説明

ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びこれを用いた樹脂成形品

【課題】 流動性が高く成形性に優れ、且つ、得られる樹脂成形品は靭性、耐衝撃性、耐ヒートショック性等の物理物性に優れ、更には熱安定性や耐加水分解性にも優れた樹脂成形品を提供可能な、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、(B)グリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するエラストマー2〜50質量部、(C)鎖状ポリエステルオリゴマー0.01〜10質量部を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及びこの樹脂組成物を用いた樹脂成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びインサート成形品に関する。さらに詳しくは、流動性が高く成形性に優れ、且つ、靭性、耐衝撃性、耐ヒートショック性等の物理物性に優れ、更には熱安定性や耐加水分解性にも優れた樹脂成形品を提供可能な、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することができる。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、自動車部品、電気・電子部品などの広範囲の用途に好適に使用することができ、とりわけ、成形性、耐ヒートショック性に優れたインサート成形品に好適である。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記することがある。)樹脂やポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略記することがある。)樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械的特性、電気的特性、その他物理的・化学的特性などに優れ、且つ、加工性にも優れているので、エンジニアリングプラスチックとして自動車の部品、電気・電子機器部品、その他の一般工業製品製造用材料として広く使用されている。
【0003】
一般的に、これら熱可塑性ポリエステル樹脂自体は、高温と低温との雰囲気に交互に曝された(ヒートショックが与えられた)場合、元の物理的特性を保持する性質、すなわちヒートショック耐性(耐ヒートショック性、または耐ヒートサイクル性)が不充分であるという課題を有している。
【0004】
具体的には例えば、自動車電装イグニッションコイルや小型モータのステータコア封止品等の、金属部材をインサートした樹脂成形品や、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂のような熱硬化性樹脂製部材を封止した樹脂成形品において、特にこの様な課題解決が望まれている。
【0005】
即ち、熱可塑性ポリエステル樹脂と、樹脂成形品内部の金属部材や熱硬化性樹脂製部材との温度変化による熱膨脹・収縮率の違いから、樹脂成形品全体として肉薄の成形品、又は一つの成形品の中に肉厚変化の大きい部分を持つ様な成形品、そして鋭角部分を持つ成形品などにおいては、使用中の環境温度変化によって成形品が割れる等の不具合が生ずる場合があった。よって樹脂成形品の用途や形状などがかなり制限されると言う課題があり、この改善が求められてきた。
【0006】
更に、使用中の環境温度変化による成形品の割れを改良する目的で、熱可塑性ポリエステル樹脂にガラス繊維などの強化充填剤を配合した場合には、得られた樹脂成形品は強化充填剤の配向による熱膨脹・収縮率の異方性が発生することがある。また、強化充填剤配合による伸度低下が、使用中の温度変化による成形品の破損頻度を更に増す原因となることがある。
【0007】
この様な要求に対して、従来から、PBT樹脂成形品のヒートショック性等を改善する目的で、PBTを主たる樹脂成分とし、各種エラストマー、またはこれと各種ポリエステル類を組み合わせた樹脂組成物の提案が多数なされてきた(例えば特許文献1〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−31851号公報
【特許文献2】特開平6−136094号公報
【特許文献3】特開2009−203410号公報
【特許文献4】特開2000−265046号公報
【特許文献5】特開2008−156381号公報
【特許文献6】特開2009−173899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述した様な従来の技術では、例えば特許文献1〜5に記載の方法では、得られる樹脂組成物の流動性が不充分であるという課題があった。これに対しては、例えば特許文献6に記載の様に、多価アルコール類を用いた流動性の改良方法等が提案されてはいるが、得られる樹脂成形品の靱性や耐ヒートッショック性がかえって不充分となってしまうなど、物性バランスが良好と成らないという課題が、未だにあった。
【0010】
よって、流動性が高く成形性に優れるだけでなく、靭性や耐衝撃性、耐ヒートショック性等の物理物性にも優れ、更には熱安定性や耐加水分解性にも優れた、物性バランスに優れた樹脂成形品を提供可能な、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の諸課題について、本発明者が鋭意検討した結果、先ず流動性改良の方法として、ポリブチレンテレフタレート系樹脂に特定のポリエステルオリゴマー、具体的には鎖状のポリエステルオリゴマーを特定少量配合したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の特徴を大幅に損ねることなく、高い流動性を示すものとなることを見出した。
【0012】
そして、このポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に対して更に、特定のエラストマー、具体的にはグリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するエラストマーを特定少量配合したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、意外にも、上述した高い流動性を維持し、且つ靭性、耐衝撃性に加えて耐ヒートショック性等の物理物性にも優れ、更には熱安定性や耐加水分解性にも優れた、物性バランスに優れたものとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0014】
[1] (A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、(B)グリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するエラストマー2〜50質量部、(C)鎖状ポリエステルオリゴマー0.01〜10質量部を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0015】
[2] (B)少なくともグリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するエラストマーが、(B−1)α−オレフィンとα、β−不飽和酸のグリシジルエステルからなるグリシジル基含有共重合体1〜30質量部、及び(B−2)酸変性オレフィン系エラストマー1〜30質量部からなることを特徴とする[1]1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0016】
[3] (C)鎖状ポリエステルオリゴマーが、ポリエチレンテレフタレートオリゴマーであることを特徴とする[1]または[2]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0017】
[4] (C)鎖状ポリエステルオリゴマーの固有粘度が、0.05〜0.30dl/gであることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0018】
[5] (A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の固有粘度が、0.8〜0.9dl/gであることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0019】
[6] (A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂が、(A−2)固有粘度0.6〜0.8dl/gのポリブチレンテレフタレート系樹脂と(A−3)固有粘度0.9〜1.5dl/gのポリブチレンテレフタレート系樹脂からなり、成分(A−2)と成分(A−3)との質量比が、5:95〜100:0であることを特徴とする[5]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0020】
[7] 更に、(D)繊維状強化剤を(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して10〜200質量部を含有することを特徴とする[1]乃至[6]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0021】
[8] [1]1乃至[7]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物と、金属、無機固体及び熱硬化性樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つとを含む、射出成形により得られるインサート成形品。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、流動性が高く成形性に優れ、且つ、靭性、耐衝撃性、耐ヒートショック性等の物理物性に優れ、更には熱安定性や耐加水分解性にも優れた樹脂成形品を提供可能な、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することができる。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形品は、自動車部品、電気・電子部品などの広範囲の用途に好適に使用することができ、とりわけ、成形性、耐ヒートショック性に優れたインサート成形品、具体的には例えばコネクターやセンサー等に好適である。
【0023】
その他の用途としては、具体的には例えば、コイルをはじめとして、LEDランプ、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品用途に適している他、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品用途、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、CD、DVD、BL等のメディア用の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;
オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;
オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・冷却系・ブレーキ系・ワイパー系・排気系・吸気系各種パイプ・ホース・チューブ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、電池周辺部品、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクター、ヒューズ用コネクター等の各種コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、トルクコントロールレバー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、インストルメントパネル、エアバッグ周辺部品、ドアパッド、ピラー、コンソールボックス、各種モーターハウジング、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアパネル、ルーフパネル、フードパネル、トランクリッド、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプベゼル、ドアハンドル、ドアモール、リアフィニッシャー、ワイパー等の自動車・車両関連部品等の衝撃吸収部材に好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】直方体形状の鉄(SUS)製のインサート部材。
【0025】
【図2】金型キャビテイ内の鉄(SUS)製インサート部材の固定状態の模式図
【0026】
【図3】インサート成形品
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びインサート成形品の実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂脂
本発明に用いる(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、ジカルボン酸又はその誘導体と、ジオールとからなるポリエステル樹脂である。本発明において(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂とは、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、1,4−ブタンジオールが全ジオールの50質量%以上を占めるポリエステル樹脂をいう。テレフタル酸は全ジカルボン酸成分の80モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上占めることがさらに好ましい。1,4−ブタンジオールは全ジオール成分の80モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上占めることがさらに好ましい。
【0029】
ジカルボン酸又はその誘導体としてはテレフタル酸又はこの低級アルキルエステルが主であるが、その他の酸成分として、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、これらの低級アルキルあるいはグリコールのエステルなどの1種又は2種以上を併用してもよい。
【0030】
ジオールとしては1,4−ブタンジオールを主たる対象とするが、その他のジオール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール;又はキシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール;等の1種又は2種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明においては、更に、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分;又はトリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分;などを共重合成分として使用することができる。
【0032】
上記ジカルボン酸又はその誘導体とジオールとからなるポリブチレンテレフタレート系樹脂の製造方法は任意であり、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、テレフタル酸成分と1,4−ブタンジオール成分とからなるポリブチレンテレフタレート樹脂について説明する。
【0033】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法としては、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを直接エステル化反応させる直接重合法と、テレフタル酸ジメチルを主原料として使用するエステル交換法とに大別される。前者は初期のエステル化反応で水が生成し、後者は初期のエステル交換反応でアルコールが生成するという違いがある。直接エステル化反応は原料コスト面から有利である。また、ポリエステルの製造方法は、原料供給またはポリマーの払い出し形態から回分法と連続法に大別される。初期のエステル化反応またはエステル交換反応を連続操作で行って、それに続く重縮合を回分操作で行ったり、逆に、初期のエステル化反応またはエステル交換反応を回分操作で行って、それに続く重縮合を連続操作で行う方法もある。
【0034】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂等のポリエステル樹脂の固有粘度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(質量比)の混合溶媒を用い、温度30℃で測定した場合に0.5以上、中でも0.7以上、特に0.8以上であることが好ましく、またその上限は3以下、中でも2以下、更には1以下、特に0.9以下であることが好ましい。
【0035】
この固有粘度が、0.50より小さいと機械的性質が充分に発揮されなく、逆に3より大きいと成形加工が困難になる場合がある。尚、2種類以上の上記固有粘度範囲を満たすポリブチレンテレフタレート系樹脂を併用してもよ。そしてまた、上記固有粘度範囲以外のものでも、二種上のポリブチレンテレフタレート系樹脂を併用して、上記固有粘度範囲のポリブチレンテレフタレート系樹脂としたものを用いてもよい。
【0036】
本発明に用いる(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂としては、2種類以上のポリブチレンテレフタレート系樹脂を併用してもよい。この際に用いるポリブチレンテレフタレート系樹脂の種類と、その配合割合は、本発明の効果を奏する範囲において適宜選択して決定すればよい。
【0037】
中でも、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂を得るに際して、(A−2)固有粘度0.6〜0.8dl/gのポリブチレンテレフタレート系樹脂と、(A−3)固有粘度0.9〜1.5dl/gのポリブチレンテレフタレート系樹脂を用いることが、靱性を著しく損ねることなく、流動性を格段に向上させることができると言う点から好ましい。
【0038】
これらに種類のポリブチレンテレフタレート系樹脂、(A−2)と(A−3)とを併用する際の配合割合は任意だが、得られる(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂としての特徴である靱性と流動性の物性バランスに優れているという特徴を考慮し、質量比((A−2):(A−3))として5:95〜100:0とすることが好ましい。
【0039】
中でもこの質量比は、10:90〜90:10、更には30:70〜80:20、特に60:40〜80:20の質量比として、(A−2)を(A−3)に対して多く配合することが好ましい。これは、この様な質量比の範囲で配合して得られる(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂を用いることによって、本発明の効果である靱性を著しく損ねることなく、流動性を格段に向上させることができるので好ましい。
【0040】
(B)グリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するエラストマー
本発明に用いる(B)グリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するエラストマーとしては、(B)成分の特徴である、グリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するエラストマーであれば、従来公知の任意のものを使用できる。
【0041】
本発明において、エラストマーとは、一般的に、ガラス転移温度が室温より低い重合体を含有し、分子間の一部が共有結合・イオン結合・ファンデルワールス力・絡み合い等により、互いに拘束されている重合体である。
【0042】
エラストマーとしては、具体的には例えば、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)やエチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、エチレン−ブテン共重合体の様なオレフィン系エラストマー、スチレンとブタジエンの共重合体から成るSBR等のスチレン系エラストマー、シリコン系エラストマー、ニトリル系エラストマー、アクリレート系エラストマー、ブタジエン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ナイロン系エラストマー、エステル系エラストマー、フッ素系エラストマー、およびそれらのエラストマーの共重合体や、これらに反応部位(二重結合、無水カルボキシル基等)を導入した変性物などが挙げられる。
【0043】
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いたり、または共重合体としたものとして用いてもよい。なかでも本発明に用いる(B)成分のエラストマーとしては、オレフィン系エラストマーやアクリレート系エラストマー及びこれらの構造を含む共重合体であることが、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物における流動性と耐ヒートショック性のバランスに優れたものとなるので好ましく、中でもオレフィン系エラストマーとアクリレート系エラストマーとを併用することが好ましい。
【0044】
アクリレート系エラストマーは、アクリル酸エステルの重合またはそれを主体とする共重合により得られるゴム状弾性体であり、代表的なものとしては、ブチルアクリレートのようなアクリル酸エステルと、少量のブチレンジアクリレートのような架橋性モノマーを重合させて得た重合体に、メチルメタクリレートのようなグラフト重合性モノマーをグラフト重合させて得たゴム状の重合体が挙げられる。
【0045】
上記アクリル酸エステルとしては、ブチルアクリレートの他に、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられる。また、架橋性モノマーとしては、ブチレンジアクリレートの他に、ブチレンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートの様なポリオールとアクリル酸またはメタクリル酸のエステル類、ジビニルベンゼン、ビニルアクリレート、ビニルメタクリレートの様なビニル化合物、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート、モノアリルマレート、モノアリルフマレート、トリアリルシアヌレートの様なアリル化合物などが挙げられる。
【0046】
また、上記グラフト重合性モノマーとしては、メチルメタクリレートの他に、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリルなどが挙げられる。加えて、(B)成分の特徴であるグリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するアクリレート類、具体的には例えば、グリシジルメタクリレートや、マレイン酸等の各種酸変性メタクリレート等が挙げられる。このグラフト重合性モノマーは、その一部を、上記アクリル酸エステルと架橋性モノマーとを重合させて重合体を製造する際に共存させて共重合させることもでき、更には、オレフィン系モノマーとアクリレート系モノマーとを含む共重合体等も挙げられる。
【0047】
オレフィン系エラストマーとしては、具体的には例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、該ブロック共重合体の水素添加物、ブタジエン−イソプレン共重合体などのジエン系エラストマー、エチレン−プロピレンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン−ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレンとα−オレフィンとの共重合体、エチレン−酢酸ビニルなどのエチレンと脂肪酸ビニルとの共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキサジエン共重合体などのエチレン−プロピレン非共役ジエン3元共重合体、ブチレン−イソプレン共重合体、塩素化ポリエチレンなどが好ましい例として挙げられる。
【0048】
上述してきたエラストマーに、グリシジル基を導入する方法は任意であり、従来公知の任意の方法を採用することが出来る。具体的には例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどのα,β−不飽和酸のグリシジルエステル化合物等のエポキシ基を有するビニル系単量体を、エラストマー原料である単量体と共重合する方法、上記官能基を有する重合開始剤または連鎖移動剤を用いてエラストマー重合体を重合する方法、エポキシ化合物をエラストマーにグラフトさせる方法等が挙げられる。
【0049】
また、カルボン酸誘導体末端(以下、「酸変性基」ということがある。)をエラストマーに導入する場合も同様に、その方法としては任意であり、従来公知の任意の方法によって得ることが出来る。具体的には例えば、マレイン化エチレンー1ブテンランダム共重合体の製造方法が特許第3390012号に記されている。また、これに関連する記載が、特許第3330693号の[0026]〜[0030]段落や、特開平11−5891号公報の[0079]〜[0090]段落にも記されている。この様な末端を有するものとしては、具体的には例えば、マレイン酸変性のオレフィンエラストマー等が挙げられる。
【0050】
具体的には例えば、酸無水物基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、通常公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水エンディック酸、無水シトラコン酸、1−ブテン−3,4−ジカルボン酸無水物等の酸無水物とゴム質重合体の原料である単量体とを共重合する方法、酸無水物をゴム質重合体にグラフトさせる方法などを用いることが出来る。
【0051】
本発明に用いる(B)成分におけるグルシジル基や酸変性基等の官能基の含有量としては、例えばグリシジル基としてはグリシジルメタクリレート基の場合に通常、1〜20質量%であり、中でも3〜15質量%、更には3〜12質量%、特に4〜8質量%であることが好ましい。また酸変成基量としては通常、(B)成分中において10〜500μeq/gであり、中でも20〜300μeq/g、更には30〜250μeq/g、特に50〜200μeq/gであることが好ましい。(B)成分としては、これらの官能基を有さない分子が含まれていても構わないが、その割合は少ない程好ましい。
【0052】
更に(B)成分においては、これらグリシジル基や酸変性基のいずれかのみを有するものであってもよいが、グリシジル基又は酸変性基のいずれかのみを有する(B)成分同士を併用したり、またはグリシジル基と酸変性基のいずれをも有する(B)成分を用いることによって、更に耐ヒートショック性が向上するので好ましい。これは、(B)成分中にグリシジル基と酸変性基の両方が存在することによって、グリシジル基とカルボン酸誘導体末端の一部が反応するためと考えられる。
【0053】
本発明に用いる(B)成分の含有量は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して2〜50質量部である。含有量が少なすぎるとシャルピー衝撃強度等の衝撃強度や耐ヒートッショック性の向上が不充分となり、逆に多すぎると引張強度、曲げ強度等の機械的特性が不充分となる。よって(B)成分の含有量は中でも、ポリブチレンテレフタレート系100質量部に対して3〜40質量部であることが好ましく、中でも4〜30質量部、更には4〜20質量部、特に5〜20質量部であることが好ましい。
【0054】
本発明に用いる(B)成分は、グリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するエラストマーの中でも、カルボン酸誘導体末端を有するエラストマーであることが、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において流動性と耐ヒートショック等の物性バランスが優れるのでましい。
【0055】
(C)鎖状ポリエステルオリゴマー
本発明に用いる(C)鎖状ポリエステルオリゴマーは、所謂、環状のポリエステル樹脂とは異なり、末端にカルボキシル基と水酸基を有するポリエステルオリゴマーを示し、従来公知の任意のものを使用できる。
【0056】
本発明に用いる(C)鎖状ポリエステルオリゴマーは、末端にカルボキシル基と水酸基とを有しており、この官能基が、成分(B)であるエラストマーに含まれるグリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端と化学的な相互作用を生ずることによって、本発明の効果である物性バランスに優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物となることが考えられる。
【0057】
(C)鎖状ポリエステルオリゴマーは、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部添加することによって、(B)成分との併用によって、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性が改良されるだけでなく、グリシジル基と鎖状ポリエステルオリゴマーの末端カルボキシル基が反応して架橋構造を抑制し、滞留熱安定性が改良できると考えられる。よって(C)鎖状ポリエステルオリゴマーの含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して0.1〜8質量部であることが好ましく、中でも0.5〜8質量部、更には0.5〜5質量部、特に1〜5質量部であることが好ましい。
【0058】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、(C)鎖状ポリエステルオリゴマーを用いないか、又は含有量が少なすぎると、(B)成分における未反応のグリシジル基が更に反応して架橋構造をつくり、滞留熱安定性が低下し、増粘するという不具合がある。
【0059】
また(B)成分におけるカルボン酸誘導体末端は、(C)鎖状ポリエステルオリゴマーの末端水酸基が反応することで、フリー(又は未反応)の鎖状ポリエステルオリゴマー量が減少する。よって例えば射出成形などにおける、フリーの鎖状ポリエステルオリゴマーによる、モールドデポジットの発生を抑制することが出来る。
【0060】
更には、ポリエステルオリゴマーの両端に、グリシジル基を含有するエラストマーと、カルボン酸誘導体末端を含有するエラストマーとが存在することも考えられる。この様な構造が耐ヒートショック性を一段と改良していると考えられる。
【0061】
本発明に用いる(C)鎖状ポリエステルオリゴマーとしては、通常、固有粘度が0.05〜0.3[dl/g]である。固有粘度が低すぎると耐ヒートショック性が不充分となる場合があり、逆に高すぎても流動性改良効果が不充分となる場合がある。よって(C)鎖状ポリエステルオリゴマーの固有粘度としては、中でも、0.06〜0.25[dl/g]、特に0.07〜0.2[dl/g]であることが好ましい。
【0062】
尚、本発明における(C)鎖状ポリエステルオリゴマーの固有粘度は、ウベローデ型粘度計とフェノール/1,1,2,2,−テトラクロルエタンと(質量比1/1)の混合溶媒を用い、30℃の条件で測定して得られた値である。具体的には、鎖状ポリエステルオリゴマーの濃度を任意の数点で複数測定した各々の溶液粘度から、粘度数を0に外挿して算出した値である。
【0063】
尚、本発明に用いる(C)鎖状ポリエステルオリゴマーは、構造上、末端に水酸基とカルボキシル基を有する。これらの末端基は、具体的には例えば滴定によってカルボキシル基の存在と、その含有量を求めることが出来る。そして水酸基についてはNMR分析によって確認することが出来、更に具体的には例えば、NMR分析に於いて(C)鎖状ポリエステルオリゴマー単位量当たりの−OCHCHO−で示される基の当量として、水酸基量を求めることが出来る。
【0064】
(C)鎖状ポリエステルオリゴマーの製造方法
(C)鎖状ポリエステルオリゴマーは、通常、ジカルボン酸およびそのエステルとジオールから製造される。ジカルボン酸成分の例としては、例えば特開平4−246415号公報[0006]段落に記載の通り、テレフタル酸、メトキシテレフタル酸等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよいが、中でもテレフタル酸が好ましい。
【0065】
ジオール成分の例としては、例えば特開平4−246415号公報[0007]段落に記載の通り、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよいが、中でもエチレングリコール、1,4ブタンジオールが好ましい。
【0066】
本発明で用いられる(C)鎖状ポリエステルオリゴマーとしては、その入手のし易さから、ポリエチレンテレフタレートオリゴマー、ポリブチレンテレフタレートオリゴマーが好ましく、特に、ポリエチレンテレフタレートオリゴマーが好ましい。
【0067】
ポリエチレンテレフタレートオリゴマーは、通常テレフタル酸にエチレングリコールを反応させる直接重合法(エステル化反応)又はテレフタル酸ジメチルエステルにエチレングリコールを反応させるエステル交換反応によって製造される。
【0068】
最近の工業的製法としては、直接重合法が経済的に非常に有利であるために多く実施されている。直接重合法の場合、エステル化反応時においては特に触媒を使用する必要はないが、必要に応じてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、コバルト化合物、錫化合物、マグネシウム化合物等の触媒を使用することもできる。更には、リン系安定剤の存在下で実施されることもある。
【0069】
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモンオキシド、アンチモングリコキシド等が挙げられる。ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシド等が挙げられる。
【0070】
チタン化合物としては、チタン酸、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラー−iso−プロポキシド・チタンテトラ−n−ブトキシド、サリチル酸チタン、サリチルアルデヒドチタン、アセチルアセトンチタニル、ジメチルジクロロチタン等が挙げられる。
【0071】
コバルト化合物としては、塩化コバルト、ギ酸コバルト、酢酸コバルト、シュウ酸コバルト、アジピン酸コバルト、安息香酸コバルト、アセチルアセトンコバルト、炭酸コバルト、ホウ酸コバルト、コバルトグリコラート等が挙げられる。
【0072】
錫化合物としては、酸化第1スズ、酸化第2スズ、塩化第1スズ、塩化第2スズ、硫酸第1スズ、シュウ酸第1スズ、酢酸第1スズ、ジブチルスズマレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジクロリド、テトラフェニルスズ、テトラブチルスズ等が挙げられる。
【0073】
マグネシウム化合物としては、マグネシウムメトキシド、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等が挙げられる。触媒量は必要に応じて、原料酸成分1モルに対して0.05×10−4モル〜1.0×10−4モル量が添加される。更には、リン系安定剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリフェニルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート酸性リン酸エステル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸等が挙げられる。リン系安定剤量は必要に応じて、原料酸成分1モルに対して0.2×10−4モル〜20×10−4モルが添加される。
【0074】
直接重合法のエステル化反応については、ポリエチレンテレフタレートオリゴマーを製造する場合、反応槽にテレフタル酸とエチレングリコールとを、エチレングリコール/テレフタル酸のモル比1.0〜2.0の割合、好ましくは1.1〜1.6の割合で仕込み、加熱下に反応させる。エチレングリコール/テレフタル酸のモル比が1.0以下だとエステル化反応が不十分であり、2.0以上だと反応に関与しないエチレングリコールが過剰すぎて、無駄に系外に留去される。エステル化反応は通常は無触媒であるが、必要に応じて触媒や安定剤を存在させてもよい。
【0075】
エステル化反応時の反応温度は、通常は220〜270℃の範囲で行われ、好ましくは240〜260℃の範囲で行われる。反応温度が220℃以下だとエステル化反応が不十分であり、270℃以上だと副反応が起こり易くなる。反応圧力は常圧、加圧、減圧のいずれで行ってもよい。反応時間は0.5時間〜10時間の範囲で行われ、好ましくは3〜5時間の範囲で行われる。反応時間が0.5時間以下だとエステル化反応が不十分であり、10時間以上だと副反応が生成し易くなる。
【0076】
(D)繊維状強化材
本発明においては、上述した成分(A)〜(C)に加えて更に、(D)繊維状強化材を用いることが出来る。この様な繊維状強化材を用いることによって、本発明の効果を損ねることなく、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の強度を向上させることができる。
【0077】
(D)繊維状強化材としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維などの無機繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維などの有機繊維などを挙げることができる。
【0078】
これらの(D)繊維状強化材は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、とりわけ無機充填材を好適に用いることができ、特にガラス繊維を好適に用いることができる。(D)繊維状強化材が無機繊維又は有機繊維である場合、その平均繊維径に特に制限はないが、通常1〜100μmであり、中でも2〜50μm、更には3〜30μm、特に5〜20μmであることが好ましい。また、平均繊維長にも特に制限はないが、通常、0.1〜20mmであり、中でも0.5〜10mm、特に1〜5mmであることが好ましい。
【0079】
更に、(D)繊維状強化材は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂との界面密着性を向上させるために、収束剤又は表面処理剤で表面処理した強化充填材を用いることが好ましい。収束剤又は表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物などの官能性化合物を挙げることができる。
【0080】
(D)繊維状強化材は、収束剤又は表面処理剤によりあらかじめ表面処理しておくことができ、あるいは、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製の際に、収束剤又は表面処理剤を添加して表面処理することもできる。
【0081】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物における(D)繊維状強化材の含有量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して10〜200質量部である。(D)繊維状強化材の含有量が多すぎると、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂との溶融混練や、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形が困難になる場合があるので、(D)繊維状強化材の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して20〜150質量部であることが好ましく、中でも30〜100質量部、特に40〜1100質量部であることが好ましい。
【0082】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、強化充填材とともに、他の充填材を配合することもできる。配合する他の充填材としては、例えば、板状無機充填材、セラミックビーズ、ワラストナイト、タルク、クレー、マイカ、ゼオライト、カオリン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどを挙げることができる。板状無機充填材を配合することにより、成形品の異方性及びソリを低減することができる。板状無機充填材としては、例えば、ガラスフレーク、雲母、金属箔などを挙げることができる。これらの中でもガラスフレークが特に好適である。
【0083】
(E)エポキシ化合物、及び(F)その他の添加剤
本発明においては更に耐加水分解性等の効果を目的として、(E)エポキシ化合物や、これら以外の(F)その他の添加剤をも、用いることが出来る。
【0084】
本発明に使用可能な(E)エポキシ化合物は、例えば特開2008−214614号公報[0066]〜[0070]段落や、特開2008−296605号公報記載の、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、単官能性、二官能性、三官能性及び多官能性の化合物のいずれであってもよく、またこれらから選ばれる2種類以上の化合物の混合物であってもよい。特に、二官能性、三官能性又は多官能性のエポキシ化合物、すなわち、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましい。
【0085】
(E)エポキシ化合物としては、ビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、及び脂環式エポキシ化合物等が挙げられる。中でもビスフェノールA型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物が好ましく、特にノボラック型エポキシ化合物が好ましい。
【0086】
本発明の組成物において、(E)エポキシ化合物の配合量は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、一般的には0.1質量部以上であり、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、また一般的には20質量部以下であり、好ましくは10質量部以下であり、更に好ましくは5質量部以下、特に好ましくは1質量部以下である。また、前記配合量が、これらの範囲を任意に組み合わせた範囲であるのも好ましい。
【0087】
(E)エポキシ化合物の配合量が0.1質量部未満であると、耐ヒートショック性のさらなる改善効果が認められず、一方20質量部を超えると、高温滞留時に、樹脂の架橋による組成物の増粘が起こり、組成物の流動性が低下するおそれがある。
【0088】
そして更に、本発明においては有機アルカリ土類金属塩を併用することが好ましい。これは(E)エポキシ化合物に対してエポキシ開環触媒とし作用するものであり、本発明では、この両成分を併用することによって、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐ヒートショック性をさらに改善することが期待できる。
【0089】
本発明に使用可能な有機アルカリ土類金属塩としては、Ca、Mg及びBaのアルカリ土類金属と、有機酸との塩である。有機アルカリ土類金属塩の具体例には、酢酸やステアリン酸などの有機カルボン酸のCa、MgおよびBa塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムなどの有機スルホン酸カルシウム塩などが含まれる。ステアリン酸Ca及び酢酸Mgが好ましい。有機アルカリ土類金属塩の配合量は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、一般的には0.001質量部以上であり、0.005質量部以上であり、また一般的には1質量部以下であり、好ましくは0.8質量部以下である。前記配合量が、これらの範囲を任意に組み合わせた範囲であるのも好ましい。
【0090】
有機アルカリ土類金属塩の配合量が0.001質量部未満であると、耐ヒートショック性の更なる改善効果が認められず、一方1質量部を超えると、成形時などの溶融時に加水分解が促進され、強度の低下が始まり、耐ヒートショック性も低下する。
【0091】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法は任意であり、従来公知の任意の樹脂組成物の製造方法を適宜選択して使用すればよい。
【0092】
本発明の樹脂組成物は、前記の各成分(A)、(B)、(C)及び(D)、並びに必要に応じて用いられる各種添加成分を配合し、混練りすることによって得ることができる。配合は、通常用いられる方法、例えば、リボンブレンダー、ヘンセルミキサー、ドラムブレンダー等で行われる。溶融混練りには各種押出機、ブラベンダープラストグラフ、ラボプラストミル、ニーダー、バンバリーミキサー等が使われる。溶融混練りに際しての加熱温度は、通常230〜290℃である。混練り時の分解を抑制する為、前記の熱安定剤を用いるのが好ましい。
【0093】
各成分は、付加的成分を含め、混練機に一括して供給することができ、または、順次供給することもできる。また、付加的成分を含め、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておくことも出来る。ガラス繊維などの繊維状強化充填剤は、押出機の途中から樹脂が溶融した後に添加することにより、破砕を避け、高い特性を発揮させることができる。
【0094】
本発明の樹脂組成物の製造方法においては、ガラス繊維以外の原料を一括でブレンドして、混練機へ供給することも可能である。具体的には例えば、(B)成分がグリシジル基を有するエラストマー(B−1)とカルボン酸誘導体末端を有するエラストマー(B−2)を併用する場合には、(B−2)とガラス繊維以外の原料をブレンド後、混練機へ供給して溶融ゾーンで、(A)と(B−1)を反応させてから、押出機の下流部から(B−2)とガラス繊維を供給させることも可能である。
【0095】
更には、(B−1)とガラス繊維以外の原料をブレンド後、混練機へ供給して溶融ゾーンで、(A)と(B−2)を反応させてから、押出機の下流部から(B−1)とガラス繊維を供給させることも可能である。この様な二つの製造方法によって、(A)成分の末端にあるカルボキシル基や末端水酸基と、(B−1)成分のグリシジル基や(B−2)成分のカルボン酸誘導体末端基との反応を適宜調整したり、(B−1)成分のグリシジル基と(B−2)成分のカルボン酸誘導体末端基との反応を適宜調整することができる。これらの反応を調整して、本発明の樹脂組成物における諸物性を所望の値に調整することが期待できる。
【0096】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いた樹脂成形品の製造方法
上述してきた、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いた樹脂成形品の製造方法は任意であり、従来公知の任意の樹脂成形方法から適宜選択して使用すればよい。
【0097】
本発明の樹脂組成物は、既知の種々の成形方法、例えば、射出成形、中空成形、押出成形、圧縮成形、カレンダー成形、回転成形等により、電機・電子機器分野、自動車分野、機械分野、医療分野等の成形品が得られる。特に好ましい成形方法は、流動性の良さから、射出成形である。射出成形に当たっては、樹脂温度を240〜280℃にコントロールするのが好ましい。
【0098】
本発明の樹脂組成物は、インサート成形品の作製に用いるのが好ましい。インサート成形とは、成形用金型のキャビティ内に、金属、無機材料又は熱硬化性樹脂等からなるインサート物をあらかじめ配置し、その外側の空間に樹脂組成物を充填して、複合成形品とする方法である。樹脂組成物を金型のキャビティ内に充填する方法については特に制限はなく、射出成形法、押出圧縮成形法等種々の方法を利用することができるが、一般的には射出成形法を利用するのが好ましい。インサート物の素材についても特に制限はないが、インサート成形時に樹脂と接触した際に、溶融して、変形しないためには、金属、無機材料又は熱硬化性樹脂からなる固体を用いるのが好ましい。インサート物の素材として使用可能な金属の例には、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄、しんちゅう及びこれらの合金が含まれる。また、インサート物の素材として使用可能な無機材料には、ガラス及びセラミックが含まれる。さらに、インサート物の素材として使用可能な熱硬化性樹脂については特に制限はなく、種々の樹脂を用いることができる。例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。金属、無機材料又は熱硬化性樹脂を、あらかじめ所望の形状に成形した後、インサート物として用いることができる。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
以下の原料を用いて、表1、2に記載の配合比(数値は質量部を示す。)により各成分を用いてポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得た。尚、実施例及び比較例に用いた(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂や(C)ポリエステルオリゴマー等のポリエステル樹脂の分析法は以下の通りである。
【0101】
[ポリエステル樹脂の分析法]
固有粘度
ウベローデ型粘度計とフェノール/1,1,2,2,−テトラクロルエタンと(質量比1/1)の混合溶媒を用い、30℃の条件で各ポリエステル樹脂の分析を行った。そしてポリエステル樹脂濃度が1.0g/dl、0.6g/dl及び0.3g/dlの溶液の粘度を測定し、粘度数を0に外挿して算出した。
【0102】
末端カルボキシル基含有量の測定
ベンジルアルコール25mlに、各ポリエステル樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/リットル ベンジルアルコール溶液を使用し、滴定により測定した。
【0103】
末端水酸基含有量の測定
特公平7−84514号公報の記載と同様に、(C)ポリエステルオリゴマーをヘキサフルオロイソプロパノール/重水素化クロロホルムに溶解させたものを用いて、H−NMRにより末端水酸基含有量を求めた。
【0104】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の原料]
(A)PBT系樹脂:
(A−1)PBT樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社社製 ノバデュラン(登録商標)5008、固有粘度0.85dl/g、末端カルボキシル基含有量12eq/ton。
【0105】
(A−2)PBT樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社社製 ノバデュラン(登録商標)5007、固有粘度0.70dl/g、末端カルボキシル基含有量10eq/ton。
【0106】
(A−3)PBT樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社社製 ノバデュラン(登録商標)5020、固有粘度1.20dl/g、末端カルボキシル基含有量19eq/ton。
【0107】
(B)グリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するエラストマー
(B−1)α−オレフィンとα、β−不飽和酸グリシジルエステルからなるグリシジル基含有共重合体
【0108】
住友化学製 商品名BF−7M(エチレン/メタクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体;共重合比(質量%)67/27/6、ガラス転移温度約−33℃)
【0109】
(2)三井デュポン社製 商品名エルバロイ(エチレン/メタクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体)
【0110】
(B−2)酸変性オレフィン系エラストマー
(1)三井化学社製 商品名タフマーMH7010(無水マレイン酸グラフト変性エチレン−ブテン共重合体)、酸無水物基含有量 50μeq/g
【0111】
(2)三井化学社製 商品名タフマーMH7020(無水マレイン酸グラフト変性エチレン−ブテン共重合体)、酸無水物基の含有量 100μeq/g
【0112】
(3)三井化学社製 商品名タフマーMH5040(無水マレイン酸グラフト変性エチレン−ブテン共重合体)、酸無水物基の含有量 200μeq/g
(B−3)コアシェル系エラストマー
ローム・アンド・ハースジャパン社製 商品名KCZ201N(ポリブタジエン・ポリスチレン共重合物(コア)/アクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル共重合体)
【0113】
(C)鎖状ポリエステルオリゴマー
テレフタル酸100モルとエチレングリコール130モルとを触媒不在下、竪型エステル化装置に仕込み、撹拌しつつ、250℃で微加圧のもと4時間反応させた。得られたエステル化生成物(ポリエチレンテレフタレートオリゴマー)の物性は以下の通りであった。
固有粘度 0.1dl/g、
末端カルボキシル基含有量 620eq/ton、
末端水酸基含有量 20.5eq(但し、PETオリゴマー100当量当たりにおける、−OCHCHO−で示される基の当量として。)
【0114】
(D)繊維状強化材 日本電気硝子社製ガラス繊維 商品名ECT03T127、繊維径13μm、繊維長3mm
【0115】
(E)エポキシ化合物 東都化成社製 商品名エポトートYDCN704(ノボラック型エポキシ化合物処理品、エポキシ当量195〜220g/eq)
【0116】
(F)その他の添加剤
(F−1)ペンタエリスリトール(東京化成製)
【0117】
(F−2)サイクリクス・コーポレーション社製 CBT(環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマー)
【0118】
(F−3)脂肪酸エステル ユニオンカーバイド社製 Flexol 4G0(Hexanoic acid,2−ethyl−,diester with tetraethylene glycol)
【0119】
以下に、本発明で用いた物性評価方法を記す。
【0120】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の評価]
(1)スパイラル流動長
射出成形機は住友重機械社製の型式SE50Dを用い、スパイラル流動長金型(厚み1mm、幅6mm)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で成形し、168MPaの射出圧力で成形したときの流動長を測定した。
【0121】
(2)耐ヒートショック性
縦型射出成形機(日精樹脂工業社製 型式TH60−R5VSE)を使用し、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で図1に斜視図として示した、大きさが16mm×33mm×3mmの直方体形状の鉄(SUS)製のインサート部材を、図2に縦断面図として示すように、射出成形の金型キャビテイ内に支持ピン2によって支持・固定し、インサート成形法により、図3に斜視図として示した、大きさが18mm×35mm×5mmインサート成形品を作製した。このインサート成形品のインサート部材上下両面の樹脂部の肉厚は1mmである。インサート成形品には、インサート部材を支持した支持ピン跡に2つのウエルドラインが発生した。このインサート成形品について、耐ヒートショック性試験機(エスペック社製 型式TSA−101S−W)によって試験を行った。
【0122】
耐ヒートショック性試験は、上述のインサート成形品を、−40℃で30分放置し、次に150℃で30分放置するヒートショックサイクルを繰り返して行った。尚、両温度条件間の移行時間は1分以内とし、低温放置と高温放置とを各1回づつ行うことを1サイクルとした。
【0123】
そしてこのサイクルを繰り返して、上述のインサート成形品のウエルドライン部分に発生した割れを目視観察した。各実施例、比較例について、インサート成形品5個の成形品に対して耐ヒートショック試験を実施した。そして5個のインサート成形品について、各々のインサート成形品に生じた割れ目が10ヶ所となったサイクル数の平均値を耐ヒートショックの指標として表に示した。この値が大きいほど耐ヒートショック性に優れていることを意味する。
【0124】
(3)滞留熱安定性
キャピログラフ1C(東洋精機社製)により、測定温度270℃、1φ×30フラットのキャピラリーを用いて、ペレットを投入後、3分滞留させたときの溶融粘度(せん断速度91.2sec−1での溶融粘度)を基準にして、60分滞留させたときの溶融粘度を測定し、溶融粘度の増減比を求めた。3分滞留の溶融粘度と60分滞留の溶融粘度の値が変化しないものは滞留安定性に優れていることを意味する。
【0125】
(4)耐加水分解性
射出成形機(住友重機械工業社製 型式SE50D)を用い、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で、厚み、幅、長さが1.6±0.16mm、13±0.5mm、125±5mmの短冊片を成形し、121℃、飽和水蒸気中、2気圧下で100時間湿熱処理し、処理前後の曲げ強度を測定し、次式に従い、曲げ強度保持率を求めた。
曲げ強度保持率(%)=(処理後の曲げ強度/処理前の曲げ強度)×100
【0126】
曲げ試験は、インストロン(インストロン社製 型式:5544)を使用して、支点間距離40mm、曲げ速度2mm/minの条件下で測定した。
【0127】
(5)引張試験
射出成形機(住友重機械工業社製 型式SG75−SYCAP−MIIIA)を用い、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で、ISO引張試験片を成形し、ISO527に準拠して引張試験を行った。
【0128】
(6)曲げ試験
ISO引張試験片と同様に、ISO曲げ試験片を射出成形機にて成形し、ISO178に準拠して曲げ試験を行った。
【0129】
(7)シャルピー衝撃試験
射出成形で得られたISO試験片にノッチ加工を施した後、ISO179に準拠してシャルピー衝撃試験を行った。
【0130】
[実施例1〜19]
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)少なくともグリシジル基及びカルボン酸誘導体末端を含有するエラストマー、(C)末端にCOOH基とOH基の両方を有する鎖状ポリエステルオリゴマー、及び(E)ノボラック型エポキシ樹脂を、表1に示す割合(質量部)で秤量し、タンブラーで10分間混合して得られた混合物を混練機で混連し、樹脂組成物ペレットを得た。
【0131】
混練機の製造条件等は、バレル温度(シリンダー温度)を260℃に設定した二軸押出機(日本製鋼所社製、型式:TEX30α、L/D=52.5、15ブロック)の混練機を用い、上述の混合物をホッパーに供給した。尚、繊維状強化材(D)は、押出機ホッパー側から10番目のブロックからサイドフィード方式で供給し、溶融・混練して樹脂組成物ペレットを得た。
【0132】
得られたペレットを用いて、滞留熱安定性試験を行った。また、射出成形機により、上述したスパイラル流動長、耐ヒートショック試験用のインサート成形品、耐加水分解性試験用の短冊片およびISO試験片を作製した。スパイラル流動長を測定して流動性を評価した。また、インサート成形品を用いてヒートショック試験を行い耐ヒートショック性を求めた。耐加水分解試験用の短冊片を用いて湿熱処理をすることにより耐加水分解性を評価した。更には、ISO試験片を用いて引張試験、曲げ試験、シャルピー衝撃試験を行った。結果を表1に示す。
【0133】
[比較例1〜比較例20]
表2に示す樹脂組成とした以外は、実施例と同様に実施し、得られた樹脂組成物ペレットを同様に評価した。結果を表2に示す。
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】

【0136】
【表3】

【0137】
本発明の樹脂組成物は、比較例での樹脂組成物と比較して、流動性、耐ヒートショック性、滞留熱安定性、耐加水分解性、機械特性のバランスが改善されていることが明白である。
【0138】
ガラス繊維を含まない樹脂組成物(以下、「非強化系樹脂組成物」ということがある。)においては、この耐ヒートショック試験は行っていないが、流動性と靭性の効果から耐ヒートショック性にも優れることが予想される。即ち、実施例19と比較例20とを比較すると、成分(C)を用いることによって流動性は大幅に向上している。そして靭性(シャルピー衝撃強度、引張伸度等)は同程度に維持されていることから、耐ヒートショック性は同等であると考えられる。
【0139】
尚、(B)成分に対する(C)成分の使用効果が、比較例1、2、及び比較例20を比較することで明白となる。即ち比較例1に対して比較例20は、流動性が幾分低下するが工業的使用には充分な値である。そして靭性(シャルピー衝撃強度、引張伸度)について改善が認められる。
【0140】
また比較例16に対して比較例2は、流動性が大幅に向上し、且つ靭性(シャルピー衝撃強度、引張伸度等)は同程度に維持又は改善されていることが判る。そしてこの使用効果は、比較例5と6とを比較することによっても同様に明らかとなる。
【符号の説明】
【0141】
<図1および図2>
1.インサート鉄片
2.支持ピン
3.金型内にインサートされたインサート鉄片
4.キャビティー
5.支持ピン跡
6.ウエルドラインの例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、(B)グリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するエラストマー2〜50質量部、(C)鎖状ポリエステルオリゴマー0.01〜10質量部を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(B)少なくともグリシジル基及び/又はカルボン酸誘導体末端を有するエラストマーが、(B−1)α−オレフィンとα、β−不飽和酸のグリシジルエステルからなるグリシジル基含有共重合体1〜30質量部、及び(B−2)酸変性オレフィン系エラストマー1〜30質量部からなることを特徴とする請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(C)鎖状ポリエステルオリゴマーが、ポリエチレンテレフタレートオリゴマーであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
(C)鎖状ポリエステルオリゴマーの固有粘度が、0.05〜0.30dl/gであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の固有粘度が、0.8〜0.9dl/gであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂が、(A−2)固有粘度0.6〜0.8dl/gのポリブチレンテレフタレート系樹脂と(A−3)固有粘度0.9〜1.5dl/gのポリブチレンテレフタレート系樹脂からなり、成分(A−2)と成分(A−3)との質量比が、5:95〜100:0であることを特徴とする請求項5に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
更に、(D)繊維状強化剤を(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して10〜200質量部を含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物と、金属、無機固体及び熱硬化性樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つとを含む、射出成形により得られるインサート成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−201857(P2012−201857A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69835(P2011−69835)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】