説明

ポリプロピレン系樹脂発泡粒子

【課題】 ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を金型内に充填し、水蒸気で加熱成形して得られる型内発泡成形体において、対金型収縮率、成形体変形率が小さく、かつ表面性の優れた成形体を得ること。
【解決手段】 コモノマー成分として、エチレンおよび/またはブテン−1を1〜10重量%含んでなり、Z平均分子量(Mz)が7.2×10以上1.2×10未満、かつ、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が2.5を超えて3.0以下であるポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とすることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子に関する。詳しくは、型内発泡成形体の原料として良好に使用出来るポリプロピレン系樹脂発泡粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を金型内に充填し、水蒸気で加熱成形して得られる型内発泡成形体は、型内発泡成形体の長所である形状の任意性、軽量性、断熱性などの特徴を持つ。また同様の合成樹脂発泡粒子を用いた型内発泡成形体と比較すると、例えばポリスチレン系樹脂発泡粒子を用いて得られる型内発泡成形体に比べて、耐薬品性、耐熱性、圧縮後の歪回復率に優れており、またポリエチレン系樹脂発泡粒子を用いる型内発泡成形体と比べて、寸法精度、耐熱性、圧縮強度が優れている。これらの特徴により、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を用いて得られる型内発泡成形体は、断熱材、緩衝包装材、自動車内装部材、自動車バンパー用芯材など様々な用途に用いられている。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を閉鎖しうるが密閉し得ない成形型内に充填し、水蒸気で加熱成形する際、発泡倍率が20〜50倍の比較的高倍率の発泡成形体の場合、高倍率の発泡成形体は強度が弱くなるため、成形後、成形体セル内が減圧になった場合、大気圧に押されて収縮・変形が起こるという問題がある。特に緩衝包装材に用いられる場合は30〜50倍の高倍率にすることが多い。そのため、成形後、成形体を60〜80℃の乾燥室に入れて収縮・変形を回復させる、いわゆる養生工程が必要となる。従来、この養生には、20〜24時間が必要で、多大な養生スペースとエネルギーコストを要し、生産性の上でも大きな問題であった。
【0004】
特許文献1には、プロピレン系ランダム共重合体又はランダムブロック共重合体を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、該発泡粒子から求められるメルトフローインデックスが0.5〜6g/10分、Z平均分子量(ポリスチレン換算)が1.2×10以上、融点が130℃以上、示差走査熱量測定によって求められるDSC曲線(但し、発泡粒子1〜3mgを示差走査熱量計によって10℃/分の昇温速度で室温から200℃まで昇温した時に得られるDSC曲線)に、二つ以上の吸熱ピークが現れ、これらの吸熱ピークのうち固有ピークよりも高温側に現れる吸熱ピークの吸熱エネルギーが1〜20J/gであることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子が、内圧を付与しなくても、収縮回復性が良く、成形サイクル、成形体養生回復時間が短く、製造効率が良いことが開示されている。特許文献1記載の方法では、得られた発泡粒子を板状の成形体に成形し、板状成形体の金型寸法に対する収縮率(対金型寸法収縮率)を評価している。しかしながら、板状成形体の場合の金型寸法に対する収縮率が良好であっても、箱形成形体のように開口部を有し、板状である底面よりもさらに変形しやすい形状の成形体の場合においては、板状の成形体の対金型収縮率の改善のみでは、成形体の変形率を低減させることは充分とはいえない。
【0005】
一方、特許文献2には、発泡倍率が高い粒子が得られかつ発泡倍率バラツキも小さい発泡粒子を得ることを目的として、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子において、該樹脂中にコモノマー成分としてエチレン及び/又はブテン−1を3〜10重量%含有すると共に、該樹脂のZ平均分子量Mzと重量平均分子量Mwの比Mz/Mwが1.5〜2.5の範囲にあり、該樹脂発泡粒子は融解エネルギーが11〜30J/gの二次結晶を有することを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子が開示されている。
【特許文献1】特開2000−198872号公報
【特許文献2】特開平8−259724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を金型内に充填し、水蒸気で加熱成形して得られる型内発泡成形体において、対金型収縮率、成形体変形率が小さく、かつ表面性の優れた成形体を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリプロピレン系樹脂のMz/Mwを特定の範囲にし、かつZ平均分子量を特定の範囲にすることにより、比較的短時間の養生時間で、成形体の対金型収縮率が十分小さく、さらには箱形状のような変形しやすい形状の成形体でも成形体変形率が小さく、かつシワの少ない表面性の優れた成形体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明の第1は、コモノマー成分として、エチレンおよび/またはブテン−1を1〜10重量%含んでなり、Z平均分子量(Mz)が7.2×10以上1.2×10未満、かつ、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が2.5を超えて3.0以下であるポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とすることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子に関する。
【0009】
本発明の第2は、前記記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなる、発泡倍率20〜50倍である型内発泡成形体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、対金型収縮率が小さく、さらには箱形状のような変形しやすい形状の成形体でも成形体変形率が小さく寸法安定性に優れ、かつ表面性の優れた成形体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の基材樹脂として使用するポリプロピレン系樹脂は、コモノマー成分として、エチレンおよび/またはブテン−1を1〜10重量%含んでなり、Z平均分子量(以下、Mzと表記する場合がある)が7.2×10以上1.2×10未満、かつZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(以下、Mz/Mwと表記する場合がある)が2.5を超えて3.0以下である。
【0012】
本発明で使用するプロピレン系樹脂は、単量体としてプロピレンを主成分とし、コモノマー成分として、エチレンおよび/またはブテン−1を1〜10重量%含んでなり、好ましくは、2〜5重量%含んでなる。前記ポリプロピレン系樹脂の具体例としては、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ブテン−1−プロピレンランダム共重合体、エチレン−ブテン−1−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、エチレン−ブテン−1−プロピレンブロック共重合体があげられるが、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ブテン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−ブテン−1−プロピレンランダム共重合体が好ましい。
【0013】
本発明で使用するポリプロピレン系樹脂は、Z平均分子量が7.2×10以上1.2×10未満であり、好ましくは、80×10以上110×10以下である。Z平均分子量Mzが7.2×10未満の場合、成形体変形率が大きくなり、1.2×10以上の場合、対金型収縮率が大きくなる。
【0014】
本発明で使用するポリプロピレン系樹脂は、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が2.5を超えて3.0以下であり、好ましくは、2.6以上2.9以下である。Mz/Mwが2.5以下の場合、成形体の対金型収縮率は良好であるが、成形後、成形体セル内が減圧になって、大気圧に押されて収縮・変形が起こった時、樹脂の強度(セル膜強度)が弱くて変形が大きくなり、養生後に成形体の変形が回復しても、成形体表面にシワが残り、外観の劣った成形体しか得られず、Mz/Mwが3.0より大きい場合、対金型収縮率が大きくなる。
【0015】
なお、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下の測定条件にて得られたMw、Mzを採用し、これらの値から、Z平均分子量と重量平均分子量の比(Mz/Mw)を算出した。
【0016】
<測定条件>
測定装置 :ゲル浸透クロマトグラフ Alliance GPC 2000型(Waters社製)
カラム :TSKgel GMH−HT 2本、TSKgel GMH−HTL 2本(それぞれ、内径7.5mm×長さ300mm、東ソー社製)
移動相 :O−ジクロロベンゼン(0.025%BHT含有)
カラム温度:140℃
流速 :1.0mL/min
試料濃度 :0.15%(W/V)−O−ジクロロベンゼン
注入量 :500μL
分子量較正:ポリスチレン換算(標準ポリスチレンによる較正)
【0017】
本発明に規定するZ平均分子量(Mz)、Z平均分子量と重量平均分子量の比(Mz/Mw)であるポリプロピレン系樹脂は、メタロセン触媒、ポストメタロセン触媒等の触媒を用いて、重合条件を調整することで得ることもできるし、重合されたポリプロピレン系樹脂を有機過酸化物等で分解処理を行うことによっても得ることができる。このようなポリプロピレン系樹脂は、市販のポリプロピレン系樹脂から選択することもできる。また、市販のポリプロピレン系樹脂を有機過酸化物で分解してもよい。市販のポリプロピレン系樹脂を有機過酸化物で分解する方法を用いると所望のZ平均分子量と重量平均分子量の比を有するポリプロピレン系樹脂としやすいため好ましい。
【0018】
市販品のポリプロピレン系樹脂を有機過酸化物で分解するには、一般には、押出機内で加熱溶融したポリプロピレン系樹脂に有機過酸化物を添加することで行うことができる。有機過酸化物の使用量は、目的とするZ平均分子量と重量平均分子量の比にもよるが、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.001〜0.1重量部であることが好ましい。
【0019】
所望のMzおよびMz/Mwを有するポリプロピレン系樹脂は、元になるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)および有機過酸化物の量を調整して得ることが好ましい。
【0020】
使用しうる有機過酸化物としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル2,5ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等が挙げられる。
【0021】
本発明のポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(以下、MFRと表記する場合がある)は、3〜12g/10分が好ましい。MFRが3g/10分未満では、樹脂の流動性が不足し発泡性が悪くなる傾向があり、MFRが12g/10分を超えると樹脂の流動性が高くなりすぎて発泡粒子のセル膜が破れ独立気泡率が低くなり、型内成形性が悪くなる可能性がある。
【0022】
メルトフローレートの測定方法は、JIS K 7210の方法で測定する。試験温度は230℃、荷重2.16kgで測定する。
【0023】
上記ポリプロピレン系樹脂は通常、発泡粒子を製造し易いように、予め押し出し機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて溶融し、円柱状、楕円状、球状、立方体状、直方体状等の樹脂粒子形状に加工しておくことが好ましい。樹脂粒子の大きさは、一粒の重量が0.1mg〜30mgであることが好ましく、より好ましくは0.3mg〜10mgになるように加工する。樹脂粒子の一粒の重量は、樹脂粒子をランダムに100粒採取し、重量を測定し、1粒あたりに平均して得られた平均樹脂粒子重量であり、mg/粒で表示する。
【0024】
ポリプロピレン系樹脂への添加剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の炭化水素系発泡剤を使用する場合は、タルク、シリカ、炭酸カルシウムのような無機造核剤を0.005〜0.5重量部添加することが好ましい。また、空気、窒素、炭酸ガス、水等の無機発泡剤を使用する場合は、前記無機造核剤および/または吸水物質を使用することが好ましい。
【0025】
本発明において吸水物質とは、当該物質を樹脂粒子中に添加し、該樹脂粒子を水と接触させる或いは水分散系で発泡剤含浸をする際に、樹脂粒子内に水を含有させうる物質をいい、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硼砂、硼酸亜鉛等の水溶性無機物、メラミン、イソシアヌル酸、メラミン・イソシアヌル酸縮合物等の吸水性有機物、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド等のポリエーテル、ポリエーテルとPP等のアロイ、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体のアルカリ金属塩、ブタジエン(メタ)アクリル酸共重合体のアルカリ金属塩、カルボキシル化ニトリルゴムのアルカリ金属塩、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体のアルカリ金属塩及びポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等の親水性ポリマーが挙げられる。
【0026】
吸水物質の添加量は、目的とする発泡倍率、使用する発泡剤、使用する吸水物質の種類によって異なり一概に記載することはできないが、水溶性無機物を使用する場合、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01〜1重量部であることが好ましく、親水性ポリマーを使用する場合、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部であることが好ましい。また、これら、水溶性無機物や親水性ポリマー2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を製造する方法には、特に限定はないが、耐圧容器内にポリプロピレン系樹脂粒子を発泡剤存在下、分散剤等と共に水中に分散させ、加圧下で所定の発泡温度まで加熱したのち、耐圧容器内の分散物を低圧域に放出する方法が好ましい。
【0028】
本発明に使用する発泡剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、シクロブタン等の環式脂肪族炭化水素類等の炭化水素系発泡剤、空気、窒素、炭酸ガス、水等の無機発泡剤等が挙げられる。
【0029】
ポリプロピレン系樹脂粒子を耐圧容器内で水に分散させて加熱し、発泡剤を含浸させるとき、樹脂粒子同士の融着を防止するため、分散剤、分散助剤を用いることが好ましい。
【0030】
分散剤としては、例えば第3燐酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、カオリン等が挙げられる。分散剤の使用量は、ポリプロピレン系樹脂粒子と水の仕込み比が1/3〜1/1の範囲の場合、ポリプロピレン系樹脂粒子100重量部に対して0.1〜5重量部であることが、分散安定性を確保し、かつ、得られる発泡粒子表面に分散剤が付着しにくく成形時に発泡粒子同士の融着を阻害させない傾向があるため好ましい。
【0031】
分散助剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、アルキルスルホン酸ソーダ等の界面活性剤等が挙げられる。分散助剤の使用量は、ポリプロピレン系樹脂粒子と水の仕込み比が1/3〜1/1の範囲の場合、ポリプロピレン系樹脂粒子100重量部に対して0.001〜0.1重量部であることが、分散安定性を確保し、得られる発泡粒子表面に分散剤が付着しにくく成形時に発泡粒子同士の融着を阻害させない傾向があるため好ましい。
【0032】
耐圧容器内から分散物を低圧域に放出させるときの耐圧容器内の温度(以下、発泡温度と称する場合がある)は、ポリプロピレン系樹脂粒子の融点近傍の温度で、樹脂の種類、発泡剤の種類によって変わるが、おおむね融点−15℃から融点+15℃の間であることが好ましい。
【0033】
なお、本発明においてポリプロピレン系樹脂粒子の融点は、示差走査熱量計(DSC)にて、試料3〜6mgを40℃〜220℃まで10℃/分の速度で昇温し、その後40℃まで10℃/分の速度で降温し、再度220℃まで10℃/分の速度で昇温した時に得られるDSC曲線の融解ピーク温度をいう。
【0034】
以上のようにして、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子が得られるが、高発泡倍率の発泡粒子を得る場合は、前記方法にて一旦ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得た後、該発泡粒子に空気等の不活性ガスを含浸させて発泡力を付与した後、加熱を行って更に発泡させるという、いわゆる二段発泡法を採用してもよい。
【0035】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を示差走査熱量計(DSC)にて、試料3〜6mgを40℃〜220℃まで10℃/分の速度で昇温したときに得られるDSC曲線において、低温側と高温側に2つの融解ピークを有していることが好ましい。2つの融解ピークを有することにより、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形行う際の加熱温度範囲等の成形条件の幅が広くなる。
【0036】
本発明においては、DSC曲線の2つの融解ピークにおいて、低温側融解ピーク熱量Qと高温側融解ピーク熱量Qから算出できる、高温側の融解ピーク熱量の比率(Q/(Q+Q)×100)(以下、DSC比と称す場合がある)が10〜40%の範囲にあることが好ましい。ここで、低温側の融解ピーク熱量Qは、低温側融解ピークと低温側ピークと高温側ピークの間の極大点からの融解開始ベースラインへの接線で囲まれる熱量であり、高温側融解ピーク熱量Qは、DSC曲線の高温側の融解ピークと低温側ピークと高温側ピークの間の極大点からの融解終了ベースラインへの接線で囲まれる熱量を言う。
【0037】
DSC比が10%未満では、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の独立気泡率が低く、成形体変形率が大きくなる傾向にある。DSC比が40%を超えると、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の型内発泡成形する際の2次発泡力が十分得られない場合があり、粟おこし状で粒子同士の融着の劣る発泡成形体が得られる場合がある。
【0038】
以上のようにして得られる、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、たとえばあらかじめ耐圧容器内で空気加圧し、ポリプロピレン系樹脂粒子中に空気を圧入することにより発泡能を付与し、これを閉鎖しうるが密閉し得ない成形型内に充填し、水蒸気などを加熱媒体として0.2〜0.4MPa(ゲージ圧)程度の加熱水蒸気圧で3〜30秒程度の加熱時間で成形しポリプロピレン系樹脂発泡粒子同士を融着させ、このあと成形金型を水冷により型内発泡成形体取り出し後の型内発泡成形体の変形を抑制できる程度まで冷却することで、型内発泡成形体とすることが出来る。
【0039】
得られる型内発泡成形体の発泡倍率は、好ましくは20〜50倍であり、当該範囲内であると、一般的には、成形後のセル内減圧による成形体の変形が起こり、成形体変形率が大きくなるりやすいため、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を好適に使用することができる。なお型内発泡成形体の発泡倍率は、発泡体の乾燥重量(W:g)と水没体積(V:cm)から、(成形体の発泡倍率)=1/(W/V)×0.9(ポリプロピレン系樹脂の樹脂密度)で求められる。
【実施例】
【0040】
本発明を実施例、比較例で説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。
本実施例において評価は以下のように行った。
【0041】
<ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の嵩密度>
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を10L容器に入れ、容器内の発泡粒子重量(g)を測定する。得られた重量を容器容量(L)で除して嵩密度(g/L)とした。
【0042】
<対金型収縮率>
対金型収縮率は、400×300×60mm厚みの板状の型内発泡成形体を成形・冷却後金型から取り出し、直ちに75℃で12時間養生した後室温で24時間放置し、縦寸法を測定し金型寸法に対する収縮率を求めた。収縮率が3.0%以上になると、型内発泡成形体の寸法精度が悪くなり、実用上問題があるとされている。
【0043】
<成形体変形率>
外寸法が350mm長さ×350mm幅×180mm高さ、肉厚18mmの枡形箱形状の金型にて発泡粒子を型内成形し、室温に1時間放置後、75℃で8時間養生した後、室温で24時間放置し、箱形状成形体の開口部中央寸法と辺寸法の差/辺寸法×100(%)を算出し、成形体変形率とした。
成形体変形率が4.0%以上になると、形状変形が大きすぎて実用上問題が起こりやすい。
【0044】
<表面性>
対金型収縮率を測定した成形体の表面状態を目視観察し、表面に「シワ」がほとんど無いものは○、表面に僅かな「しわ」があるが表面全体がフラットなものは△、表面に「しわ」が多く、表面全体が波打っているものを×とした。
【0045】
(製造例1)
エチレン量4.0重量%、MFR2.0g/10分のエチレン−プロピレンランダム共重合体を押出機内で有機過酸化物量を調整しながら分解し、表1の1〜5、8〜11の基材樹脂を得た。
【0046】
(製造例2)
エチレン量3.4重量%、MFR4.0g/10分のエチレン−プロピレンランダム共重合体を押出機内で有機過酸化物量を調整しながら分解し、表1の6、7の基材樹脂を得た。
得られた基材樹脂のMFR、Mz、MZ/Mw等を表1に示す。
【0047】
【表1】

(実施例1、2)
基材樹脂No.1に、セル造核剤としてタルク(林化成製タルカンパウダーPKS)0.01重量部をドライブレンドした後、50mm単軸押出機(大阪精機工作(株)製20VSE−50−28型)内で溶融混練した。得られた溶融混練樹脂を円形ダイよりストランド状に押出し、水冷後、ペレタイザーで切断し、一粒の重量が1.8mg/粒のポリプロピレン系樹脂粒子を得た。
【0048】
ポリプロピレン系樹脂粒子100重量部(670g)、水300重量部、分散剤として第三リン酸カルシウム(太平化学産業社製)2.0重量部、分散助剤としてアルキルスルホン酸ナトリウム0.04重量部を容量4.5Lの耐圧オートクレーブ中に仕込み、攪拌下、発泡剤としてイソブタンを10重量部添加した。オートクレーブ内容物を昇温し、134℃の発泡温度まで加熱した。その後、30分間保持した後、オートクレーブ下部のバルブを開き、直径4.0mmの開口オリフィスを通して、オートクレーブ内容物を大気圧下に放出して、嵩密度38g/L(実施例1)、嵩密度26.5g/L(実施例2)の発泡粒子を得た。なお、DSC比が25±1%となるよう温度、イソブタン量を調節した。
【0049】
発泡粒子の成形条件は、発泡粒子を耐圧容器内に入れて空気で加圧処理して粒子内圧を付与し、0.30MPa(ゲージ圧)の蒸気圧で型内発泡成形をおこない冷却後金型から取り出し、所定の温度、時間で養生した後、室温に取り出した。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

(実施例3)
実施例1において、ポリプロピレン系樹脂粒子の一粒の重量を1.3mg/粒とし、得られる発泡粒子の嵩密度を17.0g/Lに調整した以外は、実施例1と同様にして成形体評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
(実施例4、5)
基材樹脂No.1に、セル造核剤としてホウ酸亜鉛0.1重量部をドライブレンドした後、50mm単軸押出機(大阪精機工作(株)製20VSE−50−28型)内で溶融混練した。得られた溶融混練樹脂を円形ダイよりストランド状に押出し、水冷後、ペレタイザーで切断し、一粒の重量が1.8mg/粒のポリプロピレン系樹脂粒子(ミニペレット)を得た。
【0052】
ポリプロピレン系樹脂粒子100重量部(2400g)、水200重量部、分散剤としてカオリン(エンゲルハード社製ASP−170)0.75重量部、分散助剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.018重量部を容量10Lの耐圧オートクレーブ中に仕込み、攪拌下、発泡剤として炭酸ガスを9重量部添加した。オートクレーブ内容物を昇温し、144℃の発泡温度まで加熱した後、さらに炭酸ガスを追加してオートクレーブ内圧を3.0MPa(ゲージ圧)とした。その後、30分間保持した後、オートクレーブ下部のバルブを開き、直径4.0mmの開口オリフィスを通して、オートクレーブ内容物を大気圧下に放出して発泡粒子を得た。得られた発泡粒子の発泡倍率は嵩密度38g/Lであった。DSC比は25±1%となるよう温度、炭酸ガス量を調節した。
【0053】
発泡粒子の成形条件は、発泡粒子を耐圧容器内に入れて空気で加圧処理して粒子内圧を付与し、0.30MPa(ゲージ圧)の蒸気圧で型内発泡成形をおこない冷却後金型から取り出し、所定の温度、時間で養生した後室温に取り出した。成形体評価の結果を表2に示す。
【0054】
(実施例5)
実施例4で得られた嵩密度38g/Lの発泡粒子を耐圧容器に入れて空気で加圧処理し0.4MPa(絶対圧)の内圧を付与し、0.1MPa(ゲージ圧)の水蒸気により加熱し、30倍(嵩密度17g/L)発泡粒子を得、該発泡粒子について評価をした。
発泡粒子の成形条件は、発泡粒子を耐圧容器内に入れて空気で加圧処理して粒子内圧を付与し、0.3MPa(ゲージ圧)の蒸気圧で型内発泡成形をおこない冷却後金型から取り出し、所定の温度、時間で養生した後室温に取り出した。成形体評価の結果を表2に示す。
【0055】
(実施例6)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.2にした以外は、実施例1と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0056】
(実施例7)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.2にした以外は、実施例2と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0057】
(実施例8)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.2にした以外は、実施例3と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0058】
(実施例9)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.3にした以外は、実施例1と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
(実施例10)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.3にした以外は、実施例2と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0060】
(実施例11)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.3にした以外は、実施例3と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0061】
(実施例12)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.4にした以外は、実施例1と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
(実施例13)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.4にした以外は、実施例2と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0063】
(実施例14)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.4にした以外は、実施例3と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0064】
(実施例15)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.5にした以外は、実施例1と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0065】
(実施例16)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.5にした以外は、実施例2と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
(実施例17)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.5にした以外は、実施例3と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0067】
(比較例1)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.6にした以外は、実施例1と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

(比較例2)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.6にした以外は、実施例2と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0069】
(比較例3)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.6にした以外は、実施例3と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0070】
(比較例4)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.7にした以外は、実施例1と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0071】
(比較例5)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.7にした以外は、実施例2と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0072】
(比較例6)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.7にした以外は、実施例3と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0073】
(比較例7)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.8にした以外は、実施例1と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0074】
(比較例8)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.8にした以外は、実施例2と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0075】
(比較例9)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.8にした以外は、実施例3と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0076】
(比較例10)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.9にした以外は、実施例1と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0077】
(比較例11)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.9にした以外は、実施例2と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0078】
(比較例12)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.9にした以外は、実施例3と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0079】
(比較例13)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.10にした以外は、実施例1と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0080】
(比較例14)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.10にした以外は、実施例2と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0081】
(比較例15)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.10にした以外は、実施例3と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0082】
(比較例16)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.11にした以外は、実施例1と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0083】
(比較例17)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.11にした以外は、実施例2と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0084】
(比較例18)
使用する基材樹脂を表1記載のNo.11にした以外は、実施例3と同様にして、発泡粒子を得、成形評価を行った。結果を表3に示す。
【0085】
型内発泡成形体の表面性は、Mzは70万以下、Mz/Mwは2.5以下になると見栄えが悪くなり実用的では無い。
【0086】
実施例では、成形体変形率、対金型収縮率いずれも良好な成形体が得られた。比較例では、成形体変形率が4%以上であったり、対金型収縮率が3%以上であったり、表面にシワが発生して表面性が劣るものであったりした。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のポリプロピレン系共重合体樹脂発泡粒子を型内成形した成形体は、比較的高倍率で緩衝包装材用途等の変形しやすい形状においても短時間の養生時間で成形体変形が少なく、寸法安定性に優れており、工業的に経済的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子のDSC曲線の一例である。低温側融解ピークと低温側ピークと高温側ピークの間の極大点からの融解開始ベースラインへの接線で囲まれる熱量が低温側の融解ピーク熱量Qであり、DSC曲線の高温側の融解ピークと低温側ピークと高温側ピークの間の極大点からの融解終了ベースラインへの接線で囲まれる熱量が高温側融解ピーク熱量Qである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コモノマー成分として、エチレンおよび/またはブテン−1を1〜10重量%含んでなり、Z平均分子量(Mz)が7.2×10以上1.2×10未満、かつ、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が2.5を超えて3.0以下であるポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とすることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項2】
請求項1記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなる、発泡倍率20〜50倍である型内発泡成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−108161(P2009−108161A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280666(P2007−280666)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】