説明

ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体およびその製造方法

【課題】ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維本来の高耐熱性および高ヤング率を保持しながら、接着強度が高く、ゴム材料、樹脂材料の補強用として有用な繊維複合体および製造法、さらにはゴム補強用として優れた耐熱性を持つ高強力コードを提供する。
【解決手段】硬化性エポキシ化合物を含む油剤を、繊維骨格内に浸透させたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体であって、100〜160℃で乾燥することにより調整された水分量が15〜200重量%であり、かつ硬化性エポキシ化合物を含む油剤中の硬化性エポキシ化合物の繊維への含浸量が、上記繊維の水分量を0重量%に換算したときの繊維重量に対して0.1重量%以上2.0重量%以下であることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム材料や樹脂材料の補強用に好適で、高ヤング率で、寸法安定性が良好で、耐熱性に優れたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体およびその製造方法、ならびにその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、PPTAと記す)繊維は、紡糸時にポリマー溶解の溶媒として濃硫酸を用い液晶状態とした後、口金によるせん断を与えて結晶化度の高い糸に形成される。溶媒である濃硫酸は、紡糸直後に水洗およびアルカリにより中和処理され、200℃以上で乾燥・熱処理された後、フィラメントとして巻き取られて製造されることが知られている(特許文献1)。
【0003】
PPTA繊維は、高強度、高弾性率、高耐熱性、非導電性、錆びないなどの高い機能性と、有機繊維特有のしなやかさと軽量性を併せ持った合成繊維である。これらの特長から、自動車や自動二輪、および自転車用のタイヤ、自動車用歯付きベルト、コンベヤ等の補強材料として用いられている。また、光ファイバーケーブルの補強やロープにも利用されている。さらに、防弾チョッキや、刃物に対して切れにくい性質を利用した作業用手袋や、作業服などの防護衣料、燃え難さを利用した消防服への応用も行われている。
【0004】
これらの利用分野において、PPTA繊維を補強用繊維としてゴムと接着させる場合はレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(以下、RFLと記す)処理を行う必要があるが、RFLはPPTA繊維への付着性が良くない。そこで通常はPPTA繊維にエポキシ化合物等で処理を行った後に、RFL処理を行うという方法がとられている(特許文献2、特許文献3等)。
【0005】
また、PPTA繊維にあらかじめエポキシ化合物の接着剤被覆をしておく方法(特許文献4)や、エポキシ化合物を繊維表面だけではなく繊維に浸透させる方法(特許文献5、特許文献6)が知られており、これらのPPTA繊維にRFL処理を行うことも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3,767,756号明細書
【特許文献2】特開平3−273032号公報
【特許文献3】特開平5−025290号公報
【特許文献4】特開昭59−094640号公報
【特許文献5】特開平11−181679号公報
【特許文献6】特開2006−152533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2や特許文献3等に記載されたRFLを付着させる方法は、2浴以上の処理工程が必要であり生産の際に効率的ではない。特許文献4に記載されているのは、紡糸の際にエポキシ化合物の接着剤を被覆する方法であるが、中和、洗浄の工程の後にエポキシ化合物と硬化剤の水溶液を繊維に添加した後、熱ドラムで硬化させるため、熱ドラムへの付着物が多量に発生して頻繁にドラムを清掃する必要があり生産の際に効率が悪い。特許文献5および6に記載された方法は、エポキシ化合物を繊維表面だけではなく繊維に浸透させて接着強度の向上を試みているが、エポキシ化合物の水溶液で処理を行うだけで追油を行わないため繊維表面の擦過により、PPTA繊維の弱点であるフィブリル化が容易に生じてしまい、毛羽が発生するという問題点がある。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消し、PPTA繊維本来の高耐熱性および高ヤング率を保持しながら、接着強度が高く、ゴム材料、樹脂材料の補強用として有用な繊維複合体および製造法、さらにはゴム補強用として優れた耐熱性を持つ高強力コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するため、次の手段をとるものである。
【0010】
(1)硬化性エポキシ化合物を含む油剤を繊維骨格内に浸透させたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体であって、100〜160℃で乾燥することにより調整された水分量が15〜200重量%であり、かつ硬化性エポキシ化合物を含む油剤中の硬化性エポキシ化合物の繊維への含浸量が、上記繊維の水分量を0重量%に換算したときの繊維重量に対して0.1重量%以上2.0重量%以下であることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
【0011】
(2)硬化性エポキシ化合物を含む油剤および、硬化剤を含む油剤を繊維骨格内に浸透させたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体であって、100〜160℃で乾燥することにより調整された水分量が15〜200重量%であり、 かつ上記繊維の水分量を0重量%に換算したときの繊維重量に対して硬化性エポキシ化合物を含む油剤中の硬化性エポキシ化合物の繊維への含浸量が、0.1重量%以上2.0重量%以下、硬化剤を含む油剤中の硬化剤の繊維への含浸量が、0.02重量%以上1.0重量%以下であることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
【0012】
(3)油剤に含まれる硬化性エポキシ化合物がグリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種類または、2種類以上の混合物である上記(1)または(2)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
【0013】
(4)油剤に含まれる硬化剤が三級アミンである上記(2)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
【0014】
(5)上記(1)または(2)記載の繊維複合体を緊張下で熱処理することにより、水分率を15重量%未満としたことを特徴とする熱処理後のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
【0015】
(6)上記(5)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を用いたことを特徴とするコード。
【0016】
(7)上記(5)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を0.1〜5mmにカットしたフロック状の短繊維複合体。
【0017】
(8)上記(5)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)による浸漬処理を施した後、0.1〜5mmにカットしたフロック状の短繊維複合体。
【0018】
(9)ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡出・中和し、100〜160℃で5〜20秒間乾燥することにより水分率15〜200重量%を保つようにしたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に、硬化性エポキシ化合物を含む油剤を付与して繊維骨格内に浸透させた後、続いて巻き取り工程でボビンに巻き取ることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
【0019】
(10)ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡出・中和し、100〜160℃で5〜20秒間乾燥することにより水分率15〜200重量%を保つようにしたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に、硬化性エポキシ化合物を含む油剤および、硬化剤を含む油剤を付与して繊維骨格内に浸透させた後、続いて巻き取り工程でボビンに巻き取ることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
【0020】
(11)油剤に含まれる硬化性エポキシ化合物がグリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種類または、2種類以上の混合物である上記(9)または(10)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
【0021】
(12)油剤に含まれる硬化剤が三級アミンである上記(10)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
【0022】
(13)上記(9)〜(12)いずれか記載の製造方法によって得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体をボビンから巻き出して緊張下で熱処理することにより、水分率を15重量%未満としたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、従来の問題点であった、RFLを付着させる方法で2浴以上の処理工程が必要であり生産が効率的ではなかった点;紡糸の際にエポキシ化合物の接着剤をあらかじめ被覆しておく方法で、エポキシ化合物と硬化剤の水溶液を繊維に添加した後、熱ドラムで硬化させるため熱ドラムへの付着物が多量に発生して頻繁にドラムを清掃する必要があり生産が効率的でなかった点;エポキシ化合物を繊維表面だけではなく繊維に浸透させる方法で、繊維に油剤を含有しなかったため繊維表面の擦過により毛羽が発生するという点;等を改善できる。
【0024】
それにより、PPTA繊維本来の高ヤング率を保持しながら、接着強度が高く、ゴム材料、樹脂材料の補強用として有用な繊維複合体を提供できる。特に本発明のPPTA繊維複合体は優れた耐熱性を持つので、RFL処理時に被る高温による強力低下が少ないので高強力なゴム補強用コードを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明におけるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)とは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であるが、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものも使用でき、重合体または共重合体の分子量は通常20,000〜25,000が好ましい。
【0026】
PPTA繊維は、PPTAを濃硫酸に溶解し、その粘調な溶液を紡糸口金から押し出し、空気中または水中に紡出することによりフィラメント状にした後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、最終的には120〜500℃の乾燥・熱処理をして得られる。
【0027】
本発明のPPTA繊維の製造方法の代表例としては、PPTAを濃硫酸に溶解して、18〜20重量%の粘調な溶液とし、これを紡糸口金から吐出して、わずかの間空気中に紡出後、水中へ紡糸する。この時、口金吐出時のせん断速度を25,000〜50,000sec−1にするのが好ましい。その後、紡糸浴中で凝固した繊維を水酸化ナトリウム水溶液で中和処理した後、100〜160℃で、好ましくは5〜20秒間乾燥する。このようにして、本発明の硬化性エポキシ化合物含浸前のPPTA繊維の状態となる。続けて、この含浸処理前のPPTA繊維に硬化性エポキシ化合物を含む油剤または、硬化性エポキシ化合物を含む油剤および硬化剤を含む油剤を含浸し、続いて巻き取り工程でボビンに巻き取り、本発明のPPTA繊維複合体を得る。さらに、ボビンから巻き出して緊張下で熱処理して水分率を15重量%未満とすることで、本発明のPPTA繊維複合体を得る。
【0028】
本発明のPPTA繊維複合体は、温度100〜160℃で熱処理条件などを変更しながら、PPTA繊維の結晶サイズが50オングストローム未満の状態を保ち、かつ、水分率が15〜200重量%、好ましくは20〜50重量%の状態を保つようなPPTA繊維とし、そこに硬化性エポキシ化合物を含む油剤あるいは、硬化性エポキシ化合物を含む油剤と硬化剤を含む油剤を浸透させることによって得られる。
【0029】
PPTA繊維の結晶サイズが50オングストローム以上では、硬化性エポキシ化合物および油剤を繊維骨格内に浸透させるのが困難となる。また、水分率が15重量%未満では硬化性エポキシ化合物を含む油剤あるいは、硬化性エポキシ化合物を含む油剤と硬化剤を含む油剤を繊維骨格内に浸透させるのが困難となり、水分率が200重量%を超えると繊維を巻き取る工程が困難になりコストアップの要因となる。
【0030】
硬化性エポキシ化合物および硬化剤は、PPTA繊維の水分量を0%に換算した繊維重量に対して、硬化性エポキシ化合物を含む油剤に含まれる硬化性エポキシ化合物を0.1〜2.0重量%、好ましくは0.2〜1.0重量%含浸・浸透させ、硬化剤を含む油剤中の硬化剤を0.02〜1.0重量%、好ましくは0.04〜0.5重量%含浸・浸透させるのがよい。
【0031】
用いられる硬化性エポキシ化合物は、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロールなどの多価アルコールのグリシジルエーテルから選ばれる1種以上または、2種以上の混合物であることが好ましい。例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0032】
用いられる硬化剤は、アミンであることが好ましく、特に三級アミンが好ましい。例えば、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミンや、脂肪族一級アミンにエチレンオキサイドを付加した長鎖アルキルポリオキシエチレン型三級アミンなどが挙げられる。
【0033】
用いられる油剤は、PPTA繊維に用いられる一般的な油剤、例えば、炭素数18以下の低分子量脂肪酸エステル、ポリエーテル、鉱物油などが挙げられる。
【0034】
硬化性エポキシ化合物は、上記油剤中に約20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%の量で用いられる。また、硬化剤は、上記油剤中に約3〜20重量%、好ましくは5〜10重量%の量で用いられる。
【0035】
硬化性エポキシ化合物を含む油剤、ならびに硬化剤を含む油剤をPPTA繊維に付与する方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等の方法でPPTA繊維に付与される。
【0036】
硬化性エポキシ化合物を含む油剤または、硬化性エポキシ化合物を含む油剤および硬化剤を含む油剤をPPTA繊維骨格内に浸透させPPTA繊維複合体となした後、続いてこのPPTA繊維複合体を巻き取り工程でボビンに巻き取る。
【0037】
巻き取ったPPTA繊維複合体をボビンから巻き出して緊張下で熱処理することにより、水分率を15重量%未満、より好ましくは10重量%未満とする。熱処理の条件は特に限定されない。例えば80〜300℃、好ましくは100〜250℃で熱処理をした場合、水分率は15重量%未満にすることができる。この熱処理によりPPTA繊維複合体のハンドリング性が良好になる。
【0038】
本発明のPPTA繊維複合体は各種用途に有用であり、特にゴム材料、樹脂材料の補強用として有用である。ゴム補強用に使用する場合は、本発明のPPTA繊維複合体にRFLによる浸漬処理を施す。浸漬処理を施す方法は特に限定されるものではないが、通常、ゴムラテックス100重量部に対してレゾルシン−ホルムアルデヒド初期縮合物を2〜20重量部含有させた混合物を、通常固形分濃度で5〜25重量%程度含有するRFL処理液に、PPTA繊維複合体を浸漬するなどしてPPTA繊維複合体に混合物を付着させた後、100〜260℃で熱処理する方法が採用される。
【0039】
ゴムラテックスとしては、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン系ゴムラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス、アクリレート系ゴムラテックスおよび天然ゴムラテックスなどが挙げられ、レゾルシン−ホルムアルデヒド初期縮合物としては、レゾルシン−ホルムアルデヒドを酸触媒またはアルカリ触媒下で縮合させて得られたノボラック型縮合物などが挙げられる。処理液には、ブロックドポリイソシアネート化合物、エチレンイミン化合物、ポリイソシアネートとエチレンイミンとの反応物などから選ばれた1種以上の化合物が混合されていてもよい。
【0040】
本発明のPPTA繊維複合体は、硬化性エポキシ化合物が繊維表面および内部に浸透しているのでRFL処理液の付着性が良い上に、RFL高温処理を行ったときコードの強力低下が生じにくいという利点を持つ。硬化性エポキシ化合物とともに硬化剤が浸透しているPPTA繊維複合体は、硬化剤の触媒効果により硬化性エポキシ化合物が反応しやすくなるという利点を持つ。
【0041】
また、本発明のPPTA繊維複合体にRFLによる浸漬処理を施して0.1〜5mmにカットしたフロック状の短繊維複合体は、ゴムベルトに使用される補強材としても有用である。
【0042】
本発明のPPTA繊維複合体にRFL処理を施さずに0.1〜5mmにカットしたフロック状の短繊維複合体は、歯車に使用される紙、織物、編物、不織布にも有用である。
【0043】
そのほか、本発明のPPTA繊維複合体は、その優れた性質を利用して、紙、織物、編み物、不織布などの布帛、さらにプリント配線板用シート状物などに有用である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を示すが、実施例中の各測定値は次の方法にしたがった。
【0045】
(1)水分量
試料約5gの重量を測定し、300℃×20分の熱処理を行い、25℃65%RHで5分間放置した後、再度重量を測定する。ここで使う水分率は、[乾燥前重量−乾燥後重量]/[乾燥後重量]で得られるドライベース水分率である。
【0046】
(2)繊維の引張強力
テンシロンを使用してJIS L 1013に準じて測定した。
【0047】
(3)コードの引張強力
テンシロンを使用してJIS L 1017に準じて測定した。
【0048】
(4)接着強力(T−引抜力)
JIS L 1017の接着力−A法に準じて下記条件で処理コ−ドを未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で150℃、30分プレス加硫を行ない、放冷後、コードをゴムブロックから30cm/minの速度で引き抜き、その引き抜き荷重をN/cmで表示した。接着評価におけるゴムコンパウンドとしては、天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴムを使用した。
【0049】
[実施例1]
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、110℃×15秒間の低温乾燥をして、水分率35重量%の処理前のPPTA繊維(水分率0重量%換算のとき繊度1670dtex)になるように調製した。
【0050】
このPPTA繊維に、硬化性エポキシ化合物としてトリグリセロールトリグリシジルエーテルを50重量%含有する油剤(ジイソステアリルアジペート/ジオレイルアジペート/硬化ヒマシ油エチレンオキサイド/鉱物油の混合物)を、水分率0重量%換算としたときの繊維に1.0重量%含浸し、硬化性エポキシ化合物を含有する油剤をPPTA繊維に浸透させた後、巻き取り工程でボビンに巻き取り、水分率35重量%のPPTA繊維複合体を製造した。
【0051】
この後、このPPTA繊維複合体をボビンから巻き出し、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、3.9Nの張力での緊張下130℃20秒間熱処理をして巻き取り、水分率が6.9重量%のPPTA繊維複合体を得た。
【0052】
得られたPPTA繊維複合体のマルチフィラメント2本を用いて、下撚15.7回/10cm,上撚15.7回/10cmの撚数で撚糸してコードとした。
【0053】
別途、水酸化ナトリウムの存在下でビニルピリジン−スチレン−ブタジエンラテックス100重量部に対し、レゾルシン1モルに対しホルムアルデヒドを0.30モル反応させて得られた初期縮合物を17重量部混合し、24時間熟成させた(A)液を準備した。調製した(A)液に、ジフェニルメタン−ビス4,4´−N,N´−ジエチレンイミン15重量部の水分散液にトリヒドロキシエチルイソシアヌレート12重量部を水で溶解したものを混合することにより、固形分濃度20%のRFL処理液を得た。
【0054】
続いて上記のPPTA繊維複合体で作製したコードを、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、前記RFL処理液に浸漬(固形分付着量8重量%)し、140℃で150秒乾燥し、続いて245℃で60秒間熱処理することにより、RFLディップコードを作製した。
【0055】
[実施例2]
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、110℃×15秒間熱処理して、水分率35重量%の処理前のPPTA繊維(水分率0重量%換算のとき繊度1670dtex)になるように調製した。
【0056】
このPPTA繊維に、硬化剤としてジメチルデシルアミンを10重量%含有する油剤(ジイソステアリルアジペート/ジオレイルアジペート/硬化ヒマシ油エチレンオキサイド/鉱物油の混合物)を、水分率0重量%換算としたときの繊維に0.6重量%含浸し、続いて硬化性エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルを50重量%含有する油剤(ジイソステアリルアジペート/ジオレイルアジペート/硬化ヒマシ油エチレンオキサイド/鉱物油の混合物)を、水分率0重量%換算としたときの繊維に1.0重量%含浸して、硬化性エポキシ化合物、硬化剤および油剤をPPTA繊維に浸透させた後、巻き取り工程でボビンに巻き取り、水分率35重量%のPPTA繊維複合体を製造した。
この後、この繊維複合体をボビンから巻き出し、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、3.9Nの張力での緊張下110℃40秒間熱処理をして巻き取り、水分率が6.8重量%の繊維複合体を得た。
得られたPPTA繊維複合体を用いて、以下、実施例1と同様にしてRFLディップコードを作製した。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、硬化性エポキシ化合物を含有する油剤のかわりに、硬化性エポキシ化合物(グリセロールトリグリシジルエーテル)を水溶媒に分散溶解させ、PPTA繊維が水分率0重量%換算としたときに硬化性エポキシ化合物を0.5重量%となるように浸透させた後、巻き取り工程でボビンに巻き取り、水分率35重量%のPPTA繊維複合体を製造した。この後、この繊維複合体をボビンから巻き出し、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、3.9Nの張力での緊張下130℃20秒間熱処理をして巻き取り、水分率が7.0重量%の繊維複合体を得た。
得られたPPTA繊維複合体を用いて、以下、実施例1と同様にしてRFLディップコードを作製した。
【0058】
[比較例2]
実施例1において、低温乾燥を行わずに圧搾ローラーにPPTA繊維を通し、水分率350重量%の処理前のPPTA繊維を調製した以外は、実施例1と同様の方法でPPTA繊維複合体を製造した。得られた繊維複合体の水分率は350重量%であった。この後、この繊維複合体をボビンから巻き出し、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、3.9Nの張力での緊張下160℃20秒間熱処理をして巻き取り、水分率が12.0重量%の繊維複合体を得た。
得られたPPTA繊維複合体を用いて、以下、実施例1と同様にしてRFLディップコードを作製した。
【0059】
[比較例3]
実施例2において、中和後、200℃で15秒間熱処理を行った他は、実施例2と同様の方法でPPTA繊維複合体を製造した。得られた繊維複合体の水分率は10.2重量%であった。
得られたPPTA繊維複合体を用いて、以下、実施例1と同様にしてRFLディップコードを作製した。
【0060】
実施例および比較例で得たPPTA繊維複合体および、それらを用いて作製したRFLディップコードの特性を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果から、本実施例で得たPPTA繊維複合体は、緊張熱処理後の引張強力が高い上に、毛羽の量も少なく、しかも、水分量を適切な範囲に調製していないPPTA繊維複合体(比較例2、3)に比べて、RFLディップコードの張力低下が生じにくく、接着強力が高いことがわかる。
【0063】
これに対し、油剤を用いずに硬化性エポキシ化合物を含浸して得たPPTA繊維複合体(比較例1)は、緊張熱処理後の引張強力が低く繊維が毛羽立っており、しかも、RFLディップ処理後にコードの張力低下が生じた。繊維水分率が高い状態で硬化性エポキシ化合物を含浸して得たPPTA繊維複合体(比較例2)は、緊張熱処理後の引張強力が低く、しかも、RFLディップ処理後にコードの張力低下が生じた。繊維水分率が低い状態で硬化性エポキシ化合物を含浸して得たPPTA繊維複合体(比較例3)は、緊張熱処理後の引張強力の低下は小さいが、RFLディップ処理後にコードの張力低下が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体は、ゴム、プラスチック、紙等の分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性エポキシ化合物を含む油剤を、繊維骨格内に浸透させたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体であって、
100〜160℃で乾燥することにより調整された水分量が15〜200重量%であり、
かつ硬化性エポキシ化合物を含む油剤中の硬化性エポキシ化合物の繊維への含浸量が、上記繊維の水分量を0重量%に換算したときの繊維重量に対して0.1重量%以上2.0重量%以下である
ことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
【請求項2】
硬化性エポキシ化合物を含む油剤および、硬化剤を含む油剤を、繊維骨格内に浸透させたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体であって、
100〜160℃で乾燥することにより調整された水分量が15〜200重量%であり、
かつ上記繊維の水分量を0重量%に換算したときの繊維重量に対して硬化性エポキシ化合物を含む油剤中の硬化性エポキシ化合物の繊維への含浸量が、0.1重量%以上2.0重量%以下、硬化剤を含む油剤中の硬化剤の繊維への含浸量が、0.02重量%以上1.0重量%以下である
ことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
【請求項3】
油剤に含まれる硬化性エポキシ化合物がグリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種類または、2種類以上の混合物である請求項1または2記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
【請求項4】
油剤に含まれる硬化剤が三級アミンである請求項2記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
【請求項5】
請求項1または2記載の繊維複合体を緊張下で熱処理することにより、水分率を15重量%未満としたことを特徴とする熱処理後のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
【請求項6】
請求項5記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を用いたことを特徴とするコード。
【請求項7】
請求項5記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を0.1〜5mmにカットしたフロック状の短繊維複合体。
【請求項8】
請求項5記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)による浸漬処理を施した後、0.1〜5mmにカットしたフロック状の短繊維複合体。
【請求項9】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡出・中和し、100〜160℃で5〜20秒間乾燥することにより水分率15〜200重量%を保つようにしたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に、硬化性エポキシ化合物を含む油剤を付与して繊維骨格内に浸透させた後、続いて巻き取り工程でボビンに巻き取ることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
【請求項10】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡出・中和し、100〜160℃で5〜20秒間乾燥することにより水分率15〜200重量%を保つようにしたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に、硬化性エポキシ化合物を含む油剤および、硬化剤を含む油剤を付与して繊維骨格内に浸透させた後、続いて巻き取り工程でボビンに巻き取ることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
【請求項11】
油剤に含まれる硬化性エポキシ化合物がグリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種類または、2種類以上の混合物である請求項9または10記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
【請求項12】
油剤に含まれる硬化剤が三級アミンである請求項10記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜12いずれか記載の製造方法によって得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体をボビンから巻き出して緊張下で熱処理することにより、水分率を15重量%未満としたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。


【公開番号】特開2012−207326(P2012−207326A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72361(P2011−72361)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】