説明

ポリフェニレンサルファイドモノフィラメントおよび工業用織物

【課題】工業用織物の製織工程において糸切れなどの不具合を生じることが少ない必要十分な引張強度を保持しつつ、木材ピッチおよび回収ダンボール古紙原料に付着していたガムテープ粘着糊などのガムピッチ汚れが付着し難く、工業用織物用原糸として極めて好適に利用し得るPPSモノフィラメントおよびこれを用いた各種工業用織物を提供する。
【解決手段】ポリフェニレンサルファイド樹脂以外の成分として、カルナバワックス4〜7重量%を含有するポリフェニレンサルファイドモノフィラメントであって、引張強度が2.0cN/dtex以上であり、且つ布粘着ガムテープ貼付剥離法により測定した布粘着ガムテープ剥離応力値から下記式(1)にしたがって求めたガムピッチ防汚指数が90以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイドモノフィラメント。
ガムピッチ防汚指数=試験剥離応力値/比較サンプル剥離応力値×100・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用織物の製織工程において糸切れなどの不具合を生じることが少ない必要十分な引張強度を保持しつつ、木材ピッチおよび回収ダンボール古紙原料に付着していたガムテープ粘着糊などのガムピッチ汚れが付着し難く、且つ付着したガムピッチ汚れを洗浄しやすいなどの優れた防汚性を備え、抄紙ドライヤーカンバスを代表とする工業用織物用原糸として極めて好適に利用し得るポリフェニレンサルファイドモノフィラメントおよびこれを用いた各種工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートからなるモノフィラメントに代表される繊維は、優れた力学特性、耐熱性などを有していることから、従来より各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物などに使用されてきた。
【0003】
また、近年、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSという)からなるモノフィラメントは、ポリエチレンテレフタレートに比べて耐熱性および耐薬品性に優れており、また溶融成形が可能であることから、工業用繊維材料として高い注目を集めている。中でも抄紙ドライヤーカンバスなどの高温・高湿条件下にて使用される用途では、加水分解劣化するポリエチレンテレフタレートからなるモノフィラメントの代替として、PPSモノフィラメントが好適に使用されるようになってきている。
【0004】
しかしながら、PPSモノフィラメントを例えば抄紙用織物に使用した場合においては、紙原料中の各種填料、スライム、木材ピッチおよび古紙原料に付着していたガムテープ汚れなどのガムピッチ汚れなどが、熱可塑性樹脂製繊維からなる抄紙用織物類に付着することにより、濾水効率の低下、搾水効率の低下および乾燥効率の低下などの問題を生じるばかりか、これらのガムピッチ汚れが紙へ転写することによる製品紙の品位低下や紙破れによる生産性低下などが重大な問題となっていた。
【0005】
このような欠点を解決するため従来から様々な提案が行われてきた。
【0006】
例えば、PPSモノフィラメントに防汚性を付与する方法として、PPS樹脂組成物全体に対して、0.05〜3重量%のカルナバワックスを含有するPPS樹脂組成物(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この技術で得られる繊維は、ガムピッチ汚れに対してある程度の防汚性は得られるものの、含有量が少ないため、モノフィラメント表面に析出するカルナバワックスの量が少ないばかりか、防汚性の持続性が不十分である点で実用的とはいえないものであった。
【0007】
また、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂に防汚性を付与する方法についても種々提案がなされており、例えば、少なくとも表層部に、溶融混練されたポリシロキサンを含有するポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献2参照)、フッ素系のポリマーを添加したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献3参照)、少なくとも表層部に、溶融混練されたフッ素系のポリマーとシリコーンオイルを含有したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献4参照、特許文献5参照)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン1、ポリスチレンなどのポリオレフィンを特定量添加したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献6参照)が知られているが、これらの技術は、ポリエステル繊維に防汚性能を付与する技術としては相応の効果を発揮するものの、PPS樹脂に適用した場合には、ガムピッチ汚れに対する防汚性がいまだに不十分なものであった。
【0008】
更に、合成樹脂モノフィラメントからなる経糸及び緯糸により製織した各構成糸の表面に親水性ポリエステル樹脂を被覆してなる織物(例えば、特許文献7参照)および二液反応型エポキシ樹脂と硬化剤としてフェノールスルホン酸の初期重合物を配合してなる樹脂組成物を被覆してなる織物(例えば、特許文献8参照)が知られているが、これらの技術においても、ガムピッチ汚れに対する防汚性や防汚性の持続性がいまだに不十分なものであり、これらの方法では、木材ピッチおよび回収ダンボール古紙原料に付着していたガムピッチ汚れに対しては十分な防汚性効果が得られないため、さらなる改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許2828653号
【特許文献2】特開昭60−81313号公報
【特許文献3】再公表国際公開番号 WO 92/07126号公報
【特許文献4】特開2004−292960号公報
【特許文献5】特開2004−308090号公報
【特許文献6】特開昭51−136923号公報
【特許文献7】特開2002−173886号公報
【特許文献8】特開2004−36054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、工業用織物の製織工程において糸切れなどの不具合を生じることが少ない必要十分な引張強度を保持しつつ、木材ピッチおよび回収ダンボール古紙原料に付着していたガムテープ粘着糊などのガムピッチ汚れが付着し難く、且つ付着したガムピッチ汚れを洗浄しやすいなどの優れた防汚性を備えた、抄紙ドライヤーカンバスを代表とする工業用織物用原糸として極めて好適に利用し得るPPSモノフィラメントおよびこれを用いた各種工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため本発明によれば、ポリフェニレンサルファイド樹脂以外の成分として、カルナバワックス4〜7重量%を含有するポリフェニレンサルファイドモノフィラメントであって、JIS−L1013に記載の方法に準拠した引張強度が2.0cN/dtex以上であり、且つ布粘着ガムテープ貼付剥離法により測定した布粘着ガムテープ剥離応力値から下記式(1)にしたがって求めたガムピッチ防汚指数が90以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイドモノフィラメントが提供される。
ガムピッチ防汚指数=試験剥離応力値/比較サンプル剥離応力値×100・・(1)
【0013】
なお、本発明のPPSモノフィラメントにおいては、
前記、PPS樹脂のASTM D1238−86に記載の方法に準拠したMFRが110g/10分以下であること
が、好ましい条件として挙げられ、この条件を満足することによって一層高い引張強度の実現が可能となり、製織工程における糸切れなどの不具合を生じることがより少なくなる。
【0014】
また、本発明の工業用織物は、上記のPPSモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用することを特徴とし、特に抄紙ドライヤーカンバスを代表とする抄紙用織物において、木材ピッチおよび回収ダンボール古紙原料に付着していたガムテープ粘着糊などのガムピッチ汚れが付着し難く、且つ付着したガムピッチ汚れを洗浄しやすいなどの優れた防汚性を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明のPPSモノフィラメントに使用されるPPS樹脂とは、ポリマーの繰り返し単位がp−フェニレンサルファイド単位やm−フェニレンサルファイド単位からなるフェニレンサルファイド単位を含有するポリマーを意味する。これらのポリマー中でも、繰り返し単位の90%以上がp−フェニレンサルファイド単位からなるポリマーが好ましく用いられる。
【0017】
本発明において特に好ましく用いることのできるPPS樹脂は、p−ジクロルベンゼンに硫化ナトリウムを重縮合反応させることにより製造できるが、p−ジクロルベンゼンに10モル%未満のトリクロルベンゼンを分岐成分として共重縮合させることによって製造したものであってもよい。
【0018】
また、本発明で用いるPPS樹脂は、ASTM D1238−86によって測定されたMFRが110g/10分以下であるものが好ましく使用される。PPS樹脂のMFRが110g/10分を越える場合は、得られるモノフィラメントの引張強度が低下してしまい、製織時に糸切れしてしまうなど工程通過性に影響をきたしてしまうため好ましくない。
【0019】
ここで、市販品として使用できるPPS樹脂としては、例えば東レ(株)製であるE1880、E2080、E2280、E2481、M2488およびM2588などを挙げることができる。
【0020】
PPS樹脂は、通常粉末で得られるものであるが、溶融紡糸に供する前にエクストルダーなどで粉末PPS樹脂を融点以上の温度に加熱し、溶融・混練した後、必要に応じフィルター類で異物を濾過除去し、ガット状に押出して冷却し、その後カッティングするなどの方法によりペレット状に加工して用いることができる。そして、PPS樹脂粉体あるいはPPS樹脂ペレットは、概ね100〜180℃で5〜24時間程度、減圧真空下で乾燥してから紡糸に供することが好ましい。
【0021】
更に、使用するPPS樹脂は、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、窒化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジリコニウム酸など各種無機粒子や架橋高分子粒子のほか、従来公知の酸化防止剤、各種着色剤、各種界面活性剤、各種強化繊維類、フッ素樹脂類、ポリエステル類、ポリアミド類、およびポリオレフィン類などが添加されたものであってもよい。
【0022】
次に、本発明のPPSモノフィラメントはPPS樹脂以外の成分として、カルナバワックスを含有することを必須とする。ここでカルナバワックスとは、ヤシ科のパーム樹から採取されたカルナバロウを精製した天然系由来のものであり、ワックスエステル80〜85重量%、遊離脂肪酸3〜4重量%、遊離アルコール10〜12重量%および炭化水素1〜3重量%から構成される。ワックスは、蜜蝋やパラフィンワックス、モンタンワックスといった天然ワックス、アマイドワックスのような天然ワックスを変性させた半合成ワックス、およびポリエチレンやポリプロピレン、EVA、EAAといった合成ワックスの大きく分けて3分類あるが、その中でも極性が高く、且つ耐スリップ性に優れたカルナバワックスが、木材ピッチおよび回収ダンボール古紙原料に付着していたガムテープ粘着糊などのガムピッチ汚れに対して、非常に優れた防汚性を発揮することを見出した。更に、PPSモノフィラメント中のカルナバワックスの含有量は4〜7重量%であることが重要である。4重量%未満であると、ガムピッチ汚れに対する防汚性の持続性が不十分であり、また7重量%以上であると、モノフィラメントの引張強度が低下してしまうばかりか、モノフィラメントの製造工程において、エクストルダーなどに代表される紡糸機への原料供給が不安定となり紡出不能となったり、糸切れを発生したりして、紡糸操業性が悪化し、極めて好ましくない結果を招くこととなる。
【0023】
更に、本発明のPPSモノフィラメントは、JIS−L1013に記載の方法に準拠した引張強度が2.0cN/dtex以上であることが必須である。
【0024】
すなわち、引張強度が2.0cN/dtex以下では製織時に糸切れが頻発するなど、極めて好ましくない結果を招くこととなるばかりか、得られる工業用織物の実用強度までもが低くなるなどの悪影響を及ぼすこととなる。
【0025】
また、本発明におけるPPSモノフィラメントは、ガムピッチ汚れが付着し難く、且つ付着したガムピッチ汚れを剥がれやすくなるために、布粘着ガムテープ貼付剥離法による布粘着ガムテープ剥離応力測定試験方法において求めたガムピッチ防汚指数(カルナバワックスを含有しないPPS樹脂のみで組成されるPPSモノフィラメントを100とした時)が90以下であることが重要である。このガムピッチ防汚指数は小さいほどガムピッチ汚れに対して優れた防汚性を有していることを示し、ガムピッチ防汚性指数が90を越える値ではガムピッチ汚れに対する防汚性が不十分となってしまう。
【0026】
次に、本発明のPPSモノフィラメントの製造方法としては、従来公知の製法において製造が可能であり、特に制限はないが、通常は以下に述べる方法が好ましく適用される。
【0027】
すなわち、1軸もしくは2軸エクストルダーに、必要量の乾燥したPPS樹脂と所定量のカルナバワックス、あるいはカルナバワックスを高濃度に含有したPPSマスターバッチペレットを計量供給し、PPSの融点よりも20〜80℃高い温度で溶融混練した後、エクストルダー先端に設けた計量ギアポンプを介して紡糸口金より押し出し、70〜90℃の温水中で冷却固化させる。引き続き、得られた未延伸糸を、PPSのガラス転移温度以上の温度に調節された延伸浴または延伸雰囲気に導き、1段延伸または2段以上の多段延伸に供する。なお、トータル延伸倍率としては、3.5〜5.5倍程度の範囲が好ましく、更には、乾熱収縮率や繊維破断時の破断伸度などを調整するために、延伸工程通過後の延伸糸に対し、90〜280℃程度の温度雰囲気下で、0.8〜1.0倍程度の熱セットを行うことが望ましい。
【0028】
なお、カルナバワックスは通常粉末であるため、PPS樹脂とエクストルダーを用いて溶融紡糸する際に、スクリューバレル部にて噛み込み不良をきたしてしまい、紡糸操業性が悪化してしまう。そのため、あらかじめ1軸または2軸のエクストルダーなどでPPS樹脂とカルナバワックスをPPS樹脂の融点以上の温度に加熱し、溶融・混練した後、ガット状に押出して冷却し、その後カッティングするなどの方法によりカルナバワックスを高濃度に含有したPPSマスターバッチペレットとして紡糸に供することが好ましい。
【0029】
このようにして得られた本発明のPPSモノフィラメントの太さは、特に限定されるものではないが、工業用織物として使用する場合は0.05〜3mm、特に0.1〜2.5mmの範囲が好ましい。
【0030】
また、本発明のPPSモノフィラメントの断面形状についても、特に限定されるものではなく、円形、楕円形、三角形、正方形、扁平形、菱形、半月形、五角形以上の多角形、多葉形、ドッグボーン形および繭型などが挙げられるが、特に工業用織物の構成素材として用いる場合は、円形、楕円または扁平形であることが好ましい。
【0031】
かくしてなる本発明のPPSモノフィラメントは、木材ピッチおよび回収ダンボール古紙原料に付着していたガムテープ粘着糊などのガムピッチ汚れが付着し難く、且つ付着したガムピッチ汚れを洗浄しやすいなどの従来の技術では実現できなかった優れた防汚性を備え、更に工業用織物の加工工程において糸切れなどの不具合を生じることが少ない必要十分な引張強度を有することから、抄紙ドライヤーカンバスを代表とする各種工業用織物の構成素材として有用なものである。
【0032】
ここで、本発明における工業用織物とは、本発明のポリエステルモノフィラメントを織物の経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用した各種工業用途に使用される織物のことであり、例えば、抄紙ワイヤー、抄紙ドライヤーカンバスなどの抄紙機に装着される織物類のことである。抄紙ワイヤーは、平織、二重織および三重織など様々な織物として、紙の漉上げ工程で使用される織物のことで、長網あるいは丸網などとして用いられるものである。また、抄紙ドライヤーカンバスとは、平織り、二重織および三重織など様々な織物(相前後する緯糸と緯糸とがスパイラル状の経糸用モノフィラメントによって織継がれたスパイラル状織物を含む)として、抄紙機のドライヤー内で紙を乾燥させるために使用される織物のことであり、これら織物の中でも本発明のPPSモノフィラメントは、特にガムピッチ汚れが顕著である抄紙ドライヤーカンバスにて、優れた防汚性を発揮する。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
1.PPS樹脂のMFR
ASTM D1238−86に準拠して、316℃、オリフィス径2.095mm、オリフィス長さ8.00mm、荷重5kgの条件で測定した値であり、10分あたりの流出ポリマー量(g)で表される。
【0035】
2.モノフィラメントの引張強度
JIS−L1013に記載の方法に準拠して、引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)を使用して測定し、試料が切断したときの強力を求め、その強力を繊度で割り返して強度(cN/dtex)を求めた。
【0036】
3.モノフィラメントの防汚性
(布粘着ガムテープ貼付剥離法による布粘着ガムテープ剥離応力測定試験方法(以下、布粘着ガムテープ剥離試験という))
(1)厚さ150〜250μm、横巾30mm、縦長さ120mmのポリエチレンテレフタレート製2軸延伸フィルムを2枚用意し、各々のフィルムの30mm巾の一端同士を重ならないように合わせて、この合わせ面に、片面に粘着剤の塗布された25mm×25mmサイズの布粘着テープを、前記2枚のフィルムの両端に渡るように貼付することにより、接合部で縦方向に繋ぎ合わされた見かけの縦長さ約240mm、横巾30mmのフィルムを作成する。
【0037】
(2)前記の2枚が繋ぎ合わされたフィルムの前記布粘着テープの貼付されていない面のどちらか半分(一枚のフィルム)に、横巾10mm、縦長さ120mmの両面粘着テープ(日東電工(株)製品、No.523または同等品)を、前記フィルムと前記両面粘着テープの横巾方向のセンターを合わせて長手方向に揃えて貼付する。
【0038】
(3)長さ約200mmに切断したPPSモノフィラメント試料を、前記両面粘着テープを貼付したフィルムの粘着テープ上に、前記フィルムの長手方向と平行に隙間無く貼付し、前記両面粘着テープの長手方向の両端からはみ出している前記PPSモノフィラメントの余端を鋏で切除し、PPSモノフィラメント試料貼付フィルムを得る。
【0039】
(4)平坦な硝子板(厚さ約8mm、縦約250mm、横約80mm)の上に前記PPSモノフィラメント試料貼付フィルムを乗せ、PPSモノフィラメント貼付面を上向き、かつPPSモノフィラメント面が左側になるようにしてから、横巾10mm、縦長さ150mmに切断した片面に粘着剤が塗布された布粘着テープ(ニチバン(株)製、段ボール包装用強粘着テープ<LS>No.101Nまたは同等品)を、該布粘着テープの長手方向左端を前記PPSモノフィラメント試料貼付フィルムのPPSモノフィラメント面左端と合わせて、前記PPSモノフィラメント上に前記布粘着テープを仮貼付する。次いで、前記PPSモノフィラメント面右端に約30mm残っている前記布粘着テープを、前記フィルム面にしっかりと貼付する。
【0040】
(5)前記PPSモノフィラメント貼付フィルムを裏返して、前記(1)で2枚のフィルムを繋ぎ合わせるために貼付した前記布粘着テープを取り除く。
【0041】
(6)前記PPSモノフィラメント貼付フィルムのPPSモノフィラメント貼付面を上向きにし、PPSモノフィラメント貼付部分が硝子板上に完全に乗るようにセットして、前記PPSモノフィラメントの表面に仮貼付されている前記布粘着テープ上に、重量1.43kg、巾50mm、直径86mmのゴムローラーを、前記布粘着テープを重ねたフィルムの右長手方向から片道走行させ、前記布粘着テープを前記PPSモノフィラメント試料に貼付して剥離応力測定用試料を作成する。
【0042】
(7)前記剥離応力測定用試料の2枚のフィルムの接合部を支点にして、前記布粘着テープの貼付面が内側になるように山折りし、次いで山折りの支点部からPPSモノフィラメント上に貼付されている前記布粘着テープを長さ約10mm剥がし、露出したPPSモノフィラメント貼付フィルム端部を、引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)の上チャックの中央部にセットし、一方のPPSモノフィラメントの貼付されていない前記フィルムの下端(山折りの裾部)を、前記引張試験器の下チャックの中央部にセットして、引張速度100mm/分、チャートスピード100mm/分の条件で剥離応力を測定し、剥離応力の高い山と剥離応力の低い谷とが交互に連なった剥離応力チャートを得る。
【0043】
(8)得られた剥離応力チャートの最初の剥離応力の高い山から約20mm後の剥離応力の高い山を始点として、一個一個の交互の山と谷各40点の剥離応力を読み取り、その平均値をもって剥離応力とし、この測定をn10で行い、その平均値を布粘着ガムテープ剥離応力とする。
【0044】
なお、上記した布粘着ガムテープ剥離試験を採用することによって、製織することなく本発明のPPSモノフィラメントを構成素材とする織物の防汚性を定量的に相対評価することが可能で、布粘着ガムテープ剥離応力が低いほどガムピッチ汚れに対する防汚性が優れることを表す。また、通常の比較サンプルとなる布粘着ガムテープ剥離応力値をガムピッチ防汚指数100とし、ガムピッチ防汚指数が90を越える値では効果が得られないものとして、90未満を目標値と設定した。なお、下記式(1)によりガムピッチ防汚指数を求めた。
ガムピッチ防汚指数=試験剥離応力値/比較サンプル剥離応力値×100・・(1)
【0045】
4.製織時の工程通過性
PPSモノフィラメントを経糸に使用し、2重織の抄紙用ドライヤーカンバスを作製した。このドライヤーカンバスを長さ方向に5m製織するに際し、緯糸打ち込み時の糸切れ状況を確認し、以下の基準で判断した。
○…緯糸打ち込み時の糸切れが1回以下であった。
×…緯糸打ち込み時の糸切れが2回以上発生した。
【0046】
[実施例1]
乾燥したPPS樹脂(東レ(株)製PPSペレットE2080 MFR=91g/10分)を用い、PPS樹脂:カルナバワックス=60重量%:40重量%の配合比で、混練温度:320℃、L/D:30、スクリュー回転数:300rpmの条件で2軸押し出し機を用いて混練を行い、PPS中にカルナバワックスを混合した樹脂組成物を得た。
【0047】
乾燥したPPS樹脂および上記樹脂組成物を、組成比が、PPS樹脂:カルナバワックス=94重量%:6重量%となるように50mmの1軸エクストルダー型溶融紡糸機に供給し、320℃の温度で溶融混練した後、紡糸口金から紡出した。次いで、溶融状態の紡出糸を温水中に導いて冷却固化せしめた後、トータル延伸倍率が4.3倍、160℃の熱風によるヒートセットゾーンにて1.00倍で熱セットし、公知の油剤を付与しボビンに巻き取ることによって、直径0.40mmのPPSモノフィラメントを得た。得られたPPSモノフィラメントの引張強度、ガムピッチ防汚指数および製織時の工程通過性を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
カルナバワックスの含有量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmの断面形状が円形のPPSモノフィラメントを得た。
【0049】
[実施例3]
PPS樹脂のMFRを表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmの断面形状が円形のPPSモノフィラメントを得た。
【0050】
[比較例1〜3]
カルナバワックスの含有量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmの断面形状が円形のPPSモノフィラメントを得た。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の結果から明らかなように、本発明におけるPPSモノフィラメント(実施例1〜3)は、必要十分な引張強度を保持しつつ、ガムピッチ汚れに対して優れた防汚性を備えており、且つ製織工程において糸切れなどの不具合が生じる事が少なく、抄紙ドライヤーカンバスを代表とする工業用織物用途へ用いるPPSモノフィラメントとして、極めて好適に利用できるものであることがわかる。
【0053】
これに対して、本発明の規定を満たさないPPSモノフィラメント、つまりカルナバワックスの含有量が規定から外れたPPSモノフィラメント(比較例1〜3)は、引張強度または防汚性に欠け、また製織工程において糸切れなどの不具合が生じるなど、抄紙用ドライヤーカンバスを代表とする工業用織物用原糸としての要求特性を満足していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のPPSポリエステルモノフィラメントは、従来の技術では実現することのできなかった、工業用織物の製織工程において糸切れなどの不具合を生じることが少ない必要十分な引張強度を保持しつつ、木材ピッチおよび回収ダンボール古紙原料に付着していたガムテープ粘着糊などのガムピッチ汚れが付着し難く、且つ付着したガムピッチ汚れを洗浄しやすいなどの優れた防汚性を備えることから、抄紙ドライヤーカンバスを代表とする工業用織物用原糸として極めて好適に利用し得るものであり、産業上の利用価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド樹脂以外の成分として、カルナバワックス4〜7重量%を含有するポリフェニレンサルファイドモノフィラメントであって、JIS−L1013に記載の方法に準拠した引張強度が2.0cN/dtex以上であり、且つ布粘着ガムテープ貼付剥離法により測定した布粘着ガムテープ剥離応力値から下記式(1)にしたがって求めたガムピッチ防汚指数が90以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイドモノフィラメント。
ガムピッチ防汚指数=試験剥離応力値/比較サンプル剥離応力値×100・・(1)
【請求項2】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂のASTM D1238−86に記載の方法に準拠したMFRが110g/10分以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドモノフィラメント。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリフェニレンサルファイドモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする工業用織物。
【請求項4】
抄紙用織物であることを特徴とする請求項3に記載の工業用織物。
【請求項5】
抄紙ドライヤーカンバスであることを特徴とする請求項3または4に記載の工業用織物。

【公開番号】特開2011−219904(P2011−219904A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93184(P2010−93184)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】