説明

ポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法

【課題】評価に供する試料の量が少なく、簡便、迅速且つある程度客観的に評価でき、最初の探索段階で候補のある程度の絞り込みを可能とする、評価手法の提供。
【解決手段】基材にホスホリルコリン基を被覆したものに、ポリフェノール類化合物を接触させ、接触の結果結合した化合物を苦渋味発現傾向の強いものと評価する。好ましくは、ホスホリルコリン基含有共重合体を疎水性基材に吸着させたものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
美味しくて機能性の高い新世代の飲料や食品を開発することで他社製品と差別化を図ろうとする傾向の中で、様々な機能性を持つポリフェノール類化合物が注目されている。しかし、ポリフェノール類化合物には苦渋味が強いものも多く、機能性を高めるために大量に添加することは、飲料や食品の苦渋味を強めるため好ましくない。
苦渋味を軽減するためには、苦渋味が強い物質を除去または低減したり、苦渋味発現を抑制する作用の有る物質を付加または増強したりすることになり、その前提として物質毎に苦渋味を評価することが必要である。
而して、苦渋味を評価する手法としては、ヒト官能試験が一般的であるが、客観性を担保するためには優秀なパネリストを確保しなければならず、時間とコストの点で問題がある。
また、最近では、特許文献1に記載されているように、味覚センサなる装置も開発されているが、一度に使用する試料の量が数十〜数百mLと多い上に、装置自体が高価で測定から解析まで約一日掛かるため、時間とコストの点から同様に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−264289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのため、最初から上記した手法で膨大な物質を1つずつ正確に評価するのではなく、最初の探索段階ではある程度の精度で様々な物質から候補を絞り込み、更にその候補となった物質について上記した手法で正確な評価をすることが効率的である。
本発明は、それに応えて、極めて少量で、簡便、迅速且つある程度客観的に評価でき、最初の探索段階で候補のある程度の絞り込みを可能とする、新規且つ有用な評価手法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法は、基材にホスホリルコリン基を有する化合物を固定したものに、液状のポリフェノール類化合物を接触させ、接触の結果結合し易いものを苦渋味発現傾向の強いものと評価することを特徴とする。
また、評価対象とする物質がカテコール構造を有する場合には、接触の結果結合した物質とその周囲の溶媒を、レドックス・サイクリング染色法により染色し、その染色度合いからその結合した物質の量を評価することを特徴とする。
【0006】
本発明は、以下の知見を利用したものである。
(1)苦渋味は、舌上皮細胞の細胞膜上に存在するリン脂質膜やタンパク質などの生体成分と親和性が高く相互作用し易い物質が発現し易く、逆に相互作用し難い物質が発現し難いと考えられていること。
(2)細胞膜を構成するリン脂質膜の主要な構成成分であるホスホリルコリン基を有する化合物でも上記と同様な相互作用を示し、しかも、種々の固定方法により基材上にホスホリルコリン基を有する層を形成することができ、特にホスホリルコリン基を含む重合体をコーティング(被覆)すれば基材上に簡易に再現性高く適度な吸着強度で固定させたホスホリルコリン基を有する被覆層を形成することが可能であること。
(3)疎水性基材にホスホリルコリン基を有する化合物を固定すれば、ポリフェノール類化合物をホスホリルコリン基に結合し易くできること。
(4)ポリフェノール類化合物にはカテコール構造を有し、レドックス・サイクリング染色法により染色される物質が多く存在するが、上記したホスホリルコリン基を有する化合物に結合した状態でも、染色強度の増減に影響が無いこと。
【発明の効果】
【0007】
ホスホリルコリン基は生体中のリン脂質膜の構成成分のひとつで、これを利用することで、ポリフェノール類化合物の苦渋味を評価できる。
特に、ホスホリルコリン基を含有する重合体は、簡易に且つ均一に基材に適度な強度で固定させることができ、結果として生体中のリン脂質膜に酷似させることが可能となっている。しかも、カテコール構造を有する物質は、ホスホリルコリン基に結合した状態でも、レドックス・サイクリング染色法による染色強度の増加には影響しない。
従って、本発明によれば、ホスホリルコリン基を有する化合物、特に、ホスホリルコリン基を含有する重合体、さらには、少なくとも2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を構成成分のひとつとして含有する重合体の利用と、更にはポリフェノール類化合物の種類によってはレドックス・サイクリング染色法との併用により、簡便、迅速且つある程度客観的にポリフェノール類化合物の苦渋味を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ホスホリルコリン基含有重合体コートプレートの構造の概念図である。
【図2】本発明の評価方法の実施工程図である。
【図3】レドックス・サイクリング染色法の説明図である。
【図4】実施例における実験結果(試料の濃度の影響)を示すグラフである。
【図5】実施例における実験結果(試料の静置時間の影響)を示すグラフである。
【図6】実施例における実験結果(試料のpHの影響)を示すグラフである。
【図7】実施例における実験結果(試料の塩濃度の影響)を示すグラフである。
【図8】実施例における市販飲料の評価結果を示すグラフである。
【図9】実施例におけるワインの渋味の、ヒト官能試験と本発明の方法による評価結果を比較して示したものである。
【図10】実施例における柿の渋味の、ヒト官能試験と本発明の方法による評価結果を比較して示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
基材にホスホリルコリン基を有する化合物を用いて被覆層を形成するには、種々の方法、例えば、ホスホリルコリン基を有する化合物を含む反応試薬を、基材の表面に化学修飾法により固定する方法、ホスホリルコリン基を有する化合物の重合体を容器の所望表面にコーティング法により固定する方法、ホスホリルコリン基を有する重合体を容器の所望表面に化学結合法により固定する方法が挙げられるが、特に、前記コーティング法は、簡便に、ホスホリルコリン基を有する化合物による均一な被覆層を形成できることから好ましい。
【0010】
ホスホリルコリン基を有する化合物の重合体としては、例えば、化(1)で表されるホスホリルコリン基含有単量体(M)の単独重合体、及び該単量体(M)と他の単量体との共重合体の少なくとも1種が挙げられる。
【0011】
【化1】

化(1)中、R1は炭素数1〜6のアルキル基を示し、R2は水素原子又はメチル基を示す。
【0012】
化(1)で表される単量体(M)としては2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートが好ましく、さらに2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)が入手容易性の点から好ましい。
【0013】
共重合体を得るための他の単量体としては、疎水性単量体、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等のイオン性基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の含窒素単量体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート又はこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0014】
疎水性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環状アルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の疎水性ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体又はこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0015】
前記共重合体において、疎水性単量体に由来する構成単位は、共重合体の構成単位中90モル%以下が好ましく、特に20〜90モル%が好ましい。疎水性単量体に由来する構成単位を有する共重合体は、耐溶出性が向上するが、疎水性単量体に由来する構成単位が90モル%を超えると、容器表面におけるホスホリルコリン基の被覆量が少なくなり、被覆の効果が十分に発揮できなくなる恐れがあるので好ましくない。
上述の疎水性単量体以外の単量体に由来する構成単位が共重合体に含まれると耐溶出性が向上し、培地等に界面活性剤、有機溶剤を使用できることになるので好ましい。
例えば、グリシジル(メタ)アクリレートを用いた共重合体は、容器表面のアミノ基、カルボキシル基等と反応させることができ、該共重合体を、所望表面に化学的に結合させることができる。
前記共重合体において、疎水性単量体以外の単量体に由来する構成単位の割合は、70モル%以下が好ましい。
【0016】
化(1)で表されるホスホリルコリン基含有単量体(M)の単独重合体、又は該単量体(M)と他の単量体との共重合体の分子量は、重量平均分子量で通常5000〜5000000である。
このようなホスホリルコリン基含有重合体としては、例えば、日油株式会社が製造するリピジュア(登録商標)シリーズの製品などを用いることができる。
【0017】
基材の素材は、特に限定されず、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル樹脂、ガラス、金属等が挙げられるが、疎水性基材を使用すれば、ホスホリルコリン基を被覆層の表側に優先的に配向させることができることから好ましい。
【0018】
単量体(M)の単独重合体、及び単量体(M)と他の単量体との共重合体の少なくとも1種を用いて基材表面に被覆層を形成するには、例えば、重合体を、水、エタノール、メタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール等に単独に溶解あるいは、水とエタノール、エタノールとイソプロパノール等の混合溶剤に溶解してコーティング液を作製し、基材、例えばプラスチック製の複数穴プレートを浸漬あるいはスプレーし、その後乾燥により溶媒を除去する。
また、共重合体が、エポキシ基、イソシアネート基、スクシンイミド基、アミノ基、カルボキシル基又は水酸基等の化学結合可能な官能基を有する場合には、基材表面のアミノ基、カルボキシル基又は水酸基と化学反応させるために、共重合体を含む溶液を化学結合可能な官能基が反応しない溶剤に溶解し、基材表面と化学結合させ被覆層を形成した後に、未反応の重合体を洗浄除去する。
コーティング液中の重合体の濃度は特に限定されず、上記した操作性を考慮して適宜設定されるが重量濃度で0.01〜50%、好ましくは0.1〜5.0%が良い。濃度が低すぎれば十分なホスホリルコリン基を含有する被覆層を得ることはできないし、多すぎても経済的ではない。
【0019】
図1にはMPCの模式図、MPCと疎水性モノマーと共重合させたときのMPCポリマー例の模式図、そして、MPCと疎水性モノマーとを共重合させて得られたMPCポリマーを容器(プレート)にコートしたときの模式図を示す。MPCは図1に示すようにホスホリルコリン基と、重合性基のメタクリロイル基から構成されており、図1のMPCと疎水性モノマーと共重合させたときのMPCポリマー例のように、MPCポリマーはこのMPCを構成単位に持つポリマーである。
疎水性基材を使用した場合には、被覆層の表面側には疎水性部分であるメタクリロイル基が優先的に吸着し、親水性部分であるホスホリルコリン基側は離間側に優先的に配向するので、ホスホリルコリン基が疎水性基材の表面に露出した状態で吸着されることになる。この状態は、生体中のリン脂質膜に類似することを確認しており、本発明では、このMPCポリマーで被覆した、MPCコートプレートを使用することを推奨する。
具体的な製品としては、日油株式会社が製造・販売する商品名:リピジュア−コート(登録商標)等が挙げられる。
【0020】
次に、コートプレートと、レドックス・サイクリング染色法を利用した苦渋味の評価方法の実施手順を、図2に従って説明する。
(プレートの活性化)
コートプレートに洗浄液を加え、適当に振とうした後、洗浄液を除去して、プレート中の被覆層である重合体を水に馴染ませる。
(測定試料の添加)
評価対象とする測定試料を加え、一定時間静置あるいは振とうしてインキュベーションを促す。この段階で、コートプレートに特定の物質が結合することになる。本発明では、結合し易い物質が苦渋味発現傾向の強いもの、即ち苦渋味の強いものであり、結合し難い物質が苦渋味発現傾向の弱いもの、即ち苦渋味の弱いものと想定している。
(プレートの洗浄)
上記した活性化で実施した操作を実施してプレートを洗浄することで、結合しなかった物質が除去される。
【0021】
(レドックス・サイクリング染色)
レドックス・サイクリング染色法により、プレートに残った物質とグリシンおよび発色剤の化学反応により周囲の溶液を呈色させ、その度合いを評価する。
図3に示すように、カテコール構造を有する物質は、アルカリ性条件下で活性酸素種(ROS)を産生し、キノン化合物を生成する。生成したキノン化合物は、グリシン存在下でレドックス・サイクルを形成し、再びROSを産生するので、1分子のポリフェノールから産生するROSの量が増幅される。水溶性の発色剤であるWST-8などの水溶性テトラゾリウムは、ROSを還元すると共に自身は酸化され水溶性ホルマザンとなり、460 nmにおいて極大吸収を持ち、上記したレドックス・サイクリング下では増幅したROSの量に比例して染色強度、即ち吸光度が増加するので、プレートに結合した物質毎に吸光度の差が大きく出ることになる。
従って、本発明では、レドックス・サイクリング下での水溶性ホルマザンによる染色により少量の試料にも対応可能としている。
定性的に簡易検査する場合には目視で十分であるが、定量にしたい場合には、予め用意しておいた検量線を利用して、測定試料の吸光度を基に結合量を算出すればよい。
【実施例1】
【0022】
以下の手順に従って、飲料や食品として提供される可能性が有る形態に擬した試料を作製し、本発明の評価方法での信頼性を確認した。
試料は、カテキン類である、エピガロカテキン(EGC)とエピガロカテキンガレート(EGCg)とした。没食子酸がエステル結合したガレート基を持つEGCgがガレート基を持たないEGCよりもリン脂質膜に対する親和性が高く相互作用がし易い物質であることが既に確認されていることから、本発明の評価方法の信頼性を確認するために、EGCとEGCgを使用することとした。
【0023】
(プレートの活性化)
96穴マイクロタイタープレートにMPCポリマーを被覆したMPCポリマーコートプレート(商品名:リピジュア−コート)に洗浄液の一例であるPBS(=リン酸緩衝生理食塩水)を200 μL/wellずつ加えて30秒間振とうした後、洗浄液を完全に除去する操作を3回繰り返し実施して、プレート中のMPCを水に馴染ませた。
(測定試料の添加)
評価対象とする測定試料は、カテキン類(EGC(エピガロカテキン)、EGCg(エピガロカテキンガレート))を緩衝液(100 mM)に溶解したものとし、これを100 μL/wellずつ添加し、一定時間静置した。
(プレートの洗浄)
測定試料をwellから取り除き、さらに、上記した活性化工程で実施した操作を3回にわたって繰り返し実施した。
(レドックス・サイクリング染色)
水溶性テトラゾリウム(0.01%(w/v))を含む2.0 Mグリシン水溶液(pH 10.0)を使用する直前に調整し、プレートに200 μL/wellずつ加えて溶液を呈色させ、結合量を算出した。
【0024】
〈試料の濃度の影響〉
pH 6.0のリン酸緩衝液 (PB) に溶解して濃度を5、10、50 μMとしたものを測定試料とし、これを添加して10分間静置した。発色時間は0〜30分とした。
図4に示すように、測定試料の濃度が5〜50 μMとかなり広い範囲で変動しても、EGCの吸光度は殆ど変動せず、EGCとEGCgの差は十分にあり、特に発色時間を延ばすことでその差は大きく出ることが確認された。
【0025】
〈試料の静置時間の影響〉
pH 6.0のPBに溶解して濃度を10 μMとしたものを測定試料とし、これを添加して0〜120分間静置してインキュベーションを促した。発色時間は15分とした。
図5に示すように、静置時間が10分程度でも、EGCの吸光度は殆ど変動せず、EGCとEGCgの差が十分に出ることが確認された。
【0026】
〈試料のpHに及ぼす影響〉
pH 4.0 〜8.0の緩衝液(pH 6.0〜8.0はPB、pH 4.0〜5.0は酢酸緩衝液)に溶解してpHを調整したものを測定試料とし、これを添加して15分間静置した。発色時間は10分とした。
図6に示すように、飲料として提供される弱酸性〜中性のpH範囲では、EGCとEGCgの差が十分に出ることが確認された。
【0027】
〈試料の塩濃度に及ぼす影響〉
種々の塩濃度のpH 6.0のPBに溶解したものを測定試料とし、これを添加して15分間静置した。発色時間は15分とした。
図7に示すように、飲料として提供される可能性のある塩濃度の範囲では、EGCとEGCgの差が十分に出ることが確認された。
【0028】
上記の結果により、発光時間を長くすることにより、飲料や食品を試料としてそのまままたは水あるいは塩を含む溶液で希釈することにより、測定試料として使用できることが確認された。
【実施例2】
【0029】
各種市販飲料について、実施例1と同様に試験を実施して、本発明の評価方法での信頼性を確認した。
具体的には、各種市販飲料をそれぞれに対応した飲用温度で保持しながら、水で10倍に希釈したものを測定試料とし、これを飲料として摂取する際に口に含む時間を考慮して約1秒間接触させた。発光時間は15分とした。
図8に示すように、EGCgを含む飲料は十分な吸光度を示すことが確認された。
【実施例3】
【0030】
本発明の評価方法による信頼性をヒト官能試験の結果を照合して確認した。
(1)ワインを80℃で湯煎してアルコールを飛ばし、常温に戻してから水で100倍に希釈して、これを測定試料とした。そして、各種試料について、実施例2と同様にして吸光度を測定した。
(2)柿1 gに対して水9 mLを加えて乳鉢中でよく磨り潰した後に、遠心分離に供し上澄みを回収して、これを測定試料とした。そして、各種試料について、実施例2と同様にして吸光度を測定した。
いずれも、ポジティブコントロールとしてタンニン酸(50 μM)を使用した。
図9、図10に示すように、いずれも、本発明の評価方法より算出された吸光度の数値の差はヒト官能試験の結果と一致した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の方法によれば、測定条件をそれ程厳密に設定せずとも、物質の苦渋味をヒト官能試験や味覚センサなどの既存の方法に比べて、少量で、簡便、迅速且つある程度客観的に評価できるので、予備的手法としての利用価値が高いものと期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にホスホリルコリン基を有する化合物を固定したものに、液状のポリフェノール類化合物を接触させ、接触の結果結合し易いものを苦渋味発現傾向の強いものと評価することを特徴とするポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載したポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法において、基材にホスホリルコリン基を有する重合体を被覆により固定したものを使用することを特徴とする評価方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載したポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法において、疎水性基材にホスホリルコリン基と少なくとも疎水性単量体を含む重合体を固定したものを使用することを特徴とする評価方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載したポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法において、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位とする重合物を被覆したものを使用することを特徴とする評価方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載したポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法において、接触の結果結合した化合物周囲の溶液を、レドックス・サイクリング染色法により呈色させて吸光度を増加させて、吸光度の度合いで苦渋味発現傾向を評価することを特徴とするポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載したポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法において、ポリフェノール類化合物を水性液形態で接触させることを特徴とする評価方法。
【請求項7】
請求項6に記載したポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法において、ポリフェノール類化合物を含む飲料またはその希釈液を接触させることを特徴とする評価方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−108829(P2013−108829A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253607(P2011−253607)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】