説明

ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサンシラノールによる表面変性

疎水性、熱安定性、硬度及び耐久性が改善されたナノ強化被覆は、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)試薬及び樹脂から開発された。POSS試薬のナノスコピックな大きさと、ハイブリッド(有機/無機)組成は、鉱物、金属、ガラス、ポリマー材料に由来するフィラーの被覆に特に有益である。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本出願は、2005年1月27日に出願された米国仮特許出願連番60/648,327の利益を主張するものである。
【0002】
発明の背景
本発明は、一般的に、改善された疎水性、熱安定性、硬度及び耐久性を有するナノレベルで強化された被覆に関する。
【0003】
異種材料間の界面を適合させることができる技術には大きな可能性がある。特に、ポリマーは、広範な種類の無機材料をフィラーとして利用し、最終組成物に所望の電気的、熱的、機械的及びその他の物理的特性を付与する。ポリマーの炭化水素組成は、多くのフィラー系の無機組成と不適合になることが多い。(ポリマーは、脂肪族系、オレフィン族系、芳香族系、異種官能系を包含する。(代表例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリエーテル、ポリイミド、エポキシド、アクリル系、スチレン系、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミンを包含する。)また、あらゆる種類のポリマーが包含され、例えば、ガラス質、半結晶質、結晶質、エラストマーである。(代表的フィラーは、層状珪酸塩、粘土、炭酸カルシウム、タルク、珪灰石、珪藻土カオリン、ATH(アルミニウム3水和物)、バーミキュライト、バライト、ガラス、金属、金属酸化物及び木材の如きフィラーを包含する。)フィラー粒子の表面を界面活性剤とシランカップリング剤で処理して、これら異種材料間の表面適合性を改良することは常套手段となっている。この手段の拡張として、シランと界面活性剤を、鉱物珪酸塩及び合成珪酸塩の層間の層剥離剤として使用するものがある。(鉱物珪酸塩及び合成珪酸塩は、ベントナイト、ヘクトライト、モンモリロナイトを包含する。)このような内部表面変性及び外部表面変性の目標は、隣接する珪酸塩シート間の間隔を拡張し、それらの内部表面をポリマーと適合性にすることによって、分散特性及び強化特性の双方を改善することである。
【0004】
先行技術の説明
先行技術は、多数の工業的応用に対して満足のいくものであったが、この技術は、個別の明確なナノスコピック構造トポロジーによって、表面を適合性にする能力において不十分である。このような制御は、表面設計と機能に関する合理的制御を与えることから望ましいものである。更に、それは、充分に明確なナノトポロジーの存在により、表面適合能力を向上し、結合力、信頼性及び汚染物攻撃や破壊攻撃に対する抵抗性を改善するものである。ナノスコピックレベル(十億分の1メートル特性)で巨視的表面(百万分の1メートル特性)を適合性にすることは、望ましいものであるが、それは、多重長スケールでのポリマー鎖の特性、耐久力及び強化について精密さを向上することを可能とするからである。先行技術は、このような利益を直接与えるには不十分であることにより、一旦表面変性剤がフィラー或いは表面に適用されると、表面変性剤に対して、表面集成体及び構造を制御することができなくなってしまう。更に、従来の表面活性剤処理の熱安定性の不十分さは、粘土系ナノ複合材料の熱的及び機械的特性を低下させる基本要因である。
【0005】
本発明は、ナノ構造ハイブリッド「有機-無機」化学物質を、巨視的フィラーに対する内部表面処理用、外部表面処理用及び層剥離剤用として使用することに関するものである。ナノ構造ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS及び球状シロキサン)に関する先行技術は、耐腐食性材料としてその有用性を報告しているが、ナノスコピックな大きさ、ハイブリッド組成及び界面適合化特性が物理特性改善に利用される、複合材料、ナノ複合材料或いはフィラー技術での有用性やその適用については言及されていない。米国特許第5,888,544号明細書参照。
【0006】
発明の要約
改善された疎水性、熱安定性、硬度、耐久性を有する、ナノ強化された被覆は、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)試薬及び樹脂から開発された。シラノールを有するPOSS試薬は、鉱物、金属、ガラス及びポリマー材料由来のフィラーを被覆するために特に有益である。POSS試薬のナノスコピックな寸法及びハイブリッド(有機-無機)組成は、巨視的またナノスコピックな粒状フィラーと、ポリマー系、生物系、炭化水素系及び水系を含む広範な異種材料との適合性を、高度に効果的に改善する。
【0007】
好適な被覆剤は、POSS-シラノール、POSS-アルコキシド、POSS-クロライド、及びPOSS-塩を使用する。式[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ#(m、n、#は、1〜1000の奇数又は偶数;Rは、炭化水素、シラン或いはシロキシ基;Xは、OH、Cl、OR)に対応する、官能化ヘテロレプティック組成物を含有する、POSSナノ構造が最適である。好適な被覆プロセスは、溶媒を使用しない噴霧法、溶射法、溶融流動法及び蒸着法を包含する。これらの工程は、揮発性有機物を産生せず、また使用しないため、放出物がないという理由で有利である。代替として、従来の溶媒を使用する方法も使うことができ、スピンコート法、浸漬法、塗布法及び噴霧法を包含する。
【0008】
POSS試薬系及びPOSS樹脂系はまた、層状珪酸塩の層剥離や、粘土、炭酸カルシウム、タルク、珪灰石、珪藻土カオリン、ATH(アルミニウム3水和物)、バーミキュライト、バライト、ガラス、金属、金属酸化物及び木材を包含するフィラーを適合性にするために、望ましくは使用される。得られたPOSS変性フィラーは、改善された疎水性、改善された分散性及びレオロジー特性、難燃性及び屈折率を呈する。このような巨視的及びナノスコピックな粒子のPOSS変性は、フィラーにマルチスケールな強化(マクロからナノまで)能力を付与し、それゆえ、熱可塑性樹脂系或いは熱硬化樹脂系の熱的性質、機械的性質、気体透過性及びその他の物理的性質を改善することを可能とし、電子部品、機械部品、スポーツ用品及び航空機において、被覆成分及び構造成分として最大限の有用性を有する。
【0009】
本発明は、ナノスコピックな表面特性を、巨視的及びナノスコピックなフィラー並びに表面に導入する表面処理に、ナノ構造POSS化学物質を使用することを教示する。更に、POSS剤により与えられるナノスコピックな表面特性は、これらフィラーを、ポリマー系のナノスコピックな長さ規模で適合性にすることに役立ち、ポリマー被覆、複合材料及びナノ複合材料にマルチスケールレベルの強化を付与する。POSS表面変性剤は、スラリー法、スピンコート法、塗布法、噴霧法、流動法及び蒸着法を包含する、従来のすべての被覆技術を使用して適用することができる。POSS表面変性剤は、商業的なシラン原料から容易に入手できる。好適な構造と組成は、式[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ#(m、n、#は、1〜1000の奇数又は偶数;Rは、炭化水素、シラン或いはシロキシ類;Xは、OH、Cl、OR)に対応する官能基を有する組成である。
【0010】
ナノ構造表現式の定義
本発明のナノ構造化学組成物を理解するために、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)及びポリヘドラルオリゴメリックシリケート(POS)ナノ構造の表現式について、以下の定義がなされる。
【0011】
ヘテロレプティック組成物に対しては、[(RSiO1.5)(R´SiO1.5)Σ#(ここで、RとR´は、異なる。)
官能化ヘテロレプティック組成物に対しては、[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ#(ここで、R基は、同じか、異なる。)
上記Rすべては、有機置換基(H、シロキシ、環状或いは直鎖脂肪族、芳香族或いはシロキサイド基であり、追加的に、アルコール、エステル、アミン、ケトン、オレフィン、エーテル或いはハライドの如き反応性官能基を含んでもよい。)である。Xは、限定するものではないが、OH、Cl、Br、I、アルコキシド(OR)、アセテート(OOCR)、パーオキサイド(OOR)、アミン(NR)、イソシアネート(NCO)及びRを包含する。記号m及びnは、組成物の化学量論に関連する。記号Σは、組成物がナノ構造を形成することを示し、記号#は、ナノ構造内に含まれる珪素原子の数をいう。#の値は、通常はmとnの和である。Σ#は、化学量論を決定する乗数と混同されるべきではなく、単に、システムの全体のナノ構造特性(籠の大きさとして知られる)を説明するものであることが留意されるべきである。
【0012】
ナノ構造化学物質は、以下の性質で定義される。それらは、単一の分子であり、組成的に変動する分子集成体ではない。それらは、明確な3次元構造を有する多面体形状を持つ。クラスターがよい例であり、平面状炭化水素、デンドリマー、粒子には存在しない。それらは、約0.7nm〜5.0nmの範囲のナノスコピックサイズを有する。したがって、それらは、小分子よりは大きいが、巨大分子よりは小さい。それらは、立体化学、反応性及び物理的性質を制御可能とするシステマチックな化学を有する。
【0013】
好適な実施例の詳細な説明
ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)として知られる化学物質類に基づくナノ構造化学物質の構造表現が図1に示される。
【0014】
それらの特性は、セラミックス(熱的安定性及び酸化安定性)及びポリマー(加工性及び強靭性)の双方の好ましい多くの性質を有するユニークなハイブリッド(有機-無機の)組成物を包含する。加えて、それらは、適合性にする有機基R及び反応性基Xにより、外部から覆われる無機骨格を有する。ここで、Rは有機置換基(H、シロキシ、環状或いは直鎖脂肪族、芳香族基であり、追加的に、アルコール、エステル、アミン、ケトン、オレフィン、エーテル或いはハライドの如き反応性官能基を含んでもよい。)である。Xは、限定するものではないが、OH、Cl、Br、I、アルコキシド(OR)、アセテート(OOCR)、パーオキサイド(OOR)、アミン(NR)イソシアネート(NCO)及びRを包含する。この、周辺基と結合した無機骨格は、結合して、正確な立方体様構成単位を形成し、表面に適用されると、規則的で明確な表面トポロジーを与える。
【0015】
ナノ構造表面変性剤により与えられる特に有利な特性は、シランカップリング剤が単層方式で適用されたと仮定した場合と比べると、単一の分子が5倍の表面被覆率を提供することができることである。図2の実例で使用された寸法は、Rがシクロヘキシルである系に対する単結晶のX線データから取られているが、このことを支持するものである。
【0016】
巨視的表面(繊維、フィラー、粒子等)或いはナノスコピックな表面(ナノ粒子、フィラー)の両方に適用されたときにも、POSS化学物質は、真にナノスコピックな表面トポロジーを提供する。表面結合部位の数に応じて、POSS籠は、規則的なパターンで表面に集成し、ナノ構成単位の規則的なパターンを与える。我々は、POSS-シラノールが、最も費用対効果が良く、表面変性剤として利用するのに手頃なものであることを発見した。また、POSS-シラノールは、他の極性表面基(例えば、Si-OH)と容易に反応して、表面に熱的に安定な珪素-酸素結合を形成することから、好ましい。POSS-メルカプト及びPOSS-シランの種々な表面での集成が報告されてきている。
POSS-メルカプト系を使用する表面変性は、フィラーの分散性を助けると共に、それらの界面適合性を改善することから、有利であることが示されてきた。また、ナノ構造化学物質が表面に適用されると、多重長スケールの強化による利益が提供される。図3に示された実例は、10−9メートルというナノメートル寸法を有するPOSS表面変性剤により表面変性された巨視的フィラー表面(ミリからミクロン寸法(10−3から10−6メートル))の代表例である。このような方法で変性されたフィラー(或いは繊維)は、(粒子大きさによる)巨視的強化とPOSS表面処理によるナノスコピック強化の両方を提供することを可能とする。
【0017】
表面変性剤としてのPOSS-シラノールの追加的利点は、放出物がないことに由来する。POSS-シラノールのナノスコピックな大きさは、従来のシラン系及び有機系界面活性剤と比較して、不揮発性を与える。POSS-シラノールが本来有する安定性はユニークなものであり、それゆえ、従来のシランカップリング剤が表面に結合し接着する前に必然的に起こるアルコール或いは酸の如き揮発性有機成分のその場での産生及び放出を制限する。したがって、POSS-シラノールはまた、その低揮発性に基づき、より燃えにくく、放出物のない処理の利点を与えるものである。
【0018】
POSS-シラノールは、また、(ビニル、アミノ、エポキシ、メタクリル等の如き)反応基を、直接その籠(図4)に組み込むことによって、二つの異種タイプの材料を化学的に結合させることができる。この特性は、シランカップリング剤により与えられる広く知られた特性に類似するものである。
【0019】
ナノ構造POSS-シラノールによる表面変性
ナノ構造化学は、世界的なナノテクノロジートレンド(より小さく、より安価にそして分子制御)の一部であり、すべてのビジネス面及びビジネス製品に直接インパクトを与えるものである。
【0020】
繊維及び鉱物粒子の変性への単純で、費用対効果の良い取り組みは、これらの巨視的補強材の表面にナノ構造化学物質を適用することである。この取り組みは、有機シラン、カップリング剤、アンモニウム塩あるいはその他の表面変性剤による表面被覆に類似してはいる。しかしながら、ナノ構造化学物質による表面変性は、より効果的に適合性を向上し、湿気を妨害し、被覆構造を制御できるものであり、最終的に、被覆の耐久性と信頼性を改善するものである。
【0021】
多くのPOSSモノマー及び試薬が表面変性目的で開発されてきた。このようなシステムは、従来のシランカップリング剤のナノ構造類似物とみなすことができる。(図5)
POSS表面変性剤は溶液処理法、溶融噴霧法或いは蒸着法により鉱物、ガラス、金属、セラミック及びポリマー表面に適用されることができる。夫々のPOSS系の極性基(例、シラノール、シラン、アルコキシ等)は、フィラー表面への化学的付着点を供給し、一方、ナノ構造の残りの有機基は、表面疎水性を付与し、フィラーとポリマーマトリックスとを適合性にする(第2、3図参照)。付加的に、このように処理されたフィラーの表面は、今やナノスコピックなレベルでポリマーマトリックスと相互作用するのに適したものとなり、こうして、ナノスコピックな、並びに巨視的な、ポリマー鎖の強化をもたらす。その結果得られたマルチ規模の強化は、従来の巨視的強化に対して、より広範な機能と価値を提供するものである。
【0022】
POSS技術による金属の表面処理は、高温においてさえ良好な耐腐食性を付与することが示され、一方、POSSによる鉱物処理は、湿分吸収を低減し、分散性を改善することが示された。
【0023】
従来のシランカップリング剤(例、RSiX)は、典型的には1つのR基を保持し、加水分解しやすい3つの官能基(例、X=Cl、OCH)を含有する。0.25%の希釈溶液から塗布されたカップリング剤は、8層の厚さまで表面被覆を堆積することができることが示されたという事実にもかかわらず、カップリング剤の表面被覆率は単層として示すのが普通である。このようなカップリング剤は、被覆されるべき表面に結合する前に、加水分解中にシラノール中間体種(例、RSi(OH))へと活性化されねばならないこともまた知られている。この活性化過程は、塩化水素やメタノールのような危険な揮発性有機成分の脱離を招来する。ナノ構造カップリング剤は、従来の「小分子」技術を超えて意義のある利点を提供する。図2は、「シラン単一層」の物理的寸法とナノ構造カップリング剤のそれとを比較したものである。夫々により被覆される領域の比較から、ナノ構造カップリング剤は、従来のシラン単一層と比較すると疎水性がはるかに大きくなり、表面被覆率が増加していることが明らかである。
【0024】
追加的な利益は、多官能性シランの多重層により産生されるランダム構造と対照的に、ナノ構造が明確な多面体構造を有すると仮定すると、より規則的な表面被覆率が達成可能となりう得るという事実を包含する。また、POSSシラノールは空気安定性で、無期限の貯蔵寿命を有し、そして処理すべき表面と直接に反応することができることから、POSSナノ構造は加水分解による活性化を必要としない。ナノ構造POSSシランカップリング剤の使用から得られる他の望ましい性質は、樹脂マトリックスの溶解特性と調和するように、ナノ構造上のR基を適合性にすることができる能力を包含する。追加的に、POSSシラノール系は、無溶媒法に適用することができ、それゆえ、揮発性有機成分(VOC)を含まず、したがって、従来のカップリング剤が呈するVOCの放出とそれへの暴露を解消するものである。
【表1】

【0025】
POSS化学物質によるインターカレーション/層剥離
POSS試薬及び分子状シリカは、また、鉱物特に層状珪酸塩の内部表面の被覆に適している。鉱物或いはその他多孔性鉱物に被覆として適用されると、POSS本体は、気体及び溶媒、モノマー、ポリマーのような他の分子の選択的出入りに対して、鉱物により大きな適合性を効果的に付与する。POSSシラノール及び非反応性分子状シリカは、共に、同様の能力で、層状珪酸塩の内部層間に入ることができ、同時に、層間へのスペーサー及び適合化剤として機能して、そのような材料に、重合可能なモノマー及びポリマー鎖によるインターカレションと層剥離に対するより大きな親和性を付与する。(図6)この適合性の向上は、POSSの籠の夫々の隅に位置する有機R基の適合化作用に直接由来するものである。これらR基の適合性を可能にする能力は、同類は同類を溶解するという原理に直接由来する。基本的原理は、同様の組成(或いは化学ポテンシャル)からなる物質は、異なる組成(或いは化学ポテンシャル)からなる物質と比べてより適合性があるということを単純に述べている。したがって、POSSの籠上のR置換基とポリマー鎖の炭化水素組成とを適切に対応させることにより、POSSは、珪酸塩及び同様の材料を有機的に変性することができ、それにより、それらを有機組成物と適合性にすることができる。
【0026】
POSSシラノールの、層状珪酸塩に効果的にインターカレートされ、最終的に層剥離する能力は、X線回折実験により立証された。X線回折技術は、積み重なった珪酸塩シート間の層間隔の高感度測定を与える。モンモリロナイトカリウム及びこの同じモンモリロナイトを2種の異なるPOSSトリシラノールで被覆したものについて、投射X線角に対する強度レベルのプロットが図7に示されている。
【0027】
モンモリロナイト(MMT)に対する未処理回折の最大値は、2Θ値7.14に対応するが、これは、層間間隔12.4Åに相当する。式[(EtSiO1.5)(Et(OH)SiO1.0)Σ7(EthylT7)或いは[(I-BuSiO1.5)(I-Bu(OH)SiO1.0)Σ7(isobutylT7)であるPOSSシラノールによるMMTの処理の結果、最大値は、(EthylT7)に対して2Θ値5.94に、(isobutylT7)に対し2Θ値5.86と、より低く移動する結果となったが、これは、夫々層間間隔14.96Å、15.10Åに相当する。
【0028】
[(EtSiO1.5)(Et(OH)SiO1.0)Σ7及び/又は[(I-BuSiO1.5)(I-Bu(OH)SiO1.0)Σ7ナノ構造の大体の寸法が約14Åであることを考慮すると、モンモリロナイトの珪酸塩層間の層間間隔の増加は、層間におけるPOSSの存在により増加されたと断言できる。層間に位置するPOSSは、珪酸塩とカリウム/ナトリウム対陽イオンを共に含有する内部表面に結合している。一旦層間がこのレベルで分離されると、いまだ内部表面に結合していないシラノールを持たないPOSS本体が層間内に入ることも物理的に可能となる。式[(RSiO1.5)Σ#であるPOSS分子状シリカ及びPOSSモノマーは、このような非結合の浸透剤/層剥離剤の例である。(EthylT7)に対する2Θ=8.72及び(isobutylT7)系での2Θ=8.65の位置での追加的な回折の最大値は、これらのPOSSシラノールが、モンモリロナイトシートの外側端部及び表面にもまた存在することを示している。
【0029】
適用方法及び処理方法
POSSシラノール、分子状珪酸塩及びPOSS樹脂は、天然には低融点固体及び高融点固体また油として存在する。それらは、また、芳香族、炭化水素、ハロゲン化物系を含む広範囲の通常の溶媒及びスチレン、アクリル系、歪のある及び歪みのない環状オレフィン、グリシダール、エステル、アルコール及びエーテルを包含する種々の有機モノマーに対して高溶解度を呈する。これらの溶融及び溶解能力により、スラリー法、スピンコート法、塗布法、噴霧法、流動法及び蒸着法を包含する通常の全被覆技術を使用し、適用することが可能となる。
【0030】
典型的な溶媒を使用する適用方法は、POSS本体を0.1重量%〜99重量%レベルの所望の溶媒に溶解し、この溶液を被覆されるべき所望の材料或いは表面に接触させることを包含する。溶液は、その後典型的には蒸発により除去され、過剰のPOSSは、物理的拭取り或いは追加的溶媒での洗浄によって、材料或いは表面から除去される。表面に吸収された材料の量は、POSSの組成、表面のタイプ及び適用方法により異なるであろう。種々の材料表面へのPOSSシラノールの典型的負荷は、以下第2表に示されている。
【表2】

【0031】
表面被覆及び抽出研究
材料表面に一旦適用されるとPOSSシラノールは、良好な接着と耐久性を示すことが判明した。しかしながら、接着は処理直後の材料或いは表面を穏やかに加熱することにより更に向上させることができる。例えば、120℃程度の温度での加熱は、多分POSSシラノールの反応性珪素-酸素基を有する極性表面基の結合を加速することにより、POSSシラノールの結合を向上させる。表3は、加熱処理前後の種々のPOSSシラノールで被覆された、選択された材料の抽出データを含む。
【表3】

【0032】
実施例
溶媒を使用する適用方法
イソオクチルPOSSトリシラノール(100g)が400mlジクロルメタンに溶解された。この混合物に、500gのモンモリロナイトが加えられた。混合物は、その後室温で30分間撹拌された。揮発性溶媒はその後除去され、真空下回収された。可燃性炭化水素に代えて、二酸化炭素のような超臨海流体も使用することができることも留意されるべきである。得られた自由流動性の固体は直接使用されてもよいし、使用前に約120℃の穏やかな加熱処理に供されてもよい。所望であれば、加熱処理された材料は、その後ジクロロメタンですすがれ、未結合の微量の材料が除去される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】POSSナノ構造化学物質の分析を示す。
【図2】単層として表面に適用された従来のシラン(左)及び単層として適用されたナノ構造カップリング剤との物理的寸法の関係を示す。
【図3】巨視的表面のPOSS表面変性により付与されたマルチレンクス規模の強化(ナノ-マクロ)を示す。
【図4】Rがポリマーとの結合に適した官能基である、POSSシラノールカップリング剤の構造例を示す。
【図5】POSS-モノ、ジ、及びトリシラノール、POSS-シロキサイド、POSS-ハライド及びPOSS-樹脂を含有するナノ構造表面変性剤の実例を示す。
【図6】POSSによる、2枚の珪酸塩シートのインターカレートと層剥離の代表例を示す。
【図7】モンモリロナイトカリウム(MMT)及びPOSSシラノールで層剥離されたMMTの選択されたX線回折最大値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト、合成珪酸塩、天然珪酸塩、シリカ、アルミナ、鉱物、天然繊維、人造繊維、ガラス及び金属繊維からなる群より選ばれた基材に対して、ナノスコピックな表面特性を導入する方法であって、ナノ構造化学物質で基材を被覆することを含む方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、基材が、ナノ構造化学物質の混合物で被覆される方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、ナノ構造化学物質が、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、及びそれらのポリマーからなる群より選ばれるものである方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法であって、ナノ構造化学物質が、基材にインターカレートされる方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法であって、ナノ構造化学物質が、基材を層剥離する方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法であって、基材が、溶媒を使用しない技術で被覆される方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法であって、溶媒を使用しない技術が、溶融状態処理である方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法であって、基材が、溶媒を使用する技術を使って被覆される方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法であって、溶媒を使用する技術が、噴霧処理技術、流動処理技術及び混合処理技術からなる群より選ばれるものである、方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法であって、基材が、超臨界流体を使用する技術を使って被覆される方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法であって、超臨界流体を使用する技術が、噴霧処理技術、流動処理技術及び混合処理技術を含む方法
【請求項12】
ゼオライト、合成珪酸塩、天然珪酸塩、シリカ、アルミナ、鉱物、天然繊維、人造繊維、ガラス及び金属繊維からなる群より選ばれる基材粒子と、前記粒子を被覆するナノ構造化学物質とを含有する組成物。
【請求項13】
請求項12記載の組成物であって、ナノ構造化学物質が、POSS-シラノール、式[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ7のシロキサイド、ポリシルセスキオキサン[(RSiO1.5)Σ#及びPOSS断片[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ#からなる群の構成要素由来のものである組成物。
【請求項14】
請求項13記載の組成物であって、ナノ構造化学物質が、式[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ7(ここで、Xは、OH或いはORである。)のシロキサイドである組成物。
【請求項15】
請求項12記載の組成物であって、前記群は、合成珪酸塩、天然珪酸塩及びシリカからなるものであり、基材粒子が、ナノ構造化学物質によりインターカレートされ或いは層剥離されている組成物。
【請求項16】
請求項15記載の組成物であって、ナノ構造化学物質が、POSS-シラノール、式[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ7のシロキサイド、ポリシルセスキオキサン[(RSiO1.5)Σ#、POSS断片[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ#及び非官能化[(RSiO1.5)(RXSiO1.5)Σ#POSS分子状シリカからなる群の構成要素由来のものである組成物。
【請求項17】
請求項16記載の組成物であって、ナノ構造化学物質が、式[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ7のシロキサイドであり、Xは、OH或いはORである組成物。
【請求項18】
請求項1記載の方法であって、ナノ構造化学物質が、基材に反応して結合するものである方法。
【請求項19】
請求項1記載の方法であって、ナノ構造化学物質が、基材に反応せずに結合するものである方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2008−530257(P2008−530257A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553305(P2007−553305)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/003120
【国際公開番号】WO2006/081512
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(506207473)ハイブリッド・プラスティックス・インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】