説明

ポリフェニレンエーテル樹脂組成物、プリプレグ、金属張積層板、及びプリント配線板

【課題】末端をエテニルベンジル基のような官能基で修飾したポリフェニレンエーテルを含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物において、非ハロゲン系難燃剤を用いて高いTgを維持しながら十分な難燃性を備える。
【解決手段】(A)下記式(I):


[式中、Xはアリール基を示し、(Y)はポリフェニレンエーテル部分を示し、R〜Rは独立して水素原子,アルキル基,アルケニル基またはアルキニル基を示し、nは1〜6の整数を示し、qは1〜4の整数を示す。]によって表され、且つ数平均分子量が500〜7000であるポリフェニレンエーテル樹脂、(B)架橋型硬化剤、(C)ホスフィン酸塩系難燃剤、及び(E)硬化触媒が配合されたことを特徴とするポリフェニレンエーテル樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の絶縁材料として好ましく用いられるポリフェニレンエーテル樹脂組成物、プリプレグ、金属張積層板、及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、接合、実装技術の向上とともに、電子機器に搭載される半導体デバイスの高集積化とパッケージの精緻化、プリント配線板の高密度配線化に伴い、電子機器は継続して進展しており、特に、移動体通信のような高周波数帯を利用する電子機器においては、進展が著しい。
【0003】
この種の電子機器を構成するプリント配線板では、多層化と微細配線化が同時進行している。情報処理の高速化に要求される信号伝達速度の高速化には材料の誘電率を低減することが有効であり、また、伝送時の損失を低減するためには誘電正接(誘電損失)の少ない材料を使用することが効果的である。
【0004】
ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)は誘電率や誘電損失等の高周波特性(誘電特性)が優れているので、高周波数帯を利用する電子機器のプリント配線板用の材料として好適である。しかしながら、一般にPPEは融点が高いため、PPEを用いて通常の多層プリント配線板を製造するために使用されるプリプレグを形成すると、プリプレグの溶融粘度が高くなり、多層成形時にボイドやかすれなどの成形不良が発生し、信頼性の高い多層板が得られないという問題もあった。
【0005】
このような問題を解決する方法として、低分子量化したPPEを用いることにより、溶融樹脂の流動性を改良した樹脂組成物が広く用いられている。しかしながら、PPEの分子量を小さくしていくと、得られる積層板の耐熱性が低下するという問題がある。本願発明者は、このような問題点を解決するために、低分子量化したPPEを用いても、耐熱性の高い積層板を得ることができるポリフェニレンエーテル樹脂組成物として、末端をエテニルベンジル基のようなラジカル反応性官能基で修飾したポリフェニレンエーテルと架橋型硬化剤とを含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物を開発し、既に特許出願している(下記特許文献1)。
【特許文献1】国際公開第2004/67634号パンフレット
【特許文献2】特許3886053号公報
【特許文献3】特開2006−63157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の難燃剤としては臭素系難燃剤が広く用いられている。しかしながら、ハロゲンを含有する臭素系難燃剤は環境負荷が高いとされており、臭素系難燃剤に代替する難燃処方が求められている。
【0007】
ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の難燃処方において、臭素系難燃剤に代替する難燃剤としてはホスファゼン系難燃剤等のリン系難燃剤が知られている(例えば、特許文献2)。
【0008】
ポリフェニレンエーテル樹脂組成物にホスファゼン系難燃剤を配合した場合、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物とホスファゼン系難燃剤とが相溶しすぎるために、得られる硬化物の耐熱性が低下してしまうという問題があった。このような問題を解決するために、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物との相溶性を低下させたホスファゼン系難燃剤も知られている(例えば、特許文献3)。しかしながら、特許文献3に記載されたような相溶性を低下させたホスファゼン系難燃剤は、リン含有率が比較的低いために、充分な難燃性を付与するためには、比較的多くの難燃剤を配合する必要があった。このような場合においては、PPE本来の特性を維持することができず、耐熱性が低下したり、誘電特性が低下したりしてしまう。
【0009】
特に、特許文献1に記載されたようなラジカル反応性を有するエテニルベンジル基のような官能基で修飾したポリフェニレンエーテルは、架橋型硬化剤との反応性が比較的高い。一般的なポリフェニレンエーテル樹脂組成物であれば、比較的硬化反応に時間がかかるために、成形時において難燃剤が再凝集して相溶性が適度に低下する。しかしながら、ラジカル反応性を有するエテニルベンジル基のような官能基で修飾したポリフェニレンエーテルにおいては、分散された難燃剤は、分散時の高い相溶状態を維持したまま比較的短時間硬化反応が完了する。そのために、ホスファゼン系難燃剤のような相溶性に優れた難燃剤を用いた場合には、大幅に耐熱性が低下するという問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑み、末端をエテニルベンジル基のような官能基で修飾したポリフェニレンエーテルを含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物において、充分な難燃性と高いガラス転移温度(Tg)とを備える硬化物を得ることができるポリフェニレンエーテル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、(A)下記一般式(I):
【0012】
【化1】

【0013】
[式中、Xはアリール基を示し、(Y)はポリフェニレンエーテル部分を示し、R〜Rは独立して水素原子,アルキル基,アルケニル基またはアルキニル基を示し、nは1〜6の整数を示し、qは1〜4の整数を示す。]によって表され、且つ数平均分子量が500〜7000であるポリフェニレンエーテル樹脂、(B)架橋型硬化剤、(C)ホスフィン酸塩系難燃剤、及び(E)硬化触媒が配合されたことを特徴とする。上記のようなラジカル反応性を有する官能基で修飾されたポリフェニレンエーテル樹脂を含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物において、ホスフィン酸塩系難燃剤を配合することにより、ガラス転移温度を大幅に低下させることなく、充分な難燃性を付与することができる。
【0014】
また、前記架橋型硬化剤としてはトリアルケニルイソシアヌレートがより高い耐熱性を付与しうることから好ましい。
【0015】
また、本発明のプリプレグは上記いずれかのポリフェニレンエーテル樹脂組成物を繊維質基材に含浸させて得られることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の金属張積層板は上記プリプレグに金属箔を積層して、加熱加圧成形して得られることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のプリント配線板は、上記金属張積層板の表面の金属箔を部分的に除去することにより回路形成して得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エテニルベンジル基のようなラジカル反応性の官能基で修飾したポリフェニレンエーテルを含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物において、高いガラス転移温度(Tg)を維持しながら充分な難燃性を有する硬化物を与えるポリフェニレンエーテル樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明におけるポリフェニレンエーテル樹脂(A)は、下記一般式(I):
【0020】
【化2】

【0021】
[式中、Xはアリール基を示し、(Y)はポリフェニレンエーテル部分を示し、R〜Rは独立して水素原子,アルキル基,アルケニル基またはアルキニル基を示し、nは1〜6の整数を示し、qは1〜4の整数を示す。]によって表され、且つ数平均分子量が500〜7000のポリフェニレンエーテル樹脂である。
【0022】
上記「アリール基」は芳香族炭化水素基を意味する。斯かる「アリール基」としては、例えば、フェニル基,ビフェニル基,インデニル基,ナフチル基を挙げることができ、好適にはフェニル基である。また、これらアリール基が酸素原子で結合されているジフェニルエーテル基等や、カルボニル基で結合されたベンゾフェノン基等、アルキレン基により結合された2,2−ジフェニルプロパン基等も含まれる。また、これらアリール基は、アルキル基(好適にはC1-C6アルキル基、特にメチル基),アルケニル基,アルキニル基やハロゲン原子など、一般的な置換基によって置換されていてもよい。但し、当該「アリール基」は、酸素原子を介してポリフェニレンエーテル部分に置換されているので、一般的置換基の数の限界は、ポリフェニレンエーテル部分の数に依存する。
【0023】
「ポリフェニレンエーテル部分」は、フェニルオキシ繰返し単位からなり、このフェニル基も、一般的な置換基によって置換されていてもよい。斯かる「ポリフェニレンエーテル部分」としては、例えば、下記一般式(II)で表されるものを挙げることができる。
【0024】
【化3】

【0025】
[式中、R〜Rは独立して水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアルケニルカルボニル基を示し、mは1〜100の整数を表す。].
ここで、当該ポリフェニレンエーテル部分の側鎖にビニル基、2−プロピレン基(アリル基)、メタクリロイル基、アクリロイル基、2−プロピン基(プロパルギル基)などの不飽和炭化水素含有基が存在すれば、架橋型硬化剤の作用効果を一層有効に利用でき得る。
【0026】
ここでmは、上記ポリフェニレンエーテル(I)の数平均分子量が1000〜7000の範囲内となる様に調整されている。
【0027】
「アルキル基」は飽和炭化水素基を意味し、好適にはC1-C10アルキル基、更に好適にはC1-C6アルキル基,更に好適にはC1-C4アルキル基,特に好適にはC1-C2アルキル基である。斯かるアルキル基としては、例えば、メチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基を挙げることができる。
【0028】
「アルケニル基」は、構造中に少なくとも一つの炭素−炭素二重結合を有する不飽和炭化水素基を意味し、好適にはC2-C10アルケニル基、更に好適にはC2-C6アルケニル基,特に好適にはC2-C4アルケニル基である。斯かるアルケニル基としては、例えば、エチレン,1−プロピレン,2−プロピレン,イソプロピレン,ブチレン,イソブチレン,ペンチレン,ヘキシレンを挙げることができる。
【0029】
「アルキニル基」は、構造中に少なくとも一つの炭素−炭素三重結合を有する不飽和炭化水素基を意味し、好適にはC2-C10アルキニル基、更に好適にはC2-C6アルキニル基,特に好適にはC2-C4アルキニル基である。斯かるアルキニル基としては、例えば、エチン,1−プロピン,2−プロピン,イソプロピン,ブチン,イソブチン,ペンチン,ヘキシンを挙げることができる。
【0030】
「アルケニルカルボニル基」は、上記アルケニル基により置換されたカルボニル基をいい、例えばアクリロイル基,メタクリロイル基を挙げることができる。
【0031】
PPE(I)中、nの好適値は1〜4の整数であり、更に好ましくは1または2であり、最適には1である。また、qとしては1〜3の整数が好適であり、更に好ましくは1または2であり、最適には1である。尚、mの値は1〜100の整数であるが、本発明ではPPE(I)の数平均分子量を少なくとも1000〜7000にする必要があるので、目的とするPPE(I)の数平均分子量に応じて、mの値を調整する必要がある。つまり、mの値によってはPPE(I)の分子量は1000未満となったり7000を超えることがあるが、PPE樹脂組成物に含まれるPPE(I)全体の数平均分子量が1000〜7000であればよく、この点で、mは固定値ではなくある一定の範囲内の変数である場合がある。
【0032】
PPE(I)中の下記部分構造:
【0033】
【化4】

【0034】
において、n=1であり、R〜Rが水素原子であるp−エテニルベンジル基,またはm−エテニルベンジル基であることが架橋型硬化剤との相互作用が特に良好であり、架橋型硬化剤を多量に添加しなくても耐熱性が低減することなく、低誘電率化が可能となる点から好ましい。特に、末端にp−エテニルベンジル基のみを有するPPEは高融点、高軟化点であるのに対し、末端にp−エテニルベンジル基とm−エテニルベンジル基の両方を有するPPEは低融点、低軟化点となる。従って、p−エテニルベンジル基とm−エテニルベンジル基の割合を調整することによって、PPEの融点や軟化点を任意に変化させることも可能となる。
【0035】
ポリフェニレンエーテル樹脂(A)の数平均分子量は、1000〜7000である。7000を超えると、成形時の流動性が低下して多層成形が困難になるからであり、また、1000未満であると、PPE樹脂の本来の優れた誘電特性と耐熱性が一定して発現しない可能性があるからである。斯かる優れた流動性,耐熱性および誘電特性を更に発揮させるには、数平均分子量を1200以上,5000以下にすることが好ましく、更に1500以上,4500以下が好ましい。
【0036】
ポリフェニレンエーテル樹脂(A)は、例えば、国際公開第2004/67634号パンフレットに開示されているような公知の方法で製造されうる。
【0037】
ポリフェニレンエーテル樹脂(A)は、低分子量であるが故に、流動性に優れたPPE樹脂組成物を得ることができる。
【0038】
本発明における架橋型硬化剤(B)は、ポリフェニレンエーテル樹脂(A)を3次元架橋するものであり、低分子量のポリフェニレンエーテルを使用する場合であっても硬化物の耐熱性等を維持する作用効果を有するものである。斯かる架橋型硬化剤としては、特にPPEとの相溶性が良好なものが用いられるが、ジビニルベンゼンやジビニルナフタレンやジビニルビフェニルなどの多官能ビニル化合物;フェノールとビニルベンジルクロライドの反応から合成されるビニルベンジルエーテル系化合物;スチレンモノマー,フェノールとアリルクロライドの反応から合成されるアリルエーテル系化合物;さらにトリアルケニルイソシアヌレートなどが良好である。特に相溶性が良好なトリアルケニルイソシアヌレートが良く、なかでも具体的にはトリアリルイソシアヌレート(以下TAIC)やトリアリルシアヌレート(以下TAC)が好ましい。これらは、低誘電率で且つ耐熱性や信頼性の高い積層板を得ることができるからである。
【0039】
また、本発明の架橋型硬化剤としては、(メタ)アクリレート化合物(メタクリレート化合物およびアクリレート化合物)を用いるのが好ましい。特に、3〜5官能の(メタ)アクリレート化合物を、PPE樹脂組成物全量に対して3〜20質量%含有するのが好ましい。3〜5官能のメタクリレート化合物としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)等を用いることができ、一方、3〜5官能のアクリレート化合物としては、トリメチロールプロパントリアクリレート等を用いることができる。これら架橋型硬化剤を添加すれば、最終的に得られる積層板の耐熱性を更に高めることができる。
【0040】
なお、官能基数が3〜5以外の(メタ)アクリレート化合物を用いてもよいが、上記のように官能基数が3〜5の(メタ)アクリレート化合物を用いる方が、積層板の耐熱性を向上させる程度が高い。また、3〜5官能の(メタ)アクリレート化合物を用いるにしても、これらの配合量がPPE樹脂組成物全量に対して3質量%未満であると、積層板の耐熱性向上の効果を十分に得ることができないおそれがあり、逆に、20質量%を超えると、誘電特性や耐湿性が低下するおそれがある。
【0041】
ポリフェニレンエーテル樹脂(A)と架橋型硬化剤(B)の配合比率は、質量部で30/70〜90/10の割合で含有するのが好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂(A)が30質量部未満では積層板が脆くなるおそれがあり、ポリフェニレンエーテル樹脂(A)が90質量部を超えると耐熱性が低下するおそれがある。このポリフェニレンエーテル樹脂(A)と架橋型硬化剤(B)の配合比率としては、50/50〜90/10が好適であり、更に60/40〜90/10が好ましい。
【0042】
本発明における、ホスフィン酸塩系難燃剤(C)は、下記一般式(IV)または(V)
【0043】
【化5】

【0044】
(式中、R1およびR2は互いに同じであっても異っていてもよい、水素原子、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数1〜16のエーテル結合を含むアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びシクロアルキル基から選ばれるものであり、R3は2価の有機基を示し、nは1〜4の整数を示し、Mは1〜4個のMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kから選ばれる原子の陽イオンおよび/またはプロトン化窒素塩基を示す。)。
で表されるものが好ましい。
【0045】
ホスフィン酸塩系難燃剤(C)の平均粒子径としては、0.5〜10μmの範囲であることが基板の表面平滑性や絶縁性に優れる点から好ましい。なお、この平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定法により、液中に分散させて測定した値である。
【0046】
また、ホスフィン酸塩のリン含有割合としては5〜40質量%であることが絶縁樹脂設計の点から好ましい。前記リン含有割合が少なすぎる場合には、充分な難燃性を付与するためには大量に配合する必要がある。この場合にはPPE樹脂の特性が充分に発揮されなくなる。また、前記リン含有割合が多すぎる場合には、反応性が阻害されたり、信頼性が低下することがある。
【0047】
ホスフィン酸塩系難燃剤(C)の配合量としては、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の有機成分の全量中にリン濃度が0.5〜5質量%、さらには1〜3質量%になるような割合で含有させることが好ましい。
【0048】
また、本発明の効果を損なわない限り、難燃剤としてホスフィン酸塩系難燃剤(C)とともに、その他のリン酸エステル系難燃剤等のリン系化合物を配合してもよい。このようなリン系化合物の具体例としては、例えば、ホスファゼン系難燃剤、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、リン酸エステル、フェノール化合物との縮合リン酸エステル、縮合リン酸エステル系難燃剤、モノリン酸エステル系難燃剤等が挙げられる。この場合においては、その他のリン系化合物はホスフィン酸塩系難燃剤(C)との合計量中60%以下であることが好ましい。
【0049】
また、本発明のPPE樹脂組成物には、架橋型硬化剤の作用効果をより有効に発揮させるために反応開始剤を添加してもよい。ポリフェニレンエーテル樹脂(A)と架橋型硬化剤(B)のみであっても、高温にすれば硬化は進み得るが、プロセス条件によっては硬化が進行するまで高温にすることができない場合があるので、反応開始剤を添加することが好ましい。斯かる「反応開始剤」は、適度な温度および時間でPPE樹脂組成物の硬化を促進することによって、PPE樹脂の耐熱性等の特性を向上できるものであれば特にその種類は問わないが、例えばα,α'−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン,2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン,過酸化ベンゾイル,3,3',5,5'−テトラメチル−1,4−ジフェノキノン,クロラニル,2,4,6−トリ−t−ブチルフェノキシル,t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート,アゾビスイソブチロニトリルの様な酸化剤を用いるのが好ましい。必要に応じてカルボン酸金属塩などを更に添加して、硬化反応を一層促進することもできる。上記反応開始剤中では、α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンが特に好適である。反応開始温度が比較的に高いため、プリプレグ乾燥時など硬化が必要でない時点での硬化を促進し難くPPE樹脂組成物の保存性を貶めず、また、揮発性が低いためプリプレグ乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好だからである。
【0050】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物には、加熱時における寸法安定性を高めたり、難燃性を高める等の目的で、必要に応じてさらに無機充填材を配合してもよい。
【0051】
無機充填材の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、マイカ、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0052】
また、無機充填材としては、エポキシシランタイプ、または、アミノシランタイプのシランカップリング剤で表面処理されたものが、特に好ましい。前記のようなシランカップリング剤で表面処理された無機充填材が配合されたポリフェニレンエーテル樹脂組成物を用いて得られる金属張積層板は、吸湿時における耐熱性が高く、また、層間ピール強度も高くなる傾向がある。
【0053】
無機充填材の配合割合としては、ポリフェニレンエーテル樹脂(A)と架橋型硬化剤(B)との合計量100質量部に対して10〜100質量部、さらには、20〜50質量部であることが、流動性や金属箔との密着性を低下させずに、寸法安定性を向上させる点から好ましい。
【0054】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、例えば熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、滑剤等の添加剤を配合してもよい。
【0055】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、ワニス状に調製されたものである。このようなワニスは、例えば、以下のようにして調製される。
【0056】
ポリフェニレンエーテル(A)の樹脂溶液に架橋型硬化剤(B)を配合して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。
【0057】
さらに、ホスフィン酸塩系難燃剤(C)、硬化触媒(E)、及びその他必要に応じて用いられる難燃剤や無機充填材を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状のポリフェニレンエーテル樹脂組成物が調製される。
【0058】
得られたポリフェニレンエーテル樹脂組成物を用いてプリプレグを製造する方法としては、例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を繊維質基材に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。
【0059】
繊維質基材としては、例えばガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、リンター紙等が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特に偏平処理加工したガラスクロスが好ましい。偏平加工としては例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧してヤーンを偏平に圧縮することにより行うことができる。なお、基材の厚みとしては0.04〜0.3mmのものを一般的に使用できる。
【0060】
含浸は浸漬(ディッピング)、塗布等によって行われる。含浸は必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。またこの際組成や濃度の異なる複数の溶液を用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする組成及び樹脂量に調整することも可能である。
【0061】
ポリフェニレンエーテル樹脂組成物が含浸された基材は、所望の加熱条件、例えば、80〜170℃で1〜10分間加熱されることにより半硬化状態(Bステージ)のプリプレグが得られる。
【0062】
このようにして得られたプリプレグを用いて金属張積層板を作製する方法としては、前記プリプレグを一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔を重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層体を作製することができるものである。加熱加圧条件は、製造する積層板の厚みやプリプレグの樹脂組成物の種類等により適宜設定することができるが、例えば、温度を170〜210℃、圧力を3.5〜4.0Pa、時間を60〜150分間とすることができる。
【0063】
そして、作製された積層体の表面の金属箔をエッチング加工等して回路形成をすることによって、積層体の表面に回路として導体パターンを設けたプリント配線板を得ることができるものである。
【0064】
本発明によれば、エテニルベンジル基のようなラジカル反応性の官能基で修飾したポリフェニレンエーテルを含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物において、難燃剤としてホスフィン酸塩系難燃剤(C)を用いることにより、充分な難燃性を付与しながら高いガラス転移温度(Tg)を維持する硬化物を得ることができる。
【0065】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
(製造例:エテニルベンジル基を有する数平均分子量約3500のポリフェニレンエーテルの製造)
低分子量PPE(PPE−1)の製造
先ず、PPEの分子量の調整を実施した。PPE(SABICジャパン社製:商品名「ノリルPX9701」、数平均分子量14000)を100量部、フェノール種として2,6−ジメチルフェノールを4.28質量部、開始剤としてt−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(日本油脂株式会社製:商品名「パーブチルI」)を2.94質量部、ナフテン酸コバルトを0.0042質量部それぞれ配合し混合した。溶剤としてトルエン250質量部を用い、80℃にて1時間混合し、分散または溶解させるために撹拌した。反応終了後、多量のメタノールを加えてPPEを再沈殿させ、不純物を除去して、減圧下80℃/3時間で乾燥して溶剤を完全に除去した。この処理後に得られたPPEは、数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)にて測定したところ、約2400であった。
【0067】
次に、上記の低分子量にしたPPEの末端水酸基をエテニルベンジル基でキャップした。温度調節器、撹拌装置、冷却設備及び滴下ロートを備えた1リットルの3つ口フラスコに、低分子量化した上記PPEを200質量部、クロロメチルスチレン(p−クロロメチルスチレンとm−クロロメチルスチレンとの比が50/50,東京化成工業社製)14.51質量部、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド0.818質量部、トルエン400質量部を投入した。混合物を撹拌溶解し、液温を75℃とした。当該混合液に、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム11g/水11g)を20分間で滴下し、さらに75℃で4時間撹拌を続けた。次に、10%塩酸水溶液でフラスコ内容物を中和した後、多量のメタノールを追加し、エテニルベンジル化した変性PPEを再沈殿後、ろ過した。ろ過物をメタノール80と水20の比率の混合液で3回洗浄した後、減圧下80℃/3時間乾燥することで、溶剤や水分を除去したエテニルベンジル化した変性PPEを取り出した。この変性PPEの数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフにて測定したところ、約3500であった。
【0068】
(実施例1)
製造例で得られた、エテニルベンジル化した低分子量PPE50質量部に、溶剤としてトルエンを80質量部加えて80℃にて30分混合、攪拌して完全に溶解した。これによって得たPPE溶液に、架橋型硬化剤としてTAIC(日本化成株式会社製)50質量部、ホスフィン酸塩系難燃剤(I)でとしてクラリアントジャパン社製OP−935を15質量部、及び反応開始剤としてα,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(日本油脂株式会社製:商品名「パーブチルP」)2質量部配合した。さらに無機充填材として球状シリカ(アドマテックス(株)製:商品名「SO25R」)35質量部を添加して、これを溶剤であるトルエン中で混合、分散、溶解して樹脂組成物のワニスを得た。
【0069】
次に得られた樹脂組成物のワニスをガラスクロス(日東紡績(株)製の「WEA116E」)に含浸させた後、150℃で3〜5分間加熱乾燥することによりプリプレグを得た。
【0070】
次に、得られた各プリプレグを6枚重ねて積層し、さらに、その両外層にそれぞれ銅箔(古河サーキットフォイル社製のF2−WS 18μm)を配し、温度220℃、圧力3MPaの条件で加熱加圧することにより、厚み0.75mmの銅張積層板を得た。
【0071】
得られたプリプレグ及び銅張積層板を用いて、下記評価を行った。
【0072】
〈誘電特性〉
IPC TM−650 2.5.5.9の規格に準じて、1GHzにおける銅張積層板の誘電率及び誘電正接を求めた。
【0073】
〈熱膨張係数〉
銅張積層板のZ軸方向の熱膨張係数をTMA法により測定した。
【0074】
〈ガラス転移温度〉
セイコーインスツルメンツ(株)製の粘弾性スペクトロメータ「DMS100」を用いて銅張積層板のガラス転移温度(Tg)を測定した。このとき、曲げモジュールで周波数を10Hzとして測定を行い、昇温速度5℃/minの条件で室温から280℃まで昇温した際にtanδが極大を示す温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0075】
〈熱分解温度〉
セイコーインスツルメンツ(株)製の熱分解重量測定装置「TG/DTA320」を用いて銅張積層板の熱分解温度(Td)を測定した。このときの昇温速度は5℃/minの条件で、室温から500℃まで昇温したときの5%重量が減少した温度を熱分解温度とした。
【0076】
〈難燃性〉
所定の大きさに切り出した銅張積層板の難燃性を、UL 94の燃焼試験法に準じて燃焼試験を行い、判定した。
【0077】
(実施例2、3及び比較例1、2)
表1に記載の配合組成で行った以外は実施例1と同様に、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を調製し、評価した。なお、実施例2においては、ホスフィン酸塩系難燃剤(I)の代わりに、ホスフィン酸塩系難燃剤(II)としてクラリアントジャパン社製OP930を、比較例1においては、ホスフィン酸塩系難燃剤で(I)の代わりにホスファゼン系難燃剤(I)として大塚化学(株)製SPS−100を、比較例2においてはホスファゼン系難燃剤(II)として大塚化学(株)製SPR−100を用いた。
【0078】
結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
難燃剤としてホスフィン酸塩系難燃剤を用いた実施例1〜3のPPE樹脂組成物は何れも、高いTgを維持しており、それにより熱膨張率も低かった。一方、ホスファゼン系難燃剤を用いた比較例1及び2においてはいずれもTgが低く、また、熱膨張率も高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(I):
【化1】

[式中、Xはアリール基を示し、(Y)はポリフェニレンエーテル部分を示し、R〜Rは独立して水素原子,アルキル基,アルケニル基またはアルキニル基を示し、nは1〜6の整数を示し、qは1〜4の整数を示す。]
によって表され、且つ数平均分子量が500〜7000であるポリフェニレンエーテル樹脂、(B)架橋型硬化剤、(C)ホスフィン酸塩系難燃剤、及び(E)硬化触媒が配合されたことを特徴とするポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項2】
前記架橋型硬化剤がトリアルケニルイソシアヌレートである請求項1に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物を繊維質基材に含浸させて得られることを特徴とするプリプレグ。
【請求項4】
請求項3に記載のプリプレグに金属箔を積層して、加熱加圧成形して得られることを特徴とする金属張積層板。
【請求項5】
請求項4に記載された金属張積層板の表面の金属箔を部分的に除去することにより回路形成して得られたことを特徴とするプリント配線板。

【公開番号】特開2010−53178(P2010−53178A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217089(P2008−217089)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】