説明

ポリフェノールの検出法

【課題】簡便な操作で、迅速に菌体に吸着したポリフェノールを検出できるポリフェノールの検出法の提供。
【解決手段】ポリフェノールを含有する試料と菌体とを反応させた後、該反応液にセリウム化合物を作用させ、次いで菌体表層部に形成されたセリウムの結晶物を電子顕微鏡により観察する菌体に吸着したポリフェノールの検出法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリウム化合物を用いたポリフェノールの検出法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノールは、植物の果実や種子に含まれる色素、苦味成分の代表的なものとして知られ、古くから食品や化粧品に使われている。近年では、いわゆる「フレンチパラドックス」を背景とした赤ワインブームや、茶カテキン類の体脂肪蓄積抑制効果など、ポリフェノールの健康価値が注目されている(非特許文献1)。また、茶カテキン類に代表されるポリフェノールは、黄色ブドウ球菌や腸炎ビブリオ等の食中毒細菌、薬剤耐性細菌や植物病原菌に有効であることが報告されている(非特許文献2)。
【0003】
試料中の総ポリフェノールを測定する方法としては、酒石酸鉄吸光光度法、フォーリン・デニス法及びフォーリン・チオカルト法が知られている。これらの方法は、試料中に含まれる総ポリフェノール量を発色的に定量する方法である。
しかし、比色による方法では、試料液の着色が測定の障害になる場合があり、また反応に数時間要するといった欠点を有する。さらに、茶カテキン類などは細菌への吸着そのものや吸着した茶カテキン類からの過酸化水素の発生によって抗菌作用を示すと考えられているが、これらの方法では、細菌に吸着した茶カテキン類の局在を直接観察することは不可能である。
【0004】
従来、過酸化水素がセリウムと反応して結晶性のセリウムペルヒドロキシド(CP)を形成することを利用して、植物や白血球における過酸化水素の局在を可視化する手法が報告されている。この手法では、電子顕微鏡により過酸化水素の発生の有無、発生部位及び発生量を相対比較することができる(非特許文献3〜6)。
一方、カテキン類に代表されるポリフェノールは、中性からアルカリ性域で過酸化水素を発生することが報告されている(非特許文献7)。
しかしながら、これまでポリフェノールの検出にこれ自体から生じる過酸化水素を利用したものはなく、また、生じた過酸化水素とセリウムとが反応して形成される結晶物と、ポリフェノール濃度との間にどのような関係があるのか全く知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shahidi F, Natural Antioxidant, Chemistry, Health Effects and Application, AOCS press, 1997
【非特許文献2】日本食品工業学会誌 第36巻 第12号, 996-999, 1989
【非特許文献3】J. Electr. Microsc. Technol. Med. Biol.21(1), 7-11, 2007
【非特許文献4】医学生物学電子顕微鏡技術学会第24回予稿集 第19頁、平成20年
【非特許文献5】医学生物学電子顕微鏡技術学会第24回予稿集 第20頁、平成20年
【非特許文献6】医学生物学電子顕微鏡技術学会第23回予稿集 第45頁、平成19年
【非特許文献7】Biol. Pharm. Bull. 27(3), 277-281, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便な操作で、迅速に菌体に吸着したポリフェノールを検出できるポリフェノールの検出法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリフェノール濃度と、当該ポリフェノールから生じる過酸化水素とセリウムとが反応して形成される結晶物の量との間に極めて高い相関性があることを見出した。そして、ポリフェノールを含有する試料と菌体とを反応させた後、該反応液にセリウム化合物を作用させれば、ポリフェノールから生成する過酸化水素とセリウムイオンとが瞬時に反応して菌体表面上に結晶物が生成されるため、該結晶物を電子顕微鏡観察することにより菌体に吸着したポリフェノールを検出できることを見出した。さらに、得られた電顕像を画像解析処理し、セリウムの結晶物量を算出することにより菌体に吸着したポリフェノール量を測定できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリフェノールを含有する試料と菌体とを反応させた後、該反応液にセリウム化合物を作用させ、次いで菌体表層部に形成されたセリウムの結晶物を電子顕微鏡により観察する、菌体に吸着したポリフェノールの検出法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、菌体に吸着したポリフェノールを簡便・迅速に検出することができる。また、本発明方法を利用することにより、菌体におけるポリフェノールの局在や、その吸着量を測定でき、ポリフェノールの抗菌活性の評価も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】試料と菌体とを反応させた後、塩化セリウムを作用させた黄色ブドウ球菌のTEM観察結果を示す図である。(a)0.05%EGCg添加群のTEM観察像、(b)EGCg無添加群のTEM観察像
【図2】試料と菌体とを反応させた後、塩化セリウムを作用させた大腸菌のTEM観察結果を示す図である。(a)0.05%EGCg群のTEM観察像、(b)EGCg無添加群のTEM観察像
【図3】黄色ブドウ球菌の菌体表層部に分布する黒色領域を二値化処理した画像を示す図である。(a)黒色領域を二値化処理した画像、(b)二値化処理前の画像
【図4】黄色ブドウ球菌及び大腸菌の周の長さあたりの黒色領域面積を比較した図である。
【図5】試料と菌体とを反応させた後、塩化セリウムを作用させた黄色ブドウ球菌のSEM−EDX観察結果を示す図である。(a)0.05%EGCg添加群のSEM観察像、(b)0.05%EGCg添加群のCe元素のマッピング結果、(c)0.05%EGCg添加群のP元素のマッピング結果、(d)EGCg無添加群のSEM観察像、(e)EGCg無添加群のCe元素のマッピング結果、(f)EGCg無添加群のP元素のマッピング結果
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられるポリフェノールを含有する試料としては、過酸化水素を発生するポリフェノールを含有するものであれば特に制限されず、例えば茶抽出液、果汁、コーヒー抽出液、ココア飲料その他飲食品などが挙げられる。ポリフェノールを含有する試料には、ポリフェノールの他に、例えば軟化剤、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、保湿剤、増粘剤等の各種添加剤、食品素材等が含まれていてもよい。
試料中のポリフェノールの含有量は、特に限定されるものではないが、通常、試料中に溶解した状態で0.001質量%程度以上であるのが好適である。また、所望により、試料を適当な溶媒に溶解又は分散させて用いてもよい。緩衝液としては、例えばHEPES Bufferなどのグッドバッファーが挙げられる。
【0012】
本発明の測定対象であるポリフェノールは過酸化水素を発生させるものである。そのようなポリフェノールとしては、フェニルカルボン酸系、リグナン系、クルクミン系、クマリン系又はフラボノイド系のポリフェノールが挙げられ、具体的には、フェニルカルボン酸系のポリフェノールとして、クロロゲン酸、カフェー酸又はフェルラ酸が挙げられる。また、フラボノイド系として、カテキン類、アピゲニン、ルチン、ルテオリン、ケルセチン、ケンフェロール、イソラムネチン又はヘスペレチンが挙げられる。
【0013】
なかでも、フラボノイド系のポリフェノールが好ましく、特にカテキン類が好ましい。カテキン類としては、カテキン、カテキンガレート、ガロカテキン及びガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類並びに、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類の1種以上が挙げられる。また、カテキン類は、重合体であってもよい。
【0014】
ポリフェノールを含有する試料と菌体との反応は、例えば、菌体を緩衝液などの適当な溶媒に懸濁した菌懸濁液にポリフェノールを含有する試料を添加、混合するか、或いはポリフェノールを含有する試料に菌体若しくは菌懸濁液を添加、混合することにより行われる。ここで、菌体としては、特に限定されず、細菌、酵母、カビ、ウイルスなどが挙げられ、さらに均一で微小な生物試料として花粉やダニ、ノミなども挙げられる。
【0015】
反応温度は0〜100℃、反応時間は10分〜48時間程度が好ましい。また、反応液のpHは3以上、特にpH4〜8の範囲とするのが好ましい。
【0016】
次いで、反応液にセリウム化合物を作用させて結晶物を生成させる。
本発明において用いられるセリウム化合物は、過酸化水素と反応して結晶物を形成するものであればよく、例えば酢酸セリウム、塩化セリウム、硝酸セリウム、硫酸セリウムなどが挙げられる。なかでも、取扱性・反応性の点から塩化セリウムが好ましい。
【0017】
セリウム化合物を作用させる方法は、特に制限されないが、例えば反応液に最終濃度で0.001〜1質量%、好ましくは0.01〜0.5質量%のセリウム化合物を添加、混合することにより行うのが好ましい。これにより、ポリフェノールから発生する過酸化水素とセリウムが反応し、菌体表面上にセリウムの結晶物が生成される。セリウム化合物は、前記と同様の緩衝液、イオン交換水などの適当な溶媒に溶解又は分散させて用いてもよい。
【0018】
反応温度は0〜40℃、反応時間は10秒〜20分程度が好ましい。また、反応液のpHは6.5以上、特にpH7〜9の範囲とするのが、ポリフェノールからの過酸化水素発生が良好である点から好ましい。なお、反応液のpHは、水酸化ナトリウムなどにより調整することができる。
【0019】
次いで、電子顕微鏡により生成した結晶物の観察を行う。電子顕微鏡は、走査電子顕微鏡(SEM)又は透過電子顕微鏡(TEM)を用いるのが好ましい。
観察は、先ず反応液から遠心分離などにより上清を除去して菌体を得、該菌体を固定化させる。菌体の固定化は常法に従って行うことができる。例えば、菌体を水や前記と同様の緩衝液などで洗浄後、固定剤(グルタールアルデヒド、パラホルムアルデヒド、オスミウム酸など)を添加することにより固定できる。固定した後、さらに洗浄を行い、脱水剤(エタノール、アセトンなど)を用いて脱水操作を行う。
【0020】
SEM観察では、固定終了後、菌体を含む溶液をメンブレンフィルター(ポアサイズ0.2μm ISOPORE MEMBRANE FILTERS MILIPOREなど)などでろ過して菌体を回収した後、脱水操作を行い、メンブランフィルターごとt−ブチルアルコールなどに浸漬して置換を行い凍結乾燥後、観察試料とする。
TEM観察では、脱水操作後、脱水剤をプロピレンオキサイドで置換し、樹脂(エポキシ系、メタクリル系、アクリル系など)置換後、樹脂硬化処理を行い、超薄切片(70〜100nm)を作製し観察試料とする。
【0021】
観察方法は常法に従って行う。例えば、SEM観察ではアルミ製の試料台にカーボン製の両面テープを用いて試料を貼り付け、必要に応じて白金/パナジウムコーティングを行った後、EDX(元素分析装置)を用いてセリウム元素についてマッピングを行う。
TEM観察では、作製した超薄切片を銅やチタン製の100〜400メッシュグリット上に載せ、90〜120kVの加速電圧で観察を行う。
かくして、菌体にポリフェノールが吸着していれば、SEM観察では菌体の位置にセリウム元素が検出され、これにより菌体に吸着したポリフェノールを検出できる。一方、TEM観察では、菌体表層部に黒色領域としてセリウムの結晶物が観察され、これにより菌体に吸着したポリフェノールを検出できる。
【0022】
本発明者は、先にポリフェノールから発生する過酸化水素とセリウムとが反応して形成される結晶物の量と、ポリフェノールの濃度との関係を調べた結果、ポリフェノールの濃度に応じて生成する結晶物の量は増大する、との知見を得た。すなわち、結晶物の量とポリフェノールの濃度とは相関関係にある(特願2009−176726)。
従って、菌体表層部に生成したセリウムの結晶物量を算出し、それに基づいて菌体に吸着したポリフェノール量を測定できる。
【0023】
具体的には、SEM観察においては、上記のとおりセリウム元素についてマッピングを行うと、セリウム含有量に比例して輝度が上がるため、これを利用すればセリウムの結晶物量を求めることが可能である。
TEM観察においては、菌体表層部における黒色領域(セリウムの結晶物)の面積を求めることで、菌体全体に付着している黒色領域の体積を求めることができ、セリウムの結晶物量を求めることが可能である。TEM画像中の黒色領域の面積を求める方法は公知であり、例えば、電顕像を画像解析装置等で二値化処理などによって解析することができる。
【0024】
さらに、同一条件下での既知のポリフェノール量とポリフェノールから発生する過酸化水素により生成されるセリウムの結晶物量との相関係数を求めることにより、セリウムの結晶物量からポリフェノール量を測定できる。
【0025】
このように、菌体へのポリフェノールの吸着を検出し、可視化することで、菌体におけるポリフェノールの局在や、その吸着量を測定できる。ポリフェノールの抗菌作用は、菌体へポリフェノールが吸着することによって発揮される。したがって、その局在や吸着量を知ることで当該ポリフェノールの菌体に対する抗菌活性を評価することや、吸着量を指標に抗菌剤のスクリーニングも可能である。
【実施例】
【0026】
[試料]
EGCg;エピガロカテキンガレート(ニュートリションジャパン(株)商品名;テアビゴ)
[供試菌]
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC13276)
大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)
[培地]
SCD(Soybean Casein Digest)(DIFCO)
培地組成;Casein Peptone 15g/L、 Soybean Peptone 5g/L、NaCl 5g/L、Ager 15g/L
[緩衝液]
HEPES Buffer (Irvine Scientific)
[固定液]
2.5%グルタールアルデヒド溶液(調製:25%グルタールアルデヒド(TAAB社)10mLをHEPES Buffer(10mM pH7)90mLに加え良く攪拌し溶解した。)
[脱水剤]
脱水剤(Molekularsieb MERCK)
エタノール(純正化学 特級)
t-ブチルアルコール(和光純薬 特級)
【0027】
実施例1
(1)カテキン溶液と菌体との反応
黄色ブドウ球菌及び大腸菌をSCD寒天培地にて36℃、24時間培養後、白金耳を用いて出現したコロニーを生理食塩水に縣濁し、2回遠心、洗浄を行い菌数が1010cfu/mLになるように菌懸濁液を調製した。
0.05質量%濃度となるようにEGCgをpH5.0の10mM HEPES Buffer (Irvine Scientific)に溶解し、0.9mLずつ1.5mL容のマイクロチューブ(アシスト)に分注した。分注した溶液に菌縣濁液0.1mLを添加しよく撹拌した後30℃、1時間で静置した(0.05%EGCg添加群)。対照として菌体をEGCg無添加のpH5.0の10mM HEPES Bufferで処理した(EGCg無添加群)。
1時間後に遠心(12000rpm、10分)し、上清を抜き取り、pH5.0の10mM HEPES Buffer (Irvine Scientific)1.0mLを添加して菌体の洗浄を行った。この操作を2回繰り返した後、遠心上清を抜き取り、pH8.0の10mM HEPES Buffer (Irvine Scientific)0.9mLに菌体を縣濁した後、イオン交換水に溶解し1.0質量%に調製したCeCl3水溶液0.1mLを添加し、よく撹拌した。15分経過後に遠心(12000rpm、10分)し、上清を抜き取り、pH8.0の10mM HEPES Buffer (Irvine Scientific)1.0mLを添加して菌体の洗浄を行った。この操作を2回繰り返した後、遠心上清を抜き取り、2.5%グルタールアルデヒド溶液(10mM HEPES Buffer (Irvine Scientific)pH7.0に調整) 0.5mLを添加し、4℃で24時間固定した後、さらに同様に遠心、洗浄をおこない1%オスミウム酸溶液で4℃、6時間固定した。
【0028】
(2)TEM観察
1)洗浄
固定終了後に遠心(12000rpm、10分)し、上清を抜き取り、pH7.0、10mM HEPES Buffer (Irvine Scientific)0.5mLを添加して菌体の洗浄を行った。
【0029】
2)脱水
洗浄操作を2回繰り返した後、遠心後上清を抜き取り、50%のエタノール0.5mLを添加し15分間室温にて脱水操作を行った。以降同様に70%、80%、90%、95%、100%(100%のみ2回)のエタノールを用いて脱水操作を行った。
【0030】
脱水操作終了後、定法に従い樹脂包埋(Q-615 日新EM株式会社)を行った。
【0031】
3)薄切作製
樹脂を取り出し、ミクロトーム(ULTRACUTS ライカ株式会社)を用いてダイヤモンドナイフ(Sumi Knife 応研商事株式会社)にて70〜90nmの超薄切片を作製し、銅製のTEM観察用メッシュ(Sheet Mesh 150-A 日進EM株式会社)に回収し、乾燥後にTEM観察に供した。
【0032】
4)観察
試料を回収したメッシュをTEM(H-7650 HITACHI 加速電圧100kV)により観察した。
黄色ブドウ球菌及び大腸菌をTEMにより観察した像をそれぞれ図1及び図2に示す。0.05%EGCg添加群においては、図1(a)及び図2(a)に示すとおり、菌体表層部に黒色領域としてセリウムの結晶物が観察されたのに対し、EGCg無添加群においては、図1(b)及び図2(b)に示すとおり、同様の黒色領域は観察されなかった。これらの結果から、本法によりEGCgの可視化が可能であることが示された。
【0033】
次に、図1(a)及び図2(a)で観察された菌体表層部に分布している黒色領域(セリウムの結晶物)の面積を画像処理ソフトWinROOF(三谷商事株式会社)により二値化処理し、黒色領域の面積を測定した。図1(a)で観察された菌体表層部にある黒色領域を閾値138として二値化処理した結果を図3に示す。
この二値化処理により黒色領域の面積を測定し、続いて二値化処理した領域の菌体の周の長さを区間長計測により測定した。黄色ブドウ球菌と大腸菌においてそれぞれ3箇所の黒色領域の面積及び菌体の周の長さを測定し、周の長さあたりの黒色領域面積を比較した結果を図4に示す。黄色ブドウ球菌における黒色領域の面積が大腸菌における黒色領域の面積より3倍程度大きく、EGCgの吸着量は大腸菌より黄色ブドウ球菌に対して多いことが明らかとなった。
【0034】
pH5.0における黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対するカテキン類の最小発育阻止濃度はそれぞれ125ppmおよび2000ppmであり、カテキン類の抗菌作用は大腸菌より黄色ブドウ球菌に対して強いことが報告されている(Bokin.Bobai Vol.36, No.7, pp439-448,2008)。このことから本法により測定した菌体に対するカテキンの吸着量と抗菌作用には相関があることが示された。
以上の結果から、本法により菌体に吸着したポリフェノールを簡便・迅速に検出でき、また、菌体におけるポリフェノールの局在やその吸着量を測定することが可能であることが示された。さらには、黒色領域(セリウムの結晶物)の面積を画像解析ソフト等により数値化することでポリフェノールの抗菌活性の評価が可能であった。
【0035】
実施例2
(1)カテキン溶液と菌体との反応
黄色ブドウ球菌をSCD寒天培地にて36℃、24時間培養後、出現したコロニーを白金耳によりpH7の10mM HEPES Buffer(Irvine Scientific)に懸濁し、2回遠心、洗浄を行い菌数が108cfu/mLになるように菌懸濁液を調製した。
0.05質量%濃度となるようにEGCgをpH8.0の10mM HEPES Buffer (Irvine Scientific)に溶解し、0.45mLずつ1.5mL容のマイクロチューブ(アシスト)に分注した。調製した菌液0.05mLを添加しよく撹拌した後1時間室温で静置し反応させた(0.05%EGCg添加群)。対照として菌体をEGCg無添加のpH8.0の10mM HEPES Bufferで処理した(EGCg無添加群)。
1時間後に遠心(12000rpm、10分)し、上清を抜き取り、pH7.0の10mM HEPES Buffer (Irvine Scientific)0.5mLを添加して菌体の洗浄を行った。この操作を2回繰り返した後、遠心後上清を抜き取り、pH8.0の10mM HEPES Buffer (Irvine Scientific)0.9mLに菌体を縣濁した後、イオン交換水に溶解し1.0質量%に調製したCeCl3水溶液0.1mLを添加し、よく撹拌した。15分経過後に遠心(12000rpm、10分)し、上清を抜き取り、pH8.0の10mM HEPES Buffer (Irvine Scientific)1.0mLを添加して菌体の洗浄を行った。この操作を2回繰り返した後、遠心上清を抜き取り、2.5%グルタールアルデヒド溶液(10mM HEPES Buffer (Irvine Scientific)pH7.0に調整) 0.5mLを添加し、4℃で24時間固定した。
【0036】
(2)SEM EDX観察
1)観察試料の回収
特開2008-286591号公報記載の方法に準じて行った。
吸引ろ過システム(NALGENE社製、ポアサイズ0.45μm)上にさらにメンブランフィルター(ミリポア社製、ISOPORE、ポアサイズ0.2μm)を置き、穏やかに吸引しながら調製した固定終了後の菌懸濁液を0.1mL滴下し、メンブランフィルター上に回収した。
以下の工程2)〜6)は吸引ろ過システム上でおだやかに吸引しながら操作した。
【0037】
2)洗浄
試料の表面が乾燥する前に直ちに5.0mLのHEPES Buffer(4℃、10mM、pH7.0)を連続的にゆっくり滴下して洗浄を行った。
【0038】
3)脱水
試料の表面が乾燥する前に直ちに50%のエタノール5.0mLを連続的にゆっくり滴下した後、同様に70%、80%、90%、95%、100%のエタノールを滴下して脱水操作を行った。
【0039】
4)置換
試料の表面が乾燥する前に直ちにt-ブチルアルコール(30℃)2.0mLを連続的にゆっくり滴下して置換を行った。
【0040】
5)凍結、乾燥
試料をフィルターごと取り出し、冷凍庫(-20℃)で15分冷凍した後、試料室温度−20℃に設定したフリーズドライヤーES-2030(日立)に凍結した試料をフィルターごとセットして試料を乾燥させた。
【0041】
6)観察
乾燥したフィルターを適当な大きさにカットし、カーボン両面テープを貼ったアルミ製SEM試料台に貼り付け、SEM(走査型電子顕微鏡 S-4300SE/N、日立)にて観察を行い、更にEDX(エネルギー分散形X線分析装置 EMAX ENERGY HORIBA)を用いてCe元素及びP元素のマッピングを行った。
黄色ブドウ球菌をSEM-EDXにより観察した結果を図5に示す。
0.05%EGCg添加群においては、図5(a)、(b)に示すとおりCe元素が検出されたのに対して、EGCg無添加群においては、図5(d)、(e)に示すとおりCe元素は検出されなかった。P元素はいずれの菌体でも検出された(図5(c)、(f))。
以上の結果から菌体に吸着したポリフェノール類を簡便・迅速に検出できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノールを含有する試料と菌体とを反応させた後、該反応液にセリウム化合物を作用させ、次いで菌体表層部に形成されたセリウムの結晶物を電子顕微鏡により観察する菌体に吸着したポリフェノールの検出法。
【請求項2】
電子顕微鏡による観察が、菌体に吸着したポリフェノール量を測定するものである、請求項1記載のポリフェノールの検出法。
【請求項3】
電子顕微鏡が、走査電子顕微鏡又は透過電子顕微鏡である請求項1又は2記載のポリフェノールの検出法。
【請求項4】
ポリフェノールがカテキン類である請求項1〜3のいずれか1項記載のポリフェノールの検出法。
【請求項5】
セリウム化合物が塩化セリウムである請求項1〜4のいずれか1項記載のポリフェノールの検出法。
【請求項6】
セリウム化合物をpH6.5以上の条件下で作用させる請求項1〜5のいずれか1項記載のポリフェノールの検出法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−50345(P2011−50345A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203774(P2009−203774)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】