説明

ポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートおよびその用途

【課題】本発明は、軟質ポリ塩化ビニル樹脂から製造されるフィルムやシートに代替可能であり、透明性および柔軟性に優れ、しかも耐傷付き性にも優れる、ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムまたはシートを提供することを課題としている。
【解決手段】本発明のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートは、13C−NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率(mmmm分率)が50〜90%の範囲にあるポリプロピレン系樹脂(A)に、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)がグラフト共重合されており、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)由来の構成単位の含有量が0.1〜5重量%の範囲である変性ポリプロピレン系樹脂を成形して得られることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートおよびその用途に関する。詳しくは、本発明は、ポリプロピレン系樹脂に(メタ)アクリル酸の金属塩をグラフト共重合した変性ポリプロピレン系樹脂からなり、透明性および柔軟性に優れ、かつ耐傷付き性に優れたポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
軟質ポリ塩化ビニル樹脂は、透明性、及び柔軟性に優れ、かつ耐傷付き性が良好であるため、化粧シート、表皮、壁紙等として多方面にわたり広く使用されている。しかしながら、多量の液状可塑剤を添加された軟質ポリ塩化ビニル樹脂は、経時的に液状可塑剤が成形品表面にしみ出すことにより、表面を汚染させたり、また硬くなったりするという欠点を有している。更にその廃品を焼却処理するときに腐食性ガスを発生したり、あるいは焼却処理温度によっては有害物質を生成したりする危険性を有していることが問題となっている。このため軟質ポリ塩化ビニルに替わる透明性、柔軟性に優れ、かつ耐傷付き性が良好な材料が広く求められている。
【0003】
近年、この軟質ポリ塩化ビニル系樹脂の代替材料としてポリオレフィン系樹脂、例えばポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂などが検討されており、特にポリプロピレン系樹脂はポリエチレン系樹脂よりも耐熱性が優れるため、このポリプロピレン系樹脂を軟質化した軟質ポリ塩化ビニル代替材料が種々提案されている。例えば、特許文献1では、リアクターブレンドにより共重合されたプロピレン系共重合体を使用した表面保護フィルム、また、特許文献2、および3には、特定のエラストマー成分をブレンドした軟質ポリプロピレン系樹脂を使用した透明性、柔軟性に優れた軟質ポリプロピレン系樹脂シート及びフィルムが提案されている。しかしながら、軟質ポリ塩化ビニルの重要な特性である耐傷付き性については検討されていなかった。
【0004】
一般的に、ポリプロピレン樹脂にエラストマー成分を添加すると、柔軟性を発現する一方で、耐傷付き性が低下してしまうため、ポリプロピレン樹脂にエラストマー成分を添加するだけでは柔軟性と耐傷付き性を両立することは困難である。例えば、特許文献4には、アンチブロッキング剤と末端に水酸基を有する飽和炭化水素系ポリマーを添加したポリプロピレン樹脂組成物を使用した透明性、耐傷付き性に優れる二軸延伸フィルム用ポリプロピレン樹脂組成物が提案されているが、プロピレン系樹脂の耐傷付き性を改良すると、柔軟性が不十分になる。このように、透明で、柔軟性に優れ、かつ耐傷付き性に優れた軟質ポリプロピレン系樹脂はこれまで得られていない。
【特許文献1】特開平8−27445号公報
【特許文献2】特開平9−25347号公報
【特許文献3】特開2004−217839号公報
【特許文献4】特開平8−3389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、軟質ポリ塩化ビニル樹脂から製造されるフィルムやシートに代替可能であり、透明性および柔軟性に優れ、しかも耐傷付き性にも優れる、ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムまたはシートを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に特定する発明に関する。
(1)13C−NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率(mmmm分率)が50〜90%の範囲にあるポリプロピレン系樹脂(A)に、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)がグラフト共重合されており、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)由来の構成単位の含有量が0.1〜5重量%の範囲である変性ポリプロピレン系樹脂を成形して得られることを特徴とするポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシート。
【0007】
(2)変性ポリプロピレン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂(A)100重量部に対して、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)0.1〜5重量部および有機過酸化物(C)0.01〜5重量部を添加し、溶融混練して得られたものであることを特徴とする(1)に記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシート。
【0008】
(3)ポリプロピレン系樹脂(A)が、プロピレン単独重合体(A1)および/またはプロピレン・α−オレフィン共重合体(A2)であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシート。
【0009】
(4)(メタ)アクリル酸の金属塩(B)が、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸マグネシウム、および(メタ)アクリル酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の物質であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシート。
【0010】
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなることを特徴とする表面保護フィルムまたはシート。
(6)(1)〜(4)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなることを特徴とする化粧シート。
【0011】
(7)(1)〜(4)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなることを特徴とするストレッチフィルム。
(8)(1)〜(4)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなり、表皮用シートまたは加飾シートであることを特徴とする自動車内装用シート。
【0012】
(9)(1)〜(4)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなることを特徴とするラップフィルム。
(10)(1)〜(4)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなることを特徴とするシュリンクフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、焼却処理する場合にも有害物質が発生しないポリオレフィン系樹脂からなり、軟質ポリ塩化ビニル樹脂から製造されるフィルムやシートに代替可能であり、透明性および柔軟性に優れ、しかも耐傷付き性にも優れる、ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムまたはシートを提供することができる。また本発明によれば、透明性および柔軟性に優れ、かつ耐傷付き性にも優れる表面保護フィルムまたはシート、化粧シート、ストレッチフィルム、自動車内装用シート、ラップフィルムならびにシュリンクフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のシートまたはフィルムは、変性ポリプロピレン系樹脂からなる。
<変性ポリプロピレン系樹脂>
本発明で用いる変性ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂(A)に、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)がグラフト共重合された樹脂である。
【0015】
・ポリプロピレン系樹脂(A)
本発明に係るポリプロピレン系樹脂(A)は、13C−NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率(mmmm分率)が50〜90%、好ましくは50〜80%の範囲にあるポリプロピレン系樹脂である。
【0016】
本発明において、メソペンタッド分率mmmmは、13C−NMRを使用して測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の存在割合を示している。具体的には、プロピレン単位で5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるメチル基に由来する吸収強度(Pmmmm)のプロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度4(Pw)に対する比、すなわち〔(Pmmmm)/(Pw)〕として求められる値である。
【0017】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂(A)は、メソペンタッド分率が上記範囲を満たすものであれば、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンと他の1種以上のモノマーとの共重合体であってもよい。共重合体の場合、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよく、他のモノマーの共重合量に関係なく使用できるが、他のモノマーの共重合量が10wt%以下であるポリプロピレン系樹脂が望ましい。
【0018】
本発明で好ましく用いられるポリプロピレン系樹脂(A)としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・α-オレフィンランダム共
重合体、プロピレンブロック共重合体が挙げられる。これらの重合体をブレンドして用いてもよい。
【0019】
前述のα-オレフィンの具体例としては、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、2
−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、メチルエチル−1−ブテン、1−オクテン、メチル−1−ペンテン、エチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ヘキセン、プロピル−1−ヘプテン、メチルエチル−1−ヘプテン、トリメチル−1−ペンテン、プロピル−1−ペンテン、ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等を挙げることができる。
【0020】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂(A)は、より好ましくは、プロピレン単独重合体(A1)、プロピレン・α−オレフィン共重合体(A2)(プロピレン・エチレン共重合体を含む)、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0021】
本発明で使用するポリプロピレン系樹脂(A)は、230℃、荷重2160gの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が0.5〜30g/10分、好ましくは0.5〜10g/10分であるポリプロピレン系樹脂がフィルムまたはシート用途として好適である。
【0022】
・(メタ)アクリル酸の金属塩(B)
本発明に係る(メタ)アクリル酸の金属塩(B)とは、(メタ)アクリル酸(アクリル酸またはメタクリル酸)のカルボン酸部を金属で中和したものである。
【0023】
(メタ)アクリル酸の金属塩(B)の具体例としては、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸カルシウム、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸亜鉛、アクリル酸アルミニウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸カ
ルシウム、メタクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛、メタクリル酸などを挙げることができる。これらの中では、アクリル酸カリウム、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛が好ましく、特にメタクリル酸カリウム、メタクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛が好ましい。このような(メタ)アクリル酸の金属塩(B)は1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0024】
・有機過酸化物(C)
本発明で用いる変性ポリプロピレン系樹脂は、有機過酸化物(C)を用いて好適に製造することができる。有機過酸化物(C)は、変性ポリプロピレン系樹脂の製造において、ポリプロピレン系樹脂(A)に、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)をグラフト共重合させるのに必要なラジカルを発生させるために用いられる。
【0025】
本発明で用いられる有機過酸化物(C)としては、公知の有機過酸化物を制限なく使用できるが、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイドおよびパーオキシジカーボネート構造を有する有機過酸化物からなる群から選ばれた少なくとも1種の物質であることが好ましい。
【0026】
有機過酸化物(C)としては、具体的には、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バラレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α′−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類;アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トリオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウリレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクテート等のパーオキシエステル類;ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;ジ(3−メチル−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート,ジ−2−エトキシエチルパーオキシジーカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカルボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−n−ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチル シクロヘキシル)パーオキシジ
カーボネート、ジミリスチルパーオキシカーボネート、ジセチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類などを挙げることができる。
【0027】
これらの中ではベンゾイルパーオキサイド、m−トリオイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル
−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジセチルパーオキシジカーボネートなどが好ましい。これらは1種単独で、あるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
・変性ポリプロピレン系樹脂の製造
本発明で用いる変性ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂(A)に、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)をグラフト共重合する方法であれば、どのような製造方法で製造してもよいが、好適には、上述したポリプロピレン系樹脂(A)、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)および有機過酸化物(C)の各成分を用いて、これらの混合物を溶融混合することにより、ポリプロピレン系樹脂(A)に(メタ)アクリル酸の金属塩(B)をグラフト共重合して製造することができる。
【0029】
グラフト共重合に供する混合物を調製する際の、各成分の使用量(混合割合)は、成分(A)100重量部に対して、成分(B)0.1〜5重量部、成分(C)0.01〜5重量部の割合であり、好ましくは、成分(A)100重量部に対して、成分(B)0.1〜3重量部、成分(C)0.1〜1重量部の割合である。
【0030】
このような割合で各成分を用いて混合物を調製し、これを溶融混合してグラフト共重合を行うと、変性ポリプロピレン系樹脂の分子量の低下が生じにくく、グラフト量が多い変性ポリプロピレン系樹脂が得られるため、高分子量の変性ポリプロピレン系樹脂を容易に得ることができ、しかも成分(A)として使用したポリプロピレン系樹脂の機械的特性を保持することができる。
【0031】
このような変性ポリプロピレン系樹脂の製造方法としては、樹脂同士あるいは樹脂と固体もしくは液体の添加物を混合するための公知の各種方法が採用可能である。好ましい例としては、(A)〜(C)の各成分と、必要に応じて添加する添加剤などのその他の成分とを、同時にあるいは逐次にヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等により混合して均一な混合物とした後、該混合物を混練する等の方法を挙げることができる。混練の手段としては、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸又は二軸の押出機等の従来公知の混練手段が広く採用可能である。混練機の混練を行う場合の温度は(例えば、押出機ならシリンダー温度)、100〜300℃、好ましくは160〜250℃である。温度が低すぎるとグラフト量が向上しない場合があり、また、温度が高すぎると樹脂の分解が起こる場合がある。また、未グラフト成分を除去するため、真空ベント装置を設けた混練機を使用することが好ましい。
【0032】
本発明の変性ポリプロピレン系樹脂は、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)由来の構成単位の含有量((B)成分のグラフト量)が0.1〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%の範囲である。(B)成分のグラフト量が0.1重量%未満であれば、グラフト量が少ないため、所定の性能が得られない。また(B)成分のグラフト量が5重量%を超えると、ポリプロピレン樹脂との相溶性が低下し、逆に透明性が低下してしまう場合がある。
【0033】
本発明で用いる変性ポリプロピレン系樹脂は、耐熱性などのポリプロピレン本来の優れた性状を維持し、従来からのポリプロピレン樹脂の欠点であった塗料や接着剤との密着性が改善され、フィラーや極性樹脂といった他素材との複合化においても相溶性が改善された樹脂であって、しかも優れた透明性を有する。この変性ポリプロピレン系樹脂は単独で使用してもよく、未変性のポリプロピレン系樹脂などの他素材と複合して使用してもよく、また改質材としても使用できる。
【0034】
本発明に係る変性ポリプロピレン系樹脂は、各種添加剤としてたとえばフェノール系、イオウ系、リン系などの酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、
発泡剤、可塑剤、気泡防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、防霧剤、防菌剤、防カビ剤等などを含有していてもよい。
【0035】
また本発明に係る変性ポリプロピレン系樹脂は、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー、タルク、モスハイジ、ガラスファイバー等の充填剤、カーボンブラックなどの着色剤などを含有してもよい。
【0036】
これらのその他の成分は、上述のように変性ポリプロピレン系樹脂の製造時に混合して添加してもよく、また製造された変性ポリプロピレン系樹脂に対して添加してもよい。
<フィルムまたはシート>
本発明のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートは、上述した変性ポリプロピレン系樹脂を成形して得られる。本発明のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートは、単層であってもよく、変性ポリプロピレン系樹脂から形成された層を有する多層構造であってもよい。
【0037】
本発明のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートの成形方法は特に限定されないが、例えばインフレーション成形やTダイ成形を採用することができる。多層フィルム、またはシートの成形方法の場合には、例えば共押出法のほか、ドライラミネート法や押出ラミネート法などを採用すればよい。本発明の変性ポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物層以外の層に使用される熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタアクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタアクリル酸エステル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等を挙げることができる。
【0038】
本発明のシートまたはフィルムが、変性ポリプロピレン系樹脂層とその他の層を有する多層構造である場合には、必要に応じて層間に接着層を設けることができる。
本発明のフィルムまたはシートは、必要に応じて一軸延伸または二軸延伸されていても良く、またその表面に金属アルミニウムやアルミナ、シリカ等の薄膜が形成されていても良い。
【0039】
本発明に係る変性ポリプロピレン系樹脂は、従来の軟質ポリオレフィン樹脂に比べて、透明で、かつ柔軟性に優れ、更に耐傷付き性に優れるので、本発明のフィルムまたはシートは、軟質ポリ塩化ビニル樹脂が使用されているフィルム、シート等の包装分野において幅広く使用できる。また、本発明のフィルムまたはシートは、ポリオレフィン樹脂のなかでも耐熱性に優れるポリプロピレン系樹脂中に直接(メタ)アクリル酸金属塩がグラフトされた変性ポリプロピレン系樹脂からなるため、耐熱性を必要とする用途にも好適に使用することができる。このような本発明のフィルムまたはシートは、表面保護フィルムまたはシート、化粧シート、ストレッチフィルム、自動車内装用表皮や加飾シート、ラップフィルム、シュリンクフィルム等の用途に使用することができ、特に表皮用シートまたは加飾シートなどの自動車ない装用シートの用途に好適に使用することができる。
【0040】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
以下の実施例および比較例において、各種性状は以下の方法により測定あるいは評価し
た。
(1)メルトフローレート(MFR)
ASTM D1238の方法で、230℃、2160g荷重の条件で測定した。
【0042】
(2)(メタ)アクリル酸金属塩のグラフト量
変性ポリオレフィン樹脂約2gを採取し、500mlの沸騰p−キシレンに完全に加熱溶解した。冷却後、1200mlのメタノール中に投入し、析出物を濾過、乾燥してポリマー精製物を得た。熱プレスにより厚さ20μmのフィルムを作成した。この作成したフィルムの赤外吸収スペクトルを測定し、1580cm-1付近の吸収により(メタ)アクリル酸金属塩のグラフト量を定量した。
【0043】
(3)引張り破断点伸び、引張り弾性率
Tダイ成形機(東洋精機製)にて作製した厚み100μmのフィルムを用いて、JIS
K6781に準拠して測定した。
【0044】
(4)内部ヘイズ
Tダイ成形機(東洋精機製)にて作製した厚み100μmのフィルムを用いて、JIS
K7105に準拠して測定した。
【0045】
(5)耐傷付き性
厚さ2.7mmの試験片を用い、東洋精機製、学振摩耗試験機を用いて、45R、SUS製の摩耗子(20×20×30mm)の先端を綿帆布10号で覆い、これを23℃、治具荷重1kg下、往復回数10回、往復速度33回/min、ストローク50mmで試料
を摩耗させ、その前後のグロス変化率を下記式により求めて耐傷付き性能を評価した。グロス変化率が少なければ、耐傷付き性が良好な材料であることを示す。
グロス変化率(%)=100×(摩耗前のグロス−摩耗後のグロス)/(摩耗前のグロス)
(6)メソペンタッド分率
13C−NMRにより測定したスペクトルにおいて、メチル炭素領域の全吸収ピーク中のmmmmピーク分率をペンダッド分率として求めた。
【0046】
また、以下の実施例および比較例において用いた各成分は以下のとおりである。
(A)成分
(A−1)エチレン量4wt%のプロピレン-エチレンランダム共重合体(メソペンタッ
ド分率:60mol%、MFR:2.8g/10分、商品名:E2740、(株)プライムポリマー製)
(A−2)プロピレン単独重合体(メソペンタッド分率:72mol%、MFR:2.8g/10分、商品名:E2900、(株)プライムポリマー製)
(A−3)プロピレン単独重合体(メソペンタッド分率:96mol%、MFR:2.0g/10分、商品名:F122、(株)プライムポリマー製)
(A−1)エチレン量4wt%のプロピレン-エチレンランダム共重合体(メソペンタッ
ド分率:96mol%、MFR:1.0g/10分、商品名:B241、(株)プライムポリマー製)
(B)成分
(B−1)メタクリル酸亜鉛(浅田化学(株)製、商標R−20S)
(C)成分
(C−1):t−ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂(株)製、商標パーブチルZ)
(C−2):ベンゾイルパーオキサイド(日本油脂(株)製、商標ナイパーBW)
[実施例1]
ポリプロピレン系樹脂(A−1)100重量部、メタクリル酸亜鉛(B−1)0.5重量部、成分(C)としてt−ブチルパーオキシベンゾエート(C−1)0.5重量部をヘンシェルミキサーで均一に混合した後、同方向二軸混練機(テクノベル(株)製、商標:KZW31−30HG)にて210℃で加熱混練し、変性ポリプロピレン系樹脂を得た。得られた変性ポリプロピレン系樹脂およびそれを成形したフィルム、試験片の性状を上記の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2]
実施例1において、成分(C)をベンゾイルパーオキサイド(C−2)0.5重量部に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で変性ポリプロピレン系樹脂を得た。得られた変性ポリプロピレン系樹脂およびそれを成形したフィルム、試験片の性状を表1に示す。
【0048】
[実施例3]
実施例1において、成分(A)をポリプロピレン系樹脂(A−2)100重量部に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で変性ポリプロピレン系樹脂を得た。得られた変性ポリプロピレン系樹脂およびそれを成形したフィルム、試験片の性状を上記の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例1]
ポリプロピレン系樹脂(A−1)成分をそのまま使用し、樹脂およびそれを成形したフィルム、試験片の性状を上記の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例2]
ポリプロピレン系樹脂(A−2)成分をそのまま使用し、樹脂およびそれを成形したフィルム、試験片の性状を上記の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例3]
ポリプロピレン系樹脂(A−3)成分をそのまま使用し、樹脂およびそれを成形したフィルム、試験片の性状を上記の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例4]
ポリプロピレン系樹脂(A−4)成分をそのまま使用し、樹脂およびそれを成形したフィルム、試験片の性状を上記の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例5]
成分(A)をポリプロピレン系樹脂(A−3)100重量部に変更した以外は、実施例1と同じ方法で変性ポリプロピレン系樹脂を得た。得られた変性ポリプロピレン系樹脂およびそれを成形したフィルム、試験片の性状を上記の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例6]
成分(A)をポリプロピレン系樹脂(A−4)100重量部に変更した以外は、実施例1と同じ方法で変性ポリプロピレン系樹脂を得た。得られた変性ポリプロピレン系樹脂およびそれを成形したフィルム、試験片の性状を上記の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のフィルムまたはシートは、表面保護フィルムまたはシート、化粧シート、ストレッチフィルム、自動車内装用表皮や加飾シート、ラップフィルム、シュリンクフィルム等の用途に使用することができ、特に表皮用シートまたは加飾シートなどの自動車ない装用シートの用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
13C−NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率(mmmm分率)が50〜90%の範囲にあるポリプロピレン系樹脂(A)に、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)がグラフト共重合されており、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)由来の構成単位の含有量が0.1〜5重量%の範囲である変性ポリプロピレン系樹脂を成形して得られることを特徴とするポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシート。
【請求項2】
変性ポリプロピレン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂(A)100重量部に対して、(メタ)アクリル酸の金属塩(B)0.1〜5重量部および有機過酸化物(C)0.01〜5重量部を添加し、溶融混練して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシート。
【請求項3】
ポリプロピレン系樹脂(A)が、プロピレン単独重合体(A1)および/またはプロピレン・α−オレフィン共重合体(A2)であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシート。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸の金属塩(B)が、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸マグネシウム、および(メタ)アクリル酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の物質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなることを特徴とする表面保護フィルムまたはシート。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなることを特徴とする化粧シート。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなることを特徴とするストレッチフィルム。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなり、表皮用シートまたは加飾シートであることを特徴とする自動車内装用シート。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなることを特徴とするラップフィルム。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなることを特徴とするシュリンクフィルム。

【公開番号】特開2009−127006(P2009−127006A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306208(P2007−306208)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】