説明

ポリビニルアルコール系複合繊維

【課題】 常温水に溶解しかつ所定の工程までは常温以上の温度の水に接触しても直ぐには溶解せず工程を通過することが可能でしかも高生産性の繊維を提供し、さらに該繊維を水と接触させて水溶性成分の少なくとも一部を溶解・除去することにより中空繊維や多孔性および/または表面凸凹の繊維構成体あるいは複合成形体を提供する。
【解決手段】 融点が200℃以下、鹸化度が60〜90モル%の常温水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーを芯成分とし、融点が230℃以下の他の熱可塑性ポリマーを鞘成分とする複合繊維を含む繊維構造体またはポリマー成形体を水で処理し、該複合繊維の常温水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーを少なくとも一部溶解除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水で処理することにより中空繊維が得られることとなる複合繊維および該繊維を含む繊維構造体、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコールなどの合成繊維は、その優れた物理的および化学的特性によって、衣料用のみならず産業用にも広く使用されており、工業的に重要な価値を有している。しかしながら、ポリエステル、ポリアミド等の合成繊維は、衣料用途に使用する場合その単糸繊度に単一な分布を有し、また単糸繊度が大きいことやその横断面形状が単純であることにより、絹、綿、麻等の天然繊維に比較して風合や光沢が単調であり、さらに冷たくて、ぬめり感のある触感を有し品位の低いものである。そこで合成繊維の衣料用としての上記欠点を改良するために、合成繊維の横断面形状を異形化したり、繊維を中空化することが広く行われている。
通常、異形紡糸ノズルまたは中空紡糸ノズルを用いて製造される異形断面繊維や中空繊維は、紡出後、固化するまでの間に溶融状態にある樹脂の表面張力や紡糸時の引き取り張力等によって異形断面が崩れたり、中空部が潰れやすいという課題があり、特に多孔中空形状を発現させようとすると、紡出直後は繊維に多孔状の中空構造が付与されても、多孔状中空部が潰れて消滅したり、該中空部の割合が減少し易く、かかる手法で多孔状の中空部を有する繊維を得ることは実質的に不可能であった。
そこで、特開平7−316977号公報には、アルカリ易分解性ポリマーを芯成分とし、鞘成分としてはポリアミドやエチレンビニルアルコール系共ポリマー等の吸水率が3%以上の耐アルカリ性ポリマーを用いて複合繊維とした後、該易分解性ポリマーを熱アルカリ水溶液処理することにより分解除去して多孔中空繊維とする技術が提案されている。しかしながら、これらの問題点としては、アルカリ分解生成物の排水処理の繁雑さがあり、環境面からも大きな課題を残している。
【0003】
一方、水溶性繊維はポリビニルアルコールの水溶液を硫酸ナトリウムの濃厚水溶液中に湿式紡糸したり、ポリビニルアルコールの濃厚水溶液を乾式紡糸したものが市販されている。最近ではポリビニルアルコール系ポリマーを全有機溶剤系湿式冷却ゲル紡糸することにより、95℃溶解タイプから5℃溶解タイプまで広範な水溶解温度を有する水溶性繊維が提案され(例えば、特開昭7−90714号)、市販されている。これらの水溶性繊維は溶解温度以上の水に浸漬すると当然のことながら溶解するため製品製造工程中で溶解温度以上の水に接触させることはできない。また、これら従来の水溶性繊維は湿式紡糸あるいは乾式紡糸のため紡糸速度が上げられず低生産性の問題がある。
【0004】
そこで、本発明者らは特開2000−234214号公報において特定の水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーよりなる水溶性繊維を得ることを提案し、さらに特開2000−239926号公報において特定の水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーと融点が270℃以下の熱可塑性ポリマーとからなる複合繊維を得、該繊維を熱水と接触させポリビニルアルコール系ポリマーを抽出することにより、機械的性質および風合いなどの触感が劣化することなく異型断面あるいは極細の熱可塑性ポリマー繊維を得ることを提案した。また特願2000−355502号において平衡水分率が2%以下の熱可塑性ポリマーを鞘成分とし、特定の水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーを芯成分とする複合繊維を得、該繊維を熱水と接触させポリビニルアルコール系ポリマーを抽出することにより軽量性、ドライ感に優れた低吸水性多孔中空繊維を得ることを提案した。
これらの発明は、従来、熱安定性が不良で溶融紡糸が極めて困難とされたポリビニルアルコール系ポリマーを、重合度、鹸化度、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率、1,2グリコール結合量および融点を所定範囲とし、さらに該ポリマーに含有されるアルカリ金属イオン量を所定範囲に限定することにより、ポリビニルアルコール系ポリマーで高速の溶融紡糸が可能であることを見出した画期的発明であるが、常温水には溶解し難く溶解時エネルギーが多く必要である。また、雨水などで自然に溶解させるという点においてはまだ課題を残していた。
【0005】
【特許文献1】特開平7−316977号公報
【特許文献2】特開昭7−90714号
【特許文献3】特開2000−234214号公報
【特許文献4】特開2000−239926号公報
【特許文献5】特願2000−355502号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記の従来技術の課題を解決し、常温水に溶解しかつ所定の工程までは常温以上の温度の水に接触しても直ぐには溶解せず工程を通過することが可能でしかも高生産性の繊維を提供し、さらに該繊維を水と接触させて水溶性成分の少なくとも一部を溶解・除去することにより中空繊維や多孔性および/または表面凸凹の繊維構成体あるいは成形体を提供することである。また、かかる繊維構成体や成形体を排水処理や環境面での問題を起こすことなく製造するための複合繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、融点が200℃以下、鹸化度が60〜90モル%の常温水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーを芯成分とし、融点が230℃以下の熱可塑性ポリマーを鞘成分とする複合繊維であり、該繊維を含む繊維構成体であり、また該繊維を含むポリマー成形体である。
【発明の効果】
【0008】
このようにして得られる本発明の中空繊維や繊維構造体は、軽量性、柔軟性、不透明性、ふくらみ感のある風合等から特にタフタ、デシン、ジョーゼット、ちりめん、加工糸、ツイルなどの織物、または天竺、スムース、トリコットなどの編物にするのに適している。さらに、衣料用途に限らず、不織布用途、メディカル用途や衛生材料、詰め物材として各種リビング資材にも使用可能であるし、繊維積層体として自動車等の内装材、消音材、防振材として利用可能であり、さらに抄紙することもできる。
また、本発明で得られる成形体は、内部に空隙を有するため、軽量性、断熱性、消音性、防振性に優れ、また、表面に凹凸を有するため、着色するとぎらつきがなく、また靴底などに用いると滑り防止性などに優れ、産業資材、リビング資材、日用品資材、メディカル資材などに使用することができる。
【0009】
なお、本発明でいう繊維構成体は、本発明の複合繊維または該複合繊維から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーを除去することにより得られることとなる中空繊維の該ポリビニルアルコール系ポリマーを除去する前の単独で構成されたマルチフィラメント糸、紡績糸、織編物、不織布、紙、人工皮革、詰物材はもちろんのこと、天然繊維、半合成繊維、他の合成繊維との混織糸や混紡糸、合撚糸、交絡糸や捲縮糸等の加工糸、交織物、交編物、繊維積層体、並びにこれらから構成される衣類、リビング資材、産業資材、メディカル用品等の各種最終製品をも包含するものである。また、本発明でいうポリマー成形体とは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマーなどのポリマーを射出成形、押出し成形、注型成形など種々の成形方法で成形する際に、本発明の複合繊維をポリマー中に含有させて製造される成形体を意味するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、複合繊維を構成する芯成分ポリマーとして、融点が200℃以下の常温水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーを使用することが極めて重要なポイントである。融点が200℃を越えるポリビニルアルコール系ポリマーは溶融紡糸する際の温度を高くしなければならず紡糸安定性が不良であるとともに水溶解温度が高くなる。本発明に用いるポリビニルアルコール系ポリマーの融点の下限は特には限定されないが、得られる繊維の熱安定性や繊維化工程性の点で150℃以上が好ましい。繊維性能と繊維化工程性を両立させる点でポリビニルアルコール系ポリマーの融点が160〜190℃であるともっと好ましく、165℃〜185℃であるとさらに好ましい。
【0011】
次に、本発明の複合繊維において、芯成分を構成するポリビニルアルコール系ポリマーの鹸化度は60〜90モル%であることも本発明の重要なポイントである。鹸化度が60モル%未満であると水酸基量が少なくなり常温水に溶解し難くなる。鹸化度が逆に90モル%を越えても水酸基による水素結合が強くなり常温水に溶解し難くなる。本発明に適したポリビニルアルコール系ポリマーの鹸化度は、エステル基以外の共重合成分がない場合65〜82モル%、また例えば5モル%程度の共重合成分を有する場合75〜88モル%が好ましい。従来の技術では鹸化度が90モル%以下のポリビニルアルコール系ポリマーは熱安定性が極めて低く溶融紡糸ができないと考えられてきたが、後述するように詳細に条件を検討することにより、低鹸化度ポリビニルアルコール系ポリマーでも溶融紡糸可能であることを見出し、初めて常温水溶性ポリビニルアルコール系ポリマーの溶融紡糸による複合紡糸繊維を得ることが可能となった。
【0012】
本発明に適した常温水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマー(以下、単にPVAと略称することもある)は上記の融点、鹸化度以外にも性能と工程通過性を両立するために以下に詳述する性状を有することが好ましい。
本発明で使用されるPVAには、ポリビニルアルコールのホモポリマーは勿論のこと、例えば、共重合、末端変性、および後反応により官能基を導入した変性ポリビニルアルコールも包含するものである。
【0013】
本発明に用いるPVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は、500以下のいわゆる低重合度のPVAが好ましい。低重合度PVAは水処理により複合繊維からPVAを溶解するときに溶解速度が速くなるばかりでなく複合繊維中のPVAが溶解する時の収縮を小さくすることができ、収縮ゲル化による著しい溶解の遅延を防止することができる。また、重合度が500を越えると溶融粘度が高すぎて、紡糸ノズルからポリマーを吐出し難くなる問題もある。逆に重合度が150未満の場合には紡糸時に十分な曳糸性が得られず、繊維化しにくい場合があるので、重合度は150〜500が好ましく、200〜470がより好ましく、230〜430が特に好ましい。
【0014】
また本発明で用いられるPVAの1,2−グリコール結合含有量は1.1〜3.1モル%が好ましい。PVAの1,2−グリコール結合量が1.1モル%未満の場合には、溶融紡糸時の溶融粘度が高すぎて紡糸性が悪くなる場合があるばかりでなく、複合繊維よりPVAを溶解除去した際排出される廃液の生分解性が悪くなるので好ましくない場合が多い。PVAの1,2−グリコール結合含有量が3.1モル%を越える場合にはPVAの熱安定性が悪くなり紡糸性が低下する場合がある。PVAの1,2−グリコール結合含有量が1.3〜2.6モル%がより好ましく、1.3〜2.5モル%が特に好ましい。
【0015】
また、本発明で使用されるPVAは、ホモポリマーであっても共重合単位を導入した変性PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、共重合単位を導入した変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましい場合が多い。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1、3−プロパンジオールビニルエーテル、1、4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−2−ピロリドンなどのN−ビニルアミド類、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、通常20モル%以下である。
【0016】
これらの単量体の中でも、入手のしやすさなどから、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1、3−プロパンジオールビニルエーテル、1、4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−2−ピロリドンなどのN−ビニルアミド類に由来する単量体が好ましい。
特に、共重合性、溶融紡糸性および繊維の水溶性の観点からエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンの炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−2−ピロリドンなどのN−ビニルアミド類がより好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類および/またはN−ビニルアミド単位に由来する単位は、PVA中に0.1〜10モル%存在していることが好ましく、0.5〜9モル%であるとさらに好ましい。
さらに、α−オレフィンがエチレンである場合において、繊維物性が高くなることから、特にエチレン単位が1〜8モル%、より好ましくは2〜7モル%導入された変性PVAを使用することが好ましい。
【0017】
本発明で使用されるPVAにおけるアルカリ金属イオンの含有割合は、PVA100質量部に対してナトリウムイオン換算で0.0003〜1.5質量部であることが好ましく、0.0003〜1.0質量部がより好ましく、0.0005〜0.8質量部がさらに好ましく、0.0005〜0.6質量部が特に好ましい。アルカリ金属イオンの含有割合が0.0003質量部未満の場合には、十分な水溶性を示さず未溶解物が残る場合がある。またアルカリ金属イオンの含有量が2質量部より多い場合には溶融紡糸時の分解及びゲル化が著しく繊維化することができない場合がある。アルカリ金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等があげられる。
【0018】
また、本発明においては、上述のようなPVAを用いたとしても、PVAは一般的に汎用性の熱可塑性樹脂に比較して高温での溶融流動性に劣るため、可塑剤や滑剤などを添加することが好ましい場合が多い。例えば可塑剤として、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールおよびそのオリゴマー、ブチレングリコール及びそのオリゴマー、ポリグリセリン誘導体やグリセリン等にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加したグリセリン誘導体、ソルビトールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加した誘導体、ペンタエリスリトール等の多価アルコール及びその誘導体、PO/EOランダム共重合物などがあげられる。可塑剤の添加量としては1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%の割合でPVAに配合することが曳糸性向上の点から好ましい。なかでも、繊維化工程で熱分解が起こりにくく、良好な可塑化性、紡糸性を得るためには、ソルビトールのアルキレンオキサイド付加物、ポリグリセリンアルキルモノカルボン酸エステル、PO/EOランダム共重合物などの可塑剤を1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%配合することが好ましく、特にソルビトール1モルにエチレンオキサイドを1〜30モル付加した化合物が好ましい。エチレンオキサイドの平均付加モル数が1未満では、相溶性は問題ないが、分子量が低いため、熱安定性に難がある。またエチレンオキサイドの平均付加モル数が30を超えると、SP値が低下するため、PVAとの相溶性が悪化し、繊維化工程性に悪影響を及ぼすようになる。なお、付加モル数は、平均したものであって、付加モル数に分布があってもよいが、30モル以上の付加物が50重量%以上混入することは好ましくない。
【0019】
また,本発明の複合繊維に押出し機、ノズルパックおよびノズル内での流れをよくし滞留を防止するために滑剤を使用すると好ましい場合が多い。滑剤としては、飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレフィン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、脂肪酸金属塩(例えばステアリン酸カルシウム等)などの脂肪酸誘導体や、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10000程度の低分子量ポリエチレン、又は、低分子量ポリプロピレン等)が挙げられるが必ずしもこれに限定されるものではない。滑剤の添加量としては0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜1質量%である。含有量が0.05質量%未満ではPVAの滞留抑制効果が改善されず長時間の連続運転が難しい傾向にある。添加量が5質量%を越えると繊維化工程性が悪化し、繊維強度が低下する。
また、重合度を低下させずに溶融粘度を低下させる減粘剤なども有効である。
【0020】
また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、必要に応じて銅化合物等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。特に熱安定剤としてヒンダードフェノール系化合物、熱劣化防止剤としてメルカプトベンツイミダゾールなどの有機系安定剤、ヨウ化銅等のハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、繊維化の際の溶融滞留安定性が向上するので好ましい。
さらに、必要に応じて平均粒子径が0.01μm以上5μm以下の微粒子を0.05重量%以上10重量%以下、重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。微粒子の種類は特に限定されず、たとえばシリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の不活性微粒子を添加することができ、これらは単独で使用しても2種以上併用してもよい。特に平均粒子径が0.02μm以上1μm以下の無機微粒子が好ましい。
【0021】
次に、本発明に用いるPVAの製造方法について述べる。まず、PVAはビニルエステル系ポリマーのビニルエステル単位を鹸化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
ビニルエステルは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の重合方法により重合してビニルエステル系ポリマーを得る。無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。重合に使用される開始剤としては、α、α'-アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2、4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜150℃の範囲が適当である。共重合成分を導入する場合は重合時ビニルエステルと共重合モノマーを混合し共重合する。共重合モノマーの添加法は一括添加でも、逐次添加でも目的に応じて選定することができる。
【0022】
次に,得られたビニルエステル系ポリマーを鹸化して所定の鹸化度を有するPVAとする。鹸化触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムがあげられる。本発明の重要なポンイトである鹸化度を制御するには鹸化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比が重要であり、例えばモノマーが酢酸ビニルの場合、酢酸ビニル単位に対して0.001〜0.1が好ましく、0.002〜0.05が特に好ましい。鹸化触媒は、鹸化反応の初期に一括添加してもよいし、鹸化反応の途中で追加添加してもよい。
鹸化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどがあげられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、含水率を0.001〜1質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.003〜0.9質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.005〜0.8質量%に制御したメタノールが特に好ましい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などがあげられ、これらの中でもメタノール主体がより好ましい。
洗浄液の量としてはアルカリ金属イオンの含有割合を満足するように設定されるが、通常、PVA100質量部に対して、300〜10000質量部が好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜10時間が好ましく、1時間〜6時間がより好ましい。
【0023】
本発明において、特定量のアルカリ金属イオンをPVA中に含有させる方法は特に制限されず、PVAを重合した後にアルカリ金属イオン含有の化合物を添加する方法、ビニルエステルのポリマーを溶媒中において鹸化するに際し、鹸化触媒としてアルカリイオンを含有するアルカリ性物質を使用することによりPVA中にアルカリ金属イオンを配合し、鹸化して得られたPVAを洗浄液で洗浄する際に洗浄条件を制御することにより、PVA中に含まれるアルカリ金属イオン含有量を制御する方法などが挙げられるが後者の方が好ましい。
【0024】
また、本発明においては、上述のようにして得たPVAに上記の可塑剤や滑剤や熱劣化防止剤や酸化防止剤などの各種添加剤を溶融紡糸時押出機で直接混練してもよいが、二軸押出機を用いて、マスターチップ化する方法が、各種添加剤を均一分散させるという点で好ましい。このマスターチップを溶融紡糸用押出機に仕込む方が好ましい場合が多い。
【0025】
次に、本発明の複合繊維の鞘成分を構成するポリマーは融点が230℃以下の熱可塑性ポリマーであることが重要である。本発明の複合繊維においては芯成分を構成するポリマーが上記のように低融点、低鹸化度のPVAであるため膠着しやすく、従って、鞘成分ポリマーで繊維表面を被覆することにより膠着を防止することができる。鞘成分ポリマーの融点が230℃を越えると芯成分ポリマーのPVAの融点差が大きくなり過ぎ、PVAの熱劣化が著しく安定な紡糸が困難である。鞘成分ポリマーは、融点が230℃以下で、紡糸温度でのせん断速度1000sec-1の粘度が芯成分PVAと同じ程度になりうるなら特別な限定はなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系ポリマーや、ナイロン−6、ナイロン−6、6、ナイロン−4などのポリアミド系ポリマーや、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルや、ポリウレタン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポリイソプレン、芳香族ビニルモノマーとジエン系モノマーとからの共ポリマー、またはその水添物などを挙げることができる。これらポリマーの中で、芯成分のPVAとゲル化などの反応をせず、融点が低く、重合度等広い範囲の銘柄が比較的容易に入手でき、価格も安価なポリエチレンやポリプロピレンが好ましい。
また、これらのポリマーは、融点が本発明の規定を満たすよう共重合等で変性されていてもよい。特に、ポリエステル系においては、イソフタル酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、セバチン酸、アジピン酸等で共重合することがPVAの溶解除去の容易性から好ましい方向である。さらに鞘成分を構成する熱可塑性ポリマーには、蛍光増白剤、安定剤、難燃剤、着色剤等の任意の添加剤を必要に応じて含有させても差し支えない。
【0026】
本発明複合繊維の芯鞘の形態は特に制限されるものではない。芯の数は複合繊維の断面において1個または2個以上の多芯でもよい。芯を100個以上有していてもよいが、繊維化が困難になるので本発明では10個以下で十分である。
また、個々の芯成分の形状は何ら限定されず、円形、楕円形、三角形、十字形、その他の異形形状でもよい。さらに鞘成分は、不連続に形成されていてもよいが、繊維軸方向に連続し存在している方が好ましい。
【0027】
本発明において、芯成分と鞘成分の複合比率は特に限定されないが、最終的に得られる中空繊維の中空率や、繊維構成体や成形体での空隙率や表面凹凸数をどの程度に設定するかに応じて適宜複合比率を変更することができる。しかしながら、芯成分の比率が小さすぎると、中空繊維としての軽量化効果や繊維構成体や成形体での空隙効果や表面凹凸効果などが十分に発揮されず、一方、中空部の比率が大きすぎると鞘成分が破れたり、紡糸安定性が不良となるので、好ましくは芯:鞘=20:80〜90:10、さらには40:60〜80:20とすることが好ましい。
【0028】
本発明の複合繊維は、上記のようなPVAを芯成分とし、融点が230℃以下の熱可塑性ポリマーを鞘成分とした断面形態を形成することができる紡糸技術であれば特に限定されず、熱溶融時に芯成分のPVAと反応、ゲル化しないポリマーの組み合わせの系においては、例えば、混合紡糸による方法が可能であり、芯成分となるPVAと鞘成分となる他の熱可塑性ポリマーとを、1つの押出機で溶融混練し、引き続き同一の紡糸ノズルから吐出させて巻取り、繊維化することができる。また複合紡糸による方法では、PVAと他の熱可塑性ポリマーとをそれぞれ別の押出機で溶融混練し、引き続き、PVAが芯成分となり、熱可塑性ポリマーが鞘成分となるようにして芯鞘型複合紡糸ノズルから吐出させて巻き取り、繊維化することができる。
本発明においては芯成分の連続性の点で後者の複合紡糸が好ましい。
【0029】
繊維化条件は、ポリマーの組合せ、各種添加剤、芯鞘比率などに応じて設定する必要があるが、主に、以下のような点に留意して繊維化条件を決めることが重要である。
(1)一般的にPVAは高温時での溶融流動性に劣り、また滞留部の存在で自己架橋し、ゲル化し易いポリマーであり、本発明に用いる低鹸化度のPVAにおいては特に熱安定性が悪く従来は溶融紡糸困難とされてきたポリマーであるので、ポリマーの押出しゾーン及びジェットパック(複合紡糸部品の集合体)内部のポリマー流動部で滞留部が生じにくくすることが重要で、最も高温となるノズルパック内の複合流形成時の滞留時間を15分以下とすることにより常温水溶性熱可塑性PVAを初めて複合溶融紡糸が可能となることを見出したことが本発明複合繊維を製造する上で極めて重要なポイントの1つである。
(2)紡糸口金温度は、複合繊維を構成するポリマーのうち高い融点を持つポリマーの融点をMpとするとき、Mp〜Mp+60℃が好ましく、せん断速度(γ)は1,000〜25,000sec−1、ドラフトV10〜500で紡糸することが好ましい。
(3)芯鞘複合する両ポリマーの重合度を選定する際、紡糸時おける口金温度とノズル通過時のせん断速度で測定したときの溶融粘度が近接したポリマーを選定して複合紡糸することが紡糸安定性の面から好ましい。
なお、せん断速度(γ)は、ノズル半径をr(cm)、単孔あたりのポリマー吐出量をQ(cm/sec)とするときγ=4Q/πrで計算される。またドラフトVは、引取速度をA(m/分)とするときV=5A・πr/3Qで計算される。
【0030】
本発明の複合繊維を製造するに際して、紡糸口金温度がPVAの融点Tmより低い温度では該PVAが溶融しないために紡糸できない。またTm+60℃を越えるとPVAが熱分解あるいは自己架橋によるゲル化が発生しやすくなるために紡糸性が低下する。また、せん断速度は1,000sec−1よりも低いと断糸しやすく、25,000sec−1より高いとノズルの背圧が高くなり紡糸性が悪くなる。ドラフトは10より低いと繊度斑が大きくなり安定に紡糸しにくくなり、ドラフトが500より高くなると断糸しやすくなる。
【0031】
紡糸ノズルから吐出された糸条は延伸せずにそのまま高速で巻き取るか必要に応じて延伸される。延伸は破断延伸倍率(HDmax)×0.55〜0.9倍の延伸倍率でガラス転移点(Tg)以上の温度で行う。
延伸倍率がHDmax×0.55未満では十分な強度を有する複合繊維が安定して得られず、HDmax×0.9を越えると断糸しやすくなる。延伸は紡糸ノズルから吐出された後に一旦巻き取ってから延伸する場合と、延伸に引き続いて施される場合があるが、本発明においてはいずれでもよい。延伸は通常熱延伸され、熱風、熱板、熱ローラー、水浴等のいずれを用いて行ってもよい。水溶性繊維でも鞘成分が水不溶性であれば、水浴でも延伸可能である。
延伸工程において、延伸倍率の絶対値が大きいほど、毛羽発生、断糸しやすくなるため高速紡糸〜低延伸倍率による繊維化条件あるいは公知の高速紡糸・巻取りのみによる手法が好ましい。
【0032】
延伸温度は、複合の組合せポリマーに応じて適宜設定されるが、本発明に用いるポリビニルアルコールは結晶化速度が速い傾向にあるため未延伸糸の結晶化がかなり進み、ガラス転移温度前後では結晶部分の可塑変形が生じにくい。このため、例えば、ポリエチレンとの複合においては熱ローラー延伸などの接触加熱延伸をする場合でも比較的高い温度(70〜130℃程度)を目安に延伸する。また、加熱炉、加熱チューブなどの非接触タイプのヒーターを使用して加熱延伸する場合は、さらに高温で150〜220℃程度の温度条件とすることが好ましい。
【0033】
本発明の複合繊維は、製造条件の制御によって芯成分であるPVAを水溶解させる際の複合繊維の収縮挙動を制御することが可能である。PVAがスムーズに溶解するよう、該複合繊維が収縮しないかまたは収縮量を小さく抑えようとする場合には、該複合繊維に熱処理を施しておくことが望ましい。この熱処理は、延伸を伴う繊維化工程においては、延伸と同時に行ってもよいし、延伸と別個に行う熱処理であってもよい。熱処理温度を高くすると芯成分PVAを溶解して得られる中空繊維の最大収縮率を低くすることが可能であるが、PVAの水中溶解温度が高くなる傾向にあるので、該複合繊維の加工工程における最大収縮率とのバランスをみながら熱処理条件を設定することが望ましく、大凡は芯成分PVAのガラス転移点〜(Tm−10)℃の範囲内で条件設定することが好ましい。熱処理処理温度がガラス転移点より低い場合には十分に結晶化した複合繊維が得られず、例えば、布帛にして熱セットして用いる場合の収縮が大きくなり、布帛の風合いが硬化するため好ましくない。また処理温度が(Tm−10)℃を越える場合には繊維間の膠着が生じ好ましくない。
【0034】
熱処理は延伸後の複合繊維に収縮を加えて行ってもよい。複合繊維に収縮を加えると水中でのPVA溶解までの複合繊維の収縮率が小さくなる。加える収縮は0.01〜5%好ましく、0.1〜0.5%がより好ましく、1〜4%が特に好ましい。加える収縮が0.01%以下の場合にはPVA溶解時の複合繊維の最大収縮率を小さくする効果が実質的に得られず、加える収縮が5%を超える場合には収縮処理中に複合繊維がたるんで安定に収縮を加えることができない。
【0035】
このようにして得られる本発明の複合繊維は、そのままフィラメントヤーン状、1〜100mmにカットしてショートカット状、捲縮・カットしてカットステープル状、さらに紡績して紡績糸状などの種々の形態として使用できる。また、これらの形態の本発明の複合繊維は、単独であるいは天然繊維、半合成繊維、他の合成繊維との混繊糸や混紡糸、合撚糸、交絡糸や捲縮糸等の加工糸、交織物、交編物、不織布、紙、人工皮革、詰物材、繊維積層体などの繊維構成体としたり、さらに、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマーなどのポリマーを射出成形、押出し成形、注型成形などにより成形する際に、例えばショートカット状の本発明の複合繊維を混練することにより、繊維複合成形体とすることができる。
なお、本発明の繊維構造体及び成形体とは、衣類、リビング資材、産業資材、メディカル用品等の各種最終製品をも包含するものである。
【0036】
本発明において、PVAが「常温水溶性」であるということは、5℃の水に溶解し繊維形状が無くなることを意味する。そして、雨水や結露水でも芯成分のPVAは、繊維形状が無くなり十分の水量があれば溶解除去され、繊維または繊維構造物内部に孔があいたり、成形体表面に凹凸が形成される。
【0037】
芯成分のPVAを溶解・除去する水処理時の温度および処理時間は、複合繊維の繊度、複合繊維における芯成分の割合、芯成分の分布状態、鞘成分の熱可塑性ポリマーの比率、種類、繊維構造体や成形体の形態などの種々の要件により適宜調節できるが、本発明の複合繊維の水処理は、常温ないし低温の水による処理で十分にPVAを溶解除去でき、少ないエネルギーで安全に除去できる点に特徴がある。
また、処理水としては、通常は軟水が用いられるがアルカリ水溶液、酸性水溶液であってもよいし、界面活性剤等を含んだものであってもよい。特に、鞘成分のガラス転移温度を低下させる薬剤やPVAの溶解を促進させる薬剤を処理水中に加えると処理時間を短縮することができ好ましい場合がある。例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等を成分とする精練剤、その他の添加剤等を含んで行ってもよい。水処理の方法としては、水中に複合繊維、繊維構造体、繊維複合成形体を浸漬する方法、或いはそれらにパッド、スプレー等の方式で施す方法、さらに雨水などにより自然に溶解除去する方法などを挙げることができる。
また、上記の水処理によるPVAの溶解除去は、複合繊維単独に対して行なってもよいが、該複合繊維を含む繊維構造体や繊維複合成形体とした後に水処理を施してもよい。
【0038】
本発明において、PVAは、上記のような水処理により複合繊維、繊維構造体、成形体から水溶液として除去されるが、かかるPVAは生分解性を有しており、活性汚泥処理あるいは土壌に埋めておくと分解されて水と二酸化炭素になる。例えば、活性汚泥で連続処理すると2日〜1ヶ月でほぼ完全に分解される。本発明に用いているPVAは生分解性の点からも優れた性能を有しており、地球に優しい素材といえる。
【0039】
また、本発明においては、水処理によって複合繊維中のPVAが選択的に溶解除去されて中空繊維が形成され、その結果、内部に空隙を有する繊維複合体や表面に凹凸を有する成形体が製造されるものであるが、本発明の特徴は、殆ど水に膨潤しないと考えられるポリエチレンやポリプロピレンが鞘成分として使用されている場合であっても鞘成分に包囲されているPVA芯成分が水処理により完全に溶解除去されて上記のような中空繊維、繊維構造体、成形体が形成されることである。複合繊維がステープル繊維など切断面を持っている場合は、繊維の端面からPVAが抜けていくことが考えられるが、本発明においては、実質的に切断面のない長繊維の状態であっても芯成分であるPVAが常温水により完全に溶解除去されるものであり、かかる事実は従来の常識では考え難く新しいメカニズムでポリマーが溶解除去されると推察される。
また、芯成分のPVAは吸湿性、保湿性に優れるため、この特性を応用し、目的(用途)によってPVAを一部溶解除去し、空隙を形成せしめると同時に芯成分のPVAを残すことも可能である。
【実施例】
【0040】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0041】
[PVAの分析方法]
PVAの分析方法は特に記載のない限りはJIS−K6726に従った。
【0042】
[融点]
PVAの融点は、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で一旦250℃まで昇温した後室温まで冷却し、再度、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度で表した。
【0043】
[鹸化度]
JIS−K6726に従った。
【0044】
[重合度]
JIS−K6726に従った。
【0045】
[変性量]
変性ポリビニルエステルあるいは変性PVAを500MHz プロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から求めた。
【0046】
[1,2グリコール結合量]
NMR法により求めた。すなわち、サンプルを鹸化度99.9モル%以上に鹸化後、十分にメタノールで洗浄し、減圧乾燥したPVAを重水素化されたジメチルスホキサイドに溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料を500MHzのプロトンNMRを用いて80℃で測定する。ビニルアルコール単位のメチン由来ピークは3.2〜4.0ppm(積分値A)、1,2グリコール結合の1つのメチン由来ピークは3.25ppm(積分値B)に帰属され、次式で算出した。ここでΔは変性量(モル%)を表す。
1,2グリコール結合量(モル%)=100B/{100A/(100−Δ)}
【0047】
[アルカリ金属イオンの含有量]
原子吸光法により求めた。
【0048】
[エチレン変性PVAの製造]
攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル20.3kgおよびメタノール39.6kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽ゲージ圧力が0.22MPaとなるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2、2’−アゾビス(4−メトキシ−2、4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液45mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽ゲージ圧力を0.22MPaに、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて142ml/hrでAMVを連続添加して重合を実施した。5時間後に重合率が50%となったところで、重合禁止剤としてソルビン酸0.03g含有メタノール10kgを加え、冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。ついで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が35%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液1429g(溶液中のポリ酢酸ビニル500g)に、11.2g(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対してモル比(MR)0.0048)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加して鹸化を行った。アルカリ添加後約22分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、60℃で1時間放置して鹸化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。洗浄後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で16時間放置して乾燥PVAを得た。
得られたエチレン変性PVAの鹸化度は80.0モル%であった。また該変性PVAを灰化させた後、酸に溶解したものを用いて原子吸光光度計により測定したナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.25質量部であった。
また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をn−ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。該ポリ酢酸ビニルをDMSO−d6に溶解し、500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定したところ、エチレンの含有量は5.0モル%であった。上記のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5で鹸化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置して鹸化を進行させた後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製されたエチレン変性PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ300であつた。該精製PVAの1,2−グリコール結合量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ1.50モル%であつた。
さらに該精製された変性PVAの5%水溶液を調整し厚み10ミクロンのキャスト製フィルムを作成した。該フイルムを80℃で1日間減圧乾燥を行った後に、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、前述の方法によりPVAの融点を測定したところ170℃であった。また、このPVAの粘度は、温度が190℃で、せん断速度が1000sec−1の条件で1600ポイズであった。
【0049】
実施例1
上記で得られた変性PVAを真空乾燥し、可塑剤としてソルビトール1モルに対してエチレンオキサイドを2モル付加した化合物と、滑剤としてエチレンビスステアリン酸アミドと、熱安定剤として1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,5−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸とを、ポリマーに対し各々8質量%、0.1質量%、0.1質量%をプラストミルに加え、最高温度190℃で混錬し、ペレット化した。このようにして得た変性PVAペレットを芯成分として用いた。
一方、融点が128℃、温度が190℃でせん断速度が1000sec−1の条件での粘度が1700ポイズのポリエチレン鞘成分として用い、PVAゾーン最高温度190℃とし、PVAの滞留が極力生じない複合紡糸部品を使い、紡糸温度200℃、紡糸速度1000m/分で紡出した。このときPVAが190℃で滞留した時間は約10分であった。得られた未延伸糸を80℃の熱ローラーおよび120℃の熱プレートに接触させ、延伸倍率2.3倍で延伸することにより、表1に示す90dtex/8fの芯鞘複合繊維を得た。なお、該芯鞘複合繊維は丸断面であり,芯成分の形状も円形であった。
【0050】
得られた複合繊維フィラメントを筒編みして得た編地を25℃の水道水に1夜浸漬した後フィラメントの断面を顕微鏡観察したところ、芯成分のPVAは完全に溶解除去され、中空率が70%の中空ポリエチレン繊維となっていることがわかった。
【0051】
また、得られた複合繊維を3mmにカットし、ショートカット複合繊維とし、成形用ポリエチレンをシート状に溶融押出成形する際に、このショートカット複合繊維をポリエチレンに対し7質量%添加混練し、厚さが1mmの繊維複合ポリエチレン成形シートを得た。
ついで,得られたシートを15℃の水に1時間浸漬したところシート表面にあった複合繊維のPVA組成物が溶解除去され、シート表面に大略25ミクロンの孔があいていることがわかった。さらに、シートを1夜浸漬処理した。このシートを切断して内部を観察したところ径が25ミクロン程度、長さが2.5mm程度の空隙が生成していることがわかった。このようにして得られたシートは本発明複合繊維を混練していないシートに比べ、湿潤時滑り防止性に優れ、軽量であった。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例2〜6
実施例2、3は鞘成分の熱可塑性ポリマーを変更した場合、実施例4は芯成分PVAの可塑剤、滑剤を添加しない場合、実施例5は芯成分PVAの融点と鹸化度および鞘成分の熱可塑性ポリマーを変更した場合、実施例6は芯成分PVAの変性量を変更した場合を示した。各々の実施例について基本的には実施例1と同様にして繊維化、評価を行なった。ただし、融点などにより紡糸条件は適正化を行った。結果を表1に示した。いずれも紡糸可能で、得られた複合繊維の芯成分の常温水溶性は良好であった。
【0054】
実施例7
芯成分の形状が十字形となる紡糸部品を用い、かつ表1に示すようにエチレン変性をしていないPVAホモポリマーを芯成分とすること以外は、基本的には実施例1と同様に複合紡糸を行った。表1に示すように得られた繊維の芯成分の常温水溶性は優れていた。
【0055】
比較例1〜2
比較例1は、融点208℃、鹸化度98モル%のPVAを芯成分とした場合、比較例2は融点258℃のポリエチレンテレフタレートを鞘成分とした場合を示した。各々の比較例は基本的には実施例1と同様にして繊維化、評価を行なった。その結果、表1からわかるように、比較例1の鹸化度が98モル%と高鹸化度PVAでは常温水溶性が得られない。また、比較例2の鞘成分ポリマーの融点が258℃と高い場合は芯成分のPVAの熱劣化が大きく紡糸ができない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が200℃以下、鹸化度が60〜90モル%の常温水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーを芯成分とし、融点が230℃以下の他の熱可塑性ポリマーを鞘成分とすることを特徴とする複合繊維。
【請求項2】
常温水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーが、炭素数4以下のα−オレフィン単位、ビニルエーテル単位およびN−ビニルアミド単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の単位を0.1〜10モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
α−オレフィン単位として1〜8モル%のエチレン単位および/またはプロピレン単位を含有する請求項2に記載の複合繊維。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系ポリマーに可塑剤及び滑剤が添加されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項5】
可塑剤が、ソルビトール1モルに対してエチレンオキサイドを1〜30モル付加した化合物である請求項4に記載の複合繊維。
【請求項6】
滑剤が脂肪酸誘導体または分子量500〜10000の低分子量ポレオレフィンである請求項4に記載の複合繊維。
【請求項7】
熱可塑性ポリマーが融点230℃以下のポリオレフィンまたはポリエステルまたはポリアミドである請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項8】
ポリオレフィンがポリエチレンまたはポリプロピレンである請求項7に記載の複合繊維。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合繊維を少なくとも一部に含む繊維構造体。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合繊維を含有するポリマー成形体。

【公開番号】特開2006−2337(P2006−2337A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193846(P2005−193846)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【分割の表示】特願2002−39867(P2002−39867)の分割
【原出願日】平成14年2月18日(2002.2.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ジェットパック
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】