説明

ポリフェニレンスルフィド樹脂含有高分子電解質組成物

【課題】 高温低加湿条件下(例えば、運転温度100℃で、50℃加湿(湿度12RH%に相当))でも高耐久性を有するプロトン交換膜の提供。
【解決手段】 イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物( A) と塩化メチレンによる抽出量が0.9重量%以下であり、かつ−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属または水素原子である)を10μmol/g以上有するポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とを含有し、該A成分と該B成分の重量比(A/B)が1/99〜99.99/0.01であることを特徴とする高分子電解質組成物およびこの高分子電解質組成物からなるプロトン交換膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含有する高分子電解質組成物およびそれからなる固体高分子型燃料電池用のプロトン交換膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電池内で、水素、メタノール等を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを、直接、電気エネルギーに変換して取り出すものであり、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。特に、固体高分子形燃料電池は、他と比較して低温で作動することから、自動車代替動力源、家庭用コジェネレーションシステム、携帯用発電機等として期待されている。
このような固体高分子形燃料電池は、電極触媒層とガス拡散層とが積層されたガス拡散電極がプロトン交換膜の両面に接合された膜電極接合体を少なくとも備えている。ここでいうプロトン交換膜は、高分子鎖中にスルホン酸基、カルボン酸基等の強酸性基を有し、プロトンを選択的に透過する性質を有する材料である。このようなプロトン交換膜としては、化学的安定性の高いナフィオン(登録商標、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系プロトン交換膜が好適に用いられる。
【0003】
燃料電池の運転時においては、アノード側のガス拡散電極に燃料(例えば、水素)、カソード側のガス拡散電極に酸化剤(例えば、酸素や空気)をそれぞれ供給し、両電極間を外部回路で接続することにより作動する。具体的には、水素を燃料とした場合、アノード触媒上で水素が酸化されてプロトンが生じ、このプロトンがアノード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通った後、プロトン交換膜内を移動し、カソード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通ってカソード触媒上に達する。一方、水素の酸化によりプロトンと同時に生じた電子は、外部回路を通ってカソード側ガス拡散電極に到達し、カソード触媒上にて上記プロトンと酸化剤中の酸素と反応して水が生成され、このとき電気エネルギーを取り出すことができる。
この際、プロトン交換膜は、ガスバリアとしての役割も果たす必要があり、プロトン交換膜のガス透過率が高いと、アノード側水素のカソード側へのリークおよびカソード側酸素のアノード側へのリーク、すなわち、クロスリークが発生して、いわゆるケミカルショートの状態となって良好な電圧を取り出せなくなる。
【0004】
このような固体高分子型燃料電池は、高出力特性を得るために80℃近辺で運転するのが通常である。しかしながら、自動車用途として用いる場合には、夏場の自動車走行を想定して、高温低加湿条件下(運転温度100℃付近で、50℃加湿(湿度12RH%に相当))でも燃料電池を運転できることが望まれている。ところが、従来のパーフルオロ系プロトン交換膜を用いて高温低加湿条件下で燃料電池を長時間運転すると、プロトン交換膜にピンホールが生じ、クロスリークが発生するという問題があり、十分な耐久性が得られていない。
パーフルオロ系プロトン交換膜の耐久性を向上させる方法として、フィブリル状のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いた補強(特許文献1,2)、延伸処理したPTFE多孔膜を用いた補強(特許文献3)、無機粒子を添加した補強(特許文献4,5,6)による検討が開示されている。しかしながら、これらの方法では、上記問題を解決するに充分な耐久性を得ることは達成されていない。
パーフルオロ系プロトン交換膜とポリフェニレンスルフィドから成るプロトン交換膜も検討されているが、耐酸化性が劣ると報告されている(特許文献7)。
【0005】
【特許文献1】特開昭53−149881号公報
【特許文献2】特公昭63−61337号公報
【特許文献3】特開平8−162132号公報
【特許文献4】特開平6−111827号公報
【特許文献5】特開平9−219206号公報
【特許文献6】米国特許第5523181号明細書
【特許文献7】特開2000−80166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温低加湿条件下(例えば、運転温度100℃で、50℃加湿(湿度12RH%に相当))でも高耐久性を有するプロトン交換膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、
イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物( A) と塩化メチレンによる抽出量が0.9重量%以下であり、かつ−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属または水素原子である)を10μmol/g以上有するポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とを含有し、該A成分と該B成分の重量比(A/B)が1/99〜99.99/0.01であることを特徴とする高分子電解質組成物が高い酸化安定性を示し、さらにその高分子電解質組成物からなるプロトン交換膜が、高温低加湿下でも高耐久性を有することを見出した。
さらに、本発明者等は、該パーフルオロカーボン高分子化合物(A)と、該ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)と、ポリフェニレンエーテル樹脂(C)とを含有し、該B成分と該C成分の重量比(B/C)が99/1〜1/99であり、かつ該A成分に対する該B成分と該C成分との総重量の重量比((B+C)/A)が99/1〜0.01/99.99であることを特徴とする高分子電解質組成物についても高い酸化安定性を示し、さらにその高分子電解質組成物からなるプロトン交換膜が、高温低加湿下でもさらに高い耐久性を有することを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物( A) と塩化メチレンによる抽出量が0.9重量%以下であり、かつ−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属または水素原子である)を10μmol/g以上有するポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とを含有し、該A成分と該B成分の重量比(A/B)が1/99〜99.99/0.01であることを特徴とする高分子電解質組成物。
〔2〕該パーフルオロカーボン高分子化合物(A)と、該ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)と、ポリフェニレンエーテル樹脂(C)とを含有し、該B成分と該C成分の重量比(B/C)が99/1〜1/99であり、かつ該A成分に対する該B成分と該C成分との総重量の重量比((B+C)/A)が99/1〜0.01/99.99であることを特徴とする高分子電解質組成物。
【0009】
〔3〕該パーフルオロカーボン高分子化合物(A)が、下記一般式(1)表される構造単位を有することを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の高分子電解質組成物。
-[CF2CX1X2] a -[CF2-CF(-O-(CF2-CF(CF2X3)) b -O c-(CFR1) d -(CFR2) e -(CF2)f -X4)] g - (1)
(式中、X1 ,X2 およびX3 はそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、bは0以上8以下の整数、cは、0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の整数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、R1 およびR2 はそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基であ
り、X4 は、COOZ、SO3 Z、PO3 2 、PO3 HZ(Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アミン類(NH4 、NH3 R、NH2 2 、NHR3 、NR4 (Rはアルキル基、又はアレーン基))
〔4〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の高分子電解質組成物からなることを特徴とするプロトン交換膜。
〔5〕〔4〕に記載のプロトン交換膜を備えた膜電極接合体。
〔6〕〔5〕に記載の膜電極接合体を備えた固体高分子型燃料電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高分子電解質組成物からなるプロトン交換膜は、運転温度100℃で、50℃加湿(湿度12RH%に相当)において、燃料電池運転を長期間行ってもクロスリークが発生せず、優れた耐久性を示すことから、高温低加湿条件下(例えば、運転温度100℃で、50℃加湿(湿度12RH%に相当))でも高耐久性を有するプロトン交換膜を得ることが可能となった。
本発明により得られるプロトン交換膜は、ダイレクトメタノール型燃料電池、クロルアルカリ、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に用いることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いられるイオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)としては、パーフルオロカーボンのスルホン酸ポリマーをはじめカルボン酸ポリマー、リン酸ポリマー、もしくはこれらのアミン塩、金属塩等が好適に用いられ、具体例として下記一般式(1)で表される重合体が挙げられる。
−[CF2CX1X2] a -[CF2-CF(-O-(CF2-CF(CF2X3)) b -O c -(CFR1) d -(CFR2) e -(CF2)f -X4)] g - (1)
(式中、X1 ,X2 およびX3 はそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、bは0以上8以下の整数、cは、0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の整数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、R1 およびR2 はそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基であり、X4 は、COOZ、SO3 Z、PO3 2 、PO3 HZ(Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アミン類(NH4 、NH3 R、NH2 2 、NHR3 、NR4 (Rはアルキル基、又はアレーン基))
【0012】
中でも、下記一般式(2)或いは(3)で表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーもしくはその金属塩が特に好ましい。
−[CF2CF2] a -[CF2-CF(-O-CF2-CF(CF3)) b -O-(CF2)c -SO3X]] d - (2)
(式中、0≦a<1、0≦d<1、a+d=1、bは1以上8以下の整数、cは0以上10以下の整数、Xは水素原子またはアルカリ金属原子)
-[CF2CF2] e -[CF2-CF(-O-(CF2) f -SO3Y)] g - (3)
(式中、0≦e<1、0≦g<1、e+g=1、fは0以上10以下の整数、Yは水素原子またはアルカリ金属原子)
本発明のイオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)は、例えば、下記一般式(4)に示される前駆体ポリマーを重合した後、アルカリ加水分解、酸処理等を行って製造することができる。
-[CF2CX1X2] a -[CF2-CF(-O-(CF2-CF(CF2X3)) b -O c-(CFR1) d -(CFR2) e -(CF2)f -X 5)] g - (4)
(式中、X1 、X2 およびX3 は、それぞれ独立に、ハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、bは、0以上8
以下の整数、cは、0または1、d、eおよびfは、それぞれ独立に、0以上6以下の整数(但し、d+e+fは、0に等しくない)、R1 およびR2 は、それぞれ独立に、ハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基、X5 は、COOR3 ,COR4 またはSO2 4 (R3 は、炭素数1〜3の炭化水素系アルキル基、R4 は、ハロゲン元素))
【0013】
本発明に用いることが可能な前駆体ポリマーは、フッ化オレフィン化合物とフッ化ビニル化合物とを共重合させることにより製造される。
具体的なフッ化オレフィン化合物としては、CF2 =CF2 ,CF2 =CFCl,CF2 =CCl2 等が挙げられる。
又、具体的なフッ化ビニル化合物としては、
CF2 =CFO(CF2 z −SO2 F,CF2 =CFOCF2 CF(CF3 )O(CF2 z −SO2 F,CF2 =CF(CF2 z −SO2 F,CF2 =CF(OCF2 CF(CF3 ))z −(CF2 z-1 −SO2 F,CF2 =CFO(CF2 z −CO2 R,CF2=CFOCF2 CF(CF3 )O(CF2 z −CO2 R,CF2 =CF(CF2 z −CO2 R,CF2 =CF(OCF2 CF(CF3 ))z −(CF2 2 −CO2 R(Zは1〜8の整数、Rは炭素数1〜3の炭化水素系アルキル基を表す)等が挙げられる。
【0014】
前駆体ポリマーの重合方法としては、フッ化ビニル化合物をフロン等の溶媒に溶解した後、フッ化オレフィン化合物のガスと反応させ重合する溶液重合法、フロン等の溶媒を使用せずに重合する塊状重合法、フッ化ビニル化合物を界面活性剤とともに水中に仕込んで乳化させた後、フッ化オレフィン化合物のガスと反応させ重合する乳化重合法等の一般的な重合方法が挙げられる。
尚、本発明では、フッ化ビニル化合物、フッ化オレフィン化合物に加え、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等のパーフルオロオレフィン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の第3成分を含む共重合体であってもよい。
本発明に用いることが可能な前駆体ポリマーの、JIS K−7210に基づいた270℃、荷重21.2N、オリフィス内径2.09mmで測定されるメルトインデックスMI(g/10分)は、0.001以上1000以下が好ましく、より好ましくは0.01以上100以下、最も好ましくは0.1以上10以下である。
【0015】
本発明に用いることが可能な前駆体ポリマーは、次に、塩基性反応液体に浸漬させてアルカリ加水分解処理を行う。反応液体は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が好ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の含有率は、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。上記反応液体は、ジメチルスルホキシド、メタノール等の膨潤性有機化合物を含有するのが好ましい。膨潤性有機化合物の含有率としては、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
前駆体ポリマーをアルカリ加水分解処理した後、さらに必要に応じて塩酸等で酸処理を行うことにより、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)が製造される。
【0016】
次に、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂(B)(以下PPSと略記することもある)は、基本的にはパラフェニレンスルフィド骨格を70モル%以上、好ましくは90モル%以上からなるポリフェニレンスルフィドである。
加えて、本発明に用いられるポリフェニレンスルフィド樹脂(B)は塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が0.001重量%以上0.9重量%以下であり、かつ−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属または水素原子である)が10μmol/g以上10,000μmol/g以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂である。このような特定の
PPSを用いることにより本発明の効果が得られる。
PPSの製造方法は、上記の条件を満足する限り、限定されるものではなく、通常、ハロゲン置換芳香族化合物、例えばp−ジクロルベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、極性溶媒中で硫化ナトリウムあるいは硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウムまたは硫化水素と水酸化ナトリウムあるいはナトリウムアミノアルカノエートの存在下で重合させる方法、p−クロルチオフェノールの自己縮合等が挙げられるが、中でもN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法が適当である。具体的には、例えば、米国特許第2513188号明細書、特公昭44−27671号公報、特公昭45−3368号公報、特公昭52−12240号公報、特開昭61−225217号公報および米国特許第3274165号明細書、英国特許第1160660号明細書さらに特公昭46−27255号公報、ベルギー特許第29437号明細書、特開平5−222196号公報、等に記載された方法やこれら特許等に例示された先行技術の方法で得ることが出来る。
【0017】
本発明では、ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)は、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が0.001重量%以上0.9重量%以下、好ましくは0.001重量%以上0.8重量%以下、より好ましくは0.001重量%以上0.7重量%以下であるものが用いられる。
塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が上記範囲にあるということは、PPS中におけるオリゴマー(約10〜30量体)の量が少ないことを意味する。上記オリゴマー抽出量が上記範囲を超えると製膜時にブリードアウトが発生しやすくなるので好ましくない。
ここで、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量の測定は以下の方法により行うことができる。すなわち、PPS粉末5gを塩化メチレン80mlに加え、4時間ソクスレー抽出を実施した後、室温まで冷却し、抽出後の塩化メチレン溶液を秤量瓶に移す。更に、上記の抽出に使用した容器を塩化メチレン合計60mlを用いて、3回に分けて洗浄し、該洗浄液を上記秤量瓶中に回収する。次に、約80℃に加熱して、該秤量瓶中の塩化メチレンを蒸発させて除去し、残渣を秤量し、この残渣量よりPPS中に存在するオリゴマー量の割合を求めることができる。
【0018】
また、本発明では、ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)は、−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属または水素原子である)が10μmol/g以上10,000μmol/g以下、好ましくは15μmol/g以上10,000μmol/g以下、より好ましくは20μmol/g以上10,000μmol/g以下であるものが用いられる。
−SX基濃度が上記範囲にあるということは、反応活性点が多いことを意味し、−SX基濃度が上記範囲を満たすポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を用いることで、本発明のイオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)との高分子電解質組成物における混和性が向上し、高温低加湿条件下でより高い耐久性が得られたと考えられる。
ここで−SX基の定量は以下の方法により行うことができる。すなわち、PPS粉末を予め120℃で4時間乾燥した後、この乾燥PPS粉末20gをN−メチル−2−ピロリドン150gに加えて粉末凝集塊がなくなるように室温で30分間激しく撹拌混合しスラリー状態にする。
【0019】
かかるスラリーを濾過した後、毎回約80℃の温水1リットルを用いて7回洗浄を繰り返す。得た濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化した後、1Nの塩酸を加えて該スラリーのPHを4.5に調整する。次に、25℃で30分間撹拌して、濾過した後、約80℃の温水1リットルを用いて6回洗浄を繰り返す。得られた濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化し、次いで、1Nの水酸化ナトリウムにより滴定し、消費した水酸化ナトリウム量よりPPS中に存在する−SX基の量を求める。
ここで、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が0.001重量%以上0.9重量%以下であり、かつ−SX基が10μmol/g以上10,000μmol/g以下であるPPSの具体的な製造方法としては、特開平8−253587号公報の実施例1および2に記載された製造方法(段落番号0041〜0044)や特開平11−106656号公報の合成例1および2に記載された製造方法(段落番号0046〜0048)等が挙げられる。
さらに、本発明で用いるPPSは320℃における溶融粘度(フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、L/D(L:オリフィス長、D:オリフィス内径)=10/1で6分間保持した値)は、好ましくは1〜10,000ポイズであり、さらに好ましくは100〜10,000ポイズである。
【0020】
さらに本発明では、PPSに酸性官能基を導入したものも好適に用いることが出来る。導入する酸性官能基としてはスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、マレイン酸基,無水マレイン酸基,フマル酸基,イタコン酸基,アクリル酸基,メタクリル酸基が好ましく、スルホン酸基が最も好ましい。
酸性官能基の導入方法は特に限定されず、一般的な方法を用いて実施される。例えばスルホン酸基の導入については、無水硫酸、発煙硫酸などのスルホン化剤を用いて公知の条件で実施することが出来る。例えば、K.Hu, T.Xu, W.Yang, Y.Fu, Journal of Applied Polymer Science, Vol.91,や、 E.Montoneri, Journal of Polymer
Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol.27, 3043−3051(1989)に記載の条件で実施できる。
また、導入した酸性官能基を金属塩またはアミン塩に置換したものも好適に用いられる。金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0021】
本発明におけるイオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)とポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の組成比は重量比(A/B)で、1/99〜99.99/0.01であるが、より好ましくは10/90〜99.95/0.05、さらに好ましくは30/70〜99.9/0.1、特に好ましくは50/50〜99/1、最も好ましくは70/30〜95/5である。イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)の混合比がこの範囲より小さくなると十分なプロトン導電性が得られず良好な電池特性を得ることが出来なくなる。一方、ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の混合比がこの範囲より小さくなると高温低加湿条件での電池運転における耐久性に有意な差が見られなくなる。
【0022】
次に、本発明で用いるポリフェニレンエーテル樹脂(C)(以下、単にPPEと略記することもある。)は、構造単位が下記一般式(5)で表される。
【0023】
【化1】

(ここで、R1 ,R2 ,R3 ,およびR4 はそれぞれ、水素、ハロゲン、炭素数1〜7
までの第一級または第二級低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基または少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものであり、互いに同一でも異なっていてもよい)からなり、還元粘度(0.5g/dl,クロロホルム溶液,30℃測定)が、0.15〜2.0の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.20〜1.0の範囲にあるホモ重合体および/または共重合体である。
【0024】
このPPEの具体的な例としては、例えばポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらにポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
かかるPPEの製造方法は公知の方法で得られるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3306874号明細書記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、例えば2,6−キシレノールを酸化重合することにより容易に製造でき、そのほかにも米国特許第3306875号明細書、同第3257357号明細書および同第3257358号明細書、特公昭52−17880号公報、特開昭50−51197号公報および特開昭63−152628号公報等に記載された方法で容易に製造できる。
【0025】
本発明で用いるポリフェニレンエーテル樹脂(C)は、上記したPPE単独のほかに、アタクチック、シンジオタクチックの立体規則性を有するポリスチレン(アタクチック型のハイインパクトポリスチレンも含む)を上記したPPE成分100重量部に対して、1〜400重量部の範囲で配合したものも好適に用いることができる。
さらにポリフェニレンエーテル樹脂(C)は、上記に挙げた各種ポリフェニレンエーテルに反応性の官能基を導入したものも好適に用いることが出来る。反応性の官能基としてはエポキシ基、オキサゾニル基、アミノ基、イソシアネート基、カルボジイミド基、その他酸性官能基が挙げられる。そして特に酸性官能基はより好適に用いられる。導入する酸性官能基としてはスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、マレイン酸基,無水マレイン酸基,フマル酸基,イタコン酸基,アクリル酸基,メタクリル酸基が好ましく、スルホン酸基が最も好ましい。
【0026】
酸性官能基の導入方法は、一般的な方法を用いて実施される。例えば各種ポリフェニレンエーテルへのスルホン酸基の導入については、無水硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸などのスルホン化剤を用いて公知の条件で実施することが出来る。例えば、C.Wang, Y.Huang, G.Cong, Polymer Journal, Vol.27, No.2, 173−178(1995)や、J.Schauer, W.Albrecht, T.Weigel, Journal of Applied Polymer Science, Vol.73, 161−167(1999)に記載の条件で実施できる。 また、導入した酸性官能基を金属塩またはアミン塩に置換したものも好適に用いられる。金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が好ましい。
ポリフェニレンエーテル樹脂(C)の重量平均分子量は、1000以上5000000以下であることが好ましく、より好ましくは1500以上1000000以下である。
【0027】
次に、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)とポリフェニレ
ンスルフィド樹脂(B)とポリフェニレンエーテル樹脂(C)の組成比について説明する。
本発明では、上記したポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とポリフェニレンエーテル樹脂(C)をB/C=1/99〜99/1の重量比で、配合するが、中でも、最も好ましい態様の組成は、B/C=20/80〜90/10、より好ましくは50/50〜80/20の重量比である。(B)成分のPPSは、耐久性を考慮すると20重量%以上、90重量%以下が好ましい。
イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)は、ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とポリフェニレンエーテル樹脂(C)の合計重量に対して、重量比((B+C)/A)で、99/1〜0.01/99.99であるが、プロトン導電性と耐久性のバランスからより好ましくは90/10〜0.05/99.95、さらに好ましくは70/30〜0.1/99.9、特に好ましくは50/50〜1/99、最も好ましくは30/70〜5/95である。
【0028】
なお、本発明ではイオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)、ポリフェニレンエーテル樹脂(C)はいずれも、2種類以上の化合物で構成されていてもよい。例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂(C)として、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)とポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)との混合物を用いる例や、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)とスルホン酸基を導入したポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)の混合物を用いる例などが挙げられる。また、ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)として、ポリフェニレンスルフィドとスルホン化したポリフェニレンスルフィドの混合物を用いる例などが挙げられる。
本発明の高分子電解質組成物については、必要に応じて酸化防止剤や老化防止剤、重金属不活性化剤、難燃剤等の各種添加剤を添加することが出来る。本発明の高分子電解質組成物と添加剤との重量比(電解質組成物/添加剤)は80/20〜99.999/0.001であることが好ましく、より好ましくは90/10〜99.99/0.01、さらに好ましくは95/5〜99.9/0.1である。
【0029】
次に、本発明の高分子電解質組成物の作製方法について説明する。イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)とポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とポリフェニレンエーテル樹脂(C)を混合して本発明の高分子電解質組成物を得るわけであるが、その方法は特に限定されず、一般的な高分子組成物の混合方法が好適に適用できる。
例えば、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)またはその前駆体ポリマーと、ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)、ポリフェニレンエーテル樹脂(C)を熱溶融して、混練押出機、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等で混練する方法が挙げられる。また、予めポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とポリフェニレンエーテル樹脂(C)を熱溶融して、混練押出機、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等で混練して混合物を得てから、この混合物とイオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)またはその前駆体ポリマーとを同様に混練して最終的な高分子電解質組成物を得ることも出来、混練の組み合わせや順番は任意に行なうことが出来る。また、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)の代わりにその前駆体ポリマーを用いた場合は、混練後にアルカリ加水分解処理および酸処理を行ってイオン交換基を有する形態に変換することで本発明の高分子電解質組成物を得ることが出来る。
【0030】
このときの混練の方法は、ブラベンダー、ニーダー、バンバリーミキサーおよび押出機などの従来公知の技術によって達成されるが、特に好適なのは押出機である。本発明で用いられる高分子電解質組成物を工業的に容易に得る方法として最も好ましい実施態様とし
ては、上記した各成分を溶融混練するための押出機が、ニーディングブロックをスクリューの任意の位置に組み込むことが可能な二軸以上の多軸押出機であり、用いるスクリューの全ニーディングブロック部分を実質的に(L/D)≧1.5、さらに好ましくは(L/D)≧5(ここでLは、ニーディングブロックの合計長さ、Dはニーディングブロックの最大外径をあらわす)に組み込み、かつ、(π・D・N/h)≧50〔ここで、π=3.14、D=メタリングゾーンに相当するスクリュー外径、N=スクリュー回転数(回転/秒)、h=メタリングゾーンの溝深さ〕を満たし、これらの押出機は、原料の流れ方向に対し上流側に第一原料供給口、これより下流に第二原料供給口を有し、必要に応じ、第二原料供給口より下流にさらに1つ以上の原料供給口を設けても良く、さらに必要に応じこれら原料供給口の間に真空ベント口を設けた二軸押出機を用いる。
また、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)またはその前駆体ポリマーの溶液と、ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の溶液、ポリフェニレンエーテル樹脂(C)の溶液をそれぞれ混合した後に、溶媒を除去する方法も挙げられる。この場合も、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)の代わりにその前駆体ポリマーを用いた場合は、溶媒を除去した後、アルカリ加水分解処理および酸処理を行ってイオン交換基を有する形態に変換することで本発明の高分子電解質組成物を得ることが出来る。
【0031】
次に、本発明の高分子電解質組成物からなるプロトン交換膜の作製方法について説明する。本発明の高分子電解質組成物は、製膜してプロトン交換膜として用いることが出来る。製膜手段は特に限定されず、一般的な高分子組成物の製膜方法が好適に適用できる。例えば、カレンダー成形、プレス成形、Tダイ押出、インフレーション押出などの公知の製膜方法が挙げられる。
また、本発明の高分子電解質組成物の前駆体、例えばイオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)の前駆体ポリマーとポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とポリフェニレンエーテル樹脂(C)とからなる高分子組成物を、前述の製膜方法を用いて製膜した後に、適当な後処理、例えばアルカリ加水分解処理や酸処理を行ってイオン交換基を有する形態に変換することで、本発明の高分子電解質組成物からなるプロトン交換膜を得ることも出来る。
また、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)と、ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の溶液、ポリフェニレンエーテル樹脂(C)の溶液を混合し、その溶液をキャストした後、溶媒を除去することによってもプロトン交換膜を得ることができる。キャスト方法としては、シャーレに流し込み製造する方法をはじめ、グラビアロールコータ−、ナチュラルロールコータ、リバースロールコータ、ナイフコータ−、ディップコータ−等の公知の塗工方法を用いることができる。キャスト法に用いる基材は、一般的なポリマーフィルム、金属箔、アルミナ、ケイ素等の基板、特許文献3に記載のPTFE膜を延伸処理した多孔質膜、特許文献1および特許文献2に示されるフィブリル化繊維等を用いることができる。
【0032】
溶媒の除去の方法として、室温〜200℃で熱処理、減圧処理等の方法を用いることができる。また熱処理をする場合、段階的に昇温させ溶媒を除去することも可能である。
また、例えばイオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)の溶液の代わりにその前駆体ポリマーの溶液を用いて、ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の溶液、ポリフェニレンエーテル樹脂(C)の溶液を混合してその溶液をキャストした後、溶媒を除去してから、適当な後処理、例えばアルカリ加水分解処理や酸処理を行ってイオン交換基を有する形態に変換することで、本発明の高分子電解質組成物からなるプロトン交換膜を得ることも出来る。
本発明のプロトン交換膜の製造において、上記記載の製法と併せて、ガラス繊維等の無機粒子を添加することによる補強や、架橋による補強等を施すこともできる。また、横1軸延伸や同時2軸延伸、逐次2軸延伸を実施することによって延伸配向を付与することも
できる。
【0033】
また、本発明の高分子電解質組成物については、空気中あるいは酸素雰囲気下にて例えば160℃以上で加熱処理することによって力学物性を向上させることも出来る。
本発明により製造されるプロトン交換膜の当量質量EW(プロトン交換基1当量あたりのプロトン交換膜の乾燥質量グラム数)には、250以上2000以下が好ましく、より好ましくは400以上1200以下、最も好ましくは500以上1000以下である。より低いEW、つまりプロトン交換容量の大きいプロトン伝導性ポリマーを用いることにより、高温低加湿条件下においても優れたプロトン伝導性を示し、燃料電池に用いた場合、運転時に高い出力を得ることができる。
本発明により製造されるプロトン交換膜の厚みは、1μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは2μm以上100μm以下、最も好ましくは5μm以上50μm以下である。
本発明により製造されるプロトン交換膜の乾湿寸法変化は、好ましくは0%以上100%以下、より好ましくは0%以上50%以下、最も好ましくは0%以上10%以下である。ここでいう乾湿寸法変化とは、25℃20RH%で1時間放置した時の寸法に対する80℃水中で1時間放置した時の寸法の変化の割合のことをいう。寸法とは、プロトン交換膜の縦方向または横方向の長さのことであり、共に上記範囲を満たすことが好ましい。
【0034】
本発明のプロトン交換膜の耐久性は燃料電池として評価するため、以下その評価方法について説明する。
(膜電極接合体)
本発明により得られるプロトン交換膜を固体高分子型燃料電池に用いる場合、アノードとカソード2種類の電極触媒層が接合した膜電極接合体(以下「MEA」と略称する)として使用される。電極触媒層のさらに外側に一対のガス拡散層を対向するように接合したものもMEAと呼ぶ。
電極触媒層は、触媒金属の微粒子とこれを担持した導電剤とから構成され、必要に応じて撥水剤が含まれる。電極に使用される触媒としては、水素の酸化反応および酸素による還元反応を促進する金属であれば良く、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、これらの合金等が挙げられ、その中では、主として白金が用いられる。
MEAの製造方法としては、例えば、次のような方法が行われる。まず、イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にする。これをPTFEシートに一定量塗布して乾燥させる。次に、PTFEシートの塗布面を向かい合わせにして、その間に本発明のプロトン交換膜を挟み込み、100℃〜200℃で熱プレスにより転写接合してMEAを得ることができる。
【0035】
(燃料電池)
上記で得られたMEA、場合によってはMEAを介して一対のガス拡散電極が対向した構造のものは、さらにバイポーラプレート、バッキングプレート等の一般的な固体高分子型燃料電池に用いる構成成分と組み合わせて固体高分子型燃料電池を構成する。
バイポーラプレートは、その表面に燃料や酸化剤等のガスを流すための溝を形成させたグラファイトまたは樹脂との複合材料、金属製のプレート等のことであり、電子を外部負荷回路へ伝達する他に、燃料や酸化剤を電極触媒近傍に供給する流路としての機能を持っている。こうしたバイポーラプレートの間にMEAを挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池が製造される。
以上、本発明の燃料電池製造用の溶液から得られたプロトン交換膜の耐久性の評価方法について説明した。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(成分)
1.イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)成分の前駆体ポリ
マー
a−1:テトラフルオロエチレンとCF2 =CFO(CF2 2 −SO2 Fとから得られた前駆体ポリマー(JIS K−7210に基づいた270℃、荷重21.2N、オリフィス内径2.09mmで測定されるメルトインデックスMI(g/10分):3.0、アルカリ加水分解・酸処理後のEw:730)。
2.ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)成分
b−1:溶融粘度(フローテスターを用いて、300℃、荷重20Kgf/cm2 、L/D(L:オリフィス長、D:オリフィス内径)=10/1で6分間保持した後測定した値。以下同じ。)が50Pa・s、塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%、−SX基量が25μmol/gのPPSをb−1とした。
b−2:溶融粘度が50Pa・s、塩化メチレンによる抽出量が0.8重量%、−SX基量が14μmol/gのPPSをb−2とした。
b−3:溶融粘度が50Pa・s、塩化メチレンによる抽出量が1.2重量%、−SX基量が31μmol/gのPPSをb−3とした。
b−4:溶融粘度が50Pa・s、塩化メチレンによる抽出量が2.0重量%、−SX基量が16μmol/gのPPSをb−4とした。
b−5:溶融粘度が50Pa・s、塩化メチレンによる抽出量が0.6重量%、−SX基量が7μmol/gのPPSをb−5とした。
3.ポリフェニレンエーテル樹脂(C)成分
c−1:2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度が0.51、ガラス転移温度(Tg)が209℃のポリフェニレンエーテル。
尚、本発明に用いられる評価法および測定法は以下のとおりである。
【0037】
(プロトン伝導度測定)
膜サンプルを湿潤状態にて切り出し、厚みTを測定する。これを、幅1cm、長さ5cmの膜長さ方向の伝導度を測定する2端子式の伝導度測定セルに装着する。このセルを80℃のイオン交換水中に入れ、交流インピーダンス法により、周波数10kHzにおける実数成分の抵抗値Rを測定し、以下の式からプロトン伝導度σを導出する。
σ=L/(R×T×W)
σ:プロトン伝導度(S/cm)
T:厚み(cm)
R:抵抗値(Ω)
L(=5):膜長(cm)
W(=1):膜幅(cm)
【0038】
(燃料電池評価)
(1)燃料電池の製造
まず、台紙上に塗布したガス拡散電極2枚の間にプロトン交換膜を挟み込み、180℃、圧力10MPaでホットプレスすることにより、プロトン交換膜にガス拡散電極を転写接合させてMEAを製造する。
ガス拡散電極としては、田中貴金属工業(株)製白金担持触媒TEC10E40E(白金担持率40wt%)に、パーフルオロスルホン酸ポリマー溶液SS−700x/05(旭化成(株)製、EW:720、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)を12wt%に濃縮した溶液とエタノールを添加し、混合、攪拌してインク状にしたものをPTFEシート上に塗布した後、大気雰囲気中、150℃で乾燥・固定化したものを使用する。このガス拡散電極の白金担持量は0.4mg/cm2 、ポリマー担持量は0.5mg/cm2 である。
このMEAの両側に撥水処理したカーボンペーパーまたはカーボンクロスを配置し、評価セルに組み込んで評価装置にセットする。燃料として水素ガス、酸化剤として空気ガスを用い、セル温度100℃、0.1MPaにて単セル特性試験を行う。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガス、空気ガスともに50℃で加湿(湿度12RH%に相当)してセルへ供給する。
【0039】
(2)フッ素溶出速度の測定
単セル特性試験中のアノード排ガスおよびカソード排ガスと共に排出される排水を、それぞれ所定時間捕捉回収した後、秤量する。メディトリアル(株)製ベンチトップ型pHイオンメーター920Aplusに同フッ素複合電極9609BNionplusを取り付け、アノード排水中およびカソード排水中のフッ素イオン濃度を測定し、以下の式からフッ素溶出速度Gを導出する。
G=(Wa×Fa+Wc×Fc)/(T×A)
G:フッ素溶出速度(μg/Hr/cm2
Wa:捕捉回収したアノード排水の重量(g)
Fa:アノード排水中のフッ素イオン濃度(ppm)
Wc:捕捉回収したカソード排水の重量(g)
Fc:カソード排水中のフッ素イオン濃度(ppm)
T:排水を捕捉回収した時間(Hr)
A:MEAの電極面積(cm2
【0040】
(3)クロスリーク量の測定
単セル特性試験中のカソード排ガスの一部を、ジーエルサイエンス製マイクロガスクロマトグラフMicro GC CP−4900に導入し、カソード排ガス中の水素ガス濃度を測定し、以下の式から水素ガス透過率を導出する。
L=(X×V×T)×(5−U/100)/(3×A×P)×10-8
L:水素ガス透過率(ml・cm/cm2 /sec/Pa)
X:カソード排ガス中の水素ガス濃度(ppm)
V:カソードガス流量(ml/min)
T:プロトン交換膜の膜厚(cm)
U:カソードガス利用率(%)
A:プロトン交換膜の水素透過面積(cm2
P:カソード−アノード間の水素分圧差(Pa)
【0041】
[実施例1〜3および比較例1〜4]
表1、表2に示したポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とポリフェニレンエーテル樹脂(C)(表1、表2の()内の数字は重量部)を、温度290〜310℃、スクリュー回転数200rpmに設定した二軸押出機(ZSK−40;WERNER&PFLEIDERER社製、ドイツ国)を用い、押出機の第一原料供給口より(B)成分とc−1を供給して溶融混練してペレットとして得た。
得られたペレットとa−1(表1、表2の重量部)とを、同様に押出機で溶融混練した後、Tダイ押出機を用いて溶融押出して50μm厚のフィルムに成形した。このフィルムを、水酸化カリウム(15質量%)とジメチルスルホキシド(30質量%)を溶解した水溶液中に、60℃で4時間接触させて、アルカリ加水分解処理を行った。その後、60℃水中に4時間浸漬した。次に60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥してプロトン交換膜を得た。
得られたプロトン交換膜の表面へのブリードアウトの有無を表1に示す。塩化メチレンによる抽出量が小さいPPSを用いるとブリードアウトの発生が起こらないことがわかる。
得られたプロトン交換膜について当量質量EW、プロトン伝導度(S/cm)、燃料電
池評価(燃料電池運転開始時から200時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値(μg/Hr/cm2 )と、燃料電池運転前と200時間後のクロスリーク量(ml×cm/cm2 /sec/Pa))の測定を行った結果を表2に示す。
表2の結果から- SX基量が大きいPPSを用いると耐久性が向上することがわかる。また(C)成分であるPPEを加えることにより、さらに耐久性が向上することが分かる。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、高温下でも高耐久性を有するプロトン交換膜であり、イオン交換膜、燃料電池の分野に好適である。本発明により得られるプロトン交換膜は、ダイレクトメタノール型燃料電池、クロルアルカリ、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に用いることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物( A) と塩化メチレンによる抽出量が0.9重量%以下であり、かつ−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属または水素原子である)を10μmol/g以上有するポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とを含有し、該A成分と該B成分の重量比(A/B)が1/99〜99.99/0.01であることを特徴とする高分子電解質組成物。
【請求項2】
該パーフルオロカーボン高分子化合物(A)と、該ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)と、ポリフェニレンエーテル樹脂(C)とを含有し、該B成分と該C成分の重量比(B/C)が99/1〜1/99であり、かつ該A成分に対する該B成分と該C成分との総重量の重量比((B+C)/A)が99/1〜0.01/99.99であることを特徴とする高分子電解質組成物。
【請求項3】
該パーフルオロカーボン高分子化合物(A)が、下記一般式(1)表される構造単位を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子電解質組成物。-[CF2CX1X2] a -[CF2-CF(-O-(CF2-CF(CF2X3)) b -O c-(CFR1) d -(CFR2) e -(CF2)f -X4)] g - (1)
(式中、X1 ,X2 およびX3 はそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、bは0以上8以下の整数、cは、0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の整数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、R1 およびR2 はそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基であり、X4 は、COOZ、SO3 Z、PO3 2 、PO3 HZ(Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アミン類(NH4 、NH3 R、NH2 2 、NHR3 、NR4 (Rはアルキル基、又はアレーン基))
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子電解質組成物からなることを特徴とするプロトン交換膜。
【請求項5】
請求項4に記載のプロトン交換膜を備えた膜電極接合体。
【請求項6】
請求項5に記載の膜電極接合体を備えた固体高分子型燃料電池。

【公開番号】特開2006−59560(P2006−59560A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237404(P2004−237404)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】