説明

ポリビニルアセタール樹脂及びポリビニルアセタール樹脂の製造方法

【課題】高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率を両立し、かつ、アルデヒドや触媒が残存しないポリビニルアセタール樹脂、及び、該ポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】ビニルアセタール基率が50モル%以上、ビニルエステル基率が30モル%以上であり、アルデヒド残渣が50ppm以下、かつ、触媒残渣が全くないポリビニルアセタール樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率を両立し、かつ、アルデヒドや触媒が残存しないポリビニルアセタール樹脂、及び、該ポリビニルアセタール樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール樹脂は、合わせガラスの中間膜、接着剤、塗料、各種バインダー等の広汎な用途に使用されている。ポリビニルアセタール樹脂は、ビニルアセタール基、ビニルエステル基、ビニルアルコール基等の官能基を有するが、これらの官能基の含有量を調整することにより、幅広い物性を付与することができる。近年、ポリビニルアセタール樹脂の高性能化に対する要求が高まってきており、より幅広い物性を有するポリビニルアセタール樹脂が求められるようになってきた。
【0003】
例えば特許文献1には、高ビニルエステル基率のポリビニルアセタール樹脂からなる樹脂膜を、通常のポリビニルアセタール樹脂からなる樹脂膜で挟持して積層してなる合わせガラス用中間膜が記載されており、このような中間膜は特に遮音性に優れるとされている。高ビニルエステル基率のポリビニルアセタール樹脂は、樹脂中のビニルアルコール基による水素結合力が緩和され、ガラス転移温度(Tg)が低くなる。このような低Tgの樹脂膜は、樹脂膜自体の内部エネルギー損失が増大することから、遮音性能が発揮されるものと考えられる。
【0004】
ポリビニルアセタール樹脂は、通常、ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体を原料として、アルデヒドによりアセタール化することにより製造される。この際、原料となるビニルエステル−ビニルアルコール共重合体におけるビニルエステルとビニルアルコールとの比率を調整したり、アセタール化の程度を調整したりすることにより、最終的に得られるポリビニルアセタール樹脂中の各官能基の含有量を調整することができる。
【0005】
しかしながら、高ビニルエステル基率のポリビニルアセタール樹脂を得ようとして、原料となるビニルエステル−ビニルアルコール共重合体中のビニルエステル比率を上げると、アセタール化反応の溶媒である水への溶解性が著しく低下してしまう。また、アルデヒドとの反応性も低下してしまうことから、高ビニルアセタール基率のポリビニルアセタール樹脂を得ようとして、過剰のアルデヒドを用いてアセタール化しようとすると、樹脂中にアルデヒドが残存して、樹脂の劣化の原因となる。このように従来の方法では、高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率を両立したポリビニルアセタール樹脂を製造することは困難であった。
【0006】
これに対して、いったん低ビニルエステル基率、高ビニルアセタール基率のポリビニルアセタール樹脂を製造し、これにピリジン触媒を用いて無水カルボン酸を付加させることによりビニルエステル基率を高める方法も知られている。しかしながら、この方法では、得られるポリビニルアセタール樹脂中に触媒が残留するため、性能を著しく低下させてしまうという問題があった。樹脂中の残留触媒を除去しようとすると、煩雑な工程を必要としコストアップになるにもかかわらず、完全には残留触媒を除去することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−84468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率を両立し、かつ、アルデヒドや触媒が残存しないポリビニルアセタール樹脂、及び、該ポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ビニルアセタール基率が50モル%以上、ビニルエステル基率が30モル%以上であり、アルデヒド残渣が50ppm以下、かつ、触媒残渣が全くないポリビニルアセタール樹脂である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、ビニルアセタール基率が50モル%以上である。ビニルアセタール基率が50モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂を用いると、衝撃強度や引張強度等の機械的強度に優れる樹脂膜を製造することができ、合わせガラス用中間膜等の幅広い用途に好適に用いることができる。本発明のポリビニルアセタール樹脂のビニルアセタール基率のより好ましい下限は60モル%である。本発明のポリビニルアセタール樹脂のビニルアセタール基率の上限は特に限定されないが、実質的には80モル%程度が上限である。
【0011】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、ビニルエステル基率が30モル%以上である。ビニルエステル基率が30モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が相対的に低くなる。このようなポリビニルアセタール樹脂を用いると、例えば、遮音性に特に優れた合わせガラス用中間膜を製造することができる。本発明のポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル基率のより好ましい下限は32モル%である。本発明のポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル基率の上限は特に限定されないが、実質的には50モル%程度が上限である。
【0012】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。本発明のポリビニルアセタール樹脂の重合度が500未満であると、フィルムに成形した際の強度が低下することがあり、5000を超えると、熱溶融粘度が高くなりすぎて成形性が悪くなることがある。本発明のポリビニルアセタール樹脂の重合度のより好ましい下限は800、より好ましい上限は3000である。
【0013】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、アルデヒド残渣が50ppm以下である。アルデヒド残渣が50ppmを超えると、加熱等を行ったときに樹脂が劣化して着色してしまう。本発明のポリビニルアセタール樹脂は、アルデヒド残渣が30ppm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、触媒残渣が全くない。触媒残渣があると、加熱等を行ったときに樹脂が劣化して着色してしまうことがある。
【0015】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、炭素数が4のn−ブチルアルデヒドを用いてブチラール化されたポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。ポリビニルブチラール樹脂を用いると、例えば、遮音性に特に優れた合わせガラス用中間膜を製造することができる。
【0016】
従来のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率を両立し、かつ、アルデヒドや触媒が残存しない本発明のポリビニルアセタール樹脂を製造することはできなかった。
これに対して本発明者は、鋭意検討の結果、ビニルアセタール基率が50モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂を原料として、触媒を含まない、温度100〜400℃、圧力0.5MPa以上の高温高圧流体中で、カルボン酸又はカルボン酸無水物と反応させる方法により、本発明のポリビニルアセタール樹脂を製造できることを見出した。
このような本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0017】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法によれば、触媒を使用せずにポリビニルアセタール樹脂をエステル化することができる。
ポリビニルアセタール樹脂をカルボン酸又はカルボン酸無水物によりエステル化する場合、ピリジン等の触媒が必要であることが技術常識であった。しかし、本発明者は、カルボン酸又はカルボン酸無水物を高温高圧状態にすることで、酸触媒効果が発現し、別に触媒を加えなくてもポリビニルアセタール樹脂のエステル化反応が進行することを見出した。更に、加熱、加圧することにより、ポリビニルアセタール樹脂の溶解性が向上することから、樹脂の構造内部にまでカルボン酸又はカルボン酸無水物が浸入できるようになることもエステル化反応の進行に寄与するものと考えられる。
【0018】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、原料としてビニルアセタール基率が50モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂を用いる(以下、これを「原料ポリビニルアセタール樹脂」ともいう)。
上記原料ポリビニルアセタール樹脂は、ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体を、酸性触媒下、アルデヒドと反応させてアセタール化する等の従来公知の方法により製造することができる。この際、ビニルアセタール基率を50モル%以上とするためには、低温にて長時間反応させることが好ましい。
【0019】
上記ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体は特に限定されず、例えば、ポリビニルエステル樹脂をアルカリ、酸、アンモニア水等によりけん化することにより製造された従来公知のビニルエステル−ビニルアルコール共重合体を用いることができる。
上記ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体は、エチレン等の、ビニルエステル、ビニルアルコールと共重合可能なモノマーを含む共重合体も用いることができる。
【0020】
上記ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体の重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。上記ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体の重合度が500未満であると、最終合成品のポリビニルアセタール樹脂をフィルムに成形した際の強度が低下することがあり、5000を超えると、最終合成品のポリビニルアセタール樹脂の熱溶融粘度が高くなりすぎて成形性が悪くなることがある。上記ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体の重合度のより好ましい下限は800、より好ましい上限は3000である。
【0021】
上記アルデヒドは特に限定されず、例えば、炭素数1〜19の直鎖状、分枝状、環状飽和、環状不飽和、又は、芳香族のアルデヒドが挙げられる。具体的には例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。また、上記アルデヒドは、例えば、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。上記アルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、上記原料ポリビニルアセタール樹脂を、カルボン酸又はカルボン酸無水物とエステル化反応させる。
上記カルボン酸又はカルボン酸無水物としては特に限定されないが、炭素数が2以上のカルボン酸又はその無水物であることが好ましい。炭素数が1であると、構造中の水素結合を阻害する効果が充分ではない。なかでも、炭素数が2である酢酸、又は、その無水物である無水酢酸がより好適である。
【0023】
上記原料ポリビニルアセタール樹脂に対する上記カルボン酸又はカルボン酸無水物の配合量は特に限定されないが、原料ポリビニルアセタール樹脂に対して理論反応量の等倍以上、30倍以下のカルボン酸又はカルボン酸無水物を配合することが好ましい。上記カルボン酸又はカルボン酸無水物の配合量が等倍未満であると、エステル化反応が進まず、得られるポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル基率が低くなることがあり、30倍を超えて配合しても、それ以上はビニルエステル基率の向上に寄与せずコストアップにつながるおそれがある。また、カルボン酸又はカルボン酸無水物の配合量が多すぎると、得られるポリビニルアセタール樹脂に匂いが残る場合がある。上記カルボン酸又はカルボン酸無水物の配合量のより好ましい上限は10倍、更に好ましい上限は3倍である。
【0024】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、原料ポリビニルアセタール樹脂とカルボン酸又はカルボン酸無水物とを、耐圧性の反応容器内で高温高圧流体と接触させる。
上記接触させる方法としては特に限定されないが、例えば、攪拌機付きの耐圧容器に原料ポリビニルアセタール樹脂と、カルボン酸又はカルボン酸無水物とを投入しヒーターにて加熱し、必要であれば液送ポンプにてカルボン酸又はカルボン酸無水物を投入して加圧する方法が好適である。即ち、この場合には高温高圧流体は、カルボン酸又はカルボン酸無水物のみからなる。
【0025】
上記高温高圧流体は、更に、窒素、酸素、窒素酸化物、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、水、アルコール及び空気からなる群より選択される少なくとも1種を含有してもよい。なかでも、二酸化炭素を含有することが好ましい。この場合、原料ポリビニルアセタール樹脂とカルボン酸又はカルボン酸無水物とを投入した攪拌機付きの耐圧容器に、ポンプ等を用いて二酸化炭素等を投入して加圧することが考えられる。
【0026】
上記高温高圧流体の圧力の下限は0.5MPaである。上記高温高圧流体の圧力が0.5MPa未満であると、エステル化反応が進みにくく、高ビニルエステル基率を有するポリビニルアセタール樹脂が得られない。上記高温高圧流体の圧力の好ましい下限は1.0MPa、より好ましい下限は10MPa以上である。
【0027】
上記高温高圧流体の温度の下限は100℃、上限は400℃である。上記高温高圧流体の温度が100℃未満であると、高ビニルエステル基率を有するポリビニルアセタール樹脂が得られず、400℃を超えると、ポリビニルアセタール樹脂の主鎖の切断が起こる等、樹脂が劣化して着色してしまうことがある。上記高温高圧流体の温度の好ましい上限は250℃、より好ましい上限は200℃である。
【0028】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法によれば、触媒を用いた反応を行うことなく高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率とを達成できることから、得られた樹脂に触媒が残存することもない。また、アセタール化反応時に過剰なアルデヒドを用いなくとも高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率とを達成できることから、容易に樹脂中のアルデヒド残渣を低減することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率を両立し、かつ、アルデヒドや触媒が残存しないポリビニルアセタール樹脂、及び、該ポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
(1)原料ポリビニルブチラール樹脂の調整
重合度1700、けん化度99.2モル%のポリビニルアルコール(クラレ社製、117−BU)190gを純水2900gに加えて加温溶解した。得られた溶液の温度を20℃に調節し、35%塩酸201gとn−ブチルアルデヒド124gとを加えて、液温を8℃に下げてこの温度を保持して反応物を析出させた。その後、液温を50℃で4時間保持して反応を完了させ、中和、水洗、乾燥を経て、白色粉末状の原料ポリビニルブチラール樹脂を得た。
得られた原料ポリビニルブチラール樹脂を乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、H−NMR測定により組成分析を行ったところ、ビニルブチラール基率66.5モル%、ビニルアルコール基率32.7モル%、ビニルエステル基率0.8モル%であった。
【0032】
(2)ポリビニルブチラール樹脂の製造
得られた原料ポリビニルブチラール樹脂20gと酢酸40gとを攪拌翼付きの容積100mLの耐圧容器に投入し、攪拌しながらヒーターにて160℃に加熱した。このとき圧力は0.5MPaとなった。5時間反応させた後容器を冷却し反応容器内の反応物(ポリビニルブチラール樹脂)を取り出した。
【0033】
(実施例2)
実施例1で得られた原料ポリビニルブチラール樹脂30gと無水酢酸30gとを攪拌翼付きの容積100mLの耐圧容器に投入し、攪拌しながらヒーターにて160℃に加熱した。このとき圧力は0.5MPaとなった。4時間反応させた後容器を冷却し反応容器内の反応物を水に投入し析出させてポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0034】
(実施例3)
実施例1で得られた原料ポリビニルブチラール樹脂30gと酢酸30gと無水酢酸15gとを攪拌翼付きの容積100mLの耐圧容器に投入し、攪拌しながらヒーターにて160℃に加熱した。このとき圧力は0.5MPaとなった。3時間反応させた後容器を冷却し反応容器内の反応物を水に投入し析出させてポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0035】
(比較例1)
ポリ酢酸ビニルをけん化し、ビニルアセチル基率18モル%、ビニルアルコール基率82モル%、重合度1500のビニルエステル−ビニルアルコール共重合体を得た。
得られたビニルエステル−ビニルアルコール共重合体5gと水45gとをセパラブルフラスコに投入し40℃で攪拌しながら35%濃度の塩酸3gを添加し、更にブチルアルデヒド3gを投入した。5時間反応させた後、反応物であるポリビニルブチラール樹脂を取り出した。
【0036】
(比較例2)
ポリ酢酸ビニルをけん化し、ビニルアセチル基率60モル%、ビニルアルコール基率40モル%、重合度1500のビニルエステル−ビニルアルコール共重合体を得た。
得られたビニルエステル−ビニルアルコール共重合体5gと水45gとをセパラブルフラスコに投入し40℃で攪拌しながら35%濃度の塩酸3gを添加し、更にブチルアルデヒド3gを投入した。5時間反応させた後、反応物であるポリビニルブチラール樹脂を取り出した。
【0037】
(比較例3)
ポリ酢酸ビニルをけん化し、ビニルアセチル基率18モル%、ビニルアルコール基率82モル%、重合度1500のビニルエステル−ビニルアルコール共重合体を得た。
得られたビニルエステル−ビニルアルコール共重合体5gと水45gとをセパラブルフラスコに投入し40℃で攪拌しながら35%濃度の塩酸3gを添加し、更にブチルアルデヒド1gを投入した。5時間反応させた後、反応物であるポリビニルブチラール樹脂を取り出した。
【0038】
(比較例4)
ポリ酢酸ビニルをけん化し、ビニルアセチル基率40モル%、ビニルアルコール基率60モル%、重合度1500のビニルエステル−ビニルアルコール共重合体を得た。
得られたビニルエステル−ビニルアルコール共重合体5gと水45gとをセパラブルフラスコに投入し40℃で攪拌しながら35%濃度の塩酸3gを添加し、更にブチルアルデヒド40gを投入した。5時間反応させた後、反応物であるポリビニルブチラール樹脂を取り出した。
【0039】
(比較例5)
実施例1で得られたポリビニルブチラール樹脂30gと酢酸30gと無水酢酸15gを攪拌翼付きの容積100mLのセパラブルフラスコに投入し、攪拌しながらウォーターバスにて95℃に加熱した。3時間反応させた後容器を冷却し、反応容器内の反応物を取り出した。
【0040】
(評価)
実施例及び比較例で得られたポリビニルブチラール樹脂について、以下の方法により評価を行った。結果を表1に示した。
【0041】
(1)ビニルエステル基率、ビニルアセタール基率の測定
得られた樹脂を乾燥後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、H−NMR測定により組成分析を行った。
【0042】
(2)不純物残渣量の測定
得られた樹脂を乾燥後、150℃の熱脱着ガスクロマトグラフ分析(GC−MS)及びH−NMR測定により残存するアルデヒド残渣及び触媒残渣(ピリジン残渣)の量を測定した。
【0043】
(3)樹脂のガラス転移温度の測定
得られた樹脂を乾燥後、粉末状に粉砕し、示差走査型熱量計(DCS)にて10℃/分の昇温速度にてガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0044】
(4)熱安定性の評価
得られた樹脂を乾燥後、粉末状に粉砕し、その2gを試験管に入れた。その状態で樹脂の粉末の色を目視にて観察した。次いで、170℃及び180℃にて90分間加熱した後に、樹脂の粉末の色を目視にて観察した。各々の場合に、樹脂に着色が認められなかった場合を「○」、着色が認められた場合を「×」と評価した。
【0045】
(5)衝撃強度及び引張強度の測定
得られた樹脂を乾燥後、温度180℃の余熱処理を10分間行った後、温度180℃、10MPaの加圧、10分間の条件にてプレス成型して、厚さ4mmのシートサンプルを得た。
得られたシートサンプルについて、JIS7110に準拠した衝撃強度測定法にて衝撃強度を、JIS7113に準拠した引っ張り試験法にて引張強度を測定した。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率を両立し、かつ、アルデヒドや触媒が残存しないポリビニルアセタール樹脂、及び、該ポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアセタール基率が50モル%以上、ビニルエステル基率が30モル%以上であり、アルデヒド残渣が50ppm以下、かつ、触媒残渣が全くないことを特徴とするポリビニルアセタール樹脂。
【請求項2】
ポリビニルブチラール樹脂であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリビニルアセタール樹脂を製造する方法であって、
ビニルアセタール基率が50モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂を、触媒を含まない、温度100〜400℃、圧力0.5MPa以上の高温高圧流体中で、カルボン酸又はカルボン酸無水物と反応させる
ことを特徴とするポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項4】
カルボン酸が酢酸であり、カルボン酸無水物が無水酢酸であることを特徴とする請求項3記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項5】
高温高圧流体は、カルボン酸又はカルボン酸無水物のみであることを特徴とする請求項3又は4記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項6】
高温高圧流体は、二酸化炭素を含有することを特徴とする請求項3、4又は5記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2013−47301(P2013−47301A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186190(P2011−186190)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】