説明

ポリプロピレン繊維製ロープ

【課題】耐熱性、強度に優れ、しかもロープを形成している繊維同士が密に撚り合わさっていて繊維間のバラケがなくて耐伸び性、耐ヘタリ性、形状保持性等に優れるポリプロピレン繊維製のロープ構造体の提供。
【解決手段】7cN/dtex以上の繊維強度と共に、(i)DSCによる吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/gあるDSC特性及び(ii)単繊維繊度が0.1〜3dtexで表面に大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に存在してなる平均間隔が6.5〜20μmで平均高さが0.35〜1μmの凹凸を有するという凹凸特性の一方又は両方を備えるポリプロピレン繊維を用いて形成したロープ構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレン繊維を用いて形成したロープ構造体に関する。
より詳細には、本発明は、耐熱性および強度に優れて、しかもロープ構造体を形成している繊維同士が密に撚り合わさっていて繊維間のバラケがなくて、耐伸び性、耐ヘタリ性および形状保持性に優れるポリプロピレン繊維製のロープ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製ロープには非常に数多くの用途があり、例えば、陸・海運、漁業、農業、工事現場などで広く用いられている。繊維製ロープ用の繊維素材としては天然繊維および合成繊維の両方が用いられているが、近年、合成繊維製のロープが主流を占めており、合成繊維製ロープとしては、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維などから形成したロープが挙げられる。そのうち、ポリプロピレン繊維製のロープは、耐薬品性、軽量性に優れ、容易に溶融できてリサイクル性に優れ、しかも焼却してもハロゲンガスなどの有害ガスを発生しないという長所を有しており、従来からもポリプロピレン繊維を用いたロープについての提案や、ロープに用いるポリプロピレン繊維の製造方法などについての提案が色々なされている(例えば引用文献1および2を参照)。
しかしながら、ポリプロピレン繊維は、合成繊維の中では耐熱性が十分に高いとはいえないため、ポリプロピレン繊維を用いて形成したロープは、高温に晒されると、また摩擦や擦過時の摩擦熱によって、ロープを形成しているポリプロピレン繊維の溶融、それに伴うロープの溶断などが生じて、強度などの物性低下が生じ易く、また高温下でのロープの伸びが大きく、耐熱性の向上が求められている。
【0003】
ポリプロピレン繊維の耐熱性の向上を目的とした従来技術としては、アイソタクチックペンタッド分率が96%以上98.5%未満で、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1〜30g/10分であるホモポリプロピレン樹脂を溶融成形後に延伸して製造した、170℃、10分間における熱収縮率が10%以下で、融解ピーク温度が178℃以上であるポリプロピレン繊維が知られている(特許文献3を参照)。
しかしながら、このポリプロピレン繊維は、吸熱ピーク形状がブロードなダブル形状またはブロードなシングル形状であって、結晶が不均一であり、耐熱性が未だ十分に高くない。そのため、このポリプロピレン繊維を用いてロープを形成しても、摩擦熱などによって溶断や物性低下が生じ易く、高温下での伸びが大きくなり易い。
【0004】
また、他の合成繊維製ロープと同様に、ポリプロピレン繊維製のロープにおいても、撚り合わせた際に、繊維同士および繊維束(ストランド)間に滑りがなく、繊維同士および繊維束(ストランド)同士が噛み合って撚り合わせが強く且つ緊密に行われることが、ロープを形成する繊維間やストランド間のバラケの防止、強度、耐伸び性、耐ヘタリ性、形状保持性の向上の点から重要である。
しかしながら、従来のポリプロピレン繊維製ロープでは、ポリプロピレン繊維間の滑りやポリプロピレン繊維束(ストランド)間の滑りが大きくて、撚り合わせが十分に強く且つ緊密に行われにくいものであった。
【0005】
ポリプロピレン繊維間の滑りやポリプロピレン繊維束(ストランド)間の滑りを低減するための方法としては、ポリプロピレン繊維の表面に凹凸を設けたり、ポリプロピレン繊維表面を粗面化することが考えられる。しかしながら、従来知られている表面に凹凸を形成したポリプロピレン繊維や、表面を粗面化したポリプロピレン繊維では、その凹凸(粗面化)が不十分であったり、凹凸の形成に制約があり、当該ポリプロピレン繊維を用いてロープを形成しても、ポリプロピレン繊維(ポリプロピレン糸、ストランド)の撚り合わせが緊密に且つ強固に行われにくく、強度、耐伸び性、耐ヘタリ性、形状保持性などに優れるポリプロピレン繊維製ロープが得られない。
【0006】
例えば、ポリプロピレン繊維に電離性放射線を照射して表面に凹凸を形成させた水硬性物質用の補強繊維(特許文献4を参照)、溶融紡糸したポリプロピレン繊維にエンボス加工および延伸処理を施して表面に凹凸を形成したセメント配合用のポリプロピレン繊維(特許文献5を参照)、押出機により溶融押し出ししたポリプロピレン繊維の引き取り速度を変化させて凹凸を付与した後に延伸処理を施して製造した表面に凹凸を有するセメント配合用のポリプロピレン繊維(引用文献6を参照)などが知られているが、水硬性物質(セメント)配合用のこれらのポリプロピレン繊維をロープの製造に転用しても、力学的特性、耐ヘタリ性、形状保持性などに優れるポリプロピレン繊維製ロープは得られない。
具体的には、特許文献4〜6、そのうちでも特許文献4に記載されている凹凸の形成方法によって得られるポリプロピレン繊維(特に単繊維繊度が10dtex以下の細繊度ポリプロピレン繊維)では損傷の発生が著しく、そのため当該ポリプロピレン繊維を用いてロープを形成しても、強度に優れるポリプロピレン繊維製ロープは得られない。
【0007】
さらに、ポリプロピレン未延伸糸を、熱風槽で125〜155℃で延伸して製造した、9cN/dtex以上の単糸強度を有し、繊維表面の曲面に添って筋状の粗面構造を有するコンクリート補強用のポリプロピレン繊維が知られているが(特許文献7)、このポリプロピレン繊維では繊維表面に存在する筋状の粗面構造の間隔および高さが共に小さいため、繊維間の滑り防止効果が不十分であり、ロープの製造に転用しても、撚り合わせが緊密に且つ強固に行われず、力学的特性、耐ヘタリ性、耐バラケ性、形状保持性などに優れるロープは得られない。
また、ポリプロピレン未延伸糸を3.0〜5.0kg/cm2(温度133〜151℃)の加圧飽和水蒸気により1段で延伸して、光学的に明部と暗部を有する延伸糸を製造する方法が提案されているが(特許文献8)、この方法により得られるポリプロピレン延伸糸(ポリプロピレン繊維)は、繊維表面における凹凸の形成が不十分で、凹凸の間隔および高さが小さいため、やはり繊維間の滑り防止効果が不十分であり、ロープの製造に用いたとしても、撚り合わせが密に且つ強固に行われず、力学的特性、耐ヘタリ性、耐バラケ性、形状保持性などに優れるロープは得られない。
【0008】
【特許文献1】特開平7−90785号公報
【特許文献2】特開2002−20926号公報
【特許文献3】特開2002−302825号公報
【特許文献4】特公昭61−26510号公報
【特許文献5】特開昭56−9268号公報
【特許文献6】特公昭61−301号公報
【特許文献7】特開2003−293216号公報
【特許文献8】特許第3130288号公報
【非特許文献1】「Macromolecules」、第6巻、1973年、p925
【非特許文献2】「Macromolecules」、第8巻、1975年、p687
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、強度が大きく、しかも耐熱性に優れていて、高温に曝されても、また摩擦や擦過を受けてもロープを形成しているポリプロピレン繊維の溶融、溶断、物性低下がなく、それによってロープの切断や高温下でのロープの伸びが生じにくく、その上ロープを形成している繊維間や繊維束(ストランド)間の滑りが小さくて繊維同士および繊維束(ストランド)同士が緊密に強く撚り合わさっていて、強度、耐伸び性、耐ヘタリ性、形状保持性などに優れるポリプロピレン繊維製のロープ構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記した目的を達成するために鋭意検討を重ねてきた。そして、特定以上のアイソタクチックペンタッド分率(IPF)を有するポリプロピレンを用いて溶融紡糸した後に冷却固化してポリプロピレン未延伸繊維を製造し、それにより得られるポリプロピレン未延伸繊維を特定の条件下で前延伸および後延伸することで、走査示差熱量測定(DSC)において特定の吸熱・融解特性を示し、均一な結晶構造を有していて、耐熱性に優れ、しかも強度にも優れる、従来にないポリプロピレン繊維を得ることができた。
さらに、本発明者は、前記した特定の方法を採用して単繊維繊度が3dtex以下、特に0.1〜3dtexのポリプロピレン繊維を製造することで、繊維表面に、大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に存在した所定の平均間隔および平均高さの凹凸を有していて耐滑り性に優れ、しかも強度に優れるポリプロピレン繊維を得ることができた。しかもその際に、当該ポリプロピレン繊維における走査示差熱量測定(DSC)による吸熱・融解特性を特定のものにすることで、結晶構造が均一であり且つ耐滑り性および高強度であると共に耐熱性にも優れるポリプロピレン繊維を得ることができた。
【0011】
そこで、本発明者は、上記で得られたポリプロピレン繊維を用いてロープを製造することを試みた。その結果、上記で得られたポリプロピレン繊維を用いてロープを形成すると、強度が大きく、しかも耐熱性に優れていて、高温に曝されても、更に摩擦や擦過を受けても、ロープを形成しているポリプロピレン繊維の溶融、溶断、物性低下などが生じにくく、それによってロープの切断が生じにくいこと、高温下でのロープの伸びが小さいこと、その上ロープを形成している繊維間や繊維束(ストランド)間の滑りが小さくて繊維同士および繊維束(ストランド)同士が緊密に強く撚り合わせられて、強度、耐伸び性、耐ヘタリ性、形状保持性などに優れるロープが得られることを見出して本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1) アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が94%以上のポリプロピレンよりなる、繊維強度が7cN/dtex以上であり、且つ走査示差熱量測定(DSC)による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であるポリプロピレン繊維を用いて形成したロープ構造体;
(2) アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が94%以上のポリプロピレンよりなる、繊維強度が7cN/dtex以上であり、且つ単繊維繊度が0.1〜3dtexで、表面に大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に存在してなる平均間隔が6.5〜20μmで平均高さが0.35〜1μmの凹凸を有するポリプロピレン繊維を用いて形成したロープ構造体;および、
(3) アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が94%以上のポリプロピレンよりなる、繊維強度が7cN/dtex以上であり、単繊維繊度が0.1〜3dtexで、走査示差熱量測定(DSC)による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であり、表面に大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に存在してなる平均間隔が6.5〜20μmで平均高さが0.35〜1μmの凹凸を有するポリプロピレン繊維を用いて形成したロープ構造体;
である。
【発明の効果】
【0013】
アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が94%以上のポリプロピレンからなる、本発明のロープ構造体を形成しているポリプロピレン繊維は、走査示差熱量測定(DSC)における吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、その融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であるという特有のDSC特性を備えているために、結晶性が高く、均一な結晶構造を有し、耐熱性に極めて優れており、高温に曝されても簡単に融解せずに、繊維形状および繊維強度を良好に維持することができる。そのため、当該ポリプロピレン繊維を用いて形成した本発明のロープ構造体は、強度が高く、しかも耐熱性に優れていて、高温に曝されても、また摩擦や擦過を受けても、ロープ構造体を形成しているポリプロピレン繊維の溶融、切断、溶断、物性低下がないため、ロープ構造体の切断や破損が生じにくく、高温下での伸びが小さく、強度などの力学的特性を長期にわたって維持することができ、耐久性にも優れている。
【0014】
さらに、本発明のロープ構造体は、7cN/dtex以上の高い繊維強度を有し、しかも繊維の表面に大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に位置してなる平均間隔が6.5〜20μmで平均高さが0.35〜1μmの特定の凹凸を有するポリプロピレン繊維を用いて形成されていて、当該ポリプロピレン繊維は前記した特定の凹凸を有することによって滑りがなく、ポリプロピレン繊維間の噛合やポリプロピレン繊維束(ストランド)間の噛合がなされた状態で繊維同士および繊維束(ストランド)同士が緊密に強く撚り合わせられているため、強度、耐伸び性、耐ヘタリ性、形状保持性などに優れている。
特に、単繊維繊度が0.1〜3dtex、繊維強度が7cN/dtex以上、走査示差熱量測定(DSC)による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であり、且つ表面に前記した特定の凹凸特性を兼ね備える、高耐熱性、高強度で且つ低滑り性のポリプロピレン繊維を用いて形成した本発明のロープ構造体は、強度が高く、耐熱性に優れており、しかもロープ構造体を形成している繊維同士および繊維束(ストランド)同士が緊密に強く撚り合わさっていて、強度、耐伸び性、耐ヘタリ性、形状保持性などに一層優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のロープ構造体は、特定のポリプロピレン繊維を用いて形成されている。
ここで、本発明の「ロープ構造体」とは、繊維束(ストランド)、糸(ヤーン)および/または繊維を用いて、それらを撚り合わせることによって形成されているロープ、ケーブル、コード、紐などの総称である。
【0016】
本発明のロープ構造体を形成しているポリプロピレン繊維は、アイソタクチックペンタッド分率(IPF)(以下単に「IPF」ということがある)が94%以上のポリプロピレンよりなるポリプロピレン繊維であり、IPFが95〜99%のポリプロピレンからなっていることが好ましく、IPFが96〜99%のポリプロピレンからなることがより好ましい。
ポリプロピレンのIPFが94%未満であると、ポリプロピレン繊維に均一な結晶構造を形成されにくくなって、十分な強度および耐熱性を有する、本発明のロープ構造体に用いるポリプロピレン繊維が得られなくなる。一方、IPFが99%を超えるポリプロピレンは工業的には量産が困難であるため、コスト面などから実用性が低い。
【0017】
本発明のロープ構造体を形成しているポリプロピレン繊維は、ポリプロピレンとして、IPFが前記した値を満たすものであれば、1種類のプロピレン単独重合体から形成されていてもよいし、またはプロピレンと他の共重合性単量体からなるプロピレン共重合体から形成されていてもよい。或いは、混合物全体でのIPFが前記した値を満たすものであれば、2種類以上のプロピレン単独重合体の混合物、1種または2種以上のプロピレン単独重合体と1種または2種以上のプロピレン共重合体の混合物、または2種類以上のプロピレン共重合体の混合物から形成されていてもよい。
また、本発明のロープ構造体を形成しているポリプロピレン繊維は、ポリプロピレン繊維を構成するプロピレン系重合体全体でのIPFが前記した値を満たすものであれば、2種類以上のプロピレン単独重合体および/またはプロピレン共重合体を用いて形成された、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型などの複合形態または混合形態を有する複合紡糸繊維または混合紡糸繊維などであってもよい。
【0018】
ポリプロピレンにおけるIPFは、その立体規則性を表わす指標であり、ポリプロピレンを繊維化した際の結晶性に影響を及ぼす。一般には、IPFが高いポリプロピレンほど立体規則性が高い。ポリプロピレンにおけるIPFは、13C−NMRのシグナルから求めることができ、本明細書におけるポリプロピレンのIPF値は、以下の実施例に記載する方法で求めた値をいう。
【0019】
ポリプロピレン繊維を製造する際の溶融紡糸性、延伸性などが良好になり、さらに本発明で用いる上記した特定の物性を備えるポリプロピレン繊維が円滑に得られる点から、本発明で用いるポリプロピレン繊維は、JIS K 7210に従って温度230℃、荷重2.16kg、時間10分の条件で測定したときのメルトフローレート(MFR)が5〜70g、更には10〜50g、特に15〜40gのポリプロピレンから形成されていることが好ましい。
【0020】
本発明のロープ構造体を形成しているポリプロピレン繊維は7cN/dtex以上の繊維強度を有しており、9〜13cN/dtexの繊維強度を有することが好ましい。
ここで、本明細書におけるポリプロピレン繊維の繊維強度(単繊維繊度強度)は、以下の実施例に記載した方法で測定した繊維強度をいう。
本発明のロープ構造体は、前記した繊維強度を有するポリプロピレン繊維を用いて形成されていることにより、高い強度を有する。繊維強度が前記よりも小さいポリプロピレン繊維を用いてロープ構造体を形成した場合には、ロープ構造体の強度が不足することがある。一方、繊維強度が13cN/dtexを超えるポリプロピレン繊維は、その製造に当たって、量産性の低い条件を採用する必要があるため、実用面で難がある。
【0021】
本発明のロープ構造体を形成しているポリプロピレン繊維のうち、上記した7cN/dtex以上の繊維強度と共に、『走査示差熱量測定(DSC)(以下単に「DSC測定」ということがある)による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上である』という特定のDSC特性を備えているポリプロピレン繊維は、かかる特性を備えていることによって、耐熱性に優れている。
DSC測定による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有する幅の狭い(シャープな)シングル形状をなしていて且つ融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であるポリプロピレン繊維を用いて本発明のロープ構造体を形成すると、ポリプロピレン繊維が耐熱性に優れていることにより、高温に曝されても溶断や物性低下が生じにくく、また摩擦や擦過を受けても摩擦熱によるポリプロピレン繊維の溶断や損傷、それに伴うロープ構造体の切断や損傷の生じににくい、丈夫で耐久性に優れるロープ構造体が得られる。
ここで、本発明におけるDSC測定による前記した「吸熱ピーク形状」および「融解エンタルピー変化量(△H)」は、以下の実施例に記載する方法で行ったDSC測定による吸熱ピーク形状および融解エンタルピー変化量(△H)をいう。
【0022】
アイソタクチックポリプロピレン繊維のDSC測定において、160℃以上で観察される吸熱ピークは一般にα晶の融解に由来する。吸熱ピークの温度が160℃以上、場合によっては175℃以上であるポリプロピレン繊維は、従来から知られているが(特許文献8を参照)、そのような従来のポリプロピレン繊維では結晶化が未だ十分に行われていないため、その吸熱ピークの形状はダブルピーク形状であったり、幅の広い(ブロードな)シングルピーク形状であり、その結晶構造は全体として均一性に欠ける。
それに対して、本発明のロープ構造体を形成している「DSC測定による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上である」というDSC特性を備えているポリプロピレン繊維は、DSC測定による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有する幅の狭い(シャープな)シングル形状をなしていて、且つ融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であることにより、結晶性が高く、均一な結晶構造をなしており、耐熱性に優れている。
【0023】
ここで、本明細書でいう「DSC測定による吸熱ピーク形状」と「半価幅」について説明する。
まず、図1は、ポリプロピレン繊維におけるDSC測定による吸熱ピーク形状を模式的に示した図である。
図1において、(a)は、唯一の吸熱ピーク(シングルピーク)を有し、当該シングルピークはシャープでしかも大きなピークをなし、大きな融解エンタルピー変化量(△H)を有する本発明に含まれる本発明のポリプロピレン繊維の吸熱ピーク曲線の代表例を示したものである。
一方、図1において、(b)は従来のポリプロピレン繊維の吸熱ピーク曲線の一例であって、2つの吸熱ピーク(ダブルピーク)を有し、ピークの幅(半価幅)は大きく、融解エンタルピー変化量(△H)は小さい。
また、図1において、(c)は従来のポリプロピレン繊維の吸熱ピーク曲線の他の例であり、吸熱ピークは1個(シングルピーク)ではあるが、融解エンタルピー変化量(△H)は小さい。
次に、図2は、DSC曲線にピーク形状がシングルピークである場合を例に挙げて、本発明で用いるポリプロピレン繊維のDSC測定による吸熱ピークにおける半価幅の求め方を示した図である。
図2において、吸熱ピーク(シングルピーク)の頂点Xから温度軸に下ろした垂線と、吸熱ピークのベースラインとの交点をYとしたときに、線分X−Yを二等分する点をMとし、Mを通り温度軸に平行な直線と吸熱曲線との交点をそれぞれN1およびN2としたときに、線分N1−N2の長さ(温度幅)が本明細書でいう「半価幅(℃)」に相当する。
【0024】
ポリプロピレン繊維の吸熱ピーク曲線が、図1の(b)に示すように2つの吸熱ピークを有するダブルピークである場合や、3つ以上の吸熱ピークを有する場合は、最も高い吸熱ピークの頂点をXとし、当該頂点Xから温度軸に下ろした垂線と、吸熱ピークのベースラインとの交点をYとし、線分X−Yを二等分する点をMとし、Mを通り温度軸に平行な直線と吸熱曲線との交点のうち、温度の最も低い交点をN1とし、温度の最も高い交点をN2としたときに、線分N1−N2の長さ(温度幅)が本明細書でいう「半価幅(℃)」に相当する。この場合には、半価幅(℃)は一般に広いものとなる。
そして、吸熱ピーク曲線において、吸熱ピークのベースライン(図2を参照)と、当該ベースラインよりも上の吸熱ピーク曲線によって包囲される部分の面積が、本明細書における「融解エンタルピー変化量(△H)」に相当する。
【0025】
ポリプロピレン繊維における結晶形成が不十分であると、DSC測定時の結晶の再配列などによって吸熱ピークや発熱ピークが新たに発現して複雑なDSC曲線になる場合がある。さらに、ポリプロピレン繊維における結晶形成が不十分であると、DSC測定時の昇温速度の違いによって、同じ試料であっても、吸熱ピークや発熱ピークの発現や消失が生じて吸熱ピーク曲線が変化することがある。
それに対して、本発明のロープ構造体の形成に用いるポリプロピレン繊維のうち、「DSC測定による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上である」というDSC特性を備えているポリプロピレン繊維は、当該DSC特性を備えていることによって、DSC測定時の昇温速度1〜50℃/分の範囲では、昇温速度が異なっても、その吸熱ピーク曲線は1個の吸熱ピークのみを有する、シャープで大きなシングルピーク形状をなし、高い融解エンタルピー変化量(△H)を有している。そのことは、本発明のロープ構造体の形成に用いるポリプロピレン繊維のうち、前記したDSC特性を有するポリプロピレン繊維が、均一で高い結晶性を有し、その結果として、高い耐熱性を備えていることを裏付けている。
【0026】
ポリプロピレン繊維の融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g未満であると、耐熱性が不十分になることがある。
但し、「DSC測定による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上である」という要件を備えていないポリプロピレン繊維であっても、「IPFが94%以上のポリプロピレンよりなる、単繊維繊度が0.1〜3dtexおよび繊維強度が7cN/dtex以上で、表面に大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に存在してなる平均間隔が6.5〜20μmで平均高さが0.35〜1μmの凹凸を有する」という特性を備えるポリプロピレン繊維を用いてロープ構造体を形成した場合には、ポリプロピレン繊維が前記した特定の凹凸を繊維表面に有していることにより、繊維間や繊維束(ストランド)間の滑りが小さくて繊維同士および繊維束(ストランド)同士が緊密に強く撚り合わされたロープ構造体が形成されるため、引張強度、耐伸び性、耐ヘタリ性、形状保持性などに優れるロープを得ることができる。
【0027】
ポリプロピレン繊維の融解エンタルピー変化量(△H)が高いほど、耐熱性が高くなるが、165J/gを超えるポリプロピレン繊維は、製造速度を大幅に低下しないと製造が困難であり、またIPFが100%に近いポリプロピレンを用いて製造することが必要であるため、工業的には実効性が低い。
かかる点から、本発明のロープ構造体を形成しているポリプロピレン繊維は、融解エンタルピー変化量(△H)が125〜165J/gであることが好ましく、130〜165J/gであることがより好ましく、135〜165J/gであることが更に好ましく、140〜165J/gであることが一層好ましい。
【0028】
本発明のロープ構造体を形成しているポリプロピレン繊維の繊度(単繊維繊度)は特に制限されないが、ポリプロピレン繊維を製造する際の製造の容易性(特に延伸のし易さ)、ロープへの適用性、耐久性などの点から、ポリプロピレン繊維の繊度(単繊維繊度)は、一般的に0.01〜500dtexであることが好ましく、0.05〜50dtexであることがより好ましく、0.1〜5dtexであることが更に好ましい。
ポリプロピレン繊維の繊度(単繊維繊度)が小さ過ぎると、ロープ構造体を形成する際に又ロープ構造体を形成した後に、ポリプロピレン繊維の溶融、断糸などが生じてロープ構造体の強度が低下することがあり、一方大きすぎると、ポリプロピレン繊維を得るための延伸物性が低下して、高強度で、高度に結晶化したポリプロピレン繊維が得られないことがある。
【0029】
本発明は、7cN/dtex以上の繊維強度と共に、または7cN/dtex以上の繊維強度および本発明で規定する上記したDSC特性[DSC測定による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であるという特性]と共に、「単繊維繊度が0.1〜3dtexで、表面に大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に存在してなる平均間隔が6.5〜20μmで平均高さが0.35〜1μmの凹凸を有する」という特性を有するポリプロピレン繊維を用いて形成したロープ構造体を包含する。
7cN/dtex以上の繊維強度と共に、または7cN/dtex以上の繊維強度および前記した特定のDSC特性と共に、前記した特定の凹凸特性を有するポリプロピレン繊維を用いる場合は、当該凹凸特性を有するポリプロピレン繊維を円滑に製造するために、ポリプロピレン繊維の単繊維繊度は0.1〜3dtexであることが好ましく、0.2〜2.5dtexであることがより好ましく、0.3〜2.4dtexであることが更に好ましい。
【0030】
ここで、本明細書における「ポリプロピレン繊維が、表面に、大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に位置してなる凹凸を有する」とは、図3の模式図に示すように、ポリプロピレン繊維が長さ方向に沿って均一の径を有しておらず、径の大きな隆起部(凸部)(図3におけるA1,A2,A3,A4,・・・・)と、それよりも径の小さな非隆起部(凹部)(図3におけるB1,B2,B3,B4,・・・・)が、繊維軸(繊維の長さ方向)に沿って交互に形成されていて、繊維表面が凹凸をなしていること意味する。
そして、本明細書における前記「平均間隔」とは、繊維軸に沿って形成された多数の凹凸(隆起部と非隆起部)のうち、隣り合う2つの隆起部(凸部)の間の間隔(距離)(図3におけるA1−A2,A2−A3,A3−A4,・・・の長さ)の平均値を意味する。
また、前記「平均高さ」は、繊維軸に沿って形成された多数の凹凸(隆起部と非隆起部)のうち、隣り合う2つの非隆起部(凹部)の最小径部分を結ぶ仮想直線(図3におけるB1とB2を結ぶ直線,B2とB3を結ぶ直線,B3とB4を結ぶ直線,・・・)への、当該隣り合う2つの非隆起部(凹部)の間にある隆起部(凸部)の頂点からの垂線の長さ(図3におけるh1,h2,h3,h4,・・・)の平均値を意味する。
ポリプロピレン繊維の繊維軸に沿って形成された前記凹凸の平均間隔および平均高さは、ポリプロピレン繊維を走査型電子顕微鏡などを用いて撮影した写真から求めることができ、本明細書における凹凸の前記平均間隔および平均高さは以下の実施例に記載する方法で求められる値をいう。
【0031】
前記した凹凸特性を有するポリプロピレン繊維において、ポリプロピレン繊維の繊度が0.1dtexよりも小さいと、量産性を維持するために紡糸孔数の極めて多い口金を用いて紡糸することになり、それに伴って口金での紡糸孔の間隔を十分に確保するために紡糸装置の規模を大きくするなどの大幅な設備の改良が必要になり、しかも繊度が小さいために延伸工程で断糸トラブルや毛羽が発生し易くなる。一方、ポリプロピレン繊維の繊度が3dtexを超えると、繊維の外周に上記した特定の凹凸を発現させにくくなり、また繊維の比表面積が小さくなるため十分な保水性を確保できなくなり、更に延伸性が低下して十分な繊維強度が得られにくくなる。
前記した特定の凹凸特性を有するポリプロピレン繊維では、その繊度(単繊維繊度)は、0.2〜2.5dtexであることが好ましく、0.3〜2.4dtexであることがより好ましい。
【0032】
ポリプロピレン繊維として前記した凹凸特性を有するポリプロピレン繊維を用いた場合には、ポリプロピレン繊維の表面に、平均間隔が6.5〜20μmで平均高さが0.35〜1μmである前記した凹凸を繊維軸に沿って有していることにより、当該繊維表面での滑りが低減し、その一方で前記した凹凸による噛合作用が発揮されるために、当該ポリプロピレン繊維を用いてロープ構造体を形成したときに、ロープ構造体を形成している繊維間および/または繊維束(ストランド)間の噛合作用によって緊密で強固な撚り合わせが行われて、引張強度、耐伸び性、耐ヘタリ性、形状保持性などに優れるロープが得られる。表面に凹凸を有するポリプロピレン繊維において、前記した凹凸の平均間隔が6.5μm未満であると、および/または平均高さが0.35μm未満であると、繊維表面の凹凸が微細になり過ぎて、凹凸による噛合作用が低下する。一方、凹凸の平均間隔が20μmを超えるか、および/または平均高さが1μmを超えるポリプロピレン繊維は、ポリプロピレン繊維の製造速度を大幅に低下しないと製造できず、またIPFが100%に近いポリプロピレンを使用する必要があるため、実用性に乏しい。
本発明のロープ構造体を前記した凹凸特性を有するポリプロピレン繊維を用いて形成する場合には、繊維軸方向に沿って形成された凹凸の平均間隔が6.6〜20μm、特に6.8〜20μmで、平均高さが0.40〜1μm、特に0.45〜1μmであるポリプロピレン繊維を用いることが好ましい。
【0033】
本発明のロープ構造体の形成に用いるポリプロピレン繊維の形状(横断面形状)は特に制限されず、中実の円形断面形状であってもよいし、それ以外の異形断面形状であってもいずれでもよい。繊維の横断面が異形断面形状である場合の具体例としては、偏平形、十字形、Y字形、T字形、V字形、星形、多葉形、アレイ形、中空形などを挙げることができる。
【0034】
本発明の目的を妨げない範囲で、本発明のロープ構造体を形成するポリプロピレン繊維は、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、充填剤、帯電防止剤などの1種または2種以上を含有していてもよい。ポリプロピレン繊維は比重が一般に水よりも小さく、そのままでは水に浮くため、ロープ構造体の用途などに応じて、必要であれば、ポリプロピレン繊維中に、浮遊防止のために、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、メタクリル酸カリウムなどを含有させて比重を適宜調整することができる。
本発明のロープ構造体を形成するポリプロピレン繊維は、表面処理を施してなくてもよいし、またはロープ構造単位の用途などに応じて、適当な表面処理剤で表面処理してあってもよい。
【0035】
本発明のロープ構造体は、長繊維状のポリプロピレン繊維(フィラメント)から形成されていてもよいし、またはポリプロピレン短繊維を用いて製造した紡績糸から形成されていてもよいが、ロープ構造体の製造容易性、ロープ構造体の強度などの点から、長繊維状のポリプロピレン繊維から形成されていることが好ましい。
【0036】
本発明のロープ構造体の形成に用いるポリプロピレン繊維の製法は特に制限されず、繊維強度が7cN/dtex以上であると共に上記したDSC特性[DSC測定による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であるという特性]を備えるポリプロピレン繊維、前記した繊維強度と共に、前記したDSC特性および上記した単繊維繊度と凹凸特性(単繊維繊度が0.1〜3dtexおよび表面に大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に存在してなる平均間隔が6.5〜20μmで平均高さが0.35〜1μmの凹凸を有するという特性)を備えるポリプロピレン繊維、或いは前記した繊維強度、DSC特性および凹凸特性を備えるポリプロピレン繊維を製造し得る方法であれば、いずれの方法で製造してもよい。
そのうちでも、本発明のロープ構造体の形成に用いるポリプロピレン繊維は、IPFが94%以上のポリプロピレンを溶融紡糸してポリプロピレン未延伸繊維(未延伸糸)を製造し、それを冷却固化した後に、その冷却固化した未延伸ポリプロピレン繊維を特定の条件下で前延伸および後延伸する以下で説明する方法により、円滑に製造することができる。
【0037】
まず、ポリプロピレンを溶融紡糸してポリプロピレン未延伸繊維を製造するに当たっては、IPFが94%以上のポリプロピレンを200〜3500m/分、特に300〜2000m/分の紡糸速度で溶融紡糸した後に冷却固化する方法が好ましく採用される。
ポリプロピレンの溶融紡糸および溶融紡糸したポリプロピレン繊維の冷却固化は、通常の方法で行うことができ、一般的にはポリプロピレンを200〜300℃で溶融混練した後、それを220〜280℃の紡糸口金から吐出させ、それに5〜50℃の冷却用気体(空気など)を吹き付けて冷却固化する方法が採用される。
未延伸ポリプロピレン繊維の単繊維繊度は特に制限されず、延伸工程での延伸倍率、最終的に得られるポリプロピレン繊維の用途などに応じて決めることができるが、一般的には0.3〜90dtex、特に1〜60dtexであることが、延伸のしやすさ、強度などの点から好ましい。
【0038】
本発明のロープ構造体の形成に用いるポリプロピレン繊維の製造に当って、溶融紡糸を低紡糸速度で行った場合(一般に紡糸速度が200〜1000m/分程度の場合)には、溶融紡糸後に冷却固化して得られるポリプロピレン未延伸繊維(未延伸糸)を、次の延伸工程で高倍率で延伸する(一般に総延伸倍率5〜20倍)ことで、高強度および高耐熱性を有するポリプロピレン繊維、特に繊維強度が7cN/dtex以上で、且つDSC測定による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であるポリプロピレン繊維を円滑に製造することができる。
一方、溶融紡糸を高紡糸速度で行った場合(一般に紡糸速度が1000〜3500m/分程度の場合)には、溶融紡糸後に冷却固化して得られるポリプロピレン未延伸繊維(未延伸糸)を延伸する際の延伸倍率が低くても(一般に総延伸倍率3.9〜7倍)、溶融紡糸した繊維を冷却固化する段階での配向が高くなるため、結果として繊維強度が7cN/dtex以上で且つ前記したのと同じDS特性を有する強度および耐熱性に優れるポリプロピレン繊維を円滑に製造することができる。
【0039】
ポリプロピレン繊維の製造にあたって、冷却固化したポリプロピレン未延伸繊維(未延伸糸)は、巻き取らずにそのまま引き続いて延伸処理を行ってもよいし、または一旦巻き取った後に、巻き出しながら次の延伸処理を行ってもよく、そのうちでも、一旦巻き取った後に巻き出しながら次の延伸処理を行うことが、延伸条件の制御や管理が容易である点から好ましい。
本発明のロープ構造体の形成に用いるポリプロピレン繊維は、冷却固化したポリプロピレン未延伸繊維(未延伸糸)を、総延伸倍率(前延伸と後延伸の合計延伸倍率)が3.9〜20倍になるようにして、温度120〜150℃および延伸倍率3〜10倍で前延伸した後、温度170〜190℃で、変形速度1.5〜15倍および延伸張力1.0〜2.5cN/dtexの条件下に延伸倍率1.2〜3.0倍で後延伸することによって円滑に製造することができる。
【0040】
前記した前延伸および後延伸は、熱風炉または熱プレートを用いて行うことが、延伸処理が円滑に行われる点から好ましい。前延伸および後延伸の両方を熱風炉を用いて行ってもよいし、前延伸と後延伸の両方を熱プレートを用いて行ってもよいし、前延伸を熱風炉を用いて行い、後延伸を熱プレートを行ってもよいし、または前延伸を熱プレートを用いて行い、後延伸を熱風炉を用いて行ってもよい。
前延伸および/または後延伸を熱風炉を用いて行う場合は、前延伸時の上記温度および後延伸時の上記温度は熱風炉の雰囲気温度をいい、また前延伸および/または後延伸を熱プレートを用いて行う場合は、前延伸時時の上記温度および後延伸時の上記温度は熱プレートの温度をいう。
【0041】
冷却固化してなるポリプロピレン未延伸繊維(未延伸糸)の前延伸は、1段で行ってもよいし、または多段で行ってもよく、一般的には1段〜3段で行うことが好ましい。
また、前延伸したポリプロピレン延伸繊維(延伸糸)の後延伸は、1段で行ってもよいし、または多段で行ってもよく、一般的には1段〜5段で行うことが好ましい。
延伸処理を行うに当たっては、前延伸して得られるポリプロピレン延伸繊維(延伸糸)を巻き取らずにそのまま引き続いて後延伸する方法を採用してもよいし、または前延伸して得られるポリプロピレン延伸繊維(延伸糸)を冷却(一般に室温程度)して巻き取った後に再度巻き出して後延伸する方法を採用してもよい。そのうちでも、前延伸して得られるポリプロピレン延伸繊維(延伸糸)を一旦巻き取った後に巻き戻して後延伸する後者の方法が、本発明のロープ構造体の形成に用いる上記した特性を備えるポリプロピレン繊維をより円滑に得ることができる点から好ましい。
【0042】
前延伸は、冷却固化してなるポリプロピレン未延伸繊維(未延伸糸)を、温度(雰囲気温度)が120〜150℃、特に125〜140℃の熱風炉に導入するか、または温度が120〜150℃、特に125〜140℃の熱プレートに接触させて、1段または多段で延伸倍率3〜10倍、特に3〜5倍で行うことが好ましい。
また、後延伸は、前記した条件下で前延伸して得られるポリプロピレン延伸繊維(延伸糸)を、温度(雰囲気温度)が170〜190℃、更には170〜185℃、特に170〜180℃の熱風炉に導入するか、または温度が170〜190℃、更には170〜185℃、特に170〜180℃の熱プレートに接触させて、1段または多段で延伸倍率1.2〜3.0倍、特に1.3〜2.5倍で行うことが好ましい。
熱風炉または延伸プレートを用いて後延伸を行う際には、熱風炉の雰囲気温度または延伸プレート温度を、後延伸処理を施す直前のポリプロピレン繊維のDSC曲線での吸熱開始温度+10℃以上の温度にして後延伸を行うことが好ましい。
前延伸および後延伸の総延伸倍率は3.9〜20倍であることが好ましく、4.5〜11倍であることがより好ましく、4.7〜10.5倍であることが更に好ましい。
また、ポリプロピレン未延伸繊維(未延伸糸)を製造するための溶融紡糸速度をA(m/分)とし、前記した前延伸および後延伸を行った後の総延伸倍率をB(倍)としたときに、A×Bの値が、3000〜17000(m・倍/分)、特に3500〜15000(m・倍/分)の範囲になるようにして、ポリプロピレンの溶融紡糸と前記した前延伸および後延伸を行うと、目的とするポリプロピレン繊維を円滑に製造することができる。
【0043】
ここで、前延伸における前記した延伸倍率は、前延伸工程から排出された直後の繊維(糸)の長さを前延伸工程に導入された未延伸繊維(未延伸糸)の長さで除した値をいい、また後延伸における前記した延伸倍率は、後延伸工程から排出された直後の繊維(糸)の長さを後延伸工程に導入された繊維(糸)の長さで除した値をいう。
また、前記した前延伸および後延伸の総延伸倍率とは、後延伸工程から排出された直後の繊維(糸)の長さを前延伸工程に導入された未延伸繊維(未延伸糸)の長さで除した値をいう。
【0044】
後延伸は、前記した温度(170〜190℃)および延伸倍率(1.2〜3.0倍)を採用すると共に、変形速度1.5〜15倍/分および延伸張力1.0〜2.5cN/dtexという条件を採用して行う。かかる後延伸条件を採用することによって、本発明で用いる上記した特性を備えるポリプロピレン繊維を得ることができる。
後延伸時の変形速度は1.6〜12倍/分であることが好ましく、1.7〜10倍/分であることがより好ましい。
また、後延伸時の延伸張力は、1.1〜2.5cN/dtexが好ましく、1.3〜2.5cN/dtexがより好ましい。
【0045】
ここで、後延伸における前記した変形速度とは、後延伸での延伸倍率(倍)を後延伸に要した時間(分)[熱風炉で後延伸する場合は繊維(糸)が熱風路内に存在していた時間、延伸プレートで後延伸する場合は繊維(糸)が延伸プレートに接触していた時間]で除した値をいい、後延伸を多段で行った場合は、後延伸での最終延伸倍率(合計延伸倍率)を後延伸に要した延伸処理時間の合計で除した値をいう。
また、後延伸における前記延伸張力は、後延伸における最終段の延伸を行った直後の糸の張力を、張力計を用いて測定する。
【0046】
また上記した条件下でポリプロピレン繊維を延伸した後、熱固定あるいは収縮処理を施してもよい。その際の処理温度、収縮率は、本発明で用いるポリプロピレン繊維の特性を損なわない範囲において、特に限定されるものではない。
【0047】
IPFが94%以上のポリプロピレンを溶融紡糸した後に冷却固化してなるポリプロピレン未延伸繊維を、上記した条件下で前延伸した後に更に上記した条件下で後延伸してポリプロピレン繊維を製造する上記した方法により、耐熱性および強度に優れるポリプロピレン繊維、特に、DSC測定による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であり、且つ繊維強度が7cN/dtex以上である、耐熱性および強度に優れるポリプロピレン繊維を円滑に製造することができる。
【0048】
さらに、IPFが94%以上のポリプロピレンを溶融紡糸した後に冷却固化してなるポリプロピレン未延伸繊維を、上記した条件下で前延伸した後に更に上記した条件下で後延伸してポリプロピレン繊維を製造する際に、前延伸工程に供給するポリプロピレン未延伸繊維の単繊維繊度、前延伸および/または後延伸における延伸倍率などを調整することによって、最終的に単繊維繊度が3dtex以下、特に0.1〜3dtexのポリプロピレン繊維が得られるようにすることによって、上記した7cN/dtex以上の繊維強度、上記した特定のDSC特性[DSCによる吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であるという特性]と共に、表面に大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に存在してなる平均間隔が6.5〜20μmで平均高さが0.35〜1μmの凹凸を有する」という特定の凹凸構造を有するポリプロピレン繊維を得ることができる。このポリプロピレン繊維は、耐熱性および強度に優れると共に表面に前記した特定の凹凸を有することによって噛合作用を有し、繊維間および繊維束(ストランド)間の撚り合わせが緊密に且つ強固になされたロープ構造体を形成する。
【0049】
本発明のロープ構造体の種類、構造、形状などは特に制限されず、上記した特定の物性を有するポリプロピレン繊維を用いて形成されているロープ構造体であればいずれでもよい。
本発明のロープ構造体は、上記した特定の物性を有するポリプロピレン繊維のみを用いて形成されていてもよいし、または当該特定の物性を有するポリプロピレン繊維と共に他の繊維および線状体の1種または2種以上を用いて形成されていてもよい。
上記した特定の物性を有するポリプロピレン繊維の特性(強度、耐熱性、表面の凹凸による噛合作用など)を十分に活かしたポリプロピレン繊維製のロープ構造体を得るためには、上記特定の物性を有するポリプロピレン繊維の占める割合(質量割合)が、ロープ構造体の質量に基づいて、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70〜100質量%であることが更に好ましい。
【0050】
限定されるものではないが、本発明のロープ構造体の代表例としては、
(i)繊維を集めて撚りをかけてヤーンをつくり、当該ヤーンを2本〜数十本(好ましくは2本〜100本)集めて撚り合わせてストランド(復糸)とし、当該ストランド(復糸)の複数本(好ましくは3〜4本)を撚り合わせて形成したロープ構造体;
(ii)繊維を集めて撚りをかけてヤーンをつくり、当該ヤーンを2本〜数十本(好ましくは2本〜30本)集めて撚り合わせて第1のストランド(復糸)とし、当該第1のストランド(復糸)を2本〜数十本(好ましくは2本〜50本)集めて撚り合わせて第2のストランド(復糸)とし、当該第2のストランド(復糸)の複数本(好ましくは3〜4本)を撚り合わせて形成したロープ構造体;
(iii)繊維を集めて撚りをかけてヤーンをつくり、当該ヤーンを2本〜数十本(好ましくは2本〜100本)集めて撚り合わせてストランド(復糸)とし、当該ストランド(復糸)の複数本(好ましくは3〜4本)を、他の繊維や線状体を芯材として用いて当該芯材を包囲した状態で撚り合わせて形成したロープ構造体;
(iv)繊維を集めて撚りをかけてヤーンをつくり、当該ヤーンを2本〜数十本(好ましくは2本〜100本)集めて撚り合わせてストランド(復糸)とし、当該ストランド(復糸)の1本または複数本と他の繊維からなるストランド(復糸)および/または線状体(例えば金属線、線状プラスチック、紐、テープなど)の1本または複数本とを撚り合わせて形成したロープ構造体;
などを挙げることができる。
【0051】
上記(i)および(ii)のロープ構造体は、上記した特定の物性を有するポリプロピレン繊維のみを用いて形成されていてもよいし、または当該特定の物性を有するポリプロピレン繊維と他の繊維を用いて形成されていてもよい。
また、上記(iii)および(iv)のロープ構造体は、上記した特定の物性を有するポリプロピレン繊維と共に、他の繊維および/または線状体を用いて形成されている。
上記した特定の物性を有するポリプロピレン繊維のみを用いて上記(i)のロープ構造体を形成する場合は、繊維を集めて撚りをかけてつくったヤーンの繊度は10〜5000dtex、特に100〜3000dtex程度で、当該ヤーンを集めて撚り合わせて形成したストランド(復糸)の繊度は20〜500000dtex、特に200〜300000dtexであることが、取り扱い性、実用性の点から好ましい。
また、上記した特定の物性を有するポリプロピレン繊維のみを用いて上記(ii)のロープ構造体を形成する場合は、繊維を集めて撚りをかけてつくったヤーンの繊度は、10〜5000dtex、特に100〜3000dtex程度で、当該ヤーンを集めて撚り合わせて形成した第1のストランド(復糸)の繊度は20〜150000dtex、特に200〜90000dtexであり、第1のストランド(復糸)を撚り合わせて形成した第2のストランド(復糸)の繊度は40〜7500000dtex、特に400〜4500000dtexであることが、取り扱い性、実用性の点から好ましい。
また、上記特定の物性を有するポリプロピレン繊維と共に他の繊維や線状体を用いてロープ構造体を形成する場合も、上記に準じた繊度を採用するのが好ましい。
【0052】
本発明のロープ構造体が、上記した特定の物性を有するポリプロピレン繊維と共に他の繊維および線状体の1種または2種以上を用いて形成されている場合は、他の繊維としては、例えば、上記した特定の物性を有するポリプロピレン繊維以外のポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維などの合成繊維、レーヨン繊維などの半合成繊維、麻、綿、羊毛などの天然繊維、金属繊維、炭素繊維などを挙げることができる。また、他の線状体としては、金属線、線状プラスチック、プラスチックテープ、布テープ、合成繊維および/または天然繊維を用いて製編織して製造した紐、スプリットヤーンなどを挙げることができる。
【0053】
本発明のロープ構造体が、上記した特定の物性を有するポリプロピレン繊維と共に他の繊維および線状体の1種または2種以上を用いて形成されている場合は、例えば、ロープ構造体を構成する上記したストランド(復糸)中で当該ポリプロピレン繊維と他の繊維および/または線状体とが混繊(混合)した状態であってもよいし、当該ポリプロピレン繊維のみからなるストランド(復糸)と他の繊維からなるストランド(復糸)および/または線状体とを撚り合わせてあってもよいし[例えば上記(d)のロープ構造体の範疇のもの]、ロープ構造体の中心部に他の繊維および/または線状体が芯として存在し当該芯を包囲してポリプロピレン繊維のみからなるストランド(復糸)を撚り合わせてもよい[例えば上記(c)のロープ構造体の範疇のもの]。
【0054】
本発明のロープ構造体の太さは特に制限されず、ロープ構造体の用途、使用形態、取り扱い性などに応じて決めることができる。一般的には、本発明のロープ構造体は、その直径が約0.1〜100mm、特に0.2〜50mmであることが、ロープ構造体の製造容易性、取り扱い性などの点から好ましい。
また、本発明のロープ構造体は、撚り合わせ工程(製綱工程)後に、必要に応じて熱処理を施してあってもよいし、および/または樹脂加工を施してあってもよい。
本発明のロープ構造体の製法は特に制限されず、合成繊維、または合成繊維と他の材料を用いてロープ構造体を製造するのに従来から採用されているのと同様の方法および装置を使用して製造することができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。以下の実施例などにおいて、ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率(IPF)、延伸時の延伸張力、ポリプロピレン繊維のDSC特性、単繊維繊度、繊維強度、繊維表面の凹凸の平均間隔および平均高さ、ポリプロピレンヤーン(ポリプロピレン延伸糸を合糸し撚糸して調製したヤーン)のヤング率、並びにロープのグラインダー捻回摩耗切断回数は、以下に記載した方法で測定または算出した。
【0056】
(1)ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率(IPF):
超伝導核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製「Lambda500」)を使用して、非特許文献1に記載されている「13C−NMRスペクトル法」に従ってポリプロピレンのIPFを求めた。具体的には、ポリプロピレン中における、13C−NMRスペクトルにおいてプロピレン単量体単位が5個連続してアイソタクチック結合したプロピレン単位(アイソタクチックペンタッド単位)の含有割合(分率)(%)を求めてIPFとした。その際に、13C−NMRスペクトルにおけるピークの帰属に関しては、非特許文献2に記載されている方法に従って決定した。
【0057】
(2)延伸時の延伸張力:
荷重張力計測器(日本電産シンポ社製「DTMX−5B」)を使用して、延伸炉(熱風炉)から出た直後の糸、または延伸プレートから離れた直後の糸の張力を測定して延伸張力(cN/dtex)とした。
【0058】
(3)ポリプロピレン繊維のDSC測定:
ポリプロピレン繊維を温度20℃および相対湿度65%の雰囲気下に5日間放置して調湿した後、長さ1mmに切断し、その5mgを量り採ってアルミパン(容量100μL)(METTLER TOLEDO社製「No.51119872」)に入れ、アルミパンカバー(METTLER TOLEDO社製「No.51119871」)を用いてシールし、走査示差熱量測定器(TA Instuments社製「DSC2010」)を使用して、窒素雰囲気中で、昇温速度10℃/分で測定した1st runのDSC曲線から、吸熱ピークの半価幅(℃)および融解エンタルピー変化量(△H)(J/g)を、図1および図2(特に図2)を参照して前述した方法で求めた。
【0059】
(4)ポリプロピレン繊維の繊度(単繊維繊度):
ポリプロピレン繊維を、温度20℃および相対湿度65%の雰囲気下に5日間放置して調湿した後、調湿したポリプロピレン繊維(単繊維)の一定長(900mm)を採取し、その質量を測定して繊度を算出した。同じ調湿ポリプロピレン繊維について、前記と同じ測定操作を10回行い、その平均値を採ってポリプロピレン繊維の繊度(単繊維繊度)とした。なお、繊維が細くて一定試長の質量測定により繊度が測定できない場合は、同じ調湿繊維について、繊度測定装置(Textechno製「VIBROMAT M」)を使用して繊度を測定した。
【0060】
(5)ポリプロピレン繊維の繊維強度:
ポリプロピレン繊維を温度20℃および相対湿度65%の雰囲気下に5日間放置して調湿した後、ポリプロピレン繊維(単繊維)を長さ60mmに切断して試料とし、当該試料(長さ60mmのポリプロピレン単繊維)の両端を把持して(両端から10mmまで把持)、繊維強度測定装置(Textechno製「FAFEGRAPH M」)を使用して、温度20℃、相対湿度65%の環境下で、引張速度60mm/分で伸張して、切断時の応力を測定し、その値をポリプロピレン単繊維の繊度で除して繊維強度(cN/dtex)を求めた。なお同じポリプロピレン繊維について同じ操作を10回行って繊維強度を求め、その平均値を採ってポリプロピレン繊維(ポリプロピレン単繊維)の繊維強度とした。
【0061】
(6)ポリプロピレン繊維の繊維表面の凹凸の平均間隔および平均高さ:
走査型電子顕微鏡(HITACHI製「S−510」)を使用して、ポリプロピレン繊維(単繊維)を、繊維軸に対して垂直方向から1000倍の倍率で写真撮影し、得られた写真について、図3に基づいて先に説明した方法にしたがって、繊維表面の凹凸の平均間隔および平均高さを求めた。平均間隔および平均高さの算出に当たっては、10本のポリプロピレン繊維(単繊維)について、1本の繊維につき、5箇所(各測定箇所の間隔10cm)ずつを選んでその箇所での凹凸の間隔および高さを測定し(延べ50箇所)、その平均値を採って、凹凸の平均間隔(μm)および平均高さ(μm)とした。
【0062】
(7)ポリプロピレンヤーンのヤング率:
ポリプロピレン繊維(ポリプロピレン延伸糸)を合糸して2000dtexとし、これを70T/mで撚糸して得られたポリプロピレンヤーンを、JIS L 1013に準撚し、温度20℃および相対湿度65%の雰囲気下に3日間放置して調湿した後、所定長の試料を採取し、把持装置間の長さ(試長)が200mmとなるようにして当該試料の両端を把持して、島津製作所製「オートグラフAG5000−B」を使用して、雰囲気温度120℃で、引張速度100mm/分で伸張し、伸度1%の時の引張応力P(N)を測定して、以下の数式(1)からヤング率(cN/dtex)を求めた。
同じヤーンについて同じ操作を10回行ってヤング率を求め、その平均値を採って単位dtex当たりのポリプロピレンヤーンの120℃でのヤング率とした。

ヤーンのヤング率(cN/dtex)=P×10000/Td (1)

式中、 P=伸度1%の時の引張応力(N)
Td=ポリプロピレンヤーンの伸長前の総繊度=2000dtex
【0063】
(8)ロープのグラインダー捻回摩耗切断回数:
試料(ロープ)を20℃の水に24時間浸漬した後、図4に示したようにして、10kgの荷重をかけた状態で当該ロープを45回転/分で捻回させると共に、ロープが乾かないように注水しながら、グラインダー(カーボン製、直径=100mm、粒度#46)を45回転/分の回転速度で回転させてロープを摩耗させ、ロープが破断した際のグラインダーの回転数を読み取って、グラインダー捻回摩耗切断回数(回)とした。
【0064】
《製造例1》[ポリプロピレン繊維(a−1)の製造]
(1) ポリプロピレン[プライムポリマー社製「Y2000GV」、IPF=97%、MFR=18g/10分(230℃、荷重2.16kg)]を溶融紡糸装置の押出機に投入して240℃で溶融混練し、紡糸ヘッドに取り付けた温度245℃の紡糸口金[孔数24個(円形孔)、孔径0.2mm]から22.3g/分の量で吐出し、800m/分の引き取り速度でポリプロピレン未延伸糸を製造し、ボビンに巻き取って、室温で保存した(ポリプロピレン未延伸糸の総繊度=288dtex/24フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度128℃の熱風炉に導入して、2段で4.6倍に前延伸してポリプロピレン前延伸糸を製造し、ボビンに巻き取り、室温で保存した(ポリプロピレン前延伸糸の総繊度=63dtex/24フィラメント、吸熱開始温度=153.5℃)。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、温度172℃の熱風炉に導入して、変形速度1.7倍/分および延伸張力1.18cN/dtexの条件下に、3段で1.3倍に後延伸して、総延伸倍率が6.0倍のポリプロピレン延伸糸(総繊度=48dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(a−1)]を製造した。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(a−1)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
また、上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(a−1)]を、走査型電子顕微鏡(HITACHI製「S−510」)を使用して写真撮影(倍率1000倍)したところ、図5に示すとおりであった。
【0065】
《製造例2》[ポリプロピレン繊維(a−2)の製造]
(1) 製造例1の(1)において、未延伸糸の引き取り速度を3000m/分に変えた以外は製造例1の(1)と同じ操作を行って、ポリプロピレン未延伸糸を製造し、ボビンに巻き取って室温で保存した(ポリプロピレン未延伸糸の総繊度=214dtex/24フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度128℃の熱風炉に導入して、2段で3.1倍に前延伸して、ポリプロピレン前延伸糸を製造し、ボビンに巻き取って室温で保存した(ポリプロピレン前延伸糸の総繊度=69dtex/24フィラメント、吸熱開始温度=155.3℃)。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、温度172℃の熱風炉に導入して、変形速度1.8倍/分および延伸張力1.34cN/dtexの条件下に、3段で1.5倍に後延伸して、総延伸倍率が4.7倍のポリプロピレン延伸糸(総繊度=46dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(a−2)]を製造した。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(a−2)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0066】
《製造例3》[ポリプロピレン繊維(a−3)の製造]
(1) 製造例1の(1)で使用したのと同じポリプロピレンを溶融紡糸装置の押出機に投入して240℃で溶融混練し、紡糸ヘッドに取り付けた温度245℃の紡糸口金[孔数48個(十字形孔)、孔径0.2mm]から20.2g/分の量で吐出し、800m/分の引き取り速度でポリプロピレン未延伸糸を製造し、ボビンに巻き取って室温で保存した(ポリプロピレン未延伸糸の総繊度=436dtex/48フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度138℃の熱風炉に導入して、2段で3.9倍に前延伸して、ポリプロピレン前延伸糸を製造し、ボビンに巻き取って室温で保存した(ポリプロピレン前延伸糸の総繊度=112dtex/48フィラメント、吸熱開始温度=155.2℃)。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、温度172℃の熱風炉に導入して、変形速度2.1倍/分および延伸張力1.12cN/dtexの条件下に、1段で1.3倍に後延伸して、総延伸倍率が5.1倍のポリプロピレン延伸糸(総繊度=86dtex/48フィラメント)[ポリプロピレン繊維(a−3)]を製造した。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(a−3)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0067】
《製造例4》[ポリプロピレン繊維(a−4)の製造]
(1) 製造例1の(1)で使用したのと同じポリプロピレンを用いて製造例1の(1)と同じ条件を採用してポリプロピレン未延伸糸を製造してボビンに巻き取った。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、製造例1の(2)と同じ条件を採用して前延伸を行って、ポリプロピレン前延伸糸を製造し、ボビンに巻き取った。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、温度180℃の熱風炉に導入して、変形速度1.7倍/分および延伸張力1.06cN/dtexの条件下に、3段で1.3倍に後延伸して、総延伸倍率が6.0倍のポリプロピレン延伸糸(総繊度=50dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(a−4)]を製造した。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(a−4)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0068】
《製造例5》[ポリプロピレン繊維(a−5)の製造]
(1) ポリプロピレン[プライムポリマー社製「ZS1337A」、IPF=96%、MFR=20g/10分(230℃、荷重2.16kg)]を用いて、製造例1の(1)と同じ溶融紡糸条件を採用して、ポリプロピレン未延伸糸を製造してボビンに巻き取った(ポリプロピレン未延伸糸の総繊度=288dtex/24フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度135℃の熱風炉に導入して、2段で4.8倍に前延伸して、ポリプロピレン前延伸糸を製造しボビンに巻き取って室温に保存した(ポリプロピレン前延伸糸の総繊度=60dtex/24フィラメント、吸熱開始温度=152.0℃)。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、温度172℃の熱風炉に導入して、変形速度1.6倍/分および延伸張力1.33cN/dtexの条件下に、3段で1.8倍に後延伸して、総延伸倍率が8.6倍のポリプロピレン延伸糸(総繊度=50dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(a−5)]を製造した。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(a−5)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0069】
《製造例6》[ポリプロピレン繊維(a−6)の製造]
(1) ポリプロピレン[IPF=98%、MFR=16g/10分(230℃、荷重2.16kg)]を用いて、製造例1の(1)と同じ溶融紡糸条件を採用して、ポリプロピレン未延伸糸を製造してボビンに巻き取った(未延伸糸の総繊度=293dtex/24フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度128℃の熱風炉に導入して、2段で4.6倍に前延伸してポリプロピレン前延伸糸を製造しボビンに巻き取って室温に保存した(ポリプロピレン前延伸糸の総繊度=64dtex/24フィラメント、吸熱開始温度=156.4℃)。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、温度178℃の熱風炉に導入して、変形速度2.8倍/分および延伸張力1.54cN/dtexの条件下に、4段で2.2倍に後延伸して、総延伸倍率が10.1倍のポリプロピレン延伸糸(総繊度=29dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(a−6)]を製造した。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(a−6)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0070】
《製造例7》[ポリプロピレン繊維(a−7)の製造]
(1) ポリプロピレン[IPF=98%、MFR=16g/10分(230℃、荷重2.16kg)]およびポリプロピレン[プライムポリマー社製「Y3002G」、IPF=93%、MFR=30g/10分(230℃、荷重2.16kg)]を1:1の質量比で混合した混合物(混合物のIPF=95.5%)を用いて、製造例1の(1)と同じ溶融紡糸条件を採用して、ポリプロピレン未延伸糸を製造してボビンに巻き取った(ポリプロピレン未延伸糸の総繊度=288dtex/24フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度128℃の熱風炉に導入して、2段で4.6倍に前延伸して、ポリプロピレン前延伸糸を製造し、ボビンに巻き取って室温に保存した(ポリプロピレン前延伸糸の総繊度=63dtex/24フィラメント、吸熱開始温度=152.5℃)。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、温度172℃の熱風炉に導入して、変形速度1.7倍/分および延伸張力1.20cN/dtexの条件下に、3段で1.3倍に後延伸して、総延伸倍率が6.0倍のポリプロピレン延伸糸(総繊度=48dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(a−7)]を製造した。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(a−7)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0071】
《製造例8》[ポリプロピレン繊維(a−8)の製造]
(1) 溶融紡糸装置の紡糸ヘッドに芯鞘型複合繊維製造用の紡糸口金[孔数24個(円形孔)、孔径0.2mm]を取り付け、ポリプロピレン(プライムポリマー社製「Y3002G」、IPF=93%)を芯成分およびポリプロピレン[IPF=98%、MFR=16g/10分(230℃、荷重2.16kg)]を鞘成分として用いて、芯成分:鞘成分=1:2の質量比で、240℃で溶融混練し、紡糸口金(口金温度245℃)から22.3g/分の量で吐出し、800m/分の引き取り速度でボビンに巻き取って芯鞘型のポリプロピレン未延伸糸を製造して、室温で保存した(ポリプロピレン未延伸糸の総繊度=287dtex/24フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度128℃の熱風炉に導入して、2段で4.6倍に前延伸してポリプロピレン前延伸糸を製造しボビンに巻き取って室温に保存した(ポリプロピレン前延伸糸の総繊度=62dtex/24フィラメント、吸熱開始温度=152.2℃)。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、温度172℃の熱風炉に導入して、変形速度1.7倍/分および延伸張力1.25cN/dtexの条件下に、3段で1.3倍に後延伸して、総延伸倍率が6.0倍のポリプロピレン延伸糸(総繊度=48dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(a−8)]を製造した。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(a−8)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0072】
《製造例9》[ポリプロピレン繊維(a−9)の製造]
(1) 製造例1の(1)で使用したのと同じポリプロピレンを用いて製造例1の(1)と同じ条件を採用してポリプロピレン未延伸糸を製造してボビンに巻き取った。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度128℃の熱風炉に導入して、1段で4.6倍に前延伸して、ポリプロピレン前延伸糸を製造し、ボビンに巻き取って室温に保存した(ポリプロピレン前延伸糸の総繊度=63dtex/24フィラメント)。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、温度172℃の熱プレートに接触させて、変形速度13.8倍/分および延伸張力1.43cN/dtexの条件下に、1段で1.6倍に後延伸して(熱プレートへの接触時間=15秒)、総延伸倍率が7.4倍のポリプロピレン延伸糸(総繊度=39dtex/24フィラ
メント)[ポリプロピレン繊維(a−9)]を製造した。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(a−9)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0073】
《製造例10》[ポリプロピレン繊維(a−10)の製造]
(1) 製造例1の(1)で使用したのと同じポリプロピレンを用いて製造例1の(1)と同じ条件を採用してポリプロピレン未延伸糸を製造してボビンに巻き取った。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、製造例1の(2)と同じ条件を採用して前延伸を行って、ポリプロピレン前延伸糸を製造し、ボビンに巻き取った。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、製造例1の(3)と同じ条件を採用してポリプロピレン延伸糸を製造し、ボビンに巻き取った。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸をボビンから巻き出して、温度168℃の熱風炉に導入して、2%収縮させてポリプロピレン糸を[ポリプロピレン繊維(a−10)]製造した。
(5) 上記(4)で得られたポリプロピレン糸[ポリプロピレン繊維(a−10)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0074】
《製造例11》[ポリプロピレン繊維(b−1)の製造]
(1) ポリプロピレン(プライムポリマー社製「Y3002G」、IPF=93%)を用いて、製造例1の(1)と同じ溶融紡糸条件を採用して、ポリプロピレン未延伸糸を製造してボビンに巻き取って、室温で保存した(ポリプロピレン未延伸糸の総繊度=288dtex/24フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度128℃の熱風炉に導入して、2段で4.6倍に前延伸して、ポリプロピレン前延伸糸を製造し、ボビンに巻き取って室温に保存し(ポリプロピレン前延伸糸の総繊度=68dtex/24フィラメント、吸熱開始温度=151.8℃)。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、温度172℃の熱風炉に導入して、変形速度1.7倍/分および延伸張力0.96cN/dtex(注:検討されたい)の条件下に、3段で1.3倍に後延伸して、総延伸倍率が6.0倍のポリプロピレン延伸糸(総繊度=48dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(b−1)]を製造した。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(b−1)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性および保水率を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。なお、この製造例11で得られたポリプロピレン繊維は、表面に凹凸を有していなかった。
【0075】
《製造例12》[ポリプロピレン繊維(b−2)の製造]
(1) 製造例1の(1)および(2)と同じ操作を行ってポリプロピレン前延伸糸[ポリプロピレン繊維(b−2)]を製造した。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン前延伸糸[ポリプロピレン繊維(b−2)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性および保水率を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。なお、この製造例12で得られたポリプロピレン繊維は、表面に凹凸を有していなかった。
【0076】
《製造例13》[ポリプロピレン繊維(b−3)の製造]
(1) 製造例1の(1)で使用したのと同じポリプロピレン(プライムポリマー社製「Y2000GV」、IPF=97%)を用いて、製造例1の(1)と同じ溶融紡糸条件を採用して、ポリプロピレン未延伸糸を製造してボビンに巻き取った。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度143℃の熱風炉に導入して、1段で6.9倍に延伸して、ポリプロピレン延伸糸(総繊度=42dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(b−3)]を製造した。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(b−3)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0077】
《製造例14》[ポリプロピレン繊維(b−4)の製造]
(1) 製造例1の(1)で使用したのと同じポリプロピレン(プライムポリマー社製「Y2000GV」、IPF=97%)を用いて、製造例1の(1)と同じ溶融紡糸条件を採用して、ポリプロピレン未延伸糸を製造してボビンに巻き取った。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度90℃の熱水槽に導入して、1段で3.7倍に前延伸した後、巻き取らずに引き続いて温度138℃の熱風炉に導入して1.2倍に後延伸して、総延伸倍率が4.4倍の延伸糸(総繊度=65dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(b−4)]を製造した。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(b−4)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0078】
《製造例15》[ポリプロピレン繊維(b−5)の製造]
(1) 製造例1の(1)で使用したのと同じポリプロピレン(プライムポリマー社製「Y2000GV」、IPF=97%)を溶融紡糸装置の押出機に投入して270℃で溶融混練し、紡糸ヘッドに取り付けた温度295℃の紡糸口金[孔数24個(円形孔)、孔径0.2mm]から9.5g/分の量で吐出し、1500m/分で引き取ってポリプロピレン未延伸糸を製造し、ボビンに巻き取り、室温で保存した(ポリプロピレン未延伸糸の総繊度=65dtex/24フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度130℃の熱風炉に導入して、1段で1.5倍に延伸して、ポリプロピレン延伸糸(総繊度=44dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(b−5)]を製造した。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(b−5)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0079】
《製造例16》[ポリプロピレン繊維(b−6)の製造]
(1) 製造例1の(1)で使用したのと同じポリプロピレン(プライムポリマー社製「Y2000GV」、IPF=97%)を溶融紡糸装置の押出機に投入して230℃で溶融混練し、紡糸ヘッドに取り付けた温度300℃の紡糸口金[孔数30個(円形孔)、孔径0.8mm]から20g/分の量で吐出し、300m/分で引き取ってポリプロピレン未延伸糸を製造し、ボビンに巻き取って室温で保存した(ポリプロピレン未延伸糸の総繊度=535dtex/24フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度110℃の熱ローラーで、1段で3.7倍に延伸して、ポリプロピレン延伸糸(総繊度=145dtex/24フィラメント)を製造した。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン延伸糸の両端を固定した後、165℃のギアーオーブン中に30分間入れて熱処理を施して、熱処理ポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(b−6)]を得た。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(b−6)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0080】
《製造例17》[ポリプロピレン繊維(b−7)の製造]
(1) ポリプロピレン[プライムポリマー社製「ZS1337A」、IPF=96%、MFR=20g/10分(230℃、荷重2.16kg)]を溶融紡糸装置の押出機に投入して300℃で溶融混練し、紡糸ヘッドに取り付けた温度320℃の紡糸口金[孔数24個(円形孔)、孔径0.2mm]から22.3g/分の量で吐出し、600m/分の引き取り速度でポリプロピレン未延伸糸を製造し、ボビンに巻き取って、室温で保存した(ポリプロピレン未延伸糸の「総繊度=304dtex/24フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度90℃の加熱ロールにより1段で1.5倍に前延伸した後、ボビンに巻き取って室温に保存し(ポリプロピレン前延伸糸の総繊度=203dtex/24フィラメント、吸熱開始温度=150.8℃)。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン前延伸糸をボビンから巻き出して、温度138℃の熱風炉に導入して、1段で4.9倍に後延伸して、総延伸倍率が7.4倍のポリプロピレン延伸糸(総繊度=40.8dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(b−7)]を製造した。
(4) 上記(3)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(b−7)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0081】
《製造例18》[ポリプロピレン繊維(b−8)の製造]
(1) 製造例1の(1)で使用したのと同じポリプロピレン[プライムポリマー社製「Y2000Gv」、IPF=97%、MFR=18g/10分(230℃、荷重2.16kg)]を溶融紡糸装置の押出機に投入して255℃で溶融混練し、紡糸ヘッドに取り付けた温度260℃の紡糸口金[孔数24個(円形孔)、孔径0.2mm]から35.4g/分の量で吐出し、600m/分の引き取り速度でポリプロピレン未延伸糸を製造し、ボビンに巻き取って、室温で保存した(ポリプロピレン未延伸糸の「総繊度=635dtex/24フィラメント)。
(2) 上記(1)で得られたポリプロピレン未延伸糸をボビンから巻き出して、温度145℃のスチーム槽により1段で11.5倍に延伸して、ポリプロピレン延伸糸(総繊度=55.2dtex/24フィラメント)[ポリプロピレン繊維(b−8)]を製造した。
(3) 上記(2)で得られたポリプロピレン延伸糸[ポリプロピレン繊維(b−8)]について、DSC測定[吸熱ピーク形状、半価幅、融解エンタルピー変化量(△H)の測定]、並びに繊維強度、摩擦防融性、表面の凹凸寸法(凹凸の平均間隔および平均高さ)および保水率の測定を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりの結果であった。
【0082】
【表1】

【0083】
《実施例1〜10および比較例1〜8》
(1)ポリプロピレン繊維製ロープの製造:
製造例1〜18で得られたポリプロピレン繊維(a−1)〜(a−10)および(b−1)〜(b−8)(ポリプロピレン延伸糸)のそれぞれを合糸して1500dtexとした後、80T/mで撚糸して第1のストランド(復糸)をつくり、60T/mの条件下で第1のストランド(復糸)4本を撚糸して第2のストランド(復糸)をつくり、40T/mの条件下で第2のストランド(復糸)25本を撚糸して第3のストランド(復糸)をつくり、次いで第3のストランド(復糸)3本を30T/mの条件下で撚り合わせてポリプロピレン繊維製ロープを製造した。
これにより得られたポリプロピレン繊維製ロープのグラインダー捻回摩耗切断回数を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2)ポリプロピレンヤーンのヤング率の測定:
製造例1〜18で得られたポリプロピレン繊維(a−1)〜(a−10)および(b−1)〜(b−8)(ポリプロピレン延伸糸)のそれぞれを合糸して2000dtexとし、これを70T/mで撚糸してポリプロピレンヤーンをつくり、このポリプロピレンヤーンの120℃におけるヤング率を上記した方法で求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0084】
【表2】

【0085】
上記の表2にみるように、実施例1〜10では、IPFが94%以上のポリプロピレンよりなる、繊維強度が7cN/dtex以上で、DSC特性が本発明で規定する要件を満たすか、単繊維繊度と繊維表面の凹凸特性が本発明で規定する要件を満たすか、或いはDSC特性と単繊維繊度と繊維表面の凹凸特性が本発明で規定する要件を満たしていて耐熱性が高く、所定の凹凸を有するポリプロピレン繊維(a−1)〜(a−10)のいずれかを用いてロープを製造したことにより、実施例1〜10で得られたロープは、グラインダー捻回摩耗切断回数が1152〜1305回と高く、摩擦時の摩擦熱によってロープが切断しにくく、耐熱性に優れている。
それに対して、比較例1〜8では、DSC特性および繊維表面における凹凸特性の両方が本発明の規定から外れているポリプロピレン繊維(b−1)〜(b−8)のいずれかを用いてロープを製造したことにより、比較例1〜8で得られたロープは、グラインダー捻回摩耗切断回数が792〜984回であって、グラインダー捻回摩耗切断回数が実施例1〜10の約60〜85%と低く、実施例1〜10のロープに比べて耐熱性に劣り、早期に摩擦熱により切断した。
【0086】
さらに、上記の表2にみるように、実施例1〜10では、IPFが94%以上のポリプロピレンよりなる、繊維強度が7cN/dtex以上で、DSC特性が本発明で規定する要件を満たすか、単繊維繊度と繊維表面の凹凸特性が本発明で規定する要件を満たすか、或いはDSC特性と単繊維繊度と繊維表面の凹凸特性が本発明で規定する要件を満たしていて耐熱性が高く、所定の凹凸を有するポリプロピレン繊維(a−1)〜(a−10)のいずれかを用いていることにより、ロープ製造工程の初期の段階で形成されるポリプロピレンヤーン(ストランド)は、その120℃でのヤング率が41〜68cN/dtexと高くて、高温下での伸びが小さく、緊密に撚り合わされていて、耐伸び性、耐ヘタリ性などの力学的特性に優れ、しかも耐熱性に優れている。
それに対して、比較例1〜8では、DSC特性および繊維表面における凹凸特性の両方が本発明の規定から外れているポリプロピレン繊維(b−1)〜(b−8)のいずれかを用いていることにより、ロープ製造工程の初期の段階で形成されるポリプロピレンヤーン(ストランド)は、その120℃でのヤング率が8〜26cN/dtexであって、実施例1〜10に比べて大幅にヤング率が低く、高温下での伸びが大きく、耐伸び性、耐ヘタリ性などの力学的特性に劣り、耐熱性にも劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のロープ構造体は、結晶性が高く、均一な結晶構造を有し、耐熱性に極めて優れ、更に高い繊維強度を有し、しかも表面に特定の凹凸を有するポリプロピレン繊維を用いて形成されているため、耐熱性および強度に優れており、その上ロープを形成している繊維同士が密に撚り合わさっていて繊維間のバラケがなくて、耐伸び性、耐ヘタリ性および形状保持性に優れており、それらの特性を活かして各種用途に有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】ポリプロピレン繊維におけるDSC測定による吸熱ピーク形状を模式的に示した図である。
【図2】ポリプロピレン繊維のDSC測定による吸熱ピークにおける半価幅の求め方を示した図である。
【図3】本発明のロープ構造体の形成に用いるポリプロピレン繊維の凹凸形状を模式的に示すと共に、凹凸の平均間隔および平均高さの求め方について説明した図である。
【図4】ロープのグラインダー捻回摩耗切断回数の測定方法を示した図である。
【図5】製造例1で得られたポリプロピレン繊維の走査型電子顕微鏡で撮影した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が94%以上のポリプロピレンよりなる、繊維強度が7cN/dtex以上であり、且つ走査示差熱量測定(DSC)による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であるポリプロピレン繊維を用いて形成したロープ構造体。
【請求項2】
アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が94%以上のポリプロピレンよりなる、繊維強度が7cN/dtex以上であり、且つ単繊維繊度が0.1〜3dtexで、表面に大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に存在してなる平均間隔が6.5〜20μmで平均高さが0.35〜1μmの凹凸を有するポリプロピレン繊維を用いて形成したロープ構造体。
【請求項3】
アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が94%以上のポリプロピレンよりなる、繊維強度が7cN/dtex以上であり、単繊維繊度が0.1〜3dtexで、走査示差熱量測定(DSC)による吸熱ピーク形状が10℃以下の半価幅を有するシングル形状で、融解エンタルピー変化量(△H)が125J/g以上であり、表面に大径の隆起部と小径の非隆起部が繊維軸に沿って交互に存在してなる平均間隔が6.5〜20μmで平均高さが0.35〜1μmの凹凸を有するポリプロピレン繊維を用いて形成したロープ構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−79306(P2009−79306A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247137(P2007−247137)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】