説明

ポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを含む混繊糸または混紡糸または織編物

【課題】 従来のPPSを含む混繊・混紡糸また織編物の欠点である抗ピル性、耐光性を改善し、さらに保温効率を向上させた織編物を提供するものである。
【解決手段】 単繊維の平均直径が1〜1500nmであって直径1500〜5000nmの単繊維の比率が0〜5%であるポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを3〜90重量含む織編物であって、JIS L−1076に基づいて測定されるピリングが3級以上である織編物および/またはJIS L−0842に基づいて測定される紫外線カーボンアーク灯光に対する耐光堅牢度が3級以上である織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーにより良好な保温性を持ち、さらに抗ピル性や耐光性にも優れた織編物、またそれを得るための混繊糸および混紡糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す)はその優れた耐熱性や耐薬品性から、当初はエンジニアリングプラスチックや耐熱フィルムなどで実用化されたが、最近では繊維用分野や紙分野でも用途が拡がりつつある。例えば繊維用途ではバグフィルターなどに、紙用途では電池やモーターの絶縁材料などが実用化されており、さらにその需要は拡大することが見込まれている。
【0003】
一方、衣料分野には、PPSの高い断熱性を活かした保温衣料としての提案が特開2004−285517号公報などになされている。しかしながら、PPSは耐光性に劣るため、外衣などへの適用には大きな困難が伴っていた。このため、やはり特開2004−285517号公報にはある種の紫外線吸収剤をPPS繊維を含む編み地に含ませることで耐光性を向上させる試みもなされている。該公報実施例1には、PPS繊維と木綿50:50から成る混紡糸とナイロン糸で作製した二重構造編地に染色工程で紫外線吸収剤を坦持させている。しかし、実際には紫外線吸収剤はPPS繊維よりもナイロン糸に多く吸尽されると考えられ、如何に処理液中の紫外線吸収剤濃度を高くしたとしても、PPS繊維に吸収できる紫外線吸収剤には限界があった。
【0004】
また、PPSは汎用ポリマーであるポリエステルやポリアミドに比べると非常に脆いポリマーであり、耐摩耗性に劣るものであった。このため、ポリエステルなどとのPPS繊維の混紡糸では抗ピル性に劣るものであった。このため、実際にはPPS繊維の混紡率を低く抑えたり、二重織りとしてPPS繊維の摩擦を低減させるなど、織編設計に大きな制限があった。
【0005】
ところで、ごく最近、ポリマーアロイ繊維を利用して単繊維直径が100nm以下のPPSナノファイバーが得られることが示された(特許文献1)。これを用いれば紫外線吸収剤を多く吸収することができ、PPSの欠点の一つである対光性を向上できることが期待される。しかし、ここで得られたPPSナノファイバーを直接、混繊あるいは混紡あるいは織編工程に通してもナノファイバー自体の脱落や粉体化により前記工程を通すこと自体が困難であった。また、特許文献1記載のように、ポリマーアロイ繊維の段階で織編工程を通すことはもちろん可能であるが、特許文献1では海ポリマーにナイロンを用いているため、これの脱海のためには爆発性かつ腐食性を有するギ酸を用いる必要があった。このため、特許文献1のようなビーカースケールであればPPSナノファイバーから成る編物を得ることは可能であるが、実際のアパレルに用いることができるスケールで織編物を得るためには、大がかりなギ酸回収・処理装置を新設する必要があり、アパレル用布帛として評価し得るだけのPPSナノファイバーを得ることは困難であった。
【特許文献1】特開2004−162244号公報(23〜24ページ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のPPSを含む混繊・混紡糸また織編物の欠点である抗ピル性、耐光性を改善し、さらに保温効率を向上させた織編物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、以下の手段により達成される。
(1)単繊維の平均直径が1〜1500nmであって直径1500〜5000nmの単繊維の比率が0〜5%であるポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを10〜90重量%含む混繊糸。
(2)単繊維の平均直径が1〜1500nmであって直径1500〜5000nmの単繊維の比率が0〜5%であるポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを10〜90重量%含む混紡糸。
(3)単繊維の平均直径が1〜1500nmであって、直径1500〜5000nmの単繊維の比率が0〜5%であるポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを3〜90重量%含む織編物であって、JIS L−1076に基づいて測定されるピリングが3級以上である織編物。
(4)単繊維の平均直径が1〜1500nmであって、直径1500〜5000nmの単繊維の比率が0〜5%であるポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを3〜90重量%含む織編物であって、JIS L−0842に基づいて測定される紫外線カーボンアーク灯光に対する耐光堅牢度が3級以上である織編物。
(5)紫外線吸収剤を0.1〜20重量%含む請求項3または4記載の織編物。
(6)ポリエステル繊維および/またはアクリル繊維および/またはウールを10〜97重量%含む請求項3〜5のいずれか1項記載の織編物。
(7)織編物の片面にポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを含む糸がより多く浮いている請求項3〜6のいずれか1項記載の織編物。
(8)二重構造を有する請求項3〜7のいずれか1項記載の織編物。
(9)染色されている請求項3〜8のいずれか1項記載の織編物。
(10)請求項3〜9のいずれか1項記載の織編物を少なくとも一部に有する衣料。
【発明の効果】
【0008】
本発明のPPSナノファイバーを含む混繊糸・混紡糸または織物により従来のPPS織編物の課題である、抗ピル性、耐光性の向上を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で言うPPSとは、特開2004−231908号公報記載のようにフェニル基にイオウ原子(以下Sと略す)が結合したユニットを繰り返し単位としたポリマーのことを言い、一部架橋されていても良い。また、この繰り返し単位はポリマー中で70mol%以上であることが好ましいが、特開2004−231908号公報の[化2]で例示されるように他のユニットを30mol%以下の範囲で含むことも可能である。また、本発明で用いるPPSは分子鎖の分岐構造の少ない直鎖型であることが、製造時の紡糸性を確保する観点から好ましい。さらに、PPSの分子鎖末端が金属イオンなどで封鎖されていると、紡糸性が向上し好ましい。PPSの分子量については紡糸可能な範囲であれば特に制限は無いが、重量平均分子量で1万〜10万であれば紡糸性と糸強度を両立でき好ましい。本発明で用いられるPPSは、特開2004−231908号公報記載のように公知の方法を用いて得ることができる。
【0010】
また、本発明で言うナノファイバーとは、単繊維の繊維直径が5000nm以下の繊維のことを言うものである。そして、本発明では単繊維の平均直径が1〜1500nmであることが重要である。ここで、単繊維の平均直径とは以下のようにして求めることができる。まず、繊維の横断面写真を画像解析するなどして、各単繊維の横断面積から円換算直径を求める。そして、無作為抽出した単繊維の直径を横断面の面積ベースで平均し、これから平均直径を算出することができる。ここで、平均直径を数平均で算出すると細い繊維の寄与が過大に反映されるが、太い繊維の寄与をより大きくするために本発明では面積平均により平均直径を求めることとした。より具体的には、各単繊維の横断面積をSとするとΣS(i=1〜n)/nにより単繊維の平均横断面積(Sav)を求め、これから円換算で平均直径(Dav)をDav=(4Sav/π)1/2により求める。nは300以上が精度が向上し好ましい。なお、繊維の横断面写真を得ることが難しい場合には、繊維の側面写真を使用することもできる。
【0011】
そして、単繊維の平均直径を1500nm以下とすることにより、従来のPPS繊維に比べ多量の紫外線吸収剤を坦持することができるため、耐光性を向上することができる。また、PPS繊維自体が細くなるため、摩耗により容易に脱落し、従来のPPS繊維のように毛玉(ピル)を作ることが無く、抗ピル性を向上することができる。特に紫外線吸収剤の坦持という観点からは、ナノファイバーは細ければ細いほどナノファイバーの比表面積が向上し好ましい。さらに、単繊維間空隙の頻度(個数)も多くなるため紫外線吸収剤の坦持量を向上させることもできる。また、単繊維間空隙もより小さくなるため、紫外線吸収剤をカプセル化し、洗濯耐久性を向上でき、好ましい。単繊維の平均直径は好ましくは900nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下、最も好ましくは100nm以下である。
【0012】
また、本発明ではPPS単繊維の直径が1500〜5000nmの単繊維の比率がナノファイバー集合体中において0〜5%であることが重要である。ここで、単繊維の直径が1500〜5000nmの単繊維の比率は以下のようにして求めることができる。まず、平均直径と同様に、繊維の横断面積ベースで円換算直径を求める。そして、ここで無作為抽出した300本以上のPPSナノファイバー単繊維全体の面積に対する直径1500〜5000nmの単繊維全体の面積の比率を、本発明ではPPS単繊維の直径が1500〜5000nmの単繊維の比率とする。
【0013】
ここで、直径1500〜5000nmという粗大ナノファイバーの比率を小さくすることで、織編物での抗ピル性を向上することができる。また、粗大ナノファイバー比率が小さいと小さなナノファイバー比率が増加するため、紫外線吸収剤の坦持効率、洗濯耐久性を向上させることができる。直径1500〜5000nmという粗大ナノファイバーの比率は好ましくは2%以下、より好ましくは0%である。さらに粗大ナノファイバーの下限値を下げることが好ましく、粗大ナノファイバーとして、直径500〜5000nmの単繊維の比率は0〜5%であることが好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは0%である。さらに、粗大ナノファイバーとして、直径100〜5000nmの単繊維の比率は0〜5%であることが好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは0%である。
【0014】
本発明で用いるPPSナノファイバーは繊維長(L)と繊維直径(D)の比であるL/Dが大きく、L/Dは100以上であることが好ましい。これにより、PPSナノファイバーの集合体であるバンドルファイバーの形態保持力が向上し、PPSナノファイバーから成るバンドルファイバー、またこれを含む混繊・混紡糸の力学特性を向上させることができるのである。L/Dはより好ましくは1000以上である。
【0015】
本発明においてはPPSナノファイバーと他の繊維を混繊あるいは混紡あるいは交編織した織編物とすることで、衣料用織編物としての力学特性、染色性、耐久性、風合いなどを満足することが可能となる。PPSナノファイバーと混用する繊維に特に制限は無く、ポリエステルやナイロン、アクリルなどの汎用合成繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、木綿、ウール(羊毛、カシミア、アルパカ、モヘア、アンゴラなど)、絹などの天然繊維、PPS、アラミド、液晶ポリエステル繊維、ポリエチレン、全芳香族ポリマー繊維、炭素繊維などの高耐熱、難燃、高強度・高弾性率繊維、ポリビニルアルコール、エバールなどの合成繊維やポリウレタンなどの弾性糸などが挙げられる。ただし、保温衣料と言う観点からはポリエステルやアクリル、ウールと混用することが好ましい。また、PPS繊維は通常衣料用に用いられる分散染料や酸性染料、カチオン染料、反応染料、含金染料、直接染料などではほとんど染めることができない。この観点から、衣料用としては染色性の良い繊維を混用することが好ましい。染色性の観点からは、なるべく染色性の高い繊維の混用率を高くすることが好ましいが、保温性との兼ね合いから、PPS繊維の混用率は混繊糸および混紡糸では10〜90重量%とすることが重要である。20〜50重量%であるとさらに染色性と風合いとのバランスも良く好ましい。同様に、織編物におけるPPSナノファイバーの混用率は3〜90重量%であることが重要であり、7〜20重量%であるとさらに染色性と風合いとのバランスも良く好ましい。また、保温性を向上させるため、PPSナノファイバーを含む織編物にはポリエステル繊維および/またはアクリル繊維および/またはウールが10〜97重量%含まれていると好ましい。より好ましくは、80〜93重量%である。なお、後述するように、PPSナノファイバーを得るためにポリエステル/PPSポリマーアロイ繊維を用いる場合には、アルカリ加水分解による脱海工程が必要であるため、他の繊維としてはアルカリ加水分解されにくい物を用いることが好ましい。この観点から、ポリエステルであれば、ポリエチレンテレフタレート(PET)よりもポリトリメチレンテレフタレート(PTT)やポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いることが好ましい。
【0016】
また、本発明の織編物において、PPSによる保温性をさらに効果的に用いるためには、織編物の片面にPPSナノファイバーを含む糸がより多く浮いていることが好ましい。これにより、PPSの優れた断熱性により保温効果を向上させることができるのである。ここで、PPSナノファイバーを含む糸とはPPSナノファイバーを含む混繊糸や混紡糸あるいはPPSナノファイバー100%の糸のことを言うものである。また、織編物の片面にPPSナノファイバーを含む糸がより多く浮いているとは、織編物表面においてPPSナノファイバーを含む糸が占める面積がそれ以外の繊維が占める面積より多いことを言うものである。例えば、PPSナノファイバーを含む混紡糸を経糸、三葉断面のポリエステル繊維を緯糸に用いてバックサテンを製織した場合、織物の裏側は保温性に優れたPPSナノファイバーを含む混紡糸が多く浮き、表側は逆に光沢と耐摩耗性、耐光性に優れたポリエステル繊維が多く浮いた織物構造とすることができる。
【0017】
また、本発明の織編物においては、二重織りや二重編みなどの二重構造布帛とすることで、布帛内に多量のデッドエアーを内包し、さらに保温性を向上させることができる。
【0018】
本発明の織編物は、PPS繊維以外の染色性に優れた繊維を混用することにより、染色性を向上させることができる。染色性の観点からは、ポリエステル、ナイロン、ウール、絹などと混用することが好ましい。本発明の染色された織編物は、フォーマルウエアなど深みある黒が必要な場合はL値が7〜15であることが好ましく、アウターなど鮮明な発色が必要な場合にはC値が10以上であることが好ましい。もちろんインナーやシャツ、パンツ、セーターなどの用途でパステルカラーに染めることも可能である。
【0019】
本発明の織編物はPPSナノファイバーを用いているため、布帛を摩擦するとPPSナノファイバーがバンドルファイバーから脱落するため、従来のPPS繊維を含む混紡糸などとは異なりピルを発生しにくく抗ピル性に優れるのが特徴である。織編物の抗ピル性は、JIS L−1076に基づいて測定することができる。本発明ではPPS比率が多くとも抗ピル3級以上とすることができる。従来のPPS混紡糸では、織編物中のPPS比率が16重量%以上とすると抗ピル3級とすることは容易ではなかったが、本発明ではPPS比率が16重量%以上でも抗ピル3級以上とすることができる。抗ピルは好ましくは4級以上である。
【0020】
また、本発明の織編物はPPSナノファイバーを用いているため、PPSナノファイバーへの紫外線吸収剤の坦持率を向上させることができ、従来のPPS混紡糸からなる織編物に比べJIS L−0842に基づいて測定される耐光堅牢度を3級以上に向上させることができるのである。アウター衣料へ用いる場合や洗濯後の天日干しを考慮すると、耐光堅牢度は好ましくは4級以上である。ここで、紫外線吸収剤としては本発明の目的を損なわない範囲で選択することができるが、特開2004−285517号公報の[化I]および[化II]に記載の紫外線吸収剤を好適に用いることができる。さらに、特開2003−278017号公報の[化10]〜[化13]記載のカバリング剤を用いることもできる。本発明ではPPSナノファイバーにより紫外線吸収剤を多く吸尽させることができるため、混用する繊維に吸尽される紫外線吸収剤を大幅に減量することができる。このため、織編物中の紫外線吸収剤の総量を減じることができるため、紫外線吸収剤によるアレルギー反応の可能性を大幅に引き下げることができるのである。これにより、敏感肌や皮膚疾患を有する人や老人、新生児、乳児、幼児などにも好適に着用させることができるのである。
【0021】
また、本発明の織編物の保温性は、いわゆるクロー値で0.7℃・m・hr/kcal以上であることが好ましい。
【0022】
本発明のPPSナノファイバーとそれ以外の繊維から成る混繊糸においては、PPSナノファイバーはナノファイバー単糸が繊維軸に沿って凝集したバンドルファイバーを形成しており、このバンドルファイバーがPPSナノファイバー以外の繊維より比較的外側を形成していると、PPSの断熱性を利用しやすく好ましい。また、バンドルファイバーの横断面形状も丸断面よりも扁平断面形状の方が布帛表面での断熱面積が増加するため好ましい。この意味から扁平断面の場合の扁平率は1.5以上であることが好ましい。ここで扁平率とは横断面において長軸と短軸の比のことを言うものである。
【0023】
本発明で用いるPPSナノファイバーからなるバンドルファイバーは強度2cN/dtex以上であると、織編物の引裂強力が向上し薄地でも充分な力学特性を有するため好ましい。
【0024】
本発明で用いるPPSナノファイバーの製造方法は特に限定されるものでは無いが、例えば以下の製造方法を好適に用いることができる。すなわち、まずPPSを島、易溶解性ポリマーを海としたポリマーアロイ繊維を得、これをそのままあるいは混繊、混紡後あるいは織編した後、ポリマーアロイ繊維から海である易溶解性ポリマーを除去することで本発明のPPSナノファイバーから成るバンドルファイバーあるいはそれを含む混繊糸、混紡糸あるいはそれらを含む織編物を得ることができる。
【0025】
まず、PPSを島、易溶解性ポリマーを海としたポリマーアロイ繊維を得ることが重要であるが、ここでポリマーアロイ繊維の横断面において、島であるPPSの平均直径を1〜1500nm、直径1500〜5000nmの島の比率が島全体の面積に対し0〜5%となるようにすることが重要である。島の直径はナノファイバーの直径に大きな影響を与えるため、島の平均直径は好ましくは900nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下、最も好ましくは100nm以下である。同様に、直径1500〜5000nmという粗大島の比率を小さくすることが重要であり、直径1500〜5000nmという粗大島の比率は好ましくは2%以下、より好ましくは0%である。さらに粗大島の下限値を下げることが好ましく、粗大島として、直径500〜5000nmの単繊維の比率は0〜5%であることが好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは0%である。さらに、粗大島として、直径100〜5000nmの単繊維の比率は0〜5%であることが好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは0%である。
【0026】
以上のように、PPSを海ポリマー中になるべく細かく、しかも均一に分散させることが重要である。このため、ポリマー同士の混練が極めて重要であり、本発明では混練押出機や静止混練器等によって高度に混練することが好ましい。なお、特開昭61−252315号公報などに記載されている単純なチップブレンドでは混練が不足するため、本発明のように島を微細に、しかも均一に分散することは困難である。
【0027】
具体的に混練を行う際の目安としては、PPSに組み合わせる海ポリマーにもよるが、混練押出機を用いる場合は、2軸押出混練機を用いることが好ましく、静止混練器を用いる場合は、その分割数は100万以上とすることが好ましい。また、ブレンド斑や経時的なブレンド比率の変動を避けるため、それぞれのポリマーを独立に計量し、独立にポリマーを混練装置に供給することが好ましい。このとき、ポリマーはペレットとして別々に供給しても良く、あるいは、溶融状態で別々に供給しても良い。また、2種以上のポリマーを押出混練機の根本に供給しても良いし、あるいは、一成分を押出混練機の途中から供給するサイドフィードとしても良い。
【0028】
混練装置として二軸押出混練機を使用する場合には、高度の混練とポリマー滞留時間の抑制を両立させることが好ましい。スクリューは、送り部と混練部から構成されているが、混練部の長さをスクリューの有効長さの20%以上とすることで高混練とすることができ好ましい。また、混練部の長さをスクリュー有効長さの40%以下とすることで、過度の剪断応力を避け、しかも滞留時間を短くすることができる。また、混練部はなるべく二軸押出機の吐出側に位置させることで、混練後の滞留時間を短くし、島ポリマーの再凝集を抑制することができる。加えて、混練を強化する場合は、押出混練機中でポリマーを逆方向に送るバックフロー機能のあるスクリューを設けることもできる。
【0029】
また、二軸押出混練機と紡糸機を直結することにより、混練後の島の再凝集をある程度抑制できるため、一旦ペレット化する場合に比較して、島の微細化に有利となることもある。
【0030】
また、島PPSを島直径数十nmサイズで細かく分散させるには、ポリマーの組み合わせも重要であり、なるべくPPSと相溶性の良いポリマーを海ポリマーとして選ぶことが好ましい。また、PPSは融点が280℃程度と高いため、海ポリマーは300℃以上でも熱分解が小さいものが好ましく、300℃に5分保持した時の重量減少率が5%以下のポリマーが好ましい。さらに、海ポリマーの溶融粘度も重要である。前述したようにPPSは高融点ポリマーのため混練温度や紡糸温度も300℃以上となるため、この温度でも充分な溶融粘度を保つことが好ましい。より具体的には300℃、1216sec−1での溶融粘度が150Pa・s以上のポリマーを海ポリマーとして用いると、島PPSに充分な剪断を与えることができ、島PPSの微細化、また均一分散のために好ましいのである。逆に島を形成するPPSの粘度はなるべく低く設定すると剪断力による島ポリマーの変形が起こりやすいため、島ポリマーの微分散化が進みやすくナノファイバー化の観点からは好ましい。より具体的にはPPSの300℃、1216sec−1での溶融粘度が200Pa・s以下とすることが好ましい。
【0031】
また、ポリマーアロイ繊維から脱海してPPSナノファイバー化する際、脱海溶媒として水溶液系のものを用いることで環境負荷を低減できるため、海ポリマーとしては、ポリエステルやポリカーボネート等のアルカリ加水分解されるポリマーやポリアルキレングリコールやポリビニルアルコールおよびそれらの誘導体等の熱水可溶性ポリマーなどが好ましい。なお、特許文献1にはPPSを島、ナイロン6を海としたポリマーアロイ繊維からギ酸を用いてナイロン6を溶出することでPPSナノファイバーが得られることが記載されているが、ギ酸は沸点が低くしかも蒸気圧が高いため爆発の危険性が高く、さらに腐食性もあることから非常に扱いにくい溶媒である。このため、特許文献1で記載しているようなビーカーレベルの実験ではPPSナノファイバーを得ることはできても、アパレル用布帛を作製するために充分な量のPPSナノファイバーを得ようとすると、相当大がかりな溶媒回収・処理設備を新たに導入する必要があり、コストが高騰するばかりか、環境負荷も大きくなり、実際にPPSナノファイバーから成るアパレル用布帛を得ることは容易ではなかった。
【0032】
以上の観点から、海ポリマーにはアルカリ加水分解が可能な高粘度ポリエチレンテレフタレートを用いることが特に好ましい。
【0033】
また、PPSの分散径を細かくするためには適切な相溶化剤を用いることができる。例えば、シランカップリング剤系やエポキシ系のものを使用すると、PPSの島直径を50nm以下とすることも可能である。
【0034】
本発明で用いるPPSポリマーアロイを紡糸する際は、糸の冷却条件も重要である。ポリマーアロイは非常に不安定な溶融流体であるため、口金から吐出した後に速やかに冷却固化させることが好ましい。このため、口金から冷却開始までの距離は1〜15cmとすることが好ましい。ここで、冷却開始とは糸の積極的な冷却が開始される位置のことを意味するが、実際の溶融紡糸装置ではチムニー上端部でこれに代える。
【0035】
また、PPSと帯電性の異なるポリマーを海ポリマとして採用した場合にはポリマーアロイ繊維で静電気が発生し易い場合があるが、糸条やトウの集束性を高め、合糸、延伸時や混繊時の工程安定性を向上させるため、工程油剤としては主成分が脂肪酸エステルやポリエーテルなどの物を使用することが好ましい。
【0036】
紡糸されたポリマーアロイ繊維には延伸・熱処理を施すことが好ましいが、延伸の際の予熱温度はPPSのガラス転移温度(T)以上の温度することで、糸斑を小さくすることができ、好ましい。
【0037】
本発明で用いるポリマーアロイ繊維は、混繊糸を得る場合には長繊維の製造法とすることが好ましいが、混紡糸を得る場合には短繊維(ステープルファイバー)の製造法とすることが好ましい。
【0038】
長繊維の製造装置を用いる場合には、ポリマーアロイ繊維を巻き取ることが必須となるが、この時次工程での糸の解じょ性を良好とするためには巻き取り糸のパッケージ形状を適切に整えることが好ましい。特にチーズパッケージとする場合には、巻き応力の設定が重要であり、0.05〜0.2cN/dtexの範囲とすることにより、耳立ちや綾落ち、パッケージ内での硬度分布の少ない良好なパッケージを得ることができる。また、糸条の集束性を向上させるため、紡糸段階では1〜15個/m、延伸段階では1〜50個/mの交絡を付与することが好ましい。
【0039】
ステープルファイバーの製造装置を用いる場合には以下の点に注意することが好ましい。ポリマーアロイ繊維を引き揃えて総繊度5万dtex以上のトウと成す場合には、紡糸段階で400dtex以上の太繊度と成し、この糸条を合糸することでトウを形成することが生産性向上の観点から好ましい。ただし、この時には口金孔数は200以上としてポリマーアロイの単繊維繊度を1〜10dtexとすることが、生産性向上と紡糸性向上の観点から好ましい。また、口金孔数が200以上となると口金直径が140mm以上と、織編物に用いるいわゆる長繊維で用いている口金直径よりも大きくなり、しかも本発明の紡糸では急冷が好ましいため、口金面内での温度分布が大きくなる場合がある。このため、口金孔位置によってポリマー粘度が異なることによる糸切れや糸物性の変動を抑制するため、通常のPPSで採用している紡糸温度より低めの紡糸紡糸温度を採用することが好ましい。これにより、雰囲気温度と紡糸温度の差が小さくなり、口金孔位置によるばらつきを抑制することができるのである。
【0040】
なお、ポリマーアロイ繊維から成るトウ繊度が1万dtexを超える場合には、長繊維で用いられている乾熱延伸よりも、スチーム延伸とすることが好ましい。これは、乾熱延伸では繊維同士での伝熱によるため、トウ断面内において中心部付近まで均一な伝熱が不十分な場合があるのに対し、スチーム延伸では高温蒸気が繊維間空隙を満たしていく効果が付加されるため、伝熱効率が高くトウ中心部付近まで均一に熱を伝達することができ、トウを均一に延伸をすることができるのである。
【0041】
そして、この延伸トウをクリンパーに導き、機械捲縮を施し、繊維長31〜70mmにカットして、ポリマーアロイ繊維から成る原綿を得ることができる。ここで原綿の捲縮数を5〜40山/25mmとすることで、次工程であるカード通過性が向上するだけでなく、しかもここでの原綿の開繊性が向上し、紡績工程でのドラフトをかけやすく紡績糸の力学特性や形態安定性を向上できるため好ましい。
【0042】
次に、混繊方法の一例について説明する。上記により得られたポリマーアロイ繊維はそれ以外の繊維と混繊するが、混繊方法としては引き揃え、エア混繊、複合仮撚り、合撚など公知である種々の方法を用いることができる。この際、ポリマーアロイ繊維を混繊糸中で比較的外側に配置させるためには、ポリマーアロイ繊維を他の繊維よりも高いオーバーフィード率で混繊装置に供給したり、ポリマーアロイ繊維より低い伸度を有する他の繊維と複合仮撚りすることで達成することが可能である。また、エア混繊としてはタスランノズルやインターレースノズル、旋回気流によるノズルなどを用いることができるが、糸条の集束性を高め、織編工程での工程通過性を向上させるためにはインターレースノズルを用い、10〜50個/m程度の交絡を付与することが好ましい。また、複合仮撚りを行う場合には、ポリマーアロイ繊維として他の繊維より50%以上高伸度の糸を用いると、ポリマーアロイ繊維が混繊糸の外側に配置され易く好ましい。
【0043】
次に、混紡方法の一例について説明する。上記により得られたポリマーアロイ原綿と他の繊維からなる原綿を所望の混紡比率となるよう秤量し、混合してカードに投入し、原綿を開繊させるとともに、短繊維を引き揃える。そして、これをドラフトを付与しながら精紡機で混紡することができる。
【0044】
次に、これらのPPSナノファイバー100%あるいは混繊糸あるいは混紡糸を製編織するが、布帛の染色性や力学強度などを向上させるため、他の繊維と交織、交編することが好ましい。この時、他の繊維としては先染め糸などを用いることや、風合い向上のためニットデニット糸を用いることもできる。
【0045】
次に、このようにして得られたポリマーアロイ繊維を含む布帛から海ポリマーを除去することで、PPSナノファイバーを含む布帛を得る方法について述べる。海ポリマーは溶媒に溶解させて脱海しても加水分解などによりオリゴマーやモノマーまで分解して脱海しても良いが、後者の方が脱海の均一性が高く好ましい。ここで用いる溶媒もアルカリ水溶液などを用いると、爆発や腐食の危険性が小さく好ましい。
【0046】
本発明のPPSナノファイバーを含む織編物は、保温性に優れるだけでなく抗ピル性や耐光性にも優れるためインナーやレッグだけでなくシャツやパンツ、コートなどアウター用途にも幅広く衣料として用いることが可能である。特に、保温性を活かしたユニバーサルデザインとして、靴下や保温下着、シャツなどには好適である。さらに、衣料だけでなく断熱性とPPSによる難燃性を活かしたカーテンやパーティションなどの資材用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0048】
A.ポリマーの溶融粘度
東洋精機キャピログラフ1Bによりポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0049】
B.融点
Perkin Elmaer DSC−7を用いて2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。この時の昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0050】
C.ポリマーの重量減少率
セイコー・インストルメンツ社製TG/DTA6200を用い、チッソ雰囲気下で室温から10℃/分で300℃まで昇温し、その後300℃で5分間保持した時の重量減少率を測定した。
【0051】
D.TEMによる繊維横断面観察
繊維の横断面方向に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)で繊維横断面を観察した。必要に応じて金属染色を施した。
【0052】
TEM装置 : 日立社製H−7100FA型
E.ナノファイバーの単繊維の平均直径
TEMによる繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて円換算で単繊維直径を計算し、それの単純な平均値を求めた。これを「数平均による単繊維直径」とした。この時、平均に用いるナノファイバー数は同一横断面内で無作為抽出した300本の単繊維直径を測定した。
【0053】
F.繊維比率
上記TEM観察の単繊維直径データを用い、ナノファイバーそれぞれの単繊維の面積をSとしその総和を総面積(S+S+…+S)とする。また、同じ単繊維直径を持つナノファイバーの頻度(個数)を数え、その積を総面積で割ったものをその単繊維の繊維比率とした。この時、計算に用いるナノファイバーは同一横断面内で無作為抽出した300本を使用した。
【0054】
G.SEM観察
繊維に白金−パラジウム合金を蒸着し、走査型電子顕微鏡で繊維側面を観察した。
【0055】
SEM装置 : 日立社製S−4000型
H.ポリマーアロイ繊維のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用いて給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。
【0056】
I.繊維の力学特性
繊維の力学特性は以下のようにして求めた。室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
【0057】
J.繊維の捲縮数
繊維を50mmサンプリングし中心付近25mmの間の山谷数を数え、これを1/2にして捲縮数を求めた。実際にはn=5の平均値を繊維の捲縮数とした。
【0058】
K.織編物の抗ピル性
JIS L−1076に基づいて測定を行った。
【0059】
L.織編物の耐光堅牢度
JIS L−0842に基づいて測定を行った。
【0060】
M.織編物のクロー値
クロー値とはGagge A. P.、 Burton A. L.らによって提案された保温性の評価手法の一つであり、1クローは気温21℃、湿度50%以下、風速5cm/秒の室内でイスに座っている人の皮膚温を平均33℃に保つのに必要な断熱性であると定義される。
【0061】
実際の評価方法は、40℃高温側恒温体T(℃)と20℃の低温側恒温体T(℃)の2枚の恒温体の間にサンプルを挟み、定常状態となるまで待ってから高温側恒温体から低温側恒温体に流れる熱流量B(kcal/m・hr)を測定し、下記式にて求める。
【0062】
クロー値(℃・m・hr/kcal)=(T−T)/(0.18×B)
参考例1
溶融粘度280Pa・s(300℃、1216sec−1)のPETを80重量%、溶融粘度160Pa・s(300℃、1216sec−1)のPPSを20重量%として、下記条件で2軸押出混練機を用いて溶融混練を行った。ここで、PPSは直鎖型で分子鎖末端がカルシウムイオンで置換された物を用いた。また、ここで用いたPETを300℃で5分間保持した時の重量減少率は0.9%であった。
【0063】
スクリュー L/D=45
混練部長さはスクリュー有効長さの34%
混練部はスクリュー全体に分散させた
途中2個所のバックフロー部有り
ポリマー供給 PPSとPETを別々に計量し、別々に混練機に供給した
温度 300℃
ベント 無し
ここで得られたポリマーアロイ溶融体をそのまま紡糸機に導き、紡糸を行った。この時紡糸温度は315℃、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、口金面温度292℃とした口金から溶融紡糸した。この時、口金としては、吐出孔上部に直径0.3mmの計量部を備えた、吐出孔径が0.6mmのものを用いた。そして、この時の単孔あたりの吐出量は1.1g/分とした。さらに、口金下面から冷却開始点までの距離は7.5cmであった。吐出された糸条は20℃の冷却風で1mにわたって冷却固化され、脂肪酸エステルが主体の工程油剤が給油された後、非加熱の第1引き取りローラーおよび第2引き取りローラーを介して1000m/分で巻き取られた。この時の紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。また、この時の巻き取り応力は巻き取り応力0.08cN/dtexであり、耳立ち、綾落ち、パッケージ内の硬度分布もなく解じょ性良好なチーズパッケージが得られた。そして、これを第1ホットローラーの温度を100℃、第2ホットローラーの温度を130℃として延伸熱処理した。この時、第1ホットローラーと第2ホットローラー間の延伸倍率を3.3倍とした。得られたポリマーアロイ繊維は100dtex、48フィラメント、強度4.4cN/dtex、伸度27%、U%=1.3%の優れた特性を示した。また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEM観察した写真を図2に示すが、海ポリマーであるPET中にPPSが島として直径100nm未満で均一に分散していた。また、島の円換算直径を画像解析ソフトWINROOFで解析したところ、島の平均直径65nmであり、直径100nm以上の島比率は0%であった。
【0064】
このポリマーアロイ繊維を用いて丸編みを作製し、後述の実施例1と同様に脱海を行い、PPSナノファイバー100%からなる丸編みを得た。これからバンドルファバーを抜き出し、力学特性を測定したところ、強度2.5cN/dtex、伸度24%であった。このように、本発明で用いるPPSナノファイバーは充分な力学特性を有していた。また、このバンドルファイバーの横断面を観察すると扁平率3以上の扁平断面となっており、しなやかな特性を有し、他の繊維と混用してもソフト感に優れた織編物を得ることができるものであった。
【0065】
参考例2
PPSを40重量%、PETを60重量%として、参考例1と同様の条件で溶融混練を行い、一旦ポリマーアロイペレットを得た。このポリマーアロイペレットを乾燥した後、紡糸機に投入した。このポリマーアロイペレットを315℃で溶融し、紡糸温度315℃のスピンブロックに導いた。そして、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、口金面温度292℃とした口金から溶融紡糸した。この時、口金としては、吐出孔上部に直径0.3mmの計量部を備えた、吐出孔径が0.6mmのものを用いた。そして、この時の単孔あたりの吐出量は1.1g/分とした。さらに、口金下面から冷却開始点までの距離は10cmであった。吐出された糸条は20℃の冷却風で1mにわたって冷却固化され、脂肪酸エステルが主体の工程油剤が給油された後、非加熱の第1引き取りローラーおよび第2引き取りローラーを介して1000m/分で引き取ら、この糸条を20本集めて糸条ボックスに落とした。この時の紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。さらにこれを40本集めてポリマーアロイ繊維から成るトウを形成し、100℃のスチーム延伸を行った。この時、延伸倍率を2.8倍とした。得られたポリマーアロイ繊維トウは77万dtexであった。ここで糸条を1本取り出し上記条件でスチーム延伸し物性を測定したところ、強度4.0cN/dtex、伸度35%、U%=1.5%の優れた特性を示した。また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEM観察したところ、海ポリマーであるPET中にPPSが島として均一に分散していることが分かった。また、島の円換算直径を画像解析ソフトWINROOFで解析したところ、島の平均直径80nmであり、直径100nm以上の島比率は8%、直径150nm以上の島比率は0%であった。
【0066】
参考例3
重量平均分子量5万のPPSを紡糸温度320℃で溶融紡糸し、引き取り速度800m/分で紡糸し未延伸糸糸条を得、これを合糸した。そして100℃、3.2倍でスチーム延伸を施し、単繊維繊度1dtex(単繊維直径12μm)、トウ繊度10万dtexのPPSトウを得た。
【0067】
実施例1
参考例1で得たポリマーアロイ繊維に仮撚り数2000ターン/m、熱板温度220℃、延伸倍率1.01倍、加工速度100m/分でピン仮撚りを施し、ポリマーアロイ仮撚り加工糸を得た。また、別途84dtex、36フィラメントのPBT仮撚り加工糸を準備した。そして、ポリマーアロイ仮撚り加工糸をオーバーフィード率8%、PBT仮撚り加工糸をオーバーフィード率0%で供給し、インターレースノズルを用いて流体処理圧力0.4MPaにてエア交絡を施し、ポリマーアロイ仮撚り加工糸が混繊糸の比較的外側に配置された混繊糸を得た。これの交絡度は15個/mであった。
【0068】
次に、このポリマーアロイ混繊糸と前記PBT仮撚り加工糸を用い、特開2004−285517号公報と同様に裏面側ハニカムリバーシブル編組織となる丸編地を編製した。この編地に常法により精練、180℃で中間セットを施した後、98℃、10重量%水酸化ナトリウム水溶液に減量促進剤として明成化学工業(株)社製「マーセリンPES」5%owfを併用してアルカリ加水分解処理、中和、湯洗し、ポリマーアロイ繊維から海ポリマーであるPETを完全に脱海し、PPSナノファイバーを10重量%含有する二重組織から成る丸編みを得た。なお、この時のPPSナノファイバーの混繊糸全体に対する重量比率は22重量%であった。
【0069】
得られた丸編みから繊維を抜き出し、TEMにより繊維横断面を観察した(図1)ところ、平均直径は60nm、直径100nm以上の比率は0%(最大直径で86nm)であった。なお図1ではナノファイバー単繊維同士が接着しているように見えるが、これはTEMのコントラストが出にくいためであると考えられる。また、このPPSナノファイバーの側面をSEM観察したところ、PPSナノファイバーの長さ(L)が大きいため視野範囲ではLは決定することができず、L/Dは100以上であった。また、L/Dが10以下の物はゼロであった。さらに、このPPSナノファイバーは分岐を全く持っていない物であった。
【0070】
次に、この丸編みに、紫外線吸収剤として2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールを吸尽させた。この時、紫外線吸収剤を2重量%、ポリオキシアルキレン・スチレンオキサイド付加物系の分散剤を0.5重量%の水系処理液を調整し、130℃で50分間吸尽させた。この丸編みからPPSナノファイバー部分を少量サンプリングし、紫外線吸収剤を有機溶媒で抽出し、これの坦持量をガスクロマトグラフィーで定量したところ10重量%坦持されていた。
【0071】
さらに、この丸みを常法にしたがいグレーに染色した。そして、この丸編みは抗ピル4級、耐光堅牢度4級と優れた性質を示した。また、クロー値は0.9℃・m・hr/kcalと充分な保温性を示した。
【0072】
この丸編みを用いて靴下を作製したが、風合い、保温性とも良好な物であった。
【0073】
実施例2
参考例2で得たトウをクリンパーに導き、捲縮数14山/25mmの捲縮をかけた後、繊維長51mmにカットした。また、別途木綿の原綿(単糸繊度2.0〜2.2dtex程度、繊維長28〜32mm)を準備し、ポリマーアロイ原綿と混紡し綿番手70sの紡績糸を得た。この紡績糸中のポリマーアロイ繊維の重量比は40%とした。この紡績糸をチーズ染色機を用いて、実施例1と同様の条件でPETの脱海を行い、PPSナノファイバーと木綿から成る紡績糸を得た。この時のPPSナノファイバーの紡績糸全体に対する重量比率は21重量%であった。この紡績糸の横断面をTEMにより観察したところ、PPSナノファイバーの平均直径は80nm、直径100nm以上の比率は8%(最大直径で129nm)、直径150nm以上の比率は0%であった。また、この紡績糸からPPSナノファイバー部分を少量サンプリングし、PPSナノファイバーの側面をSEM観察したところ、PPSナノファイバーのLが大きいため視野範囲ではLは決定することができず、L/Dは100以上であった。また、L/Dが10以下の物はゼロであった。さらに、このPPSナノファイバーは分岐を全く持っていない物であった。
【0074】
このPPSナノファイバーを含む紡績糸と毛番手70番手の羊毛を実施例1と同様に裏面側ハニカムリバーシブル編組織となる丸編地を編製した。この丸編み中にPPSナノファイバーは6重量%であった。次に、これに実施例1と同様に紫外線吸収剤を吸尽させた。この丸編みからPPSナノファイバー部分をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーに紫外線吸収剤を定量したところ、PPSナノファイバーに対し、5重量%坦持されていた。さらに、この丸編みを常法にしたがいパステルピンクに染色した。そして、この丸編みは抗ピル3級、耐光堅牢度3級と優れた性質を示した。また、クロー値は1.0℃・m・hr/kcalと充分な保温性を示した。この丸編みを用いて婦人用の保温肌着を作製したが、風合い、保温性とも良好な物であった。
【0075】
実施例3
参考例1で作製したポリマーアロイ仮撚り加工糸を1000本合糸し、総繊度10万dtexのトウを得た。これを繊維長51mmにカットした後、実施例2と同様に木綿と混紡し、綿番手30sの紡績糸を得た。この時のポリマーアロイ繊維の重量比率は50重量%とした。これを実施例2と同様にチーズ染色機を用いてPETを脱海することで、PPSナノファイバーと木綿から成る混紡糸を得た。この時のPPSナノファイバーの紡績糸全体に対する重量比率は17重量%であった。この紡績糸の横断面をTEMにより観察したところ、PPSナノファイバーの平均直径は60nm、直径100nm以上の比率は0%(最大直径で86nm)であった。また、この紡績糸からPPSナノファイバー部分を少量サンプリングし、PPSナノファイバーの側面をSEM観察したところ、PPSナノファイバーのLが大きいため視野範囲ではLは決定することができず、L/Dは100以上であった。また、L/Dが10以下の物はゼロであった。さらに、このPPSナノファイバーは分岐を全く持っていない物であった。
【0076】
毛番手60番手の羊毛繊維を経糸に、このPPSナノファイバーを含む紡績糸を緯糸に用い、経二重組織で裏面にPPSナノファイバーを含む紡績糸が多く浮き出るようにして生機を製織した。この織物中にPPSナノファイバーは7重量%であった。次に、これに実施例1と同様に紫外線吸収剤を吸尽させた。この織物からPPSナノファイバー部分をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーに紫外線吸収剤を定量したところ、PPSナノファイバーに対し、5重量%坦持されていた。さらに、この織物を常法にしたがい黒に染色したところ、L値は12であり良好な黒発色性を示した。そして、この織物は抗ピル3級、耐光堅牢度3級と優れた性質を示した。また、クロー値は1.1℃・m・hr/kcalと充分な保温性を示した。この織物を用いてボトムを作製したが、風合い、保温性とも良好な物であった。
【0077】
比較例1
参考例3で得たPPSトウを繊維長51mmにカットし、PPSの混紡率を15重量%として特開2004−244768号公報実施例1と同様に経二重組織の織物を作製した。これは抗ピル性2級、耐光堅牢度1級と耐久性に劣る物であった。
【0078】
比較例2
比較例1で作製したPPS原綿単独で綿番手70sのPPS100%の紡績糸を得た。これを用いて平織り物を作製し、実施例1と同様に紫外線吸収剤を吸尽させた。これの耐光堅牢度は2級以下であった。
【0079】
比較例3
参考例1で作製したポリマーアロイ繊維を用いて丸編みを作製し、実施例1と同様に脱海を行い、PPSナノファイバー100%からなる丸編みを得た。しかし、高減量率のため、編み目の隙間が大きく、クロー値が0.6℃・m・hr/kcal未満と保温性にも劣る物であり、風合いとしても衣料用として不適な物であった。これの耐光堅牢度は1級未満と耐久性に劣る物であった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1のPPSナノファイバーの横断面を示す図
【図2】参考例1のポリマーアロイ繊維の横断面を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の平均直径が1〜1500nmであって直径1500〜5000nmの単繊維の比率が0〜5%であるポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを10〜90重量%含む混繊糸。
【請求項2】
単繊維の平均直径が1〜1500nmであって直径1500〜5000nmの単繊維の比率が0〜5%であるポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを10〜90重量%含む混紡糸。
【請求項3】
単繊維の平均直径が1〜1500nmであって、直径1500〜5000nmの単繊維の比率が0〜5%であるポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを3〜90重量%含む織編物であって、JIS L−1076に基づいて測定されるピリングが3級以上である織編物。
【請求項4】
単繊維の平均直径が1〜1500nmであって、直径1500〜5000nmの単繊維の比率が0〜5%であるポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを3〜90重量%含む織編物であって、JIS L−0842に基づいて測定される紫外線カーボンアーク灯光に対する耐光堅牢度が3級以上である織編物。
【請求項5】
紫外線吸収剤を0.1〜20重量%含む請求項3または4記載の織編物。
【請求項6】
ポリエステル繊維および/またはアクリル繊維および/またはウールを10〜97重量%含む請求項3〜5のいずれか1項記載の織編物。
【請求項7】
織編物の片面にポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーを含む糸がより多く浮いている請求項3〜6のいずれか1項記載の織編物。
【請求項8】
二重構造を有する請求項3〜7のいずれか1項記載の織編物。
【請求項9】
染色されている請求項3〜8のいずれか1項記載の織編物。
【請求項10】
請求項3〜9のいずれか1項記載の織編物を少なくとも一部に有する衣料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−265770(P2006−265770A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85634(P2005−85634)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】