説明

ポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子とその製造方法および発泡成形体

【課題】高圧発泡により発泡サイクルの短縮と発泡バラツキの低減を実現し得るポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法、それにより得られるポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子およびその発泡成形体を提供することを課題とする。
【解決手段】発泡機内でポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子を予備発泡させてポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子を得る予備発泡工程、前記発泡機内からの前記ポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の排出工程、および前記発泡機内への予備発泡原料としてのポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子の投入工程をこの順で含み、前記予備発泡工程が、100℃以上150℃以下の温度T1下で行われ、前記排出工程および投入工程が、80℃以上100℃未満の温度T2下で行われることを特徴とするポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系原料樹脂を基材とし、発泡剤を含浸させたポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子を予備発泡させて得られたポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子とその製造方法、および予備発泡粒子を型内発泡成形して得られたポリプロピレン系樹脂を含む発泡成形体に関する。本発明によれば、高圧発泡により発泡サイクルの短縮と発泡バラツキの低減を図ることができる。
【背景技術】
【0002】
特許第4090932号公報(特許文献1)には、発泡性熱可塑性樹脂粒子を予備発泡槽に投入し、予備発泡槽に蒸気を吹き込む蒸気加熱において、所定間隔毎に一旦蒸気加熱を止め、その間に予備発泡槽に所定時間乾燥空気を導入する工程を設けた発泡性熱可塑性樹脂粒子の予備発泡方法が記載されている。そして、特許文献1には、予備発泡槽内の温度を80℃以上にすることにより、予備発泡時間の大幅な延長なしに、ブロッキングの少ない送粒性の良好な予備発泡粒子が得られることが記載されている。
ここで用いられる好ましい熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂やポリメチルメタクリレート樹脂であり、その発泡形態は0.003〜0.020MPaという低圧発泡である。
【0003】
また、特開2010−265424号公報(特許文献2)には、特定のポリプロピレン系樹脂粒子を、水、発泡剤、分散剤と共に耐圧容器内に導入し、耐圧容器内圧より低圧雰囲気下に放出する、放出発泡によりポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法が記載されている。
【0004】
さらに、特開2008−75076号公報(特許文献3)には、スチレン改質ポリプロピレン系発泡性樹脂粒子を予備発泡させて、スチレン改質ポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子を得ることが記載されている。
しかしながら、その予備発泡工程には温度調節はなく、それによる発泡サイクルや発泡バラツキの影響については記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4090932号公報
【特許文献2】特開2010−265424号公報
【特許文献3】特開2008−75076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高圧発泡により発泡サイクルの短縮と発泡バラツキの低減を実現し得るポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法、それにより得られるポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子およびその発泡成形体を提供することを課題とする。
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討の結果、ポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子の予備発泡工程において100℃以上の所定の温度条件に設定して高圧発泡させることにより、発泡サイクルの短縮と発泡バラツキの低減を実現し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かくして、本発明によれば、
発泡機内でポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子を予備発泡させてポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子を得る予備発泡工程、
発泡機内からのポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の排出工程、および
発泡機内への予備発泡原料としてのポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子の投入工程をこの順で含み、
予備発泡工程が、100℃以上150℃以下の温度T1下で行われ、
排出工程および投入工程が、80℃以上100℃未満の温度T2下で行われる
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、上記のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法により得られたポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子が提供される。
さらに、本発明によれば、上記のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子を型内に充填し発泡成形させてなるポリプロピレン系樹脂を含む発泡成形体が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高圧発泡により発泡サイクルの短縮と発泡バラツキの低減を実現し得るポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法、それにより得られるポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子およびその発泡成形体を提供することができる。
【0011】
従来の予備発泡工程における予備加熱は、発泡機内(「発泡槽内」または「缶内」ともいう)を高温に保持でき、発泡サイクルの短縮と発泡バラツキの低減を実現するが、予備加熱のためのエネルギーが必要になる。
他方、従来の低圧力発泡は、発泡バラツキの低減を実現するが、発泡に長時間を要し、発泡サイクルが長くなる。
本発明のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法は、発泡サイクルの短縮と発泡バラツキの低減を実現すると共に、バッチ処理で連続して予備発泡粒子を製造する際の2サイクル目以降において発泡機の予備加熱のためのエネルギーを必要しないので、省エネや低コスト化を実現し得る。
【0012】
また、本発明のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法は、0.02MPaより高く0.5MPa以下の発泡機内の圧力下で発泡を行うことにより、上記の優れた効果がさらに発揮される。
さらに、本発明のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法が投入工程、予備発泡工程および排出工程からなるサイクルを複数回繰り返すことからなり、かつそのサイクルの2回目以降が発泡機の予備加熱なしで行われることにより、上記の優れた効果がさらに発揮されると共に、予備加熱のためのエネルギーを必要とせず、省エネを実現し得る。
また、本発明のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法は、ポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子が、ポリプロピレン系原料樹脂100質量部と、60〜250質量部のポリスチレン系原料樹脂とを含む複合樹脂に発泡剤を含浸させてなることにより、上記の優れた効果がさらに発揮されると共に、ポリプロピレンとポリスチレンの優れた特性を併せもつ予備発泡粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法は、発泡機内でポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子を予備発泡させてポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子を得る予備発泡工程、発泡機内からのポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の排出工程、および発泡機内への予備発泡原料としてのポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子の投入工程をこの順で含み、予備発泡工程が、100℃以上150℃以下の温度T1下で行われ、排出工程および投入工程が、80℃以上100℃未満の温度T2下で行われることを特徴とする。
【0014】
すなわち、本発明のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法は、予備発泡原料としてのポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子の投入工程、ポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子への予備発泡工程およびポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の排出工程の温度条件に特徴を有する。
具体的には、予備発泡時の温度T1が100℃以上150℃以下、好ましくは100℃以上120℃以下の範囲であり、発泡機への樹脂粒子の排出から投入までの温度T2が80℃以上100℃未満、好ましくは85℃以上95℃以下の範囲である。
さらに温度T1が温度T2より10℃以上、好ましくは15℃以上高い条件であるのが好ましい。
なお、本発明において、温度T1およびT2は、各工程における最高温度(最高到達温度)を意味する。
【0015】
温度T1が100℃未満では、発泡サイクルが長く、所定の倍数に発泡しないことがある。一方、温度T1が150℃を超えると、発泡バラツキが多くなり、発泡粒子が合着やブロッキングすることがある。
また、温度T2が80℃未満では、発泡サイクルが長くなることがある。一方、温度T2が100℃以上では発泡バラツキが生じることがある。
さらに、温度T1が温度T2より10℃を超えない場合には、発泡バラツキが生じることがある。
【0016】
予備発泡工程では、通常、ポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子を投入した予備発泡機の発泡槽(缶)内に、水蒸気を導入し加熱することによってポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子を予備発泡させる。
その際の好ましい発泡機内の圧力(水蒸気の導入圧力)は、0.02MPaより高く0.5MPa以下、より好ましくは0.03MPa以上0.2MPa以下の範囲である。
発泡機内の圧力が0.02MPa未満では、所定の倍数に発泡しないことがある。一方、発泡機内の圧力が0.5MPaを超えると、発泡粒子が合着やブロッキングすることがある。
【0017】
予備発泡工程に用いる装置は、上記のような本発明の温度条件が設定な可能なものであれば特に限定されず、公知の装置を用いることができ、例えば後述する実施例で用いたようなDABO社製、型式:DOP−110の発泡機が挙げられる。
【0018】
本発明のポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子は、ポリプロピレン系原料樹脂を基材とし、発泡剤を含浸させることにより得られる。
ポリプロピレン系原料樹脂は、特に限定されず、公知の重合方法で得られた樹脂を使用できるが、例えば、ポリプロピレン樹脂以外にもプロピレン−エチレン共重合体が用いられる。このプロピレン−エチレン共重合体は、エチレンとプロピレンの共重合体を主成分とするものであるが、エチレンまたはプロピレンと共重合し得る他の単量体を分子内に含有するものであってもよい。そのような単量体としては、α−オレフィン、環状オレフィン、ジエン系単量体から選択された1種または2種以上のものが挙げられる。
【0019】
本発明において、ポリプロピレン系原料樹脂としては、120〜145℃の範囲の融点を有するものが好ましい。ポリプロピレン系原料樹脂の融点が120℃未満では、耐熱性が乏しく、ポリプロピレン系原料樹脂粒子を用いて製造されるポリプロピレン系樹脂を含む発泡成形体の耐熱性が低くなることがある。また、融点が145℃を超えると、重合温度が高くなり、良好な重合ができなくなることがある。
【0020】
また、本発明のポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子は、ポリプロピレン系原料樹脂100質量部と、60〜250質量部のポリスチレン系原料樹脂とを含む複合樹脂に発泡剤を含浸させてなるのが好ましい。好ましいポリスチレン系樹脂の含有量は150〜250質量部である。このような複合樹脂にすることにより、ポリプロピレン系樹脂とポリスチレン系樹脂との優れた特性を併せ持つ発泡成形体を得ることができる。
【0021】
ポリスチレン系原料樹脂の含有量が、60質量部未満では、予備発泡粒子を二次発泡させて得られる発泡成形体の剛性が低下することがある。一方、ポリスチレン系原料樹脂の含有量が250質量部を超えると、予備発泡粒子を二次発泡させて得られる発泡成形体の耐薬品性および耐熱性が低下することがある。
【0022】
ポリスチレン系原料樹脂としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレンなどのスチレン系単量体を重合させて得られる樹脂が挙げられる。さらに、ポリスチレン系原料樹脂は、スチレン系単量体と、該スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。他の単量体としては、ジビニルベンゼンのような多官能性単量体や、(メタ)アクリル酸ブチルのような構造中にベンゼン環を含まない(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが例示される。これら他の単量体は、実質的にポリスチレン系樹脂に対して5質量%を超えない範囲で使用してもよい。なお、本明細書では、スチレンおよびスチレンと共重合可能な単量体もスチレン系単量体と称している。
【0023】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子には、本発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて、着色剤、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加物が含まれていてもよい。
【0024】
本発明のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子は、嵩密度0.022〜0.050g/cm3を有するのが好ましい。嵩密度が0.022g/cm3未満では、予備発泡粒子を発泡させて得られる発泡成形体の黒色度が低下することがある。一方、嵩密度が0.050g/cm3を超えると、予備発泡粒子を発泡させて得られる発泡成形体の質量が増加することがある。
また、この嵩密度を嵩発泡倍数で表すと、嵩発泡倍数(倍)=1/嵩密度(g/cm3)であることから、この予備発泡粒子の嵩発泡倍数は20〜45(倍)になる。
【0025】
本発明のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の形態は、その後の型内発泡成形に影響を与えないものであれば、特に限定されない。例えば、真球状、楕円球状(卵状)、円柱状、角柱状などが挙げられる。この内、成形型のキャビティ内への充填が容易である真球状、楕円球状が好ましい。
【0026】
本発明のポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子は、次の(A)〜(F)の各工程を備えた製造方法により、効率よく、また歩留まりよく製造することができる。
なお、下記の形態は、ポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子が、ポリスチレン系原料樹脂を含む複合樹脂に発泡剤を含浸させてなる場合である。
(A)分散剤を含む水性懸濁中に、ポリプロピレン系原料樹脂粒子100質量部と、ポリスチレン系原料樹脂(スチレン系単量体)60〜250質量部未満と、重合開始剤とを分散させる工程
(B)得られた分散液をスチレン系単量体が実質的に重合しない温度に加熱してスチレン系単量体をポリプロピレン系原料樹脂粒子に含浸させる工程
(C)ポリプロピレン系樹脂粒子中のポリプロピレン系樹脂の融点をT℃としたとき、(T−10)℃〜(T+20)℃の温度で、スチレン系単量体の重合を行って、ポリプロピレン系樹脂粒子を得る工程
(D)次いで、得られたポリプロピレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させてポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子を得る工程
【0027】
(A)工程において、ポリプロピレン系原料樹脂粒子は、例えば、ポリプロピレン系原料樹脂を押出機で溶融し、ストランドカット、水中カット、ホットカットなどにより造粒ペレット化したり、また粉砕機にて直接樹脂粒子を粉砕しペレット化することにより得られる。また、その形状は、真球状、楕円球状(卵状)、円柱状、角柱状などが挙げられる。このポリプロピレン系樹脂粒子の好ましい樹脂粒径は、0.5〜1.5mmの範囲であり、0.6mm〜1mmの範囲がより好ましい。
また、(A)工程において、ポリプロピレン系原料樹脂中のポリプロピレン系樹脂としては、融点が120℃〜145℃であるものが好適である。
【0028】
(A)工程で用いられる分散剤としては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの有機系分散剤、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウムなどの無機系分散剤が挙げられる。この内、無機系分散剤が好ましい。無機系分散剤を用いる場合、界面活性剤を併用することが好ましい。このような界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、α−オレフィンスルホン酸ソーダなどが挙げられる。
【0029】
また、重合開始剤としては、スチレン系単量体の重合に汎用されている従来周知の重合開始剤を使用できる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−アミルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−アミルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシビバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタン、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は、単独で用いられても併用されてもよい。
【0030】
また、重合開始剤を添加する場合、その添加方法としては、例えば、重合開始剤をポリプロピレン系樹脂に直接添加する方法、溶剤、可塑剤またはスチレン系単量体に重合開始剤を溶解させた上で添加する方法、重合開始剤を水に分散させた上で添加する方法などが挙げられる。この内、スチレン系単量体に重合開始剤を溶解させた上で添加する方法が好ましい。
【0031】
スチレン系単量体は、ポリプロピレン系樹脂粒子に含浸させるために、水性媒体に、連続的にあるいは断続的に添加できる。スチレン系単量体は、水性媒体中に徐々に添加していくのが好ましい。水性媒体としては、水、水と水溶性媒体(例えば、アルコール)との混合媒体が挙げられる。
【0032】
(B)工程において、(A)工程で得られた分散液を、スチレン系単量体が実質的に重合しない温度に加熱し、スチレン系単量体をポリプロピレン系樹脂粒子に含浸させる際の温度は、45〜70℃の範囲、好ましくは50〜65℃の範囲とする。
この含浸温度が45℃未満では、スチレン系単量体の含浸が不十分となってポリスチレンの重合粉末が生成されることがある。一方、含浸温度が70℃を超えると、スチレン系単量体がポリプロピレン系樹脂粒子に十分含浸される前に重合することがある。
【0033】
(C)工程において、重合温度は重要な要因であり、ポリプロピレン系樹脂粒子中のポリプロピレン系原料樹脂の融点をT℃としたとき、(C)工程では、(T−10)℃〜(T+20)℃の温度範囲とするのが好ましい。
このような温度範囲で重合を行うことにより、樹脂粒子中心部は、ポリスチレン系樹脂の存在量が多く(つまり、表層にポリプロピレン系樹脂の存在量が多い)、その結果として、ポリプロピレン系樹脂とポリスチレン系樹脂のそれぞれの長所が生かされ、剛性、発泡成形性、耐薬品性および耐熱性に優れたポリプロピレン系樹脂粒子を提供することができる。
【0034】
重合温度が上記の温度範囲より低くなると、得られる樹脂粒子中心部にポリスチレン系樹脂の存在量が少なく、良好な物性を示す樹脂粒子や発泡成形体が得られないことがある。また、重合温度が上記の温度範囲より高くなると、スチレン系単量体がポリプロピレン系樹脂粒子に十分含浸される前に重合が開始してしまうので、良好な物性を示す樹脂粒子や発泡成形体が得られないことがあり、耐熱性に優れた高価格の重合設備が必要になる。
【0035】
また、ポリプロピレン系樹脂粒子に含浸させたスチレン系単量体を重合する工程を、(C1)工程(第1の重合)と、(C2)工程(第2の重合)との二段階に分けてもよい。このように二段階に分ける理由は、一度に多くのスチレン系単量体をポリプロピレン系樹脂に含浸させようとすると、スチレン系単量体がポリプロピレン系樹脂に十分に含浸されず、ポリプロピレン系樹脂の表面に残るからである。そこで、二段階に分けることにより、(C1)工程においてスチレン系単量体が確実にポリプロピレン系樹脂の中心部に含浸され、(C2)工程においてもスチレン系単量体がポリプロピレン系樹脂の中心部に向かって含浸される。
【0036】
ポリプロピレン系樹脂粒子中のポリプロピレン系原料樹脂の融点をT℃としたとき、(C1)工程では、重合温度を(T−10)℃〜(T+20)℃の温度範囲とし、(C2)工程では、重合温度を(T−25)℃〜(T+10)℃の温度範囲とするのが好ましい。
【0037】
また、(C)工程において、重合終了後の樹脂粒子、もしくは二段階重合の場合の第2の重合中の樹脂粒子に、難燃剤を含浸させることが好ましい。難燃剤を投入する際の投入温度は、30℃〜90℃の範囲が好ましく、50℃〜70℃の範囲がより好ましい。投入した後、難燃剤を含浸させる際の含浸温度は、難燃剤の融点をt℃としたとき、t℃〜(t+30)℃の範囲が好ましい。t℃より低いと難燃剤がポリプロピレン系樹脂粒子に十分含浸されないおそれがあり、(t+30)℃より高いと耐熱性に優れた高価格の重合設備が必要となる。
(D)工程の重合を行った後、反応槽を冷却し、形成されたポリプロピレン系樹脂粒子を水性媒体と分離することで、ポリプロピレン系樹脂粒子が得られる。
【0038】
次に、(D)工程を行ってポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子を得る。
(D)工程において、ポリプロピレン系樹脂粒子に含浸させる発泡剤、好ましくは易揮発性発泡剤としては、沸点が重合体の軟化温度以下であり易揮発性を有するもの、例えば、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、炭酸ガス、窒素が挙げられ、これらの発泡剤は、単独もしくは2種以上を併用して用いることができる。易揮発性発泡剤の使用量は、ポリプロピレン系樹脂粒子100質量部に対して5〜25質量部の範囲とすることが好ましい。
【0039】
さらに、発泡助剤を発泡剤と共に用いてもよい。このような発泡助剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、D−リモネンなどの溶剤、ジイソブチルアジペート、ジアセチル化モノラウレート、やし油などの可塑剤(高沸点溶剤)が挙げられる。なお、発泡助剤の添加量としては、ポリプロピレン系樹脂粒子100質量部に対して0.1〜2.5質量部が好ましい。
【0040】
また、ポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子には、結合防止剤、融着促進剤、帯電防止剤、展着剤などの表面処理剤を添加してもよい。
【0041】
ポリプロピレン系樹脂粒子中に発泡剤を含浸させる方法は、発泡剤の種類に応じて適宜変更可能である。例えば、ポリプロピレン系樹脂粒子が分散している水性媒体中に発泡剤を圧入して、該樹脂中に発泡剤を含浸させる方法、ポリプロピレン系樹脂粒子を回転混合機に供給し、この回転混合機内に発泡剤を圧入して該樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法などが挙げられる。なお、ポリプロピレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる温度は、通常、50℃〜140℃とすることが好ましい。
【0042】
本発明の発泡成形体は、前述した予備発泡粒子を型内発泡成形したものなので、剛性、発泡成形性、耐薬品性に優れ、特に耐熱性に優れた発泡成形体を提供することができる。
【0043】
上記のようにして得られた発泡成形体は、自動車内装材(ツールボックス)、車輛用バンパーの芯材、ドア内装緩衝材などの車輛用緩衝材、電子部品、各種工業資材、食品などの搬送容器などの各種用途に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例により本発明を具体例に説明するが、以下の実施例は本発明の例示にすぎず、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
なお、実施例および比較例における嵩発泡倍数、発泡バラツキおよびトータルサイクルは、次の測定方法および評価基準により測定・評価した。
【0045】
<嵩発泡倍数>
発泡粒子の嵩発泡倍数を、次のようにして求めた。
予め内容積を実測しておいたポリカップ(内径:約170mm×高さ:約270mm)を電子天秤に載せてゼロ点補正する。次いで、ポリカップに発泡粒子を手で充填してポリカップの開口部を丸棒で擦り切った後、ポリカップをバイブレータ(神鋼電機株式会社、現シンフォニアテクノロジー株式会社製、型式:バイブレートリパッカVP−4D形、振動数:3000VPM)の台に載せ20秒間振動させる。次いで、振動による発泡粒子の沈み込みによってできたポリカップ上部の空間に、さらに発泡粒子を充填してポリカップの開口部を丸棒で擦り切った後、ポリカップを電子天秤に載せて発泡粒子の重量を測定する。得られたポリカップの内容積の実測値A(L)および発泡粒子の重量B(g)とから、次式により嵩密度を算出し、さらに樹脂密度を嵩密度で除すことで、嵩発泡倍数を算出する。
嵩密度(g/L)=B/A
【0046】
<発泡バラツキ>
発泡粒子の発泡バラツキを、次のようにして求めた。
発泡機の発泡粒子排出ハッチが開となり始めた直後の発泡粒子Cと発泡機内の発泡粒子が2/3排出された時点の発泡粒子Dの嵩発泡倍数を測定し、次式によりCとDの差異を求める。
R=C−D(C>D)、D−C(D>C)
得られた結果から、下記基準に基づいて評価した。
○:良好(R≦4)
×:悪い(R>4)
【0047】
<トータルサイクル>
予備発泡工程のトータルサイクルは、原料投入開始より発泡粒子が発泡機より排出完了し、発泡粒子排出ハッチが閉となるまでの所要時間であり、これを計時する。
【0048】
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂粒子(プライムポリマー社製、製品名F−744NP)26.7kgと、ファーネスブラック45重量%含有マスターバッチ(大日精化工業社製、商品名「PP−RM10H381」)3.34kgとを混合し、この混合物を押出機(ジーエムエンジニアリング社製、型式:SE−115B)にて加熱混合して水中カット方式により造粒ペレット化した。このときカーボン含有ポリプロピレン樹脂粒子は100粒あたり80mg、平均粒子径約1mmに調整した。
【0049】
次いで、台湾迪肯特股▲分▼有限公司製の撹拌機付8000Lオートクレーブに、得られたポリプロピレン系樹脂粒子1026kgを入れ、水性媒体として純水3400kg、ピロリン酸マグネシウム28.6kg、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.39kgを加え、撹拌して水性媒体中に懸濁させ、10分間保持し、その後60℃に昇温して水系懸濁液とした。
次いで、得られた懸濁液中に、ジクミルパーオキサイド0.86kgを溶解させたスチレン単量体431kgを30分間掛けて滴下した。滴下終了後30分間保持し、ポリプロピレン系樹脂粒子にスチレン単量体を吸収させた。
【0050】
次いで、反応系の温度をポリプロピレン系樹脂粒子中のポリプロピレン系樹脂の融点と同じ140℃に昇温して2時間保持し、スチレン単量体をポリプロピレン系樹脂粒子中で重合(第1の重合)させた。
次いで、第1の重合の反応液(懸濁液)の温度をポリプロピレン系樹脂粒子中のポリプロピレン系樹脂の融点より20℃低い120℃に降温して、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ1.5gを加えた後、重合開始剤としてジクミルパーオキサイド3.6gを溶解したスチレン単量体1243kgを4時間かけて滴下し、ポリプロピレン系樹脂粒子にスチレン単量体を吸収させながら重合(第2の重合)を行った。滴下終了後、120℃で1時間保持した後に140℃に昇温し、3時間保持して重合を完結させて、ポリプロピレン系樹脂粒子を得た。
【0051】
その後、第2の重合の反応液(懸濁液)の温度を60℃に降温して、この懸濁液中に、難燃剤としてトリ(2,3−ジブロモプロピル)イソシアネート(日本化成株式会社製)60gと、難燃助剤として2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(化薬アクゾ株式会社製)30gとを投入し、投入後、反応系の温度を140℃に昇温し、4時間攪拌を続け、ポリプロピレン系樹脂粒子を得た。
【0052】
次いで、反応系の温度を常温まで冷却し、ポリプロピレン系樹脂粒子を台湾迪肯特股▲分▼有限公司製の撹拌機付8000Lオートクレーブから取り出した。取り出したポリプロピレン系樹脂粒子600kgを耐圧で密閉可能な1640Lブレンダーに投入し、さらに発泡剤としてブタン114kgを注入した。注入後、反応系の温度を70℃に昇温し、3時間撹拌を続けた。その後、反応系の温度を常温まで冷却し、発泡性ポリプロピレン系樹脂粒子を耐圧で密閉可能な1640Lブレンダーから取り出した。
【0053】
次いで、発泡機(DABO社製、型式:DOP−110)を用いて、得られたポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子の予備発泡を実施した。
まず、発泡機の原料投入弁を開き、その予備発泡槽に原料粒子28.5kgを投入し(投入工程)、下限圧力0.03MPa〜上限圧力0.2MPaの条件で加圧蒸気加熱を実施した(予備発泡工程)。
加圧蒸気加熱において、予備発泡槽に設けられた、振動周波数を感知するレベルセンサーが2秒以上連続検知した段階で加圧蒸気加熱を終了し、発泡機の蒸気弁を閉じ、排気弁、ドレン弁および冷却弁を開いて、予備発泡槽内の発泡粒子の冷却を15秒間実施した。冷却完了後、排出扉を開き、予備発泡粒子を外部ホッパーに払い出し、予備発泡粒子を得た(排出工程)。
なお、上記の操作を連続して(間を置かず)5回実施し、5回目に測定を実施した。
この際の成り行きで決定された原料粒子を予備発泡槽内に投入する際の予備発泡槽の温度(缶内温度)は94℃であった。
発泡条件と得られた発泡粒子の評価結果を表1に示す。
【0054】
さらに、得られた予備発泡粒子を1日間室温に放置した後、成形型の寸法300mm×400mm×30mmのキャビティ内に充填し、成形型に0.25MPaの水蒸気を50秒間導入して加熱し、その後、最高面圧が0.001MPaに低下するまで冷却して、発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体の表面状態とかさ密度は良好であった。
【0055】
(比較例1)
予備発泡槽の温度を強制的に75℃まで冷却した後に発泡させたこと以外は実施例1と同様にして予備発泡粒子を得た。
発泡条件と得られた発泡粒子の評価結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
予備発泡槽の温度を強制的に85℃まで冷却した後に樹脂投入量と缶内圧力を変更し発泡させたこと以外は実施例1と同様にして予備発泡粒子を得た。
発泡条件と得られた発泡粒子の評価結果を表1に示す。
(比較例2)
予備発泡槽の温度を強制的に85℃まで冷却した後に缶内圧力と缶内温度を下げて発泡させたものの所定倍数まで発泡できなかったため、加熱時間300秒にて強制的に発泡機より排出させた。
発泡条件と得られた発泡粒子の評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果から、本発明のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法(実施例1)は、従来の製造方法(比較例1)に比べて、高圧発泡により発泡サイクルの短縮と発泡バラツキの低減を実現し得ることがわかる。
原料投入量を変更した場合(実施例2)にも、実施例1と同様の効果が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡機内でポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子を予備発泡させてポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子を得る予備発泡工程、
前記発泡機内からの前記ポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の排出工程、および
前記発泡機内への予備発泡原料としてのポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子の投入工程をこの順で含み、
前記予備発泡工程が、100℃以上150℃以下の温度T1下で行われ、
前記排出工程および投入工程が、80℃以上100℃未満の温度T2下で行われる
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記予備発泡工程が、0.02MPaより高く0.5MPa以下の前記発泡機内の圧力下で行われる請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法が前記投入工程、予備発泡工程および排出工程からなるサイクルを複数回繰り返すことからなり、かつ前記サイクルの2回目以降が前記発泡機の予備加熱なしで行われる請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂を含む発泡性樹脂粒子が、ポリプロピレン系原料樹脂100質量部と、60〜250質量部のポリスチレン系原料樹脂とを含む複合樹脂に発泡剤を含浸させてなる請求項1〜3のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子の製造方法により得られたポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子。
【請求項6】
請求項5に記載のポリプロピレン系樹脂を含む予備発泡樹脂粒子を型内に充填し発泡成形させてなるポリプロピレン系樹脂を含む発泡成形体。

【公開番号】特開2012−201861(P2012−201861A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70148(P2011−70148)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】