説明

ポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法及びポリビニルアルコール系樹脂

【課題】簡便な方法で変色したポリビニルアルコール系樹脂を脱色させることが可能なポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法を提供する。また、該ポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法を用いて得られるポリビニルアルコール系樹脂、並びに、該ポリビニルアルコール系樹脂を用いた光学フィルム、ポリビニルアセタール樹脂、塗料用バインダー及びインクを提供する。
【解決手段】OHイオン濃度が0.01〜1mol/Lの塩基性溶液中にて、ポリビニルアルコール系樹脂と、濃度が0.01〜1mol/Lの過酸化水素とを接触させる工程を有するポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便な方法で変色したポリビニルアルコール系樹脂を脱色させることが可能なポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法に関する。また、本発明は、該ポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法を用いて得られるポリビニルアルコール系樹脂、並びに、該ポリビニルアルコール系樹脂を用いた光学フィルム、ポリビニルアセタール樹脂、塗料用バインダー及びインクに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系樹脂は、接着性、加工性等に優れた高分子であり、優れた水溶性、加工性を活かして、高含水ゲルや繊維といった広範囲の形態をとることができ、造膜性や強度の点において、他の汎用性ポリマーの追従を許さない特性を数多く有している。これらの性質を活かし、接着剤、医療材料、糊剤、紙の表面改質剤、液晶ディスプレイ用光学用フィルム等、多方面の応用例があることが知られている。
一般に、ポリビニルアルコール系樹脂は、溶液重合されたポリ酢酸ビニルをけん化することによって製造され、様々な重合度、けん化度のものが広く市販されている。
しかしながら、市販のポリビニルアルコール系樹脂の中には黄色く着色しているものもあり、液晶表示ディスプレイの位相差フィルムに代表されるような、光学用途での使用に際し、大きな問題となっている。
【0003】
また、ポリビニルアルコール系樹脂の応用例は、それ単独での応用にとどまらず、ポリビニルアセタール樹脂の原料としても広く用いられている。ポリビニルアセタール系樹脂は、合わせガラス用中間膜、金属処理のウォッシュプライマー、各種塗料、インキ、接着剤、樹脂加工剤及びセラミックスバインダー等、多目的に用いられている。特に塗料、インキ用の用途としては、重合度が1000以下の低重合度品が広く使用されているが、一般に低重合度品は原料のポリビニルアルコール系樹脂が既に着色しているため、生成したポリビニルアセタール樹脂も着色していることが多く、製品の色彩に影響を与えることが問題となっている。
【0004】
このように、ポリビニルアルコール系樹脂の黄変の問題は、ポリビニルアルコール系樹脂のみならず、ポリビニルアセタール樹脂を応用する際にも共通の問題であり、特に色彩が問題となる状況においては、産業上大きな障害となっている。
【0005】
ポリビニルアルコール系樹脂の着色に関しては、古くから様々な検討がなされており、そのメカニズムとしては、酸化反応に伴う主鎖中の共役性二重結合の形成によるものであることが明らかとなっている(非特許文献1参照)。
これに対して、ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムの着色性を改善する具体的方法として、例えば、特許文献1には、反応系から酢酸ナトリウムを低減する方法が記載されており、特許文献2には、キレート配位子及び界面活性剤を添加する方法が記載されている。しかしながら、これらは、ポリビニルアルコール系樹脂の着色を現状よりも進行させないための手法であり、着色したポリビニルアルコール系樹脂の色彩を化学反応により、本質的に改善するというものではなかった。
従って、一度着色したポリビニルアルコール系樹脂を改質し、簡便に脱色する手法を確立できれば、本技術分野において大きな技術革新になることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−325907号公報
【特許文献2】特開平6−256615号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K. Maruyama, et. al.,Polymer, 1988, 29, 24-29.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、簡便な方法で変色したポリビニルアルコール系樹脂を脱色させることが可能なポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該ポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法を用いて得られるポリビニルアルコール系樹脂、並びに、該ポリビニルアルコール系樹脂を用いた光学フィルム、ポリビニルアセタール樹脂、塗料用バインダー及びインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、OHイオン濃度が0.01〜1mol/Lの塩基性溶液中にて、ポリビニルアルコール系樹脂と、濃度が0.01〜1mol/Lの過酸化水素とを接触させる工程を有するポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、OHイオン濃度が所定範囲内の塩基性溶液中にて、ポリビニルアルコール系樹脂と所定濃度の過酸化水素とを接触させることによって、大掛かりな装置等を用いることなく、変色したポリビニルアルコール系樹脂を脱色させることが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法は、OHイオン濃度が0.01〜1mol/Lの塩基性溶液中にて、ポリビニルアルコール系樹脂と、濃度が0.01〜1mol/Lの過酸化水素とを接触させる工程を有する。
【0012】
上記ポリビニルアルコール系樹脂は特に限定されないが、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等を、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等により重合して得られたポリビニルエステルをアルカリ又は酸けん化することにより製造された樹脂等の従来公知のポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。
上記ポリビニルアルコール系樹脂は、完全けん化されていてもよいが、少なくとも主鎖の1カ所にメソ、ラセミ位に対して2連の水酸基を有するユニットが最低1ユニットあれば完全けん化されている必要はなく、部分けん化ポリビニルアルコールであってもよい。また、上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体等のビニルエステルと共重合可能なモノマーとビニルエステルとの共重合体のけん化物も用いることができる。
【0013】
上記工程において用いるポリビニルアルコール系樹脂の重合度は特に限定されず、広く用いることができる。一般に低重合度品のポリビニルアルコール系樹脂ほど着色しやすい傾向にあるため、重合度が500以下のものを用いることが好ましく、重合度250以下のものを用いることがより好ましい。
【0014】
上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、市販のポリビニルアルコール系樹脂を原料に用いたものに加え、別途切断反応により重合度を低下させた樹脂を用いることもできる。特に、先行文献(J. Photochem. Photobio. A, 1998, 116, 159-166.)に記載のような著しく着色した樹脂を用いると脱色性が大きい。
【0015】
上記重合度を低下させた樹脂とは、ポリビニルアルコール水溶液に酸化剤を加え、金属触媒下、加熱、反応させることにより、酸化反応に伴い主鎖の切断反応を引き起こし、反応後の重合度を低下させたポリビニルアルコール系樹脂のことである。
上記反応では、副反応として酸化に伴う共役構造の形成により、樹脂の着色を伴うことが大きな問題となっていた。
【0016】
上記工程において、ポリビニルアルコール系樹脂を過酸化水素と接触させる際の塩基性溶液中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度の好ましい下限は3重量%、好ましい上限は25重量%である。上記塩基性溶液中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度が3重量%未満であると、反応の効率が悪く、工業上利用する際に生産性を著しく低下させることがある。上記塩基性溶液中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度が25重量%を超えると、溶液の粘度が高くなりすぎて攪拌することが困難となり均一に脱色することができなくなることがある。上記塩基性溶液中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度のより好ましい下限は5重量%、より好ましい上限は20重量%、更に好ましい上限は17重量%である。
【0017】
上記塩基性溶液のOHイオン濃度の下限は0.01mol/L、上限は1mol/Lである。上記塩基性溶液のOHイオン濃度が0.01mol/L未満であると、過酸化水素から活性酸素種が発生せず、脱色が不充分となる。上記塩基性溶液のOHイオン濃度が1mol/Lを超えると、副反応である過酸化水素の分解により酸素が生成する反応が急速に進み、充分な脱色効果が得られないまま過酸化水素が完全に分解されてしまう。また、上記塩基性濃度が高すぎると、酸性条件でアルデヒドと接触させるアセタール化工程において中和に必要となる酸性物質の量が多くなり、コストアップにつながるおそれがある。上記塩基性溶液のOHイオン濃度の好ましい下限は0.05mol/L、好ましい上限は0.5mol/Lである。また、上記塩基性溶液のOHイオン濃度のより好ましい下限は0.1mol/L、より好ましい上限は0.3mol/Lである。
【0018】
本発明において、塩基性溶液に用いる塩基性物質は特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物や、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物や、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、セスキ珪酸ナトリウム、一号珪酸ナトリウム、二号珪酸ナトリウム、三号珪酸ナトリウム等の珪酸塩や、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム等のリン酸塩や、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸塩や、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩や、アンモニア、ヒドロキシアミン等の無機窒素化合物や、水溶性の第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、及び、上記第三級アミン等にアルキル基が結合した第四級アミン等が挙げられる。なかでも、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物であることが好適であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好適である。上記塩基性物質は単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0019】
上記塩基性溶液に含有される溶剤は、ポリビニルアルコール系樹脂を溶解するものであればよいが、次工程において溶剤置換をする必要を無くすため、次工程において使用する溶剤と同一の溶剤を用いることが好ましい。具体的には、水系溶剤が好適に用いられる。
【0020】
上記塩基性溶液中の過酸化水素濃度の下限は0.01mol/L、上限は1mol/Lである。上記塩基性溶液中の過酸化水素濃度が0.01mol/L未満であると、生じる活性酸素種の濃度が低いため、反応が十分進行せず脱色の効果が著しく低下することがあり
、上記塩基性溶液中の過酸化水素濃度が1mol/Lを超えると、ポリビニルアルコール系樹脂の界面活性機能により形成された泡が長時間残る場合がある。発生した泡は反応容器の容積を圧迫し、反応の効率を減少させるのみでなく、長時間経過することにより乾燥し、未溶解のポリビニルアルコール系樹脂を形成する。未溶解のポリビニルアルコール系樹脂は脱色反応の反応性が低下するため、本発明の効果を低減させる。
上記塩基性溶液中の過酸化水素濃度の好ましい下限は0.1mol/L、好ましい上限は0.5mol/Lである。
【0021】
本発明において、上記ポリビニルアルコール系樹脂を上記過酸化水素と接触させる際の温度の好ましい下限は30℃、好ましい上限は90℃である。上記ポリビニルアルコール系樹脂を上記過酸化水素と接触させる際の温度が30℃未満であると、ポリビニルアルコール系樹脂を脱色するために必要な時間が長時間となることがある。上記ポリビニルアルコール系樹脂を上記過酸化水素と接触させる際の温度が90℃を超えると、過酸化水素による主鎖の酸化反応が進行し、逆に黄色度が上昇する恐れがある。上記ポリビニルアルコール系樹脂を上記過酸化水素と接触させる際の温度のより好ましい下限は40℃、より好ましい上限は85℃である。
【0022】
本発明において、上記ポリビニルアルコール系樹脂を過酸化水素と接触させる時間は、目的のポリビニルアセタールの重合度に応じて変更することができるが、10分〜4時間行えば脱色したポリビニルアルコール系樹脂を得ることができる。
【0023】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法を用いることで、脱色されたポリビニルアルコール系樹脂を得ることができる。このようなポリビニルアルコール系樹脂もまた、本発明の1つである。
更に、本発明のポリビニルアルコール系樹脂を用いることで、透明度が高い光学フィルムが得られる。このような光学フィルムもまた、本発明の1つである。
【0024】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法を用いることで、得られるポリビニルアルコール系樹脂における、主鎖中の1,2−グリコール結合の量を0.8mol%以上とすることができる。
本発明のポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法における脱色は、ポリビニルアルコール系樹脂中に生じた共役系構造に対して、活性酸素種の付加反応が起こり、共役系構造の消失が生じているものと考えられる。その結果、共役系二重結合が1,2−グリコールへと変性することから、得られるポリビニルアルコール系樹脂は、主鎖中の1,2−グリコール結合の量が増加する。
ポリビニルアルコール系樹脂における、主鎖中の1,2−グリコール結合の量が0.8mol%以上であることにより、ポリビニルアルコール系樹脂の結晶性の低下や、接着性の上昇、濡れ性の上昇等の材料物性の変化が期待できる。
【0025】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂を、例えば、酸触媒を用いて酸性条件にした系において、アルデヒドと反応させてアセタール化することにより、白色度の高いポリビニルアセタール樹脂が得られる。このようなポリビニルアセタール樹脂もまた、本発明の1つである。
【0026】
上記ポリビニルアルコール系樹脂をアルデヒドと反応させてアセタール化し、ポリビニルアセタール樹脂を得る方法としては、従来公知の方法を使用することができる。例えば、ポリビニルブチラールを得る場合は、ポリビニルアルコール系樹脂を1〜25重量%含む水溶液を調製し、−5〜30℃の温度範囲で酸触媒、及び、ブチルアルデヒドを接触させて20分〜6時間反応を進行させ、その後に温度を10〜50℃上昇させて更に30分〜5時間熟成反応させて反応を完了し、好ましくは冷却工程を経た後、析出したポリビニルブチラール樹脂を洗浄する方法が挙げられる。
【0027】
上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、過酸化水素を用いて低重合度化したポリビニルアルコール系樹脂も使用することができる。
このような場合、上記低重合度化したポリビニルアルコール系樹脂をアルデヒドと反応させる際の系の過酸化水素濃度は0.1mol/L以下であることが好ましい。上記過酸化水素濃度が0.1mol/Lを超えている場合、ポリビニルアルコールとアルデヒドとが反応する前に、アルデヒドが過酸化水素と付加体を形成することによってアセタール化が阻害され、得られるポリビニルアセタールのアセタール化度が低くなったり、生成したポリビニルアセタールの形状が粉体では得られずに粗大粒子となり、洗浄や乾燥が充分にできず、品質に悪影響を及ぼしたりすることがある。
【0028】
また、上記低重合度化したポリビニルアルコール系樹脂をアルデヒドと反応させる際に、液性を酸性条件にする時点における系の過酸化水素濃度は0.1mol/L以下であることが好ましい。酸性条件にする時点における系の過酸化水素濃度が0.1mol/Lを超えている場合、過酸化水素濃度が低下せず、アセタール化が阻害され、得られるポリビニルアセタールのアセタール化度が低くなったり、生成したポリビニルアセタールの形状が粉体では得られずに粗大粒子となり、洗浄や乾燥が充分にできず、品質に悪影響を及ぼしたりすることがある。
【0029】
上記酸触媒は特に限定されず、塩酸等のハロゲン化水素や、硝酸、硫酸等の鉱酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸や、リン酸等が挙げられる。これらの酸触媒は、単独で用いられてもよく、2種以上の化合物を併用してもよい。なかでも、塩酸、硝酸、硫酸が好適であり、塩酸がより好適である。
【0030】
上記アルデヒドは、例えば、炭素数1〜19の直鎖状、分枝状、環状飽和、環状不飽和、又は、芳香族のアルデヒドが挙げられる。具体的には例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。上記アルデヒドは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上記アルデヒドはホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。
【0031】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、本発明のポリビニルアルコール系樹脂に対する上記アルデヒドの配合量を適宜変更することにより調整することができる。
【0032】
本発明のポリビニルアセタール樹脂を用いることにより、着色性の高い塗料用バインダー及びインクを作製することができる。このようにして製造される塗料用バインダー及びインクもまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、簡便な方法で変色したポリビニルアルコール系樹脂を脱色させることが可能なポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法を提供することができる。また、本発明によれば、該ポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法を用いて得られるポリビニルアルコール系樹脂、並びに、該ポリビニルアルコール系樹脂を用いた光学フィルム、ポリビニルアセタール樹脂、塗料用バインダー及びインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
なお、以下の記載において、反応前のポリビニルアルコールには『a』、反応後のポリビニルアルコールには『b』を付記するものとする。また、反応前のポリビニルアルコールを用いて得られるポリビニルブチラール樹脂には『A』を、反応後のポリビニルアルコールを用いて得られるポリビニルブチラール樹脂には『B』を付記するものとする。
【0035】
(実施例1)
ポリビニルアルコール1a(鹸化度99%、重合度200)50g、イオン交換水450gを1Lのセパラブルフラスコにて95℃で1時間、150rpmで加熱攪拌しポリビニルアルコール水溶液を得た。このとき、溶液は黄色味をおびていた。次いで、攪拌したまま温度を60℃まで冷却した後、塩基成分として5Nの水酸化ナトリウム水溶液を投入し、液中のOHイオン濃度を0.5mol/Lとした。次いで35重量%濃度の過酸化水素水21.9gを加え、さらに2時間反応させ、反応後のポリビニルアルコール1bを含有する水溶液を得た。
【0036】
脱色反応によって得られたポリビニルアルコール1bの水溶液を60分かけて2℃にまで冷却した後、25重量%濃度の塩酸36gとブチルアルデヒド28gを添加し150分アセタール化反応させた。その後、60分かけて40℃まで昇温し、その温度でさらに120分反応させた。反応時間終了後、室温にまで冷却した後に析出した樹脂を濾過により回収し、樹脂分をイオン交換水で洗浄した。次いで樹脂を炭酸ナトリウム水溶液で3時間洗浄した後、再度水洗し、乾燥させてポリビニルブチラール樹脂1Bを得た。
また、比較対象として、脱色反応を行う前のポリビニルアルコール1aを用いた以外は、同様の反応を行い、ポリビニルブチラール樹脂1Aを得た。
【0037】
(実施例2、3)
水酸化ナトリウム水溶液の添加量、過酸化水素添加量を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール2b、3b及びポリビニルブチラール樹脂2A、2B、3A、3Bを得た。なお、液中の過酸化水素の濃度、水酸化ナトリウム濃度、ポリビニルアルコール重合度を表1に示した。
【0038】
(実施例4)
ポリビニルアルコール1aに代えてポリビニルアルコール4a(鹸化度99%、重合度500)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリビニルアルコール4b及びポリビニルブチラール樹脂4A、4Bを得た。
【0039】
(実施例5)
過酸化水素水の濃度を表1に示すように変更するとともに、水酸化ナトリウム水溶液を水酸化カリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール5b及びポリビニルブチラール樹脂5A、5Bを得た。
【0040】
(実施例6)
ポリビニルアルコール4a(鹸化度99%、重合度500)50gを実施例1と同様の手法により450gのイオン交換水に溶解させ、5N塩酸5.0g、塩化鉄(II)20mg、過酸化水素6.5gを添加し、60℃で2時間反応させ、着色させたポリビニルアルコール6aの溶液を得た。このとき、粘度平均重合度は250まで低下していた。
この溶液を中和したのち、さらに水酸化ナトリウムを投入し、液中のOHイオン濃度を0.3mol/Lとした。0.02mol/Lの過マンガン酸カリウムを用いて反応溶液を滴定し、残存の溶液中の過酸化水素濃度が0.27mol/Lであったことを確認した後、さらに過酸化水素を追加し、溶液中の過酸化水素濃度を0.5mol/Lとした。その後の条件は実施例1と同様にしてポリビニルアルコール6b及びポリビニルブチラール樹脂6A、6Bを得た。
【0041】
(比較例1、2)
水酸化ナトリウム水溶液の添加量、過酸化水素添加量を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール7b、8b及びポリビニルブチラール樹脂7A、7B、8A、8Bを得た。なお、液中の過酸化水素の濃度、水酸化ナトリウム濃度、ポリビニルアルコール重合度を表1に示した。
【0042】
(比較例3)
ポリビニルアルコール1aに代えてポリビニルアルコール4a(鹸化度99%、重合度500)を用い、過酸化水素を添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール9b及びポリビニルブチラール樹脂9A、9Bを得た。なお、液中の過酸化水素の濃度、水酸化ナトリウム濃度、ポリビニルアルコール重合度を表1に示した。
【0043】
(比較例4)
ポリビニルアルコール1aに代えてポリビニルアルコール6aを用い、塩基性成分を添加せず、塩基性溶液としなかった以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール10b及びポリビニルブチラール樹脂10A、10Bを得た。なお、液中の過酸化水素の濃度、水酸化ナトリウム濃度、ポリビニルアルコール重合度を表1に示した。
【0044】
(比較例5)
5Nの塩酸を添加し、酸性条件(水素イオン濃度0.1mol/L)とした以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール11b及びポリビニルブチラール樹脂11A、11Bを得た。なお、液中の過酸化水素の濃度、水酸化ナトリウム濃度、ポリビニルアルコール重合度を表1に示した。
【0045】
<評価>
実施例及び比較例で得られたポリビニルアルコール及びポリビニルブチラール樹脂について、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0046】
(1)ポリビニルアルコールの黄色度
得られたポリビニルアルコール1b〜11bの水溶液を離型紙の上にキャストし、真空条件化、60℃で3時間乾燥させ、膜厚50μmのポリビニルアルコールのフィルムを作製した。得られたフィルムについて、JIS K 7105に準拠した方法で、黄色度(YI)を測定した。
また、比較対象として、反応前のポリビニルアルコール1a、4a、6aについても同様に黄色度(YI)を評価した。
更に、得られたポリビニルアルコールのフィルムをDMSO−dに溶解させ、1,2−グリコール結合の量をH−NMRにより算出した。
【0047】
(2)ポリビニルアセタール樹脂の黄色度
得られたポリビニルブチラール樹脂1B〜11Bを、エタノール/トルエン混合溶媒(重量分率1:1)に溶解させ、10重量%の溶液とし、これを平滑な離型紙の上にキャストし、真空条件化、60℃で3時間乾燥させることで、フィルム(膜圧50μm)を作製した。得られたフィルムについて、JIS K7105に準拠した方法で、黄色度(YI)を測定した。
また、比較対象としてポリビニルブチラール樹脂1A〜11Aについても、同様に黄色度(YI)を評価した。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、簡便な方法で変色したポリビニルアルコール系樹脂を脱色させることが可能なポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法を提供することができる。また、本発明によれば、該ポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法を用いて得られるポリビニルアルコール系樹脂、並びに、該ポリビニルアルコール系樹脂を用いた光学フィルム、ポリビニルアセタール樹脂、塗料用バインダー及びインクを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OHイオン濃度が0.01〜1mol/Lの塩基性溶液中にて、ポリビニルアルコール系樹脂と、濃度が0.01〜1mol/Lの過酸化水素とを接触させる工程を有する
ことを特徴とするポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法。
【請求項2】
請求項1記載のポリビニルアルコール系樹脂の脱色方法によって得られることを特徴とするポリビニルアルコール系樹脂。
【請求項3】
主鎖中の1,2−グリコール結合の量が0.8mol%以上であることを特徴とする請求項2記載のポリビニルアルコール系樹脂。
【請求項4】
請求項2又は3記載のポリビニルアルコール系樹脂を用いることを特徴とする光学フィルム。
【請求項5】
請求項2又は3記載のポリビニルアルコール系樹脂を、酸触媒を用いて酸性条件にした系において、アセタール化してなることを特徴とするポリビニルアセタール樹脂。
【請求項6】
請求項5記載のポリビニルアセタール樹脂を用いることを特徴とする塗料用バインダー。
【請求項7】
請求項5記載のポリビニルアセタール樹脂を用いることを特徴とするインク。

【公開番号】特開2012−77185(P2012−77185A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223106(P2010−223106)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】