説明

ポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品

【課題】耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、電気絶縁性に優れるというポリフェニレンスルフィド樹脂本来の特性を損なうことなく、表面外観に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品を提供する。
【解決手段】メルトフローレート(ASTM D−1238−70に従い、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)が30g/10分以下、220℃での結晶化時間が3.0分以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分としたポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、電気絶縁性に優れるというポリフェニレンスルフィド樹脂本来の特性を損なうことなく、表面外観に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す場合もある)樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特徴を活かした製品として実用化されてきた。例えば、射出成形用の製品として、耐熱性や耐薬品性を要求される自動車部品や精密機器部品、電気・電子部品など、現在まで広く利用されてきている。特に、熱架橋型PPSを用いることで、ポリテトラフルオロエチレン樹脂に匹敵する、優れた耐食性、耐薬品性、耐熱性を生かして、射出成形法による各種自動車部品、電気電子機器部品への応用、粉末PPSを用い金属へのコーティング等の分野へ使用されている。これら熱架橋型PPSは、一般に酸素の存在下でPPS融点未満の固相状態で加熱するか、融点以上の溶融状態で加熱することによって得られる(特許文献1)。しかしこのような従来の熱架橋型PPSを用い、押出成形法により例えば化学プラントの配管用としてのパイプを成形した場合は、強度、靱性が低く、パイプ内を通過する液体の圧力に耐えられず破壊するという欠点を有していた。
【0003】
この欠点を改良するために金属とPPSの複合化(特許文献2)、他の熱可塑性樹脂とPPSとの複合化(特許文献3)、繊維強化熱硬化樹脂との複合化(特許文献4)等がある。しかしながら、これら公知の方法は、いずれも成形作業が複雑で生産性に劣り、また、PPS自体の溶融押出成形性や成形物の物性を改善するものではない。また、特定の製法によって得られた直鎖状PPSによるパイプ(特許文献5)の例もあるが、押出成形を実施する前に特定のPPSペレットを作製する必要があるため、生産性に劣る。またPPSに特定のオレフィン系エラストマーをブレンドしたものを使用したパイプ(特許文献6)は、強度、靱性は問題ないが、エラストマーを使用しているため、耐熱性、耐薬品性に問題があった。
【0004】
このように、PPS樹脂を使用した板材・パイプ等の押出成形品は、強度、靱性、成形性等の諸問題があった。さらに、厚肉のPPS樹脂押出成形品を作製しようとすると表面外観が悪化するという課題があった。その結果、荒れた表面を切削加工して除去する必要が生じ、加工に手間がかかる他、切削除去される部分が廃棄され、原料ロスにもつながっていた。これに対して、良質な押出成形品を得るためにPPSと芳香族ポリアミドイミド樹脂ならびに繊維状フィラーを配合して製造する方法(特許文献7)もあるが、芳香族ポリアミドイミド樹脂が高価であるとともに、繊維状フィラーの含有が必須であるため押出成形品表面にフィラーが浮き出しやすく表面外観が悪化する傾向にあるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62ー177027号公報
【特許文献2】特開昭59−145131号公報
【特許文献3】特開昭59−85747号公報
【特許文献4】特開昭59−47590号公報
【特許文献5】特開平3−255162号公報
【特許文献6】特開平2−200415号公報
【特許文献7】特開2005−162953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らはこれらの問題点を解決すべく鋭意努力した結果、特定のメルトフローレートおよび結晶化速度を有するPPS樹脂を用いて得た押出成形品は、良好な表面外観を保ちながら押出成形することが出来、これによって充分実用性に達するPPS樹脂製押出成形品が得られることが判明し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための手段として本発明は、以下のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品が有用であることを見出した。
(1)メルトフローレート(ASTM D−1238−70に従い、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)が30g/10分以下、220℃での結晶化時間が3.0分以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分として用いることを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品
(2)溶融結晶化温度が175℃未満であるポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることを特徴とする(1)記載のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品
(3)重量平均分子量が8万以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることを特徴とする、(1)または(2)記載のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品
(4)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が4以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品
(5)平均表面粗さ(Ra)が1.2μm以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品。
(6)押出成形時の押出方向に対して垂直な方向の厚みが10mm以上である(1)〜(5)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品
【発明の効果】
【0008】
本発明により、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、電気絶縁性に優れるというポリフェニレンスルフィド樹脂本来の特性を損なうことなく、かつ表面外観にも優れたポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品を得ることができる。特に、厚みが10mm以上の部品の成形が可能で、表面外観にも優れたポリフェニレンスルフィド樹脂大型成形品を押出成形によって比較的安価に提供することが出来る。このような特性を活かすことで、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品は、電線被覆成形品、シート、繊維、インフレーションフィルム、2軸延伸フィルム等の押出成形品や燃料電池用成形品、機械加工用素材、純水や超高純度溶媒の配管パイプ、チューブ、容器、ならびに強度、靭性、摩擦磨耗特性に優れた耐熱性摺動材料などとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を具体的に説明する。
【0010】
本発明でいうポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品は、PPS樹脂の特性を活かすために、PPS樹脂が80重量%以上含まれているものをいい、90重量%以上さらには95重量%以上含まれているものをいう。フィラーなど充填剤が含まれていると押出成形品は表面にフィラーが浮き出し表面外観が悪化する傾向にあり、またPPS樹脂以外の樹脂が含有すると耐薬品性などの性質が損なわれる。そのため、本発明の押出成形品はPPS樹脂100%からなることが特に好ましい。
【0011】
本発明におけるPPS樹脂とは、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0012】
【化1】

【0013】
を90モル%以上、特に95モル%以上含有する重合体である。本発明の効果を損なわない限り少量の分岐単位、架橋単位、カルボキシル基やアミノ基などの官能基含有フェニレンスルフィド単位を有するランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよいが、一般的に共重合成分がPPS本来の結晶性を低下させるため、耐熱性や耐薬品性が低下する傾向にある。そのため、p−フェニレンスルフィド単位が実質100%のPPS樹脂が特に好ましい。
【0014】
[メルトフローレート]
本発明において使用するPPS樹脂のメルトフローレート(ASTM D−1238−70に従い、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)は30g/10分以下であることが必須であるが、下限は特に限定されない。ただ押出成形を実施するにあたり、あまりに小さいと成形速度が遅くなる傾向があることから、1g/10分以上が好ましい。なお、15g/10分以上であると流動性が良くなり成形性はさらに好ましくなる。メルトフローレートが1g/10分未満であると、押出成形時に金型を通過するのに時間がかかり、押出成形品の表面にフローマークや肌荒れ模様が残ることがある。メルトフローレートが30g/10分を超えると、低い溶融粘度が故に溶融押出成形時にドローダウンなどの不具合が生じ、安定した押出成形が困難となる。
【0015】
[結晶化時間]
本発明において使用するPPS樹脂の220℃での結晶化時間は、3.0分以上であることが必須であり3.5分以上が好ましいが、上限は特に限定されない。ただ押出成形を実施するにあたり、あまりに大きいと成形速度が遅くなる傾向があることから、15分未満が好ましい。また、10分以下であると押出速度を上げることが可能となり、成形性はより好ましくなる。結晶化時間が3.0分未満であると、押出成形での金型通過時の初期段階で固化してしまうため、成形品表面の結晶化ムラや荒れが生じやすく表面外観が悪化する傾向にある。
【0016】
なお、上記220℃での結晶化時間は、溶融状態にあるPPS樹脂が220℃に保持された際の結晶化するために要する時間のことであり、220℃での保持開始から結晶化時の発熱ピークの頂点に達するまでに要した時間のことである。結晶化時間は、PPS樹脂をプレスして結晶化させた後に、そこから試料を採取して、示差走査熱量計で測定することで、求めることができる。
【0017】
また本発明において、メルトフローレートが30g/10分以下、220℃での結晶化時間が3.0分以上であるPPS樹脂を用いることにより、表面外観の優れた肉厚の押出成形品を製造できる機構は明確ではないが、メルトフローレートが30g/10分以下であるために溶融押出成形時のドローダウンを抑制することができ、なおかつ結晶化時間が3.0分以上であるために成形品表面の結晶化ムラや荒れを抑制することができるものと考える。さらに、メルトフローレートが小さいものほど、220℃での結晶化時間は長い方が良い。これは、流動性が小さいと押出成形時に金型を通過するのに時間がかかるため、結晶化時間が長い方が金型通過時の初期段階で固化しないようにすることが可能となり、押出成形品の表面外観を良くすることができると考えられる。具体的には、メルトフローレートが10g/10分以下の場合、結晶化時間は10分以上であることが好ましい。
【0018】
また表面外観の優れた押出成形品は、押出方向に対して垂直な面での切削加工のみで様々な樹脂部品などの二次成形品を得ることが可能となる。通常、押出成形品表面が荒れている場合、表面研磨や切削加工が必要となり、切削除去される部材がロスとなる欠点がある。
【0019】
[溶融結晶化温度]
溶融結晶化温度とは、結晶化時の発熱ピークの頂点温度のことをいう。本発明のおいて使用するPPS樹脂の溶融結晶化温度は、メルトフローレートと結晶化時間が所定の範囲内に入っていれば特に制限はないが、あまりに高いと、結晶化速度が速くなり、押出成形時の外観不良の原因となることから、175℃未満であることが好ましく、170℃以下がいっそう好ましい。またあまりに低いと、結晶化速度が遅くなり、成形速度が遅くなる傾向があることから、150℃以上であることが好ましい。
【0020】
なお、溶融結晶化温度は、PPS樹脂を、窒素雰囲気中、示差走査熱量計を用いて測定することができる。
【0021】
[重量平均分子量]
本発明において使用するPPS樹脂の重量平均分子量Mwは、メルトフローレートと結晶化時間が所定の範囲内に入っていれば特に制限はないが、70,000〜120,000のものを使用するのが好ましい。重量平均分子量Mwが70,000以上であると、成形品の靭性が向上すると共に適度な溶融粘度を有するため、大型成形品や厚さ10mm以上の肉厚成形品でも成形が可能となり好ましい。一方で、重量平均分子量Mwが120,000以下であると、流動性が良くなり、成形性はより好ましくなる。さらに好ましくは、80,000〜100,000である。
【0022】
[分子量分布]
本発明において使用するPPS樹脂の分子量分布状態、つまり重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)は、メルトフローレートと結晶化時間が所定の範囲内に入っていれば特に制限はない。しかしながら、分子量分布は分岐・架橋構造が増えるほど大きくなる傾向にあり、該構造の形成には1,2,4−トリクロロベンゼンなどのポリハロゲン化ベンゼンを重合時に使用する方法が挙げられるが、あまりに該構造が増えるとゲル化物が生じるため押出成形品の表面に荒れが生じやすくなる。そのため、分子量分布(Mw/Mn)10以下が、良好な表面外観を有する成形体を得るうえで好ましい。また、分子量分布が4未満のPPS樹脂は該して分子量が低い(メルトフローレートが高い)傾向にあり、押出成形時のドローダウンなどの影響で表面外観が悪くなる傾向にある。これらのことから、Mw/Mnは4〜10のものを使用するのが好ましく、本範囲のPPS樹脂を押出成形に使用することで、成形条件幅が広くなり、大型成形品や厚さ10mm以上の肉厚成形品でも成形が可能となり好ましい。さらに好ましくは4.2〜8.0、一層好ましくは4.2〜6.0であり、4.3〜5.0が最も好ましい。
【0023】
なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出することができる。
【0024】
[PPS樹脂の製造方法]
本発明において使用するPPS樹脂について、メルトフローレート、結晶化時間、溶融結晶化温度、重量平均分子量Mw、分子量分布(Mw/Mn)を調整するには、以下の方法で重合・回収したものを用いる。
【0025】
たとえば、少なくともp−ジクロロベンゼンに代表されるポリハロゲン化芳香族化合物、硫化ナトリウムに代表されるスルフィド化剤、N−メチル−2−ピロリドンに代表される有機極性溶媒を含有する混合物を、段階的に200〜290℃範囲まで昇温させ、通常0.5〜50時間程度加熱重合した後、220℃以下に冷却して得られたPPS樹脂、PPS樹脂以外の副生成物、水、ハロゲン化アルカリ金属塩、有機極性溶媒などからなる重合反応後混合液から、ふるい等を用いてPPS樹脂を回収して得ることができる。
【0026】
ポリハロゲン化芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼンや、分岐・架橋を目的とした1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼンなどの1分子当たり3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロゲン化ベンゼンが挙げられる。直鎖かつ結晶性が良好であり、本発明の押出成形に適したPPS樹脂を得るにはp−ジクロロベンゼンが好ましく、スルフィド化剤1モル当たり0.9〜2.0モル、好ましくは0.95〜1.5モル、更に好ましくは1.005〜1.15モルの範囲が例示できる。若干の分岐・架橋構造を導入してメルトフローレートの小さいPPS樹脂を得るには、経済性、反応性などの観点から1,2,4−トリクロロベンゼンを併用するのが好ましく、押出成形時のゲル化物による表面外観悪化を抑制する観点から、スルフィド化剤1モル当たり0.0001〜0.01モル、好ましくは0.0002〜0.005モルの範囲が例示できる。
【0027】
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられ、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0028】
有機極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドンが好ましく用いられる。有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から5.0モル、より好ましくは2.5から3.5モルの範囲が選択される。
【0029】
また、高重合度のPPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸金属塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸金属塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。なかでも、有機カルボン酸金属塩および/または水が好ましく用いられ、有機カルボン酸金属塩の具体例としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。安価でかつ反応系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが好ましく用いられる。重合助剤の使用量は、経済性、高重合度効果の観点から、仕込みスルフィド化剤1モルに対し、0.01モル以上0.7モル未満の範囲が好ましく、0.2モル以上0.6モル未満の範囲がより好ましく、0.2モル以上0.5モル未満の範囲がいっそう好ましい。
【0030】
本発明において使用するPPS樹脂について、重合終了後のPPS樹脂に後処理を行っても良い。重合終了後のPPS樹脂には、低分子量のPPS樹脂や副生成物、不純物が混在している可能性が高いため、熱水処理または有機溶媒による洗浄が公知として知られている。
【0031】
熱水処理を行う場合は、次のとおりである。本発明でのPPS樹脂の熱水処理に用いる熱水は特に制限はないが、洗浄効果の点から、使用する水を蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水温度も150℃以上であることが好ましく、さらに170℃以上であることが好ましい。
【0032】
有機溶媒処理を行う場合は、次のとおりである。本発明でのPPS樹脂の有機溶媒処理に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば、特に制限はなく、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ピペラジノン類の窒素原子含有の極性溶媒、塩化メチレン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン原子含有の極性溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒などが挙げられる。これらの中でも、N−メチル−2−ピロリドンまたはアセトンまたはクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される場合もある。また、洗浄効果の点から、洗浄温度は常温〜200℃であることが好ましい。有機溶媒洗浄後に蒸留水あるいは脱イオン水で洗浄を行ってもよく、上記熱水洗浄を行っても良い。
【0033】
本発明では水洗浄時に洗浄添加剤を用いてもよく、かかる洗浄添加剤として酸、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が例示できる。なかでも、意匠性を高めるのに好適な白色度の高い押出成形品を得るにはアルカリ土類金属塩を用いて洗浄し、PPS樹脂中にアルカリ土類金属を含有させることが好ましい。アルカリ土類金属塩としては、有機酸または無機酸のマグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等が例示でき、経済性や取り扱い性の観点から酢酸カルシウムや酢酸マグネシウムが好ましい。かかるルカリ土類金属塩量は、PPS樹脂に対し0.01〜5重量%が好ましく、0.1〜0.7重量%となるよう水に添加して洗浄を行うことが更に好ましい。このようにして得られたPPS樹脂の中のアルカリ土類金属量(例えば、酢酸カルシウムを用いた場合は、PPS樹脂中のカルシウム量)は50ppm〜1000ppm、より好ましく100ppm〜500ppmとなる。
【0034】
また白色度の指標であるL値は50以上が好ましく、70以上がより好ましく、80以上が一層好ましい。
【0035】
このようにして得られたPPS樹脂は、揮発性成分を除去するために、或いは架橋高分子量化するために、酸素雰囲気下130〜260℃の温度で熱酸化処理することも可能であるが、過度の熱酸化処理を行うとゲル化物が生成し、押出成形品の表面に荒れが生じやすくなるとともに、黒色斑点が目視にて観察できる傾向にある。また、白色度(L値)も大幅に低下し、熱酸化架橋PPS樹脂から得られた押出成形品のL値は、一般的に50未満となるため、意匠性が低下するという問題がある。そのため、熱酸化処理は行わないほうが好ましいが、熱酸化処理する必要がある場合は、酸素雰囲気下160〜220℃という比較的低温かつ0.2〜3時間という比較的短時間で処理してゲル化物の生成やL値の低下を抑制することが好ましい。
【0036】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品は、発明の特性を損なわない範囲で、無機充填剤を添加することが可能である。無機充填剤の具体例としては、ワラストナイト、ゼオライト、マイカ、カオリン、クレー、ベントナイト、ハイドロタルサイト、タルク、ガラスビーズ、ガラスフレークなどが挙げられる。
【0037】
[押出成形方法]
本発明における押出成形方法としては、一般に知られた固化押出成形法を好ましく採用することができる。固化押出成形法では、先端に押出ダイとフォーミングダイとを連結した押出成形機を使用する。押出ダイは、押出成形機により溶融混練され、押出された溶融樹脂を所望の形状に成形するためのダイであり、板や丸棒、パイプ、異形品などの押出成形物の断面形状に応じて、平板成形用ダイ、丸棒成形用ダイ、パイプ成形用ダイなどの様々な開口形状や構造のダイが用いられる。
【0038】
押出ダイには、フォーミングダイが連結されている。フォーミングダイは、外部に冷却装置を備え内部に押出ダイの通路と連通する通路を備えた構造を有するダイであり冷却筒とも呼ばれている。押出ダイから押出された溶融状態の押出成形物は、フォーミングダイに導かれ、その内部で冷却・固化され、フォーミングダイから押出された押出成形物は、固化した状態で外部に押出される。押出成形品の表面は該フォーミングダイの表面が転写されるため、本発明の表面外観の優れたPPS樹脂押出成形品を得るにはPPS樹脂と接するフォーミングダイ表面の表面粗さ(Ra)も重要因子であり、限りなく0μmに近いのが望ましいが、0.4μm以下であればでも目視にて表面が平滑で光沢があるPPS樹脂押出成形品を得ることができる。このような固化押出成形に適した押出成形機の具体例は、例えば、特開昭61−185428号公報に開示されている。
【0039】
本発明者らの検討結果によれば、メルトフローレートが30g/10分以下、220℃での結晶化時間が3.0分以上であるPPS樹脂を固化押出成形することにより、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、電気絶縁性に優れるというPPS樹脂本来の特性を損なうことなく、表面外観に優れたPPS樹脂押出成形品を得られることが見出された。例えば、本発明のPPS樹脂押出成形品の製造方法としては、前記PPS樹脂を、下記工程1〜3:
(1)押出ダイと外部に冷却装置を備え内部に押出ダイの通路と連通する通路を備えたフォーミングダイとからなる金型装置を連結した押出成形機にPPS樹脂を供給する工程;
(2)押出成形機によりPPS樹脂を溶融しながら押出ダイから所望の形状に押出す工程
;及び
(3)押出ダイから押出した溶融状態の押出成形物をフォーミングダイの内部で冷却して固化する工程;
により固化押出成形して、10mm以上の厚みまたは直径を有する押出成形物を得る方法が例示できる。
【0040】
固化押出成形後、固化した押出成形物を150℃から固化状態を保持し得る温度までの間の温度で30分間以上熱処理することが残留応力を除き、素材及び機械加工後の二次成形品に変形などの不都合を生じさせないために望ましい。熱処理条件は、熱可塑性樹脂の融点やガラス転移温度などの熱的特性にもよるが、熱処理温度を好ましくは160〜230℃、より好ましくは180〜250℃の範囲内とし、熱処理時間を好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、特に好ましくは3時間以上とすることが望ましい。ただし、熱処理温度の上限は、押出成形物が固化状態を保持し得る温度までであり、PPS樹脂が溶融変形するような高温を避けることが望ましい。また、熱処理時間は、長い方が好ましいが、生産性の観点から、通常24時間以内、好ましくは15時間以内とすることが望ましい。熱処理は、例えば、押出成形物を加熱炉内に放置することにより行うことができ、窒素雰囲気下で行うことが白色度低下抑制の観点から好ましい。より簡便な方法として酸素雰囲気下で熱処理をおこなうことも可能であるが、気相と接触する押出成形品表面の白色度が低下する傾向にあるため、その温度は150〜200℃に制御することが好ましい。
【0041】
本発明のPPS樹脂は、押出成形での金型通過時の初期段階で固化しないようにして押出成形品の表面外観を良くするため、結晶化時間が3.0分以上であることが必須であり、これはPPS樹脂が固化しにくいことを意味するものであるが、固化後の結晶化度は高いほうが耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性などに有利である。一般に、共重合をさせた樹脂は、樹脂本来の結晶性が低下するため、固化速度が遅くなるとともに溶融結晶化度も低くなる。本発明の押出成形品に使用するPPS樹脂は固化速度が遅いことによる、結晶化時間が3.0分以上であることが必須であるものの、固化後の結晶化度は高いほうが好ましい観点に立つと、実質的に共重合成分を含まない直鎖PPS樹脂が好ましい。
【0042】
本発明の押出成形品は、メルトフローレートが30g/10分以下、220℃での結晶化時間が3.0分以上であるPPS樹脂を押出成形してなる押出成形物である。押出成形物の形状としては、板(平板)、丸棒、パイプ、異形品、フィルム、電線被覆材及び繊維などが代表的なものである。本発明の押出成形品に使用するPPS樹脂はメルトフローレートが低い(溶融粘度が高い)ため、フィルム等の厚みが薄い押出成形品を上記したようなフォーミングダイを用いて押出すと、溶融したPPS樹脂がフォーミングダイに入り込みにくく生産性が低下するとともに、表面外観も悪化する傾向にある。そのため、例えば押出成形物が板である場合は、押出成形時の押出方向に対して垂直な方向の厚みが10mm以上であることが良好な表面外観を得る上で好ましい。押出成形物が丸棒の場合にはその直径が10mm以上であり、押出成形物がパイプである場合はパイプの肉厚が10mm以上であることが好ましい。押出成形品の厚みに上限はないものの、押出成形の容易性から厚み1000mm以下、好ましくは500mm以下で押出成形することが好ましい。
【0043】
押出成形物が異形品である場合には、肉厚が最も厚い個所が10mm以上であることが好ましい。異形品とは、断面形状が板や丸棒、パイプなどと異なる任意の形状をしている押出成形物である。異形品が凹状や凸状などの厚肉部と薄肉部とで構成されているものである場合、薄肉部の厚みも10mm以上であることが機械加工適性の観点から望ましい。
【0044】
また、本発明の押出成形物は表面外観にも優れており、用途に応じて機械加工する際、表面加工を省略できるという利点もある。表面外観の指標としては、JIS−B0601:2001に従って測定する平均表面粗さRaが挙げられ、具体的には平均表面粗さRaが5μm以下が好ましく、更に好ましくは触った感触でも平滑に感じられる1.2μm以下が好ましく、とりわけ好ましくはほとんどの用途で表面加工の不要な0.6μm以下が好ましい。
【0045】
本発明の押出成形物は、板、丸棒またはパイプであることが好ましく、前記樹脂部品の用途では板であることがより好ましい。板の厚みは、好ましくは10mm以上100mm未満、より好ましくは12mmから70mmの間、特に好ましくは15mmから50mmの間である。丸棒の直径およびパイプの厚みも同様である。なお、パイプの厚みは外径と内径の差から求められる。本発明のPPS樹脂を固化押出成形して得られる厚みが10mm以上の板は、剛性が強い硬質の板であり、切削、穴あけ、切断などの機械加工を容易に行うことができる他に、表面外観が優れているため、押出表面の整面加工などを省略することができる。
【0046】
[機械加工]
機械加工としては、切削、穴あけ、切断、及びこれらの組み合わせが代表的なものである。広義の切削加工法には、切削のほか、穴あけ加工を含めることがある。切削加工法としては、単一刃工具を用いる旋削加工、研削加工、平削加工、中ぐり加工などがある。多数刃を用いる切削加工法としては、フライス加工、穴あけ加工、ねじ切り加工、歯切り加工、型彫加工、やすり加工などがある。本発明では、ドリルなどを用いた穴あけ加工を切削加工と区別することがある。切断加工法としては、刃物(鋸)による切断、砥粒による切断、加熱・融解による切断などがある。この他、研削仕上法、ナイフ状工具を用いる打ち抜き加工やけがき切断などの塑性加工法、レーザー加工などの特殊加工法なども適用することができる。
【0047】
押出成形物が肉厚の大きな板や丸棒などの場合、一般に、素材を適当な大きさまたは厚みに切断し、切断した素材を研削して所望の形状に整え、さらに、必要個所に穴あけ加工を行う。最後に、必要に応じて、仕上げ加工を行う。ただし、機械加工の順序は、これに限定されない。また、機械加工時に摩擦熱により押出成形物が溶融して平滑な面が出にくい場合には、切削面などを冷却しながら機械加工を行うことが望ましい。摩擦熱により押出成形物が過度に発熱すると、変形や着色の原因となるので、素材または加工面を200℃以下の温度に制御することが好ましい。
【0048】
本発明の押出成形物は、切断、切削、穴あけ、切断などの機械加工を行うことにより、様々な樹脂部品などの二次成形品を得ることができる。具体的な用途としては、電気電子分野では、ウエハキャリア、ウエハカセット、研磨装置用ワークピース保持リング、リテーナリング、電線被覆材、スピンチャック、トートビン、ウエハボート、ICチップトレー、ICチップキャリア、IC搬送チューブ、ICテストソケット、バーンインソケット、ピングリッドアレイソケット、クワッドフラットパッケージ、リードレスチップスキャリア、デュアルインラインパッケージ、スモールアウトラインパッケージ、リールパッキング、各種ケース、保存用トレー、搬送装置部品、磁気カードリーダーなどが挙げられる。
【0049】
OA機器分野では、電子写真複写機や静電記録装置などの画像形成装置における帯電ロール、転写ロール、現像ロールなどの帯電部材、記録装置用転写ドラム、プリント回路基板カセット、ブッシュ、紙及び紙幣搬送部品、紙送りレール、フォントカートリッジ、インクリボンキャニスター、ガイドピン、トレー、ローラー、ギア、スプロケット、コンピュータ用ハウジング、モデムハウジング、モニターハウジング、CD−ROMハウジング、プリンターハウジング、コネクター、コンピュータスロットなどが挙げられる。
【0050】
通信機分野では、携帯電話部品、ペーガー、各種摺動材などが挙げられる。自動車分野では、内装材、アンダーフード、電子電気機器ハウジング、ガスタンクキャップ、モーター電線被覆材、燃料フィルタ、燃料ラインコネクタ、燃料ラインクリップ、燃料タンク、機器ビージル、ドアハンドル、各種部品などが挙げられる。その他の分野では、電線支持体、電波吸収体、床材、パレット、靴底、ブラシ、送風ファン、面状発熱体、ポリスイッチなどが挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、各種物性の測定法は以下の通りである。
【0052】
[メルトフローレート(MFR)]
ASTM D−1238−70に従い、温度315.5℃、荷重5000gにて測定した。東洋精機社製メルトインデクサ(長さ8.00mm、穴直径2.095mmのオリフィス、サンプル量7g、サンプル仕込み後測定開始までのプレヒート時間5分、荷重5000g)を用い、315.5℃の条件で測定を行ない、重合にて得たPPS樹脂のメルトフローレートを比較した。
【0053】
[結晶化時間]
重合にて得たPPS樹脂を、340℃でホットプレスし、厚さ300μmのフィルムを作成し、さらに150℃でプレスして結晶化させた。そこから10mgを採取し、示差走査熱量計(パ−キンエルマ−社製DSC−7型)により、室温から80℃/minの速度で340℃まで昇温し、340℃で5分間保持後、100℃/minで220℃まで降温し、220℃で保持した。220℃での保持開始から結晶化時の発熱ピークの頂点に達するまでに要した時間を結晶化時間とした。
【0054】
[表面外観]
重合にて得たPPS樹脂を、直径35mmの単軸スクリュウ押出機に供給し、固化押出成形方法で成形した。使用したPPS樹脂の融点に対し、約+20℃〜+40℃でシリンダー温度を設定した。シリンダー内で溶融したPPS樹脂を、所定形状(板)のダイスを通して押出し、ダイス直後に設定した冷却筒(水冷却)で、幅520mm、所定厚みのシート状で固化させながら押し出した。冷却筒表面(PPS樹脂と接する面)の表面粗さは0.25μmであった。押出成形により得られた平板は、窒素雰囲気下150℃で8時間熱処理を行うことにより、残留応力を除去した。固化押出成形し得られた樹脂成形品の表面状態を、目視による観察、触感による評価を実施し、以下の通り4段階で評価した。また得られた成形品の表面層における平均表面粗さRaを、JIS−B0601:2001に従い、東京精密社製SURFCOM130Aにてトレーシングスピード0.6mm/秒、カットオフ0.8、測定長4cmで測定した。なお、上述の冷却筒表面の表面粗さも同様に測定した。
表面外観評価結果
4:表面が平滑で光沢がある。
3:触った感触では表面が平滑でない部分もあるが、目視では判らない。
2:触った感触では表面が平滑でない部分もあるし、目視でも僅かに表面状態の粗さが確認される。
1:触った感触でも、目視でも、表面の凹凸が確認される。
【0055】
[溶融結晶化温度および融点]
パーキンエルマー製DSC7を用いて、重合にて得られたPPS樹脂の熱的特性を測定した。サンプル約10mgを、窒素雰囲気中、下記測定条件を用いて測定し、溶融結晶化温度Tmcは1st Runの値を、融点Tmは2nd Runの値を用いた。
First Run
・50℃×1分 ホールド
・50℃から340℃へ昇温、昇温速度20℃/分
・340℃×1分 ホールド
・340℃から100℃へ降温、降温速度20℃/分
(結晶化時の発熱ピークの頂点温度を溶融結晶化温度Tmcとする)
Second Run
・100℃×1分 ホールド
・100℃から340℃へ昇温、昇温速度20℃/分
(融解時の吸熱ピークの頂点温度を融点Tmとする)。
【0056】
[重量平均分子量および数平均分子量]
PPS樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:SSC−7100(センシュー科学)
カラム名:GPC3506(センシュー科学)
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
【0057】
[白色度]
押出成形品の白色度はL値で評価した。分光色差計(日本電色工業製、SE−2000)を用い、標準白板にて校正したのち、直径10mmの見口、測定径が直径10mmの試料台を用いて押出成形品表面のL値を測定した。
【0058】
[カルシウムおよびナトリウム含有量]
重合にて得たPPS樹脂または押出成形品5gを、予め550℃に加熱したプラチナ皿に精秤し、550℃の電気炉に24時間入れて灰化させた。灰化物をフッ化水素酸で加熱分解したのちに希塩酸で溶解させ、日立ハイテクノロジーズ社製原子吸光分析装置Z2300にてカルシウムおよびナトリウム含有量を測定した。
【0059】
[PPS樹脂の重合例1]
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.26kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.6モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.5モル)、酢酸ナトリウム1.61kg(19.6モル)及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで徐々に加熱し、水9.82kgおよびNMP0.28kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。この時点での仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.01モルであった。また、硫化水素の飛散量は1.4モルであったため、本脱水工程後の系内のスルフィド化剤は68.6モルであった。なお、硫化水素の飛散に伴い、系内には水酸化ナトリウムが新たに1.4モル生成している。
【0060】
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10.33kg(70.2モル)、1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)0.025kg(0.14モル)、NMP9.37kg(94.5モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、撹拌しながら200℃から270℃まで昇温し、270℃で180分保持して重合反応を行った。反応終了後、200℃まで1.0℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急冷した。NMPで希釈してスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMPで洗浄濾別した。得られた固形物をイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を4回繰り返した。その後、PPS樹脂1gに対し0.5重量%の酢酸カルシウを含む水溶液中で洗浄し、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、カルシウム量150ppm、ナトリウム量80ppmの乾燥PPS樹脂を得た。
【0061】
[PPS樹脂の重合例2]
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.26kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.6モル)、NMP11.45kg(115.5モル)、酢酸ナトリウム2.58kg(31.5モル)及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで徐々に加熱し、水9.82kgおよびNMP0.28kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。この時点での仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.01モルであった。また、硫化水素の飛散量は1.4モルであったため、本脱水工程後の系内のスルフィド化剤は68.6モルであった。なお、硫化水素の飛散に伴い、系内には水酸化ナトリウムが新たに1.4モル生成している。
【0062】
次に、p−DCB10.24kg(69.6モル)、NMP9.37kg(94.5モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、撹拌しながら200℃から235℃までで昇温し、235℃で120分重合したのち255℃まで昇温し、イオン交換水を1.00kg(56.0モル)圧入した後に255℃で300分重合反応を行った。反応終了後、200℃まで1.0℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急冷し、重合例1と同様に洗浄、乾燥を行い、カルシウム量130ppm、ナトリウム量60ppmのPPS樹脂を得た。
【0063】
[PPS樹脂の重合例3]
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.26kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.6モル)、NMP11.45kg(115.5モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで徐々に加熱し、水9.82kgおよびNMP0.28kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。この時点での仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.01モルであった。また、硫化水素の飛散量は1.4モルであったため、本脱水工程後の系内のスルフィド化剤は68.6モルであった。なお、硫化水素の飛散に伴い、系内には水酸化ナトリウムが新たに1.4モル生成している。
【0064】
次に、p−DCB10.24kg(69.6モル)、NMP16.31kg(164.5モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、撹拌しながら200℃から220℃までで昇温し、220℃で270分重合したのち255℃まで昇温し、イオン交換水を2.52kg(140モル)圧入した後に255℃で300分重合反応を行った。反応終了後、200℃まで1.0℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急冷した。その後、酢酸カルシウムを添加せずに重合例1と同様に洗浄、乾燥を行い、カルシウム量0ppm、ナトリウム量180ppmのPPS樹脂を得た。
【0065】
[PPS樹脂の重合例4]
TCBを0.044kg(0.24モル)使用したこと以外は重合例1と同様に重合を行い、酢酸カルシウムを添加せずに重合例1と同様に洗浄、乾燥を行い、カルシウム量0ppm、ナトリウム量200ppmのPPS樹脂を得た。
【0066】
[PPS樹脂の重合例5]
TCBを0.025kg(0.14モル)としたこと以外は重合例3と同様に重合を行い、酢酸カルシウムを添加せずに重合例3と同様に洗浄、乾燥を行い、カルシウム量0ppm、ナトリウム量200ppmのPPS樹脂を得た。
【0067】
[PPS樹脂の重合例6]
酢酸ナトリウム2.58kg(31.5モル)、TCB0.008kg(0.046モル)使用し、255℃での重合時間を150分としたこと以外は重合例3と同様に重合、洗浄、乾燥を行い、カルシウム量0ppm、ナトリウム量210ppmのPPS樹脂を得た。
【0068】
[PPS樹脂の重合例7]
TCBを0.015kg(0.083モル)使用したこと以外は重合例1と同様に重合、洗浄、乾燥を行い、カルシウム量150ppm、ナトリウム量80ppmのPPS樹脂を得た。
【0069】
[PPS樹脂の重合例8]
酢酸ナトリウム2.58kg(31.5モル)、TCB0.008kg(0.046モル)使用し、重合温度270℃到達時にイオン交換水1.00kg(56.0モル)圧入した後に270℃で120分重合反応を行ったこと以外は重合例1と同様に重合を行い、カルシウム量150ppm、ナトリウム量80ppmのPPS樹脂を得た。
【0070】
[PPS樹脂の重合例9]
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.26kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.6モル)、NMP11.45kg(115.5モル)、酢酸ナトリウム1.61kg(19.6モル)及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで徐々に加熱し、水9.82kgおよびNMP0.28kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。この時点での仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.01モルであった。また、硫化水素の飛散量は1.4モルであったため、本脱水工程後の系内のスルフィド化剤は68.6モルであった。なお、硫化水素の飛散に伴い、系内には水酸化ナトリウムが新たに1.4モル生成している。
【0071】
次に、p−DCB10.24kg(69.6モル)、NMP9.37kg(94.5モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、撹拌しながら200℃から235℃までで昇温し、235℃で100分重合したのち270℃まで昇温し、270℃で100分重合反応を行った。反応終了後、イオン交換水を1.00kg(56.0モル)圧入した後した後に200℃まで1.0℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急冷し、重合例1と同様に洗浄、乾燥を行い、カルシウム量160ppm、ナトリウム量90ppmのPPS樹脂を得た。
【0072】
[実施例1〜5、比較例1〜4]
重合例1〜9で得た特定のMFRと結晶化時間を有するPPS樹脂を用い、310℃に設定した押出機内で溶融混練し、幅520mm、高さ10mmの開口部を備えたダイから3kg/時間の速さで押出し、180℃に設定した冷却筒を通して、幅520mm、10mm厚のシート状態に固化押出成形を行った。押出成形品表面のL値、表面粗さ、表面外観結果を表1に示す。なお、押出成形前のPPS樹脂と押出成形後の成形品でカルシウム量、ナトリウム量に変化はなかった。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例1〜5および比較例1〜4の結果から、メルトフローレートが30g/10分以下、220℃での結晶化時間が3.0分以上であるPPS樹脂を押出成形することで、表面外観に優れた押出成形品を得ることができることが分かる。
【0075】
[実施例6]
実施例1で用いたPPS樹脂を用い、320℃に設定した押出機内で溶融混練し、3kg/時間の速さで押出し、180℃に設定した冷却筒を通して、20mm厚のシート状態に固化押出成形を行ったところ、平均表面粗さ(Ra)は0.55μmであった。
【0076】
[実施例7]
実施例2で用いたPPS樹脂を用い、320℃に設定した押出機内で溶融混練し、3kg/時間の速さで押出し、180℃に設定した冷却筒を通して、20mm厚のシート状態に固化押出成形を行ったところ、平均表面粗さ(Ra)は0.40μmであった。
【0077】
[実施例8]
実施例4で用いたPPS樹脂を用い、320℃に設定した押出機内で溶融混練し、3kg/時間の速さで押出し、180℃に設定した冷却筒を通して、20mm厚のシート状態に固化押出成形を行ったところ、平均表面粗さ(Ra)は0.90μmであった。
【0078】
[比較例5]
比較例1で用いたPPS樹脂を用い、320℃に設定した押出機内で溶融混練し、3kg/時間の速さで押出し、180℃に設定した冷却筒を通して、20mm厚のシート状態に固化押出成形を行ったところ、平均表面粗さ(Ra)は10.0μmであった。
【0079】
[比較例6]
比較例2で用いたPPS樹脂を用い、320℃に設定した押出機内で溶融混練し、3kg/時間の速さで押出し、180℃に設定した冷却筒を通して、20mm厚のシート状態に固化押出成形を行ったところ、平均表面粗さ(Ra)は9.0μmであった。
【0080】
実施例6〜8および比較例5,6の結果から、押出溶融温度を10℃上げ、押出成形板材の厚みを増やしても、メルトフローレートが30g/10分以下、220℃での結晶化時間が3.0分以上であるPPS樹脂を押出成形することで、表面外観に優れた押出成形品を得ることができることが分かる。
【0081】
[実施例9]
実施例2で使用したPPS樹脂(重合例2から得たPPS樹脂)を空気雰囲気下240℃で4時間熱酸化処理を行い、MFR=3g/10分、結晶化時間9.0分、Mw=93000、Mw/Mn=7.8、Tm=271℃、Tmc=196℃のPPS樹脂を得た。得られたPPS樹脂を実施例1〜4同様に押出成形することで、L値=38、表面粗さ5.2μmの押出し成形品が得られ、表面外観評価は「3」であった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品は、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、電気絶縁性に優れるというポリフェニレンスルフィド樹脂本来の特性を損なうことなく、かつ表面外観にも優れており、例えば、電気・電子機器部品やディスプレイ機器部品、自動車部品、携帯電話部品、帯電部材、各種摺動部材、パッキンなどのシール材、フィルム、シート、パイプ、チューブ、丸棒、板材、食器、容器、電線被覆材、繊維などに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレート(ASTM D−1238−70に従い、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)が30g/10分以下、220℃での結晶化時間が3.0分以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とするポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品。
【請求項2】
溶融結晶化温度が175℃未満であるポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることを特徴とする請求項1記載のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品。
【請求項3】
重量平均分子量が8万以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることを特徴とする、請求項1または2記載のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品。
【請求項4】
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が4以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品。
【請求項5】
平均表面粗さ(Ra)が1.2μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品。
【請求項6】
押出成形時の押出方向に対して垂直な方向の厚みが10mm以上である請求項1〜5のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂押出成形品。

【公開番号】特開2012−167270(P2012−167270A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−14300(P2012−14300)
【出願日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】