説明

ポリフェノール含有徐放性抗菌剤及びその製造方法並びにその抗菌力測定方法

【課題】苦味・渋味が低減され、徐放性を有するポリフェノール含有徐放性抗菌剤を提供する。
【解決手段】水溶性の抗菌性ポリフェノールと水溶性タンパク質とからなる水不溶性複合体を含み、前記水不溶性複合体中の前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質との質量比が3:97〜90:10であるポリフェノール含有徐放性抗菌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦味・渋味の低減された水不溶性のポリフェノール含有タンパク質を含有するポリフェノール含有徐放性抗菌剤及びその製造方法並びにその抗菌力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、感染症治療には、抗生物質投与が一般的であり、優れた治療効果を挙げているが、一方、これら抗生物質の多用が薬剤に抵抗性のある多剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の出現をもたらし、多くの医療現場で重大な問題となっている。更に、最近、MRSA感染に有効なバンコマイシンに耐性を示す細菌の感染症患者や病院での検出報告が増加しており、医療分野においてMRSA対策は大きな課題である。天然物や伝統薬由来の抗菌剤が、これらの抗生物質の作用を補完する役目を果たすことが期待されている。
【0003】
食品の分野では、食品の腐敗や変敗の原因となる微生物の増殖を抑制し、保存性を高める目的で、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、安息香酸、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム等の合成保存料が食品添加物として使用されてきたが、近年、その安全性に対する消費者の懸念から敬遠される傾向にある合成保存料に代わって、ε−ポリリジンや白子タンパク抽出物(プロタミン)等の天然素材由来の抗菌剤が消費者から安全性の面で評価され使用されることが多くなり、更に安全性の高い天然素材由来の抗菌剤が求められている。
【0004】
また、最近、消費者の食生活の多様化に伴い、調理加工済みの食品の利用割合が増加しているが、これらの調理加工済み食品は水分含量が高く、微生物汚染により腐敗し易いため、その保存性向上が課題となっている。しかし、消費者は「保存料」の表示がある食品を敬遠する傾向にあり、ε−ポリリジンや白子タンパク抽出物は表示義務があるため、「保存料」の表示義務のない調理加工済み食品用の天然物素材由来の日持向上剤が求められている。
【0005】
最近、健康食品分野で注目されている植物ポリフェノールは、永年、人々にとって茶など飲用習慣に裏付けられた安全性の高い化合物である。ポリフェノールの抗菌活性は、抗生物質や合成抗菌剤に比べると活性は弱いが、安全性の高い天然物に対する消費者側の要求などの観点から、今後、抗菌剤として新たな分野への展開が期待されている。
【0006】
茶カテキンの主要成分であるエピガロカテキンガレートが、βラクタム系抗生物質(ペニシリンG、アンピシリン、メチシリン、オキサシリン、セファレキシン、セフメタゾール、セフォタキシム、イミペネムなど)との併用において、MRSAに対して相乗的な増殖阻害効果を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0007】
また、22種類の植物由来のポリフェノールについて、細菌26株に対する抗菌活性を寒天平板希釈法による最小発育阻止濃度(MIC)を測定して、ピロガロール基を持つポリフェノール(エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキンガレート(EGCG)、プニカラジン、カスタラジン、プロデルフィニジン、プロシアニジン、没食子酸、プロトカテキュ酸、ミリシトン、ルチン)が強い抗菌活性を持つこと、ポリフェノールに対して感受性が強い細菌(Clostridium perfringens、Vibrio vulnificus)、中程度の細菌(Staphylococcus aureus、Clavibacter michiganensis、Aeromonas hydrophila、Klebsiella pneumoniae、Proteus mirabilis、Proteus vulgaris、Erwinia carotovora、Pseudomonas cichorii、Pseudomonas viridiflava、Agrobacterium tumefaciens、Xanthomonas campestris)、弱い細菌(Bacillus subtilis、Bacillus cereus、Listeria monocytogenes、Citrobacter freundi、Escherichia coli、Salmonella Anatum、Salmonella Arizonae、Shigella flexneri、Shigella sonnei、Yersinia enterocolitica、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas marginalis )が存在することが報告されている(非特許文献2)。
【0008】
茶カテキン−大豆タンパク質複合体を50%アセトン、50%メタノール、或いは50%エタノールで処理して得られた抽出物(エピガロカテキンガレート(EGCG)、エピカテキンガレート(EGC)、及びカフェインを含有するもの)について、微量液体希釈法による最小発育阻止濃度を測定して、複合体抽出液中のEGCG及びEGCが2種類のグラム陽性菌(Staphylococcus aureus、Listeria monocytogenes)の発育を抑制することが報告されている(非特許文献3)。
【0009】
しかし、ポリフェノールを抗菌剤として開発する上の課題として、ポリフェノールの抗菌活性は、抗生物質や合成抗菌剤と比べると非常に弱いため、その抗菌活性が期待できる程度に濃度を高めることが必要である。しかし、濃度を高めるとポリフェノール特有の苦味・渋味が強く感じられるため、その改善が必要である。
【0010】
ポリフェノールの苦味・渋味を低減する方法として、例えば、茶系飲料に環状デキストリンを添加する方法が開示されている(例えば、特許文献1〜7)。ところが、環状デキストリンを添加する方法は、製造工程における添加時期等により、その苦味・渋味の低減効果に差が認められ、工業的な製造において均一で安定した苦味・渋味の低減効果が得られ難いという課題がある。
【0011】
他方、ポリフェノールが、タンパク質と結合して水不溶性の複合体を生成することは、古くからワイン・ビール醸造においてヘイズ(haze)として知られている現象である。ヘイズは、タンパク質のプロリンに富んだ領域とポリフェノールの疎水領域が結合して形成される水不溶性の複合体であることが報告されている(非特許文献4)。
【0012】
植物ポリフェノールのタンニンとタンパク質との沈殿形成に疎水性力及び水素結合が関与し、プロリン含量が多いタンパク質がポリフェノールと結合し易いことが報告されている(非特許文献5)。
【0013】
栗渋皮ポリフェノールの渋味に対する各種食品素材のマスキング作用について、ポリフェノールとの沈殿形成能で評価を行い、ゼラチン類、乳由来タンパク類、メチルセルロースなどが高い効果を示すことが報告されている(非特許文献6)。
【0014】
ポリフェノールとタンパク質の水不溶性複合体を製造する方法が開示されている。例えば、タンパク質溶液にポリフェノール溶液を撹拌混合しながら添加して複合体を生成させる方法(特許文献8)、大豆タンパク抽出物と茶抽出物をビーカー内にて混合した後に、pH4.5に調整して複合体を沈殿させる方法(特許文献9)、或いは緑茶ポリフェノールと脱脂粉乳を透析膜により透析した乳タンパク質を生理食塩水に懸濁させて複合体を得る方法(特許文献10)が開示されている。
【0015】
ポリフェノール類を、多価アルコール脂肪酸エステルを含有する油脂中で粒子径を3μm以下に微細化して比表面積を大きくし、油脂でコーティングされた該微細化ポリフェノール粒子を、多価アルコール脂肪酸エステル存在下で水中油滴化してポリフェノール類の渋味・苦味を低減する方法が開示されている(特許文献11)。
【0016】
カンゾウ油性抽出物やクエルセチンなどの難水溶性ポリフェノールをジェットミルなどの破砕装置を用いて微粉末化して、食品中での分散性を改善した食品用日持剤が開示されている(特許文献12)。
【0017】
レスベラトール、クルクミン、ルチン、エラグ酸、ケルセチンなどの難水溶性ポリフェノール化合物を水溶性有機溶媒、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、水溶性高分子を用いて乳化して、分散粒子の粒子径が200nm以下の分散安定性に優れた組成物を製造する方法が開示されている(特許文献13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許第3259758号公報
【特許文献2】特許第3342698号公報
【特許文献3】特許第3766660号公報
【特許文献4】特開平3−168046号公報
【特許文献5】特開2005−245351号公報
【特許文献6】特開2008−118873号公報
【特許文献7】特開2010−45994号公報
【特許文献8】特開平2−202900号公報
【特許文献9】特開2002−68991号公報
【特許文献10】特開2007−8920号公報
【特許文献11】特開2001−316259号公報
【特許文献12】特開2010−213656号公報
【特許文献13】特開2010−222293号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Tadakatsu Shimamura et.al;Mechanism of Action and Potential for Use of Tea Catechin as Anti−infective Agent.Anti−Infective Agents in Medicinal Chemistry,6,57−62(2007)
【非特許文献2】Toshitsugu Taguri et.al;Antibacterial Spectrum of Plant Polyphenols and Extracts Depending upon Hydroxyphenyl Structure.Biol.Pharm.Bull,29(11),2226−2235(2006)
【非特許文献3】Alim Patar et.al;Antibacterial Activities of Extract and Constituents in the Complex of Tea Catechins and Soybean Protein.Japanese Journal of Food Chemistry,10(3),161−164(2003)
【非特許文献4】Harry Craig et al.”PREVENTION OF PROTEIN−POLYPHENOL HAZE IN BEER USING A PROLINE−SPECIFIC PROTEASE”
【非特許文献5】Anders Bennick;Interaction of Plant Polyphenol with Salivary proteins Crit.Rev.Oral Biol.Med.13(2),184−196(2002)
【非特許文献6】樋口誠一等、県産食品素材を用いた機能性食品の開発、埼玉県産業技術総合センター研究報告、7(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、消費者の安全性に関する観点や工業的に製造可能な技術的観点において、抗菌性を有する水溶性ポリフェノールの苦味・渋味の低減に関して、上記した文献に開示されているポリフェノール含有抗菌剤は、いずれも未だ十分でなく満足できるまでには至っていないのが現状である。特に、非特許文献3記載の茶カテキンと大豆タンパク質の複合体の抗菌活性は、該複合体を50%アセトン、50%メタノール、或いは50%エタノールで抽出し、複合体から遊離してきた2種のポリフェノール(エピガロカテキンガレート(EGCG)、エピカテキンガレート(ECG))の抗菌活性を測定したものであり、複合体それ自体の抗菌活性については測定及び記載もされていない。非特許文献6記載の栗渋皮ポリフェノールとゼラチン類、乳由来タンパク類、メチルセルロースの沈殿形成物は、渋味に対するマスキング作用は確認されているが、形成された沈殿形成物の抗菌活性に関しては、測定及び記載もされていない。
【0021】
特開平2−202900号公報(特許文献8)に記載の複合体は、タンパク質溶液に茶ポリフェノール溶液を添加して複合体を沈澱させるものであり、又特開2002−68991号公報(特許文献9)に記載の調製法は、大豆タンパク等の植物タンパク抽出物とポリフェノール類を含む植物抽出物を混合後、pH4.5に調整して複合体を沈澱させるものである。これらは、いずれも原料としてタンパク質溶液とポリフェノール溶液を使用したタンパク質とポリフェノール類との反応による複合体形成であり、溶液の混合順序や混合方法等のスケールアップに向け解決すべき課題がある。更には、苦味・渋味の低減効果についても具体的な評価が記載されていないばかりでなく、複合体の抗菌活性については測定及び記載もされていない。
【0022】
特開2007−8920号公報(特許文献10)に記載の複合体を含有する生活習慣病改善剤は、固形状のポリフェノール類と乳タンパク質を生理食塩水等に分散させて複合体を形成させることにより、ポリフェノール類の効果持続性の向上を図ったものである。しかし、タンパク質は乳タンパク質に限定しているばかりでなく、苦味・渋味の低減効果に関しては具体的な評価が記載されてないばかりでなく、形成された複合体の抗菌活性に関する測定及び記載もされていない。また、ポリフェノール類と乳タンパク質との複合体調製において、それらの固体を利用できることが記載されているが、工業的スケールの製造において大きな課題となる固体を水性溶液に添加した時に形成されるランピング(ダマ形成)の防止方法/解決方法が記載されていない。
【0023】
特開2001−316259号公報(特許文献11)に記載のポリフェノール類を含有する製剤は、苦味・渋味が低減され、水系分散可能な食品用のポリフェノール類製剤を提供するものであるが、該製剤の抗菌活性については測定及び記載もされていない。また、これらの特性を発揮させるには、界面活性剤を使用するため、食品に添加した場合の表示義務が必要なことなどの課題がある。
【0024】
特開2010−213656号公報(特許文献12)に記載の食品用日持向上剤は、苦味・渋味が低減され、食品の味質への影響が少なく、食品中での分散性が良好な、難水溶性ポリフェノール微粉末を含有する日持向上剤を提供するものである。しかし、使用可能なポリフェノールは、水に不溶或いは殆ど溶解しないカンゾウ油性抽出物やクエルセチンなどの難水溶性ポリフェノールである。従って、水溶性の抗菌性ポリフェノールには適用できず、また、使用できるポリフェノールの平均粒子径は1〜15μmに限定されるなどの課題がある。
【0025】
更に、難水溶性ポリフェノール微粉末の抗菌力の測定方法は、培地を分注したCOガスセンサー入りの試験管に供試菌の菌液と試料を入れて培養して、菌の増殖により発生するCOガスが検出されるまでの時間を測定することにより行っている。そのため、難水溶性ポリフェノールの抗菌活性を定量的に測定できない課題がある。
【0026】
特開2010−222293号公報(特許文献13)に記載の分散組成物は、分散安定性に優れた難水溶性ポリフェノールを含有する分散組成物を提供するものである。しかし、使用可能なポリフェノールは、水に不溶或いは殆ど溶解しない難水溶性ポリフェノール(例えば、レスベラトール、クルクミン、ルチン、エラグ酸及びケルセチンなど)であり、水溶性の抗菌性ポリフェノールには適用できない。また、該分散組成物中の分散粒子の粒子径が200nm以下のものを製造するためには、水溶性有機溶媒、乳化剤、水溶性高分子などを使用して、マイクロミキサーを用いて分散させる工程が必要などの課題がある。更に、該分散組成物の抗菌活性については測定及び記載もされていない。
【0027】
以上のことから、工業的に製造可能で、苦味・渋味が十分に低減され、かつ、徐放性を有するポリフェノール含有抗菌剤の開発が望まれている。更に、水に不溶であるか殆ど溶解しない難水溶性ポリフェノール含有抗菌剤の抗菌活性を定量的に測定できる抗菌力測定方法の開発が望まれている。
【0028】
本発明は、このような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、苦味及び渋味が低減され、かつ、徐放性を有するポリフェノール含有徐放性抗菌剤及びその製造方法並びにその抗菌力測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、水溶性の抗菌性ポリフェノールと水溶性タンパク質とからなる水不溶性複合体を含み、前記水不溶性複合体中の前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質との質量比が3:97〜90:10である抗菌剤が、苦味・渋味が十分に低減されているとともに徐放性の微生物増殖抑制効果を持つことを見出した。また、粉末の抗菌性ポリフェノール(抗菌性ポリフェノール含有粉末)と粉末の水溶性タンパク質(タンパク質含有粉末)をそれぞれ脂質でコーティングして、前記抗菌性ポリフェノール含有粉末及びタンパク質含有粉末の表面に脂質被膜を形成させ、これらを所望の比率(質量比3:97〜90:10)で含む混合粉末を、高剪断力下で水性溶液中に逐次分散させ、前記形成した脂質被膜を破壊することによって、前記抗菌性ポリフェノールとタンパク質との水不溶性複合体を形成させる製造方法を見出した。更に、寒天培地からなる基層(基層寒天培地)上に、アッセイ用ウエル(well)が形成された検定用細菌株を含有する寒天培地を重層したプレート(評価用試験培地、基準用試験培地)を作製し、そこに所望量の前記ポリフェノール含有徐放性抗菌剤の粉末又は標準物質(EGCG、ECGなど)を分散した寒天溶液を分注して、培養後、上記ウエルから遊離して寒天培地中に拡散してくる抗菌性ポリフェノールの微生物増殖抑制活性を、増殖阻止円の直径を測定することにより求める。このような寒天拡散法を用い、前記ポリフェノール含有徐放性抗菌剤の抗菌活性評価及び力価を測定することが可能であることを見出した。
【0030】
即ち、本発明によれば、以下に示す苦味・渋味が低減され、かつ、徐放性を有するポリフェノール含有徐放性抗菌剤及びその製造方法並びにその抗菌力測定方法が提供される。
【0031】
[1]水溶性の抗菌性ポリフェノールと水溶性タンパク質とからなる水不溶性複合体を含み、前記水不溶性複合体中の前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質との質量比が3:97〜90:10であるポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【0032】
[2]前記水不溶性複合体が、粉末の前記抗菌性ポリフェノールと粉末の前記水溶性タンパク質とを含む混合粉末を、水性溶液中で逐次分散溶解させて形成されるものである前記[1]に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【0033】
[3]前記抗菌性ポリフェノールが、ピロガロール基を有する植物ポリフェノールである前記[1]又は[2]に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【0034】
[4]前記植物ポリフェノールが、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、プニカラジン、カスタラジン、プロデルフィニジン、プロシアニジン、没食子酸、プロトカテキュ酸、ミリシトン、及び、ルチンからなる群より選択される少なくとも1種である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【0035】
[5]前記抗菌性ポリフェノールが、茶ポリフェノール、ブドウ種皮ポリフェノール、及び、落花生種皮ポリフェノールからなる群より選択される少なくとも1種である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【0036】
[6]前記水溶性タンパク質が、大豆タンパク質、卵白タンパク質、小麦グルテン、ゼラチン、コラーゲン、プロタミン、牛血清アルブミン、ラクトフェリン、カゼインナトリウム、及び、ホエイプロテインからなる群より選択される少なくとも1種である前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【0037】
[7]Esherichia coli、Comamonas terrigena、Micrococcus Luteus、Bacillus subtilis、Bacillus cereus、Enterococcus facaelis、Staphylococcus aureus、及び、Mycobacterium smegmatisに対して増殖抑制活性を有する前記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【0038】
[8]粉末の抗菌性ポリフェノールと粉末の水溶性タンパク質とをそれぞれ脂質でコーティングして、粒子表面に前記脂質の被膜が形成された前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質を含む混合粉末を得る工程、及び、前記混合粉末を水性溶液中に逐次投入し、前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質に剪断力を加えて分散溶解させることにより、粒子表面の前記脂質の被膜を破壊して前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質との水不溶性複合体を形成させる工程を含むポリフェノール含有徐放性抗菌剤の製造方法。
【0039】
[9]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を含有する食品用日持向上剤。
【0040】
[10]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有する食品。
【0041】
[11]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有する医薬組成物。
【0042】
[12]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有する化粧品。
【0043】
[13]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有する飼料。
【0044】
[14] 寒天培地からなる基層上に、アッセイ用ウエルが形成された検定用細菌株を含有する寒天培地層が重層された評価用試験培地を作製するステップと、寒天培地からなる基層上に、アッセイ用ウエルが形成された検定用細菌株を含有する寒天培地層が重層された基準用試験培地を作製するステップと、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を分散させた低融点寒天溶液を、前記評価用試験培地の前記アッセイ用ウエルに配して、培養用サンプルを作製した後、増殖阻止円が確認できるまで培養し、増殖阻止円の直径を測定するステップと、標準物質を溶解させた低融点寒天溶液を、標準物質の濃度を異ならせて複数用意した後、濃度の異なる標準物質を含む前記低融点寒天溶液ごとに前記基準用試験培地の前記アッセイ用ウエルに配して、基準用サンプルを作製し、その後、増殖阻止円が確認できるまで培養して、増殖阻止円の直径を測定するステップと、前記基準用サンプルの増殖阻止円の直径と標準物質の濃度との関係から検量線を作成した後、前記検量線を用い、前記培養用サンプルの増殖阻止円の直径に基づき、標準物質に換算した前記ポリフェノール含有徐放性抗菌剤の抗菌力を算出するステップと、を有するポリフェノール含有徐放性抗菌剤の抗菌力測定方法。
【発明の効果】
【0045】
本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤は、抗菌性を有する水溶性ポリフェノールと水溶性タンパク質とから形成される水不溶性複合体を主成分とするものであり、苦味・渋味が大きく低減され、徐放性の抗菌活性を持ち(徐放性を有し)、また、工業的に製造可能であり、それを用いて食品、医薬品、化粧品、飼料等の分野における微生物増殖抑制方法として広く応用することができるという優れた効果を奏するものである。
【0046】
本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤の製造方法は、高剪断力により脂質被膜が破壊されてポリフェノールとタンパク質が溶解すると同時に水不溶性複合体を形成させることができるため、ランピング等による不均一な複合体形成が防止され、ポリフェノールとタンパク質の均一な複合体を得ることができ、又スケールアップに適した工業的に有利な製造方法であり、この製造方法によって得られるポリフェノール含有徐放性抗菌剤は、苦味・渋味が大きく低減され、食品、飲料、飼料、薬剤等の分野に広く応用することができるという優れた効果を奏するものである。
【0047】
本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤の抗菌力測定方法は、アッセイ用ウエルを用いる寒天拡散法によって抗菌力を測定方法である。そして、本測定方法は、所望量の水不溶性抗菌剤粉末を分散させた低融点寒天溶液をアッセイ用ウエルに分注し、水不溶性複合体から一部遊離して寒天培地中に拡散する抗菌性ポリフェノールの微生物増殖抑制活性を測定するものである。ここで、増殖阻止円の直径がウエル中の抗菌剤量に依存するため、微生物増殖抑制活性を有する標準物質として例えばエピガロカテキンガレート(EGCG)或いはエピカテキンガレート(EGC)を用いれば、当該水不溶性複合体を主成分とするポリフェノール含有徐放性抗菌剤の力価を、標準物質の抗菌力(力価)(例えばEGCGμg当量/mg(或いは、ECGμg当量/mg))に換算して定量することができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ポリフェノールを含有する徐放性抗菌剤の力価測定に用いた検量線である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0050】
[1]ポリフェノール含有徐放性抗菌剤:
本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤(以下、「徐放性抗菌剤」と記す場合がある)の一実施形態は、水溶性の抗菌性ポリフェノールと水溶性タンパク質(以下、単に「タンパク質」と記す場合がある)とからなる水不溶性複合体を含み、前記水不溶性複合体中の前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質との質量比が3:97〜90:10である。このような徐放性抗菌剤は、上記構成であるため、苦味及び渋味が低減され、かつ、徐放性を有するものである。
【0051】
水不溶性複合体は、粉末の抗菌性ポリフェノール(抗菌性ポリフェノール含有粉末)と粉末の水溶性タンパク質(タンパク質含有粉末)とを含む混合粉末を、水性溶液中で逐次分散溶解させて形成されるものであることが好ましい。このようにして水不溶性複合体を形成すると、苦味及び渋味が低減され、かつ、徐放性を有する抗菌剤(徐放性抗菌剤)が良好に得られる。
【0052】
なお、上記混合粉末は、あらかじめ抗菌性ポリフェノール含有粉末とタンパク質含有粉末の粒子表面に脂質による被膜を形成させたものが好ましい。
【0053】
本発明の徐放性抗菌剤が、優れた抗菌活性及び苦味・渋味の改善効果が得られる理由は必ずしも詳らかではないが、ポリフェノール中の水酸基とタンパク質を構成するアミノ酸とが、ほどよく結合して水不溶性複合体を形成し、これが苦味・渋味を大きく低減するとともに、水分が存在する環境では水不溶性複合体粉末から水溶性ポリフェノールが一部遊離して拡散することにより徐放性の抗菌活性を示すものと思われる。これに対して、単にポリフェノール含有粉末とタンパク質含有粉末とを剪断力を付与し攪拌混合してもランピング等により粉末の均一な溶解が困難であり、工業的な複合体の製造に適した方法ではない。また、ポリフェノール含有粉末とタンパク質含有粉末の表面にそれぞれ脂質被膜を形成し、これを水性溶液中で剪断力を付与することなく攪拌混合しても脂質被膜の破壊が十分でないこと、及び、形成された複合体の分散が十分でないことを確認して本発明を完成するに至っている。なお、上記した特許文献のいずれにも本発明に係る技術については、記載も示唆もされていない。
【0054】
[1−1]水溶性の抗菌性ポリフェノール:
本発明において使用される水溶性の抗菌性ポリフェノールとしては、ピロガロール基を有する植物ポリフェノールであることが好ましい。具体的には、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、プニカラジン、カスタラジン、プロデルフィニジン、プロシアニジン、没食子酸、プロトカテキュ酸、ミリシトン、ルチンなどのピロガロール基を持つ化合物を1種又は2種以上含有する抗菌性の植物ポリフェノールを挙げることができる。市販の抗菌性の植物ポリフェノールを使用することもできる。市販の抗菌性の植物ポリフェノールとしては、茶ポリフェノール(カテキン類)、ブドウ種皮ポリフェノール、落花生種皮ポリフェノールなどを挙げることができ、1種単独で又は2種以上を用いることができる。これらは入手容易であり好ましい。
【0055】
[1−2]水溶性タンパク質:
本発明において使用されるタンパク質としては、大豆タンパク質、卵白タンパク質、小麦グルテン、ゼラチン、コラーゲン、プロタミン、牛血清アルブミン、ラクトフェリン、乳カゼイン、乳カゼインナトリウム、ホエイプロテインなどのタンパク質を挙げることができる。これらは1種単独で又は2種以上を用いることができる。
【0056】
本発明の徐放性抗菌剤は、水不溶性複合体中の抗菌性ポリフェノールと水溶性タンパク質との質量比が3:97〜90:10の範囲内であれば、苦味・渋味が低減され、徐放性を有する抗菌剤を得ることができる。上記質量比は、好ましくは、20:80〜80:20の範囲である。
【0057】
[1−3]脂質:
前記抗菌性ポリフェノール含有粉末及びタンパク質含有粉末の表面に脂質被膜を形成する脂質としては、食用・医薬用等の用途で使用されている油脂、ワックス及び複合脂質の中から選択される。例えば、カルナバワックスやミツロウ等の天然ワックス又は動植物性油脂を原料にした硬化油(硬化牛脂油、硬化魚油、硬化ナタネ油、硬化大豆油、硬化パーム油、硬化ヒマシ油等)が挙げられる。好ましくは、融点が30〜90℃の脂質、更に好ましくは、融点が40〜80℃の脂質が用いられる。
【0058】
前記水性溶液としては、不純物を含有しない純水、或いは純水にクエン酸等の有機酸を添加した微酸性溶液等を挙げることができる。
【0059】
この水性溶液は、脂質被膜を形成させた抗菌性ポリフェノール含有粉末及びタンパク質含有粉末を、水性溶液中にて所望の剪断力下で混合し、前記脂質被膜を破壊し前記抗菌性ポリフェノールとタンパク質との難水溶性複合体を形成させる工程に影響を与えることがなく、かつ苦味・渋味の改善効果を阻害しないものであれば使用することができる。
【0060】
前記製造方法においては、まず、脂質の融点以上に昇温し、脂質を溶融させて抗菌性ポリフェノール含有粉末及びタンパク質含有粉末を脂質でそれぞれ均一にコーティングした後、融点以下に冷却し、それらの粉末粒子の表面に脂質被膜を形成させる。
【0061】
前記コーティングに使用する脂質の添加量は、質量基準で抗菌性ポリフェノール含有粉末及びタンパク質含有粉末に対して、3〜10質量%の範囲内であれば粉末に均一にコーティングすることができる。
【0062】
なお、脂質によるコーティングは、抗菌性ポリフェノール含有粉末及びタンパク質含有粉末を各々別途に行ってもよく、又両方の粉末を混合した後に行ってもよい。
【0063】
工業的には、両方の粉末を混合した後に行う方が効率的であるが、混合粉末の保管中に着色等の不具合がある場合には、各々別途に行うことが望ましい。
【0064】
上記した所望の剪断力を付与し混合するにあたっては、市販の剪断混合機(ハイシェアミキサー)等を使用し、剪断力を調整することにより行うことができる。
【0065】
すなわち、混合時の抗菌性ポリフェノール含有粉末及びタンパク質含有粉末の仕込み量に応じて、脂質被膜の破壊及び混合撹拌が十分可能なように、ミキサーの回転数を調整することにより所望の剪断力を得ることができる。なお、必要以上の回転数アップは泡立ちやミキサー発熱に伴う温度上昇等のトラブルの原因となり好ましくない。
【0066】
粉末の表面に脂質をコーティングした抗菌性ポリフェノール含有粉末とタンパク質含有粉末の配合割合は、形成される水不溶性複合体の抗菌力及び苦味・渋味が低減効果を満足できる範囲とすればよいが、ポリフェノールが90質量%以上を超えると苦味・渋味の低減効果が著しく低下するため好ましくない。
【0067】
水性溶液中で形成された抗菌性ポリフェノールとタンパク質の水不溶性複合体は、分離せずにそのまま或いは遠心分離機等で分離後、減圧乾燥、凍結乾燥或いは噴霧乾燥等で乾燥した後、要すれば粉砕することによりポリフェノール含有徐放性抗菌剤粉末を得ることができる。或いは乾燥することなく、コロイド状、ゾル状又はゲル状の形態で得ることもでき、使用目的に応じて任意選択すればよく、限定されるものではない。
【0068】
前記水不溶性複合体を主成分とするポリフェノール含有徐放性抗菌剤の剤形としては、例えば、粉末、錠剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤又は液剤等を挙げることができ、使用目的に応じた剤形を採用することが好ましい。本明細書において「主成分」とは、全量に対する割合が、10〜90質量%であることをいう。
【0069】
本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤は、抗菌性ポリフェノールを含有するものであり、Esherichia coli、Comamonas terrigena、Micrococcus Luteus、Bacillus subtilis、Bacillus cereus、Enterococcus facaelis、Staphylococcus aureus、及び、Mycobacterium smegmatisに対して特に増殖抑制活性を有する。従って、本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤は、食品用日持向上剤、食品、医薬品(医薬組成物)、化粧品、飼料等の用途に用いることができる。
【0070】
本発明に係るポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、食品、医薬品、化粧品、飼料等の用途に用いる際には、後述するように、抗菌性ポリフェノールの抗菌活性が有効に発揮される量で含有させることが好ましいが、高濃度としても苦味・渋味が大きく低減されていることから、微生物増殖抑制作用が期待できる程度まで添加量を上げることが可能である。
【0071】
以上説明したように、本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤は、水溶性の抗菌性ポリフェノールと水溶性タンパク質から形成される水不溶性複合体を主成分とするものであり、従来の抗菌性ポリフェノール含有組成物と比較して、濃度を高めても抗菌性ポリフェノールが本来有する苦味・渋味が大きく低減され、食品分野、医薬分野、化粧品分野、飼料分野野等に広く用いることができる。
【0072】
[2]徐放性抗菌剤の製造方法:
本発明の徐放性抗菌剤の製造方法は、粉末の抗菌性ポリフェノールと粉末の水溶性タンパク質とをそれぞれ脂質でコーティングして、粒子表面に前記脂質の被膜が形成された前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質を含む混合粉末を得る工程、及び、前記混合粉末を水性溶液中に逐次投入し、前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質に剪断力を加えて粒子表面の前記脂質の被膜を破壊し、抗菌性ポリフェノール及び水溶性タンパク質を分散溶解させることにより、前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質との水不溶性複合体を形成させる工程を含む方法である。このような方法であると、剪断力により脂質被膜が破壊されてポリフェノールとタンパク質が溶解すると同時に水不溶性複合体が形成されるため、苦味・渋味が低減され、徐放性を有する抗菌剤を良好に製造することができる。
【0073】
抗菌性ポリフェノールと水溶性タンパク質とをそれぞれ脂質でコーティング方法としては、具体的には、粉末の抗菌性ポリフェノール、粉末の水溶性タンパク質及び脂質をニーダーなどに投入し、上記各成分を混合撹拌し、その後、脂質が溶融する温度まで品温を上昇させて、上記粉末粒子表面が溶融した脂質で十分に覆われる程度まで撹拌を継続した後、室温まで冷却して脂質を固化させることにより、上記粉末粒子の表面に脂質被膜を形成する方法などを挙げることができる。混合撹拌の速度は、上記各成分が十分に混合するとともに、上記粉末粒子の表面を、溶融した脂質で被覆した後、室温まで冷却して上記粉末粒子の表面に脂質被膜を形成できる限り特に制限はない。
【0074】
抗菌性ポリフェノールと水溶性タンパク質に剪断力を加える方法は、上述した方法などを適宜採用することができ、上記剪断力としては、抗菌性ポリフェノールと水溶性タンパク質の粒子表面の脂質被膜を破壊できる限り特に制限はない。
【0075】
[3]徐放性抗菌剤の抗菌力測定方法:
本発明の徐放性抗菌剤の抗菌力測定方法は、寒天培地からなる基層上に、アッセイ用ウエルが形成された検定用細菌株を含有する寒天培地層が重層された評価用試験培地を作製するステップと、寒天培地からなる基層上に、アッセイ用ウエルが形成された検定用細菌株を含有する寒天培地層が重層された基準用試験培地を作製するステップと、本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を分散させた低融点寒天溶液を、前記評価用試験培地の前記アッセイ用ウエルに配して、培養用サンプルを作製した後、増殖阻止円が確認できるまで培養し、増殖阻止円の直径を測定するステップと、標準物質を溶解させた低融点寒天溶液を、標準物質の濃度を異ならせて複数用意した後、濃度の異なる標準物質を含む前記低融点寒天溶液ごとに前記基準用試験培地の前記アッセイ用ウエルに配して、基準用サンプルを作製し、その後、増殖阻止円が確認できるまで培養して、増殖阻止円の直径を測定するステップと、前記基準用サンプルの増殖阻止円の直径と標準物質の濃度との関係から検量線を作成した後、前記検量線を用い、前記培養用サンプルの増殖阻止円の直径に基づき、標準物質に換算した前記ポリフェノール含有徐放性抗菌剤の抗菌力を算出するステップと、を有する測定方法である。このような徐放性抗菌剤の抗菌力測定方法によれば、低融点寒天溶液を用いることにより、徐放性抗菌剤が寒天培地中に拡散するため、徐放性抗菌剤の抗菌力を良好に測定することができる。
【0076】
徐放性抗菌剤の抗菌力測定方法が、上述したような水不溶性複合体を主成分とするポリフェノール含有徐放性抗菌剤の抗菌活性を定量的に測定できる理由は以下の通りである。所望量の抗菌剤を分散させた低融点寒天溶液をアッセイ用ウエルに定量的に分注するので、水不溶性複合体から一部遊離してくる水溶性ポリフェノールが寒天培地中を拡散することにより形成される増殖阻止円の直径は、アッセイ用ウエル中の抗菌剤量に依存する。そのため、EGCG又はECGを標準物質として検量線を作成することにより、EGCG又はECGに換算した力価測定が可能になると考えられる。一方、従来の微量液体希釈法、寒天平板希釈法或いはガス発生時間測定法などの抗菌力測定方法では、微生物増殖抑制が水不溶性の抗菌剤粒子の微生物との接触によるものか、或いは水不溶性の抗菌剤粒子から徐放してきたポリフェノールによるものかを区別できない。このような課題において本発明の抗菌力測定方法を完成するに至っている。なお、上記した特許文献のいずれにも本発明に係る技術については、記載も示唆もされていない。
【0077】
基層を形成する寒天培地としては、従来公知の寒天培地を適宜使用することができる。例えば、ミューラーヒントン寒天培地などを挙げることができる。
【0078】
アッセイ用ウエルを形成する方法としては、所望の大きさの穴が形成できれば特に制限はないが、例えば、カップドロッパーを用いて基層上にペニシリンカップを配置し、その後、この基層上に検定用細菌を含有する寒天培地を注いて固まらせることで重層寒天層を形成した後、ペニシリンカップを取り除く方法を挙げることができる。
【0079】
低融点寒天は、融点が40℃以下のものであり、このような低融点寒天としては、例えば、GIBCO BRL社製の「LMPagarose」などを挙げることができる。
【0080】
標準物質としては、例えば、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートなどを挙げることができる。
【0081】
本発明の徐放性抗菌剤の抗菌活性測定方法について、以下に具体的に説明する。(1)細菌培養用寒天培地を基層としてシャーレに分注して固化後、この基層上に、カップドロッパーを用いてペニシリンカップ(内径6.0mm、外径8.00mm、高さ10.0mm)を立てる。(2)ペニシリンカップを立てた基層上に、前培養した検定用細菌株(Staphylococcus aureusなど)の菌液を添加混合した細菌培養用寒天培地を注ぎ、固化させて、上記基層上に、検定用細菌株を含有する寒天培地層を重層した後、上記ペニシリンカップを取り除く。このようにして、上記寒天培地層にアッセイ用ウエル(穴)が形成された複数の試験培地を作製する。(3)複数の試験培地を、評価用試験培地と基準用試験培地の2つの区分に分ける。その後、評価用試験培地のアッセイ用ウエルには、供試粉末(本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤)を分散させた低融点寒天溶液を入れる。そして、標準物質(EGCG、ECGなど)を溶解させた低融点寒天溶液を、標準物質の濃度を異ならせて複数用意した後、濃度の異なる標準物質を含む前記低融点寒天溶液ごとに基準用試験培地の各アッセイ用ウエルに入れる。低融点寒天の固化後、37℃で一定時間(増殖阻止円が確認できるまで)培養する。(4)基準用サンプルの増殖阻止円の直径と標準物質の濃度との関係から検量線を作成した後、前記検量線を用い、前記培養用サンプルの増殖阻止円の直径に基づき、標準物質に換算した前記ポリフェノール含有徐放性抗菌剤の抗菌力(力価)を算出する。このように、徐放性抗菌剤の抗菌力(力価)(例えば、EGCGμg当量/mg(抗菌剤))を定量的に測定することができる。
【0082】
[4]食品用日持向上剤:
本発明の食品用日持向上剤は、上述した本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を含有するものである。このような食品用日持向上剤は、上記徐放性抗菌剤を含有するため、高濃度としても苦味・渋味が大きく低減され、調理加工済み食品などに使用する日持向上剤として優れた効果を発揮する。
【0083】
[5]食品:
本発明の食品は、上述した本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有するものである。このような食品は、上記徐放性抗菌剤を含有するため、抗菌性能を有しつつ、苦味・渋味が大きく低減されている。
【0084】
[6]医薬組成物:
本発明の医薬組成物は、上述した本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有するものである。このような医薬組成物は、上記徐放性抗菌剤を含有するため、抗菌性能を有しつつ、高濃度としても苦味・渋味が大きく低減されている。摂取した際のストレスが小さい。
【0085】
[7]化粧品:
本発明の化粧品は、上述した本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有するものである。このような化粧品は、上記徐放性抗菌剤を含有するため、抗菌性能を有しつつ、苦味・渋味が大きく低減されており高濃度で使用することができる。
【0086】
[8]飼料:
本発明の飼料は、上述した本発明のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有するものである。このような飼料、上記徐放性抗菌剤を含有するため、抗菌性能を有しつつ、苦味・渋味が大きく低減されており高濃度で使用することができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「%」は、特に断りのない限り質量基準である。各種測定方法及び評価方法を以下に示す。
【0088】
[苦味・渋味の測定、評価]
ポリフェノール濃度が1%となるように徐放性抗菌剤を純水に懸濁させて、パネラー5名により官能検査(パネルテスト)を行い、以下の基準により評価する。
5点:苦味・渋味が全く感じられず、苦味・渋味の低減効果がきわめて良好
4点:苦味・渋味がやや感じられるが、舌に残らず低減効果良好
3点:苦味・渋味がやや感じられ、舌にも残るが低減効果比較的良好
1点:苦味・渋味が強く感じられ、舌にも強く残る
【0089】
[抗菌活性の測定]
(1)前培養:
表3に示す検定用細菌株(Staphylococcus aureusなど)を、ミューラーヒントンブイヨン培地(MH)8mLを分注した試験管に植え付けた後、30℃で20時間、120rpmの条件で振盪培養する。
【0090】
(2)基層寒天培地の作製:
オートクレーブ滅菌したミューラーヒントン寒天培地(寒天濃度:2%)20mLを滅菌シャーレに分注して固化させ、複数の寒天培地サンプルを得る。その後、40℃に保温した上記寒天培地サンプルのそれぞれに、カップドロッパーを用いて滅菌済みペニシリンカップ(内径6.0mm、外径8.0mm、高さ10.0mm)を5個立てる。このようにして基層寒天培地を作製する。
【0091】
(3)アッセイ用ウエル(well)の作成:
前培養した検定用細菌株の菌液を1×10cells/mLに調整し、その400μLを40℃で保温したミューラーヒントン寒天培地(寒天濃度:1.5%)4mLに添加混合し、前記基層寒天培地に重層する(最終菌濃度:1×10cells/mL)。4℃で固化後、上記ペニシリンカップを取り除く。このようにして、1枚のシャーレ辺り5個のアッセイ用well(容積50μL)が形成されたサンプル培地を作製する。
【0092】
(4)アッセイ用試料の調製:
(i)力価測定用の溶液の調製:
標準物質(EGCG)60mgを40℃に保温した1.5%LMPagarose(低融点寒天:GIBCO BRL社製)溶液3.0mLに加えて溶解させて、2%EGCG/1.5%LMPagarose溶液を作成し、次いでその1.5mLを採り、40℃に保温した1.5%LMPagarose溶液1.5mLに加える2倍希釈法により、それぞれ10mg/mL、5.0mg/mL、2.50mg/mL、1.25mg/mLのEGCG/1.5%LMPagarose溶液を作成する。
【0093】
(ii)サンプル調製:
サンプル(徐放性抗菌剤)30mgを40℃に保温した1.5%LMPagarose溶液1.5mLに加え、十分に混合分散させる。
【0094】
(5)試料分注:
上記[(3)アッセイ用wellの作成]で調製したアッセイ用シャーレを40℃に保温しながら、先切りチップを用いて、上記[(4)アッセイ用試料の調製]で調製した力価測定用EGCG標準溶液(10mg/mL、5.0mg/mL、2.50mg/mL、1.25mg/mL)及びサンプル分散溶液を50μLずつアッセイ用ウエルに入れる。次いで、4℃で固化させる。上記操作により、最終的に、検量線作成用ウエルは、500μg、250μg、125μg、62.5μgのEGCG、サンプルアッセイ用ウエルは1mgのサンプルが含まれることになる。
【0095】
(6)抗菌力測定:
上記シャーレを37℃の恒温培養器中で20時間培養後、形成される増殖阻止円の直径を測定することにより抗菌力を評価する。
【0096】
なお、サンプルの力価は、横軸にウエル当りEGCG量(μg:対数目盛り)、縦軸に阻止円直径(mm)にして作成した検量線(検量線例:図1)を用いて、サンプルの阻止円直径に対応するEGCG量を求め、EGCGμg当量/mgで表示する。
【0097】
(実施例1)
[脂質被膜茶ポリフェノール/小麦グルテン混合粉末の製造]
まず、粉末の茶ポリフェノール(太陽化学株式会社製の商品名「サンフェノン90S」;ポリフェノール90%以上)60gと粉末の小麦グルテン(株式会社新進製の商品名「ハイプロS−10」)132g、硬化ナタネ油(横関油脂工業株式会社)8gをニーダー試験機(株式会社イノアコーポレーション製)に投入して処理した。上記ニーダー試験機で上記成分を充分に攪拌混合した後、品温を75℃まで昇温させて硬化ナタネ油を溶融させた。その後、品温を75℃に維持して10分間撹拌混合を続けた後、ニーダー試験機内で撹拌混合を継続して徐々に冷却させて品温を室温まで下げた。
【0098】
このようにして、粒子表面に硬化ナタネ油の被膜が形成された茶ポリフェノール(水溶性の抗菌性ポリフェノール)及び小麦グルテン(水溶性タンパク質)の混合粉末(脂質被膜茶ポリフェノール/小麦グルテン混合粉末)約196gを製造した。
【0099】
[茶ポリフェノール含有徐放性抗菌剤の製造]
次に、高剪断ミキサー(セントラル科学貿易株式会社製の商品名「POLYTRON」)で撹拌された状態の純水500mLに、上記脂質被膜茶ポリフェノール/小麦グルテン混合粉末(茶ポリフェノール30質量%、小麦グルテン66質量%、硬化ナタネ油4質量%)100gを逐次添加して、茶ポリフェノールと小麦グルテンの水不溶性複合体を形成させ、ゲル状生成物を得た。その後、得られたゲル状生成物を水不溶性複合体と上清とに分離することなく、そのまま凍結乾燥させて乾燥物を得た。その後、乾燥物を粉砕して30%茶ポリフェノールを含有する粉末の徐放性抗菌剤(ポリフェノール含量:27%)約98gを得た。この粉末の徐放性抗菌剤の苦味・渋味の評価結果を表1に示し、Staphylococcus aureusを検定用細菌株とした時の徐放性抗菌剤の力価(EGCGμg当量/mg)を表2に示す。
【0100】
(実施例2)
[茶ポリフェノール含有徐放性抗菌剤の製造]
まず、粉末の茶ポリフェノール(太陽化学株式会社製の商品名「サンフェノン90S」;ポリフェノール90%以上)80gと粉末の小麦グルテン(株式会社新進製の商品名「ハイプロS−10」)112g、硬化ナタネ油(横関油脂工業株式会社)8gをニーダー試験機(株式会社イノアコーポレーション製)に投入して処理した。上記ニーダー試験機で上記成分を充分に攪拌混合した後、品温を75℃まで昇温させて硬化ナタネ油を溶融させた。その後、品温を75℃に維持して10分間撹拌混合を続けた後、ニーダー試験機内で撹拌混合を継続して徐々に冷却させて品温を室温まで下げた。
【0101】
このようにして、粒子表面に硬化ナタネ油の被膜が形成された茶ポリフェノール(水溶性の抗菌性ポリフェノール)及び小麦グルテン(水溶性タンパク質)の混合粉末(脂質被膜茶ポリフェノール/小麦グルテン混合粉末)約196gを製造した。
【0102】
次に、高剪断ミキサー(セントラル科学貿易株式会社製の商品名「POLYTRON」)で撹拌された状態の純水500mLに、上記脂質被膜茶ポリフェノール/小麦グルテン混合粉末(茶ポリフェノール40質量%、小麦グルテン56質量%、硬化ナタネ油4質量%)100gを逐次添加して、茶ポリフェノールと小麦グルテンの水不溶性複合体を形成させ、ゲル状生成物を得た。その後、得られたゲル状生成物を水不溶性複合体と上清とに分離することなく、そのまま凍結乾燥させて乾燥物を得た。その後、乾燥物を粉砕して40%茶ポリフェノールを含有する粉末の徐放性抗菌剤(ポリフェノール含量:36%)約97gを得た。この粉末の徐放性抗菌剤の苦味・渋味の評価結果を表1に示し、Staphylococcus aureusを検定用細菌株とした時の徐放性抗菌剤の力価(EGCGμg当量/mg)を表2に示す。
【0103】
なお、表3には、検定用細菌株として、Esherichia coli、Comamonas terrigena、Micrococcus Luteus、Bacillus subtilis、Bacillus cereus、Enterococcus facaelis、Staphylococcus aureus、Mycobacterium smegmatisを用いた時の各阻止円直径(mm)を示す。なお、阻止円直径が9mm以上である場合、微生物増殖抑制活性があると判断できる。
【0104】
(実施例3)
[茶ポリフェノール含有徐放性抗菌剤の製造]
粉末の茶ポリフェノール(太陽化学株式会社製の商品名「サンフェノン90S」;ポリフェノール90%以上)140g、カゼインナトリウム(日本新薬株式会社製の商品名「カゼインナトリウムCW」)38g、水溶性コラーゲン(株式会社イノアコーポレーション製の商品名「コラーゲン8000」)14g、及び、硬化ナタネ油(横関油脂工業株式会社)8gをニーダー試験機(株式会社イノアコーポレーション製)に投入して処理した。上記ニーダー試験機で上記成分を充分に攪拌混合した後、品温を75℃まで昇温させて硬化ナタネ油に溶融させた。その後、品温を75℃に維持して10分間撹拌混合を続けた後、ニーダー試験機内で撹拌混合を継続して徐々に冷却させて品温を室温まで下げた。
【0105】
このようにして、粒子表面に硬化ナタネ油の被膜が形成された茶ポリフェノール(水溶性の抗菌性ポリフェノール)とカゼインナトリウムと水溶性コラーゲンとの混合粉末約193gを製造した。
【0106】
高剪断ミキサー(セントラル科学貿易株式会社製の商品名「POLYTRON」)で撹拌された状態の純水500mLに、上記混合粉末(茶ポリフェノール70%、カゼインナトリウム19%、水溶性コラーゲン7%、硬化ナタネ油4%)100gを逐次添加して、茶ポリフェノール、カゼインナトリウム及び水溶性コラーゲンの水不溶性複合体を形成させ、ゲル状生成物を得た。その後、得られたゲル状生成物を水不溶性複合体と上清とに分離することなく、そのまま凍結乾燥させて乾燥物を得た。その後、乾燥物を粉砕して70%茶ポリフェノールを含有する粉末の徐放性抗菌剤(ポリフェノール含量:63%)約96gを得た。この粉末の徐放性抗菌剤の苦味・渋味の評価結果を表1に示し、Staphylococcus aureusを検定用細菌株とした時の徐放性抗菌剤の力価(EGCGμg当量/mg)を表2に示す。
【0107】
(実施例4)
[ブドウ種皮ポリフェノール含有徐放性抗菌剤の製造]
粉末のブドウ種皮ポリフェノール(株式会社常盤植物科学研究所製の商品名「ビノフェロン」:プロアントシアニジン90%以上)100g、カゼインナトリウム(日本新薬株式会社製の商品名「カゼインナトリウムCW」)78g、水溶性コラーゲン(株式会社イノアコーポレーション製の商品名「コラーゲン8000」)14g、及び、硬化ナタネ油(横関油脂工業株式会社)8gをニーダー試験機(株式会社イノアコーポレーション製)に投入して処理した。上記ニーダー試験機で上記成分を充分に攪拌混合した後、品温を75℃まで昇温させて硬化ナタネ油に溶融させた。その後、品温を75℃に維持して10分間撹拌混合を続けた後、ニーダー試験機内で撹拌混合を継続して徐々に冷却させて品温を室温まで下げた。
【0108】
このようにして、粒子表面に硬化ナタネ油の被膜が形成されたブドウ種皮ポリフェノール(水溶性の抗菌性ポリフェノール)とカゼインナトリウムと水溶性コラーゲンとの混合粉末約194gを製造した。
【0109】
高剪断ミキサー(セントラル科学貿易株式会社製の商品名「POLYTRON」)で撹拌された状態の純水500mLに、上記混合粉末(ブドウ種皮ポリフェノール50%、カゼインナトリウム39%、水溶性コラーゲン7%、硬化ナタネ油4%)100gを逐次添加して、ブドウ種皮ポリフェノール、カゼインナトリウム及び水溶性コラーゲンの水不溶性複合体を形成させ、ゲル状生成物を得た。その後、得られたゲル状生成物を水不溶性複合体と上清とに分離することなく、そのまま凍結乾燥させて乾燥物を得た。その後、乾燥物を粉砕して50%ブドウ種皮ポリフェノールを含有する粉末の徐放性抗菌剤(プロアントシアニジン含量:45%)約97gを得た。この粉末の徐放性抗菌剤の苦味・渋味の評価結果を表1に示し、Staphylococcus aureusを検定用細菌株とした時の徐放性抗菌剤の力価(EGCGμg当量/mg)を表2に示す。
【0110】
(実施例5)
[落花生種皮ポリフェノール含有徐放性抗菌剤の製造]
粉末の落花生種皮ポリフェノール(株式会社常盤植物科学研究所製の商品名「ピーナッツ種皮エキス」:プロアントシアニジン38%以上)100g、カゼインナトリウム(日本新薬株式会社製の商品名「カゼインナトリウムCW」)92g、及び、硬化ナタネ油(横関油脂工業株式会社)8gをニーダー試験機(株式会社イノアコーポレーション製)に投入して処理した。上記ニーダー試験機で上記成分を充分に攪拌混合した後、品温を75℃まで昇温させて硬化ナタネ油に溶融させた。その後、品温を75℃に維持して10分間撹拌混合を続けた後、ニーダー試験機内で撹拌混合を継続して徐々に冷却させて品温を室温まで下げた。
【0111】
このようにして、粒子表面に硬化ナタネ油の被膜が形成された落花生種皮ポリフェノール(水溶性の抗菌性ポリフェノール)及びカゼインナトリウム(水溶性タンパク質)の混合粉末約192gを製造した。
【0112】
高剪断ミキサー(セントラル科学貿易株式会社製の商品名「POLYTRON」)で撹拌された状態の純水500mLに、上記混合粉末(ピーナッツ種皮エキス50%、カゼインナナトリウム46%、硬化ナタネ油4%)100gを逐次添加して、ブドウ種皮ポリフェノールとカゼインナトリウムの水不溶性複合体を形成させ、ゲル状生成物を得た。その後、得られたゲル状生成物を水不溶性複合体と上清とに分離することなく、そのまま凍結乾燥させて乾燥物を得た。その後、乾燥物を粉砕して50%落花生ポリフェノールを含有する粉末の徐放性抗菌剤(プロアントシアニジン含量:19%)約98gを得た。この粉末の徐放性抗菌剤の苦味・渋味の評価結果を表1に示し、Staphylococcus aureusを検定用細菌株とした時の徐放性抗菌剤の力価(EGCGμg当量/mg)を表2に示す。
【0113】
(比較例1)
茶ポリフェノール(太陽化学株式会社製の商品名「サンフェノン90S」;ポリフェノール90%以上)1gを純水100mLに溶解させて調製した1%茶ポリフェノール水溶液についての苦味・渋味の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0114】
(比較例2)
小麦グルテン(株式会社新進製の商品名「ハイプロS−10」)を1ウエル当り1mgの量で用いて、Staphylococcus aureusを検定用細菌株とした時の力価(EGCGμg当量/mg)を測定した。
【0115】
【表1】

【0116】
表1には、ポリフェノールを含有する徐放性抗菌剤の苦味及び渋味の評価結果を示す。
【0117】
【表2】

【0118】
表2には、ポリフェノールを含有する徐放性抗菌剤の力価を示す。
【0119】
【表3】

【0120】
表3には、茶ポリフェノールを含有する徐放性抗菌剤(ポリフェノール含量:36%)を使用した際の、各種細菌(検定細菌株)に対する微生物増殖抑制活性の評価における阻止円直径を示す。なお、括弧内の数値は、菌数減少が確認できた直径を示す。
【0121】
表1〜表3から明らかなように、実施例1〜5の徐放性抗菌剤は、苦味及び渋味が低減され、徐放性を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の抗徐放性抗菌剤は、食品、医薬品、化粧品、飼料分野等における微生物増殖抑制剤として広く好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性の抗菌性ポリフェノールと水溶性タンパク質とからなる水不溶性複合体を含み、
前記水不溶性複合体中の前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質との質量比が3:97〜90:10であるポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【請求項2】
前記水不溶性複合体が、粉末の前記抗菌性ポリフェノールと粉末の前記水溶性タンパク質とを含む混合粉末を、水性溶液中で逐次分散溶解させて形成されるものである請求項1に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【請求項3】
前記抗菌性ポリフェノールが、ピロガロール基を有する植物ポリフェノールである請求項1又は2に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【請求項4】
前記植物ポリフェノールが、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、プニカラジン、カスタラジン、プロデルフィニジン、プロシアニジン、没食子酸、プロトカテキュ酸、ミリシトン、及び、ルチンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【請求項5】
前記抗菌性ポリフェノールが、茶ポリフェノール、ブドウ種皮ポリフェノール、及び、落花生種皮ポリフェノールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【請求項6】
前記水溶性タンパク質が、大豆タンパク質、卵白タンパク質、小麦グルテン、ゼラチン、コラーゲン、プロタミン、牛血清アルブミン、ラクトフェリン、カゼインナトリウム、及び、ホエイプロテインからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【請求項7】
Esherichia coli、Comamonas terrigena、Micrococcus Luteus、Bacillus subtilis、Bacillus cereus、Enterococcus facaelis、Staphylococcus aureus、及び、Mycobacterium smegmatisに対して増殖抑制活性を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤。
【請求項8】
粉末の抗菌性ポリフェノールと粉末の水溶性タンパク質とをそれぞれ脂質でコーティングして、粒子表面に前記脂質の被膜が形成された前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質を含む混合粉末を得る工程、及び、
前記混合粉末を水性溶液中に逐次投入し、前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質に剪断力を加えて分散溶解させることにより、粒子表面の前記脂質の被膜を破壊して前記抗菌性ポリフェノールと前記水溶性タンパク質との水不溶性複合体を形成させる工程を含むポリフェノール含有徐放性抗菌剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を含有する食品用日持向上剤。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有する食品。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有する医薬組成物。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有する化粧品。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を、前記徐放性抗菌剤の抗菌力が有効に発揮される量で含有する飼料。
【請求項14】
寒天培地からなる基層上に、アッセイ用ウエルが形成された検定用細菌株を含有する寒天培地層が重層された評価用試験培地を作製するステップと、
寒天培地からなる基層上に、アッセイ用ウエルが形成された検定用細菌株を含有する寒天培地層が重層された基準用試験培地を作製するステップと、
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリフェノール含有徐放性抗菌剤を分散させた低融点寒天溶液を、前記評価用試験培地の前記アッセイ用ウエルに配して、培養用サンプルを作製した後、増殖阻止円が確認できるまで培養し、増殖阻止円の直径を測定するステップと、
標準物質を溶解させた低融点寒天溶液を、標準物質の濃度を異ならせて複数用意した後、濃度の異なる標準物質を含む前記低融点寒天溶液ごとに前記基準用試験培地の前記アッセイ用ウエルに配して、基準用サンプルを作製し、その後、増殖阻止円が確認できるまで培養して、増殖阻止円の直径を測定するステップと、
前記基準用サンプルの増殖阻止円の直径と標準物質の濃度との関係から検量線を作成した後、前記検量線を用い、前記培養用サンプルの増殖阻止円の直径に基づき、標準物質に換算した前記ポリフェノール含有徐放性抗菌剤の抗菌力を算出するステップと、を有するポリフェノール含有徐放性抗菌剤の抗菌力測定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−115234(P2012−115234A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270301(P2010−270301)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(510236508)株式会社イノアコーポレーション (2)
【Fターム(参考)】