説明

ポリブチレンテレフタレートの製造方法

【課題】
色調や耐加水分解性、重合性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオールとを主原料として有機チタン化合物の触媒の存在下でエステル化反応させた後、続いて、2つ以上の重縮合反応槽で連続的に重縮合反応させてポリブチレンテレフタレートを製造する方法であって、最終重合反応槽以外の重縮合反応槽におけるジカルボン酸成分の反応率を98%以上とした後、さらに有機チタン化合物を追加添加して重縮合反応し、エステル化反応と重縮合反応における有機チタン化合物総添加量が、チタン原子換算でポリマー総重量に対して30〜160ppmであり、最終重合反応槽より上流の少なくとも1つの重縮合反応槽の温度が245℃以上であるポリブチレンテレフタレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定して優れた品質を維持し、ポリブチレンテレフタレートを生産性よく直接エステル化し、かつ、重縮合することができるポリブチレンテレフタレートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、優れた物理的、化学的性質を有するため、繊維、フィルム、その他の成形品など、種々の用途に広く用いられている。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、強度や弾性率等の機械特性、耐熱性等に優れているため、特にエンジニアリングプラスチックとして広く用いられている。
【0003】
このようなポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法の中で、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとのエステル化反応によりビスヒドロキシブチルテレフタレートおよびその低重合物を得るエステル化工程と、ビスヒドロキシブチルテレフタレートおよびその低重合物を高温、高真空下で過剰の1,4−ブタンジオールを留出させつつ高重合度ポリブチレンテレフタレートを得る重縮合工程とからなる直接連続重合を用いた製造方法は、従来の生産性を著しく向上させる技術として、現在主流に成りつつある。
【0004】
この直接連続重合を用いた製造方法では、重縮合反応の温度が高くなるほど副反応速度も上昇し、色調悪化や重合性悪化、耐加水分解性悪化の原因となる末端カルボキシル基が増加したり、高粘度品のポリブチレンテレフタレートを得るために、エステル化反応での触媒添加量を増加するほど、異物発生やヘイズ(溶融ポリマーの濁りを表す指標)が上昇し、最終的には引張破断強度の低下、フィルムにした際の表面異物の増加といった、物性低下を引き起こす等の問題が生じていた。
【0005】
これを解決するために、特許文献1には、回分法で高い温度で重縮合を行った後、内温を下げてポリエステルを抜き出し、抜き出し前半と後半で製品の重合度差を低減させる方法が提案されているが、該方法では一旦反応温度を上げ、再び下げるには長い時間を要するため、実際には温度が下がるまでに末端カルボキシル基が増加したり、色調が悪化する等の問題がある。
【0006】
また、特許文献2には、連続的に重縮合反応させる工程において、重縮合反応触媒をエステル化反応時のみに添加し、上流側の反応槽内温の最高温度が245℃未満で、最終槽内温が上流側の反応槽温度よりも低くすることで、末端カルボキシル基を低減する方法が記載されている。しかしこの方法は、エステル化工程においてチタン触媒が失活し、重合性の悪化や異物発生がおこり、得られるポリマーのヘイズや末端カルボキシル基が高くなり、機械特性を悪化させる。また、特に、高粘度品を重縮合する際には、重合性の悪化や異物発生、機械特性の悪化が顕著である。
【特許文献1】特開平05−43676号公報
【特許文献2】特開2005−29582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐加水分解性悪化の原因となる末端カルボキシル基の低減されたポリブチレンテレフタレートを効率的に製造し、機械的強度や色調、ヘイズに優れ、成型品、フィルム、モノフィラメント、繊維等に好適に使用することができる高品位のポリブチレンテレフタレート樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、
(1)テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオールとを主原料として有機チタン化合物の触媒の存在下でエステル化反応させた後、続いて、2つ以上の重縮合反応槽で連続的に重縮合反応させてポリブチレンテレフタレートを製造する方法であって、最終重合反応槽以外の重縮合反応槽におけるジカルボン酸成分の反応率を98%以上とした後、さらに有機チタン化合物を追加添加して重縮合反応し、エステル化反応と重縮合反応における有機チタン化合物総添加量が、チタン原子換算でポリマー総重量に対して30〜160ppmであり、最終重合反応槽より上流の少なくとも1つの重縮合反応槽の温度が245℃以上であるポリブチレンテレフタレートの製造方法、
(2)ジカルボン酸成分の反応率を98%以上とした後、追加添加する有機チタン化合物の添加量がチタン原子換算でポリマー総重量に対して10〜100ppmである(1)1記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法、
(3)最終重合反応槽より上流の少なくとも1つの重縮合反応槽において、245〜270℃の温度かつ1〜7kPaの減圧下で重縮合反応を行う(1)または(2)に記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法、
(4)有機チタン化合物が、テトラ−n−ブチルチタネートである(1)〜(3)のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本製造法でポリブチレンテレフタレート樹脂を製造した場合、従来の方法で製造した場合よりも色調や耐加水分解性、重合性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることができる。本発明によれば、重縮合反応時の副反応を抑制し、色調や重合性が改良され、耐加水分解性に優れ、成形品、フィルム、モノフィラメント、繊維等に好適に使用することができる高品位のポリブチレンテレフタレート樹脂を安定して得る事ができる。
【0010】
本発明によれば、耐加水分解性悪化の原因となる末端カルボキシル基の低減されたポリブチレンテレフタレートを効率的に製造することができる。
【0011】
本発明で得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は品質に優れるので各種の自動車部品や電気・電子部品などに有用に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明において製造されるポリブチレンテレフタレート樹脂とは、酸性分にテレフタル酸を、ジオール成分に1,4−ブタンジオールを用いた重合反応によって得られた、主鎖にエステル結合を有する高分子量の熱可塑性ポリエステルである。
【0014】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸以外の酸成分および/または1,4−ブタンジオール以外のジオール成分を共重合成分として一部用いることもできる。この場合、酸性分の例としてイソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸等が、ジオール成分の例としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールなどがあげられる。これらの共重合成分はそれぞれテレフタル酸または1,4−ブタンジオールに対して40モル%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明において製造されるポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、機械的物性、ペレット化の安定性、成形性の観点からは、好ましくは0.5〜1.5の範囲、さらに好ましくは0.7〜1.3の範囲である。
【0016】
本発明における、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度は、多すぎるとポリブチレンテレフタレート樹脂の耐加水分解性を悪化させる傾向にあり、少なすぎると重合性を悪化させる傾向にあるため、1〜40eq/tであることが好ましく、さらには2〜30eq/t以下、中でも3〜25eq/t、特には5〜20eq/tであることが好ましい。
【0017】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法は、有機チタン化合物の触媒の存在下でエステル化反応させた後、続いて、2つ以上の重縮合反応槽で連続的に重縮合反応させてポリブチレンテレフタレートを製造する。
【0018】
具体的には、例えば、ジオール成分とジカルボン酸成分を主体とする原料をスラリー調整し、そのスラリーをエステル化反応槽に供給しエステル化反応を行い、得られたエステル化反応生成物であるオリゴマーを1基または複数の予備重縮合反応槽(以下、最終重合反応槽以外の重合反応槽を予備重縮合反応槽ということがある)及び最終重合反応槽を経て重縮合反応させることができる。得られたポリブチレンテレフタレートは、最終重合機の底部よりダイを経てストランド状に抜き出し、冷却水にて水冷した後、ペレタイザーでカッティングし、ペレット状などの粒状体とすることが好ましい。
【0019】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法では、ジカルボン酸成分に対するジオール成分の仕込みモル比は1.4〜2.0が好ましく、1.6〜1.9がより好ましい。
【0020】
本発明に用いるエステル化反応槽は、例えば、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、棚段型反応槽などを用いることができ、複数の反応槽を用いる場合はこれら同種または異種の複数基の槽を直列する複数槽とすることができる。本発明においては、好ましくは、エステル化反応槽は、縦型撹拌完全混合槽である。
【0021】
本発明において、エステル化反応槽の留出口には精留塔をつけることが好ましく、精留塔により留出する水及びテトラヒドロフランと1,4−ブタンジオールを分離することができる。精留塔の塔頂からは水及びテトラヒドロフランを主成分とする留出物が留出され、コンデンサーで凝縮され、回収工程へ送液されることが好ましい。1,4−ブタンジオールを主成分とする留出物は、好ましくは、精留塔の底部で凝縮し、エステル化反応槽へ返送される。また、その際、エステル化反応槽中でのモル比を調整するため、エステル化反応槽へ返送される1,4−ブタンジオールの一部を系外へ留出させてもよい。この場合、留出させた1,4−ブタンジオールを主成分とする留出物は再度、原料として用いることができ、精留して使用してもよいし、そのまま使用してもよい。
【0022】
本発明では、有機チタン化合物の触媒の存在下でエステル化反応させる。本発明でエステル化反応触媒として好ましく用いられる有機チタン化合物は、
(RO)nTi(OR4−n
(ただし、R、Rは炭素数1〜10の脂肪族、脂環族または芳香族の炭化水素基、nは0〜4の数字(小数含む)である。)で表されるチタン酸エステルおよび縮合物である。
【0023】
本発明において、エステル化反応に用いる有機チタン化合物は、具体的には、例えば、チタン酸のメチルエステル、テトラ−n−プロピルエステル、テトライソプロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ−tert−ブチルエステル、テトラ−2エチルヘキシルエステル、テトラオクチルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステルあるいはこれらの混合エステルなどがある。これらの中でも安価に入手できることからチタン酸のテトラ−n−プロピルエステル(テトラ−n−プロピルチタネート)、テトライソプロピルエステル(テトラ−イソプロピルチタネート)、テトラ−n−ブチルエステル(テトラ−n−ブチルチタネート)が好ましく、チタン酸のテトラ−n−ブチルエステル(テトラ−n−ブチルチタネート)が特に好ましく用いられる。これらの有機チタン化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することができる。
【0024】
この有機チタン化合物の添加量は、エステル化触媒としてエステル化反応槽への添加量はチタン原子換算でポリマー総重量に対して20〜60ppmであることが好ましく、25〜55ppmが好ましい。添加量が20ppmよりも少ないとエステル化速度が遅くなり、THFの副性が多くなったり、また、60ppmよりも多くなるとポリマーの溶液ヘイズが高くなり、本発明の目的を達成できなくなる場合がある。
【0025】
エステル化触媒に用いる有機チタン化合物の添加方法としては、具体的にはエステル化反応槽へ直接または還流液戻りラインに直接供給する方法、ジオール成分にて希釈または溶解して反応槽または還流液戻りラインに供給する方法、スラリー化する際、同時に調整する方法、原料スラリーをエステル化反応槽に供給するラインに定量ポンプで供給する方法などが挙げられる。
【0026】
本発明におけるエステル化反応は、有機チタン化合物の存在下で、反応温度は好ましくは、210〜260℃、より好ましくは、220〜250℃で、圧力は、好ましくは、13.3〜93kPa以下、より好ましくは、20〜87kPaの減圧下で行うことが好ましい条件として挙げられる。
【0027】
本発明は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオールとを主原料として有機チタン化合物の触媒の存在下でエステル化反応させた後、続いて、2つ以上の重縮合反応槽で連続的に重縮合反応させてポリブチレンテレフタレートを製造する。
【0028】
本発明に用いる予備重縮合反応槽(最終重合反応槽以外の重合反応槽)の型式としては、例えば、縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽、横型1軸重合機、横型2軸重合機、縦型攪拌重合槽であり、該槽内に同心円状に複数に分割された反応室が存在し、各反応室内に攪拌翼および加熱装置が設けられた重合槽、などを用いることができ、複数の反応槽を用いる場合は、これら同種または異種の複数基の槽を直列する複数槽とすることができる。本発明においては、好ましくは、予備重縮合反応槽(最終重合反応槽以外の重合反応槽)は、縦型撹拌重合槽である。
【0029】
本発明では、最終重合反応槽以外の重縮合反応槽におけるジカルボン酸成分の反応率を98%以上とした後、さらに有機チタン化合物を追加添加する。本発明では、最終重合反応槽以外の重縮合反応槽におけるジカルボン酸成分の反応率を、好ましくは、98.5%以上として、さらに有機チタン化合物を追加添加する。本発明のジカルボン酸成分の反応率は、反応物の酸価、ケン化価から次式に
ジカルボン酸成分の反応率(%)={(ケン化価−酸価)/ケン化価}×100
従って求める。
【0030】
重縮合反応槽におけるジカルボン酸成分の反応率は、予備重縮合反応槽(最終重合反応槽以外の重合反応槽)において測定し、予備重縮合反応槽が複数存在する場合は、どの予備重縮合反応槽(最終重合反応槽以外の重合反応槽)において測定してもよいが、好ましくは、エステル化反応槽より1つ下流の重縮合反応槽において、重縮合反応槽におけるジカルボン酸成分の反応率を98%以上とする。
【0031】
本発明では、最終重合反応槽より上流の少なくとも1つの重縮合反応槽、すなわち、予備重縮合反応の反応温度は、245℃以上であり、好ましくは、245〜270℃である。予備重縮合反応槽に予備重縮合反応槽の反応温度が245℃未満では、重合速度が遅くなり、重合時に生じる熱分解により色調が悪化したり、ポリマーの滞留安定性が悪化するなどして本発明の目的を達成することができない。
【0032】
本発明では、予備重縮合反応の圧力は、好ましくは1〜7kPa以下、より好ましくは2〜6kPaの減圧下で行うことが好ましい条件として挙げられる。
【0033】
本発明では、最終重合反応槽以外の重縮合反応槽におけるジカルボン酸成分の反応率を98%以上とした後、さらに有機チタン化合物を追加添加して重縮合反応する。エステル化反応と重縮合反応における有機チタン化合物全体の添加量がチタン原子換算でポリマー総重量に対して30〜160ppmであることが必須であり、35〜150ppmが好ましく、40〜140ppmがより好ましい。有機チタン化合物を最初から必要とする量を一括で添加すると、ポリマーの溶液ヘイズが高くなり、本発明の目的を達成することができない。
【0034】
ジカルボン酸成分の反応率を98%以上とした後、追加添加する有機チタン化合物の添加量は、好ましくは、チタン原子換算でポリマー総重量に対して10〜100ppmであり、15〜95ppmがより好ましく、20〜90ppmがさらにより好ましい。
【0035】
有機チタン化合物を追加添加する箇所は、例えば、予備重縮合反応槽または最終重合反応槽に一括して供給する方法、複数の予備重縮合槽を有する場合は各予備重縮合槽および最終重合反応槽に分割して供給する方法、予備重縮合槽あるいは複数の予備重縮合槽を有する場合は予備重縮合槽間の配管、予備重縮合槽と最終重縮合反応槽間の配管に追加添加することができる。追加添加方法としては、有機チタン化合物を直接供給する方法や、ジオール成分にて希釈または溶解して添加することもできる。
【0036】
ジカルボン酸成分の反応率を98%以上とした後、追加添加する有機チタン化合物は、具体的には、例えば、チタン酸のメチルエステル、テトラ−n−プロピルエステル、テトライソプロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ−tert−ブチルエステル、テトラ−2エチルヘキシルエステル、テトラオクチルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステルあるいはこれらの混合エステルなどがある。これらの中でも安価に入手できることからチタン酸のテトラ−n−プロピルエステル(テトラ−n−プロピルチタネート)、テトライソプロピルエステル(テトラ−イソプロピルチタネート)、テトラ−n−ブチルエステル(テトラ−n−ブチルチタネート)が好ましく、チタン酸のテトラ−n−ブチルエステル(テトラ−n−ブチルチタネート)が特に好ましく用いられる。これらの有機チタン化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することができる。また、エステル化反応および重縮合時に同一種を用いてもよく、異種の有機チタン化合物を用いてもよい。
【0037】
本発明では、有機チタン化合物の触媒の存在下でエステル化反応させた後、続いて、2つ以上の重縮合反応槽で連続的に重縮合反応させてポリブチレンテレフタレートを製造する。
【0038】
本発明において最終重合反応槽は、例えば、横型1軸反応機、横型2軸反応機などを用いることができる。
【0039】
最終重合反応槽の反応温度は、好ましくは、220〜260℃、より好ましくは、230〜250℃であり、圧力は、好ましくは、1.3kPa以下、より好ましくは、0.67kPa以下の減圧下で行うことが好ましい条件として挙げられる。
【0040】
また、本発明においては、予備重縮合反応槽及び/または最終重合反応槽から留出されるジオール成分を主成分とする留出物は、コンデンサーあるいはスクラバー(湿式コンデンサー)で凝縮させた後、精留することなく原料として用いることができる。また、スクラバーから一部排出される液も精留することなく原料として用いることができる。
【0041】
エステル化反応槽、予備重縮合反応槽、最終重合反応槽にて減圧下で反応させる場合、減圧装置が必要であるが、減圧装置としては、具体的には真空ポンプ、エゼクターなどが挙げられるが、エゼクターとしてはスチームエゼクター、エチレングリコールエゼクター、1,4−ブタンジオールエゼクターが好ましく用いられる。1,4−ブタンジオールエゼクターを使用する場合、エゼクターに使用した1,4−ブタンジオールは本発明のポリブチレンテレフタレートの原料としてそのまま使用することもできる。
【0042】
また、本発明に用いる各反応槽を結ぶ配管あるいは最終重合反応槽から吐出口までの間の配管にはポリマー中の異物を濾過する目的でフィルターを1基あるいは複数基取り付けることができ、好ましい位置としては、予備重縮合反応槽間の配管、予備重縮合反応槽と最終重合反応槽との間の配管、最終重合反応槽から吐出口までの間の配管が挙げられる。また、フィルターの形式としては、プリーツ型円筒タイプ、フラット型円筒タイプ、チューブタイプ、バケットタイプなどが挙げられ、目開きは1〜100μmのものが好ましく、2〜50μmのものがより好ましく用いられる。また、フィルターは交換の容易さから1カ所あたり、2基以上並列に取り付けることが好ましい。
【0043】
本発明の方法でポリブチレンテレフタレート樹脂を製造するに際し、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えば紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、離型剤、染料および顔料を含む着色剤などの1種または2種以上を添加することができる。
【0044】
本製造法でポリブチレンテレフタレート樹脂を製造した場合、従来の方法で製造した場合よりも色調、滞留安定性に優れ、靱性が高い成型品が得られるので各種の自動車部品や電気・電子部品などに有用に用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中、各測定値は下記のとおり求めた。
【0046】
(1)ジカルボン酸成分の反応率
ジカルボン酸成分の反応率は反応物の酸価、ケン化価から次式に従って求めた。
ジカルボン酸成分の反応率(%)={(ケン化価−酸価)/ケン化価}×100
【0047】
(i)酸価
反応物1.0gをo−クレゾール/クロロホルム溶媒(2/1)50mlに加熱溶解し、冷却後、クロロホルム30mlを加え、さらに、12%メタノール性塩化リチウム溶液を5ml添加した。得られた溶液をエタノール性水酸化カリウムで電位差滴定(平沼産業社製自動滴定装置COMTITE COM−450)を行い、酸価(mgKOH/g)を得た。
【0048】
(ii)ケン化価
反応物を0.4gに0.5Nエタノール性水酸化カリウム溶液20mlを加え、還流加温し、20mlの水を加え、冷却した。得られた溶液を0.5N硫酸水溶液で逆滴定を行いケン化価(mgKOH/g)を得た。
【0049】
(2)Ti含有量
試料ポリマー5gに硫酸を加えて加熱分解後、550℃の電気炉を用い灰化した。次にその灰分を希硝酸で処理し、定容50mlとしてICP発光分光分析装置を用いTi含有量を定量した。なお、Ti含有量1ppmとはポリマー1g中にTiが1μg含有することをさす。
【0050】
(3)固有粘度
ウベローデ型粘度計とo−クロロフェノールを用い、25℃において、ポリブチレンテレフタレートの濃度1.0dl/g、0.5dl/g及び0.25dl/gの溶液粘度を測定し、粘度数を濃度0に外挿し求めた。
【0051】
(4)末端カルボキシル基濃度
反応物2.0gをo−クレゾール/クロロホルム溶媒(2/1)50mlに加熱溶解し、冷却後、クロロホルム30mlを加え、さらに、12%メタノール性塩化リチウム溶液を5ml添加した。得られた溶液をエタノール性水酸化カリウムで電位差滴定を行い、カルボキシル末端量(eq/t)を得た。
【0052】
(5)溶液ヘイズ
試料ポリマー5.4gをフェノール/四塩化エタン(60:40wt%)の混合溶媒40mlに100℃で2時間加熱溶解し、この溶液を光路長30mmのセルに入れて積分式ヘーズメーター(スガ試験機:HZ−2)でヘイズを測定した。
【0053】
(6)色調(色座標b値)
反射法によりスガ試験機社製カラーテスターSC−3−CH型を用いて、JIS Z 8730(1970/03/01制定)の参考1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式の色座標b値を測定した。測定は電源投入後4時間以上放置し、予め装置を十分安定させた後、内径60mm、深さ30mm、受光部が石英ガラス製である測定セルに試料ペレットをすり切り位置まで充填し、測定セルの向きを90度ずつ4方向変えて測定し、その平均値をもって値とした。
【0054】
実施例1
図1に本実施例のフローチャートを示す。図1において、1はスラリー調製槽、1aおよび1bはそれぞれ、スラリー調製槽1の上部に設けられたジカルボン酸成分およびジオール成分の各原料供給口、2はエステル化反応槽(オリゴマーを製造する工程が行われる)、2aはエステル化反応槽2の上部に設けられた触媒供給口、3はエステル化反応槽2の上部に設けられた精留塔、3aは精留塔3の上部に設けられた留出液出口、4は第1予備重縮合反応槽(4、5、6にて重縮合工程が行われる)、4aは第1予備重縮合反応槽4の上部に設けられたベント用口、4bは第1予備重縮合反応槽4の下部に設けられた触媒供給口、5は第2予備重縮合反応槽、5aは第2予備重縮合反応槽5の上部に設けられたベント用口、5bは第2予備重縮合反応槽5の下部に設けられた触媒供給口、6は水平方向に攪拌軸を有する横型の最終重縮合反応槽、6aは最終重縮合反応槽6の上部に設けられたベント用口、7はポリマー抜き出しダイ、8はペレタイザー、M1、M2、M3、M4、M5は攪拌装置、G1、G2、G3、G4はギヤポンプ、P1、P2はポンプ、L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7は配管である。
【0055】
テレフタル酸754重量部に対して1,4−ブタンジオール736重量部の割合で両原料をスラリー調整槽1に供給し、攪拌混合を行い、スラリーを調整した後、スラリーをポンプP1により1490重量部/時の一定速度で精留塔3を有する完全混合槽型エステル化反応槽2に供給し、併せて触媒供給口2aからテトラ−n−ブチルチタネート(TBT)をチタン濃度としてポリマー当たり50ppmとなるように連続的に供給した。エステル化反応槽2の反応条件は、温度230℃、圧力は79kPaに維持し、滞留時間1.8hrとし、精留塔3の留出液出口3aからはテトラヒドロフラン及び水を留出させ、1,4−ブタンジオールについては精留塔3の塔底配管L3からエステル化反応槽3に還流させた。また、このエステル化反応槽2においてジカルボン酸成分の反応率95%のオリゴマーを得た。
【0056】
引き続いてこのオリゴマーをギヤポンプG1にて第1予備重縮合反応槽4に供給し、反応温度245℃、圧力4kPaで維持し、滞留時間1hrで、生成する水とテトラヒドロフランジ、1,4−ブタンジオールをベント用口4aから抜き出しながら重縮合反応させ、カルボン酸成分の反応率99.0%のオリゴマーを得た。
【0057】
引き続いてこのオリゴマーをギヤポンプG2にて第2予備重縮合反応槽5に供給し、併せて触媒供給口5aからテトラ−n−ブチルチタネート(TBT)をチタン濃度としてポリマー当たり50ppmとなるように連続的に供給した。反応温度245℃、圧力2.7kPaで維持し、滞留時間1hrで、生成する水とテトラヒドロフランジ、1,4−ブタンジオールをベント用口5aから抜き出しながら重縮合反応させ、固有粘度0.30のオリゴマーを得た。
【0058】
このオリゴマーはギアポンプG3にて最終重合反応槽(横型2軸反応機)6に供給され、温度240℃、圧力0.3kPa、滞留時間1.5時間で、生成する水とテトラヒドロフランジ、1,4−ブタンジオールをベント用口6aから抜き出しながらさらに重縮合反応させポリマーを得た。このポリマーはギヤポンプG4によりダイ7を経て系外にストランド状に吐出され、冷却水により冷却され、ペレタイザー8によりペレット化した。
【0059】
上記条件にて得られたペレットは、固有粘度0.97dl/g、末端カルボキシル基濃度10eq/t、溶液ヘイズ1%、b値4であった。その結果を表1に示す。末端カルボキシル基濃度が少なく、ヘイズおよび色調に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂が得られた。結果を表1に示した。表1において、エステル化条件は、エステル化反応させる条件を、第1予備重合条件は、3つの重縮合反応槽で連続的に重縮合反応させる場合の最初の重縮合反応槽における重合条件を、第2予備重合条件は、2つ目の重縮合反応槽における重合条件を、重合条件は、最終重合反応槽における重合条件を示す。なお、第1予備重合条件で、触媒添加量が「−」とは、触媒である有機チタン化合物を添加しなかったことを意味する。
【0060】
実施例2〜6、比較例1〜4
実施例1において、予備重縮合反応槽の反応温度、テトラ−n−ブチルチタネート(TBT)を追加添加する位置、反応条件を表1の値となるように変更した以外は実施例1と同様に行った結果、その結果を表1に示す。なお、第2予備重合条件で、触媒添加量が「−」とは、触媒である有機チタン化合物を添加しなかったことを意味する。
【0061】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1に記載したポリブチレンテレフタレート樹脂の製造工程の概略図。
【符号の説明】
【0063】
1 スラリー調製槽
1a、1b 原料供給口
2 エステル化反応槽
2a 触媒供給口
3 精留塔
3a 留出液出口
4 第1予備重縮合反応槽
4a ベント用口
5 第2予備重縮合反応槽
5a ベント用口
6 最終重合機
7 ポリマー抜出ダイ
8 ペレタイザー
M1、M2、M3、M4、M5 攪拌装置
G1、G2、G3、G4 ギアポンプ
P1、P2 ポンプ
L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオールとを主原料として、有機チタン化合物の触媒の存在下でエステル化反応させた後、続いて、2つ以上の重縮合反応槽で連続的に重縮合反応させてポリブチレンテレフタレートを製造する方法であって、最終重合反応槽以外の重縮合反応槽におけるジカルボン酸成分の反応率を98%以上とした後、さらに有機チタン化合物を追加添加して重縮合反応し、エステル化反応と重縮合反応における有機チタン化合物総添加量が、チタン原子換算でポリマー総重量に対して30〜160ppmであり、最終重合反応槽より上流の少なくとも1つの重縮合反応槽の温度が245℃以上であるポリブチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項2】
ジカルボン酸成分の反応率を98%以上とした後、追加添加する有機チタン化合物の添加量がチタン原子換算でポリマー総重量に対して10〜100ppmである請求項1記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項3】
最終重合反応槽より上流の少なくとも1つの重縮合反応槽において、245〜270℃の温度かつ1〜7kPaの減圧下で重縮合反応を行う請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項4】
有機チタン化合物が、テトラ−n−ブチルチタネートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−83957(P2010−83957A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253170(P2008−253170)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】