ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維及びその製造方法
【課題】分離が簡便かつ迅速な分離回収が可能なポリピロール−パラジウムナノコンポジット触媒担持材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維の存在下で、パラジウム錯体を重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行い、該パラジウム錯体の還元により生成したパラジウムを該重合で生成されたポリピロールに1段階の工程で担持させてポリピロール−パラジウムナノコンポジットを生成させると共に、該ポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって該繊維を被覆させることを特徴とする、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法。上記製造方法により製造された、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維。
【解決手段】繊維の存在下で、パラジウム錯体を重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行い、該パラジウム錯体の還元により生成したパラジウムを該重合で生成されたポリピロールに1段階の工程で担持させてポリピロール−パラジウムナノコンポジットを生成させると共に、該ポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって該繊維を被覆させることを特徴とする、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法。上記製造方法により製造された、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆された繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウムや白金のような貴金属からなる貴金属ナノ粒子は、鈴木クロスカップリング反応、Heck反応、園頭カップリング反応、アルコール酸化反応などの触媒として広範に利用され、我が国の重要産業分野である製薬、液晶分子合成分野で必要不可欠な材料である。従来の金属ナノ粒子触媒は、媒体中に均一に分散した状態で触媒反応に使用されるため、反応終了後、媒体から回収することは非常に困難であり、通常、高価な触媒であるにもかかわらず殆ど再利用されていない。
【0003】
この問題を解決する手段として、特許文献1には、塩化白金酸のような貴金属錯体を重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行うと共に、貴金属錯体の還元により生成した白金のような貴金属系触媒を導電性高分子であるポリピロールに1段階の工程で担持させる、貴金属系触媒担持導電性高分子複合体の製造方法が提案されている。この方法は具体的には、塩化白金酸水溶液にピロールモノマーを加えて室温で24時間反応させる方法である。得られた生成物は、ポリピロールという導電性高分子のマトリックス(母材)内に数ナノオーダーの粒子径を有する貴金属系触媒である白金ナノ粒子が均一に分散した複合体(ナノコンポジット)である。そして、導電性高分子であるポリピロールの一次粒子径は10nmから1000nm、好ましくは50nmから500nmであり、一方その中に分散している白金ナノ粒子の大きさは0.1nmから50nm、好ましくは1nmから10nmである、と記載されている。
【0004】
特許文献1によると、この方法は、白金ナノ粒子の保護ポリマーにナノ粒子の安定化の役割だけでなく、電子伝導媒体としての機能性を付与させることができるという利点があるとされ、また、そのような構造を有するために、触媒微粒子の凝集のために触媒活性が低下する、という従来技術の欠点を回避することができる、ともされている。しかしながら、特許文献1にはこのナノコンポジットを触媒に用いた反応例及び触媒の再利用に関する実施例はない。
【0005】
非特許文献1には、塩化パラジウムを重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行うと共に、塩化パラジウムの還元により生成したパラジウムを導電性高分子であるポリピロールに1段階の工程で担持させる、パラジウム触媒担持導電性高分子複合体であるポリピロール−パラジウムナノコンポジットの製造方法が提案されている。この方法は具体的には、ピロール水溶液に、塩化パラジウムと塩化ナトリウムとからなる水溶液を添加し、25℃で7日間反応させる方法である。なお、塩化ナトリウムは塩化パラジウムを水に溶解させるために使用される。得られた生成物は、ポリピロールという導電性高分子のマトリックス(母材)内に数ナノオーダーの粒子径を有する貴金属系触媒であるパラジウムナノ粒子が均一に分散した複合体(ナノコンポジット)である。
この反応の反応式は図1の通りである。
【0006】
非特許文献1には、更に、ポリスチレンラテックス粒子をポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆する方法が提案されている。この方法を具体的に示すと以下の通りである。ポリスチレンラテックスの水分散液にピロールを添加しておき、この系に、塩化パラジウムと塩化ナトリウムからなる水溶液を添加し、25℃で7日間反応させる。この場合も、塩化パラジウムを重合酸化剤としてピロールの重合反応が起こり、塩化パラジウムの還元により生成したパラジウムがポリピロールに担持され、得られたポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって、ポリスチレンラテックス粒子が被覆される。また、ポリスチレンラテックス粒子に替えて、架橋されたポリスチレン粒子を使用することにより、同様にしてポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆された架橋ポリスチレン粒子が得られることも記載されている。実施例で使用されたポリスチレンラテックス粒子の粒径は1.5μm程度、架橋されたポリスチレン粒子の粒径は5.2μmである。
【0007】
上記反応によりポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたポリスチレンラテックス粒子の例を図2に示す。図2の左側は反応前のポリスチレンラテックス(PS Latex)粒子、図2の右側はポリピロール−パラジウムナノコンポジット(PPy−Pd nanocomposite。以後、本明細書では、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットを略してPPy−Pd nanocompositeという時がある)で被覆されたPS Latex粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【0008】
非特許文献1には、上記の反応によって得られたポリピロール−パラジウムナノコンポジットが被覆された架橋ポリスチレン粒子を触媒として、鈴木カップリング反応が良好に進むことが示されている。具体的には、パラ−ブロモアセトフェノン(p−bromoacetophenone)とパラ−メチルフェニルボロン酸(p−methylphenylboronic acid)との反応を行わせ、4−アセチル−4'−メチルビフェニル(4−acetyl−4'methylbiphenyl)が92%の収率で得られたと記載されている。
【0009】
非特許文献1には、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆ポリスチレン粒子触媒の利点として、触媒粒子の高分散などと共に、触媒の分離が容易であることが挙げられている。即ち、遠心分離で粒子が沈降するので分離可能とされている。しかしながら、反応液から遠心分離等を用いて粒子を回収することなく、容易に回収が可能な、あるいは同一反応槽で続けて反復反応が簡便かつ迅速にできるポリピロール−パラジウムナノコンポジット触媒を担持した触媒担持材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−359724号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S. Fujii, S. Matsuzawa, Y. Nakamura, A. Ohtaka, T. Teratani, K. Akamatsu, T. Tsuruoka, H. Nawafune, Langmuir, 26, 6230−6239(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、分離が簡便かつ迅速な分離回収が可能なポリピロール−パラジウムナノコンポジット触媒担持材料及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明は、繊維の存在下で、パラジウム錯体を重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行い、該パラジウム錯体の還元により生成したパラジウムを該重合で生成されたポリピロールに1段階の工程で担持させてポリピロール−パラジウムナノコンポジットを生成させると共に、該ポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって該繊維を被覆させることを特徴とする、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法である。
【0014】
請求項2記載の発明は、前記の重合反応において、該反応を水媒体中で行うことを特徴とする、請求項1記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法である。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の製造方法により製造された、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維である。
請求項4記載の化学反応生成物の製造方法は請求項3記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を触媒として化学反応を行うことを特徴とする化学反応生成物の製造方法である。
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法は、繊維の存在下で、パラジウム錯体を重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行い、該パラジウム錯体の還元により生成したパラジウムを該重合で生成されたポリピロールに1段階の工程で担持させてポリピロール−パラジウムナノコンポジットを生成させると共に、該ポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって該繊維を被覆させることを特徴とする。
【0016】
本発明で用いられる繊維は、有機繊維でも無機繊維でもよい。有機繊維としては、特に、限定されず、例えば、アセテート繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維などの合成繊維、ウール、絹、木綿などの天然繊維が挙げられる。無機繊維としても、特に限定されず、例えば、ガラス繊維、シリカガラス繊維、石英繊維などが挙げられる。
【0017】
本発明で用いられる繊維の形状は、特に限定されず、モノフィラメントでも良いし、それが撚られた糸や、更に不織布でも織物でもよい。また、繊維が加工品とされていてもよく、例えば、フィルターのような多孔質体や衣類であるシャツでも良い。
【0018】
本発明の製造方法において、繊維に対するピロールの使用量は、繊維の形状や得られたポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の使用目的によって変わり得るが、通常、繊維100重量部に対して、ピロール0.5〜150重量部、好ましくは0.8〜125重量部、更に好ましくは、1〜100重量部である。ピロールの使用量が大きくなると繊維表面に沈着しないポリピロール−パラジウムナノコンポジット生成量が増加し、小さくなり過ぎると繊維表面が部分的にポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆された繊維が得られる。
【0019】
本発明の製造方法においては、ピロールとパラジウム錯体とからポリピロール−パラジウムナノコンポジットを生成させる。その反応式は前述の図1の通りである。図1は、パラジウム錯体として塩化パラジウムを使用した場合のものである。この反応式において、ピロールからポリピロールへの酸化とパラジウムの還元(Pd2+からPd(0))は同時に起こり、パラジウムナノ粒子がポリピロールマトリックス中に分散したナノコンポジットが生成する。
【0020】
繊維を含むピロール水溶液に、塩化パラジウムと塩化ナトリウムとの水溶液が添加されると、無色透明であった溶液が10分以内に黒色に変わる。ポリピロールはその電子状態から全波長域の可視光を吸収するため黒色を呈する。したがって、これは、重合が進行しポリピロールが生成されたことを示唆する。同時にポリピロール−パラジウムナノコンポジットの生成も示唆する。反応は24時間程度でほぼ終了すると思われるが、後述の実施例では十分に反応を進行させるため、反応時間を3〜7日間とした。
【0021】
反応後、生成したポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を脱イオン水で洗浄する。この洗浄作業を数回繰り返し行った後、室温にて乾燥する。
【0022】
上記反応は、還元反応を伴うピロールの重合において、酸化剤に塩化パラジウムなどのパラジウム錯体を用いることにより、パラジウム触媒を担持した導電性高分子複合体を一段階で製造するものである。この方法によれば、導電性高分子であるポリピロールを合成するにあたり、塩化パラジウムを重合開始剤(酸化剤)として用いると、ポリピロール中に平均粒子径が約1.0〜3nmのパラジウム粒子を均一分散状態にて担持することが可能である。このような構造を有するために、触媒微粒子の凝集のために触媒活性が低下するという従来技術の欠点を回避できる。また、この方法は、パラジウムナノ粒子の保護ポリマーにナノ粒子の安定化の役割だけでなく、電子伝導媒体としての機能性を付与させることができるという利点がある。
【0023】
本発明において使用することができるパラジウム錯体の例としては、塩化パラジウム(PdCl2, H2PdCl4)、テトラアンミンパラジウム塩化物(Pd(NH3)4Cl2)などが挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法において、導電性高分子であるポリピロールの一次粒子径は10nmから1000nm、好ましくは50nmから500nmである。一方その中に分散しているパラジウムナノ粒子の大きさは0.1nmから50nm、好ましくは1nmから10nmである。しかし、導電性高分子の一次粒子径とパラジウムナノ粒子の大きさは、この範囲に限定されるものではない。
【0025】
なお、本発明の製造方法において、ピロールモノマーとパラジウムイオンとの化学量論的な混合比(モル比)は、ピロールモノマー:パラジウムイオン=6:7であるが、それ以外の混合比でもポリピロールの合成が認められた。
【0026】
本発明の製造方法において、請求項2に記載の発明のように、前記の重合反応において、該反応を水媒体中で行うのが好ましい。水媒体中で反応させる場合、パラジウム錯体としてPdCl2を使用する場合はNaClのような溶解補助剤が必要となる。塩化ナトリウムの使用量は、PdCl2:NaCl=1:2〜3(モル比)が好ましい。
パラジウム錯体としてH2PdCl4又は、Pd(NH3)4Cl2を使用する場合は溶解補助剤は必要ない。
【0027】
本発明のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維は、本発明の製造方法により製造された、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維である。
【発明の効果】
【0028】
請求項1記載の発明によれば、鈴木カップリング反応などの触媒に用いられ、反応後、ピンセットでの取り出し、または濾過を行うだけで反応媒体から触媒の分離・回収ができるため、触媒反応を特別な装置、設備を必要とせずに行うことが可能となり、触媒を繰り返して再利用できるポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を容易に得ることができる。
【0029】
請求項2記載の発明は、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を得る反応を水媒体中で行う有機溶剤フリーの環境に悪影響を与えない安価な製造方法である。
【0030】
請求項3記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維は、鈴木カップリング反応などの触媒に用いられ、反応後、ピンセットでの取り出し、または濾過を行うだけで反応媒体から触媒の分離・回収ができるため、触媒反応を特別な装置、設備を必要とせずに行うことが可能となり、触媒を繰り返して再利用できる。
請求項4記載の化学反応生成物の製造方法は請求項3記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を触媒として鈴木クロスカップリング反応等のパラジウムの触媒活性を利用する合成反応等の化学反応を行うため、触媒反応を特別な装置、設備を必要とせずに行うことが可能となり、触媒を繰り返して再利用できるので効率的である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ピロールと塩化パラジウムとが反応してポリピロール−パラジウムナノコンポジットが生成される際の反応式を示す図である。
【図2】ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたPS Latex粒子の例を示す走査型電子顕微鏡写真である。左側は反応前のPS Latex粒子、右側はPPy−Pd nanocompositeで被覆されたPS Latex粒子である。
【図3】実施例1で用いた繊維の化学式を示す図である。
【図4】実施例1で用いた繊維のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆前のデジタルカメラ写真である。
【図5】実施例1で用いた繊維のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆前の光学顕微鏡写真である
【図6】実施例1で用いた繊維のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆前の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例1における被覆処理後の繊維のデジタルカメラ写真である
【図8】実施例1における被覆処理後の繊維の光学顕微鏡写真である。
【図9】実施例1における被覆処理後の繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例1における被覆処理後の繊維をジメチルスルホキシドで抽出し、繊維が抽出された後に残されたものの光学顕微鏡写真であり、左側の上と下が繊維としてスパンアセテートを使用した場合のものであり、右側の上と下が繊維としてアクリル繊維を使用した場合のものである。
【図11】上側の3つの写真は、実施例1において、繊維としてスパンアセテートを用いた場合に、被覆処理後の繊維をジメチルスルホキシドで抽出し、繊維が抽出された後に残されたものを倍率を変えて観察した透過型電子顕微鏡写真である。 下側の左端の写真は、上側の右端に示す写真の左上に点線囲みをした部分を、倍率を高めて観察した透過型電子顕微鏡写真である。 下側の左から3番目の写真は、上側の右端に示す写真の右下付近に点線囲みをした部分を、倍率を高めて観察した透過型電子顕微鏡写真である。 下側の左から2番目に示した粒子径分布のグラフは、下側の左端の写真中に写っている5nm〜13nmのPdナノ粒子の粒子径分布を表すものである。 下側の右端に示した粒子径分布のグラフは、下側の左から3番目の写真に写っている1.0nm〜2.5nmのPdナノ粒子の粒子径分布のグラフを表すものである。
【図12】実施例1において、繊維としてアクリル繊維を用いた場合に、被覆処理後の繊維をジメチルスルホキシドで抽出し、繊維が抽出された後に残されたものを倍率を変えて観察した透過型電子顕微鏡写真である。
【図13】実施例2における被覆処理後の繊維のデジタルカメラ写真である。
【図14】実施例3で用いた連結織布の写真であり、左側がポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆処理前、右側が被覆処理後の写真である。
【図15】実施例3で用いた繊維の化学式を示す図である。
【図16】実施例4で用いたTシャツの写真であり、左側がポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆処理前、右側が被覆処理後の写真である。
【図17】実施例5、6で用いたフィルター及び実施例7で用いたシリカガラス繊維製筒のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆前のデジタルカメラ写真である。
【図18】実施例5、6における被覆処理後のフィルター及び実施例7における被覆処理後のシリカガラス繊維製筒のデジタルカメラ写真である。
【図19】実施例5、6で用いたフィルター及び実施例7で用いたシリカガラス繊維製筒のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆前の走査型電子顕微鏡写真である。
【図20】実施例5、6における被覆処理後のフィルター及び実施例7における被覆処理後のシリカガラス繊維製筒の走査型電子顕微鏡写真である。
【図21】実施例8で用いたシリカガラス繊維製筒の写真であり、左側がポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆処理前、右側が被覆処理後の写真である。
【図22】鈴木カップリング反応の反応式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【0033】
以下の実施例中で、走査型電子顕微鏡写真を撮影しているが、その条件は以下の通りである。走査型電子顕微鏡としてKeyence VE−8800(12 kV)を用い、試料は金スパッタ−被覆された(Au sputter−coated)乾燥された試料である。
また、透過型電子顕微鏡写真を撮影しているが、その条件は以下の通りである。透過型電子顕微鏡として日本電子株式会社製Jeol JEM−2000EXを用いた。観察対象物をカーボンを蒸着した銅メッシュ上で自然乾燥させたものを試料とした。
【実施例1】
【0034】
被覆処理に使用する繊維として、図3にその化学式を示した、スパンアセテート(SPUN ACETATE)、木綿(COTTON)、6,6ナイロン(6,6NYLON)、スパンポリエステル繊維(SPUN POLYESTER FIBER)、アクリル繊維(ACRYLIC FIBER)、ウール(WOOL)の6種類を用いた。これらは、Testfabrics,Inc.(USA)から購入した。その繊維のデジタルカメラ写真を図4に、光学顕微鏡写真を図5に、走査型電子顕微鏡写真を図6に示した。
【0035】
本実施例においては、上記6種類の繊維の種類毎に被覆処理反応を行った。上記各繊維の被覆処理反応を以下のように行った。脱イオン水2.0gに繊維10mgを加え、これにピロール10mgを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム30.8mgと塩化ナトリウム30.5mgと脱イオン水1.0gからなる水溶液を添加し、25℃で4日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化ナトリウムは塩化パラジウムを水に溶解させるために使用されたものであり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応に用いた繊維の使用量は、6種類いずれの場合も同一である。反応終了後、脱イオン水で繊維を十分に洗浄し、次いで乾燥した。
【0036】
得られた繊維のデジタルカメラ写真を図7に、光学顕微鏡写真を図8に、走査型電子顕微鏡写真を図9に示した。被覆処理前の繊維の光学顕微鏡写真(図5)と被覆処理後の繊維の光学顕微鏡写真(図8)を比較すると、被覆処理後はいずれも黒くなっており、繊維がポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが期待できる。被覆処理前の繊維の走査型電子顕微鏡写真(図6)と被覆処理後の繊維の走査型電子顕微鏡写真(図9)を比較すると、被覆処理後はいずれも繊維表面に点状のものが存在しており、繊維がポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが期待できる。
【0037】
次に、繊維としてスパンアセテートとアクリル繊維を用いて被覆処理反応を行ったものについて、得られた繊維をジメチルスルホキシド(DMSO)で抽出した。ジメチルスルホキシド繊維が抽出された後に残されたものの光学顕微鏡写真を、図10に示した。繊維が溶かしだされたのちポリピロール−パラジウムナノコンポジットチューブが観察された。この結果から繊維がポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって被覆されたことが確認できる。
【0038】
また、繊維としてスパンアセテートを用いて被覆処理反応を行ったものについて、ジメチルスルホキシドで繊維を抽出した後に残されたものの透過型電子顕微鏡写真を図11に示した。図11の上側の3枚の写真は倍率を変えて観察したものである。このうち、右端の写真には、50nm〜200nm程度のコントラストの強い黒色部分(例えば、この写真の左上に点線で囲んだ部分)と全体に拡がった被覆部(例えば、この写真の右下付近に点線で囲んだ部分)が存在することが分かる。上記の黒色部分を倍率を上げて観察したものが、図11の下方の左端の写真である。この写真で見ると、黒色部分は、Pdナノ粒子の凝集体から形成されることが理解できる。このPdナノ粒子の粒子径分布を測定し、図11の下方の左から2つ目に示した。透過型電子顕微鏡写真から求めた数平均粒子径は7.9nmであった。このPdナノ粒子は、反応で生成したパラジウムと考えられる。
【0039】
一方、下側の左から3番目の写真は、上側の右端に示す写真の右下付近に点線囲みをした部分を、倍率を高めて観察した透過型電子顕微鏡写真である。粒子径1〜2nmのPdナノ粒子が均一に分散している様子が観察される。この写真に写っている部分の粒子径分布を測定し、図11の下側の右端に示した。透過型電子顕微鏡写真から求めた数平均粒子径は1.7nmであった。これらの粒子も反応で生成したパラジウムと考えられる。
【0040】
また、被覆処理されたアクリル繊維の場合について、ジメチルスルホキシドで抽出後に、繊維が抽出された後に残されたものの透過型電子顕微鏡写真を図12に示した。この写真においても、図11のスパンアセテートの場合と同様、Pdナノ粒子は2nm程度と8nm程度のバイモーダルな粒子径分布をもつことが明らかとなった。
【実施例2】
【0041】
スパンアセテートについて、反応に使用する繊維量を増加させて被覆繊維を作製した。実施例1における繊維使用量である10mg、すなわち0.01gを、0.05g、0.1g、0.2g、0.5gに変化させたことの他には、実施例1と全く同様に反応させた。反応終了後、脱イオン水で繊維を十分に洗浄し、次いで乾燥した。得られた被覆繊維のデジタルカメラ写真を図13に示した。図13において、0.01g、0.05g、0.1g、0.2g、0.5gとあるのは繊維使用量を示し、100%、20%、10%、5%、2%とあるのは使用された繊維100重量部に対して使用されたピロールの重量を重量%として表示したものである。すべての系で被覆後、黒色に着色していることから、繊維がポリピロール−パラジウムナノコンポジットでコーティングされていることが期待できる。
【実施例3】
【0042】
被覆処理に使用する繊維は図14の左側の図に示したものであり、Testfabrics,Inc.(USA)から購入された、AATCC Multifiber Adjacent Fabric(Style#1,Lot#800,Piece#1886−26)という連結織布である。この連結織布は、一定の縦糸に対して、上から順に、スパンジアセテート(Spun Diasetate)、木綿(Bleached COTTON)、ポリアミド(Spun Polyamide)、絹(Spun Silk)、ビスコース(Spun Viscose)、ウール(Worsted WOOL)が横糸として編みこまれたものである。これらの繊維の化学式を図15に示した。
【0043】
脱イオン水17.94gに上記の連結織布1.7940g(6cm×11.5cm)を加え、これにピロール0.0897gを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム0.2766gと塩化ナトリウム0.2735gと脱イオン水8.97gからなる水溶液を添加し、25℃で4日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水で連結織布を十分に洗浄し、次いで乾燥した。得られた連結織布の写真を図14の右側に示した。繊維が黒く着色されており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【実施例4】
【0044】
被覆処理に使用したものは織物であり、図16の左側に示す幼児用のTシャツ(コットン製)である。脱イオン水300gに上記のTシャツ55.944gを加え、これにピロール0.559gを添加し、24時間無攪拌で静置した。この系に、塩化パラジウム1.725gと塩化ナトリウム1.706gと脱イオン水50gからなる水溶液を添加し、25℃で7日間、無攪拌で静置した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水でTシャツを十分に洗浄し、次いで乾燥した。得られたTシャツの写真を図16の右側に示した。繊維が黒く着色されており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【実施例5】
【0045】
被覆処理に使用した材料は、図17の上にGlass Microfibre Filters(商品名)としてデジタルカメラ写真を示したガラス繊維製フィルター(Whatman社製。Cat No.1820021。孔径 1.6μm。Circles 21mm)である。脱イオン水3.82gに上記のフィルター19.1mgを加え、これにピロール19.1mgを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム58.9mgと塩化ナトリウム58.2mgと脱イオン水1.91gからなる水溶液を添加し、25℃で4日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水で上記フィルターを十分に洗浄し、次いで乾燥した。
得られた上記フィルターのデジタルカメラ写真を図18の上に、Glass Microfibre Filtersとして示した。なお、図18の上の写真において、写真中央部の球状に見えるものから上方に伸びている糸状のものは、このフィルターを反応時に反応容器内に吊り下げた際に使用したものであり、発明に関連するものではない。なお、この糸状のものは、図18の全ての写真において同様である。図18を見ると、フィルターが黒く着色しており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【0046】
また、上記フィルターの使用前の走査型電子顕微鏡写真を図19の左端の上と下にGlass Microfibre Filtersとして示し、被覆処理後の走査型電子顕微鏡写真を図20の左端の上と下にGlass Microfibre Filtersとして示した。この写真で見ると、フィルターに約100nm〜200nmの大きさの点状に被覆されたものと、連続して被覆されたものが存在する。これらは、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットであると推定される。
【実施例6】
【0047】
被覆処理に使用した材料は、図17の左下にQuartz Fiber Filter(商品名)としてデジタルカメラ写真を示した石英繊維製フィルター(ADVANTEC社製。Grade QR−100。Lot No. 91210714。Circles 21 mm)である。脱イオン水6.28gに上記のフィルター31.4mgを加え、これにピロール31.4mgを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム96.8mgと塩化ナトリウム95.7mgと脱イオン水3.14gからなる水溶液を添加し、25℃で4日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水で上記フィルターを十分に洗浄し、次いで乾燥した。
得られた上記フィルターのデジタルカメラ写真を図18の左下に、Quartz Fiber Filterとして示した。フィルターが黒く着色しており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【0048】
また、上記フィルターの使用前の走査型電子顕微鏡写真を図19の中央の上と下にQuartz Fiber Filterとして示し、被覆処理後の走査型電子顕微鏡写真を図20の中央の上と下にQuartz Fiber Filterとして示した。この写真で見ると、フィルターに約100nm〜200nmの大きさの点状に被覆されたものと、連続して被覆されたものが存在する。これらは、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットであると推定される。
【実施例7】
【0049】
被覆処理に使用した材料は、図17の右下にSilica Glass Microfibre Thimbles(商品名)としてデジタルカメラ写真を示したシリカガラス繊維製筒(Whatman社製。For stack Gas Sampling。10 Thimbles(tapered)。Cat No.2812259。外部直径25mm×長さ90mm)である。脱イオン水13.8gに上記のシリカガラス繊維製筒69.0mgを加え、これにピロール69.0mgを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム212.7mgと塩化ナトリウム210.4mgと脱イオン水6.9gからなる水溶液を添加し、25℃で4日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水で上記シリカガラス繊維製筒を十分に洗浄し、次いで乾燥した。
得られた上記シリカガラス繊維製筒のデジタルカメラ写真を図18の右下にSilica Glass Microfibre Thimblesとして示した。シリカガラス繊維製筒が黒く着色しており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【0050】
また、上記シリカガラス繊維製筒の使用前の走査型電子顕微鏡写真を図19の右端の上と下にSilica Glass Microfibre Thimblesとして示し、被覆処理後の走査型電子顕微鏡写真を図20の右端の上と下にSilica Glass Microfibre Thimblesとして示した。この写真で見ると、シリカガラス繊維製筒に約100nm〜200nmの大きさの点状に被覆されたものと、連続して被覆されたものが存在する。これらは、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットであると推定される。
【実施例8】
【0051】
被覆処理に使用した材料は、図17の右下にデジタルカメラ写真を示したシリカガラス繊維製筒である。脱イオン水170gに上記のシリカガラス繊維製筒1.7260gを加え、これにピロール0.1726gを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム0.5323gと塩化ナトリウム0.5262gと脱イオン水20gからなる水溶液を添加し、25℃で7日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水で上記シリカガラス繊維製筒を十分に洗浄し、次いで乾燥した。得られた上記シリカガラス繊維製筒のデジタルカメラ写真を図21の右側に示した。シリカガラス繊維製筒が黒く着色しており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【0052】
(鈴木クロスカップリング反応による触媒性能評価)
実施例1と同様にして被覆処理して得られた繊維材料を用いて、図22に示す鈴木クロスカップリング反応を行った。
1)ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆6,6ナイロン繊維触媒
スクリュー管 (1 mL)に、実施例1と同様にして得られた、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆6,6ナイロン(6,6NYLON)(0.0665 g,Pd:1.00mol%)、ブロモベンゼン(0.785 g,0.50mmol)、 4−メチルフェニルボロン酸(0.1020 g, 0.75 mmol)、1.5 mol?L−1 K2CO3水溶液 (1.0 mL)をいれた。 回転子を入れて80 ℃のオイルバスで20時間攪拌した。反応終了後、反応容器にジエチルエーテルを追加して撹拌を行い、生成物である4−メチルビフェニルをエーテル相に抽出した後、スクリュー管(50mL)に移した。このジエチルエーテルを使用した生成物の抽出操作を5回繰り返した。その後、水層もエーテル層の抽出液が入ったスクリュー管 (50mL)に移した。混合溶液の入ったスクリュー管(50mL)に、精製水を容器の半分の位置(約25mL)まで注ぎ、ジエチルエーテルを容器の4分の3まで(約10mL)注ぎ、計8回抽出を行った。エーテル層を硫酸マグネシウムで脱水した後、エバポレーターで濃縮し、生成物を得た。生成物の同定、収率は1H−NMRおよび重量法により行った。この結果、4−メチルビフェニルの収率は62%であった。
【0053】
上記反応に用いたポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆6,6ナイロン繊維触媒を、精製水とジエチルエーテルを用いて1回ずつ洗浄した後、乾燥した。
得られたポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆6,6ナイロン繊維触媒を用いて、上記と同様にして反応、精製及び生成物の同定を行った。この結果、4−メチルビフェニルの収率は53%であった。
【0054】
2)ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆ポリエステル繊維触媒
スクリュー管 (1 mL)に、実施例1と同様にして被覆処理して得られた、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆ポリエステル繊維(SPUN POLYESTER FIBER)(0.0112 g,Pd:1.00mol%)、ブロモベンゼン(0.785 g,0.50mmol)、 4−メチルフェニルボロン酸(0.1020 g, 0.75 mmol)、1.5 mol?L−1 K2CO3水溶液 (1.0 mL)をいれた。 回転子を入れて80 ℃のオイルバスで20時間攪拌した。反応終了後、反応容器にジエチルエーテルを追加して撹拌を行い、生成物である4−メチルビフェニルをエーテル相に抽出した後、スクリュー管(50mL)に移した。このジエチルエーテルを使用した生成物の抽出操作を5回繰り返した。その後、水層もエーテル層の抽出液が入ったスクリュー管 (50mL)に移した。混合溶液の入ったスクリュー管(50mL)に、精製水を容器の半分の位置(約25mL)まで注ぎ、ジエチルエーテルを容器の4分の3まで(約10mL)注ぎ、計8回抽出を行った。エーテル層を硫酸マグネシウムで脱水した後、エバポレーターで濃縮し、生成物を得た。生成物の同定、収率は1H−NMRおよび重量法により行った。この結果、4−メチルビフェニルの収率は73%であった。
【0055】
上記反応に用いたポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆ポリエステル繊維触媒を、精製水とジエチルエーテルを用いて1回ずつ洗浄した後、乾燥した。
得られたポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆ポリエステル繊維触媒を用いて、上記と同様にして反応、精製及び生成物の同定を行った。この結果、4−メチルビフェニルの収率は30%であった。
【0056】
(被覆処理フィルター又は被覆処理シリカガラス繊維製筒中のポリピロール−パラジウムナノコンポジット含有率の測定)
実施例5〜7におけるフィルター又はシリカガラス繊維製筒について、被覆処理前と被覆処理後のフィルター又はシリカガラス繊維製筒の炭素、水素、窒素の含有量をCHN元素分析法で測定した。その結果を表1に示した。
【0057】
【表1】
【0058】
被覆処理ガラス繊維製フィルター又は被覆処理石英繊維製フィルター又は被覆処理シリカガラス繊維製筒の窒素の含有量と、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット粉末の窒素の含有量との比較により、被覆処理ガラス繊維製フィルター又は被覆処理石英繊維製フィルター又は被覆処理シリカガラス繊維製筒中のポリピロール−パラジウムナノコンポジット含有率を算定し、表1中に記載した。被覆処理フィルター又は被覆処理シリカガラス繊維製筒中のポリピロール−パラジウムナノコンポジット含有率は、11.4〜13.5重量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法は、鈴木カップリング反応などの触媒として用いられ、反応後、反応媒体から触媒を容易に分離・回収・再利用できるポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を容易に得るために利用することができる。
本発明のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維は、鈴木カップリング反応などの触媒に用いられ、反応後、反応槽からポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維をピンセット等で取り出し、または濾過を行うだけで反応媒体から触媒の分離・回収ができるため、触媒反応を特別な装置、設備を必要とせずに行うことが可能となり、触媒を繰り返して再利用できるので、本発明のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を用いると、製薬、液晶材料等の分野における新規合成の研究開発が飛躍的に加速すると考えられる。
本発明の化学反応生成物の製造方法は、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を触媒として用いるため、触媒反応を特別な装置、設備を必要とせずに行うことが可能となり、触媒を繰り返して再利用できるので鈴木クロスカップリング反応などの化学反応生成物の製造に有効に利用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆された繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウムや白金のような貴金属からなる貴金属ナノ粒子は、鈴木クロスカップリング反応、Heck反応、園頭カップリング反応、アルコール酸化反応などの触媒として広範に利用され、我が国の重要産業分野である製薬、液晶分子合成分野で必要不可欠な材料である。従来の金属ナノ粒子触媒は、媒体中に均一に分散した状態で触媒反応に使用されるため、反応終了後、媒体から回収することは非常に困難であり、通常、高価な触媒であるにもかかわらず殆ど再利用されていない。
【0003】
この問題を解決する手段として、特許文献1には、塩化白金酸のような貴金属錯体を重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行うと共に、貴金属錯体の還元により生成した白金のような貴金属系触媒を導電性高分子であるポリピロールに1段階の工程で担持させる、貴金属系触媒担持導電性高分子複合体の製造方法が提案されている。この方法は具体的には、塩化白金酸水溶液にピロールモノマーを加えて室温で24時間反応させる方法である。得られた生成物は、ポリピロールという導電性高分子のマトリックス(母材)内に数ナノオーダーの粒子径を有する貴金属系触媒である白金ナノ粒子が均一に分散した複合体(ナノコンポジット)である。そして、導電性高分子であるポリピロールの一次粒子径は10nmから1000nm、好ましくは50nmから500nmであり、一方その中に分散している白金ナノ粒子の大きさは0.1nmから50nm、好ましくは1nmから10nmである、と記載されている。
【0004】
特許文献1によると、この方法は、白金ナノ粒子の保護ポリマーにナノ粒子の安定化の役割だけでなく、電子伝導媒体としての機能性を付与させることができるという利点があるとされ、また、そのような構造を有するために、触媒微粒子の凝集のために触媒活性が低下する、という従来技術の欠点を回避することができる、ともされている。しかしながら、特許文献1にはこのナノコンポジットを触媒に用いた反応例及び触媒の再利用に関する実施例はない。
【0005】
非特許文献1には、塩化パラジウムを重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行うと共に、塩化パラジウムの還元により生成したパラジウムを導電性高分子であるポリピロールに1段階の工程で担持させる、パラジウム触媒担持導電性高分子複合体であるポリピロール−パラジウムナノコンポジットの製造方法が提案されている。この方法は具体的には、ピロール水溶液に、塩化パラジウムと塩化ナトリウムとからなる水溶液を添加し、25℃で7日間反応させる方法である。なお、塩化ナトリウムは塩化パラジウムを水に溶解させるために使用される。得られた生成物は、ポリピロールという導電性高分子のマトリックス(母材)内に数ナノオーダーの粒子径を有する貴金属系触媒であるパラジウムナノ粒子が均一に分散した複合体(ナノコンポジット)である。
この反応の反応式は図1の通りである。
【0006】
非特許文献1には、更に、ポリスチレンラテックス粒子をポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆する方法が提案されている。この方法を具体的に示すと以下の通りである。ポリスチレンラテックスの水分散液にピロールを添加しておき、この系に、塩化パラジウムと塩化ナトリウムからなる水溶液を添加し、25℃で7日間反応させる。この場合も、塩化パラジウムを重合酸化剤としてピロールの重合反応が起こり、塩化パラジウムの還元により生成したパラジウムがポリピロールに担持され、得られたポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって、ポリスチレンラテックス粒子が被覆される。また、ポリスチレンラテックス粒子に替えて、架橋されたポリスチレン粒子を使用することにより、同様にしてポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆された架橋ポリスチレン粒子が得られることも記載されている。実施例で使用されたポリスチレンラテックス粒子の粒径は1.5μm程度、架橋されたポリスチレン粒子の粒径は5.2μmである。
【0007】
上記反応によりポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたポリスチレンラテックス粒子の例を図2に示す。図2の左側は反応前のポリスチレンラテックス(PS Latex)粒子、図2の右側はポリピロール−パラジウムナノコンポジット(PPy−Pd nanocomposite。以後、本明細書では、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットを略してPPy−Pd nanocompositeという時がある)で被覆されたPS Latex粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【0008】
非特許文献1には、上記の反応によって得られたポリピロール−パラジウムナノコンポジットが被覆された架橋ポリスチレン粒子を触媒として、鈴木カップリング反応が良好に進むことが示されている。具体的には、パラ−ブロモアセトフェノン(p−bromoacetophenone)とパラ−メチルフェニルボロン酸(p−methylphenylboronic acid)との反応を行わせ、4−アセチル−4'−メチルビフェニル(4−acetyl−4'methylbiphenyl)が92%の収率で得られたと記載されている。
【0009】
非特許文献1には、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆ポリスチレン粒子触媒の利点として、触媒粒子の高分散などと共に、触媒の分離が容易であることが挙げられている。即ち、遠心分離で粒子が沈降するので分離可能とされている。しかしながら、反応液から遠心分離等を用いて粒子を回収することなく、容易に回収が可能な、あるいは同一反応槽で続けて反復反応が簡便かつ迅速にできるポリピロール−パラジウムナノコンポジット触媒を担持した触媒担持材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−359724号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S. Fujii, S. Matsuzawa, Y. Nakamura, A. Ohtaka, T. Teratani, K. Akamatsu, T. Tsuruoka, H. Nawafune, Langmuir, 26, 6230−6239(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、分離が簡便かつ迅速な分離回収が可能なポリピロール−パラジウムナノコンポジット触媒担持材料及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明は、繊維の存在下で、パラジウム錯体を重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行い、該パラジウム錯体の還元により生成したパラジウムを該重合で生成されたポリピロールに1段階の工程で担持させてポリピロール−パラジウムナノコンポジットを生成させると共に、該ポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって該繊維を被覆させることを特徴とする、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法である。
【0014】
請求項2記載の発明は、前記の重合反応において、該反応を水媒体中で行うことを特徴とする、請求項1記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法である。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の製造方法により製造された、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維である。
請求項4記載の化学反応生成物の製造方法は請求項3記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を触媒として化学反応を行うことを特徴とする化学反応生成物の製造方法である。
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法は、繊維の存在下で、パラジウム錯体を重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行い、該パラジウム錯体の還元により生成したパラジウムを該重合で生成されたポリピロールに1段階の工程で担持させてポリピロール−パラジウムナノコンポジットを生成させると共に、該ポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって該繊維を被覆させることを特徴とする。
【0016】
本発明で用いられる繊維は、有機繊維でも無機繊維でもよい。有機繊維としては、特に、限定されず、例えば、アセテート繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維などの合成繊維、ウール、絹、木綿などの天然繊維が挙げられる。無機繊維としても、特に限定されず、例えば、ガラス繊維、シリカガラス繊維、石英繊維などが挙げられる。
【0017】
本発明で用いられる繊維の形状は、特に限定されず、モノフィラメントでも良いし、それが撚られた糸や、更に不織布でも織物でもよい。また、繊維が加工品とされていてもよく、例えば、フィルターのような多孔質体や衣類であるシャツでも良い。
【0018】
本発明の製造方法において、繊維に対するピロールの使用量は、繊維の形状や得られたポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の使用目的によって変わり得るが、通常、繊維100重量部に対して、ピロール0.5〜150重量部、好ましくは0.8〜125重量部、更に好ましくは、1〜100重量部である。ピロールの使用量が大きくなると繊維表面に沈着しないポリピロール−パラジウムナノコンポジット生成量が増加し、小さくなり過ぎると繊維表面が部分的にポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆された繊維が得られる。
【0019】
本発明の製造方法においては、ピロールとパラジウム錯体とからポリピロール−パラジウムナノコンポジットを生成させる。その反応式は前述の図1の通りである。図1は、パラジウム錯体として塩化パラジウムを使用した場合のものである。この反応式において、ピロールからポリピロールへの酸化とパラジウムの還元(Pd2+からPd(0))は同時に起こり、パラジウムナノ粒子がポリピロールマトリックス中に分散したナノコンポジットが生成する。
【0020】
繊維を含むピロール水溶液に、塩化パラジウムと塩化ナトリウムとの水溶液が添加されると、無色透明であった溶液が10分以内に黒色に変わる。ポリピロールはその電子状態から全波長域の可視光を吸収するため黒色を呈する。したがって、これは、重合が進行しポリピロールが生成されたことを示唆する。同時にポリピロール−パラジウムナノコンポジットの生成も示唆する。反応は24時間程度でほぼ終了すると思われるが、後述の実施例では十分に反応を進行させるため、反応時間を3〜7日間とした。
【0021】
反応後、生成したポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を脱イオン水で洗浄する。この洗浄作業を数回繰り返し行った後、室温にて乾燥する。
【0022】
上記反応は、還元反応を伴うピロールの重合において、酸化剤に塩化パラジウムなどのパラジウム錯体を用いることにより、パラジウム触媒を担持した導電性高分子複合体を一段階で製造するものである。この方法によれば、導電性高分子であるポリピロールを合成するにあたり、塩化パラジウムを重合開始剤(酸化剤)として用いると、ポリピロール中に平均粒子径が約1.0〜3nmのパラジウム粒子を均一分散状態にて担持することが可能である。このような構造を有するために、触媒微粒子の凝集のために触媒活性が低下するという従来技術の欠点を回避できる。また、この方法は、パラジウムナノ粒子の保護ポリマーにナノ粒子の安定化の役割だけでなく、電子伝導媒体としての機能性を付与させることができるという利点がある。
【0023】
本発明において使用することができるパラジウム錯体の例としては、塩化パラジウム(PdCl2, H2PdCl4)、テトラアンミンパラジウム塩化物(Pd(NH3)4Cl2)などが挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法において、導電性高分子であるポリピロールの一次粒子径は10nmから1000nm、好ましくは50nmから500nmである。一方その中に分散しているパラジウムナノ粒子の大きさは0.1nmから50nm、好ましくは1nmから10nmである。しかし、導電性高分子の一次粒子径とパラジウムナノ粒子の大きさは、この範囲に限定されるものではない。
【0025】
なお、本発明の製造方法において、ピロールモノマーとパラジウムイオンとの化学量論的な混合比(モル比)は、ピロールモノマー:パラジウムイオン=6:7であるが、それ以外の混合比でもポリピロールの合成が認められた。
【0026】
本発明の製造方法において、請求項2に記載の発明のように、前記の重合反応において、該反応を水媒体中で行うのが好ましい。水媒体中で反応させる場合、パラジウム錯体としてPdCl2を使用する場合はNaClのような溶解補助剤が必要となる。塩化ナトリウムの使用量は、PdCl2:NaCl=1:2〜3(モル比)が好ましい。
パラジウム錯体としてH2PdCl4又は、Pd(NH3)4Cl2を使用する場合は溶解補助剤は必要ない。
【0027】
本発明のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維は、本発明の製造方法により製造された、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維である。
【発明の効果】
【0028】
請求項1記載の発明によれば、鈴木カップリング反応などの触媒に用いられ、反応後、ピンセットでの取り出し、または濾過を行うだけで反応媒体から触媒の分離・回収ができるため、触媒反応を特別な装置、設備を必要とせずに行うことが可能となり、触媒を繰り返して再利用できるポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を容易に得ることができる。
【0029】
請求項2記載の発明は、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を得る反応を水媒体中で行う有機溶剤フリーの環境に悪影響を与えない安価な製造方法である。
【0030】
請求項3記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維は、鈴木カップリング反応などの触媒に用いられ、反応後、ピンセットでの取り出し、または濾過を行うだけで反応媒体から触媒の分離・回収ができるため、触媒反応を特別な装置、設備を必要とせずに行うことが可能となり、触媒を繰り返して再利用できる。
請求項4記載の化学反応生成物の製造方法は請求項3記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を触媒として鈴木クロスカップリング反応等のパラジウムの触媒活性を利用する合成反応等の化学反応を行うため、触媒反応を特別な装置、設備を必要とせずに行うことが可能となり、触媒を繰り返して再利用できるので効率的である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ピロールと塩化パラジウムとが反応してポリピロール−パラジウムナノコンポジットが生成される際の反応式を示す図である。
【図2】ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたPS Latex粒子の例を示す走査型電子顕微鏡写真である。左側は反応前のPS Latex粒子、右側はPPy−Pd nanocompositeで被覆されたPS Latex粒子である。
【図3】実施例1で用いた繊維の化学式を示す図である。
【図4】実施例1で用いた繊維のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆前のデジタルカメラ写真である。
【図5】実施例1で用いた繊維のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆前の光学顕微鏡写真である
【図6】実施例1で用いた繊維のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆前の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例1における被覆処理後の繊維のデジタルカメラ写真である
【図8】実施例1における被覆処理後の繊維の光学顕微鏡写真である。
【図9】実施例1における被覆処理後の繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例1における被覆処理後の繊維をジメチルスルホキシドで抽出し、繊維が抽出された後に残されたものの光学顕微鏡写真であり、左側の上と下が繊維としてスパンアセテートを使用した場合のものであり、右側の上と下が繊維としてアクリル繊維を使用した場合のものである。
【図11】上側の3つの写真は、実施例1において、繊維としてスパンアセテートを用いた場合に、被覆処理後の繊維をジメチルスルホキシドで抽出し、繊維が抽出された後に残されたものを倍率を変えて観察した透過型電子顕微鏡写真である。 下側の左端の写真は、上側の右端に示す写真の左上に点線囲みをした部分を、倍率を高めて観察した透過型電子顕微鏡写真である。 下側の左から3番目の写真は、上側の右端に示す写真の右下付近に点線囲みをした部分を、倍率を高めて観察した透過型電子顕微鏡写真である。 下側の左から2番目に示した粒子径分布のグラフは、下側の左端の写真中に写っている5nm〜13nmのPdナノ粒子の粒子径分布を表すものである。 下側の右端に示した粒子径分布のグラフは、下側の左から3番目の写真に写っている1.0nm〜2.5nmのPdナノ粒子の粒子径分布のグラフを表すものである。
【図12】実施例1において、繊維としてアクリル繊維を用いた場合に、被覆処理後の繊維をジメチルスルホキシドで抽出し、繊維が抽出された後に残されたものを倍率を変えて観察した透過型電子顕微鏡写真である。
【図13】実施例2における被覆処理後の繊維のデジタルカメラ写真である。
【図14】実施例3で用いた連結織布の写真であり、左側がポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆処理前、右側が被覆処理後の写真である。
【図15】実施例3で用いた繊維の化学式を示す図である。
【図16】実施例4で用いたTシャツの写真であり、左側がポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆処理前、右側が被覆処理後の写真である。
【図17】実施例5、6で用いたフィルター及び実施例7で用いたシリカガラス繊維製筒のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆前のデジタルカメラ写真である。
【図18】実施例5、6における被覆処理後のフィルター及び実施例7における被覆処理後のシリカガラス繊維製筒のデジタルカメラ写真である。
【図19】実施例5、6で用いたフィルター及び実施例7で用いたシリカガラス繊維製筒のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆前の走査型電子顕微鏡写真である。
【図20】実施例5、6における被覆処理後のフィルター及び実施例7における被覆処理後のシリカガラス繊維製筒の走査型電子顕微鏡写真である。
【図21】実施例8で用いたシリカガラス繊維製筒の写真であり、左側がポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆処理前、右側が被覆処理後の写真である。
【図22】鈴木カップリング反応の反応式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【0033】
以下の実施例中で、走査型電子顕微鏡写真を撮影しているが、その条件は以下の通りである。走査型電子顕微鏡としてKeyence VE−8800(12 kV)を用い、試料は金スパッタ−被覆された(Au sputter−coated)乾燥された試料である。
また、透過型電子顕微鏡写真を撮影しているが、その条件は以下の通りである。透過型電子顕微鏡として日本電子株式会社製Jeol JEM−2000EXを用いた。観察対象物をカーボンを蒸着した銅メッシュ上で自然乾燥させたものを試料とした。
【実施例1】
【0034】
被覆処理に使用する繊維として、図3にその化学式を示した、スパンアセテート(SPUN ACETATE)、木綿(COTTON)、6,6ナイロン(6,6NYLON)、スパンポリエステル繊維(SPUN POLYESTER FIBER)、アクリル繊維(ACRYLIC FIBER)、ウール(WOOL)の6種類を用いた。これらは、Testfabrics,Inc.(USA)から購入した。その繊維のデジタルカメラ写真を図4に、光学顕微鏡写真を図5に、走査型電子顕微鏡写真を図6に示した。
【0035】
本実施例においては、上記6種類の繊維の種類毎に被覆処理反応を行った。上記各繊維の被覆処理反応を以下のように行った。脱イオン水2.0gに繊維10mgを加え、これにピロール10mgを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム30.8mgと塩化ナトリウム30.5mgと脱イオン水1.0gからなる水溶液を添加し、25℃で4日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化ナトリウムは塩化パラジウムを水に溶解させるために使用されたものであり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応に用いた繊維の使用量は、6種類いずれの場合も同一である。反応終了後、脱イオン水で繊維を十分に洗浄し、次いで乾燥した。
【0036】
得られた繊維のデジタルカメラ写真を図7に、光学顕微鏡写真を図8に、走査型電子顕微鏡写真を図9に示した。被覆処理前の繊維の光学顕微鏡写真(図5)と被覆処理後の繊維の光学顕微鏡写真(図8)を比較すると、被覆処理後はいずれも黒くなっており、繊維がポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが期待できる。被覆処理前の繊維の走査型電子顕微鏡写真(図6)と被覆処理後の繊維の走査型電子顕微鏡写真(図9)を比較すると、被覆処理後はいずれも繊維表面に点状のものが存在しており、繊維がポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが期待できる。
【0037】
次に、繊維としてスパンアセテートとアクリル繊維を用いて被覆処理反応を行ったものについて、得られた繊維をジメチルスルホキシド(DMSO)で抽出した。ジメチルスルホキシド繊維が抽出された後に残されたものの光学顕微鏡写真を、図10に示した。繊維が溶かしだされたのちポリピロール−パラジウムナノコンポジットチューブが観察された。この結果から繊維がポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって被覆されたことが確認できる。
【0038】
また、繊維としてスパンアセテートを用いて被覆処理反応を行ったものについて、ジメチルスルホキシドで繊維を抽出した後に残されたものの透過型電子顕微鏡写真を図11に示した。図11の上側の3枚の写真は倍率を変えて観察したものである。このうち、右端の写真には、50nm〜200nm程度のコントラストの強い黒色部分(例えば、この写真の左上に点線で囲んだ部分)と全体に拡がった被覆部(例えば、この写真の右下付近に点線で囲んだ部分)が存在することが分かる。上記の黒色部分を倍率を上げて観察したものが、図11の下方の左端の写真である。この写真で見ると、黒色部分は、Pdナノ粒子の凝集体から形成されることが理解できる。このPdナノ粒子の粒子径分布を測定し、図11の下方の左から2つ目に示した。透過型電子顕微鏡写真から求めた数平均粒子径は7.9nmであった。このPdナノ粒子は、反応で生成したパラジウムと考えられる。
【0039】
一方、下側の左から3番目の写真は、上側の右端に示す写真の右下付近に点線囲みをした部分を、倍率を高めて観察した透過型電子顕微鏡写真である。粒子径1〜2nmのPdナノ粒子が均一に分散している様子が観察される。この写真に写っている部分の粒子径分布を測定し、図11の下側の右端に示した。透過型電子顕微鏡写真から求めた数平均粒子径は1.7nmであった。これらの粒子も反応で生成したパラジウムと考えられる。
【0040】
また、被覆処理されたアクリル繊維の場合について、ジメチルスルホキシドで抽出後に、繊維が抽出された後に残されたものの透過型電子顕微鏡写真を図12に示した。この写真においても、図11のスパンアセテートの場合と同様、Pdナノ粒子は2nm程度と8nm程度のバイモーダルな粒子径分布をもつことが明らかとなった。
【実施例2】
【0041】
スパンアセテートについて、反応に使用する繊維量を増加させて被覆繊維を作製した。実施例1における繊維使用量である10mg、すなわち0.01gを、0.05g、0.1g、0.2g、0.5gに変化させたことの他には、実施例1と全く同様に反応させた。反応終了後、脱イオン水で繊維を十分に洗浄し、次いで乾燥した。得られた被覆繊維のデジタルカメラ写真を図13に示した。図13において、0.01g、0.05g、0.1g、0.2g、0.5gとあるのは繊維使用量を示し、100%、20%、10%、5%、2%とあるのは使用された繊維100重量部に対して使用されたピロールの重量を重量%として表示したものである。すべての系で被覆後、黒色に着色していることから、繊維がポリピロール−パラジウムナノコンポジットでコーティングされていることが期待できる。
【実施例3】
【0042】
被覆処理に使用する繊維は図14の左側の図に示したものであり、Testfabrics,Inc.(USA)から購入された、AATCC Multifiber Adjacent Fabric(Style#1,Lot#800,Piece#1886−26)という連結織布である。この連結織布は、一定の縦糸に対して、上から順に、スパンジアセテート(Spun Diasetate)、木綿(Bleached COTTON)、ポリアミド(Spun Polyamide)、絹(Spun Silk)、ビスコース(Spun Viscose)、ウール(Worsted WOOL)が横糸として編みこまれたものである。これらの繊維の化学式を図15に示した。
【0043】
脱イオン水17.94gに上記の連結織布1.7940g(6cm×11.5cm)を加え、これにピロール0.0897gを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム0.2766gと塩化ナトリウム0.2735gと脱イオン水8.97gからなる水溶液を添加し、25℃で4日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水で連結織布を十分に洗浄し、次いで乾燥した。得られた連結織布の写真を図14の右側に示した。繊維が黒く着色されており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【実施例4】
【0044】
被覆処理に使用したものは織物であり、図16の左側に示す幼児用のTシャツ(コットン製)である。脱イオン水300gに上記のTシャツ55.944gを加え、これにピロール0.559gを添加し、24時間無攪拌で静置した。この系に、塩化パラジウム1.725gと塩化ナトリウム1.706gと脱イオン水50gからなる水溶液を添加し、25℃で7日間、無攪拌で静置した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水でTシャツを十分に洗浄し、次いで乾燥した。得られたTシャツの写真を図16の右側に示した。繊維が黒く着色されており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【実施例5】
【0045】
被覆処理に使用した材料は、図17の上にGlass Microfibre Filters(商品名)としてデジタルカメラ写真を示したガラス繊維製フィルター(Whatman社製。Cat No.1820021。孔径 1.6μm。Circles 21mm)である。脱イオン水3.82gに上記のフィルター19.1mgを加え、これにピロール19.1mgを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム58.9mgと塩化ナトリウム58.2mgと脱イオン水1.91gからなる水溶液を添加し、25℃で4日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水で上記フィルターを十分に洗浄し、次いで乾燥した。
得られた上記フィルターのデジタルカメラ写真を図18の上に、Glass Microfibre Filtersとして示した。なお、図18の上の写真において、写真中央部の球状に見えるものから上方に伸びている糸状のものは、このフィルターを反応時に反応容器内に吊り下げた際に使用したものであり、発明に関連するものではない。なお、この糸状のものは、図18の全ての写真において同様である。図18を見ると、フィルターが黒く着色しており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【0046】
また、上記フィルターの使用前の走査型電子顕微鏡写真を図19の左端の上と下にGlass Microfibre Filtersとして示し、被覆処理後の走査型電子顕微鏡写真を図20の左端の上と下にGlass Microfibre Filtersとして示した。この写真で見ると、フィルターに約100nm〜200nmの大きさの点状に被覆されたものと、連続して被覆されたものが存在する。これらは、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットであると推定される。
【実施例6】
【0047】
被覆処理に使用した材料は、図17の左下にQuartz Fiber Filter(商品名)としてデジタルカメラ写真を示した石英繊維製フィルター(ADVANTEC社製。Grade QR−100。Lot No. 91210714。Circles 21 mm)である。脱イオン水6.28gに上記のフィルター31.4mgを加え、これにピロール31.4mgを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム96.8mgと塩化ナトリウム95.7mgと脱イオン水3.14gからなる水溶液を添加し、25℃で4日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水で上記フィルターを十分に洗浄し、次いで乾燥した。
得られた上記フィルターのデジタルカメラ写真を図18の左下に、Quartz Fiber Filterとして示した。フィルターが黒く着色しており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【0048】
また、上記フィルターの使用前の走査型電子顕微鏡写真を図19の中央の上と下にQuartz Fiber Filterとして示し、被覆処理後の走査型電子顕微鏡写真を図20の中央の上と下にQuartz Fiber Filterとして示した。この写真で見ると、フィルターに約100nm〜200nmの大きさの点状に被覆されたものと、連続して被覆されたものが存在する。これらは、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットであると推定される。
【実施例7】
【0049】
被覆処理に使用した材料は、図17の右下にSilica Glass Microfibre Thimbles(商品名)としてデジタルカメラ写真を示したシリカガラス繊維製筒(Whatman社製。For stack Gas Sampling。10 Thimbles(tapered)。Cat No.2812259。外部直径25mm×長さ90mm)である。脱イオン水13.8gに上記のシリカガラス繊維製筒69.0mgを加え、これにピロール69.0mgを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム212.7mgと塩化ナトリウム210.4mgと脱イオン水6.9gからなる水溶液を添加し、25℃で4日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水で上記シリカガラス繊維製筒を十分に洗浄し、次いで乾燥した。
得られた上記シリカガラス繊維製筒のデジタルカメラ写真を図18の右下にSilica Glass Microfibre Thimblesとして示した。シリカガラス繊維製筒が黒く着色しており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【0050】
また、上記シリカガラス繊維製筒の使用前の走査型電子顕微鏡写真を図19の右端の上と下にSilica Glass Microfibre Thimblesとして示し、被覆処理後の走査型電子顕微鏡写真を図20の右端の上と下にSilica Glass Microfibre Thimblesとして示した。この写真で見ると、シリカガラス繊維製筒に約100nm〜200nmの大きさの点状に被覆されたものと、連続して被覆されたものが存在する。これらは、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットであると推定される。
【実施例8】
【0051】
被覆処理に使用した材料は、図17の右下にデジタルカメラ写真を示したシリカガラス繊維製筒である。脱イオン水170gに上記のシリカガラス繊維製筒1.7260gを加え、これにピロール0.1726gを添加し、1時間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この系に、塩化パラジウム0.5323gと塩化ナトリウム0.5262gと脱イオン水20gからなる水溶液を添加し、25℃で7日間、マグネチックスターラーで300rpmで攪拌した。この反応に使用されたピロール:塩化パラジウムのモル比=6:7であり、塩化パラジウム:塩化ナトリウムのモル比=1:3である。反応終了後、脱イオン水で上記シリカガラス繊維製筒を十分に洗浄し、次いで乾燥した。得られた上記シリカガラス繊維製筒のデジタルカメラ写真を図21の右側に示した。シリカガラス繊維製筒が黒く着色しており、ポリピロール−パラジウムナノコンポジットで被覆されたことが分かる。
【0052】
(鈴木クロスカップリング反応による触媒性能評価)
実施例1と同様にして被覆処理して得られた繊維材料を用いて、図22に示す鈴木クロスカップリング反応を行った。
1)ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆6,6ナイロン繊維触媒
スクリュー管 (1 mL)に、実施例1と同様にして得られた、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆6,6ナイロン(6,6NYLON)(0.0665 g,Pd:1.00mol%)、ブロモベンゼン(0.785 g,0.50mmol)、 4−メチルフェニルボロン酸(0.1020 g, 0.75 mmol)、1.5 mol?L−1 K2CO3水溶液 (1.0 mL)をいれた。 回転子を入れて80 ℃のオイルバスで20時間攪拌した。反応終了後、反応容器にジエチルエーテルを追加して撹拌を行い、生成物である4−メチルビフェニルをエーテル相に抽出した後、スクリュー管(50mL)に移した。このジエチルエーテルを使用した生成物の抽出操作を5回繰り返した。その後、水層もエーテル層の抽出液が入ったスクリュー管 (50mL)に移した。混合溶液の入ったスクリュー管(50mL)に、精製水を容器の半分の位置(約25mL)まで注ぎ、ジエチルエーテルを容器の4分の3まで(約10mL)注ぎ、計8回抽出を行った。エーテル層を硫酸マグネシウムで脱水した後、エバポレーターで濃縮し、生成物を得た。生成物の同定、収率は1H−NMRおよび重量法により行った。この結果、4−メチルビフェニルの収率は62%であった。
【0053】
上記反応に用いたポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆6,6ナイロン繊維触媒を、精製水とジエチルエーテルを用いて1回ずつ洗浄した後、乾燥した。
得られたポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆6,6ナイロン繊維触媒を用いて、上記と同様にして反応、精製及び生成物の同定を行った。この結果、4−メチルビフェニルの収率は53%であった。
【0054】
2)ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆ポリエステル繊維触媒
スクリュー管 (1 mL)に、実施例1と同様にして被覆処理して得られた、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆ポリエステル繊維(SPUN POLYESTER FIBER)(0.0112 g,Pd:1.00mol%)、ブロモベンゼン(0.785 g,0.50mmol)、 4−メチルフェニルボロン酸(0.1020 g, 0.75 mmol)、1.5 mol?L−1 K2CO3水溶液 (1.0 mL)をいれた。 回転子を入れて80 ℃のオイルバスで20時間攪拌した。反応終了後、反応容器にジエチルエーテルを追加して撹拌を行い、生成物である4−メチルビフェニルをエーテル相に抽出した後、スクリュー管(50mL)に移した。このジエチルエーテルを使用した生成物の抽出操作を5回繰り返した。その後、水層もエーテル層の抽出液が入ったスクリュー管 (50mL)に移した。混合溶液の入ったスクリュー管(50mL)に、精製水を容器の半分の位置(約25mL)まで注ぎ、ジエチルエーテルを容器の4分の3まで(約10mL)注ぎ、計8回抽出を行った。エーテル層を硫酸マグネシウムで脱水した後、エバポレーターで濃縮し、生成物を得た。生成物の同定、収率は1H−NMRおよび重量法により行った。この結果、4−メチルビフェニルの収率は73%であった。
【0055】
上記反応に用いたポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆ポリエステル繊維触媒を、精製水とジエチルエーテルを用いて1回ずつ洗浄した後、乾燥した。
得られたポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆ポリエステル繊維触媒を用いて、上記と同様にして反応、精製及び生成物の同定を行った。この結果、4−メチルビフェニルの収率は30%であった。
【0056】
(被覆処理フィルター又は被覆処理シリカガラス繊維製筒中のポリピロール−パラジウムナノコンポジット含有率の測定)
実施例5〜7におけるフィルター又はシリカガラス繊維製筒について、被覆処理前と被覆処理後のフィルター又はシリカガラス繊維製筒の炭素、水素、窒素の含有量をCHN元素分析法で測定した。その結果を表1に示した。
【0057】
【表1】
【0058】
被覆処理ガラス繊維製フィルター又は被覆処理石英繊維製フィルター又は被覆処理シリカガラス繊維製筒の窒素の含有量と、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット粉末の窒素の含有量との比較により、被覆処理ガラス繊維製フィルター又は被覆処理石英繊維製フィルター又は被覆処理シリカガラス繊維製筒中のポリピロール−パラジウムナノコンポジット含有率を算定し、表1中に記載した。被覆処理フィルター又は被覆処理シリカガラス繊維製筒中のポリピロール−パラジウムナノコンポジット含有率は、11.4〜13.5重量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法は、鈴木カップリング反応などの触媒として用いられ、反応後、反応媒体から触媒を容易に分離・回収・再利用できるポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を容易に得るために利用することができる。
本発明のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維は、鈴木カップリング反応などの触媒に用いられ、反応後、反応槽からポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維をピンセット等で取り出し、または濾過を行うだけで反応媒体から触媒の分離・回収ができるため、触媒反応を特別な装置、設備を必要とせずに行うことが可能となり、触媒を繰り返して再利用できるので、本発明のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を用いると、製薬、液晶材料等の分野における新規合成の研究開発が飛躍的に加速すると考えられる。
本発明の化学反応生成物の製造方法は、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を触媒として用いるため、触媒反応を特別な装置、設備を必要とせずに行うことが可能となり、触媒を繰り返して再利用できるので鈴木クロスカップリング反応などの化学反応生成物の製造に有効に利用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の存在下で、パラジウム錯体を重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行い、該パラジウム錯体の還元により生成したパラジウムを該重合で生成されたポリピロールに1段階の工程で担持させてポリピロール−パラジウムナノコンポジットを生成させると共に、該ポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって該繊維を被覆させることを特徴とする、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法。
【請求項2】
前記の重合反応において、該反応を水媒体中で行うことを特徴とする、請求項1記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により製造された、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維。
【請求項4】
請求項3記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を触媒として化学反応を行うことを特徴とする化学反応生成物の製造方法。
【請求項1】
繊維の存在下で、パラジウム錯体を重合酸化剤として使用してピロールの重合反応を行い、該パラジウム錯体の還元により生成したパラジウムを該重合で生成されたポリピロールに1段階の工程で担持させてポリピロール−パラジウムナノコンポジットを生成させると共に、該ポリピロール−パラジウムナノコンポジットによって該繊維を被覆させることを特徴とする、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法。
【請求項2】
前記の重合反応において、該反応を水媒体中で行うことを特徴とする、請求項1記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により製造された、ポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維。
【請求項4】
請求項3記載のポリピロール−パラジウムナノコンポジット被覆繊維を触媒として化学反応を行うことを特徴とする化学反応生成物の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−112053(P2012−112053A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259600(P2010−259600)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【Fターム(参考)】
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