説明

ポリフェニレンサルファイド樹脂製多孔体およびその製造方法

【課題】
クラックやヒケが生じないPPS樹脂製多孔体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明のPPS樹脂製多孔体は、気孔形成材が配合されたPPS樹脂を成形して成形体とした後、該気孔形成材を溶解し、かつ上記PPS樹脂を溶解しない溶媒を用いて上記成形体から上記気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有するPPS樹脂製多孔体であって、上記PPS樹脂と上記気孔形成材とを体積比で1対1で混合した混合物を、熱重量分析装置にて上記PPS樹脂製多孔体の成形温度まで昇温後、3 時間保持した場合、熱重量減少率が 20 重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイド樹脂製多孔体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連通孔率の調整が可能で、しかも安価な多孔体の製造方法として脱塩法が知られている。脱塩法は、塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムなどの粉末状の気孔形成材を樹脂やゴムなどに添加した成形材料を、気孔形成材を含む充実成形体として成形し、得られた充実成形体を水などで洗浄することにより気孔形成材を溶出して、気孔形成材が存在していた部分に気孔を形成する多孔体の製造方法である。
従来、脱塩法により連通孔率が高い多孔体を製造するものとして、常温では固体であるが、多孔体の骨格を形成する高分子物質の成形温度では溶融して液体状態として存在することができる気孔形成材を用いて多孔体を成形するもの(特許文献1参照)、粒状気孔形成材を高分子物質に分散させてなる成形材料を、該粒状気孔形成材の一部が溶融する温度で成形し、該成形体を上記高分子物質は溶解しないが上記気孔形成材は溶解する溶媒で洗浄することにより気孔を形成するもの(特許文献2参照)、特に連続気泡を有するポリオレフィン多孔体を製造するもの(特許文献3参照)などがある。
また、抽出物の分離および被抽出物の再利用を容易にするため、水溶性粉末からなる気孔形成材を用いて、これを温水により抽出するもの(特許文献4参照)がある。
【0003】
しかしながら、このような脱塩法では、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略称)樹脂と気孔形成材とが単独では、PPS樹脂製多孔体を形成する上記条件を備えていても、PPS樹脂と気孔形成材との組合わせによっては相互の化学的相性により成形時にPPS樹脂や気孔形成材が分解し、成形体にクラックやヒケが生じる問題がある。
【特許文献1】特開2001−2825号公報(段落「0011」)
【特許文献2】特開2002−194131号公報(段落「0009」)
【特許文献3】特開2002−60534号公報(段落「0004」)
【特許文献4】特開2002−322310号公報(段落「0007」、「0008」)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、クラックやヒケが生じないPPS樹脂製多孔体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のPPS樹脂製多孔体は、気孔形成材が配合されたPPS樹脂を成形して成形体とした後、該気孔形成材を溶解し、かつ上記PPS樹脂を溶解しない溶媒を用いて上記成形体から上記気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有するPPS樹脂製多孔体であって、上記PPS樹脂と上記気孔形成材とを体積比で1対1で混合した混合物を、熱重量分析装置にて上記PPS樹脂製多孔体の成形温度まで昇温後、3 時間保持した場合、上記混合物の熱重量減少率が 20 重量%以下であることを特徴とする。
上記気孔形成材は、水溶性物質であることを特徴とする。
上記気孔形成材は、上記PPS樹脂の成形温度より高い融点を有する物質であることを特徴とする。
上記気孔形成材は、アルカリ性の化合物であることを特徴とする。
上記アルカリ性の化合物は、炭酸カリウム、三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムおよび安息香酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1つの化合物であることを特徴とする。
【0006】
本発明のPPS樹脂製多孔体の製造方法は、上記熱重量分析装置にて測定された熱重量減少率が 20 重量%以下であるPPS樹脂と気孔形成材との組合せを確認する工程と、上記熱重量減少率が 20 重量%以下である組合せを確認された上記PPS樹脂と上記気孔形成材とを用い、該樹脂に該気孔形成材を配合する工程と、上記気孔形成材を含むPPS樹脂を成形して成形体とする工程と、上記気孔形成材を溶解し、かつ上記PPS樹脂を溶解しない溶媒を用いて上記成形体から上記気孔形成材を抽出する工程とを備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のPPS樹脂製多孔体は、簡便な熱重量分析を利用することにより、PPS樹脂と、気孔形成材との化学的相性を確認した組合せのPPS樹脂と気孔形成材とを用いて、成形するので、成形時においてクラックやヒケを生じない。
本発明のPPS樹脂製多孔体の製造方法は、簡便な熱重量分析を利用することにより、PPS樹脂と、気孔形成材との化学的相性を確認した工程を経た後で、PPS樹脂製多孔体を製造するので、クラックやヒケが生じない良好なPPS樹脂製多孔体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
クラックやヒケが生じない良好なPPS樹脂製多孔体を製造する方法を鋭意検討の結果、気孔形成材との化学的相性を簡便な熱重量分析で確認し、PPS樹脂と気孔形成材との組合わせを最適化することにより、成形時にPPS樹脂や気孔形成材が分解せず、良好な成形状態のPPS樹脂製多孔体が得られることがわかった。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0009】
PPS樹脂と気孔形成材とが単独では、PPS樹脂製多孔体を形成する上記条件を備えていても、PPS樹脂と気孔形成材との組合わせによっては相互の化学的相性により成形時にPPS樹脂や気孔形成材が分解し、成形体にクラックやヒケが生じる場合がある。
本発明に係る熱重量分析は、PPS樹脂と、気孔形成材との相互の化学的相性を確認する方法として採用するものである。後述の実施例に示すように、PPS樹脂と気孔形成材との混合物を熱重量分析装置を用いて、PPS樹脂の成形温度で 3 時間保持したときの、混合物の熱重量減少率が 20 重量%以下である場合には、良好な成形性を示すことから、本発明ではPPS樹脂と気孔形成材との混合物の熱重量減少率を、PPS樹脂と気孔形成材との化学的相性を確認する方法として採用したものである。
本発明ではこの方法によって、クラックやヒケのないPPS樹脂製多孔体の成形体を得ることができる。
本発明において、射出成形によってPPS樹脂製多孔体の精密成形品を得る場合には、成形時の金型転写性や成形品の熱収縮安定性等から、熱重量減少率は 10 重量%以下がより好ましいといえる。
【0010】
熱重量分析における雰囲気ガスとしては、空気を使用しても、空気酸化にともなう表面劣化は熱重量分析においては問題ない範囲であり、密封等の必要のない空気を使用することが好ましいが、成形方法が空気酸化にともなう表面劣化を防ぐ目的等で窒素等の不活性ガスを使用しているのであれば、その不活性ガスを雰囲気ガスとして用いる方がより好ましい。
分析試料としては、PPS樹脂と、気孔形成材との混合物であり、加熱する混合方法以外の方法で混合したものであればよく、粉末混合体や、溶媒中で混合し乾燥したものを用いることができる。
分析温度は、PPS樹脂の成形温度に設定すればよく、昇温速度を特に限定するものではない。
【0011】
本発明に係るPPS樹脂は、ベンゼン環がパラの位置で、硫黄結合によって連結された下記式(1)に示すポリマー構造を持つ結晶性の熱可塑性樹脂である。
【化1】

上記式(1)の構造を持つPPS樹脂は、融点 280℃、ガラス点移点 93℃、引張強度 49 MPa を有し、極めて高い剛性と、優れた耐熱性、寸法安定性、耐薬品性等を有するエンジニアリングプラスチックである。
本発明のPPS樹脂製多孔体に用いるPPS樹脂は、分子構造から架橋型、リニア型、セミリニア型などがあるが、これらの分子構造や分子量に限定されることなく使用することができる。
また、エポキシ変性やゴム変性などを加えて柔軟性を改善させたPPS樹脂も用いることができる。
PPS樹脂粉末、ペレットの粒径や形状は、溶融成形する場合には、溶融時に気孔形成材と混練されるので、特に限定されるものではない。ドライブレンドしてそのまま圧縮成形する場合には 1〜500μmの粒径が好ましい。
【0012】
本発明において気孔形成材は、PPS樹脂の成形温度よりも高い融点の物質を使用するが、これに限定されるものではなく、PPS樹脂の成形温度よりも高い融点の物質と、PPS樹脂の成形温度よりも低い融点の物質とを併用することもできる。
気孔形成材としては、PPS樹脂に配合されて成形体とされた後、そのPPS樹脂を溶解しない溶媒を用いて成形体から溶解されて抽出できる物質であれば使用できる。
気孔形成材は、無機塩化合物、有機塩化合物、またはこれらの混合物であることが好ましく、特に洗浄抽出工程が容易となる水溶性物質であることが好ましい。また、アルカリ性物質、好ましくは防錆剤として利用できる弱アルカリ塩を使用できる。弱アルカリ塩としては、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩、無機アルカリ金属塩、無機アルカリ土類金属塩などが挙げられる。未抽出分が脱落した時でも、比較的軟らかく、近接する部品を損傷し難いことから、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩を用いることが好ましい。なお、これらの金属塩は 1 種または 2 種以上混合して用いてもよい。また、洗浄用溶媒として安価な水を使用することができ、気孔形成時における廃液処理などが容易となることから水溶性の弱アルカリ塩を使用することが好ましい。
また、成形時における気孔形成材の溶解を防止するため、気孔形成材は使用するPPS樹脂の成形温度よりも高い融点の物質を使用することが好ましい。
本発明に好適に用いることができる水溶性有機アルカリ金属塩としては、安息香酸ナトリウム(融点 430℃)、酢酸ナトリウム(融点 320℃)、セバシン酸ナトリウム(融点 340℃)、コハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムなどが挙げられる。融点が高く、多種のPPS樹脂に対応でき、かつ水溶性が高いという理由から、安息香酸ナトリウムが特に好ましい。
無機アルカリ金属塩としては、例えば、硫酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、三リン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの中で、融点が高く、多種のPPS樹脂に対応でき、かつ水溶性が高いという理由から、炭酸カリウム、三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0013】
気孔形成材の割合は、PPS樹脂粉末、気孔形成材および充填材などの他の材料を含めた全量に対して、30 体積%〜90 体積%、好ましくは 40 体積%〜70 体積%とする。30 体積%以下ではPPS樹脂製多孔体の気孔が連続孔になり難く、90 体積%以上では所望の機械的強度が得られない。
また配合時において、気孔形成材の抽出に使用する溶媒に不溶な充填材を配合してもよい。例えば、該溶媒が水である場合には、PPS樹脂製多孔体の機械的強度を向上させるなどの目的で、ガラス繊維、炭素繊維などを配合してもよい。
【0014】
PPS樹脂材料と気孔形成材の混合法は特に限定されるものではなくドライブレンド、溶融混練などPPS樹脂の混合に一般に使用する混練法が適用できる。
また、気孔形成材を液体溶媒中に溶解させて透明溶液とした後、この溶液にPPS樹脂粉末を分散混合させて、その後、この溶媒を除去する方法を用いることができる。
分散混合させる方法としては、液中混合できる方法であれば特に限定されるものではなく、ボールミル、超音波分散機、ホモジナイザー、ジューサーミキサー、ヘンシェルミキサーなどが例示できる。また、分散液の分離を抑えるために少量の界面活性剤を添加することも有効である。なお、混合時においては、混合により気孔形成材が完全に溶解するよう溶媒量を確保する。
また、溶媒を除去する方法としては、加熱蒸発、真空蒸発、窒素ガスによるバブリング、透析、凍結乾燥などの方法を用いることができる。手法が容易で、設備が安価であることから加熱蒸発により液体溶媒の除去を行なうことが好ましい。
PPS樹脂に気孔成形材を配合した混合物の成形に関しては、圧縮成形、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、真空成形、トランスファ成形などの任意の成形方法を採用できる。また成形前に作業性を向上させるため、ペレットやプリプレグなどに加工してもよい。
【0015】
得られた成形体からの気孔形成材の抽出は、上記気孔形成材を溶解し、かつ上記PPS樹脂を溶解しない溶媒で成形体を洗浄することにより行なう。
該溶媒としては、例えば、水、および水と相溶しうる溶媒としてアルコール系、エステル系、ケトン系溶媒などを用いることができる。これらの中で、PPS樹脂および気孔形成材の種類によって上記条件に従い適宜選択される。また、これらの溶媒は 1 種または 2 種以上を混合し使用してもよい。廃液処理などが容易、安価などの利点から水を用いることが好ましい。
該抽出処理を行なうことにより、気孔形成材が充填されていた部分が溶解され、該溶解部分に連通孔が形成されたPPS樹脂製多孔体が得られる。
【実施例】
【0016】
以下に示す実施例および比較例の熱重量減少率は、JIS K 7120(1987)に規定される熱重量分析に準拠して、熱重量分析装置(セイコー電子工業社製示差熱熱重量同時測定装置TG/DTA220)を用いて測定した。
実施例1
PPS樹脂粉末(大日本インキ社製T4AG、融点 280℃)と炭酸カリウム粉末(和光純薬社製試薬、融点 891℃)とを、ジューサーミキサーにて混合し、その混合粉を熱重量分析装置にて熱重量減少率を測定した。
熱重量分析
条件;雰囲気ガス:空気、設定温度:330℃、昇温速度:10℃/分、設定温度到達後の保持時間:3 時間
結果;3 時間後の熱重量減少率は 6 重量%であった。
体積比 50:50 の割合でPPS樹脂粉末と、炭酸カリウム粉末とをラボプラストミルにて溶融混練した後、粉砕し、加熱圧縮成形法( 330℃×1 時間)にて直径φ30 mm×厚さ 20 mm の円筒成形体に成形した。成形体はクラックやヒケがまったくなく良好な成形状態であった。
また、成形体を 80℃の温水で超音波洗浄器にて 10 時間洗浄して炭酸カリウムを溶出させた。その後 100℃で 8 時間乾燥し、連通孔率 49%のPPS樹脂製多孔体を得た。このPPS樹脂製多孔体の成形状態も良好であった。
【0017】
実施例2
PPS樹脂粉末(大日本インキ社製T4AG、融点 280℃)と安息香酸ナトリウム粉末(和光純薬社製試薬、融点 430℃)とを、ジューサーミキサーにて混合し、その混合粉を熱重量分析装置にて熱重量減少率を測定した。
熱重量分析
条件;雰囲気ガス:空気、設定温度:330℃、昇温速度:10℃/分、設定温度到達後の保持時間:3 時間
結果;3 時間後の熱重量減少率は 2 重量%であった。
体積比 50:50 の割合でPPS樹脂粉末と、安息香酸ナトリウム粉末とをラボプラストミルにて溶融混練した後、粉砕し、加熱圧縮成形法( 330℃×1 時間)にて直径φ30 mm×厚さ 20 mm の円筒成形体に成形した。成形体はクラックやヒケがまったくなく良好な成形状態であった。
また、成形体を 80℃の温水で超音波洗浄器にて 10 時間洗浄して安息香酸ナトリウムを溶出させた。その後 100℃で 8 時間乾燥し、連通孔率 49%のPPS樹脂製多孔体を得た。このPPS樹脂製多孔体の成形状態も良好であった。
【0018】
実施例3
PPS樹脂粉末(大日本インキ社製T4AG、融点 280℃)と三リン酸ナトリウム粉末(太平化学産業社製トリポリリン酸ソーダ、Na5 P3 O10 、融点 988℃)とを、ミキサーにて混合し、その混合粉を熱重量分析装置にて熱重量減少率を測定した。
熱重量分析
条件;雰囲気ガス:空気、設定温度:330℃、昇温速度:10℃/分、設定温度到達後の保持時間:3 時間
結果;3 時間後の熱重量減少率は 1 重量%であった。
体積比 50:50 の割合でPPS樹脂粉末と、三リン酸ナトリウム粉末とをラボプラストミルにて溶融混練した後、粉砕し、加熱圧縮成形法( 330℃×1 時間)にて直径φ30 mm×厚さ 20 mm の円筒成形体に成形した。成形体はクラックやヒケがまったくなく良好な成形状態であった。
また、成形体を 80℃の温水で超音波洗浄器にて 10 時間洗浄して三リン酸ナトリウムを溶出させた。その後 100℃で 8 時間乾燥し、連通孔率 48%のPPS樹脂製多孔体を得た。このPPS樹脂製多孔体の成形状態も良好であった。
【0019】
実施例4
PPS樹脂粉末(大日本インキ社製T4AG、融点 280℃)とピロリン酸ナトリウム粉末(太平化学産業社製ピロリン酸ナトリウム無水、Na4 P2 O7 、融点 988℃)とを、ミキサーにて混合し、その混合粉を熱重量分析装置にて熱重量減少率を測定した。
熱重量分析
条件;雰囲気ガス:空気、設定温度:330℃、昇温速度:10℃/分、設定温度到達後の保持時間:3 時間
結果;3 時間後の熱重量減少率は 3 重量%であった。
体積比 50:50 の割合でPPS樹脂粉末と、ピロリン酸ナトリウム粉末とをラボプラストミルにて溶融混練した後、粉砕し、加熱圧縮成形法( 330℃×1 時間)にて直径φ30 mm×厚さ 20 mm の円筒成形体に成形した。成形体はクラックやヒケがまったくなく良好な成形状態であった。
また、成形体を 80℃の温水で超音波洗浄器にて 10 時間洗浄してピロリン酸ナトリウムを溶出させた。その後 100℃で 8 時間乾燥し、連通孔率 48%のPPS樹脂製多孔体を得た。このPPS樹脂製多孔体の成形状態も良好であった。
【0020】
なお、各実施例において、連通孔率は、PPS樹脂成形体において相互に連続している気孔の総体積がPPS樹脂成形体の体積に占める割合をいう。
具体的には、連通孔率は数1内の式(2)に示す方法で算出した。
【数1】

上記、数1において、各符号の意味を以下に示す。
V;洗浄前成形体の体積
ρ;洗浄前成形体の密度
W;洗浄前成形体の重量
1;PPS樹脂組成物の体積
ρ1;PPS樹脂組成物の密度
1;PPS樹脂組成物の重量
2;気孔形成材の体積
ρ2;気孔形成材の密度
2;気孔形成材の重量
3;洗浄後のPPS樹脂製多孔体の体積
3;洗浄後のPPS樹脂製多孔体の重量
V'2;洗浄後にPPS樹脂製多孔体に残存する気孔形成材の体積
【0021】
比較例1
PPS樹脂粉末(大日本インキ社製T4AG、融点 280℃)と炭酸カリウム粉末(和光純薬社製試薬、融点 891℃)とを、ミキサーにて混合し、その混合粉を熱重量分析装置にて熱重量減少率を測定した。
熱重量分析
条件;雰囲気ガス:空気、設定温度:330℃、昇温速度:10℃/分、設定温度到達後の保持時間:3 時間
結果;3 時間後の熱重量減少率は 30 重量%であった。
体積比 50:50 の割合でPPS樹脂粉末と、炭酸カリウム粉末とをラボプラストミルにて溶融混練した後、粉砕し、加熱圧縮成形法( 330℃×1 時間)にて直径φ30 mm×厚さ 20 mm の円筒成形体に成形した。成形体はクラックおよびヒケが生じていた。
【0022】
上記実施例および比較例の測定結果を表1に示す。
【表1】

比較例1の熱重量減少率は 30 重量%であり、成形体にはクラックおよびヒケが認められた。一方、実施例はすべて熱重量減少率は 20 重量%以下であり、成形体にはクラックおよびヒケが認められなかった。以上のことからPPS樹脂と、気孔形成材との化学的相性は、両者の混合物の熱重量減少率により把握することができ、両者の混合物の熱重量減少率が 20 重量%以下であれば化学的相性が良好で、かつ成形性も良好であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のPPS樹脂製多孔体は、簡便な熱重量分析で化学的相性を確認したPPS樹脂と、気孔形成材との組合せを用いて、成形されるので、クラックやヒケが生じない良好なPPS樹脂製多孔体の成形品となるため、自動車部品、機械部品、電器・電子部品等、特に熱収縮安定性の要求される精密成形部品に好適に利用できる。
また、耐熱性や機械的強度に優れるので高温用の緩衝材、フィルター、保温材として好適に利用できる。
また、本発明のPPS樹脂製多孔体に潤滑油を含浸したものは摺動材や軸受の保持器として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔形成材が配合されたポリフェニレンサルファイド樹脂を成形して成形体とした後、該気孔形成材を溶解し、かつ前記ポリフェニレンサルファイド樹脂を溶解しない溶媒を用いて前記成形体から前記気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有するポリフェニレンサルファイド樹脂製多孔体であって、
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂と前記気孔形成材とを体積比で1対1で混合した混合物を、熱重量分析装置にて前記ポリフェニレンサルファイド樹脂製多孔体の成形温度まで昇温後、3 時間保持した場合、前記混合物の熱重量減少率が 20 重量%以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂製多孔体。
【請求項2】
前記気孔形成材は、水溶性物質であることを特徴とする請求項1記載のポリフェニレンサルファイド樹脂製多孔体。
【請求項3】
前記気孔形成材は、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂の成形温度より高い融点を有する物質であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のポリフェニレンサルファイド樹脂製多孔体。
【請求項4】
前記気孔形成材は、アルカリ性の化合物であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のポリフェニレンサルファイド樹脂製多孔体。
【請求項5】
前記アルカリ性の化合物は、炭酸カリウム、三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムおよび安息香酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1つの化合物であることを特徴とする請求項4記載のポリフェニレンサルファイド樹脂製多孔体。
【請求項6】
熱重量分析装置にて測定された熱重量減少率が 20 重量%以下であるポリフェニレンサルファイド樹脂と気孔形成材との組合せを確認する工程と、
前記熱重量減少率が 20 重量%以下である組合せを確認された前記ポリフェニレンサルファイド樹脂と前記気孔形成材とを用い、該樹脂に該気孔形成材を配合する工程と、
前記気孔形成材を含むポリフェニレンサルファイド樹脂を成形して成形体とする工程と、
前記気孔形成材を溶解し、かつ前記ポリフェニレンサルファイド樹脂を溶解しない溶媒を用いて前記成形体から前記気孔形成材を抽出する工程とを備えてなることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂製多孔体の製造方法。