説明

ポリヌクレオチドの合成法

【課題】 望ましい鎖長を有する一重鎖ポリヌクレオチド、或いは二重鎖ポリヌクレオチドの酵素的合成法を提供することを課題とする。
【解決手段】基質としてポリリボヌクレオチドフォスフォリラーゼ(PNP)を用い、基質に対して適当量のオリゴAをプライマーとして添加することによる望ましい鎖長の一重鎖ポリヌクレオチドを製造する方法であり、望ましい鎖長が200〜500塩基対であり、オリゴAの量が、基質の1/10〜1/100の濃度であることを特徴とするポリヌクレオチドを製造する方法であり、合成されるポリヌクレオチドが、Poly(I)又はPoly(C)或いはPoly(I:C)である合成法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヌクレオチドの合成法にかかり、詳細には、プライマーとしてオリゴAを用いることによるPoly(I)、Poly(C)、或いはPoly(I:C)などについて、望ましい分子量、すなわち鎖長を有するポリヌクレオチドの合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
二重鎖ポリヌクレオチドであるPoly(I:C)は、或いは、一重鎖ポリヌクレオチドであるPoly(I)、Poly(C)は種々の薬理作用を発揮し、近年その薬理作用に基づく応用性が注目されている。
特に、IgA抗体を誘導する経鼻投与アジュバントとして一重鎖ポリヌクレオチドであるPoly(I)又はPoly(C)、さらに二重鎖ポリヌクレオチドとしてのPoly(I:C)又はPoly(A:C)について注目がもたれている(特許文献1)。
【0003】
Poly(I:C)の合成方法にあっては、化学的合成法と酵素的合成法があり、それぞれ長所及び短所がある。例えば、化学的合成法では、Poly(I:C)の構成成分であるPoly(I)及びPoly(C)について予め定められた鎖長の分子を合成することができ、ほぼ同じ長さをもつPoly(I)及びPoly(C)をアニーリング(annealing)させることで、均一の二重鎖Poly(I:C)を作成することができる利点を有している。
しかしながら、必要とされる鎖長としての200−mer以上のPoly(I)やPoly(C)を合成するには、多量の出発物質を必要とし、またその製造コストは膨大なものとなる。
【0004】
一方、酵素的合成法は比較的安価にPoly(I)及びPoly(C)を合成することができるが、それぞれの鎖長のコントロールが困難であり、非常に広範囲の分子量分布を持つ一重鎖のPoly(I)及びPoly(C)が合成されてくる。したがって、そのようなPoly(I)及びPoly(C)をアニーリングさせると、相補的に二重鎖を形成する部分以外にどちらかの鎖が余分になりフリーとなる。その結果、その部分に相補的な一重鎖が結合し、低分子のものから、非常に巨大な分子までの分子量分布の広い二重鎖が形成されることになる。そのため、得られた巨大Poly(I:C)を含む溶液は粘度が高くなり、容易に限外濾過膜を通過しない問題が生じ、精製をすることが困難のものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−07703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は上記の現状を鑑み、問題点を解決した望ましい鎖長を有する一重鎖ポリヌクレオチド、或いは二重鎖ポリヌクレオチド、特にPoly(I)、Poly(C)並びにPoly(I:C)の合成法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するための本発明は、具体的には以下の構成からなる。
(1)基質に対して適当量のオリゴAを添加することによる望ましい鎖長の一重鎖ポリヌクレオチドを製造する方法。
(2)望ましい鎖長が200〜500塩基対である上記1に記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
(3)オリゴAの量が、基質の1/10〜1/100の濃度であることを特徴とする上記1又は2に記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
(4)基質がポリリボヌクレオチドフォスフォリラーゼ(PNP)である上記1、2又は3に記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
(5)5’末端に一定の塩基を付加することによりランダムなアニーリングを防ぎ、望ましい鎖長の二重鎖ポリヌクレオチドを製造する方法。
(6)一重鎖ポリヌクレオチドが、Poly(I)又はPoly(C)である上記1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
(7)二重鎖ポリヌクレオチドがPoly(I:C)である上記5に記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
(7)オリゴAが、pApA(n=2)、pApApA(n=3)、pApApApA(n=4)、ApA(n=2)又はApApA(n=4)である上記1に記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
(但し、Aはアデニンヌクレオチドを示し、pはリン酸基を示す)
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明が提供する、これまで高価な化学的な製造方法により合成されていた一重鎖ポリヌクレオチドであるPoly(I)又はPoly(C)、或いは二重鎖ポリヌクレオチドであるPoly(I:C)を、簡便な方法により安価に合成し得る利点を有している。
また、本発明法による合成されるポリヌクレオチドは望ましい鎖長を有するものであり、低分子のものから、非常に巨大な分子までの分子量分布の広い二重鎖が形成される酵素的合成法に比較して、ほぼ同じ長さをもつPoly(I)及びPoly(C)をアニーリング(annealing)させることで、均一の二重鎖Poly(I:C)を作成することができる利点を有している。
【0009】
したがって、インフルエンザウイルスに対するワクチン療法におけるIgA抗体を誘導する経鼻投与アジュバントとしてのPoly(I)又はPoly(C)、更には、Poly(A:C)を安価に提供し得ものであり、その産業上の利点は多大なものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のPoly(I)並びにPoly(A)の具体的製造法を示した物である。
【図2】実施例2により得られたPoly(A)の分布を示した図である。
【図3】実施例2により得られたPoly(G)の分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者等は、経済的に効率的な酵素法を用いることにより、合成される一重鎖のPoly(I)およびPoly(C)の分子量を制限することにより、最終的に得られ二重鎖Poly(I:C)をある一定の分子量範囲に収めることを目的とし、一重鎖Poly(I)およびPoly(C)を効率よく合成する方法検討した。
【0012】
その結果、ポリリボヌクレオチドフォスフォリラーゼ(PNP)はリボ核酸二ヌクレオチドを基質としてポリリボ核酸を合成するのに用いられている。このPNPはオリゴAなどのプライマーを用いることで、その反応速度が数倍から10倍以上速くなることが知られており、この反応速度の違いを利用して、ポリリボ核酸を合成しようと試みた。
その結果、PNPを基質として用いることにより、酵素反応は選択的にプライマーを取り合うことなり、同時に起こるプライマーを利用しない反応はゆっくり進むので、大部分の基質を消費したところで、できるポリリボ核酸は短鎖のものと長鎖のものの混合物となることを確認した。
【0013】
しかしながら、従来の酵素法と異なり、低分子から高分子まで一様に分布するものでなく、低分子のものとある一定の鎖長をもつ高分子のものとの混合物となる。これを分子篩等の方法で分離することにより分子量分布の狭いポリリボ核酸を得ることができることことを確認した。
したがって、かかる方法を用いて、特異的な薬理作用をもつ望ましい分子量分布の限られたPoly(I:C)を製造することが可能となった。
その具体的方法の実際を図示すれば、図1に示したようにまとめられる。
【実施例】
【0014】
以下に本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
【0015】
実施例1:
反応組成として以下のものを使用した。
Tris-HCl(pH9.5) 74mM
EDTA 0.67mM
塩化マグネシウム 53mM
NDP(ヌクレオチド二リン酸) 6.6mM
ApApA(プライマー) 0.07mM
Enzyme 200units
全 量 200μL
反応条件としては、65℃にて60分間反応させた。
【0016】
所望の反応時間後、過剰のCDTA又は酢酸を添加して反応を終了させ、アガロース電気泳動にて分子量分布を調べた。
その電気泳動の結果から、分子量ピークの分布は、約200塩基対(ヌクレオチド)であり、±1σでは300〜700塩基対(ヌクレオチド)であった。
なお、プライマーとしてオリゴAを用いないで反応させた場合には、反応速度が遅く、生成されるポリヌクレオチドの分子量分布が広く、±1σに相当する分子量分布は、約50〜1700塩基対(ヌクレオチド)であった。
実施例2:
【0017】
同様の方法により、ADPからPoly(A)を合成し、その蔗糖密度勾配遠心法で分析したものを図2として示した。
また、同様の方法により、GDPからPoly(G)を合成し、その蔗糖密度勾配遠心法で分析したものを図3として示した。
図2から判明するように、Poly(A)のピークは約7sであり、200程度の塩基対(ヌクレオチド)であった。
また、図3から判明するように、Poly(G)のピークは約8sであり、300程度の塩基対(ヌクレオチド)であった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
発明により、これまで高価な化学的な製造方法により合成されていた一重鎖ポリヌクレオチドであるPoly(I)又はPoly(C)、或いは二重鎖ポリヌクレオチドであるPoly(I:C)を、簡便な方法により安価に合成される。
本発明が提供するポリヌクレオチドは、望ましい分子量としての鎖長を有するものであり、品質も良好なものであることから、インフルエンザウイルスに対するワクチン療法におけるIgA抗体を誘導する経鼻投与アジュバントとしてのPoly(I)又はPoly(C)、更には、Poly(I:C)を安価に提供し得ものである。
したがって、その産業上の利点は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質に対して適当量のオリゴAを添加することによる望ましい鎖長の一本鎖ポリヌクレオチドを製造する方法。
【請求項2】
望ましい鎖長が200〜500塩基対である請求項1に記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
【請求項3】
オリゴAの量が、基質の1/10〜1/100の濃度であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
【請求項4】
基質がポリリボヌクレオチドフォスフォリラーゼ(PNP)である請求項1、2又は3に記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
【請求項5】
5’末端に一定の塩基を付加することによりランダムなアニーリングを防ぎ、望ましい鎖長の二本鎖ポリヌクレオチドを製造する方法。
【請求項6】
一本鎖ポリヌクレオチドが、Poly(I)又はPoly(C)である請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
【請求項7】
二本鎖ポリヌクレオチドがPoly(I:C)である請求項5に記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
【請求項8】
オリゴAが、pApA(n=2)、pApApA(n=3)、pApApApA(n=4)、ApA(n=2)又はApApA(n=4)である請求項1に記載のポリヌクレオチドを製造する方法。
(但し、Aはアデニンヌクレオチドを示し、pはリン酸基を示す)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−55719(P2011−55719A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205946(P2009−205946)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(501369617)
【Fターム(参考)】