説明

ポリヌクレオチドの多重増幅

【課題】多重様式における目的のポリヌクレオチド配列を増幅するための方法、試薬およびキットを提供すること。
【解決手段】本発明は、ポリヌクレオチドまたはサンプルを分析するのに適切な種々のアッセイを実施するための方法、試薬およびキットを提供する。この種々のアッセイとしては、多重様式で実施される増幅工程が含まれる。また増幅の効率を分析するおよび改善するための方法ならびに遺伝子発現の分析を実施するための方法も提供される。本発明の方法の一つによると、一以上のポリヌクレオチドは、複数の増幅プライマー対またはセットを使用して増幅され、これら複数の増幅プライマー対またはセットの各々は、別々の目的のポリヌクレオチド配列を増幅するのに適し、または作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1.関連する同時係属出願に対する相互参照)
本出願は、米国特許法第119条(e)の下、出願番号第60/431,156号(2002年12月4日出願)および出願番号_____(「MULTIPLEX AMPLIFICATION OF POLYNUCLEOTIDES」と題され、2003年11月25日出願)(代理人整理番号P−71902−1)についての優先権の利益を主張し、これらの開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(2.発明の分野)
本発明は、分子生物学の分野に関連し、そして特に多重様式で目的のポリヌクレオチド配列を増幅するための方法、試薬およびキットを提供する。一旦増幅されると、この多重増幅産物は、さらなる精製または操作を伴わず下流の分析に使用され得る。
【背景技術】
【0003】
(3.発明の背景)
ポリメラーゼ連鎖反応を使用する核酸の増幅のための一般的な原則および条件は、当該分野において周知である(例えば、特許文献1;特許文献2;および特許文献3)。組織サンプル由来の核酸の増幅は、疾患の状態を診断および予後の決定の両方についての貴重な情報供給源、ならびに遺伝的な障害(一塩基多型(SNP)、異常遺伝子の発現、染色体および遺伝子の再配列、転座および/または選択的スプライシング、ならびに染色体の重複/除去を含む)と関連付ける能力を示す。しかし、従来のポリメラーゼ連鎖反応の方法は、PCR反応(例えば、一重PCR)ごとに単一のDNA標的種のみの増幅を可能とする。例えば、目的の10,000個の標的配列の増幅は、代表的に従来のPCR手順に基づいて10,000個の別々のポリメラーゼ連鎖反応を必要とする。この従来のアプローチは、時間を消費することおよび費用がかかることが判明している。従って、サンプルに由来する標的配列を増幅する改善された方法に対する必要性が当該分野において存在し、ここで任意の複数の標的配列は、多重様式において同一の反応条件の下で同時に増幅され得る。
さらに、特定の下流のアッセイ(例えば、アレイベースのアッセイおよび定量的PCRアッセイ)は、適切な分析を実施するためのかなり大量の標的核酸の開始サンプルを必要とする。限られた量の開始サンプルのみが、使用に利用可能である場合において、一または少数の下流分析のみが、サンプルが使い果たされる前に実施され得る。従って、実施されるべき種々の下流アッセイを可能にするために、必要に応じて同時に、比較的短時間で目的のサンプルについての種々の情報を提供するために、開始物質の量を増幅する、または有意に増加する方法に対する必要性が当該分野において存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,683,195号明細書
【特許文献2】米国特許第4,683,202号明細書
【特許文献3】米国特許第4,965,188号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(4.発明の要旨)
種々の実施形態において、本発明は、多重様式における目的のポリヌクレオチド配列を増幅するための方法、試薬およびキットを提供する。本発明の方法の一つの実施形態によると、一以上のポリヌクレオチドは、複数の増幅プライマー対またはセットを使用して増幅され(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(「RT−PCR」により)、これら複数の増幅プライマー対またはセットの各々は、別々の目的のポリヌクレオチド配列を増幅するのに適し、または作用する。増幅プライマーの一対またはセットを用いて実施され、そのため単一の増幅された配列(「アンプリコン」)を産生する従来の増幅反応とは異なり、本発明の多重増幅方法は、複数の増幅プライマーの対またはセットを利用する利点により、単一の反応において複数の別々の目的の配列の同時増幅を可能とする。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
サンプル内の目的の標的遺伝子配列の発現を定量するための方法であって、該方法は、以下:
(i)目的の標的遺伝子配列を増幅するのに適した複数の増幅プライマーセットの存在下において、および増幅した標的遺伝子配列の領域に相補的な少なくとも一つのオリゴヌクレオチドプローブの存在下において、ポリメラーゼ連鎖反応によるサンプルに由来する一以上のcDNA分子を増幅する工程であって、該少なくとも一つのオリゴヌクレオチドプローブは、必要に応じて時間の関数として該増幅反応をモニタするのに適した標識系により標識される工程、ならびに
(ii)工程(i)において増幅された該標的遺伝子配列を定量する工程、
を包含する、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、前記工程(i)の増幅はさらに、前記ポリメラーゼ連鎖
反応が、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応であるように、逆転写酵素の存在下において実施され、そして前記一以上のcDNA分子は、前記サンプルに由来するmRNAから得られる、方法。
(項目3)
項目1に記載の方法であって、前記一以上のcDNA分子は、cDNAライブラリーを
含む、方法。
(項目4)
項目1に記載の方法であって、前記定量する工程は、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反
応増幅法、DNAマイクロアレイハイブリダイゼーション分析法、電気泳動法およびクロマトグラフィー法からなる群の少なくとも一つより選択される方法による分析を包含する、方法。
(項目5)
項目1に記載の方法であって、前記工程(i)のポリメラーゼ連鎖反応は、前記増幅が
、直線的な範囲にあり続けるように複数のサイクルで実施される、方法。
(項目6)
項目1に記載の方法であって、前記工程(i)における増幅は、熱安定性DNAポリメ
ラーゼにより達成される、方法。
(項目7)
項目1に記載の方法であって、前記少なくとも一つのオリゴヌクレオチドプローブは、
検出可能なシグナルを産生することが可能な部分により標識される、方法。
(項目8)
項目7に記載の方法であって、前記標識は、フルオロフォアである、方法。
(項目9)
項目7に記載の方法であって、前記少なくとも一つのオリゴヌクレオチドプローブは、
5’−エキソヌクレアーゼプローブ、ステム−ループ状ビーコンプローブおよびステムレス状ビーコンプローブからなる群より選択される、方法。
(項目10)
項目1に記載の方法であって、前記少なくとも一つのオリゴヌクレオチドプローブは、複数のオリゴヌクレオチドプローブを含み、該複数のオリゴヌクレオチドプローブの各々は、別々の増幅された目的の標的遺伝子配列の領域に相補的である、方法。
(項目11)
項目10に記載の方法であって、前記工程(i)の生成物は、複数のアリコートに分配
され、そして前記工程(ii)における定量する工程は、該アリコートで実施される、方法。
(項目12)
項目11に記載の方法であって、前記アリコートの数は、多重増幅に使用されるプライ
マー対の数と等しい、方法。
(項目13)
項目12に記載の方法であって、工程(ii)は、複数の前記標的配列の一つを増幅す
るのに適した増幅プライマーセットの存在下においてポリメラーゼ連鎖反応により各アリコートにおける前記生成物を増幅する工程を包含する、方法。
(項目14)
項目13に記載の方法であって、前記工程(ii)における増幅工程はさらに、異なる
増幅された目的の標的遺伝子配列の領域に相補的なオリゴヌクレオチドプローブの存在下において実施され、ここで工程(ii)における各プローブは、工程(i)における一つの該オリゴヌクレオチドプローブを含む、方法。
(項目15)
項目12に記載の方法であって、前記工程(i)の増幅プライマーセットの前記配列は
、前記工程(ii)の増幅プライマーセットの前記配列と同一である、方法。
(項目16)
項目11に記載の方法であって、前記工程(ii)における増幅工程はさらに、分子の
存在下において実施され、該分子は、二本鎖ポリヌクレオチドに結合する場合、時間の関数として前記増幅反応をモニタするのに適した検出可能なシグナルを産生する、方法。
(項目17)
項目16に記載の方法であって、前記分子は、インターカレートする色素および小さい
方の溝に結合する色素からなる群より選択される、方法。
(項目18)
項目17に記載の方法であって、前記分子は、SYBR(登録商標)グリーンIおよび
エチジウムブロマイドからなる群より選択される、方法。
(項目19)
サンプル内の遺伝子発現のプロフィールを決定するための方法であって、該方法は、以下:
(i)該サンプルに由来する一以上のcDNA分子を、目的の標的遺伝子配列を増幅するのに適した複数の増幅プライマーセットの存在下においてポリメラーゼ連鎖反応により増幅させる工程;
(ii)選択したレベルよりも大きな観察された増幅効率を有する増幅した標的遺伝子配列を同定;および
(iii)遺伝子発現プロフィールを得るために、工程(ii)において同定された該標的遺伝子配列を定量する工程、
の工程を包含する、方法。
(項目20)
項目19に記載の方法であって、前記工程(i)の増幅はさらに、前記ポリメラーゼ連
鎖反応が、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応であるように、逆転写酵素の存在下において実施され、そしてここで前記一以上のcDNA分子は、前記サンプルに由来するmRNAから得られる、方法。
(項目21)
項目19に記載の方法であって、前記一以上のcDNA分子は、cDNAライブラリー
を含む、方法。
(項目22)
項目19に記載の方法であって、前記選択したレベルは、70%である、方法。
(項目23)
項目19に記載の方法であって、前記選択したレベルは、90%である、方法。
(項目24)
項目19に記載の方法であって、前記定量する工程は、リアルタイムポリメラーゼ連鎖
反応増幅法、DNAマイクロアレイハイブリダイゼーション分析法、電気泳動法およびクロマトグラフィー法からなる群の少なくとも一つより選択される方法による分析法を包含する、方法。
(項目25)
項目19に記載の方法であって、前記工程(i)における増幅工程はさらに、増幅した
目的の標的遺伝子配列の領域に相補的なオリゴヌクレオチドプローブの存在下において実施され、該プローブは、時間の関数として工程(i)における該増幅反応をモニタするのに適切な標識系により標識される、方法。
(項目26)
項目19に記載の方法であって、前記工程(i)の生成物は、複数のアリコートに分配
され、そして前記工程(ii)における定量工程は、該アリコートで実施される、方法。(項目27)
項目26に記載の方法であって、工程(ii)は、複数の前記標的配列の一つを増幅す
るのに適した増幅プライマーセットの存在下において、ポリメラーゼ連鎖反応により一以上に分けたアリコートにおいて前記生成物を増幅する工程を包含する、方法。
(項目28)
項目27に記載の方法であって、前記工程(i)の増幅プライマーセットの配列は、前
記工程(ii)の増幅プライマーセットの配列と同一である、方法。
(項目29)
項目27に記載の方法であって、前記工程(ii)における増幅する工程はさらに、分
子の存在下において実施され、該分子は、二本鎖ポリヌクレオチドに結合する場合、時間の関数として前記増幅反応をモニタするのに適した検出可能なシグナルを産生する、方法。
(項目30)
項目29に記載の方法であって、前記分子は、インターカレートする色素および小さい
方の溝に結合する色素からなる群より選択される、方法。
(項目31)
項目30に記載の方法であって、前記分子は、SYBR(登録商標)グリーンIおよび
エチジウムブロマイドからなる群より選択される、方法。
(項目32)
項目27に記載の方法であって、前記工程(i)のポリメラーゼ連鎖反応は、前記増幅
が、直線的な範囲にあり続けるように複数のサイクルで実施される、方法。
(項目33)
目的の複数の標的配列を生成する方法であって、該方法は、以下:
目的の標的配列を増幅するのに適した複数の増幅プライマーの存在下において、および増幅した目的の標的配列の領域に相補的な少なくとも一つのオリゴヌクレオチドプローブの存在下において、一以上の標的ポリヌクレオチドをポリメラーゼ連鎖反応により増幅する工程であって、該オリゴヌクレオチドプローブは必要に応じて、時間の関数として増幅反応をモニタするのに適した標識系により必要に応じて標識される、工程
を包含する、方法。
(項目34)
項目33に記載の方法であって、前記少なくとも一つのオリゴヌクレオチドプローブは
、複数のオリゴヌクレオチドプローブを含み、該複数のオリゴヌクレオチドプローブの各々は、増幅した目的の標的配列の領域に相補的である、方法。
(項目35)
項目33に記載の方法であって、前記増幅の生成物はさらに、単一のポリヌクレオチド
の多形成分析、遺伝子型分析、遺伝子発現分析、フィンガープリント分析、遺伝子診断のための遺伝子変異の分析、細胞において稀に発現される遺伝子の分析、核酸の配列決定、核酸のミニ配列決定、および遺伝子発現分析からなる群より選択される少なくとも一つのアッセイに供される、方法。
(項目36)
項目33に記載の方法であって、前記増幅の生成物はさらに、クロマトグラフィー法、
電気泳動法および色素またはハイブリダイゼーションプローブを用いた染色法からなる群より選択される少なくとも一つのアッセイに供される、方法。
(項目37)
項目33に記載の方法であって、前記増幅の前記生成物は、複数のアリコートへ分配さ
れる、方法。
(項目38)
項目35に記載の方法であって、前記増幅の前記生成物は、複数のアリコートへ分配さ
れ、そしてここで前記少なくとも一つのアッセイは、少なくとも一つの該アリコートで実施される、方法。
(項目39)
項目38に記載の方法であって、前記アリコートの数は、前記増幅する工程において使
用されるプライマー対の数と等しい、方法。
(項目40)
目的の複数の異なる標的配列を産生する方法であって、該方法は、以下:
目的の標的配列を増幅するのに適した複数の増幅プライマーの存在下において、および二重鎖ポリヌクレオチドに結合した場合、検出可能なシグナルを産生する分子の存在下において、一以上の標的ポリヌクレオチドをポリメラーゼ連鎖反応により増幅する工程であって、該分子は、時間の関数として該増幅反応をモニタするのに適し、それによって複数の標的配列を生成する、工程を包含する、方法。
(項目41)
項目40に記載の方法であって、前記分子は、インターカレートする色素および小さい
方の溝に結合する色素からなる群より選択される、方法。
(項目42)
項目41に記載の方法であって、前記分子は、SYBR(登録商標)グリーンIおよび
エチジウムブロマイドからなる群より選択される、方法。
(項目43)
項目1、19、33および40のいずれか一項に記載の方法であって、前記増幅は、ウ
ラシルN−グリコシラーゼの存在下において実施される、方法。
【0006】
以下に、より詳細に議論されるように、複数の別々の配列が、単一の反応において同時に増幅されるので、この多重増幅を、種々の状況において使用し、下流分析および/またはアッセイに利用可能なサンプルの濃度または量を効率的に増加し得る。一旦このサンプルが、本明細書中に記載される方法に従って多重増幅されると、後分析のために、前希釈を伴ってかまたは伴わずに、アリコートへ分配され得る。その増加された濃度および量に起因して、その本来のサンプルを用いて実施する場合に比べて、有意により多くの分析またはアッセイが、多重増幅サンプルを用いて実施され得る。多くの実施形態において、多重増幅はさらに、本来利用可能であるよりも多くのサンプルもしくは高濃度のサンプルを必要とするアッセイまたは分析を実施する能力を可能にする。例えば、1000倍の多重増幅後、次いでその後のアッセイは、1000倍よりも少ないサンプル容量で実施され得る。多重増幅による濃縮はまた、本来のサンプル中に存在し得る増幅インヒビターを希釈するために使用され得る。
【0007】
多重増幅反応は、従来のPCR試薬、反応条件ならびにサイクル温度およびサイクル時間を用いて実施され得るが、多重増幅反応において生成された種々のアンプリコンの量は、使用したDNAポリメラーゼの量もしくは濃度、および/またはサイクルあたりのプライマー伸長反応の時間もしくは持続時間の長さを増加させることによって、増加され得ることが発見された。
【0008】
多重増幅産物の生成における特定の実施形態において、増幅の間に生成された種々のアンプリコンの相対濃度は、使用したDNAポリメラーゼの量または濃度を増加することによって、そして/またはサイクルあたりのプライマー伸長反応の時間もしくは持続時間の長さを増加させることによる相対濃度における変化を検出するために十分に維持され得る。
【0009】
さらに、従来のプライマー濃度が使用され得る一方で、驚くべきことに、非常に低濃度の増幅プライマーの存在下で、高度の効率で増幅が進行することが発見された。比較するために、従来の一重の(「一重の(simplex)」)PCR増幅を300〜900nMの各プライマーの存在下で行うのに対して、高効率の多重反応を、各プライマーわずか45nMを用いて達成した。
【0010】
DNA標的ポリヌクレオチドおよびRNA標的ポリヌクレオチドは両方ともこのような低濃度のプライマーを使用して多重増幅され得る。具体的には、逆転写、およびDNAポリメラーゼを用いて生じたcDNAのその後の多重増幅を介したRNAのcDNAへの逆転写は、低濃度(例えば、各プライマーについて、45nM)でプライマーを使用して達成され得る。従って、本発明は、従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)それぞれの原理を用いて、多重様式でのDNA標的ポリヌクレオチドおよびRNA標的ポリヌクレオチド両方の増幅を可能にする。
【0011】
さらに、個々のプライマー濃度は、最適化される必要はなく;約等モル濃度での全てのプライマーの使用が、良好な結果をもたらすことが発見された。さらに、本発明の特定の実施形態において、低濃度のプライマーの使用は、非特異的なプライマー相互作用(例えば、プライマー二量体化)の可能性を低減させ、それによって最適化に対する必要物を除去することが示された。本発明の種々の実施形態に記載されるプライマーの濃度(例えば、各プライマー45nM)は、標的配列の多重増幅を可能にするのに十分高いが、相互に非特異的にプライマーが相互作用することを防止するまたは回避するために十分低いことが示された。従って、配列の実質的に任意の組合せの多重増幅が、時間を要する最適化工程を伴なわずに、迅速に達成され得る。
【0012】
多重増幅におけるオリゴヌクレオチドプローブの存在は、顕著に増幅反応を妨害しないことも発見された。従って、多重増幅は、オリゴヌクレオチドプローブ(例えば、定量PCR分析またはリアルタイムPCR分析のために設計された非プライム化オリゴヌクレオチドプローブ(non−priming oligonucleotide))の存在下で、効率的に実施され得る。多重増幅に存在し得るプローブの型の非限定的な例としては、TaqMan(登録商標)プローブ(例えば、米国特許第5,538,848号を参照のこと)、ステムループすなわちヘアピンMolecular BeaconsTM(例えば、米国特許第6,103,476号および同第5,925,517号ならびにTyagiおよびKramer、1996、Nature Biotechnology 14:303−308)、ステムレスすなわち直鎖ビーコン(例えば、WO99/21881を参照のこと)、PNA Molecular Beacon(例えば、米国特許第6,355,421号および同第6,593,091号を参照のこと)、直鎖PNAビーコン(例えば、Kubistaら、2001、SPIE 4264:53−58を参照のこと)、非FRETプローブ(例えば、米国特許第6,150,097号を参照のこと)、Sunrise(登録商標)/Ampliflour(登録商標)プローブ(米国特許第6,548,250号)、ステムループかつ二本鎖ScorpionTMプローブ(Solinasら、2001、Nucleic Acids res.29:E96および米国特許第6,589,743号)、バルジループプローブ(米国特許第6,590,091号)、擬似ノットプローブ(pseudo knot probe)(米国特許第6,548,250号)、サイクリコン(cyclicon)(米国特許第6,383,752号)、MGB EclipseTMプローブ(Epoch Biosciences)、ヘアピンプローブ(米国特許第6,596,490号)、ペプチド核酸(PNA)ライトアッププローブ、自己組織化ナノ粒子プローブ、およびフェロセン改変プローブが挙げられる。
【0013】
この発見は、重要である。なぜなら、既製の市販試薬(例えば、Applied Biosystems(Applera Corporation business;Foster City、CA)によって、商品名Assays−On−Demend(登録商標)で販売される遺伝子発現試薬およびSNP試薬)を使用して多重増幅反応を実施することが可能になるからである。これに関連して、増幅プライマーおよびプローブを含む既製の試薬は、一緒にプールされ得、そして、前もってプローブを除去することなく、多重増幅反応に使用され得る。多重増幅が、このようなオリゴヌクレオチドプローブの非存在下で実施されるのと同様に、このようなオリゴヌクレオチドプローブの存在下で実施される多重増幅は、さらなる精製または操作を伴わずにその後の分析をするために、前希釈を伴ってか、または伴わずに、アリコートに分配される。
【0014】
多重様式で増幅されたサンプルは、さらなる精製または操作を伴わずに、実質的に、任意の後の分析またはアッセイに使用され得る。例えば、多重増幅の産物は、単一ポリヌクレオチド多形分析、遺伝子型分析、遺伝子発現分析、フィンガープリント分析、遺伝的診断のための遺伝子突然変異の分析、細胞における発現が稀な遺伝子の分析、核酸配列決定(例えば、米国特許第6,428,986号)、核酸ミニ配列決定(mini−sequencing)(例えば、米国特許第6,479,242号)、およびアレイに対するハイブリダイゼーション(例えば、米国特許第6,485,944号)のために使用され得る。多重増幅産物は、さらなる増幅分析(例えば、定量PCR増幅またはリアルタイムPCR増幅を介した分析)にさえも適している。この後者の実施形態において、後の定量PCR分析またはリアルタイムPCR分析のために使用されるプライマーの配列は、最初の多重増幅に使用されるプライマーの配列と同一であってもよいし、また、異なっていてもよい。多重増幅産物は、アリコートに分配され得、そのそれぞれは、後の一重のまたは多重アッセイまたは分析に供され得る。あるいは、多重増幅産物は、アリコートに分割される必要はなく、種々のアッセイおよび分析が、その産物に直接実施され得る。
【0015】
意義深いことに、このような後の分析またはアッセイは、プールされたオリゴヌクレオチドプローブおよび/またはプライマーを最初に除去することなく、多重増幅産物に直接行われ得る。後の分析またはアッセイに持ち越されたいずれのプローブおよび/またはプライマーも分析またはアッセイを妨害しない。
【0016】
なお別の実施形態において、本発明は、一つ以上の目的のポリヌクレオチド配列の存在についてのサンプル分析の二工程方法を提供する。一番目の工程では、サンプル(または複数の異なるサンプル)に由来する一つ以上のポリヌクレオチドが、上記のように、複数の異なる増幅プライマー対またはプライマーセットの存在下で多重増幅される。一実施形態において、二番目の工程では、多重増幅産物は、目的の配列を増幅するために作動する、または適した一組の増幅プライマーの存在下でのポリメラーゼ連鎖反応によって単一に増幅され、その一重増幅反応は、増幅産物の蓄積に関してモニタされる。別の実施形態では、二番目の工程において多重増幅産物は、複数の反応容器に分配され、各容器中の産物は、目的の配列を増幅するために作動する、または適した一組の増幅プライマーの存在下で一重増幅され、その一重増幅産物は、増幅産物の蓄積に関してモニタされる。いずれかの実施形態において、一重増幅産物の蓄積は、そのサンプルが、それぞれの目的のポリヌクレオチドを含んでいることを示す。
【0017】
一重増幅産物の蓄積は、従来の手段(例えば、クロマトグラフィー、電気泳動、染色、配列特異的ハイブリダイゼーションプローブ(例えば、蛍光標識されたプローブ)の使用)によって、反応の終点でモニタされ得る。あるいは、一重増幅産物の蓄積は、周知の方法(例えば、二本鎖ポリヌクレオチドに結合した際に検出可能シグナルを生成し得る一種以上の色素または標識(例えば、SYBR(登録商標)Green IまたはSYBR(登録商標)Green II、SYBR(登録商標)Gold、エチジウムブロマイドまたはYO−PRO−1;Molecular Probes、Eugene、OR)、または適した標識系で標識したプローブ(例えば、TaqMan(登録商標)プローブ、または種々の異なる型の上記の例示的なプローブの内の一つ)の存在下で一重増幅を実施する)を用いて、時間の関数としてモニタされ得る。
【0018】
本発明はまた、多重増幅および任意のそれ以降の分析を実施するために適した試薬およびキットを提供する。一実施形態において、このキットは、単一の容器中にパッケージングされた多重増幅を実施するのに適した複数の増幅プライマーセットを備える。このキットは、必要に応じて、さらなる一種以上の増幅を実施するための試薬(例えば、DNAポリメラーゼ酵素、逆転写酵素および/または、テンプレート依存性DNA合成を介したプライマーの伸長に適したヌクレオチド3リン酸(「dNTP」)の混合物)を備える。キットに含まれる任意のポリメラーゼの量は、多重増幅反応の効率を最適化するのに適したものであり得る。最大限の利便性のために、種々の試薬が、組合せ中にパッケージングされ得、従来のPCR反応および/またはRT−PCR増幅反応を実施するための市販されている試薬(例えば、(2×)TaqMan(登録商標)、Universal PCR
Master MixおよびTaqMan(登録商標)Gold RT−PCR Kit(Applied Biosystems、Applera Corporation
businessから入手可能))の組合せ後に作製され得る。このキットはさらに、多重増幅産物とともに下流のアッセイまたは分析を実施するために有用な試薬を備える。例えば、このキットはさらに、SNP検出またはSNP分析、オリゴヌクレオチドマイクロアレイ(例えば、遺伝子発現またはSNP分析に適したマイクロアレイ)および/またはユニバーサル増幅、検出および/または精製のための「テール(tailed)」プライマー(例えば、Bengraら、2002、Clin.Chem.48:2131〜2140;Myakishevら、2001、Genome Res.11:163〜169;および米国特許第6,395,486号を参照のこと)に有用なオリゴヌクレオチドプローブを備え得る。一実施形態において、このキットはさらに、複数の一重定量増幅反応またはリアルタイム増幅反応を実施するために適した試薬を備える。このような試薬は代表的に、一組の定量増幅プライマーまたはリアルタイム増幅プライマー、定量的リアルタイム増幅反応のモニタに適した標識系を用いて標識したオリゴヌクレオチドプローブ、一重増幅に適した濃度のDNAポリメラーゼおよび/またはテンプレート依存性DNA合成に適したdNTPの混合物を含む。このキットは、これらのさらなる試薬の任意のものを一つ以上備え得る。
本発明の多重増幅方法、試薬およびキットの種々の実施形態は、当該技術の状態に顕著な利点を提供する。例えば、複数の増幅プライマーの使用によって、多重増幅のいくつかの実施形態は、限られた量またはコピー数のポリヌクレオチドサンプルの増幅を最初に可能とし、それによって、他の方法では、サンプル量の制限に起因して極端に困難で、時間を要し、不正確であるかまたは実現不可能である一以上の下流の分析を行なうことを可能とする。特定の実施形態において、多重増幅はまた、標的ポリヌクレオチドサンプルを濃縮させることが可能であり、さらに、当初のサンプルが複数の標的ポリヌクレオチドの希釈プールを含む例においても可能である。この方法におけるサンプルの濃縮は、高濃度のサンプルを必要とする下流の分析およびアッセイを実施を可能にし、さらに、当初のサンプルが希釈されすぎた例においても可能である。さらなる実施形態において、多重増幅は、予めパッケージングされた市販の試薬を用いて、単一の管中で実施され得、実質的に任意の型のサンプル由来の実質的に任意の型の標的ポリヌクレオチド配列の増幅を可能にし、ここで、試薬および反応条件は、特定のサンプル中の特定の標的配列の増幅を調整するために最適化される必要はない。多くの実施形態において、本明細書中に記載される多重増幅は、高度の効率で実施されることが見出されている。従って、多重増幅産物は、下流分析に使用され得、そこで、開始サンプル中のコピー数の相対的または絶対的な量が、例えば、発現プロフィール分析で評価される。本発明の種々の実施形態の他の利点は、本開示の総説で明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明に基づいた多重増幅の実施形態の一般的な原理を図示する漫画を提供する。
【図2】図2は、多重増幅が複数の下流の一重(一重「simplex」)定量PCR分析またはリアルタイムPCR分析と結びついた、本発明に基づいた二工程アッセイの実施形態を図示する漫画を提供する。
【図3】図3は、本発明の95重増幅反応の実施形態の増幅効率を、DNAポリメラーゼ濃度の関数として図示するグラフを提供する。
【図4】図4は、合計100ngのcDNA(cDNAライブラリー由来)および6U/20μLのAmpliTaq Gold(登録商標)を用いて、合計10サイクル(サイクル時間は、約1分間/サイクル)実施した本発明の95重増幅反応の実施形態の観察された増幅効率を図示するグラフを提供する。
【図5】図5は、例示的な下流の一重アッセイの間に、複数の増幅プライマーおよびオリゴヌクレオチドプローブの存在が、決定的にはアッセイの性能に影響しないことを示すグラフを提供する。
【図6】図6は、多重増幅中のサンプルポリヌクレオチドの量と下流の個々のリアルタイムPCR増幅の間に観察されたCt値との間の直線的な関係を示すグラフを提供する。
【図7】図7は、種々の多重増幅後に観察された下流の一重アッセイ増幅の増幅効率を示す棒グラフを提供する。
【図8】図8は、下流の一重アッセイ増幅の観察された増幅効率に対する多重増幅中のUNGの効果を示す棒グラフを提供する。
【図9】図9は、下流の一重アッセイ増幅のCt値に対する多重増幅のPCRサイクルの数の増加の効果を示すグラフを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(6.詳細な説明)
特定の実施形態において、本発明は、目的のポリヌクレオチド配列を多重様式で増幅するための方法、試薬およびキットを提供する。多重増幅は、周知の原理、およびポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(「RT−PCR」)それぞれによるDNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドの増幅のための試薬を、一つの重要な相違を伴なって使用する。多重増幅は、単一のセットまたは一対の増幅プライマーを使用するのではなく、複数の異なる増幅プライマー対またはセットを単一の反応で使用し、単一の反応で複数のポリヌクレオチド配列の同時増幅を可能にする。従って、多重増幅は、単一増幅産物すなわち「アンプリコン」を生成するのではなく、単一の反応で、複数の異なるアンプリコンを生成する。以下でより詳細に記載するように、多重様式で増幅され得るポリヌクレオチドは、2’−デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)の両方を含む。増幅されるべきポリヌクレオチド(「標的ポリヌクレオチド」)がRNAである場合、RNAは最初に逆転写されcDNAを生成し、それは次いで、多重様式で増幅され得る。あるいは、標的RNAは、RT−PCRの原理を用いて複数の増幅プライマー対の存在下で直接多重増幅され得る。従って、多重増幅の文脈で使用される場合、「ポリメラーゼ連鎖反応」は、多重PCRおよび多重RT−PCRの両方を含むことを意味する。
【0021】
PCRによるDNA増幅の原理およびRT−PCRによるRNA増幅の原理は、周知であり、無数の参考文献に記載され、その文献としては、米国特許第4,683,195号;同第4,683,202号;同第4,800,159号;同第4,965,188号;同第5,338,671号;同第5,340,728号;同第5,405,774号;同第5,436,149号;同第5,512,462号;同第5,618,703号;同第6,037,129号;同第6,300,073号;および同第6,406,891号;PCR Protocols A guide to Methods and Applications、Academic Press、San Diego中のInnisら、1990、;およびSchlesserら、1991、Applied and Environ.Microbiol.57:553〜556が挙げられ、これらの開示は、本明細書中に参考として援用される。本明細書中に記載される多重増幅の違いおよび利点の理解を容易にするために、これらの増幅方法の短い要約が提供される。従来のPCRは、少なくとも二つのプライマー、順方向プライマーおよび逆方向プライマーを必要とし、これらは、増幅されるべき二本鎖標的ポリヌクレオチド配列にハイブリダイズする。PCRにおいて、増幅されるべき配列を含む二本鎖標的DNAポリヌクレオチドは、二つの増幅プライマー、DNAポリメラーゼおよびDNA合成に適した2’−デオキシリボヌクレオチド三リン酸(「dNTP」)の混合物の存在下でインキュベートされる。増幅を開始するために、二本鎖標的DNAポリヌクレオチドは変性され、一つのプライマーが、変性した標的の各鎖にアニーリングされる。プライマーは、互いから離れた部位で、標的DNAポリヌクレオチドに、一つのプライマーの伸長産物が、その相補体から分離された場合に、もう一方のプライマーにハイブリダイズし得るような向きでアニーリングする。一旦、所定のプライマーがそのそれぞれの標的DNAポリヌクレオチド鎖にハイブリダイズすると、そのプライマーは、DNAポリメラーゼの作用により伸長される。伸長産物は次いで、標的配列から変性され、その後そのプロセスが繰り返される。PCR周期(すなわち、温度サイクル)は代表的に、変性工程、アニーリング工程および伸長工程を含む。
【0022】
このプロセスの連続サイクルにおいて、前のサイクルにおいて生成されたその伸長生成物は、その後のDNA合成のためのテンプレートとして働く。第2のサイクルの始めに、その増幅の生成物は、対数増殖速度で蓄積し始める。その最終増幅生成物、すなわち「アンプリコン」は、第1のプライマーの配列、続いて目的の配列、続いて第2のプライマーの配列に相補的な配列を含む第1鎖、および(ii)第1鎖に相補的な第2鎖からなる別個の二本鎖DNA分子である。
【0023】
従来のRT−PCRは、標的RNAポリヌクレオチド配列の増幅を可能にする。RT−PCRにおいて、増幅されるべき配列(例えば、mRNA)を含む一本鎖RNA標的は、逆転写酵素、2つの増幅プライマー、DNAポリメラーゼおよびDNA合成に適切なdNTPの混合物の存在下でインキュベートされる。増幅プライマーのうちの一方は、RNA標的に対してアニールされ、その逆転写酵素の作用によって伸長され、RNA/cDNA二本鎖ハイブリッドを生じる。このハイブリッドは、次いで、変性され、その他方のプライマーは、その変性されたcDNA鎖にアニールされる。一旦ハイブリダイズされると、そのプライマーは、そのDNAポリメラーゼの作用によって伸長され、二本鎖cDNAを生じ、次いで、この二本鎖cDNAは、上記のように、二本鎖テンプレート、または従来のPCRを介するさらなる増幅のための標的として働く。従って、従来のPCRとRT−PCRとの間の主な差異は、その後者の反応混合物中に逆転写酵素が存在することである。逆転写の後に、そのRNAは、その後のPCR増幅の間にその反応混合物に残り得るか、またはそのRNAは、その後のPCR増幅の前に周知の方法によって必要に応じて変性され得る。
【0024】
PCRおよび/またはRT−PCR増幅は、当該分野で記載されるように、種々の改善のうちの1以上を組み込み得る。このような改善の非限定的例としては、「ホットスタート(hot start)」PCR技術(D’Aquilaら,1991,Nucl.Acids Res.19:3749)、「タッチダウン(touchdown)」PCR技術(Donら,1991,Nucl.Acids Res.19:4008)、ポリメラーゼ増強因子の使用(例えば、Stratageneから入手可能なArchaeMaxxTM;米国特許第6,444,428号もまた参照のこと)、およびウラシルN−グリコシラーゼ(UNG)による処理(本明細書中の実施例6に記載され、米国特許第5,035,996号を参照のこと)を用いて、dTTPの代わりにdUTPを使用すること)が挙げられる。これらの改善および/またはPCR増幅および/またはRT−PCR増幅を行うための他の改善のうちのいずれかは、本明細書中に記載の種々の方法に関連して使用され得る。
【0025】
本発明の特定の実施形態の全体像は、図1に提供される。図1を参照すると、サンプルに由来する1以上の標的ポリヌクレオチド(これは、1以上のRNAまたはDNAであり得る)が、複数の増幅プライマー対(その各々は、異なる目的の標的配列を増幅するために適切である)の存在下で、PCRまたはRT−PCRによって増幅される。いくつかの実施形態において、プライマー対の数は、少なくとも100、300、500、1000、10000または30000であり得る。例示されるように、そのサンプルまたは標的ポリヌクレオチドがRNAである場合、その第1のcDNA鎖は、当該分野で周知であるように、必要に応じて、ランダムRT−プライマー(例えば、ランダムヘキサマーまたはオリゴ(dT)プライマー)または配列特異的RTプライマーのいずれかを使用する多重増幅の前に、合成され得る。あるいは、その標的RNAは、その複数の増幅プライマー対の存在下で、RT−PCRによって直接、多重増幅され得る。その複数の増幅プライマー対が存在するので、その多重増幅の生成物は、アンプリコン1および3によって示されるように、複数の異なるアンプリコンである。
【0026】
当業者に理解されるように、多重増幅に適した標的ポリヌクレオチドは、本質的に、DNA(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)またはRNA(例えば、mRNAもしくはrRNA)のいずれかであり得、実質的に任意のサンプルまたは供給源から誘導され得るかまたは獲得され得る(ここでそのサンプルは、必要に応じて、少量または制限された量であり得る)。例えば、そのサンプルは、犯罪現場から回収された1個もしくは数個の細胞、または生検を介して回収された少量の組織であり得る。
【0027】
限定ではなく例示によって、その標的ポリヌクレオチドは、染色体もしくは遺伝子またはそれらの一部もしくはフラグメント、調節ポリヌクレオチド、ゲノムDNAに由来する制限フラグメント(例えば、プラスミドまたは染色体DNA)、ミトコンドリアDNA、構築物もしくは構築物のライブラリー(例えば、YAC、BACもしくはPACのライブラリー)に由来するDNA、RNA(例えば、mRNA、rRNA)、またはcDNAもしくはcDNAライブラリーであり得る。その標的ポリヌクレオチドは、単一のポリヌクレオチド(これから、複数の異なる目的の配列が増幅され得るか、または複数の異なるポリヌクレオチド(これから、1以上の異なる目的の配列が増幅され得る)を含み得る。当業者によって認識されるように、そのサンプルまたは標的ポリヌクレオチドはまた、多重増幅反応において増幅されない1以上のポリヌクレオチドを含み得る。
【0028】
本明細書中に記載される多重増幅の重要な実施例は、サンプルポリヌクレオチドの高度に複雑な混合物からポリヌクレオチド配列を増幅する能力である。確かに、多くの実施形態は、数十、数百、数千もしくは数万、数十万または数百万すらのポリヌクレオチド分子を含む標的ポリヌクレオチドサンプルの多重増幅に適切である。特定の実施形態において、その多重増幅方法は、cDNAライブラリーを含むサンプルに由来する複数の配列または生物学的サンプル(例えば、組織および/もしくは細胞)から単離もしくは得られた総mRNAを増幅するために使用され得る。ここでそのcDNA、あるいはmRNAのライブラリーは、極めて大きい可能性がある。例えば、いくつかの生物から、またはいくつかの異なる型の組織もしくは器官から構築されたcDNAライブラリーまたはmRNAライブラリーは、本明細書中に記載の方法に従って多重増幅され得る。具体的例として、いくつかの異なる組織もしくは器官から構築されたcDNAの極めて複雑なライブラリーからの多重増幅は、良好な結果をもって達成された(例えば、実施例4を参照のこと)。この特定のcDNAライブラリーは、10,000〜20,000個のcDNAの範囲で含まれていたと考えられる。
【0029】
増幅される標的ポリヌクレオチドの量は、広く変化し得る。多くの実施形態において、従来のPCRおよび/またはRT−PCRに適切な量が使用され得る。例えば、その標的ポリヌクレオチドは、当該分野で周知であるように、単一の細胞から、数十個の細胞から、数百個またはさらにそれを超える数の細胞から単離され得る。多くの実施形態について、その標的ポリヌクレオチドが複雑なcDNAライブラリーである実施形態を含め、合計の標的ポリヌクレオチドは、約1pg〜100ngの範囲であり得る。
【0030】
当業者は、いくつかの利点は、一般に、および特定の多重増幅において、複雑な標的ポリヌクレオチド(例えば、mRNAおよび/またはcDNAライブラリー)で行われた多重増幅から生まれてくることを理解する。第1に、低コピー数で存在する標的ポリヌクレオチドを含むサンプルは、量が効率的に増大され得、その能力により、多重増幅なしで可能であった有意により多い下流の分析またはアッセイを行うことが可能になる。第2に、その多重増幅は、その能力により、その限定された量に起因して、本来のサンプルを用いて可能ではないかもしれない下流の分析もしくはアッセイを行うことが可能になる。第3に、大きな希釈プールもしくはサンプル内の標的ポリヌクレオチドは濃縮され得、その能力により、高度に濃縮されたサンプルを要する下流の分析もしくはアッセイを行うことが可能になる。さらに、特定の実施形態に関連して以下に詳細に記載されるように、その多重増幅は、高度な効率で進むので、サンプル中の種々の標的配列の相対濃度は、その能力により、下流分析における(例えば、下流の遺伝子発現プロファイリング分析における)相対濃度を評価または定量することが可能になるように十分に保たれる。
【0031】
増幅されるべき標的ポリヌクレオチドは、使用される増幅反応の型に適した従来のサンプル調製技術を使用して、多重増幅のために調製され得る。例えば、そのポリヌクレオチドは、当該分野で周知であるように、クロマトグラフィー、沈澱、電気泳動を介してそれらの供給源から単離され得る。あるいは、そのポリヌクレオチドは、細胞から、またはその標的ポリヌクレオチドを含む組織もしくは細胞の溶解物から直接増幅され得る。いくつかの実施形態において、増幅されるそのポリヌクレオチドは、メチル化シトシン残基を検出するために、従来の亜硫酸水素ナトリウム処理、またはその等価な処理に供され得る(例えば、米国特許第6,596,488号を参照のこと)。
【0032】
多重増幅によって、増幅され得る配列の数、すなわち、別の方法でいえば、生成され得るアンプリコンの数は、主に、その多重増幅の間に使用される異なる増幅プライマー対の数によって、規定される。本発明の特定の実施形態に従って、各増幅プライマー対は、2つの増幅プライマーを含み、当該分野で周知であるように、その一方は、正方向増幅プライマーであり、もう一方は、逆方向増幅プライマーである。増幅プライマー対は、配列特異的であり得、増幅されるべき目的の配列に隣接する配列にハイブリダイズするように設計され得る。従って、各プライマー対の実際のヌクレオチド配列は、増幅されるべき目的の配列に依存し得、当業者に明らかである。PCRまたはRT−PCRを介する目的の特定の配列を増幅するために適したプライマー対を設計するための方法は、周知である。例えば、Eckertら(1991)PCR:A Practical Approach,McPherson,Quirke,and Taylor編,IRL Press,Oxford,Vol.1,pp.225−244;TaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mix Protocol(Applied Biosystems,Applera Corporation business,カタログ番号4304449 Rev.Cから入手可能);Rozenら,2000,Bioinformatics Methods and Protocols:Methods in Molecular Biology,Humana Press,Totowa,NJ,pp365−386;
http://www.ucl.ac.uk/wibr/2/services/reldocs/taqmanpr.pdf;
http://www.ukl.uni−freiburg.de/core−facility/taqman/taqindex.html;
http://www.operon.com/oligos/toolkit.php;http://www−genome.wi.mit.edu/cgi−bin/primer/primer3_www.cgi;
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/;および
http://www.biotech.uiuc.edu/primer.htm
を参照のこと(これらは、特定のプライマー対がどのように設計され得るかを示す例を提供する)。
【0033】
一般に、各増幅プライマーは、増幅反応の条件下でのその標的配列の温度指向性合成をプライムするには十分長くなければならない。そのプライマーの正確な長さは、多くの要因に依存し得、それらの要因としては、そのプライマーとテンプレートポリヌクレオチドとの間の所望のハイブリダイゼーション温度および増幅されるべき異なる標的ポリヌクレオチド配列の複雑性が挙げられるが、これらに限定されない。特定の適用に適したプライマーの長さおよび配列を選択する能力は、当業者の能力範囲内である。特定の実施形態において、そのプライマーは、約15〜約35ヌクレオチドを含み得るが、そのプライマーは、より少ないヌクレオチドを含み得る。短いプライマー分子は、一般に、十分に安定したテンプレートとのハイブリッド複合体を形成するためにより低い温度しか必要としない。一般に、その増幅プライマーは、約55〜75℃の範囲における融解温度(T)を有するように設計されるべきである。この範囲における融解温度は、そのプライマーは、プライマー伸長の開始時にその標的ポリヌクレオチドにアニールされたままであるかまたはハイブリダイズされたままであることを確実にする傾向がある。プライマー伸長反応に使用される実際の温度は、他の要因の中でも、多重アッセイにおいて使用されるプライマーの濃度に依存し得る。熱安定性ポリメラーゼ(例えば、Taq DNAポリメラーゼ)を用いて行われる増幅のために、その増幅プライマーは、約60〜約78℃の範囲におけるTを有するように設計され得る。異なる増幅プライマーの融解温度は、異なり得る;しかし、好ましくは、これらの温度は、全て、ほぼ同じであるべきである。
【0034】
は、紫外線淡色性(ultraviolet hypochromism)に基づいて、例えば、260nmでのスペクトルをモニタすることによって、いくつかの標準的な手順を用いて経験的に決定され得る(例えば、Biochemistry−−The Molecular Basis of Cell Structure and Function,第2版,Lehninger,Worth Publishers,Inc.,1970,pp.876−7に記載される)。T値を決定するための種々の方法は、同じDNA分子に対してわずかに異なる値を生じ得るが、それらの値は、代表的には、約2℃〜3℃を超えるほどには、互いに変動しない。
【0035】
他の実施形態において、そのT値は、オリゴヌクレオチド融解温度を推定するための公知の方法を用いて計算され得る(例えば、SantaLucia,1998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:1460−1465;Frierら,1986,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:9373−9377;Breslauer,1986,Proc.Natl.Acad,Sci.USA 83:3746−3750;Rychlikら,1989,Nucleic Acids Res.17:8543−8551;Rychlikら,1989,Nucleic Acids Res.18:6409−6412;Wetmur,1991,Crit.Rev.Biochem.Mol.Biol.26:227−259;Osborne,1991,CABIOS 8:83;Montpetitら,1992,J.Virol.Methods 36:119−128を参照のこと)。
【0036】
従来のPCRまたはRT−PCRのための増幅プライマーのように、多重増幅に有用な増幅プライマー対の配列は、増幅されるべき目的の配列に隣接する標的ポリヌクレオチドの領域に実質的に相補的であるように設計される。「実質的に相補的」とは、そのプライマーの配列が、多重増幅反応において使用される温度および条件下で標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズするために十分な相補性を含むことを意味する。
【0037】
多くの場合において、そのプライマーの配列は、テンプレートポリヌクレオチドに完全に相補的であり得るが、ある場合には、当該分野で周知であるように、ミスマッチまたは非相補性の領域を含むことが望ましいこともある。具体的例として、非相補性領域は、それらのプライマーのうちの1以上の5’末端において含まれ得、それらのプライマー配列の残りは、それらそれぞれの標的ポリヌクレオチド配列に完全に相補性である。別の具体的例として、非相補性塩基または非相補性のより長い領域が、プライマー全体を通して散在し得るが、ただし、そのプライマーは、多重増幅に使用される温度および反応条件下で標的ポリヌクレオチド配列にハイブリダイズするように十分に相補性を有する。
【0038】
それらのプライマーのうちの1以上は、標識(例えば、5’末端において)を含み得る。用語「標識」とは、化合物(例えば、ポリヌクレオチド)に結合され、このような化合物を公知の検出手段(例えば、分光光学的手段、光化学的手段、放射活性手段、生化学的手段、免疫化学的手段、酵素的手段または化学的手段)を用いて検出可能にする任意の部分をいう。例示的な標識としては、発蛍光団、発色団、放射性同位体、スピン標識、酵素標識、赤外線標識、および化学発光標識が挙げられるが、これらに限定されない。標識の他の例としては、従来の結合対のメンバー(例えば、ビオチン)が挙げられ、これらは、アビジンとともに捕捉方法において、またはサンプルをさらに濃縮するために使用され得る。このような標識の使用を教示する特許としては、米国特許第3,817,837号;同第3,850,752号;同第3,939,350号;同第3,996,345号;同第4,277,437号;同第4,275,149号;および同第4,366,241号が挙げられる。このような標識を検出する方法は、当業者に周知である。
【0039】
特定の実施形態において、プライマーはまた、ユニバーサル増幅(universal
amplification)、検出および/または精製のために5’「テイル」を含み得る(例えば、Bengraら,2002,Clin.Chem.48:2131−2140およびMyakishevら,2001,Genome Res.11:163−169を参照のこと)。いくつかの実施形態において、プライマーは、移動度改変物質(mobility modifier)のタグ相補部分に結合するためのタグ部分を含み得る(例えば、Grossmanの米国特許第6,395,486号を参照のこと)。例示的なタグおよび/またはタグ相補体としては、抗体と関連抗原もしくはハプテン、レセプターと関連リガンド、アビジン(もしくはストレプトアビジン)とビオチン、およびポリヌクレオチド配列とそれらの相補的配列が挙げられるが、これらに限定されない。移動度改変物質はまた、代表的には、特定の移動度の移動度依存性分析技術を行うためのテイル部分(例えば、ポリマー)を含む。
【0040】
増幅プライマーの化学的組成は、本明細書中に記載される多重増幅の成功にとって重要ではない。多重増幅反応において使用されるDNAポリメラーゼが、標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズされる場合、プライマーを伸長させ得ることのみが、必要条件である。テンプレート依存性プライマー伸長反応においてDNAポリメラーゼによって伸長され得る種々のオリゴヌクレオチドは、当該分野で公知である。これらのオリゴヌクレオチドの例としては、DNA、RNA、PNAおよびLNAオリゴヌクレオチド、またはこれらの種々の組み合わせおよび/もしくはキメラが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、キメラオリゴヌクレオチドは、例えば、RNA、PNAまたはLNAの領域に融合されたDNAの領域を含み得る。具体的例として、キメラ増幅プライマーは、2’−デオキシリボヌクレオチドまたはDNA領域(例えば、PNA/DNAキメラ調製に関する方法および組成物について国際公開番号WO/9640709(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと)によって連結される2つのPNAの領域を含み得る。その増幅プライマーは、その標準的な遺伝子コード核酸塩基(例えば、シチジン、アデニン、グアニン、チミンおよびウラシル)から完全に構成され得るか、または代わりにその増幅プライマーは、プライマーに含まれる場合、標準的な核酸塩基と塩基対を形成し、かつポリメラーゼにより伸長可能である、当業者に公知の改変核酸塩基を含み得る。このような改変核酸塩基の具体的例としては、7−デアザグアニンおよび7−デアザアデニンが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な改変核酸塩基もしくは非標準的核酸塩基は、当業者に明らかである。
【0041】
さらに、その増幅プライマーは、当該分野で周知であるように、1以上のインターリンケージ(interlinkage)(例えば、1以上のホスホロチオエート連結またはホスホロジチオエート連結)を含み得る。
【0042】
これらの型の種々のオリゴヌクレオチドの全て、またはこのようなオリゴヌクレオチドの混合物は、本明細書中に記載される種々の多重増幅において増幅プライマーとして用いられ得る。1つの実施形態では、多重増幅反応において用いられるプライマーの全ては、DNAオリゴヌクレオチドである。
【0043】
多重増幅において利用される異なる増幅プライマー対の数は重大ではなく、2程度の少数から、数十、数百、数千またはさらにはそれより多くまでの範囲に及び得る。従って、特定の適用および条件に依存して、多重増幅は、2程度の少数から、数十、数百、数千またはさらにはそれより多くまでの目的のポリヌクレオチド配列の同時増幅を許容する。
【0044】
以下でより詳細に記載されるように、多重増幅の生成物は、種々の異なる下流アッセイおよび/または分析において用いられ得る。以下でさらに考察される特定の実施形態では、多重増幅反応の生成物は、その後の複数の単一(「一重(simplex)」)の、定量的PCR増幅反応またはリアルタイムPCR増幅反応(例えば、遺伝子発現分析のために慣用的に用いられ、そして当該分野において5’−エキソヌクレアーゼアッセイまたはTaqMan(登録商標)アッセイとして通常公知である(例えば、例えば、米国特許第5,691,146号)、定量的増幅またはリアルタイム増幅)において用いられ得る。多重増幅反応の生成物が、このような様式で用いられるべきである場合、多重増幅反応において利用される増幅プライマー対の数および/または配列は、実施され得る下流の一重の定量的増幅反応の数に対応するように相関され得る。例えば、96個の下流の一重5’−エキソヌクレアーゼ増幅アッセイが所望されるならば、この多重増幅は、96個の異なるセットの増幅プライマーまたは対のプールを用いて実施され得る。増幅プライマー対の数と、その後の一重の定量的増幅反応の数との相関は、各々のその後の一重定量的増幅反応が、多重増幅反応において用いられる対のうちの一方と配列が同一の増幅プライマーの対を用いて実施される実施形態において、特に便利または有利である。
【0045】
多重増幅反応について用いられる増幅プライマー対の数および/または配列は、この多重増幅反応の生成物を用いて実施され得る他の下流のアッセイまたは分析に対して、類似の様式で相関され得る。例えば、多重増幅反応の生成物が、(例えば、オリゴヌクレオチドアレイでの)遺伝子発現分析について用いられる実施形態では、この多重増幅プライマー対は、マイクロアレイによって評価されるポリヌクレオチド配列を特異的に増幅するように設計され得る。
【0046】
特定の所望のその後の分析および/またはアッセイにおける使用に適切な多重増幅生成物を作製するために適切な多重プライマー対の配列は、当業者に明らかである。
【0047】
上記で考察したように、増幅されるべきサンプルポリヌクレオチド(例えば、RNAまたはDNA)の性質に依存して、多重増幅反応は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または逆転写PCR(RT−PCR)によって達成され得る。従って、標的ポリヌクレオチドがDNAである多重増幅は、上記で考察した複数の増幅プライマー対またはセットに加えて、必須成分として、テンプレート依存性DNA合成(例えば、プライマー伸長)に適切な2’−デオキシリボヌクレオシド(2’−deoxribonucleoside)三リン酸とDNAポリメラーゼとの混合物を代表的に含む。標的ポリヌクレオチドがRNAである多重増幅は、さらに、逆転写酵素を代表的に含む。以下に記載の特定のパラメーター、ならびに上記の一対の代わりに複数の増幅プライマー対を使用することを除いて、多重増幅反応は、このような従来のPCR反応およびRT−PCR反応において従来用いられる試薬、試薬濃度および反応条件を用いて実施され得る。例えば、本明細書中に注記される通りのことを除いて、従来のPCR反応およびRT−PCR反応において用いられる、種々の異なるプライマー濃度、酵素(例えば、DNAポリメラーゼおよび逆転写酵素)、酵素濃度、dNTP混合物(ならびにそれらの絶対濃度および/または相対濃度)、総標的ポリヌクレオチド濃度、緩衝剤、緩衝剤濃度、pH範囲、サイクリング時間およびサイクリング温度は、本明細書中に記載される多重増幅反応に用いられ得る。適切な反応条件を選択するためのガイダンスは、例えば、米国特許第4,683,202号;同第4,683,195号;同第4,800,159号;同第4,965,188号;同第5,561,058号;同第5,618,703号;同第5,693,517号;同第5,876,978号;同第6,087,098号;同第6,436,677号;および同第6,485,917号、ならびにPCR Essential Data,J.W.Wiley & Sons編,C.R.Newton,1995、およびPCR Protocols:A Guide to Methods and Applications.(Innis,M,Gelfand,D.,Sninsky,J.およびWhite,T.編),Academic Press,San Diego(1990)(これらの全ては、本明細書中に参考として援用される)に見出され得る。PCR増幅プライマーおよびRT−PCR増幅プライマーを設計するための種々のツール、ならびに種々の異なる型のPCR反応(従来のPCR反応およびRT−PCR反応が挙げられる)を実施するための無数のプロトコル、反応条件および技術もまた、オンラインで入手可能である(例えば、http://www.protocol−online.org/prot/Molecular_Biology/PCR/index.htmlを参照のこと)。これらの種々のツールおよびプロトコルの全ては、本明細書中に記載される多重増幅反応に関連して用いられ得る。
【0048】
従来のPCR増幅反応およびRT−PCR増幅反応と同様に、多重増幅反応は、種々の異なるDNAポリメラーゼ(またはDNAポリメラーゼの混合物)を用いて実施され得るが、好ましくは、1以上の耐熱性ポリメラーゼの存在下で実施される。適切な耐熱性ポリメラーゼとしては、TaqおよびTth(Applera Corporationの事業の1つであるApplied Biosystemsから市販される)が挙げられるがこれらに限定されない。さらに、従来のRT−PCR増幅反応と同様に、多重RT−PCR増幅反応は、種々の異なる逆転写酵素(または逆転写酵素の混合物)を用いて実施され得るが、いくつかの実施形態では、耐熱性逆転写が好ましい。適切な耐熱性逆転写酵素としては、逆転写酵素(例えば、AMV逆転写酵素、MuLV、およびTth逆転写酵素)が挙げられるがこれらに限定されない。これらのポリメラーゼおよび逆転写酵素を用いて種々の変性反応、アニーリング反応およびプライマー伸長反応を実施するために適切な温度は、当該分野で周知である。従来のPCR増幅反応およびRT−PCR増幅反応において通常用いられる任意の試薬(例えば、PCRを増強するため、Tを改変するため、またはプライマー二量体形成を減少させるために設計される試薬)もまた、この多重増幅反応において用いられ得る(例えば、全てが、本明細書中に参考として援用される、特許第6,410,231号;同第6,482,588号;同第6,485,903号;および同第6,485,944号を参照のこと)。特定の実施形態では、この多重増幅は、市販の増幅試薬(例えば、AmpliTaq(登録商標)Gold PCR Master Mix、TaqMan(登録商標)Universal Master MixおよびTaqMan(登録商標)Universal Master Mix No AmpErase(登録商標)UNG(これらの全ては、Applera Corporationの事業の1つであるApplied Biosystemsから市販される)を用いて実施され得る。
【0049】
従来の試薬および反応条件を用いて適切な結果が達成され得るが、多くの実施形態では、多重増幅の性能または観察された効率は、反応の特定のパラメーターおよび/または条件を調節することによって改善され得る。
【0050】
表現「観察される性能」および「観察される効率」および文法上のその等価物とは、多重増幅に関連して用いられる場合、多重増幅において作製される個々のアンプリコンの量をいう。増幅の性能または効率は、多重増幅一般に対応し得るか、または多重増幅内の特定のアンプリコンに対応し得る。多重増幅は、多重増幅において作製された、特定のアンプリコンの量が、同じ標的ポリヌクレオチドを用いて一重の従来のPCR反応またはRT−PCR反応で生成される量と同一である場合、この目的の特定のアンプリコンに関して100%の効率である。多重反応は、多重増幅において生成されるアンプリコンの各々の量が、同じ標的ポリヌクレオチドを用いて個々の一重の従来のPCR反応またはRT−PCR反応において生成されるそれぞれのアンプリコンの量と同一である場合、一般に100%効率的である。多重増幅は、多重反応において作製された特定のアンプリコンの量が、一重の従来のPCR反応またはRT−PCR反応において作製された量の約90%以上である場合、この特定のアンプリコンに関して「非常に効率的」と考えられる。
【0051】
一般的かまたは特定の標的配列に関してのいずれかでの、多重増幅反応の観察された効率は、リアルタイムPCR法を用いて評価され得る。1つの実施形態では、特定の標的配列の増幅の観察される効率は、複数のプライマーセット(その各々は、目的の異なる標的配列を増幅するために適切である)を用いて多重PCR増幅反応において複数のポリヌクレオチド(これは、特異的標的を包含する)を増幅することによって決定され得る。この多重増幅は、N回のサーマルサイクル工程に関して実施され、ここで、Nは、使用者によって選択され得る。次いで、第1アリコートの多重増幅生成物は、目的の標的配列を増幅するための適切な増幅プライマー対またはセット、およびリアルタイムで増幅反応をモニタするために有用な試薬(例えば、インターカレート色素または配列特異的オリゴヌクレオチドプローブ(例えば、TaqManプローブ))の存在下で、一重PCR増幅反応において増幅される。サーマルサイクリングに供していない「偽」(コントロール)多重増幅から得た第2アリコートは、同様に、一重増幅される。Ctアッセイ値は、第1アリコートから得られ、そしてCtコントロール値は、第2アリコートから得られる。1つの実施形態では、多重増幅において特定の標的配列の増幅の観察された効率は、以下の式から算出され得る:
観察された効率%=100×(Ctコントロール値−Ctアッセイ値)/N。
【0052】
多重増幅における任意の数の特異的標的配列は、同様に分析され得る。使用者は、観察された効率についての選択基準(すなわち、「カットオフ」値)(例えば、50%、70%、80%、90%、95%または99%)を選択し得る。所望される場合、多重増幅における各プライマーセットについての観察された効率が決定され得、そしてそれらの観察された効率が、選択基準に等しいかまたはそれを超えるかに依存して、プライマーがグループ分けされ得る。選択基準を満たさず、選択基準を超えもしないプライマーセットは、一重増幅において個々に分析され得るか、またはさらなる分析のために1以上の別個のプールのプライマーセットに再度グループ分けされ得る。
【0053】
別の実施形態では、多重増幅における標的配列の全ての増幅の観察された効率の平均が分析され得る。上記で考察した実施形態と同様に、多重増幅は、N回のサーマルサイクルについて実施され得、その正確な数は、使用者によって選択され得る。多重増幅の生成物は、複数のアリコートに(代表的には、多重増幅において用いられるプライマー対の数に等しいアリコートの数に)分割される。各アリコートは、多重増幅において用いられるプライマー対のセットのうちの1つ、および一重増幅をリアルタイムでモニタするために適切な試薬またはプローブの存在下で一重増幅される。Ctアッセイ値は、各一重増幅について決定され、そして平均Ctアッセイ値は、そこから算出され得る。Ctコントロール値および平均Ctコントロール値は、サーマルサイクリングに供していない「偽」(コントロール)多重増幅反応の一重増幅から同様に得られ得る。1つの実施形態では、多重増幅の平均効率は、以下の式を用いて算出され得る:
平均効率%=100×(平均Ctコントロール値−平均Ctアッセイ値)/N。
【0054】
当業者によって認識されるように、多重増幅一般についての特定の程度の効率または特定の配列についての特定の程度の効率は、成功のために必要とされない。必要とされるのは、多重増幅が、特定の適用に適切な様式で実施されることだけである。上記で考察した通り、多くの実施形態では、適切に効率的な多重増幅は、従来のPCR反応条件またはRT−PCR反応条件を用いて達成される。しかし、特定の反応条件または反応パラメーター(例えば、用いるDNAポリメラーゼの量)を改変することにより、多重増幅の効率が、従来のPCR反応条件またはRT−PCR反応条件を用いて達成される効率を超えて改善され得ることが見出されている。
【0055】
代表的に、従来のPCR反応およびRT−PCR反応は、0.05U/μLのDNAポリメラーゼを用いて実施される。1U/20μL AmpliTaq Gold DNAポリメラーゼ(Applera Corporationの事業の1つである、Applied Biosystems)を用いて実施される10サイクルの95重増幅については、さらに1〜8U/20μLを添加することによって、多重増幅の効率が向上することが見出されている。実施例の節にさらに詳細に記載されているように、さらに1〜5U/20LのAmpliTaq Gold DNAポリメラーゼを用いて、効率における有意な向上が観察された。向上はまた、さらに6〜15U/20μLを用いて観察されたが、これらは、おそらく、50%グリセロール中に保存されたAmpliTaq(登録商標)Gold DNAポリメラーゼで反応混合物をスパイクすることの結果として反応混合物に添加されるさらなるグリセロールに起因して、それほど明確でなかった(例えば、図3を参照のこと)。効率における同様の増加もまた、他のDNAポリメラーゼ(例えば、TaqIポリメラーゼ、DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメント、SEQUENASE 1.0およびSEQUENASE 2.0(U.S.Biochemical)、T5 DNAポリメラーゼならびにPhi29 DNAポリメラーゼ)について期待される。従って、1つの実施形態では、多重増幅は、20μLの反応体積毎に約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15または16単位のDNAポリメラーゼの存在下で実施される。
【0056】
多重増幅反応の効率はまた、プライマー伸長反応について、単独で、または上記で考察した増加した量のDNAポリメラーゼとの組み合わせのいずれかで、従来のPCRまたはRT−PCRにおいて代表的に用いられるよりも長い持続時間を用いることによって向上し得る。従来のPCR反応およびRT−PCR反応では、プライマー伸長反応は代表的に、1増幅サイクルあたり約1分間実施される。任意の特定の作動理論に束縛されることを意図しないが、プライマー伸長反応の持続時間が1分間から、例えば、約2分間、約3分間、約4分間、約5分間、約6分間、約7分間、約8分間、約9分間、約10分間、またはそれよりも長期に増大することにより、多重増幅の性能または効率が改善され得ると考えられる。従って、1つの実施形態では、1サイクルにつき約2分〜約15分の範囲というプライマー伸長反応についての持続時間を用いて、多重増幅が実施される。1回の反応サイクルを構成する他の区間について用いられる持続時間は、従来用いられる持続時間であり得る。1つの実施形態では、多重増幅は、95°Cにて15秒間という第1変性工程および60℃にて1〜15分間という第2アニーリング/伸長工程を含む2工程のサイクルを用いて実施され得る。
【0057】
従来のPCRおよびRT−PCRは、各プライマーについて約300nM〜900nMの範囲の増幅プライマー濃度を用いる。この範囲のプライマー濃度が多重増幅において用いられ得るが、多重増幅が、かなり低い増幅プライマー濃度を用いて実施され得ることが見出されている。極めて驚くべきことに、10分間/サイクルのプライマー伸長反応時間を用いて10サイクル実施される95重増幅において、非常に効率的な多重増幅が、各プライマーについて45nM程度の低いプライマー濃度を用いて達成された。特定の実施形態では、各プライマーについて約30nM〜45nMの範囲のプライマー濃度が用いられ得る。
【0058】
さらに、個々のプライマー対の濃度を最適化する必要がないことが見出された。増幅される配列にかかわらず、それゆえ、プライマーの配列にかかわらず、これらの増幅プライマーは、各プライマーについて約30nM〜900nMの範囲の濃度で用いられ得る。異なる増幅プライマー対は、この範囲内の異なる濃度で存在し得るか、あるいは、増幅プライマーのいくつかまたは全ては、この範囲内でほぼ等モル濃度で存在し得る。1つの実施形態では、これらの増幅プライマーの少なくともいくつか(例えば、約10%、25%、35%、50%、60%またはそれより多く)が、各プライマーについて約30nM〜約100nMの範囲でほぼ等モル濃度で存在する。別の実施形態では、これらの増幅プライマーの全てが、各プライマーについて30nM〜100nMの範囲でほぼ等モル濃度で存在する。特定の実施形態では、これらの増幅プライマーの全ては、各プライマーについて30nM、40nM、45nM、50nM、60nM、70nM、80nM、90nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、600nM、700nM、800nMまたは900nMの濃度で存在する。なお別の実施形態では、増幅プライマーのいくつかまたは全ては、各プライマーについて約45nMの濃度で存在する。上記で考察した増幅プライマー濃度は、多重増幅される標的ポリヌクレオチドがRNAであるかまたはDNAであるかにかかわらず用いられ得る。多重RT−PCR増幅の逆転写反応は、言及したプライマー濃度において良好に作動する。
【0059】
当業者によって認識されるように、PCR反応およびRT−PCR反応は、以下の3つの段階へと分解され得る:アンプリコンの量がサイクルごとに対数的に蓄積する(すなわち、サイクルごとに倍加する)、対数期;アンプリコンの量がサイクルごと変動率で蓄積する(すなわち、反応は遅くなり始める)、直線期;ならびに反応が停止してアンプリコンは生成されず、十分長期間放置するとアンプリコンが分解し始める、プラトー期。
【0060】
対数期において、達成される増幅の程度は、使用される増幅サイクルの数に対数的に比例する。例えば、10サイクルの増幅により、増幅された配列の量が1024倍増加する。別の例として、15サイクルの増幅により、32,286倍増加する。別の例において、20サイクルの増幅により、1,048,576倍増加する。
【0061】
多重増幅とともに実施される増幅サイクルの数は、とりわけ、望ましい増幅の程度に依存し得る。次に、望ましい増幅の程度は、増幅されるべきポリヌクレオチドサンプルの量、および/または多重増幅産物の意図する下流の用途などの要因に依存し得る。従って、多重増幅において使用されるサイクルの数は、種々の適用のために変化し、それは問う業者にとって明らかである。ほとんどの適用について、10増幅サイクルの間実行される反応は、分析を実施するために必要なサンプルの量に関わらず、サンプルが1個〜数個の細胞に由来する場合でさえ、サンプルが非常に低コピー数で存在する場合でさえ、かつ/またはシングルコピーとしてのみ存在する場合でさえ、数百回の下流での分析のために十分な多重増幅産物を生じることが期待される。しかし、より多いかまたはより少ない増幅サイクルが、使用され得る。特定の実施形態において、多重増幅は、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、18回、19回、20回、またはそれ以上程度の多さのサイクルの間、実行される。具体的実施形態において、多重増幅が、2〜12サイクル(5〜11サイクルを含む)または14サイクルまで実行される(例えば、実施例7参照)。多サイクル数が、多量の下流アッセイが実施されるべき特定の適用において、必要であり得る。
【0062】
多くの実施形態において、対数期または直線期を過ぎて多重増幅を進行させ続けることが、望ましくあり得る。実際、多くの実施形態において、多重増幅を、対数期または直線期において反応を維持するために適切なサイクル数の間実行することが、望ましくあり得る。
【0063】
多重増幅反応パラメーター(例えば、プライマー対もしくはプライマーセットの濃度、DNAポリメラーゼの濃度、所要期間およびアリーリング工程、プライマー伸長工程、および/もしくは変性工程、熱サイクル数、Mg2+濃度、アジュバント濃度(例えば、DMSO、グリセロール、BSAまたは尿素)は、例えば、複数の多重増幅を実行すること、これらのパラメーターのうちの1つ(またはそれ以上)を変化すること、および得られる多重増幅の効率を、例えば上記の方法を使用して評価することによって、経験的に最適化され得る。このような最適化反応の例(DNAポリメラーゼの量が変化される)は、下記の実施例1において記載される。
【0064】
一旦増幅されると、多重増幅産物は、さらなる精製も操作もせずにその後の無数の種々のアッセイまたは分析において使用され得る。そのような後のアッセイまたは分析のために、多重増幅の生成物は、複数の種々のアッセイまたは分析の間で、事前希釈をしてかまたは事前希釈をせずにかのどちらかで、分割され得る。任意の必要に応じた希釈の程度は、望まれる後の分析の数およびそのような分析各々のために必要なサンプルの量などの要因に依存し得、それは当業者にとって明らかである。多重増幅産物を用いて実行され得るその後のアッセイおよび分析の例としては、一塩基多型(SNP)分析、遺伝子型分析、遺伝子発現分析(例えば、定量的PCRまたはRT−PCRまたはオリゴヌクレオチドマイクロアッセイ上でのハイブリダイゼーション)、フィンガープリント分析、核酸配列決定(例えば、米国特許第6,428,986号)、核酸ミニ配列決定(例えば、米国特許第6,479,242号)、および/または遺伝子発現プロファイリングにおいて使用され得るアレイへのハイブリダイゼーション(例えば、米国特許第6,485,944号)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
特定の実施形態において、多重増幅の産物は、複数の種々のアッセイまたは分析の間で分割されない。例えば、1種以上の増幅プライマー、プローブ、色素、および/または他の試薬が、さらなる増幅を実行するために増幅産物に直接添加され得る。種々の他の実施形態において、多重増幅の産物は、複数のアリコートへと分割され、これらのアリコートのうちの1つ以上が、多重アッセイまたは多重分析に供され得る。それらのアッセイまたは分析の例としては、多重増幅および多重SNP検出が挙げられる。
【0066】
1つの具体的実施形態において、多重増幅の産物は、その後の増幅反応(例えば、遺伝子発現分析のために一般的に使用される定量的増幅アッセイまたはリアルタイム増幅アッセイ)において使用され得る。そのような定量的増幅アッセイまたはリアルタイム増幅アッセイの具体的例において、サンプル由来の全RNAが、目的の特殊な遺伝子配列を特異的に増幅するために適切な増幅プライマーと、例えば、RT−PCR増幅において使用されるDNAポリメラーゼの5’−エキソヌクレアーゼ活性を介して、増幅反応において蓄積するアンプリコンの量のリアルタイムモニタを可能にする標識化系で標識されたオリゴヌクレオチドプローブとの存在下で、RT−PCRにより増幅される。そのような定量的RT−PCR増幅反応において得られるサイクル閾値(Ct値)は、元の全mRNAサンプル中に存在する遺伝子コピー数と関連付けられ得る。そのような定量的RT−PCR反応またはリアルタイムRT−PCR反応、ならびに増幅をリアルタイムでモニタするために有用な種々の型の試薬および/または標識オリゴヌクレオチドプローブは、当該分野で周知である。増幅を時間の関数としてモニタするために5’−エキソヌクレアーゼアッセイを利用する具体的アッセイは、5’−エキソヌクレアーゼ遺伝子定量アッセイと呼ばれる(例えば、米国特許第5,210,015号および同第5,538,848号、ならびにLieおよびPetropoulos,1998、Curr.Opin.Biotechnol.14:303〜308を参照のこと)。別の具体的アッセイが、米国特許第5,994,056号に記載されており、これは、増幅を時間の関数としてモニタするためにインターカレート色素または他の色素を利用する。
【0067】
強力ではあるが、5’−エキソヌクレアーゼ遺伝子定量アッセイ(ならびに他の遺伝子定量アッセイ(例えば、DNAマイクロアレイ上で実施される定量アッセイ))は、比較的大量の出発RNA(例えば、1〜10μg)を必要とする。この大量のサンプルが必要なことに起因して、5’エキソヌクレアーゼ遺伝子定量アッセイおよび他の遺伝子定量アッセイは、低コピー数で発現される遺伝子を検出するため、または限定量のサンプルしか(例えば、臨床生検などから)入手可能ではない場合においては、適切ではなかった。
【0068】
サンプル中の複数のポリヌクレオチド配列を同時に増幅する能力によって、本明細書中に記載される多重増幅反応は、そのような下流の遺伝子発現分析(例えば、5’エキソヌクレアーゼ遺伝子定量アッセイ)と組み合わせて使用するために、理想的である。非常に低コピー数でサンプル中に存在するポリヌクレオチド、および/または少数の細胞もしくは1個の細胞から得られるサンプル中に存在するポリヌクレオチドは、数十回、数百回、または数千回〜数十万回の定量的増幅アッセイまたはリアルタイム増幅アッセイのために適切な量のサンプルを提供するように、多重増幅され得る。従って、本発明の一実施形態において、多重増幅反応の産物は、事前に希釈してかまたは事前希釈することなく、複数回の一重定量増幅反応または一重リアルタイム増幅反応の間で分割される。各一重定量増幅反応または一重リアルタイム増幅反応は、1組の増幅プライマーおよび適切なプローブを用いて従来の様式で実行される。一重定量増幅または一重リアルタイム増幅のために使用される増幅プライマーの対または組は、多重増幅反応において使用されるプライマーの対または組のうちの1つと同じであり得る。重要なことに、多重増幅産物は、このような後の一重増幅において、さらなる精製も操作も行うことなく直接使用され得る。種々の酵素、dNTP、増幅プライマーおよび多重増幅から持ち越された他の必要に応じた試薬は、後の定量的増幅アッセイの精度にもリアルタイム増幅アッセイの精度にも干渉しない。
【0069】

本発明者らは、驚くべきことに、特定の実施形態においては、多重増幅は、おそらく高い増幅効率に起因してコピー数比を実質的に維持し、その結果、元のサンプルのコピー数または発現レベルは、多重増幅されたサンプルから確認され得ることを、発見した。従って、いくつかの実施形態において、元のサンプルからのコピー数は決定され得、例えば、種々の下流適用(例えば、遺伝子発現研究)において使用され得る。
【0070】
多重様式で増幅されるサンプルは、さらなる精製も操作もせずに広範な種類の後の分析またはアッセイにおいて使用され得る。例えば、多重増幅の産物は、一塩基多型(SNP)分析、遺伝子型決定分析、遺伝子発現分析、フィンガープリント分析、遺伝子診断のための遺伝子変異分析、細胞中で稀にしか発現されない遺伝子の分析、核酸配列決定(例えば、米国特許第6,428,986号)、および核酸ミニ配列決定(例えば、米国特許第6,479,242号)のために、使用され得る。
【0071】
遺伝子発現研究を実施する際、例えば、多重増幅されたサンプル中のポリヌクレオチド産物を定量するための種々の方法が、使用され得る。用語「定量する」とは、遺伝子の転写レベルを定量する文脈において使用される場合、絶対的定量または相対的定量を指し得る。絶対的定量は、既知の濃度の1種以上の標的核酸(例えば、コントロール核酸)を含め(または既知量の標的核酸自体を用い)、未知物の検出されたシグナルを(例えば、標準曲線の作成を介して)その既知の標的核酸と参照することによって、達成され得る。あるいは、相対的定量化は、2種以上の遺伝子間または2種以上の処理間で検出されたシグナルを比較して、検出されるシグナル値の変化を(暗に転写レベルを)定量することによって、達成され得る。検出されるシグナルは、利用される具体的方法に依存する。例えば、リアルタイムPCRを使用する場合、検出されるシグナルは、蛍光強度に関連付けられ得る。増幅産物は、分離され得、そして当業者に公知の種々の技術のいずれかによって検出され得る(例えば、米国特許第6,618,679号を参照のこと)。検出から得られるデータは、保存され、そして分析されて、1組の遺伝子発現データが得られ得る。微小作製DNAアレイを使用する場合、検出されるシグナルは、ハイブリダイゼーション強度であり得る。
【0072】
具体的実施形態において、多重増幅の産物は、差次的に発現される遺伝子のついてのポリヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブを含む固体支持体に、適用され得る。ポリヌクレオチドが(直接的にか間接的に、共有結合的にか非共有結合的に)結合され得る任意の固体表面が、使用され得る。そのような支持体の非限定的例としては、フィルター、ポリビニルクロリドディッシュ、ビーズ、スライドガラスなどが挙げられる。固体支持体の具体的例は、高密度アレイまたはDNAチップである。これらは、そのアレイ上の所定の位置に特定のハイブリダイゼーションプローブを含む。いくつかの実施形態において、各所定の位置は、1つより多くのそのプローブを含み得るが、その所定の位置内の各分子は、同じ配列を有する。そのような所定の位置は、特徴(feature)と呼ばれる。例えば、1つの固体支持体上に、2個、10個、100個、1000個から、10,000個、100,000個、または400,000個までのそのような特徴が存在し得る。それらのプローブが付着している固体支持体または領域は、ほぼ1cmであり得る。発現モニタのためのハイブリダイゼーションアレイは、当該分野で公知の任意の技術に従って作製および使用され得る(例えば、Lockhart,D.J.ら、1996、Nature Biotechnology 14:1675〜1680;McGall,G.ら、1996、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 93:13555〜13460;および米国特許第6,033,860号、同第6,309,822号;同第6,485,944号;および同第6,548,257号参照)。
【0073】
本発明者らは、驚くべきことに、従来濃度のオリゴヌクレオチドプローブ(例えば、5’−エキソヌクレアーゼプローブ)の存在は、多重増幅反応においては、多重増幅の実施にも効率にも干渉しないことを発見した。そのようなプローブの存在は、多重増幅産物を用いて実行される下流の分析(例えば、一重定量的増幅アッセイもしくは一重リアルタイム増幅アッセイまたは他の分析)にも干渉しない。この発見により、市販されている在庫品の定量的増幅試薬またはリアルタイム増幅試薬(例えば、Applied Biosystems(Applera Corporationの事業)から市販されているAssays−On−Demand試薬)を使用して実行することが可能になる。
【0074】
市販のAssays−On−Demand 5’−エキソヌクレアーゼ試薬(または他の市販の試薬)を用いて多重増幅を実行する能力によって、その後の一重5’−エキソヌクレアーゼアッセイと理想的に相関または一致する多重増幅反応の生成が可能になる。「相関する」または「一致する」とは、多重増幅工程において使用されるプライマーまたはプライマー対の同じ組が、下流分析アッセイにおいて使用され得ることを意味する。しかし、いくつかの実施形態において、下流アッセイにおいて使用されるプライマーまたはプライマー対は、上流多重の多重増幅において使用されるプライマー対とは異なり得る。特定の実施形態において、下流アッセイにおいて使用されるプライマーは、ネスト化(nested)プライマーであっても、そうではなくてもよい。
【0075】
極めて有利なことに、多重増幅を実行し、その後、複数の一重定量増幅アッセイまたは一重リアルタイム増幅アッセイを実行するために適切なキットは、市販の5’−エキソヌクレアーゼ試薬から、さらに操作することも精製することもなく、容易に生成され得る。多重増幅を実施するためのプライマーは、一対の増幅プライマーと5’−エキソヌクレアーゼプローブとを含む、5’−エキソヌクレアーゼ試薬をプールすることによって、生成され得る。上記のように、多重増幅反応および後の一重5’−エキソヌクレアーゼ増幅アッセイにおいて、5’−エキソヌクレアーゼプローブが存在することは、いずれの増幅にも干渉しない。
【0076】
一致または相関している多工程アッセイの実施形態(これは、Applied Biosystemsから入手可能なAssays−On−Demand(登録商標)サービス(例えば、http://www.appliedbiosystems.com/products/productdetail.cfm?prod_id=1101参照)を使用して作製され得る)が、図2に示される。図2を参照すると、複数の5’−エキソヌクレアーゼ増幅プライマー/プローブセットが、使用者によって選択され、そして一緒にプールされて、多重増幅のために適切な複数の増幅プライマーの対または組が生じる(このプールは、複数の5’−エキソヌクレアーゼプローブを含む)。選択された5’−エキソヌクレアーゼ増幅プライマー/プローブのセットの各々の個別のアリコートは、個々の反応容器(例えば、マルチウェルプレートのウェル)に、1つの容器またはウェルについて、1つのプライマー/プローブの組で分配される。第1工程において、目的のサンプル由来の標的ポリヌクレオチドが、プールされた増幅5’−エキソヌクレアーゼプライマー/プローブの存在下で、多重増幅される。その後、多重増幅の生成物が、マルチウェルプレートのウェルへと分注され、一重5’−エキソヌクレアーゼ増幅アッセイが、従来の方法を使用して実行される。ある特に簡便な実施形態において、5’−エキソヌクレアーゼプライマー/プローブのセットは、定量的増幅分析またはリアルタイム増幅分析のために設計された機器(例えば、Applied Biosystems(Apprela Corporationの事業)から入手可能なAB Prism 7900 HT機器)にて直接使用され得る微小流体カードのウェルの間に供給され得る。適切なマイクロカードの例は、米国特許第6,126,899号に記載され、商業的実施形態は、Applied Biosystems(Apprela Corporationの事業)から入手可能な7900HT Micro Fluidicカードである。
【0077】
多重増幅において存在し得るオリゴヌクレオチドプローブは、5’−エキソヌクレアーゼプローブには限定されない。一実施形態において、増幅された標的配列のすべてまたは一部に対して相補的な任意の標識または非標識の一本さオリゴヌクレオチドが、多重増幅において存在し得る。
【0078】
上記で考察したプライマーと同様に、そのようなオリゴヌクレオチドプローブは、DNA、RNA、PNA、LNA、またはそれらの1種以上の組み合わせから構成されるキメラであり得る。そのオリゴヌクレオチドは、標準的または非標準的な核酸塩基またはその混合物から構成され得、増幅プライマーと組み合わせて上記されたような、1つ以上の改変型インターリンケージ(interlinkage)を含み得る。これらのオリゴヌクレオチドプローブは、種々の目的(例えば、生成したアンプリコンの量をモニタするため、一塩基多型を検出するため、または当該分野で周知である他の適用)のために適切であり得る。
【0079】
一実施形態において、各オリゴヌクレオチドプローブは、特定のアンプリコンの少なくとも一領域に対して相補的である。上記プローブは、その特定のアンプリコンの領域に対して完全に相補的であり得るか、またはその特定のアンプリコンに対して実質的に相補的(少なくとも15〜75ヌクレオチドのストレッチにわたって少なくとも約65%相補的)であり得る。他の実施形態において、上記プローブは、そのアンプリコンの領域に対して少なくとも約75%、85%、90%、または95%相補的である。Kanehisa,M.,1984,Nucleic Acids Res.12:203(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。特定のオリゴヌクレオチドプローブとアンプリコンとの間の相補性の正確な程度は、そのプローブにとって望ましい適用に依存し、それは当業者にとって明らかである。
【0080】
このようなオリゴヌクレオチドプローブの長さは、広範に変化し得、そしていくつかの実施形態において、プローブが設計される特定の適用に依存して、わずか2ヌクレオチド〜数十ヌクレオチドまたは数百ヌクレオチドもの範囲であり得る。1つの特定の実施形態において、オリゴヌクレオチドプローブは、長さが約15ヌクレオチド〜35ヌクレオチドの範囲である。別の特定の実施形態において、オリゴヌクレオチドプローブは、長さが約15ヌクレオチド〜25ヌクレオチドの範囲である。なお別の特定の実施形態において、オリゴヌクレオチドプローブは、25ヌクレオチド〜75ヌクレオチドの範囲である。他の実施形態において、プローブは、長さが約6ヌクレオチド〜75ヌクレオチド、または約12ヌクレオチド〜22ヌクレオチドの範囲である。オリゴヌクレオチドプローブは、(例えば、米国特許第6,395,486号に記載されるような)移動度改変因子(mobility modifier)と結合するための5’タグ部分を含み得る。
【0081】
1つの特定の実施形態において、多重増幅において存在するオリゴヌクレオチドプローブは、生成されるアンプリコンの量を時間の関数としてモニタするのに適切である。このようなオリゴヌクレオチドプローブとしては、上記の5’−エキソヌクレアーゼアッセイ(TaqMan(登録商標))プローブ(米国特許第5,538,848号もまた参照のこと)、種々のステムループ分子ビーコン(例えば、米国特許第6,103,476号、および5,925,517号、ならびにTyagiおよびKramer、1996、Nature Biotechnology 14:303−308を参照のこと)、ステムのないビーコンもしくは直鎖状ビーコン(例えば、WO99/21881を参照のこと)、PNA Molecular BeaconsTM(例えば、米国特許第6,355,421号および同第6,593,091号を参照のこと)、直鎖状PNAビーコン、(例えば、Kubistaら、2001、SPIE 4264:53−58を参照のこと)、非FRETプローブ(例えば、米国特許第6,150,097号を参照のこと)、Sunrise(登録商標)/Amplifluor(登録商標)プローブ(米国特許第6,548,250号)、ステムループおよび二重鎖のScorpionTMプローブ(Solinasら、2001、Nucleic Acids res.29:E96および米国特許第6,589,743号)、バルジループプローブ(米国特許第6,590,091号)、偽ノット(pseudo knot)プローブ(米国特許第6,548,250号)、サイクリコン(米国特許第6,383,752号)、MGB EclipseTMプローブ(Epoch Biosciences)、ヘアピンプローブ(米国特許第6,596,490号)、ペプチド核酸(PNA)点灯プローブ、自己集合ナノ粒子プローブ、ならびに、例えば米国特許第6,485,901号;Mhlangaら、2001、Methods 25:463−471;Whitcombeら、1999、Nat.Biotechnol.17:804−807;Isacssonら、2000、Mol.Cell.Probes.14:321−328;Svanvikら、2000、Anal Biochem.281:26−35;Wolffsら、2001、Biotechniques 766:769−771;Tsourkasら、2002、Nucleic Acids Res.30:4208−4215;Riccelliら、2002、Nucleic Acids Res.30:4088−4093;Zhangら、2002、Shanghai.34:329−332;Maxwellら、2002、J.Am.Chem.Soc.124:9606−9612;Broudeら、2002、Trends Biotechnol.20:249−56;Huangら,2002,Chem.Res.Toxicol.15:118−126;およびYuら、2001、J.Am.Chem.Soc.14:11155−11161(これらのすべてが本明細書中で参考として援用される)に記載されるフェロセン修飾プローブが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
別の実施形態において、オリゴヌクレオチドプローブは、当該分野で周知であるような一塩基多型を検出するのに適切である。このようなプローブの特定の例としては、1つのヌクレオチド位置を除いて配列が同一である、一組の4つのオリゴヌクレオチドプローブが挙げられる。この4つのプローブの各々は、この位置に異なるヌクレオチド(A、G、CおよびT/U)を含む。プローブは、スペクトル的に分解可能な異なる波長で光を放出し得る異なる発蛍光団(例えば、4種の異なる色の発蛍光団)のように、お互いを区別可能な、検出可能な異なるシグナルを生成し得る標識で標識され得る。このような標識プローブは、当該分野で公知であり、例えば、米国特許第6,140,054号およびSaikiら、1986、Nature 324:163−166に記載される。
【0083】
これらの種々のオリゴヌクレオチドプローブの存在下で多重増幅を実施することは、多重増幅のための一組の増幅プライマーを設計または作製することにおいて、多大な柔軟性を可能にする。このようなオリゴヌクレオチドプローブを含む市販のプライマーセットは、オリゴヌクレオチドの事前除去を行わずに、単純に一緒にプールされ得、そしてさらなる操作を行わずに多重増幅に使用され得る。
【0084】
いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドプローブは、多重増幅の前に、プールされたプライマーセットから除去され得る。このような除去は、一対の特定の結合分子(例えば、ビオチン/アビジンまたは抗体/抗原)を使用してもたらされ得る。例えば、ビオチン標識したオリゴヌクレオチドプローブは、アビジン結合によって除去され得る。他の実施形態において、標識ヌクレオチドプローブは、レーザーまたは他の光源を使用して光退色され得る。
【0085】
多重増幅はまた、例えば、増幅の終わりおよび/または増幅の間に、増幅産物の蓄積を時間の関数としてモニタするのに適切な色素分子の存在下で行われ得る。1つの実施形態において、このような色素としては、二重鎖ポリヌクレオチドに結合した場合に検出可能なシグナル(例えば、蛍光)を生成する色素が挙げられる。適切な色素の非限定的な例としては、当該分野で周知であるような、一般的な核酸染色剤(例えば、インターカレート色素および副溝結合色素)が挙げられる。特定の実施形態において、色素は、SYBR(登録商標)GreenIもしくはSYBR(登録商標)GreenII、エチジウムブロマイド、またはYO−PRO−1(Molecular Probes、Eugene、ORから入手可能)である。このような色素は、当該分野で一般に使用される通常濃度で使用され得る(例えば、米国特許第5,994,056号を参照のこと)。
【0086】
このような色素分子の存在下、または適切なオリゴヌクレオチドプローブの存在下で多重増幅を行うことにおいて、本出願人らは、プールされたプライマーセットを特徴付けるための一般的な方法を発見した。この方法において、増幅は、リアルタイムでモニタされ、そしてサイクル閾値(「Ctプール」)が得られる。これは、アンプリコンすべての総和によって生成される加法的シグナルである。オリゴヌクレオチドプローブがリアルタイム多重増幅のために使用される実施形態において、別個のプローブが、増幅される各標的配列に対して存在し、そしてプローブすべてが同じシグナル伝達系を使用する。この方法は、予め最適化された既製のキットにて提供され得るプール試薬の高速かつ簡便な試験を提供することにおいて、特に有用である。このような試薬のプールは、本明細書中でさらに記載されるように、市販のプライマーセット(例えば、Assays−on−DemandTM遺伝子発現産物)、またはQuantiTect遺伝子発現アッセイ(Qiagen)で入手可能なプライマーセットを混合することによって調製され得る。
【0087】
本明細書中に記載される方法の特定の適用において、サンプル中の種々のポリヌクレオチドの相対レベルが決定され得、参照配列と比較され得る(すなわち、正規化され得る)。用語「参照配列」とは、アッセイのためのコントロールを提供するサンプルにおいて、増幅の標的としての役割を果たす核酸配列をいう。参照は、サンプル源に対して内部(または内因性)であっても、サンプルに対して外部から付加されても(または外因性であっても)よい。参照配列は、代表的には、多重増幅の間に増幅される。例えば、遺伝子発現分析を行う場合、サンプルに対して内因性である多重セットにおける少なくとも1つの増幅標的が、参照配列として選択され得る。この参照は、非常に定常な発現レベルを示すことが独立して示された標的(例えば、「ハウスキーピング」遺伝子)であり得る。このようなハウスキーピング遺伝子としては、GAPDH、β−アクチン、18S RNAおよびサイクロフィリンが挙げられる。以下に示されるように、内因性の参照配列に由来するCt値は、他の標的配列のCt値を相対発現レベルに変換するためのコントロールを提供し得る。必要に応じて、比較的定常な発現レベルを有する複数のコントロール標的/参照配列が、互いにコントロールとしての役割を果たすように、多重増幅に含まれ得る。あるいは、参照配列は、外部の参照配列であり得る。例えば、外部の参照配列は、逆転写の前にサンプルに添加される規定量のRNA、または多重増幅の前に添加される規定量のDNA(例えば、cDNA)のいずれかであり得る。
【0088】
参照配列の使用の例において、サンプル(例えば、RNAサンプルまたはcDNAサンプル)を増幅するために、多重ポリメラーゼ連鎖反応増幅が、標的配列を増幅するための複数のプライマーセットを使用し、かつ参照配列を増幅するためのプライマーセットを含んで行われる。リアルタイム一重増幅において、Ct標的値が、各標的配列について得られ、そしてCt参照値が、参照配列について得られる。Ct標的値を正規化するために、Ct参照値が、各Ct標的値から減算されて、各標的配列についてのΔCt標的値が得られる。特定の実施形態において、(上記のような)Ctプール値が、参照値として使用され得る。例えば、Ctプール値が得られ得、そして各Ct標的値から減算されて(すなわち、Ctプール値がCt参照値の代わりに使用される)、各Ct標的値が得られる。
【0089】
本方法の特定の適用は、処理された細胞、細胞株、組織または生物から得られるサンプルを分析することに関する。例えば、特定の遺伝子のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションが分析され得る。用語「処理」とは、1以上の細胞、細胞株、組織、または生物を、その細胞、細胞株、組織、または生物が、その遺伝子発現プロフィールを変えるようにさせ得る条件、物質、または薬剤(あるいはそれらの組み合わせ)に供するプロセスをいう。処理としては、一定範囲の化学濃縮および曝露時間が挙げられ得、そして複製サンプルが生成され得る。用語「未処理のコントロール」とは、処理に曝されていない細胞、細胞株、組織、または生物から得られるサンプルをいう。未処理のコントロールに由来するmRNA(またはcDNA)は、多重増幅において、処理した細胞、細胞株、組織または生物に由来するサンプルと同じ様式で増幅され得る。処理したサンプルおよび未処理のサンプルの両方から得られるサイクル閾値は、上記のように正規化され得る。例えば、未処理のコントロールについてのサイクル閾値(「Ct未処理」)は、未処理のコントロールサンプル中の各標的配列について得られ得、そしてCt参照は、上記のように、各参照配列について得られ得る。Ct参照が各Ct未処理値から減算されて、ΔCt未処理値が得られる。同様に、処理した細胞、細胞株、組織または生物に由来するサンプルに由来するmRNA(またはcDNA)についてのサイクル閾値(Ct処理)が得られ得、そして正規化されてΔCt処理値が得られ得る。内因性の参照に対して正規化された、処理したサンプルに由来する標的配列の量、正規化された未処理のコントロールに対する標的配列の量が、以下の式:
−ΔΔCt
によって与えられることが示され得、ここで、ΔΔCt=ΔCt処理−ΔCt未処理である。ΔΔCt値は、標的配列の発現レベルにおける処理の効果の分析において使用され得る。
【0090】
実際には、本明細書中に記載される任意の多重増幅または一重増幅のいずれかを行うことにおいて、望まれる場合、蛍光シグナルにおけるPCRと無関係の変動について正規化するために、蛍光色素(例えば、ROX)を有する受動参照(passive reference)が含まれ得る。
【0091】
また、本明細書中で、複数の異なる目的の標的配列を増幅するのに適切な、複数の増幅プライマーセットを特徴付けするための方法が開示される。1つの実施形態において、プライマーセットがプールされ、そしてこのプライマーセットが、増幅を時間の関数としてモニタするのに適切な試薬の存在下で、多重増幅に使用される。このような試薬の例としては、オリゴヌクレオチドプローブが挙げられる。他の例としては、色素分子(例えば、インターカレート色素および副溝結合色素)が挙げられる。
【0092】
また、本明細書中で、多重増幅および種々の二工程反応ならびに/あるいは本明細書中に記載されるアッセイを行うのに適切な試薬およびキットが提供される。このような試薬およびキットは、本明細書中で記載されるように、単一の増幅プライマーセットの代わりに試薬および/またはキットが単一の容器に包装された複数の増幅プライマーを含む(ここで、この単一の容器は、1以上のオリゴヌクレオチドプローブをさらに含み得る)ことを除いて、従来のPCR増幅反応およびRT−PCR増幅反応を行うのに適切な試薬およびキットを模倣し得る。特定の試薬の例としては、Assays−by−DesignTMに含まれる試薬、遺伝子発現用のPre−Developed Assay Reagents(PDAR)、対立遺伝子区別用のPDARおよびAssays−On−Demand(登録商標)用のPDAR、Applied Biosystems(Applera Corporationの事業)にて市販されている試薬が挙げられるが、これらに限定されない。キットは、必要に応じて、多重増幅産物の下流またはその後の分析のために包装された試薬を備え得る。1つの実施形態において、キットは、複数の増幅プライマーの対またはセットを含む容器、および複数の反応容器を備え、これらの増幅プライマーの各々は、異なる目的の配列を増幅するのに適切であり、そしてこれらの反応容器の各々は、目的の配列を増幅するのに適切な単一の増幅プライマーセットを含む。個々の反応容器に含まれるプライマーは、互いに独立して、複数の多重増幅プライマーを含むプライマーセットと同じであっても異なっていてもよい。特定の実施形態において、容器および複数の反応容器の両方は、キットが図2に示される多工程アッセイを行うのに適切であるように、5’−エキソヌクレアーゼプローブをさらに含む。1つの実施形態において、複数の反応容器は、マルチウェルプレートである。
【0093】
記載されてきた本発明は、以下の実施例において本発明の種々の特徴および利点が示され、この実施例は、例示的かつ非限定的であることが意図される。
【実施例】
【0094】
(7.実施例)
(7.1 実施例1:多重増幅効率は、DNAポリメラーゼの濃度を増加させることによって増加する)
多重増幅を行うためのDNAポリメラーゼの最適量を決定するために、95重(95−plex)増幅をDNAポリメラーゼ濃度の関数として行った。95重増幅用の増幅プライマーミックスを、ランダムに選択した95個の異なる20X Assays−on−DemandTM遺伝子発現産物(Applied Biosystems、Applera Corporationの事業、カタログ番号
【0095】
【化1】


)から、10μLをプールすることによって調製した。各々の20X Assays−on−DemandTM遺伝子発現産物は、2つの非標識増幅プライマー(各プライマー18μM)と、1つのFAM標識TaqMan(登録商標)MGBプローブ(5μM)とを含んでいた。95重増幅を、この増幅プライマーセットを用いて、20μLの反応容積当たり1ユニット(1U/20μL)〜17U/20μLの範囲にわたるDNAポリメラーゼ濃度を使用して行った。1U/20μLのDNAポリメラーゼを用いて行った95重増幅について、5μLのプールプライマーミックス、10μLの2X TaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mix(「2X Master Mix」;Applied Biosystemns、Applera Corporationの事業、カタログ番号4304437)および5μLのテンプレートcDNA(cDNAライブラリーに由来する;100ngの全cDNA)を、反応チューブに加えた。2X Master Mixは、AmpliTaq Gold(登録商標)DNAポリメラーゼ(0.1U/μL)、AmpErase(登録商標)UNG、dUTPを含むdNTP、受動参照(passive reference)および最適緩衝成分を含む。より高いDNAポリメラーゼ濃度で行った95重増幅を、適切な量のAmpliTaq Gold(登録商標)(5U/μl;Applied Biosystemsカタログ番号N808024)を用いて反応をスパイクすることによって調製した。すべての95重反応は、ABI Prism(登録商標)7700機器(Applied Biosystems、Applera Corporationの事業)で、最初に加熱(95℃で10分間)し、その後、合計10サイクル(95℃で15秒間の融解;60℃で1分間のアニーリング/伸長)行った。
【0096】
95重増幅各々の産物を、水で200μlまで(10倍)希釈し、95個の一重リアルタイム増幅反応用に分けた。各一重増幅は、上記の20X Assays−on−DemandTM遺伝子増幅産物のうちの1つをプライマー/プローブとして、1回の反応について1つの異なるプライマーセットと共に使用した。以下の量の試薬を、一重リアルタイム増幅のために使用して20μLの反応容積を得た:2μLの希釈した95重増幅産物、1μLの20X Assays−on−DemandTM遺伝子増幅産物、10μLの2X Master Mixおよび水。すべての一重増幅を、ABI Prism(登録商標)7700または7900機器(Applied Biosystems、Applera Corporationの事業)で、合計40サイクル(上記のサイクル条件と同じ条件を使用する)行った。アンプリコンの蓄積を、リアルタイムでモニタした。これらの増幅が、「アッセイ増幅」である。
【0097】
95種の対応する一重コントロール増幅を、同様の様式で、多重予備増幅に供されていないテンプレートcDNAを用いて行った。DNAポリメラーゼの各濃度について、95個のアッセイ増幅のサイクル閾値(Ct値)を得、そして平均化して、各DNAポリメラーゼ濃度についての平均アッセイCt値(Ctアッセイ)を得た。95種のコントロール増幅についてのCt値もまた平均化して、平均コントロールCt値(Ctコントロール)を得た。平均Ctアッセイ値と平均Ctコントロール値との差(ΔCt値)を、各DNAポリメラーゼ濃度について得、そしてプロットした(図3)。本実験において、特定の標的配列について(産生したアンプリコンの量に関して)一重増幅と同じことを行う多重増幅は、ΔCt値10を生じた。ΔCt値が10に近いほど、10サイクルの多重増幅の効率が良くなる。
【0098】
図3から明らかなように、95重増幅の効率は、1〜5U/20μLの反応容積の範囲にわたって、DNAポリメラーゼ濃度が増加するにつれて増大し、この濃度にて効率は、わずかに減少する前にプラトーであった。本実験から、上記の反応条件を使用して多重増幅を行うための最適にスパイクされたDNAポリメラーゼ濃度が、20μLの反応容積当たり4〜6ユニットの範囲であることが決定された。より高いレベルのスパイクされたDNAポリメラーゼで観察された効率の低下は、多重増幅反応における酵素保存緩衝液の極めて高濃度の成分(例えば、グリセロール)によって引き起こされていると考えられる。
【0099】
(7.2 実施例2:多重増幅は、非常に低いプライマー濃度で効率的であり、最適化を必要としない)
多重増幅の無数の利点のうちの2つは、非常に低いプライマー濃度を用い、かつプライマーの濃度を個々に最適化する必要がなく、1回において複数の配列を効率的に増幅する能力である。これらの点を実証するため、100ng cDNAを、6U/20μL DNAポリメラーゼを用いて、実施例1に記載されるように、95重(95−plex)増幅において0サイクルまたは10サイクル多重増幅した。各多重増幅物を分割し、そして95の個々の一重(single−plex)反応を、実施例1に記載のように実施した。各一重反応についてのΔCt値(Ct0サイクル−Ct10サイクル)を得、そして視覚的比較のため棒グラフにプロットした(図4)。実施例1についてのように、特定の反応についての最適ΔCtは、10である。図4から見られ得るように、95アッセイのうちの90アッセイは、無作為選択多重増幅においてうまく実施された。
【0100】
注目すべきことに、いずれのプライマー濃度も95重増幅工程のために最適化されなかった。市販の20×Assays−On−Demand試薬を、さらなる操作無しに単に共にプールした。その上、多重増幅のプライマー濃度は非常に低く、各プライマーにつき45nMでしか存在しない。対照的に、一重増幅のために用いられたプライマー濃度は、各プライマーにつき900nMであった。
【0101】
(7.3 実施例3:多重増幅は、オリゴヌクレオチドプローブの存在下で実行され得る)
多重増幅の別の重要な利点は、多重増幅の間にも、多重増幅産物について行われる下流増幅の間に有意な干渉なしに、オリゴヌクレオチドプローブ存在下で反応を実行する能力である。この前者の利点は、実施例2(前出)から明白である。実施例2において、多重増幅工程において効率的な増幅が達成され、これは、反応物中のTaqMan(登録商標)MGBオリゴヌクレオチドプローブを含め、Assays−On−DemandTM試薬を利用して、多重プライマープールを作製したおかげである。
【0102】
後者の利点を実証するために、実施例1に記載されるように、5×濃度の95重プライマー/プローブプール(RNA−cDNA特異的)の存在下または非存在下で、1ngのゲノムDNAを用いて、一重RNase Pアッセイ(DNA特異的)を実行した。5×濃度の95重プライマー/プローブプールを、一重RNaseアッセイに対しいかなる影響を有するかを決定するために、添加した。2反応の平均Ct値を、図5に図示する。図5から明らかなように、95重プライマー/プローブプールの存在は、RNase PアンプリコンのCt値に影響せず、一重RNase Pアッセイが、最初に多重プライマーおよび/またはプローブを除去する必要がなく、多重増幅反応の産物を用いて実施され得ることを実証した。多重プライマーおよび/またはプローブの存在は、一重RNase Pアッセイの遂行に悪影響を及ぼさない。
【0103】
(7.4 実施例4:多重増幅は、非常に少量のサンプルの下流分析を可能にする)
多重増幅が、所望の型および/または数の分析のために、他の方法では少なすぎる量のサンプルの下流分析を可能にすることを実証するため、多重増幅を、種々の濃度(100ng〜100pgの範囲(5細胞のサンプルサイズとほぼ等価))のサンプルcDNAを用いて実行した。各濃度のcDNAを95重増幅に供し、その後、95の個々の実時間増幅分析を、実施例1に記載のように実施した。サンプルcDNA濃度の関数としての95重増幅の平均Ct値を、図6に提供する。図6に図示されるように、サンプルcDNA濃度と平均Ct値との間に線形相関が存在し、これは、大きな百分率(約97%)の標的配列を、これらが多重様式で同時に増幅されてもなお、効率よく増幅したことを実証する。達成した感度のレベルは、僅か1〜2細胞からのサンプルを、多重増幅後の実時間PCRによって分析し得ることを実証する。その上、多重増幅は、多数の下流実時間PCRアッセイのために十分な量の、増幅サンプルを生じる。
【0104】
(7.5 実施例5:増大した多重化における多重増幅)
多重増幅が非常に高いレベルの複雑さで実行され得ることを実証するため、186重、369重、738重および1013重の増幅を、4つの個々の多重増幅反応において実行した。各増幅についての増幅プライマー混合物を、等容量の186、369、738または1013の異なった無作為に選択した20×Assays−on−DemandTM遺伝子発現産物を、4つの別々の微小遠心チューブにプールすることにより、それぞれ調製した。4本のチューブの各々について、プールした溶液を、SpeedVac(登録商標)濃縮機(Thermo Savant,Holbrook,NY)を用いて乾燥させた。残渣を、1×作業増幅プライマー濃度(45nM)に対し、多重増幅プライマーが4×ストック濃度(各180nMプライマー)になるように、脱イオン水中に再懸濁した。1013重プール混合物について、合わせたプライマーは、45.6μMの濃度にて再懸濁物中に存在し、そしてFAM標識TaqMan MGBプローブは、10.1μMで存在した。186重増幅について、2つのプレート(IAPおよびIAOと名付けられる)の各々からの92プライマーセットを、2つの参照遺伝子(グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)およびシクロフィリン)についての等容量のプライマーセットと共にプールした。この実施例において記載される実験を設定する上で、便宜上、液体移動において、上記の無作為選択した20×Assays−on−Demand遺伝子発現産物のそれぞれを、一連の96ウェルプレート(アルファベット順にプレートIAA〜IAOと名付けた)に分配した。各20×Assays−on−Demand遺伝子発現産物は、2種の未標識増幅プライマー(各プライマーにつき18μM)および1種のFAM標識化TaqMan(登録商標)MGBプローブ(5μM)を含んだ。
【0105】
各増幅(186重、369重、738重、または1013重のプールしたプライマー混合物から)を、50μLの最終容量で、以下の構成成分を用いて実施した:4×のプールし再懸濁したプライマー混合物(12.5μL)、25μLの2×TaqMan(登録商標)ユニバーサルPCRマスター混合物(「2×マスター混合物」;カタログ番号4324016、UNG酵素非含有)、10μLテンプレートcDNA(cDNAライブラリーから;25ngの全cDNA)および2.5μL AmpliTaq Gold(登録商標)DNAポリメラーゼ(5U/μL)。2×マスター混合物は、AmpliTaq Gold(登録商標)DNAポリメラーゼ(0.1U/μL)、dNTP、受動的参照および最適化緩衝液成分を含んでいた。4つの反応の各々を、計10サイクル(15秒間、95℃で融解;4分間、60℃でアニール/増幅)、ABI Prism(登録商標)7700装置で実施した。
【0106】
各増幅の産物を、水で希釈し、そして一重分析のために分取した。186重および369重反応の場合、一重アッセイを設定する前に、産物を1:5に希釈した。738重および1013重増幅について、一重アッセイを設定する前に、産物を1:10に希釈した。これらの一重増幅の各々を、上述の多重増幅において使用される20×Assays−on−DemandTM遺伝子発現産物のプライマー/プローブの1つとして使用し、そして一連の96ウェルプレートに、液体移動の便宜をはかるために分配した(アルファベット順に、プレートIAA〜IAOと名付けた)。プライマー/プローブの異なったセットを、各一重反応について使用した。以下の容量の試薬を、一重(「アッセイ」)増幅のために使用した:2.5μLの希釈した186重、369重、738重または1013重の増幅産物、0.5μLの20×Assays−on−Demand遺伝子発現産物、5μLの2×マスター混合物および反応物容量を10μLにするまでの水。全てのアッセイ増幅を、計40サイクル(15秒間、95℃で融解;1分間、60℃でアニール/伸長)で、ABI Prism(登録商標)7900装置で実施した。アンプリコンの蓄積を、実時間でモニタした。
【0107】
多重コントロールに対応し、186重、369重、738重および1013重コントロール増幅物を、上述のように調製したが、これらのコントロール多重増幅物を、サーマルサイクリングに供さなかった(すなわち、この反応物を、多重増幅に供さなかった)。これらの「擬似」増幅混合物を、希釈し、そして一重「コントロール」増幅で、上述のようにアッセイした。各アッセイ増幅について、プレートIAOおよびプレートIAPからの標的のCt値を得て平均化し、平均アッセイCt値を生じた。平均ΔCt値を、実施例1に記載のように計算した。ΔCt値を、図7におけるΔCt値の上昇によって選別する。
【0108】
以下の表は、種々のアッセイ増幅からの結果を要約する:
【0109】
【表1】


この結果は、多重増幅を非常に高いレベルの複雑性で実行した際の性能の悪化がなかったことを実証する。
【0110】
(7.6 実施例6:多重PCR増幅は、ウラシルN−グリコしたーゼ(UNG)の存在において実施され得る)
PCRにおける「持ち越し」夾雑を防ぐ方法としては、PCR混合物中でdTTPの代わりにdUTPを使用し、その後、全ての生じたPCR混合物をウラシルNグリコシラーゼ(UNG)で処理することが挙げられる(米国特許第5,035,996号)。この実施例におけるこの実験を、多重増幅の効率に対するUNGの存在の影響を評価するために実施した。
【0111】
最初の186重増幅(UNG(−))を、TaqMan(登録商標)ユニバーサルマスター混合物、AmpErase(登録商標)UNGなし(カタログ番号4324018)をユニバーサルマスター混合物(カタログ番号4304437)の代わりに用いたこと以外は、実施例5に記載のように行った。多重増幅を、実施例5において10サイクルの代わりに、14サイクルに延長した。このサンプルを、増幅後氷上で冷却し、次いで、実施例5に記載のように、一重PCRに供した。
【0112】
別の186重増幅(UNG(+))を、ユニバーサルマスター混合物(カタログ番号4304437)(UNG含有)を用いて、186重増幅を14サイクルに延長した以外は、実施例5に記載のように行い、サンプルを氷上で4時間冷却した。このサンプルを、実施例5に記載のように、一重PCRに供した。
【0113】
これらの2つのプロトコールの各々について、対応するコントロール多重増幅を設定したが、これらのコントロール反応物を、サーマルサイクリングに供さなかった。「UNG(−)」プロトコール由来および「UNG(+)」プロトコール由来の一重増幅についてのΔCt値を得、棒グラフ上にプロットした(図8)。以下の表は、2つのプロトコールの結果を要約する:
【0114】
【表2】

この実施例において、実施例5に記載される手順と類似した手順で実行した多重増幅におけるUNGの存在の影響を、評価した。多重増幅におけるUNGの存在は、UNG(−)サンプルと比較して、一重増幅工程における増幅の効率に、本質的に影響を有さなかった。
【0115】
(7.7 実施例7:多重増幅のサイクルの増加の影響)
実施例5において、多重増幅を、10サイクル行った。本実施例において、多重増幅を、10サイクル、12サイクルおよび14サイクル行った。より高いサイクル数は、増幅産物の濃度を増加させ得、これは、より多数の下流アッセイ(例えば、より多数の一重増幅)を行うことを可能にする。
【0116】
3種の186重増幅を、ユニバーサルマスター混合物(カタログ番号4324018)(AmpErase(登録商標)UNGなし)を用いて、実施例5に記載のように実施し、そして多重増幅を、10、12または14増幅サイクルによって延長した。各3つのプロトコールに対するΔCt値を図9に示し、以下の表に要約する:
【0117】
【表3】


平均ΔCt値は、サーマルサイクル数が増加するに従って増大した。標準偏差は、本質的に変化しなかった。これらの結果は、10から14までのサイクル数で行われる際の性能において減少がないことを示す。増幅が100%の効率である場合、増幅反応物と「擬似」反応物との間のΔCtは、10サイクルの増幅で10であり、12サイクルで12であり、14サイクルで14である。この実施例において、平均ΔCt値は、それぞれ10(9.99)、12(11.8)、および14(14.13)に近似した。
【0118】
(7.8 実施例8:RT−PCR多重増幅によるヒト血漿中のmRNAの定量)
血漿中を循環するRNAの検出は、癌、冠状動脈不全および自己免疫機能不全のような疾患状態の早期検出を可能にし得、そしてまた、その後の遺伝子発現による投薬処置レジメンの成功を、モニタするためにも使用され得る。
【0119】
この実施例は、mRNAのサンプルからのcDNAの産生、その後の1つの反応混合物内における複数の選択されたPCRプライマーの存在下でのcDNAの多重PCR増幅、その後の各選択されたPCRプライマーの存在下での一重実時間PCRを実証する。
【0120】
全血を、健康なドナーから得、そして2000×gで20分間遠心分離した。無細胞上清をデカントし、そして0.2μmフィルターを通して濾過した。回収率(容量約10ml)は、全血容量の約50%であった。RNAを抽出し、エタノール沈殿に供した。RNAペレットを、200μlのTE緩衝液に再懸濁した。
【0121】
108の選択された20×Assays−on−Demand遺伝子発現産物の等容量(各10μl)をプールし、そしてSpeedVac(登録商標)濃縮機(Thermo
Savant,Holbrook,NY)を用いて乾燥させた。残渣を、脱イオン水中に再懸濁し、各プライマーにつき180nMのプライマー濃度を得た。108のAssay−on−Demandプライマーは、固体組織および白血球特異的アンプリコンに対応した。これらの例としては、以下が挙げられた:ピニン(pinin)、ヘキソキナーゼ−1、VEGFβ、PRKCB1、LGALS3BP、シクロフィリンA、GAS2L1、DDX1、TERT、BMPR2、LANCL1およびCCL5。
【0122】
逆転写酵素(RT)および多重増幅インキュベーションは、以下を含んだ:1工程RT−PCRのための125μlの2×ユニバーサルマスター混合物(TaqMan(登録商標)1工程マスター混合物試薬キット、AmpErase(登録商標)UNGなし、カタログ番号4309169);12.5μlのAmpliTaq Gold(5U/μl=20μl多重増幅容量につき5単位過剰);6.25μlの逆転写酵素/RNaseインヒビター;106.25μlの血漿RNA(240ng);および62.5μlのプールし再懸濁した108のAssay−on−Demand産物。終容量は250μl(240ng血漿RNA)であり、そして50μlを、96ウェルプレートの別々のウェルにアリコートに分けた。
【0123】
逆転写反応を、30分間48℃で実施し、その後、95℃で10分間の変性を行った。多重増幅を、計14サイクル(各サイクル:95℃で15秒間;60℃で4分間アニール/伸長)行った。これらの反応を、ABI Prism(登録商標)7700装置で行った。
【0124】
逆転写酵素反応物を含むが14サイクルのPCR多重増幅は省略した「擬似」多重増幅物では、特定のアンプリコンが検出され得ることに起因するシグナルがなかった。以下の表は、選択された標的についての結果を要約する:
【0125】
【表4】


結果は、ヒト血漿RNAの逆転写から得、複数のプライマー対の存在下で多重増幅に供したDNAは、その後、同じプライマー対を最適化なしで用いて、一重増幅され得ることを示す。
【0126】
他で述べない限り、本明細書中で使用されたかまたは企図された技術は、当業者に周知の標準的方法論である。材料、方法および実施例は、例示のみであり、限定ではない。
【0127】
上記は本発明の特定の実施形態を示したが、これらの実施形態は、例証として示されているに過ぎないことが理解されるべきである。上記と異なるが、本明細書中で記載され、特許請求される本発明の精神および範囲から逸脱しないバリエーションが他者により認知され、実践されることが予測される。本明細書中で挙げた全ての特許出願、特許、および参考文献は、本明細書によってその全体が参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−39138(P2013−39138A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−244298(P2012−244298)
【出願日】平成24年11月6日(2012.11.6)
【分割の表示】特願2009−231041(P2009−231041)の分割
【原出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【出願人】(310009775)アプライド バイオシステムズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (19)
【Fターム(参考)】