説明

ポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法及びこれを用いたポリビニルアルコール系樹脂の製造方法

【課題】ポリビニルアルコール系樹脂の二重結合を正確に定量できる方法を提供すること。
【解決手段】(1)ポリビニルアルコール系樹脂の全体量と、ビニルエステル単位量と、ビニルアルコール単位量とを、それぞれ定量する工程、(2)ポリビニルアルコール系樹脂の全体量から、ビニルエステル単位量とビニルアルコール単位量を減ずることで、ポリビニルアルコール系樹脂中の二重結合量を定量する工程を少なくとも行うポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法及びこれを用いたポリビニルアルコール系樹脂の製造方法に関する。より詳しくは、ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる二重結合量を定量する技術等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系樹脂(PVA)は、塩化ビニル系樹脂等を懸濁重合により製造する際に分散剤として用いられている。そして、近年では、分散剤として用いる場合には、分子内に二重結合を導入した変性ポリビニルアルコール系樹脂が汎用されている。得られる塩化ビニル系樹脂の品質管理やその重合制御を行なうために、分散剤の二重結合量を正確に評価する必要がある。
【0003】
ポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法としては、例えば、特許文献1に、ポリビニルアルコール樹脂の紫外スペクトルを測定し、二重結合由来の215nm、320nm付近の吸光度を測定する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−25695号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリビニルアルコール系樹脂において、例えば、紫外スペクトル等による二重結合量の測定では、二重結合量の相対的な評価は可能であっても、その定量については困難であるといった問題があった。そこで、本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂の二重結合を正確に定量できる方法を提供すること主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、定量する二重結合に着目するだけでなく、ポリビニルアルコール系樹脂の構造にも着目した。そして、ポリビニルアルコール系樹脂の全量から、ビニルエステル単位量とビニルアルコール単位量を差し引くことで、正確な二重結合量の測定ができることを見出し本発明を完成させた。
まず、本発明は、(1)ポリビニルアルコール系樹脂の全体量と、ビニルエステル単位量と、ビニルアルコール単位量とを、それぞれ定量する工程と、(2)ポリビニルアルコール系樹脂の全体量から、ビニルエステル単位量とビニルアルコール単位量を減ずることで、ポリビニルアルコール系樹脂中の二重結合量を定量する工程を少なくとも行うポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法を提供する。これにより、ポリビニルアルコール系樹脂中の二重結合量を正確に定量できる。
次に、本発明は、前記ビニルアルコール単位量の定量は、無水酢酸の存在下でポリビニルアルコール系樹脂の再酢化反応を行ない、該再酢化反応により消費された無水酢酸量から定量するポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法を提供する。ビニルアルコール単位に関して再酢化反応を行なうことで、ビニルアルコール単位をより正確に定量できる。その結果、ポリビニルアルコール系樹脂中の二重結合量もより正確に定量できる。
続いて、本発明は、前記二重結合量はエチレン性不飽和結合由来の二重結合の量であるポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法を提供する。二重結合がエチレン性飽和結合の場合には再酢化反応速度が速いため、より正確に定量できる。
そして、本発明は、前記ビニルエステル単位は、少なくとも酢酸ビニル由来のエステル単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法を提供する。酢酸ビニル由来のエステルであれば、ビニルエステル単位に関してより正確に定量できる。その結果、ポリビニルアルコール系樹脂中の二重結合量もより正確に定量できる。
また、本発明は、これらの定量方法を使用して、ポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量を定量し、得られた定量値に基づいて製造条件を制御するポリビニルアルコール系樹脂の製造方法を提供する。ポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の正確な定量を、ポリビニルアルコール系樹脂の製造条件に反映させることができる。その結果、所望の二重結合量であるポリビニルアルコール系樹脂を製造できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量を正確に定量できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る方法について説明する。なお、以下は本発明に係る方法の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0009】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステル単量体の単独重合体を、又はビニルエステル単量体及びそれと共重合可能な単量体の共重合体を、ケン化させることによって得られた重合体であり、なおかつ分子内に炭素−炭素二重結合を有する重合体である。本発明に係る方法は、このようなビニルエステル単量体の単独重合体だけでなく、ビニルエステル単量体及びそれと共重合可能な単量体の共重合体に由来するポリビニルアルコール系樹脂についても用いることができる。なお、以下において、ポリビニルアルコール系樹脂を「試料」と呼ぶ場合がある。
【0010】
ビニルエステル単量体は、ビニル基とカルボン酸エステル基を含有する化合物であればよく、その化合物は特に限定されない。具体的には、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等が挙げられる。この中では、ビニルエステル単位量を精度よく定量できるため、酢酸ビニルが好ましい。
【0011】
また、ビニルエステル単量体と共重合可能な単量体は、特に限定しないが、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フタル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、又はその塩類、又は炭素数1〜18のモノアルキルエステル類若しくはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩等のアクリルアミド類、メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩等のメタクリルアミド類、炭素数1〜18のアルキル鎖長を有するアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール等のアリル化合物、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0012】
これら共重合可能な単量体の使用量は、特に限定するものではないが、単量体合計に対して0.001mol%以上10mol%未満であることが好ましい。なお、これらの共重合単位が存在する場合には、その共重合量を測定する必要がある。共重合量の測定方法は通常用いられる方法を用いることができ、例えばNMRスペクトル等の方法により測定することができる。この場合、試料全量からビニルエステル単位量とビニルアルコール単位量を差し引いた値から、更に前記単量体の共重合量を引いたものを二重結合量として評価できる。
【0013】
ポリビニルアルコール系樹脂の重合度及び平均ケン化度は限定しないが、重合度は300〜3000であることが好ましく、平均ケン化度は30mol%〜90mol%であることが好ましい。このような重合度や平均ケン化度であるポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール単位量を精度よく定量できるため好ましい。
【0014】
本発明で測定対象とするポリビニルアルコール系樹脂として、ビニルエステル単位と、ビニルエステル単位がケン化されて生じるビニルアルコール単位と、二重結合セグメントの3成分で構成されているものが挙げられる。
【0015】
本発明では、(1)試料全量とビニルエステル単位量とビニルアルコール単位量をそれぞれ定量し、(2)試料全量から、ビニルエステル単位量とビニルアルコール単位量を差し引くことを少なくとも行う、これにより得られる値を二重結合セグメント量と見なして、試料中の二重結合量を定量することができる。
【0016】
なお、従来から知られているビニルアルコール単位量の直接的な定量だけでは正確な二重結合量を求めることが困難であった。また、この直接的な定量を、各種スペクトルを用いた分光測定のみにより行う場合には、二重結合周辺の官能基等(例えば、カルボニル基等)の影響によりスペクトル値がシフトしたり、ピークが重なったりする場合がある。そのため、測定対象のポリビニルアルコール系樹脂の分子構造によって測定条件や注目するピーク等を変えなければならない場合もあった。
また、従来から、低分子量化合物の場合には、二重結合に臭素やヨウ素などのハロゲン類物質を付加させて、それらの反応消費量から二重結合量を決定する方法は知られている。しかし、ポリビニルアルコール系樹脂の場合、試料のケン化度に応じて適切な反応溶媒を選択しなければならなかったり、試料の重合度が高いとハロゲンの付加反応率が低かったりするため、正確に測定することが難しかった。そして、ポリビニルアルコールの二重結合量の強弱について、希薄水溶液の紫外線の吸光度等を用いて表現するにとどまっていた。
一方、本発明に係る定量方法によれば、ビニルエステル単位量とビニルアルコール単位量の定量し、試料全量からビニルエステル単位量とビニルアルコール単位量を差し引くことにより、種々のポリビニルアルコール系樹脂に対して簡易かつ正確に二重結合量を定量できる。
【0017】
ビニルエステル単位量を定量する方法は限定されないが、好適には、JIS K 6726に規定されているケン化度測定方法に準じて行うことができる。例えば、三角フラスコに試料と純水を入れて溶解して、フェノールフタレイン溶液数滴を入れた後、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して試料中の残存カルボン酸エステル基を加水分解する。続いて水、酸化ナトリウムと同量の硫酸水溶液を加えて、その後濃度が既知の水酸化ナトリウム水溶液で滴定すれば良い。このようにして、ビニルエステル単位の含有率(質量%)を求める。
【0018】
ケン化及び中和滴定に用いる酸やアルカリの種類は特に限定しない。この酸水溶液やアルカリ水溶液の濃度は、特に限定しないが、0.1mol/L〜1.0mol/Lであることが好ましい。ケン化度が低い試料のように、水だけでは溶解しにくい試料の場合には、必要に応じて、水とエタノールの混合溶液で溶解させてもよい。
【0019】
ビニルアルコール単位量を定量する方法は限定されないが、好適には、無水酢酸の存在下で試料の再酢化反応を行い、再酢化反応で消費された無水酢酸量から水酸基量を定量する方法が望ましい。無水酢酸の存在下とは、少なくとも定量対象である試料と無水酢酸とが、再酢化反応系で実質的に共存していればよく、その状態等については限定するものではないが、好ましい定量方法の一例を以下に述べる。
【0020】
まず、過剰の無水酢酸とピリジンの混合液に試料を溶解して加熱し、再酢化反応を進行させる。反応終了後、反応液に十分な水を加えて未反応の無水酢酸を加水分解する。生じた酢酸を、水酸化ナトリウム水溶液で滴定する。そして、試料を入れないブランクを準備して同様の操作を行う。ビニルアルコール単位1つに対して酢酸1分子が付加するので、テストとブランクの水酸化ナトリウム水溶液滴定量の差は、試料中のビニルアルコール単位量として評価できる。更に、試料中のビニルアルコール単位量は、下記式(1)によって計算できる。
【0021】
【数1】



【0022】
式(1)で求めたビニルアルコール単位量(mol)に、ビニルアルコール単位の分子量44.05(g/mol)を乗ずれば、試料中のビニルアルコール単位の質量(g)が求まる。再酢化反応で仕込んだ試料量(g)に対するビニルアルコール単位量(g)の割合から、ビニルアルコール単位含有率(質量%)を求める。再酢化反応の条件は限定されないが、反応を効率よく進行させるためには、反応温度は50℃〜100℃の範囲内であることが好ましい。また、効率よく再酢化反応を進行させるために、再酢化反応に通常用いられる触媒を添加しても構わない。
【0023】
試料全量(100質量%)から、ビニルエステル単位量(質量%)と、ビニルアルコール単位量(質量%)を差し引けば、二重結合量(質量%)を求めることができる。
【0024】
本発明の定量方法は、二重結合量をもったポリビニルアルコール系樹脂であれば用いることができ、試料であるポリビニルアルコール系樹脂の構造等について限定されない。但し、二重結合量が多い試料の場合には、試料が水やピリジンなどの溶剤に溶解しにくかったり、再酢化反応に時間がかかったりする場合がある。そのような理由から、試料となるポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量は、0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0025】
そして、上述した定量方法を用いて、ポリビニルアルコール系樹脂を製造することができる。即ち、本発明の定量方法を使用して、ポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量を定量し、得られた定量値に基づいて、ポリビニルアルコール系樹脂の製造条件を制御する工程を少なくとも行う製造方法である。これにより、所望の二重結合量であるポリビニルアルコール系樹脂を得ることができる。
【0026】
本発明の製造方法において、例えば、下記一般式(1)、(2)又は(3)で示される単量体の少なくとも一種と、ビニルエステル単位を有する単量体とを共重合させた後、得られた共重合体をケン化することができ、この際の各単量体の使用量や重合条件を前記二重結合量の定量結果に基づいて制御することができる。
【0027】
【化1】



【0028】
【化2】



【0029】
【化3】



【0030】
そして、本発明の製造方法では、前記一般式(1)、(2)又は(3)で示される単量体の少なくとも一種と、ビニルエステル単位を有する単量体とに加えて、これらの単量体と共重合可能な他の単量体を共重合させた後、得られた共重合体をケン化することで、ポリビニルアルコール系樹脂を得ることもできる。
【0031】
本発明の製造方法において行う重合条件等は限定されず、公知の重合方法を用いることができる。通常、メタノール、エタノールあるいやイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合を行うことができる。勿論、バルク重合や乳化重合や懸濁重合等により製造することも可能である。
【0032】
そして、溶液重合の場合を一例に挙げれば、連続重合でもよいし、バッチ重合でもよく、使用する単量体を分割しても仕込んでもよいし、一括して仕込んでもよい。あるいは、連続的又は断続的に添加することを行ってもよい。そして、本発明の製造方法は、これら単量体を添加する場合に、前記定量したポリビニルアルコール系樹脂中の二重結合量に基づいて単量体や各種添加物の添加量や添加条件を調節できる。
【0033】
溶液重合において使用する重合開始剤等についても限定されず、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルパレロニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルパレロニトリル)等のアゾ化合物、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物、t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリル等の如き、通常用いられうるラジカル重合開始剤が挙げられる。重合反応温度についても限定されないが、好適には30℃〜90℃程度の範囲から選択できる。
【0034】
本発明の製造方法において行うケン化は、得られた共重合体をアルコールに溶解させ、アルカリ触媒や酸触媒の存在下で分子中のエステルを加水分解するものである。このケン化条件は限定されず、通常行いうるケン化条件にて行うことができるが、アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。
【0035】
アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物や、アルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p−トルエンスルホン酸等の有機酸等が挙げられる。
【0036】
これらの触媒の使用量は限定されないが、共重合体に対して1mmol〜100mmol当量にすることが好ましい。ケン化温度は限定されないが、10℃〜70℃、より好ましい下限値は30℃、より好ましい上限値は40℃であることが望ましい。ケン化の反応時間は限定されないが、30分〜3時間にわたり行うことができる。
【0037】
本発明の製造方法では、得られた二重結合量の定量結果を製造段階に効率よく反映させることができる。即ち、製造段階で得られるポリビニルアルコール系樹脂をサンプリングして、その二重結合量を短時間で容易に定量できる。本発明の定量方法は、短時間で容易に行なうことができるため、簡便に反応制御に反映させることができる。
【0038】
そして、製造条件の制御として単量体の使用量等を調節することや、他のロット等をブレンドすること等によって、二重結合量に関して規格範囲に適合したポリビニルアルコール系樹脂を効率よく高精度に製造できる。
【0039】
本発明に係る製造方法により得られうるポリビニルアルコール系樹脂は、分子中に所望の二重結合量を含有させることができるという特徴を有している。そのため、所望の物性について高い精度で制御されたポリビニルアルコール系樹脂とすることができる。更に、必要に応じて、紫外線や電子線等のエネルギー線により容易に硬化させることもできる。
【0040】
このポリビニルアルコール系樹脂は、塗料、インキ、接着剤、印刷版、エッチングレジスト、ソルダーレジスト、懸濁重合時の分散剤、酢酸ビニルエマルジョン重合時やアクリルエマルジョン重合時やスチレンエマルジョン重合時の保護コロイド等として有効に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳しく説明する。ポリビニルアルコール系樹脂を製造して、その二重結合量を測定した。
【0042】
[実施例1]
<変性ポリビニルアルコール系樹脂の製造と定量>
酢酸ビニル3000g、メタノール2080g、マレイン酸ジメチル31g及びアゾビスイソブチロニトリル2.5gを重合缶に仕込み、窒素置換後加熱して沸点まで昇温させ、重合率92%に達した時点で重合を停止した。次いで、未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を水酸化ナトリウムを用いてケン化した。その後、90℃で90分熱風乾燥してポリビニルアルコール系樹脂を得た。ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液粘度(濃度4%、測定温度20℃)は286mPa・sであり、平均ケン化度(JIS K 6726)は71.6mol%であった。
【0043】
ビニルエステル単位量の定量
容量300mLの三角フラスコに、ポリビニルアルコール系樹脂0.8g、水100mL、エタノール20mL、フェノールフタレイン溶液3滴を入れて90℃で25分間撹拌した。次に、濃度0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液25mLを加えて、90℃で30分間撹拌した。そして、濃度0.5mol/Lの硫酸水溶液25mLを加えた後、濃度0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定を行った。
なお、式中、aの値は41.18、bの値は1.8、fの値は1.0、Pの値は97.0であった。
下記式(2)により、ビニルエステル単位量(VE)を求めた結果、43.64質量%であった。
【0044】
【数2】

【0045】
ビニルアルコール単位量の定量
冷却管を取り付けた容量300mLフラスコに、変性ポリビニルアルコール系樹脂1.0g、ピリジン13.8g、無水酢酸6.2g、4−ジメチルアミノピリジン0.01gを入れて溶解した。窒素流下、マグネットスターラーで撹拌しながら90℃で3時間加熱して再酢化反応を完遂させた。1,2−ジクロロエタン20mLを添加して5分間撹拌後、30分間静置して室温まで冷却した。次に、試料溶液にエタノール50mLを添加した後、フェノールフタレイン溶液を3滴加え、濃度1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定をおこなった。
なお、aの値は114.5、bの値は102.2、fの値は1.0、Pの値は97.0であった。
下記式(3)により、ビニルアルコール単位量を求めた結果、55.84質量%であった。
【0046】
【数3】

【0047】
二重結合量の定量
試料全量100質量%から、ビニルエステル単位量(酢酸ビニル単位量)43.64質量%とビニルアルコール単位量55.84質量%を差し引くと、二重結合量は0.52質量%であった。二重結合の単位構造を−CH=CH−(分子量26.0)として各構造単位のモル比を計算すると、ビニルエステル単位(酢酸ビニル単位)28.27mol%、ビニルアルコール単位70.62mol%、二重結合量1.11mol%である。
【0048】
<考察>
以上より、本発明に係る方法によれば、ポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量を高い精度で定量できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)、(2)を少なくとも行うポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法。
(1)ポリビニルアルコール系樹脂の全体量と、ビニルエステル単位量と、ビニルアルコール単位量とを、それぞれ定量する工程、
(2)ポリビニルアルコール系樹脂の全体量から、ビニルエステル単位量とビニルアルコール単位量を減ずることで、ポリビニルアルコール系樹脂中の二重結合量を定量する工程。
【請求項2】
前記ビニルアルコール単位量の定量は、無水酢酸の存在下でポリビニルアルコール系樹脂の再酢化反応を行ない、該再酢化反応により消費された無水酢酸量から定量することを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法。
【請求項3】
前記二重結合量は、エチレン性不飽和結合由来の二重結合の量であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法。
【請求項4】
前記ビニルエステル単位は、少なくとも酢酸ビニル由来のエステル単位を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量の定量方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の定量方法を使用して、ポリビニルアルコール系樹脂の二重結合量を定量し、得られた定量値に基づいて製造条件を制御する工程を少なくとも行うポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。