説明

ポリフェニレンスルフィドからなる紙及びその製造方法

【課題】 従来技術の問題点であったPPS紙の絶縁破壊強さを大幅に改善し高電圧下での使用に耐えるPPS紙およびPPS紙の製造方法を提供する。
【解決手段】 密度0.90g/cm以上、絶縁破壊強さ10kV/mm以上のポリフェニレンスルフィドからなる紙。ポリフェニレンスルフィドからなる未延伸糸(A)およびポリフェニレンスルフィドからなる延伸糸(B)を(A)と(B)の総重量に対する(A)の割合が60重量%より多く、95重量%以下として水に分散させて抄紙原液とし、該抄紙原液を抄紙し温度150〜285℃、線圧0.01〜20kN/cmで熱プレスを施して未延伸糸(A)により延伸糸(B)間の空隙を埋めることを特徴とするポリフェニレンスルフィドからなる紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性、耐薬品性に優れるポリフェニレンスルフィド(PPS)からなる紙およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(PPS)は耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気的特性などに優れたエンジニアリングプラスチックである。このPPSの特徴を活かして、各種用途へのPPS紙の応用が期待されている。
【0003】
PPS紙の原料としては、短繊維、極細繊維、ナノファイバーなど種々の原料が検討されている。特に短繊維を利用したPPS紙に関しては、未延伸のPPS繊維と延伸したPPS繊維を原料として用い、未延伸のPPS繊維を結着材としてPPS紙を得る方法が提案されている(特許文献1〜3)。しかしながら、従来法においては未延伸のPPS繊維により延伸したPPS繊維間の空隙を充填し、電気絶縁性を向上する技術について何ら示唆しておらず、従来法で得られた紙はいずれも紙中の延伸糸間に空隙が存在するため通気度が高く、密度が低い紙であり、このため高電圧下での使用に耐える絶縁破壊強さが高いPPS紙は得られていなかった。
【特許文献1】特開平1−272899号公報(第2〜6頁)
【特許文献2】特開平7−189169号公報(第2〜4頁)
【特許文献3】特開平9−67786号公報(第2〜4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点であったPPS紙の絶縁破壊強さを大幅に改善し高電圧下での使用に耐えるPPS紙およびPPS紙の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記した本発明の課題は以下の手段により達成される。
1.密度0.90g/cm以上、絶縁破壊強さ10kV/mm以上の特性を有するポリフェニレンスルフィドからなる紙。
2.通気度0.050cc/cm/sec未満の特性を有する請求項1記載のポリフェニレンスルフィドからなる紙。
3.ポリフェニレンスルフィドからなる未延伸糸(A)およびポリフェニレンスルフィドからなる延伸糸(B)を、(A)と(B)の総重量に対する(A)の割合が60重量%より多く、95重量%以下として水に分散させて抄紙原液とし、該抄紙原液を抄紙して、温度150〜285℃、線圧0.01〜20kN/cmで熱プレスを施して未延伸糸(A)により延伸糸(B)間の空隙を埋めることを特徴とする請求項1または2記載のポリフェニレンスルフィドからなる紙の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のPPS紙は従来のPPS紙にない高い電気絶縁破壊強さを有することから、従来のPPS紙では適用出来なかった高電圧下で使用される機器、例えば変圧器などに使用される電気絶縁紙として用いることが可能となる。また、電気絶縁破壊強さに優れるため、電気絶縁紙の薄葉化が可能となり各種電気機器類の小型化に寄与する。なお、本発明のPPS紙はPPS樹脂独自の耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気的特性を有することから、耐熱性ワイパー、プリント回路基板、各種フィルター材、防音断熱材、ルーフィング材、バッテリーセパレーターなどとしても利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のPPS紙について詳細に説明する。
【0008】
本発明におけるPPSとは、下記構造式(1)で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【0009】
【化1】

【0010】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。
【0011】
また、本発明のPPSは、その溶融粘度が5〜5000Pa・s(320℃、せん断速度1000/秒)の範囲が好ましい。
【0012】
また、本発明のPPSは、プレス工程における分解ガスの発生を抑制する目的で、例えば特開2006−336140号公報に記載される熱酸化処理を施してオリゴマー量を低減したものを用いることもできる。
【0013】
本発明における紙の密度は0.90g/cm以上である。なお、本発明でいう密度とは実施例F.項に記載する方法により求められる値である。密度を0.90g/cm以上とすることで紙の紙面方向および厚み方向における繊維間の空隙が潰れ、繊維間の摩擦が大きくなることで紙の強度が向上し、取り扱い性が向上する。また絶縁破壊の強さのバラツキが低減される。強度向上および絶縁破壊の強さのバラツキ低減、および樹脂含浸を可能とする目的で紙の密度は好ましくは0.95g/cm以上、1.4g/cm以下、より好ましくは1.0g/cm以上、1.3g/cm以下である。
【0014】
本発明における紙の絶縁破壊強さは10kV/mm以上である。なお、本発明でいう絶縁破壊の強さとは実施例I.項に記載する方法により求められる値である。絶縁破壊強さを10kV/mm以上とすることで変圧器やモーターなどの高電圧下で使用される絶縁紙の用途へも展開が可能となる。絶縁性の信頼の観点から、絶縁破壊の強さは好ましくは20kV/mm以上、より好ましくは30kV/mm以上、最も好ましくは40kV/mm以上である。なお、絶縁破壊の強さには特に上限値はないが、現時点で到達可能である上限値としては80kV/mm程度である。
【0015】
本発明における紙の通気度は、測定部位によらず紙が均一に緻密化し、高く安定した絶縁破壊強さを得る目的で0.050cc/cm/sec未満であることが好ましい。なお、本発明でいう通気度とは実施例H.項に記載する方法により求められる値である。
【0016】
本発明の紙の厚みとしては用途に合わせて5μm〜1000μmの範囲で選択可能である。なお、本発明における厚みとは実施例E.項に記載する方法により求められる値である。
【0017】
本発明の紙の坪量としては用途に合わせて10.0〜900g/mの範囲で選択可能である。なお、本発明でいう坪量とは実施例F.項に記載する方法により求められる値である。
【0018】
本発明の紙の引張強度は取り扱い性の観点から10N/15mm以上であることが好ましい。より好ましく20N/15mm以上、最も好ましくは50N/15mm以上である。なお、本発明でいう引張強度とは実施例G.項に記載する方法により求められる値である。
【0019】
以下、本発明のPPS紙の製造方法について詳細に説明する。
【0020】
本発明においては、PPSからなる未延伸糸(A)を用いることを特徴とする。未延伸糸(A)を用いることで熱プレス工程において未延伸糸(A)が変形することにより延伸糸(B)間を充填、融着することが可能となる。
【0021】
本発明における未延伸糸(A)とは、通常の溶融紡糸法で紡糸し延伸を施す前の配向、結晶化度の低いPPS繊維を指し、熱プレス時の変形による延伸糸(B)間の充填、融着の効果を高める目的で未延伸糸(A)の配向度合いを示す複屈折率の値としては好ましくは0.050未満、より好ましくは0.040未満、最も好ましくは0.030未満である。なお、複屈折率の値とは実施例C.項記載の方法で求められる値である。また、同様の目的で1分間に20℃の昇温速度で測定したときの示差熱分析計による結晶化ピークが実質的に認められることが好ましい。ここでいう実質的とは結晶化ピークにおける結晶化熱量が5J/g以上であることをいう。
【0022】
また、本発明における未延伸糸(A)とはステープル状にカットしたものを指し、その長さは紙の強度向上の目的で1mm以上が好ましく、抄紙原液中での繊維同士の絡まりを抑制する目的で5cm以下が好ましい。より好ましくは5mm以上、2cm以下である。
【0023】
未延伸糸(A)の直径は抄紙原液中での繊維の分散性を向上し、地合いの良い紙を得る目的で30μm以下が好ましい。より好ましくは25μm以下、最も好ましくは20μ以下である。なお、現行の直接紡糸法によって得られる繊維直径の下限としては5μm程度である。
【0024】
未延伸糸(A)は水中での開繊性向上と紙の強度向上の目的で捲縮を有していてもよい。紙の強度向上と抄紙原液中での繊維同士の絡まりを抑制する目的で捲縮数としては4山/25mm以上、18山/25mm以下が好ましい。
【0025】
未延伸糸(A)は繊維表面を改質し、抄紙時の水への馴染みを改善し分散性を向上する目的で油剤が付与されていてもよい。油剤種としては水への馴染みを改善し、含有イオンによる絶縁劣化を防ぐ目的でノニオン系油剤が好ましい。
【0026】
本発明においては、PPSからなる未延伸糸(A)と組み合わせてPPSからなる延伸糸(B)を用いることを特徴とする。延伸糸(B)を用いることで延伸糸(B)間の絡み合いによる紙力の向上が可能となる。
【0027】
本発明でいう延伸糸(B)とは、通常の溶融紡糸法で紡糸した後に延伸を施し配向、結晶化度を高めたPPS繊維を指し、分子鎖の配向、結晶化が進んでいるために熱プレス工程において変形量が少なく、繊維形状を保つことができる。熱プレス後も繊維形状を保ち、得られる紙の強力を保つ目的で延伸糸(B)の配向度合いを示す複屈折率の値としては好ましくは0.100以上、より好ましくは0.150以上である。なお、複屈折率の値とは実施例C.項記載の方法で求められる値である。また、同様の目的で1分間に20℃の昇温速度で測定したときの示差熱分析計による結晶化ピークが実質的に認められないことが好ましい。ここでいう実質的に認められない、とは結晶化ピークにおける結晶化熱量が5J/g未満であることをいう。
【0028】
本発明でいう延伸糸(B)とは、ステープル状にカットしたものを指し、その長さは紙の強度向上の目的で1mm以上が好ましく、抄紙原液中での繊維同士の絡まりを抑制する目的で5cm以下が好ましい。より好ましくは5mm以上、2cm以下である。
【0029】
延伸糸(B)の直径は抄紙原液中での繊維の分散性を向上し、地合いの良い紙を得る目的で30μm以下が好ましい。より好ましくは25μm以下、最も好ましくは20μ以下である。なお、現行の直接紡糸法によって得られる繊維直径の下限としては5μm程度である。
【0030】
延伸糸(B)は水中での開繊性向上と紙の強度向上の目的で捲縮を有していてもよい。紙の強度向上と抄紙原液中での繊維同士の絡まりを抑制する目的で捲縮数としては4山/25mm以上、18山/25mm以下が好ましい。
【0031】
延伸糸(B)は繊維表面を改質し、抄紙時の水への馴染みを改善し分散性を向上する目的で油剤が付与されていてもよい。油剤種としては水への馴染みを改善し、含有イオンによる絶縁劣化を防ぐ目的でノニオン系油剤が好ましい。
【0032】
本発明における未延伸糸(A)と延伸糸(B)の総重量に対する(A)の割合は、60重量%より多く、95重量%以下である。60重量%超とすることで、熱プレス工程において未延伸糸(A)が変形し延伸糸(B)間を充填し、延伸糸(B)間の空隙を十分に埋めることが可能となる。また、95重量%以下とすることで延伸糸(B)間の絡み合いを保ち、紙力が向上する。繊維の分散斑により延伸糸(B)間に空隙が生じることを防ぎ、紙力を向上する目的で未延伸糸(A)の混率はより好ましくは65重量%以上90重量%以下、最も好ましくは70重量%以上85重量%以下である。
【0033】
本発明においては、未延伸糸(A)と延伸糸(B)を水に分散させた抄紙原液を抄紙する。このような方法は一般に湿式抄紙法と呼ぶが、本発明においては湿式抄紙法とすることで未延伸糸(A)と延伸糸(B)との均一な混合が可能となり、物性の安定した紙が得られる。一方で、水への分散を行なわない乾式抄紙法においては未延伸(A)と延伸糸(B)の均一な混合が難しく、物性の安定した紙を得ることが困難である。
【0034】
抄紙原液の調製手順としては、未延伸糸(A)、延伸糸(B)をそれぞれ水に分散させた液を混合しても、予め未延伸糸(A)と延伸糸(B)を混ぜた状態で水に分散しても良い。水分散させる方法としては例えばナイアガラビーター、リファイナー、パルパーなど、各種ブレンダー、ラボ用粉砕器やバイオミキサー、PFI叩解機、撹拌子、撹拌翼など各種撹拌機、叩解機を好ましく用いることができる。分散時に起こる未延伸糸(A)と延伸糸(B)のダメージを最小限にし、得られる紙の品質を保つ目的で、これら手法のうち比較的せん断力が小さい状態で分散させることが可能なナイアガラビーターやパルパー、ブレンダーの使用がより好ましい。
【0035】
抄紙原液の濃度としてはろ水時間の面から0.01重量%以上、分散性の面から10重量%以下が好ましい。また、抄紙原液には未延伸糸(A)と延伸糸(B)の分散性向上の目的で各種分散剤を添加することが好ましい。
【0036】
分散剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤が挙げられ、このうち、含有イオンによる絶縁劣化を防ぐ目的でノニオン系の界面活性剤の使用が好ましい。ノニオン系の界面活性剤としては、PPSとの相性からポリグリコールやポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステルなどが好ましい。分散剤は水への溶解を速やかに行なう目的で予め希釈して0.1重量%以上10重量%以下の水溶液として用いることが好ましい。分散剤の添加時期は未延伸糸(A)、延伸糸(B)の水分散前でも、水分散と同時でも、あるいは水分散後でも良い。
【0037】
抄造工程としては連続工程では丸網抄紙機や長網抄紙機、バッチ工程ではシートマシンなどを使った公知の湿式抄造技術が好ましく用いられる。
【0038】
抄紙工程における乾燥時の乾燥温度としては乾燥時間の面と未延伸糸(A)の結晶化を防ぎ熱プレスにおける変形を容易にする目的で100℃以上135℃以下で行なうことが好ましい。
【0039】
本発明においては、抄紙後の紙に対し温度150℃以上285℃以下、線圧0.01以上20kN/cm以下の熱プレスを施すことを特徴とする。熱プレス工程においては、PPS未延伸糸(A)と延伸糸(B)を構成するPPSの分子鎖の配向状態の違いを利用して未延伸糸(A)により延伸糸(B)間を充填する。PPS未延伸糸(A)は分子鎖の配向が低く、一方、延伸糸(B)は分子鎖の配向が高く結晶化が進んでいるため延伸糸(B)の流動開始温度および融点は未延伸糸(A)よりも高くなる。このため、熱プレスにより未延伸糸(A)は流動または溶融して延伸糸(B)間を充填するが、延伸糸(B)は配向、結晶化が進んでいるためにその形状を保つことができる。
【0040】
熱プレス温度を150℃以上とすることでプレスにより未延伸糸(A)を変形させ延伸糸(B)間の充填が可能となる。また、285℃以下でプレスを行なうことでPPSの融解、熱分解による紙の強度劣化が抑制される。紙の強度向上の目的でプレス温度のより好ましい範囲としては175℃以上270℃以下、最も好ましくは200℃以上250℃以下である。
【0041】
線圧を0.01kN/cm以上とすることで未延伸糸(A)の変形により延伸糸(B)間の充填を可能とし、かつ20kN/cm以下とすることで過大な装置となることが避けられる。未延伸糸(A)の十分な変形により紙の欠点となる延伸糸(B)間の空隙を無くす目的でより好ましくは0.1kN/cm以上、最も好ましくは1.0kN/cm以上でのプレスが好ましい。
【0042】
熱プレスの方法としては連続で処理可能なカレンダープレスがより好ましく用いられる。
【0043】
プレス回数としては1回でも良いが、紙面全体に熱を伝え変形を可能とし、紙の熱劣化を避けるため2回以上10回未満が好ましい。
【0044】
プレス速度としては生産性の面から1m/分以上、ロール上での紙の加熱時間を十分とる目的で100m/分以下の範囲が好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
A.融点
サンプル約10mgを精秤し、示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC2920)で窒素下、昇温速度10℃/分で昇温し、観察される主吸熱ピークがあらわれる温度を測定することにより行った。
B.粘度
東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、320℃、せん断速度1000/秒での見かけ粘度を測定した。
C.複屈折率
オリンパス社製BH−2偏光顕微鏡により、Na光源で波長589nmにてコンペンセーター法により単糸のレターデーションと糸径を測定することにより求めた。
D.結晶化熱量
サンプル約10mgを精秤し、示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC2920)で窒素下、50℃で1分間保持した後、50℃から340℃まで20℃/分で昇温して測定した時の結晶化熱量を求めた。
E.厚み
10.0cm角、計4枚にカットした紙片を用い、JIS−L−1906(2000年改正)の試験法に準じて荷重10kPaで、23℃、相対湿度50%下で各々の紙面の中央部1点の厚みを1μmのオーダーまで測定した。計4枚で測定した結果の平均の値を求め、0.1μmのオーダーを四捨五入した値を厚みL(μm)とした。
F.坪量、密度
10.0cm角、計4枚にカットした紙片を用い、紙の重量(g)を23℃、相対湿度50%で測定し、紙の面積(m)で除し、計4枚の平均値を求めて有効数字3桁で坪量(g/m)を算出した。また、cmの単位に換算した坪量の値を上記E.項で測定した厚みで除して少数点以下2桁で密度(g/cm)を算出した。
G.引張強度
23℃、相対湿度50%の雰囲気下でオリエンテック社製テンシロンUTM−III−100を用いて、試料幅15mm、初期長20mm、引張速度20mm/分で最大点荷重の値を測定し、5回の測定の平均値を有効数字2桁で求め、引張強度(N/15mm)とした。
H.通気度
10cm角、計4枚にカットした紙片を用い、JIS−L−1906(2000年改正)フラジール型法に準じて、23℃、相対湿度50%下でテクステスト社製の通気性試験機FX3300で試験圧力125Paで試験片を通過する空気量(cc/cm/sec)の測定を有効数字2桁で行い、得られた4つの値の平均値を有効数字2桁で求め、通気度(cc/cm/sec)として得た。なお、平均値が0.05(cc/cm/sec)未満となる場合、通気度の値は0.05(cc/cm/sec)未満とした。
I.絶縁破壊強さ
10cm角、計4枚にカットした紙片を用い、JIS−K−6911(2006年改正)の試験方法に準じて、電極として上部φ5mm球状電極、下部φ10mm円板電極を使用して23℃、相対湿度50%の大気中にて、電圧上昇速度0.25kV/secにて測定を行い、絶縁破壊電圧の値を0.1kVのオーダーまで得た。得られた絶縁破壊電圧の値をおのおのの紙の厚みの値をmm単位にした値で割って得られた4つの値I(kV/mm)を平均した値を有効数字2桁で求め、絶縁破壊の強さ(kV/mm)とした。
【0046】
参考例1
(PPS未延伸糸の作成)
融点282℃、温度320℃での粘度200Pa・sのPPS樹脂からなるペレットを使用し、公知の紡糸機を用い、320℃の温度で紡糸を行なった。このとき、吐出量15g/分、冷却チムニーは温度25℃、風速25m/分、収束剤として一般的な油剤を付与し、紡糸速度1000m/分で引き取り、150dtex48フィラメントの糸を作成した。この糸にノニオン系の抄紙用油剤を付与し、クリンパーに通し、13山/25mmの捲縮をかけた後にECカッター(帝人製機製)にて6mm長にカットしてPPS未延伸糸(A)を得た。得られたPPS未延伸糸の直径は17μm、複屈折率は0.012であった。また、示差走査熱量計で測定した結晶化熱量は35J/gであった。
【0047】
参考例2
(PPS延伸糸の作成)
参考例1と同様に紡糸し、得られた糸を95℃の熱水浴で3.0倍に延伸し、48dtex48フィラメントの延伸糸を得た後、ノニオン系の抄紙用油剤を付与した。さらにクリンパーに通し、13山/25mmの捲縮をかけた後、これをECカッター(帝人製機製)にて6mmの長さに切断し、PPS延伸糸を得た。得られたPPS延伸糸の直径は10μm、複屈折率は0.202であった。また、示差走査熱量計で測定したところ結晶化のピークは実質的に認められなかった。
【0048】
実施例1
未延伸糸(A)として参考例1で作成したPPS未延伸糸を11.7g、延伸糸(B)として参考例2で得たPPS延伸糸3.9gを計量し、各々を0.5〜1.0gずつに分け、それぞれに1リットルの水と分散剤としてノイゲンEA−87(第一工業製薬社製)の1.0重量%水分散液2滴を加え、ブレンダー(オスター社製「オスターブレンダーOB−1」)に投入し、撹拌速度10300rpmで10秒間撹拌して得た液を全て合わせたものを繊維分散液として得た。
【0049】
この繊維分散液に、全量が20000gとなるように水を追加し、抄紙原液を得た。この抄紙原液を使用し、熊谷理機工業製の実験用抄紙機(25cm角のシート形成可能な角形シートマシン)の120メッシュの金属製の網の上に抄紙し、未乾燥紙を得た。得られた未乾燥紙を熊谷理機工業製の標準型回転型乾燥機(ドラム直径404mm)で温度110℃、ドラムの回転スピード3で表裏が交互にドラム面に接するように未乾燥紙を計6回通して乾燥紙を得た。
【0050】
得られた乾燥紙を10cm角にカットした後、鉄ロールとペーパーロールからなるロールカレンダー加工機(由利ロール社製)に通し熱プレスした。熱プレス条件は、プレス温度220℃、荷重は10cm幅の紙に対して150kNでプレス圧力15kN/cm、ロール周速度2m/分で、表裏をそれぞれ2回、計4回の処理を行なった。
【0051】
得られた紙の厚み、坪量、密度、引張強度、通気度、絶縁破壊強さは表1に示す通りであり密度が高く、通気度が低く、絶縁破壊強さに優れたPPS紙が得られた。
【0052】
実施例2〜8、比較例1
未延伸糸(A)と延伸糸(B)を表1記載の添加量使用して、実施例1と同様にして抄紙、乾燥、プレスを実施しPPS紙を得た。
【0053】
得られた紙の厚み、坪量、密度、引張強度、通気度、絶縁破壊強さは表1に示す通りであり実施例2〜8で密度が高く、通気度が低く、絶縁破壊強さに優れたPPS紙が得られた。
【0054】
一方、本発明の範囲外の比較例1のPPS紙は表1に示す通り密度は高いものの、通気度が高く、絶縁破壊強さが低かった。この原因としては、未延伸糸(A)の混率が少ないために延伸糸間の空隙が残存し、通気度の上昇、絶縁破壊強さの低下を引き起こしたものと推測する。
【0055】
実施例9〜14、比較例2
未延伸糸(A)と延伸糸(B)を表1記載の添加量使用して、実施例1と同様にして抄紙、乾燥した後、表1記載のプレス温度、プレス圧力12kN/cm、ロール周速度2m/分で、実施例1と同様に熱プレスを施しPPS紙を得た。
【0056】
得られた紙の厚み、坪量、密度、引張強度、通気度、絶縁破壊強さは表1に示す通りであり実施例9〜14で密度が高く、通気度が低く、絶縁破壊強さに優れたPPS紙が得られた。
【0057】
一方、本発明の範囲外の比較例2のPPS紙は表1に示す通り密度が低く、通気度が高く、絶縁破壊強さが低かった。この原因としては、プレス温度が低いために未延伸糸(A)の変形が十分でなく、延伸糸(B)間の空隙が残存したためと推測する。
【0058】
実施例15〜18、比較例3
未延伸糸(A)と延伸糸(B)を表1記載の添加量使用して、実施例1と同様にして抄紙、乾燥した後、表1記載のプレス圧力、プレス温度220℃、ロール周速度2m/分で、実施例1と同様に熱プレスを施しPPS紙を得た。
【0059】
得られた紙の厚み、坪量、密度、引張強度、通気度、絶縁破壊強さは表1に示す通りであり実施例15〜18で密度が高く、絶縁破壊強さに優れたPPS紙が得られた。
【0060】
一方、本発明の範囲外の比較例3のPPS紙は表1に示す通り密度が低く、通気度が非常に高く、絶縁破壊強さが低かった。この原因としては、プレス圧力が低過ぎたために未延伸糸(A)の変形が十分でなく、延伸糸(B)間の空隙が残存したためと推測する。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のPPS紙は従来のPPS紙にない高い電気絶縁破壊強さを有することから、従来のPPS紙では適用出来なかった高電圧の機器、例えば変圧器などに使用される電気絶縁紙として用いることが可能となる。また、電気絶縁破壊強さに優れるため、電気絶縁紙の薄葉化が可能となり各種電気機器類の小型化に寄与する。なお、本発明のPPS紙はPPS樹脂独自の耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気的特性を有することから、耐熱性ワイパー、プリント回路基板、各種フィルター材、防音断熱材、ルーフィング材、バッテリーセパレーターなどとしても利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度0.90g/cm以上、絶縁破壊強さ10kV/mm以上の特性を有するポリフェニレンスルフィドからなる紙。
【請求項2】
通気度0.050cc/cm/sec未満の特性を有する請求項1記載のポリフェニレンスルフィドからなる紙。
【請求項3】
ポリフェニレンスルフィドからなる未延伸糸(A)およびポリフェニレンスルフィドからなる延伸糸(B)を、(A)と(B)の総重量に対する(A)の割合が60重量%より多く、95重量%以下として水に分散させて抄紙原液とし、該抄紙原液を抄紙して、温度150〜285℃、線圧0.01〜20kN/cmで熱プレスを施して未延伸糸(A)により延伸糸(B)間の空隙を埋めることを特徴とする請求項1または2記載のポリフェニレンスルフィドからなる紙の製造方法。

【公開番号】特開2009−174090(P2009−174090A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14668(P2008−14668)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】