説明

ポリプロピレン組成物およびその製造方法、未延伸ポリプロピレンシート、二軸延伸ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法

【課題】成形性に優れる上に、得られる未延伸ポリプロピレンシートや二軸延伸ポリプロピレンフィルムの剛性を向上させることができるポリプロピレン組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリプロピレン組成物の製造方法は、ポリプロピレン単独重合体(A)70〜99.5質量%と、ポリプロピレン重合体(B)0.5〜30質量%とを混合する混合工程を有し、ポリプロピレン重合体(B)として、極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返した後に再加熱した際の熱分析による融解曲線が下記(B−i)〜(B−iii)の条件を満たすものを用いる。(B−i)融解ピーク温度が165℃以上である。(B−ii)170℃以上で融解する成分の割合が5%以上である。(B−iii)160℃以下で融解する成分の割合が15%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に二軸延伸ポリプロピレンフィルムを作製する際に使用されるポリプロピレンおよびその製造方法に関する。また、未延伸ポリプロピレンシート、二軸延伸ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸のポリプロピレンフィルムは、包装用途をはじめとして様々な用途に広く使用されている。
ところで、二軸延伸用のポリプロピレンにおいては、二軸延伸の際の生産性の点から、幅広い温度で高い成形性を有することが求められている。しかしながら、ポリプロピレンの種類によっては、延伸温度を低めに設定した際の成形性が悪化することがあった。特に、ポリプロピレン単独重合体を用いた場合には、その傾向が顕著であった。
その問題を解決する方法として、特許文献1に、溶融温度とキシレン可溶分含有量が特定されたプロピレンランダム共重合体を用いて、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを作製することが提案されている。
【0003】
また、真空成形やプレス成形等の熱成形に適用されるポリプロピレンシートとして、特許文献2に、ホモポリプロピレンと、プロピレンにエチレンやα−オレフィンが共重合したコポリマーとを含む組成物からなるシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−517199号公報
【特許文献2】特表2004−516373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは剛性が不充分になることがあった。また、特許文献2に記載のポリプロピレンシートにおいても、剛性が不充分であった。
そこで、本発明は、二軸延伸の際の成形性が改善される上に、得られる二軸延伸ポリプロピレンフィルムの剛性を向上させることができるポリプロピレン組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。また、高い剛性を有する未延伸ポリプロピレンシートおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]ポリプロピレン単独重合体(A)70〜99.5質量%と、ポリプロピレン重合体(B)0.5〜30質量%とを含有し、
ポリプロピレン単独重合体(A)は、25℃にてキシレンに溶解する成分の含有量が5質量%未満であり、
ポリプロピレン重合体(B)は、メルトフローレートが0.5〜10g/10分であり、ポリプロピレン単独重合体(A)よりもメルトフローレートが小さく且つZ平均分子量が大きく、極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返した後に再加熱した際の熱分析による融解曲線が下記(B−i)〜(B−iii)の条件を満たすことを特徴とするポリプロピレン組成物。
(B−i)融解ピーク温度が165℃以上である。
(B−ii)170℃以上で融解する成分の割合が5%以上である。
(B−iii)160℃以下で融解する成分の割合が15%以上である。
[2]ポリプロピレン重合体(B)は、ポリプロピレン単独重合体30〜70質量%およびプロピレンランダム共重合体30〜70質量%からなることを特徴とする[1]に記載のポリプロピレン組成物。
[3]極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返した後に再加熱した際の熱分析による融解曲線が下記(C−i)〜(C−iii)の条件を満たすことを特徴とする[1]または[2]に記載のポリプロピレン組成物。
(C−i)融解ピーク温度が165℃以上である。
(C−ii)170℃以上で融解する成分の割合が40%以上である。
(C−iii)160℃以下で融解する成分の割合が15%以下である。
[4]ポリプロピレン重合体(B)は、2段階以上の重合工程を連続的に有する重合法により得たことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のポリプロピレン組成物。
[5]ポリプロピレン単独重合体(A)70〜99.5質量%と、ポリプロピレン重合体(B)0.5〜30質量%とを混合する混合工程を有し、
ポリプロピレン単独重合体(A)として、25℃にてキシレンに溶解する成分の含有量が5質量%未満のものを用い、
ポリプロピレン重合体(B)として、メルトフローレートが0.5〜10g/10分で、ポリプロピレン単独重合体(A)よりもメルトフローレートが小さく且つZ平均分子量が大きく、極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返した後に再加熱した際の熱分析による融解曲線が下記(B−i)〜(B−iii)の条件を満たすものを用いることを特徴とするポリプロピレン組成物の製造方法。
(B−i)融解ピーク温度が165℃以上である。
(B−ii)170℃以上で融解する成分の割合が5%以上である。
(B−iii)160℃以下で融解する成分の割合が15%以上である。
[6]ポリプロピレン重合体(B)は、ポリプロピレン単独重合体30〜70質量%およびプロピレンランダム共重合体30〜70質量%からなることを特徴とする[5]に記載のポリプロピレン組成物の製造方法。
[7]ポリプロピレン重合体(B)を、2段階以上の重合工程を連続的に有する重合法により得ることを特徴とする[5]または[6]に記載のポリプロピレン組成物の製造方法。
[8]前記混合工程は、ポリプロピレン単独重合体(A)とポリプロピレン重合体(B)とを溶融混練する工程であることを特徴とする[5]〜[7]のいずれかに記載のポリプロピレン組成物の製造方法。
[9]前記混合工程は、ポリプロピレン単独重合体(A)またはポリプロピレン重合体(B)の存在下で他方を重合する工程であることを特徴とする[5]〜[7]のいずれかに記載のポリプロピレン組成物の製造方法。
[10][1]〜[4]のいずれかに記載のポリプロピレン組成物からなる層を有することを特徴とする未延伸ポリプロピレンシート。
[11]β型結晶に由来するX線回折ピークが観察されないことを特徴とする[10]に記載の未延伸ポリプロピレンシート。
[12][1]〜[4]のいずれかに記載のポリプロピレン組成物からなる層を有することを特徴とする二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
[13][10]または[11]に記載の未延伸ポリプロピレンシートを二軸延伸することを特徴とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリプロピレン組成物は、二軸延伸の際の成形性が改善される上に、得られる二軸延伸ポリプロピレンフィルムの剛性を向上させることができる。
本発明のポリプロピレン組成物の製造方法によれば、二軸延伸の際の成形性が改善される上に、得られる二軸延伸ポリプロピレンフィルムの剛性が高くなるポリプロピレン組成物が容易に得られる。
本発明の未延伸ポリプロピレンシートおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、高い剛性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】最終融解曲線を得る際の温度パターンの一例を示すグラフである。
【図2】最終融解曲線の一例である。
【図3】実施例2のポリプロピレン組成物から形成したシートの広角X線散乱プロファイルである。
【図4】比較例3のポリプロピレン組成物から形成したシートの広角X線散乱プロファイルである。
【図5】各実施例および各比較例のポリプロピレン組成物のMFRに対してメルトテンションの値をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(ポリプロピレン組成物)
本発明のポリプロピレン組成物(以下、「ポリプロピレン組成物」と略す。)は、ポリプロピレン単独重合体(A)とポリプロピレン重合体(B)とを含有する。
【0010】
[ポリプロピレン単独重合体(A)]
ポリプロピレン単独重合体(A)は、25℃にてキシレンに溶解する成分(以下、「25℃キシレン可溶成分」という。)の含有量が5質量%未満であり、好ましくは3.0質量%未満であり、特に好ましくは2.0質量%未満である。25℃キシレン可溶成分の含有量が5質量%を超えると、剛性が低くなることがある。
【0011】
ポリプロピレン単独重合体(A)はポリプロピレン重合体(B)よりもメルトフローレート(以下、「MFR」と表記する。)が大きいものである。ポリプロピレン単独重合体(A)のMFRがポリプロピレン重合体(B)よりも小さいと、剛性が不充分になることがある。
ポリプロピレン単独重合体(A)のMFRは、具体的には、0.5〜15g/10分であることが好ましく、1.0〜10g/10分であることがより好ましい。ポリプロピレン単独重合体(A)のMFRが0.5g/10分以上であれば、剛性が充分に高くなり、15g/10分以下であれば、二軸延伸の際の成形性が向上する。
なお、本発明におけるMFRは、JIS K7210に準拠し、温度:230℃、荷重:21.6Nの条件で測定した値である。
【0012】
ポリプロピレン単独重合体(A)の含有量は、ポリプロピレン組成物を100質量%とした際の70〜99.5質量%であり、80〜99質量%であることが好ましく、90〜99質量%であることがより好ましい。ポリプロピレン単独重合体(A)の含有量が70質量%未満であると、剛性が低くなり、99.5質量%を超えると、剛性および成形性の両方が低下する。
【0013】
[ポリプロピレン重合体(B)]
ポリプロピレン重合体(B)は、プロピレン単位を含有する重合体を含む。プロピレン単位を含有する重合体としては、ポリプロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体のいずれか、立体規則性の異なる2種類のポリプロピレン単独重合体の混合物、ポリプロピレン単独重合体とプロピレンランダム共重合体またはプロピレンブロック共重合体との混合物が挙げられる。
中でも、ポリプロピレン重合体(B)としては、剛性および成形性がより高くなることから、ポリプロピレン単独重合体(B−1)30〜70質量%およびプロピレンランダム共重合体(B−2)30〜70質量%からなるものが好ましい。ポリプロピレン単独重合体(B−1)またはプロピレンランダム共重合体(B−2)が30質量%未満または70質量%を超えると、これらの分散性が低下する傾向にある。
【0014】
ポリプロピレン重合体(B)はポリプロピレン単独重合体(A)よりもZ平均分子量が大きい。ポリプロピレン重合体(B)のZ平均分子量がポリプロピレン単独重合体(A)よりも小さいと、二軸延伸フィルムの剛性が不充分になることがある。
ポリプロピレン重合体(B)のZ平均分子量は、具体的には、1.0×10〜5.0×10であることが好ましく、1.2×10〜5.0×10であることがより好ましい。ポリプロピレン重合体(B)のZ平均分子量が1.0×10以上であれば、剛性が充分に高くなり、5.0×10以下であれば、二軸延伸の際の成形性がより高くなる。
ここで、Z平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー)により測定され、以下の式により求められる。
Z平均分子量=Σ(M・M・H)/Σ(M・H
ここで、Mはピーク開始点からi番目における分子量、Hはピーク開始点からi番目におけるベースラインからのピーク高さを意味する。本発明におけるGPC測定では、酸化防止剤を含む1,2,4−トリクロロベンゼンを移動相とし、重合体の試料溶液の溶媒としては移動相と同じものを使用し、1mg/mLの試料濃度で、150℃の温度で振とうさせながら2時間溶解して試料を調整する。これにより得た試料溶液の200μLをカラムに注入し、流速1.0mL/分、温度140℃、データ取り込み間隔1秒で測定する。
【0015】
ポリプロピレン重合体(B)に含まれるポリプロピレン単独重合体(B−1)はZ平均分子量がポリプロピレン重合体(B)のZ平均分子量と同等以上であることが好ましい。具体的には、1.0×10〜20×10であることが好ましく、1.2×10〜20×10であることがより好ましい。ポリプロピレン単独重合体(B−1)のZ平均分子量が1.0×10以上であれば、剛性が充分高くなり、20×10以下であれば、二軸延伸の際の成形性が向上する。
【0016】
プロピレンランダム共重合体(B−2)は、プロピレン単位と、エチレン単位および/または炭素数4〜10のα−オレフィン単位を有する。
プロピレンランダム共重合体(B−2)がエチレン単位を有する場合、エチレン単位の含有量は0.07〜3.39質量%であることが好ましく、0.10〜2.36質量%であることがより好ましい。
プロピレンランダム共重合体(B−2)がα−オレフィン単位を有する場合、α−オレフィン単位の含有量は0.1〜5.0モル%であることが好ましく、0.15〜3.5モル%であることがより好ましい。
上記のようにエチレン単位および/またはα−オレフィン単位を含有するポリプロピレン重合体(B)であると、後述する(B−i)〜(B−iii)の条件を満たすものとなりやすい。
【0017】
ポリプロピレン重合体(B)のMFRはポリプロピレン単独重合体(A)よりもメルトフローレートが小さく、0.5〜10g/10分であり、0.5〜5.0g/10分であることが好ましい。ポリプロピレン重合体(B)のMFRが0.5g/10分未満であると、成形性が不充分になり、10g/分を超えると、剛性が不充分になる。
【0018】
ポリプロピレン重合体(B)は、極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返した後に再加熱した際の融解曲線(以下、この融解曲線のことを「最終融解曲線」という。)が下記(B−i)〜(B−iii)の条件を満たす。
(B−i)融解ピーク温度が165℃以上である。好ましくは、融解ピーク温度が167℃以上、より好ましくは、169℃以上である。なお、融解ピーク温度は、実質的には、186℃以下である。
(B−ii)170℃以上で融解する成分の割合が5%以上である。好ましくは、170℃以上で融解する成分の割合が10%以上、より好ましくは15%以上である。
(B−iii)160℃以下で融解する成分の割合が15%以上である。
ポリプロピレン重合体(B)の融解ピーク温度が165℃未満、170℃以上で融解する成分の割合が5%未満の場合は、剛性が不充分になる。また、160℃以下で融解する成分の割合が15%未満であると、成形性が不充分になる。
【0019】
ここで、最終融解曲線について説明する。
最終融解曲線は、通常の示差熱分析計(DSC)を使用して得る。具体的には、まず、測定試料を、一旦、融解した後、冷却する。次いで、図1に示すように、極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返した後に再加熱し、その再加熱の際の測定試料の熱分析を行って、最終融解曲線を得る。最終融解曲線の熱分析は、通常のDSCと同様の分析であり、簡便である。
図2に、最終融解曲線の一例を示す。この最終融解曲線におけるピーク温度(Tm)を、融解ピーク温度とする。
極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返す熱処理では、測定試料のアニーリングとその後の冷却による結晶化とが高温から順次繰り返される結果、欠陥の少ない分子から順次、結晶を容易に形成することができる。また、冷却時に低温で形成された欠陥の多い分子からなる結晶は、極大加熱温度が充分低くなるまでは、引き続く加熱と極大加熱温度で保持している間に融解する。以下、極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返す熱処理のことを、「反復アニ−リング処理」という。
反復アニーリング処理での加熱・冷却では、例えば、一定の昇温速度でTsまで加熱し、温度を保持した後、一定の降温速度で20℃まで冷却し、次いで、Ts−5[℃](この温度をTsとする。)まで一定の昇温速度で加熱し、温度を保持した後、一定の降温速度で20℃まで冷却する。その後、n回目の加熱の際の極大加熱温度TsがTs−5×(n−1)[℃]になるように加熱・冷却を繰り返す。Tsが80℃になるまで繰り返すと、欠陥の多い成分に対しても信頼性の高い結果が得られる。
また、最終融解曲線を得る際の再加熱では、それぞれの極大加熱温度でのアニーリングとその後の冷却時の結晶化によって得られた結晶全ての融解挙動を得るため、一定の昇温速度で、20℃から200℃以上まで昇温する。高温で結晶化した欠陥の少ない分子からなる結晶は融点が高くなる一方、低温で結晶化した欠陥の多い分子からなる結晶は融点が低いので、最終融解曲線は試料の欠陥の分布を反映する。
【0020】
ポリプロピレン重合体(B)は、特に成形性の点から、2段階以上の重合工程を連続的に有する重合法により得ることが好ましいが、予め重合された2種類のポリプロピレン重合体を溶融混練して製造しても構わない。
重合法によるポリプロピレン重合体(B)の製造では、例えば、少なくとも2段階以上の重合工程を連続的に有する重合法を適用することができる。少なくとも2段階以上の重合工程を連続的に有する重合法では、まず、重合器にプロピレンモノマー、触媒および助触媒、必要に応じて他の添加物等を供給し、プロピレンモノマーを重合させてポリプロピレン単独重合体(B−1)を得る。次いで、ポリプロピレン単独重合体(B−1)を他の重合器に連続的に移送すると共に、プロピレンモノマー、エチレンモノマーおよび/またはα−オレフィンモノマー、触媒および助触媒、必要に応じて他の添加物等を供給し、プロピレンモノマーとエチレンモノマーおよび/またはα−オレフィンモノマーとを共重合させてプロピレンランダム共重合体(B−2)を得る。これにより、ポリプロピレン重合体(B)を得る。
この重合法では、特に1段階目の重合にて形成されたポリマー成分中に分散した触媒により2段階目の重合が行われて重合体が形成されることにより、両段階で得られた重合体がより分子レベルに近い状態で分散する。
また、ポリプロピレン重合体(B)を得る方法として、モノマー濃度や重合条件の勾配を有する重合器を用いて行う方法が挙げられる。このような重合器では、例えば、少なくとも2つの重合領域が接続されたものを使用し、気相重合でモノマーを重合することができる。具体的には、触媒の存在下、上昇管からなる重合領域にてモノマーを供給して重合し、上昇管に接続された下降管にてモノマーを供給して重合し、上昇管と下降管とを循環しながら、ポリマー生成物を回収する。
この方法では、上昇管中に存在する気体混合物が下降管に入るのを全面的または部分的に防止する手段を備える。また、上昇管中に存在する気体混合物とは異なる組成を有する気体および/または液体混合物を下降管中に導入する。
上記の重合方法は、例えば、特表2002−520426号公報に記載された方法を適用することができる。上記重合方法を適用し、プロピレンモノマーのみが存在する重合領域と、プロピレンモノマーに加えてエチレンモノマーおよび/またはα−オレフィンモノマーが存在する重合領域とで、ポリプロピレン単独重合体(B−1)とプロピレンランダム共重合体(B−2)を順次繰り返し、多段階で連続的に重合すると、両者の分散性がさらに向上する。
【0021】
ポリプロピレン重合体(B)の含有量は、ポリプロピレン組成物を100質量%とした際の0.5〜30質量%であり、1.0〜20質量%であることがより好ましく、1.0〜10質量%であることがより好ましい。ポリプロピレン重合体(B)の含有量が0.5質量%未満であると、剛性および成形性の両方が低下し、30質量%を超えると、剛性が低くなる。
【0022】
[他の成分]
ポリプロピレン組成物は、必要に応じて、(A)成分および(B)成分以外に、例えば、酸化防止剤、塩酸吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、内部滑剤、外部滑剤、帯電防止剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、発泡剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物、核剤等の添加剤、無機フィラーあるいは有機フィラーなどが、剛性、成形性を損なわない範囲で含まれてもよい。
【0023】
[ポリプロピレン組成物の最終融解曲線]
ポリプロピレン組成物は、最終融解曲線が下記(C−i)〜(C−iii)の条件を満たすことが好ましい。
(C−i)融解ピーク温度が165℃以上である。好ましくは、融解ピーク温度が167℃以上、より好ましくは169℃以上である。なお、融解ピーク温度は、実質的には、186℃以下である。
(C−ii)170℃以上で融解する成分の割合が40%以上である。好ましくは、170℃以上で融解する成分の割合が45%以上、より好ましくは50%以上である。
(C−iii)160℃以下で融解する成分の割合が15%以下である。好ましくは、160℃以下で融解する成分の割合が10%以下である。
ポリプロピレン組成物の融解ピーク温度が165℃以上であれば、剛性がより高くなる。170℃以上で融解する成分の割合が40%以上であれば、剛性がより高くなる。160℃以下で融解する成分の割合が15%以下であれば、剛性がより高くなる。
なお、ポリプロピレン組成物の最終融解曲線は、ポリプロピレン重合体(B)の最終融解曲線を得るのと同じ方法により得られる。
【0024】
(ポリプロピレン組成物の製造方法)
本発明のポリプロピレン組成物の製造方法は、ポリプロピレン単独重合体(A)70〜99.5質量%と、ポリプロピレン重合体(B)0.5〜30質量%とを混合する混合工程を有する方法である。
混合工程は、溶融混練によりポリプロピレン単独重合体(A)とポリプロピレン重合体(B)とを混合する方法、重合によりポリプロピレン単独重合体(A)とポリプロピレン重合体(B)とを混合する方法のいずれかが採られる。
【0025】
[溶融混練による混合]
溶融混練による混合では、単軸押出機または二軸押出機が使用される。溶融温度は、150〜260℃の範囲で適宜設定される。
また、溶融混練による混合では、あらかじめ、配合量の少ないポリプロピレン重合体(B)を、一部のポリプロピレン単独重合体(A)に混ぜ、ペレット状にしてマスターバッチとし、そのマスターバッチを残りのポリプロピレン単独重合体(A)に混ぜ、溶融混練してもよい。このように混合すると、ポリプロピレン重合体(B)の分散性を向上させることができる。
溶融混練による混合方法を適用することにより、ポリプロピレン単独重合体(A)とポリプロピレン重合体(B)とを簡便に混合させることができる。
【0026】
[重合による混合]
重合による混合では、例えばポリプロピレン単独重合体(A)またはポリプロピレン重合体(B)の存在下で他方を重合する。すなわち、例えば、最初にプロピレンモノマーを重合させてポリプロピレン単独重合体(B−1)を得た後、プロピレンモノマーとエチレンモノマーおよび/またはα−オレフィンモノマーとを共重合させてプロピレンランダム共重合体(B−2)を得る。これにより、ポリプロピレン重合体(B)を得た後、プロピレンモノマーを重合させてポリプロピレン単独重合体(A)を得る。
重合の方法、重合器、重合に使用する触媒としては、公知のものを使用できる。ポリプロピレン重合体(B)は少量でよいので、予重合工程で製造してもよい。
重合による混合方法を適用することにより、ポリプロピレン単独重合体(A)とポリプロピレン重合体(B)とをより分子レベルに近い状態で混合させることができる。
【0027】
[作用効果]
上記のポリプロピレン単独重合体(A)とポリプロピレン重合体(B)を含有するポリプロピレン組成物は、二軸延伸の際の成形性が改善される上に、得られる二軸延伸ポリプロピレンフィルムの剛性を向上させることができる。
さらに、本発明のポリプロピレン組成物は、流動性(MFR)とメルトテンションとのバランスに優れる。そのため、成形性に優れる上に、該組成物から得たシートのドローダウンを防止できる。
【0028】
(未延伸ポリプロピレンシート)
本発明の未延伸ポリプロピレンシートは、上記ポリプロピレン組成物からなる層を有するシートである。
未延伸ポリプロピレンシートは、上記ポリプロピレン組成物の層のみからなってよいし、上記ポリプロピレン組成物からなる層以外のその他の層を有してもよい。
未延伸ポリプロピレンシートが、その他の層を有する場合、その他の層を構成する材料としては特に限定はないが、プロピレンの単独重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、または、これらのいずれかの重合体を主成分とし、ポリプロピレン以外の樹脂を含有する組成物などが挙げられる。
未延伸ポリプロピレンシートの厚みは、例えば、100〜1000μmである。
【0029】
本発明の未延伸ポリプロピレンシートにおいては、β型結晶に由来するX線回折ピークが観察されない、すなわち、β型結晶を含まない又は検出限界以下の含有量であることが好ましい。β型結晶を含まない又は僅かである場合には、透明性に優れる。
β型結晶が含まれる場合には、CuKα線を用いた広角X線散乱において、2θ=16°付近にβ型結晶の(300)反射に基づくピークが観測される。
【0030】
本発明の未延伸ポリプロピレンシートは、上記ポリプロピレン組成物からなる層を有するため、適切に設定した延伸温度では二軸延伸の成形性に優れる上に、高い剛性を有する。なお、本発明の未延伸ポリプロピレンシートは、二軸延伸フィルムの作製に用いずに、そのまま製品として使用することもできる。
【0031】
(二軸延伸ポリプロピレンフィルム)
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、上記未延伸ポリプロピレンシートが二軸延伸されて得られたものである。二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、上記ポリプロピレン組成物の層のみからなってよいし、上記ポリプロピレン組成物からなる層以外のその他の層を有してもよい。
二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、その他の層を有する場合、その他の層を構成する材料としては特に限定はないが、プロピレンの単独重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、または、これらのいずれかの重合体を主成分とし、ポリプロピレン以外の樹脂を含有する組成物などが挙げられる。
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みは、例えば、5〜100μmである。
【0032】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法は、通常、次の工程が採られる。まず、ポリプロピレン組成物を押出機で溶融した後、Tダイよりシート状に押出成形し、これを冷却ロールで冷却固化して未延伸ポリプロピレンシートを得る。次いで、得られた未延伸ポリプロピレンシートを多数の加熱ロールに通して縦方向に延伸する。続いて、予熱部、延伸部および熱処理部から構成された加熱炉に通して横方向に延伸する。その後、必要に応じてコロナ放電処理等を施してから巻き取る。
ポリプロピレンの溶融温度は分子量に応じて適宜選択されるが、通常は押出機中の樹脂温度を230〜290℃に調整する。縦延伸では、通常110〜130℃で4〜6倍で延伸し、横延伸では、通常150〜165℃で8〜10倍延伸する。
【0033】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、上記ポリプロピレン組成物からなる層を有するため、高い剛性を有する。
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、例えば、食品包装、工業材料など、各種分野に幅広く使用される。
【実施例】
【0034】
以下の実施例および比較例では、下記のポリプロピレンを用いた。
・ポリプロピレン単独重合体(A):サンアロマー社製PC600A、25℃キシレン可溶成分の含有量1.8質量%。
・ポリプロピレン単独重合体(A):サンアロマー社製PS200A、25℃キシレン可溶成分の含有量1.4質量%。
・ポリプロピレン単独重合体(A):サンアロマー社製PL400A、25℃キシレン可溶成分の含有量2.2質量%。
・ポリプロピレン単独重合体とプロピレンランダム共重合体とを重合により混合したポリプロピレン重合体(B):試作品、ポリプロピレン単独重合体含有量約50質量%。
・ポリプロピレン単独重合体とプロピレンランダム共重合体とを重合により混合したポリプロピレン重合体(B):試作品、ポリプロピレン単独重合体含有量約50質量%。
・プロピレンランダム共重合体(D):サンアロマー社製PS320M、25℃キシレン可溶成分の含有量3.2質量%。
・プロピレンランダム共重合体(D):サンアロマー社製PC412A、25℃キシレン可溶成分の含有量4.7質量%。
なお、ポリプロピレン重合体(B)およびポリプロピレン重合体(B)は、各々、特表2004−516373号公報および特許文献1(特表2004−517199号公報)に記載された製造方法に従って得た。ポリプロピレン重合体(B)およびポリプロピレン重合体(B)の重合に際し、上昇管のモノマー供給比(エチレンのエチレンとプロピレンの総和に対する割合)を0.003〜0.10モル/モルの範囲で制御し、上昇管と下降管の水素濃度を制御して所定のエチレン含有量とMFRの重合体を得た。その際、ポリプロピレン単独重合体(B−1)のZ平均分子量がプロピレンランダム共重合体(B−2)のZ平均分子量の同等以上になるように、上昇管と下降管の水素濃度を調節した。
表1に、各ポリプロピレンのMFR、エチレン含有量、Z平均分子量、最終融解曲線の分析結果を示す。
【0035】
MFR、エチレン含有量、25℃キシレン可溶成分の含有量、Z平均分子量、最終融解曲線の分析の方法は下記の通りである。
[MFR] JIS K 7210に準拠し、温度:230℃、荷重:21.6Nの条件で測定した。
[エチレン含有量] 1,2,4−トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解したサンプルについて、日本電子社製 JNM LA−400(13C共鳴周波数 100MHz)を用い、13C−NMR法で測定を行った。
[25℃キシレン可溶成分の含有量] サンプル2.5gを250mLのo−キシレンに入れ、還流温度にて30分間溶解を行った。その後、溶液を冷却し、25℃で1時間保持した。次に、溶液をろ過して不溶物を取り除いた後、ろ液を蒸発させ残渣質量から求めた。
【0036】
[Z平均分子量] 装置としてポリマーラボラトリーズ社製PL GPC220を使用し、酸化防止剤を含む1,2,4−トリクロロベンゼンを移動相とし、カラムとしてポリマーラボラトリーズ社製PL gel Olexis Guard1本、PL gel Olexis 2本を直列に接続したものを使用し、検出器として示差屈折率計を使用した。また、重合体の試料溶液の溶媒としては移動相と同じものを使用し、1mg/mLの試料濃度で、150℃の温度で振とうさせながら2時間溶解して測定試料を調整した。これにより得た試料溶液の200μLをカラムに注入し、流速1.0mL/分、温度140℃、データ取り込み間隔1秒で測定した。カラムの較正には、分子量580〜745万のポリスチレン標準試料(shodex STANDARD、昭和電工株式会社製)を使用し、三次式近似で行った。Mark−Houwinkの係数は、ポリスチレン標準試料に関しては、K=1.21×10−4、α=0.707、ポリプロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、およびポリプロピレン重合体に関しては、K=1.37×10−4、α=0.75を使用した。
【0037】
[最終融解曲線の分析]
最終融解曲線の分析は、示差熱分析計(パーキンエルマー社製ダイヤモンドDSC)を用いて行った。
反復アニ−リング処理は、測定試料を、220℃で5分間保持した後、10℃/分で20℃まで冷却し、5分間保持し、次いで、10℃/分で175℃まで加熱した。
次いで、175℃で5分間保持した後、10℃/分で20℃まで冷却し、5分間保持し、10℃/分で170℃まで加熱した。
その後、極大加熱温度が順次5℃ずつ低くなるように加熱と冷却とを繰り返した。その際も昇温速度は10℃/分、最低温度は20℃とした。
極大加熱温度を80℃とし、5分間保持した後、10℃/分で20℃まで冷却し、5分間保持して、反復アニーリング処理を終了した。
次いで、10℃/分で200℃まで再加熱し、その際の最終融解曲線を、通常の示差熱分析と同様に分析した。表1,2にその結果を示す。
170℃以上で融解する成分の割合とは、最終融解曲線から求められる全融解エンタルピーに対し、170℃以上における融解エンタルピーの割合を%で表したものである。一方、160℃以下で融解する成分の割合とは、最終融解曲線から求められる全融解エンタルピーに対し、160℃以下における融解エンタルピーの割合を%で表したものである。いずれの場合も、ベースライン上の融解ピークの全面積に対する部分面積の割合として計算される。
【0038】
【表1】

【0039】
(実施例1)
ポリプロピレン(A)98質量部とポリプロピレン(B)2質量部とを混合し、得られた混合物を、押出機(ナカタニ社製、スクリュー径50mm)を用い、250℃で溶融混練して、ポリプロピレン組成物を得た。
【0040】
(実施例2)
ポリプロピレン(A)の配合量を95質量部、ポリプロピレン(B)の配合量を5質量部にしたこと以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン組成物を得た。
【0041】
(実施例3)
ポリプロピレン(A)の配合量を80質量部、ポリプロピレン(B)の配合量を20質量部にしたこと以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン組成物を得た。
【0042】
(実施例4)
ポリプロピレン(A)の配合量を70質量部、ポリプロピレン(B)の配合量を30質量部にしたこと以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン組成物を得た。
【0043】
(実施例5)
ポリプロピレン(B)の代わりにポリプロピレン(B)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ポリプロピレン組成物を得た。
【0044】
(比較例1)
ポリプロピレン(A)をそのまま用いた。
【0045】
(比較例2)
ポリプロピレン(A)98質量部とポリプロピレン(A)1質量部とポリプロピレン(D)1質量部とを混合し、得られた混合物を、押出機(ナカタニ社製、スクリュー径50mm)を用い、250℃で溶融混練して、ポリプロピレン組成物を得た。
【0046】
(比較例3)
ポリプロピレン(A)80質量部とポリプロピレン(A)20質量部とを混合し、得られた混合物を、押出機(ナカタニ社製、スクリュー径50mm)を用い、250℃で溶融混練して、ポリプロピレン組成物を得た。
【0047】
(比較例4)
ポリプロピレン(B)をそのまま用いた。
【0048】
(比較例5)
ポリプロピレン(D)をそのまま用いた。
【0049】
(比較例6)
ポリプロピレン(A)95質量部とポリプロピレン(B)5質量部とを混合し、得られた混合物を、押出機(ナカタニ社製、スクリュー径50mm)を用い、250℃で溶融混練して、ポリプロピレン組成物を得た。
【0050】
(比較例7)
ポリプロピレン(A)の配合量を60質量部、ポリプロピレン(B)の配合量を40質量部にしたこと以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン組成物を得た。
【0051】
(評価)
得られたポリプロピレン組成物またはその組成物の未延伸シート、二軸延伸フィルムについて、ヤング率、成形性、MFR、メルトテンション、テーバースティフネス、β型結晶の有無、ヘイズを評価した。評価結果を表2に示す。
【0052】
[ヤング率、成形性]
二軸延伸フィルムは次の様にして得た。Tダイ成形機(吉井鉄工社製多層Tダイ成形機、スクリュー径25mm)を使用し、ロール温度30℃(エアーナイフ使用)の条件にて、10cm×10cm、厚み500μmの未延伸シートを得た後、2軸延伸装置(岩本製作所社製小型2軸延伸装置)により、延伸倍率:6倍×6倍、成形温度:155℃、延伸速度:50mm/秒の速度で同時に二方向へ延伸させて、二軸延伸フィルムを得た。
ヤング率は、万能試験機オートコム型試験機AC−5kN−Cを用い、JIS K7127に準拠し、サンプル形状は1号形試験片に準拠したもの(試験片長さ200mm、幅10mm、チャック間距離100mm)とし、引っ張り速度5mm/分の条件にてMD方向(フィルムの長手方向)について23℃にて測定した。ヤング率が高い程、剛性が高いことを意味する。
成形性は、延伸したフィルムの外観を目視により評価した。評価基準は下記の5段階とした。
5:破断せず。得られたフィルムに凹凸が見られない。
4:破断せず。得られたフィルムに僅かに凹凸が見られるが、問題ない程度。
3:破断せず。得られたフィルムに凹凸が見られる。
2:一部破断。
1:引き取り不能。
【0053】
[メルトテンション]
東洋精機製作所製のRCT−50KRAFを用い、シリンダー温度230℃、オリフィスL/D=8.0/2.095mm、ピストン下降速度20mm/分、引取速度6.28m/分の条件で、ポリプロピレン組成物の溶融物を吐出させた際の荷重(gf)を測定した。
【0054】
[MFR]
ポリプロピレン組成物のMFRは、JIS K7210に準拠し、温度:230℃、荷重:21.6Nの条件で測定した。
【0055】
[テーバースティフネス]
上記成形性の評価に使用した厚み500μmの未延伸シートを縦2.75インチ、横1.5インチに打ち抜いて試験片を5個作製した。
各試験片について、テーバーインスツルメントコーポレーション社製V−5スティフネステスター(型式150−B)を用い、成形方向(MD方向)のスティフネスを測定した。その際の測定条件は、測定レンジ:50−500、レンジ重量:500ユニット、反り角度:15°、測定スパン:5cm、スケール倍率:5倍、保持時間3分、測定温度:23℃とした。スティフネスは、各試験片について、左右の反り角度15°における値を読み取り、それらを平均して求めた。
そして、下式により未延伸シートのテーバースティフネスを求めた。
E=9.83×Tsu/t
(E:シートのテーバースティフネス[MPa]、Tsuはスティフネスの平均値[gf・cm]、tは試験片の厚み[mm])
テーバースティフネスの値が大きい程、剛性が高いことを意味する。
【0056】
[β型結晶の有無]
上記ヤング率の測定の際に得た未延伸シートについて、広角X線散乱(リガク社製、RAD−3Rシステム、X線源:Niフィルターで単色化したCuKα線)を測定した。β型結晶を有する場合には、得られたX線回折のプロファイルにおいて、2θ=16°付近にβ型結晶に特有な(300)反射に基づく散乱ピークが見られる。
図3に、β型結晶が見られない例(実施例2)の広角X線散乱プロファイルを示し、図4に、β型結晶が見られた例(比較例3)の広角X線散乱プロファイルを示す。
【0057】
[ヘイズの測定]
未延伸シートについて、JIS K7105に従い、ヘイズ測定装置((株)村上色彩技術研究所製HM−150型)によりヘイズを測定した。ヘイズの値が小さい程、透明性に優れる。
【0058】
【表2】

【0059】
実施例および比較例のポリプロピレン組成物のMFRをX軸とし、メルトテンションをY軸としてプロットしたところ(図5参照)、実施例のポリプロピレン組成物は、比較例のポリプロピレン組成物より右上側に位置する傾向にあった。したがって、同じMFRで比較すると、実施例のポリプロピレン組成物のメルトテンションが高くなっている。このことから、実施例のポリプロピレン組成物は、MFRとメルトテンションとのバランスに優れることがわかった。
実施例1〜5で得たポリプロピレン組成物から得た未延伸シートは剛性が高かった。また、未延伸シートのうち、β型結晶を有さないもの(実施例1〜5、比較例1、4〜7)は透明性に優れていた。
【0060】
実施例1〜5で得たポリプロピレン組成物から得た二軸延伸フィルムはヤング率が高い上に、二軸延伸時の成形性に優れていた。
ポリプロピレン重合体(B)を含有しなかった比較例1のポリプロピレン組成物は、剛性および成形性のランクが低かった。
ポリプロピレン重合体(B)の代わりにポリプロピレン単独重合体およびランダム共重合体を配合した比較例2のポリプロピレン組成物は、成形性のランクが低かった。
ポリプロピレン重合体(B)を含有せず、2種のポリプロピレン単独重合体を用いて得た比較例3のポリプロピレン組成物は、成形性のランクが低かった。
ポリプロピレン(B)をそのまま用いた比較例4は、剛性が低かった。
ポリプロピレン(D)をそのまま用いた比較例5は、剛性が低かった。
ポリプロピレン重合体(B)のMFRがポリプロピレン単独重合体(A)のMFRより高い比較例6は、剛性が低かった。
ポリプロピレン重合体(B)の含有量が40質量%の比較例7は、剛性が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン単独重合体(A)70〜99.5質量%と、ポリプロピレン重合体(B)0.5〜30質量%とを含有し、
ポリプロピレン単独重合体(A)は、25℃にてキシレンに溶解する成分の含有量が5質量%未満であり、
ポリプロピレン重合体(B)は、メルトフローレートが0.5〜10g/10分であり、ポリプロピレン単独重合体(A)よりもメルトフローレートが小さく且つZ平均分子量が大きく、極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返した後に再加熱した際の熱分析による融解曲線が下記(B−i)〜(B−iii)の条件を満たすことを特徴とするポリプロピレン組成物。
(B−i)融解ピーク温度が165℃以上である。
(B−ii)170℃以上で融解する成分の割合が5%以上である。
(B−iii)160℃以下で融解する成分の割合が15%以上である。
【請求項2】
ポリプロピレン重合体(B)は、ポリプロピレン単独重合体30〜70質量%およびプロピレンランダム共重合体30〜70質量%からなることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項3】
極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返した後に再加熱した際の熱分析による融解曲線が下記(C−i)〜(C−iii)の条件を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレン組成物。
(C−i)融解ピーク温度が165℃以上である。
(C−ii)170℃以上で融解する成分の割合が40%以上である。
(C−iii)160℃以下で融解する成分の割合が15%以下である。
【請求項4】
ポリプロピレン重合体(B)は、2段階以上の重合工程を連続的に有する重合法により得たことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン組成物。
【請求項5】
ポリプロピレン単独重合体(A)70〜99.5質量%と、ポリプロピレン重合体(B)0.5〜30質量%とを混合する混合工程を有し、
ポリプロピレン単独重合体(A)として、25℃にてキシレンに溶解する成分の含有量が5質量%未満のものを用い、
ポリプロピレン重合体(B)として、メルトフローレートが0.5〜10g/10分で、ポリプロピレン単独重合体(A)よりもメルトフローレートが小さく且つZ平均分子量が大きく、極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返した後に再加熱した際の熱分析による融解曲線が下記(B−i)〜(B−iii)の条件を満たすものを用いることを特徴とするポリプロピレン組成物の製造方法。
(B−i)融解ピーク温度が165℃以上である。
(B−ii)170℃以上で融解する成分の割合が5%以上である。
(B−iii)160℃以下で融解する成分の割合が15%以上である。
【請求項6】
ポリプロピレン重合体(B)が、ポリプロピレン単独重合体30〜70質量%およびプロピレンランダム共重合体30〜70質量%からなることを特徴とする請求項5に記載のポリプロピレン組成物の製造方法。
【請求項7】
ポリプロピレン重合体(B)を、2段階以上の重合工程を連続的に有する重合法により得ることを特徴とする請求項5または6に記載のポリプロピレン組成物の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程は、ポリプロピレン単独重合体(A)とポリプロピレン重合体(B)とを溶融混練する工程であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のポリプロピレン組成物の製造方法。
【請求項9】
前記混合工程は、ポリプロピレン単独重合体(A)またはポリプロピレン重合体(B)の存在下で他方を重合する工程であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のポリプロピレン組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン組成物からなる層を有することを特徴とする未延伸ポリプロピレンシート。
【請求項11】
β型結晶に由来するX線回折ピークが観察されないことを特徴とする請求項10に記載の未延伸ポリプロピレンシート。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン組成物からなる層を有することを特徴とする二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項13】
請求項10または11に記載の未延伸ポリプロピレンシートを二軸延伸することを特徴とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−184686(P2011−184686A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26315(P2011−26315)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(597021842)サンアロマー株式会社 (27)
【出願人】(506126071)バーゼル・ポリオレフィン・イタリア・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (138)
【Fターム(参考)】