説明

ポリフェニレンサルファイド繊維からなるペーパーおよびその製造方法

【課題】
優れた耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性能を有することに加え、絶縁性能とクッション性とを兼備したペーパーであり、特に電気機器用の絶縁材、クッション材および緩衝材に好適なペーパーを提供する。
【解決手段】
PPS繊維を含んでなるペーパーであり、該ペーパーが50質量%以上のPPS繊維を含み、該ペーパーを構成する繊維の数平均繊維長が1〜4mmの範囲内にあり、かつ、ペーパーの見かけ密度が0.6〜1.2g/cmの範囲内にある。
このペーパーの製造方法は、メルトフローレートが150g/10分以上、かつ、繊維長が5mm以上である未延伸のPPS繊維を水に分散して叩解処理し、該PPS未延伸糸の平均繊維長を0.3〜3mmの範囲内とし、しかる後に抄紙するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイド繊維からなるペーパーとその製造方法に関するものであり、特に電気材料に好適な緩衝材用のペーパーおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐熱性と耐薬品性、更に耐加水分解性能や吸湿時の寸法安定性に優れているポリフェニレンサルファイド繊維(以下、PPS繊維と称することがある。)は、高機能繊維として用途が拡大しており、具体的に、高温のガス集塵に用いるフィルター、工業製品の乾燥工程に使用するドライヤー用カンバス、およびオフィス用コピー機のロール拭き取り材などの用途に用いられており、今後も適用用途の広がりを見せるとされる。
【0003】
特に今日では電気機器の絶縁材や緩衝材(クッション材)用途への検討がなされており、該用途においては絶縁性とクッション性とを兼備したPPS繊維からなるシート状物が要望されている。
【0004】
PPS繊維からなるシート状物として、例えば、メルトブロー法やローラーカードを用いたカーディング法で得られるものが公知である(例えば特許文献1、2参照)。メルトブロー法で得られたPPS繊維製の不織布は構成繊維径が細いことから、特に高密度のフィルターを製造する場合に好適に用いることができる。また特許文献1に記載のシート状物は、メルトブロー法で紡糸して得られたPPS繊維が、未延伸状態および/または半延伸状態をなし、かなり低温(例えば90〜95℃位)で軟化する性質を有しており、他の耐熱性繊維と熱接合させて形態保持性を良くすることができるものである。
【0005】
しかしながら特許文献1記載のシート状物はフィルター用途に好適なメルトブロー不織布であり、空隙率が高くて嵩高性のあるものであるため、空隙率の低いペーパーライクなものは不適とされていた。
【0006】
また特許文献2にはカーディング法で得られたPPS繊維製の不織布が記載されており、低密度で厚み方向に連続的な密度勾配を持つことから、フィルター用途に好適なことが知られている。この不織布はPPSの融点+20℃〜+40℃で熱処理することでPPS繊維を他の耐熱性繊維と十分に固着させて得られ、その密度を0.005〜0.05g/cmの範囲内にすることで捕集効率と形態保持性を両立している。
【0007】
しかしながら特許文献2に記載の不織布は、密度が0.05よりも高くなると繊維密度が高すぎるためPPS繊維の収縮溶融や耐熱性繊維の高温下での柔軟化によるバランスが悪化するため不適とされていた。
【0008】
別のPPS繊維からなるシート状物として長繊維からなる高密度紙状材が知られている(例えば特許文献3参照)。PPS重合体の長繊維(連続繊維)をウェッブ状に捕集した後、加熱下での熱プレス処理に施すことで、実質的に外部接着成分が用いられることなく、構成繊維どうしの自己接着により形態が保持されているPPS紙状材を得るものであり、密度0.04g/cc以上の非常に緻密で切断強度や引裂強力の強いことを特徴としている。
【0009】
たしかに特許文献3に記載の方法では、非常に緻密な紙状材を得ることができるが、特に温度130℃ないし250℃の加熱下でのプレス処理に供することにより繊維相互間の圧着と熱安定化処理を行うために繊維同士が固着して柔軟性を失い、緩衝材としては不適なものであった。
【0010】
別の紙状材として、捲縮を有するPPS繊維からなる湿式不織布が知られている(例えば特許文献4)。この湿式不織布は捲縮を有するPPS繊維を用いることで初めて、低目付でもシート強力が高く、かつ緻密で均一な紙を得ることを可能にしたものであるが、絶縁性とクッション性とを両立する紙を提供できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−174822号公報
【特許文献2】特開平3−249250号公報
【特許文献3】特開平3−891号公報
【特許文献4】特開平9−67786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明の課題は、PPS繊維を含むペーパーであって、絶縁性とクッション性とが優れるペーパーを提供することにあり、さらにはこの特性を生かした電気絶縁材および電気機器用緩衝材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。
(1)ポリフェニレンサルファイド繊維を50質量%以上含む不織布からなり、該不織布を構成する繊維の数平均繊維長が1〜4mmの範囲内にあり、かつ、見かけ密度が0.6〜1.2g/cmの範囲内にあることを特徴とするペーパー、
(2)ポリフェニレンサルファイド繊維が延伸糸と未延伸糸とを含み、かつ、未延伸糸が、ASTM D−1238−70に準じ、温度315.5℃、荷重5,000gでのメルトフローレートが150g/10分以上であることを特徴とする請求項1記載のペーパー、
(3)電気絶縁材用又は電気機器の緩衝材用である前記いずれかに記載のペーパー、
(4)メルトフローレートが150g/10分以上、かつ、繊維長が5mm以上である未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維を水に分散して叩解処理し、該ポリフェニレンサルファイド未延伸糸の数平均繊維長を0.3〜3mmの範囲内とし、これを抄紙の原液に含ませて抄紙することを特徴とする前記いずれかに記載のペーパーの製造方法、
(5)未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維を水に分散して叩解処理する際、分散剤を混合して処理することを特徴とする、前記ペーパーの製造方法、
(6)抄紙用の原液に更にポリフェニレンサルファイド延伸糸を含有させることを特徴とする前記いずれかに記載のペーパーの製造方法、
(7)ペーパーが電気機器の絶縁材用又は緩衝材用である前記いずれかに記載のペーパー、
(8)(9)前記ペーパー又は前記いずれかの方法で製造されたペーパーを用いた電気絶縁材又は電気機器の緩衝剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、PPS繊維が本来有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性能に加え、絶縁性能とクッション性とを兼備したペーパーならびにそれを用いた電気絶縁材または電機機器の緩衝材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明のペーパーはPPS繊維を50質量%以上含むことを必要とする。PPS繊維を50質量%以上含むペーパーはPPS繊維の有する耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性を発揮するのみならず、ペーパーを製造する工程で均一で緻密な構造を達成することができ、絶縁性能とクッション性を兼備する。
【0017】
ここでPPS繊維とは、ポリマー構成単位として−(C−S)−を主な構造単位とする重合体からなる合成繊維である。これらPPS重合体の代表例としては、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPPS重合体としては、ポリマーの主要構造単位として、−(C−S)−で表されるp−フェニレン単位を、好ましくは90質量%以上含有するポリフェニレンスルフィドが望ましい。また本発明で用いられるPPS繊維は、抄紙法に用いることから、その繊維長が5mm〜38mmの範囲内であるものを原料とすることが好ましい。繊維長が5mm〜38mmの範囲内であれば、水に分散してから叩解処理を施すことで繊維が十分に微細化し、数平均繊維長が0.3〜3mmの範囲内にあるPPS繊維を得ることが可能となる。数平均繊維長が0.3mmより長いPPS繊維を含むペーパーは、抄紙直後の濡れた状態(湿紙)で乾燥工程を通過させるのに必要な引張強力を有するのみならず、ペーパーの特に厚み方向に繰り返し応力が作用しても、応力が消失した時には厚さが回復する効果を発現できる。その原理は必ずしも明確にできていないが、微細化したPPS繊維がペーパーの平面内で均一に分散しつつペーパーの厚み方向にも向いて存在することから、本発明に必要な効果を有するのではないかと考えられる。また、数平均繊維長が3mmよりも短いPPS繊維を含むペーパーとすることにより、抄紙用の原液(ほとんどが水)に均一に分散が可能となり、非常に緻密で絶縁性能の高いペーパーを得ることができる。
【0018】
このように数平均繊維長が0.3〜3mmの範囲内にあるPPS繊維を採用し、本発明の効果を有するペーパーを得るために、ペーパーを構成する繊維全体の数平均繊維長は1〜4mmの間にあることを必要とする。そのために本発明は、数平均繊維長が0.3〜3mmの範囲内にあるPPS繊維を50質量%以上用いることが好ましいものである。
【0019】
ペーパーを構成する繊維全体の平均繊維長を1mm以上とすることで、抄紙直後の濡れた状態(湿紙)で乾燥工程を通過するのに必要な引っ張り強力を有し、かつ、ペーパーの特に厚み方向に繰り返し応力が作用しても、応力が消失した時には厚さが回復する効果を発現できるものである。またペーパーを構成する繊維全体の繊維長を4mm以下とすることで、抄紙用の原液(ほとんどが水)に均一に分散が可能となり、非常に緻密で絶縁性能の高いペーパーを得ることができる。
また、PPS繊維の太さについては、抄紙用の原液に繊維が凝集せずに均一分散できることから、単繊維繊度が0.1〜10dtexの範囲内にあるものが、50質量%以上、さらに70質量%以上含むものであることが好ましい。
また本発明のペーパーは、見かけ密度が0.6〜1.2g/cmの範囲内にある。見かけ密度が0.6g/cm以上のペーパーとすることで、電気機器用の絶縁材に必要な絶縁破壊強さを有するとともに、ペーパーの特に厚み方向に繰り返し応力が作用しても、応力が消失した時には厚さが回復する効果を発現できる。また見かけ密度を1.2g/cm以下とすることで、絶縁用ワニスの含浸性が十分であり、かつ、ペーパーの特に厚み方向に繰り返し応力が作用しても、応力が消失した時には厚さが回復する効果を発現できる。緻密となり見かけ密度が高くなったペーパーの場合、ペーパーの厚み方向に応力が作用してもペーパーが緻密すぎて厚みが変化せず、クッション性を発現できないものとなる。
【0020】
本発明で用いられるPPS繊維の製造方法は、上述のフェニレンサルファイド構造単位を有するポリマーをその融点以上で溶融し、紡糸口金から紡出することにより繊維状にする方法が好ましい。紡出された繊維は、そのままでは未延伸のPPS繊維である。該未延伸のPPS繊維は、その大部分が非晶構造で、熱を加えることで溶融し、冷却したところでバインダーとして働くことができる。一方、このような繊維は熱による寸法安定性が乏しいので、紡出に続いて熱延伸して配向させ、繊維の強力と熱寸法安定性を向上させた延伸糸も使用できる。PPS繊維としては、“トルコン”(登録商標)(東レ製)、“プロコン”(登録商標)(東洋紡製)など、複数のものが流通している。
【0021】
本発明のペーパーは、PPS繊維が延伸糸と未延伸糸と両方を含むものが好ましい。
PPS繊維として延伸糸と未延伸糸の両方を含むことで、未延伸糸が繊維同士を固着させて緻密化し、高い絶縁性能を発現することに加え、延伸糸どうしの交点は固着せずに存在することで、ペーパーの厚み方向に繰り返しの応力が作用しても延伸糸どうしがその配置を変化させて応力を緩和して緩衝効果を発現する。またペーパーの厚み方向への応力が除去された際には、固着した未延伸糸どうしが初期の状態に回復するよう作用し、クッション性を発現できるので好ましい。
このように絶縁性能とクッション性を両立するには、繊維全体における量としてはPPS繊維が50質量%以上であることを必要とし、該PPS繊維が延伸糸と未延伸糸と両方を含むものが好ましい。繊維全体に占める量としては、PPS延伸糸が10質量%以上、さらに15質量%以上、また50質量%以下、さらに40質量%以下の範囲であることが好ましい。PPS未延伸糸は、10質量%以上、さらに15質量%以上、一方70質量%%以下、60質量%以下の範囲内が好適である。延伸糸が上記範囲内で存在することで、ペーパーの厚み方向に繰り返しの応力が作用しても延伸糸どうしがその配置を変化させて応力を緩和する緩衝効果を発現できるので好ましい。また未延伸糸が上記の範囲内で存在することで、未延伸糸が繊維どうしを固着させて緻密化し、高い絶縁性能を発現することに加え、ペーパーの厚み方向への応力が除去された際には、固着した未延伸糸どうしが初期の状態に回復するよう作用し、クッション性を発現できるので好ましい。
【0022】
また本発明で使用できる未延伸のPPS繊維は150g/10分以上のメルトフローレートを有するのが好ましい。ここでいうメルトフローレートはASTM D−1238−70に準じ、温度315.5℃、荷重5,000gにて評価するものである。メルトフローレートが小さいPPS未延伸糸を用いると、繊維どうしを固着させて緻密化させる作用が不十分となり好ましくない。より好適にはメルトフローレートは150〜500g/10分の範囲内であることが、繊維どうしを十分に固着させることが可能であり、かつ、ペーパーとしての引張強力や破裂強力も十分に高いものを得ることが可能となるので好ましい。
【0023】
本発明のペーパーは耐熱性、耐加水分解性さらには絶縁性能とクッション性という観点から50質量%以上のPPS繊維を含むことを必要とする。該ペーパーを構成する他の繊維としては電気機器用の資材として実績のあるポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、セルロース繊維、パルプ、ポリアミド繊維、全芳香族ポリアミド繊維などが例示されるが、中でも難燃性能と絶縁性能に良好な影響を与えることから、セルロース繊維の中でもレーヨン繊維、特に防炎レーヨン繊維が好適に使用できる。防炎レーヨン繊維は本発明のペーパーを構成する繊維全体において、50質量%未満、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0024】
このように本発明のペーパーは、上記構成をとることにより、高い絶縁性能とクッション性および緩衝効果を有するので、絶縁材や緩衝材に代表される電気機器用の資材に広く好適に用いることができる。中でも特に絶縁油や電解液に接する絶縁材や緩衝材として特に好適に用いることが出来る。
【0025】
本発明のペーパーの製造方法としては、メルトフローレートが150g/10分 以上、かつ、繊維長が5mm以上であるPPS繊維を水に分散して叩解処理し、該PPS繊維の平均繊維長を0.3〜3mmの範囲内とし、しかる後に抄紙するものであることが好ましい。
【0026】
未延伸のPPS繊維を含有させる場合、未延伸のPPS繊維は繊維長が5mm〜38mmの範囲内であるものが好ましく、汎用の叩解手法で平均繊維長が0.3〜3mmの範囲内にある微細なPPS繊維を得ることが出来る。ここでいう汎用の叩解手法として、パルパー、ビーター、リファイナー処理装置の中から適宜選択して採用することができる。ビーターを用いる場合には、未延伸PPS繊維の6mmカットしたものを0.1質量%以上、1質量%未満の濃度で水に分散し、30分〜5時間叩解処理することで、平均繊維長が0.3〜3mmの範囲内にある微細な未延伸PPS繊維を得ることができる。繊維を水に分散して叩解処理する際の繊維の濃度は重要であり、1質量%以上の濃度で処理すると叩解処理における物理的なすり潰しが十分に作用せず、所望の微細な繊維長とすることが出来なくなるので、より好ましくは0.1〜0.6質量%の濃度が好ましい。
【0027】
得られた微細なPPS繊維が水に分散している抄紙用原液を用い、抄紙することでペーパーを得る。抄紙機は一般的な構造のものであれば問題なく採用することができ、円網、長網および短網のいずれでも良い。得られた湿紙をベルト上に載せて、水を絞りつつ乾燥して巻き取ることにより、本発明のペーパーを得る。
【0028】
得られた湿紙の水分を乾燥除去する際は抄紙機とそれに付属するドライヤーパートを用いることができる。ドライヤーパートにおいては抄紙機で漉き上げた湿紙をベルト上に転写し、2つのベルト間に挟んで水を絞りつつ回転ドラムにて乾燥する工程を用いることができる。回転ドラムの乾燥温度を90〜120℃の乾燥温度にすることで水分を効率良く除去でき、かつ、未延伸のPPS繊維に含まれる非晶成分が軟化せずに残留し、後に続くカレンダー装置での加熱・加圧プレスによって融着が十分に発生するので好ましい。
【0029】
また本発明のペーパーは、数平均繊維長が1〜4mmの範囲内にある繊維を抄紙して得るが、ペーパーを構成する繊維のうちPPS繊維として未延伸PPS繊維と延伸PPS繊維との混抄紙が好適に用いることができる。未延伸糸と延伸糸との混抄紙の製造方法は、平均繊維長が0.3〜3mmの範囲内にある未延伸PPS繊維が水に分散した抄紙原液中に、延伸PPS繊維を所定量混合し、しかる後に抄紙することが好ましい。延伸PPS繊維を混抄することで、0.3〜3mmの微細化した未延伸PPS繊維と延伸PPS繊維とが絡まりあって漉き上げられるため、得られるペーパーが均一で緻密なものとなって本発明に特有の絶縁性能とクッション性および緩衝効果を発現可能となる。更にまた、円網などで漉き上げた湿紙をベルト上に転写する際、十分な湿紙強力を有するので工程通過性に優れることから好ましい。
【0030】
本発明のペーパーの好ましい製造方法は、水分を乾燥除去した後にカレンダー装置で加熱・加圧プレス処理を行うものである。カレンダー装置は2本のロールが1対以上で形成され、加熱と加圧手段を有するものであれば良く、ロールの材質として金属、ペーパー、ゴムなどを適宜選択して用いることができるが、不織布表面の微細な毛羽を減少させるためには鉄などの金属のロールが好適に用いられる。またロールの材質についてより別の好ましい態様としては、2本のうち一方を金属に、他方をペーパーにすることも好ましい。
【0031】
ロールの好ましい表面温度は150〜220℃の範囲内であり、ロール間の圧力については100〜8,000N/cmの線圧範囲が好ましく採用できる。この範囲の線圧を採用することで、未延伸のPPS繊維が十分に融着して不織布の強力を発現しつつ、未延伸糸が繊維どうしを固着させてペーパーが緻密化し、高い絶縁性能を発現することに加え、ペーパーの厚み方向への応力が除去された際には、固着した未延伸糸どうしが初期の状態に回復するよう作用し、クッション性を発現できるので好ましい
また本発明のペーパーの製造方法は、未延伸のPPS繊維を水に分散して叩解処理する際、分散剤を混合して処理することが好ましい。分散剤はポリエチレンオキサイド系の水溶性ポリマー、アクリル酸系ポリマー、カルボン酸型高分子界面活性剤などから適宜選択して利用できるが、中でもカルボン酸型高分子界面活性剤が分散性が良く好ましい。未延伸のPPS繊維を水に分散して叩解処理する際、分散剤を添加することで叩解作用が十分発現し、繊維の塊や毛玉のような不均一繊維を生じないので好ましい。繊維の塊や毛玉のない抄紙原液を用いてペーパーとすることで、絶縁破壊を生じるピンホールが生じず、更にクッション材としても均一な性能を発揮するので好ましい。
【0032】
本発明のペーパーは電気機器の絶縁材用途、緩衝材に好適に用いることができる。なぜなら電気機器に使われる部材、例えば絶縁油やプリント回路基板などは使用中に膨張や収縮が発生するため、これらの絶縁材やプリント回路基板に接する部材にも形状が追随する性能が求められる。本発明のペーパーは高い絶縁性能に加え、従来のフィルムや不織布にはないクッション性および緩衝効果を有することから、特に電気機器の絶縁材、緩衝材に好適に用いることができる。
【実施例】
【0033】
次に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
[測定・評価方法]
(1)繊維のメルトフローレート
測定温度315.5℃、5,000g荷重とし、ASTM D−1238−70に基づいて測定した。10分あたりの流出ポリマー量(g)をメルトフローレートの値とした。
(2)数平均繊維長
バルメットオートメーション(株)製の繊維長測定装置FS−200を用いて測定した。
(3)ペーパーの目付
JIS L 1906:2000に準じて、25cm×25cmの試験片を1枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0035】
(4)ペーパーの厚さ
JIS L 1906:2000で準用するJIS L 1096:1999に準じて、試料の異なる10か所について、厚さ測定機を用いて、直径22mmの加圧子による2kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0036】
(5)ペーパーの見かけ密度
上記の手順で測定したペーパーの目付(平均値)をペーパーの厚さ(平均値)で除し、ペーパーの見かけ密度を算出した。
(6)ペーパーの絶縁破壊強さ
JIS K 6911:1995に準じて測定した。試料の異なる5か所から約10cm×10cmの試験片を採取し、直径25mm、質量250gの円盤状の電極で試験片を挟み、試験媒体には空気を用い、0.25kV/秒で電圧を上昇させながら周波数60Hzの交流電圧をかけ、絶縁破壊したときの電圧を測定した。測定には、絶縁破壊耐電圧試験機(安田精機製作所社製)を使用した。得られた絶縁破壊電圧をあらかじめ測定しておいた中央部の厚さで割り、絶縁破壊強さを算出した。
(7)ペーパーのクッション性
10cm×10cmの試験片を1枚採取し、油性インクでマーキングした16点の厚みを測定した。厚み測定は直径22mmの加圧子による2kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定した。
次に100℃、245×10N/mの荷重で1分間、加熱プレスを実施した。その後、マーキングした場所の厚みを上述の方法で再測定し、次式で厚み変化率を算出した。なお加熱プレスは(株)三浦プレス製作所の60トンプレス装置を用いた。
厚み変化率(%)=(プレス前の厚み−プレス後の厚み)/(プレス前の厚み)×100
厚み変化率を算出した16点を5%刻みで加算し、最も点数の多い厚み変化率をクッション性(%)とした。電気機器の緩衝材として好ましい範囲を想定し、11〜15%の範囲内にあるペーパーを「優」、6〜10%もしくは16〜25%の範囲内にあるペーパーを「良」、それ以外を「不可」と判定した。

(PPS繊維の未延伸糸)
未延伸のPPS繊維として、単繊維繊度3.0dtex(直径17μm)、カット長6mmの東レ社“トルコン”(登録商標)、を用いた。未延伸のPPS繊維としてメルトフローレートが120、180、220、250g/10分の4種類を用意した。
【0037】
(PPS繊維の延伸糸)
延伸されたPPS繊維として、単繊維繊度1.0dtex(直径10μm)、カット長6mmの東レ製“トルコン”(登録商標)、品番S301を用いた。
【0038】
(防炎レーヨン繊維)
防炎レーヨン繊維として、単繊維繊度3.3dtex、カット長5mmのダイワボウレーヨン社製“FR CORONA”(登録商標)を用いた。
【0039】
(叩解処理)
容量が23Lの試験用ナイヤガラビーター(熊谷理機工業社製)を用いた。なお荷重は1kgで統一し、繊維の濃度は0.5質量%で処理した。
(手漉きの抄紙機)
底に140メッシュの手漉き抄紙網を設置した大きさ25cm×25cm、高さ40cmの手すき抄紙機(熊谷理機工業社製)を用いた。
【0040】
(加熱・加圧工程)
鉄ロールとペーパーロールとからなるカレンダー加工機(由利ロール社製)を使用して加熱・加圧工程を施した。ロール回転速度は5m/分で統一した。
【0041】
[実施例1]
PPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸とを準備し、PPS繊維の未延伸糸のみを3時間、叩解処理した。得られたPPS繊維の未延伸糸は繊維が微細化し、数平均繊維長が0.9mmと短くなっていた。このPPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸とを表1の質量比率になるように混合して水に分散して抄紙原液とした。得られた抄紙原液中の繊維全体の数平均繊維長は表1の通りであった。
【0042】
水への分散性を良くするため、花王製界面活性剤「ポイズ520」(商標)を添加してミキサーで混合した。その後、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成し、カレンダー加工機で温度は190℃、線圧は2,000N/cmの条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。得られたペーパーは絶縁性能とクッション性の両方に優れるものであった。
【0043】
[実施例2]
PPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸とを準備し、PPS繊維の未延伸糸のみを3時間叩解処理した。PPS繊維の未延伸糸は数平均繊維長が0.9mmと短くなっていた。得られたPPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸とを表1の質量比率になるように混合して水に分散し、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成した。分散剤は添加しなかった。続いてカレンダー加工機で、実施例1と同条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。PPS繊維の未延伸糸としてメルトフローレートが120g/10分のものを用いたため、実施例1に比べて繊維どうしの固着が少なかったため、得られたペーパーはクッション性がやや大きいが優れており、絶縁性能も高いものであった。
【0044】
[実施例3]
PPS繊維の未延伸糸のみを用いて30分間叩解処理した。得られたPPS繊維の未延伸糸を水に分散し、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成した。分散剤は添加しなかった。続いてカレンダー加工機で温度は200℃、線圧は4,000N/cmの条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。PPS繊維の延伸糸を用いなかったため、未延伸糸が繊維どうしを固着させて緻密化したことで高い絶縁性能を発現したが、延伸糸どうしの交点が無いため、クッション性を評価した時に厚みの変化量が少なく、クッション性はやや小さいが優れるものであった。
【0045】
[実施例4]
PPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸とを準備し、PPS繊維の未延伸糸のみを30分間叩解処理した。PPS繊維の未延伸糸は数平均繊維長が2.8mmであった。得られたPPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸とを表1の質量比率になるように混合して水に分散し、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成した。分散剤は添加しなかった。続いてカレンダー加工機で、実施例1と同条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。PPS繊維の未延伸糸としてメルトフローレートが120g/10分のものを用いたため、実施例1に比べて繊維どうしの固着が少なかったため、クッション性を評価した時に厚みを回復する効果が少なく、クッション性はやや大きいが優れるものであった。また絶縁性能も高いものであった。
【0046】
[比較例1]
PPS繊維の延伸糸のみを用いて水に分散し、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成した。分散剤は添加しなかった。続いてカレンダー加工機で、実施例1と同条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。PPS繊維の未延伸糸を用いなかったため、繊維どうしの固着が無く、緻密化しなかったために絶縁性能が低いものであった。更に、繊維どうしの固着が無いため、クッション性を評価した時に厚みを回復する効果が少なく、クッション性が大きくて電機機器用の緩衝材として使用できないものであった。
【0047】
[実施例5]
PPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸とを準備し、PPS繊維の未延伸糸のみを30分間叩解処理した。PPS繊維の未延伸糸は数平均繊維長が2.8mmであった。得られたPPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸とを表1の質量比率になるように混合して水に分散し、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成した。分散剤は添加しなかった。続いてカレンダー加工機で、実施例1と同条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。絶縁性能、クッション性のいずれにも優れるペーパーであったが、分散剤を添加しなかったので、ペーパー中に若干の毛玉が存在していた。
【0048】
[比較例2]
PPS繊維の未延伸糸のみを用いて6時間叩解処理した。PPS繊維の未延伸糸は数平均繊維長が0.1mmであった。得られたPPS繊維の未延伸糸を水に分散し、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成した。分散剤は添加しなかった。続いてカレンダー加工機で温度は210℃、線圧は4,000N/cmの条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。PPS繊維の延伸糸を用いなかったため、未延伸糸が繊維どうしを固着させて樹脂化し、緻密化したことで高い絶縁性能を発現したが、未延伸糸どうしの交点がほとんど樹脂化したため、クッション性を評価した時に厚みの変化量がほとんど無く、電気機器用の緩衝材としては使用できないものであった。
【0049】
[比較例3]
PPS繊維の未延伸糸のみを水に分散し、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成した。分散剤は添加しなかった。続いてカレンダー加工機で温度は210℃、線圧は4,000N/cmの条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。PPS繊維の延伸糸を用いなかったため、未延伸糸が繊維どうしを固着させて樹脂化し、緻密化したことで高い絶縁性能を発現したが、未延伸糸の平均繊維長が長いためにペーパー中に空隙が若干あり、地合の均一さに欠けるペーパーであった。またクッション性を評価した時に厚みの変化量がほとんど無く、電気機器用の緩衝材としては使用できないものであった。
【0050】
[実施例6]
PPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸、更に防炎レーヨン繊維とを準備し、PPS繊維の未延伸糸のみを3時間叩解処理した。PPS繊維の未延伸糸は数平均繊維長が0.9mmであった。得られたPPS繊維の未延伸糸と、PPS繊維の延伸糸および防炎レーヨン繊維を表1の質量比率になるように混合して水に分散し、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成した。分散剤は添加しなかった。続いてカレンダー加工機で、実施例1と同条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。PPS繊維の延伸糸と未延伸糸とを合わせて70質量%とペーパー全体に占めるPPS繊維の割合はやや少なかったが、絶縁性能とクッション性とが良好なペーパーが得られた。
【0051】
[実施例7]
PPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸、更に防炎レーヨン繊維とを準備し、PPS繊維の未延伸糸のみを3時間叩解処理した。PPS繊維の未延伸糸は数平均繊維長が0.9mmであった。得られたPPS繊維の未延伸糸と、PPS繊維の延伸糸および防炎レーヨン繊維を表1の質量比率になるように混合して水に分散し、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成した。分散剤は添加しなかった。続いてカレンダー加工機で、実施例1と同条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。PPS繊維の延伸糸と未延伸糸とを合わせて50質量%とペーパー全体に占めるPPS繊維の割合は実施例7よりも更に少なかったが、絶縁性能とクッション性とが良好なペーパーが得られた。
[比較例4]
PPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸、更に防炎レーヨン繊維とを準備し、PPS繊維の未延伸糸のみを3時間叩解処理した。PPS繊維の未延伸糸は数平均繊維長が0.9mmであった。得られたPPS繊維の未延伸糸と、PPS繊維の延伸糸および防炎レーヨン繊維を表1の質量比率になるように混合して水に分散し、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成した。分散剤は添加しなかった。続いてカレンダー加工機で、実施例1と同条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。PPS繊維の延伸糸と未延伸糸とを合わせて30質量%しか使用しなかったため、絶縁性能が低く、クッション性を評価した時に厚みを回復する効果がほとんど無く、電機機器用の緩衝材としては使用できないものであった。
[比較例5]
PPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸、更に防炎レーヨン繊維とを準備し、PPS繊維の叩解処理をしないで、PPS繊維の未延伸糸とPPS繊維の延伸糸および防炎レーヨン繊維を表1の質量比率になるように混合して水に分散し、手漉きの抄紙機を用いて湿紙を作成した。分散剤は添加しなかった。続いてカレンダー加工機で、実施例1と同条件で加熱・加圧処理し、ペーパーを得た。PPS繊維の延伸糸と未延伸糸とを合わせて10質量%しか使用しなかったため、繊維どうしの固着がなく、絶縁性能が低く、クッション性を評価した時に厚みを回復する効果がほとんど無く、電機機器用の緩衝材としては使用できないものであった。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から明らかなように、実施例1〜7はいずれもクッション性が6〜25%の適正な性能を示し、かつ、絶縁破壊強さも10kV/mm以上と高い数値を示すので、電気機器用の絶縁材、クッション材として極めて好適な性能を有するものであった。中でも実施例1と実施例5のペーパーは、クッション性が11〜15%の極めて好ましい性能を有し、かつ、絶縁破壊強さも高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のペーパーは電気絶縁性、クッション性に優れることから、電気絶縁用途、電気機器の緩衝材に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド繊維を50質量%以上含む不織布からなり、該不織布を構成する繊維の数平均繊維長が1〜4mmの範囲内にあり、かつ、見かけ密度が0.6〜1.2g/cmの範囲内にあることを特徴とするペーパー。
【請求項2】
ポリフェニレンサルファイド繊維が延伸糸と未延伸糸とを含み、かつ、未延伸糸がASTM D−1238−70に準じ、温度315.5℃、荷重5,000gでのメルトフローレートが150g/10分以上であることを特徴とする請求項1記載のペーパー。
【請求項3】
電気絶縁材用又は電気機器の緩衝材用である請求項1または2いずれかに記載のペーパー。
【請求項4】
メルトフローレートが150g/10分以上、かつ、繊維長が5mm以上である未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維を水に分散して叩解処理し、該ポリフェニレンサルファイド未延伸糸の数平均繊維長を0.3〜3mmの範囲内とし、これを抄紙の原液に含ませて抄紙することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のペーパーの製造方法。
【請求項5】
未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維を水に分散して叩解処理する際、分散剤を混合して処理することを特徴とする、請求項4に記載のペーパーの製造方法。
【請求項6】
抄紙用の原液に更にポリフェニレンサルファイド延伸糸を含有させることを特徴とする請求項4または5記載のペーパーの製造方法。
【請求項7】
ペーパーが電気機器の絶縁材用又は緩衝材用である請求項4〜6いずれかに記載のペーパー。
【請求項8】
請求項1若しくは2のペーパー又は請求項3〜5いずれかの方法で製造されたペーパーを用いた電気絶縁材。
【請求項9】
請求項1若しくは2のペーパー又は請求項3〜5いずれかの方法で製造されたペーパーを用いた電気機器の緩衝材。

【公開番号】特開2012−127018(P2012−127018A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279079(P2010−279079)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】