説明

ポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法

【課題】本発明の課題は、製糸時の毛羽・糸切れ等が少なく、連続紡糸性にも優れ、安価に製造することができ、また高強度化しても前記生産性を損なうことなく寸法安定性にも優れるポリフェニレンサルファイド繊維を製造する方法の提供することにある。
【解決手段】ズリ速度8000〜14000sec−1で紡糸口金を通して紡出した糸条を一旦巻取ることなく、総合延伸倍率3〜4.5倍で延伸することを特徴とするポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法に関するものである。詳しくは、産業資材用途に適した高強度・高タフネスで寸法安定性に優れたポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、製糸時の毛羽・糸切れ等が少なく、高い生産効率でポリフェニレンサルファイド繊維を得ることができる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイドは、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気絶縁性等に優れた特性を具備しており、過酷な環境下で使用される高性能エンジニアリングプラスチックとして知られている。繊維の分野においても、素材の特徴をいかし、その用途が拡大されつつあり、これらの繊維を高い生産性で製造する方法についても種々の技術が提案されているが、現在の技術では汎用の重合体であるポリエステル繊維やポリアミド繊維等と比べると未だ長期的な観点では製糸性や毛羽品位の面で劣るのが現状である。従来提案されたポリフェニレンサルファイド繊維を製造する方法はいずれも短期的な生産性向上にのみ寄与するものであって、高融点のポリフェニレンサルファイド繊維を長期的にも安定して生産する技術はほとんど開示されていない。
【0003】
特許文献1には、強度等の繊維特性が優れ、毛羽やデニール斑等の欠点が少ないポリフェニレンサルファイド繊維を工業的に効率よく製造する方法が開示されている。しかしながら特許文献1で提案された方法では、得られる繊維が4.9g/d以下、即ち4.3cN/dtex以下の強度であり、これ以上の高強度糸を得ようとすると製糸性や寸法安定性を損ねるものであった。また、実際に得られた160℃乾熱収縮率も4%程度であって、比較例を参酌すると、3%未満の繊維を得ようとすると著しく製糸性が悪化することが開示されている。
【0004】
また特許文献2には、特定の口金孔を有する紡糸口金を用い、汎用の重合体による溶融紡糸では選択されない特異的な1次延伸倍率を選択することで、高強度、高タフネスの特性を備え、毛羽品位に優れたポリフェニレンサルファイド繊維を高い生産効率、かつ優れた収率で製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載の技術では、1000m/分を越える速度で引き取った未延伸糸条を延伸する場合は満足できる製糸性を得られないばかりか、5cN/dtexを越えるような高強度なポリフェニレンサルファイド繊維を安定して製造することは困難であった。また、実施例に開示された口金を用いても、ズリ速度が小さく不十分であったため、長期間安定した生産はできないものであった。
【0005】
特許文献3には、融点が260〜300℃の高融点合成樹脂の溶融紡糸に際し、低い紡糸剪断速度を採用することで、長期間安定した連続紡糸性に優れた合成繊維を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載の技術を約285℃の融点を有するポリフェニレンサルファイド繊維に用いても、口金修正周期が延長されるような連続紡糸性向上効果が認められないばかりか、むしろ短期間での製糸性も悪化する傾向にあった。
【0006】
特許文献4には、単糸繊度が10〜100dtexのような単糸太繊度ポリフェニレンサルファイド繊維を製造するに際し、付着させる油剤として、1段目に付着油分量が固形分として0.1〜1重量%となるように水系エマルジョン油剤付与し、2段目に非水系油剤を付与し総付着油分量を0.5〜2重量%とすることで製糸性および毛羽品位が向上することが開示されている。
【0007】
また特許文献5には、ポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法において、特に延伸条件による製糸性や毛羽品位の向上と延伸後の定長処理と弛緩処理を実施することで熱的寸法安定性に優れたポリフェニレンサルファイド繊維を得る製造方法が開示されている。しかしながらポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法において、特に単糸を太繊度化するに連れて悪化する製糸性や毛羽品位について、更なる改善を要するレベルであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3797459号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2001−262436号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2007−119971号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2009−185438号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2009−215680号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、従来のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法に比べ、製糸時の毛羽・糸切れ等が少なく、連続紡糸性にも優れ、安価に製造することができ、また高強度化しても前記生産性を損なうことなく寸法安定性にも優れるポリフェニレンサルファイド繊維を製造する方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的の達成のために本発明によれば、ポリフェニレンサルファイド樹脂をズリ速度8000〜14000sec−1で紡糸口金を通して溶融紡糸し、紡出した糸条を引き取った後一旦巻取ることなく、総合延伸倍率3〜4.5倍の延伸工程で延伸することを特徴とするポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法が提供される。
【0011】
なお、本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法においては、
引取速度が400〜1500m/分であること、
延伸工程が90〜250℃の温度で多段延伸熱処理後、150〜250℃の温度で定長処理し、70〜180℃の温度で弛緩処理する工程であること、および
紡糸口金からの単孔吐出量が1〜10g/分であること、
がいずれも好ましい条件であり、これらの条件の適用によりさらに優れた効果を期待することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下に説明するとおり、高強度、高タフネスで寸法安定性に優れた産業資材用途に好適なポリフェニレンサルファイド繊維を高品位かつ高い生産効率で長期的にも安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法の模式図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】

以下、本発明について図1の製造方法の模式図の一例を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法においては、溶融したポリフェニレンサルファイド樹脂を、ズリ速度8000〜14000sec−1で紡糸口金1を通して紡出することが必要であり、好ましくは10000〜12000sec−1である。
【0016】
従来提案されている高生産性のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法は、紡糸張力を高くしたり、1.5倍以下のわずかな延伸後2〜4倍の延伸を行うといった延伸前糸条の配向を高めることが主要な手段であった。付加的にこの効果を奏する手段としては、紡糸口金からの吐出線速度を小さくし、引取速度を大きくすることで、これらの比で表される紡糸ドラフトを大きな値とすることが有効であると考えられていた。その結果、従来使用されていた口金から計算されるズリ速度も8000sec−1未満となっていた。しかしながら、ズリ速度が8000sec−1未満である場合は、特に高速化や単糸太繊度化で口金単孔当たりの吐出量が大きくなった場合に、高延伸倍率での繊維製造時の製糸性が極めて悪化するばかりか、強度に関係なく短時間の製糸でも許容される延伸倍率の範囲が極めて小さくなるものであった。即ち、ズリ速度が8000sec−1未満である場合は、5cN/dtex程度の高強度なポリフェニレンサルファイド繊維を長期的にも安定して生産することは困難である。ズリ速度が14000sec−1を越える場合は、口金孔径が例えば0.3mm未満となるように小さくする必要が生じ、口金の洗浄性が悪化するため、一旦紡糸機から取り外して洗浄した口金を再取り付けした際の製糸性が悪くなるし、吐出したポリマーが吐出方向とは異なる方向に曲がるベンディング現象が発生しやすくなる。
【0017】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法においては、引取ロール8と最大速度で回転する延伸ロールとの比で定義される総合延伸倍率が3〜4.5倍となるように延伸することが必要であり、3.2〜4.4倍の範囲であることが好ましい。総合延伸倍率が3倍未満では、高強度のポリフェニレンサルファイド繊維を得るためには、現在の技術では困難な範囲まで引取ロール8の速度を大きくする必要があり、生産性が低下する。また、単孔吐出量が大きい場合、汎用重合体であるポリアミド繊維やポリエステル繊維では認められない現象が発生し、3倍未満の低延伸倍率では製糸が困難となる。一方、4.5倍を越えると、引取ロール8の速度が1000m/分以下の場合でも極端に製糸性が悪化する。
【0018】
引取ロール8の回転速度で定義される引取速度の好ましい範囲は400〜1500m/分であり、より好ましくは500〜1300m/分である。400m/分未満では、低速であること、かつ高強度繊維を得るには4.5倍を越える相当な高倍率延伸をする必要が生じて、逆に製糸性が悪くなること等の理由により極端に生産効率が低下するため好ましくない。一方、1500m/分を越える場合でもポリフェニレンサルファイド繊維を製造することはできるものの、引取速度が過剰に大きくなると糸切れが多発するし、特に単孔吐出量が大きい単糸太繊度糸を製造する場合は、紡出糸を十分に冷却固化することが困難になるため、高強度なポリフェニレンサルファイド繊維を安定して製造し難くなる。また延伸熱処理や弛緩処理を高速で行うことになるため、寸法安定性に優れたポリフェニレンサルファイド繊維を得難くなる。
【0019】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法においては、90〜250℃の温度で多段延伸熱処理することが好ましい。詳しくは、90〜150℃、より好ましくは100〜130℃の温度で第1延伸ロール10を加熱してフィードロール9と第1延伸ロール10の間で第1段目の延伸を行った後、150〜250℃、より好ましくは180〜240℃の温度で第2延伸ロール12を加熱して第1延伸ロール10と第2延伸ロール12との間で第2段目の延伸を行うが、第2段目と同様な温度で第3延伸ロール13を加熱して第2延伸ロール12と第3延伸ロール13との間で第3段目の延伸を行ってもよい。延伸段数が1段のみでは5cN/dtexを越えるような高強度ポリフェニレンサルファイド繊維を製糸性よく得ることは難しい。一方、ポリフェニレンサルファイド繊維の場合、延伸段数が多くなりすぎても製糸性を損ねるため、延伸段数は3段以下が好ましく、より好ましくは2段である。この際、第1段目の延伸前に引取ロール8とフィードロール9との間で3〜10%程度の予備延伸を付与することは何ら差し支えない。なお本発明における総合延伸倍率には、予備延伸時の延伸倍率も含めるものとするが、前記延伸段数の段数という観点では、予備延伸は含めない。
【0020】
第1段目の延伸倍率は2.8〜3.8倍程度が好ましく、その後総合延伸倍率が本発明の範囲となるように第2段目以降の延伸を行う。この時、第1延伸ロールと第2延伸ロールとの間にはエア集束ノズル11を用いて糸条を集束させると製糸糸切れが減少するため好ましい。また、必要に応じて更に第3段目の延伸を行う場合は第3段目延伸倍率が第2段目よりも低い倍率となるように調整することが好ましい。また、第1延伸ロール10の温度が前記範囲内であれば製糸性が良好となり好ましい。また、第2段以降の延伸時のロール温度も前記範囲内であれば製糸性が良好となり、物性変動もなく品質が安定するため好ましい。250℃を越えるような温度で熱処理する場合は、強度が低下するばかりか、短時間でより一層強度および伸度が低下することになり、高温ロールを洗浄する作業頻度が多くなって、連続生産を妨げる要因になるため好ましくない。汎用の重合体であるポリエステル繊維やポリアミド繊維と同様に、ポリフェニレンサルファイド繊維においても最終延伸ロールでの熱処理温度が高温である方が乾熱収縮率に代表されるような寸法安定性に優れたものとなるが、長期生産安定性と低収縮性を両立するためには、前記250℃以下の多段延伸熱処理後に150℃〜250℃の温度で定長処理することが効果的である。定長処理は例えば第3延伸ロール13の回転速度を第2延伸ロール12の回転速度と同一にして行われる。定長熱処理時のロール温度が150℃未満では、例え最終延伸ロールを高温にして熱処理を施したとて寸法安定性に優れた繊維を得難くなるし、定長熱処理ロールとリラックスロール14間の糸張力が大きく低下し、糸条同士の干渉で糸切れを招く結果となるため好ましくない。定長処理を行わない場合は、行う場合に比べ収縮率が大きくなるため、寸法安定性を良好にするには250℃を越える温度が必要となりやすく、前記と同様に強度や伸度へ与える影響が大きく、またロール洗浄の頻度が増す傾向にある。即ち、弛緩処理前の熱処理を250℃未満、好ましくは240℃未満の温度で実施することが好ましい。しかるのちに70〜180℃の温度で弛緩処理を行うことが好ましい。70℃未満の温度ではロール上での糸揺れが大きくなり製糸性を損ねるし、定長処理後に180℃以上の温度で弛緩処理すると伸度が低下し、タフネス性を損ねることになるため好ましくない。また、弛緩率は1〜7%であることが好ましい。弛緩率が1%未満であると、寸法安定性に優れた高強度なポリフェニレンサルファイド繊維を得難くなる。一方、7%を越えるような場合は、ロール上での糸揺れが大きくなるし、強度が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0021】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法においては、紡糸口金1からの単孔吐出量が1〜10g/分であることが好ましく、より好ましくは1〜8g/分である。単孔吐出量が1g/分未満であると、ズリ速度が8000sec−1未満となりやすくなるし、現在の技術では製糸が困難なくらい単糸が細くなったり、製糸速度が低下して生産性を損ねることになるため好ましくない。一方、10g/分を越えるような場合は、単孔当たりの吐出量が多すぎて口金吐出孔付近に汚れが付着しやすくなり連続生産性を損ねることになるし、引取速度が大きくなりすぎて糸切れが頻発したり、現在の技術では気体による紡出糸の冷却を十分に施せないため強伸度等の物性低下や糸切れが発生しやすくなったりするため好ましくない。
【0022】
本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の製造においては、さらに以下の方法を用いることができる。
【0023】
メルトフローレート(MFR)が50〜600の公知のポリフェニレンサルファイドペレットを、低沸点異物の除去のため140〜180℃で2〜24時間程度乾燥し、溶融紡糸する。なお、ここでいうメルトフローレート(MFR)とは、設定温度316℃、荷重5kgfとしたときにASTM D1238−82法によって測定されたポリマーの溶融流れ性を示すパラメーターである。また、本発明で用いるポリフェニレンサルファイドは実質的に線状であることが好ましく、トリクロロベンゼン(TCB)を0.1重量%以下含有していてもよく、その他添加剤を少量含有していてもよい。
【0024】
本発明ポリフェニレンサルファイドのポリマペレットの溶融には、エクストルーダー型紡糸機を用いることが好ましい。紡糸温度は300〜320℃とし、紡糸パック中で5〜20μmのフィルターを通過させて濾過する。濾過したポリマ−は口金を用い、口金細孔から紡出し、口金直下の徐冷ゾ−ンを通過させた後、冷風を吹き付けて冷却固化する。該口金においては、通常の千鳥配列や環状配列で口金細孔を配列させ、その孔径や孔長は口金背面圧力が70〜150kg/cmで、口金孔からの吐出線速度と引取速度の比で定義される紡糸ドラフトが好ましくは20〜50となるように適宜設計すればよいがこの限りではない。より好ましい口金背面圧力の範囲は90〜110kg/cmである。徐冷ゾ−ンは、長さ5〜10cmの断熱筒2を取り付け、口金直下10cm下における雰囲気温度が150〜250℃となるよう温度制御する。冷却は、10〜30℃の冷却風4を30〜40m/分の速度で吹き付けて行うが、単孔吐出量が3g/分を越えるような場合は35m/分以上の速度で吹き付けることが好ましい。紡出糸条に対し直角に冷風を吹き付ける横吹き出し冷却チムニー3を用いてもよく、環状冷却チムニーを用いて紡出糸条束の外周から中心に、あるいは中心から外周に向けて吹き付けても良いが、横吹き出し冷却チムニーを使用することが好ましい。
【0025】
次に、冷却固化した糸条がダクト6を通過した後に油剤を付与し、該糸条は、所定の速度で回転する引取ロール8に捲回されて引き取られる。油剤付与は例えば給油ロール7や給油ガイド等、公知の方法を用いて実施することができる。ここで使用する油剤は、平滑剤、活性剤、乳化剤などを主成分とする水系エマルジョン油剤であることが好ましい。油剤組成としては、例えば平均分子量が600〜6000のポリテトラメチレングリコールと、二塩基酸と、一価脂肪酸とから形成されるエステル化合物であり、平均分子量が2000〜15000であるポリエーテルエステルを含有することができるが、この限りではなく、必要に応じてアルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物などのpH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、フッ素化合物などその他の添加剤を添加していてもよい。また、1〜30重量%の水系エマルジョン液として用いるのが好ましいが、繊維長手方向への付着油分斑が小さければ、適宜その比率を選択することができる。
【0026】
引取ロールは、片掛け型、ネルソン型またはセパレートロール型が用いられ、それらいずれを使用してもよく、その温度は通常常温であるが、該ロール内部に水を循環させて20〜40℃に温度制御するのが好ましい。次に、引取糸条は、品質・製糸性を安定化させるため一旦巻き取ることなく、好ましくはネルソン型のロールを用いて前記した延伸熱処理工程、弛緩処理工程を経て巻取機16に巻き取られ、繊維パッケージ17となる。
【0027】
また、得られたポリフェニレンサルファイド糸条を分繊せず用いる場合は、糸条を巻取るまでの間に、流体処理により交絡を付与することが好ましい。交絡を付与するためには流体処理のための交絡付与装置15を用い、処理時の流体の流量、巻き取り張力等を適宜設定して行えばよく、交絡数が5〜20個/mとなるように行うことが好ましい。
【0028】
かくして得られたポリフェニレンサルファイド繊維は、従来の4.5cN/dtex程度の強度でも5cN/dtexを越える強度であっても、伸度20%以上の十分なタフネス性と150℃乾熱収縮率4%未満の寸法安定性を兼ね備える。また、総繊度が200〜1000dtex、単糸繊度が3〜40dtexの範囲のポリフェニレンサルファイド繊維が、直接紡糸延伸法により、製糸速度2000m/分以上で多糸条同時延伸でき、かつ製糸工程における延伸性は極めて良好で、糸切れおよび単糸の切断による毛羽は殆どなく、連続生産における品質および製糸安定性も良好となるため、生産性が著しく向上する。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明における各特性の定義および測定法は以下の通りである。
【0030】
(1)単孔吐出量:口金単孔当たりの吐出量(g/分)である。総吐出量を口金単孔数で徐することで算出した。
【0031】
(2)ズリ速度:紡糸口金部での流動特性をあらわすもので、次式により算出した。
ズリ速度(sec−1)=32000Q/60πDρ
ここで、Q:単孔吐出量(g/min)、D:口金孔径(mm)、
ρ:溶融ポリマー密度(g/cm)、でありρは1.21で計算した。
【0032】
(3)紡糸ドラフト(−):引取速度/紡糸口金孔からの吐出線速度で算出した。
【0033】
(4)総繊度:JIS L1013(1999)8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定して総繊度とした。
【0034】
(5)単糸数:JIS L1013(1999)8.4の方法で算出した。
【0035】
(6)単糸繊度:上記総繊度を上記単糸数で除することで算出した。
【0036】
(7)強度・伸度:JIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い、掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分で行った。なお、伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0037】
(8)150℃乾熱収縮率:JIS L1013(1999)8.18.2 b)の方法で、150℃に加熱された乾燥機を用いて測定した。
【0038】
(9)製糸糸切れ:製糸スタートから6時間後までの1糸条あたりの糸切れ回数である。
【0039】
(10)製糸毛羽:製糸スタートから6時間後までの毛羽個数と得られた繊維パッケージ長さの比を、1万mあたりの毛羽個数に換算した値である。弛緩処理ロールと巻取機間に設置したロールから5mm離れた箇所にレーザー式毛羽検知器を設置して毛羽個数をカウントした。
【0040】
(11)口金修正周期:実験対象は前記製糸糸切れが3回/6時間以下、製糸毛羽が100個/1万km以下のものである。6時間毎に糸切れ回数を整理し、製糸スタートから糸切れ頻度が4回/(6時間・1糸条)以上となるまでの時間で定義した。例えば、製糸スタートから24〜30時間の6時間で糸切れ回数が4回を越えた場合は、口金修正周期は24時間である。なお、最大製糸時間を48時間とした。
【0041】
(12)ロール洗浄周期:実験対象は前記口金修正周期と同様にした。6時間毎に毛羽個数調査と繊維強伸度を測定し、製糸スタートから毛羽個数が200個/(6時間・1糸条)以上となるか、製糸スタート時と比して強伸度積(強度×√伸度)が20%以上低下となるまでの時間で定義した。
【0042】
(13)口金洗浄性:使用した紡糸口金の洗浄後の吐出孔を観察し、汚れがない場合は○、汚れが残っている場合は×とした。
【0043】
[実施例1]
MFRが200の東レ製ポリフェニレンサルファイドポリマを、1.33kPa真空下の状態でエクストルーダー型紡糸機によりポリマー温度が315℃になるように溶融し、紡糸パック中で溶融ポリマーを5μmの細孔を有する金属フィルターで濾過した後、表1に示す孔径と孔深度の吐出孔を30個有した千鳥配列の紡糸口金を用いて紡出した。総吐出量は得られた繊維が440dtexとなるように巻取り速度から算出し、計量ポンプを各々調整した。口金直下には長さ100mmの加熱筒を設け、糸条を徐冷却した後、横吹き出し冷却チムニーを使用して25℃で38m/分の冷風により冷却固化せしめ、次に平滑剤等を有する水系エマルジョン油剤を回転する給油ロールにて付与し、表1に示す速度で回転する紡糸引き取りロールに捲回し、紡出糸条を引き取った。前記水系エマルジョン油剤は、竹本油脂製のポリテトラメチレングリコールとアジピン酸とオレイン酸のエステルからなる平滑剤であるポリエーテルエステルを主成分とし、ラウリル(EO)2ホスフェートK塩やラウリルアルコールPO・EO付加物からなる極圧剤、界面活性剤を含んだものである。
【0044】
引き続き、連続して2糸条を延伸・熱処理ゾーンに供給し、直接紡糸延伸法によりポリフェニレンサルファイド繊維を製造した。
【0045】
まず、常温の引き取りロールと80℃に加熱したフィードロールの間で6%のストレッチをかけ、次いでフィードロールと第1延伸ロールの間で第1段目の延伸、第1延伸ロールと第2延伸ロールの間で第2段目の延伸、第2延伸ロールと第3延伸ロールの間で定長処理を行った。引き続き、第3延伸ロールとリラックスロールとの間で5%の弛緩処理を施し、交絡付与装置にて糸条を交絡処理した後、巻取機にて巻き取った。第1延伸ロールからリラックスロールまでの各ロールの速度と表面温度は、表1に示す値となるように設定した。
【0046】
得られたポリフェニレンサルファイド繊維の特性と評価結果を表1に示す。高強度であるにも関わらず、伸度、乾熱収縮率とも満足できる値を得ることができ、また製糸糸切れや製糸毛羽も少ないばかりか、口金修正周期やロール洗浄周期も従来のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法と比較して延長された。
【0047】
[実施例2〜4]
吐出孔を50個有する紡糸口金を用い、孔スペックと各ロールの速度および表面温度を表1の値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイド繊維を製造した。得られたポリフェニレンサルファイド繊維の特性と評価結果を表1に示す。実施例2では、実施例1と同様な効果を有することができた。実施例3は、引取速度が大きく、また第2および第3延伸ロールが高温であったため、実施例1や実施例2よりやや劣る結果となったが、満足する評価結果を得ることができた。また、実施例4は、総合延伸倍率が比較的大きく、製糸糸切れや製糸毛羽がやや多いものであったが、満足できる値を得ることができた。
【0048】
[実施例5]
吐出孔を100個有する紡糸口金を用い、孔スペックと各ロールの速度および表面温度を表1の値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイド繊維を製造した。得られたポリフェニレンサルファイド繊維の特性と評価結果を表1に示す。引取速度が大きく、また第2および第3延伸ロールが高温であったため、実施例1や実施例2よりやや劣る結果となったが、満足できる値を得ることができた。
【0049】
[実施例6]
吐出孔を15個有する紡糸口金を用い、孔スペックと各ロールの速度および表面温度を表1の値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイド繊維を製造した。得られたポリフェニレンサルファイド繊維の特性と評価結果を表1に示す。単糸の本数が少なく、製糸糸切れや製糸毛羽がやや多いものであったが、満足できる値を得ることができた。
【0050】
【表1】

【0051】
[比較例1]
紡糸口金の孔径と孔深度を表2のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイド繊維を製造した。得られたポリフェニレンサルファイド繊維の特性と評価結果を表2に示す。実施例1とほぼ同じ繊維特性を得たが、紡出時のズリ速度が小さいため、製糸糸切れと製糸毛羽が激発し、少量のサンプルを採取することしかできなかった。
【0052】
[比較例2]
吐出孔を100個有する紡糸口金を用い、孔スペックと各ロールの速度および表面温度を表2の値に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイド繊維を製造した。得られたポリフェニレンサルファイド繊維の特性と評価結果を表2に示す。実施例2と同様の特性が得られたが、実験終了後に洗浄した口金を顕微鏡観察した結果、ポリマーが残っており、口金洗浄性の悪いものであった。
【0053】
[比較例3および比較例4]
総合延伸倍率を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイド繊維を製造した。結果を表2に示す。比較例3は延伸倍率が高すぎ延伸切れが多発したため、サンプル採取すらできなかった。一方、延伸倍率の低い比較例4においても、第2延伸ロール上で毛羽が過剰に発生したため、サンプルを採取することすらできなかった。
【0054】
[比較例5]
口金孔スペックを表2に示す値とし、第3延伸ロールを用いずに定長処理を行うことなく、その他条件を表2のようにしたこと以外は実施例3と同様にして、ポリフェニレンサルファイド繊維を製造した。得られたポリフェニレンサルファイド繊維の特性と評価結果を表2に示す。紡出時ズリ速度が小さく、製糸糸切れと製糸毛羽が多発し、強度5cN/dtexの繊維を安定して得ることができなかった。
【0055】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、従来技術より高強度でありながらも伸度および寸法安定性を損なうことなく、ポリフェニレンサルファイド繊維を良好な製糸性かつ優れた連続生産性で得ることができる。
【0057】
したがって、本発明の技術は、過酷な環境下で使用される産業資材用の分野で貢献するところが極めて大きい。
【符号の説明】
【0058】
1:紡糸口金
2:断熱筒
3:横吹き出し冷却チムニー
4:冷却風
5:糸条
6:ダクト
7:給油ロール
8:引取ロール
9:フィードロール
10:第1延伸ロール
11:エア集束ノズル
12:第2延伸ロール
13:第3延伸ロール
14:リラックスロール
15:交絡付与装置
16:巻取機
17:繊維パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド樹脂をズリ速度8000〜14000sec−1で紡糸口金を通して溶融紡糸し、紡出した糸条を引き取った後一旦巻取ることなく、総合延伸倍率3〜4.5倍の延伸工程で延伸することを特徴とするポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
【請求項2】
引取速度が400〜1500m/分であることを特徴とする請求項1記載のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
【請求項3】
延伸工程が90〜250℃の温度で多段延伸熱処理後、150〜250℃の温度で定長処理し、70〜180℃の温度で弛緩処理する工程であることを特徴とする請求項1または2記載のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
【請求項4】
紡糸口金からの単孔吐出量が1〜10g/分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−136797(P2012−136797A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289709(P2010−289709)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】