説明

ポリフェノール組成物の製造方法

【課題】安価で、組成物の風味への影響が少ない素材を用いて、水への溶解性に優れるポリフェノール組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】水性媒体の存在下、(A)難水溶性ポリフェノール類と(B)カテキン類、クロロゲン酸類及び難水溶性ポリフェノール類のメチル化物から選ばれる1種又は2種以上を100〜180℃で加熱処理する工程を含むポリフェノール組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水への溶解性に優れるポリフェノール組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、生理機能を有する様々な素材が提案され、これらを含有する数多くの健康食品が上市されている。なかでも、ポリフェノールは、抗酸化力を有することが知られており、抗動脈硬化、抗アレルギー、血流増強等の効果が期待されるため、健康食品の重要な成分として認識されている。
しかしながら、ポリフェノールには難水溶性のものが多く、それらを清涼飲料等の水性食品へ使用することは難しい。
【0003】
そこで、難水溶性ポリフェノールを水に可溶化させる技術が検討され、例えば、ヘスペリジン配糖体を柑橘果汁ならびに果汁飲料に添加ののち加熱し、含まれているフラボノイド化合物を溶解する方法(特許文献1);難水溶性フラボイドとβ−サイクロデキストリンを加熱処理して難水溶性フラボノイドをβ−サイクロデキストリンに包接させた後、α−グルコシルヘスペリジンを共存させる方法(特許文献2);水性媒体中に難溶性のフラボノイドと大豆サポニン及び/又はマロニルイソフラボン配糖体を共存させ、加熱処理してフラボノイドを可溶化させる方法(特許文献3)が提案されている。これらの方法において、難水溶性ポリフェノールの加熱処理は、70℃〜90℃前後で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−236856号公報
【特許文献2】特開2008−271839号公報
【特許文献3】国際公開第2005/003112号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
α−グルコシルヘスペリジン等のヘスペリジン配糖体は製造工程が複雑でコストが高いため、これを可溶化剤として使用することは経済的に好ましくない。また、マロニルイソフラボン配糖体等の可溶化剤を用いると、難水溶性ポリフェノールの溶解度を高めることはできるものの、可溶化剤の大豆に由来する独特の穀物臭が感じられるため、使用用途が限定されるといった問題が考えられる。
したがって、本発明の課題は、安価で、組成物の風味への影響が少ない素材を用いて、水への溶解性に優れるポリフェノール組成物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、難水溶性ポリフェノール類の可溶化技術について種々検討したところ、水性媒体の存在下、難水溶性ポリフェノール類とカテキン類、クロロゲン酸類又は難水溶性ポリフェノール類のメチル化物を100℃以上で加熱処理することで、飛躍的に難水溶性ポリフェノール類の溶解濃度が増加すること、また、斯かる処理を経た組成物では室温下においても難水溶性ポリフェノール類の析出が抑えられ高い溶解性が維持されることを見出した。更にカテキン類、クロロゲン酸類又は難水溶性ポリフェノール類のメチル化物による組成物の風味への影響は少ないことを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、水性媒体の存在下、(A)難水溶性ポリフェノール類と(B)カテキン類、クロロゲン酸類及び難水溶性ポリフェノール類のメチル化物から選ばれる1種又は2種以上を100〜180℃で加熱処理する工程を含むポリフェノール組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水への溶解性に優れるポリフェノール組成物を、安価に提供することができる。本発明のポリフェノール組成物は、可溶化剤による風味への影響が少ないため、様々な飲食品や医薬品に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリフェノール組成物の製造方法においては、水性媒体の存在下、(A)難水溶性ポリフェノール類と(B)カテキン類、クロロゲン酸類及び難水溶性ポリフェノール類のメチル化物から選ばれる1種又は2種以上を100〜180℃で加熱処理する工程を含む。以下、「カテキン類、クロロゲン酸類及び難水溶性ポリフェノール類のメチル化物から選ばれる1種又は2種以上」を単に成分(B)ともいう。
【0010】
本明細書において「難水溶性ポリフェノール類」とは、logP値が−1.0〜4.0のものを云う。難水溶性ポリフェノール類は、logP値が−0.5〜3.5のものが好ましい。logP値は、1−オクタノール/水間の分配係数の常用対数をとった値で、有機化合物の疎水性を示す指標である。この値が正に大きい程疎水性が高いことを表す。ポリフェノール類のlogP値は、日本工業規格 Z7260−107記載のフラスコ振盪法により測定できる。詳細は実施例に記載した。
【0011】
(A)難水溶性ポリフェノール類としては、ベンゼン環にヒドロキシル基が1個以上、更に2個以上結合したフェノール性物質が好ましく適用できる。例えば、植物由来のフラボノイド、タンニン、フェノール酸等が挙げられる。より好ましく適用できる難水溶性ポリフェノール類としては、フラボノール類、フラバノン類、フラボン類、イソフラボン類、フェノールカルボン酸類等が挙げられる。
具体的には、ルチン、ケルシトリン、イソケルシトリン、ケルセチン、ミリシトリン、ダイゼイン、ダイジン、グリシテイン、グリシチン、ゲニステイン、ゲニスチン、ミリセチン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン、ヘスペレチン、ナリンギン、クルクミン、リンゲニン、プルニン、アストラガリン、ケンフェロール、レスベラトロール、アピイン、アピゲニン、デルフィニジン、デルフィン、ナスニン、ペオニジン、ペオニン、ペツニン、ペオニジン、マルビジン、マルビン、エニン、シアニジン、ロイコシアニジン、シアニン、クリサンテミン、ケラシアニン、イデイン、メコシアニン、ペラルゴニジン、カリステフィン、カフェ酸、フェルラ酸、p−クマル酸等が挙げられる。なかでも、ルチン、ケルセチン、ヘスペリジン、ナリンギン、クルクミン、レスベラトロール、カフェ酸、フェルラ酸が好ましい。難水溶性ポリフェノール類は、1種であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0012】
本発明で用いられるカテキン類は、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート及びガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類と、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類を併せての総称である。カテキン類の含有量は、上記8種の合計量に基づいて定義される。
【0013】
カテキン類は茶抽出物を用いてもよい。茶抽出物としては、茶抽出液、その濃縮物及びそれらの精製物から選択される少なくとも1種を使用することができる。
ここで、「茶抽出液」とは、茶葉から熱水又は水溶性有機溶媒を用いて抽出された抽出液であって、濃縮や精製操作が行われていないものをいう。なお、水溶性有機溶媒として、例えば、エタノール等の低級アルコールを使用することができる。また、抽出方法としては、ニーダー抽出、攪拌抽出(バッチ抽出)、向流抽出(ドリップ抽出)、カラム抽出等の公知の方法を採用できる。
抽出に使用する茶葉は、その加工方法により、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶に大別することができる。不発酵茶としては、例えば、煎茶、番茶、玉露、碾茶、釜入り茶、茎茶、棒茶、芽茶等の緑茶が例示される。また、半発酵茶としては、例えば、鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶等の烏龍茶が例示される。更に、発酵茶としては、ダージリン、アッサム、スリランカ等の紅茶が例示される。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、カテキン類の含有量の点から、緑茶が好ましい。
【0014】
また、「茶抽出液の濃縮物」とは、不発酵茶、半発酵茶及び発酵茶から選択される茶葉から熱水又は水溶性有機溶媒により抽出された溶液の水分の一部を除去してカテキン類濃度を高めたものであり、例えば、特開昭59−219384号公報、特開平4−20589号公報、特開平5−260907号公報、特開平5−306279号公報等に記載の方法により調製することができる。その形態としては、固体、水溶液、スラリー状等の種々のものが挙げられる。茶抽出液の濃縮物として市販品を使用してもよく、例えば、三井農林(株)の「ポリフェノン」、伊藤園(株)の「テアフラン」、太陽化学(株)の「サンフェノン」等の緑茶抽出液の濃縮物がある。
茶抽出液等の精製は、溶剤やカラムを用いて精製することにより行うことができる。
【0015】
本発明で用いられるクロロゲン酸類は、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸及び5−カフェオイルキナ酸のモノカフェオイルキナ酸と、3−フェルロイルキナ酸、4−フェルロイルキナ酸及び5−フェルロイルキナ酸のモノフェルロイルキナ酸と、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸のジカフェオイルキナ酸を併せての総称である。クロロゲン酸類の含有量は上記9種の合計量に基づいて定義される。
また、クロロゲン酸類は、塩の形態でもよく、塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミンとの塩、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸との塩等が挙げられる。
【0016】
クロロゲン酸類は、これを含む植物の抽出物、その濃縮物又はそれらの精製物等を使用することができる。このような植物抽出物としては、例えば、ヒマワリ種子、リンゴ未熟果、生コーヒー豆、シモン葉、マツ科植物の球果、マツ科植物の種子殻、サトウキビ南天の葉、ゴボウ、ナスの皮、ウメの果実、フキタンポポ、ブドウ科植物等から抽出されたものが挙げられる。なかでも、クロロゲン酸類含量等の点から、生コーヒー豆抽出物が好ましい。コーヒーの木の種類としては、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種及びアラブスタ種のいずれでもよい。なお、抽出、濃縮、精製の方法・条件は特に限定されず、公知の方法及び条件を採用することができる。
また、クロロゲン酸類として市販のクロロゲン酸類含有製剤を使用してもよく、例えば、フレーバーホルダーRC(長谷川香料(株))が挙げられる。
【0017】
本発明で用いられる難水溶性ポリフェノール類のメチル化物は、前述の難水溶性ポリフェノール類をメチル化し、水に可溶化したものである。メチル化の位置、個数は特に限定されない。具体的にはメチルヘスペリジン、メチルケルセチン、メチルレスベラトロール、メチルルチン等が挙げられ、メチルヘスペリジンが好ましい。メチルヘスペリジンには、主に、カルコン型化合物(1)及びフラバノン型化合物(2)が含まれることが知られており、その構成成分として、例えば以下に示す構造のものが挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
【0020】
ここで、医薬品添加物および食品添加物としてのメチルヘスペリジンは、主に、化合物(3)及び(4)の混合物として取り扱われている。
【0021】
【化2】

【0022】
(式中、Glは、グルコース残基、Rhは、ラムノース残基を表す。また、Gl−2は、グルコース残基の2位((3−1)の場合、3位も含む)、Rh−2は、ラムノース残基の2位を表す。)
【0023】
また、化粧品原料としてのヘスペリジンメチルカルコンは、(5)で示される化合物として取り扱われている。なお、カルコン型化合物を多く含む組成の場合、ヘスペリジンメチルカルコンとも呼ばれる。
【0024】
【化3】

【0025】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
【0026】
本発明において用いられるメチルヘスペリジンは、上記で示したカルコン型化合物(1)とフラバノン型化合物(2)の両方を含むものでもよいし、また、それぞれの片方のみを含むものでもよい。
本発明において、より好適なメチルヘスペリジンとしては、化合物(3)と化合物(4)の混合物が挙げられる。
【0027】
メチルヘスペリジンは、公知の方法、例えば、ヘスペリジンを水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、そのアルカリ溶液に対応量のジメチル硫酸を作用させ、反応液を硫酸で中和し、n−ブチルアルコールで抽出し、溶媒を留去したのち、イソプロピルアルコールで再結晶することにより製造できるが(崎浴、日本化學雑誌、79、733−6(1958))、その製造法はこれに限るものではない。
【0028】
メチルヘスペリジンとして市販のメチルヘスペリジン含有製剤を使用してもよく、例えば、「メチルヘスペリジン」(東京化成工業(株))、「ヘスペリジンメチルカルコン」(Sigma社)、「メチルヘスペリジン」(浜理薬品工業(株))が挙げられる。
本発明においては、成分(B)としてカテキン類、クロロゲン酸類又はメチルヘスペリジンを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
本発明で用いる水性媒体とは、水、及び有機溶媒の水溶液をいう。水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、精製水が例示される。有機溶媒としては、水と均一に混合するものであれば特に限定されない。有機溶媒としては炭素数4以下のアルコールが好ましく、メタノール及びエタノールがより好ましく、食品に適用可能であるという観点よりエタノールが更に好ましい。水溶液中の有機溶媒の濃度は、0.1〜80質量%(以下、単に「%」とする)が好ましく、1〜70%がより好ましく、5〜60%が更に好ましい。
【0030】
(A)難水溶性ポリフェノール類は水への溶解度が低いため、水性媒体へ分散させ、スラリーの状態で存在させるのが好ましい。水性媒体中の(A)難水溶性ポリフェノール類の含有量は、難水溶性ポリフェノール類の種類によって異なるが、通常、流動性の点から、0.1〜100g/Lが好ましく、0.5〜50g/Lがより好ましく、0.7〜20g/Lが更に好ましく、0.72〜10g/Lが更に好ましい。
【0031】
一方、本発明の成分(B)は水性媒体に溶解して用いるのが好ましい。水性媒体中の成分(B)の含有量は、流動性の点から、0.1〜200g/Lが好ましく、0.5〜100g/Lがより好ましく、1〜50g/Lが更に好ましく、4.28〜4.31g/Lが更に好ましい。
【0032】
水性媒体中、成分(B)に対する(A)難水溶性ポリフェノール類の質量比((A)/(B))は、加熱処理、冷却後に得られるポリフェノール組成物の溶解性の点から、0.005〜10が好ましく、0.01〜10がより好ましく、0.02〜3が更に好ましく、0.168〜2.33が更に好ましい。
【0033】
水性媒体の存在下、(A)難水溶性ポリフェノール類と成分(B)を加熱処理する方法は、特に制限されず、公知の方法を適用できる。
加熱処理の温度は、難水溶性ポリフェノール類の溶解性向上と熱安定性の点から、100〜180℃であるが、110〜170℃がより好ましく、120〜160℃が更に好ましく、120〜150℃が更に好ましい。加熱の手段は、例えば、水蒸気、電気が挙げられる。
【0034】
加熱処理時の圧力は、ゲージ圧力で0〜10MPaが好ましく、0.1〜8MPaがより好ましく、0.1〜6MPaが更に好ましく、0.2〜6MPaが更に好ましく、0.2〜4MPaが更に好ましく、0.25〜2MPaが更に好ましく、0.3〜1.5MPaが更に好ましく、0.3〜0.6MPaが更に好ましい。また、水の飽和蒸気圧以上に設定するのが好ましい。加圧には、ガスを用いてもよく、用いられるガスとしては、例えば、不活性ガス、水蒸気、窒素ガス、ヘリウムガス等が挙げられる。加圧には、ガスを用いず、背圧弁により調整しても良い。
【0035】
加熱処理は、例えば、回分法、半回分法、流通式反応方法等いずれの方法によっても実施できる。なかでも、流通式反応方法は、反応時間の制御が容易である点で好ましい。
【0036】
加熱処理の時間は、難水溶性ポリフェノール類の溶解性向上と熱安定性の点から、水性媒体が設定温度に達してから0.1〜30分が好ましく、更に0.2〜15分、更に0.5〜8分が好ましい。
流通式反応方式で行う場合、加熱処理の時間は、反応器の高温高圧部の体積を水性媒体の供給速度で割ることにより算出される平均滞留時間を用いる。
【0037】
流通式反応方式で行う場合の水性媒体の流速は、反応器の体積によって異なるが、例えば、反応器体積が100mLの場合、3.3〜200mL/分が好ましく、更に6.7〜150mL/分が好ましい。
【0038】
加熱処理後、加熱処理して得られた反応液を90℃以下、好ましくは50℃以下、更に好ましくは30℃以下に冷却する工程を行うのが好ましい。液状のポリフェノール組成物を得る場合には、0℃以上が好ましく、10℃以上が好ましい。冷却時に、反応液を0.5〜5日間、好ましくは1〜3日間混合攪拌してもよい。また、固体状ポリフェノール組成物を得る場合には、反応液を凍結乾燥に供しても良い。
【0039】
更に、反応液から固体部を除去する工程を行うのが、得られるポリフェノール組成物の溶解性を高める点から好ましい。固体部を除去する方法としては、特に制限されず、例えば遠心分離やデカンテーション、ろ過により行うことができる。
【0040】
かくして得られるポリフェノール組成物は、難水溶性ポリフェノール類の含有量が高いにもかかわらず、室温下においても難水溶性ポリフェノール類の析出が抑えられ、水への溶解性に優れている。また、カテキン類、クロロゲン酸類又は難水溶性ポリフェノール類のメチル化物による組成物の風味への影響も少ない。したがって、本発明のポリフェノール組成物は、様々な飲食品や医薬品等に使用可能である。例えば、飲食品としては、飲料、パン類、麺類、クッキー等の菓子類、スナック類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、粉末コーヒー等のインスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、調味料、栄養補助食品等の液状、固形状又は半固形状の飲食品が挙げられる。また医薬品としては、錠剤(チュアブル錠等)、カプセル剤、粉末剤等の剤型が挙げられる。とりわけ、容器詰飲料に利用するのが有用である。容器詰飲料としては、緑茶等の茶系飲料や、スポーツ飲料、アイソトニック飲料、ニアウォーター等の非茶系飲料が挙げられる。
なお、(A)難水溶性ポリフェノール類と成分(B)を100℃以上で加熱処理することにより難水溶性ポリフェノール類の溶解性を向上できる理由は明らかではないが、UVスペクトル解析より、以下のように推測される。難水溶性ポリフェノール類、カテキン類、クロロゲン酸類及び難水溶性ポリフェノール類のメチル化物は、溶解度の差はあるもののそれぞれの分子が自己会合し、疎水部を積層させて、親水部を外にむけた構造を取ることにより水に溶解していると考えられる。ここで、両成分が水性媒体中に共存し、100℃以上の熱が加えられると、積層構造が崩れてバラバラになり、且つ難水溶性ポリフェノール類と成分(B)との間で相互作用が生じ、難水溶性ポリフェノール類と成分(B)が混在する新たな積層構造が作られ、冷却後もこの積層構造が維持されることで難水溶性ポリフェノール類の溶解性が飛躍的に向上すると考えられる。
【0041】
ポリフェノール組成物における(A)難水溶性ポリフェノール類の含有量は、難水溶性ポリフェノール類の種類によって相違するが、0.1〜70%が好ましく、更に0.2〜50%が好ましい。
【0042】
本発明のポリフェノール組成物の形態は、水溶液の状態でもよく、水分量を調整してペースト状としたものでもよい。また、水分を除去して粉末状、顆粒状、固形状等の固体物の状態とすることもできる。水分を調整、除去する手段としては、凍結乾燥、蒸発乾固、噴霧乾燥等が挙げられる。
なかでも、加熱処理して得られた反応液を凍結乾燥又は噴霧乾燥に供して、ポリフェノール組成物を結晶性を持たない固体物の状態とするのが、ポリフェノール組成物の水への溶解性が一層高まり、(A)難水溶性ポリフェノール類の初期溶解度が向上する点から好ましい。加熱処理して得られた反応液は、凍結乾燥又は噴霧乾燥前に反応液を90℃以下、好ましくは50℃以下、更に好ましくは30℃以下に冷却する工程を行うのが、ポリフェノールの熱劣化防止の点から好ましい。
【0043】
凍結乾燥又は噴霧乾燥の方法は、特に制限されず、公知の方法を適用できる。
例えば、噴霧乾燥の場合、処理液をノズルからスプレーし、100〜220℃、好ましくは130〜190℃の熱風中を落下させることにより、乾燥することができる。
また、凍結乾燥の場合、処理液を液体窒素やクールバス、冷凍庫等で凍結し、粉砕し、篩別したのち真空で水分を昇華させて、乾燥することができる。処理液の凍結温度は−70〜0℃が好ましい。乾燥中の絶対圧力は0.1〜1000Paが好ましく、0.5〜100Paがより好ましく、1〜10Paが更に好ましい。
噴霧乾燥又は凍結乾燥後、必要に応じて、分級、造粒、粉砕等を行ってもよい。
加熱処理後から凍結乾燥又は噴霧乾燥の開始までの時間、すなわち、加熱処理して得られた反応液が100℃未満に下がった時点から凍結乾燥又は噴霧乾燥の開始までの時間は、ポリフェノール収率の点から、0.1〜600分が好ましく、更に0.1〜200分が好ましい。
【実施例】
【0044】
[難水溶性ポリフェノール類及びメチルヘスペリジンの測定]
難水溶性ポリフェノール類及びメチルヘスペリジンの測定は、日立製作所製高速液体クロマトグラフを用い、インタクト社製カラムCadenza CD−C18 (4.6mmφ×150mm、3μm)を装着し、カラム温度40℃でグラジエント法により行った。移動相A液は0.05mol/L酢酸水溶液、B液はアセトニトリルとし、1.0mL/分で送液した。グラジエント条件は以下のとおりである。
時間(分) A液(%) B液(%)
0 85 15
20 80 20
35 10 90
50 10 90
40.1 85 15
60 85 15
試料注入量は10μL、検出はルチンとメチルヘスペリジンは波長360nm、フェルラ酸とカフェ酸は波長320nm、クルクミンは波長425nm、その他の難水溶性ポリフェノール類は波長283nmの吸光度により定量した。
【0045】
[難水溶性ポリフェノール類のlogP値の測定]
日本工業規格 Z7260−107記載のフラスコ振盪法に従って測定した。まず1−オクタノールと蒸留水を25℃で24時間振とうして平衡化させた。次いで蓋付きガラス瓶にポリフェノール10mgを量りとり、平衡化させた1−オクタノールと蒸留水をそれぞれ4mLずつ加え、25℃で4日間振とうした。遠心分離により1−オクタノール相と水相を分け、上記[難水溶性ポリフェノールの測定]と同様にしてHPLCにより各相のポリフェノール類の濃度を測定した。2相間の分配係数の常用対数を取った値をlogP値とした。
【0046】
[カテキン類の測定]
試料を蒸留水で適宜希釈し、液体クロマトグラフ用パックドカラム L−カラムTM ODS(4.6mmφ×250mm:財団法人 化学物質評価研究機構製)を装着した、島津製作所製、高速液体クロマトグラフ(型式SCL−10AVP)を用いて、カラム温度35℃でグラジエント法により測定した。移動相A液は酢酸を0.1mol/L含有の蒸留水溶液、B液は酢酸を0.1mol/L含有のアセトニトリル溶液とし、試料注入量は20μL、UV検出器波長は280nmの条件で行った。
【0047】
(濃度勾配条件)
時間(分) A液(%(v/v)) B液(%(v/v))
0 97 3
5 97 3
37 80 20
43 80 20
43.5 0 100
48.5 0 100
49 97 3
62 97 3
【0048】
[クロロゲン酸類の測定]
(分析機器)
HPLC(日立製作所(株)製)を使用した。装置の構成ユニットの型番は次の通り。
送液ユニット(デガッサ内蔵):L−2130、
オートサンプラ(クーラー付):L−2200、
カラムオーブン:L−2300、
分離カラム:Cadenza CD−C18、Size:4.6 mm i.d.×150 mm、3 μm(インタクト(株))
検出器(紫外可視吸光光度計):L−2420:
【0049】
(分析条件)
サンプル注入量:10μL、
流量:1.0mL/min、
紫外線吸光光度計検出波長:325nm(クロロゲン酸類)、
溶離液A:0.05mol/L酢酸、0.01mol/L酢酸ナトリウム、及び0.1mmol/L HEDPOを含有する5%アセトニトリル、
溶離液B:アセトニトリル
【0050】
(濃度勾配条件)
時間(分) A液(%(v/v)) B液(%(v/v))
0 100 0
10 100 0
15 95 5
20 95 5
22 92 8
50 92 8
52 10 90
60 10 90
60.1 100 0
70 100 0
【0051】
実施例1
ヘスペリジン製剤(ヘスペリジン「ハマリ」(商品名)、浜理薬品工業(株)製、ヘスペリジン含有量90%、以下同じ)とエピガロカテキンガレート(EGCG)製剤(DMS Nutritional Products社製TEAVIGO、EGCG含有量100%、以下同じ)を蒸留水にそれぞれ10g/Lで分散、4.29g/Lで溶解し、スラリー供給タンク内で均一攪拌した。内容積100mLのステンレス製流通式反応器(日東高圧(株)製)に、スラリー供給タンク内の液を100mL/分で供給し、120℃で反応を行った(平均滞留時間1分)。圧力は出口バルブにより0.3MPa(ゲージ圧力)に調整した。反応器出口から反応液を抜き出し、室温(25℃)まで冷却して回収した。回収した液は室温で3日間、振とう攪拌後、固体部を濾別し、ヘスペリジン含有水溶液としてヘスペリジン組成物を得た。反応条件と組成物中のヘスペリジン及びEGCG濃度を測定した結果を表1に示した。
【0052】
実施例2
反応温度110℃とした以外は実施例1と同様にしてヘスペリジン含有水溶液としてヘスペリジン組成物を得た。反応条件と組成物中のヘスペリジン及びEGCG濃度を測定した結果を表1に示した。
【0053】
比較例1及び2
反応温度を90℃又は70℃、ゲージ圧力を0MPaとした以外は実施例1と同様にしてヘスペリジン含有水溶液としてヘスペリジン組成物を得た。反応条件と組成物中のヘスペリジン及びEGCG濃度を測定した結果を表1に示した。
【0054】
実施例3
EGCG製剤に代えて、クロロゲン酸類としてコーヒー豆抽出物の精製物(クロロゲン酸類含有量40%、以下同じ)を10.7g/Lで用いた以外は実施例1と同様にしてヘスペリジン含有水溶液としてヘスペリジン組成物を得た。反応条件と組成物中のヘスペリジン及びクロロゲン酸類濃度を測定した結果を表1に示した。
【0055】
比較例3
反応温度70℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例3と同様にしてヘスペリジン含有水溶液としてヘスペリジン組成物を得た。反応条件と組成物中のヘスペリジン及びクロロゲン酸類濃度を測定した結果を表1に示した。
【0056】
実施例4
EGCG製剤に代えて、メチルヘスペリジン製剤(浜理薬品工業(株)製、メチルヘスペリジン含有量100%、以下同じ)を用いた以外は実施例1と同様にしてヘスペリジン含有水溶液としてヘスペリジン組成物を得た。反応条件と組成物中のヘスペリジン及びメチルヘスペリジン濃度を測定した結果を表1に示した。
【0057】
実施例5
反応温度150℃、ゲージ圧力0.6MPaとした以外は実施例4と同様にしてヘスペリジン含有水溶液としてヘスペリジン組成物を得た。反応条件と組成物中のヘスペリジン及びメチルヘスペリジン濃度を測定した結果を表1に示した。
【0058】
比較例4及び5
反応温度を90℃又は25℃、ゲージ圧力を0MPaとした以外は実施例4と同様にしてヘスペリジン含有水溶液としてヘスペリジン組成物を得た。反応条件と組成物中のヘスペリジン及びメチルヘスペリジン濃度を測定した結果を表1に示した。
【0059】
比較例6
EGCG製剤を添加せず、反応温度25℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例1と同様にしてヘスペリジン含有水溶液としてヘスペリジン組成物を得た。反応条件と組成物中のヘスペリジン濃度を測定した結果を表1に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例6
難水溶性ポリフェノール類としてケルセチン製剤(ACROS ORGANICS社製、ケルセチン含有量95%)を用い、反応温度150℃、ゲージ圧力0.6MPaとした以外は実施例1と同様にしてケルセチン含有水溶液としてケルセチン組成物を得た。反応条件と組成物中のケルセチン及びEGCG濃度を測定した結果を表2に示した。
【0062】
比較例7
反応温度70℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例6と同様にしてケルセチン含有水溶液としてケルセチン組成物を得た。反応条件と組成物中のケルセチン及びEGCG濃度を測定した結果を表2に示した。
【0063】
比較例8
EGCG製剤を添加せず、反応温度25℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例6と同様にしてケルセチン含有水溶液としてケルセチン組成物を得た。反応条件と組成物中のケルセチン濃度を測定した結果を表2に示した。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例7
難水溶性ポリフェノール類としてレスベラトロール製剤(和光純薬工業(株)製、生化学用)を0.72g/L用いた以外は実施例1と同様にしてレスベラトロール含有水溶液としてレスベラトロール組成物を得た。反応条件と組成物中のレスベラトロール及びEGCG濃度を測定した結果を表3に示した。
【0066】
比較例9
反応温度70℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例7と同様にしてレスベラトロール含有水溶液としてレスベラトロール組成物を得た。反応条件と組成物中のレスベラトロール及びEGCG濃度を測定した結果を表3に示した。
【0067】
比較例10
EGCG製剤を添加せず、反応温度25℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例7と同様にして、レスベラトロール含有水溶液としてレスベラトロール組成物を得た。反応条件と組成物中のレスベラトロール濃度を測定した結果を表3に示した。
【0068】
【表3】

【0069】
実施例8
難水溶性ポリフェノール類としてナリンギン製剤(ACROS ORGANICS社製、ナリンギン含有量97%、以下同じ)を用い、反応温度150℃、ゲージ圧力0.6MPaとした以外は実施例1と同様にしてナリンギン含有水溶液としてナリンギン成物を得た。反応条件と組成物中のナリンギン及びEGCG濃度を測定した結果を表4に示した。
【0070】
実施例9
反応温度110℃、ゲージ圧力0.3MPaとした以外は実施例8と同様にしてナリンギン含有水溶液としてナリンギン成物を得た。反応条件と組成物中のナリンギン及びEGCG濃度を測定した結果を表4に示した。
【0071】
比較例11及び12
反応温度を90℃又は70℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例8と同様にしてナリンギン含有水溶液としてナリンギン成物を得た。反応条件と組成物中のナリンギン及びEGCG濃度を測定した結果を表4に示した。
【0072】
実施例10
ナリンギン製剤とメチルヘスペリジン製剤を蒸留水にそれぞれ5g/Lで分散、4.29g/Lで溶解した以外は実施例1と同様にしてナリンギン含有水溶液としてナリンギン成物を得た。反応条件と組成物中のナリンギン及びメチルヘスペリジン濃度を測定した結果を表4に示した。
【0073】
比較例13
反応温度25℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例10と同様にしてナリンギン含有水溶液としてナリンギン成物を得た。反応条件と組成物中のナリンギン及びメチルヘスペリジン濃度を測定した結果を表4に示した。
【0074】
比較例14
EGCG製剤を添加せず、反応温度25℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例8と同様にしてナリンギン含有水溶液としてナリンギン組成物を得た。反応条件と組成物中のナリンギン濃度を測定した結果を表4に示した。
【0075】
【表4】

【0076】
実施例11
難水溶性ポリフェノール類としてクルクミン製剤(和光純薬工業(株)製、試薬特級)を10g/L用い、反応温度150℃、ゲージ圧力0.6MPaとした以外は実施例1と同様にしてクルクミン含有水溶液としてクルクミン組成物を得た。反応条件と組成物中のクルクミン及びEGCG濃度を測定した結果を表5に示した。
【0077】
比較例15
反応温度70℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例11と同様にしてクルクミン含有水溶液としてクルクミン組成物を得た。反応条件と組成物中のクルクミン及びEGCG濃度を測定した結果を表5に示した。
【0078】
比較例16
EGCG製剤を添加せず、反応温度25℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例11と同様にしてクルクミン含有水溶液としてクルクミン組成物を得た。反応条件と組成物中のクルクミン濃度を測定した結果を表5に示した。
【0079】
【表5】

【0080】
実施例12
難水溶性ポリフェノール類としてルチン製剤((株)常盤植物化学研究所製、ルチン含有量100%、以下、同じ)を2g/L用い、カテキン類として緑茶抽出物の精製物(カテキン類含有量15%を含む水溶液、ガレート体率30%)を28.6g/Lで用いた以外は実施例1と同様にしてルチン含有水溶液としてルチン組成物を得た。反応条件と組成物中のルチン及びカテキン類濃度を測定した結果を表6に示した。
【0081】
比較例17
反応温度70℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例12と同様にしてルチン含有水溶液としてルチン組成物を得た。反応条件と組成物中のルチン及びカテキン類濃度を測定した結果を表6に示した。
【0082】
実施例13
クロロゲン酸類としてコーヒー豆抽出物の精製物(クロロゲン酸類含有量40%)を10.7/Lで用いた以外は実施例12と同様にしてルチン含有水溶液としてルチン組成物を得た。反応条件と組成物中のルチン及びクロロゲン酸類濃度を測定した結果を表6に示した。
【0083】
比較例18
反応温度70℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例13と同様にしてルチン含有水溶液としてルチン組成物を得た。反応条件と組成物中のルチン及びクロロゲン酸類濃度を測定した結果を表6に示した。
【0084】
実施例14
カテキン類として緑茶抽出物の精製物(カテキン類含有量15%を含む水溶液、ガレート体率30%)14.3g/L、及びクロロゲン酸類としてコーヒー豆抽出物の精製物(クロロゲン酸類含有量40%)5.4g/Lを用いた以外は実施例12と同様にしてルチン含有水溶液としてルチン組成物を得た。反応条件と組成物中のルチン、カテキン類及びクロロゲン酸類濃度を測定した結果を表6に示した。
【0085】
比較例19
反応温度70℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例14と同様にしてルチン含有水溶液としてルチン組成物を得た。反応条件と組成物中のルチン、カテキン類及びクロロゲン酸類濃度を測定した結果を表6に示した。
【0086】
実施例15
緑茶抽出物の精製物に代えて、メチルヘスペリジン製剤を4.29g/Lで用いた以外は実施例12と同様にしてヘスペリジン含有水溶液としてヘスペリジン組成物を得た。反応条件と組成物中のヘスペリジン及びメチルヘスペリジン濃度を測定した結果を表6に示した。
【0087】
比較例20
反応温度25℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例15と同様にしてルチン含有水溶液としてルチン組成物を得た。反応条件と組成物中のルチン、カテキン類及びメチルヘスペリジン濃度を測定した結果を表6に示した。
【0088】
比較例21
カテキン類を添加しなかった以外は実施例12と同様にしてルチン含有水溶液としてルチン組成物を得た。反応条件と組成物中のルチン濃度を測定した結果を表6に示した。
【0089】
比較例22
カテキン類を添加せず、反応温度25℃、ゲージ圧力0MPaとした以外は実施例12と同様にしてルチン含有水溶液としてルチン組成物を得た。反応条件と組成物中のルチン濃度を測定した結果を表6に示した。
【0090】
【表6】

【0091】
実施例16
難水溶性ポリフェノール類としてフェルラ酸製剤(東京化成工業(株)製、フェルラ酸含有量100%、以下同じ)を6g/Lで用い、EGCG製剤に代えて、クロロゲン酸類としてコーヒー豆抽出物の精製物を10.7g/Lで用いた以外は実施例1と同様にしてフェルラ酸含有水溶液としてフェルラ酸組成物を得た。反応条件と組成物中のフェルラ酸及びクロロゲン酸濃度を測定した結果を表7に示した。
【0092】
比較例23及び24
反応温度を70℃又は25℃、ゲージ圧力を0MPaとした以外は実施例16と同様にしてフェルラ酸含有水溶液としてフェルラ酸組成物を得た。反応条件と組成物中のフェルラ酸及びクロロゲン酸濃度を測定した結果を表7に示した。
【0093】
【表7】

【0094】
実施例17
難水溶性ポリフェノール類としてカフェ酸製剤(東京化成工業(株)製、カフェ酸含有量100%)を6g/L用い、EGCG製剤に代えて、クロロゲン酸類としてコーヒー豆抽出物の精製物を10.7g/Lで用いた以外は実施例1と同様にしてカフェ酸含有水溶液としてカフェ酸組成物を得た。反応条件と組成物中のカフェ酸及びクロロゲン酸濃度を測定した結果を表8に示した。
【0095】
比較例25及び26
反応温度を80℃又は25℃、ゲージ圧力を0MPaとした以外は実施例17と同様にしてカフェ酸含有水溶液としてカフェ酸組成物を得た。反応条件と組成物中のカフェ酸及びクロロゲン酸濃度を測定した結果を表8に示した。
【0096】
【表8】

【0097】
表1−8から明らかなように、難水溶性ポリフェノール類の含有率が高いポリフェノール組成物を得ることができ、難水溶性ポリフェノール類の溶解度を顕著に増大させることができた。
また、いずれの組成物も、穀物臭等の異臭がなく、カテキン類、クロロゲン酸類を用いたものは、それらによる適度な苦みをもっており、様々な飲食品や医薬品、特に機能性飲料としてふさわしい風味であった。
【0098】
実施例18
フェルラ酸製剤とEGCG製剤を蒸留水にそれぞれ6g/Lで分散、4g/Lで溶解し、スラリー供給タンク内で均一攪拌した。内容積100mLのステンレス製流通式反応器(日東高圧(株)製)に、スラリー供給タンク内の液を100mL/分で供給し、120℃で反応を行った(平均滞留時間1分)。圧力は出口バルブにより0.3MPa(ゲージ圧力)に調整した。反応器出口から反応液を抜き出し、室温(25℃)まで冷却して回収した。このとき回収した反応液中のフェルラ酸とEGCGは全て溶解した状態であった。
回収した反応液を−50℃のクールバスで予備凍結した後、加熱処理終了時点から5分後に凍結乾燥機(CHRIST社製ALPHA1−4LSC)により減圧乾燥した。このときの絶対圧力は1Paであった。72時間後に粉末状のフェルラ酸組成物を得た。反応条件及び乾燥条件を表9に示す。
【0099】
比較例27
実施例18で用いたフェルラ酸製剤6g/LとEGCG製剤4g/Lを室温(25℃)で薬匙を用いて2分間物理的に混合してフェルラ酸組成物とした。
【0100】
実施例19
フェルラ酸製剤を4.29g/L、EGCG製剤に代えて、クロロゲン酸類としてコーヒー豆抽出物の精製物を10.7g/Lで用いた以外は実施例18と同様にして反応液を回収した。回収した反応液中のフェルラ酸とクロロゲン酸は全て溶解した状態であった。
次いで、実施例18と同様にして凍結乾燥を行い、粉末状のフェルラ酸組成物を得た。反応条件及び乾燥条件を表9に示す。
【0101】
比較例28
実施例18で用いたフェルラ酸製剤4.29g/Lとコーヒー豆抽出物の精製物10.7g/Lを室温(25℃)で薬匙を用いて2分間物理的に混合してフェルラ酸組成物とした。
【0102】
上記実施例18と19及び比較例27と28で得られたフェルラ酸組成物の溶解性と風味を評価した。結果を表9に示す。
〔溶解性の評価〕
フェルラ酸組成物 0.525gに蒸留水(25℃)5mLを加え、20mLのガラス製サンプル瓶に入れてロータリーシェーカー(アズワン製、150r/min)で25℃で5分間振盪し、孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過してフェルラ酸濃度を測定した。
〔風味の評価〕
3名のパネルにより、フェルラ酸組成物 0.1gを舌の上に乗せ、次いで蒸留水20mLとともに飲み込み、以下に示す判定基準に従って風味の評価を行い、その平均値をもって評点とした。
3:口腔内にざらつきがなく、苦味が後に残らない
2:口腔内にざらつきはないが、苦味が強く残る
1:口腔内にざらつきがあり、苦味が強く残る
【0103】
【表9】

【0104】
表9から明らかなように、本発明方法によれば、水への溶解性に極めて優れたフェルラ酸組成物を得ることができた。また、得られたフェルラ酸組成物は風味に優れ、経口摂取し易いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体の存在下、(A)難水溶性ポリフェノール類と(B)カテキン類、クロロゲン酸類及び難水溶性ポリフェノール類のメチル化物から選ばれる1種又は2種以上を100〜180℃で加熱処理する工程を含むポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項2】
(A)難水溶性ポリフェノール類のlogP値が−1.0〜4.0である、請求項1記載のポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項3】
(A)難水溶性ポリフェノール類が、ヘスペリジン、ケルセチン、レスベラトロール、ナリンギン、クルクミン、ルチン、カフェ酸及びフェルラ酸から選択される1種又は2種以上である請求項1又は2記載のポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項4】
加熱処理する工程において、(B)カテキン類、クロロゲン酸類及び難水溶性ポリフェノール類のメチル化物から選ばれる1種又は2種以上に対する(A)難水溶性ポリフェノール類の質量比(A)/(B)が0.005〜10である、請求項1〜3のいずれか1項記載のポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項5】
難水溶性ポリフェノール類のメチル化物がメチルヘスペリジンである、請求項1〜4のいずれか1項記載のポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項6】
更に、加熱処理して得られた反応液を冷却する工程、及び冷却された反応液から固体部を除去する工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載のポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項7】
更に、加熱処理して得られた反応液を凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程を含む、請求項1〜6のいずれか1項記載のポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の製造方法により得られる、ポリフェノール組成物。

【公開番号】特開2013−13392(P2013−13392A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218899(P2011−218899)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】