる。また、本発明は該ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を工業的に安定して高生産性で製造する方法にも関するものである。
従来技術
ポリトリメチレンテレフタレート(以下、屡々「PTT」と称す)は、ナイロンに類似の性質(例えば柔らかい風合、優れた弾性回復性、易染性)と、PETに類似の性質(例えばウォッシュアンドウェアー性、寸法安定性、耐黄変性)を併せ持つ画期的な繊維として注目されている。また、低吸湿性、耐黄変性といったナイロン樹脂にない特徴や、易成形性といったPBT樹脂にない特徴を利用して、優れた成形材料として注目されている。
このような特徴を生かし更に用途を拡大していくために、繊維や成形品の強度や色調を高めることが望まれており、そのためにはポリマーの重合度を高めるとともに分子量分布を狭めて低分子量成分を少なくする必要がある。また、ポリマーの白度を高め、且つ乾燥や溶融などの熱履歴により着色しにくくする必要がある。
ポリトリメチレンテレフタレートを製造するための重合方法として、溶融重合法が広く知られている(例えば、日本国特開平5−262862号公報(米国特許第5,340,909号に対応)、国際公開98/23662号公報、国際公開第01/14450号公報及び国際公開第01/14451号公報参照)。これらの文献では、攪拌機を備えた槽型の重合器を用いる溶融重合方法が開示されている。攪拌槽型の重合器は容積効率が高くシンプルであるという利点を有しており、小スケールでは効率的に重合を進めて高重合度のポリマーを得ることができる。しかしながら、工業的規模では反応液の液深が深くなるために、熱分解の影響が顕著となり、高重合度のポリマーを得ることは困難である。
高重合度のポリトリメチレンテレフタレートを得るため、多くの溶融重合に係る技術が開示されている。例えば、テレフタル酸の低級アルコールジエステルとトリメチレングリコールとのモル比を1:1.2〜1:1.8とし、チタン化合物の存在下でエステル交換反応及び重縮合反応を行う技術(日本国特開昭51−140992号公報)、重縮合触媒として有機金属触媒、触媒助剤として有機スルホン酸または脂肪族カルボン酸を用いる技術(米国特許第4,611,049号明細書)、重縮合触媒として錫触媒を用いる技術(日本国特開平5−262862号公報(米国特許第5,340,909号に対応))、重縮合触媒として特殊なチタン触媒を用いる技術(日本国特開2000−159875号公報及び日本国特開2000−159876号公報)、重縮合触媒としてアンチモン化合物を用いる技術(Chemical Fiber Inter national 第46巻 263〜264頁、1996年)、特殊な構造のヒンダードフェノール系安定剤を用いて熱分解を抑制する技術(日本国特開昭51−142097号公報)、リン系とヒンダードフェノール系安定剤を用いて末端封鎖することにより空気中で加熱した際に発生するアクロレイン量を減らす技術(国際公開第98/23662号公報及び国際公開第99/11709号公報)、重縮合触媒として特定のチタン化合物とリン化合物をリン/チタン原子換算のモル比で1/1〜3/1の割合で予め反応させて得られる反応生成物を用いる技術(日本国特開2001−278971号公報)などがある。しかしながら、これらの技術では高分子量のポリトリメチレンテレフタレートが得られなかったり、成形によりポリトリメチレンテレフタレートの分子量が低下したり、着色したりと、充分満足のいくポリトリメチレンテレフタレートは得られなかった。例えば日本国特開2001−278971号公報では、ポリトリメチレンテレフタレートの色調は改良されるものの重合速度が大幅に低下し、特に工業的規模では反応液の液深が深くなるため、実質的に高重合度のポリトリメチレンテレフタレートを製造することは不可能であった。また例えば日本国特開平5−262862号公報では、色調を改善するには錫触媒量をジメチルテレフタレート基準で525ppm以下に制限する必要があり、且つ登録商標ホスパターム顔料やコバルトとの組合せを必要とした。その上、高重合度化に関しては1kgスケール前後の反応液の液深が浅い場合には可能であるが、工業的規模では高重合度のポリトリメチレンテレフタレートを製造することは困難であった。さらにブチル錫酸に代表される炭素原子と錫原子との直接結合を有するようなオルガノスズ化合物は毒性にも問題があるため好ましくない。
また、従来の溶融重合技術で製造されたポリトリメチレンテレフタレート中には、副生物であるオリゴマーの含有量が多いという問題があった。オリゴマーはポリトリメチレンテレフタレートに対して約2.5〜3.5重量%含まれており、その約90重量%が環状ダイマー(テレフタル酸2分子が縮合して形成される環状化合物)であるが、環状ダイマーは昇華性、ブリードアウト性を有するために、例えば紡糸工程では昇華して紡口周辺に析出し、これが繊維に付着して糸切れや毛羽の原因になる。また例えば射出成形では成形金型に析出してモールドデポジットとなり成形品の外観や寸法精度を損なう。成形品を製造した後も、環状ダイマーが表面にブリードアウトするため塗料や糊剤の塗布性や、接着性が損なわれる。さらにポリトリメチレンテレフタレートを溶融重合法で製造する工程においても、環状ダイマーが揮発して重合設備配管部などに析出し閉塞がおきる問題があった。また、ポリトリメチレンテレフタレートと環状ダイマーとの間には、下記のように環鎖平衡が存在する。

(式中、Mはトリメチレンテレフタレート繰返単位を表し、Dは環状ダイマーを表す。)
そのため、重合工程中に揮発した量に相当する環状ダイマーが再び生成し損失となるので、低環状ダイマー含有量のポリトリメチレンテレフタレートを製造することが不可能なうえ、収量にロスが生じる問題があった。
類似骨格を有するPETにもこのようなオリゴマーが存在することが知られている。しかしPETの場合、オリゴマーの存在量はより少なく1重量%程度である。またPETではオリゴマーの大部分は環状三量体であり、環状ダイマーに比べ分子量が大きいため昇華性やブリードアウト性が小さい。このようにオリゴマーの問題の程度はポリトリメチレンテレフタレートの方がより深刻である。
熱安定性に優れた高重合度のポリトリメチレンテレフタレートの製造方法として、固相重合技術により製造する方法が開示されている(例えば、日本国特開平8−311177号公報、日本国特表2000−502392号公報及び韓国公開特許公報第1998−061618号公報参照)。固相重合法は低温で重合を行う為に環鎖平衡がよりポリトリメチレンテレフタレート側に移動するため、環状ダイマーを低減する有効な手段であるとの報告がある。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、固相重合によって環状ダイマーの含有率を1重量%未満に低減したポリトリメチレンテレフタレートであっても、溶融成形の目的で溶融すると、環状ダイマーが急速に生成し、成形中に環鎖平衡値の約2.5〜3.5重量%まで、すなわち固相重合実施前の値まで戻ってしまうことが明らかになった。このため、固相重合によって製造したポリトリメチレンテレフタレートでは、繊維やフィルム、射出成形品などの溶融成形品を製造する場合、環状ダイマーに起因する上記問題を回避できなかった。
さらに固相重合に関しては、ペレットの表面からトリメチレングリコール(以下「TMG」と称す)が抜けて重合が進むために、ペレットの大きさ、形、ペレットの内外層によって重合度が異なるため、重合度のバラツキが大きくなる(即ち、分子量分布が広くなる)問題がある。更に、固相重合では固体のペレット同士が長時間擦れ合うためにポリマーの微粉末が多量に発生しロスとなる問題がある。ポリマー粉末は紡糸時の糸切れや毛羽の原因となり、これを取り除く余分な工程が必要になる。さらに固相重合は溶融重合後に追加される工程であり、製造工程が複雑になるとともにコストも高くなる問題があった。
上記固相重合特有の問題を回避するために、溶融重合プロセスの改良によって、高重合度のPTTを製造する方法として、TMGを効率的に系外に抜き出すためにディスクリング反応器(disc ring reactor)又はケージ式反応器(cage type reactor)を用いる技術(国際公開第00/64962号公報)や、ディスク・アンド・ドーナツコンタクター(disc and donut contactor)を用いる技術(米国特許第5,599,900号明細書)が挙げられる。しかしながら、これらの装置はいずれも縦型の攪拌槽型装置であるため回転駆動部分があり、高真空下で重合を実施した場合、この駆動部分の完全なシールが出来ないため、微量の酸素の漏れ込みを防止できずポリマーの分解着色が避けられない。ポリトリメチレンテレフタレートでは特にこの問題が顕著である。酸素の漏れ込みを防ぐ為にシール液を使用する場合、シール液の混入が避けられず、やはり品質低下がおきる。また運転当初シール性が高い場合でも、長時間運転を続ける間にシール性が低下するなど、メンテナンス上の問題も深刻である。
一方、本体に回転駆動部分を有さず、多孔板の孔からプレポリマーを落下させながら重合する方法(自由落下重合法)が知られている。例えば、ポリエステルプレポリマーを真空中に糸状に落下させて、所望の分子量のポリエステルを製造する方法が開示されている(米国特許第3110547号明細書)。該技術では、糸状に落下させたポリマーを再び循環させるとポリエステルの品質を低下させるため、循環せずにワンパスで重合を完了する。しかしながら、この様な方法では重合時の糸状ポリマーが切断し易く、得られる重縮合物の品質変動が激しいうえ、重合時の糸状ポリマーから飛散する低分子量重合物が口金面を汚染し、糸状ポリマーを口金から真下に射出する事が困難となり、糸状ボリマー同士が接触し太く集束したり、切れたりして反応が阻害される問題が生じる。
これらの問題を解決するために、ポリエステルとポリアミドの製法として反応容器内に垂直に配置した多孔質物体や線状支持体に沿ってポリマーを落下させながら重合させる方法(日本国特公昭48−8355号公報及び日本国特開昭53−17569号公報)、PETの初期縮合物であるビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートの連続重縮合法として不活性ガス雰囲気中で該初期縮合物を口金より垂直に垂らした線状物に沿わせて落下させながら重合する方法(日本国特公平4−58806号公報)、またポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート等の薄膜重縮合ポリマーを製造する方法として、溶融重縮合プレポリマーに不活性ガスを吸収させ、該プレポリマーを減圧下で重合させる方法及び装置(国際公開第99/65970号公報)が開示されている。
しかしながら、これらの技術は、PETなどのポリエステルや、ナイロンに関するものであり、ポリトリメチレンテレフタレートについては全く提案されていないだけでなく、示唆さえもされていない。本発明者らの検討によると、上記の方法をそのままポリトリメチレンテレフタレートに応用しようとしても、ポリマーが激しく発泡して、ロ金面や支持体の設置してある反応容器壁面を汚染してしまう。ポリトリメチレンテレフタレートはPBTなどに比べて熱分解しやすいため、この汚染物は容易に分解して変性物となる。この変性物が製品に混入すると、得られる製品の品質が悪化したり、ポリトリメチレンテレフタレートの重合度が上がらなくなったり、着色する問題が発生する。このため上記の方法をそのまま応用しても重合度を十分に高めることは困難であり、繊維や成形品の機械物性や品質を悪化させる低分子量ポリマーが混入して、分子量分布が広がる問題もある。
近年、特定範囲の重合度を有するポリトリメチレンテレフタレートのプレポリマーを、溶融状態で、特定の温度範囲にて多孔板の孔から吐出させた後、支持体に沿わせて落下させながら、減圧下にて重合する方法が提案されている(日本国特願2002−172735)。ここに提案された方法を用いることで、はじめて高重合度で、色調などの品質にも優れたポリトリメチレンテレフタレートを製造することが可能となる。しかしながら、最近望まれるような高品質の繊維や成形品を製造するためには、さらにポリマーの色調や機械物性などの品質を改良することが望まれていた。また、従来技術は溶融重合であるために環状ダイマーの含有量が多く、改良が望まれていた。さらに従来技術の連続安定運転性に関して、重合時に揮発する環状ダイマーが重合設備の配管内に析出して閉塞を引き起こす問題を解決する方法を開発することが望まれていた。
発明の概要
このような状況下において、本発明者らは、従来技術の上記問題を解決し、優れた強度、色調を示すだけでなく、低環状ダイマー含有量であることによって、成形品表面への環状ダイマーの滲み出しが少なく、塗料、糊剤の塗布性や、接着性に優れた高品位の成形品を、工業的に安定して製造するために使用できるポリトリメチレンテレフタレート樹脂を開発すべく、鋭意検討を行なった。その結果、環状ダイマーを含有する粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の末端水酸基量を制御することや粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂製造の際に特定の触媒を用いることなどによってなどによって、該粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を溶融した際の環状ダイマーの生成速度を大幅に低減できることを見出した。また、このようにして得られた粗ポリトリメチレンテレフタレートを溶融状態にして、環状ダイマーを揮発させて除去して得られる極限粘度[η]が0.6〜4dl/g、分子量分布(Mw/Mn)が2〜2.7、環状ダイマーの含有率が2重量%以下、且つ明度指数L値が70〜100、クロマティックネス指数b*値が−5〜25であるポリトリメチレンテレフタレート樹脂を用いて成形品を製造すると、優れた強度、色調を示すだけでなく、成形品表面への環状ダイマーの滲み出しが無く、そのため塗料、糊剤の塗布性や、接着性に優れた成形品を工業的に安定して得ることが可能になることを見出した。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
従って、本発明の1つの目的は、優れた強度、色調を示すだけでなく、成形品表面への環状ダイマーの滲み出しが無く、そのため塗料、糊剤の塗布性や、接着性に優れた成形品を工業的に安定して得ることを可能にするポリトリメチレンテレフタレート樹脂を提供することである。
本発明の他の1つの目的は、上記の優れたポリトリメチレンテレフタレート樹脂を工業的に安定して高生産性で製造することを可能にする方法を提供することである。
本発明の上記及びその他の諸目的、諸特徴ならびに諸利益は、添付の図面を参照しながらおこなう以下の詳細な説明及び請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の方法に用いることができる重合器の一例を示す概略図であり;
図2は、本発明の方法に用いることができるシステムの一例を示す概略図であり;そして
図3は、本発明の方法に用いることができる薄膜蒸発器の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
A.粗トリメチレンテレフタレート樹脂
B.ポリトリメチレンテレフタレート樹脂
C.原料混合物(モノマー、触媒、添加剤等を含む)
1.重合器
2,14,18,22,24.移送ポンプ
3,25.粗トリメチレンテレフタレート樹脂供給口
4.多孔板
5.ガイド
5’.ガイドに沿って落下するポリマー
6,32.不活性ガス供給口
7,13,17,21,33.ベント口
8.観察窓
9.排出ポンプ
10,29.排出口
11.エステル交換反応器
12,16,20.攪拌翼
15.第一攪拌槽型重合器
19.第二攪拌槽型重合器
23.薄膜蒸発器
26.回転軸
27.回転軸に螺旋状に取り付けられたへら
28.溶融樹脂の薄膜
30.排出フィーダー
31.モーター
発明の詳細な説明
本発明の基本的な態様によれば、
トリメチレンテレフタレート繰返単位(a)60〜100モル%、及び
該トリメチレンテレフタレート繰返し単位を得るのに用いた単量体以外であり且つ該トリメチレンテレフタレート繰返し単位を得るのに用いた単量体の少なくとも1つと共重合可能である単量体に由来する少なくとも1種の単量体単位(b)0〜40モル%
からなり、
該繰返単位(a)と単量体単位(b)との合計モル量が100モル%であって、
下記(A)〜(D)の特性を有するポリトリメチレンテレフタレート樹脂が提供される。
(A)極限粘度[η]が0.6〜4dl/gであり;
(B)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnで表される分子量分布が2〜2.7であり;
(C)下記式(1):

で表される環状ダイマーの含有率が、2重量%以下であり;
(D)明度指数L値が70〜100、クロマティックネス指数b*値が−5〜25である。
次に、本発明の理解を容易にするために、まず本発明の基本的特徴及び好ましい諸態様を列挙する。
1.トリメチレンテレフタレート繰返単位(a)60〜100モル%、及び
該トリメチレンテレフタレート繰返し単位を得るのに用いた単量体以外であり且つ該トリメチレンテレフタレート繰返し単位を得るのに用いた単量体の少なくとも1つと共重合可能である単量体に由来する少なくとも1種の単量体単位(b)0〜40モル%
からなり、
該繰返単位(a)と単量体単位(b)との合計モル量が100モル%であって、
下記(A)〜(D)の特性を有するポリトリメチレンテレフタレート樹脂。
(A)極限粘度[η]が0.6〜4dl/gであり;
(B)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnで表される分子量分布が2〜2.7であり;
(C)下記式(1):

で表される環状ダイマーの含有率が、2重量%以下であり;
(D)明度指数L値が70〜100、クロマティックネス指数b*値が−5〜25である。
2.下記式(2)で表される結晶化度Xcが40%以下のペレットであることを特徴とする、前項1に記載のポリトリメチレンテレフタレート樹脂。
Xc(%)={ρ×(ρ−ρ)}/{ρ×(ρ−ρ)}
×100 (2)
(式中、ρは、トリメチレンテレフタレートホモポリマーの非晶密度1.300g/cmであり、ρは、トリメチレンテレフタレートホモポリマーの結晶密度1.431g/cmであり、ρは該ペレットの密度(g/cm)を表す。)
3.以下の工程(1)及び(2)を包含することを特徴とする、前項1又は2に記載のポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
(1)溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂を提供する工程であって、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂は、
トリメチレンテレフタレート繰返単位(a)60〜100モル%、及び
該トリメチレンテレフタレート繰返単位を得るのに用いた単量体以外であり且つ該トリメチレンテレフタレート繰返し単位を得るのに用いた単量体の少なくとも1つと共重合可能である単量体に由来する少なくとも1種の単量体単位(b)0〜40モル%、
からなり、
該繰返単位(a)と単量体単位(b)との合計モル量が100モル%であって、
下記式(1):

で表される環状ダイマーを更に含み、
極限粘度[η]が0.2〜4dl/gであって、かつ下記式(3)で表される環状ダイマー生成指数(E)が0.066未満である。
E=W/M (3)
(式中、Mは、該トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%として表される、該粗ポリトリメチレンテレフタレートの末端水酸基量を表し、Wは、環状ダイマーの含有率を0.1重量%以下に低減した溶融状態の粗ポリトリメチレンテレフタレートを、窒素雰囲気下、260℃で溶融状態に保持した際に再生される環状ダイマーの重量%/分として表される、環状ダイマーの再生成速度を表す。)
(2)減圧下にて、該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂から、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の重量に対して0.5重量%以上の該環状ダイマーを揮発させて除去する工程。
4.該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の環状ダイマー生成指数(E)が0.033未満である、前項3に記載の方法。
5.工程(1)で提供される該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂の極限粘度[η]が0.2〜2dl/gであって、工程(2)における該環状ダイマーの除去を、該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂を、多孔板と該多孔板に関連して設けられた少なくとも1つのガイドを有するガイド接触落下重合反応器に連続的に供給し、減圧下、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の結晶融点以上、290℃以下の温度にて、該少なくとも1つのガイドに沿って落下せしめ、その落下中に該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の重合を行なうと同時に該環状ダイマーを揮発させ、得られたトリメチレンテレフタレート樹脂を連続的に抜き出すことを含む方法によって行うことを特徴とする、前項3又は4に記載の方法。
6.工程(1)で提供される該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂の極限粘度が0.6〜4dl/gであって、工程(2)において、下記(a)〜(d)の条件下で、へらまたはスクリューが設置された薄膜蒸発器を用いて該環状ダイマーを除去することを特徴とする、前項3又は4に記載の方法。
(a)該薄膜蒸発器の内部圧力が2.6kPa以下の減圧であり、
(b)該へらまたはスクリューによって該薄膜蒸発器の内壁に溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂の薄膜を形成するとともに、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の表面更新を行い、
(c)該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂薄膜の、溶融状態のトリメチレンテレフタレート樹脂の該薄膜が薄膜蒸発器内の気相と接する面積を、該薄膜蒸発器内に存在する粗トリメチレンテレフタレート樹脂の重量で除して得られる、樹脂−気相接触面積が1cm/g以上であり、
(d)該薄膜蒸発器中における該粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の量が、該薄膜蒸発器の内容積に対して40体積%以下である。
7.該粗トリメチレンテレフタレート樹脂が、少なくとも1種のチタン系化合物と、リン酸、リン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸エステル及び下記式(4)で表されるリン化合物から選ばれる少なくとも1種のリン化合物とを含む触媒の存在下で重縮合反応を行なうことによって製造され、
該少なくとも1種のチタン系化合物と該少なくとも1種のリン化合物を、リン/チタン原子比が0.01〜10の範囲となる量で用いることを特徴とする、前項3〜6のいずれかに記載の方法。

(式中、mは1又は2であり、かつ

を表し、nは0〜3の整数である。)
8.該粗トリメチレンテレフタレート樹脂が、少なくとも1種の、炭素−錫結合を有さない錫化合物を含む触媒の存在下で重縮合反応を行なうことにより製造されることを特徴とする、前項3〜7記載のいずれかに記載の方法。
本発明のポリトリメチレンテレフタレート樹脂は、トリメチレンテレフタレート繰り返し単位60〜100モル%、及び該トリメチレンテレフタレート繰り返し単位を得るのに用いた単量体以外であり且つ該トリメチレンテレフタレート繰り返し単位を得るのに用いた単量体の少なくとも1つと共重合可能である単量体(コモノマー)に由来する少なくとも1種の単量体単位(コモノマー単位)0〜40モル%からなる。
該トリメチレンテレフタレート繰り返し単位は、テレフタル酸成分とトリメチレングリコール成分との反応により形成される。テレフタル酸成分としてはテレフタル酸や、ジメチルテレフタル酸などのテレフタル酸のジエステル類等を用いることができる。また、トリメチレングリコール成分としては、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,1−プロパンジオール、2,2−プロパンジオールジオール、又はこれらの混合物を用いることができるが、安定性の観点から1,3−プロパンジオールが特に好ましい。
上記のコモノマーの例としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、4−ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸トリブチルメチルホスホニウム塩、3,6−ジカルボン酸ナフタレン−4−スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,6−ジカルボン酸ナフタレン−4−スルホン離テトラメチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタメチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール,ヘプタメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、シユウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、セバシン酸、ドデカンニ酸、2−メチルグルタル酸、2−メチルアジピン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサシジカルボン酸、オキシ酢酸、オキシ安息香酸等のエステル形成性モノマー、更には分子量が200〜100000のポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオールなども挙げられる。また、重合過程で生成する共重合成分、例えば、1,3−プロパンジオールのダイマー(ビス(3−ヒドロキシプロピル)エーテル)が共重合されていてもよい。ビス(3−ヒドロキシプロピル)エーテルは、重合過程で1,3−プロパンジオールやポリマー分子末端の3−ヒドロキシプロピル基が更に1,3−プロパンジオールと反応して生成し、そのままポリトリメチレンテレフタレートに共重合される。その共重合比率としては、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量に対して、0.01〜5重量%、好ましくは0.04〜2重量%である。
また、本発明のポリトリメチレンテレフタレート樹脂は、ポリトリメチレンテレフタレート以外に環状や線状のオリゴマーや、ジメチルテレフタレート(以下、「DMT」と称す)、テレフタル酸(以下、「TPA」と称す)、トリメチレングリコール(以下、「TMG」と称す)などのモノマーや、艶消し剤、熱安定剤、難燃剤などの各種添加剤を含有していてもよい。これらの量は、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量に対して、0.001〜5重量%、好ましくは0.005〜2.5重量%である。
本発明が目的とする、優れた強度や色調の繊維や成形品を得るためには、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重合度を高めるとともに、重合度の分布を小さくし、且つポリトリメチレンテレフタレート樹脂の白度を高めるとともに、高温で加熱した際に着色しにくくする必要がある。
重合度は極限粘度[η]を指標として用いることができ、高強度とするには0.6dl/g以上であることが必要である。一方、成形性や溶融樹脂のギヤポンプ等での計量性を高めるためには、粘度が高すぎないほうが良く、このため極限粘度[η]は4dl/g以下であることが必要である。極限粘度[η]はより好ましくは0.7〜3dl/gの範囲であり、さらに好ましくは0.8〜2.5dl/gの範囲であり、特に好ましくは1.0〜2.0dl/gの範囲である。
繊維や成形品の強度を高めるためには、平均重合度だけではなく、低重合度のポリマーの混入が少ないこと、すなわち重合度分布が小さいことが必要である。本発明において、重合度分布の指標としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求めた重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)を用い、このMw/Mnの値が2.7以下であることが必要である。Mw/Mnは好ましくは2.6以下であり、より好ましくは2.5以下であり、特に好ましくは2.4以下である。重合度分布の下限は、縮合系ポリマーの場合、一般的に2である。
成形性に優れるとともに、塗料、糊剤の塗布性や接着性、並びに機械物性や色調にも優れた成形品を製造するためには、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂に含まれる環状ダイマーの含有率が2重量%以下であることが必要である。環状ダイマーの含有率は、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒に溶解し、高分解能FT−NMRにより定量した環状ダイマー重量の、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂重量に対する百分率で示される。成形品の、上記の品質を向上させるには、環状ダイマーの含有率が低いほど望ましく、より好ましくは1.7重量%以下であり、さらに好ましくは1.5重量%以下であり、特に好ましくは1.0重量%以下であり、最も好ましくは0.8重量%以下である。
ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の色調は、得られる成形品の黒ずみを抑えて、染料や顔料を用いて着色する際に所望の色に発色させることを容易にするために、明度指数L値が70以上、且つクロマティックネス指数b*値が−5以上であることが必要である。一方、成形品の黄色味を抑えるためにはb*値が25以下であることが必要である。L値の上限は特に存在しないが、通常100である。L値はより好ましくは75以上であり、さらに好ましくは80以上である。また、b*値はより好ましくは−3〜15の範囲であり、さらに好ましくは−2〜10の範囲である。
また、本発明者らの検討によると、成形品の白度を高めるためには、成形に用いるポリトリメチレンテレフタレート樹脂の白度が優れているだけではなく、高温での乾燥や溶融成形のようにポリトリメチレンテレフタレート樹脂を加熱した際に着色しにくいことも重要であることが分かった。原因は定かではないが、着色は、加熱時のポリマー自体の分解だけではなく、あらかじめボリトリメチレンテレフタレート樹脂に含まれる、なんらかの着色起因物質あるいは官能基によって引き起こされているためと考えられる。この着色起因物質又は官能基は熱分解により生成すると考えられるが、特に後述するガイド接触落下重合プロセスを用いると、酸素の漏れ込みが少ないために、着色起因物質又は官能基が生成しにくく、且つ、ガイド接触落下重合プロセスは重合中の樹脂の表面積が通常の重合器を用いたプロセスと比べてはるかに大きく、しかも効率良く溶融樹脂の表面が更新されるので、着色起因物質又は官能基が多少発生しても重合時に系外に容易に抜き出されるため、加熱した際に着色しにくいポリトリメチレンテレフタレート樹脂が得られると考えられる。
加熱した際の着色しやすさの指標としては、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を空気雰囲気下、180℃にて24時間加熱した後の色調を用いることができ、この時の明度指数L値(L2)が70以上、クロマティックネス指数b*値(b*2)が−5〜25であることが好ましい。(L2)値はより好ましくは75以上であり、さらに好ましくは80以上である。また、(b*2)値はより好ましくは−4〜21の範囲であり、さらに好ましくは−3〜18の範囲であり、とくに好ましくは−2〜16の範囲である。
ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の用途として、フィルムやシートなどの押出し成形品があるが、これらを製造する場合には、更に高分子量、狭い分子量分布、低環状ダイマー含有率の全てを同時に満足することが望まれる。このためポリトリメチレンテレフタレート樹脂としては、極限粘度[η]、Mw/Mn、環状ダイマー含有率が、好ましくはそれぞれ1.25〜2.5dl/g、2.5以下、1.8重量%以下であり、より好ましくはそれぞれ1.28〜2.2dl/g、2.4以下、1.7重量%以下であり、特に好ましくはそれぞれ1.30〜2.0dl/g、2.35以下、1.5重量%以下であることを同時に満足することが望ましい。特に後述するガイド接触落下重合プロセスでは、重合速度が速く、且つ溶融樹脂の表面積が大きいため、従来の溶融重合法では達成できないレベルまで重合度を高めることができ、それと同時に環状ダイマーの含有率を減らすこともできる。また、他の溶融重合法と異なり、高いピストンフロー性(樹脂の部分による流速のばらつきがなく、樹脂の流れが均一であること)を保ちながら重合度を高めることができるために、低重合度のポリマーと高重合度のポリマーが混合されることなく、狭い分子量分布を達成することが可能である。これに対し固相重合法では、高重合度を達成することは出来るものの、固体で重合するために重合度のペレット内外差や、ペレットの大きさや形状の違いによる差が生じてしまい、狭い分子量分布を達成することは非常に困難である。後述する本発明の製造方法を用いることで初めて、前記したような押出し成形品を製造するのに適したポリトリメチレンテレフタレート樹脂を工業的に安定して製造することが可能になる。
本発明のポリトリメチレンテレフタレート樹脂を、製造後溶融状態のままで移送し直接紡糸や成形に用いることもできるし、一旦、ペレットとした後、再溶融して紡糸や成形に用いることもできる。
ペレットにする場合は、ロスが少なく、且つ、押出機や成形機で均一に押し出せることが望まれる。このためには適切な大きさのペレットとするとともに、ペレット表面に付着している粉状ポリマーが少ないことが好ましい。好ましいペレットの平均重量は1〜1000mg/個の範囲である。この平均重量とすることで、均一に押出し易くなるとともに、ペレットの輸送、乾燥、紡糸や成形時の取扱い性が良好になったり、乾燥速度が早くなる。平均重量はより好ましくは5〜500mg/個の範囲であり、さらに好ましくは10〜200mg/個の範囲である。ペレットの形状は、球形、直方体、円筒、円錐のいずれでも良い。ペレットのサイズに関しては、取扱い性を考えた場合、最長部の長さを15mm以下とすることが好ましく、10mm以下とすることがより好ましく、5mm以下とすることが更に好ましい。
ペレット表面に付着した粉状ポリマーに関しては、30メッシュのフイルターを通過し且つ300メッシュのフィルターを通過しない粉状ポリマーが、ペレットの重量に対して0〜0.5重量%の範囲であることが好ましい。粉状ポリマーを0.5重量%以下とすることで、ロスが少なくなるだけでなく、ペレットを気体で搬送する、いわゆるニューマーラインや乾燥機に設置してある排風機のフィルターが詰まり難くなったり、紡糸や成形、コンパウンド化の際に押出機の圧力変動が小さくなって均一な製品が得られやすくなる。粉状ポリマーは少ないほど良いが、実用上は0〜0.2重量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0〜0.1重量%の範囲であり、特に好ましくは0〜0.05重量%の範囲である。
更に、ペレットの結晶化度Xcは0〜40%であることが好ましい。
ここで絡晶化度Xcは、以下の式で定義される。
Xc(%)={ρ×(ρ−ρ)}/{ρ×(ρ−ρ)}×100
(式中、ρは、トリメチレンテレフタレートホモポリマーの非晶密度1.300g/cmであり、ρは、トリメチレンテレフタレートホモポリマーの結晶密度=1.431g/cmであり、ρは該ペレットの密度(g/cm)を表す。)
なお、上記トリメチレンテレフタレートホモポリマーの結晶密度(1.431g/cm)は、トリメチレンテレフタレートホモポリマーの結晶格子数より計算した理論値であり、「ポリトリメチレンテレフタレートの結晶弾性率」(著者:中前勝彦、「材料」、第35巻、第396号、1067頁、2000年)に掲載されている。また、トリメチレンテレフタレートホモポリマーの非晶密度(1.300g/cm)は、溶融トリメチレンテレフタレートホモポリマーを急冷して得た非晶ポリマーの密度を実測して得られたものである(この測定に用いたサンプルは、X線回折により、結晶に由来するピークが観察されないことにより、非晶であることを確認した)。
このような結晶化度にすることで、ペレットが脆くなくなり、他のPETやPBT(ポリブチレンテレフタレート)などでは起こりにくい、ニューマチックコンベア(pneumatic conveyer)やフィーダーで移送する際に粉末状ポリマーが多量発生するというPTT特有の問題を抑えることができる。結晶化度はより好ましくは0〜35%の範囲であり、さらに好ましくは0〜30%の範囲である。
なお、ここで結晶化度は一粒のペレット中の平均値であるが、好ましくはペレットを切断して表層と中心部に分けた場合(表層と中心部のそれぞれに関して3箇所以上で結晶化度を測定する)、全ての部分において上記結晶化度の範囲となることが好ましい。また、表層と中心部の結晶化度の差は40%以下が好ましく、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは20%以下である。
このような結晶化度のペレットを得るためには、溶融状態のポリトリメチレンテレフタレート樹脂をストランド状、あるいはシート状に押出し、水等の冷媒中に速やかに入れて冷却した後、カットすることか好ましい。冷媒の温度は20℃以下が好ましく、より好ましくは15℃以下であり、さらに好ましくは10℃以下である。冷媒としては経済性、取扱い性を考えると水が好ましく、このため冷媒温度は0℃以上が好ましい。ペレット状とするためのカットは、ポリマーを押出してから120秒移以内に、55℃以下に冷却固化した後行うことが好ましい。
次に本発明のポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造する方法について説明する。
上記したように、ポリトリメチレンテレフタレートと環状ダイマーとの間には環鎖平衡が存在する。そのため、従来の溶融重合法でポリトリメチレンテレフタレートを製造すると、重合工程中に揮発した量に相当する環状ダイマーが再び生成し損失となるので、低環状ダイマー含有量のポリトリメチレンテレフタレートを製造することが不可能なうえ、収量にロスが生じる問題があった。また、上記したように、本発明者らの検討によれば、固相重合によって環状ダイマーの含有率を1重量%未満に低減したポリトリメチレンテレフタレートであっても、溶融成形の目的で溶融すると、環状ダイマーが急速に生成し、成形中に環鎖平衡値の約2.5〜3.5重量%まで、すなわち固相重合実施前の値まで戻ってしまうことが明らかになった。
このような状況下で、本発明者らは環状ダイマーの特性及びその生成機構について詳細に解析した結果、環状ダイマーは主にポリトリメチレンテレフタレートの末端水酸基を起点とするバックバイティング(back−biting)反応により生成し、その生成速度は末端水酸基量や重合触媒種等と関係があることを見出した。尚、ここでバックバイティング反応とは、下記式で表される分子内反応である。

(式中、3つの酸素(O)を区別するために、O、O及びOとして示した。)
即ち、ここでバックバイティング反応とは、ポリマー末端の水酸基が同一分子内のエステル基と反応して、「環状ダイマーの生成」と「末端水酸基の再生」とが起こる反応である。上記式から明らかなように、バックバイティング反応では反応の起点が水酸基であり、反応速度は水酸基濃度に比例する。
上記した環鎖平衡のために、例えば、従来技術で製造したポリトリメチレンテレフタレートを260℃で溶融保持した場合、ポリトリメチレンテレフタレートの環状ダイマー含有量は約2.6重量%と一定の値を示す。また、例えば、固相重合により製造した、環状ダイマー含有率が約1.0重量%のポリトリメチレンテレフタレートであっても260℃で溶融保持すると数分から数十分の間に環状ダイマー含有量が約2.6重量%まで増加し、その後約2.6重量%のまま維持される。
本発明者らは、環状ダイマーの生成速度は、バックバイティング反応の起点である末端水酸基量が多いと(例えば低重合度ポリトリメチレンテレフタレート)大きな値を有するが、末端水酸基量が少ないと(例えば高重合度ポリトリメチレンテレフタレートや末端水酸基が封鎖されたポリトリメチレンテレフタレート)小さな値となることを見出した。
また本発明者らは、環状ダイマーの生成速度はポリトリメチレンテレフタレートのその他の要因、例えばポリトリメチレンテレフタレートの重縮合触媒種などによっても大きく影響を受け、特定の触媒の使用や、ポリマーの高純度化等の方法によって環状ダイマーの生成速度を大幅に抑制出来ることを見出した。
さらに本発明者らは環状ダイマーを単離精製してその高温、減圧下での蒸気圧を評価することなどによって効率良く環状ダイマーを揮発させて除去する技術の検討を行った。
その結果、従来、環状ダイマーの低減に関しては、環鎖平衡の面で固相重合法よりも不利であって、実現不可能と考えられていた溶融重合法であっても、環状ダイマー含有率が低く、且つ溶融成形時の環状ダイマーの再生成速度が少ないことから、塗料、糊剤の塗布性や接着性に優れた高品位の成形品を製造するのに使用できるポリトリメチレンテレフタレート樹脂を、工業的に安定して高生産性で製造する方法を見出した。
即ち、本発明の他の1つの態様によれば、以下の工程(1)及び(2)を包含する、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造方法が提供される。
(1)溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂を提供する工程であって、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂は、
トリメチレンテレフタレート繰返単位(a)60〜100モル%、及び
該トリメチレンテレフタレート繰返単位を得るのに用いた単量体以外であり且つ該トリメチレンテレフタレート繰返し単位を得るのに用いた単量体の少なくとも1つと共重合可能である単量体に由来する少なくとも1種の単量体単位(b)0〜40モル%、
からなり、
該繰返単位(a)と単量体単位(b)との合計モル量が100モル%であって、
下記式(1):

で表される環状ダイマーを更に含み、
極限粘度[η]が0.2〜4dl/gであって、かつ下記式(3)で表される環状ダイマー生成指数(E)が0.066未満である。
E=W/M (3)
(式中、Mは、該トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%として表される、該粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の末端水酸基量を表し、Wは、環状ダイマーの含有率を0.1重量%以下に低減した溶融状態の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を、窒素雰囲気下、260℃で溶融状態に保持した際に再生される環状ダイマーの重量%/分として表される、環状ダイマーの再生成速度を表す。)
(2)減圧下にて、該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂から、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の重量に対して0.5重量%以上の該環状ダイマーを揮発させて除去する工程。
上記粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の末端水酸基量Mとは、粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒に溶解し、高分解能FT−NMRにより定量した、ポリマーの末端水酸基モル数の、トリメチレンテレフタレート繰返単位の合計モル量に対する百分率で示される値である。
また、上記環状ダイマーの再生成速度Wは、環状ダイマーが生成する速度の指標となる値であり、粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂に含まれる環状ダイマー量を、ソックスレー抽出等の手段で0.1重量%以下に低減し、例えばガラスアンプル中に仕込み、窒素雰囲気に置換した後、260℃にて所定時間溶融保持して、これによって増加した環状ダイマーの量(測定に用いた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂試料の重量に対する重量%)を溶融保持した時間(分)で除して求める。溶融保持時間は、環状ダイマーが再生成する速度に応じて、溶融保持した後の環状ダイマーの含有率が2重量%を越えない範囲で選択する。これは環状ダイマー含有率が2重量%以下の場合、環状ダイマーの再生成量は溶融保持時間に比例して増加するのに対し、環状ダイマー含有率が2重量%を越えると環状ダイマーの再生成速度が次第に低下するためである。
また、粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の環状ダイマーの含有率は、通常、0.5〜3.6重量%、好ましくは1.0〜2.8重量%、特に好ましくは2.3〜2.7重量%である。
本発明者らが検討した結果、前記したように、環状ダイマーはポリトリメチレンテレフタレートの末端水酸基を起点とするバックバイティング反応により生成し、ポリトリメチレンテレフタレートの末端水酸基量Mに応じて、Mの値が大きいほど環状ダイマーの再生成速度Wの値は大きく、MとWとは、ほぼ比例関係にあることを見出した。
また本発明者らは、環状ダイマーの再生成速度Wは、ポリトリメチレンテレフタレート固有のその他の要因、例えば使用した重合触媒が副反応のバックバイティング反応に示す触媒作用の度合いによっても大きく影響を受け、重合触媒種を最適化することや、ポリマーを高純度化する等の方法によって、環状ダイマーの再生成速度を大幅に抑制出来ることを見出した。
本発明において環状ダイマー生成指数(E)(=W/M)として規定した値は、末端水酸基量以外の、粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂合成時に用いた重合触媒種や粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の純度などのポリマー固有の特性に起因する環状ダイマーの再生成速度を、一定の末端水酸基量に換算することによって比較評価するための値であり、本発明者らは重縮合触媒の改良技術やポリマー純度の改良などの方法によって、環状ダイマー生成指数(E)(=W/M)が0.066未満なる条件を満足するように製造した粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を、溶融状態にして減圧下にて、該粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量に対して0.5重量%以上の環状ダイマーを揮発除去する方法によって、(1)溶融重合による製造方法でありながら環状ダイマー含有率を低減出来ること、(2)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造工程での環状ダイマーの揮発量が減少するため、揮発した環状ダイマーが製造設備の配管内に析出し閉塞させる問題を改良出来ること、(3)この方法で製造した環状ダイマー含有率の少ないポリトリメチレンテレフタレート樹脂は、溶融成形の目的で溶融する場合にも環状ダイマーの再生成速度が遅いので、環状ダイマー含有率が環鎖平衡値(約2.5〜3.5重量%)まで戻り難く、その結果固相重合によって一時的に環状ダイマー含有率を低減したポリトリメチレンテレフタレートよりも、実質的に成形性に優れるとともに、成形体の塗料、糊剤の塗布性や接着性にも優れたポリトリメチレンテレフタレート樹脂を提供することが可能であること、を見出した。
環状ダイマー生成指数(E)を本発明で規定した値にする方法には特に制限はないが、下記の方法(i)〜(iii)が挙げられる。
(i)ポリマーの高純度化:例えば、高純度のテレフタル酸とトリメチレングリコールから、触媒を添加せずにビス−ヒドロキシプロピルテレフタレート(BHPT)等の低分子量グリコールエステルを合成し、さらに重縮合触媒を添加せずに高真空下、230〜270℃で、2〜30時間反応を行なうことにより環状ダイマー生成指数(E)が本発明の範囲内の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を得る方法。
(ii)特定の重合触媒の使用:後述するように、特定の重合触媒を用いることにより環状ダイマー生成指数(E)が本発明の範囲内の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を得る方法。
(iii)重合触媒の失活:高重合度の粗ポリトリメチレンテレフタレートを製造した後、重合触媒残渣を失活させる失活剤(後述する)を配合することにより環状ダイマー生成指数(E)が本発明の範囲内の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を得る方法。
これらの方法を組み合わせて使用することも可能である。また、例えば安息香酸等の単官能基のコモノマーとの共重合や、酸無水物等との反応によって末端水酸基量を低減することで環状ダイマーの生成速度を低減する方法と、上記の環状ダイマー生成指数(E)を改良する方法とを組み合わせることで環状ダイマーの生成を抑制する方法も可能である。
環状ダイマー生成指数(E)の値は、環状ダイマーの含有率を充分低減するためには0.066未満であることが必要であり、0.050以下であることが好ましく、環状ダイマー揮発除去設備の負荷を軽減する目的からさらに好ましくは0.033以下であり、本発明により製造されるポリトリメチレンテレフタレート樹脂のポリマーリサイクルまで可能にする目的から特に好ましくは0.016以下であり、最も好ましくは0.010以下である。
本発明の方法において用いる粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の極限粘度[η]は0.2〜4dl/gの範囲である。後述する環状ダイマーを揮発させて除去する設備で充分な効果をあげるためには、極限粘度[η]が0.2dl/g以上であることが必要である。逆に、極限粘度[η]が高すぎると、成形性や溶融樹脂移送時のギヤポンプなどでの計量性が低下するため極限粘度[η]は4dl/g以下であることが必要である。好ましい極限粘度[η]の範囲は、後述の環状ダイマーを揮発させて除去する設備にも応じて選択されるが、好ましくは0.3〜3.5dl/gの範囲であり、より好ましくは0.4〜3dl/gの範囲であり、最も好ましくは0.6〜2dl/gの範囲である。
本発明の方法の好ましい一つの態様として、上記工程(1)で提供される該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂の極限粘度[η]が0.2〜2dl/gであって(ここで粗トリメチレンテレフタレート樹脂はプレポリマーとして用いる)、上記工程(2)における該環状ダイマーの除去を、該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂を、多孔板と該多孔板に関連して設けられた少なくとも1つのガイドを有するガイド接触落下重合反応器に連続的に供給し、減圧下、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の結晶融点以上、290℃以下の温度にて、該少なくとも1つのガイドに沿って落下せしめ、その落下中に該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の重合を行なうと同時に該環状ダイマーを揮発させ、得られたトリメチレンテレフタレート樹脂を連続的に抜き出すことを含む方法(ガイド接触落下重合プロセス)によって行う方法[方法(I)]が挙げられる。
また、本発明の方法の好ましい他の一つの態様として、上記工程(1)で提供される該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂の極限粘度が0.6〜4dl/gであって、上記工程(2)において、下記(a)〜(d)の条件下で、へらまたはスクリューが設置された薄膜蒸発器を用いて該環状ダイマーを除去する方法[方法(II)]が挙げられる。
(a)該薄膜蒸発器の内部圧力が2.6kPa以下の減圧であり、
(b)該へらまたはスクリューによって該薄膜蒸発器の内壁に溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂の薄膜を形成するとともに、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の表面更新を行い、
(c)該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂薄膜の、溶融状態のトリメチレンテレフタレート樹脂の該薄膜が薄膜蒸発器内の気相と接する面積を、該薄膜蒸発器内に存在する粗トリメチレンテレフタレート樹脂の重量で除して得られる、樹脂−気相接触面積が1cm/g以上であり、
(d)該薄膜蒸発器中における該粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の量が、該薄膜蒸発器の内容積に対して40体積%以下である。
本発明のポリトリメチレンテレフタレート樹脂は、上記(I)又は(II)の方法単独で製造することも出来るし、(I)又は(II)の方法を複数の環状ダイマー除去設備(即ち、上記のガイド接触落下重合反応器又は薄膜蒸発器)を連結することで複数回繰り返し実行して製造することも出来るし、(I)又は(II)の方法を環状ダイマー除去設備を複数回循環させることで複数回繰り返し実行して製造することも出来るし、(I)と(II)の方法を任意の順番で組み合わせて製造することも、複数回の(I)と(II)の方法を任意の順番で組み合わせて製造することも、(I)又は(II)の上記の方法と例えば固相重合技術や、撹拌槽型溶融重合器、横型攪拌溶融重合器等の従来公知のポリエステルの製造方法、及びベント付き押出機やフラッシュタンク等の従来公知の減圧脱揮装置とを組み合わせて製造することも可能である。
環状ダイマーを除去する量としては0.5重量%以上であることが必要であり、好ましくは1重量%以上であり、さらに好ましくは1.5重量%以上であり、特に好ましくは2重量%以上である。
環状ダイマー生成指数(E)の値が0.066未満となるように改良された粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂であれば、環状ダイマーの生成速度が上記の(I)及び(II)の方法による環状ダイマーの除去速度を下回るために、樹脂の溶融を伴う製造方法でありながら環状ダイマー含有率の低減が可能であるし、製品の環状ダイマー含有率を目的の値まで低減するために除去せねばならない環状ダイマーの量も、より少なくて済むために重合収率の低下を軽減できる。
製品の環状ダイマー含有率を目的の値まで低減するために除去された環状ダイマーは、回収してポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重合原料または、その一部として再利用することが可能である。
以下、上記方法(I)におけるガイド接触落下重合プロセス及び方法(II)における薄膜蒸発器を用いる該環状ダイマーの除去方法について、それぞれ詳細に説明する。
(I)ガイド接触落下重合プロセス
前記したように、本体に回転駆動部分を有しないタイプの重合器は、ポリトリメチレンテレフタレート以外の樹脂を重合するための重合器としては提案があるものの、ポリトリメチレンテレフタレートの溶融重合反応は、PETやPBT等のポリエステルやポリアミドの溶融重縮合反応とは大きく異なるので、既に提案されているこれらの重合器をそのままポリトリメチレンテレフタレートの製造法に適用することは出来なかった。ポリアミドや、PET、PBT等のポリエステルと、ポリトリメチレンテレフタレートの大きな相違は次の通りである。
第一に、ポリアミド、ポリエステルの溶離重縮合はいずれも平衡反応であるが、平衡定数がそれぞれ大きく異なっている。通常、ポリアミドの平衡定数が10オーダーであるのに対して、ポリエステルの平衡定数は約1であり、同じ重縮合反応であってもポリエステルの場合平衡定数は極めて小さい。平衡定数が大きいということは、副生成分を系外により効率的に抜かなくても重合が進行することを意味し、このためポリアミドでは容易に高重合度化出来た。また、PETやPBTでは平衡定数は小さいものの、副生成物を容易に系外に抜き出せることから、やはり容易に高重合度化出来た。PETの場合は熱安定性が良好なため副生成物であるエチレングリコールの沸点(198℃)より、はるかに高温(通常280〜300℃)で重合することが可能である。この重合温度ではエチレングリコールの蒸気圧は充分高く、容易に系外に抜き出せるためである。また、PBTでは明らかな理由は判らないが、副生成物の1,4−ブタンジオールを容易に系外に抜き出せる。考えられる理由の一つとしては、高沸点の1,4−ブタンジオールは、脱水反応によりテトラヒドロフランに変性したり、熱分解によりブタジエン等に変性したり、より低沸点の物質に変性して系外に抜き出されていることが考えられる。
これに対して、ポリトリメチレンテレフタレートは他のポリエステル同様に平衡定数が小さく、副生成物を系外に効率良く抜き出すことが必要であるが、副生成物であるトリメチレングリコールは沸点が214℃と高いにもかかわらず、ポリトリメチレンテレフタレートは熱分解しやすく低温で重合する必要があるため、トリメチレングリコール(TMG)を抜き出すことは困難である。重合が進みポリトリメチレンテレフタレートが高重合度になると、高粘性になりTMGを抜き出すことは一層困難になる。このような状態では熱分解の影響が顕著となるために、ポリアミドやPETなど他のポリエステルでは有効であった糸状落下重合プロセスや、線状物等のガイドに沿わせる落下重合プロセスで重合しても重合度が上がり難く、ついには重合度低下し始める。トリメチレングリコールの抜き出しを促進するために、より高温で重合すると、ポリトリメチレンテレフタレートの熱分解も促進され、却って高重合度化は困難であった。さらにポリトリメチレンテレフタレートの熱分解物によって反応器の内壁が汚染されやすく、製品の色調などの品質も良好なものが得られなかった。
ところが、本発明者らの検討の結果、特定の極限粘度範囲のプレポリマーを、溶融状態で、特定の温度範囲にて減圧下で、ガイド接触落下重合プロセスによって重合させることにより、上記の従来技術における問題点を全く生じさせずに高品位のポリトリメチレンテレフタレート樹脂を工業的に安定して製造できること、また、重合と同時に環状ダイマーを効率よく揮発させて除去出来ることも見出した。
ガイド接触落下重合プロセスに関しては例えば、米国特許第5,589,564号、米国特許第5,840,826号、米国特許第6,265,526号、及び米国特許第6,320,015号等を参照することができる。
まず本発明のガイド接触落下重合プロセスの特徴について説明する。
第一に、溶融重合のみで高重合度のポリトリメチレンテレフタレート樹脂を得るためには、熱分解の抑制と副生成物であるトリメチレングリコールの効率的な抜き出しを両立させる必要がある。本発明の方法においては、プレポリマーを特定の温度範囲にて、ガイドを沿わせて落下させることで表面積を大きくし、減圧下で重合することによりこの問題を解決している。本発明はプレポリマーをガイドに沿わせて落下させることで、糸条の切断が多発する糸状落下重合プロセスとは異なり、品質のばらつきを少くする効果もある。
第二に、酸素やシール液の混入による製品の着色を防止するため、重合器の回転駆動部を無くす必要がある。ガイド接触落下重合プロセスは、重合器に回転駆動部を持たず、高真空下でのシール性に優れ漏れ込み酸素による着色が非常に少ない。回転駆動部がないためシール液の混入も無く、メンテナンスも容易である。この結果、着色の少ない高品質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造することが可能となる。
第三に、重合器の口金面や内壁面の汚れを防止して、工業的に安定してポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造するためには、口金から吐出されたプレポリマーの発泡を抑え、紡口口金面や内壁面への飛散による汚染を抑制する必要がある。本発明においては、特定の極限粘度のプレポリマーを特定の温度で吐出させることによって効果的に上記の問題を解決している。この結果、汚染物が製品に混入することで起きる製品の品質悪化を抑制することも可能となる。
第四に、溶融状態のプレポリマーの表面積を大きくし、減圧下で重合することにより、環状ダイマーの効率的な揮発による除去が可能となる。特定の重合触媒の使用等によって環状ダイマーの生成速度が低減されたポリトリメチレンテレフタレートプレポリマーを、本発明の方法で、重合と同時に環状ダイマーを高効率で除去することによって、溶融重合でありながら環状ダイマー含有率の低減されたポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造することが初めて可能となった。
このように本発明の製造方法を用いることによって、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を溶融重合で製造する際の問題は全て解決でき、高品質、高重合度、低環状ダイマー含有量のポリマーを工業的に安定して製造することが可能となる。かかる効果はポリアミドや他のポリエステルの重合反応からは全く予見され得ないものであった。
上記方法(I)においては、極限粘度[η]が0.2〜2dl/gの粗トリメチレンテレフタレート樹脂(プレポリマー)を、溶融状態で、該プレポリマーの結晶融点以上、290℃以下の温度にて重合器の多孔板の孔から吐出し重合する。
ここでプレポリマーとは、重合して得られるポリトリメチレンテレフタレート樹脂より分子量の低い重合物を指す。
多孔板の孔から吐出する際、プレポリマーの激しい発泡による飛散を抑制することが重要である。前記した極限粘度範囲のプレポリマーを、前記した温度範囲で吐出することで、激しい発泡によるポリマーの飛散を抑え、且つ副生するTMG及び環状ダイマーを安定して効率よく系外に除去することが可能になる。多孔板の孔から吐出したプレポリマーが飛散すると、紡口口金面や内壁面に付着し汚染物となる。汚染物は熱分解して着色異物となり、製品中に混入して品位を悪化させる。プレポリマーの飛散を抑制するには、極限粘度が0.2以上であることが必要である。製品の分子量分布を狭くし、その他の品質ムラを少なくするためにはプレポリマーの極限粘度はより高いことが好ましい。本発明のガイド接触落下重合プロセスにおいて、プレポリマーの極限粘度が低すぎる場合、プレポリマーの落下速度や落下時の表面更新性などの局所的な差により重合度に局所的なムラが生じる可能性がある。重合度にムラが生じるとさらに落下速度に差が生じて重合度ムラが拡大され、分子量分布が広がる。一方プレポリマーの極限粘度が高すぎると、粘性が高くなりTMGを効率よく抜き出すことが困難になるうえ、本発明のガイド接触落下重合プロセスにおいて重要な、適度な発泡が起こらず、高重合度化が困難になる。このため極限粘度は2dl/g以下である必要がある。プレポリマーの極限粘度は、好ましくは0.3〜1.8dl/gの範囲であり、さらに好ましくは0.4〜1.5dl/gの範囲である。
また、プレポリマーの激しい発泡による飛散や、熱分解を抑制するためには吐出温度を290℃以下とすること必要である。一方、紡口口金部分での固化や、ガイドに沿って落下時の固化を防ぎ、均一に落下させるためには、吐出温度はプレポリマーの結晶融点以上である必要がある。
尚、ここでプレポリマーの結晶融点とは、米国PerkinElmer社製Pyris 1 DSC(入力補償型示差熱量計)を用いて、測定温度:0〜280℃、昇温速度:10℃/分の条件で測定した結晶融解に由来する吸熱ピーク値である。
吐出温度は、好ましくは結晶融点より5℃高い温度以上、280℃以下の範囲であり、さらに好ましくは結晶融点より10℃高い温度以上、275℃以下の範囲であり、特に好ましくは結晶融点より15℃高い温度以上、265℃以下の範囲である。
プレポリマーが落下する際の樹脂温度は上記の吐出温度の範囲内であり、且つ吐出温度との差が20℃以内であることが好ましく、差が10℃以内であることがより好ましく、差が5℃以内であることが特に好ましく、吐出温度と同じ温度であることが最も好ましい。このような温度は、ガイドを覆っている重合器壁面に配したヒーター又はジャケットの温度を適正に制御したり、ガイド内部にヒーター又は熱媒を入れ、これらの温度を適正に制御したりすることで達成できる。
プレポリマーを吐出する多孔板は、複数の貫通孔がある板状体である。多孔板の厚みは特に制限はないが、通常0.1〜300mmの範囲であり、好ましくは1〜200mmの範囲であり、さらに好ましくは5〜150mmの範囲である。多孔板は、溶融プレポリマー供給室の圧力に耐えると共に、重合器中の重合室のガイドが多孔板に固定されている場合には、ガイド及び落下する溶融プレポリマーの重量を支えるための強度が必要であり、リブ等によって補強されていることも好ましい。
多孔板の孔は、通常,円状、長円状、三角形状、スリット状、多角形状、星形状などの形状から選ばれる。孔の開口面積は、通常、0.01〜100cmの範囲であり、好ましくは0.05〜10cmの範囲であり、特に好ましくは0.1〜5cmの範囲である。また、孔に接続するノズル等を備えることも含む。孔同士の間隔は、孔の中心間の距離で通常、1〜500mmの範囲であり、好ましくは25〜100mmの範囲である。
多孔板の孔の数に特に制限はないが、通常、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を、例えば100kg/hrの速度で製造する際、1〜10個の孔数とすることが好ましく、2〜10個とすることがさらに好ましい。
多孔板の孔は、多孔板を貫通させた孔であっても、多孔板に管を取り付けた構造でもよい。また、テーパー状の構造でもよい。溶融プレポリマーが多孔板を通過する際の圧力損失が0.01〜5MPaの範囲となる様に孔の大きさや形状を決めることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜5MPaの範囲である。理由は定かではないが、このような圧力損失とすることで、より高重合度化が容易になる。多孔板の材質は、通常、ステンレススチール、カーボンスチール、ハステロイ、ニッケル、チタン、クロム、及びその他の合金等の金属材質が好ましい。
プレポリマー流路の多孔板より上流側には、孔を閉塞する異物が混入した場合に除去出来るようフィルターの設置が好ましい。フィルターは、多孔板の孔径以上の異物を除去でき且つ、プレポリマーの通過によって過度の圧力上昇が無いよう適宜選定する。
プレポリマーを供給する方法としては、液ヘッドまたは自重で落下させる方法、スクリューやポンプ等で押出す方法等が挙げられるが、プレポリマー量の変動を抑えるために計量能のあるギアポンプ等を用いることが好ましい。
多孔板の孔から吐出したプレポリマーは、重合帯域においてガイドに沿わせて落下させる。ガイドとしては、ワイヤー状、ワイヤー状の材料を組み合わせた、チェーン状や金網状、ワイヤー状の材料を立体格子状に連結したいわゆるジャングルジム状、平坦あるいは曲率を有した薄板状、多孔板状、及び規則充填体あるいは不規則充填体を積み重ねた充填塔状などが挙げられる。TMG及び環状ダイマーを効率的に抜き出すためには、落下させるプレポリマーの表面積を大きくすることが好ましく、凹凸のあるガイドに沿わせて落下させることによって攪拌と表面更新を積極的に起こさせることが好ましい、このため、ガイド構造としては、凹部、凸部及び有孔部等の構造を有することが好ましく、具体的には、プレポリマーの落下方向に対して凹凸のあるワイヤー状構造や、落下を邪魔する構造体のあるガイドが好ましく、上記のガイドを組み合わせて用いることも好ましい。
ここでワイヤー状とは、断面の外周の平均長さに対する該断面と垂直方向の長さの比率が非常に大きい材料を表す。断面の面積は特に制限はないが、通常10−3〜10cmの範囲であり、好ましくは10−2〜10cmの範囲であり、特に好ましくは10−1〜1cmの範囲である。断面の形状に特に制限はなく、通常、円状、長円状、三角形状、四角形状、多角形状、星形状などの形状から選ばれる。断面の形状は長さ方向に同一であるもの、異なっているもののいずれも含む。ワイヤーは中空状のものも含む。ワイヤーは、針金状等の単一物を撚り合わせる等の方法によって複数組み合わせたものも含む。ワイヤーの表面は、平滑なもの、凹凸があるもの、部分的に突起等を有するものを含む。ワイヤーの材質に特に制限はないが、通常、ステンレススチール、カーボンスチール、ハステロイ、ニッケル、チタン、クロム、及びその他の合金等の中から選ばれる。また、ワイヤーは、メッキ、ライニング、不動態処理、酸洗浄等必要に応じて種々の表面処理がなされているものを含む。
金網状とは前記したワイヤー状の材料を格子状に組み合わせた材料を表す。組み合わせるワイヤーは直線状の場合も、曲率している場合も含み、組み合わせる角度は任意に選択できる。金網状の材料を面に対して垂直方向より投影した際の、材料と空間との面積比に特に制限はないが、通常1:0.5〜1:1000の範囲であり、好ましくは1:1〜1:500の範囲であり、特に好ましくは1:5〜1:100の範囲である。面積比は水平方向には等しいことが好ましく、鉛直方向には等しいか、あるいは下部ほど空間の比率が大きくなることが好ましい。
チェーン状とは前記したワイヤー状材料よりできた輪を連結させた材料を表す。輪の形状は円形、楕円形、長方形、正方形等が挙げられる。連結のさせ方は一次元、二次元、三次元いずれも含む。
ジャングルジム状とはワイヤー状の材料を立体格子状に三次元に組み合わせた材料を表す。組み合わせるワイヤーは直線状の場合も、曲率している場合も含み、組み合わせる角度は任意に選択できる。
プレポリマーの落下方向に凹凸が付いたワイヤー状とは、ワイヤーに丸断面や多角形断面の棒状物をほぼ直角に取り付けたものや、ワイヤーに円盤状物あるいは円筒状物を取り付けたものなどである。凸部の頂点からワイヤーまでの距離はワイヤー径より大きいものが好ましい。具体的には、例えば、厚みが1〜10mmの範囲で、外周部からワイヤーまでの距離がワイヤー径より5mm以上大きく、100mm以下の範囲になるような円盤が、1〜500mmの間隔毎に取り付けてあるワイヤー等の構造が挙げられる。
チェーン状、ジャングルジム状、及びプレポリマーの落下方向に対して垂直な方向に凹凸があるワイヤー状等のガイドにおいて、ガイドの体積と空間との体積比は特に制限はないが、通常1:0.5〜1:10の範囲であり、好ましくは1:10〜1:10の範囲であり、特に好ましくは1:10〜1:10の範囲である。体積比は水平方向には等しいことが好ましく、鉛直方向には等しいか、あるいは下部ほど空間の比率が大きくなることが好ましい。
ガイドは形状によって単数設ける場合と、複数設ける場合と適宜選択できる。ワイヤー状や線状に連なったチェーン状の場合、通常1〜100000個であり、好ましくは3〜50000個である。金綱状、2次元に違なったチェーン状、薄板状、多孔板状の場合は通常、1〜1000個であり、好ましくは2〜100個である。3次元に連なったチェーン状、ジャングルジム状、充填塔状の場合は単数とするか、分割して複数とするかは、装置の大きさや、設置スペース等を考慮して適宜選択できる。ガイドが複数の場合、適宜スペーサー等を用いてガイド同士の接触を防ぐことが好ましい。
通常、ガイドに対し多孔板の孔1つ以上からプレポリマーが供給される、孔の数はガイドの形状に応じて適宜選択することができる。また、一個の孔を通過したプレポリマーを、複数のガイドに沿って落下させることも可能であるが、落下状態を均一にして分子量分布の狭い、品質ムラの少ない製品を得るためにはガイドの数は少なくすることが好ましく、例えばワイヤー状の場合3本以下が好ましい。ガイドの位置は、プレポリマーが、ガイドに沿って落下できる位置であれば特に制限はなく、多孔板の孔を貫通して設置される場合、貫通せず多孔板の孔の下部に設置される場合、適宜選択できる。
孔を通過した後、ガイドに沿わせてプレポリマーを落下させる高さは、好ましくは0.3〜50mの範囲であり、さらに好ましくは0.5〜20mの範囲であり、より好ましくは1〜10mの範囲である。
プレポリマーをガイドに沿わせて落下させるのに要する時間の平均は10秒〜100時間の範囲が好ましく、より好ましくは1分〜10時間の範囲であり、さらに好ましくは5分〜5時間の範囲であり、特に好ましくは20分〜3時間の範囲である。
孔を通過させるプレポリマーの流量は、好ましくは孔1個当たり、10−2〜10リットル/hrの範囲であり、より好ましくは、0.1〜50リットル/hrの範囲である。この範囲とすることにより好適な重合速度及び生産性でポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造できる。
本発明のガイド接触落下重合プロセスにおいて、重合は減圧下にて行う必要がある。これは、重縮合反応の進行にともなって副生するTMGと環状ダイマーを効率的に系外へ除去して、重合を進行させるためである。減圧とは重合器内の圧力が大気圧より低いことを指し、通常は100000Pa以下が好ましく、より好ましくは10000Pa以下であり、さらに好ましくは1000Pa以下であり、特に好ましくは100Pa以下である。下限には特に制限はないが、重合器内を減圧とするための設備コストも勘案し0.1Pa以上とすることが望ましい。
また、重合器を減圧としつつ、反応に悪影響を及ぼさない不活性ガスを重合器中に導入して、副生するTMG及び環状ダイマーをこれらのガスに同伴させることで一層効率よく除去し高重合度化する方法も好ましく用いることができる。
不活性ガスの導入は、従来、重縮合反応で生成する副生物の分圧を下げ、平衡的に重縮合を有利に進めるためであると理解されている。しかし、本発明において導入する不活性ガスの量は、分圧低下効果によって重合速度を高める効果が期待できない程度の微量であっても極めて有効に作用することが見出された。本発明者らの検討によると、不活性ガスを導入することにより、ガイド上での溶融プレボリマーが高度に発泡した状態で、高流動性を示しながら落下することが観察され、重合器内壁を汚染することなく、プレポリマーの表面積を飛躍的に増加するとともに表面更新状態が改善されているものと推測される。原理は定かではないが、この溶融ポリマーの内部及び表面状態の変化が重合速度を飛躍的に高める原因になっているものと推定される。
不活性ガスを導入する方法としては、プレポリマーとは別に、不活性ガスを直接重合器に導入する方法、予め不活性ガスをプレポリマーに吸収及び/又は含有させ、減圧下にてプレポリマーから吸収及び/又は含有させたガスを放出させる方法、これらを併用する方法が挙げられる。ここで吸収とは、プレポリマー中に不活性ガスが溶解し、気泡として存在しない場合をさし、含有とは気泡として存在していることを指す。気泡として存在する場合は、気泡の大きさが細かいほど好ましく、平均気泡径を5mm以下とすることが好ましく、より好ましくは2mm以下とすることである。
不活性ガスを直接重合器に導入する場合は、導入ノズルの位置は該多孔板から遠く、製品の抜き出し口に近く設置することが好ましい。また、減圧排気ラインから離して設置することが好ましい。
予めプレポリマーにガスを吸収及び/又は含有させる場合は、例えば化学装置設計・操作シリーズNo.2、改訂ガス吸収49〜54頁(昭和56年3月15日、日本国化学工業社発行)に記載の充填塔型吸収装置、棚段型吸収装置、スプレー塔式吸収装置、流動充填塔型吸収装置、液膜十字流接触式吸収装置、高速旋回流方式吸収装置、機械力利用方式吸収装置などの公知の吸収装置を用いる方法や、配管内に不活性ガスを圧入する方法などが挙げられる。最も好ましくは、不活性ガス雰囲気下でプレポリマーをガイドに沿わせて落下させながら不活性ガスを吸収させる装置を用いる方法である。この方法では、不活性ガスを吸収させる装置の内部に重合器内部より高い圧力の不活性ガスを導入する。圧力は0.01〜1MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.05〜0.5MPaの範囲であり、さらに好ましくは0.1〜0.2MPaの範囲である。
導入する不活性ガスとしてはポリトリメチレンテレフタレート樹脂に着色や変性、分解等の悪影響を及ぼさないガスが良く、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素や低級炭化水素ガスなど、およびこれらの混合ガスが好ましく、より好ましくは窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素であり、特に入手の容易さから窒素が最も好ましい。
導入する不活性ガスの量は、極めて少量でよく、重合器から抜き出すポリマー1g当たり0.05〜100mgとすることが好ましい。不活性ガスの量を0.05mg以上とすることでプレポリマーが高度に発泡して、重縮合反応及び環状ダイマーの揮発による除去が促進される。一方不活性ガスの量を100mg以下に抑えることで減圧度の調整が容易になる。より好ましくは抜き出すポリマー1g当たり0.1〜50mgの範囲であり、特に好ましくは0.2〜20mgの範囲である。
本発明のガイド接触落下重合プロセスでは、ガイドに沿わせて落下させながら重合する際、重合帯域において泡が生成し、瞬時にはじけない程度に高度に発泡した状態であることが好ましく、特にガイドに沿わせて落下させた下部が高度に発泡した状態であることが望ましい。もちろんガイド全体に沿って高度に発泡していることが最も好ましい。ここで発泡しているとは、泡がはじけながら継続して生成している状態と、泡がすぐにははじけず維持されている状態の両方を指す。このような状態は重合器に供給するプレポリマーの極限粘度と重合器温度及び重合器の減圧度を上記の範囲に調整することで不活性ガスの導入なしでも達成できるが、微量の不活性ガスを導入することでより高度な発泡が可能になる。このように高度に発泡した状態では、高重合度化が進行することで、ポリマーの溶融粘性が増大しているにも係らず高流動性を示し、団子状の塊となってガイド上を回転しながら落下する挙動が観察されることから、本発明のガイド接触落下重合プロセスでは表面更新効果が飛躍的に増大していることが推測される。
本発明のガイド接触落下重合プロセスによって、環状ダイマーは重合時の副生成物であるTMGとともに揮発して抜き出される。環状ダイマーは、トリメチレングリコールへの溶解性が低いために、抜き出されたトリメチレングリコールから析出し沈降する。また、抜き出し配管等にも析出し配管詰まり等の問題を引き起こしたり、反応器内部や配管にも低温箇所があれば環状ダイマーが析出する可能性がある。このため、配管を2系列以上設置し、1つの系列が詰まったらバルブを閉じて、その系列の詰まりを除去する間に、重合器との接続を別の系列に切り替えるという方法、または環状ダイマーの詰まりを抑制する目的で配管を環状ダイマーの融点である250℃以上に加熱したり、反応器内部にも環状ダイマーが析出するような低温箇所を作らない等の方法が好ましい。また、抜き出された環状ダイマーを回収するための設備として、例えば湿式スクラバーによって抜き出し物を回収し、固形物である環状ダイマーをフィルター、遠心分離機、沈降分離機などを用いて分離回収する方法が好ましい。
上記の方法で回収した環状ダイマーは精製しないで、あるいは再結晶化等の方法で精製して、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の原料として再利用することが出来る。環状ダイマーは、それ自体を開環重合させたり、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂製造時の任意の工程で、原料または任意の段階の反応物に添加して反応させることでポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造に使用することが可能である。
(II)薄膜蒸発器にて環状ダイマーを除去する方法
ポリトリメチレンテレフタレートは、前記の(I)ガイド接触落下重合プロセスの項で説明したように、ポリアミドやPETなど他のポリエステル樹脂に比べ熱分解による重合度の低下や、製品品質の低下が起こりやすい。本発明者らは、薄膜蒸発器を用いて、上記の(a)、(b)、(c)、(d)の条件を満足させることによって、本発明の優れたポリトリメチレンテレフタレート樹脂を効率よく製造出来ることを見出した。
本発明の製造方法(II)において、粗トリメチレンテレフタレート樹脂の極限粘度が低すぎるとTMGの副生量が多く、薄膜蒸発器内で激しく発泡して飛散し、薄膜蒸発器内部を汚染し、汚染物が製品中に混入して製品品質を低下させるため、粗トリメチレンテレフタレート樹脂の極限粘度は0.6以上であることが必要である。一方、極限粘度が高すぎると、粘性が高いために薄膜蒸発器内に設置されたへらまたはスクリュー設備によるせん断発熱量が大きく樹脂温度の制御が困難であり、分子量が著しく低下したり、製品品質が低下するので極限粘度は4dl/g以下であることが必要である。せん断発熱は、樹脂温度の制御が可能な範囲であれば、溶融樹脂薄膜の表層部が昇温することによって環状ダイマーの揮発による除去を効率的に進行させる側面がある。そのため、例えば製品のポリトリメチレンテレフタレート樹脂の設計分子量よりも高分子量のポリトリメチレンテレフタレートを薄膜蒸発器に供給し、設計分子量まで分子量低下させると同時に環状ダイマーの含有率を大幅に低減させた製品を製造する方法も有効である。薄膜蒸発器に供給するポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度は、好ましくは0.7〜3.9dl/gの範囲であり、さらに好ましくは0.8〜3.8dl/gの範囲であり、特に好ましくは0.9〜3.5dl/gの範囲であり、最も好ましくは1〜3dl/gの範囲である。
薄膜蒸発器の形態には特に制限はないが、例えば鉛直に直立する円筒形状であって、円筒の中心軸に沿って薄膜蒸発器内壁面と所定のクリアランスを有するように調整された、回転可能なへらまたはスクリュー設備を内部に有しており、装置上部から供給された溶融樹脂を、機械力あるいは遠心力を利用した液分散装置によって、内壁に溶融樹脂を分散させた後、上記へらまたはスクリュー設備によって溶融樹脂薄膜を形成させるとともにその表面更新を行うことができ、また樹脂を装置下部に排出する機能も有しており、この他に溶融樹脂の供給手段、環状ダイマーが除去された溶融樹脂を排出する手段、薄膜蒸発器内を減圧として環状ダイマーを揮発させて除去する手段、揮発によって除去された環状ダイマーによる装置配管の閉塞を防止するとともに除去された環状ダイマーを回収する手段、薄膜蒸発器本体及び溶融樹脂の温度を調節する設備を備えた装置を用いると、数十秒〜数十分の比較的短時間で環状ダイマーを大幅に低減できるので、ポリマーが長時間加熱されることによる着色を少なく出来るので、最も好ましい。
また、上記(a)、(b)、(c)、(d)の条件を満足することができる限り、その他の形態の薄膜蒸発機能を有する装置も使用することができる。例えば、市販の減圧ベント付きのニーダー装置、あるいは減圧ベント付きの押出機を用いて樹脂の充満率が40%以下となる運転条件で減圧処理する方法、市販の薄膜蒸発装置を用いて減圧処理する方法、薄膜蒸発器内部に設置された、回転する円盤やベルト上に溶融ポリトリメチレンテレフタレートを供給し、へらなどの設備によって表面更新を行なう方法、薄膜蒸発器内部に設置された、1基または複数の回転するローラー上に溶融ポリトリメチレンテレフタレートを供給する方法等が挙げられる。但し、環状ダイマーの除去に長時間を要する場合は、長時間加熱による着色を抑制するために、酸素の混入を厳重に遮断するなどの手段をとることが好ましい。
以下、上記の(a)、(b)、(c)、(d)の条件について、詳細に説明する。
(a)該薄膜蒸発器の内部圧力が2.6kPa以下の減圧である:
環状ダイマーを除去する際の真空度は2.6kPa以下であることが必要である。真空度が2.6kPaより大きいと環状ダイマーの除去効率が低く、環状ダイマー含有率を低減するのに長時間の処理を必要とするため、熱分解や着色などの副反応が進行しやすくなってしまう。好ましくは2.0kPa以下であり、より好ましくは1.0kPa以下であり、さらに好ましくは0.5kPa以下であり、最も好ましくは0.2kPa以下である。
また、処理温度がポリトリメチレンテレフタレートの融点より低いと、薄膜蒸発器内で固化する恐れがある。一方、処理温度が高いほど環状ダイマーの除去には効率的であるが350℃を越える温度で処理するとポリトリメチレンテレフタレートの熱分解や着色などの副反応が進行しやすい。通常処理温度は230℃〜350℃の範囲であり、好ましくは235℃〜330℃の範囲であり、より好ましくは240℃〜300℃の範囲であり、特に好ましくは245℃〜280℃の範囲である。環状ダイマーの除去効率の向上と、熱分解の抑制を同時に満足する手段として、薄膜蒸発器内を複数の温度ゾーンに調整区画して、高温の区画で環状ダイマーを除去した後、ポリトリメチレンテレフタレートを低温の区画に移動させて速やかに樹脂温度を下げて熱分解を抑制する方法や、薄膜蒸発器内に設置したへらまたはスクリュー設備の回転によるせん断発熱によって溶融樹脂薄膜の表層部を昇温させる一方、比較的低温に調整した薄膜蒸発器の内壁面によって除熱することで熱分解を抑制する方法などが好ましく用いられる。
薄膜蒸発器の処理時間は特に制限はないが、ポリトリメチレンテレフタレートの熱分解や着色などの副反応を抑制するため通常は2時間以内であり、ポリトリメチレンテレフタレートに対し0.5重量%以上の環状ダイマーを除去するため通常0.5分以上であることが好ましい。より好ましくは1分〜1時間30分の範囲であり、さらに好ましくは2分〜1時間の範囲であり、特に好ましくは3分〜30分の範囲である。
(b)該へらまたはスクリューによって該薄膜蒸発器の内壁に溶融状態のトリメチレンテレフタレート樹脂の薄膜を形成するとともに、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の表面更新を行う:
薄膜蒸発器内に設置されたへらまたはスクリュー設備の役割は、以下の(1)〜(4)である。
(1)薄膜蒸発器の内壁面とのクリアランスを調整し回転することで、内壁面に溶融樹脂薄膜を形成する。溶融樹脂薄膜の膜厚は通常均一であることが好ましいが、へらまたはスクリュー設備の回転により生じたせん断発熱を効率よく除熱する目的で、溶融状態の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂供給口から抜き出し口にかけて次第に膜厚が薄くなるよう調整する方法や、薄膜蒸発器内を複数の温度ゾーンに調整区画して、温度に応じてゾーン毎の膜厚みを変化させる方法が好ましい。また、せん断熱自体を小さくする目的で、溶融状態の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂供給口から抜き出し口にかけて次第に膜厚みが厚くなるように調整する方法も好ましい。
(2)へらまたはスクリュー設備の回転によって溶融樹脂薄膜の表面更新を行い、環状ダイマーの除去効率を高める。へらまたはスクリュー設備の回転数は、環状ダイマーの除去効率を向上するために1rpm以上であることが好ましく、せん断発熱によるポリトリメチレンテレフタレートの品質悪化を抑制するために5000rpm以下であることが好ましい。より好ましくは10〜2000rpmの範囲であり、さらに好ましくは50〜1000rpmの範囲であり、特に好ましくは100〜800rpmの範囲である。
(3)溶融状態の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂供給口から抜き出し口にかけて移送する。通常供給口は装置上部に設置し、抜き出し口は装置下部に設置することで溶融ポリトリメチレンテレフタレートの移送を、らせん状に傾きをもたせたへらまたはスクリュー設備の回転によって溶融ポリマーを移送させる機械力と、重力とを同方向にして移送することが好ましいが、薄膜蒸発器内の滞留時間を長くする目的で薄膜蒸発器本体を傾けて設置したり、供給口よりも抜き出し口を上方に設置したり、へらまたはスクリューによる移送方向を逆転させるためにらせんの向きが反転する部分を設けたり、へらまたはスクリューの回転を逆転させたり、溶融ポリトリメチレンテレフタレートを局所的に滞留させる目的でへらまたはスクリューと薄膜蒸発器の内壁面とのクリアランスが狭い部分を設けたりする方法も好ましい。また溶融ポリトリメチレンテレフタレートが供給口から抜き出し口にかけてショートパスするのを防ぐ目的でへらまたはスクリューを多段とし、各段毎に液膜形成と混合をさせる方法も好ましい。
(4)へらまたはスクリュー設備の回転によって、せん断熱を発生させる。せん断発熱が溶融樹脂薄膜の表層部に生じるために環状ダイマーの除去効率を一層向上させる一方、溶融ポリトリメチレンテレフタレートの熱分解を抑制する目的でせん断発熱量および、樹脂温度を制御することが好ましい。上記のようにへらまたはスクリューの回転数や、薄膜蒸発器の内壁面とのクリアランスや、らせんの向きが逆転する部分を設ける方法や、薄膜蒸発器の内壁面やへらまたはスクリューの表面温度を調整出来るように熱媒および冷却剤を循環させる方法や、これらの方法の組み合わせによって環状ダイマーの除去効率を一層向上させる一方、溶融ポリトリメチレンテレフタレートの熱分解を抑制する方法を好ましく用いることができる。
(c)該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂薄膜の、溶融状態のトリメチレンテレフタレート樹脂の該薄膜が薄膜蒸発器内の気相と接する面積を、該薄膜蒸発器内に存在する粗トリメチレンテレフタレート樹脂の重量で除して得られる、樹脂−気相接触面積が1cm/g以上である:
溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂薄膜が気相と接する全面積は、薄膜蒸発器内に設置されたへらまたはスクリュー設備と薄膜蒸発器内壁面とのクリアランスによって調整される溶融樹脂薄膜の膜厚と、薄膜蒸発器の寸法から幾何学的に算出することが出来る。
上記樹脂−気相接触面積が1cm/gより少ないと環状ダイマーの除去効率が低く、環状ダイマー含有率を低減するために長時間の処理を必要とするため、熱分解や着色などの副反応が進行しやすくなってしまう。好ましくは、1.5cm/g以上であり、より好ましくは2cm/g以上であり、さらに好ましくは2.5cm/g以上であり、最も好ましくは3cm/g以上である。
薄膜蒸発器内に形成される溶融樹脂薄膜の膜厚は、樹脂温度を均一化して一定品質の製品を製造するために、均一であることが好ましく、薄膜蒸発器内に設置されたへらまたはスクリュー設備と薄膜蒸発器内壁面とのクリアランスによって調整することができる。
樹脂が気相と接する面積を拡大したり、へらまたはスクリュー設備の回転によって生じたせん断発熱を速やかに除熱する目的で薄膜蒸発器内壁面や、薄膜蒸発器内に設置されたへらまたはスクリュー設備の表面に凹部、凸部及び有孔部を設けたり、チェーン状、金網状、ジャングルジム構造などを付加したり、チェーン状、金網状、ジャングルジム構造などからなる充填材を薄膜蒸発器内に充填する方法なども好ましく用いることができる。
(d)該薄膜蒸発器中における該粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の量が、該薄膜蒸発器の内容積に対して40体積%以下である:
薄膜蒸発器中における該粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の量は、薄膜蒸発器内に供給した粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量を、溶融ポリトリメチレンテレフタレートの比重1.15で除すことで計算される、薄膜蒸発器内の溶融粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の体積の、薄膜蒸発器内の空隙容積に対する百分率で表した値である。
上記の量が40体積%より大きいと装置内に供給された溶融粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂が減圧下で発泡し膨張して、塊状に集合するために均一な溶融樹脂薄膜を形成することが困難であるうえ、気相部の環状ダイマーの分圧が上昇するために環状ダイマーの除去効率が低く、環状ダイマー含有率を低減するために長時間の処理を必要とするため、熱分解や着色などの副反応が進行しやすくなってしまう。薄膜蒸発器中における該粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の量は、好ましくは30体積%以下であり、さらに好ましくは20体積%以下であり、特に好ましくは15体積%以下であり、最も好ましくは10体積%以下である。
本発明の薄膜蒸発器の材質に特に制限はないが、通常、ステンレススチール、カーボンスチール、ハステロイ、ニッケル、チタン、クロム、及びその他の合金等の中から選ばれる。また、メッキ、ライニング、不動態処理、酸洗浄等必要に応じて種々の表面処理がなされていてもよい。
また薄膜蒸発器の内部に、反応に悪影響を及ぼさない不活性ガスを導入して、環状ダイマーをこれらのガスに同伴させることで一層効率よく除去する方法も好ましく用いることができる。不活性ガスを導入することにより、薄膜蒸発器内に供給した溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂が高度に発泡した状態になることが観察され、薄膜蒸発器内壁を汚染することなく、溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂の表面積を飛躍的に増加するとともに表面更新状態が改善されているものと推測される。不活性ガスを導入する方法としては、溶融ポリトリメチレンテレフタレートとは別に、不活性ガスを直接薄膜蒸発器に導入する方法、予め不活性ガスを溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂に吸収及び/又は含有させ、減圧下にて溶融ポリトリメチレンテレフタレートから吸収及び/又は含有させたガスを放出させる方法、これらを併用する方法が挙げられる。
予め溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂にガスを吸収及び/又は含有させる場合は、例えば化学装置設計・操作シリーズNo.2、改訂ガス吸収49〜54頁(昭和56年3月15日、日本国化学工業社発行)に記載の充填塔型吸収装置、棚段型吸収装置、スプレー塔式吸収装置、流動充填塔型吸収装置、液膜十字流接触式吸収装置、高速旋回流方式吸収装置、機械力利用方式吸収装置などの公知の吸収装置を用いる方法や、配管内に不活性ガスを圧入する方法などが挙げられる。最も好ましくは、不活性ガス雰囲気下で溶融ポリトリメチレンテレフタレートをガイドに沿わせて落下させながら不活性ガスを吸収させる装置を用いる方法である。この方法では、不活性ガスを吸収させる装置の内部に薄膜蒸発器内部より高い圧力の不活性ガスを導入する。圧力は0.01〜1MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.05〜0.5MPaの範囲であり、さらに好ましくは0.1〜0.2MPaの範囲である。
導入する不活性ガスとしてはポリトリメチレンテレフタレート樹脂に着色や変性、分解等の悪影響を及ぼさないガスが良く、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素や低級炭化水素ガスなど、およびこれらの混合ガスが好ましく、より好ましくは窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素であり、特に入手の容易さから窒素が最も好ましい。
導入する不活性ガスの量は、極めて少量でよく、薄膜蒸発器から抜き出すポリマー1g当たり0.05〜100mgとすることが好ましい。不活性ガスの量を0.05mg以上とすることで溶融ポリトリメチレンテレフタレートが高度に発泡して、環状ダイマーの揮発による除去が促進される。一方不活性ガスの量を100mg以下に抑えることで減圧度の調整が容易になる。より好ましくは抜き出すポリマー1g当たり0.1〜50mgの範囲であり、特に好ましくは0.2〜20mgの範囲である。
本発明で用いる薄膜蒸発器によって、環状ダイマーは減圧設備を通って抜き出される。環状ダイマーは、抜き出し配管や薄膜蒸発器内部であっても、低温部があれば析出して配管詰まり等の問題を引き起こす可能性がある。このため、抜き出し配管は切り替え可能な複数系列設置したり、または環状ダイマーの詰まりを抑制する目的で配管を環状ダイマーの融点である250℃以上に加熱したり、薄膜蒸発器内部には、環状ダイマーが析出するような低温箇所を作らない等の方法が好ましい。また、抜き出された環状ダイマーを回収するための設備として、例えばポリトリメチレンテレフタレートの原料でもあるトリメチレングリコールを循環溶媒とする湿式スクラバーなどが考えられるが、環状ダイマーはトリメチレングリコールへの溶解性が低いために、トリメチレングリコールから析出し沈降する。抜き出された環状ダイマーをトリメチレングリコールからフィルター、遠心分離機、沈降分離機などを用いて分離回収する方法が好ましい。
上記の方法で回収した環状ダイマーは精製しないで、あるいは再結晶化等の方法で精製して、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の原料として再利用することが出来る。環状ダイマーは、それ自体を開環重合させたり、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂製造時の任意の工程で、原料または任意の段階の反応物に添加して反応させることでポリトリメチレンテレフタレートの製造に使用することが可能である。
次に、環状ダイマー生成指数(E)を改良する具体的な方法について説明する。
前記したように、環状ダイマー生成指数(E)を改良する方法には特に制限はなく、(i)ポリマーの高純度化、(ii)特定の重合触媒の使用、(iii)重合触媒の失活等の方法等が挙げられるが、高重合度で環状ダイマー含有率の小さいポリトリメチレンテレフタレート樹脂を生産性良く、工業的に安定して製造する方法として好ましいのは、粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の合成を特定の触媒を用いることによって行ない、本来の重縮合反応の触媒能を有する一方、副反応である環状ダイマー生成反応の触媒活性を大幅に抑制する方法である。特定の重合触媒を用いる製造方法の特に好ましい例として、以下の(A)と(B)が挙げられる。
(A)該粗トリメチレンテレフタレート樹脂が、少なくとも1種のチタン系化合物と、リン酸、リン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸エステル及び下記式(4)で表されるリン化合物から選ばれる少なくとも1種のリン化合物を含む触媒の存在下で重縮合反応を行なうことによって製造され、
該少なくとも1種のチタン系化合物と該少なくとも1種のリン化合物を、リン/チタン原子比が0.01〜10の範囲となる量で用いる方法。

(式中、mは1又は2であり、かつ

を表し、nは0〜3の整数である。)
(B)該粗トリメチレンテレフタレート樹脂が、少なくとも1種の、炭素−錫結合を有さない錫化合物を含む触媒の存在下で重縮合反応を行なうことにより製造される方法。
以下に上記の方法(A)及び(B)について具体的に説明する。
(A)チタン化合物とリン化合物との組み合わせによる製造方法:
本発明者らは鋭意検討を進めた結果、重縮合反応時に触媒としてチタン化合物とともに特定のリン化合物を添加して重合することにより、重縮合反応の触媒活性を維持したまま、副反応である環状ダイマー生成反応の触媒能は大幅に抑制でき、環状ダイマー生成指数(E)を0.066未満に低減できることを見出した。
本発明において重合触媒として用いられる、チタン化合物としては、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラエトキシドなどのチタンテトラアルコキシドや、オクタアルキルトリチタネート、ヘキサアルキルジチタネートなどを挙げることができる。これらの中でも反応性や、製造されるポリマーの色調の面から、チタンテトラアルコキシド、特にチタンテトラブトキシドが好ましい。これらのチタン化合物は1種だけで用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
チタン化合物の量としては原料として使用するジメチルテレフタレート(DMT)基準で10〜6000ppmの範囲であることが好ましい。ただし原料としてテレフタル酸を使用したり、共重合成分として他の二官能性芳香族化合物を用いたりする場合は、それを等モル量のジメチルテレフタレートに換算して考える。より好ましくは50〜3000ppmの範囲であり、さらに好ましくは100〜1000ppmの範囲である。
リン化合物としては、リン酸、ポリリン酸、トリポリリン酸、ピロリン酸等の縮合リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリス−2−ヒドロキシエチルに代表されるリン酸エステル、リン酸メチル、リン酸ジメチル、リン酸エチル、リン酸ジエチル、リン酸ブチル、リン酸ジブチル、リン酸フェニル、リン酸ジフェニルに代表される酸性リン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリフェニルに代表される亜リン酸エステル、上記式(4)で表されるリン化合物から選ばれる少なくとも1種以上の化合物などを挙げることができる。これらのリン化合物は1種だけで用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。なお、上記式(4)で表されるリン化合物としては、フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニリルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸が挙げられる。また、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、ジフェニルホスホン酸、ビス(2−カルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(3−カルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(4−カルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(2,4−ジカルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(2,5−ジカルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(2,6−ジカルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(3,5−ジカルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(2,3,4−トリカルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(2,3,5−トリカルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(2,3,6−トリカルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(2,4,5−トリカルボキシフェニル)ホスホン酸、ビス(2,4,6−トリカルボキシフェニル)ホスホン酸等を挙げることができ、特に製造されるポリマーの色調の面から、フェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、ジフェニルホスホン酸を用いることが好ましい。
重縮合反応時のチタン化合物と、リン化合物の添加方法としては、(A−1)予め両者を、チタンに対するリンの原子比(P/Ti)が0.01以上、10以下の範囲となるよう混合し反応させた反応生成物を添加する方法、(A−2)先ずチタン化合物を添加して重縮合反応を開始し、次いでリン化合物を、チタンに対するリンの原子比(P/Ti)が0.01以上、10以下の範囲となるよう添加する方法の2つが挙げられる。
いずれの方法も有効であるが、上記方法(A−1)のように予め両者を反応させる場合、チタンに対し過剰量のリン化合物を添加すると重縮合反応速度が低下する傾向があるため、より好ましい添加量はチタンに対するリンの原子比(P/Ti)が0.02〜3の範囲であり、さらに好ましくは0.03〜1の範囲であり、特に好ましくは0.04〜0.5の範囲である。チタン化合物とリン化合物を反応させる方法は、例えば溶媒中にリン化合物の一部または全部を溶解した後、該溶液にチタン化合物を滴下して0〜200℃、好ましくは20〜100℃で10分間以上反応させればよい。このときの反応圧力に特に制限はなく加圧、常圧、減圧下のいずれでも行うことができる。溶媒としては、リン化合物を溶解あるいは微分散出来るものであれば特に制限はなく、例えばメタノール、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン、キシレンなどを用いることが可能である。また、チタン化合物を事前にフタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸に代表される芳香族多価カルボン酸およびその無水物と反応させた後にリン化合物と反応させることも可能である。このようにして調整したチタン化合物とリン化合物の反応生成物はそのまま使用しても、アセトンによる再結晶など任意の方法で精製してから使用してもよい。このようにして調整したチタン化合物とリン化合物の反応生成物は、ポリトリメチレンテレフタレート製造時の初期縮合物であるビス−(ヒドロキシプロピル)テレフタレート(BHPT)の合成触媒としても使用でき、これによってBHPTを合成後、そのまま重縮合反応触媒として重合することも、重縮合反応の開始時に新たに添加して重合することも可能である。
上記方法(A−2)のように先ずチタン化合物を添加して重縮合反応を開始し、次いでリン化合物を添加する場合、重縮合反応速度を大きく低下させることなく、本発明の重合方法と組み合わせることによって高重合度のポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造できるが、リン化合物の必要量はやや多い。より好ましい添加量はチタンに対するリンの原子比(P/Ti)が0.02〜8の範囲であり、さらに好ましくは0.03〜6の範囲であり、特に好ましくは0.04〜4の範囲である。チタン化合物は、ポリトリメチレンテレフタレート製造時の初期縮合物であるBHPTの合成触媒としても使用でき、これによってBHPTを合成後、そのまま重縮合反応触媒として重合することも、重縮合反応の開始時に新たに添加して重合することも可能であるが、いずれにしても重縮合反応がチタン化合物によって開始した後から、本発明のフィニッシャーとしてのガイド接触落下重合プロセスまたは薄膜蒸発器に供給する以前までの間の任意の時点でリン化合物を添加することが必要である。重縮合反応速度の低下を防ぎ、高重合度のポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造するためには、リン化合物のより好ましい添加時期は、重縮合反応がチタン系化合物によって開始し、重縮合反応の進行に伴いポリトリメチレンテレフタレートプレポリマーの末端水酸基濃度が0.19mol%以下に減少した時点から、本発明のフィニッシャーとしてのガイド接触落下重合プロセスまたは薄膜蒸発器に供給する以前までの間の任意の時点である。
リン化合物の添加の形態には特に制限はなく、例えばリン化合物を直接溶融状態、固体状態で、または任意の媒体の溶液状態、分散状態で、あるいはリン化合物を高濃度含有する、いわゆるマスターポリマー(マスターバッチ)として重合装置内に添加する方法や、ポリトリメチレンテレフタレートを溶融状態、固体状態、溶液状態、分散状態として、この中にリン化合物を直接溶融状態、固体状態で、または任意の媒体の溶液状態、分散状態で、注入、投入、含浸し次いで溶融混合する方法などが挙げられる。添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
(B)炭素原子と錫原子との直接結合(炭素−錫結合)を有さない錫化合物による製造方法:
本発明者らは鋭意検討を進めた結果、重縮合反応時に触媒として炭素−錫結合を有さない錫化合物を添加して重合することにより、重縮合反応の触媒活性を維持したまま、副反応である環状ダイマー生成反応の触媒能は大幅に抑制でき、環状ダイマー生成指数(E)を0.066未満に低減できることを見出した。
本発明の方法において重合触媒として用いられる、炭素−錫結合を有さない錫化合物は、登録商標ホスタパーム顔料やコバルトと組み合わせなくても色調の改善に効果があり、しかも色調を改善するために触媒量をDMT基準で525ppm以下に制限する必要もない。具体的には、金属錫、2価あるいは4価の酸化錫、2価あるいは4価の硫化錫、塩化錫、臭化錫、ヨウ化錫に代表される2価あるいは4価の錫のハロゲン化物、酢酸錫、プロピオン酸錫、ブチル酸錫、2−エチルヘキサン酸錫、ネオドデカン酸錫、オキザル酸錫、酒石酸錫に代表される2価あるいは4価の錫のカルボン酸塩、錫(II)アセチルアセトナート、錫(II)ヘキサフルオロペンタジオネート、錫(II)トリフルオロメタンスルホネート、錫(II)フタロシアニン、錫(IV)フタロシアニンジクロリド、錫メトキシド、錫エトキシド、錫プロポキシド、錫ブトキシドに代表される2価あるいは4価の錫のアルコキシド等が挙げられ、これらの中でも反応性や、製品の色調の面から、2価あるいは4価の錫のハロゲン化物および2価の錫のカルボン酸塩が好ましく、特に好ましくはブチル酸錫、2−エチルヘキサン酸錫、ネオドデカン酸錫が好ましく、最も好ましくは2−エチルヘキサン酸錫である。これらの触媒は1種だけで用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
重合触媒の量としては原料として使用するジメチルテレフタレート基準で20〜6000ppmの範囲であることが好ましい。ただし原料としてテレフタル酸を使用したり、共重合成分として他の二官能性芳香族化合物を用いたりする場合は、それを等モル量のジメチルテレフタレートに換算して考える。より好ましくは50〜3000ppmの範囲であり、さらに好ましくは100〜1000ppmの範囲である。炭素原子と錫原子が直接結合を有さぬ錫化合物は、重合触媒としての作用の他にもポリトリメチレンテレフタレート樹脂に適量包含されることにより、高温で長時間溶融保持したときの熱分解によるアクロレインの発生を抑制する作用があり、アクロレインの発生を抑制する目的から好ましくは50〜3000ppmの範囲であり、さらに好ましくは100〜1000ppmの範囲である。また、高重合度化を達成するためにも触媒量は50ppm以上であることが好ましい。
重合触媒は、直接反応器に設置されたノズルから添加することも出来るが、予め原料の一部である、上記のテレフタル酸成分または上記のトリメチレングリコール成分と反応させて均一溶液として使用することが好ましい。これは、錫化合物と、原料のトリメチレングリコール成分及びテレフタル酸成分とは、溶解性及び比重の違いから分離して沈降する場合があり、触媒濃度にムラが出来る可能性があるからである。
また、この際少なくとも部分的に形成されるカルボン酸錫化合物および錫グリコールオキシドによって、反応の誘導期間を短縮出来る利点もある。反応の進行度合いは、例えば2−エチルヘキサン酸錫とトリメチレングリコールとの反応の場合、遊離する2−エチルヘキサン酸の量をガスクロマトグラフィー等を用いて分析することで評価が可能であり、カルボン酸錫化合物および錫グリコールオキシドの生成に関しては赤外分光分析などの手法で確認が可能である。なお触媒の調整は窒素雰囲気で実施することが好ましく、さらに好ましくは窒素を溶液中にバブリングすることによって溶液中の水分なども同時に除去する方法である。
上記した触媒の均一溶液の調製方法の具体例としては、トリメチレングリコールを50〜200℃の範囲で加熱撹拌しつつ、錫系化合物たとえば2−エチルヘキサン酸錫を滴下し、さらに10分間以上加熱撹拌し均一化させることによって触媒の均一溶液を得る方法が挙げられる。
錫系化合物は、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂製造時の初期縮合物であるBHPTの合成触媒としても使用でき、これによってBHPTを合成後、そのまま重縮合反応触媒として重合することも、重縮合反応の開始時に新たに添加して重合することも可能である。
ブチル錫酸、ジブチル錫オキサイドに代表される炭素原子と錫原子との直接結合を有するオルガノスズ化合物は高い反応性を示すものもあるが、登録商標ホスタパーム顔料やコバルトと組み合わせず単体で用いる場合や、高重合度化を達成するために525ppm以上使用した際に、ポリマーの色調を著しく損なう上、化合物の毒性にも問題があるため好ましくない。
また、上記方法(A)に用いる触媒と上記方法(B)に用いる触媒とを組み合わせて使用してもよい。
以下、本発明において用いることができる粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造方法について好適な例を挙げて説明する。
本発明において用いる粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は例えば、溶融重合または溶融重合と固相重合との組み合わせによって製造することができる。
溶融重合は、上記のテレフタル酸成分と上記のトリメチレングリコール成分とを反応させてテレフタル酸のエステル及び/又はそのオリゴマーを生成させ、それを重縮合させる方法である。本発明で用いるテレフタル酸成分及びトリメチレングリコール成分は、市販のもの、あるいは本発明の方法による製造工程からリサイクルされたものや、製造したポリトリメチレンテレフタレート樹脂から回収したものでもよく、好ましくは純度95%以上、更に好ましくは98%以上のものである。
重合原料であるテレフタル酸やテレフタル酸の低級アルコールエステル等のテレフタル酸成分に対する1,3−プロパンジオール等のトリメチレングリコール成分の仕込み比率はモル比で0.8〜3の範囲であることが好ましい。仕込み比率が0.8未満では、エステル交換反応が進行しにくく、また仕込み比率が3より大きくなると融点が低くなるほか、得られたポリマーの白度が低下する傾向がある。好ましくは、1.4〜2.5の範囲であり、さらに好ましくは1.5〜2.3の範囲である。
テレフタル酸と1,3−プロパンジオールを原料とする場合、必ずしも触媒を使用しなくても反応は進行し、環状ダイマー生成指数(E)が極めて小さい粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造することが可能であるが、反応をより円滑に進行させるためには上記に説明した触媒等を用いることが好ましい。
反応温度としては200℃〜250℃、好ましくは220〜240℃で、副生する水やメタノール等のアルコールを留去しながら反応を行うことができる。反応時間は通常2〜10時間、好ましくは2〜4時間である。こうして得られた反応物は、テレフタル酸の1,3−プロパンジオールエステル及び/又はそのオリゴマーである。
以上のエステル化反応(原料に、テレフタル酸を用いた場合)、エステル交換反応(原料に、テレフタル酸エステルを用い場)は、必要に応じて2つ以上の反応釜に分けて順次連続的に行ってもよい。
粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は、こうして得られたテレフタル酸の1,3−プロパンジオールエステル及び/又はそのオリゴマーを更に重縮合することにより製造することができる。
重縮合反応では、エステル化反応やエステル交換反応で用いた触媒をそのまま使用することも出来るし、必要に応じて更にチタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシドに代表されるチタンアルコキサイド、非晶性酸化チタン沈殿物、非晶性酸化チタン/シリカ共沈殿物、非晶性ジルコニア沈殿物等の金属酸化物、2−エチルヘキサン酸錫等の金属カルボン酸塩等を重縮合触媒として新たに追加してもよい。これらの触媒のうち、チタン系および錫系の触媒はエステル化反応、エステル交換反応、重縮合反応のいずれにも有効な触媒でありエステル化反応やエステル交換反応段階で添加しておくと、重縮合反応の前に新たに添加することなく、あるいは添加するにしても少量で重縮合反応を行うことが出来る点で、最も好ましい触媒である。
重縮合反応では、1,3−プロパンジオールや反応系に残存するエステル化反応やエステル交換反応で生成した水やアルコールを効率的に抜き出すために、減圧下で重縮合反応させることが好ましく、真空度としては0.013〜6700Paの範囲であり、より好ましくは1.3〜2700Paの範囲であり、さらに好ましくは6.7〜1400Paの範囲である。
共重合を行う場合は、エステル化反応、エステル交換反応、及び重縮合反応の任意の段階で、コモノマーを添加して共重合させることができる。
粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造するために用いる重合設備としては特に制限はなく、攪拌器を備えた槽型の重合器、ディスクリング反応器(disc ring reactor)、ケージ式反応器(cage type reactor)、溶融重合に続き固相重合を組み合わせて行なう重合設備等を挙げることができる。こうして得られた極限粘度が0.2dl/g以上の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は、一旦チップ状に成形した後、上記したガイド接触落下重合プロセス及び/または薄膜蒸発器に供給して、環状ダイマーを除去する処理を行うことも可能であるが、製造コスト及び製品品質の面から、極限粘度が0.2dl/g以上の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造する溶融重合設備の後に、本発明のガイド接触落下重合プロセス及び/または薄膜蒸発器を設置して溶融状態の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を連続的に供給しながら、環状ダイマー含有率が低減されたポリトリメチレンテレフタレート樹脂を連続的に抜き出す製造方法がより好ましい。
環状ダイマー生成指数(E)を改良する方法としては前記したように(i)ポリマーの高純度化や、(ii)特定の重合触媒の使用が好ましいが、(iii)重合触媒の失活等の方法も好ましく用いることが出来る。環状ダイマーを除去する処理を行う前の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂に対して予め樹脂中に含まれる触媒残渣の活性を低下させる操作を施した後、上記のガイド接触落下重合プロセス及び/または薄膜蒸発器に供給して環状ダイマーを除去する方法も可能である。
粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂中に含まれる触媒残渣の活性を低下させる方法は特に制限は無いが、具体的な方法としては、例えば極性化合物と接触させる方法がある。接触方法としては特に制限はなく、この処理によって触媒残渣の部分的あるいは完全失活が認められる方法であればよい。例えば、極性化合物を重合装置あるいは配管内に注入する方法、粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を極性化合物雰囲気に入れる方法、粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を溶融状態、固体状態、溶液状態、分散状態として、この中に極性化合物を注入、投入、含浸する方法などが挙げられる。触媒残渣の活性を効率良く低下させる為には、粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂と極性化合物を反応させる際の温度が50℃以上であることが好ましく、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは150℃以上である。このとき極性化合物は固体、液体、気体、臨界点以上の流体であってもよい。処理時間には制限はないが、処理時間が長くなると分子量の低下や分解、着色などの副反応を引き起こす可能性もあるので、できるだけ短時間に処理することが好ましい。通常は60分以内、より好ましくは30分以内である。
極性化合物としては、例えば酸素、窒素、リン、硫黄などのヘテロ原子を有するものであり、より好ましくは水素結合が可能な化合物である。このような化合物の具体例としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、グリセリン、エタノールアミン等のアルコール;リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリフェニル、フェニルホスホン酸等のリン化合物;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、塩化水素、硫酸等の酸;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、エチレンイミン等の含窒素化合物が挙げられるが、取り扱い性や毒性の観点から水及びリン化合物が好ましい。こうした極性化合物と粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を接触させるときの該極性化合物の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂に対する比率としては、特に制限はなく、通常は重量比で100000/1〜0.000001/1、好ましくは1000/1〜0.001/1であればよい。
本発明では、必要に応じて各種の添加剤、例えば艶消し剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、消泡剤、整色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、増白剤などを共重合または混合することが出来る。これらの添加剤は重合の任意の段階で導入することが出来る。特に、安定剤を重合の任意の段階で、好ましくはBHPTを重縮合する前に導入することによりPTTの白度や溶融安定性の向上や、アクロレイン、アリルアルコール等の生成を抑制でき好ましい。安定剤としては、5価または3価のリン化合物やヒンダードフェノール系化合物が好ましい。5価または3価のリン化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、フェニルホスホン酸、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、リン酸、亜リン酸等が挙げられ、特にトリメチルホスフェート及びフェニルホスホン酸及びリン酸が好ましい。リン化合物を重合の任意の段階、好ましくはBHPTを重縮合する前に導入することにより、環状ダイマーの生成に関わる重合触媒の活性をも低下させることが可能であり、本発明の環状ダイマー除去装置と組み合わせることによって、一層環状ダイマー含有率を低減する効果が発現するため好ましい。また、本発明の環状ダイマー除去装置を用いて製造されたポリトリメチレンテレフタレート樹脂に添加することも可能である。添加するリン化合物の量としては、PTT中に含まれるリン元素の重量割合として2〜250ppmであることが好ましく、より好ましくは5〜150ppmであり、更に好ましくは10〜100ppmである。ヒンダードフェノール系化合物は、フェノール系水酸基の隣接位置に立体障害を有する置換基を持つフェノール系誘導体であり、分子内に1個以上のエステル結合を有する化合物である。具体的には、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンゼン)イソフタル酸、トリエチルグリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を例示しうる。中でもペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。添加するヒンダードフェノール系化合物の量としては、得られるポリマーの重量に対して0.001〜1重量%であることが好ましく、より好ましくは0.005〜0.5重量%であり、更に好ましくは0.01〜0.1重量%である。これらの2種以上の安定剤を併用することも可能である。
本発明のポリトリメチレンテレフタレート樹脂を用いると、優れた強度、色調を示すとともに、成形品表面への環状ダイマーの析出が無く、塗料、糊剤の塗布性や、接着性に優れた成形品を工業的に安定して得ることが可能になる。また、本発明によれば該ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を工業的に安定して高生産性、低コストで製造出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例などにより何ら限定されるものではない。尚,実施例中の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)極限粘度
極限粘度[η]は、オストワルド粘度管を用い、35℃、o−クロロフェノールを用いて比粘度ηspと濃度C(g/100ml)の比ηsp/Cを濃度ゼロに外挿し、以下の式に従って求めた。

(2)結晶融点
結晶融点は米国Perkin Elmer社製Pyris 1 DSC(入力補償型示差熱量計)を用いて下記の条件にて測定し、結晶の融解に由来する吸熱ピークのピーク値を結晶融点とした。ピーク値は、上記のDSCに付属の解析ソフトを用いて決定した。
測定温度 : 0〜280℃
昇温速度 : 10℃/分
(3)分子量分布
分子量分布は、Mw(重量平均分子量)をMn(数平均分子量)で除した値Mw/Mnを用いた。MwとMnはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。測定条件は、日本国東ソー(株)製HLC−8120、及びカラムとして日本国昭和電工(株)製HFIP804−803(30cmカラム2本)、キャリアとしてヘキサフルオロイソプロパノールを用い、温度40℃、流量0.5ml/分で実施した。標準試料として英国ポリマーラボラトリー社製PMMA(ポリメチルメタクリレート)を用いて検量線を作成し測定した。標準PMMAの分子量は、620、1680、3805、7611、13934、24280、62591、186000のものを用いた。
(4)環状ダイマーの含有率(重量%)
環状ダイマーの含有率は、日本国日本電子(株)製高分解能FT−NMR JNM−A400を用いて、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂のプロトン測定により定量した。測定は、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂10mgを、NMR測定溶媒として米国Aldrich社製重水素化ヘキサフルオロイソプロパノール1mlに溶解し完全溶解して調整した試料を、25℃にて256回積算測定した。環状ダイマーの含有率(重量%)は、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂及び環状ダイマーの比重は同一であると見做し、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂に含まれる環状ダイマーのベンゼン環プロトンピーク(δ=7.66ppm)積分値の、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂のベンゼン環プロトンピーク(δ=8.15ppm)積分値と環状ダイマーのベンゼン環プロトンピーク積分値の合計に対する百分率として算出した。
(5)末端水酸基濃度(M)
末端水酸基濃度(M)(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)は、日本国日本電子(株)製高分解能FT−NMR JNM−A400を用いて、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂のプロトン測定により定量した。測定は、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂10mgを、NMR測定溶媒として米国Aldrich社製重水素化ヘキサフルオロイソプロパノール1mlに溶解し完全溶解して調整した試料を、25℃にて256回積算測定した。末端水酸基濃度(M)は、末端水酸基のα位のメチレンピーク(δ=3.86ppm)積分値を2で除した値の、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂のベンゼン環プロトンピーク積分値を4で除した値に対する百分率として算出した。
(6)260℃で溶融保持したときの環状ダイマーの再生成速度(W)(重量%/分)
(環状ダイマー含有率を低減する方法)
粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を粒径1mm以下に粉砕し、ソックスレー抽出器を用いてクロロホルムにより8時間抽出して環状ダイマーを除去した。抽出後の環状ダイマー含有率を評価したところ、0.05重量%以下に減少していることを確認した。
(粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を溶融保持する方法)
上記の方法により環状ダイマーの含有率を低減した後、環状ダイマー含有率を定量した粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂0.5gを、10mlガラスアンプル中に仕込み窒素雰囲気に置換した後、油浴にて260℃で、環状ダイマーの含有率が2重量%を越えない範囲で、所定溶融保持した後ドライアイス粉末にて急冷した。溶融保持後のポリトリメチレンテレフタレート試料の環状ダイマー含有率を測定し、(W)の値は、上記溶融保持処理によって再生成した環状ダイマーの1分間当りの増加重量の、ポリトリメチレンテレフタレート試料重量に対する百分率として算出した。
(7)色調(L値、b*値)
日本国スガ試験機(株)のカラーコンピューターを用いて測定した。
(8)インキ接着性
ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を、縦10cm、横10cm、厚み3mmの金型を用いて、260℃に加熱したホットプレスにより、平板状に成形した(溶融時間15分、成形時間5分、70℃冷却時間30分)。この成形体を100℃の温風乾燥機で48時間加熱処理した後、20℃、50%RHの条件下で24時間保持した。これをテトロン遅乾溶剤で希釈したPET用インキ(日本国十条ケミカル(株)製、PET9107白)で、T−270の刷版を用いて印刷を行い、100℃で80秒乾燥して20℃、50%RHの条件下で24時間保持した。このインキ皮膜部にカミソリの刃で、1mm間隔で10個×10個の碁盤目状の切れ込みを入れた上からセロテープを貼り付けて一気に剥がしたときに剥離せずに残った個数(A)を数えた。また、印刷を終えた成形体を100℃の温風乾燥機で100時間加熱処理した後、20℃、50%RHの条件下で24時間保持し、同じセロテープ剥離試験を行ったときに剥離せずに残った個数(B)を数えた。
製造例1
テレフタル酸ジメチル40kg、1,3−プロパンジオール24kg、チタンテトラブトキシド40gを、板状の撹拌羽根を備えた100リットルのオートクレーブに仕込み、220℃でメタノールを留去しながらエステル交換反応を行った。留出したメタノールの重量をモル数に換算し、以下の式によりエステル交換反応率を計算したところ、95%であった。

エステル交換反応終了後、リン酸11.5gを添加し、30分撹拌後、真空度40Pa、260℃にて1,3−プロパンジオールを留去しながら、4時間重縮合反応を行った。
反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、切断してペレットを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.65dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.62重量%であり、末端水酸基量(M)は2.38(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であり、260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー生成量は0.36(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり、環状ダイマーの再生成速度(W)=0.012(重量%/分)であり、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.005と算出された。
このように、チタン系化合物を触媒としてポリトリメチレンテレフタレートを重合する際、リン酸を添加することによって環状ダイマー生成指数(E)は0.005と極めて小さな値を示す。これに対して、従来のポリエステル製造技術で製造した場合、環状ダイマーの含有率は2.62重量%であり改良されていなかった。本発明者らの検討によると、重縮合反応初期のポリトリメチレンテレフタレートが10量体程度の時点で既に環状ダイマーの含有率は2.5重量%以上であることが確認されている。これは初期の末端水酸基量が多いために環鎖平衡に到達するまでの環状ダイマー生成速度が極めて大きいためであると考えられる。従来のポリエステル製造装置では環状ダイマー生成指数(E)が改良されていても、重合器内の反応液の液深が深いために、環状ダイマーを揮発させて除去することは極めて困難であることが分かった。
製造例2
テレフタル酸ジメチル40kg、1,3−プロパンジオール24kg、2−エチルヘキサン酸錫48gを、板状の撹拌羽根を備えた100リットルのオートクレーブに仕込み、220℃でメタノールを留去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応率を製造例1と同様に計算したところ、99%であった。
エステル交換反応終了後、真空度40Pa、260℃にて1,3−プロパンジオールを留去しながら、4時間重縮合反応を行った。
反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、切断してペレットを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.71dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.61重量%であり、末端水酸基量(M)は2.08(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であり、260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー生成量は1.00(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり、(W)=0.033(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.016と算出された。
このように、炭素原子と錫原子との直接結合を有さない錫化合物を触媒としてポリトリメチレンテレフタレートを重合することによって、環状ダイマー生成指数(E)は0.016と極めて小さな値を示した。また、更に重縮合触媒として高活性を示すことが確認された。
製造例3
テレフタル酸40kg、1,3−プロパンジオール24kgを、板状の撹拌羽根を備えた100リットルのオートクレーブに仕込み、触媒を添加することなく250℃で水を留去しながら直接エステル化反応を行った。留出した水の重量をモル数に換算し、以下の式によりエステル化反応率を計算したところ、96%であった。

エステル化反応終了後、真空度40Pa、260℃にて1,3−プロパンジオールを留去しながら、4時間重縮合反応を行った。
反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、粉砕してポリマーチップを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.31dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.59重量%であり、末端水酸基量(M)は6.88(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であり、260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー生成量は1.17(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり(W)=0.039(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.006と算出された。
このように、金属触媒を添加せずポリトリメチレンテレフタレートを重合することによって、環状ダイマー生成指数(E)は0.006と極めて小さな値を示した。
製造例4
テレフタル酸ジメチル40kg、1,3−プロパンジオール24kg、チタンテトラブトキシド80gを、板状の撹拌羽根を備えた100リットルのオートクレーブに仕込み、220℃でメタノールを留去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応率を製造例1と同様に計算したところ、98%であった。
エステル交換反応終了後、真空度40Pa、260℃にて1,3−プロパンジオールを留去しながら、4時間重縮合反応を行った。
反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、切断してペレットを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.72dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.61重量%であり、末端水酸基量(M)は2.08(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であった。
260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー含有率が2重量%を超えてしまうため、溶融保持時間を10分間として評価を行った。このときの環状ダイマー生成量は1.48(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり(W)=0.148(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.071と算出された。
このように、リン化合物を添加せずにチタン系化合物のみを触媒としてポリトリメチレンテレフタレートを重合した場合、環状ダイマー生成指数(E)は0.071と大きな値を示した。
製造例5
重縮合反応の時間を1.5時間とした以外、製造例1と同じ操作を行った。
反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、粉砕してポリマーチップを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.19dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.63重量%であり、末端水酸基量(M)は16.7(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であった。
260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー生成量が2重量%を超えてしまうため、溶融保持時間を10分間として評価を行った。このときの環状ダイマー生成量は0.84(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり、(W)=0.084(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.005と算出された。
このように、チタン系化合物を触媒としてポリトリメチレンテレフタレートを重合する際、リン酸を添加することによって、末端水酸基量(M)が極めて大きいポリトリメチレンテレフタレートであっても、環状ダイマーの再生成速度は比較的小さく、環状ダイマー生成指数(E)は0.005と製造例1と同等の値を与えた。
製造例6
製造例5で得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂のチップをさらにクラッシャーで微粉砕し、粒径1mm以下のパウダーとした。これを容量300リットルのタンブラー型固相重合機に仕込み、100リットル/hrの窒素を流しながら、205℃にて30時間、固相重合を行った。
得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度1.03dl/gであり、環状ダイマーの含有率は0.98重量%であり、末端水酸基量(M)は1.13(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であり、260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー生成量は0.18(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり、(W)=0.006(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.005と算出された。
このように、チタン系化合物を触媒としてポリトリメチレンテレフタレートを重合する際、リン酸を添加することによって、末端水酸基量(M)によらず環状ダイマー生成指数(E)は0.005と製造例1および製造例5と同等の値を与えた。
一方、固相重合法で製造されたことによって、分子量分布(Mw/Mn)は3.0と、他の溶融重合法で製造された粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂に比べ、大きな値であった。
製造例7
重縮合反応の時間を1時間とした以外、製造例4と同じ操作を行った。
反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、粉砕してポリマーチップを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.18dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.62重量%であり、末端水酸基量(M)は16.5(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であった。
260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー含有率が2重量%を超えてしまうため、溶融保持時間を5分間として評価を行ったが、やはり環状ダイマー含有率が2重量%を超えてしまうため、(W)の値および環状ダイマー生成指数(E)の評価は断念した。
製造例8
製造例7で得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂のチップをさらにクラッシャーで微粉砕し、粒径1mm以下のパウダーとした。これを容量300リットルのタンブラー型固相重合機に仕込み、100リットル/hrの窒素を流しながら、205℃にて25時間、固相重合を行った。
得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度1.02dl/gであり、環状ダイマーの含有率は0.92重量%であり、末端水酸基量(M)は1.13(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であった。260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー生成量が2重量%を超えてしまうため、溶融保持時間を10分間として評価を行った。このときの環状ダイマー生成量は0.80(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり、(W)=0.080(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.071と算出された。
このように、リン化合物を添加せずにチタン系化合物を触媒としてポリトリメチレンテレフタレートを重合した場合、末端水酸基量(M)が小さい粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂であっても、環状ダイマーの再生成速度は比較的大きく、環状ダイマー生成指数(E)は製造例4と同等の0.071と、大きな値を示した。
また、固相重合法で製造されたことによって、分子量分布(Mw/Mn)は2.9と、他の溶融重合法で製造された粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂に比べ、大きな値であった。
製造例9
エステル交換反応終了後、リン酸の代わりにフェニルホスホン酸40gを添加した以外、製造例1と同じ操作を行った。反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、切断してペレットを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.67dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.64重量%であり、末端水酸基量(M)は2.26(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であり、260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー生成量は1.83(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり、(W)=0.061(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.027と算出された。
このように、チタン系化合物を触媒としてポリトリメチレンテレフタレートを重合する際、フェニルホスホン酸を添加することによって環状ダイマー生成指数(E)は0.027と極めて小さな値を示した。
製造例10
予め1,3−プロパンジオール中に20gのフェニルホスホン酸を溶解した溶液を、180℃に加熱し攪拌しながら40gのチタンテトラブトキシドを滴下した後、さらに180℃の温度で30分間反応させることにより得た反応生成物をチタンテトラブトキシドの代わりに添加した以外、製造例1と同じ操作を行った。
反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、切断してペレットを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.55dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.61重量%であり、末端水酸基量(M)は3.10(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であった。260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー生成量が2重量%を超えてしまうため、溶融保持時間を10分間として評価を行った。このときの環状ダイマー生成量は0.71(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり(W)=0.071(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.023と算出された。
このように、チタン系化合物に対して予めフェニルホスホン酸を反応させて触媒とすることによって、製造例9に比べ環状ダイマー生成指数(E)はより改善されるが、重合触媒活性はやや低下する傾向が確認された。
製造例11
エステル交換反応終了後、リン酸の代わりに2,5−ジカルボキシルフェニルホスホン酸60gを添加した以外、製造例1と同じ操作を行った。
反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、切断してペレットを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.69dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.65重量%であり、末端水酸基量(M)は2.15(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であった。260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー生成量が2重量%に近い値であるため、溶融保持時間を10分間として評価を行った。このときの環状ダイマー生成量は0.67(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり(W)=0.067(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.031と算出された。
このように、チタン糸化合物を触媒としてポリトリメチレンテレフタレートを重合する際、フェニルホスホン酸を添加することによって環状ダイマー生成指数(E)は0.031と極めて小さな値を示した。
製造例12
触媒として2−エチルヘキサン酸錫の代わりにブチル錫酸60gを添加した以外、製造例2と同じ操作を行った。
反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、切断してペレットを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.72dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.66重量%であり、末端水酸基量(M)は2.08(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であり、260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー生成量は1.56(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり、(W)=0.052(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.025と算出された。しかしながら得られたペレットは他の製造例に比べて黄色く着色していた。
このように、炭素原子と錫原子との直接結合を有する錫化合物を触媒としてポリトリメチレンテレフタレートを重合することによって、環状ダイマー生成指数(E)は0.025と極めて小さな値を示した。重縮合触媒としても高活性を示したが、製品の色調は劣ることが確認された。
製造例13
触媒として、チタンテトラブトキシドの添加量を40gとした以外、製造例4と同じ操作を行った。
反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、切断してペレットを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.68dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.62重量%であり、末端水酸基量(M)は2.22(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であった。
260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー含有率が2重量%を超えてしまうため、溶融保持時間を10分間として評価を行った。このときの環状ダイマー生成量は1.33(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり、(W)=0.133(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.060と算出された。
このように、チタンテトラブトキシドの添加量を低減したことによって、重合活性は低下するものの、環状ダイマー生成指数(E)は0.060に低下した。
製造例14
触媒として、チタンテトラブトキシドの添加量を4gとした以外、製造例4と同じ操作を行った。
反応後、得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を反応釜底部からロープ状に押出し、切断してペレットを得た。得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は極限粘度0.44dl/gであり、環状ダイマーの含有率は2.61重量%であり、末端水酸基量(M)は4.44(トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%)であった。
260℃で30分間溶融保持した時の環状ダイマー含有率が2重量%を超えてしまうため、溶融保持時間を10分間として評価を行った。このときの環状ダイマー生成量は1.20(重量%/粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量)であり、(W)=0.120(重量%/分)、環状ダイマー生成指数(E)は、(W/M)=0.027と算出された。
このように、チタンテトラブトキシドの添加量をさらに低減したことによって、重合活性は大幅に低下するものの、環状ダイマー生成指数(E)は0.027に低下した。
【実施例1】
図1に示す装置を用いて、製造例1で製造した粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(プレポリマー)Aを、255℃に設定した押出機で溶融し、移送ポンプ2により原料供給口3より重合器1に供給し、255℃の溶融状態にて多孔板4の孔から、各孔当たり10g/分の量で吐出させた後、吐出温度と同じ雰囲気温度でガイド5に沿って落下させながら20Paの減圧度で重合させ、排出ポンプ9によって排出口10から抜き出してポリトリメチレンテレフタレート樹脂Bを得た。多孔板4は厚み50mmであり、直径1mmの孔が格子状に9個配列されていた。ガイド5は直径3mm、長さ5mの円形断面をしたステンレススチール製のワイヤー状のものを用いた。ガイド5は多孔板4の孔1つに対して1つ取り付けた。重合器底部にはポリマーがほとんど溜まらないように観察窓8から監視しながら排出ポンプ9を運転した。ポリマーの反応器内滞留時間は60分であった。ここで滞留時間は重合器内部のポリマー量を供給量により除した値を用いている。排出口10から排出されたポリマーは5℃の冷水に入れて固化した後カットして約20mg/個のペレットを得た。製品に含まれる粉状ポリマーは0.01重量%と少なく、またペレットの結晶化度は5%と低く、割れ欠けがおこりにくい取り扱い易いペレットであった。
重合の際、多孔板直下での激しい発泡による口金面の汚染が少ない一方、ワイヤー下部ではポリマーは高度に発泡しており、団子状になってワイヤーに沿って回転しながら落下する状況が観察された。その結果、高重合度、狭い分子量分布、低環状ダイマー含有率、良好な色調を有する均質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂のペレットが得られた。結果を表2に示す。
【実施例2〜7】
表2に示した条件以外は実施例1と同様にして重合を行った。結果を表2に示す。
実施例2〜7のいずれにおいても、多孔板直下での激しい発泡による口金面の汚染が少ない一方、ワイヤー下部ではポリマーの高度な発泡が観察された。
実施例4では、重合器圧力が20Paであると排出が困難な程度まで高重合度化したため、150Paとして重合を抑制した。また、固相重合法により製造したポリトリメチレンテレフタレートから、環状ダイマーを除去したことにより、従来固相重合法によっても製造出来なかった極めて環状ダイマー含有率が低いポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造が可能になった。
これらの実施例によって高重合度、狭い分子量分布、低環状ダイマー含有率、良好な色調を有する均質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂のペレットが得られた。
比較例1〜8
表2に示した条件以外は実施例1と同様にして重合を行った。結果を表2に示す。
比較例1の場合は、環状ダイマー生成指数(E)が0.071と大きく、低環状ダイマー含有率のポリトリメチレンテレフタレート樹脂は得られなかった。
比較例2および3の場合は、粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(プレポリマー)の極限粘度が0.18〜0.19dl/gと低すぎた為に、多孔板直下で激しく発泡し、口金面や重合器の内部が激しく汚染された。得られたポリマーには黒色の異物(熱劣化物)が多数混入しており、重合度も低くペレット化できなかった。
比較例4の場合は、製造例8で製造した、環状ダイマー含有率が0.92重量%のポリマーであったが環状ダイマー生成指数(E)が0.071と大きく、環状ダイマー含有率は低下するどころか増加してしまった。
比較例5の場合は、製造例12で製造した、触媒として炭素原子と錫原子との直接結合を有するブチル錫酸を重合触媒として製造した粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(プレポリマー)を重合したところ、色調が著しく悪いペレットが得られた。また、ブチル錫酸は化合物の毒性にも問題があるため好ましくない。
比較例6の場合は、重合温度が高すぎたために多孔板直下で激しく発泡し、口金面や重合器の内部が激しく汚染された。得られたポリマーには黒色の異物(熱劣化物)が多数混入した。また加熱により激しい着色が見られた。
比較例7の場合は、重合温度が低すぎたためにプレポリマーが固化し、多孔板から吐出することができなかった。
比較例8の場合は、重合器内を常圧としたため、重合度も、環状ダイマー含有率も改良されなかった。
【実施例8】
重合器の不活性ガス供給口6から表2に示した量の窒素ガスを導入した以外は、実施例1と同様にして重合を行った。実施例1と比較してワイヤー5全面に渡ってポリマー5’が高度に発泡しており、団子状になってワイヤーに沿って回転しながら落下する状況が観察窓8からの観察によって確認された。実施例1と比較してより高重合度、より低環状ダイマー含有率のペレットが得られた。結果を表2に示す。
【実施例9】
重合器の移送ポンプ2と、原料供給口3の間の配管に、表2に示した量の窒素ガスを導入するためのノズルと、ノズルの後に窒素ガスの吸収を促進させるためのスタティックミキサーを設置し、窒素ガスを導入した以外は実施例1と同様にして重合を行った。実施例8と比較して、微量の窒素ガスであるが、実施例8と同様にポリマー5’の高度な発泡と、高重合度、低環状ダイマー含有率のペレットが得られた。結果を表2に示す。
【実施例10】
図2の装置を用いて、原料としてテレフタル酸ジメチルと1,3−プロパンジオールを用いて、連続重合法により1日に約130kgのポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造した。エステル交換反応器11及び、第一、第二攪拌槽型重合器15、19にはパドル状攪拌翼(12、16、20)を有した縦型攪拌重合反応器を用い、次の重合器にはガイドとして直径3mmのワイヤーが縦方向に30mm、横方向に50mmの間隔で組み合わされたジャングルジム状のものを用いた以外は実施例1で用いたのと同じ重合器1を用いた。
重合は、1:1.5のモル比のテレフタル酸ジメチルと1,3−プロパンジオール、さらにテレフタル酸ジメチルに対して0.1重量%のチタンテトラブトキシドを触媒として含む原料混合物Cを、エステル交換反応器11に連続供給し、表2及び3の条件で重合を行った。この際、第一攪拌槽型重合器15に表3の条件でリン酸を連続供給した。また、安定運転期間中に重合器1の、原料供給口3の直近に設けたサンプリングノズル(図示しない)から、重合器1に供給される粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(プレポリマー)Aをサンプリングし特性を評価した。結果を表2に示す。
排出口から排出されたポリマーBは5℃の冷水に入れて固化した後カットして約20mg/個のペレットを得た。製品に含まれる粉状ポリマーは0.01重量%と少なく、またペレットの結晶化度は5%と低く、割れ欠けがおこりにくい取り扱い易いペレットであった。
重合の際、多孔板直下での激しい発泡による口金面の汚染が少ない一方、ワイヤー下部ではポリマー5’は高度に発泡しており、団子状になってワイヤーに沿って回転しながら落下する状況が観察された。
このような条件で2週間の連続運転を実施したところ期間中安定運転が可能であり、実験後、減圧排気口7と真空ポンプの間の配管内部を観察したが、閉塞に至るほどの環状ダイマーの析出は認められなかった。
2週間にわたって製品の特性を評価したが、期間中安定して、高重合度、狭い分子量分布、低環状ダイマー含有率、良好な色調を有する均質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂のペレットが得られた。結果を表2に示す。
【実施例11】
第一攪拌槽型重合器15に表3の条件でリン酸を連続供給した以外は、実施例10と同様にして重合を行った。
実施例10同様に、2週間の連続運転を実施したところ期間中安定運転が可能であり、実験後、減圧排気口7と真空ポンプの間の配管内部を観察したが、閉塞に至るほどの環状ダイマーの析出は認められなかった。
2週間にわたって製品の特性を評価したが、期間中安定して、高重合度、狭い分子量分布、低環状ダイマー含有率、良好な色調を有する均質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂のペレットが得られた。結果を表2に示す。
比較例9
製造例1で得られた粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂のペレットを容量300リットルのタンブラー型固相重合機に仕込み、100リットル/hrの窒素を流しながら、205℃にて72時間、固相重合を行った。
得られたポリトリメチレンテレフタレート樹脂を分析したところ、高重合度、低環状ダイマー含有率、良好な色調を有することが確認されたが、一方分子量分布は広く、また固相重合後のペレットには粉状ポリマーが1重量%付着しているうえ、結晶化度が55%と高いために脆く、フィーダーやニューマチックコンベアで移送する際に割れて粉末状ポリマーが多量に発生するものであった。
比較例10〜11
第一攪拌槽型重合器15に表3の条件でリン酸を連続供給した以外は、実施例10と同様にして重合を行った。
比較例10の場合は、リン酸の添加量が少なすぎたために環状ダイマー生成指数(E)が0.070と大きく、低環状ダイマー含有率のポリトリメチレンテレフタレート樹脂は得られなかったが、その他の重合度、分子量分布、色調の面では良好なペレットが得られた。しかしながら、このような条件で2週間の連続運転を実施したところ、減圧排気口7と真空ポンプの間の配管内部が、揮発した環状ダイマー析出物による閉塞傾向があり、5日毎に環状ダイマーを除去する必要があった。
比較例11の場合は、リン酸の添加量が多すぎたために重合触媒の活性が低下し、粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(プレポリマー)の極限粘度が0.17dl/gと低すぎた為に、多孔板直下で激しく発泡し、口金面や重合器の内部が激しく汚染された。得られたポリマーには黒色の異物(熱劣化物)が多数混入しており、重合度も低くペレット化できなかった。
【実施例12】
図3に示す装置を用いて、製造例1で製造した粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(プレポリマー)を、240℃に設定した押出機で溶融し、移送ポンプ24により原料供給口25から170g/分の量で薄膜蒸発器23に供給し、へら27を螺旋状に取り付けた回転軸26を300rpmの回転数で回転させることによって、溶融樹脂薄膜28を薄膜蒸発器の内壁面に形成するとともにその表面更新を行いながら、70Paの減圧度で環状ダイマーを揮発させて除去し、排出フィーダー30によって排出口29から供給樹脂と同じ速度でポリトリメチレンテレフタレート樹脂Bを抜き出した。
薄膜蒸発器23は、内径が15cm、長さが70cmの円筒状の装置であって、装置上下に回転軸受けと、薄膜蒸発器23の内壁に対し2mmのクリアランスを有するへら27が3個取り付けられた回転軸26(回転軸26を上から見て、回転軸26を中心に120°毎に3個のへらを配置した)が設置された構造を有する。
上記の条件では滞留時間は4.8分間であって、薄膜蒸発器23の空隙容積に占める溶融ポリトリメチレンテレフタレートの量は6.5体積%であり、溶融樹脂薄膜の膜厚が2mmであることから、溶融樹脂薄膜28が気相と接する面積を樹脂重量で除した値(樹脂−気相接触面積)は4.1cm/gと計算された。
排出口29から排出されたポリマーBは5℃の冷水に入れて固化した後カットして約20mg/個のペレットを得た。製品に含まれる粉状ポリマーは0.01重量%と少なく、またペレットの結晶化度は5%と低く、割れ欠けがおこりにくい取り扱い易いペレットであった。
ペレットを分析した結果、高重合度、狭い分子量分布、低環状ダイマー含有率、良好な色調を有する均質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂のペレットであることを確認した。結果を表4に示す。
【実施例13〜17】
表4に示した条件以外は実施例12と同様にして環状ダイマーの除去を行った。結果を表4に示す。
いずれの場合も高重合度、狭い分子量分布、低環状ダイマー含有率、良好な色調を有する均質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂のペレットが得られた。またこれらの操作中、減圧排気口33と真空ポンプの間の配管内部には殆ど環状ダイマーの析出は認められなかった。
実施例14では、固相重合法により製造した粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂から、薄膜蒸発器23によって環状ダイマーを除去したことにより、従来固相重合法では製造できなかった極めて環状ダイマー含有率の低いポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造が可能になった。
【実施例18】
薄膜蒸発器23の不活性ガス供給口32から表4に示した量の窒素ガスを導入した以外は、実施例12と同様にして環状ダイマーの除去を行った。実施例12と比較してより高重合度、より低環状ダイマー含有率のペレットが得られた。ペレットを分析した結果、狭い分子量分布、良好な色調を有する均質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂であることを確認した。結果を表4に示す。
【実施例19】
図2の装置の排出口10と、図3の薄膜蒸発器の移送ポンプ24を、255℃に温度調節した配管で接続し、実施例11の条件で1日に130kgのポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造し、溶融状態のまま薄膜蒸発器23に移送して環状ダイマーの除去を行った。本発明のガイド接触落下重合プロセス、薄膜蒸発器、及び特定の重合触媒種の使用技術を組み合わせたことによって、溶融重合法のみで、従来固相重合法ですら製造出来なかった、極めて環状ダイマー含有率の低いポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造が可能になった。ペレットを分析した結果、高重合度、狭い分子量分布、良好な色調を有する均質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂であることを確認した。結果を表4に示す。
【実施例20〜21】
表4の条件で、薄膜蒸発器23の回転数を変更した以外は実施例19と同様にしてポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造と環状ダイマーの除去を行った。回転数を上げることによって、より低環状ダイマー含有率のポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造が可能になった。ペレットを分析した結果、高重合度、狭い分子量分布、良好な色調を有する均質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂であることを確認した。結果を表4に示す。
比較例12
製造例3で製造した粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(プレポリマー)を用いた以外は実施例12と同様にして環状ダイマーの除去を行った。
プレポリマーの極限粘度が0.31dl/gと低すぎたために、薄膜蒸発器23内で激しく発泡し、薄膜蒸発器23の内部が激しく汚染された。得られたポリマーBには黒色の異物(熱劣化物)が多数混入しており、重合度も低くペレット化できなかった。結果を表4に示す。
比較例13〜15
表4に示した条件以外は実施例12と同様にして重合を行った。結果を表4に示す。
比較例13の場合は、重合温度が低すぎたためにポリトリメチレンテレフタレートが固化し、溶融薄膜の形成及び薄膜蒸発器23からの排出が出来なかった。
比較例14の場合は、減圧度が3000Paと不十分であったため、環状ダイマーの低減が不十分であった。
比較例15の場合は、環状ダイマー生成指数(E)が0.071と大きく、環状ダイマーの低減が不十分であった。これは、環状ダイマーが再生成する速度が大きいために薄膜蒸発器23内及び、排出するまでの配管滞留時間中に多量の環状ダイマーが再生成するためと推定される。また比較例15の操作中、減圧排気口33と真空ポンプの間の配管内部には揮発した環状ダイマーが多量に析出しており、長期間運転する際には環状ダイマーの除去が必要と考えられる。
【実施例22】
製造例1で製造した粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(プレポリマー)を、スクリュー径が30mmφ、L/D=50.9の、2つの減圧ゾーンを設けたベント付き二軸押出機を用いて、スクリュー回転数300rpm、樹脂温度250℃、2つの減圧ゾーンの真空度を両方とも1.3kPaとして、3.5kg/hrのフィード量で溶融押出しすることにより、環状ダイマーの除去を行った。このときの押出機の滞留時間をカラーペレットを用いて評価したところ、減圧ゾーンでの滞留時間は2分間、薄膜蒸発器23の空隙容積に占める溶融ポリトリメチレンテレフタレートの量は28体積%であり、シリンダーとスクリュー溝間の容積から樹脂が気相と接する面積を重量で除した値(樹脂−気相接触面積)は1.9cm/gと計算された。また、操作中の酸素の混入を防ぐ為にホッパーやペレット導入部を高純度窒素ガスでシールした上、ベント取り付け部は高温用液状ガスケットを塗布し目張りを行った。
排出されたポリマーBは、5℃の冷水に入れて固化した後カットして約20mg/個のペレットを得た。製品に含まれる粉状ポリマーは0.01重量%と少なく、またペレットの結晶化度は5%と低く、割れ欠けがおこりにくい取り扱い易いペレットであった。
ペレットを分析した結果、高重合度、狭い分子量分布、低環状ダイマー含有率、良好な色調を有する均質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂のペレットであることを確認した。結果を表4に示す。
比較例16
押出機のフィード量を10.0kg/hrとした以外、実施例22と同じ条件で環状ダイマーの除去を行った。このときの減圧ゾーンでの滞留時間は1.9分間、薄膜蒸発器23の空隙容積に占める溶融ポリトリメチレンテレフタレートの量は50体積%であり、シリンダーとスクリュー溝間の容積から樹脂が気相と接する面積を重量で除した値は1.5cm/gと計算された。
ペレットを分析した結果、環状ダイマーの低減は不十分であった。原因は定かではないが、発泡し膨張した溶融樹脂が減圧ゾーン内に充満し環状ダイマーの除去効率が低下していた可能性がある。
【実施例23】
製造例1で製造した粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂26gを、蓋部にへら型の撹拌棒を取り付けた回転軸と減圧配管が設置された、直径10cm、高さ10cmの円筒状のオートクレーブに仕込み、真空度を70Pa、溶融温度250℃、撹拌回転数100rpmの条件で、60分間環状ダイマーの除去を行った。操作中、酸素の浸入を防ぐ為に原料仕込み後、高純度窒素で10回置換を行った。また本体と蓋の接合部は高温用液状ガスケットを塗布し目張りを行った。
除去処理後、オートクレーブを急冷してポリマーを分析した結果、高重合度、狭い分子量分布、低環状ダイマー含有率、良好な色調を有する均質なポリトリメチレンテレフタレート樹脂であることを確認した。結果を表4に示す。
比較例17
製造例1で製造した粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の仕込み量を157gとした以外、実施例23と同じ条件で環状ダイマーの除去を行った。
ポリマーを分析した結果、環状ダイマーの低減は不十分であった。蒸発比表面積が不十分であったため環状ダイマーの除去効率が不十分になったと考えられる。結果を表4に示す。
【実施例24】
上記の製造例、実施例及び、比較例の方法で製造したポリトリメチレンテレフタレート樹脂をプレス成形し、インキ接着性を評価した。また、評価用の成形品を回収し粉砕したリサイクルポリマーチップを再びプレス成形したもののインキ接着性を評価した。また、これら射出成形品の環状ダイマー含有率を評価した。結果を表5に示す。
本発明のポリトリメチレンテレフタレート樹脂は、固相重合法で製造したポリトリメチレンテレフタレート樹脂にくらべ射出成形時の環状ダイマーの再生成速度が小さく、射出成形品中の環状ダイマーの含有率が低いうえ、他の低分子量不純物も溶融薄膜状態で揮発除去されたためにインキ接着性が大幅に改善されたものと考えられる。







【産業上の利用可能性】
本発明のポリトリメチレンテレフタレート樹脂を用いて成形品を製造すると、優れた強度、色調を示すだけでなく、成形品表面への環状ダイマーの滲み出しが無く、そのため塗料、糊剤の塗布性や、接着性に優れた成形品を工業的に安定して得ることが可能になる。また、本発明の方法によれば、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を工業的に安定して高生産性で製造することが可能になる
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリメチレンテレフタレート繰返単位(a)60〜100モル%、及び
該トリメチレンテレフタレート繰返し単位を得るのに用いた単量体以外であり且つ該トリメチレンテレフタレート繰返し単位を得るのに用いた単量体の少なくとも1つと共重合可能である単量体に由来する少なくとも1種の単量体単位(b)0〜40モル%
からなり、
該繰返単位(a)と単量体単位(b)との合計モル量が100モル%であって、
下記(A)〜(D)の特性を有するポリトリメチレンテレフタレート樹脂。
(A)極限粘度[η]が0.6〜4dl/gであり;
(B)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnで表される分子量分布が2〜2.7であり;
(C)下記式(1):

で表される環状ダイマーの含有率が、2重量%以下であり;
(D)明度指数L値が70〜100、クロマティックネス指数b*値が−5〜25である。
【請求項2】
下記式(2)で表される結晶化度Xcが40%以下のペレットであることを特徴とする、請求項1に記載のポリトリメチレンテレフタレート樹脂。
Xc(%)={ρ×(ρ−ρ)}/{ρ×(ρ−ρ)}
×100 (2)
(式中、 ρは、トリメチレンテレフタレートホモポリマーの非晶密度1.300g/cmであり、ρは、トリメチレンテレフタレートホモポリマーの結晶密度1.431g/cmであり、ρは該ペレットの密度(g/cm)を表す。)
【請求項3】
以下の工程(1)及び(2)を包含することを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
(1)溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂を提供する工程であって、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂は、
トリメチレンテレフタレート繰返単位(a)60〜100モル%、及び
該トリメチレンテレフタレート繰返単位を得るのに用いた単量体以外であり且つ該トリメチレンテレフタレート繰返し単位を得るのに用いた単量体の少なくとも1つと共重合可能である単量体に由来する少なくとも1種の単量体単位(b)0〜40モル%、
からなり、
該繰返単位(a)と単量体単位(b)との合計モル量が100モル%であって、
下記式(1):

で表される環状ダイマーを更に含み、
極限粘度[η]が0.2〜4dl/gであって、かつ下記式(3)で表される環状ダイマー生成指数(E)が0.066未満である。
E=W/M (3)
(式中、Mは、該トリメチレンテレフタレート単位の合計モル量に対するモル%として表される、該粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の末端水酸基量を表し、Wは、環状ダイマーの含有率を0.1重量%以下に低減した溶融状態の粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を、窒素雰囲気下、260℃で溶融状態に保持した際に再生される環状ダイマーの重量%/分として表される、環状ダイマーの再生成速度を表す。)
(2)減圧下にて、該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂から、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の重量に対して0.5重量%以上の該環状ダイマーを揮発させて除去する工程。
【請求項4】
該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の環状ダイマー生成指数(E)が0.033未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(1)で提供される該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂の極限粘度[η]が0.2〜2dl/gであって、工程(2)における該環状ダイマーの除去を、該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂を、多孔板と該多孔板に関連して設けられた少なくとも1つのガイドを有するガイド接触落下重合反応器に連続的に供給し、減圧下、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の結晶融点以上、290℃以下の温度にて、該少なくとも1つのガイドに沿って落下せしめ、その落下中に該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の重合を行なうと同時に該環状ダイマーを揮発させ、得られたトリメチレンテレフタレート樹脂を連続的に抜き出すことを含む方法によって行うことを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
工程(1)で提供される該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂の極限粘度が0.6〜4dl/gであって、工程(2)において、下記(a)〜(d)の条件下で、へらまたはスクリューが設置された薄膜蒸発器を用いて該環状ダイマーを除去することを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
(a)該薄膜蒸発器の内部圧力が2.6kPa以下の減圧であり、
(b)該へらまたはスクリューによって該薄膜蒸発器の内壁に溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂の薄膜を形成するとともに、該粗トリメチレンテレフタレート樹脂の表面更新を行い、
(c)該溶融状態の粗トリメチレンテレフタレート樹脂薄膜の、溶融状態のトリメチレンテレフタレート樹脂の該薄膜が薄膜蒸発器内の気相と接する面積を、該薄膜蒸発器内に存在する粗トリメチレンテレフタレート樹脂の重量で除して得られる、樹脂−気相接触面積が1cm/g以上であり、
(d)該薄膜蒸発器中における該粗ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の量が、該薄膜蒸発器の内容積に対して40体積%以下である。
【請求項7】
該粗トリメチレンテレフタレート樹脂が、少なくとも1種のチタン系化合物と、リン酸、リン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸エステル及び下記式(4)で表されるリン化合物から選ばれる少なくとも1種のリン化合物とを含む触媒の存在下で重縮合反応を行なうことによって製造され、
該少なくとも1種のチタン系化合物と該少なくとも1種のリン化合物を、リン/チタン原子比が0.01〜10の範囲となる量で用いることを特徴とする、請求項3〜6のいずれかに記載の方法。

(式中、mは1又は2であり、かつ

を表し、nは0〜3の整数である。)
【請求項8】
該粗トリメチレンテレフタレート樹脂が、少なくとも1種の、炭素−錫結合を有さない錫化合物を含む触媒の存在下で重縮合反応を行なうことにより製造されることを特徴とする、請求項3〜7のいずれかに記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/065451
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508113(P2005−508113)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000522
【国際出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
セロテープ
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】