説明

ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物及び成型体

【課題】 電子材料に要求される成形性、難燃性、吸水性、低線膨張係数が優れた材料を提供する。
【解決手段】 (a)ポリフェニレンエーテル系樹脂を45〜95重量部、(b)ポリフェニレンサルファイド樹脂を5〜55重量部、(c)籠型シルセスキオキサン化合物0.1〜30重量部からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物、またこれらの樹脂組成物からなる成型体およびフィルムを溶融成型により提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性が高く、剥離性が無く、難燃性に優れたポリフェニレンエーテル系樹脂組成物およびその成型体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル樹脂は優れた機械的、電気的特性と高い耐熱性を備えた樹脂であるが、成型加工性が劣るという欠点を有するため、ポリフェニレンエーテル樹脂単独での利用はほとんどなく、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂等とのポリマーアロイとして用いられている。
【0003】
一方、ポリフェニレンサルファイドに代表されるポリアリーレンサルファイドは耐熱樹脂に区分される樹脂の一つであり、高い連続使用温度と高い剛性を有することに加えて、溶融流動性、難燃性、耐溶剤性が高い等の特長を備えており、各種成形品やフィルムとして広く用いられている。
【0004】
しかし、ポリフェニレンサルファイド樹脂には、機械強度が低く、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維強化剤、タルク、マイカなどの無機充填材を配合することにより、本来の特性以上に耐熱性を向上させることができる。しかしポリフェニレンサルファイド樹脂自体は靭性が不足していて脆く、ガラス転移温度が90℃程度であり、耐熱性も不足している。
【0005】
ポリフェニレンエーテル樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂のそれぞれに優れた特長を活かした両樹脂のアロイを作ることは既にいくつかの提案がされている。(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、一般にポリフェニレンエーテル樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂は互いに親和性が低く、両者のブレンドによって相溶化した優れた樹脂組成物を得ることは難しい。
両樹脂が混ざりにくい不都合を改善した技術として、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂及びエポキシ樹脂からなる樹脂組成物(特許文献2)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂からなる樹脂組成物(特許文献3)、変性ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンサルファイドおよび結合剤からなる樹脂組成物(特許文献4)、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物によって変性された変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド及びポリイソシアネート化合物からなる樹脂組成物(特許文献5)、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂及びポリスチレンとエポキシ変性メタクリレートの共重合体からなる樹脂組成物(特許文献6)等が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記の樹脂組成物では、耐熱性、難燃性等の特性や、無水マレイン酸に代表される不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物は極性基を有するため、低吸水率の観点では、十分ではない。
【0008】
また、溶融製膜によるポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムとしては、ポリフェニレンエーテルにポリスチレンを添加したもの、ポリフェニレンエーテルにエチレン−エポキシ共重合体を押し出し機中で反応させたものが報告されている(特許文献7)
しかしながらいずれのフィルムも、線膨張係数が大きいという問題がある。
【特許文献1】特公昭56−34032号公報
【特許文献2】特公昭60−11063号公報
【特許文献3】特開昭64−36645号公報
【特許文献4】特開平1−266160号公報
【特許文献5】特開平2−49023号公報
【特許文献6】特開2005−60529号公報
【特許文献7】特開2004−202833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は溶融流動性がよく、層剥離がなく、耐熱性、難燃性に優れたポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂からなる樹脂組成物を提供し、またこれらの樹脂組成物からなる線膨張係数が低いフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成する技術を鋭意検討した結果、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂に籠型シルセスキオキサン及び/または籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体を配合した樹脂組成物を原料にして溶融混練して得られた樹脂組成物は溶融流動性がよく、層剥離無く、耐熱性、難燃性が優れており、また押し出し成形により得られたフィルムを延伸することによって線膨張係数が低減することを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1) (a)ポリフェニレンエーテル系樹脂を45〜95重量部、(b)ポリフェニレンサルファイド樹脂を5〜55重量部、(a)及び(b)の合計100重量部に対して、(c)籠型シルセスキオキサン化合物0.1〜70重量部からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【0011】
(2) 該籠型シルセスキオキサン化合物が
[RSiO3/2n (A)
(RSiO3/2l(RXSiO)k (B)
(一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、複数のRは同一でも異なっていても良い;一般式(B)においてXはOR1(R1は水素原子、アルキル基、アリール基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rで定義された基の中から選ばれる基であり、複数のXは同じでも異なっていても良い、又(RXSiO)k中の複数のXが互いに連結して連結構造を形成しても良い;nは6から14の整数、lは2から12の整数、kは2又は3である。)であること特徴とする(1)に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
(3) 一般式(A)及び一般式(B)のR、Xの少なくとも一つが、1)不飽和炭化水素結合を含有する基であるか、あるいは、2)窒素原子及び酸素原子の少なくとも1つを含有する極性基を有する基であることを特徴とする請求項2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【0012】
(4) (1)から(3)のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなることを特徴とする溶融成型体。
【0013】
(5) (4)に記載の溶融成型体からなることを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
(6) (5)に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムを延伸することより得られるポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
【0014】
(7) (1)に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を溶融混練、押出し及び延伸することを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂組成物は、成形性がよく、層剥離が無く、耐熱性、難燃性、耐吸水性等に優れた樹脂組成物であり、またこれを押し出し成形したフィルムを延伸させることにより線膨張係数を低減することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明の(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂とは、「ポリフェニレンエーテル樹脂及びそれを含むポリマーアロイ」を示す。本発明で用いられる「ポリフェニレンエーテル樹脂」とは、下記一般式(1)を繰り返し単位とした単独重合体、下記一般式(1)の繰り返し単位を含む共重合体、あるいはそれらの変性ポリマーを示す。
【0017】
一般式(1)
【化1】

式中R2、R3、R4、R5、は水素、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニル、アミノアルキル、炭化水素オキシを表す。
【0018】
当該ポリフェニレンエーテル樹脂としては幅広い分子量の重合体が使用可能であるが、還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)として、好ましくは0.15〜1.0dl/gの範囲にあるホモ重合体及び/または共重合体が使用され、さらに好ましい還元粘度は、0.20〜0.70dl/gの範囲、最も好ましくは0.40〜0.60の範囲である。当該ポリフェニレンエーテル樹脂としては、その目的に応じて幅広い溶融流動性の樹脂が使用可能であり、特に溶融流動性の制限はない。しかしながら、例えば、特に高い耐熱性及び機械諸物性が要求される構造材料として使用される場合には、JIS K6730に従い、かつ、280℃、荷重10Kgで測定されたメルトインデックスの値としては、好ましくは6(g/10min)以下、より好ましくは5(g/10min)以下、特に好ましくは4(g/10min)以下の値の樹脂が使用される。
【0019】
ポリフェニレンエーテルの単独重合体の代表例としては、ポリ(1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,5−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられる。この内、特に好ましいものは、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルである。ポリフェニレンエーテル共重合体としては、例えば、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノール、2,6−ジフェニルフェノールあるいは2−メチルフェノール(o−クレゾール))との共重合体などが挙げられる。以上のような各種ポリフェニレンエーテル樹脂の中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらにはポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが特に好ましい。
【0020】
本発明で使用するポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法の例として、米国特許第3306874号明細書記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、2,6−キシレノールを酸化重合する方法が挙げられる。
【0021】
米国特許第3306875号、同第3257357号および同第3257358号の明細書、特公昭52−17880号および特開昭50−51197号および同63−152628号の各公報等に記載された方法もポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法として好ましい。
【0022】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂は、重合行程後のパウダーのまま用いてもよいし、押出機などを用いて、窒素ガス雰囲気下あるいは非窒素ガス雰囲気下、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融混練することでペレット化して用いてもよい。
【0023】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂には、ジエノフィル化合物により変性されたポリフェニレンエーテルも含まれる。この変性処理には、種々のジエノフィル化合物が使用されるが、ジエノフィル化合物の例としては、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、フェニルマレイミド、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアリレート、メチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンなどの化合物が挙げられる。さらにこれらジエノフィル化合物により変性する方法としては、ラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で押出機などを用い、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融状態で官能化してもよい。あるいはラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で、非溶融状態、すなわち室温以上、かつ融点以下の温度範囲にて官能化してもよい。この際、ポリフェニレンエーテルの融点は、示差熱走査型熱量計(DSC)の測定において、20℃/分で昇温するときに得られる温度−熱流量グラフで観測されるピークのピークトップ温度で定義され、ピークトップ温度が複数ある場合にはその内の最高の温度で定義される。
【0024】
本発明で用いるポリフェニレンエーテル系樹脂は、上記のポリフェニレンエーテル樹脂のみであってもよいし、あるいは、上記のポリフェニレンエーテル樹脂と他の樹脂とのポリマーアロイでも良い。この場合の他の樹脂の例としては、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体などのポリスチレン系樹脂、ナイロン6,6やナイロン6などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリエステルなどのポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂等が挙げられる。本発明で使用されるポリフェニレンエーテル樹脂を含むポリマーアロイは、ポリフェニレンエーテル樹脂と、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂等から選ばれるどれかひとつの樹脂と組み合わせたポリマーアロイとしても良いし、ポリフェニレンエーテル樹脂と2つ以上の複数の樹脂と組み合わせたポリマーアロイとしても良い。
【0025】
ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂から選ばれる樹脂とのポリマーアロイを用いる場合は、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂から選ばれる樹脂との合計量に対して、ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量としては、好ましくは60wt%以上、さらに好ましくは80wt%以上、特に好ましくは90wt%以上である。
【0026】
本発明の(b)ポリフェニレンサルファイド樹脂はリニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、リニアPPSと略記する。)と架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、架橋PPSと略記する。)のどちらでもよいし、それらが混合されたものでもよい。
【0027】
本発明で用いられる(b)成分であるリニアPPSは、下記一般式(2)で示されるアリーレンサルファイドの繰り返し単位を通常50モル%、好ましくは70モル%、さらに好ましくは90モル%以上で含む重合体である。
【0028】
[−Ar−S−] (2)
(ここで、Arはアリーレン基を示し、アリーレン基としては、例えばp−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基としては炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基が好ましい。)、p,p'−ジフェニレンスルホン基、p,p'−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基等が挙げられる。ここで、Sは硫黄元素を示す。)
なお、リニアPPSは構成単位であるアリーレン基が1種であるホモポリマーであってもよく、加工性や耐熱性の観点から、2種以上の異なるアリーレン基を混合して用いて得られるコポリマーであってもよい。中でも、主構成要素としてp−フェニレンサルファイドの繰り返し単位を有するリニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂が、加工性、耐熱性に優れ、且つ、工業的に入手が容易なことから好ましい。
【0029】
このリニアPPSの製造方法としては、通常、ハロゲン置換芳香族化合物、例えばp−ジクロルベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、極性溶媒中で硫化ナトリウムあるいはナトリウムアミノアルカノエートの存在下で重合させる方法、p−クロルチオフェノールの自己縮合等が挙げられるが、中でもN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法が適当である。
【0030】
これらの製造方法は公知であり、例えば、米国特許第2513188号明細書、特公昭44−27671号公報、特公昭45−3368号公報、特公昭52−12240号公報、特開昭61−225217号及び米国特許第3274165号明細書、さらに特公昭46−27255号公報、ベルギー特許第29437号明細書、特開平5−222196号公報等に記載された方法及びこれらの特許等に例示された先行技術の方法によりリニアPPSを得ることが出来る。
【0031】
また成分(b)の一つである架橋PPSは、上述のリニアPPSを重合した後に、さらに酸素の存在下でポリフェニレンサルファイド樹脂の融点以下の温度で加熱処理し、酸化架橋を促進してポリマー分子量、粘度を適度に高めたものである。
【0032】
そして本発明で用いる成分(b)のリニアPPSは、塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%以下、好ましくは0.5重量%以下であり、かつ末端−SX基(Sは硫黄原子、Xはアルカリ金属又は水素原子である)が20μmol/g以上、好ましくは20〜60μmol/gであるリニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂である。
【0033】
ここで、塩化メチレンによる抽出量の測定は以下の方法により求めることができる。
【0034】
すなわち、リニアPPS粉末5gを塩化メチレン80mlに加え、6時間ソックスレー抽出を実施した後、室温まで冷却し、抽出後の塩化メチレン上澄み溶液をろ過して、秤量瓶に移す。さらに、上記の抽出に使用した容器を塩化メチレン合計60mLを用いて、3回に分けて洗浄し、該洗浄液を上記秤量瓶中に回収する。次に秤量瓶を約80℃に加熱して、該秤量瓶中の塩化メチレンを蒸発させて除去し、残渣を秤量し、この残渣量より塩化メチレンによる抽出量、すなわちリニアPPS中に存在するオリゴマー量の割合を求めることができる。
【0035】
そしてここでいう−SX基の量は以下の方法により定量することができる。すなわち、リニアPPS粉末を予め120℃で4時間乾燥した後、乾燥リニアPPS粉末20gをN−メチル−2−ピロリドン150gに加えて粉末凝集塊がなくなるように室温で30分間激しく攪拌混合しスラリー状態にする。かかるスラリーをろ過した後、毎回約80℃の温水1リットルを用いて7回洗浄を繰り返す。ここで得たろ過ケーキを純水200g中に再度スラリー化し、次いで1Nの塩酸を加えて該スラリーのPHを4.5に調整する。次に、25℃で30分間攪拌し、ろ過した後、毎回約80℃の温水1リットルを用いて6回洗浄を繰り返す。得られたろ過ケーキを純水200g中に再度スラリー化し、次いで、1Nの水酸化ナトリウムにより滴定し、消費した水酸化ナトリウム量よりリニアPPS中に存在する−SX基の量を知ることができる。
【0036】
ここで、塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%以下、末端−SX基が20μmol/g以上を満足するリニアPPSの製造方法の具体例としては、特開平8−253587号公報に記載されているように、有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させ、そして反応中に反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、又は重合後のリニア型PPSの有機アミド系溶媒(例えば、N−メチルピロリドン)による洗浄回数を増やすことにより不要な塩化メチレンによる抽出量を減らす方法が挙げられる。
【0037】
そして本発明で用いる成分(b)の一つである架橋型PPSは、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が1重量%以下であり、且つ320℃溶融状態で捕集される揮発分が1000ppm以下の架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂である。
【0038】
ここで、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量の測定は以下の方法により求めることができる。すなわち、PPS粉末5gを塩化メチレン80mlに加え、6時間ソックスレー抽出を実施した後、室温まで冷却し、抽出後の塩化メチレン上澄み溶液をろ過して、秤量瓶に移す。さらに、上記の抽出に使用した容器を塩化メチレン合計60mlを用いて、3回に分けて洗浄し、該洗浄液を上記秤量中に回収する。次に、秤量瓶を約80℃に加熱して、該秤量瓶中の塩化メチレンを蒸発させて除去し、残渣を秤量し、この残渣量より塩化メチレンによる抽出量、すなわちPPS中に存在するオリゴマー量の割合を求めることができる。
【0039】
そしてここでいう320℃溶融状態で捕集される揮発分の定量は以下の方法により求めることができる。すなわち、架橋型PPS粉末0.5gを気流入り口と出口を有する密栓付試験管に秤量し、320℃に加熱したハンダ浴に30分間浸漬しながら、試験管の気流入り口より窒素ガスを100cc/minの流速で注入し、試験管内に発生した架橋PPSに由来する揮発分を含むガスを試験管の気流出口よりパージし、パージされたガスはアセトンを入れた気流入り口と出口を有する密栓付試験管の気流入り口より試験管内のアセトン中にバブリングさせ、揮発成分をアセトン中に溶解させる。アセトン中に溶解した架橋PPSの揮発分は、ガスクロマトグラフ質量分析機(GC−MS)を用いて、50℃〜290℃の昇温分析して検出されるモノクロロベンゼンと同一感度と仮定し、架橋PPS中の揮発分を知ることができる。
【0040】
この成分(b)である、塩化メチレンによる抽出量が1重量%以下であり、且つ320℃溶融状態で捕集される揮発分が1000ppm以下の架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂の製造においては、その前駆体であるリニア型PPSの重合段階、洗浄工程で不要な塩化メチレンによる抽出量及び揮発分を減らす工夫が必要であり、例えば特開平8−253587号公報に記載されているように、有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてリニア型PPSを得る際に、反応中、反応缶の気相部分を冷却することによりオリゴマー成分を減少させる方法により不要な塩化メチレンによる抽出量を減らしたり、重合後のリニア型PPSの有機アミド系溶媒(例えば、N−メチルピロリドン)による洗浄回数を増やすことにより不要な塩化メチレンによる抽出量を減らすことができる。
【0041】
また、揮発分の減少化は、上記の有機アミド系溶媒による洗浄処理の他に、水洗浄処理、酸洗浄処理の回数を増やすことにより減少させることができる他に、リニア型PPSを架橋型PPSとするため酸素含有ガス存在下でリニア型PPSを熱処理し酸化架橋を促進する工程でも加熱温度、時間を調整することにより揮発分を減少させることが可能である。これらの方法以外にも、塩化メチレンによる抽出量が1重量%以上であったり、320℃溶融状態で捕集される揮発分が1000ppm以上有する架橋型PPSは積極的に塩化メチレンにて洗浄し、不要な塩化メチレンによる抽出量や揮発分を減らし、本発明の成分(b)である架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂として使用することができる。
【0042】
そして、上記したように本発明で供する成分(b)である架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂は、塩化メチレンによる抽出量が1重量%以下、320℃溶融状態で捕集される揮発分が1000ppm以下であれば、いかなる製法で得られてもよい。
【0043】
このように、本発明で供する成分(b)である架橋PPSは塩化メチレンによる抽出量が1重量%以下、320℃溶融状態で捕集される揮発分が1000ppm以下であれば、得られた樹脂組成物を押し出し成形する際、リップと溶融樹脂の接触部位に発生する蓄積物(メヤニと呼ばれることもある。)を抑制に非常に効果的である。
【0044】
本発明において、上記の成分(b)であるリニアPPS及び成分(b)である架橋PPSはいずれも、300℃における溶融粘度が、1〜10000ポイズ、好ましくは50〜8000ポイズ、より好ましくは100〜5000ポイズのものが使用できる。本発明において、溶融粘度とは、JISK−7210を参考試験法とし、フローテスター((株)島津製作所製CFT−500型)を用いて、PPSを300℃、6分間予熱した後、荷重196N、ダイ長さ(L)/ダイ径(D)=10mm/1mmで測定した値である。
【0045】
本発明における(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は組成物の機械特性、耐熱性の観点から、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(b)ポリフェニレンサルファイド樹脂の合計100質量部に対して45〜99重量部であり、より好ましくは55〜95重量部、更に好ましくは60〜95重量部である。ポリフェニレンエーテル系樹脂が45重量部より少ない場合は、機械物性が低いため好ましくはなく、99重量部より多い場合は溶融流動性が小さいため、好ましくない。
【0046】
次に、本発明に使用する(c)籠状シルセスキオキサン化合物について説明する。
【0047】
シリカがSiO2で表されるのに対し、シルセスキオキサンは[R'SiO3/2]で表される化合物である。シルセスキオキサンは通常はR'SiX3(R'=水素原子、有機基、シロキシ基、X=ハロゲン原子、アルコキシ基)型化合物の加水分解−重縮合で合成されるポリシロキサンであり、分子配列の形状として、代表的には無定形構造、ラダー状構造、籠状(完全縮合ケージ状)構造あるいはその部分開裂構造体(籠状構造からケイ素原子が一原子欠けた構造や籠状構造の一部ケイ素−酸素結合が切断された構造)等が知られている。
本発明者は、各種有機ケイ素化合物のポリフェニレンエーテル系樹脂への添加効果を詳細に検討した。その結果、各種有機ケイ素化合物の中でも特定の構造の籠状シルセスキオキサン化合物をポリフェニレンエーテル樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂からなる樹脂組成物に、添加した場合に、溶融流動性が良く、層剥離が無く、耐熱性、難燃性に優れた樹脂組成物が得られることを見いだし、本発明を完成させた。
本発明に使用される籠状シルセスキオキサン化合物の具体的構造の例としては、例えば、下記の一般式(A)で表される籠状シルセスキオキサン及び一般式(B)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体が挙げられる。しかしながら、本発明に使用される籠状シルセスキオキサンあるいはその部分開裂構造体の構造は、これらの構造に限定されるものではない。
【0048】
[RSiO3/2n (A)
(RSiO3/2l(RXSiO)k (B)
一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、Rは全て同一でも複数の基で構成されていても良い。
【0049】
本発明で用いられる一般式(A)で表される籠状シルセスキオキサンの例としては[RSiO3/26の化学式で表されるタイプ(下記一般式(3))、[RSiO3/28の化学式で表されるタイプ(下記一般式(4))、[RSiO3/210の化学式で表されるタイプ(例えば下記一般式(5))、[RSiO3/212の化学式で表されるタイプ(例えば下記一般式(6))、[RSiO3/214の化学式で表されるタイプ(例えば下記一般式(7))が挙げられる。
【0050】
一般式(3)
【化2】

【0051】
一般式(4)
【化3】

【0052】
一般式(5)
【化4】

【0053】
一般式(6)
【化5】

【0054】
一般式(7)
【化6】

【0055】
本発明の一般式(A)[RSiO3/2n で表される籠状シルセスキオキサンにおけるnの値としては、6から14の整数であり、好ましくは8,10あるいは12であり、より好ましくは、8、10または8,10の混合物あるいは8,10,12の混合物であり、特に好ましくは8又は10である。
【0056】
また、本発明では、籠状シルセスキオキサンの一部のケイ素−酸素結合が部分開裂した構造か、又は、籠状シルセスキオキサンの一部が脱離した構造、あるいはそれらから誘導される、一般式(B)[RSiO3/2l(RXSiO)k(lは2から12の整数であり、kは2又は3である。)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を用いることもできる。
【0057】
一般式(B)においてXはOR1(R1は水素原子、アルキル基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rで定義された基の中から選ばれる基であり、複数のXは同じでも異なっていても良い。又(RXSiO)k中の複数のXが互いに連結して連結構造を形成しても良い。ここで、lは2から12の整数、好ましくは4から10の整数、特に好ましくは4、6又は8である。kは2又は3である。
【0058】
(RXSiO)k中の2個又は3個のXは、同一分子中の他のXと互いに連結して各種の連結構造を形成しても良い。その、連結構造の具体例を以下に説明する。
【0059】
一般式(B)の同一分子中の2個のXは一般式(8)で示される分子内連結構造を形成しても良い。さらに、それぞれ異なった分子中に存在する2個のXが互いに連結して、上記一般式(8)で表される連結構造により複核構造を形成しても良い。
【0060】
一般式(8)
【化7】

【0061】
Y及びZはXと同じ基の群の中から選ばれ、YとZは同じでも異なっていても良い。
【0062】
一般式(B)で表される化合物における上記の各種の連結構造のうちでは、一般式(8)で表される連結構造が、合成が容易であり好ましい。
【0063】
本発明で使用される一般式(B)で表される化合物の例としては、例えば一般式(4)の一部が脱離した構造であるトリシラノール体あるいは、それからから合成される(RSiO3/24(RXSiO)3の化学式で表されるタイプ(例えば、下記一般式(9))、一般式(9)あるいは(RSiO3/24(RXSiO)3の化学式の化合物の中の3個のXのうち2個のXが一般式(8)で示される連結構造を形成するタイプ(例えば、下記一般式(10))、一般式(4)の一部が開裂したジシラノール体から誘導される(RSiO3/26(RXSiO)2の化学式で表されるタイプ(例えば、下記一般式(11)及び(12))、一般式(11)あるいは(RSiO3/26(RXSiO)2の化学式の化合物の中の2個のXが一般式(8)で示される連結構造を形成するタイプ(例えば、下記一般式(13))等が挙げられる。一般式(9)から(13)中の同一ケイ素原子に結合しているRとXあるいはYとZはお互いの位置を交換したものでもよい。さらに、それぞれ異なった分子中に存在する2個のXが互いに連結して、上記一般式(8)で代表される各種の連結構造により複核構造を形成しても良い。
【0064】
これらの各種の籠状シルセスキオキサンあるいはその部分開裂構造体は、それぞれ単独で用いてもいいし、複数の混合物として用いても良い。
【0065】
一般式(9)
【化8】

【0066】
一般式(10)
【化9】

【0067】
一般式(11)
【化10】

【0068】
一般式(12)
【化11】

【0069】
一般式(13)
【化12】

【0070】
本発明に使用される一般式(A)及び/又は一般式(B)で表される化合物におけるRの種類としては水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基、またはケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基が挙げられる。
【0071】
炭素原子数1から6のアルコキシル基の例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基等が挙げられる。一般式(A)又は一般式(B)の化合物の1分子中のアルコキシル基及びアリールオキシ基の数は合計で好ましくは3以下、より好ましくは1以下である。
【0072】
炭素数1から20までの炭化水素基の例としてはメチル、エチル、n―プロピル、i-プロピル、ブチル(n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、sec-ブチル)、ペンチル(n―ペンチル、i−ペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル等)、ヘキシル(n−ヘキシル、i−ヘキシル、シクロヘキシル等)、ヘプチル(n−ヘプチル、i−ヘプチル等)、オクチル(n−オクチル、i−オクチル、t―オクチル等)、ノニル(n−ノニル、i−ノニル等)、デシル(n−デシル、i−デシル等)、ウンデシル(n−ウンデシル、i−ウンデシル等)、ドデシル(n−ドデシル、i−ドデシル等)等の非環式又は環式の脂肪族炭化水素基、ビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、シクロヘキセニルエチル、ノルボルネニルエチル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、スチレニル等の非環式及び環式アルケニル基、ベンジル、フェネチル、2−メチルベンジル、3−メチルベンジル、4−メチルベンジル等のアラルキル基、PhCH=CH−基のようなアラアルケニル基、フェニル基、トリル基あるいはキシリル基のようなアリール基、4−アミノフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ビニルフェニル基のような置換アリール基等が挙げられる。
【0073】
これらの炭化水素基の中でも、特に炭素数2から20の脂肪族炭化水素基、炭素数2から20のアルケニル基の数が、全R、X、Y、Zにしめる割合が大きい場合には特に良好な成形時の溶融流動性が得られる。またRが脂肪族炭化水素基及び/又はアルケニル基の場合には、成形時の溶融流動性、難燃性及び操作性のバランスがいいものとして、R中の炭素数は通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。
【0074】
又、本発明に使用されるRとしてはこれらの各種の炭化水素基の水素原子又は主査骨格の一部がエーテル結合、エステル基(結合)、水酸基、チオール基、チオエーテル基、カルボニル基、カルボキシル基、カルボン酸無水物結合、チオール基、チオエーテル結合、スルホン基、アルデヒド基、エポキシ基、アミノ基、置換アミノ基、アミド基(結合)、イミド基(結合)、イミノ基、ウレア基(結合)、ウレタン基(結合)、イソシアネート基、シアノ基等の極性基(極性結合)あるいはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子等から選ばれる置換基で部分置換されたものでも良い。
一般式(A)及び(B)におけるR中の置換又は非置換の炭化水素基中の置換基も含めた全炭素原子数としては、通常は20以下のものが使用されるが、フィルムの特性バランスがよいものとしては、好ましくは16以下、特に好ましくは12以下のものが使用される。
【0075】
Rとして採用されるケイ素原子数1〜10のケイ素原子含有基としては、広範な構造のものが採用される。当該ケイ素原子含有基中のケイ素原子数としては、通常1〜10の範囲であるが、好ましくは1〜6の範囲、より好ましくは1〜3の範囲である。ケイ素原子の数が大きくなりすぎると籠状シルセスキオキサン化合物は粘ちょうな液体となり、ハンドリングや精製が困難になるので好ましくない。
【0076】
なお、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の量産性向上効果と特性向上効果の両方とも特に優れた効果を示す別の化合物の群としては、一般式(A)及び一般式(B)で表される化合物の中でも、一般式(A)及び/又は一般式(B)のR、X、Y、Zの少なくとも一つは、1)不飽和炭化水素結合を含有する基、あるいは、2)窒素原子及び/又は酸素原子を含有する極性基を有する基である化合物の群が挙げられる。ここで、R、X、Y、Zが複数の種類の基で構成されている場合には、その中の少なくとも一つが上記の1)又は2)の基であればよい。
【0077】
上記1)の不飽和炭化水素結合を含有する基の例としては、ビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、シクロヘキセニルエチル、ノルボルネニル、ノルボルネニルエチル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、スチレニル、スチリル等の非環式及び環式アルケニル基、アルキニル基、あるいはこれらの基を含有する基が挙げられる。上記の不飽和炭化水素結合を含有する基の具体例としては、例えばビニル基、アリル基、2−(3,4−シクロヘキセニル)エチル基、3,4−シクロヘキセニル基、ジメチルビニルシロキシ基、ジメチルアリルシロキシ基、(3−アクリロイルプロピル)ジメチルシロキシ基、(3−メタクリロイルプロピル)ジメチルシロキシ基等が挙げられる。
【0078】
また、上記2)の窒素原子及び/又は酸素原子を含有する極性基を有する基の例としてはエーテル結合、エステル結合、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、エポキシ基(結合)、アミノ基、置換アミノ基、アミド基(結合)、イミド基(結合)、イミノ基、シアノ基、ウレア基(結合)、ウレタン基(結合)、イソシアネート基等を含む基が挙げられる。その中でも、特に、アミノ基あるいはその誘導体、あるいはエーテル基(エポキシ基も含む)を含有する基が好ましい。上記のアミノ基誘導体の例としては、例えば、モノアルキルアミノ基、2−ヒドロキシエチルアミノ基、ジアルキルアミノ基等の各種置換アミノ基、アミド基、イミド基、イミノ基、ウレア基等が挙げられる。
【0079】
上記のアミノ基あるいはその誘導体を含有する基の具体例としては、例えば、3−アミノプロピル基(H2NCH2CH2CH2−)、Me2NCH2CH2CH2−、Me2C=NCH2CH2CH2−、ーCH2CH264NH2、3−アミノプロピルジメチルシロキシ基(H2NCH2CH2CH2Me2SiO−)、H2NCH2CH2CH2Me(HO)SiO−、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピル基(H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2−)、MeHNCH2CH2NHCH2CH2CH2−、Me2C=NCH2CH2NHCH2CH2CH2−、HOCH2CH2HNCH2CH2NHCH2CH2CH2−、CH3COHNCH2CH2NHCH2CH2CH2Me2SiO−、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメチルシロキシ基(H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Me2SiO−)、H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Me(HO)SiO−が挙げられる。また、上記のエーテル基(エポキシ基も含む)を含有する基の具体例としては、例えば、3−グリシジルオキシプロピル基、3−グリシジルオキシプロピルジメチルシロキシ基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジメチルシロキシ基、CH3OCH2CH2CH2−、HOCH2CH2OCH2CH2CH2−等が挙げられる。
一般式(A)および一般式(B)におけるR、X、Y、Zの中から選ばれる少なくとも一つの官能基が上記のアミノ基を含有する一般式(A)の籠状シルセスキオキサン及び/又は一般式(B)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体がポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を製造した時に得られる特性のバランスが良いため、好ましい。
一般式(A)および一般式(B)におけるR、X、Y、Zはそれぞれ独立に各種の構造を取りうるし、又、R、X、Y、Zはそれぞれ複数の基からなっていてもよい。
【0080】
本発明の籠状シルセスキオキサンは例えばBrownらのJ.Am.Chem.Soc.1965,87,4313や、FeherらのJ.Am.Chem.Soc.1989,111,1741あるいはOrganometallics 1991,10,2526などの方法で合成することができる。例えばシクロヘキシルトリエトキシシランを水/メチルイソブチルケトン中で触媒にテトラメチルアンモニウムヒドロキサイドを加えて反応させることにより結晶として得られる。また一般式(9)(X=OH)、一般式(11)(X=OH)、一般式(12)(X=OH)で表されるトリシラノール体及びジシラノール体は完全縮合型の籠状シルセスキオキサンを製造する際に同時に生成するか、一度完全縮合型の籠状シルセスキオキサンからトリフルオロ酸やテトラエチルアンモニウムヒドロキサイドによって部分切断することでも合成できる(FeherらのChem.Commun.,1998,1279参照)。また、さらに、一般式(9)(X=OH)の化合物は、RSiT3(T=Clまたはアルコキシル基)型化合物から、直接合成することも出来る。
【0081】
一般式(4)で8個のRのうち、1個のRのみ異なった置換基R´を導入する方法としては一般式(9)(X=OH)で表されるトリシラノール化合物とR´SiCl3等を反応させて合成する方法が挙げられる。そのような合成法の具体例としては、例えば一般式(9)(R=シクロヘキシル基、X=OH)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を上記の方法で合成した後、テトラヒドロフラン溶液中で、HSiCl31当量と一般式(9)(R=シクロヘキシル、X=OH)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体1当量の混合物に、3当量のトリエチルアミンを加えることによって合成することができる。(例えばBrownらのJ.Am.Chem.Soc.1965,87,4313参照)
一般式(B)で示される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体で、Xとしてケイ素原子含有基を導入する方法の具体例としては、例えば一般式(9)(R=シクロヘキシル基、X=OH)で示される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体1当量対して、テトラヒドロフラン中で、3当量のトリエチルアミンと3当量のトリメチルクロロシランを加えることによって、XとしてMe3SiO―基を導入した化合物を製造する方法が挙げられる。(例えばJ.Am.Chem.Soc.1989,111,1741参照)
本発明の籠状シルセスキオキサンの構造解析は、X線構造解析(LarssonらのAlkiv Kemi 16,209(1960))で行うことができるが、簡易的には赤外吸収スペクトルやNMRを用いて同定を行うことができる。(例えばVogtらのInorga.Chem.2,189(1963)参照)
本発明に用いられる籠状シルセスキオキサンあるいは籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体はそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上の混合物として用いても良い。また更に籠状シルセスキオキサン及び籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を混合して使用しても良い。
【0082】
また、本発明に用いられる籠状シルセスキオキサン、籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体、又はその混合物はそれ以外の他の構造を有する有機ケイ素系化合物と組み合わせで使用しても良い。この場合の他の構造を有する有機ケイ素系化合物の例としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、ポリジメチル/メチルフェニルシリコーン、アミノ基や水酸基等の極性置換基を含有した置換シリコーン化合物、無定形ポリメチルシルセスキオキサン、各種ラダー型シルセスキオキサン等が挙げられる。その場合、混合物の組成比の制限は特にないが、通常は上記混合物における籠状シルセスキオキサンあるいは/およびその部分開裂構造体の割合は、好ましくは10重量%以上で使用され、より好ましくは30重量%以上で使用され、特に好ましくは50重量%以上で使用される。
【0083】
本発明に使用される籠状シルセスキオキサンあるいは籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体の替わりに、籠を形成していない無定形なポリシルセスキオキサンをポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の添加剤として用いた場合は、安定的に高品質のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を製造することが難しく、得られた樹脂組成物の特性バランスも悪い。
【0084】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物中の籠状シルセスキオキサンあるいは、籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体、又はこれらの混合物の含有量は(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(b)ポリフェニレンサルファイド樹脂の合計100重量部に対し、好ましくは0.1重量部以上70重量部以下である。より好ましくは0.1重量部以上50重量部以下の範囲、更に好ましくは0.5重量部以上30重量部以下の範囲、特に好ましくは0.5重量部以上15重量部以下が使用される。上記範囲より添加量が少ない場合は安定的に高品質の樹脂組成物やフィルムを得るのが難しく、得られた樹脂組成物やフィルムの特性のバランスも悪い。上記範囲より多い場合には耐熱性や機械的強度などの物性値が下がるため好ましくない。本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、後述の実施例で具体的に示されるように、籠状シルセスキオキサン、籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体、又はこれらの混合物は、極めて少量の添加量で特定の範囲で混練温度を調整すれば、安定的に高品質の樹脂組成物を得ることが可能な優れた量産性向上効果を示す。したがって、この組成物においては、従来公知である他の添加剤使用の場合と異なり、ポリフェニレンエーテル樹脂本来の特長である高耐熱性や良好な機械的特性をほとんど損なわずに安定的に高品質な樹脂組成物が得られるという工業的に極めて大きなメリットがある。
【0085】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には更に難燃助剤として、特定の構造の環状窒素化合物を加えることが出来る。本発明に用いられる環状窒素化合物とは、基本的に分子中にトリアジン骨格を有する化合物およびメラミン誘導体である。その具体例としては、好ましくは、メラミン誘導体であるメラミン、メレム、メロンが挙げられる。その中でも、揮発性が低いという点でメレム及びメロンがより好ましい。当該環状窒素化合物は、難燃性向上効果発現の為には微粉化されたものが好ましい。微粉化された粒子径は、好ましくは平均粒子径30μm以下、より好ましくは0.05〜5μmに微粉化されたものである。
【0086】
上記環状窒素化合物の含有量は0.1重量%以上、20重量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.2重量%以上10重量%以下の範囲である。上記範囲より添加量が少ない場合は難燃性に対する効果が小さく、上記範囲より添加量が多い場合は機械的物性が下がるため好ましくない。
【0087】
さらに本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は当該組成物の溶融成型が可能な範囲の量の各種の無機充填剤を組み合わせても良い。無機充填剤を添加することによって耐熱性、機械的強度、難燃性などを向上させることができる。無機充填剤の例としてはガラス繊維、炭素繊維などの繊維状物質や極微粒子シリカ(ヒュームドシリカ)、微粒子シリカ、ガラスビーズ、ガラスフレーク、タルク、珪藻土、マイカなどが挙げられる。さらには、表面を各種有機成分で修飾したヒュウームドシリカを使用することもできる。
【0088】
また本発明では、上記の成分の他に、本発明の特徴および効果を損なわない範囲で必要に応じて他の附加的成分、例えば、酸化防止剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、フォスファゼン系化合物)、エラストマー(エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、ABSなどのオレフィン系共重合体、ポリエステルポリエーテルエラストマー、ポリエステルポリエステルエラストマー、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物)、可塑剤(オイル、低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、各種着色剤を添加してもかまわない。
【0089】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、必要に応じて、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂などの離型改良剤などの各種の添加剤を含有しても良い。
【0090】
本発明において、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂および籠型シルセスキオキサン化合物及を混練する場合、混練する順番は特に限定はないが、一括して混練することが、プロセスの簡略性や物性向上の観点から望ましい。本発明の樹脂組成物は種々の方法で製造することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練方法が挙げられるが、中でも二軸押出機を用いた溶融混練方法が最も好ましい。この際の溶融混練温度は特に限定されるものではないが、通常150〜350℃の中から目的に応じて任意に選ぶことができる。溶融混練に際しては、各成分は予めタンブラーもしくはヘンシェルミキサーのような装置で各成分を均一に混合した後、混練装置に供給してもよいし、各成分を混練装置にそれぞれ別個に定量供給する方法も用いることができる。
【0091】
なお、上記添加剤は樹脂組成物の製造工程中あるいはその後の加工工程において添加することができる。
【0092】
このようにして得られる本発明の樹脂組成物は、従来より公知の種々の方法、例えば、射出成形、プレス成形、押出成形、中空成形、により各種部品の成形体として成形できる。
【0093】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からフィルムを製造する方法においては、上記の樹脂組成物をダイ(口金)を備えた押出機に供給し、フィルム類を製造する。ダイにおける樹脂温度は、220(℃)以上350(℃)以下の範囲であることが好ましく、260(℃)以上、330(℃)以下の範囲であることがより好ましい。ダイにおける樹脂温度が低い場合には、外観不良となる傾向、厚みむらが多くなる傾向があり、また、ダイにおける樹脂温度が高すぎる場合には、外観不良となる傾向、焼けがフィルムにできる傾向がある。フィルムにできる焼けとは、ポリフェニレンエーテル樹脂やポリフェニレンサルファイド樹脂が混練中に加熱分解し、フリーズ転移して生成した化合物由来のものと考えられており、押出成型されたフィルム内に茶褐色又は黒色等の異物として生成する。フィルム上に焼けが生成した場合、使用時に焼けの部分から切れ易くなることや、特性不良となるため好ましくない。
【0094】
本発明のフィルム製造においては、ダイとして、Tダイ、円筒スリットのダイが好ましい。
【0095】
Tダイとしては、その形状から、ストレートマニホールド型、フィッシュテール型、コートハンガー型などをあげることができ、目的、樹脂の性状に応じてそれらから選択、使用することができる。
【0096】
Tダイのスリット間隙は目的に応じて設定することができるが、0.1〜3mmの範囲が好ましく、0.2〜2mmの範囲がさらに好ましい。
【0097】
Tダイから押出されたフラット状の樹脂は、必要に応じて冷却装置を使用して冷却した後に巻き取ることが出きる。冷却する際に水槽を用いることもできるし、冷却エアを用いることもできる。
【0098】
本発明は、押出しチューブラー法、場合によってはインフレーション法とも呼ばれる方法にて製造することができる。円筒から出てきたパリソンがすぐに冷却してしまわないように、50−290℃の温度範囲の中から適宜選択して、パリソンの温度制御することがフィルム厚みを均一にし、焼けのないフィルムを作成する上で極めて重要である。
【0099】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムは、上記で得られた樹脂組成物を原料とし、押出フィルム成形により得ることもできるし、本発明の成分を押出フィルム成形機に直接投入し、ブレンドとフィルム成形を同時に実施して得ることもできる。
【0100】
本発明で得られたフィルムの厚みは特に限定するものではないが、0.1〜1000μmの範囲が実用上好ましく、1〜500μmの範囲がより好ましい。
【0101】
また、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムにおいては、必要に応じてTダイから押出された組成物を巻き取り機でMD(machinedirection「巻き取り方向」)へ延伸し、テンター方式などでTD(transversedirection「巻き取り方向に垂直方向」)へも延伸してニ軸延伸したフィルムを作製することができる。MD方向とTD方向の延伸の順序は、MD方向に延伸してから、次にTD方向に延伸する逐次で行ってもよいし、MD方向とTD方向を同時に延伸しても構わない。
【0102】
延伸する温度範囲としては、190℃以上260℃以下が好ましく、より好ましくは200℃以上250℃以下である。190℃以下で延伸した場合、延伸されたポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムは切れやすく、また260℃以上で延伸した場合は、フィルムが応力が掛からない状態で延伸されることになるため、好ましくない。
【0103】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムは、延伸後に120℃から220℃の範囲でアニール処理をすることが好ましい。より好ましくは130℃以上210℃以下、特に好ましくは150℃以上200℃以下である。120℃より低い温度でアニールをした場合は、線膨張係数が一定化と低減する温度範囲が狭いため効果が小さいため好ましくない。また220℃以上でアニール処理した場合は、樹脂組成物のガラス転移温度が近いため、延伸の効果が、樹脂組成物のガラス転移領域に達するための応力緩和によって除去されてしまうため好ましくない。
【0104】
さらに本発明で得られたフィルムの表面に、必要に応じて表面処理を施すことができる。このように表面処理法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、赤外線処理、スパッタリング処理、溶剤処理、研磨処理などが挙げられる。これらの処理は、成型加工の過程で行っても良いし、成型加工後のフィルムに対して行っても良いが、成型加工の過程、特に巻き取り機の手前でかかる処理を施すのが好ましい。
【0105】
本発明によって得られた成型体やフィルムは、成型体やフィルムを赤外線吸収スペクトル(IR)や、溶剤に溶かして核磁気共鳴装置(NMR)を測定することによって成分を分析することができる。また一度溶剤に溶解させてから抽出分離を繰り返すことによって各成分を分離をすることもできる。
【0106】
本発明によって得られた樹脂組成物は、耐熱性、成形性、難燃性、吸水率に優れる。また本発明によって得られたフィルムは、さらに層剥離が無く、線膨張係数が小さい特徴を有する。
【実施例】
【0107】
本発明を以下、実施例に基づいて説明する。但し本発明はその主旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(a)ポリフェニレンエーテル樹脂
2,6−ジメチルフェノールを酸化重合して得た還元粘度0.5のパウダー状のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)である。
(b)ポリフェニレンサルファイド樹脂
架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂:ディーアイシーEP(株)製 登録商標DSP K−2G[溶融粘度(フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、L/D=10/1で6分間保持した後測定した値。)が500ポイズ、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が0.7重量%、320℃溶融状態で捕集される揮発分が160ppmn架橋タイプ]
リニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂:特開平8−253587号公報の実施例1に準じて下記リニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂を得た。[溶融粘度(フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、L/D=10/1で6分間保持した後測定した値。)が500ポイズ、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が0.4重量%、−SX基量が26μmol/gのp−フェニレンサルファイドの繰り返し単位を有するリニアタイプ]
(c)籠型シルセスキオキサン化合物
【0108】
製造例1
<籠状シルセスキオキサンの製造例>
特開2004−51848号広報の方法に従って、TrisilanolIsobutyl−POSS[米国Hybrid Plastics社製]をトルエン/メタノールの溶液中、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン[チッソ(株)社製]と反応させることによって、式(14)で表されるアミノ基含有籠状シルセスキオキサンを得た。
【0109】
式(14)
【化13】

【0110】
製造例2
<籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体の製造例>
特開2004−51848号広報の方法に従って、TrisilanolIsobutyl−POSS[米国Hybrid Plastics社製]をトルエン/メタノールの溶液中、アミノプロピルメチルジメトキシシラン[チッソ(株)社製]と反応させることによって、式(15)で表されるアミノ基含有籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を得た。
【0111】
式(15)
【化14】

【0112】
樹脂組成物およびフィルム評価方法
(1)溶融流動性(成形性)
混練前の樹脂組成物を100g計量し、粉体プレミックスを行った後、290℃に加熱した東洋精機株式会社製、ラボプラストミルで50rpm、10分間混練を行った際の樹脂温度とトルクの値から評価を行った。
(2)難燃性評価
縦126mm、横12.6mm、厚さ1/16インチ(1.6mm)の5本の板状試験片を用いて、UL−94(米国アンダーライターズラボラトリー規格)に基づき、平均燃焼時間、最大燃焼時間、滴下本数から評価を行った。
(3)フィルムの外観
得られたフィルムを100mm×100mm幅の範囲で、茶褐色等の焼けの数を、数えた。
○:焼けが10個以下である。
△:焼けが10〜20個の範囲で確認される。
×:焼けが21個以上確認される。又は厚みむらや表面荒れが確認される。
(4)形態観察
溶融成型によって得られたフィルムの断面をミクロトームで切断し、金微粒子を蒸着させた後、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で、観察し、2000倍の倍率から、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂の混ざり方および層剥離を観察した。
○:PPSの平均粒子径が1μm未満で層剥離をしていない。
【0113】
×:PPSの平均粒子径が1μm以上か、層剥離をしている。
(5)吸水性
サイズ100×100×1mm角にプレス成型したシートを110℃のオーブンで1時間乾燥させた。乾燥させたシートを23℃の水槽に入れ、24時間曝した後、以下の式に従って、重量増加率(Δw)を求めた。各シート2枚の平均値をとった。
重量増加率(Δw)(%)=(w1−w0)/w0×100
(w1:加温加湿後、十分にシート表面の水滴を拭った後のシート重量(g)、w0:吸水前に、110℃、1時間熱風乾燥機中にて乾燥し、デシケーター中にて室温まで冷却したシート重量(g))重量増加率(Δw)の値が小さい方が、耐吸湿性に優れることを意味する。
(6)線膨張係数
得られたフィルムを3mm×18mmにカットし、島津製作所製TMA−50で、チャック間距離15mm、荷重10gで10℃/minにて昇温を行い、40℃から120℃の範囲で線膨張係数を評価した。
【0114】
実施例1
上記ポリフェニレンエーテル、架橋型ポリフェニレンサルファイドと式(14)で表される籠状シルセスキオキサンを、それぞれポリフェニレンエーテル:87.5重量部、架橋型ポリフェニレンサルファイド:12.5重量部、化式(14)で表される籠状シルセスキオキサン:5重量部を粉体混合し、バレルを120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機[KZW−15:テクノベル(株)製]を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、プレス成型によって、1/16'の成型し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0115】
実施例2
実施例1で得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度290℃に設定した150mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、125μmの厚さにフィルム成形を行った。得られたフィルムの平均厚みは、127μmであった。次に東洋精機製作所製2軸延伸試験装置を使用し、得られたフィルムを220℃で1軸方向に3倍延伸を行い、40μmの延伸フィルムを得た。次に延伸フィルムを170℃に加熱したオーブンで1hアニール処理を行った。上に示した方法に従ってそれぞれの工程で得られたフィルムを評価した。その結果を表2に示した。
【0116】
実施例3
アニール温度を180℃にした以外は実施例2と同様にしてフィルムを作製、評価した。
【0117】
実施例4
アニール温度を190℃にした以外は実施例2と同様にしてフィルムを作製、評価した。
【0118】
実施例5
上記ポリフェニレンエーテル、架橋型ポリフェニレンサルファイドと式(14)で表される籠状シルセスキオキサンを、それぞれポリフェニレンエーテル:87.5重量部、リニア型ポリフェニレンサルファイド:12.5重量部、式(14)で表される籠状シルセスキオキサン:5重量部を粉体混合し、120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機[KZW−15:テクノベル(株)製]を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、プレス成型によって、1/16'の成型し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0119】
実施例6
実施例5で得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度290℃に設定した150mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、125μmの厚さにフィルム成形を行った。得られたフィルムの平均厚みは、127μmであった。次に東洋精機製作所製2軸延伸試験装置を使用し、得られたフィルムを220℃で1軸方向に3倍延伸を行い、40μmの延伸フィルムを得た。さらに延伸フィルムを170℃に加熱したオーブンで1hアニール処理を行った。上に示した方法に従ってフィルム評価を実施した。その結果を表2に示した。
【0120】
比較例1
上記ポリフェニレンエーテル、架橋型ポリフェニレンサルファイドを、それぞれポリフェニレンエーテル:87.5重量部、架橋型ポリフェニレンサルファイド:12.5重量部を粉体混合し、バレルを120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機[KZW−15:テクノベル(株)製]を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、プレス成型によって、1/16'の成型し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0121】
比較例2
比較例1で得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度290℃に設定した150mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、125μmの厚さにフィルム成形を行った。得られたフィルムはもろく、剥離していた。上に示した方法に従ってそれぞれの工程で得られたフィルムを評価し、その結果を表2に示した。
【0122】
比較例3
上記ポリフェニレンエーテルを、バレルを120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機[KZW−15:テクノベル(株)製]を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、プレス成型によって、1/16'の成型し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0123】
比較例4
比較例3で得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度290℃に設定した150mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、125μmの厚さにフィルム成形を行った。得られたフィルムは、樹脂焼けが多数あった。次に東洋精機製作所製2軸延伸試験装置を使用し、得られたフィルムを220℃で1軸方向に3倍延伸を行い、40μmの延伸フィルムを得た。さらに次に延伸フィルムを170℃に加熱したオーブンで1hアニール処理を行った。上に示した方法に従ってフィルム評価を実施した。その結果を表2に示した。
【0124】
実施例7
上記ポリフェニレンエーテル、リニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂と式(14)で表される籠状シルセスキオキサンを、それぞれポリフェニレンエーテル:87.5重量部、架橋型ポリフェニレンサルファイド:12.5重量部、式(14)で表される籠状シルセスキオキサン:5重量部を粉体混合し、バレルを120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機[KZW−15:テクノベル(株)製]を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、プレス成型によって、1/16'の成型し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0125】
実施例8
実施例7で得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度290℃に設定した150mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、125μmの厚さにフィルム成形を行った。得られたフィルムの平均厚みは、127μmであった。次に東洋精機製作所製2軸延伸試験装置を使用し、得られたフィルムを220℃で1軸方向に3倍延伸を行い、40μmの延伸フィルムを得た。さらに延伸フィルムを170℃に加熱したオーブンで1hアニール処理を行った。上に示した方法に従ってそれぞれの工程で得られたフィルムを評価した。その結果を表2に示した。
【0126】
実施例9
上記ポリフェニレンエーテル、架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂と式(14)で表される籠型シルセスキオキサン及びヒュームドシリカ(Wacker社製HDK H−20)を、それぞれポリフェニレンエーテル:87.5重量部、架橋型ポリフェニレンサルファイド:12.5重量部、化式(14)で表される籠型シルセスキオキサン:5重量部、ヒュームドシリカ:15重量部を粉体混合し、バレルを120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機[KZW−15:テクノベル(株)製]を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、プレス成型によって、1/16'の成型し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0127】
実施例10
実施例9で得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度290℃に設定した150mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、125μmの厚さにフィルム成形を行った。得られたフィルムの平均厚みは、127μmであった。次に東洋精機製作所製2軸延伸試験装置を使用し、得られたフィルムを220℃で1軸方向に3倍延伸を行い、40μmの延伸フィルムを得た。さらに延伸フィルムを170℃に加熱したオーブンで1hアニール処理を行った。上に示した方法に従ってそれぞれの工程で得られたフィルムを評価した。その結果を表2に示した。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

表1より、籠型シルセスキオキサン化合物を添加したポリフェニレンエーテル系樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂からなる樹脂組成物および成型体は、溶融流動性が高く、難燃性も優れていることが分かる。
【0130】
表2より、籠型シルセスキオキサン化合物を添加したポリフェニレンエーテル系樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂からなるフィルムは外観も良く、層剥離も少なく、吸水性も低い。また延伸とアニール処理を行ったフィルムは線膨張係数も小さいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂を45〜95重量部、(b)ポリフェニレンサルファイド樹脂を5〜55重量部、(a)及び(b)の合計100重量部に対して、(c)籠型シルセスキオキサン化合物0.1〜70重量部からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項2】
該籠型シルセスキオキサン化合物が
[RSiO3/2n (A)
(RSiO3/2l(RXSiO)k (B)
(一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、複数のRは同一でも異なっていても良い;一般式(B)においてXはOR1(R1は水素原子、アルキル基、アリール基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rで定義された基の中から選ばれる基であり、複数のXは同じでも異なっていても良い、又(RXSiO)k中の複数のXが互いに連結して連結構造を形成しても良い;nは6から14の整数、lは2から12の整数、kは2又は3である。)であること特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項3】
一般式(A)及び一般式(B)のR、Xの少なくとも一つが、1)不飽和炭化水素結合を含有する基であるか、あるいは、2)窒素原子及び酸素原子の少なくとも1つを含有する極性基を有する基であることを特徴とする請求項2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなることを特徴とする溶融成型体。
【請求項5】
請求項4に記載の溶融成型体からなることを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムを延伸することより得られるポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を溶融混練、押出し及び延伸することを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2008−214460(P2008−214460A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52796(P2007−52796)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】