説明

ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントの製造方法

【課題】
高引張強度、高結節強度を有するとともに、耐衝撃性も十分に優れ、特に釣り糸を代表とする水産資材用として有用な特性を兼備したポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントの工業的製造に好適な製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】
ポリフッ化ビニリデンを含有する芯鞘複合構造モノフィラメントの製造方法であって、溶融紡糸、冷却後に1段ないし2段以上の多段で延伸し、弛緩熱処理する際に、1段目延伸以降弛緩熱処理までの間で550〜1000℃に加熱された不活性気体中で、0.05〜1秒間、1.0〜1.2倍の高温短時間緊張熱処理を施すことを特徴とする芯鞘複合構造モノフィラメントの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高引張強度、高結節強度のポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、高引張強度、高結節強度を有するとともに高衝撃強度及び優れた均一性を兼備し、特に釣糸や漁網用として好適なポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントは、強靱性、耐衝撃性、透明性及び耐光性などに優れ、しかも高比重で水中に沈み易い。さらに屈折率が水に近いので水中における光の表面反射が極めて少ないという特性を有するので、特に釣糸や漁網用の素材として好適である。
【0003】
しかし、これらの用途においては、常に品質斑がなく、より細く、より強いこと、且つ耐衝撃性に優れることが要求される。釣糸として用いる場合は、高強度の他に、釣糸として必要な他の特性、例えば耐衝撃性等にも優れることが要求される。ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントの特性改善に表層の低配向化が有効であることが従来から知られており、以下の方法が既に提案されている。
【0004】
特許文献1には芯のインヘレント粘度が1.1dl/g以上であり鞘部の見掛け粘度が芯部の見掛け粘度より低い、芯鞘2層構造のモノフィラメントが開示されている。しかし芯を高粘度ポリマ、鞘を低粘度ポリマの芯鞘複合構造としているものの、延伸・熱処理を従来の比較的低温の方法で行っており、強度が不十分であった。
【0005】
特許文献2には溶融紡糸されたフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントを延伸する延伸工程と、延伸されたフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントを、温度が220℃以上300℃未満の気相中で、緩和率が4%以上10%未満、且つ、通過時間が5秒以下となる条件で緩和熱処理する乾熱緩和処理工程と、を備えることを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントの製造方法が開示されており、また特許文献3にはインヘレント粘度が相対的に高い芯部と、インヘレント粘度が相対的に低い鞘部とを溶融紡糸後延伸し、温度140〜175℃の加熱油浴中で0.05〜0.5秒の極短時間の高温緩和熱処理に付すことを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントの製造方法が開示されている。しかしながら、これらの方法は、フッ化ビニリデンの融点以上で短時間の弛緩熱処理することを提案しているが、表層のみならず繊維全体の配向が緩和してしまうため、強度が不十分であった。
【0006】
一方、特許文献4には延伸後の複屈折が25×10−3以上のポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを、50℃ないし該ポリマの融点未満の温度に加熱された液体中または不活性気体中で1〜30秒間、3〜15%の弛緩率で熱処理し、次いで530℃〜1000℃に加熱された不活性気体中で、1秒以下の高温短時間緊張熱処理、または延伸倍率1.2倍以下で高温短時間熱延伸を施す高強度ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントの製造方法が開示されており、また特許文献5にはポリフッ化ビニリデン系重合体を溶融紡出し、冷却固化し、延伸倍率4.5〜6.2で延伸を行なった後、550℃〜1000℃の不活性な高温流体中で2秒間以下の高温短時間熱処理を行ない、引続き再延伸し、リラックス熱処理することを特徴とする高強度ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントの製造方法が開示されている。しかしながら、これらの方法は熱処理の効果としては十分であるものの繊維構造が単成分であり、強度が不十分であった。
【特許文献1】特許第1459263号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2001−200425号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2005−105483号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平5−148707号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平7−138810号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、高引張強度、高結節強度を有するとともに、耐衝撃性も十分に優れ、特に釣り糸を代表とする水産資材用として有用な特性を兼備したポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントの工業的製造に好適な製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、芯成分が高粘度、鞘成分が低粘度の芯鞘複合構造を有するポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを溶融紡糸・延伸し、さらに融点を大幅に上回る高温下での短時間緊張熱処理をした後に弛緩熱処理をすることで上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)芯成分がインヘレント粘度1.15〜1.35gdl/gのポリフッ化ビニリデンを含有するポリフッ化ビニリデン樹脂組成物、鞘成分がインヘレント粘度0.8〜1.0dl/gのポリフッ化ビニリデンを含有するポリフッ化ビニリデン樹脂組成物からなり、繊維軸垂直断面における芯成分と鞘成分の面積比率が80/20〜98/2である芯鞘複合構造モノフィラメントの製造方法であって、溶融紡糸、冷却後に1段ないし2段以上の多段で延伸し、弛緩熱処理する際に、1段目延伸以降弛緩熱処理までの間で550〜1000℃に加熱された不活性気体中で、0.05〜1秒間、1.0〜1.2倍の高温短時間緊張熱処理を施すことを特徴とする芯鞘複合構造モノフィラメントの製造方法。
(2)繊維軸垂直断面における芯成分と鞘成分の面積比率が85/15〜95/5であることを特徴とする上記(1)に記載の芯鞘複合構造モノフィラメントの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により引張強度、結節強度、衝撃結節強度に優れ、さらに結節強度バラツキの少ないポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントが得られる。本発明の製造方法で得られるモノフィラメントは優れた機械的特性を活かして釣糸や漁網などの水産資材用繊維として好ましく使用できる。さらに水産資材用以外の用途、たとえばゴムベルトの補強、スリング、ロープなどの運搬用資材、フェンス、落石防止などの土木用資材にも有効に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントの製造方法について詳細に説明する。
【0011】
本発明は芯成分がインヘレント粘度1.15〜1.35gdl/gのポリフッ化ビニリデンを含有するポリフッ化ビニリデン樹脂組成物、鞘成分がインヘレント粘度0.8〜1.0dl/gのポリフッ化ビニリデンを含有するポリフッ化ビニリデン樹脂組成物からなる、芯鞘複合構造とすることが特徴である。なおインヘレント粘度とは、樹脂4gを1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度をいい、以下「ηinh」で表わすことがある。
【0012】
インヘレント粘度が1.15を超えるような高分子量のポリフッ化ビニリデンは、適切な高配向化を施すことにより、高い結節強度を有するモノフィラメントを形成可能である。しかしながら高粘度ポリマを使用すると溶融紡糸時に繊維長さ方向の直径斑やメルトフラクチャーと呼ばれる繊維表面への短周期の凹凸が発生しやすく、安定した溶融紡糸が困難となる。
【0013】
そこで上記に示す芯鞘複合構造とすることにより安定した溶融紡糸によるモノフィラメントが形成可能となる。
【0014】
芯成分に用いるポリフッ化ビニリデンのインヘレント粘度が1.15dl/g未満ではモノフィラメントの高強度化が困難となり、1.35dl/gを超えると芯鞘複合構造としても安定した溶融紡糸が困難となる他、延伸性が著しく低下し、高強度化が困難となる。
【0015】
鞘成分に用いるポリフッ化ビニリデンのインヘレント粘度が0.8dl/g未満では鞘層が傷つきやすく高結節強度化が困難となる他、摩擦により表面が損傷しやすくなり、使用時における耐久性が低下する。一方、1.0dl/gを越えると、本発明の特徴である高温短時間熱処理を施しても表層の低配向化による高結節強度化が困難となる他、繊維長さ方向の直径斑やメルトフラクチャーが発生しやすく、安定した溶融紡糸が困難となる。
【0016】
また、本発明は繊維軸垂直断面における芯成分と鞘成分の面積比率は80/20〜98/2、好ましくは85/15〜95/5である。
【0017】
芯の断面積比率が80%未満では高強度化が困難であり、98%を越えると安定した溶融紡糸が困難となる他、使用時に鞘成分が割れやすくなり耐久性が低下する。
【0018】
本発明の方法に用いるポリフッ化ビニリデンは、ポリフッ化ビニリデンホモポリマに限定されず、分子鎖の繰り返し構造単位の80モル%以上がフッ化ビニリデン単位からなる共重合ポリマであってもよい。共重合成分としては、例えばテトラフロロエチレン、トリフロロモノクロロエチレンおよびヘキサフロロプロピレンなどが挙げられる。なお、フッ化ビニリデン単位が80モル%未満の場合は、結晶性が低下し低強度となり好ましくない。
【0019】
また、本発明で用いるポリフッ化ビニリデン樹脂組成物には、その性質を損なわない範囲で各種有機顔料、ポリエステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、フラバントロンで代表される核剤、或いは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエステル、アクリル酸メチル−イソブチレン共重合体等のフッ化ビニリデン樹脂との相溶性が良好な樹脂が含まれていてもよく、さらに無機顔料、染料、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤および可塑剤などの添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。
【0020】
上記のポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントは、ポリフッ化ビニリデンのインヘレント粘度の異なるポリフッ化ビニリデン樹脂組成物のポリマチップを、エクストルーダー型押出機を有する複合紡糸装置に供給し、芯鞘複合構造口金を用いて紡糸することにより得られる。溶融紡糸時の温度は220〜300℃、好ましくは240〜290℃である。220℃未満の温度ではポリマのスムーズな紡出が困難で線径斑となり易く、300℃を越える温度は紡出時にポリマの分解が起こり易く、実用上好ましくない。
【0021】
この紡出モノフィラメントは、紡糸口金の直下に設けられた温度300℃のような高温に加熱された窒素ガス、または、加熱水蒸気等の不活性ガスで充満された雰囲気長150mm程度の高温気体中を通過させ、その後直ちに温度20℃以下のような低温の液体中を通過させて急冷固化させ、未延伸モノフィラメントとする。その低温液体としては、水、グリセリンおよびポリエチレングリコールなどのポリフッ化ビニリデンと不活性な液体を用いればよい。
【0022】
冷却された未延伸モノフィラメントは、温水または水からなる洗浄浴を通過させてモノフィラメントの表面に付着した冷却媒体を除去させた後、20℃以下のような低温の窒素または空気等の不活性気体でモノフィラメントの表面の水滴を除去させ、連続的に1段目の延伸ゾーンに送られる。
【0023】
延伸時の雰囲気(浴)としては、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、シリコーンオイル等の熱媒浴、乾熱気体浴、および過熱あるいは加圧水蒸気浴等が用いられる。
【0024】
本発明では1段ないし2段以上の多段で延伸し、1段目延伸以降弛緩熱処理までの間に550〜1000℃に加熱された不活性気体中で0.05〜1秒間、1.0〜1.2倍の高温短時間緊張熱処理を施す。
【0025】
1段延伸プロセスでは、延伸倍率は5.8〜7.5倍であることが好ましく、5.9〜6.5倍であることがより好ましい。延伸温度は(I)式の範囲から選択される範囲が好ましい。
Te≧(Tm−10) ・・・(I)
ただし、Te:延伸温度(℃)、Tm:芯ポリマの融点(℃)。
【0026】
2段以上の多段延伸プロセスでは、1段目の延伸は延伸倍率4.5〜6.2倍であることが好ましく、4.5〜6.0倍であることがより好ましい。延伸温度は(II)式の範囲から選択される範囲が好ましい。
Te≧(Tm−40) ・・・(II)
ただし、Te:延伸温度(℃)、Tm:芯ポリマの融点(℃)。
【0027】
多段延伸プロセスでの2段目以降においては、延伸温度はTm−60℃以上であることが好ましく、延伸倍率は総合延伸倍率5.5倍以上となるような倍率が好ましい。なお、ここでいう総合延伸倍率は、1段目の延伸倍率と2段目以降の延伸倍率との積である。
【0028】
1段延伸プロセスにおいては1段目の延伸温度が式(I)に示す範囲を満たさないと、また多段延伸プロセスにおいても1段目の延伸温度が式(II)に示す範囲を満たさないと、延伸時のネックポイントを浴中に固定することが難しく延伸斑が発生し易く好ましくない。また、1段延伸プロセス、多段延伸プロセスの1段目の延伸温度の上限に関しては、熱効率の高い熱媒(例えば液体熱媒)を使用する場合には、ポリフッ化ビニリデンの融点以下が好ましく、熱効率の低い熱媒(例えば乾熱気体)を使用する場合は、ポリフッ化ビニリデンの融点を大巾に越える温度も許容される。これらの温度条件は、以後の延伸における上限温度でも同様である。
【0029】
1段延伸プロセスの場合は1段目の延伸の後、多段延伸プロセスの場合は各段目の延伸の後、延伸浴温度より60℃以上低い温水または不活性気体で、冷却と同時に付着した熱媒を除去し、表面に付着した水滴等は布またはエアーで完全に除去する。
【0030】
さらに1段延伸プロセスの場合は、1段目の延伸を行い上記の除去を行った後、多段延伸プロセスの場合は、1段目の延伸を行い上記の除去を行った後、または2段目以降のいずれかの段目での延伸を行い上記の除去を行った後に引続き不活性な高温流体中で短時間緊張熱処理を行う。
【0031】
表層のみの配向緩和処理を行うために、熱媒として用いる高温流体は液体よりも熱伝導率の小さい加熱空気、加熱窒素等の不活性気体を用いる。気体は熱伝導率が小さいので550℃〜1000℃と高い温度が必要である。好ましくは600℃〜900℃が安定した熱処理のために好ましい。550℃未満では表層の配向緩和が不十分であり、1000℃を超えるとモノフィラメントの溶断もしくは配向緩和が進みすぎて強度低下を誘発する。
【0032】
モノフィラメントを高温流体に接触させる時間は0.05〜1秒であることが必要であり、0.1〜0.8秒であることが好ましい。接触させる時間がそれより長いと溶断もしくは配向緩和が進み過ぎて強度低下を誘発する。一方、0.05秒より短い処理時間では配向緩和が不十分となる。
【0033】
その高温短時間熱処理処理を行う際の倍率は1.0〜1.2倍であり、1.05〜1.15倍であることが好ましい。処理倍率が1.0倍未満、すなわち弛緩状態では、糸溶断が生じ易く糸物性の急激な悪化を生じ易いから好ましくない。一方、1.2倍を超える延伸を行うと表層の配向も進行してしまい、結節強度が低下する。
【0034】
1段延伸プロセス、多段延伸プロセスいずれにおいても延伸、高温短時間熱処理に続いてリラックス熱処理されるが、その温度はTm−70℃以上が好ましく、そのリラックスの倍率は0.85〜0.98が、特に、0.90〜0.98が好ましい。このリラックス熱処理により、延伸工程で生じた繊維内部の不安定構造(横方向の歪、伸びの低下、クラック)が是正される。この弛緩熱処理終了後、仕上油剤を付着して巻き取る。
【0035】
このようにして得られる本発明のポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントは、優れた直線性と引張強度を有することから、特に釣糸などの水産資材用繊維としての用途にきわめて有用である。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下の例において得られた繊維の評価は以下の方法に従って行った。
【0037】
(1)融点:チップ状のポリマ10mgをセイコー電子工業(株)製SSC5200型示差走査熱量計を用い、昇温速度10℃/分で測定した際の結晶融解ピーク温度(ただし、融解ピークがいくつも重なって出現する場合は、最も発熱量の多いピーク温度)(℃)を融点とした。
【0038】
(2)インヘレント粘度(ηinh):試料を、N,N−ジメチルホルムアミドに0.4g/dlの濃度で溶解させて、その溶液の30℃に於ける粘度を、ウベローデ型粘度計を用いて測定した。この溶液粘度と同温度での溶媒粘度の比である相対粘度ηrの自然対数lnηrに濃度の逆数(1/0.4)g/dlをかけて、インヘレント粘度ηinhを求めた。
【0039】
(3)繊度:JIS L1013(1999)8.3.1 B法に従って7.5Nの初期荷重をかけた状態で長さ90cmに試料20本を切断し、絶乾質量を測定し、次式(III)によって算出した。2回測定した平均値を繊度とした。
F0=1000×m/L ・・・(III)
ただし、F0:正量繊度(tex)、L:試料の長さ(m)、m:絶乾質量(g)
【0040】
(4)引張強度:JIS L1013(1999)8.5.1の方法に従って定速伸張形で引張試験を実施した。試長:25cm、引張速度:30cm/分、初期荷重:7.5Nの条件でオリエンテック製引張試験機(UTM−4−100型)により切断時の強力(N)を5回測定し、その平均を上記(3)で求めた繊度で除して強度とした。
【0041】
(5)結節強度:JIS L1013(1999)8.6.1の方法に従って定速伸張形で引張試験を実施した。試長:25cm、引張速度:30cm/分、初期荷重:7.5Nの条件でオリエンテック製引張試験機(UTM−4−100型)によりチャックの中央に結び目を作った状態で切断時の強力(N)を5回測定し、その平均を上記(3)で求めた繊度で除して強度とした。
【0042】
(6)結節強力変動率:前記(5)の結節強力測定を25回実施し、次式(IV)により変動率を算出した。
CV=σ/M×100 ・・・(IV)
ただし、CV:変動率(%)、σ:結節強力の標準偏差(N)、M:結節強力の平均値(N)
【0043】
(7)衝撃結節強度:島津製振子型衝撃試験機により、試料長250mmにひとえ結びをしてセットし、振子アーム長281.7mm、振子荷重3.729kg、持上げ角度90度、引張速度1.5m/secの条件でモノフィラメントに衝撃を与え、切断時の強力を繊度で除した値を衝撃結節強度とした。
【0044】
切断時の強力はミネベア製DSA6−11型自動平衡式動歪測定器と横河北辰電気製フォトコーダー(2932型)により切断した瞬間の強力を記録させて読み取り、上記(3)で求めた繊度で除して強度とした。
【0045】
[実施例1]
インヘレント粘度が1.3dl/gのポリフッ化ビニリデン単独重合体チップを芯成分用エクストルーダー型押出機に、インヘレント粘度が0.85dl/gのポリフッ化ビニリデン単独重合体チップを鞘成分用エクストルーダー型押出機に供給し、280℃の紡糸温度で溶融し、直径0.2mmの口金を通して芯鞘複合型ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを芯鞘比率が芯:92/鞘:8となるように計量ポンプで計量し、紡出した。紡出したモノフィラメントを口金直下に設けた温度300℃に加熱された雰囲気長150mmの空間を通過させた後、直ちに温度20℃のポリエチレングリコール液中で急冷固化させた。
【0046】
冷却した未延伸モノフィラメントを2.5m/分で引き取った。なお、引取装置ならびに延伸装置は多筒式の冷ロール群からなり、延伸は送出し側と引取側のロール群の速度差により行なった。
【0047】
引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して165℃のポリエチレングリコール液中で5.4倍に1段目延伸し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き145℃のポリエチレングリコール液中で1.15倍の2段目延伸し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して710℃に加熱した空気中で1.05倍に延伸した。なお、高温短時間熱処理ゾーンの長さは4cmであり、加熱処理時間は0.15秒であった。高温短時間熱処理後に150℃の空気中で0.9倍の弛緩熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取った。
【0048】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高引張強度、高結節強度、高衝撃結節強度であり、結節強度の変動も小さく均質性に優れていた。
【0049】
[実施例2]
実施例1と同様の条件でモノフィラメントを紡出し、急冷固化後に引き取った後、171℃のポリエチレングリコール液中で6.2倍に1段延伸し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して680℃に加熱した空気中で1.05倍に延伸した。なお、高温短時間熱処理ゾーンの長さは5cmであり、加熱処理時間は0.2秒である。高温短時間熱処理後に150℃の空気中で0.9倍の弛緩熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取った。
【0050】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高引張強度、高結節強度、高衝撃結節強度であり、結節強度の変動も小さく均質性に優れていた。
【0051】
[実施例3]
芯鞘比率を芯:82/鞘:18となるように計量して紡出した以外は実施例1と同様の方法でポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0052】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高引張強度、高結節強度、高衝撃結節強度であり、結節強度の変動も小さく均質性に優れていた。
【0053】
[実施例4]
芯鞘比率を芯:96/鞘:4となるように計量して紡出した以外は実施例1と同様の方法でポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0054】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高引張強度、高結節強度、高衝撃結節強度であり、結節強度の変動も小さく均質性に優れていた。
【0055】
[実施例5]
高温短時間熱処理条件を温度580℃、加熱処理時間0.3秒(処理ゾーン長さ8cm)に変更した以外は実施例1と同様の方法でポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0056】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高引張強度、高結節強度、高衝撃結節強度であり、結節強度の変動も小さく均質性に優れていた。
【0057】
[実施例6]
高温短時間熱処理条件を温度930℃、加熱処理時間0.06秒(処理ゾーン長さ2cm)に変更した以外は実施例1と同様の方法でポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0058】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高引張強度、高結節強度、高衝撃結節強度であり、結節強度の変動も小さく均質性に優れていた。
【0059】
[実施例7]
2段目延伸倍率を1.2倍、高温短時間熱処理条件を温度680℃で1.0倍、加熱処理時間0.2秒(処理ゾーン長さ5cm)に変更した以外は実施例1と同様の方法でポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0060】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高引張強度、高結節強度、高衝撃結節強度であり、結節強度の変動も小さく均質性に優れていた。
【0061】
[実施例8]
2段目延伸倍率を1.1倍、高温短時間熱処理条件を温度720℃で1.09倍、加熱処理時間0.2秒(処理ゾーン長さ5cm)に変更した以外は実施例1と同様の方法でポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0062】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高引張強度、高結節強度、高衝撃結節強度であり、結節強度の変動も小さく均質性に優れていた。
【0063】
[比較例1]
インヘレント粘度が1.3dl/gのポリフッ化ビニリデン単独重合体チップをエクストルーダー型押出機に供給し、280℃の紡糸温度で溶融し、直径0.2mmの口金を通して単成分ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを紡出した。紡出したモノフィラメントを口金直下に設けた温度300℃に加熱された雰囲気長150mmの空間を通過させた後、直ちに温度20℃のポリエチレングリコール液中で急冷固化させた。
延伸、高温短時間熱処理条件は実施例1と同様の方法で行い、ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0064】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高強度でるが、結節強度の変動が大きく均質性に劣るものであった。高粘度ポリマを単成分で紡糸したため、紡糸時に線径斑が大きくなったためと考える。
【0065】
[比較例2]
インヘレント粘度が1.2dl/gのポリフッ化ビニリデン単独重合体チップをエクストルーダー型押出機に供給し、280℃の紡糸温度で溶融し、直径0.2mmの口金を通して単成分ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを紡出した。紡出したモノフィラメントを口金直下に設けた温度300℃に加熱された雰囲気長150mmの空間を通過させた後、直ちに温度20℃のポリエチレングリコール液中で急冷固化させた。
延伸、高温短時間熱処理条件は実施例1と同様の方法で行い、ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0066】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは低粘度ポリマに起因して低引張強度、低衝撃結節強度なものであった。
【0067】
[比較例3]
芯鞘比率を芯:70/鞘:30となるように計量して紡出した以外は実施例1と同様の方法でポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0068】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは鞘比率が高いことに起因して低引張強度、低結節強度、低衝撃結節強度なものであった。
【0069】
[比較例4]
芯成分をインヘレント粘度1.5dl/gのポリフッ化ビニリデン単独重合体チップに変更した以外は実施例1と同様の方法で行い、ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0070】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高強度でるが、結節強度の変動が大きく均質性に劣るものであった。芯に高粘度ポリマを使用したことに起因して紡糸時に線径斑が大きくなったためと考える。
【0071】
[比較例5]
芯成分をインヘレント粘度1.1dl/gのポリフッ化ビニリデン単独重合体チップに変更した以外は実施例1と同様の方法で行い、ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0072】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは芯ポリマが低粘度であることに起因して低引張強度、低結節強度、低衝撃結節強度なものであった。
【0073】
[比較例6]
鞘成分をインヘレント粘度0.75dl/gのポリフッ化ビニリデン単独重合体チップに変更した以外は実施例1と同様の方法で行い、ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0074】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは鞘ポリマが低粘度であることに起因して低結節強度、低衝撃結節強度なものであった。
【0075】
[比較例7]
鞘成分をインヘレント粘度1.07dl/gのポリフッ化ビニリデン単独重合体チップに変更した以外は実施例1と同様の方法で行い、ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0076】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは鞘ポリマが高粘度であることに起因する低結節強度、低衝撃結節強度かつ結節強度変動率の大きい不均質なものであった。
【0077】
[比較例8]
高温短時間熱処理条件を温度300℃、加熱処理時間0.3秒(処理ゾーン長さ8cm)に変更した以外は実施例1と同様の方法でポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0078】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは熱処理温度が低いことに起因して低結節強度、低衝撃結節強度なものであった。
【0079】
[比較例9]
高温短時間熱処理条件を温度1050℃、加熱処理時間0.05秒(処理ゾーン長さ1cm)に変更した以外は実施例1と同様の方法で製糸を実施したが、高温短時間熱処理時にモノフィラメントが溶断してしまった。
【0080】
[比較例10]
2段目延伸倍率を1.23倍、高温短時間熱処理条件を温度710℃で0.98倍、加熱処理時間0.15秒(処理ゾーン長さ4cm)に変更した以外は実施例1と同様の方法で製糸を実施したが、高温短時間熱処理時にモノフィラメントが溶断してしまった。
【0081】
[比較例11]
1段目延伸倍率を5.0倍、2段目延伸倍率を1.04倍、高温短時間熱処理条件を温度710℃で1.25倍、加熱処理時間0.15秒(処理ゾーン長さ4cm)に変更した以外は実施例1と同様の方法で行い、ポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0082】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高温短時間熱処理時の延伸倍率が高すぎるため、表層の配向緩和が不十分なことに起因する低結節強度、低衝撃結節強度なものであった。
【0083】
[比較例12]
高温短時間熱処理時間を0.02秒(処理ゾーン長さ0.5cm)に変更した以外は実施例1と同様の方法でポリフッ化ビニリデンを含有するモノフィラメントを得た。
【0084】
製糸条件、モノフィラメントの物性を表1に示す。得られたモノフィラメントは高温熱処理時間が短く、表層の配向緩和が不十分なことに起因する低結節強度、低衝撃結節強度なものであった。
【0085】
[比較例13]
高温短時間熱処理時間を1.2秒(処理ゾーン長さ30cm)に変更した以外は実施例1と同様の方法で製糸を実施したが、高温短時間熱処理時にモノフィラメントが溶断してしまった。
【0086】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分がインヘレント粘度1.15〜1.35gdl/gのポリフッ化ビニリデンを含有するポリフッ化ビニリデン樹脂組成物、鞘成分がインヘレント粘度0.8〜1.0dl/gのポリフッ化ビニリデンを含有するポリフッ化ビニリデン樹脂組成物からなり、繊維軸垂直断面における芯成分と鞘成分の面積比率が80/20〜98/2である芯鞘複合構造モノフィラメントの製造方法であって、溶融紡糸、冷却後に1段ないし2段以上の多段で延伸し、弛緩熱処理する際に、1段目延伸以降弛緩熱処理までの間で550〜1000℃に加熱された不活性気体中で、0.05〜1秒間、1.0〜1.2倍の高温短時間緊張熱処理を施すことを特徴とする芯鞘複合構造モノフィラメントの製造方法。
【請求項2】
繊維軸垂直断面における芯成分と鞘成分の面積比率が85/15〜95/5であることを特徴とする請求項1に記載の芯鞘複合構造モノフィラメントの製造方法。

【公開番号】特開2008−174876(P2008−174876A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10303(P2007−10303)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】