説明

ポリビニルアルコール系重合体膜を用いた逆浸透膜およびその製造方法

【課題】ポリビニルアルコール系重合体膜を用いた逆浸透膜において、より低温で架橋でき、かつ強度の高い逆浸透膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】支持膜と、前記支持膜上に形成された有機チタン系化合物で架橋されたポリビニルアルコール系重合体膜とで逆浸透膜を構成する。支持膜の表面に、有機チタン系化合物を配合したポリビニルアルコール系重合体水溶液を被覆し、加熱乾燥することにより、前記支持膜上に前記有機チタン系化合物で架橋されたポリビニルアルコール系重合体膜を形成することにより逆浸透膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れたポリビニルアルコール(以下、PVAと略す。)系重合体膜を用いた逆浸透膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中に微量に含まれるイオン分を除去する方法として、イオン交換樹脂や逆浸透膜を用いた除去技術が用いられている。このうちイオン交換樹脂を用いる脱塩方法は、薬品を用いてイオン交換樹脂を再生するため薬品が廃棄物になったり、用いたイオン交換樹脂自体が廃棄物になるなどの問題がある。そのため、逆浸透膜を用いた脱塩方法が着目されている。
【0003】
逆浸透膜を用いた脱塩方法では、理論上は、半透膜に浸透圧以上の圧力をかけることで、イオンを含有する水から、純水を製造することができる。浸透圧は、π=CRT(C=容量モル濃度,R=0.082(気体定数),T=絶対温度)で計算することが可能である。たとえば、塩化ナトリウムを例にとると、0.1%(1000ppm)では浸透圧は0.085MPaとなり、理論的には0.085MPa以上の圧力をかけるとイオン分を除去できることとなる。
【0004】
しかし、理論浸透圧で計算される程度の圧力をかけることで純水が製造できる半透膜は存在しない。現実には支持膜および半透膜に由来する圧力損失が生じるために、現状市販されている逆浸透膜は作動圧が0.5MPa以上と高くなっている。そのため、エネルギー損失が大きいという課題がある。また、低圧で用いることができても脱塩率が約50%と低い。そこで、より低圧で作動し、さらに高い脱塩性能を有する逆浸透膜が望まれている。
【0005】
現在使用されている逆浸透膜としては、主として酢酸セルロース膜、芳香族ポリアミド膜、PVA(ポリビニルアルコール)膜、ポリスルホン膜の4種類が挙げられる。これらは単体でもしくは支持膜上に塗布、製膜して用いられている。
【0006】
このうち、ポリスルホン膜は化学的特性、機械的特性に優れているが、それ自体はイオン分の阻止率が低いため、ポリアミド膜と複合化して用いられることが多い。また、酢酸セルロース膜は密な支持膜を使用する必要があるため圧力損失が大きくなるという問題がある。
【0007】
一方、ポリアミド膜、および、PVA膜は、疎な支持膜を使用できるため作動圧の低圧化が可能である。ポリアミド膜としては、支持膜上にポリアミド膜を形成し、その上に多官能性架橋を塗布した逆浸透膜、またポリアミド膜に放射線照射による表面処理を施した逆浸透膜が提案されている。(特許文献1、特許文献2)。PVA膜としては、表面に電子線エッチングを行ったPVA膜に硫酸を添加したPVA水溶液を塗布し、熱処理を施した後に硫酸を添加したポリアクリル酸などを塗布し、熱処理を施した逆浸透膜が提案されている(特許文献3)。
【0008】
ポリアミド膜は次亜塩素酸やバクテリア等の不純物が付着しやすいため前処理が必要であるが、ポリビニルアルコール膜はバクテリア等の不純物等の汚れに強く前処理が不要でかつ高い温度で作動できる等の利点がある。しかも、逆浸透膜は火力ならびに原子力発電所などで純水を供給するために用いられているが、これら発電所では、アミンやアミドは除去対象であり、経年劣化によって復水中に溶出することが懸念されるため、逆浸透膜としてポリアミド膜を使用することは望ましくない。そこで、特に火力ならびに原子力発電所などで使用する逆浸透膜としてPVA系重合体膜を用いた逆浸透膜が注目されている。
【0009】
逆浸透膜が低圧で作動するためには支持膜に塗布する半透膜を薄膜化する必要がある。架橋させたPVA系重合体膜は優れた力学的特性および機械的特性を有しているため薄膜化が可能であるが、PVA系重合体を架橋剤なしに薄膜化すると、PVA系重合体が水に溶解してしまい、逆浸透膜として機能を果たさない。
【0010】
一般にPVA系重合体膜を作製する方法として、硫酸による熱架橋による方法(特許文献3)や、支持膜上に形成したPVA系重合体に対して多価エポキシ化合物を脂肪族または芳香族カルボン酸の金属塩触媒によって架橋させる方法(特許文献4)など、様々な方法が提案されている。しかし、前者は硫酸がPVA系重合体膜を酸化劣化し、ピンホールの生成や強度低下を引き起こす問題がある。また、後者は、耐水性や耐湿熱性を向上させることができるが、温度を230℃まで上昇させる必要があることから、支持膜として耐熱温度が230℃以上のものを用いる必要がある。
【0011】
また、特許文献5に示すように、PVAはチタン系有機化合物と反応して架橋することが知られている。この方法は、低温で起こる利点があるが、この方法を逆浸透膜、特に支持膜上に形成されたPVA系重合体膜の架橋に適用することはこれまで検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平05−329348号公報
【特許文献2】特開2007−14833号公報
【特許文献3】特公昭61−61845号公報
【特許文献4】特開平11−292983号公報
【特許文献5】特開2006−169491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上述べたとおり、架橋により強度の高い薄膜の形成が可能なため、作動圧の低圧化を図ることができ、しかもアミンなどの除去対象物の溶出のないポリビニルアルコール(PVA)系重合体膜を用いた逆浸透膜は、特に、火力ならびに原子力発電所などで純水を供給するために有用なものである。このポリビニルアルコール系重合体膜を用いた逆浸透膜において、より低温で架橋でき、かつ強度の高い逆浸透膜の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の逆浸透膜は、支持膜と、前記支持膜上に形成された有機チタン系化合物で架橋されたポリビニルアルコール系重合体膜とを含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の逆浸透膜の製造方法は、支持膜の表面に、有機チタン系化合物を配合したポリビニルアルコール系重合体水溶液を被覆し、加熱乾燥することにより、前記支持膜上に前記有機チタン系化合物で架橋されたポリビニルアルコール系重合体膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の逆浸透膜を用いることにより、逆浸透処理の作動圧が低くなるため、イオン除去処理のための動力が低減でき、イオン除去処理コストが低減できる。また、PVA系重合体の溶出が低減できるため、逆浸透膜を長寿命化することができる。さらに、本発明の逆浸透膜は、架橋剤として有機チタン系化合物を用いることにより、低温で架橋処理ができるため、支持膜として耐熱温度の低い材料からなるものを用いることができる。また、本発明の逆浸透膜の製造方法により、上記の効果を奏する本発明の逆浸透膜を簡便な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】チタンアルコキシドによるPVA系重合体の架橋を示す模式図。
【図2】キレート構造を有する有機チタン化合物によるPVA系重合体の架橋を示す模式図。
【図3】チタンアルコキシドによるPVA系重合体と支持膜の反応を示す模式図。
【図4】キレート構造を有するチタン化合物によるPVA系重合体と支持膜の反応を示す模式図。
【図5】オゾン曝露処理前後のポリテトラフルオロエチレン製支持膜表面に滴下したPVA水溶液の液滴の状況を示す写真で、(a)はオゾン曝露処理前、(b)はオゾン曝露処理後の写真である。
【図6】架橋剤に対応する作動圧と塩除去率の関係を示す図。
【図7】ポリアクリル酸水溶液中のポリアクリル酸濃度に対応する作動圧と塩除去率の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の逆浸透膜の支持膜について説明する。
本発明の逆浸透膜の支持膜を構成する材料としては、特に限定するものではないが、たとえばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、硝酸セルロース等のホモポリマーあるいはこれらをブレンドしたもの等が使用できる。特に、原子力発電所の復水の処理で用いる場合は化学的、機械的、熱的安定性が高く、復水中での除去対象となるアミン系化合物、アミド系化合物、スルホン系化合物を含有しないポリテトラフルオロエチレンを用いることが好ましい。
【0019】
ポリテトラフルオロエチレン製の支持膜は水に対する濡れ性が良好であるとはいえない。よって、その上にPVA系重合体の水溶液を被覆して膜を形成した場合にピンホールなどの欠陥を生ずる恐れがある。そのため、PVA系重合体の水溶液を被覆する前に、ポリテトラフルオロエチレン製の支持膜のPVA系重合体膜形成面に対して親水化処理を施すことが好ましい。
【0020】
ポリテトラフルオロエチレン製支持膜表面の親水化処理方法としては、電子線処理や界面活性剤により処理する方法、オゾン曝露処理などが挙げられる。しかし、電子線処理は装置の大型化や過剰処理による支持膜の強度低下などが問題となる。また、界面活性剤による処理は、逆浸透膜に不純物を持ち込む恐れがある。そのため、オゾン曝露により処理することが好ましい。
【0021】
また、熱収縮の大きな材料からなる支持膜を用いる場合は、支持膜上にPVA系重合体の水溶液を被覆したのち加熱乾燥を行うことを考慮して、支持膜に対してPVA系重合体の水溶液を被覆する前に、上記の加熱乾燥温度程度の温度における熱処理を施しておく。この熱処理をすることにより、製造された逆浸透膜の透水能のばらつきを軽減することができる。
【0022】
次に、支持膜上に形成するPVA系重合体膜の主成分であるPVA系重合体について説明する。
本発明の膜を構成するPVA系重合体は[CH2CH(OH)]と記される単位構造を持つ物質であり、一般的に、ポリ酢酸ビニルあるいはその共重合体のけん化により製造される。本発明の膜を構成するPVA系重合体は製造方法により限定されるものではなく、上記の製造方法により製造されたもののほか、他の製造方法により製造されたものであっても問題なく使用できる。
【0023】
PVA系重合体のけん化度は、通常70モル%以上が好ましい。特に、逆浸透膜に耐熱性・耐水性・耐油性が要求される場合は、けん化度が90〜99.99モル%のPVA系重合体が好ましい。ここでいうけん化度とは、ポリ酢酸ビニルをけん化、すなわち加水分解して得られる水酸基のモルパーセント(mol%)である。
【0024】
また、PVA系重合体の重合度も本発明の逆浸透膜の性能に影響する。重合度は加工特性や形成する薄膜の強度の点から500以上、好ましくは1000以上、さらに好ましくは1500以上である。
【0025】
PVA系重合体は単独で用いることも可能であるが、けん化度および重合度の異なるPVA系重合体を混合して用いてもよい。けん化度および重合度の異なるPVA系重合体を混合して用いることにより、PVA薄膜の密度を変化させることができ、よって作動圧を調整することも可能である。
【0026】
架橋剤として用いる有機チタン系化合物は、分子中に水酸基やカルボキシル基を有する水溶性樹脂の架橋剤として一般的に用いられるものであり、本発明では、そのうち水溶性のものが好適に用いられる。たとえば、一般的な構造式が化1のように表されるアルコキシド系化合物や、化2で表される6配位のキレート錯体構造を有するチタン化合物があげられる。
【化1】

【0027】
ここで、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示す。
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
ここで、化3は2つの配位座を有するキレート化合物、化2のRは炭素数1〜10のアルキル基を示す。
【0030】
有機チタン系化合物の配合量はPVA系重合体の種類によっても異なるが、PVA系重合体の水酸基に対するチタンのモル比が50〜75:1であることが好ましい。
【0031】
架橋剤として有機チタン系化合物を使用することにより、被覆液の乾燥温度程度の比較的低温でPVA系重合体膜が架橋しピンホールのない機械的強度の高い半透膜が形成される。そして、半透膜の機械的強度が高いため、その膜厚を薄くすることができ、逆浸透処理の操作圧を低くすることができる。また、支持膜とPVA系重合体膜との密着性も良好になり、PVA系重合体膜自体の機械的強度の向上と相俟って、長期間の使用が可能となる。さらに、原子力発電所などで使用した場合、若干のチタン原子の溶出が見られたとしても、チタンは他の金属と比較して悪影響を及ぼすことが少ないという利点もある。
【0032】
支持膜上へのPVA系重合体膜の形成方法について説明する。
上述のとおり、支持膜のうち親水性に劣る材料からなるものについては、オゾン暴露処理などで親水性にしておく必要がある。また、加熱処理により収縮する材料からなる支持膜は、あらかじめ熱処理をしておくとよい。
【0033】
次に、PVA系重合体および有機チタン系化合物を含有する水溶液を用意し、支持膜表面に被覆する。
上記水溶液中のPVA系重合体濃度は、PVAの分子量、けん化度により異なるが、被覆性や形成する薄膜の厚みの均一性を考慮して、通常0.03〜3wt%、好ましくは0.1〜1wt%の濃度とすることが好ましい。また、有機チタン系化合物の濃度は、上述したように、水溶液中のPVA系重合体の官能基に対するチタンのモル比が50〜75:1である範囲で選択する。
【0034】
PVA系重合体および有機チタン系化合物を含有する水溶液の支持膜表面への被覆手段は、該水溶液が表面に均一にかつ連続的に被覆される手段であればどのような手段も採用できるが、支持膜上に水溶液を塗布する方法、支持膜上に水溶液を流延させる方法、支持膜を水溶液に浸漬させる方法、公知のコーティング方法でコーティングする方法などで行えばよい。
【0035】
PVA系重合体および有機チタン系化合物を含有する水溶液を被覆した支持膜を加熱乾燥器などを用いて乾燥することにより、支持膜上にPVA系重合体膜の半透膜が形成される。乾燥温度が低温であると乾燥に時間がかかり、均一に薄膜が形成できない。一方、高温で乾燥すると支持膜の収縮により透水能が低下する恐れがある。そのため、通常40〜150℃、好ましくは60〜110℃の温度で、数分から数時間、好ましくは3〜20分間加熱乾燥させる。
【0036】
図1および図2に示すように、この程度の温度域での加熱により、有機チタン系化合物の加水分解反応が進行してチタン原子を介してPVA系重合体が架橋される。さらに、図3および図4に示すように、支持膜表面に存在する親水基あるいは支持膜表面に親水化処理により形成した親水基とPVA系重合体もチタン原子を介して結合される。
【0037】
よって、支持膜上に形成されたPVA系重合体膜は、水への溶解の要因である水酸基が有機チタン系化合物と反応し、PVA系重合体鎖が架橋されているために、PVA系重合体の水への溶解が小さくなる。そのため、PVA系重合体膜を薄膜化してもPVA系重合体の溶出を抑制することが可能となり、逆浸透膜としての機能を維持することができる。しかも、支持膜表面の親水基とPVA系重合体を有機チタン系化合物により結合するため、支持膜とPVA系重合体膜の密着性を高めることができる。
【0038】
先に述べたように、PVA系重合体膜は、けん化度が高くなるほど耐水性や耐油性が高くなる。このことはPVA系重合体膜表面の濡れ性が低下する、と言い換えることができる。逆浸透膜表面の濡れ性は透水能に影響を及ぼす。よって、けん化度の高いPVA系重合体からなる膜を含む逆浸透膜を水処理に用いる場合、表面の濡れ性を高くすることが必要となる。そのために、PVA系重合体膜の表面に親水性の高いカルボキシル基を有する水溶性重合体膜を形成するとよい。
【0039】
カルボキシル基を有する水溶性重合体としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合物などが挙げられる。これらのカルボキシル基を有する重合体等の分子量は特に制限されるものではないが、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸についていえば、通常は重合度100〜10000、好ましくは500〜8000のものを用いることができる。
【0040】
カルボキシル基を有する水溶性重合体膜も水に対する溶解性を有するため、たとえば上記式1および式2で示したような有機チタン系化合物を配合して、加水分解反応を促進することにより、架橋することができる。架橋することにより水中へのカルボキシル基含有重合体の溶出を抑制することができる。
【0041】
PVA系重合体膜上へのカルボキシル基を有する水溶性高分子重合体膜の形成方法について説明する。
まず、支持体上に形成されたPVA系重合体膜の表面に、カルボキシル基を有する水溶性重合体水溶液を被覆する。
【0042】
カルボキシル基を有する水溶性重合体水溶液中の重合体濃度は、特に制限されることはないが、通常は被覆性や分子量に応じて0.03〜3wt%、好ましくは0.25〜1wt%、より好ましくは0.1〜1wt%の濃度のものが用いられる。カルボキシル基を有する水溶性重合体の水溶液中への有機チタン系化合物を添加量は、該水溶液中におけるカルボキシル基を含む水溶性重合体のカルボキシル基に対するチタンのモル比が50〜75:1である範囲で選択する。
【0043】
支持膜上に形成されたPVA系重合体膜表面のカルボキシル基を含む水溶性重合体水溶液の被覆手段は、支持膜上へのPVA系重合体水溶液の被覆と同様に、該水溶液が表面に均一にかつ連続的に被覆されればよく、公知の手段で行えばよい。
【0044】
PVA系重合体膜表面にカルボキシル基含有水溶性重合体水溶液を被覆した支持膜は、PVA系重合体水溶液を被覆した支持膜と同様に、加熱乾燥器などを用いて40〜150℃、好ましくは60〜120℃の温度で数分から数時間、好ましくは3〜15分間加熱乾燥させる。水溶液中に有機チタン系化合物を配合した場合はこの加熱により、カルボキシル基を有する水溶性重合体膜が架橋される。
【0045】
このようにして得られた逆浸透膜は、支持膜上にPVA系重合体膜のみを形成した逆浸透膜よりも濡れ性が高いことから、透水能が向上する。また、汚れがつきにくくなるという利点もある。このことは、一般に逆浸透膜の性能低下を引き起こす、すなわち汚れの原因となる物質は負に帯電しているが、カルボキシル基の構造に由来する電荷の偏りにより、逆浸透膜表面が負に帯電しているため、汚れの原因となる物質が表面で反発し、付着しないためであると考えられる。
【0046】
本発明の逆浸透膜は、上記のごとく製造したままでも使用できるが、透過液に不純物が混入することを防ぐために、使用する前に水洗などによって未反応残存物を取り除くことが好ましい。
また、本発明の逆浸透膜を用いることにより、例えば操作圧力0.1〜2.0MPaで原水中に含まれる有機物質、無機物質、イオン等の除去が可能となる。
【0047】
本発明の逆浸透膜はその形態に限定はないが、製造方法が簡便であること、また、原子力発電における復水の処理量が約10m3/hと多いことを考慮すると、大量処理に向いている中空糸膜であることが好ましい。
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0048】
図5に、オゾン曝露処理の前後にポリテトラフルオロエチレン製支持膜表面にPVA重合体水溶液を滴下した際の写真を示す。オゾン曝露処理前のポリテトラフルオロエチレン製支持膜表面にPVA重合体水溶液を滴下した場合には、図5(a)に示すとおりPVA重合体水溶液が液滴になり、PVA重合体水溶液をポリテトラフルオロエチレン製支持膜表面に被覆することができないが、オゾン暴露処理後は図5(b)に示すとおりの状態となり、PVA重合体水溶液を支持膜表面に被覆することが可能になる。ポリテトラフルオロエチレン製支持膜表面の濡れ性を評価する接触角を比較すると、オゾン暴露処理前は90度以上と疎水性であったものが、処理後は45度となり濡れ性が向上した。以上のとおり、オゾン暴露処理は、ポリテトラフルオロエチレン製支持膜表面の親水化手段として有効である。
【0049】
実施例1
以下の手順により逆浸透膜を製造する。
支持膜となるポリテトラフルオロエチレン膜の片面にオゾン曝露処理を施す。
ポリテトラフルオロエチレン支持膜のオゾン暴露処理を施した面にPVA系重合体水溶液1,2を塗布する。ここで、PVA系重合体水溶液1,2は、いずれも完全けん化型、重合度1800のPVA重合体の2重量%水溶液であり、PVA系重合体水溶液1は硫酸を0.06〜2重量%の範囲内の複数の濃度で配合したものであり(比較例)、PVA系重合体水溶液2は、有機チタン酸をPVA重合体水溶液10mlに対し、0.5ml添加したものである(実施例1)。
【0050】
PVA系重合体水溶液1,2を塗布したポリテトラフルオロエチレン支持膜を130℃にて一定時間乾燥させて、架橋されたPVA系重合体膜を形成する。
PVA系重合体膜の表面に0.25重量%のポリアクリル酸水溶液を塗布し、110℃にて乾燥させて、逆浸透膜を製造する。
【0051】
次に、製造した逆浸透膜を用いて0.1重量%の塩化ナトリウム溶液を通水し、作動圧と塩除去率を評価した。
その結果を図6に示す。図6において、◆は、PVA系重合体水溶液1を用いて製造した比較例の逆浸透膜を用いた場合の結果を示したものであり、○は、PVA系重合体水溶液2を用いて製造した実施例1の逆浸透膜を用いた場合の結果を示したものである。
【0052】
図6から、有機チタン酸を配合したPVA系重合体水溶液2を用いて製造した実施例1の逆浸透膜は、硫酸を配合したPVA系重合体水溶液1を用いて製造した比較例の逆浸透膜に比べて、低圧でイオンを除去することが可能であり、塩除去率も良好であることがわかる。
【0053】
実施例2
ポリアクリル酸水溶液中のポリアクリル酸濃度を2.5重量%に変えたほかは実施例1と同様の手順で逆浸透膜を製造し、実施例1と同様にして作動圧と塩除去率を評価した結果を図6に加筆したものを図7に示す。
【0054】
図7において、△は、実施例2の結果を示すものである。
図7から、ポリアクリル酸水溶液中のポリアクリル酸濃度が高いと、塩除去率が低下し、作動圧が増大したことがわかる。したがって、ポリアクリル酸水溶液中のポリアクリル酸濃度は、0.25重量%付近がより好ましい値である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の逆浸透膜は、架橋剤として有機チタン系化合物を用いたことにより低い作動圧で高い塩除去率が達成でき、動力、処理コストが低減できる。また、低温で架橋処理できるため、支持膜として耐熱温度の低い材料を用いることが可能であり、しかも、PVA系重合体の溶出が低減できるため、膜を長寿命化することが可能である。
【0056】
よって、本発明の逆浸透膜は各種の原水からの脱塩処理に広く用いることができ、特に火力ならびに原子力発電所などで純水を供給するために有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持膜と、前記支持膜上に形成された有機チタン系化合物で架橋されたポリビニルアルコール系重合体膜とを含むことを特徴とする逆浸透膜。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系重合体膜が、重合度またはけん化度が異なる2以上のポリビニルアルコール系重合体で構成されたものである請求項1に記載の逆浸透膜。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系重合体膜上に、カルボキシル基を有する水溶性高分子重合体膜を有する請求項1または2に記載の逆浸透膜。
【請求項4】
前記カルボキシル基を有する水溶性高分子重合体膜が有機チタン系化合物により架橋されたものである請求項3に記載の逆浸透膜。
【請求項5】
前記支持膜が、フッ素系樹脂からなるものである請求項1ないし4のいずれかに記載の逆浸透膜。
【請求項6】
前記フッ素系樹脂からなる支持膜が、表面にオゾン処理を施したものである請求項5に記載の逆浸透膜。
【請求項7】
前記支持膜が、前記ポリビニルアルコール系重合体薄膜の形成前に熱処理を施したものである請求項1ないし4のいずれかに記載の逆浸透膜。
【請求項8】
形状が中空糸状である請求項1ないし7項のいずれかに記載の逆浸透膜。
【請求項9】
支持膜の表面に、有機チタン系化合物を配合したポリビニルアルコール系重合体水溶液を被覆し、加熱乾燥することにより、前記支持膜上に前記有機チタン系化合物で架橋されたポリビニルアルコール系重合体膜を形成することを特徴とする逆浸透膜の製造方法。
【請求項10】
前記ポリビニルアルコール系重合体が、重合度またはけん化度が異なる2以上のポリビニルアルコール系重合体を含む請求項9に記載の逆浸透膜の製造方法。
【請求項11】
前記ポリビニルアルコール系重合体膜の表面に、カルボキシル基を有する水溶性高分子重合体水溶液を被覆し、加熱乾燥することにより、前記ポリビニルアルコール系重合体膜上にカルボキシル基を有する水溶性高分子重合体膜を形成する請求項9または10に記載の逆浸透膜の製造方法。
【請求項12】
前記カルボキシル基を有する水溶性高分子重合体水溶液が有機チタン系化合物を配合したものであり、前記カルボキシル基を有する水溶性高分子重合体膜が有機チタン系化合物により架橋されたものである請求項11に記載の逆浸透膜の製造方法。
【請求項13】
前記支持膜がフッ素系樹脂からなるものであり、その表面をオゾン処理した後、有機チタン系化合物を配合したポリビニルアルコール系重合体水溶液を被覆する請求項9ないし12のいずれかに記載の逆浸透膜の製造方法。
【請求項14】
前記支持膜に熱処理を施した後、有機チタン系化合物を配合したポリビニルアルコール系重合体水溶液を被覆する請求項9ないし12のいずれかに記載の逆浸透膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−188282(P2010−188282A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35581(P2009−35581)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】