説明

ポリプロピレン中空繊維

【課題】ポリプロピレンからなる中空繊維について、軽くて保温性の高い衣料品として使用可能であるように安定した品質のポリプロピレン中空繊維とすることである。
【解決手段】ポリプロピレンを50〜300デニールの中空管状に溶融紡糸し、紡糸される未凝固の繊維の膨張を制限して中空率10〜50%に調製したものからなる衣料用ポリプロピレン中空繊維とする。ポリプロピレンを溶融状態で所定デニールであるように中空管状に紡糸し、しかも紡糸された繊維を未膨張状態で凝固させて所定中空率に維持することにより、軽くて保温性の高い衣料用ポリプロピレン中空繊維として好ましい品質のものになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリプロピレン中空繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、繊維内部に空気層を有する中空繊維は、軽量であり、かつ保温性に優れた衣料の素材として優れることが知られており、合成樹脂製の中空繊維として、例えばポリプロピレンテレフタレートを主成分とするポリエステルからなり、中空率が5〜50%程度で150デニール(d)程度の繊維径の中空繊維が知られている(特許文献1)。
【0003】
上記したようなポリエステル中空繊維については、円管状、三角管状、複数中空管の集合型などの種々の形態のものが知られている(特許文献2)。
【0004】
また、ポリプロピレンを材料とするものでは、ノズルを用いて溶融紡糸することにより、フィルターなどに使用される中空糸膜に製造されることが知られている。中空糸膜は、溶融紡糸の段階で延伸されることにより壁面が微孔性多孔質化されるが、衣料用繊維としては使用できるようなデニール単位の細径のものではなく、内径は100〜2000μm、膜厚は15〜800μm程度に形成されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−96337号公報
【特許文献2】特開平11−158724号公報
【特許文献3】特許第3130996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような中空糸膜の材料となるポリプロピレンは、低比重で軽量であると共に熱伝導率が低いので衣類などに用いる繊維として好ましい特性を備えているが、繊維化には困難な特性である。
【0007】
すなわち、ポリプロピレンは、中空糸膜のような大径管状のものには成形できるが、衣料用繊維のような細径の繊維に溶融紡糸すると、口金の吐出孔を通過した直後から繊維体積が膨張(swellとも称される)して繊維の外径を大きくすると共に内径を小さくし、安定した繊維径のものが得られない、また中空率を安定させて溶融紡糸できないという問題点がある。
【0008】
このような繊維径や中空率の不安定な衣料用のポリプロピレン中空繊維では、保温性の良い繊維素材の性質が生かせず、低比重で熱伝導率が非常に低いという素材本来の特性を生かした品質の良いポリプロピレン中空繊維が得られなかった。
【0009】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、ポリプロピレンからなる中空繊維について、中空率の安定した軽くて保温性の高い衣料品に使用可能であるものとし、安定した高品質のポリプロピレン中空繊維とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明においては、ポリプロピレンを50〜300デニールの中空管状に溶融紡糸し、紡糸される未凝固の繊維の膨張を制限して中空率10〜50%に調製したものからなる衣料用ポリプロピレン中空繊維としたのである。
【0011】
上記したように構成されるこの発明の衣料用ポリプロピレン中空繊維は、ポリプロピレンを溶融状態で50〜300デニール(d)であるように中空管状に紡糸し、しかも紡糸される未凝固の繊維を可及的に膨張しない状態で凝固させて中空率10〜50%に調製するという手段を採用したことにより、軽くて保温性の高い衣料用ポリプロピレン中空繊維が安定した高品質のものになる。
【0012】
また、このような衣料用ポリプロピレン中空繊維は、ポリプロピレンを溶融し吐出孔から押出して50〜300デニールの中空管状に吐出し、この吐出直後に急冷して繊維の膨張を制限して凝固させることにより中空率10〜50%に調製することによって製造される。
【0013】
上記したように製造されるこの発明の衣料用ポリプロピレン中空繊維は、ポリプロピレンを中空管状に紡糸する際に、中空の形状を急冷により維持して中空率10〜50%に調整したことにより、中空形状が急冷により安定して所定の形状および中空率に維持されるので、軽くて保温性の高い衣料用ポリプロピレン中空繊維となる。
【0014】
中空率が上記所定範囲未満であれば、保温性が充分に得られないので好ましくなく、上記所定範囲を超える中空率では、繊維強度が低下して中空の形状が壊れやすくなり、繊維の保温性も低下する場合があって品質の安定性が損なわれるために好ましくない。
【0015】
また、ポリプロピレンを溶融状態で50〜300デニールであるように中空管状に紡糸することにより、軽くて保温性の高い衣料用ポリプロピレン中空繊維として好ましい品質のものになる。
【0016】
急冷温度が、13℃以下の急冷であれば、冷却の開始とほぼ同時に溶融したポリプロピレンを凝固させることができるので、二重管状ノズルから吐出された管状の大きさから膨張(swell)する割合を低く抑えて品質の安定した中空繊維を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、ポリプロピレンを溶融状態で二重管状ノズルから50〜300デニールであるように中空管状に紡糸すると共に、中空の形状を急冷により維持して中空率10〜50%に調整してなる衣料用ポリプロピレン中空繊維としたので、ポリプロピレンからなる中空繊維について、軽くて保温性の高い衣料品として使用可能であるように中空率の安定した高品質のポリプロピレン中空繊維となる利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態では、ポリプロピレンを50〜300デニールの中空管状に溶融紡糸し、紡糸された繊維を未膨張状態で凝固させて中空率10〜50%に調製したものからなる衣料用ポリプロピレン中空繊維とする。そのためには、ポリプロピレンを溶融し口金に多数形成された吐出孔や二重管状ノズルから押出して50〜300デニールの中空管状に紡糸し、この紡糸直後に急冷して前記中空管状を維持した状態で凝固させることにより中空率10〜50%に調製し、巻取機に引き取って必要に応じて長さ方向に引き伸ばされてフィラメント糸として巻取りされ、更に適宜に延伸されることによって衣料用ポリプロピレン中空繊維を製造する。
【0019】
この発明の実施形態に原料として使用されるポリプロピレンとしては、プロピレンホモポリマーに限らず、プロピレンを主成分とする他のモノマーとのブロックポリマーなどであってもよいが、未膨張状態で急冷する際に凝固しやすい点からプロピレンホモポリマーが特に好ましい。
【0020】
ポリプロピレン繊維は、他の合成樹脂繊維材料または天然繊維に比べて優れた保温性(熱伝導率)、軽量性(比重)、速乾性(公定水分率)、繊維品類としての耐摩耗性(引張強度)を示すものであり、これらの特性をまとめて表1に示した。
【0021】
【表1】

【0022】
表1の測定結果からも明らかなように、ポリプロピレン繊維(中実)は、種々の繊維中で保温力が高く、優れた保温効果が期待されるものであり、また比重が最も小さく、水にも浮く程度の軽量な繊維であり、また繊維自身が水分を全く保持しないので速乾性に優れたものであり、しかも樹脂分子特性が安定しているため、摩耗強度にも強い繊維である。
【0023】
この発明では、ポリプロピレン(融点165℃、凝固点13℃)の特性を充分に生かした中空繊維にするため、原料を単軸押出機等の押出機(エクストルーダ)から押出し、例えば160〜250℃、好ましくは180〜220℃の温度で溶融して混練し、必要に応じてギアポンプを用い、紡糸装置の二重管状ノズルからガス雰囲気中に急速に吐出させて中空管状物を形成させる。
【0024】
二重管状ノズルは、通常のポリエステル(PET、融点250℃、凝固点24℃)を紡糸する際に用いる吐出孔の長さ(またはノズル)よりも長い吐出孔またはノズルを採用することが、吐出される溶融樹脂が圧力解放された際に、体積膨張する率(swell率)をできるだけ抑えるために好ましい。また、このように吐出する溶融樹脂の通過速度はできるだけ速く設定することが、次工程で冷却されるまでの移動時間を短くし、前記膨張率を可及的に小さくするために好ましい。
【0025】
そして、吐出させた中空管状物は巻取り機に引き取られるまでの間に、冷却液または冷却用の空気などの冷却ガスと接触する冷却槽内を通過し、その際に急速に冷却されるので速やかに凝固する。
【0026】
このような急冷は、ポリプロピレンの凝固点である13℃以下に冷却する急冷であることが好ましい。ポリエステルに比べて凝固点の10℃以上も低いポリプロピレンは、固体化に時間がかかり,その間に膨張が起こりやすいため、凝固までの時間を短縮することにより中空率を向上させ、耐潰れ性を改善するためである。
【0027】
ポリプロピレン中空繊維の形状は、50〜300デニールで中空率10〜50%のものであれば特に限定されるものではなく、前述した円管状、三角管状、複数中空管の集合型などの種々の形態であり複数の中空部を繊維軸周りに有する中空繊維、その他の周知形状の中空繊維に製造可能である。
【0028】
また、これらを製造するための口金に形成する吐出孔の形状についても周知構造を採用すればよく、C型スリットもしくは不連続な円または不連続な多角形などの環状スリット、または複数のT字型スリットが単軸を囲むように集合配置されたものなどを例示できる。
【0029】
このようにして中空管状に溶融紡糸されたポリプロピレンは、50〜300デニールの繊維径に紡糸させる。なぜなら、上記所定範囲未満の細径では、保温性が充分に発揮できず、衣料用繊維として中実のポリプロピレン繊維以上の暖かさを体感することができないからであり、また上記所定範囲を超える太径の繊維では、繊維製品として編織された際に繊維間の隙間も大きく保温性が低下し、肌触りの感触も好ましくなく、衣料用繊維として実用性が低下するからである。
【0030】
そして、ポリプロピレン中空繊維は、上記のように紡糸された直後に急冷し、前記中空管状を維持した状態で凝固させることにより中空率10〜50%に調製する。
【0031】
中空率が10%未満では、軽量感と保温性能が充分に発揮されないからであり、繊維径を太くすれば50%まで製造可能である。また太い番手でも耐潰れ性や強度考慮すれば10〜30%が好ましく、また、細い番手(デニール)のものでは耐潰れ性を考慮して、10〜20%の中空率とすることが好ましい。
【0032】
上記のようにして得られる衣料用ポリプロピレン中空繊維は、例えばこれをベアヤーンとして、他の合成繊維で被覆した衣料用被覆糸(カバーリングヤーン)としてもよい。
このようにして得られる衣料用被覆糸は、編織による糸の損傷を防止できるものになり、他の繊維の風合いも備えることができ、しかも保温性の高い良品質の衣料用被覆糸になる。
【0033】
そして、インナーウェアやスポーツウェア、靴下などの繊維製品に好適な保温性、軽量性に優れ、糸強度や耐潰れ性にも優れた衣料用ポリプロピレン中空繊維になる。
【実施例】
【0034】
[実施例1〜6]
ポリプロピレンチップ(PP、融点165℃、凝固点13℃)を単軸押出機等の押出機(エクストルーダ)で200℃の温度で溶融して混練し、ギアポンプを用いてから押出して紡糸装置の二重管状ノズルからガス雰囲気中に急速に吐出させて、表2に示す180デニールまたは240デニールで中空率8〜25%の中空管状の繊維を形成し、これを同割合ずつ用いて、70デニールナイロンフィラメントなどで被覆されたカバリングヤーンFTY(filament twisted yarn)を作製した。
【0035】
得られたカバリングヤーンの保温性を財団法人日本膨積検査協会に基づくサーモラボIIドライコンタクト法によって測定し、その結果を表2中に示した。
【0036】
[比較例1]
上記の実施例において、二重管状ノズルに代えて中実の繊維用細孔が形成された口金を用いたこと以外は全く同様にして繊維を作製し、上記同様に保温性の試験を行ない、その結果を表2中に併記した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2の結果からも明らかなように、所定デニールの太さの所定中空率で形成されたポリプロピレン製中空繊維は、保温性の高い衣料品として使用可能であることが確認できた。また、このような軽くて保温性の高いポリプロピレン中空繊維は、生地の厚みに関係なく、中空繊維の構成割合が多いほど保温効果が高いことがわかり、安定した品質で製造でき、衣料品(例えば靴下、タイツ、パンスト、インナー肌着、サポーター、ニット帽、手袋、マフラーなどの雑貨)としての利用価値が高いものと認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンを50〜300デニールの中空管状に溶融紡糸し、紡糸される未凝固の繊維の膨張を制限して中空率10〜50%に調製したものからなる衣料用ポリプロピレン中空繊維。
【請求項2】
ポリプロピレンを溶融し吐出孔から押出して50〜300デニールの中空管状に吐出し、この吐出直後に急冷して繊維の膨張を制限して凝固させることにより中空率10〜50%に調製することからなる衣料用ポリプロピレン中空繊維の製造方法。
【請求項3】
上記急冷が、13℃以下に繊維を冷却する急冷である請求項2に記載の衣料用ポリプロピレン中空繊維の製造方法。

【公開番号】特開2012−107351(P2012−107351A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255837(P2010−255837)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000105154)株式会社GSIクレオス (31)
【Fターム(参考)】