説明

ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性成形体、およびその製造方法

【課題】難燃性、耐熱性、耐薬品性、耐電解液性、低温収縮性、および延伸安定性を同時に満足できるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性成形体の提供。
【解決手段】示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であり、DSCにおいて結晶融解ピーク温度Tm+40℃からTm+100℃まで昇温し1分間保持した後、降温速度10℃/分で測定される結晶化ピーク温度Tcと前記結晶融解ピーク温度Tmとの温度差が80℃以上であるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物で熱収縮性成形体を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性成形体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンデンサなどの電子部品は、製品の軽薄短小化のため高密度化し、また自動車の電装部品など、使用温度の高い分野も急速に拡大しつつある。このようなニーズに伴い、コンデンサ被覆用途などで使用されている熱収縮性チューブに対しても良好な難燃性および耐熱性が求められている。
【0003】
従来、熱収縮性チューブで使用される材料としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィンなどが広く知られている。
【0004】
ポリ塩化ビニル製の熱収縮チューブは難燃性に優れるが、耐熱性が不充分であり、また廃棄物処理の際、適切に処理されない場合にはダイオキシン発生などの環境問題を生じるおそれがあった。一方、ポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル樹脂からなる熱収縮性チューブは耐熱性に優れるが、難燃性が不充分であった。
【0005】
また、ポリオレフィン系樹脂を用いた熱収縮性チューブは、難燃性を付与するために臭素系難燃剤を添加するため、ポリ塩化ビニル製熱収縮性チューブと同じく廃棄物処理の際、適切に処理されなかった場合には環境問題が生じるおそれがあった。また、ポリオレフィン系樹脂を用いた熱収縮性チューブは、耐熱性を付与するために電子線架橋を施すため、チューブを製造する際の工程が複雑になる等の問題点を抱えている。
【0006】
特に、大口径コンデンサの被覆用途においては、より優れた電気絶縁性、耐薬品性、耐電解液特性、難燃性などの特性が求められ、収縮前の厚みが0.1mmから0.3mmまでの範囲のものも出現してきている。
【0007】
このような状況下、従来より難燃性と耐熱性を同時に満たす材料としてポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)系樹脂が知られている。ポリフェニレンスルフィド系樹脂は、難燃性と耐熱性の他、耐薬品性、耐電解液性などの特性を満たす優れた材料である。このような特性に着目して、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を用いた熱収縮性チューブが知られている(特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−157402号公報
【特許文献2】国際公開WO2008/114731号公報
【0009】
しかしながら、ポリフェニレンスルフィド系樹脂は溶融成形した後の冷却時における結晶化が非常に進みやすい。このため、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を押出成形し、口金から出た直後に冷水を用いて成形体の外側から冷却する方法では、厚みが0.5mm以上あるチューブ状成形体を十分冷やすことができず、チューブ状成形体の外側と内側で結晶化度に差が生じてしまうという問題があった。このような外側と内側で結晶化度に差があるチューブ状成形体は、ガラス転移温度付近まで加熱し、内側に圧縮空気を入れても、安定して均一に延伸することができないという欠点がある。このような製造時における問題は、特許文献1から特許文献2に記載のポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブでは解決することはできなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術における課題を解決するためになされたものであり、その課題は、難燃性、耐熱性、耐薬品性、耐電解液性、低温収縮性、および延伸安定性を同時に満足できるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物に関し鋭意検討した結果、ガラス転移温度Tgと、結晶融解ピーク温度Tmと、溶融後、徐冷する際の結晶化ピーク温度Tcがそれぞれ所定の条件で存在するようなポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を用いることにより、難燃性、耐熱性、耐薬品性、耐電解液性、低温収縮性、延伸安定性を同時に満足できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の課題は、示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であり、DSCにおいて結晶融解ピーク温度Tm+40℃からTm+100℃まで昇温し1分間保持した後、降温速度10℃/分で測定される結晶化ピーク温度Tcと前記結晶融解ピーク温度Tmとの温度差が80℃以上であるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなることを特徴とする熱収縮性成形体により達成される。
【0013】
本発明の熱収縮性成形体は、構成するポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が、ポリフェニレンスルフィド系樹脂以外の樹脂、エラストマー、および可塑剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0014】
本発明の熱収縮性成形体は、その含有するエラストマーが、熱重量分析(TGA) により窒素雰囲気下500℃/分の昇温速度で20℃から300℃まで加熱し、300℃で20分間保持した時の質量減少率が0%以上6%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の熱収縮性成形体は、その含有する可塑剤が、熱重量分析(TGA) により窒素雰囲気下10℃/分の昇温速度で20℃から加熱し、質量減少率が5%になるときの温度が260℃以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の熱収縮性成形体はチューブ状の形状であれば、アルミ電解コンデンサなどの被覆に好適に用いることができる。
【0017】
本発明の熱収縮性成形体は、チューブ状の形状である場合、アルミ電解コンデンサ等、電子部品への適用を考えると、UL224 Optional VW−1 Flame Testにより評価した難燃性がVW−1 であることが好ましい。
【0018】
本発明の熱収縮性成形体の製造においては、ガラス転移温度Tg、結晶融解ピーク温度Tm、結晶化ピーク温度Tcを規定の範囲に収めるために種々の方法を用いることができるが、Tgの調節では樹脂組成物に可塑剤を含有させる方法が、TmおよびTcの調整には、ポリフェニレンスルフィド樹脂の分子量を調整するとともに、溶融押出時にTm+40℃以上100℃以下の熱履歴を与える方法が好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、難燃性、耐熱性、耐薬品性、耐電解液性、低温収縮性、および延伸安定性が優れたポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性成形体を提供することができる。
【0020】
特にポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物がポリフェニレンスルフィド系樹脂以外の樹脂、エラストマー、および可塑剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する場合には、含有する樹脂、エラストマー、および可塑剤の特性に応じて、異材密着性や、低温での耐衝撃性、低温収縮性などを発現させることができる。
【0021】
また、本発明の熱収縮性成形体は、含有するエラストマーが熱重量分析(TGA) により窒素雰囲気下500℃/分の昇温速度で20℃から300℃まで加熱し、300℃で20分間保持した時の質量減少率が0%以上6%以下であるため、高温押出に伴う樹脂の分解が最小限に抑えられ、外観の良好な成形体を得ることができる。
【0022】
また、本発明の熱収縮性成形体は、含有する可塑剤が熱重量分析(TGA) により窒素雰囲気下10℃/分の昇温速度で20℃から加熱し、質量減少率が5%になるときの温度が260℃以上であるため、高温押出に伴う可塑剤の分解が最小限に抑えられ、外観の良好な成形体を得ることができる
【0023】
また、本発明の熱収縮性チューブは、UL224 Optional VW−1 Flame Testにより評価した難燃性がVW−1であるため、難燃性を要求される電子部品の被覆に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の熱収縮性成形体、熱収縮性チューブ、および該チューブを用いた部材について詳細に説明する。
【0025】
<熱可塑性ポリフェニレンスルフィド系樹脂>
本発明で用いる熱可塑性ポリフェニレンスルフィド(以下「PPS」と省略することがある。)系樹脂は、下記式(1)のPPSの繰返し単位が70モル%以上、好ましくは80モル%以上含む樹脂である。該PPSの繰返し単位が70モル%以上であれば、ポリマーの結晶性や熱転移温度などの過度の低下を抑えることができ、また、PPS系樹脂を主成分とする樹脂組成物の特徴である難燃性、耐薬品性および電気的特性などの諸特性を損なうことを抑えることができる。
【0026】
【化1】

【0027】
上記PPS系樹脂において、上記繰り返し単位の30モル%未満、好ましくは20モル%未満であれば、共重合可能な他のスルフィド結合を有する単位が含まれていてもかまわない。前記繰り返し単位としては、例えば、メタ結合単位、オルト結合単位、3官能単位、エーテル単位、ケトン単位、スルホン単位、アルキル基などの置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位、カーボネート単位などが具体例として挙げられ、これらは、1種類のみを単独で、2種類以上を組み合わせて用いることができる。この場合、これらの構成単位は、ランダム型またはブロック型などのいずれの共重合方式であってもかまわない。
【0028】
上記PPS系樹脂は、直鎖・線状(リニアー型)の分子量50,000以上の高分子であることが好ましいがこれに限定されるものではなく、分岐鎖を有した高分子でも、一部架橋構造を有した高分子であっても用いることができる。
【0029】
上記PPS系樹脂は、低分子量オリゴマーを含んでいてもかまわないが、全質量に対して低分子量オリゴマーの含有量が1.5質量%程度以下であることが耐熱劣化性や機械的強度の点から好ましい。低分子量オリゴマーの分子量は100以上2,000以下の範囲であり、PPS系樹脂中に含まれる低分子量オリゴマーは、ジフェニルエーテルなどの溶媒で洗浄することにより除去できる。
【0030】
上記PPS樹脂の溶融粘度は、熱収縮性チューブを得ることができれば特に制限はないが、320℃、剪断速度100sec- 1 、オリフィスL/D=10/1(mm)にて測定した見かけ粘度が、100Pa・s以上であることが好ましく、200Pa・s以上であることがより好ましく、400Pa・s以上であることがさらに好ましく、かつ10,000Pa・s以下であることが好ましく、5,000Pa・s以下であることがより好ましく、2,000Pa・s以下であることがさらに好ましい。見かけ粘度が100Pa・s程度あれば製膜が可能であり、また見かけ粘度が10,000Pa・s程度以下であれば、押出時における押出機の負荷を抑えることができる。
【0031】
上記PPS系樹脂の製造方法は、公知の製造方法を適用でき、特に限定されるものではないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」と略することがある。)等の非プロトン性有機溶媒中でp−ジクロロベンゼン等のジハロゲン化芳香族化合物と硫化ナトリウム等のナトリウム塩とを反応させるという方法が一般に用いられる。重合度を調整するために苛性アルカリ、カルボン酸アルカリ金属塩などの重合助剤を添加して、230℃以上280℃以下の温度で反応させるのが好ましい。重合系内の圧力、重合時間は、所望する重合度、使用する重合助剤の種類や量などのよって適宜決定すればよい。
【0032】
しかしながら、上記方法ではハロゲン化ナトリウムが副生し、このハロゲン化ナトリウムはNMP等の溶媒に不溶であるため樹脂中に取り込まれてしまい、重合後、多量の水でPPS系樹脂を洗浄しても、PPS樹脂中のハロゲン化ナトリウムを十分に取り除くことはできない。そこで、ナトリウム塩に代えてリチウム塩を用いて重合を行う方法も用いることができる。
【0033】
上記PPS系樹脂の市販品としては、例えばフォートロン(ポリプラスチック社製)、DIC−PPS(DIC社製)、トレリナ(東レ社製)などが挙げられる。
【0034】
<PPS系樹脂以外の樹脂およびエラストマー>
本発明の熱収縮性成形体を構成するPPS系樹脂組成物は、PPS系樹脂単独で構成されていてもよいし、他の樹脂やエラストマーなどとブレンドおよびアロイ化して構成されていてもよい。
ブレンドおよびアロイ化用の他の樹脂としては、ポリエステル、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリスチレン、ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、AES樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテルとポリスチレンとの共重合体および/または混合物、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリサルホンなどを例示できる。これらの樹脂とブレンドおよびアロイ化することによりPPS樹脂とインキなどとの異材密着性を高めるなどの効果が得られる。
【0035】
なお、上記の樹脂は、熱重量分析器(TGA) により窒素雰囲気下500℃/分の昇温速度で20℃から300℃まで加熱し、300℃で20分間保持した時の質量減少率が0%以上6%以下であることが好ましく、0%以上4.5%以下であることがさらに好ましい。TGAによる質量減少率がこの範囲であれば、高温押出に伴う樹脂の分解が最小限に抑えられ、外観の良好な成形体を得ることができる。
【0036】
一方、エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、オレフィン系共重合体、ポリスチレン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー、ニトリル系ゴム、アクリル系ゴムなどが挙げられる。
【0037】
ポリエステル系エラストマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートといった芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエチレングリコールやポリテトラメチレングリコールといったポリエーテル、またはポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトンといった脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられる。
【0038】
また、ポリアミド系エラストマーとしては、例えばナイロン6 、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられる。
【0039】
また、ウレタン系エラストマーとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートとエチレングリコール、テトラメチレングリコール等のグリコールとを反応させることによって得られるポリウレタンをハードセグメントとし、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル若しくはポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられる。
【0040】
また、オレフィン系エラストマーおよびスチレン系エラストマーの例としては、ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、ブタジエン−スチレン共重合体(ランダム、ブロック、グラフトの各共重合体)、イソプレン共重合体、クロロブタジエン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン共重合体、イソブチレン−ブタジエン共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などが挙げられる。
【0041】
さらに、部分変性したゴム成分も用いることができ、例えば、部分水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、酸変性部分水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、部分水添スチレン−イソプレンブロック共重合体などが挙げられる。なかでも酸変性部分水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体が好ましい。ここでいう酸変性とは、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アクリル酸等の有機酸で変性されていることを言い、特にマレイン酸で変性されていること(例えば、マレイン酸変性SEBS)が好ましい。
【0042】
PPS系樹脂と上記エラストマーとをブレンドまたはアロイ化することにより、PPS系樹脂組成物の耐衝撃性などを高めることができる。溶融成形の際、310℃以上の高温に曝されることや、低温での耐衝撃性向上の観点から、エラストマーとしてはオレフィン系共重合体が特に好ましく用いられる。また、これらのオレフィン系共重合体と、PPSとの接着性を高めるため、無水マレイン酸基や、エポキシ基、シラン基などを官能基としてエラストマーの分子鎖中に導入することもでき、無水マレイン酸グラフト共重合ポリオレフィン、エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸ターポリマーなどを挙げることができる。
【0043】
上記エラストマーは、熱重量分析器(TGA) により窒素雰囲気下500℃/分の昇温速度で20℃から300℃まで加熱し、300℃で20分間保持した時の質量減少率が0%以上6%以下であることが好ましく、0%以上4.5%以下であることがさらに好ましい。TGAによる質量減少率がこの範囲であれば、高温押出に伴うエラストマーの分解が最小限に抑えられ、外観の良好な成形体を得ることができる。
なお、ここでいう「質量減少率」とは加熱前のエラストマー単体の全質量に対する加熱後のエラストマー単体の質量の百分率をいう。
【0044】
上記エラストマーの市販品としては、例えばタフテックM(酸変性SEBS樹脂、旭化成ケミカルズ製)、クレイトンG(酸変性SEBS樹脂、クレイトンジャパン社製)、エポフレンド(エポキシ/スチレン樹脂、ダイセル化学工業株式会社製)ボンダイン(エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸ターポリマー、仏アルケマ社製)などが挙げられる。
【0045】
PPS系樹脂に混合する他の樹脂および/またはエラストマーの含有量は、PPS系樹脂と他の樹脂および/またはエラストマーとの合計の質量を100質量%とした場合、0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、35質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下であることが好ましい。PPS系樹脂に混合する他の樹脂および/またはエラストマーの割合が少なすぎると、その添加効果を期待できず、また多すぎると難燃性などのPPS樹脂の特徴が損なわれるおそれがある。
【0046】
<可塑剤>
本発明の熱収縮性成形体を構成するPPS系樹脂組成物は、樹脂組成物のガラス転移温度Tgを下げ、低温収縮性を発現させるために可塑剤を含有することが好ましい。本発明で用いる可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、テトラヒドロフタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ホスホニトリル酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、ラクタム系可塑剤、スルホンアミド系可塑剤、グリコール酸系可塑剤、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、ポリオレフィンおよびポリシロキサンなどの公知の各種可塑剤が挙げられる。中でもホスホニトリル酸エステル系可塑剤をはじめとする難燃剤として機能するものはPPS系樹脂の特徴である難燃性を損なうことがないため好ましい。
【0047】
上記可塑剤は、熱重量分析器(TGA)により窒素雰囲気下10℃/分の昇温速度で20℃から加熱し、質量減少率5%(質量が5%減少すること)となる温度が260℃以上であることが好ましく、270℃以上であることがさらに好ましい。上限の温度は可塑剤の種類により定まるが、450℃以下であることが好ましい。
【0048】
本発明において好ましいリン酸エステル系可塑剤としては、より耐熱性の高い、芳香族縮合リン酸エステルや、ホスホニトリル酸フェニルエステルなどが挙げられる。これらの難燃剤兼可塑剤を用いることにより、PPS樹脂の優れた難燃性を損なうことなく樹脂のガラス転移温度を下げることができ、その結果、成形体に低温収縮性を付与できる。
【0049】
本発明で用いられるPPS系樹脂組成物中に添加する可塑剤の添加量は、PPS系樹脂またはPPS系樹脂と他の樹脂および/またはエラストマーの総量に対して0.5質量部以上、好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であって、15質量部以下、好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下である。可塑剤の添加量が0.5質量部以上あれば、可塑化効果が得られ、低温収縮性や、折り目白化抑制効果が得られる。また、含有率が15質量部以下であると、溶融粘度の下がりすぎや、厚み精度の悪化を抑えられる。
【0050】
上記可塑剤の市販品としては、例えばホスホニトリル酸フェニルエステル(株式会社 伏見製薬所製 商品名:FP−110)、1,3フェニレンビス(ジ2,6キシレニルホスフェート)(大八化学工業株式会社製 商品名:PX−200)などが挙げられる。
【0051】
本発明の熱収縮性成形体を構成するPPS系樹脂組成物は、通常の公知の製造方法を用いて製造することができる。例えば、PPS系樹脂、あるいはこれにその他の樹脂および/またはエラストマー、可塑剤、必要に応じて他の添加剤を予備混合して、単軸あるいは2軸の押出機、タンブラー、V型ブレンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなど通常公知の溶融混合機に供給して280℃以上450℃以下程度の温度で混練する方法や、2ケ所以上の供給口を有する押出機の各供給口に別々に計量した成分を供給する方法などが挙げられる。
【0052】
また、原料の混合順序にも特に制限はなく、使用するPPS系樹脂に直接他の樹脂、エラストマー、可塑剤、添加剤などを混合し、溶融混練する方法、他の樹脂、エラストマー、可塑剤、添加剤をPPS系樹脂に高濃度(代表的な含有量としては5〜60質量%程度)に混合したマスターバッチを別途作製しておき、これをPPS系樹脂に濃度を調整して混合する方法、一部の原材料を上記の方法により溶融混練しさらに残りの原材料を溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を単軸あるいは二軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練し、ペレット化した後、成形前に添加して成形に供することもできる。
【0053】
<PPS系樹脂組成物のガラス転移温度Tg>
本発明の熱収縮性成形体は、低温収縮性を発現させるため、示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であることが重要である。ここで、Tgが85℃以下であれば、十分な低温収縮性を付与することができ、一方、Tgが50℃以上であれば、使用前の保管時の自然収縮を抑制できることから好ましい。これらのことから、本発明の熱収縮性成形体のガラス転移温度Tgは、好ましくは53℃以上、より好ましくは55℃以上であり、83℃以下、好ましくは80℃以下であることが望ましい。
【0054】
<PPS系樹脂組成物の結晶融解ピーク温度Tm>
本発明の熱収縮性成形体は、製造工程において溶融押出温度がPPS系樹脂組成物の結晶融解ピーク温度Tmから40℃以上100℃以下(Tm+40℃〜Tm+100℃)、好ましくは40℃以上80℃以下(Tm+40℃〜Tm +80℃)、さらに好ましくは43℃以上70℃以下(Tm+43℃〜Tm+70℃)の温度範囲であることが望ましい。PPS系樹脂組成物の溶融押出温度がTm+40℃よりも低いと、熱収縮性成形体の結晶化度を充分に小さくすることが困難になる場合がある。また、溶融押出温度がTm+100℃より高くなると、熱収縮性成形体(好ましくはチューブ状)の結晶化度は小さくなるものの、PPS系樹脂組成物に含まれるPPS系樹脂以外の樹脂、エラストマーまたは可塑剤が熱分解しやすくなる場合がある。
【0055】
<PPS系樹脂組成物の結晶化ピーク温度Tc>
本発明の熱収縮性成形体は、製造工程においてPPS系樹脂組成物の結晶化ピーク温度Tcを制御することが最も重要である。結晶化ピーク温度Tcが十分低ければ、溶融押出の後、冷却して引き取る際に非晶のままで熱収縮性成形体を採取することができ、その後の延伸工程を安定して行なうことができる。PPS系樹脂組成物の結晶化ピーク温度Tcが高いと、溶融押出の後、冷却して非晶のまま引き取ろうとしても、熱収縮性成形体の内部で温度勾配が生じ、徐冷となる箇所ができてしまう。結果として、延伸前の熱収縮性成形体は不均一に結晶化したものとなり、延伸工程も不安定になる。
上記結晶化ピーク温度Tcは、示差走査熱量測定(DSC)において結晶融解ピーク温度Tm+40℃からTm+100℃まで昇温し1分間保持した後、降温速度10℃/分で測定することができる。
【0056】
本発明の熱収縮性成形体を構成するPPS系樹脂組成物の結晶化ピーク温度Tcを制御する方法としては公知の各種の方法を採用することができるが、例として、PPS系樹脂をアミノカルボン酸金属塩などで末端変性することで結晶化ピーク温度Tcを制御する方法(例えば、国際公開WO2007/129721号公報、特開2006−199734号公報参照)、PPS系樹脂の分子量を大きくする方法(例えば、特開2005−15792号公報参照)、メタフェニレンスルフィド単位とパラフェニレンスルフィド単位を共重合させ、低融点化に伴い、結晶化ピーク温度Tcも低下させる方法、重合開始時にトリハロ以上のポリハロ芳香族化合物を併用し、分岐または架橋重合体が形成させ、結晶化ピーク温度Tcを低下させる方法(例えば、特開2007−23263号公報参照)、などを挙げることができる。
【0057】
<TcとTmとの温度差の意義>
本発明において、樹脂組成物のTcとTmとの温度差は、80℃以上であれば、溶融押出後の冷却において、成形体の結晶化を進行させることなく成形体を引き取ることができ、その後の延伸工程も連続的に安定して行うことができる。
【0058】
本発明の熱収縮性成形体の形状は特に限定されず、フィルム、シートなどの平板状やパイプなどのような管状やチューブなどのようなチューブ状のいずれの形状とすることができる。中でもアルミ電解コンデンサなどの電子部材やニッケル水素電池、リチウムイオン電池などの各種電池の被覆に用いられるチューブ状の形状が好ましい。
【0059】
<本発明の熱収縮性成形体の製造方法>
本発明の熱収縮性成形体は、PPS系樹脂組成物のペレットを、Tダイなどのフラットダイ、もしくは丸ダイから溶融押出したものを、冷却ロールまたは水冷によって急速に冷却することによって製造することができる。
【0060】
溶融押出工程において、各種の単軸押出機または二軸押出機が用いることができるが、成形されたフィルム、シート、チューブの厚みの精度の点で、単軸押出機にペレットを入れる方法が好ましく用いられる。このとき、樹脂の流路である単軸押出機のシリンダー、導管、ダイの一部の温度を、結晶融解ピーク温度Tm+40℃からTm+100℃までの温度範囲に設定し、熱履歴を与えることによって、熱収縮性成形体の結晶化を抑制することができる。結晶融解ピーク温度Tm+40℃からTm+100℃までの温度範囲に設定される樹脂流路の領域は、ホッパー直下および直後の領域を除いて任意に設定することができるが、PPS系樹脂組成物がPPS系樹脂以外の樹脂やエラストマー、可塑剤を含有する場合は、これらの分解を抑制するために、なるべく狭い樹脂流路の領域を結晶融解ピーク温度Tm+43℃からTm+70℃までの温度範囲に設定することが好ましい。
【0061】
上記のような方法により、冷却ロールや流水などで急冷するだけでは非晶状態の成形体を得ることが困難な厚手のフィルム、シート、チューブを容易に得ることができる。
【0062】
本発明の熱収縮性成形体を熱収縮チューブとして製造する場合、製造方法は、該組成物からなるペレットを上記の温度条件で溶融押出しさえすれば、各種の方法を用いることができるが、通常丸ダイを用いて未延伸チューブを押出し、ついで延伸してシームレスの熱収縮性チューブとする方法が好ましい方法として挙げられる。その他、TダイやIダイを用いて押出・延伸したフィルムを融着、溶着または接着などにより貼合せてチューブ形状とする方法、さらに前記チューブまたはフィルムをスパイラル状に貼合せてチューブ形状とする方法などが挙げられる。
【0063】
ここで、丸ダイを用いて未延伸チューブを押出し、次いで延伸して熱収縮性チューブとする方法についてさらに詳細に説明する。前記した樹脂組成物は、溶融押出装置により結晶融解ピーク温度以上の温度に加熱溶融され、丸ダイから連続的に押し出した後、強制的に冷却され未延伸チューブに成型される。強制冷却の手段としては、低温の水に浸漬する方法、冷風による方法等を用いることができる。中でも低温の水に浸漬する方法が、冷却効率が高く有効である。この未延伸チューブを連続的に次の延伸工程に供給してもよく、また一度ロール状に巻き取った後、この未延伸ロールを次の延伸工程の原反として用いてもよい。製造効率や熱効率の点から未延伸チューブを連続的に次の延伸工程に供給する方法が好ましい。
【0064】
このようにして得られた未延伸チューブは、チューブ内側より圧縮気体で加圧し、延伸する。延伸方法は特に限定されるものではないが、例えば未延伸チューブの一方の端から圧縮気体による圧力を管の内側に加えつつ一定速度で送り出し、次いで温水または赤外線ヒーター等により加熱し、径方向の延伸倍率を規制するために冷却された円筒管の中を通して固定倍率の延伸を行う。円筒管の適当な位置で延伸される様に温度条件等を調整する。円筒管で冷却された延伸後のチューブは、一対のニップロールにより挟んで延伸圧力を保持しながら延伸チューブとして引き取り巻取られる。延伸は、長さ方向または径方向のいずれの順序でもよいが、同時に行うのが好ましい。
【0065】
延伸条件は、使用する樹脂組成物の特性や目的とする熱収縮率などにより調整される。
長さ方向の延伸倍率は、未延伸チューブの送り速度と延伸後のニップロール速度との比で決められ、径方向の延伸倍率は未延伸外径と延伸チューブ外径の比で決められる。これ以外の延伸加圧方法として、未延伸チューブ送り出し側と延伸チューブ引き取り側双方をニップロールに挟み封入した圧縮気体の内圧を維持する方法も採用できる。
【0066】
本発明の熱収縮性チューブは、未延伸チューブをその径方向に1.2倍以上、好ましくは1.3倍以上、より好ましくは1.4倍以上から3.0倍以下、好ましくは2.5倍以下、より好ましくは2.0倍以下の範囲であり、かつその長さ方向に1.0倍以上、好ましくは1.02倍以上から2.0倍以下、好ましくは1.5倍以下、より好ましくは1.3倍以下の範囲の倍率で延伸させて得られたものが好ましい。ここで、熱収縮性チューブの径方向の延伸倍率が1.2倍以上であれば被覆するのに足りる収縮量が得られ、また3.0倍以下であれば、厚み振れが大きくなる傾向を抑えることができるとともに、配向結晶化による収縮率の低下を抑えることができる。一方、熱収縮性チューブの長さ方向の延伸倍率が2.0倍以下であれば、長さ方向の収縮量が大きくなりすぎて、電子部品等を被覆加工したときに被覆位置がずれる現象や、カット長さを長くする必要もないためコストアップを抑えることができる。
【0067】
上記のようにして得られる熱収縮性チューブの厚さは特に限定されないが、一般にコンデンサに使用されるチューブの厚みは、コンデンサの定格電圧に応じて、おおよそ0.05mmから1.0mmまでの範囲、代表的には0.07mmから0.2mmまでの範囲のものが使用されている。また、チューブを折り畳んだ状態の幅(以下「折径」という)が4mmから300mmの範囲のものが汎用コンデンサや電池の被覆、汎用の電池のパッケージング全般に対応できる点で好ましい。
【0068】
本発明の熱収縮性チューブは、主にアルミ電解コンデンサなどの電子部材やニッケル水素電池、リチウムイオン電池などの各種電池の被覆用として好適に用いることができるが、他の用途、例えば、電線(丸線、角線)、乾電池、鋼管またはモーターコイルエンド、トランスなどの電気機器や小型モーター、あるいは電球、蛍光灯、ファクシミリやイメージスキャナーの蛍光灯被覆用チューブとしても利用可能である。
【実施例】
【0069】
以下に実施例でさらに詳しく説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示される熱収縮性チューブについての種々の測定値および評価は次のようにして行った。
【0070】
<使用する原料>
以下の評価に供される熱収縮性チューブを構成する樹脂組成物の実施例、比較例、および参考例で使用した原料を以下に示す。
・PPS1:ポリフェニレンスルフィド樹脂[ポリプラスチックス社製、商品名:フォートロンW300、結晶融解ピーク温度Tm:278℃、溶融粘度(310℃、剪断速度1200sec−1):220Pa・s]
・PPS2:ポリフェニレンスルフィド樹脂[ポリプラスチックス社製、商品名:フォートロンW220A、結晶融解ピーク温度Tm:280℃、溶融粘度(310℃、剪断速度1200sec−1):500Pa・s]
・エラストマー1:エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸ターポリマー(フランスARKEMA(アルケマ)社製、商品名:ボンダインTX8030)
・エラストマー2:酸変性スチレン=エチレン=ブチレン=スチレン(旭化成ケミカル社製、商品名:タフテックM1943)
・リン系可塑剤1:ホスホニトリル酸フェニルエステル(株式会社 伏見製薬所製 商品名:FP−110)
・リン系可塑剤2:縮合リン酸エステル(大八化学社製、商品名:PX−200)
【0071】
エラストマーの熱安定性は、熱重量測定装置ティー・エイ・インスツルメント社製のQ5000IRを用いて測定した。窒素雰囲気下500℃/分の昇温速度で20℃から300℃まで加熱し、300℃で20分間保持した時の質量減少率を測定し、次のような基準で評価した。
(○)…質量減少率が0%以上6%以下
(×)…質量減少率が6%より大きい
【0072】
可塑剤の熱安定性は、熱重量測定装置ティー・エイ・インスツルメント社製のQ5000IRを用いて測定した。窒素雰囲気下10℃/分の昇温速度で20℃から加熱し、質量減少率が5%となるときの温度を測定し、次のような基準で評価した。
(○)…質量減少率が5%となる温度が260℃以上
(×)…質量減少率が5%となる温度が260℃未満
【0073】
<DSC測定>
熱的性質は、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7を用いて測定した。測定中は、乾燥窒素を50ml/分で流して、窒素雰囲気で行った。サンプルは、約10mg用い、アルミニウムパンに入れて測定した。DSCチャートは、サンプルを50℃ から10 ℃ / 分の昇温速度で加熱して測定・記録した。
【0074】
<外観>
実施例で得られた熱収縮チューブの外観を次のような基準で評価した。
(○)…チューブの表面が平滑である。
(×)…エラストマーや可塑剤の分解によりチューブの表面が痘痕状である。
【0075】
<難燃性評価>
熱収縮性チューブの難燃性をUL224 Optional VW−1 Flame Testに基づいて評価した。
(○):VW−1規格を満たす。
(×):VW−1規格を満たさない。
【0076】
<耐熱性>
φ35mm、長さ59.5mmのアルミ電解コンデンサに折径59mm、肉厚0.1mm、長さ73mmのチューブを熱風循環式シュリンク炉にて、200℃で5秒間被覆し、熱風オーブンにて85℃雰囲気下60分のエージングをかけた後、再び熱風オーブン中、200℃雰囲気下に5分さらし、耐熱性を以下の基準により評価した。
(○):膨れが生じない
(×):膨れが生じる
【0077】
<耐薬品性>
テトラヒドロフラン(THF)に得られた熱収縮性チューブを24時間沈め、次のような基準で評価した。
(○)…外観に変化はなかった。
(×)…外観に変化が生じた。
【0078】
<耐電解液性>
エチレングリコール(EG)に得られた熱収縮性チューブを24時間沈め、次のような基準で評価した。
(○)…外観に変化はなかった。
(×)…外観に変化が生じた。
【0079】
<低温収縮性>
90℃の温水に、5秒間浸漬した前後の熱収縮性チューブの折径を測定して、次のような基準で評価した。
(○)…収縮率が30%以上であった。
(×)…収縮率が30%未満であった。
【0080】
<延伸安定性>
溶融押出と冷却により得られた原チューブを90℃の熱水に通して予熱し、さらに高温の蒸気を外側から吹きかけながら、圧縮空気を挿入し、チューブラー延伸を行なった時の延伸性を次のような基準で評価した。
(○)…圧縮空気を挿入した後は特に問題なく延伸が連続的に行なわれた。
(×)…圧縮空気を挿入した後に破裂が生じる等、連続的に延伸が不可能であった。
【0081】
(実施例1、2、比較例1〜3、および参考例1、2)
表1に記載した組成の樹脂組成物を、290℃から表1に記載した温度の範囲で温度勾配があるようにシリンダー温度を設定した押出機で溶解させ、丸ダイを通してチューブラ成型加工し、折径59mm、厚さ0.3mmのチューブを得た。得られたチューブについて特性を評価した結果を表1に示した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1よりシリンダー温度の最高溶融温度をTm+40℃〜Tm+100℃の温度範囲で設定し溶融押出した熱収縮性成形体は、結晶化ピーク温度Tcと結晶融解ピーク温度Tmとの温度差(Tm−Tc)が80℃以上であったため、外観、難燃性、耐熱性、耐薬品性、耐電解液性、低温収縮性、および延伸安定性に優れていた(実施例1および2)。
これに対し、Tm−Tcが80℃未満であるPPS系樹脂組成物からなる熱収縮性成形体は、延伸安定性が劣っていた(比較例1)。また、Tgが85℃を超えるPPS系樹脂組成物からなる熱収縮性成形体は、低温収縮性と延伸性に劣っていた(比較例2)。また、最高溶融温度が300℃、つまり樹脂組成物のTm+20℃程度に設定し溶融押出した熱収縮性成形体では、安定して延伸することができなかったため、延伸安定性が劣っていた(比較例3)。また、熱安定性が劣るエラストマーおよび可塑剤を添加した熱収縮性成形体は、外観が劣っていた(参考例1および2)。
これより本発明の熱収縮性成形体であれば、難燃性、耐熱性、耐薬品性、耐電解液性、低温収縮性、および延伸安定性を同時に満たすことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であり、DSCにおいて結晶融解ピーク温度Tm+40℃からTm+100℃まで昇温し1分間保持した後、降温速度10℃/分で測定される結晶化ピーク温度Tcと前記結晶融解ピーク温度Tmとの温度差が80℃以上であるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなることを特徴とする熱収縮性成形体。
【請求項2】
前記ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が、ポリフェニレンスルフィド系樹脂以外の樹脂、エラストマー、および可塑剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性成形体。
【請求項3】
前記エラストマーが、熱重量分析(TGA) により窒素雰囲気下500℃/分の昇温速度で20℃から300℃まで加熱し、300℃で20分間保持した時の質量減少率が0%以上6%以下であることを特徴とする請求項2に記載の熱収縮性成形体。
【請求項4】
前記可塑剤が、熱重量分析(TGA) により窒素雰囲気下10℃/分の昇温速度で20℃から加熱し、質量減少率が5%になるときの温度が260℃以上であることを特徴とする請求項2または3に記載の熱収縮性成形体。
【請求項5】
チューブ状の形状であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の熱収縮性成形体。
【請求項6】
UL224 Optional VW−1 Flame Testにより評価した難燃性がVW−1 であることを特徴とする請求項5に記載の熱収縮性チューブ。
【請求項7】
請求項6に記載の熱収縮性チューブで被覆された部材。
【請求項8】
電子機器または電気機器の用途に用いられる請求項7に記載の部材。
【請求項9】
示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であり、DSCにおいて結晶融解ピーク温度Tm+40℃からTm+100℃まで昇温し1分間保持した後、降温速度10℃/分で測定される結晶化ピーク温度Tcと前記結晶融解ピーク温度Tmとの温度差が80℃以上であるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物から熱収縮性成形体を製造する方法であって、前記ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を押出法によりダイから溶融押出するまでの工程が、Tm+40℃以上Tm+100℃以下の温度範囲で熱履歴を与える工程を含むことを特徴とする、前記熱収縮性成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−178935(P2011−178935A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45980(P2010−45980)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】