ポリフェノール誘導体及びそれの産生方法
【課題】生理活性作用を示す新たな物質を茶葉から産生する。
【解決手段】茶葉でアスペルギルス属sp. (PK-1)菌を培養することによって得られる微生物発酵茶葉に抽出処理を施すことなどによって、新規のポリフェノール誘導体を産生する。
【化1】
【解決手段】茶葉でアスペルギルス属sp. (PK-1)菌を培養することによって得られる微生物発酵茶葉に抽出処理を施すことなどによって、新規のポリフェノール誘導体を産生する。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のポリフェノール誘導体及びそれの産生方法、さらにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリフェノール誘導体としては、例えば、茶葉に含まれるカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレート等が知られており、これらは様々な生理活性を示す生理機能物質として利用されている。
【0003】
また、アスペルギルス属に属する微生物PK-1 (FERM P-21280)又はユーロチウム属に属する微生物KA-1 (FERM P-21291)で茶葉を発酵させて、4-エテニル-1,2-ジメトキシベンゼン、アセトオイゲノール又はイソオイゲノールを含有する後発酵茶葉を製造することも提案されている(特開2008-263831号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−263831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は生理活性作用を示す新たな物質を茶葉から産生することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、茶葉でアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕を培養することによって得られる微生物発酵茶葉に抽出処理を施すと、下記の一般式(1)で表される新規のポリフェノール誘導体が単離されることを見出した。
【0007】
【化1】
【0008】
本発明は、このような知見に基づいて発明されたもので、
1.下記の一般式(1)で表される新規のポリフェノール誘導体、
【0009】
【化2】
及び
【0010】
2.茶葉でアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕を培養することによって得られる微生物発酵茶葉に抽出処理を施して、上記の一般式で表されるポリフェノール誘導体を単離させること、及び/又は、(-)-エピガロカテキン 3-O-ガレート〔(-)-epigallocatechin 3-O-gallate: EGCG〕及び/又はそのC-2エピマーとアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕又はそのエキスを接触せしめ、上記の一般式で表されるポリフェノール誘導体を生成させることを特徴とする、前記ポリフェノール誘導体の産生方法、並びに前記ポリフェノール誘導体を含む加工食品等に係わるものである。
【発明の効果】
【0011】
上記の新規なポリフェノール誘導体は、本発明によって提供することができる。該化合物は、有用な生物活性を有しており、様々な用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】HPLC分析による解析図。
【図2】微生物発酵茶(RS茶)のHPLCプロフィール。図中、1:没食子酸(gallic acid)のピーク、2:(+)-ガロカテキン(GC)のピーク、3:(-)-エピガロカテキン(EGC)のピーク、4:(+)-カテキン(C)のピーク、5:カフェイン(caffeine)のピーク、6:(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート(EGCG)のピーク、8:(-)-エピカテキン3-O-ガレート(ECG)のピーク、RS-3: 本発明に係わるシス型ポリフェノール誘導体(化合物(2))のピーク、RS-4: 本発明に係わるトランス型ポリフェノール誘導体(化合物(3))のピーク。
【図3】各種の茶(5種:緑茶、ウーロン茶、紅茶、中国産プーアール茶、RS茶)に含まれる成分のLC-TOF/MS解析のプロット図。A:5種の茶に含まれる分子量1000以下の成分のプロット図、B: RS茶以外の4種の茶のみに含まれる成分のプロット図。
【図4】各種の茶(5種:緑茶、ウーロン茶、紅茶、中国産プーアール茶、RS茶)に含まれる成分のLC-TOF/MS解析のプロット図。A: RS茶のみに含まれる成分のプロット図、B: RS茶(横軸)及び他の4種の茶(縦軸)に含まれる成分の相関プロット図。
【図5】テアデノールAのアディポネクチン分泌促進活性のアッセイ結果。A, B:一連目の結果、C, D:二連目の結果、E, F:三連目の結果。A, C, E:ウエスタンブロットのパターン。
【図6】テアデノールAのアディポネクチン分泌促進活性のアッセイ結果。アディポネクチン分泌量とテアデノールA添加後の時間との関係を示す。
【図7】テアデノールAのPTP1B発現抑制活性のアッセイ結果(一連目)。A, B:PTP1B発現量アッセイの結果、C, D:α-tubulin量アッセイの結果。A, C:ウエスタンブロットのパターン。
【図8】テアデノールAのPTP1B発現抑制活性のアッセイ結果(二連目)。A, B:PTP1B発現量アッセイの結果、C, D:α-tubulin量アッセイの結果。A, C:ウエスタンブロットのパターン。
【図9】テアデノールAのPTP1B発現抑制活性のアッセイ結果(三連目)。A, B:PTP1B発現量アッセイの結果、C, D:α-tubulin量アッセイの結果。A, C:ウエスタンブロットのパターン。
【図10】テアデノールAのPTP1B発現抑制活性のアッセイ結果。D:三連の結果をまとめたものを示す。
【図11】テアデノールAのPTP1B発現抑制活性のアッセイ結果。PTP1B発現量とテアデノールA添加後の時間との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前記のアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕は、本出願人の出願に係わる前記特開2008-263831号公報に記載されているように、受託番号FERM P-21280として登録されている。
【0014】
本発明に係わるポリフェノール誘導体は微生物発酵茶葉に抽出処理を施すことにより得られ、例えば、前記の産生方法によって得られる。このポリフェノール誘導体は、前述のように微生物発酵茶葉から抽出された抽出物をHPLC分析で調べることによって確認される。さらに、EGCG 〔(-)-エピガロカテキン 3-O-ガレート: (-)-epigallocatechin 3-O-gallate〕、そのオートクレーブ処理液、GCG〔(+)-ガロカテキン 3-O-ガレート: (+)-gallocatechin 3-O-gallate〕、そのオートクレーブ処理液、EGCGとGCGの混合液などに、アスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1), FERM P-21280〕又はそのエキスなどを反応させることなどにより、産生できる。
【0015】
図面の図1は、上記の抽出物をHPLC分析によって解析した結果を示す解析図の一例を示しており、そして、この解析図において、1は没食子酸、2はガロカテキン、3はエピガロカテキン、4はカテキン、5はカフェイン、6はエピガロカテキンガレート、7はケンフェロールトリグリコシド、8はエピカテキンガレート、Aは本発明に係わるシス型のポリフェノール誘導体、そしてBは本発明に係わるトランス型のポリフェノール誘導体のそれぞれのピークを示している。
【0016】
そして、本発明の上記ポリフェノール誘導体は立体異性体であって、上記のようにシス型とトランス型の2つの型があり、そのシス型は次の構造式(2)で表される。
【0017】
【化3】
【0018】
また、上記トランス型は、次の構造式(3)で表される。
【0019】
【化4】
【0020】
本発明のポリフェノール誘導体を産生させるに当たっては、培養材料として一般にどのような種類または状態の茶葉(Camellia sinensis L.)でも使用でき、例えば、一番茶、二番茶、三番茶であっても使用される。
また、本発明の微生物発酵茶葉を製造するには、発酵処理を行う前に、茶葉中に含まれている酵素による酸化反応などを防止する目的で加熱処理することが好適であり、収穫された茶葉をそのまま加熱処理した茶葉を用いてもよいが、加熱の方法は特に限定されることはなく、釜を用いた直火法、電気、ガスなどを熱源とする各種乾燥機による加熱、蒸気を用いる蒸煮加熱乾燥機、天日乾燥など、茶葉を加熱処理して酵素を失活することができる方法であればいかなる方法又は装置を用いてもよい。
加熱により酵素が失活した茶葉としては、例えば、従来の煎茶の製造工程における青殺後の茶葉、粗柔後の茶葉、柔稔後の茶葉、中柔後の茶葉、精柔後の茶葉、または荒茶などが本発明の微生物発酵茶葉の製造に用いられる。
【0021】
茶葉を微生物発酵処理するには、接種した微生物による発酵が進行する条件下に原料茶葉を保持する必要である。水分含有量としては、約15〜80重量%の水分を含むよう調整された茶葉が使用され、好適には30〜40重量%が好適に使用されるが、例えば、中揉後の茶葉は約25〜40重量%を含むところから、中揉後の茶葉は水分の調整することなく本発明の発酵処理に使用される。
本発明における発酵温度は、約15〜50℃が好適であり、発酵処理は、通常1日から60日間、好適には3日から15日間連続して行われるが、従来の後発酵茶の製造に要する期間よりは短く、効率的な製造が可能である。発酵処理中において本発明の上記有用成分の生産量ができるだけ多くなるように、茶葉の含有水分、発酵温度、発酵期間などを適宜選択して実施することが好適である。
【0022】
この茶葉は培養前に通常殺菌され、その殺菌は、例えばオートクレーブで121℃、15分間殺菌することによって遂行される。
本発明の産生方法では、培養後の培養茶葉を乾燥することによって行われる。
【0023】
抽出方法においては、一般に水、親水性有機溶媒又はこの親水性有機溶媒の水溶液が用いられ、好ましくは、エタノール水溶液、エタノール及び水が用いられる。
【0024】
抽出処理によって得られた抽出液から本発明のポリフェノール誘導体を単離するには、例えば、カラムクロマトグラフィーによる分離方法が用いられる。
【0025】
本発明で得られる一般式(1)で表される化学構造を有する新規なポリフェノール誘導体(化合物(1))は、有用な生理活性・生物活性を有する物質で、例えば、アディポネクチン(Adiponectin)の分泌促進作用、プロテインチロシンホスファターゼ-B(Protein Tyrosine Phosphatase-1B; PTP1B)発現抑制作用があることが認められている。したがって、本発明の化合物(1)は、医薬、食品成分、動物飼料成分、化粧品成分、アッセイ試薬など様々な用途に有望である。
【0026】
アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌される分泌タンパク質であることが知られており、その血中濃度は一般的なホルモンに比べてはるかに多く、μg/mlオーダーに達するとされている。作用としては、肝臓のAMPK(AMP-activated protein kinase)を活性化させることによるインスリン感受性の亢進、動脈硬化抑制、抗炎症、心筋肥大抑制など多彩な作用が報告されている。血中アディポネクチン濃度は内臓脂肪量に逆相関することが知られている。そのメカニズムは不明な点が多いが、一部は肥満脂肪組織で増加するTNFαなどによるものと考えられている。
【0027】
肥満になるほど、アディポネクチンの分泌量が低下するとか、内臓脂肪が溜まると、その分泌量が減るとか、血中アディポネクチン量を、一定程度以上に保持しておくと、動脈硬化の進行を遅らせることができるとか、酸化ストレス抑制効果を示すとの、報告がなされている。したがって、本発明の化合物(1)のアディポネクチンの分泌促進活性を利用すれば、糖尿病の改善、糖尿病発症防止、抗ガン、生活習慣病(メタボリック・シンドローム)の改善、生活習慣病発症予防、肥満の改善、高血圧症の改善、高血圧症発症防止、動脈硬化症の改善、動脈硬化症発症防止などに利用可能で、医薬、食品又は食品添加物、調味料、健康補助食品、サプリメント、機能性食品、動物用飼料、化粧品又は化粧品添加物、医薬開発用試薬、生物活性アッセイ用試薬などとして有用である。
【0028】
プロテインチロシンホスファターゼ(Protein Tyrosine Phosphatase; PTP)は、チロシン残基がリン酸化されたタンパク質を特異的に脱リン酸化する酵素群(チロシン脱リン酸化酵素群)であり、細胞内シグナル伝達を制御する重要な分子である。そのため、多くの疾患に関与していると考えられており、その代表的なPTPとして、PTP1Bが報告されている。PTP1Bは、1988年にヒトの胎盤より同定され、インスリン抵抗性や糖尿病、肥満に関与している事で脚光を浴び、そのSNPsがインスリン感受性や血中グルコース濃度に影響を与えている事からも、これらの制御に対して中心的な役割を担っていると考えられている。インスリンによって血中グルコース濃度を調節している主な組織は、肝臓、筋肉、脂肪であり、PTP1Bをこれらの組織や細胞に対して特異的に過剰発現またはノックアクトすると、インスリン感受性や血中グルコース濃度に変化が見られる。特に、マウスに高脂肪食を負荷した肥満モデルでの脂肪組織において、PTP1Bの発現量は通常のマウスと比較して約7倍上昇し、肝臓や筋肉ではその発現量が約1.5倍から2倍である事を踏まえると、肥満によるインスリン抵抗性は脂肪細胞でのPTP1Bの発現上昇によるインスリン感受性の低下が多大な影響を及ぼしている可能性が考えられる。
【0029】
こうした背景から、PTP1Bをダーゲットとする薬剤の開発、例えば、PTP1Bの阻害剤の開発が求められているが、その開発は困難な状況にある。一方、最近、赤ワインに含まれるレスベラトールが肝臓でのPTP1Bの発現量を低下させる事によりインスリン感受性を改善させると報告され、食品成分によってPTP1Bの活性または発現を制御することでメタボリックシンドロームを改善する事が出来る可能性が示された。近年、PTP1Bは、乳癌の発生及び肺転移にも関与している事が明らかになり、改めて注目されている分子である。そのため、PTP1Bの発現及び活性を抑制する食品成分は、メタボリックシンドロームの改善だけでなく、PTP1Bが関与する癌などの疾患に対しても多大な効果を発揮する可能性を秘めていると考えられる。
【0030】
本発明の化合物(1)のPTP1Bの発現及び活性を抑制する活性を利用すれば、PTP1Bの関与する、インスリンの作用を負に制御すること、乳癌を進展させる細胞内シグナルを仲介することなどを、コントロール可能であり、上記した用途に加え、食物由来成分から糖尿や乳癌を負に制御出来る物質の開発が可能となる。
【実施例】
【0031】
以下の実施例は、本発明を実施する場合の好ましい例を具体的に示すことを意図するものであって、本発明がこれらの実施例によって限定されることは意図されていない。
【実施例1】
【0032】
オートクレーブで121℃、15分間殺菌した中揉緑茶200 gに、Aspergillus sp. PK-1を種菌して、30℃で7日間培養した。
こうして得られた培養茶葉を温風により80℃において乾燥する。
乾燥した茶葉2.0 gを乳鉢にて粉末化し、60%のエタノール水溶液30 mlで抽出処理し、それによって分離された抽出液をHPLC (column: TOSOH ODS 80Ts (4.6 mm i.d.×250 mm)、mobile phase: 1%酢酸-CH3CN (90:10→20:80, in 30 min)、flow rate: 0.6 ml/min.、column temperature: 40℃、detection: 280nm (UV))に付した。
得られた分析結果は、表1に示すとおりである。
【0033】
【表1】
【0034】
また、それによって単離された物質を磁気共鳴スペクトルによって解析したところ、この物質は前記の一般式(1)で表される化学構造を有する新規なポリフェノール誘導体であり、このポリフェノール誘導体は前記の構造式(2)で表されるシス型と、前記の構造式(3)で表されるトランス型からなる立体異性体であることが判明した。
そして、前記の構造式(2)で表される新規なポリフェノール誘導体は、試験の結果、内臓脂肪の減少とアディポネクチンの増加の機能性があることが判った。
【実施例2】
【0035】
静岡市市清水区の茶園(やぶきた)から一番新芽を摘採し、標準製茶法に準じて蒸熱、粗揉、揉捻、中揉まで行った後、冷蔵庫(−20℃)に1000 g保存した。室温中で解凍した前記緑茶1000 gに、前培養したAspergillus sp. PK-1を100 g混ぜ、数日中に一度撹拌しながら約25℃で、2週間と4週間培養した(処理1)。
なお、前培養したPK-1とは、オートクレーブで121℃、15分間殺菌した中揉緑茶50 gに、PK-1を種菌して、30℃で7日間培養したものである。
次いで、上記培養して得られた微生物発酵茶1,000 gに2,000 mlの温水(95℃)を加え、室温で2時間静置してエキスの抽出処理を行った。抽出処理後、茶葉を濾過して、抽出エキス液750mlを得た。
得られた抽出エキス液750 mlに対してデキストリン750 gを混ぜ、そのスラリー状混合物をスプレードライした。
【0036】
上記スプレードライして得られた粉末の成分分析の結果は、下記表2に示す通りであった。
該スプレードライ製品は、粉末状であるため保存性が良く、また取り扱いが容易であり、他の素材に添加するにも便利である。
【0037】
【表2】
【0038】
次に、前記本発明のスプレードライ製品(以下、本発明スプレードライ製品(「SDP」と記す)という)を添加した飼料をラットに給餌して飼育した結果について、説明する。
(1)試験用飼料の調製
上記で得られた本発明スプレードライ製品(SDP)を1%添加した飼料(1%添加群)と3%添加した飼料(3%添加群)と無添加飼料(対照群)の3種を表3に示す組成で調製した。
【0039】
【表3】
【0040】
(2)実験動物(ラット)及び飼育条件
ラットとしては、Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty (OLETF)雄ラット(大塚製薬(株)徳島研究所)を肥満モデルラットとして用いた。 4週齢のOLETFラット(18匹)を1ケージに1匹ずつ入れ、市販の固形飼料(TypeNMF、オリエンタル酵母(株)、東京)により5日間予備飼育を行った。その後、1群6匹ずつ3群に分けた。
表3に示す飼料(実験食)をラットに与え、pair-feedingによる28日間の飼育を行った。
期間中、水は自由に摂取させた。実験食は食餌脂肪としてコーン油及びラードを各5%ずつ含むAIN-76組成の純化食を対照食とした。
試験食として、対照食にSDP粉末を1.0%及び3.0%添加し、スクロースで100%に調製した純化食を用いた。
飼育環境は室温22〜24℃、12時間(午前8時〜午後8時点灯)のライトサイクルとした。飼育時間の最後の2日分の糞を採取した。飼育期間の最終日、一夜絶食(0:00〜9:00)を行い、ペントバルビタール麻酔下で腹部大動脈より採血した。
脂肪組織(睾丸周辺、腎臓周辺及び腸間膜)及び肝臓を摘出し重量を測定した。 遠心分離により血清を調製し、各脂質濃度及びアディポネクチン濃度を市販キットで測定した。肝臓は、Folchらの方法で脂質抽出後、各脂質濃度を測定した。また、肝臓の一部はホモジナイズした後、常法によりミトコンドリア画分、サイトソール画分及びミクロソーム画分に分画し、ミクロソーム画分のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT)活性及びサイトソール画分の脂肪酸合成酵素(FAS)の活性を測定した。
【0041】
(3)統計処理
得られた結果は、一元配置分散分析(ANOVA)の後、Turkey-kramerの多重解析法により有意差検定(p<0.05)を行った。
(4)結果及び考察
(a)体重及び摂食量
ラットの体重及び摂食量を表4に示した。摂食量及び終体重に各群間で差は認められなかったが、3%摂取群で、他の2群に比べ終体重が軽い傾向にあった。
食餌効率は、3%群で他2群に比べ低値を示した。
(b)肝臓及び脂肪組織重量
単位体重当たりの肝臓重量は、本発明スプレードライ製品(SDP)摂取量依存的に若干の低下傾向を示したが、有意な効果ではなかった。白色脂肪組織重量については、今回測定した全ての脂肪組織(睾丸周辺、腎臓周辺及び腸間膜)で、SDP摂取量依存的に有意に低下した(表4)。このことから、今回用いたSDPには体脂肪低減作用を有する成分が含まれることが示唆された。
【0042】
【表4】
【0043】
(c)血清成分分析
血清総コレステロール濃度はSDP摂取量依存的な一定の傾向は示さなかったものの、3%添加群で高い傾向を示した(表5)。血清HDL−コレステロール濃度はSDP摂取量依存的に高くなる傾向があり、3%添加群で他2群よりも有意な高値を示した。
血清トリグリセリド濃度に対するSDP摂取の影響は明確でなかったが、血清遊離脂肪酸濃度は、3%添加群で、有意な高値を示した。このことから、表2で、各脂肪組織の重量がSDP摂取群低下した理由として、脂肪組織における脂肪分解(脂肪組織からの遊離脂肪酸の放出)の亢進の可能性が示された。
血清アディポネクチン濃度は、統計的に有意な変化ではなかったものの、SDP摂取量依存的に上昇する傾向が認められた(表5)。
【0044】
【表5】
【0045】
表4で、SDP摂取により各脂肪組織重量の減少が確認されたが、このことは脂肪細胞が小型化したことを示唆しており、血清アディポネクチン濃度上昇と関連していると考えられた。軽度ながらも血清アディポネクチン濃度上昇効果が認められたことから、生活習慣病予防因子としてのSDP成分の可能性が示された。
(d)肝臓脂質濃度及び酵素活性
肝臓トリグリセリド濃度は、SDP摂取量依存的に低下し、3%添加群は対照群に比べ、有意な低値を示した(表6)。
【0046】
【表6】
肝臓サイトソールのFAS活性も同様に、SDP摂取量依存的に低下し(表6)、肝臓トリグリセリド濃度低下の一因と考えられた。
一方、肝臓ミトコンドリアのCPT活性は、各群間で差は認められなかった。一般に、肝臓の脂肪酸β酸化能は、アディポネクチンによる影響を受けることが知られるが、今回の実験条件では、SDPによる血清アディポネクチン濃度の上昇は、肝臓のCPT活性に影響するには至らなかったと推察された。
本実験で、SDP摂取による脂肪組織重量減少及び肝臓トリグリセリド濃度低下作用が認められ、血清アディポネクチン濃度が軽度ながら上昇することも観察された。
これまでの結果から、その一因として脂肪組織から遊離脂肪酸の放出及び肝臓での脂肪酸合成能低下作用が示された。
以上のように今回の実験では、3%添加群で食餌効率が有意に低下したことが確認された。
【実施例3】
【0047】
〔HPLCによる成分解析〕
Aspergillus sp. (PK-1, FERM P-21280)により発酵処理された茶葉(RS茶)を使用した。乾燥発酵茶葉(4.5 g)に、80℃のお湯(蒸留水、30 ml)を加えて、室温にて一晩静置することにより抽出処理して、濾過後に抽出液(濾液)を得た。濾液(2.5μl)をHPLC分析にかけた。HPLC分析に用いた条件は以下の通りである。
【0048】
カラム: TOSOH ODS 80Ts (4.6 mm i.d.×250 mm)
移動相: 1 mM TBA (テトラブチルアンモニウム)水溶液(pH2.9)−CH3CN (90:10→20:80, in 30 min) 〔TBA液は、約0.1%酢酸水溶液で、pH2.9に調整〕
flow rate: 0.6 ml/min.、column temperature: 40℃、detection: 280nm (UV)
HPLCの溶出パターンを、図2に示す。
【0049】
図2において、RS茶の各種成分含量(%乾燥重量あたり)は、以下の通りであった。
1:gallic acid (1.09% dw)
2:GC 〔(+)-gallocatechin〕 (3.96% dw)
3:EGC 〔(-)-epigallocatechin〕 (2.14% dw)
4:C 〔(+)-catechin〕 (0.21% dw)
5:caffeine (1.92% dw)
6:EGCG 〔(-)-epigallocatechin 3-O-gallate〕 (0.24% dw)
8:ECG 〔(-)-epicatechin 3-O-gallate〕(0.14% dw)
RS-3: 0.54% dw 〔化合物(2)〕
RS-4: 0.06% dw 〔化合物(3)〕
なお、図2には、EC 〔(-)-epicatechin〕 (0.49% dw)は示されていない。
【0050】
〔LC-TOF/MSによる成分解析〕
各種の茶(緑茶、ウーロン茶、紅茶、中国産プーアール茶)の成分と、実施例1のようにして、Aspergillus sp. PK-1で発酵処理した微生物発酵茶(RS茶)の成分比較を行った。5種の茶(例えば、各4.5 g)は、それぞれ、80℃のお湯(蒸留水、30 ml)を加えて、室温にて一晩静置することにより抽出処理して、濾過後に抽出液(濾液)を得た。成分分析は、LC-TOF/MSにより行った。LC−TOF/MS分析に用いたHPLC及びTOF/MSの条件は以下の通りである。
【0051】
HPLC (Agilent 1100 series):
カラム: ZORBAX Eclipse Plus C18、内径2.1mm×長さ100 mm、粒径3.5μm
カラム温度: 40℃、流量0.2 mL/min
移動相: 0.1%ギ酸+10 mM AcONH4 (A)、CH3CN (B)
グラジエント条件: A:B (time)
95:5 (0 min)→50:50 (30 min)→10:90 (40 min)→10:90 (45 min)
〔→95:5 (50 min)→95:5 (60 min)〕
【0052】
TOF/MS (Aglent G 1969A)
イオン化: ESI, Positive
乾燥ガス: N2, 350℃, 10 L/min
ネブライザー: N2, 50 psig
キャピラリー電圧: 4000V
フラグメンター電圧: 100V
SCAN範囲: 80〜1,200 (m/Z)
リファレンスマス: 121.0509及び922.0098
【0053】
得られた結果を、図3及び4に示す。図4のBにおける成分RS-3は、RS茶に特異的に含まれる成分の一つであり、新規物質と推察されるもので、最終的には、以下に記載の単離物Aに相当するものであった。なお、RS-3と共に、RS-1、RS-2、そしてRS-2と同一の組成を有するRS-2'は、RS茶に特異的に含まれる成分と考えられた。
【実施例4】
【0054】
〔カラムクロマトグラフィーによる新規成分(化合物(2)及び(3))の抽出及び単離〕
〔処理1〕
成分RS-3(すなわち、単離物A)は新規物質と推察されたので、茶葉からの抽出、単離を試みた。単離の過程で、単離物Aと同一の組成を有する単離物Bも単離された。これらの新規成分の単離手順は以下に示す。
実施例1に記載したようにして、Aspergillus sp. (PK-1, FERM P-21280)により発酵処理された茶葉を使用した。乾燥茶葉207 gを80%エタノール(800 ml)で一晩抽出後、ガーゼで濾過した。残渣茶葉は80℃のお湯800 mlで一晩抽出し、再度濾過した。それぞれの濾液は、エバポレーターで濃縮後、DIAIONカラム(4x33 cm、三菱化学(株))に付し、メタノール−水混合液(0%−20%−40%−60%−100%、500mlずつ)で溶出した。40%メタノール溶出画分を濃縮後、Sephadex LH20カラム(4x50 cm、Pharmacia Corporation)に付し、60%メタノール水溶液にて溶出し、2画分を得た。
【0055】
画分1から、結晶化(溶媒:水)により単離物A(化合物(2)、290mg)を得た。
画分2は、Sephadex LH20(4x32 cm、Pharmacia Corporation)に付し、80%エタノール水溶液にて溶出し、RS-4を含む画分を得た。その画分を濃縮後Preparative C18(3x20 cm、Waters Corporation)に付し、メタノール−水混合液(0%−20%−40%−60%−100%、300mlずつ)で溶出し、20%メタノール溶出画分を得た。その画分を濃縮後、Fuji-gel 0DS(3x19 cm、富士ゲル販売(株))に付し、メタノール−水混合液(0%−20%−40%−60%−100%、300mlずつ)で溶出し、20%メタノール溶出画分を濃縮し、結晶化(溶媒:水)により成分RS-4にあたる単離物B(化合物(3)、43mg)を得た。
【0056】
〔処理2〕
上記のようにして、Aspergillus sp. (PK-1, FERM P-21280)により発酵処理された茶葉を使用した。乾燥茶葉(207 g)を80%エタノール(800 ml)により室温で12時間抽出した。得られた抽出液を、真空濃縮し、次に、得られた濃縮抽出物(37 g)を、DIAION HP20SSカラム(三菱化学(株))に付し、メタノール−水混合液(0:0→100:0)で溶出した。4画分〔画分1 (5 g)、画分2 (1 g)、画分3(17 g)、画分4(3 g)〕を得た。当該画分3をSephadex LH20カラム(Pharmacia Corporation)に付し、60%メタノール水溶液にて溶出し、2画分〔画分3-1、画分3-2〕を得た。
【0057】
画分3-1(13 g)をODS-G3カラム(富士ゲル販売(株))に付し、H2Oとメタノールにより段階的に溶出処理し、単離物A(化合物(2)、390 mg)を得た。
画分3-2(2.3 g)をSephadex LH20カラム(Pharmacia Corporation)に付し、80%メタノール水溶液にて溶出し、次に、ODS-G3カラム(富士ゲル販売(株))に付し、H2Oとメタノールにより段階的に溶出処理し、さらに、調製用(Preparative) C18 125Å(Waters Corporation)に付し、H2Oとメタノールにより段階的に溶出処理し、単離物B(化合物(3)、88 mg)を得た。
【0058】
単離物Aにつき、質量分析(MS)、赤外スペクトル分析(IR)、核磁気共鳴分析(NMR)などにより、その化学構造を決定した。結果、単離物Aは、次式:
【0059】
【化5】
の化学構造を有する化合物と同定されるもので、それをテアデノールA (teadenol A)と名づけ、上記したように新規化合物であることが確認できた。
【0060】
単離物A: 白色結晶、mp 235-240℃ (分解)、[α]D21 +467.8°(c 0.15, DMSO)、m/z 276.0638, C14H12O6、NMR (in DMSO-d6): 表7参照。
IR (KBr) cm-1: 3420, 1700, 1632, 1611, 1386, 1273, 1260, 935。
【0061】
【表7】
【0062】
単離物Bは、テアデノールAと同一の分子式: C14H12O6を有しており、次式:
【0063】
【化6】
の化学構造を有する化合物と同定されるもので、それをテアデノールB (teadenol B)と名づけた。
【0064】
単離物B: 灰色がかった白色結晶、mp 258-275℃ (分解)、[α]D20 −27.7°(c 0.18, MeOH)、m/z 276.0640, C14H12O6、NMR (in CD3OD): 表8参照。
【0065】
【表8】
【0066】
〔テアデノールの調製〕
EGCG 〔(-)-エピガロカテキン 3-O-ガレート: (-)-epigallocatechin 3-O-gallate〕(SIGMAより購入、16 mg)を、水(20 ml)に溶解し、オートクレーブ(121℃、15min)で処理した。本オートクレーブでの処理で、EGCGのおおよそ半分が、そのC-2エピマーに変換せしめられる。ジャガイモ-デクストロース-アガー(Potato Dextrose Agar)固体培地でサブ培養せしめられたAspergillus sp. (PK-1, FERM P-21280)を、当該オートクレーブ処理されたEGCG含有液(EGCGとGCGの混合物)に接種し(1 cm×1 cmのピース)、得られた混合物液を暗所条件、25℃でロータリー式振とう器(rotary shaker, 60 rpm)上で培養せしめた。2週間培養した後、培養処理されて得られた液中の成分の分析を行った。当該液を、ミリポアフィルター(0.45μm)を通して濾過後、HPLCに付した。分析に用いたHPLCの条件は以下の通りである。
カラム: TOSOH ODS 80Ts (4.6 mm×250 mm、東ソー(株))、移動相(mobile phase): 0.1%ギ酸−CH3CN (9:1→1:4 in 30 min)、flow rate: 0.6 ml/min、column temperature: 40℃、detection:80 nm (UV)、化合物のretention time (min): EGCG (18.7), GCG (19.8), テアデノールA (24.9)及びテアデノールB (27.7)。テアデノールAは、62.5±15.6μgを検出し、テアデノールBは、24.4±7.3μgを検出した(3回の実験のMean±SD)。
【実施例5】
【0067】
〔アディポネクチン分泌促進作用〕
3T3-L1脂肪細胞(3T3-L1 adipocytes)は、50 U/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン、10% FCSを含有する高グルコースDMEM中で 5% CO2環境下、生育及び維持をすることができる。3T3-L1細胞を直径3.5cmディッシュに継代しコンフルエントになった後、インスリン(10μg/ml)、デキサメサゾン(0.25μM)、IBMX(3-イソブチル-1-メチルキサンチン)(0.5mM)存在下で、さらに2日間培養し、十分に脂肪細胞に分化させた。十分に分化した3T3-L1脂肪細胞に対してテアデノールA(10μM)あるいはDMSO (vehicle control)を添加し、8、24、32、48時間後に培養上清を回収し、分泌されたアディポネクチン量をウエスタンブロット法により定量した。結果を図5に示す。ウエスタンブロットのパターンは代表的なものを示し、3連の結果を示してある。表9には結果をまとめて示す。
【0068】
【表9】
アディポネクチン分泌量とテアデノールA添加後の時間との関係を、図6に示す。アディポネクチン分泌促進活性に関し、24、48時間後では統計的有意差を持ってテアデノールA添加効果が認められる。同様にして、テアデノールBについても、アディポネクチン分泌促進作用につき、その添加効果を確認することができる。
【実施例6】
【0069】
〔PTP1B発現抑制作用〕
十分に分化した3T3-L1脂肪細胞に対してテアデノールA(10μM)あるいはDMSO (vehicle control)を添加し、8、24、32、48時間培養後に細胞を回収し、分泌されたPTP1B量及びα-tubulin量をウエスタンブロット法により定量した。結果を、図7〜11に示す。なお、図において「テアデノール」は、テアデノールAを示す。図7〜9においては、ウエスタンのパターンは代表的なものを示し、図10には、3連の結果をまとめて示す。
PTP1B発現量とテアデノールA添加後の時間との関係を、図11に示す。PTP1B発現抑制活性に関し、32時間後では統計的有意差を持ってテアデノール添加効果が認められる。同様にして、テアデノールBについても、PTP1B発現抑制作用につき、その添加効果を確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の新規なポリフェノール誘導体は、従来既知の多くの種類のポリフェノール誘導体と同様に、特有の生理活性作用を示す機能性物質として利用されことが期待される。本発明で得られたポリフェノール誘導体は、加工食品、調味料、サプリメント等の健康補助食品、ペットフード等の動物用飼料や化粧品等に使用できる。
【符号の説明】
【0071】
1・・・・没食子酸のピーク
2・・・・ガロカテキンのピーク
3・・・・エピガロカテキンのピーク
4・・・・カテキンのピーク
5・・・・カフェインのピーク
6・・・・エピガロカテキンガレートのピーク
7・・・・ケンフェロールトリグリコシドのピーク
8・・・・エピカテキンガレートのピーク
A・・・・本発明に係わるシス型ポリフェノール誘導体のピーク
B・・・・本発明に係わるトランス型ポリフェノール誘導体のピーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のポリフェノール誘導体及びそれの産生方法、さらにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリフェノール誘導体としては、例えば、茶葉に含まれるカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレート等が知られており、これらは様々な生理活性を示す生理機能物質として利用されている。
【0003】
また、アスペルギルス属に属する微生物PK-1 (FERM P-21280)又はユーロチウム属に属する微生物KA-1 (FERM P-21291)で茶葉を発酵させて、4-エテニル-1,2-ジメトキシベンゼン、アセトオイゲノール又はイソオイゲノールを含有する後発酵茶葉を製造することも提案されている(特開2008-263831号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−263831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は生理活性作用を示す新たな物質を茶葉から産生することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、茶葉でアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕を培養することによって得られる微生物発酵茶葉に抽出処理を施すと、下記の一般式(1)で表される新規のポリフェノール誘導体が単離されることを見出した。
【0007】
【化1】
【0008】
本発明は、このような知見に基づいて発明されたもので、
1.下記の一般式(1)で表される新規のポリフェノール誘導体、
【0009】
【化2】
及び
【0010】
2.茶葉でアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕を培養することによって得られる微生物発酵茶葉に抽出処理を施して、上記の一般式で表されるポリフェノール誘導体を単離させること、及び/又は、(-)-エピガロカテキン 3-O-ガレート〔(-)-epigallocatechin 3-O-gallate: EGCG〕及び/又はそのC-2エピマーとアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕又はそのエキスを接触せしめ、上記の一般式で表されるポリフェノール誘導体を生成させることを特徴とする、前記ポリフェノール誘導体の産生方法、並びに前記ポリフェノール誘導体を含む加工食品等に係わるものである。
【発明の効果】
【0011】
上記の新規なポリフェノール誘導体は、本発明によって提供することができる。該化合物は、有用な生物活性を有しており、様々な用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】HPLC分析による解析図。
【図2】微生物発酵茶(RS茶)のHPLCプロフィール。図中、1:没食子酸(gallic acid)のピーク、2:(+)-ガロカテキン(GC)のピーク、3:(-)-エピガロカテキン(EGC)のピーク、4:(+)-カテキン(C)のピーク、5:カフェイン(caffeine)のピーク、6:(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート(EGCG)のピーク、8:(-)-エピカテキン3-O-ガレート(ECG)のピーク、RS-3: 本発明に係わるシス型ポリフェノール誘導体(化合物(2))のピーク、RS-4: 本発明に係わるトランス型ポリフェノール誘導体(化合物(3))のピーク。
【図3】各種の茶(5種:緑茶、ウーロン茶、紅茶、中国産プーアール茶、RS茶)に含まれる成分のLC-TOF/MS解析のプロット図。A:5種の茶に含まれる分子量1000以下の成分のプロット図、B: RS茶以外の4種の茶のみに含まれる成分のプロット図。
【図4】各種の茶(5種:緑茶、ウーロン茶、紅茶、中国産プーアール茶、RS茶)に含まれる成分のLC-TOF/MS解析のプロット図。A: RS茶のみに含まれる成分のプロット図、B: RS茶(横軸)及び他の4種の茶(縦軸)に含まれる成分の相関プロット図。
【図5】テアデノールAのアディポネクチン分泌促進活性のアッセイ結果。A, B:一連目の結果、C, D:二連目の結果、E, F:三連目の結果。A, C, E:ウエスタンブロットのパターン。
【図6】テアデノールAのアディポネクチン分泌促進活性のアッセイ結果。アディポネクチン分泌量とテアデノールA添加後の時間との関係を示す。
【図7】テアデノールAのPTP1B発現抑制活性のアッセイ結果(一連目)。A, B:PTP1B発現量アッセイの結果、C, D:α-tubulin量アッセイの結果。A, C:ウエスタンブロットのパターン。
【図8】テアデノールAのPTP1B発現抑制活性のアッセイ結果(二連目)。A, B:PTP1B発現量アッセイの結果、C, D:α-tubulin量アッセイの結果。A, C:ウエスタンブロットのパターン。
【図9】テアデノールAのPTP1B発現抑制活性のアッセイ結果(三連目)。A, B:PTP1B発現量アッセイの結果、C, D:α-tubulin量アッセイの結果。A, C:ウエスタンブロットのパターン。
【図10】テアデノールAのPTP1B発現抑制活性のアッセイ結果。D:三連の結果をまとめたものを示す。
【図11】テアデノールAのPTP1B発現抑制活性のアッセイ結果。PTP1B発現量とテアデノールA添加後の時間との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前記のアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕は、本出願人の出願に係わる前記特開2008-263831号公報に記載されているように、受託番号FERM P-21280として登録されている。
【0014】
本発明に係わるポリフェノール誘導体は微生物発酵茶葉に抽出処理を施すことにより得られ、例えば、前記の産生方法によって得られる。このポリフェノール誘導体は、前述のように微生物発酵茶葉から抽出された抽出物をHPLC分析で調べることによって確認される。さらに、EGCG 〔(-)-エピガロカテキン 3-O-ガレート: (-)-epigallocatechin 3-O-gallate〕、そのオートクレーブ処理液、GCG〔(+)-ガロカテキン 3-O-ガレート: (+)-gallocatechin 3-O-gallate〕、そのオートクレーブ処理液、EGCGとGCGの混合液などに、アスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1), FERM P-21280〕又はそのエキスなどを反応させることなどにより、産生できる。
【0015】
図面の図1は、上記の抽出物をHPLC分析によって解析した結果を示す解析図の一例を示しており、そして、この解析図において、1は没食子酸、2はガロカテキン、3はエピガロカテキン、4はカテキン、5はカフェイン、6はエピガロカテキンガレート、7はケンフェロールトリグリコシド、8はエピカテキンガレート、Aは本発明に係わるシス型のポリフェノール誘導体、そしてBは本発明に係わるトランス型のポリフェノール誘導体のそれぞれのピークを示している。
【0016】
そして、本発明の上記ポリフェノール誘導体は立体異性体であって、上記のようにシス型とトランス型の2つの型があり、そのシス型は次の構造式(2)で表される。
【0017】
【化3】
【0018】
また、上記トランス型は、次の構造式(3)で表される。
【0019】
【化4】
【0020】
本発明のポリフェノール誘導体を産生させるに当たっては、培養材料として一般にどのような種類または状態の茶葉(Camellia sinensis L.)でも使用でき、例えば、一番茶、二番茶、三番茶であっても使用される。
また、本発明の微生物発酵茶葉を製造するには、発酵処理を行う前に、茶葉中に含まれている酵素による酸化反応などを防止する目的で加熱処理することが好適であり、収穫された茶葉をそのまま加熱処理した茶葉を用いてもよいが、加熱の方法は特に限定されることはなく、釜を用いた直火法、電気、ガスなどを熱源とする各種乾燥機による加熱、蒸気を用いる蒸煮加熱乾燥機、天日乾燥など、茶葉を加熱処理して酵素を失活することができる方法であればいかなる方法又は装置を用いてもよい。
加熱により酵素が失活した茶葉としては、例えば、従来の煎茶の製造工程における青殺後の茶葉、粗柔後の茶葉、柔稔後の茶葉、中柔後の茶葉、精柔後の茶葉、または荒茶などが本発明の微生物発酵茶葉の製造に用いられる。
【0021】
茶葉を微生物発酵処理するには、接種した微生物による発酵が進行する条件下に原料茶葉を保持する必要である。水分含有量としては、約15〜80重量%の水分を含むよう調整された茶葉が使用され、好適には30〜40重量%が好適に使用されるが、例えば、中揉後の茶葉は約25〜40重量%を含むところから、中揉後の茶葉は水分の調整することなく本発明の発酵処理に使用される。
本発明における発酵温度は、約15〜50℃が好適であり、発酵処理は、通常1日から60日間、好適には3日から15日間連続して行われるが、従来の後発酵茶の製造に要する期間よりは短く、効率的な製造が可能である。発酵処理中において本発明の上記有用成分の生産量ができるだけ多くなるように、茶葉の含有水分、発酵温度、発酵期間などを適宜選択して実施することが好適である。
【0022】
この茶葉は培養前に通常殺菌され、その殺菌は、例えばオートクレーブで121℃、15分間殺菌することによって遂行される。
本発明の産生方法では、培養後の培養茶葉を乾燥することによって行われる。
【0023】
抽出方法においては、一般に水、親水性有機溶媒又はこの親水性有機溶媒の水溶液が用いられ、好ましくは、エタノール水溶液、エタノール及び水が用いられる。
【0024】
抽出処理によって得られた抽出液から本発明のポリフェノール誘導体を単離するには、例えば、カラムクロマトグラフィーによる分離方法が用いられる。
【0025】
本発明で得られる一般式(1)で表される化学構造を有する新規なポリフェノール誘導体(化合物(1))は、有用な生理活性・生物活性を有する物質で、例えば、アディポネクチン(Adiponectin)の分泌促進作用、プロテインチロシンホスファターゼ-B(Protein Tyrosine Phosphatase-1B; PTP1B)発現抑制作用があることが認められている。したがって、本発明の化合物(1)は、医薬、食品成分、動物飼料成分、化粧品成分、アッセイ試薬など様々な用途に有望である。
【0026】
アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌される分泌タンパク質であることが知られており、その血中濃度は一般的なホルモンに比べてはるかに多く、μg/mlオーダーに達するとされている。作用としては、肝臓のAMPK(AMP-activated protein kinase)を活性化させることによるインスリン感受性の亢進、動脈硬化抑制、抗炎症、心筋肥大抑制など多彩な作用が報告されている。血中アディポネクチン濃度は内臓脂肪量に逆相関することが知られている。そのメカニズムは不明な点が多いが、一部は肥満脂肪組織で増加するTNFαなどによるものと考えられている。
【0027】
肥満になるほど、アディポネクチンの分泌量が低下するとか、内臓脂肪が溜まると、その分泌量が減るとか、血中アディポネクチン量を、一定程度以上に保持しておくと、動脈硬化の進行を遅らせることができるとか、酸化ストレス抑制効果を示すとの、報告がなされている。したがって、本発明の化合物(1)のアディポネクチンの分泌促進活性を利用すれば、糖尿病の改善、糖尿病発症防止、抗ガン、生活習慣病(メタボリック・シンドローム)の改善、生活習慣病発症予防、肥満の改善、高血圧症の改善、高血圧症発症防止、動脈硬化症の改善、動脈硬化症発症防止などに利用可能で、医薬、食品又は食品添加物、調味料、健康補助食品、サプリメント、機能性食品、動物用飼料、化粧品又は化粧品添加物、医薬開発用試薬、生物活性アッセイ用試薬などとして有用である。
【0028】
プロテインチロシンホスファターゼ(Protein Tyrosine Phosphatase; PTP)は、チロシン残基がリン酸化されたタンパク質を特異的に脱リン酸化する酵素群(チロシン脱リン酸化酵素群)であり、細胞内シグナル伝達を制御する重要な分子である。そのため、多くの疾患に関与していると考えられており、その代表的なPTPとして、PTP1Bが報告されている。PTP1Bは、1988年にヒトの胎盤より同定され、インスリン抵抗性や糖尿病、肥満に関与している事で脚光を浴び、そのSNPsがインスリン感受性や血中グルコース濃度に影響を与えている事からも、これらの制御に対して中心的な役割を担っていると考えられている。インスリンによって血中グルコース濃度を調節している主な組織は、肝臓、筋肉、脂肪であり、PTP1Bをこれらの組織や細胞に対して特異的に過剰発現またはノックアクトすると、インスリン感受性や血中グルコース濃度に変化が見られる。特に、マウスに高脂肪食を負荷した肥満モデルでの脂肪組織において、PTP1Bの発現量は通常のマウスと比較して約7倍上昇し、肝臓や筋肉ではその発現量が約1.5倍から2倍である事を踏まえると、肥満によるインスリン抵抗性は脂肪細胞でのPTP1Bの発現上昇によるインスリン感受性の低下が多大な影響を及ぼしている可能性が考えられる。
【0029】
こうした背景から、PTP1Bをダーゲットとする薬剤の開発、例えば、PTP1Bの阻害剤の開発が求められているが、その開発は困難な状況にある。一方、最近、赤ワインに含まれるレスベラトールが肝臓でのPTP1Bの発現量を低下させる事によりインスリン感受性を改善させると報告され、食品成分によってPTP1Bの活性または発現を制御することでメタボリックシンドロームを改善する事が出来る可能性が示された。近年、PTP1Bは、乳癌の発生及び肺転移にも関与している事が明らかになり、改めて注目されている分子である。そのため、PTP1Bの発現及び活性を抑制する食品成分は、メタボリックシンドロームの改善だけでなく、PTP1Bが関与する癌などの疾患に対しても多大な効果を発揮する可能性を秘めていると考えられる。
【0030】
本発明の化合物(1)のPTP1Bの発現及び活性を抑制する活性を利用すれば、PTP1Bの関与する、インスリンの作用を負に制御すること、乳癌を進展させる細胞内シグナルを仲介することなどを、コントロール可能であり、上記した用途に加え、食物由来成分から糖尿や乳癌を負に制御出来る物質の開発が可能となる。
【実施例】
【0031】
以下の実施例は、本発明を実施する場合の好ましい例を具体的に示すことを意図するものであって、本発明がこれらの実施例によって限定されることは意図されていない。
【実施例1】
【0032】
オートクレーブで121℃、15分間殺菌した中揉緑茶200 gに、Aspergillus sp. PK-1を種菌して、30℃で7日間培養した。
こうして得られた培養茶葉を温風により80℃において乾燥する。
乾燥した茶葉2.0 gを乳鉢にて粉末化し、60%のエタノール水溶液30 mlで抽出処理し、それによって分離された抽出液をHPLC (column: TOSOH ODS 80Ts (4.6 mm i.d.×250 mm)、mobile phase: 1%酢酸-CH3CN (90:10→20:80, in 30 min)、flow rate: 0.6 ml/min.、column temperature: 40℃、detection: 280nm (UV))に付した。
得られた分析結果は、表1に示すとおりである。
【0033】
【表1】
【0034】
また、それによって単離された物質を磁気共鳴スペクトルによって解析したところ、この物質は前記の一般式(1)で表される化学構造を有する新規なポリフェノール誘導体であり、このポリフェノール誘導体は前記の構造式(2)で表されるシス型と、前記の構造式(3)で表されるトランス型からなる立体異性体であることが判明した。
そして、前記の構造式(2)で表される新規なポリフェノール誘導体は、試験の結果、内臓脂肪の減少とアディポネクチンの増加の機能性があることが判った。
【実施例2】
【0035】
静岡市市清水区の茶園(やぶきた)から一番新芽を摘採し、標準製茶法に準じて蒸熱、粗揉、揉捻、中揉まで行った後、冷蔵庫(−20℃)に1000 g保存した。室温中で解凍した前記緑茶1000 gに、前培養したAspergillus sp. PK-1を100 g混ぜ、数日中に一度撹拌しながら約25℃で、2週間と4週間培養した(処理1)。
なお、前培養したPK-1とは、オートクレーブで121℃、15分間殺菌した中揉緑茶50 gに、PK-1を種菌して、30℃で7日間培養したものである。
次いで、上記培養して得られた微生物発酵茶1,000 gに2,000 mlの温水(95℃)を加え、室温で2時間静置してエキスの抽出処理を行った。抽出処理後、茶葉を濾過して、抽出エキス液750mlを得た。
得られた抽出エキス液750 mlに対してデキストリン750 gを混ぜ、そのスラリー状混合物をスプレードライした。
【0036】
上記スプレードライして得られた粉末の成分分析の結果は、下記表2に示す通りであった。
該スプレードライ製品は、粉末状であるため保存性が良く、また取り扱いが容易であり、他の素材に添加するにも便利である。
【0037】
【表2】
【0038】
次に、前記本発明のスプレードライ製品(以下、本発明スプレードライ製品(「SDP」と記す)という)を添加した飼料をラットに給餌して飼育した結果について、説明する。
(1)試験用飼料の調製
上記で得られた本発明スプレードライ製品(SDP)を1%添加した飼料(1%添加群)と3%添加した飼料(3%添加群)と無添加飼料(対照群)の3種を表3に示す組成で調製した。
【0039】
【表3】
【0040】
(2)実験動物(ラット)及び飼育条件
ラットとしては、Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty (OLETF)雄ラット(大塚製薬(株)徳島研究所)を肥満モデルラットとして用いた。 4週齢のOLETFラット(18匹)を1ケージに1匹ずつ入れ、市販の固形飼料(TypeNMF、オリエンタル酵母(株)、東京)により5日間予備飼育を行った。その後、1群6匹ずつ3群に分けた。
表3に示す飼料(実験食)をラットに与え、pair-feedingによる28日間の飼育を行った。
期間中、水は自由に摂取させた。実験食は食餌脂肪としてコーン油及びラードを各5%ずつ含むAIN-76組成の純化食を対照食とした。
試験食として、対照食にSDP粉末を1.0%及び3.0%添加し、スクロースで100%に調製した純化食を用いた。
飼育環境は室温22〜24℃、12時間(午前8時〜午後8時点灯)のライトサイクルとした。飼育時間の最後の2日分の糞を採取した。飼育期間の最終日、一夜絶食(0:00〜9:00)を行い、ペントバルビタール麻酔下で腹部大動脈より採血した。
脂肪組織(睾丸周辺、腎臓周辺及び腸間膜)及び肝臓を摘出し重量を測定した。 遠心分離により血清を調製し、各脂質濃度及びアディポネクチン濃度を市販キットで測定した。肝臓は、Folchらの方法で脂質抽出後、各脂質濃度を測定した。また、肝臓の一部はホモジナイズした後、常法によりミトコンドリア画分、サイトソール画分及びミクロソーム画分に分画し、ミクロソーム画分のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT)活性及びサイトソール画分の脂肪酸合成酵素(FAS)の活性を測定した。
【0041】
(3)統計処理
得られた結果は、一元配置分散分析(ANOVA)の後、Turkey-kramerの多重解析法により有意差検定(p<0.05)を行った。
(4)結果及び考察
(a)体重及び摂食量
ラットの体重及び摂食量を表4に示した。摂食量及び終体重に各群間で差は認められなかったが、3%摂取群で、他の2群に比べ終体重が軽い傾向にあった。
食餌効率は、3%群で他2群に比べ低値を示した。
(b)肝臓及び脂肪組織重量
単位体重当たりの肝臓重量は、本発明スプレードライ製品(SDP)摂取量依存的に若干の低下傾向を示したが、有意な効果ではなかった。白色脂肪組織重量については、今回測定した全ての脂肪組織(睾丸周辺、腎臓周辺及び腸間膜)で、SDP摂取量依存的に有意に低下した(表4)。このことから、今回用いたSDPには体脂肪低減作用を有する成分が含まれることが示唆された。
【0042】
【表4】
【0043】
(c)血清成分分析
血清総コレステロール濃度はSDP摂取量依存的な一定の傾向は示さなかったものの、3%添加群で高い傾向を示した(表5)。血清HDL−コレステロール濃度はSDP摂取量依存的に高くなる傾向があり、3%添加群で他2群よりも有意な高値を示した。
血清トリグリセリド濃度に対するSDP摂取の影響は明確でなかったが、血清遊離脂肪酸濃度は、3%添加群で、有意な高値を示した。このことから、表2で、各脂肪組織の重量がSDP摂取群低下した理由として、脂肪組織における脂肪分解(脂肪組織からの遊離脂肪酸の放出)の亢進の可能性が示された。
血清アディポネクチン濃度は、統計的に有意な変化ではなかったものの、SDP摂取量依存的に上昇する傾向が認められた(表5)。
【0044】
【表5】
【0045】
表4で、SDP摂取により各脂肪組織重量の減少が確認されたが、このことは脂肪細胞が小型化したことを示唆しており、血清アディポネクチン濃度上昇と関連していると考えられた。軽度ながらも血清アディポネクチン濃度上昇効果が認められたことから、生活習慣病予防因子としてのSDP成分の可能性が示された。
(d)肝臓脂質濃度及び酵素活性
肝臓トリグリセリド濃度は、SDP摂取量依存的に低下し、3%添加群は対照群に比べ、有意な低値を示した(表6)。
【0046】
【表6】
肝臓サイトソールのFAS活性も同様に、SDP摂取量依存的に低下し(表6)、肝臓トリグリセリド濃度低下の一因と考えられた。
一方、肝臓ミトコンドリアのCPT活性は、各群間で差は認められなかった。一般に、肝臓の脂肪酸β酸化能は、アディポネクチンによる影響を受けることが知られるが、今回の実験条件では、SDPによる血清アディポネクチン濃度の上昇は、肝臓のCPT活性に影響するには至らなかったと推察された。
本実験で、SDP摂取による脂肪組織重量減少及び肝臓トリグリセリド濃度低下作用が認められ、血清アディポネクチン濃度が軽度ながら上昇することも観察された。
これまでの結果から、その一因として脂肪組織から遊離脂肪酸の放出及び肝臓での脂肪酸合成能低下作用が示された。
以上のように今回の実験では、3%添加群で食餌効率が有意に低下したことが確認された。
【実施例3】
【0047】
〔HPLCによる成分解析〕
Aspergillus sp. (PK-1, FERM P-21280)により発酵処理された茶葉(RS茶)を使用した。乾燥発酵茶葉(4.5 g)に、80℃のお湯(蒸留水、30 ml)を加えて、室温にて一晩静置することにより抽出処理して、濾過後に抽出液(濾液)を得た。濾液(2.5μl)をHPLC分析にかけた。HPLC分析に用いた条件は以下の通りである。
【0048】
カラム: TOSOH ODS 80Ts (4.6 mm i.d.×250 mm)
移動相: 1 mM TBA (テトラブチルアンモニウム)水溶液(pH2.9)−CH3CN (90:10→20:80, in 30 min) 〔TBA液は、約0.1%酢酸水溶液で、pH2.9に調整〕
flow rate: 0.6 ml/min.、column temperature: 40℃、detection: 280nm (UV)
HPLCの溶出パターンを、図2に示す。
【0049】
図2において、RS茶の各種成分含量(%乾燥重量あたり)は、以下の通りであった。
1:gallic acid (1.09% dw)
2:GC 〔(+)-gallocatechin〕 (3.96% dw)
3:EGC 〔(-)-epigallocatechin〕 (2.14% dw)
4:C 〔(+)-catechin〕 (0.21% dw)
5:caffeine (1.92% dw)
6:EGCG 〔(-)-epigallocatechin 3-O-gallate〕 (0.24% dw)
8:ECG 〔(-)-epicatechin 3-O-gallate〕(0.14% dw)
RS-3: 0.54% dw 〔化合物(2)〕
RS-4: 0.06% dw 〔化合物(3)〕
なお、図2には、EC 〔(-)-epicatechin〕 (0.49% dw)は示されていない。
【0050】
〔LC-TOF/MSによる成分解析〕
各種の茶(緑茶、ウーロン茶、紅茶、中国産プーアール茶)の成分と、実施例1のようにして、Aspergillus sp. PK-1で発酵処理した微生物発酵茶(RS茶)の成分比較を行った。5種の茶(例えば、各4.5 g)は、それぞれ、80℃のお湯(蒸留水、30 ml)を加えて、室温にて一晩静置することにより抽出処理して、濾過後に抽出液(濾液)を得た。成分分析は、LC-TOF/MSにより行った。LC−TOF/MS分析に用いたHPLC及びTOF/MSの条件は以下の通りである。
【0051】
HPLC (Agilent 1100 series):
カラム: ZORBAX Eclipse Plus C18、内径2.1mm×長さ100 mm、粒径3.5μm
カラム温度: 40℃、流量0.2 mL/min
移動相: 0.1%ギ酸+10 mM AcONH4 (A)、CH3CN (B)
グラジエント条件: A:B (time)
95:5 (0 min)→50:50 (30 min)→10:90 (40 min)→10:90 (45 min)
〔→95:5 (50 min)→95:5 (60 min)〕
【0052】
TOF/MS (Aglent G 1969A)
イオン化: ESI, Positive
乾燥ガス: N2, 350℃, 10 L/min
ネブライザー: N2, 50 psig
キャピラリー電圧: 4000V
フラグメンター電圧: 100V
SCAN範囲: 80〜1,200 (m/Z)
リファレンスマス: 121.0509及び922.0098
【0053】
得られた結果を、図3及び4に示す。図4のBにおける成分RS-3は、RS茶に特異的に含まれる成分の一つであり、新規物質と推察されるもので、最終的には、以下に記載の単離物Aに相当するものであった。なお、RS-3と共に、RS-1、RS-2、そしてRS-2と同一の組成を有するRS-2'は、RS茶に特異的に含まれる成分と考えられた。
【実施例4】
【0054】
〔カラムクロマトグラフィーによる新規成分(化合物(2)及び(3))の抽出及び単離〕
〔処理1〕
成分RS-3(すなわち、単離物A)は新規物質と推察されたので、茶葉からの抽出、単離を試みた。単離の過程で、単離物Aと同一の組成を有する単離物Bも単離された。これらの新規成分の単離手順は以下に示す。
実施例1に記載したようにして、Aspergillus sp. (PK-1, FERM P-21280)により発酵処理された茶葉を使用した。乾燥茶葉207 gを80%エタノール(800 ml)で一晩抽出後、ガーゼで濾過した。残渣茶葉は80℃のお湯800 mlで一晩抽出し、再度濾過した。それぞれの濾液は、エバポレーターで濃縮後、DIAIONカラム(4x33 cm、三菱化学(株))に付し、メタノール−水混合液(0%−20%−40%−60%−100%、500mlずつ)で溶出した。40%メタノール溶出画分を濃縮後、Sephadex LH20カラム(4x50 cm、Pharmacia Corporation)に付し、60%メタノール水溶液にて溶出し、2画分を得た。
【0055】
画分1から、結晶化(溶媒:水)により単離物A(化合物(2)、290mg)を得た。
画分2は、Sephadex LH20(4x32 cm、Pharmacia Corporation)に付し、80%エタノール水溶液にて溶出し、RS-4を含む画分を得た。その画分を濃縮後Preparative C18(3x20 cm、Waters Corporation)に付し、メタノール−水混合液(0%−20%−40%−60%−100%、300mlずつ)で溶出し、20%メタノール溶出画分を得た。その画分を濃縮後、Fuji-gel 0DS(3x19 cm、富士ゲル販売(株))に付し、メタノール−水混合液(0%−20%−40%−60%−100%、300mlずつ)で溶出し、20%メタノール溶出画分を濃縮し、結晶化(溶媒:水)により成分RS-4にあたる単離物B(化合物(3)、43mg)を得た。
【0056】
〔処理2〕
上記のようにして、Aspergillus sp. (PK-1, FERM P-21280)により発酵処理された茶葉を使用した。乾燥茶葉(207 g)を80%エタノール(800 ml)により室温で12時間抽出した。得られた抽出液を、真空濃縮し、次に、得られた濃縮抽出物(37 g)を、DIAION HP20SSカラム(三菱化学(株))に付し、メタノール−水混合液(0:0→100:0)で溶出した。4画分〔画分1 (5 g)、画分2 (1 g)、画分3(17 g)、画分4(3 g)〕を得た。当該画分3をSephadex LH20カラム(Pharmacia Corporation)に付し、60%メタノール水溶液にて溶出し、2画分〔画分3-1、画分3-2〕を得た。
【0057】
画分3-1(13 g)をODS-G3カラム(富士ゲル販売(株))に付し、H2Oとメタノールにより段階的に溶出処理し、単離物A(化合物(2)、390 mg)を得た。
画分3-2(2.3 g)をSephadex LH20カラム(Pharmacia Corporation)に付し、80%メタノール水溶液にて溶出し、次に、ODS-G3カラム(富士ゲル販売(株))に付し、H2Oとメタノールにより段階的に溶出処理し、さらに、調製用(Preparative) C18 125Å(Waters Corporation)に付し、H2Oとメタノールにより段階的に溶出処理し、単離物B(化合物(3)、88 mg)を得た。
【0058】
単離物Aにつき、質量分析(MS)、赤外スペクトル分析(IR)、核磁気共鳴分析(NMR)などにより、その化学構造を決定した。結果、単離物Aは、次式:
【0059】
【化5】
の化学構造を有する化合物と同定されるもので、それをテアデノールA (teadenol A)と名づけ、上記したように新規化合物であることが確認できた。
【0060】
単離物A: 白色結晶、mp 235-240℃ (分解)、[α]D21 +467.8°(c 0.15, DMSO)、m/z 276.0638, C14H12O6、NMR (in DMSO-d6): 表7参照。
IR (KBr) cm-1: 3420, 1700, 1632, 1611, 1386, 1273, 1260, 935。
【0061】
【表7】
【0062】
単離物Bは、テアデノールAと同一の分子式: C14H12O6を有しており、次式:
【0063】
【化6】
の化学構造を有する化合物と同定されるもので、それをテアデノールB (teadenol B)と名づけた。
【0064】
単離物B: 灰色がかった白色結晶、mp 258-275℃ (分解)、[α]D20 −27.7°(c 0.18, MeOH)、m/z 276.0640, C14H12O6、NMR (in CD3OD): 表8参照。
【0065】
【表8】
【0066】
〔テアデノールの調製〕
EGCG 〔(-)-エピガロカテキン 3-O-ガレート: (-)-epigallocatechin 3-O-gallate〕(SIGMAより購入、16 mg)を、水(20 ml)に溶解し、オートクレーブ(121℃、15min)で処理した。本オートクレーブでの処理で、EGCGのおおよそ半分が、そのC-2エピマーに変換せしめられる。ジャガイモ-デクストロース-アガー(Potato Dextrose Agar)固体培地でサブ培養せしめられたAspergillus sp. (PK-1, FERM P-21280)を、当該オートクレーブ処理されたEGCG含有液(EGCGとGCGの混合物)に接種し(1 cm×1 cmのピース)、得られた混合物液を暗所条件、25℃でロータリー式振とう器(rotary shaker, 60 rpm)上で培養せしめた。2週間培養した後、培養処理されて得られた液中の成分の分析を行った。当該液を、ミリポアフィルター(0.45μm)を通して濾過後、HPLCに付した。分析に用いたHPLCの条件は以下の通りである。
カラム: TOSOH ODS 80Ts (4.6 mm×250 mm、東ソー(株))、移動相(mobile phase): 0.1%ギ酸−CH3CN (9:1→1:4 in 30 min)、flow rate: 0.6 ml/min、column temperature: 40℃、detection:80 nm (UV)、化合物のretention time (min): EGCG (18.7), GCG (19.8), テアデノールA (24.9)及びテアデノールB (27.7)。テアデノールAは、62.5±15.6μgを検出し、テアデノールBは、24.4±7.3μgを検出した(3回の実験のMean±SD)。
【実施例5】
【0067】
〔アディポネクチン分泌促進作用〕
3T3-L1脂肪細胞(3T3-L1 adipocytes)は、50 U/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン、10% FCSを含有する高グルコースDMEM中で 5% CO2環境下、生育及び維持をすることができる。3T3-L1細胞を直径3.5cmディッシュに継代しコンフルエントになった後、インスリン(10μg/ml)、デキサメサゾン(0.25μM)、IBMX(3-イソブチル-1-メチルキサンチン)(0.5mM)存在下で、さらに2日間培養し、十分に脂肪細胞に分化させた。十分に分化した3T3-L1脂肪細胞に対してテアデノールA(10μM)あるいはDMSO (vehicle control)を添加し、8、24、32、48時間後に培養上清を回収し、分泌されたアディポネクチン量をウエスタンブロット法により定量した。結果を図5に示す。ウエスタンブロットのパターンは代表的なものを示し、3連の結果を示してある。表9には結果をまとめて示す。
【0068】
【表9】
アディポネクチン分泌量とテアデノールA添加後の時間との関係を、図6に示す。アディポネクチン分泌促進活性に関し、24、48時間後では統計的有意差を持ってテアデノールA添加効果が認められる。同様にして、テアデノールBについても、アディポネクチン分泌促進作用につき、その添加効果を確認することができる。
【実施例6】
【0069】
〔PTP1B発現抑制作用〕
十分に分化した3T3-L1脂肪細胞に対してテアデノールA(10μM)あるいはDMSO (vehicle control)を添加し、8、24、32、48時間培養後に細胞を回収し、分泌されたPTP1B量及びα-tubulin量をウエスタンブロット法により定量した。結果を、図7〜11に示す。なお、図において「テアデノール」は、テアデノールAを示す。図7〜9においては、ウエスタンのパターンは代表的なものを示し、図10には、3連の結果をまとめて示す。
PTP1B発現量とテアデノールA添加後の時間との関係を、図11に示す。PTP1B発現抑制活性に関し、32時間後では統計的有意差を持ってテアデノール添加効果が認められる。同様にして、テアデノールBについても、PTP1B発現抑制作用につき、その添加効果を確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の新規なポリフェノール誘導体は、従来既知の多くの種類のポリフェノール誘導体と同様に、特有の生理活性作用を示す機能性物質として利用されことが期待される。本発明で得られたポリフェノール誘導体は、加工食品、調味料、サプリメント等の健康補助食品、ペットフード等の動物用飼料や化粧品等に使用できる。
【符号の説明】
【0071】
1・・・・没食子酸のピーク
2・・・・ガロカテキンのピーク
3・・・・エピガロカテキンのピーク
4・・・・カテキンのピーク
5・・・・カフェインのピーク
6・・・・エピガロカテキンガレートのピーク
7・・・・ケンフェロールトリグリコシドのピーク
8・・・・エピカテキンガレートのピーク
A・・・・本発明に係わるシス型ポリフェノール誘導体のピーク
B・・・・本発明に係わるトランス型ポリフェノール誘導体のピーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)によって表されるポリフェノール誘導体。
【化1】
【請求項2】
茶葉でアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕を培養することによって得られる微生物発酵茶葉に抽出処理を施して、請求項1記載のポリフェノール誘導体を単離させること、及び/又は、(-)-エピガロカテキン 3-O-ガレート及び/又はそのC-2エピマーとアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕又はそのエキスを接触せしめ、上記の一般式で表されるポリフェノール誘導体を生成させることを特徴とする、前記ポリフェノール誘導体の産生方法。
【請求項3】
前記培養の前に茶葉を殺菌し、そして前記培養の後に茶葉を乾燥する、請求項2記載の産生方法。
【請求項4】
前記の抽出処理のための溶剤として、エタノール、水性エタノール又は水が用いられる、請求項2又は3に記載された産生方法。
【請求項5】
請求項1記載のポリフェノール誘導体を含む加工食品。
【請求項6】
請求項1記載のポリフェノール誘導体を含む調味料。
【請求項7】
請求項1記載のポリフェノール誘導体を含む健康補助食品。
【請求項8】
請求項1記載のポリフェノール誘導体を含む動物用飼料。
【請求項9】
請求項1記載のポリフェノール誘導体を含む化粧品。
【請求項1】
下記の一般式(1)によって表されるポリフェノール誘導体。
【化1】
【請求項2】
茶葉でアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕を培養することによって得られる微生物発酵茶葉に抽出処理を施して、請求項1記載のポリフェノール誘導体を単離させること、及び/又は、(-)-エピガロカテキン 3-O-ガレート及び/又はそのC-2エピマーとアスペルギルス属sp. (PK-1)菌〔Aspergillus sp. (PK-1)〕又はそのエキスを接触せしめ、上記の一般式で表されるポリフェノール誘導体を生成させることを特徴とする、前記ポリフェノール誘導体の産生方法。
【請求項3】
前記培養の前に茶葉を殺菌し、そして前記培養の後に茶葉を乾燥する、請求項2記載の産生方法。
【請求項4】
前記の抽出処理のための溶剤として、エタノール、水性エタノール又は水が用いられる、請求項2又は3に記載された産生方法。
【請求項5】
請求項1記載のポリフェノール誘導体を含む加工食品。
【請求項6】
請求項1記載のポリフェノール誘導体を含む調味料。
【請求項7】
請求項1記載のポリフェノール誘導体を含む健康補助食品。
【請求項8】
請求項1記載のポリフェノール誘導体を含む動物用飼料。
【請求項9】
請求項1記載のポリフェノール誘導体を含む化粧品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−84560(P2011−84560A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209087(P2010−209087)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(504428636)株式会社RIVERSON (11)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(504428636)株式会社RIVERSON (11)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
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