説明

ポリプロピレン樹脂組成物

【課題】引張り伸びに優れるポリプロピレン樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】プロピレン重合体(A)60〜99.8重量%、膨潤性層状珪酸塩(B)0.1〜20重量%、及び、オレフィン共重合体(C)0.1〜20重量%を含有し、前記オレフィン共重合体(C)が、極性基(X)を有する式(I)で表されるモノマー単位、及び、式(II)で表されるモノマー単位を有し、かつ式(I)で表されるモノマー単位の含有量が、共重合体の全モノマー単位に対し、2.0モル%以上である共重合体であることを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物(ただし、(A)、(B)及び(C)の合計を100重量%とする。)。Xは水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基又はアミド基を表し、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、R2は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は成形性に優れることから、押出成形や射出成形など種々の成形方法によって、フィルム、シートあるいは立体形状を有する構造体などの様々な形状に成形されて広く用いられている。しかしながら、熱可塑性樹脂は、材料として有する機械的強度に限界があるため、その適用範囲が限られるのが現状である。そこで、熱可塑性樹脂の機械的強度を向上させるために、フィラーと呼ばれる無機材料やガラス繊維などを樹脂に配合する方法が一般的に用いられている。例えば、特許文献1には、寸法安定性を高めるために無機物を添加することが記載されている。
【0003】
一方で、層状無機化合物の層間に様々な有機化剤をインターカレーションした有機化層状無機化合物を用い、これを樹脂と溶融混練することにより、層状無機化合物の各層を剥離させ樹脂中にナノ分散させた、いわゆるナノコンポジットが提案され注目されつつある(特許文献2など)。
また最近、フィラーと官能基含有ポリオレフィンとを混合する方法(特許文献3及び4)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−142049号公報
【特許文献2】特開平10−182892号公報
【特許文献3】特開2007−262335号公報
【特許文献4】特開2010−43163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明のように、無機又は有機充填剤をポリプロピレンに高濃度に配合した場合には、ポリプロピレン自体が脆くなったり、伸びや耐衝撃性が著しく低下するという問題があり、引張り伸びや耐衝撃性を低下させることなく充填剤の効果を得ることができる、バランスのとれた複合材料が強く望まれている。
また、特許文献2に記載されているような方法は、極性の高い樹脂に対しては有効な方法であるが、極性の小さい樹脂に対しては、層状無機化合物の層剥離が難しく、ナノコンポジットを得ることは困難であった。特に無極性のポリオレフィン樹脂については、単に有機化層状無機化合物を溶融混練りしても分散性のよいナノコンポジットを得ることはできなかった。
本発明者等は、従来の極性基含有ポリオレフィンを利用したナノコンポジットは、剛性、耐衝撃性は改善できるものの引張り伸びが著しく低下する傾向にあることを見いだした。例えば、特許文献3及び4に記載されている発明では、得られる樹脂組成物の引張り伸び物性が十分ではなかった。
以上の課題に鑑み、本発明は、引張り伸びに優れるポリプロピレン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
本発明は、特定の構造を有するオレフィン共重合体を含有することを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物であり、すなわち、プロピレン重合体(A)60〜99.8重量%、膨潤性層状珪酸塩(B)0.1〜20重量%、及び、オレフィン共重合体(C)0.1〜20重量%を含有し、前記オレフィン共重合体(C)が、極性基(X)を有する下記式(I)で表されるモノマー単位、及び、下記式(II)で表されるモノマー単位を有し、かつ下記式(I)で表されるモノマー単位の含有量が、共重合体の全モノマー単位に対し、2.0モル%以上である共重合体であることを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物(ただし、(A)、(B)及び(C)の合計を100重量%とする。)である。
【0007】
【化1】

(式中、Xは水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基又はアミド基を表し、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、R2は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、引張り伸びに優れるポリプロピレン樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、プロピレン重合体(A)60〜99.8重量%、膨潤性層状珪酸塩(B)0.1〜20重量%、及び、オレフィン共重合体(C)0.1〜20重量%を含有し、前記オレフィン共重合体(C)が、極性基(X)を有する下記式(I)で表されるモノマー単位、及び、下記式(II)で表されるモノマー単位を有し、かつ下記式(I)で表されるモノマー単位の含有量が、共重合体の全モノマー単位に対し、2.0モル%以上である共重合体であることを特徴とする。ただし、(A)、(B)及び(C)の合計を100重量%とする。
【0010】
【化2】

(式中、Xは水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基又はアミド基を表し、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、R2は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。)
【0011】
なお、数値範囲を示す「60〜99.8重量%」等の記載は、「60重量%以上、99.8重量%以下」等と同義であり、特に断りのない限り、他の数値範囲の記載も同様とする。また、本発明において、「プロピレン重合体(A)」等を単に「(A)」等とも記載する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
<プロピレン重合体(A)>
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、プロピレン重合体(A)を60〜99.8重量%含有する。ただし、ポリプロピレン樹脂組成物中におけるプロピレン重合体(A)、膨潤性層状珪酸塩(B)及びオレフィン共重合体(C)の合計を100重量%とする。
本発明に用いることができるプロピレン重合体(A)としては、プロピレン単独重合体(A−1)、プロピレン−エチレン共重合体(A−2)、プロピレン−α−オレフィン共重合体、及び/又は、プロピレン−エチレン−α−オレフィン共重合体が例示でき、プロピレン単独重合体(A−1)、及び/又は、プロピレン−エチレン共重合体(A−2)が好ましく例示でき、プロピレン単独重合体(A−1)が特に好ましく例示できる。
プロピレン重合体(A)は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0013】
ここで言うα−オレフィンとは、炭素数が4〜20のα−オレフィンであり、好ましいものとして、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどが挙げられる。
【0014】
プロピレン−エチレン共重合体(A−2)としては、プロピレン−エチレンランダム共重合体、又は、プロピレン−エチレンブロック共重合体が挙げられる。プロピレン−エチレンブロック共重合体とは、プロピレン単独重合体成分と、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分とからなる共重合体である。
プロピレン−α−オレフィン共重合体としては、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、又は、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体が挙げられる。プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体とは、プロピレン単独重合体成分と、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分とからなる共重合体である。
プロピレン−エチレン−α−オレフィン共重合体としては、プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体、又は、プロピレン−エチレン−α−オレフィンブロック共重合体が挙げられる。プロピレン−エチレン−α−オレフィンブロック共重合体とは、プロピレン単独重合体成分と、プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体成分とからなる共重合体である。
【0015】
本発明に用いることができるプロピレン重合体(A)の製造方法は、特に制限はないが、公知の固体状チタン触媒成分と有機金属化合物触媒成分と更に必要に応じて用いられる電子供与体とからなる立体規則性重合触媒や、あるいは公知のメタロセン錯体と有機アルミニウム化合物と更に必要に応じて用いられる、メタロセン錯体と反応して安定アニオンとなる化合物からなる立体規則性触媒を用いて、公知の重合方法によって好適に製造することができる。より好ましくは、公知の固体状チタン触媒成分と有機金属化合物触媒成分と更に必要に応じて用いられる電子供与体とからなる立体規則性重合触媒が挙げられる。前記立体規則性重合触媒としては、例えば、特開平1−319508号公報、特開平7−216017号公報や特開平10−212319号公報に記載されている製造方法により製造された重合触媒が挙げられる。
【0016】
上記の製造方法で用いられる公知の重合方法としては、例えば、バルク重合法、溶液重合法、スラリー重合法、気相重合法等が挙げられる。これらの重合方法は、バッチ式、連続式のいずれでもよく、また、これらの重合方法を任意に組み合わせてもよい。
【0017】
本発明に用いることができるプロピレン重合体(A)の135℃のテトラリン溶媒中で測定される固有粘度(「極限粘度数」ともいう。)([η])は、好ましくは0.7〜5.0dl/gであり、より好ましくは0.8〜4.0dl/gであり、更に好ましくは0.8〜2.0dl/gである。
【0018】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物におけるプロピレン重合体(A)の含有量は、60〜99.8重量%であり、好ましくは65〜98重量%、より好ましくは70〜95重量%、更に好ましくは75〜90重量%である。ただし、(A)、(B)及び(C)の合計を100重量%とする。プロピレン重合体(A)の含有量が60重量%未満であると、ポリプロピレン樹脂組成物の剛性が低下する。また、99.8重量%を超えるとポリプロピレン樹脂組成物の引張り伸び物性向上の十分な効果が得られない。
【0019】
<膨潤性層状珪酸塩(B)>
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、膨潤性層状珪酸塩(B)を0.1〜20重量%含有する。ただし、ポリプロピレン樹脂組成物中における(A)、(B)及び(C)の合計を100重量%とする。
膨潤性層状珪酸塩(B)としては、特に制限はなく、スメクタイト類、バーミキュライト類、及び、雲母類が好ましく例示でき、スメクタイト類、及び、雲母類がより好ましく例示できる。
また、膨潤性層状珪酸塩(B)は、天然で産出される天然膨潤性層状珪酸塩であっても、合成により得られる合成膨潤性層状珪酸塩であってもよい。
なお、膨潤性層状珪酸塩における「膨潤性」とは、層状珪酸塩の結晶層間に水やアルコール、エーテル等の溶媒が侵入したときに膨潤する性質をいう。
膨潤性層状珪酸塩(B)は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
スメクタイト類しては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、フッ素ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等が挙げられる。
バーミキュライト類としては、トリオクタヘドラルバーミキュライト、ジオクタヘドラルバーミキュライト等が挙げられる。
雲母類としては、黒雲母、金雲母、鉄雲母、イーストナイト、シデロフィライトテトラフェリ鉄雲母、鱗雲母、ポリリシオナイト、白雲母、セラドン石、鉄セラドン石、鉄アルミノセラドン石、アルミノセラドン石、砥部雲母、ソーダ雲母、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四ケイ素フッ素雲母、Li型四ケイ素フッ素雲母等が挙げられる。
【0021】
また、膨潤性層状珪酸塩(B)は、有機化された膨潤性層状珪酸塩であることが好ましい。
膨潤性層状珪酸塩の有機化については、特に制限はなく、公知の方法により有機化を行えばよい。膨潤性層状珪酸塩の有機化に使用する化合物としては、例えば、ポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウムイオン、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2−エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、及び、ジステアリルアンモニウムイオンよりなる群から選ばれたイオンを有する化合物等が挙げられる。これら化合物を使用して得られた有機化膨潤性層状珪酸塩は、使用した前記イオンを層間に有する膨潤性層状珪酸塩となる。
【0022】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物における膨潤性層状珪酸塩(B)の含有量は、0.1〜20重量%であり、好ましくは1〜15重量%、より好ましくは1〜10重量%である。ただし、(A)、(B)及び(C)の合計を100重量%とする。膨潤性層状珪酸塩(B)の含有量が0.1重量%未満であると、ポリプロピレン樹脂組成物の剛性、耐衝撃性向上の十分な効果が得られない。また、20重量%を超えるとポリプロピレン樹脂組成物を製造する工程での作業性が悪化する。
【0023】
膨潤性層状珪酸塩(B)の平均粒子径としては、好ましくは0.01〜50μmであり、より好ましくは0.1〜30μmであり、更に好ましくは0.1〜5μmである。ここで膨潤性層状珪酸塩(B)の平均粒子径とは、遠心沈降式粒度分布測定装置を用いて水、アルコール等の分散媒中に懸濁させて測定した篩下法の積分分布曲線から求めた50%相当粒子径(D50)のことを意味する。
【0024】
膨潤性層状珪酸塩(B)は、無処理のまま使用してもよく、ポリプロピレン樹脂組成物との界面接着強度を向上させる、又は、ポリプロピレン樹脂組成物中での膨潤性層状珪酸塩(B)の分散性を向上させるために、公知の各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩類あるいは他の界面活性剤で膨潤性層状珪酸塩(C)の表面を処理して使用してもよい。膨潤性層状珪酸塩(B)は、事前に、プロピレン重合体(A)、又は、オレフィン共重合体(C)と溶融混練し、マスターバッチとして使用してもよい。
【0025】
<オレフィン共重合体(C)>
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、オレフィン共重合体(C)を0.1〜20重量%含有する。ただし、ポリプロピレン樹脂組成物中における(A)、(B)及び(C)の合計を100重量%とする。
また、本発明に用いることができるオレフィン共重合体(C)は、極性基(X)を有する下記式(I)で表されるモノマー単位、及び、下記式(II)で表されるモノマー単位を有し、かつ下記式(I)で表されるモノマー単位の含有量が、共重合体の全モノマー単位に対し、2.0モル%以上である共重合体である。
【0026】
【化3】

(式中、Xは水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基又はアミド基を表し、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、R2は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。)
【0027】
前記式(I)で表されるモノマー単位は、極性基(X)を有する。
前記式(I)におけるXは、水酸基、チオール基又はアミノ基であることが好ましく、水酸基であることが特に好ましい。
前記式(I)におけるR1は、炭素数4〜20のアルキレン基であることが好ましく、炭素数4〜15のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数4〜10のアルキレン基であることが更に好ましく、炭素数4〜8のアルキレン基であることが特に好ましく、ブチレン基であることが最も好ましい。また、前記R1におけるアルキレン基は、直鎖アルキレン基であっても、分岐アルキレン基であってもよいが、直鎖アルキレン基であることが好ましい。
前記式(II)におけるR2は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましく、水素原子又はメチル基であることが更に好ましく、メチル基であることが特に好ましい。また、前記R2におけるアルキル基は、直鎖アルキル基であっても、分岐アルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましい。
また、前記R1におけるアルキレン基、及び、前記R2におけるアルキル基は、アルキル基以外の置換基を有しないことが好ましい。
【0028】
本発明に用いることができるオレフィン共重合体(C)における式(I)で表されるモノマー単位の含有量は、オレフィン共重合体(C)の全モノマー単位に対し、2.0モル%以上であり、2.0〜15モル%であることが好ましく、5.0〜10モル%であることがより好ましい。含有量が2.0モル%未満である場合には、プロピレン樹脂組成物の機械的物性、特に、引張り伸びの低下が著しい。
本発明に用いることができるオレフィン共重合体(C)における式(II)で表されるモノマー単位の含有量は、85モル%以上であることが好ましく、85〜98モル%であることがより好ましく、90〜95モル%であることが更に好ましい。
また、オレフィン共重合体(C)は、式(I)で表されるモノマー単位と式(II)で表されるモノマー単位とからなる共重合体であることが好ましい。
【0029】
また、本発明に用いることができるオレフィン共重合体(C)は、下記式(I')で表されるビニルモノマーと、エチレン、プロピレン、及び、炭素数4〜20のα−オレフィンよりなる群から選ばれたモノマーとを少なくとも共重合した共重合体であることが好ましい。
また、前記式(I)で表されるモノマー単位は、下記式(I')で表されるビニルモノマー由来のモノマー単位であることが好ましい。
CH2=CH−R1−X (I')
(式中、Xは水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基又はこれらの前駆基を表し、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表す。)
【0030】
前記式(I')におけるR1は、前記式(I)におけるR1と同義であり、好ましい態様も同様である。
前記式(I')におけるXは、水酸基、チオール基、アミノ基又はこれらの前駆基であることが好ましく、水酸基又は水酸基の前駆基であることが特に好ましい。
前駆基としては、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基又はアミド基に誘導可能基であれば特に制限はないが、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基又はアミド基を保護した基であることが好ましい。水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基又はアミド基の保護基としては、公知の保護基を用いることができ、例えば、極性基をルイス酸と錯化又は反応させて極性基を保護した基が挙げられる。
また、前記水酸基の前駆基として具体的には、ジアルキルアルミニウムオキシ基が好ましく例示できる。ジアルキルアルミニウムオキシ基の形成方法としては、例えば、水酸基を有するビニルモノマーにトリアルキルアルミニウムを作用させ、ジアルキルアルミニウムオキシ基を有するビニルモノマーとする方法が挙げられる。また、ジアルキルアルミニウムオキシ基を有するビニルモノマーを使用した場合、重合後、酸性アルコール溶液でジアルキルアルミニウムオキシ基を加水分解することにより、脱アルミニウム反応を行い、水酸基を生成させる方法等が例示できる。
【0031】
式(I')で表されるビニルモノマーの具体例としては、5−ヘキセン酸、6−ヘプテン酸、7−オクテン酸、8−ノネン酸、9−デセン酸、10−ウンデセン酸、1−ヒドロキシ−4−ペンテン、1−ヒドロキシ−5−ヘキセン、1−ヒドロキシ−6−ヘプテン、1−ヒドロキシ−7−オクテン、1−ヒドロキシ−8−ノネン、1−ヒドロキシ−9−デセン、1−ヒドロキシ−10−ウンデセン、1−チオヒドロ−5−ヘキセン、1−チオヒドロ−7−オクテン、1−チオヒドロウンデセン、1−アミノ−6−ヘプテン、1−アミノ−7−オクテン、1−アミノ−8−ノネン、1−アミノ−9−デセン、1−アミノ−10−ウンデセン、1−(N−メチルアミノ)−10−ウンデセン、1−(N−エチルアミノ)−10−ウンデセン及び1−(N−フェニルアミノ)−10−ウンデセン、N,N−ジフェニルアミノウンデセン、及び、これらビニルモノマーの極性基を保護したモノマー等が挙げられる。
式(I')で表されるビニルモノマーは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記式(II)で表されるモノマー単位は、エチレン、プロピレン、及び、炭素数4〜20のα−オレフィンよりなる群から選ばれたモノマー由来のモノマー単位であることが好ましい。これらモノマーは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
中でも、前記式(II)で表されるモノマー単位は、プロピレン由来のモノマー単位であることが好ましい。
【0033】
また、オレフィン共重合体(C)の立体規則性は、アイソタクティックトライアッドにて好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であり、上限は100%であり得る。ここでトライアッドとは、同一のプロキラル面を選択して挿入された隣接するモノマー単位3個からなる連鎖状態をいい、かつ上記の値は、オレフィン共重合体(C)中の前記式(I)で表されるモノマー単位以外のオレフィンモノマー単位部分の全トライアッド数に対するアイソタクティックトライアッド数の割合をパーセントで示したものである。アイソタクティックトライアッドが90%以上であると、プロピレン樹脂組成物の剛性がより優れる。
【0034】
オレフィン共重合体(C)の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、架橋メタロセン化合物と、アルキルアルミノキサンあるいは有機ホウ素化合物とを含有する触媒の存在下で共重合させる方法が挙げられる。また、例えば、特開2001−329023号公報、及び、特開2005−105147号公報に記載の方法などにより、オレフィン共重合体(C)を得ることができる。
【0035】
本発明に用いることができるオレフィン共重合体(C)の135℃のテトラリン溶媒中で測定される固有粘度([η])は、好ましくは0.7〜5.0dl/gであり、より好ましくは0.8〜4.0dl/gであり、更に好ましくは0.8〜2.0dl/gである。
【0036】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物におけるオレフィン共重合体(C)の含有量は、0.1〜20重量%であり、好ましくは5〜20重量%、より好ましくは10〜20重量%、更に好ましくは12〜18重量%である。ただし、(A)、(B)及び(C)の合計を100重量%とする。オレフィン共重合体(C)の含有量が0.1重量%未満であると、ポリプロピレン樹脂組成物の引張り伸び物性向上の十分な効果が得られない。また、20重量%を超えるとポリプロピレン樹脂組成物の剛性が低下する。
【0037】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、その効果を阻害しない範囲で、一般的に使用されている樹脂用添加剤を含んでもよい。
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、造核剤、潤滑剤、帯電防止剤、難燃剤等が挙げられる。
添加剤の含有量は、樹脂組成物全体に対して、0.01重量%以上であることが好ましく、また、30重量%以下であることが好ましい。また、これら添加剤は、1種単独で用いてもよいし、また、任意の割合で2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物の製造方法は、特に制限はないが、プロピレン重合体(A)、膨潤性層状珪酸塩(B)、及び、オレフィン共重合体(C)を溶融混練装置に供給する工程、ならびに、プロピレン重合体(A)、膨潤性層状珪酸塩(B)、及び、オレフィン共重合体(C)を含む樹脂組成物を前記溶融混練装置により熱処理する工程を含むことが好ましい。上記の熱処理は、溶融混練することで行われるものである。
【0039】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物の製造方法は、各成分を溶融混練する工程を有し、溶融混練に用いられる溶融混練装置としては、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、熱ロール等が挙げられる。
熱処理(溶融混練)の温度は、好ましくは170〜250℃であり、熱処理時間は、好ましくは20秒〜20分である。また、各成分の溶融混練は、同時に行ってもよく、分割して行ってもよい。例えば、樹脂組成物の各成分を所定量計量し、タンブラー等で均一に予備混合する工程と、予備混合物を溶融混練する工程とを含むことが好ましい。
【0040】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物の用途としては、例えば、自動車内装部品及び外装部品等の自動車部品、二輪車部品、食品パッケージ、家具や電気製品の部品等が挙げられる。中でも、本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、自動車部品用、及び、食品パッケージ用に好適に用いることができ、自動車部品用により好適に用いることができる。
自動車外装部品としては、例えば、バンパー、フェンダー、ホイールカバー等が挙げられ、自動車内装部品としては、例えば、インストルメンタルパネル、トリム、ドアーパネル、サイドプロテクター、コンソールボックス、コラムカバー等が挙げられ、二輪車部品としては、例えば、カウリング、マフラーカバー等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
次に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた各物性値の測定方法を以下に示す。
【0042】
(1)固有粘度([η]、単位:dl/g)
ウベローデ型粘度計を用いて、溶媒としてはテトラリンを用い、温度は135℃で、濃度、0.1、0.2、及び、0.5dl/gの3点について還元粘度を測定した。固有粘度は、「高分子溶液、高分子実験学11」(1982年共立出版株式会社刊)第491頁に記載の計算方法、すなわち、還元粘度を濃度に対しプロットし、濃度をゼロに外挿する外挿法によって算出した。
【0043】
(2)アイソタクチックトリアッド分率、及び、水酸基を有するモノマー単位の含有量
直径10mmの試験管中で、約200mgの樹脂サンプルを3mlのオルトジクロロベンゼンに均一に溶解させて試料を調製し、その試料の13C−NMRスペクトルを測定し、算出した。13C−NMRスペクトルの測定条件を以下に記す。
機種:Bruker AVANCE600
測定温度:135℃
パルス繰り返し時間:10秒
パルス幅:45°
積算回数:2,500回
【0044】
(3)引張り伸び(単位:%)
温度230℃、圧力3.5MPa、時間3分間の熱プレス成形により成形した厚み1mmのプレスシートから試験片を作製し、シングルコラム型引張圧縮試験機(STA−1225:エー・アンド・デイ社製)を用いて、50mm/minの引張り速度により測定を行った。
【0045】
プロピレン重合体(A):住友化学(株)製ノーブレン H501N(プロピレン単独重合体、[η]=2.0dl/g)を用いた。
【0046】
膨潤性層状珪酸塩(B):コープケミカル(株)製 商品名:ソマシフMAE(有機化雲母:膨潤性層状珪酸塩)を用いた。
【0047】
(製造例1:5−ヘキセニルオキシビスイソブチルアルミニウム(i−Bu2Al(OC48CH=CH2))の合成)
500mlのガラス製反応容器に磁気撹拌子を入れ、三方コックを接続した。系内を十分窒素置換した後、乾燥ヘキサン200ml及びトリイソブチルアルミニウム100ml(397ミリモル)を導入した。反応系を−50℃に冷却し、5−ヘキセン−1−オール46ml(340ミリモル)を温度上昇に気をつけながら、ゆっくりと滴下した。撹拌しながら反応系を室温(25℃)まで、自然上昇させた後、溶媒のヘキサンを減圧留去して目的のi−Bu2Al(OC48CH=CH2)を透明で粘稠な液体として90g得た(収率96%)。
【0048】
(製造例2:オレフィン共重合体(C−1)の合成)
オレフィン共重合体(C−1):1,000mlのガラス製反応容器に撹拌器及び三方コックを接続した。系内を十分窒素置換した後、トルエン260ml、メチルアルモキサンのトルエン溶液(2.1モル/l)7.5ml及び上記で合成したi−Bu2Al(OC48CH=CH2)5.9ml(21.2ミリモル)を導入した。−20℃に冷却し、プロピレン1.2gを導入した後、ジメチルシリレンビス(2−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリドのトルエン溶液(0.010モル/l)4mlを導入して重合開始とし、そのままプロピレン圧を一定に保ちながら、−20℃で半回分式にて8時間共重合を行った。少量のイソプロピルアルコールを導入して重合を停止した後、大量の希塩酸/メタノール溶液に注ぎ込むことにより脱アルミニウム及び共重合体の沈殿を行った。沈殿物を濾過、乾燥して、オレフィン共重合体(C−1)6.5gを得た。得られた共重合体の固有粘度([η])は、1.20dl/g、共重合体中の水酸基含有量は、5.9モル%、アイソタクティックトライアッド[mm]は、98.7%であった。
【0049】
(製造例3:オレフィン共重合体(C−2)の合成)
オレフィン共重合体(C−2):1,000mlのガラス製反応容器に撹拌器及び三方コックを接続した。系内を十分窒素置換した後、キシレン340ml、メチルアルモキサンのトルエン溶液(2.1モル/l)6.4ml及び上記で合成したi−Bu2Al(OC48CH=CH2)10ml(36ミリモル)を導入した。−20℃に冷却し、プロピレン6gを導入した後、ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドのトルエン溶液(0.005モル/l)2mlを導入して重合開始とし、そのままプロピレン圧を一定に保ちながら、−20℃で半回分式にて5時間共重合を行った。少量のイソプロピルアルコールを導入して重合を停止した後、大量の希塩酸/メタノール溶液に注ぎ込むことにより脱アルミニウム及びオレフィン共重合体の沈殿を行った。沈殿物を濾過、乾燥して、オレフィン共重合体(C−2)4.2gを得た。共重合体の固有粘度([η])は、1.89dl/g、共重合体中の水酸基含有量は、1.3モル%、アイソタクティックトライアッド[mm]は、99.5%であった。
【0050】
(製造例4:水酸基含有変性ポリプロピレン重合体(MPP)の合成)
特開2007−224239号公報に記載の方法に従い、水酸基含有変性ポリプロピレン重合体(MPP)を以下の試料(1)、(2)、(3)及び(4)を用いて、以下に示した方法で製造した。
(1)プロピレン単独重合体:特開平7−216017号公報記載の固体触媒成分を用いて気相重合法によって製造した固有粘度([η])が3.0dl/gのプロピレン単独重合体。
(2)水酸基含有モノマー:ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業(株)製)
(3)有機過酸化物:t−ブチルパーオキシベンゾエート(化薬アクゾ(株)製カヤブチルB)
(4)多孔質ポリプロピレン:MEMBRANA社製MP−1000
(5)安定剤:IRGANOX 1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
(6)安定剤:IRGAFOS 168(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
【0051】
(1)を100重量部、(2)を10重量部、(3)を1.5重量部、(4)を4.6重量部及び安定剤(5)、(6)を各0.2重量部均一混合し、二軸混練押出機(商品名 KZW15−45MG、同方向回転型スクリュー15mm×45L/D、(株)テクノベル製)を用いて、設定温度180℃、スクリュー回転速度500rpmの条件で溶融混練して、水酸基含有変性ポリプロピレン重合体(MPP)を得た。得られた水酸基含有変性ポリプロピレン重合体(MPP)の固有粘度([η])は、1.0dl/g、水酸基含有量は、1.2モル%であった。
【0052】
(実施例1)
膨潤性層状珪酸塩(B)2.5重量部とオレフィン共重合体(C−1)7.5重量部を、小型混練機(Xplore;DSM社製)により、混練温度210℃、混練時間10分、スクリュー回転速度100rpmの条件で混練し、(B)の含量が25重量%であるマスターバッチ樹脂を作製した。
次に、このマスターバッチ樹脂2重量部とプロピレン重合体(A)8重量部を、上記と同様の混練条件により混練することで、プロピレン樹脂(A)を80重量%、膨潤性層状珪酸塩(B)を5重量%、オレフィン共重合体(C−1)を15重量%含有するポリプロピレン樹脂組成物を作製した。このポリプロプレン樹脂組成物の引張物性測定結果を表2に示す。
【0053】
(比較例1)
オレフィン共重合体(C−1)の代わりに、製造例3で合成したオレフィン共重合体(C−2)を用いた以外は、実施例1に記載の方法と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を得た。このポリプロピレン樹脂組成物の引張物性測定結果を表2に示す。
【0054】
(比較例2)
オレフィン共重合体(C−1)の代わりに、製造例4で合成した水酸基含有変性ポリプロピレン重合体(MPP)を用いた以外は、実施例1に記載の方法と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を得た。このポリプロピレン樹脂組成物の引張物性測定結果を表2に示す。
【0055】
(比較例3)
オレフィン共重合体(C−1)の代わりに、プロピレン重合体(A)を用いた以外は、実施例1に記載の方法と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を得た。このポリプロピレン樹脂組成物の引張物性測定結果を表2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン重合体(A)60〜99.8重量%、
膨潤性層状珪酸塩(B)0.1〜20重量%、及び、
オレフィン共重合体(C)0.1〜20重量%を含有し、
前記オレフィン共重合体(C)が、極性基(X)を有する下記式(I)で表されるモノマー単位、及び、下記式(II)で表されるモノマー単位を有し、かつ下記式(I)で表されるモノマー単位の含有量が、共重合体の全モノマー単位に対し、2.0モル%以上である共重合体であることを特徴とする
ポリプロピレン樹脂組成物(ただし、(A)、(B)及び(C)の合計を100重量%とする。)。
【化1】

(式中、Xは水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基又はアミド基を表し、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、R2は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記Xが、水酸基である、請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−28707(P2013−28707A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165394(P2011−165394)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】