説明

ポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法及びその用途

【課題】屋外での放置であっても数分から数日間でゲルを形成することから作業性に優れ、得られたヒドロゲルが酸性領域でも耐水性を有するポリビニルアルコール系組成物及びポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法及びその用途を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール(A)、水溶性有機チタン化合物(B)及び水(C)を主構成成分とし、
1)水溶性有機チタン化合物(B)が、アミノアルコールをキレート型配位子の一成分として含有するチタン化合物であり、
2)(A)、(B)及び(C)の合計量に対する(A)の割合が0.5〜10質量%、
3)(A)のビニルアルコール単位と(B)成分中に含有されるチタン原子のモル比(A):(B)が、1:0.01〜1.0、
4)(A)の重合度が500以上
であるゲル形成用組成物から形成されたヒドロゲルを、土木資材、建築資材、農水産資材、水質浄化材、人体発熱時の冷媒体、人工擬似餌又は玩具に使用することを特徴とするポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法及びその用途である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(以下、単にPVAと記載することがある)、水溶性遷移金属化合物および水を主構成成分とするポリビニルアルコール系ヒドロゲル形成用組成物及びヒドロゲルに関する。より詳しくは、数分から数日時間、常温で放置することで、高い含水率で、優れた弾性強度、透水性および酸性領域での耐水性を有するポリビニルアルコール系ヒドロゲルを形成する組成物より得られるポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系ヒドロゲルを得る方法としては、(1)PVA水溶液に凍結と融解を繰り返すことでゲルを得る方法(例えば、特許文献1参照)、(2)アルカリ共存下でホウ酸等を混合してゲルを得る方法(例えば、特許文献2参照)、(3)PVA水溶液を高濃度塩液中で凝固した後に、酸共存下にホルマール化処理してゲルを得る方法(例えば、特許文献3参照)、(4)PVA水溶液に電子線や放射線等を照射してPVA分子を架橋させる方法(例えば、特許文献4及び特許文献5参照)及び(5)PVA水溶液にトリメチロールメラミンを加えてPH調整した後、数時間放置してゲルを得る方法(例えば、特許文献6参照)等が知られている。
【0003】
ポリビニルアルコール系ヒドロゲルを、遮水材や振動吸収材として土木用途に、又は地盤改良材として農業用途に用いる場合は、液状組成物を地盤や地中に一定量を注入したり混合した後、数分から数十時間の時間経過をおいてゲル化反応を徐々に進行させ、最終的なポリビニルアルコール系ヒドロゲルを形成する必要がある。
しかしながら、特許文献1の方法は大容量のゲルを処理することができない。また特許文献2の方法は比較的高濃度のPVA水溶液を用いなければならず、ホウ酸添加とほぼ同時にゲルが形成されるために土木・農業用途への適用に際しては作業性に問題がある。
一方、特許文献3の方法は、凝固工程が必要なために比表面積の小さい形状物への適用が困難であり、土木・農業用途には不適当である。特許文献4及び特許文献5の方法も装置の制約や瞬時の架橋形成のために土木・農業用途には不適当である。更に特許文献6の方法では、ゲル形成に要する時間は数時間から数日間程度であるが、酸性領域での耐水性が低く酸性水に接触するとゲルが溶出するという課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−43188号公報
【特許文献2】特開平6−57012号公報
【特許文献3】特開平9−124731号公報
【特許文献4】特開平7−25941号公報
【特許文献5】特開平11−157202号公報
【特許文献6】特開2002−294014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような状況に鑑み、屋外に放置しても数分から数日間でゲルを形成することから作業性に優れ、得られたヒドロゲルが酸性領域でも耐水性を有するポリビニルアルコール系組成物より得られるポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法及びその用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の目的を達成するために鋭意研究を行った結果、ポリビニルアルコール(A)、水溶性有機チタン化合物(B)及び水(C)を主構成成分とする特定のポリビニルアルコール系組成物が上記目的にかなうものであり、酸性水中でも耐水性に優れ、特に土木・農業用等に好適な性質を有することを見出し、本発明に到達した。
【0007】
即ち本発明は、以下のヒドロゲル形成用組成物から形成されたポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法及びその用途を提供するものである。
(1) ポリビニルアルコール(A)、水溶性有機チタン化合物(B)及び水(C)を主構成成分とし、
1)水溶性有機チタン化合物(B)が、アミノアルコールをキレート型配位子の一成分として含有するチタン化合物であり、
2)(A)、(B)及び(C)の合計量に対する(A)の割合が0.5〜10質量%、
3)(A)のビニルアルコール単位と(B)成分中に含有される遷移金属原子のモル比(A:B)が、1:0.01〜1.0、
4)(A)の重合度が500以上
であるゲル形成用組成物から形成されたヒドロゲルを、土木資材、建築資材、農水産資材、水質浄化材、人体発熱時の冷媒体、人工擬似餌又は玩具に使用することを特徴とするポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法。
(2) 容器内でゲル形成用組成物を20℃で7日間保持して得られたヒドロゲル上に、直径3.5mmの金属棒を10mm/minの速度で貫入させる貫入試験において、10mm貫入時の応力を金属棒の断面積で除した貫入強度が1〜200kPaである前記(1)のポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法。
(3) 長さ1m以上のガラス管の底に栓をして、その上に厚さ2cmとなるようにゲル形成用組成物を入れ、20℃で7日間保持して得られた厚み2cmのヒドロゲル上に100cmの高さまで水を入れてから、ガラス管の底の栓を抜いて5日間放置した後の水位h(cm)を測定し、下記式(1)により求めた透水係数が1×10-5cm/sec以下である前記(1)のポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法。
透水係数(cm/sec)=
2×ln(100/h)/(5×24×3600) (1)
(式中、lnは自然対数を示す。)
(4) ポリビニルアルコール系ヒドロゲルを、pH2の水溶液中に浴比1:100(ポリビニルアルコール系ヒドロゲルの重量:pH2の水溶液の重量)で、20℃で7日間浸漬した後、下記式(2)により求めたポリビニルアルコール(A)の重量保持率(Wab)が70%以上である前記(1)のポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法。
Wab(重量%)=100−[10000×(Wb)/(Wa)] (2)
(式中、Wabはポリビニルアルコール(A)の重量保持率、Waはヒドロゲルの当初の固形分濃度(重量%)、Wbは20℃で7日間浸漬後の固形分濃度(重量%)を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリビニルアルコール系ヒドロゲル形成用組成物は、屋外での放置であっても数分から数日間でゲルを形成することから作業性に優れ、酸性領域でも耐水性を有するヒドロゲルを形成する。得られたポリビニルアルコール系ヒドロゲルは、高い含水率で、優れた弾性強度、透水性に優れたものであり、土木、建築、農水産等の資材として好適に用いられ、また、水質浄化材、人体発熱時の冷媒体、人工疑似餌、玩具等にも使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に使用される成分(A)のPVAは特に限定されるものではないが、重合工程等において他の成分により変性、共重合されているものでも良い。例えば、エチレン変性、シラン変性、アルキルエーテル変性、カルボキシル変性、イタコン酸変性、疎水性基変性等がされているもの、或いは酢酸ビニル、エチレンに代表される成分が共重合されているものでも良い。
PVAの重合度については、得られるヒドロゲルの弾性強度、透水性、耐水性に大きく影響するために500以上であることが必要であり、好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上である。この重合度は、JIS K6726に準じて測定され、PVAを再鹸化し精製したものを用いて30℃水中で測定した極限粘度測定から求められる。
【0010】
本発明に使用される成分(A)のポリビニルアルコール(PVA)の鹸化度については、特に制限されるものではないが、通常80〜99.99モル%であり、好ましくは85〜99.95モル%、より好ましくは、90〜99.9モル%である。PVAの鹸化度を80モル%以上とすることにより、弾性強度、透水性、耐水性が低下することがない。鹸化度が99.99モル%以下のPVAは工業的に製造され、コスト的に有利である。なお、上記の鹸化度は、JIS K6726に準じて測定されたものである。
【0011】
本発明のポリビニルアルコール系ゲル形成用組成物を構成するPVA(A)、水溶性遷移金属化合物(B)及び水(C)の合計量に占める(A)の割合は0.5〜10質量%であり、好ましくは、1〜7質量%である。(A)の割合が0.5質量%以上では適当な水分の比率が保たれるのでゲル状物の弾性強度が高く、透水性、耐水性も良い。一方、10重量%以下では、溶液粘度が小さいので取り扱い作業性が良い。
【0012】
本発明のポリビニルアルコール系ゲル形成用組成物に用いられる水溶性遷移金属化合物(B)は、水中でPVAと反応してPVAに架橋構造を形成する有機化合物であればよく、チタン化合物、ジルコニウム化合物、バナジウム化合物、亜鉛化合物、クロム化合物、ニッケル化合物、パラジウム化合物などが挙げられる。
これらの水溶性遷移金属化合物(B)は、1つの金属原子に対して、共有結合や水素結合などにより2座又はそれ以上の多座で配位することが可能なキレート型配位子を有していることが好ましい。遷移金属化合物がキレート型配位子を有することでPVAの架橋反応速度が適度に調節されるので、施工に適した数時間〜数日間のゲル化速度が得られると考えられる。
そのキレート型配位子としては具体的には、ヒドロキシカルボン酸又はその塩、アミノアルコール、β−ジケトンが代表的なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
これらの水溶性遷移金属化合物(B)の中でも有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物が好適に用いられる。
すなわち、好適なチタン化合物及びジルコニウム化合物は、ヒドロキシカルボン酸又はその塩、アミノアルコール及びβ−ジケトンから選ばれる一種又は二種以上をキレート型配位子の一成分として含有するチタン化合物又はジルコニウム化合物である。
ここで、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、サリチル酸などが挙げられる。また、アミノアルコールとしては、トリメタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられ、β−ジケトンとしては、アセチルアセトンなどが挙げられる。
上記の好適なチタン化合物としては、具体的には、チタンラクテート、ジヒドロキシチタンビス(ラクテート)、ジヒドロキシチタンビス(グリコレート)ジヒドロキシビス(ラクテート)、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンジアンモニウム、ジヒドロキシビス(スレート)チタンアンモニウム、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)などが挙げられる。
上記の好適なジルコニウム化合物としては、具体的には、モノヒドロキシトリス(ラクテート)ジルコニウムアンモニウム、テトラキス(ラクテート)ジルコニウムアンモニウム、モノヒドロキシトリス(スレート)ジルコニウムアンモニウムなどが挙げられる。
上記の好適なチタン化合物は、上記のヒドロキシカルボン酸とチタンテトラアルコキシドから合成されるチタンキレート化合物を反応させることにより得ることができる。また、上記の好適なジルコニウム化合物は、上記のヒドロキシカルボン酸とジルコニウムテトラアルコキシド、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム等から合成されるジルコニウムキレート化合物を反応させることにより得ることができる。
上記のチタン化合物とジルコニウム化合物の中では、チタン化合物が好ましく、特にチタンラクテート、チタンアミネートが好ましい。
上記の水溶性遷移金属化合物(B)は単独のみでなく、必要に応じて2種類以上を混合して用いることもできる。
【0014】
PVAのビニルアルコール単位と遷移金属化合物中の遷移金属原子のモル比(ビニルアルコール単位数と遷移金属原子数の比率)は、ビニルアルコール単位1モルに対して遷移金属原子が0.01〜1.0モルの範囲が用いられる。ビニルアルコール単位1モルに対して遷移金属原子を0.01モル以上とすることにより、PVAと遷移金属原子との架橋密度の低下による弾性強度、透水性、耐水性の問題を避けることができる。また逆に、遷移金属原子を1.0モル以下とすることにより、得られたゲルが柔軟性を失い変形時に亀裂を生じる等の不具合を避けることができる。ビニルアルコール単位1モルに対する遷移金属原子のモル比は、より好ましくは0.015〜0.5モルの範囲である。
【0015】
上記のような(A)、(B)および(C)からなる組成物を、1〜40℃の温度範囲で数分から数十時間放置すると柔軟性(弾性強度)と遮水性に富んだヒドロゲルを形成するので作業性が良好である。このようにして得られた本発明のポリビニルアルコール系ヒドロゲルは、金属棒の貫入試験における貫入強度が1〜200kPaであることが好ましい。1kPa以上とすることによりゲル強度が高いので優れた遮水性や耐久性が得られ、200kPa以下とすることによりゲルの柔軟性があるので、変形時に亀裂を生じるのを避けることができる。
なお、金属棒の貫入試験における貫入強度とは、容器内でゲル形成用組成物を20℃で7日間保持して得られたヒドロゲル上に、直径3.5mmの金属棒(ステンレス棒)を10mm/minの速度で貫入させる試験において、金属棒がヒドロゲル中に10mm貫入した時の応力を金属棒の断面積で除した数値(kPa)である。
【0016】
また、得られたヒドロゲルは、長さ1m以上のガラス管の底に栓をして、その上に厚さ2cmとなるようにゲル形成用組成物を入れ、20℃で7日間保持して得られた厚み2cmのヒドロゲル上に100cmの高さまで水を入れてから、ガラス管の底の栓を抜いて5日間放置した後の水位h(cm)を測定し、下記式(1)により求めた透水係数が1×10-5cm/sec以下であることが好ましい。
透水係数(cm/sec)=2×ln(100/h)/(5×24×3600) (1)
(式中、lnは自然対数を示す。)
この透水係数を1×10-5cm/sec以下とすることにより、高い含水率と、良好な不透水性(遮水性)が得られる。本発明のポリビニルアルコール系ヒドロゲルの透水係数は、より好ましくは、1×10-6cm/sec以下、さらに好ましくは、1×10-7cm/sec以下である。
【0017】
本発明のポリビニルアルコール系ヒドロゲルの耐水性としては、ポリビニルアルコール系ヒドロゲルを、pH2の水溶液中に浴比1:100(ポリビニルアルコール系ヒドロゲルの重量:pH2の水溶液の重量)で、20℃で7日間浸漬した後、下記式(2)により求めたPVAの重量保持率(Wab)が70%以上であることが好ましい。
Wab(重量%)=100−[10000×(Wb)/(Wa)] (2)
(式中、WabはPVAの重量保持率、Waはヒドロゲルの当初の固形分濃度(重量%)、Wbは20℃で7日間浸漬後の固形分濃度(重量%)を示す。)
PVAの重量保持率を70%以上とすることにより、酸性領域で長期間、優れた遮水性が確保される。
ここで、ヒドロゲル体の耐水性試験は、以下の手順により行う。
まず、ゲル体の一部を水分の蒸散を防ぎながら試料容器に採取し、重量測定を行い、さらに105℃で、24時間乾燥して、この固形分濃度Wa(重量%)を測定する。一方、塩酸又は水酸化ナトリウム水溶液でpH2、温度20℃に調整した試験水を容易する。上記ヒドロゲルを10g採取し、1000gの上記試験水を浴比1:100で添加する。試料容器に蓋をした後、20℃で7日間保持する。その後、ミキサーを用いて10分間9000rpmで粉砕処理後、温度50±3℃で軽く撹拌しながら1時間処理して濾過する。
この濾液及び濃度既知の基準PVA溶液に、20℃でヨード液を添加して発色させた後、比色計により光透過率を求める。横軸に光透過率、縦軸にPVAの濃度をプロットした検量線を作成し、そのグラフから上記濾液のPVA濃度Wb(重量%)を求め、下式によりPVAの溶出率を求め、その重量保持率を求める。
PVAの溶出率(重量%)=10000×[(Wb)/(Wa)]
PVAの重量保持率(重量%)=100−PVAの溶出率(重量%)
【0018】
なお、本発明のポリビニルアルコール系ヒドロゲルは、前記した(A)、(B)および(C)の他に、アクリル酸エステル、セルロース系等の粘度調整の各種ポリマー、比重調整剤あるいは、顔料、染料、グリコール系に代表されるPVAの可塑剤、安定剤、無機フィラー類等の各種薬剤が添加配合されていても良い。
【実施例】
【0019】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
先ず、各実施例および比較例で用いたポリビニルアルコール系ヒドロゲルの物性測定方法を以下に示す。
【0020】
(1)金属棒貫入強度[金属棒貫入圧縮試験]
各種ヒドロゲル形成用組成物を20℃で調製後、容量200mlのガラスビーカーに入れ、20℃で7日間放置して得られたヒドロゲルを試料とする。このヒドロゲルの中心部に上部垂直方向から、島津製作所製オートグラフを用いて直径3.5mmのステンレス製の金属棒を10mm/minの速度で貫入させ、10mm貫入時の応力を該金属棒の断面積で除した数値をもって貫入強度[kPa]とする。
【0021】
(2)透水係数[透水性試験]
市販の硬質塩ビ管(内径25mm)の底部にゴム栓を設置し、各種ヒドロゲル形成用組成物を9.8cm3(高さ2cm)流し込み、20℃で7日間放置して管内にヒドロゲルを形成させる。その後、底部のゴム栓を外しヒドロゲルが動かないように外径25mmの中空の塩ビ管を差し込む。管の上部からゲル上部より高さ100cmまで水を流しこみ(容量は490cm3)次に、水が蒸発しないように白鮫油を5ml加えて水の表面に油膜を作る。この状態で5日間放置して水位(ゲル上部から水面までの距離)を測定し、これをh[cm]とする。透水係数は以下の変水位(降水法)透水試験計算式により求める。
透水係数[cm/sec]=2×ln(100/h)/(5×24×3600)
なお、lnは自然対数を示す。
【0022】
(3)PVA重量保持率[耐水性試験]
ヒドロゲルの一部を水分の蒸散を防ぎながら採取し、重量測定を行い、さらにこの固形分濃度Wa(重量%)を105℃で24時間乾燥して測定する。一方、別に上記ヒドロゲルを10g採取し、pH2、温度20℃の試験水を浴比1:100で添加した。試料容器に蓋をした後、20℃に調整した恒温槽の中に7日間放置する。放置完了後、これを業務用ミキサー(機種:ナショナル製MX−151S)を用いて10分間9000rpmで粉砕後、温度50±3℃として手で軽く撹拌しながら1時間処理する。この処理液を濾過後20℃まで冷却して、濾液にヨード液を添加して発色させた後、比色計により光透過率を求める。また、別の水準の濃度既知PVA溶液についても同様に光透過率を求めて、横軸に光透過率、縦軸にPVAの濃度(重量%)をプロットした検量線を作成したグラフから上記濾液のPVA濃度Wb(重量%)を求め、下式によりPVAの溶出率を求める。
PVA溶出率(重量%)=10000×(Wb)/(Wa)
PVA重量保持率(重量%)は(100−PVA溶出率)となる。
【0023】
(4)ゲル化時間(Hr)
各種薬液を全量で200cm3になるように準備し、300ml用ポリビーカーに注入し、約30秒間撹拌棒で撹拌を行い、その後は静置する。適宜、その薬液の粘度変化をB型回転式粘度計で測定し、10000mPa・sを超えた時をゲル化時間(Hr)とする。
【0024】
実施例1〜4、比較例1〜4
ビニルアルコール単位が99.8モル%のPVA系樹脂(株式会社クラレ製、ポバール117HC:重合度1700)を10重量%となるように水中に投入し、一昼夜密栓放置して膨潤させた後、加熱撹拌して完全にPVAを溶解させ、20℃まで冷却してPVA水溶液を作製した。このPVA水溶液を各所定濃度(5質量%)に水で希釈し、水溶性遷移金属化合物(有機チタン化合物)などの架橋剤を第1表に示す所定量添加し、その後、両溶液を撹拌して完全混合した。この得られた調製液をポリエチレン製ビーカーに流し込み、密栓して20℃雰囲気化で液の粘性が失われるまで放置した後、生成物を取り出し、ヒドロゲルの各物性を測定した。
【0025】
なお、実施例1〜2及び比較例1〜2においては、PVA水溶液と有機チタン化合物(チタンラクテート、松本製薬工業(株)製、オルガチックスTC−315、濃度45質量%)を混合後、25%アンモニア水溶液を添加して、pHが8になるように調製した。
また、実施例3〜4及び比較例3においては、有機チタン化合物(ジイソプロポキシチタンビストリエタノールアミネート、松本製薬工業(株)製、オルガチックスTC−400、濃度80質量%)を事前に水で4倍に希釈してからPVA水溶液に添加した。
比較例4においては、有機チタン化合物に代えてトリメチロールメラミン系架橋剤(住友化学社製スミテックスレジンM−3、濃度80質量%)を用い、乳酸を加えてpHが4になるように調製した。
第1表に示す架橋剤添加量は、PVA水溶液100重量部に対する有機チタン化合物等の添加量(重量部)である。
各実施例および比較例におけるヒドロゲルの各物性に測定結果を第1表に示す。
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール(A)、水溶性有機チタン化合物(B)及び水(C)を主構成成分とし、
1)水溶性有機チタン化合物(B)が、アミノアルコールをキレート型配位子の一成分として含有するチタン化合物であり、
2)(A)、(B)及び(C)の合計量に対する(A)の割合が0.5〜10質量%、
3)(A)のビニルアルコール単位と(B)成分中に含有されるチタン原子のモル比(A):(B)が、1:0.01〜1.0、
4)(A)の重合度が500以上、
であるゲル形成用組成物から形成されたヒドロゲルを、土木資材、建築資材、農水産資材、水質浄化材、人体発熱時の冷媒体、人工擬似餌又は玩具に使用することを特徴とするポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法。
【請求項2】
容器内でゲル形成用組成物を20℃で7日間保持して得られたヒドロゲル上に、直径3.5mmの金属棒を10mm/minの速度で貫入させる貫入試験において、10mm貫入時の応力を金属棒の断面積で除した貫入強度が1〜200kPaである請求項1に記載のポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法。
【請求項3】
長さ1m以上のガラス管の底に栓をして、その上に厚さ2cmとなるようにゲル形成用組成物を入れ、20℃で7日間保持して得られた厚み2cmのヒドロゲル上に100cmの高さまで水を入れてから、ガラス管の底の栓を抜いて5日間放置した後の水位h(cm)を測定し、下記式(1)により求めた透水係数が1×10-5cm/sec以下である請求項1に記載のポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法。
透水係数(cm/sec)=
2×ln(100/h)/(5×24×3600) (1)
(式中、lnは自然対数を示す。)
【請求項4】
ポリビニルアルコール系ヒドロゲルを、pH2の水溶液中に浴比1:100(ポリビニルアルコール系ヒドロゲルの重量:pH2の水溶液の重量)で、20℃で7日間浸漬した後、下記式(2)により求めたポリビニルアルコール(A)の重量保持率(Wab)が70%以上である請求項1に記載のポリビニルアルコール系ヒドロゲルの使用方法。
Wab(重量%)=100−[10000×(Wb)/(Wa)] (2)
(式中、Wabはポリビニルアルコール(A)の重量保持率、Waはヒドロゲルの当初の固形分濃度(重量%)、Wbは20℃で7日間浸漬後の固形分濃度(重量%)を示す。)
【請求項5】
ポリビニルアルコール(A)、水溶性有機チタン化合物(B)及び水(C)を主構成成分とし、
1)水溶性有機チタン化合物(B)が、アミノアルコールをキレート型配位子の一成分として含有するチタン化合物であり、
2)(A)、(B)及び(C)の合計量に対する(A)の割合が0.5〜10質量%、
3)(A)のビニルアルコール単位と(B)成分中に含有されるチタン原子のモル比(A):(B)が、1:0.01〜1.0、
4)(A)の重合度が500以上、
であるゲル形成用組成物を含有することを特徴とする土木資材。
【請求項6】
ポリビニルアルコール(A)、水溶性有機チタン化合物(B)及び水(C)を主構成成分とし、
1)水溶性有機チタン化合物(B)が、アミノアルコールをキレート型配位子の一成分として含有するチタン化合物であり、
2)(A)、(B)及び(C)の合計量に対する(A)の割合が0.5〜10質量%、
3)(A)のビニルアルコール単位と(B)成分中に含有されるチタン原子のモル比(A):(B)が、1:0.01〜1.0、
4)(A)の重合度が500以上、
であるゲル形成用組成物を含有することを特徴とする建築資材。
【請求項7】
ポリビニルアルコール(A)、水溶性有機チタン化合物(B)及び水(C)を主構成成分とし、
1)水溶性有機チタン化合物(B)が、アミノアルコールをキレート型配位子の一成分として含有するチタン化合物であり、
2)(A)、(B)及び(C)の合計量に対する(A)の割合が0.5〜10質量%、
3)(A)のビニルアルコール単位と(B)成分中に含有されるチタン原子のモル比(A):(B)が、1:0.01〜1.0、
4)(A)の重合度が500以上、
であるゲル形成用組成物を含有することを特徴とする農水産資材。
【請求項8】
ポリビニルアルコール(A)、水溶性有機チタン化合物(B)及び水(C)を主構成成分とし、
1)水溶性有機チタン化合物(B)が、アミノアルコールをキレート型配位子の一成分として含有するチタン化合物であり、
2)(A)、(B)及び(C)の合計量に対する(A)の割合が0.5〜10質量%、
3)(A)のビニルアルコール単位と(B)成分中に含有されるチタン原子のモル比(A):(B)が、1:0.01〜1.0、
4)(A)の重合度が500以上、
であるゲル形成用組成物を含有することを特徴とする水質浄化材。
【請求項9】
ポリビニルアルコール(A)、水溶性有機チタン化合物(B)及び水(C)を主構成成分とし、
1)水溶性有機チタン化合物(B)が、アミノアルコールをキレート型配位子の一成分として含有するチタン化合物であり、
2)(A)、(B)及び(C)の合計量に対する(A)の割合が0.5〜10質量%、
3)(A)のビニルアルコール単位と(B)成分中に含有されるチタン原子のモル比(A):(B)が、1:0.01〜1.0、
4)(A)の重合度が500以上、
であるゲル形成用組成物を含有することを特徴とする人体発熱時の冷媒体。
【請求項10】
ポリビニルアルコール(A)、水溶性有機チタン化合物(B)及び水(C)を主構成成分とし、
1)水溶性有機チタン化合物(B)が、アミノアルコールをキレート型配位子の一成分として含有するチタン化合物であり、
2)(A)、(B)及び(C)の合計量に対する(A)の割合が0.5〜10質量%、
3)(A)のビニルアルコール単位と(B)成分中に含有されるチタン原子のモル比(A):(B)が、1:0.01〜1.0、
4)(A)の重合度が500以上、
であるゲル形成用組成物を含有することを特徴とする人工擬似餌。
【請求項11】
ポリビニルアルコール(A)、水溶性有機チタン化合物(B)及び水(C)を主構成成分とし、
1)水溶性有機チタン化合物(B)が、アミノアルコールをキレート型配位子の一成分として含有するチタン化合物であり、
2)(A)、(B)及び(C)の合計量に対する(A)の割合が0.5〜10質量%、
3)(A)のビニルアルコール単位と(B)成分中に含有されるチタン原子のモル比(A):(B)が、1:0.01〜1.0、
4)(A)の重合度が500以上、
であるゲル形成用組成物を含有することを特徴とする玩具。

【公開番号】特開2011−140651(P2011−140651A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25467(P2011−25467)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【分割の表示】特願2004−199177(P2004−199177)の分割
【原出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000133881)株式会社テノックス (62)
【出願人】(501232528)株式会社複合技術研究所 (18)
【Fターム(参考)】