説明

ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、製造方法及びコネクター製品

【課題】 成形サイクルの向上を期待してタルク等を核剤として配合した組成物の引張伸度や衝撃強度等の機械的性質の低下を抑制し、離型性に優れ、成形サイクルが短く、自動車部品及び電気電子部品、特にコネクター部品に好適なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)ポリブチレンテレフタレート100重量部、(B)平均粒度が15μm以下のケイ酸金属塩系充填剤0.0001〜0.01重量部を含有してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、離型性に優れ、成形サイクルが短く、靭性があり自動車部品及び電気電子部品用材料として好適なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその製造方法とそれらからなるコネクター製品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂の中でも代表的なエンジニアリングプラスチックであるポリブチレンテレフタレートは、成形加工の容易さ、機械的物性、耐熱性、その他の物理的、化学的特性に優れていることから、自動車部品、電気電子部品、精密機器部品などの分野で特にコネクターなどに広く使用されている。ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の中では、結晶化速度が速く、射出成形に好適であるが、さらに成形サイクルを短縮して生産性を高めることが望まれており、そのために離型性や結晶化速度の向上が検討されている。特にコネクターは小型化、多極化が求められ、複雑な形状でも成形不良を起こさずに短いサイクルで成形できることが必要である。
【0003】
ポリエステル樹脂の成形サイクル向上のため、タルクなどの無機物を配合することは知られており、例えば特許文献1には、芳香族ポリエステルに対し、無機固形物0.005〜5重量%およびカルボン酸のナトリウム金属塩などの塩0.005〜2重量%からなる組成物が開示されている。当該発明において、無機固形物について、炭酸カルシウムなど各種の固形物が列記されている中でタルク、窒化硼素などが好ましく、粒度は5μm以下、好ましくは2μm以下でなければいけないと記述されている。しかし、当該発明は、芳香族ポリエステルでも、ポリエチレンテレフタレートを主体にしたものであり、ポリブチレンテレフタレートを示唆するものは見当たらない。また、ポリエチレンテレフタレートに、1〜2μmのタルクを0.1〜0.15重量%配合した組成物が例2および4〜5に示されている。しかし成形品の結晶化度を示すために、密度が示されているのみで、機械的強度例えば引張伸度等は示されていない。
【0004】
また、特許文献2には、ポリブチレンテレフタレート(a)100重量部および結晶核剤(b)0.1〜5重量部からなる樹脂組成物を熔融混練して製造されたマスターバッチ(A)を、該マスターバッチの10〜100倍量のポリブチレンテレフタレート(B)に、ブレンドして得た光ファイバールースチューブ用樹脂組成物であって、該樹脂組成物全量に対する結晶核剤の量が0.01〜0.5重量%であり、ポリブチレンテレフタレート(B)が、末端カルボキシル基濃度30eq/ton以下、固有粘度1.0〜1.2のポリブチレンテレフタレートである光ファイバールースチューブ用樹脂組成物が示されている。当該発明では、結晶核剤の添加は、着色ルースチューブと非着色ルースチューブの夫々を構成するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の結晶化速度を速度の速い方に近づけることを目的とするものであり、結晶核剤としては、タルクが好ましく、平均粒度が10μm以下のタルクがさらに好ましく、50μmふるい全通かつ平均粒度10μm以下のタルクが、結晶核剤効果が良好で、ポリブチレンテレフタレートの特性を損わず好ましいこと等が記述されている。
【0005】
しかして、特許文献2の実施例においては、タルク3重量%含有したマスターバッチを3重量%配合した組成物(すなわち組成物中におけるタルクの含有量は0.09重量%)からルースチューブを作り引張伸度の評価を実施しているが、タルク未配合品の引張伸度が>200%であるのに対し、タルク0.09%配合品は70〜180%に低下しており、タルクを配合することにより、引張伸度の低下が避けられないことを示している。
【0006】
【特許文献1】特公昭47−32435号公報
【特許文献2】特開2000−302953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、ポリブチレンフタレート樹脂にタルク等の無機固体(結晶核剤)を配合すると、結晶化速度の向上による成形サイクルの向上は期待できるものの、引張伸度等の機械的物性の低下が起こるという問題があった。本発明は、引張伸度や衝撃強度が低下せず、離型性に優れ、成形サイクルが短く、自動車部品及び電気電子部品、特にコネクター部品に好適なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、意外にも、特定粒度のケイ酸金属塩系充填剤を極微量配合することにより、成形サイクルを向上させると共に機械的物性の低下を抑制し得ることを見出し、本発明に到達した。
本発明の要旨とするところは、(A)ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、(B)ケイ酸金属塩系充填剤0.0001〜0.01重量部を含有してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法、それからなるコネクター製品に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明組成物は、成形サイクルが短く、しかも引張伸度や衝撃強度が低下せず、離型性に優れているので、自動車部品及び電気電子部品の成形材料として好適であり、特にコネクターの材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用される(A)ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸及び1,4−ブタンジオールを主原料とすることが好ましい。主原料とは、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、1,4−ブタンジオールが全ジオール成分の50モル%以上を占めることをいう。テレフタル酸は、全ジカルボン酸成分の80モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上を占めることがさらに好ましい。1,4−ブタンジオールは、全ジオール成分の80モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上を占めることがさらに好ましい。本発明において、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分に特に制限はなく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができる。
【0011】
1,4−ブタンジオール以外のジオール成分に特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオールなどの脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどの芳香族ジオールなどを挙げることができる。
【0012】
本発明においては、さらに、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトールなどの三官能以上の多官能成分などを共重合成分として用いることができる。
【0013】
本発明に使用される(A)ポリブチレンテレフタレートは、降温結晶化温度が175℃以上であることが好ましく、より好ましくは177℃以上である。なお、本発明においてポリブチレンテレフタレート樹脂の降温結晶化温度は、示差走査熱量計を用いて、降温速度20℃/minにて測定したもの、すなわち、樹脂を溶融状態から冷却したときに現れる結晶化による発熱ピークの温度である。降温結晶化温度は、結晶化速度と対応し、降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速い。降温結晶化温度が175℃以上であると、射出成形に際して冷却時間を短縮し、生産性を高めることができる。降温結晶化温度が175℃未満であると、射出成形に際して結晶化に時間がかかり、射出成形後の冷却時間を長くせざるを得なくなり、成形サイクルが伸びて生産性が低下するおそれがある。成形サイクルは、一定の成形条件下で射出成形を行い、成形片の離型の容易さ及び突き出しピン跡の有無により評価することができる。結晶化速度が遅くなるに従い、突き出しピンの跡が発生し、さらに遅くなると離型が不可能となる。
【0014】
本発明組成物は、自動車、電気電子分野の部品、特にコネクター部品などに使用するには、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、30eq/t以下であることが好ましく、より好ましくは25eq/t以下である。ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、樹脂を有機溶媒に溶解し、水酸化アルカリ溶液を用いて滴定することにより求めることができる。樹脂の末端カルボキシル基量を30eq/t以下とすることにより、樹脂の耐加水分解性を高めることができる。樹脂中のカルボキシル基は、ポリブチレンテレフタレートの加水分解に対して自己触媒として作用するので、30eq/tを超える末端カルボキシル基が存在すると早期に加水分解が始まり、生成したカルボキシル基が自己触媒となって、連鎖的に加水分解が進行し、樹脂の重合度が急速に低下するが、末端カルボキシル基量を30eq/t以下とすることにより、高温、高湿の条件においても、早期の加水分解を抑制することができる。
【0015】
また、(A)ポリブチレンテレフタレートは、フェノール/テトラクロルエタン(重量比1/1)の混合溶媒を用いて30℃で測定した固有粘度が0.5〜1.5dl/gであることが好ましく、0.6〜1.3dl/gであることがより好ましく、0.7〜1.1dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が0.5dl/g未満であると、成形品の機械的強度が不十分となるおそれがある。固有粘度が1.5dl/gを超えると、溶融粘度が高くなり、流動性が悪化して、成形性が不良となるおそれがある。
【0016】
本発明に使用されるポリブチレンテレフタレートは、上述の物性を有するものであれば、その製造法は特に限定されるものではなく、種々の製法により製造されたものが使用可能である。
本発明に好適に使用されるポリブチレンテレフタレートの製法として、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、連続的に重合する方法が挙げられる。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂を製造する連続重合法に特に制限はないが、直列連続槽型反応器を用いて連続的に重合することが好ましい。例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分を、1基又は複数基のエステル化反応槽内で、エステル化反応触媒の存在下に、好ましくは150〜280℃、より好ましくは180〜265℃の温度、好ましくは6.67〜133kPa、より好ましくは9.33〜101kPaの圧力で、攪拌下に2〜5時間でエステル化反応させ、得られたエステル化反応生成物であるオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、1基又は複数基の重縮合反応槽内で、重縮合反応触媒の存在下に、好ましくは210〜280℃、より好ましくは220〜265℃の温度、好ましくは26.7kPa以下、より好ましくは20.0kPa以下の減圧下で、攪拌下に2〜5時間で重縮合反応させることができる。重縮合反応により得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら又は水冷されたのちに、ペレタイザーで切断されてペレット状などの粒状体とされる。
【0017】
用いるエステル化反応槽の型式に特に制限はなく、例えば、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などを挙げることができる。エステル化反応槽は、1基とすることができ、あるいは、同種又は異種の複数基の槽を直列させた複数槽とすることもできる。本発明に用いる重縮合反応槽の型式に特に制限はなく、例えば、縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽などを挙げることができる。重縮合反応槽は、1基とすることができ、あるいは、同種又は異種の複数基の槽を直列させた複数槽とすることもできる。
【0018】
用いるエステル化反応触媒に特に制限はなく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物などを挙げることができる。これらの中で、チタン化合物を特に好適に用いることができる。エステル化触媒として用いるチタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネートなどのチタンアルコラート、テトラフェニルチタネートなどのチタンフェノラートなどを挙げることができる。チタン化合物触媒の使用量は、例えば、テトラブチルチタネートの場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂の理論収量に対して、チタン原子として30〜300ppm(重量比)を用いることが好ましく、50〜200ppm(重量比)を用いることがより好ましい。
【0019】
エステル化物を重縮合する際の触媒としては、新たな触媒の添加を行うことなく、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒を引き続いて重縮合反応触媒として用いることができ、あるいは、重縮合反応時に、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒と同じ又は異なる触媒をさらに添加することもできる。例えば、テトラブチルチタネートをさらに添加する場合、その使用量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の理論収量に対して、チタン原子として、300ppm(重量比)以下であることが好ましく、150ppm(重量比)以下であることがより好ましい。エステル化反応触媒と異なる重縮合反応触媒としては、例えば、三酸化二アンチモンなどのアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物などを挙げることができる。
【0020】
エステル化反応及び/又は重縮合反応においては、前記の触媒の他に、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、又は、これらのエステルや金属塩などの燐化合物、水酸化ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物などの反応助剤、抗酸化剤、離型剤その他の添加剤を添加することができる。
【0021】
ポリブチレンテレフタレートの製造方法には、テレフタル酸ジメチルなどと、1,4−ブタンジオールとのエステル交換反応を経る方法と、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとの直接エステル化反応を経る方法があるが、上述した、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応方法は、原料コスト面から有利である。また、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応によれば、エステル交換反応を経る方法に比べて、降温結晶化温度が高いポリブチレンテレフタレート樹脂を容易に得ることができるので好ましい。
【0022】
ポリブチレンテレフタレートの製造方法には、回分式反応と連続式反応がある。回分式反応は、エステル交換反応又はエステル化反応と重縮合反応を回分式で行う方法であり、連続式反応は、エステル化反応と重縮合反応を連続的に行う方法である。上述のテレフタル酸と1,4−ブタンジオールを連続的に重合する方法は、反応終了後の反応槽からの抜き出しの時間的経過に伴う分子量低下、末端カルボキシル基量の増加、残存テトラヒドロフラン量の増加が発生することがなく、高品質の樹脂を容易に得ることができるので好ましい。
また、ポリブチレンテレフタレートの他の製法としては、テレフタル酸或いはテレフタル酸ジメチルと1,4−ブタンジオールを溶融重合により、低分子量で末端カルボキシル基量の小さい重合体を製造し、次いで所望の分子量となるまで固相重合する方法がある。この方法では、末端カルボキシル基量の小さいポリブチレンテレフタレートを得ることができる。また、出発原料としてはテレフタル酸を用いる方が、結晶化温度の高いポリブチレンテレフタレートを得ることができる。
【0023】
本発明組成物に用いる(B)ケイ酸金属塩系充填剤としては、樹脂の充填剤として知られるケイ酸塩であって、例えばタルクなどのケイ酸マグネシウム系充填剤、カオリン等のケイ酸アルミニウム系充填剤、マイカ等のケイ酸アルミニウム−カリウム系充填剤、ワラストナイト等のケイ酸カルシウム系充填剤などが挙げられる。なかでもケイ酸マグネシウム系充填剤が好ましい。形状としては板状のものが好ましく、なかでも板状のケイ酸マグネシウム系充填剤が特に好ましく用いられる。
【0024】
(B)ケイ酸金属塩充填剤の平均粒度は、15μm以下であることが必要であり、0.1〜15μmが好ましく、さらに好ましくは0.1〜10μm、特に好ましくは0.2〜5μmである。
本発明におけるケイ酸金属塩充填剤の平均粒度とは、本発明の樹脂組成物ペレットを電気炉で500℃、30分間加熱して完全に灰化して得られた粒子を、3%中性洗剤水溶液に適量加え、攪拌し、場合によっては更に超音波照射して、透過率が85%になるように分散させたケイ酸金属塩充填剤をレーザー回折/散乱式粒度分布装置(例えば、島津レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3000)などを用いて導出する方法において、粒度分布累積の50%に相当する粒子径を示す。なお、このようなサイズの充填剤は、一般には混練押出機中でほとんど破砕されることがないので、混練前のケイ酸金属塩充填剤の平均粒度と略同じである。
【0025】
(B)ケイ酸金属塩系充填剤は、必要に応じてシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤等による表面処理を施すことができる。しかし、表面処理により引張伸度の低下を抑えることができるが、結晶化促進効果が低下するので、必要な要求特性に基づき表面処理を選択すればよい。
【0026】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、必要に応じ、(C)離型剤を配合することができる。離型剤としては、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸およびその金属塩またはエステル、シリコンオイルなどの樹脂用離型剤が挙げられ、好ましくは脂肪酸エステル、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスなどであり、特に炭素数12〜36の脂肪酸残基と炭素数1〜36のアルコール残基から成る脂肪酸エステルが好ましい。より好ましくは炭素数16〜32の脂肪酸残基と炭素数1〜36のアルコール残基からなる脂肪酸エステル、更に好ましくは炭素数16〜32の脂肪酸残基と炭素数1〜20のアルコール残基からなる脂肪酸エステルである。
【0027】
かかる脂肪酸エステルを形成する脂肪酸の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などが挙げられる。脂肪酸残基の炭素数が12未満の場合は、離型性が低く、また、揮発し易くなり、金型汚れの原因となる恐れがある。脂肪酸残基の炭素数が36を超える場合は、離型性を向上する効果が十分に発現しない恐れがある。
【0028】
脂肪酸エステルを形成するアルコールとしては、一価アルコール、二価アルコール及び三価以上の多価アルコールを使用することが出来る。斯かるアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等の二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の三価アルコール、ペンタエリスリトール、エリスリトール等の四価アルコール等が挙げられる。アルコール残基の炭素数が36を超える場合は、離型性を向上する効果が十分に発現しない恐れがある。
【0029】
(C)離型剤として適した脂肪酸エステルの具体例としては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、ベヘン酸メチル、モンタン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸オクチル、ラウリル酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールジパルミテート、エチレングリコールジステアレート、エチレングリコールジモンタネート、プロピレングリコールモノラウレート、プロピレングリコールモノステアレート、1,3−プロパンジオールジラウレート、1,3−プロパンジオールジステアレート、1,3−プロパンジオールジモンタネート、1,4−ブタンジオールジラウレート、1,4−ブタンジオールジステアレート、1,4−ブタンジオールジモンタネート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノモンタネート、グリセリンジパルミテート、グリセリンジステアレート、グリセリンジオレエート、グリセリントリステアレート、グリセリントリオレエート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジパルミテート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリパルミテート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0030】
本発明組成物中の脂肪酸エステルの含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、通常0.01〜2重量部、好ましくは0.1〜1重量部である。脂肪酸エステルの含有量が0.01重量部未満の場合は、離型性向上効果(成形サイクルの短縮効果)が十分に発現しない恐れがあり、2重量部を超える場合は、脂肪酸エステルの増加に見合う離型性向上効果は得られず、むしろ強度や耐熱性が低下する恐れがある。
【0031】
また、(C)離型剤としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスも好ましい。パラフィンワックス又はポリエチレンワックスの分子量は、通常300〜5000、好ましくは500〜3000である。分子量が300未満の場合は、コンパウンド時に真空ベントから簡単に揮発し、その効果を発揮し難くなったり、成形中にワックスが簡単にブリードアウトして金型汚れの原因ともなる。一方、分子量が5000を超える場合は、ブリードアウトせずに離型剤としての効果を減ずる。
【0032】
本発明樹脂組成物中の、パラフィンワックス又はポリエチレンワックスの含有量は、ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、通常0.01〜2重量部、好ましくは0.1〜1重量部である。パラフィンワックス又はポリエチレンワックスの含有量が0.01重量部未満の場合は、離型性向上効果(成形サイクルの短縮効果)が十分に発現しない恐れがあり、2重量部を超える場合は、パラフィンワックス又はポリエチレンワックスの増加に見合う離型性向上効果は得られず、むしろ強度や耐熱性が低下する恐れがある。
【0033】
本発明の樹脂組成物を自動車、電気電子分野の部品に用いるには、(D)酸化防止剤を配合することが好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤(D1)、イオウ系酸化防止剤(D2)及びリン系酸化防止剤(D3)から成る群より選ばれる1種以上の酸化防止剤が好ましい。
【0034】
本発明で好ましく使用されるフェノール系酸化防止剤(D1)とは、フェノール性ヒドロキシル基を有する酸化防止剤を意味し、特に、フェノール性ヒドロキシル基が結合した芳香環の炭素原子に隣接する1個または2個の炭素原子が、炭素数4以上の置換基により置換されているヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。炭素数4以上の置換基は、芳香環の炭素原子と炭素−炭素結合により結合していてもよく、炭素以外の原子を介して結合していてもよい。
【0035】
フェノール系酸化防止剤(D1)の具体例としては、p−シクロヘキシルフェノール、3−t−ブチル−4−メトキシフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の非ヒンダードフェノール系酸化防止剤、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、スチレン化フェノール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(6−t−ブチル−4−エチルフェノール)、2,2’−メチレンビス[4−メチル−6−(1,3,5−トリメチルヘキシル)フェノール]、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、1,1,3−トリス[2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル]ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス[3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル]ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、チオビス(β−ナフトール)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。特に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、それ自体安定ラジカルとなり易いためにラジカルトラップ剤として好適に使用することが出来る。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3000である。
【0036】
本発明で使用するイオウ系酸化防止剤(D2)とは、フェノール性ヒドロキシル基を有さず、イオウ原子を有する酸化防止剤を意味する。イオウ系酸化防止剤(D2)の具体例としては、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール テトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N−フェニル−β−ナフチルアミン)、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイト等が挙げられる。特に、チオエーテル構造を有するチオエーテル系酸化防止剤は、酸化された物質から酸素を受け取って還元するため、好適に使用することが出来る。イオウ系酸化防止剤の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3000である。
【0037】
本発明で使用するリン系酸化防止剤(D3)とは、フェノール性ヒドロキシル基もイオウ原子も有さず、リン原子を有する酸化防止剤を意味する。リン系酸化防止剤(D3)は、P(OR)構造を有する酸化防止剤であることが好ましい。ここで、Rは、アルキル基、アルキレン基、アリール基、アリーレン基などであり、3個のRは同一でも異なっていてもよく、2個のRが環構造を形成していてもよい。斯かるリン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0038】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、フェノール系酸化防止剤(D1)の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、通常0.001〜2重量部、好ましくは0.003〜1重量部である。フェノール系酸化防止剤の含有量が0.001重量部未満の場合は、酸化防止効果が十分に発現しない恐れがあり、2重量部を超える場合は、酸化熱安定性の悪化や、溶融混練時の樹脂の分解を惹起する可能性がある。
【0039】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、イオウ系酸化防止剤(D2)及び/又はリン系酸化防止剤(D3)は、樹脂組成物の耐熱老化性を改良し、色調、引張強度、伸度などの保持率を向上させる効果を有する。
【0040】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、イオウ系酸化防止剤(D2)及びリン系酸化防止剤(D3)の含有量は、それぞれ、(A)ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、通常0.001〜1.9重量部、好ましくは0.003〜1重量部である。各酸化防止剤の含有量が0.001重量部未満の場合は、上記の効果が十分に発現しない恐れがあり、1.9重量部を超える場合は、酸化熱安定性の悪化や、溶融混練時の樹脂の分解を惹起する可能性がある。
【0041】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、フェノール系酸化防止剤(D1)とイオウ系酸化防止剤(D2)及び/又はリン系酸化防止剤(D3)を含有させる場合、フェノール系酸化防止剤1重量部に対し、イオウ系酸化防止剤および/またはリン系酸化防止剤の割合は、通常0.2〜5重量部である。イオウ系酸化防止剤および/またはリン系酸化防止剤の割合が0.2重量部未満の場合または5重量部を超える場合は、何れも、耐熱老化性を向上する効果が小さくなる恐れがある。
【0042】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、フェノール系酸化防止剤とイオウ系酸化防止剤および/またはリン系酸化防止剤を含有させる場合、酸化防止剤の含有量の合計は、(A)ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、通常2重量部以下である。酸化防止剤の含有量の合計が2重量部を超える場合は、酸化熱安定性が悪化したり、溶融混練時に樹脂の分解が起こる恐れがある。
【0043】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分以外の慣用の添加剤などを配合することができる。配合する添加剤に特に制限はなく、例えば、耐熱安定剤などの安定剤、滑剤、触媒失活剤などの添加剤は、重合途中あるいは重合後に添加することができる。さらに、ポリブチレンテレフタレート樹脂に、所望の性能を付与するために、紫外線吸収剤、耐候安定剤などの安定剤、染顔料などの着色剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤などを配合することができる。
【0044】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を配合することができる。これらの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0045】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に前記の種々の添加剤を配合する方法に特に制限はないが、溶融混練により配合することが好ましく、熱可塑性樹脂について通常使用される混練方法を適用することができる。混練方法としては、例えば、各成分を、必要により、付加的成分である物質とともに、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダーなどにより均一に混合したのち、一軸混練押出機、多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル、ブラベンダーなどを用いて混練することができる。各成分は、付加的成分を含めて、混練機に一括して供給することができ、あるいは、順次供給することもできる。また、付加的成分を含めて、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておくこともできる。
本発明において、平均粒度が15μm以下の珪酸金属塩系充填剤0.0001〜0.01重量部を添加する方法であるが、極微量の珪酸金属塩充填剤を均一に添加する方法は工業的には難しい。予め、ポリブチレンテレフタレート100重量部に珪酸金属塩系充填剤を0.01〜5重量部を配合した樹脂組成物を溶融混練して製造されたマスターバッチを製造し、該マスターバッチを10〜100倍量のポリブチレンテレフタレートにブレンドして、再度溶融混練することにより、均一に珪酸金属塩系充填剤を添加することができる。
【0046】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形加工方法は、特に制限はなく、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押し出し成形、プレス成形などの成形法を適用することができる。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品は、末端カルボキシ基量が少なく、降温結晶化温度が高く、残存テトラヒドロフラン量が少ないので、成形サイクルが短く、耐加水分解性に優れ、電気・電子部品に用いても接点腐食を引き起こすおそれがないので、本発明の樹脂組成物から得られる成形品としては、各種自動車部品、電気・電子部品が好適であり、特に、小型化、多極化が求められているコネクタ−が好適である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の例に制約されるものではない。
なお、以下の例で使用した原材料及び樹脂組成物の評価法は次のとおりである。
〔使用した原材料〕
【0048】
*PBT−1:製造例1で得られたポリブチレンテレフタレート樹脂、固有粘度0.95dl/g、降温結晶化温度178℃。
*PBT−2:製造例2で得られたポリブチレンテレフタレート樹脂、固有粘度0.95dl/g、降温結晶化温度169℃。
【0049】
*タルク−1:林化成(株)製、「ミクロンホワイト 5000S」、平均粒度2.8μm、板状。
*タルク−2:林化成(株)製、「タルカンパウダー PK−C」、平均粒度11μm、板状。
*カオリン:林化成(株)製、「ASP−400P」、平均粒度4.8μm。
*マイカ−1:林化成(株)製、「WG−325」、平均粒度9μm、板状。
*マイカ−2:林化成(株)製、「FM−40」、平均粒度40μm、板状。
【0050】
*離型剤:モンタン酸エステル、東洋ペトロライト(株)製、「ルザワックスEP」。
*酸化防止剤:ペンタエリスリトール テトラキス[3−(3,5ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバ・スペシャルティケミカルズ(株)製、「IRGANOX1010」。
【0051】
〔評価方法〕
*降温結晶化温度:示差走査熱量計[パーキンエルマー社、型式1B]を用い、(A)ポリブチレンテレフタレートペレットまたはポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温し、発熱ピークの温度を測定し、降温結晶化温度とした。
*最短成形サイクル時間:射出成形機[(株)日本製鋼所製、SG−75]により16極コネクターを連続成形し、成形品が固定金型に残ることなく20ショット連続成形できる最短成形サイクル時間を求めた。シリンダー温度は250℃、初期金型温度は45℃に設定した。
【0052】
*引張試験:ISO527に準拠して測定。強度および伸びの単位は夫々MPa、%。
*シャルピー衝撃試験:ISO179に準拠して測定。単位はkJ/m
【0053】
製造例1
テレフタル酸1モルに対して1,4−ブタンジオール1.8モルの割合で両原料をスラリー調製槽に供給し、攪拌装置で混合して調製したスラリー2,976重量部(テレフタル酸9.06モル部、1,4−ブタンジオール16.31モル部)を、連続的にギヤポンプにより、温度230℃、圧力101kPaに調整した第一エステル化反応槽に移送するとともに、テトラブチルチタネート3.14重量部を供給し、滞留時間2時間で、攪拌下にエステル化反応させてオリゴマーを得た。
第一エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度240℃、圧力101kPaに調整した第二エステル化反応槽に移送し、滞留時間1時間で、撹拌下にエステル化反応をさらに進めた。
第二エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度250℃、圧力6.67kPaに調整した第一重縮合反応槽に移送し、滞留時間2時間で、攪拌下に重縮合反応させ、プレポリマーを得た。
第一重縮合反応槽から、プレポリマーを、温度250℃、圧力133Paに調整した第二重縮合反応槽に移送し、滞留時間4時間で、攪拌下に重縮合反応をさらに進めて、ポリマーを得た。このポリマーを第二重縮合槽から抜き出してダイに移送し、ストランド状に引き出して、ペレタイザーで切断することにより、ベレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得た。
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は20eq/tであり、降温結晶化温度は178℃であり、固有粘度は0.95dl/gであった。
【0054】
製造例2
テレフタル酸ジメチル1モルに対して、1,4−ブタンジオール1.8モルの割合で、合計3,230重量部をエステル交換反応槽に供給し、テトラブチルチタネート3.14重量部を添加し、温度210℃、圧力101kPaで、3時間エステル交換反応させて、オリゴマーを得た。
引き続いて、このオリゴマーを、重縮合反応槽に移送し、攪拌下に、温度250℃、圧力133Paで、4時間重縮合反応を進めてポリマーを得た。次いで、窒素圧をかけてストランド状に抜き出し、ペレタイザーで切断することにより、ペレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得た。
得られたポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基量は41eq/tであり、降温結晶化温度は169℃であり、固有粘度は0.95dl/gであった。
【0055】
〔実施例1〜8および比較例1〜4〕
表−1に示す配合にて、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ケイ酸金属塩系充填剤、(C)離型剤および(D)酸化防止剤を一括してスーパーミキサー(新栄機械社製SK−350型)で混合した後、2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30HSST L/D=42)のホッパーに投入し、吐出量20kg/h、スクリュー回転数150rpm、バレル温度260℃の条件下押出して樹脂組成物のペレットを得た。
得られた樹脂組成物ペレットについて、上述の方法にて降温結晶化温度および最短成形サイクル時間の測定を行った。また射出成型機(住友重機械社製、型式SH−100)を使用して、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件でISO強度試験片を成形し、上述の方法で測定した。結果を表−1に示した。
【0056】
〔実施例9〕
PBT−1を99,97重量部及びタルク−1を0.03重量部配合し、実施例1と同じ2軸押出機を用い、同じ条件で押出してマスターバッチのペレットを得た。得られたマスターバッチペレット3.3重量部とPBT−1ペレット96.7重量部を配合し、同様に押出して、実施例3と同じ配合比率の組成物を得、実施例3と同様に評価した。その結果、降温結晶化温度194℃、最短成形サイクル時間20秒、引張強度56MPa、引張伸度101%、シャルピー衝撃強度3.4kJ/mと、実施例3と略同じであった。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
表−1から明らかなように、PBT−1(ポリブチレンテレフタレート樹脂)100重量部に対し、平均粒度15μm以下のケイ酸金属塩系充填剤を0.001または0.005重量部配合した実施例1、2および6、7の組成物は、ケイ酸金属塩系充填剤の未配合の比較例3に比べ、降温結晶化温度が高くなり、最短成形サイクル時間も短縮され、同時に引張伸度も同等か、低下はわずかであり、良好な特性を示している。このなかでも、平均粒度2.8μmのタルクを使用した実施例1および2が特に良好である。
一方、平均粒度15μm以下ケイ酸金属塩系充填剤を0.02または0.1重量部と比較的多量に配合した比較例1〜2の組成物は、ケイ酸金属塩系充填剤の未配合の比較例3に比べ、降温結晶化温度が高くなり、最短成形サイクル時間は短縮されたものの、引張伸度、シャルピー衝撃強度の低下は著しい。
平均粒度15μm以上のケイ酸金属塩系充填剤を配合した比較例4は引張伸度の低下が著しい。
【0061】
ケイ酸金属塩系充填剤を、マスターバッチを作成して配合した実施例9も、同一配合比率の実施例3と特性は変わらず、平易に本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の作成ができることを示した。
降温結晶化温度が低いPBT−2を用いた実施例5は、降温結晶化温度が高いポリブチレンテレフタレートを用いた実施例1に比較すると、組成物の降温結晶化温度も低く、したがって、最短成形サイクル時間が長くなり、引張伸度も低下気味である。すなわち微量のケイ酸金属塩系充填剤を配合する時は、降温結晶化温度が高いポリブチレンテレフタレートと組み合わせたときが有利であることを示している。
離型剤は、成形サイクル時間の短縮に効果があり、ケイ酸金属塩系充填剤の高配合品と変わらない成形サイクル時間が得られた。
酸化防止剤を配合した実施例4の組成物は、本発明において実施した評価では、特別な効果を示すものではないが、酸化防止剤配合が要求される自動車や電気電子用途に対し、問題となる性能劣化は見られない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、(B)平均粒度が15μm以下のケイ酸金属塩系充填剤0.0001〜0.01重量部を含有してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(B)ケイ酸金属塩系充填剤がタルクであることを特徴とする請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(A)ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、更に(C)離型剤を0.01〜3重量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
(C)離型剤が炭素数12〜36の脂肪酸残基と炭素数1〜36のアルコール残基からなる脂肪酸エステルであること特徴とする請求項3に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、更に酸化防止剤を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
(A)ポリブチレンテレフタレートの降温結晶化温度が175℃以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
(A)ポリブチレンテレフタレート100重量部および(B)ケイ酸金属塩系充填剤0.01〜5重量部からなる樹脂組成物を溶融混練して製造されたマスターバッチを、該マスターバッチの10〜100重量倍の(A)ポリブチレンテレフタレートに、ブレンドすることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物より形成されたコネクター製品。

【公開番号】特開2006−1969(P2006−1969A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176734(P2004−176734)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】