説明

ポリプロピレン系樹脂組成物

【課題】耐衝撃性と両立した耐傷付き性ならびに優れた溶融成形性を有することにより、着色樹脂成形材料として使用するに適したポリプロピレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン樹脂75〜90重量%と、スチレン含有量が18〜42重量%の水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)7〜15重量%と、スチレン含有量が12〜15重量%の水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(B)3〜10重量%とを含むポリプロピレン系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性と両立した耐傷付き性を有することにより、無塗装樹脂成形材料として使用するに適したポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車樹脂部品は、低コスト化や環境対応の観点から、着色樹脂で射出成形する無塗装化が拡大している。特に、ウエルドラインなどの外観不具合のため、技術的に困難であったシルバーメタリック色についても金型技術などの向上により、無塗装化が可能となり、製品展開が拡大している。例えば、コストダウンや揮発性有機化合物(VOC)の低減を目的として、インストルメントパネルガーニッシュ、ドアトリムガーニッシュ、シフトガーニッシュなど四輪内装樹脂部品の無塗装化が望ましい。無塗装樹脂材料としては、発色性、耐傷付き性や耐光性などの観点で、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン・スチレン樹脂またはアクリロニトリル/エチレン・プロピレン・ジエン/スチレン樹脂)が好ましい特性を有する(特許文献1)。しかし、AES樹脂は、流動性が低く、大形部品や長尺部品の成形には不適であり、また耐衝撃性や耐薬品性に劣ることから部品への適用は限られていた。
【0003】
そのため、流動性(溶融成形性)、耐衝撃性、耐薬品性に優れるポリプロピレン(以下、PP樹脂ともいう)での無塗装化が望まれてきたが、発色性が悪く、また表面硬度が低く耐傷付き性に劣るため、製品化は限られていた。すなわち自動車用途における従来のPP系樹脂の材料設計は、共重合によりエチレン・プロピレンゴム(以下、EPR)を混合したICP(Impact Polymer)をベースとし、エラストマーおよびタルクなどの無機充填材で耐衝撃性と剛性を両立する三元系が主流である(例えば特許文献2)。しかし、ICPは、EPR成分の影響により不透明となり、さらにタルクなどの無機フィラーを添加することにより白濁する。着色剤や光輝材による発色性は、基材が透明なほど有利であるが、この三元系の材料設計では、着色時に白ボケ感が出てきて意匠性が低下するため、シルバーメタリック色などの光輝感の高い色には不適であった。また、耐傷付き性は表面硬度が高いほど有利であるが、この三元系の材料設計では、EPR成分の影響により表面硬度が低下し傷が付きやすい。さらに、タルクを添加した場合は、傷部が白化して目立つという課題があった。これらの理由から、従来のPP系樹脂は、人の手が極力触れない部品に採用が限られ、また傷がつきにくいシボ加工を施し対策していた。インストルメントパネルガーニッシュやシフトガーニッシュなどの耐傷付き性や意匠性が要求される部品については、シボによる対策だけでは不十分であり、そのため、流動性および成形性に問題があるものの、表面硬度が高く、発色性に優れるAES樹脂が、無塗装樹脂としてはより多く採用されているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−106201号公報
【特許文献2】特開2009−62526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主要な目的は、耐衝撃性と両立した耐傷付き性を有することにより、無塗装成形樹脂材料として使用するに適したポリプロピレン系樹脂組成物を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、上述の目的を達成するために開発したものであり、ポリプロピレン樹脂75〜90重量%と、スチレン含有量が18〜42重量%の水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)7〜15重量%と、スチレン含有量が12〜15重量%の水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(B)3〜10重量%とを含むことを特徴とするものである。
【0007】
上述したように、従来の無塗装系ポリプロピレン系樹脂組成物は、PP樹脂にエラストマーを配合して耐衝撃性を改善し、タルクをはじめとする無機フィラーの配合により硬度を向上して曲げ弾性率を改良するという設計思想に基づく。これに対し本発明は、エラストマーとして、特定のスチレン含有量を有する2種の水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)および(B)を組み合わせてポリプロピレン樹脂に配合することにより、耐衝撃性が向上することに加えて、表面硬度(ロックウェル硬度)は若干低下するものの、実用的な耐傷付き性試験として採用した、JIS K5600で規定する碁盤目試験(後述)による、碁盤目形成前後の成形片表面の白化による明度差(ΔL*)あるいは残留傷深さの小なることで代表される耐傷付き性は却って向上することが見出された。本発明は、このような知見に基づき、樹脂着色における無機フィラーの配合の不都合を回避しつつ、耐衝撃性と両立した耐傷付き性を有することにより、無塗装成形樹脂材料として使用するに適したポリプロピレン系樹脂組成物を与えるものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を、その好ましい形態について順次説明する。以下の記載において、組成の規定に関する「比」、「%」および「部」は、特に断らない限り、いずれも重量基準とする。
【0009】
(ポリプロピレン樹脂)
本発明の組成物の主成分を占めるポリプロピレン樹脂としては、剛性および表面硬度の高いホモポリプロピレン(h−PP)を用いることが好ましい。エチレンープロピレンブロック共重合体(b−PP)は、透明性が低く、色によっては着色樹脂組成物の色調を阻害する場合があること、また剛性ならびに表面硬度を低下する傾向にあるため、含まれないことが好ましく、含まれるとしても10%以下、特に5%以下とすることが好ましい。ポリプロピレン樹脂としては、JIS K7210にしたがって測定した230℃、荷重2.16kgで測定したメルトフロー値が10〜100g/10分、特に20〜70g/10分、のものが好ましく用いられる。
【0010】
ポリプロピレン樹脂は組成物中の樹脂の75〜90%、好ましくは80〜88%を占める量で用いられる。75%未満では、ポリプロピレン系樹脂組成物の持つ優れた流動性、耐薬品性を充分に発揮することが困難となり、90%を超えると、耐衝撃性の向上が困難となる。
【0011】
(水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー)
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物のシャルピー衝撃強度を向上するための主成分として、スチレン含有量の異なる水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)および(B)の2種が用いられる。これらは、いずれも、スチレン含有量の異なるスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加により得られるものであり、水素添加の進展により、スチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレン共重合体あるいはスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体の組成を有するものとなる。本発明ではこれらを包括的に水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(記号としてSEBS)と称する。水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー中のブタジエンに起因する不飽和二重結合の水素添加度は、90モル%以上、特に95モル%以上であることが好ましい。
【0012】
スチレン含有量が18〜42%の水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)は、剛性(曲げ弾性率)および表面硬度の低下を抑えつつシャルピー衝撃強度の向上を図るために添加されるものであり、スチレン含有量が18%未満では、剛性(曲げ弾性率)および表面硬度の低下の抑制効果が不十分であり、42%を超えるとシャルピー衝撃強度および発色性の向上効果が乏しくなる。スチレン含有量が18〜30%のものが特に好ましい。エラストマー(A)は、組成物中の樹脂分の7〜15%、好ましくは8〜12%の割合で用いられる。7%未満では、必要な衝撃強度を付与しつつ剛性(曲げ弾性率)および表面硬度の低下を抑制することが困難となり、15%を超えるとポリプロピレン系樹脂組成物の持つ優れた流動性、耐薬品性が損なわれるおそれがある。水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)としては、JIS K7210にしたがって測定した温度230℃、荷重2.16kgで測定したメルトフロー値(MFR)が0.8〜5.0g/10分、特に4.5〜5.0g/10分、のものが好ましく用いられる。また共重合体エラストマー(A)のポリプロピレン系樹脂組成物中での平均分散粒子径は、500〜1500nm程度であることが好ましい。
【0013】
スチレン含有量が12〜15%の水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(B)は、シャルピー衝撃強度の向上に加えて、組成物の耐傷付き性の向上を図るために添加されるものであり、スチレン含有量が12%未満では、剛性(曲げ弾性率)および表面硬度の低下効果が大となり、15%を超えると耐傷付き性の向上効果が乏しくなる。エラストマー(B)は、組成物中の樹脂分の3〜10%、好ましくは4〜8%の割合で用いられる。3%未満では、耐傷付き性の向上効果が不十分となり、10%を超えるとポリプロピレン系樹脂組成物の持つ優れた流動性、耐薬品性が損なわれるおそれがある。水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(B)としては、JIS K7210にしたがって測定した温度230℃、荷重2.16kgで測定したメルトフロー値(MFR)が4.5〜30g/10分、特に4.5〜6.0g/10分、のものが好ましく用いられる。共重合体エラストマー(B)は、スチレン含有量が12〜15%と低く、ポリブタジエンブロックの水素添加後のポリオレフィン近似構造部分(ポリエチレン・ブチレンブロック)の含有量が増大し、そのポリプロピレン系樹脂組成物中での相溶性および分散性が向上した結果として、分散粒子径は10〜50nm程度と、共重合体エラストマー(A)の平均分散粒子径に比べてかなり小さいのが特徴的である。更には、増大した軟質なポリオレフィン近似構造部分(ポリエチレン・ブチレンブロック)が、硬質のポリスチレンブロックを覆う複合構造ないしある種のミセル構造を形成し、ポリプロピレンマトリクスに対する分散性を向上するとともに全体としてエラスチックで表面ぬめり感を有するポリプロピレン系樹脂組成物を形成しているとも考えられる。したがって、単純にスチレン含有量の低下(すなわちゴム分の増加)で予測されるよりは、耐衝撃性の向上効果は大であるが、単独でポリプロピレン樹脂に添加すると組成物の曲げ弾性率が不足する(後記比較例3参照)が、上記共重合体エラストマー(A)と併用することにより、自動車内装ガーニッシュ部品として適した曲げ弾性率を与えることが可能となる。
【0014】
水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)および(B)の合計量は、組成物中の樹脂(主としてポリプロピレンとの合計量)の10〜25%、特に14〜19%の範囲で用いることが好ましい。得られるポリプロピレン系樹脂組成物の溶融成形性、耐薬品性と耐衝撃性ならびに耐傷付き性の調和が得やすいからである。
【0015】
<<その他成分>>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、上述したポリプロピレン樹脂ならびに水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)および(B)を主たる成分とするものであるが、本発明の目的とする溶融成形性、耐衝撃性および耐傷付き性の調和を損なわない範囲で、他の樹脂、結晶核剤、滑剤、酸化防止剤、難燃剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、分散剤、顔料、帯電防止剤、金属不活性剤等のその他の成分を、添加することが可能である。特に、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の耐衝撃性と耐傷付き性を調和させるために好ましい任意添加剤として、有機結晶核剤と滑剤がある。
【0016】
(有機結晶核剤)
有機結晶核剤は、それ自身が結晶核となることでポリプロピレン結晶を微細化し、得られるポリプロピレン系樹脂組成物の透明性や剛性を向上するために添加するものである。
有機系結晶核剤としては、コハク酸、アジピン酸、安息香酸等の有機酸およびその金属塩、有機リン酸金属塩等が用いられるが、なかでも、曲げ弾性率や硬度などの機械的物性および成形性を向上する機能を有し、臭気等の発生もないナトリウム−2,2'−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、ナトリウム−ビス(4−t−フェニル)ホスフェート、アルミニウムジヒドロキシ−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジーt−ブチルフェニル)ホスフェート、アルミニウムヒドロキシ−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジーt−ブチルフェニル)ホスフェート]などの有機リン酸金属塩が最も好ましく用いられる。
【0017】
有機系結晶核剤は、耐衝撃性の低下抑制の効果と、コスト面を考慮して,上述したポリプロピレン樹脂ならびに水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)および(B)を含む樹脂分100部に対して、0.05〜0.3部添加することが好ましい。0.05部未満では添加効果が乏しく、0.3部を超えて添加しても添加効果が飽和し、却って耐衝撃性の低下を招く。有機結晶核剤は、ポリプロピレン樹脂を含む組成物の溶融成形過程で含ませることもできるが、水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)および(B)との溶融混合に先立って、予めポリプロピレン樹脂と溶融混合しておくことも好ましい。この場合、ポリプロピレン樹脂に対して、0.05〜0.4部、特に0.07〜0.3部、添加することが好ましい。
【0018】
(滑剤)
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物(により得られる成形体)の表面滑りやすさを向上して、間接的に耐傷付き性を向上するために、滑剤を添加することができる。脂肪酸石鹸、金属石鹸、パラフィンワックス、炭化水素油、脂肪族アルコール、低分子量ポリエチレン、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル等が用いられるが、耐衝撃性の低下が小さく、滑剤効果が大きい脂肪酸アミド系滑剤が好ましい。例えばエルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド系滑剤が好ましく、なかでもエルカ酸アミドが最も好ましい。
【0019】
滑剤は、耐傷付き性の向上効果と、耐衝撃性の低下抑制の調和の観点で,ポリプロピレンとスチレン系エラストマーを含む樹脂分100部に対して、0.2〜0.4部添加することが好ましい。0.2部未満では添加効果が乏しく、0.4部を超えて添加しても添加効果が飽和する。
【0020】
また、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を、特に、無塗装の材料着色部品の成形用組成物とするためには、各種顔料等の着色剤を含ませることが必要であり、この場合には、着色樹脂の退色防止のために、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤、ヒンダートアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系UV吸収剤等の紫外線吸収剤ないし光安定剤を添加することも好ましい。但し、タルク等の、着色剤以外の無機フィラーの配合は、着色組成物の色調を阻害する傾向にあるので、含めないことが好ましい。
【0021】
(組成物)
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、上記各成分を、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ニーダー等の混練機を用いて、例えば190〜230℃で、溶融混練し、造粒することにより形成できる。生産性を考慮すると、二軸混練押出機を用いることが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例を参照して、本発明をより具体的に説明する。以下の記載を含めて本明細書に記載する物性値は、以下の方法による測定値に基づく。
1)耐傷付き性
耐傷付き性は、溶融成形後48〜72時間以内のポリプロピレン系樹脂組成物の射出成形片(厚さt=3.0mm;鏡面の平板)について、碁盤目試験後の明度差ΔL*および傷深さを測定して評価した。
【0023】
より具体的には、JIS K5600で規定する自動式クロスカット(碁盤目)試験機(No.551)を用い、先端角度60°、先端曲率半径(R)0.3mmのサファイア製針により、荷重450gをかけて射出成形片を引掻き、碁盤目間隔:1mm、引掻き本数11×11本の碁盤目を形成した際の、碁盤目形成前後の成形片表面の白化による明度差ΔL*(L*の増加値)を、JIS Z8722に準拠する分光測色計(ミノルタ社製「CM2600d」)で測定して評価した。この碁盤目試験での明度差ΔL*が0.5以下であるときは肉眼では確認できない程度の白化に相当し、耐傷付き性が良好であると判定される。また、傷深さは、表面粗さ計(Taylor-Hobson製「50SMC2N-K」)で測定した。傷深さは、2.0μm以下であることが好ましい。
【0024】
2)耐衝撃性
シャルピー衝撃強さ(23℃)を、ISO 179:1993、タイプAノッチISO 179/1eAに準拠して評価した。シャルピー衝撃強さは、10kJ/m以上であることが好ましい。
【0025】
3)曲げ弾性率 ISO178:1993に準拠して測定した。曲げ弾性率は、1400MPa以上であれば、自動車内装ガーニッシュ部品としての適性を有する。
【0026】
4)ロックウェル硬さ:ISO 2039/2-87に準拠(Rスケール)して測定した。ロックウェル硬さは、80以上であることが好ましい。
【0027】
5)透明性:
JISK7105に準拠し、ヘイズコンピューター(スガ試験機(株)製「HZ-2」)を用いて、ヘイズ値を測定した。試料は、板厚t=2mmの射出成形品を用いた。ヘイズ値は、90%を超えると内装ガーニッシュ部品としての使用は好ましくない。
【0028】
上記特性評価に用いる射出成形片は、ポリプロピレン系樹脂組成物を二軸押出機(神戸製鋼(株)製、スクリュー径(D)32mm、長さL/D比=44)を用いて、シリンダー温度200℃、吐出量15kg/hで混練した後、成形温度200℃で射出成形した。なお、耐傷付き性試験用試験片のみは、平均粒子径20μmのアルミニウム光輝材粉を後記するポリプロピレン系樹脂組成物試料に対して、その樹脂分100部当たり1部の割合で添加したものを用いた。
【0029】
6)水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマーの平均分散粒子径
上記特性評価用の射出成形品から、成形時の樹脂の流れ方向に平行な面の超薄切片をウルトラミクロトームで切り出し、四酸化ルテニウムで染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)で10000倍の画像写真を撮った後、この写真上の個々の分散粒子径を(長形+短径)/2として求め、最大径〜最大径/10の範囲内の分散粒子100個についての分散粒子径の算術平均を求め、平均分散粒子径とした。
【0030】
<水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー>
後記実施例および比較例のポリプロピレン系樹脂組成物を形成するために、以下の各種の水添スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)を用いた。
・SEBS(A1):旭化成ケミカルズ(株)製「タフテックH1062」 (スチレン含有量18%、MFR=4.5g/10分、平均分散粒子径=約500nm)
・SEBS(A2):旭化成ケミカルズ(株)製「タフテックH1041」 (スチレン含有量30%、MFR=5.0g/10分、平均分散粒子径=約1000nm)
・SEBS(A3):旭化成ケミカルズ(株)製「タフテックH1051」 (スチレン含有量42%、MFR=0.8g/10分、平均分散粒子径=約1000nm)
・SEBS(B1):旭化成ケミカルズ(株)製「タフテックH1221」 (スチレン含有量12%、MFR=4.5g/10分、平均分散粒子径=約20nm)
・SEBS(B2):JSR(株)製「DYNARON8600P」 (スチレン含有量15%、MFR=30g/10分、平均分散粒子径=約20nm)
・SEBS(C):JSR(株)製「DYNARON9901P」 (スチレン含有量53%、MFR=3.3g/10分)
【0031】
(実施例1)
結晶核剤を約0.1%の割合で含むホモポリプロピレン(以下、h−PPと表記する)((株)プライムポリマー製「J137M」; 曲げ弾性率=2250MPa、シャルピー衝撃強さ(23℃)=1.1kJ/m2、Haze(t=2mm)=58.7 %)85部、上記SEBS(A2)(スチレン含有量:30%)10部、SEBS(B1)(スチレン含有量:12%)5部および滑剤(エルカ酸アミド、日本精化(株)製「ニュートロンS」)0.2部を、ヘンシェルミキサーで混合して、得られた粉粒体混合物を、二軸押出機(神戸製鋼(株)製、スクリュー径(D)32mm、長さL/D比=44)を用いて、シリンダー温度200℃、吐出量15kg/h混練した後、ペレット化し、成形温度200℃で射出成形して、各評価用試験片を得た。
【0032】
別途、上記粉粒体混合物に、更に平均粒子径20μmのアルミニウム光輝材粉を1部添加した後、同様にして溶融混練および射出成形して、耐傷付き性試験用試験片を得た。
【0033】
かくして得られた評価用試験片を用いて、上述の方法により、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さ、ロックウェル硬度、耐傷付き性および透明性(ヘイズ)を評価した。
結果を、下記の実施例、比較例および参考例とともにまとめて、後記表1および2に示す。
【0034】
(実施例2〜7)
ポリプロピレン:h−PP,SEBS(A)およびSEBS(B)の種類あるいは比率を表1に示すように変更した樹脂組成とする以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン系樹脂組成物を形成し評価した。
【0035】
(参考例)
上記実施例のポリプロピレン系樹脂組成物中の樹脂組成の代わりに、市販のAES樹脂(テクノポリマー(株)製「W251」;220℃、荷重10kgでのメルトフロー値(MFR)=9g/10分)を単独で用いる以外は、実施例1と同様にして特性試験片を調製し、評価した。
上記実施例および参考例の評価結果をまとめて末尾の表1に示す。
【0036】
(比較例1〜3)
SEBS(A2)(スチレン含有量:30%)10%およびSEBS(B1)(スチレン含有量:12%)5%の組合せの代わりに、SEBS(A1)(スチレン含有量18%)、SEBS(A2)(スチレン含有量:30%)10%およびSEBS(B1)(スチレン含有量:12%)をそれぞれ15%とした以外は実施例1と同様にして得た3種のポリプロピレン系樹脂組成物を調製し、実施例1と同様に評価した。
【0037】
(比較例4)
SEBS(A2)(スチレン含有量:30%)10%の代わりにSEBS(C)(スチレン含有量:53%)を用いる以外は実施例1と同様にして得た3種のポリプロピレン系樹脂組成物を調製し、実施例1と同様に評価した。
上記比較例の結果を、実施例1および参考例の結果とともに、まとめて末尾の表2に示す。表2に記載した特性中、内層ガーニッシュ部品としての使用に不都合な特性については、「*」を付した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
上記表1および2の結果を見れば、ポリプロピレン樹脂に、スチレン含有量の高いSEBS(A)およびスチレン含有量の低いSEBS(B)を単独で加えた場合は、耐衝撃性(比較例1および2)あるいは曲げ弾性率(比較例3)の点で不満足であるが、両者を併用添加することにより、これら特性のバランスが良好となり、比較的低いヘイズ値で代表される良好な透明性を有し、無塗装着色用に優れた適性を有するポリプロピレン系樹脂組成物が得られる。特に、無塗装着色用に優れた適性を有するが、溶融成形性に難のあったAES樹脂に比べて、本願発明の組成物は、若干低いものの自動車内装ガーニッシュ部品用途には充分な曲げ弾性率を有するとともに、表面硬度(ロックウェル硬度)が若干低いにも拘らず、より良好な耐傷付き性を示し、本来の優れた溶融成形性と相俟って、無塗装着色部品成形用に極めて適したポリプロピレン系樹脂組成物となっている。
このような優れた耐衝撃性、耐傷付き性及ぶ溶融成形性を利用することにより、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、上述したようにインストルメントパネルガーニッシュ、ドアトリムガーニッシュ、シフトガーニッシュなど自動車内装樹脂部品形成用の無塗装樹脂材料として極めて適しているほか、バンパ、トリム等の自動車用無塗装部品の、意匠性と耐傷付き性の調和に適し、更にはこのような特性の調和が望ましい家庭用内装樹脂成形品材料等の用途にも優れた適性を有している。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂75〜90重量%と、スチレン含有量が18〜42重量%の水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)7〜15重量%と、スチレン含有量が12〜15重量%の水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(B)3〜10重量%とを含むポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
マトリクスポリプロピレン樹脂中に、水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)が平均粒子径50〜1500nmで、また水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(B)が平均粒子径10〜50nmで分散されている請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリプロピレン樹脂ならびに水素添加スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマー(A)および(B)を含む樹脂分100重量部に対して有機結晶核剤0.05〜0.4重量部および滑剤0.1〜0.4重量部を含む請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
更に着色剤を含む請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−246366(P2012−246366A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117914(P2011−117914)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】