説明

ポリフェニレンスルフィド複合フィルムの製造方法及びポリフェニレンスルフィド複合フィルム。

【課題】表面欠陥が少なく、表面平滑性、離型性に優れたPPS複合フィルムの製造方法及びPPS複合フィルムを提供する。
【解決手段】粘度保持率(c−MFR/MFR)が0.70未満のポリフェニレンスルフィド樹脂(B)と、少なくとも片面に粘度保持率(c−MFR/MFR)が0.70以上のポリフェニレンスルフィド樹脂(A)を共押出法により積層した未延伸シートを、長手方向に3.0倍以上3.8倍以下、幅方向に3.2倍以上4.0倍以下に二軸延伸し、二軸延伸後の1段目の熱固定温度を150℃以上220℃以下、後段の熱固定温度を240℃以上280℃以下とする、全体厚さTが10μm以上120μm以下、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)からなる層の厚さTが4μm以上50μm以下であるポリフェニレンスルフィド複合フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド複合フィルムの製造方法及びポリフェニレンスルフィド複合フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器、情報機器の発展に伴い、それらの表示装置として使用される液晶表示装置に対する高画質化の要求が高まっており、液晶表示装置の視野角拡大、位相差補正等のために使用される高機能膜の薄膜化、均質性、表面性(異物、傷、凹凸の少ないこと)などの要求が厳しくなっている。これらの高機能膜は、原料となる高分子材料を単独でシート状に成形するなどして製造することが困難であり、別の高分子シートやフィルム 、金属板、ガラス板などを離型材として、それらの離型材上に一旦高分子膜を形成したのち剥離して製造する場合が増加している。特に、電子機器や情報機器などの表示装置に使用される場合は、他の機材と貼り合わせたり、高機能膜上に別の樹脂を塗布したりする加工が入り、しかも連続加工される場合が多いため、離型材としては、高分子シートやフィルムが使用されることが多い。なお、離型とは、目的とする樹脂や樹脂組成物を別の基材に一旦塗布やラミネートなどの方法で設けた後、少なくとも一度剥離工程を設けて、目的とする高機能膜を該基材から剥離分離して得ることをいい、このような用途に用いられる基材フィルムを離型フィルムという。
【0003】
したがって、離型材として用いられるシートやフィルム(以下、離型フィルムと総称することがある)に対する要求品質も厳しくなり、高機能膜の品質を阻害しないために、表面平滑性や平面性に優れることはもちろんのこと、加工時の作業性をよくするために、耐熱性、熱寸法安定性、耐薬品性、離型性、機械特性等を備えている必要がある。また生産性の観点からは、製膜安定性に優れ、破れなどを生じることなく連続して製膜できることが求められる。このうち特に、離型フィルムの表面欠陥が製品である高機能膜に転写してその欠陥となるため、離型フィルム表面の欠陥の少ないことが重要である。
【0004】
従来この分野に用いられていたフィルムやシートとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略称することがある)、フッ素系樹脂などのフィルムまたはシートが挙げられる。特に、PPSフィルムは、耐熱性、熱寸法安定性、耐薬品性、機械特性、離型性において優れているため、これらの特性を要求する高機能膜では離型フィルムとして用いられる(例えば、特許文献1及び2参照)。しかし、PPSフィルムには、フィルム表面の粗大突起やフィルムの平面性不良による表面欠陥が、高機能膜の欠陥や膜厚の斑を生じさせるという問題がある。
【0005】
特許文献3には、PPSフィルムの平面性不良による表面欠陥を低減する技術として、220℃におけるフィルムの長手方向の加熱収縮率、幅方向の加熱収縮率及び0.6kg/mmの張力を加えたときに現れるたるみ部分の面積を特定の範囲に規定することが提案されている。しかし、低倍率延伸時に発生する平面性不良の改善には不十分であった。
【0006】
特許文献4には、PPSフィルム表面の粗大突起による表面欠陥を低減する技術として、PPSフィルムのフィッシュアイの個数を特定の範囲に規定することが提案されている。ここで、フィッシュアイとは、膜成形時にフィルム中に生じる異物のことである。PPSフィルム表面のフィッシュアイを低減させる方法としては、PPS樹脂中の高沸点不純物を抑制することが開示されている。しかし、特許文献4に開示の技術のように、PPS樹脂中の高沸点不純物を抑制するだけでは、フィッシュアイの発生を十分に抑えることはできず、フィルムの表面欠陥の低減には不十分であった。
【0007】
特許文献5には、PPSフィルムの平面性不良による表面欠陥を低減する技術として、フィルム幅方向の直線上の範囲内から採取した試料片の加熱収縮率を特定の範囲に規定することが提案されている。しかし、低倍率延伸時に発生する平面性不良の改善には不十分であった。
【0008】
特許文献6には、PPS複合フィルムの少なくとも一方の最表面層の粘度保持率を特定の範囲に規定することで、フィッシュアイの発生を抑制し、フィルムの表面欠陥を低減できることが開示されている。ここで、粘度保持率とは、酸化架橋の起こり易さを示す指標である。しかし、特許文献6には、フィルムの平面性不良による表面欠陥を低減する技術に関する記載は無かった。
【0009】
特許文献7には、PPS複合フィルム表面の粗大突起による表面欠陥を低減する技術として、PPS複合フィルムの厚み構成及び微粒子の平均粒径や含有量などを特定の範囲に規定することが提案されている。しかし、特許文献7に開示の技術だけでは、フィッシュアイの発生を十分に抑えることはできず、フィルムの表面欠陥の低減には不十分であった。また、フィルムの平面性不良による表面欠陥の低減について教えるものではない。
【0010】
特許文献8には、PPSフィルムの製造方法として、延伸後の熱固定を温度の異なる2段以上の工程で行うことが提案されている。ここで熱固定とは、長手方向、幅方向に張力をかけてフィルムを張った状態で所定の熱を加える工程を言う。しかし、特許文献8には、フィルムの平面性不良による表面欠陥に関する記載は無かった。また、低倍率延伸時に発生する平面性不良の改善には不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−278912号公報
【特許文献2】特開平7−140326号公報
【特許文献3】特開平9−300365号公報
【特許文献4】特開2000−34356号公報
【特許文献5】特開2005−7745号公報
【特許文献6】特開2006−95824号公報
【特許文献7】特開2007−152761号公報
【特許文献8】特開2008−280508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は上記の問題点を解決すること、すなわち表面欠陥が少なく、表面平滑性、離型性に優れたPPS複合フィルムの製造方法及びPPS複合フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため本発明のPPS複合フィルムは主として次の構成を有する。すなわち、
(1)粘度保持率(c−MFR/MFR)が0.70未満のPPS樹脂(B)と、少なくとも片面に粘度保持率(c−MFR/MFR)が0.70以上のPPS樹脂(A)を共押出法により積層した未延伸シートを、長手方向に3.0倍以上3.8倍以下、幅方向に3.2倍以上4.0倍以下に二軸延伸し、二軸延伸後の1段目の熱固定温度を150℃以上220℃以下、後段の熱固定温度を240℃以上280℃以下とする、全体厚さTが10μm以上120μm以下、PPS樹脂(A)からなる層の厚さTが4μm以上50μm以下であるPPS複合フィルムの製造方法。
(2)(1)に記載の製造方法により得られるPPS複合フィルム。
(3)150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMD及び幅方向の熱収縮率STDが0.0%以上1.2%以下であり、長手方向の熱収縮率SMDと幅方向の熱収縮率STDの差の絶対値|SMD−STD|が1.0以下である(2)に記載のPPS複合フィルム。
(4)PPS複合フィルムがPPS樹脂(A)からなる層を離型層とした離型用基材フィルムであることを特徴とする(2)または(3)に記載のPPS複合フィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上の構成としたため、表面欠陥が少なく、表面平滑性、離型性に優れたPPS複合フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を、好ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0016】
本発明で用いるPPS樹脂(A)及びPPS樹脂(B)とは、繰り返し単位の85モル%以上(好ましくは90モル%以上)が下記化学式1で示される構成単位からなる重合体をいう。かかる成分が85モル%未満ではポリマの結晶性、軟化点等が低下し、耐熱性、寸法安定性、機械特性、離型性等が損なわれる場合がある。
化学式1
【0017】
【化1】

【0018】
上記PPS樹脂において、繰り返し単位の15モル%未満、好ましくは10モル%未満であれば、共重合可能なスルフィド結合を含有する単位が繰り返し単位として含まれていても差し支えない。該重合体の共重合の仕方はランダム、ブロック型を問わない。
【0019】
本発明におけるc−MFR/MFRは、酸化架橋の起こり易さを示す指標であり、この値が小さいほど酸化架橋が進行し易い。ここでMFR(Melt Flow Rate)とは、長さ8.00mm、穴直径2.095mmのオリフィスを用い、サンプル量7g、サンプル仕込み後測定開始までのプレヒート時間5分、荷重5000g、315.5℃の条件で測定されたメルトフローレートのことを言う。またc−MFRとは、サンプルを空気中オーブン中で200℃、5時間加熱して酸化架橋させた後、上記条件で測定されたメルトフローレートのことを言う。
【0020】
本発明に用いるPPS樹脂(A)のc−MFR/MFRは0.70以上であることが好ましく、より好ましくは0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上である。PPS樹脂(A)のc−MFR/MFRを0.70以上とすることによって、PPS樹脂(A)からなる層(以下、A層という)のPPSの酸化架橋によるゲル化物起因のフィッシュアイの発生を抑え、A層表面の粗大突起を低減することができる。PPS樹脂(A)のc−MFR/MFRが0.70未満であると、A層のPPSの酸化架橋によるゲル化物起因のフィッシュアイが増加し、A層表面の粗大突起が増加する。PPS樹脂(A)のc−MFR/MFRの上限について特に限定はないが0.95を超える範囲に調整することは経済性と得られる効果のバランスから実用的ではなく、汎用的な用途であれば0.9程度もあれば十二分である。
【0021】
PPS樹脂(A)のMFRは10〜250g/10分の範囲であることが好ましく、より好ましくは30〜200g/10分の範囲である。PPS樹脂(A)のMFRが前記範囲から外れると、押出成形性に支障をきたす可能性がある。
【0022】
c−MFR/MFRが0.70以上であるPPS樹脂(A)は、後述するように、モノマの1つとして1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼンなどのトリハロゲン化合物以上のポリハロゲン化合物をジクロロベンゼンなどのジハロベンゼンと共重合しないことで得ることができる。またさらにc−MFR/MFRを高めるためには、重合後に得られたPPS樹脂に対し温水洗浄を施し、その際アルカリ土類金属塩を含む温水で洗浄する過程を含むこと、重合後に得られたPPS樹脂を有機アミド溶媒や有機ケトン類、アルコール類などの有機溶媒で室温から150℃の温度で洗浄することなどの手段が挙げられる。
【0023】
PPS樹脂(A)は、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼンなどのトリハロゲン化合物以上のポリハロゲン化合物が使用されない場合、分岐構造が非常に少ないPPS樹脂となる。ゆえに、分岐構造による阻害を受けないため、低倍率延伸でも分子配向し易く、低倍率延伸時に発生する平面性不良を抑制することができる。
【0024】
本発明に用いるPPS樹脂(B)のc−MFR/MFRは0.70未満であることが好ましく、より好ましくは0.45以上0.70未満であり、さらに好ましくは0.50以上0.70未満である。PPS樹脂(B)のc−MFR/MFRが0.45未満であると、PPS樹脂(B)からなる層(以下、B層という)のPPSの酸化架橋によるゲル化物起因のフィッシュアイが激増し、その欠陥が原因で製膜時に破れが発生する恐れがある。また、PPS樹脂(B)のc−MFR/MFRが0.70以上であると製膜性に劣ることとなる。
【0025】
すなわち、本発明者らは、特定の製膜条件下において、PPS樹脂のc−MFR/MFRが0.70以上の樹脂を用いると製膜性は劣るもののフィルムにおける異物の発生や平面性という観点では有利であるとの知見に基づき、A層としてc−MFR/MFRが0.70以上のPPS樹脂を用い、一方で、製膜性を担保するためにB層として0.45以上0.70未満のPPS樹脂を用いることを着想するに至ったのである。
【0026】
PPS樹脂(B)のMFRは10〜250g/10分の範囲であることが好ましく、より好ましくは30〜200g/10分の範囲である。PPS樹脂(B)のMFRが前記範囲から外れると、押出成形性に支障をきたす可能性がある。
【0027】
c−MFR/MFRが0.70未満であるPPS樹脂(B)は、後述するように、モノマの1つとして1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼンなどのトリハロゲン化合物以上のポリハロゲン化合物をジクロロベンゼンなどのジハロベンゼンと共重合することで簡便に得ることができる。
【0028】
本発明の複合フィルムは、PPS樹脂(B)からなるB層とPPS樹脂(A)からなるA層が積層された構造を有する。A層/B層/A層の3層の構成やA層/B層/A層/B層/A層の5層の構成であっても差し支えなく、またA層/B層/(他の樹脂からなる層)の如く、他の樹脂からなる層をさらに設けることもできる。但し、こうした積層の態様にあっては、A層が最外層を構成していることが望ましい。積層構造をとることで多様化をはかることができ、A層が最外層にあることで粗大突起や平面性不良による表面欠陥を低減することができる。また、複合フィルムとすることでA層の押出ポリマの吐出量は低く抑えることができ、押出時の発熱によるPPS分子間での熱架橋や酸化架橋によるゲル化物起因の表面欠陥を抑制することができる。さらに、A層は低倍率延伸でも分子配向し易く、製膜時に破れを生じ易いが、B層の下支えにより製膜時の破れを抑制することができる。A層とB層を別々に製膜してラミネート等の手法により後工程で貼り合わせることも可能であるが、貼り合わせによる欠陥が増加したり、著しく生産性を損なったり、コストが高くなることがある。
【0029】
本発明の複合フィルムは、A層において不足する製膜性をB層がカバーすると共に、B層が露出したならば粗大突起などの表面欠陥の発生の問題があるところ、これを防止することができる。本発明の複合フィルムは離型フィルムとして用いることが望ましく、この場合、A層を使用面(離型面)とすることが好ましい。
【0030】
離型フィルムとは、目的物(被離型物)とする樹脂や樹脂組成物を、別の基材上に塗布やラミネートなどの方法で着設した後、必要であれば硬化や加工して後、目的とする被離型物を基材から剥離分離して得ることに用いる基材をいい、このような用途に用いられるフィルムを離型フィルムという。
【0031】
本発明における熱収縮率(S)とは、150℃30分に加熱処理する前のフィルムの寸法(X)に対する、該処理後のフィルムの寸法(Y)と該処理前のフィルムの寸法の差を百分率で表した特性(S=100×(X−Y)/X[%])をいい、正が収縮率、負が膨張率を意味し%表示する。またフィルムの長手方向とは、フィルム製造時の工程においてフィルムが流れる方向を言い、フィルムの幅方向とは、フィルムの長手方向に直行する方向を言う。
【0032】
本発明の複合フィルムの長手方向の熱収縮率SMDは0.0%以上1.2%以下であることが好ましく、より好ましくは0.0%以上1.0%以下である。また複合フィルムの幅方向の熱収縮率STDは0.0%以上1.2%以下であることが好ましく、より好ましくは0.0%以上1.0%以下である。複合フィルムの長手方向の熱収縮率SMD、幅方向の熱収縮率STDが0.0%未満であると、この複合フィルムを離型フィルムとして用いた際の乾燥及び熱処理工程において、熱膨張による弛みが発生して被離型物において欠陥が発生することがある。複合フィルムの長手方向の熱収縮率SMD、幅方向の熱収縮率STDが1.2%を超えると、今度はこの複合フィルムを離型フィルムとして用いた際の乾燥及び熱処理工程において、熱収縮によるシワが発生して被離型物において欠陥が発生することがある。
【0033】
本発明の複合フィルムの長手方向の熱収縮率SMDと幅方向の熱収縮率STDの差の絶対値|SMD−STD|は1.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.8以下である。前記絶対値|SMD−STD|が1.0を超えると、この複合フィルムを離型フィルムとして用いた際の乾燥及び熱処理工程において、長手方向の熱収縮率SMDと幅方向の熱収縮率STDのバランス不良による微細なシワや弛みが発生して被離型物において微細な欠陥が発生することがある。
【0034】
本発明では製膜時の延伸工程にてPPS分子鎖を高度に配向させ、さらに引き続き実施する熱固定工程の温度を制御することにより分子鎖配向を保ち分子鎖緊張を保持して構造を固定する。例えば、延伸工程では延伸温度を長手方向及び幅方向ともに(Tg(PPSのガラス転移温度))〜(Tg+40℃)、好ましくは(Tg+5℃)〜(Tg+20℃)、延伸倍率は長手方向に3.0倍以上3.8倍以下、好ましくは3.0倍以上3.6倍以下、幅方向に3.2倍以上4.0倍以下、好ましくは3.2倍以上3.8倍以下に制御することで、本発明の複合フィルムの長手方向の熱収縮率SMDと幅方向の熱収縮率STDや|SMD−STD|を前記範囲に調節することができる。また延伸後の熱固定工程では、熱固定を温度の異なる2段以上の工程で行い、1段目の熱固定温度を150℃以上220℃以下、好ましくは160℃以上210℃以下、後段の熱固定温度を240℃以上280℃以下、好ましくは250℃以上270℃以下に制御することで、低倍率延伸時に発生する平面性不良を抑制することができる。熱固定後に幅方向に1.0〜8.0%、好ましくは2.0〜5.0%の弛緩処理を後段の熱固定温度の最高値未満で適宜行うことで、本発明の複合フィルムの幅方向の熱収縮率STDを前記範囲に調節することが容易になる。c−MFR/MFRが0.70以上であるPPS樹脂(A)は、低倍率延伸でも分子配向し易く、製膜時に破れを生じ易いが、熱固定を温度の異なる2段以上の工程で行うことで、なだらかに熱固定されるため製膜時の破れを抑制することができる。
【0035】
低倍率延伸時に発生する平面性不良の抑制には、PPS樹脂(A)のc−MFR/MFRが0.70以上であることと延伸後の熱固定を温度の異なる2段以上の工程で行うことの2つの技術的特徴を具備する必要がある。ゆえに、片方の技術的特徴のみ具備しただけでは、フィルムの平面性不良による表面欠陥の低減には不十分である。
【0036】
本発明の複合フィルムの全体厚さTは10μm以上120μm以下である。より好ましくは12μm以上110μm以下であり、さらに好ましくは15μm以上100μm以下である。複合フィルムの全体厚さTが10μm未満であると、離型フィルムとして用いたとき搬送時にシワが発生して被離型物において欠陥が発生することとなる。また、複合フィルムの腰が弱くなるため、平面性不良が増加する恐れがある。複合フィルムの全体厚さTが120μmを超えると、離型フィルムとして用いたとき搬送時にキズが生じ易くなり、被離型物において欠陥が増加する。
【0037】
本発明の複合フィルムにおいてA層の厚さTは4μm以上50μm以下である。より好ましくは4μm以上45μm以下であり、さらに好ましくは4μm以上40μm以下である。A層の厚さTが4μm未満であると、B層に用いたPPS樹脂中に発生する異物に起因した表面欠陥によってフィルム表面に粗大突起が表れることとなり、離型フィルムとして用いた際に、被離型物において欠陥が発生する。また、良好な平面性を十分に実現できないおそれがある。A層の厚さTが50μmを超えると、製膜時に破れが生じ易くなり、生産性が損なわれる。これはc−MFR/MFRが0.70以上であるPPS樹脂(A)は分子配向し易い性質を持つためであり、特に全体厚さTが120μm以下でA層の厚さTが50μmを超えると顕著になる。
【0038】
本発明のPPS複合フィルムの各層中に含有させる粒子としては、有機物および無機物のいずれを用いてもよく、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、珪酸アルミニウム、硫酸バリウムなどの鉱物類、金属、金属酸化物、金属塩類、高融点ポリマ、架橋ポリマ等が挙げられる。粒子の形状は特に制限されず、球状、直方体状、単分散状、凝集状などの粒子を用いることができる。これらの粒子は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。粒子の平均粒径及び添加量、粒子の種類や形状などは目的に応じ選択すれば良く、本発明のPPS複合フィルムの表面平滑性を向上させる観点からは、平均粒径3.0μm以下、添加量0.05〜3.0重量%の範囲のものを用いることが好ましい。
【0039】
本発明のPPS複合フィルムの各層には、本発明の特性を阻害しない範囲であれば、PPS以外の樹脂(異種ポリマ)がブレンドされてあってもよく、また酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤などの添加剤が添加されていてもよい。
【0040】
本発明のPPS複合フィルムの表面には、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、帯電防止剤等の樹脂や化合物が塗布やラミネートされていたり、適度な表面処理たとえばコロナ放電処理やプラズマ処理されていてもよい。
【0041】
[製造方法]
次に、本発明のPPS複合フィルムを得る方法について例を挙げて説明する。
【0042】
(1)PPS樹脂
まず、本発明のPPS複合フィルムに用いるPPS樹脂の製造方法について述べる。PPS樹脂は、アルカリ金属硫化物(硫化アルカリ)とジハロベンゼンとを重合させることによって製造することができる。
【0043】
〔アルカリ金属硫化物〕
アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムなどが挙げられ、その中でも硫化ナトリウムが好ましい。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。また、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物、例えば、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とから調製されるアルカリ金属硫化物、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素とから調製されるアルカリ金属硫化物なども用いることができる。アルカリ金属硫化物は、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0044】
〔ジハロベンゼン〕
ジハロベンゼンとしては、p−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼンなどのp−ジハロベンゼン、m−ジクロロベンゼンなどのm−ジハロベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン、3,5−ジクロロ安息香酸などのハロゲン以外の置換基をも含むジハロベンゼンなどを挙げることができる。これらの中でも、p−ジハロベンゼンが好ましく、p−ジクロロベンゼンが特に好ましい。ジハロベンゼンは、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0045】
ジハロベンゼンの使用量(仕込み量)は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり、好ましくは0.9〜2.0モル、より好ましくは1.0〜1.3モルの範囲であることが、本発明で規定するMFRを有するPPS樹脂を得るためには望ましい。この使用割合が0.9モル未満または2.0モル超過の場合には、加工に適した高粘度(高重合度)のPPS樹脂を得ることが困難となる。
【0046】
〔分子量調節剤、分岐・架橋剤〕
本発明においては、生成PPSの末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、ジハロベンゼンと共に、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を併用することができる。また、分岐または架橋重合体を形成させるために、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼンなどのトリハロゲン化合物以上のポリハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)、活性水素含有ハロゲン芳香族化合物、ハロゲン芳香族ニトロ化合物などを併用することもできる。但し、A層に用いるPPS樹脂に関しては、前記トリハロゲン化合物以上のポリハロゲン化合物の共重合は少量であっても酸化架橋を促し、c−MFR/MFRが低下するため、その使用は好ましくない。
【0047】
〔重合助剤〕
本発明においては、重合度を調整するために、重合助剤を添加して反応させることが好ましい。重合助剤としては、一般にPPS樹脂の重合助剤として用いられる公知の重合助剤を用いることができ、例えば、アルカリ金属水酸化物(苛性アルカリ)、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属カルボン酸塩が好適に用いられる。
【0048】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。アルカリ金属カルボン酸塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウムなどが挙げられ、その中でも安価で入手し易いことから、酢酸ナトリウムが好適に用いられる。アルカリ金属カルボン酸塩は、無水物、水和物または水溶液として用いることができる。また、アルカリ金属カルボン酸塩は、有機アミド溶媒中で、有機酸と、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩及び重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる1種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。重合助剤は、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0049】
重合助剤の使用量は、重合助剤の種類、重合時間、温度及び反応系の内容物の組成などに応じて広い範囲から適宜選択することができるけれども、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、0.01モル〜5.0モルの範囲が好ましく、0.1〜2.0モルの範囲がより好ましい。
【0050】
〔重合安定剤〕
本発明においては、重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の1つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。その中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の1つに入る。重合安定剤は、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0051】
重合安定剤の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、0.01モル〜0.2モルの範囲が好ましく、0.03〜0.1モルの範囲がより好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多過ぎても経済的に不利益であったり、収率が低下する傾向となる。
【0052】
〔重合溶媒〕
重合溶媒としては、有機アミド溶媒を使用することが好ましい。有機アミド溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン、テトラアルキル尿素、ヘキサアルキル燐酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機アミド溶媒などが、反応の安定性が高いために好適に用いられる。これらの中でもN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する場合もある)が特に好適に用いられる。重合溶媒の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.2〜10モルの範囲が好ましく、2.0〜5.0モルの範囲がより好ましい。
【0053】
〔重合反応〕
本発明のPPS複合フィルムに用いられるPPS樹脂は、アルカリ金属硫化物とジハロベンゼンの適量、ならびに必要に応じて分子量調節剤、分岐・架橋剤及び重合助剤の適量を、有機アミド溶媒中に加え、高温高圧下に反応させることによって製造することができる。重合系内の圧力は、使用する重合助剤の種類や量及び所望する重合度などに応じて適宜選択される。また重合系内の温度と重合時間も、使用する重合助剤の種類や量及び所望する重合度などに応じて適宜選択されるけれども、好ましくは温度200〜300℃において20分〜50時間、より好ましくは温度230〜280℃において1〜10時間である。以上のようにして粉状または粒状のPPS樹脂を得る。次いで、得られた粉状または粒状のPPS樹脂を、水または/および有機溶媒で洗浄して、副生塩、重合助剤、未反応モノマなどを分離する。なお、本発明のPPS複合フィルムのA層に用いるPPS樹脂は、c−MFR/MFRが0.70以上であることが必要であるので、A層に用いるPPS樹脂を製造する場合には、以下のようにしてPPSの酸化架橋を抑えることが好ましい。
(a)モノマの1つとして1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼンなどのトリハロゲン化合物以上のポリハロゲン化合物をジクロロベンゼンなどのジハロベンゼンと共重合しない。
トリハロゲン化合物以上のポリハロゲン化合物は、少量であっても酸化架橋を促し、c−MFR/MFRが0.70未満になりやすいので、使用しないことが好ましい。なお、ジハロベンゼンには異性体化合物(トリハロベンゼンなど)が混在している可能性があるので、ジハロベンゼンは、予め精製され、混在する異性体化合物(トリハロベンゼンなど)をよく除いて用いることが好ましい。
(b)重合して得られたPPS樹脂を温水洗浄し、その際アルカリ土類金属塩を含む温水で洗浄する過程を含むこと。作用機構は不明であるが、係る洗浄を施すことにより酸化架橋を抑制することができる。
(c)重合して得られたPPS樹脂を、室温から150℃の有機溶媒で洗浄する。これによって、酸化架橋の原因となり得る副生塩、重合助剤、未反応モノマなどの残存不純物を除去することができる。使用される有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒、アセトンなどの有機ケトン類、アルコール類などが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒が特に好ましい。洗浄時間は、浴比及び有機溶媒の温度などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択することができるけれども、好ましくは0.4時間以上、より好ましくは0.6時間以上である。また洗浄浴比は、洗浄時間及び有機溶媒の温度などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択することができるけれども、乾燥PPS1kgに対して、有機溶媒4.5kg以上を用いて洗浄することが好ましい。
【0054】
(2)PPS樹脂組成物
本発明のPPS複合フィルムが前述のように粒子を含有する場合、まず、粒子を上記(1)で得られた粉状または粒状のPPS樹脂に混ぜ、ヘンシェル等で均一混合する。また、PPS以外の樹脂(異種ポリマ)をブレンドする場合や酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤などの添加剤を添加する場合にも、同様にしてPPS樹脂に混合する。
【0055】
次いで、得られた混合物を押出機(好ましくは一段以上のベント孔を有する押出機)に供給し、290〜360℃の温度で溶融混練して適当な口金から押し出し、PPS樹脂組成物を得る。またガット状に溶融成形して、長さ2〜10mm程度にカットし、ペレット状のPPS樹脂組成物としてもよい。得られたPPS樹脂組成物は、真空下の加熱式ドライヤで、温度100〜180℃、時間1〜5時間程度の条件で乾燥される。
【0056】
なお、粒子を添加しない場合には、(1)で得られたPPS樹脂に必要に応じてPPS以外の樹脂(異種ポリマ)や酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤などの添加剤を混合し、粒子を含む混合物の場合と同様にして押出し成形または溶融成形し、PPS樹脂組成物として使用することができる。
【0057】
このようにして製造されるPPS樹脂組成物は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が混合されて使用されてもよい。例えば、粒子が添加されたPPS樹脂ペレット(以後、粒子ペレットとも称する)と、粒子が添加されていないPPS樹脂ペレット(以後、無粒子ペレットとも称する)とを混合して用いることができる。
【0058】
(3)PPS複合フィルム
次に、(1)あるいは(2)で得られたPPS樹脂あるいはPPS樹脂組成物を用いて、本発明のPPS複合フィルムを製造する。PPS樹脂組成物を用いる場合を例に挙げると、(2)で得られたPPS樹脂組成物を減圧下(好ましくは真空度が0〜50mmHg)で120〜230℃(好ましくは160℃から200℃)の温度に加熱しながらミキサーで攪拌し、3時間以上(好ましくは5〜10時間)乾燥する。PPS樹脂組成物の乾燥は、前述のようにしてPPS樹脂組成物を乾燥した後、徐冷して室温まで戻し、再度乾燥させるなど、多段階に分けて行ってもよい。ここで、乾燥温度が230℃を越えると、ポリマが熱劣化したり、乾燥原料が固まりフィルムの製膜に支障をきたす懸念があり、また該温度が120℃未満では、原料中の不純物、特に250℃程度にまで加熱して揮発するような高沸点化合物が残留し、フィルムの表面欠陥を引き起こす恐れがある。
【0059】
次いで、乾燥されたPPS樹脂組成物を用いて本発明のPPS複合フィルムを作製する。本発明のPPS複合フィルムの各層を積層する方法としては、コーティング、ラミネートまたは共押出による方法などを用いることができる。その中でも、共押出による積層が、本発明のPPS複合フィルムを構成する各層の厚みコントロールの上で好ましい。
【0060】
共押出による積層において、本発明のPPS複合フィルムの各層を形成するPPS樹脂組成物は、溶融押出装置と口金出口との間のポリマ流路内で合流積層されるが、口金よりもPPS樹脂組成物の流動方向上流側(例えばマニホールド)で合流積層されることが好ましい。具体的には、2台または3台以上の溶融押出装置、および2層以上のマニホールドまたは合流ブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)などの合流装置を用いて以下のようにして積層することが好ましい。
まず、各層を形成するPPS樹脂組成物を溶融押出装置にそれぞれ供給し、各PPS樹脂組成物の融点以上(好ましくは290〜360℃)の温度に加熱して溶融する。次いで、この溶融物を溶融押出装置と口金出口との間に設けられた合流装置において溶融状態で2層以上に積層し、スリット状の口金出口から押し出し、キャスティングロールと呼ばれる回転する金属ドラム上で冷却固化させるなどの方法で急冷して未延伸フィルムを作製する。このとき、ポリマ流路にギヤポンプ、スタティックミキサ、濾過装置を設置することが好ましい。
【0061】
各層を二軸に配向させる際には、得られた未延伸フィルムを二軸延伸する。未延伸フィルムの延伸方法としては、ロール群とテンターとを用いて長手方向及び幅方向の延伸を順次行う逐次二軸延伸法、長手方向及び幅方向の延伸を同時に行う同時二軸延伸法などが挙げられ、その中でも逐次二軸延伸法が好ましい。
【0062】
逐次二軸延伸法を用いて本発明の係る特性を発現させるためには、延伸温度を長手方向及び幅方向ともに(Tg(PPSのガラス転移温度))〜(Tg+40℃)、好ましくは(Tg+5℃)〜(Tg+20℃)、延伸倍率を長手方向に3.0倍以上3.8倍以下、好ましくは3.0倍以上3.5倍以下、幅方向に3.2倍以上4.0倍以下、好ましくは3.2倍以上3.8倍以下に制御して延伸することが好ましい。
【0063】
得られた延伸フィルムには、さらに温度の異なる2段以上の工程で熱固定を行う。このときの熱固定条件は、1段目の熱固定温度を150℃以上220℃以下、好ましくは160℃以上210℃以下、後段の熱固定温度を240℃以上280℃以下、好ましくは250℃以上270℃以下に制御し、また1段目の熱固定時間を1〜60秒、好ましくは1〜30秒、後段の熱固定時間を1〜60秒、好ましくは1〜30秒に制御して熱固定を行うことが好ましい。さらにこのフィルムを延伸温度以上、後段の熱固定温度の最高値未満の温度で幅方向に弛緩処理を行う。弛緩率は1.0〜8.0%であることが好ましく、より好ましくは2.0〜5.0%の範囲である。
【0064】
かくして得られたPPS複合フィルムは好ましく離型フィルムとして用いられる。
【実施例】
【0065】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。しかし、本実施例に限定して本発明が解釈されるものではない。
【0066】
[特性の評価方法]
(1)ポリマの溶融粘度
東洋精機社製メルトインデクサF−BO1(長さ8.00mm、穴直径2.095mmのオリフィス、サンプル量7g、サンプル仕込み後測定開始までのプレヒート時間5分、荷重5000g)を用い、315.5℃の条件で測定を行い、ポリマのMFR(メルトフローレート)を比較した。
【0067】
(2)酸化架橋処理
重合で得られた粉粒体状のポリマ約15gを底面直径約53mmのアルミカップに量り取り、タバイ社製スーパーテンプオーブンSTPH−101にて、200℃、5時間処理して酸化架橋させた。処理後のサンプルはデシケータ中に保存した。
【0068】
(3)熱収縮率
JISC2151に準じて測定した。フィルムの長手方向及び幅方向から切り出した試料長100mm、試料幅10mmのサンプル片を、150℃の温度に設定した熱風オーブン中に入れて30分間の加熱処理を行い、そのサンプル片の寸法変化から熱収縮率を算出した。
S=100×(X−Y)/X [%]
S:熱収縮率(%)
X:加熱処理前のサンプル片の寸法(mm)
Y:加熱処理後のサンプル片の寸法(mm)。
【0069】
(4)積層厚み
日本ミクロトーム研究所製電動ミクロトームST−201を用いて断面切削したフィルムのスライス片を透過光顕微鏡で観察し、各層の厚みを測定した。
【0070】
(5)フィルムの平面性評価
巻き取ったロールを上出しにして長手方向に2m引き出し、ロールの上面とフィルムの最端部が地面に平行になるよう台車に該最端部をテープで固定する。その後、台車をロール方向に40cm戻しフィルムを撓ませ、撓み最頂部位の3m直上に設置の蛍光灯下、台車の直ぐ後方からロール方向にフィルムを目視にて観察した。評価は下記の基準で行い、○以上が合格である。
◎:ふくれが全く確認されない。
○:ふくれが若干確認されるが汎用用途には使用できるレベルである。
×:ふくれが多く確認される。
【0071】
(6)被離型物の欠陥の評価
フィルムの表面をレーヨン布でラビング処理し、エステル系の液晶ポリマを塗布して乾燥(100℃−5分間)、熱処理(220℃−30分間)した後、塗布膜をフィルムから剥離してガラス板に挟み、偏光板からの距離が10cmで測定した明るさが2000LUXの偏光をかけて被離型物の微小欠陥を確認した。また、欠陥の大きさについては、Nikon製偏光顕微鏡OPTIPHOT−POLを用いて測定した。評価は下記の基準で行い、○以上が合格である。なお、評価サンプルは300mm×200mmとした。また、評価は長径が100μm以上の欠陥、長径が200μm以上の欠陥の何れか悪い方の評価とする。なお、長径とは、欠陥の外縁上の2点に引くことのできる線分の最大長さである。
◎:被離型物に長径が100μm以上の欠陥がない。
○:被離型物に長径が100μm以上の欠陥が2箇所以下、または、長径が200μm以上の欠陥が1箇所以下。
△:被離型物に長径が100μm以上の欠陥が3〜5箇所、または、長径が200μm以上の欠陥が2箇所以下。
×:被離型物に長径が100μm以上の欠陥が6箇所以上、または、長径が200μm以上の欠陥が3箇所以上。
××:被離型物に数えられないほど多数の欠陥がある。
【0072】
(7)製膜の安定性(破れ回数)
製膜の安定性の評価を下記の基準で行い、○以上が合格である。
◎:製膜時の破れがほとんどない(破れ回数0〜1回/24時間)。
○:製膜時に時々破れが発生する(破れ回数2〜4回/24時間)。
×:製膜時の破れが多く発生する(破れ回数5回以上/24時間)。
【0073】
実施例および比較例では、以下のようにして作製した粒子ペレットおよび無粒子ペレットを用いてPPSフィルムを作製した。
【0074】
(1)PPS樹脂の作製
〔作製例1〕
撹拌機付きの70Lのオートクレーブに、48重量%水硫化ナトリウム水溶液8.181kg(70.00モル)、純度96%の水酸化ナトリウム2.943kg(70.63モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.5モル)、無水酢酸ナトリウム2.239kg(27.30モル)、およびイオン交換水4.900kg(272.2モル)を仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.12kgおよびNMP0.14kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なおこの反応における撹拌速度は240rpmとした。
【0075】
仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.03モルであった。また、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.020モルの硫化水素が反応系外に飛散した。
【0076】
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10.29kg(69.97モル)、NMP9.090kg(91.70モル)を反応系に加えた。反応容器を窒素ガス下に密封した後、400rpmで撹拌しながら、200℃から227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、次いで227℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、270℃で140分保持した。その後、イオン交換水2.346kg(130.3モル)を15分かけて系内に添加しながら、250℃まで徐々に反応系を冷却した。次いで250℃から200℃まで1.0℃/分の速度で徐々に反応系を冷却し、その後室温近傍まで急冷し、PPS樹脂と副生塩等を含むNMPスラリーを得た。
【0077】
得られたスラリーを乾燥PPS樹脂1kg当たり、7kgのN−メチル−2−ピロリドン(浴比7)で95℃、1.0時間洗浄し、濾過する操作を2回行った。得られたケークを1回当たりイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間の洗浄条件で2回洗浄/濾過を行った後、酢酸カルシウムを1.0重量%含有するイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間で洗浄/濾過し、再度1回当たりイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間の洗浄条件で2回洗浄/濾過を行った。得られたポリマを150℃、真空下で4日間乾燥した。得られたポリマのMFRは68g/10分、c−MFR/MFR=0.75であった。
【0078】
〔作製例2〕
作製例1と同様にして脱水工程および重合工程を行った。
【0079】
得られたスラリーを乾燥PPS樹脂1kg当たり、7kgのN−メチル−2−ピロリドン(浴比7)で95℃、1.0時間洗浄/濾過する操作を2回行った後、更にアセトン(浴比15)で30℃、1.5時間洗浄/濾過した。得られたケークを1回当たりイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間で1回洗浄/濾過を行った後、酢酸カルシウムを1.0重量%含有するイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間で洗浄/濾過し、再度1回当たりイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間の洗浄条件で2回洗浄/濾過を行った。得られたポリマを150℃、真空下で4日間乾燥した。得られたポリマのMFRは65g/10分、c−MFR/MFR=0.81であった。
【0080】
〔作製例3〕
脱水工程における無水酢酸ナトリウムの仕込み量を1.894kg(23.10モル)、重合工程におけるp−DCBの仕込み量を10.34kg(70.32モル)とし、重合工程でp−DCBとともに1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)を6.35g(0.0350モル)仕込んだこと、また、重合工程で添加するイオン交換水を1.235kg(68.60モル)とした以外は、作製例1と同様に行った。
【0081】
得られたスラリーを乾燥PPS樹脂1kg当たり、7kgのN−メチル−2−ピロリドン(浴比7)で95℃、1.0時間洗浄し、濾過する操作を2回行った。得られたケークを1回当たりイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間の洗浄条件で2回洗浄/濾過を行った後、酢酸カルシウムを1.0重量%含有するイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間で洗浄/濾過し、再度1回当たりイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間の洗浄条件で2回洗浄/濾過を行った。得られたポリマを150℃、真空下で4日間乾燥した。得られたポリマのMFRは72g/10分、c−MFR/MFR=0.67であった。
【0082】
〔作製例4〕
重合工程で仕込む1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)を40.7g(0.224モル)とした以外は、作製例3と同様に行った。
【0083】
得られたスラリーを乾燥PPS樹脂1kg当たり、7kgのN−メチル−2−ピロリドン(浴比7)で95℃、1.0時間洗浄し、濾過する操作を2回行った。得られたケークを1回当たりイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間の洗浄条件で2回洗浄/濾過を行った後、酢酸カルシウムを1.0重量%含有するイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間で洗浄/濾過し、再度1回当たりイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間の洗浄条件で2回洗浄/濾過を行った。得られたポリマを150℃、真空下で4日間乾燥した。得られたポリマのMFRは5g/10分、c−MFR/MFR=0.42であった。
【0084】
(2)ペレットの作製
〔粒子ペレット1〕
平均粒径1.0μmの炭酸カルシウム粒子をエチレングリコール中に50重量%分散させたスラリーを調製した。このスラリーをフィルタで濾過した後、ヘンシェルミキサーを用いて、作製例1で得られたポリマに炭酸カルシウムの含有量が5.0重量%となるよう混合した。得られた混合物を、30mm径の二軸のスクリューを有するベント押出機に供給し、温度320℃で溶融した。この溶融物を金属繊維からなる95%カット孔径10μmのフィルタに通して瀘過した後、2mm孔径ダイから押し出し、ガット状の樹脂組成物を得た。さらに該組成物を約3mm長に裁断し、粒子含有量5.0重量%の粒子ペレット1を得た。
【0085】
〔粒子ペレット2〕
作製例1で得られたポリマに代えて、作製例2で得られたポリマを用いる以外は、粒子ペレット1と同様にして、粒子ペレット2を得た。
【0086】
〔粒子ペレット3〕
作製例1で得られたポリマに代えて、作製例3で得られたポリマを用いる以外は、粒子ペレット1と同様にして、粒子ペレット3を得た。
【0087】
〔無粒子ペレット1〕
作製例1で得られたポリマのみを粒子ペレットと同様にして溶融押し出し、粒子を含有しない無粒子ペレット1を得た。
【0088】
〔無粒子ペレット2〕
作製例1で得られたポリマに代えて、作製例2で得られたポリマを用いる以外は、無粒子ペレット1と同様にして、無粒子ペレット2を得た。
【0089】
〔無粒子ペレット3〕
作製例1で得られたポリマに代えて、作製例3で得られたポリマを用いる以外は、無粒子ペレット1と同様にして、無粒子ペレット3を得た。
【0090】
(実施例1)
上述のようにして得られた粒子ペレット1と無粒子ペレット1を炭酸カルシウムの含有量が0.5重量%となるよう混合した後、回転式真空乾燥機を用いて、3mmHgの減圧下にて温度180℃で4時間乾燥させてPPSペレット−1を得た。また、粒子ペレット3と無粒子ペレット3をPPSペレット−1と同様にして混合/乾燥させてPPSペレット−3を得た。
【0091】
得られたPPSペレット−1をΦ90単軸押出機に供給し、310℃で溶融させた(ポリマI)。また、PPSペレット−3をΦ65単軸押出機に供給し、310℃で溶融させた(ポリマII)。このポリマIとポリマIIの吐出比を1.2:1.0に調整し、高精度瀘過した後、矩形積層部を備えた3層合流ブロックにて、ポリマIIが基材層であるB層となり、基材層の両面被覆層にA層としてポリマIがくるように積層し、940mm幅でリップ間隙3.0mmの口金よりシート状にして押し出した。次いで、このシートを、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。
【0092】
逐次二軸延伸法を用い、得られた未延伸フィルムを温度95℃で長手方向に3.3倍延伸し、次いで、幅方向に延伸するためにテンターを通して、温度100℃で幅方向に3.6倍延伸した。さらに幅方向に延伸するために用いたテンターに後続する熱処理室にて、温度200℃で10秒間(1段目)、温度260℃で10秒間(後段)熱処理した後、5%の制限収縮下で幅方向にリラックスした。
以上のようにして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを得た。得られたフィルムは、A層の厚さTが7μm、全体の厚さTが25μmであった。また、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが0.9%、幅方向の熱収縮率STDが0.5%であった。
【0093】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが全く確認されず、評価は◎であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、平面性不良、熱膨張による弛み、熱収縮によるシワを起因とするキズ等の欠陥は確認されず、被離型物の欠陥の評価は◎であった。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れを生じることなく24時間連続して製膜することができた(評価◎)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0094】
(実施例2)
A層を形成するためのペレットとして、PPSペレット−1に代えて、炭酸カルシウムの含有量が0.5重量%となるように粒子ペレット2と無粒子ペレット2を混合/乾燥して得たPPSペレット−2を用いる以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、A層の厚さTが7μm、全体の厚さTが25μmであった。また、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.1%、幅方向の熱収縮率STDが0.8%であった。
【0095】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが全く確認されず、評価は◎であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、平面性不良、熱膨張による弛み、熱収縮によるシワを起因とするキズ等の欠陥は確認されず、被離型物の欠陥の評価は◎であった。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れを生じることなく24時間連続して製膜することができた(評価◎)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0096】
(実施例3)
押出成形の際、3層合流ブロックに代えて2層合流ブロックを用いて積層し、また、長手方向の延伸倍率を3.1倍に製造条件を変更し、さらに、A層の厚さTが10μm、全体厚さTが25μmとなるようにポリマIとポリマIIの吐出条件を調整する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層の順に積層された2層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが0.7%、幅方向の熱収縮率STDが0.6%であった。
【0097】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが若干確認されたが汎用用途に用いるに支障ないレベルであった(評価○)。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、程度の弱い平面性不良を起因とする微小欠陥が2箇所確認されたが、実用上問題とならないレベルであった(評価○)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れを生じることなく24時間連続して製膜することができた(評価◎)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0098】
(実施例4)
長手方向の延伸倍率を3.4倍、幅方向の延伸倍率を3.7倍、1段目の熱固定を160℃で10秒間に製造条件を変更し、また、A層の厚さTが10μm、全体厚さTが25μmとなるようにポリマIとポリマIIの吐出条件を調整する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.2%、幅方向の熱収縮率STDが1.0%であった。
【0099】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが若干確認されたが汎用用途に用いるに支障ないレベルであった(評価○)。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、程度の弱い平面性不良を起因とする微小欠陥が1箇所確認されたが、実用上問題とならないレベルであった(評価○)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れ回数は24時間で1回のみであった(評価◎)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0100】
(実施例5)
長手方向の延伸倍率を3.4倍、後段の熱固定を275℃で10秒間に製造条件を変更し、また、A層の厚さTが10μm、全体厚さTが38μmとなるようにポリマIとポリマIIの吐出条件を調整する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが0.8%、幅方向の熱収縮率STDが0.3%であった。
【0101】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが若干確認されたが汎用用途に用いるに支障ないレベルであった(評価○)。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、程度の弱い平面性不良を起因とする微小欠陥が1箇所確認されたが、実用上問題とならないレベルであった(評価○)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れ回数は24時間で1回のみであった(評価◎)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0102】
(実施例6)
1段目の熱固定を185℃で10秒間、後段の熱固定を250℃で10秒間に製造条件を変更する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.0%、幅方向の熱収縮率STDが0.8%であった。
【0103】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが若干確認されたが汎用用途に用いるに支障ないレベルであった(評価○)。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、程度の弱い平面性不良を起因とする微小欠陥が2箇所確認されたが、実用上問題とならないレベルであった(評価○)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れを生じることなく24時間連続して製膜することができた(評価◎)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0104】
(実施例7)
長手方向の延伸倍率を3.6倍、幅方向の延伸倍率を3.5倍、1段目の熱固定を200℃で20秒間、後段の熱固定を265℃で20秒間に製造条件を変更し、また、A層の厚さTが23μm、全体厚さTが75μmとなるようにポリマIとポリマIIの吐出条件を調整する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが0.8%、幅方向の熱収縮率STDが0.1%であった。
【0105】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが全く確認されず、評価は◎であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、平面性不良、熱膨張による弛み、熱収縮によるシワを起因とするキズ等の欠陥は確認されず、被離型物の欠陥の評価は◎であった。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れ回数は24時間で2回であった(評価○)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0106】
(実施例8)
長手方向の延伸倍率を3.7倍、幅方向の延伸倍率を3.4倍、1段目の熱固定を200℃で20秒間、後段の熱固定を265℃で20秒間に製造条件を変更し、また、A層の厚さTが37μm、全体厚さTが115μmとなるようにポリマIとポリマIIの吐出条件を調整する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.0%、幅方向の熱収縮率STDが0.3%であった。
【0107】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが全く確認されず、評価は◎であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、被離型物の製造工程での搬送時に付いたと推測される微小キズが2箇所確認されたが、実用上問題とならないレベルであった(評価○)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れ回数は24時間で3回であった(評価○)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0108】
(比較例1)
A層を形成するためのペレットとして、PPSペレット−1に代えて、PPSペレット−3を用いる以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、A層の厚さTが7μm、全体の厚さTが25μmであった。また、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが0.8%、幅方向の熱収縮率STDが0.6%であった。
【0109】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが若干確認されたが汎用用途に用いるに支障ないレベルであった(評価○)。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、程度の弱い平面性不良を起因とする微小欠陥とPPSの酸化架橋によるゲル化物起因のフィッシュアイが併せて4箇所確認され、被離型物は実用として使用できるレベルではなかった(評価△)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れを生じることなく24時間連続して製膜することができた(評価◎)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0110】
(比較例2)
長手方向の延伸倍率を3.9倍に製造条件を変更する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.6%、幅方向の熱収縮率STDが1.3%であった。
【0111】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが全く確認されず、評価は◎であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、熱収縮によるシワを起因とする微小欠陥が6箇所確認され、被離型物としては実用として使用できるレベルではなかった(評価×)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れ回数は24時間で2回であった(評価○)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0112】
(比較例3)
長手方向の延伸倍率を3.85倍、熱固定後の幅方向のリラックスを8.5%に製造条件を変更する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.3%、幅方向の熱収縮率STDが−0.3%であった。
【0113】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが全く確認されず、評価は◎であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、熱収縮によるシワと熱膨張による弛みを起因とする微小欠陥が8箇所確認され、被離型物としては実用として使用できるレベルではなかった(評価×)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れ回数は24時間で2回であった(評価○)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0114】
(比較例4)
1段目の熱固定を260℃で10秒間に製造条件を変更する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.0%、幅方向の熱収縮率STDが0.6%であった。
【0115】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが多く確認され、評価は×であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、程度の強い平面性不良を起因とする微小欠陥が8箇所確認され、被離型物としては実用として使用できるレベルではなかった(評価×)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れ回数は24時間で3回であった(評価○)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0116】
(比較例5)
A層を形成するためのペレットとして、PPSペレット−1に代えて、PPSペレット−3を用い、また、1段目の熱固定を260℃で10秒間に製造条件を変更する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが0.9%、幅方向の熱収縮率STDが0.6%であった。
【0117】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが多く確認され、評価は×であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、程度の強い平面性不良を起因とする微小欠陥がほぼ全面に確認され、被離型物としては実用として使用できるレベルではなかった(評価××)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れ回数は24時間で2回であった(評価○)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0118】
(比較例6)
押出成形の際、3層合流ブロックに代えて2層合流ブロックを用いて積層し、また、長手方向の延伸倍率を3.5倍、幅方向の延伸倍率を3.7倍、1段目の熱固定を200℃で5秒間、後段の熱固定を260℃で5秒間、熱固定後の幅方向のリラックスを6.5%に製造条件を変更し、さらに、A層の厚さTが6μm、全体厚さTが9μmとなるようにポリマIとポリマIIの吐出条件を調整する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層の順に積層された2層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.1%、幅方向の熱収縮率STDが0.6%であった。
【0119】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが全く確認されず、評価は◎であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、被離型物の製造工程での搬送時のシワが原因と推測される微小欠陥が7箇所確認され、被離型物としては実用として使用できるレベルではなかった(評価×)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れ回数は24時間で3回であった(評価○)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0120】
(比較例7)
A層の厚さTが40μm、全体厚さTが125μmとなるようにポリマIとポリマIIの吐出条件を調整する以外は、実施例8と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.0%、幅方向の熱収縮率STDが0.1%であった。
【0121】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが全く確認されず、評価は◎であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、被離型物の製造工程での搬送時に付いたと推測される微小キズが5箇所確認され、被離型物としては実用として使用できるレベルではなかった(評価△)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れ回数は24時間で3回であった(評価○)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0122】
(比較例8)
A層の厚さTが3μm、全体厚さTが25μmとなるようにポリマIとポリマIIの吐出条件を調整する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.0%、幅方向の熱収縮率STDが0.6%であった。
【0123】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが若干確認されたが汎用用途に用いるに支障ないレベルであった(評価○)。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、程度の弱い平面性不良を起因とする微小欠陥とB層の粗大突起が原因と推測される微小欠陥が併せて5箇所確認され、被離型物としては実用として使用できるレベルではなかった(評価△)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れを生じることなく24時間連続して製膜することができた(評価◎)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0124】
(比較例9)
押出成形の際、3層合流ブロックに代えて2層合流ブロックを用いて積層し、また、A層の厚さTが54μm、全体厚さTが75μmとなるようにポリマIとポリマIIの吐出条件を調整する以外は、実施例7と同様にして、A層、B層の順に積層された2層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが0.9%、幅方向の熱収縮率STDが0.3%であった。
【0125】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが全く確認されず、評価は◎であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、平面性不良、熱膨張による弛み、熱収縮によるシワを起因とするキズ等の欠陥は確認されず、被離型物の欠陥の評価は◎であった。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、24時間で6回の破れが生じ、評価は×であった。評価結果を表1にまとめて示した。
【0126】
(比較例10)
実施例1で作製したPPSペレット−3をΦ90単軸押出機に供給し、310℃で溶融させた。このポリマを高精度濾過した後、940mm幅でリップ間隙3.0mmの口金よりシート状にして押し出した。このシートを実施例1と同様にして冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを実施例1と同様にして延伸した後、熱処理し、厚さ25μmの単層フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが0.8%、幅方向の熱収縮率STDが0.4%であった。
【0127】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが若干確認されたが汎用用途に用いるに支障ないレベルであった(評価○)。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、程度の弱い平面性不良を起因とする微小欠陥とPPSの酸化架橋によるゲル化物起因のフィッシュアイが併せて6箇所確認され、被離型物としては実用として使用できるレベルではなかった(評価×)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れを生じることなく24時間連続して製膜することができた(評価◎)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0128】
(比較例11)
実施例1で作製したPPSペレット−1をΦ90単軸押出機に供給し、310℃で溶融させた。このポリマを高精度濾過した後、940mm幅でリップ間隙3.0mmの口金よりシート状にして押し出した。このシートを実施例7と同様にして冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを実施例7と同様にして延伸した後、熱処理し、厚さ75μmの単層フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.1%、幅方向の熱収縮率STDが0.3%であった。
【0129】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが全く確認されず、評価は◎であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、平面性不良、熱膨張による弛み、熱収縮によるシワを起因とするキズ等の欠陥は確認されず、被離型物の欠陥の評価は◎であった。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、24時間で8回の破れが生じ、評価は×であった。評価結果を表1にまとめて示した。
【0130】
(比較例12)
長手方向の延伸倍率を4.35倍、幅方向の延伸倍率を3.5倍、1段目の熱固定を260℃で10秒間、後段の熱固定は無しに製造条件を変更し、また、A層の厚さTが15μm、全体厚さTが60μmとなるようにポリマIとポリマIIの吐出条件を調整する以外は、実施例1と同様にして、A層、B層、A層の順に積層された3層構造のPPS複合フィルムを作製した。得られたフィルムは、150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMDが1.4%、幅方向の熱収縮率STDが−0.1%であった。
【0131】
このフィルムの平面性評価は、ふくれが全く確認されず、評価は◎であった。また、このフィルムを離型フィルムとして用い、前記被離型物の欠陥の評価をおこなったところ、熱収縮によるシワと熱膨張による弛みを起因とする微小欠陥が7箇所確認され、被離型物としては実用として使用できるレベルではなかった(評価×)。さらに、このフィルムを24時間連続して作製する製膜の安定性の評価を実施したところ、破れ回数は24時間で1回であった(評価◎)。評価結果を表1にまとめて示した。
【0132】
(比較例13)
作製例1で得られたポリマに代えて、作製例4で得られたポリマを用いる以外は、粒子ペレット1及び無粒子ペレット1と同様にして、粒子ペレット4及び無粒子ペレット4の作製を試みたが、過負荷による押出異常が発生し、粒子ペレット4及び無粒子ペレット4は得られなかった。
【0133】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明のPPS複合フィルムは、自動車、産業機器、電子部品機器等のシールド基材、放熱回路基板、絶縁保護基板等として使用することができ、特に、液晶膜、セラミック膜や高機能高分子膜等の微小な表面欠陥を嫌う膜を製造する際の離型基材として最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度保持率(c−MFR/MFR)が0.70未満のポリフェニレンスルフィド樹脂(B)と、少なくとも片面に粘度保持率(c−MFR/MFR)が0.70以上のポリフェニレンスルフィド樹脂(A)を共押出法により積層した未延伸シートを、長手方向に3.0倍以上3.8倍以下、幅方向に3.2倍以上4.0倍以下に二軸延伸し、二軸延伸後の1段目の熱固定温度を150℃以上220℃以下、後段の熱固定温度を240℃以上280℃以下とする、全体厚さTが10μm以上120μm以下、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)からなる層の厚さTが4μm以上50μm以下であるポリフェニレンスルフィド複合フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により得られるポリフェニレンスルフィド複合フィルム。
【請求項3】
150℃30分加熱処理したときの長手方向の熱収縮率SMD及び幅方向の熱収縮率STDが0.0%以上1.2%以下であり、長手方向の熱収縮率SMDと幅方向の熱収縮率STDの差の絶対値|SMD−STD|が1.0以下である請求項2に記載のポリフェニレンスルフィド複合フィルム。
【請求項4】
ポリフェニレンスルフィド複合フィルムがポリフェニレンスルフィド樹脂(A)からなる層を離型層とした離型用基材フィルムであることを特徴とする請求項2または3に記載のポリフェニレンスルフィド複合フィルム。

【公開番号】特開2011−148199(P2011−148199A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11718(P2010−11718)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】