説明

ポリペグ化されたプロテアーゼインヒビター

【課題】ポリペグ化されたプロテアーゼインヒビターを提供する。
【解決手段】(i)プロテアーゼに結合して、それを阻害するKunitzドメインを含む、Kunitzドメインポリペプチド、および(ii)Kunitzドメインポリペプチドに結合した複数のポリエチレングリコール部分を含む化合物。Kunitzドメインポリペプチドの接触可能な各第一級アミンは、前記部分の一つに結合することができる。上記化合物は、12、14または16kDaの分子量を有し、各非タンパク質部分の平均分子量は、約4、5、6、7または8kDaである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許出願番号第60/498,845号(2003年8月29日出願)および米国特許出願番号第60/598,967号(2004年8月4日出願)の優先権を主張する。
【0002】
(背景)
本発明は、改変されたプロテアーゼインヒビターに関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
化合物であって、該化合物は、以下:
(i)プロテアーゼに結合して、これを阻害するKunitzドメインを含む、Kunitzドメインポリペプチド;および
(ii)該Kunitzドメインポリペプチドに結合した複数のポリエチレングリコール部分であって、ここで、該各部分の各々の平均分子量が12kDaよりも小さく、かつ、該Kunitzドメインポリペプチドの接触可能な各第一級アミンが、該部分の一つに結合している、化合物。
(項目2)
前記部分の各々の平均分子量が8kDaよりも小さい、項目1に記載の化合物。
(項目3)
各部分が、3〜8kDaの間の分子量を有する、項目1に記載の化合物。
(項目4)
前記Kunitzドメインポリペプチドが8kDaよりも小さい分子量を有し、かつ、前記化合物は、16kDaより大きい分子量を有する、項目1に記載の化合物。
(項目5)
前記複数のポリエチレングリコール部分が、4つまたは5つの部分からなり、各々が、異なる接触可能な第一級アミンに結合している、項目1に記載の化合物。
(項目6)
各リジンが前記複数部分の一つに結合している、項目1に記載の化合物。
(項目7)
前記Kunitzドメインポリペプチドが、N末端第一級アミンを含み、各リジンおよび該N末端第一級アミンが、前記部分の一つに結合している、項目6に記載の化合物。
(項目8)
前記Kunitzドメインポリペプチドが、該Kunitzドメイン結合ループの中にリジンを含まない、項目1に記載の化合物。
(項目9)
前記Kunitzドメインポリペプチドが、該Kunitzドメインのフレームワーク領域の中に少なくとも2つのリジンを含む、項目1に記載の化合物。
(項目10)
前記Kunitzドメインポリペプチドが、該Kunitzドメインのフレームワーク領域の中に3つのリジンを含む、項目1に記載の化合物。
(項目11)
前記Kunitzドメインポリペプチドが、該Kunitzドメインのフレームワーク領域の中に4つのリジンを含む、項目10に記載の化合物。
(項目12)
前記Kunitzドメインポリペプチドが、ヒトKunitzドメインの対応する領域と同一のフレームワーク領域を含む、項目1に記載の化合物。
(項目13)
前記Kunitzドメインポリペプチドが、LACI KunitzドメインまたはITI Kunitzドメインにおける対応する残基と同一のフレームワーク領域を含む、項目12に記載の化合物。
(項目14)
前記プロテアーゼがエラスターゼである、項目1に記載の化合物。
(項目15)
Kunitzドメインポリペプチドが、DX−890のアミノ酸配列、またはDX−890と少なくとも1個は異なるが、アミノ酸の変化が6個よりは少ない配列を含む、項目14に記載の化合物。
(項目16)
前記Kunitzドメインポリペプチドが、DX−890の結合ループのアミノ酸配列を含む、項目14に記載の化合物。
(項目17)
前記プロテアーゼがカリクレインである、項目1に記載の化合物。
(項目18)
Kunitzドメインポリペプチドが、DX−88のアミノ酸配列、またはDX−88と少なくとも1個は異なるが、アミノ酸の変化が6個よりは少ない配列を含む、項目17に記載の化合物。
(項目19)
Kunitzドメインポリペプチドが、DX−88の結合ループのアミノ酸配列を含む、項目17に記載の化合物。
(項目20)
前記プロテアーゼがプラスミンである、項目1に記載の化合物。
(項目21)
Kunitzドメインポリペプチドが、DX−1000のアミノ酸配列、またはDX−1000と少なくとも1個は異なるが、アミノ酸の変化が6個よりは少ない配列を含む、項目20に記載の化合物。
(項目22)
Kunitzドメインポリペプチドが、DX−1000の結合ループのアミノ酸配列を含む、項目20に記載の化合物。
(項目23)
プロテアーゼに特異的に結合して、これを阻害するKunitzドメインポリペプチドを含む調製物であって、ここで、該調製物中の該Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%が、(i)該プロテアーゼに結合して、これを阻害し、そして、(ii)第一の共通部位で結合しているポリエチレングリコール部分、および第二の共通部位で結合しているポリエチレングリコール部分を有し、ここで、該結合している各ポリエチレングリコール部分の平均分子量が12kDaよりも小さい、調製物。
(項目24)
前記結合している各ポリエチレングリコール部分の平均分子量が10kDaよりも小さい、項目23に記載の調製物。
(項目25)
前記結合している各ポリエチレングリコール部分の平均分子量が8kDaよりも小さい、項目24に記載の調製物。
(項目26)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも95%が、第一の共通部位で結合しているポリエチレングリコール部分および第二の共通部位で結合しているポリエチレングリコール部分を有する、項目23に記載の調製物。
(項目27)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%が、さらに第三の共通部位で結合しているポリエチレングリコール部分を有する、項目23に記載の調製物。
(項目28)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%が、さらに第三の共通部位で結合しているポリエチレングリコール部分および第四の共通部位で結合しているポリエチレングリコール部分を有する、項目23に記載の調製物。
(項目29)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%が、第三の共通部位で結合しているポリエチレングリコール部分、第四の共通部位で結合しているポリエチレングリコール部分、および第五の共通部位で結合しているポリエチレングリコール部分を有する、項目23に記載の調製物。
(項目30)
前記調製物中の各Kunitzドメインポリペプチドが、前記プロテアーゼに結合して、これを阻害する、項目23に記載の調製物。
(項目31)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの95%が、前記プロテアーゼに結合して、これを阻害する、項目23に記載の調製物。
(項目32)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%が、各接触可能な第一級アミンに結合したポリエチレングリコール部分を有する、項目23に記載の調製物。
(項目33)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%について、各リジンが前記部分の一つに結合している、項目32に記載の調製物。
(項目34)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%について、各リジンおよびN末端第一級アミンが前記部分の一つに結合している、項目32に記載の調製物。
(項目35)
第一の共通部位がN末端第一級アミンであって、第二の共通部位がリジンである、項目23に記載の調製物。
(項目36)
前記プロテアーゼに特異的に結合して、これを阻害する前記Kunitzドメインポリペプチドが、該Kunitzドメイン結合ループの中にリジンを含まない、項目23に記載の調製物。
(項目37)
前記プロテアーゼに特異的に結合して、これを阻害する前記Kunitzドメインポリペプチドが、該Kunitzドメインのフレームワーク領域の中に少なくとも2つのリジンを含む、項目23に記載の調製物。
(項目38)
前記プロテアーゼに特異的に結合して、これを阻害する前記Kunitzドメインポリペプチドが、該Kunitzドメインのフレームワーク領域の中に3つのリジンを含む、項目23に記載の調製物。
(項目39)
前記プロテアーゼに特異的に結合して、これを阻害する前記Kunitzドメインポリペプチドが、該Kunitzドメインのフレームワーク領域の中に4つのリジンを含む、項目23に記載の調製物。
(項目40)
前記プロテアーゼに特異的に結合して、これを阻害する前記Kunitzドメインポリペプチドが、ヒトKunitzドメインの対応する領域と同一のフレームワーク領域を含む、項目23に記載の調製物。
(項目41)
前記プロテアーゼに特異的に結合して、これを阻害する前記Kunitzドメインポリペプチドが、LACI KunitzドメインまたはITI Kunitzドメインと同一のフレームワーク領域を含む、項目23に記載の調製物。
(項目42)
前記プロテアーゼがエラスターゼである、項目23に記載の調製物。
(項目43)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%について、該ポリペプチドが、DX−890のアミノ酸配列またはDX−890と少なくとも1個は異なるが、アミノ酸の変化が6個よりは少ない配列を含む、項目42に記載の調製物。
(項目44)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%について、該ポリペプチドが、DX−890の結合ループのアミノ酸配列を含む、項目42に記載の調製物。
(項目45)
前記プロテアーゼがカリクレインである、項目23に記載の調製物。
(項目46)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%について、該ポリペプチドが、DX−88のアミノ酸配列またはDX−88と少なくとも1個は異なるが、アミノ酸の変化が6個よりは少ない配列を含む、項目45に記載の調製物。
(項目47)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%について、該ポリペプチドが、DX−88の結合ループのアミノ酸配列を含む、項目45に記載の調製物。
(項目48)
前記プロテアーゼがプラスミンである、項目23に記載の調製物。
(項目49)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%について、該ポリペプチドが、DX−1000のアミノ酸配列またはDX−1000と少なくとも1個は異なるが、アミノ酸の変化が6個よりは少ない配列を含む、項目48に記載の調製物。
(項目50)
前記調製物中の前記Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%について、該ポリペプチドが、DX−1000の結合ループのアミノ酸配列を含む、項目48に記載の調製物。
(項目51)
プロテアーゼに特異的に結合して、これを阻害するKunitzドメインポリペプチドを含む調製物であって、ここで、該調製物中の該Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%が、(i)該プロテアーゼに結合して、これを阻害し、そして(ii)該Kunitzドメインに結合している複数のポリエチレングリコール部分を有し、ここで、該結合したポリエチレングリコール部分の各々の平均分子量が12kDaよりも小さい、調製物。
(項目52)
DX−890のアミノ酸配列を含むKunitzドメインポリペプチドを含む調製物であって、ここで、該調製物中の前記DX−890含有Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%が、該ポリペプチドの4つのリジン残基のそれぞれおよびN末端に結合しているポリエチレングリコール部分を有する、調製物。
(項目53)
DX−88のアミノ酸配列を含むKunitzドメインポリペプチドを含む調製物であって、ここで、該調製物中の前記DX−88含有Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%が、該ポリペプチドの3つのリジン残基のそれぞれおよびN末端に結合しているポリエチレングリコール部分を有する、調製物。
(項目54)
DX−1000のアミノ酸配列を含むKunitzドメインポリペプチドを含む調製物であって、ここで、該調製物中の前記DX−1000含有Kunitzドメインポリペプチドの少なくとも80%が、該ポリペプチドの3つのリジン残基のそれぞれおよびN末端に結合しているポリエチレングリコール部分を有する、調製物。
(項目55)
ペグ化Kunitzドメインを提供する方法であって、該方法は、以下:
該Kunitzドメインのフレームワーク領域の中に少なくとも1つのリジンを有するKunitzドメインを含むポリペプチドを提供する工程、および
該ポリペプチドを、12kDaよりも小さい平均分子量の活性化ポリエチレングリコールと、複数のポリエチレングリコール部分が該ポリペプチドに結合しており、その少なくとも1つがリジンに結合しており、かつ少なくとも1つがN末端第一級アミンに結合しているという条件下で接触させる工程を包含する、方法。
(項目56)
ペグ化Kunitzドメインを提供する方法であって、該方法は、以下:
Kunitzドメインのフレームワーク領域の中に少なくとも2つの第一級アミン基を有するKunitzドメインを含むポリペプチドを提供する工程、および
該ポリペプチドを、12kDaよりも小さい平均分子量の活性化ポリエチレングリコールと、複数のポリエチレングリコール部分が該ポリペプチドに結合しているという条件下で接触させる工程を包含する、方法。
(項目57)
前記フレームワークが少なくとも2つのリジンを含む、項目56に記載の方法。
(項目58)
前記ポリペプチドの各リジンの第一級アミンが、ポリエチレングリコール部分に結合している、項目57に記載の方法。
(項目59)
收率が40%よりも高い、項目56に記載の方法。
(項目60)
各接触可能な第一級アミンがPEG部分に結合している、項目56に記載の方法。
(項目61)
前記接触のための条件が7.5よりも高いpHである、項目56に記載の方法。
(項目62)
複数のポリペプチドが提供され、また該複数のペプチドの各々が、リジンである第一の共通部位でポリエチレングリコール部分に結合するようになり、N末端第一級アミンである第二の共通部位で結合するようになる項目56に記載の方法。
(項目63)
前記条件が、少なくとも70%の前記分子が、各接触可能な第一級アミン上でペグ化されるという条件である、項目56に記載の方法。
(項目64)
前記条件が、少なくとも85%の前記分子が、各接触可能な第一級アミン上でペグ化されるという条件である、項目56に記載の方法。
(項目65)
前記条件が、ペグ化された分子の少なくとも70%が、同数の結合PEG部分を有し、該部分が同じ位置に結合しているという条件である、項目56に記載の方法。
(項目66)
前記条件が、ペグ化された分子の少なくとも85%が、同数の結合PEG部分を有し、該部分が同じ位置に結合していることである、項目65に記載の方法
(項目67)
前記ペグ化ポリペプチドを薬学的組成物として処方する工程をさらに包含する、項目56に記載の方法。
(項目68)
過剰または望ましくないプロテアーゼの活性により特徴付けられる障害を処置する方法であって、該方法は、該障害を有するか、該障害を有すると疑われている被験体に、項目1に記載の調製物を含む薬学的組成物を投与する工程を包含し、ここで、該調製物のKunitzドメインポリペプチドは、該プロテアーゼを阻害する、方法。
(項目69)
前記プロテアーゼがエラスターゼであり、前記Kunitzドメインポリペプチドが、DX−890のアミノ酸配列またはDX−890と少なくとも1個は異なるが、アミノ酸の変化が6個よりは少ない配列を含む、項目68に記載の方法。
(項目70)
前記障害が嚢胞性線維症、COPDまたは炎症性障害である、項目69に記載の方法。
(項目71)
前記プロテアーゼがカリクレインであり、前記Kunitzドメインポリペプチドが、DX−88のアミノ酸配列またはDX−88と少なくとも1個は異なるが、アミノ酸の変化が6個よりは少ない配列を含む、項目68に記載の方法。
(項目72)
前記障害が血友病、術後出血、周術期出血または遺伝性血管浮腫である、項目71に記載の方法。
(項目73)
前記プロテアーゼがプラスミンであり、前記Kunitzドメインポリペプチドが、DX−1000のアミノ酸配列、またはDX−1000と少なくとも1個は異なるが、アミノ酸の変化が6個よりは少ない配列を含む、項目68に記載の方法。
(項目74)
前記障害が線維素溶解または線維素原溶解、血栓溶解に伴う過剰出血、術後出血、周術期出血および不適切な雄核発生である、項目73に記載の方法。
(項目75)
調製物であって、該調製物は、以下:
(i)プロテアーゼに結合して、これを阻害するKunitzドメインを含むKunitzドメインポリペプチド、および
(ii)該Kunitzドメインポリペプチドに結合した複数のポリエチレングリコール部分
を含み、ここで、該部分の各々の平均分子量が12kDaよりも小さい、調製物。
(項目76)
前記Kunitzドメインの少なくとも50%が、2つ以上の部位に結合しているポリエチレングリコール部分を有し、該ポリエチレングリコール部分の各々の平均分子量が12kDaよりも小さい、項目75に記載の調製物。
(項目77)
前記Kunitzドメインの少なくとも50%が、3つ以上の部位に結合しているポリエチレングリコール部分を有し、該ポリエチレングリコール部分の各々の平均分子量が12kDaよりも小さい、項目76に記載の調製物。
(項目78)
前記Kunitzドメインの少なくとも50%が、4つ以上の部位に結合しているポリエチレングリコール部分を有し、該ポリエチレングリコール部分の各々の平均分子量が12kDaよりも小さい、項目76に記載の調製物。
(項目79)
過剰または望ましくないプロテアーゼの活性によって特徴付けられる障害を処置する方法であって、該障害を有するか、該障害を有すると疑われている被験体に、項目75に記載の調製物を含む薬学的組成物を投与する工程を包含し、ここで、該調製物のKunitzドメインポリペプチドが該プロテアーゼを阻害する、方法。
(要旨)
一つの態様において、本発明は、a)プロテアーゼに特異的に結合し、そして/またはそれを阻害するKunitzドメインを含むポリペプチド、およびb)上述のペプチドに物理的に結合して、上述の化合物の分子量を増加させる複数の非タンパク質部分を含む化合物を特徴とする。「ポリペグ化されたKunitzドメイン」という用語は、本明細書においては、上記の化合物を意味する。一般的に、ポリペグ化されたKunitzドメインの非タンパク質部分はポリエチレングリコールを含む。
【0004】
上述の化合物(すなわち、ポリペプチドに複数の非タンパク質部分が加わったもの)は、12、14または16kDaの分子量を有する。一つの実施態様において、各非タンパク質部分の平均分子量は、3から20kDa、3から12kDa、3から10kDa、3から8kDa、4から6kDaであり、例えば、約4、5、6、7または8kDaである。
【0005】
結合および/または阻害されるプロテアーゼは、例えば、エラスターゼ(例えば、ヒト好中球エラスターゼ(hNE))、プラスミン、カリクレインまたはその他のプロテアーゼ、(例えば、本明細書に記載のプロテアーゼなど)がありうる。例えば、上述のプロテアーゼはセリンプロテアーゼでもよい。
【0006】
一つの実施態様において、非タンパク質部分は、Kunitzドメイン上のそれぞれの利用可能な第一級アミン(例えば、N末端の第一級アミンおよび溶媒に接触可能な第一級アミン(例えば、Kunitzドメイン中のリジン側鎖の接触可能な第一級アミン))に結合している。例えば、すべての可能な第一級アミンが、非タンパク質部分の一つに結合している。Kunitzドメインは、少なくとも1個、2個、3個または4個のリジンを有することが可能である。例えば、Kunitzドメインは、ただ1、2、3、4または5個のリジンを有することができる。一つの実施態様において、このポリペプチドは、N末端第一級アミンを有する。別の実施態様において、このポリペプチドは、N末端第一級アミンを含まない(例えば、このポリペプチドは、そのN末端の第一級アミンを、例えば非高分子化合物によって化学的に修飾されて、その位置に第一級アミンを含まなくなることがある)。
【0007】
非タンパク質部分は、ポリペプチド中の2個以上の第一級アミンに結合することが可能である。例えば、すべてのリジン、または、溶媒に接触可能な第一級アミンを有するリジンのすべてが、非タンパク質部分に結合している。好ましくは、Kunitzドメインは、その結合ループの内部、例えば、BPT1の11〜21番目のアミノ酸、およびBPT1の31〜42番目のアミノ酸に相当する残基付近にリジンを含まない。このような結合ループの中にあるリジンは、例えばアルギニン残基と置換することができる。例えば、ポリペプチドは、ポリマーの少なくとも3個の分子に結合している。ポリペプチドの各リジン、または、1個、2個または3個以上のリジンが、ポリマーの1分子に結合することが可能である。別段の記載がない限り、例えば、特定のリジンの第一級アミンまたはN末端にある第一級アミンが改変されているかまたは、非タンパク質部分を結合していると言うときは、ある調製物中のすべての分子上の上述の特定第一級アミンの位置が、そのように改変されているわけではないと解される。本発明の範囲内であるために、調製物が完全に均質である必要はない。均質であることが望ましい実施態様もあるが、絶対にそうである必要はない。好適な実施態様において、改変されているとされる第一級アミンの少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%または100%が、それに非タンパク質部分を結合させている。しかし、別の実施態様は、ほとんどの分子、例えば、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%または100%が、2つ以上の部位でペグ化されているが、調製物中の分子上のその部位(場合によっては、改変された部位の数)は変動するという分子種の混合物を含む調製物を含む。例えば、いくつかの分子は、改変されたリジンA、BおよびDを有するが、他の分子は、改変された、アミノ酸末端およびリジンA、B、CおよびDを有する。
【0008】
一つの実施態様において、非タンパク質部分は、例えば、実質的に均質のポリマーなど、親水性のポリマーを含む。ポリマーは、分枝していてもしていなくてもよい。例えば、ポリマー部分は、分子量(例えば、化合物に付加された部分の平均分子量)が、20、18、15、12、10、8、7、もしくは6よりも小さいか、または少なくとも1.5、2、2.5、3、5、6、10kDa、例えば、約5kDaである。一つの実施態様において、化合物上のPEG部分の分子量の合計は、少なくとも15、20、25、30または35kDaおよび/または、60、50、40、35、30、25または23kDaよりも小さい。
【0009】
一つの実施態様において、ポリマーはポリアルキレンオキシドである。例えば、ポリマーのコポリマー構成単位(ブロック:block)の少なくとも20%、30%、50%、70%、80%、90%または95%がエチレングリコールである。一つの実施態様において、ポリマーはポリエチレングリコールである。
【0010】
一つの実施態様において、化合物は以下の構造を有する:
P−X−[(CR’R”)−X−(CH−X−R
ただし、式中、Pはポリペプチドであり、
R’およびR”のそれぞれは、互いに独立してH、C−C12アルキル基であり、
は、O、N−R、Sまたは無であるが、ここで、Rは、H、C−C12アルキル基またはアリール基であり、
は、O、N−R、Sであるが、ここで、Rは、H、アルキル基またはアリール基であり、
は、O、N−R、Sまたは無であり、ここで、Rは、H、アルキル基またはアリール基であり、
各nは1から5まで、例えば2であり、
aは4以上であり、
mは0から5までであり、
は、HまたはC−C12アルキル基またはアリール基であり、
R’およびR”はHでもよい。一つの実施態様において、R’またはR”は互いに独立して、H、C1−C4、C1−C6またはC1−C10アルキル基である。
【0011】
一つの実施態様において、化合物は以下の構造を有する:
P−X−[CHCHO]−(CH−X−R
ただし、式中、Pはポリペプチドであり、
aは4以上であり、
mは0から5までであり、
は、O、N−R、Sまたは無であるが、ここで、Rは、H、アルキル基またはアリール基であり、
は、O、N−R、Sまたは無であるが、ここで、Rは、H、アルキル基またはアリール基であり、そして
は、H、C−C12アルキル基またはアリール基である。例えば、XはO、そしてRはCHである(mPEGを使用することが好適である)。
【0012】
一つの実施態様において、Kunitzドメインポリペプチドは分子量が14、8または7kDaより小さい。一つの実施態様において、Kunitzドメインポリペプチドは、Kunitzドメインを一つだけ含む。一般に、上述の化合物は、Kunitzドメインを一つだけ含むが、いくつかの実施態様においては、一つより多くを含むことができる。
【0013】
一つの実施態様において、Kunitzドメインは、DX−890、DX−88もしくはDX−1000のアミノ酸配列または、DX−890、DX−88もしくはDX−1000のアミノ酸配列と1個以上は異なるが、6、5、4、3または2個よりも少ないアミノ酸の差異(例えば、置換、挿入または欠失)をもつアミノ酸配列を含む。一般的に、Kunitzドメインは、天然ではヒトに存在しない。Kunitzドメインは、ヒトのKunitzドメインとのアミノ酸の違いが10、7または4個よりも少ないアミノ酸配列を含むことができる。
【0014】
一つの実施態様において、上述の化合物のK値は、エラスターゼに対する非改変ポリペプチドのK値の0.5から1.5、0.8から1.2、0.3から3.0、0.1から10.0または0.02から50.0の因数内にある。例えば、hNEに対するK値は、100、50、18、12、10または9pMより小さいことがあり得る。
【0015】
一つの実施態様において、上述の化合物は、ウサギまたはマウスのモデルにおいて、上述のポリマーを含まない実質的に同一の化合物よりも少なくとも1.5、2、4または8倍長い最長寿命成分の循環半減期(「最長相循環半減期(longest phase circulatory half life)」)を有する。上述の化合物は、ウサギまたはマウスのモデルにおいて、非タンパク質部分を含まない実質的に同一の化合物より少なくとも1.5、2、2.5または4倍大きい幅の最長相循環半減期を有することも可能である。上述の化合物は、ウサギまたはマウスモデルにおいて、非タンパク質部分を含まない実質的に同一の化合物よりも少なくとも20、30、40または50%狭い幅のアルファ相循環半減期を有することも可能である。例えば、上述の化合物は少なくとも40、45、46、50、53、54、60または65%という幅の最長相循環半減期を有する。一つの実施態様において、上述の化合物はマウスまたはウサギのモデルにおいて、少なくとも2、3、4、5、6または7時間のベータ相循環半減期を有する。一つの実施態様において、上述の化合物は体重70kgのヒトにおいて、少なくとも6時間、12時間、24時間、2日間、5日間、7日間または10日間という最長相循環半減期を有する。一つの実施態様において、上述の化合物はウサギモデルにおいて、少なくとも4200分間、4700分間または4980分間(すなわち、およそ83時間)という最長相循環半減期を有する。一つの実施態様において、上述の化合物は同じKunitzドメインを有する類似サイズの分子よりも長い最長相循環半減期を有するが、単一PEG部分(すなわち、同じKunitzドメインのモノペグ化型)を一つ有するのみである。最長相半減期は少なくとも5、10、20、30または50%長いこともあり得る。一つの実施態様において、マウスでは、最長相循環半減期は50、55、60または65%より大きな幅を有する。最長相半減期は、例えば550、600、700、750、900、1000、1100分間より大きいことがあり得る。
一つの実施態様において、上述の化合物は、その非タンパク質部分を含まないポリペプチドと比べて、5と8との間のpHかつ0.5M NaClのイオン強度未満のイオン強度を有する水溶液の中で溶解度が高い(例えば1.5倍、2倍、4倍または8倍よりも高い)。
【0016】
一つの実施態様において、ポリエチレングリコールは、モノメトキシ−PEGプロピオンアルデヒドまたはモノメトキシ−PEGサクシニミジルプロピオン酸をポリペプチドに結合する。上述の化合物は、リジン側鎖上にある接触可能なアミノ基、およびN末端にあるアミノ基への結合を可能にするpHで、mPEG(CH‐(O‐CH‐CH‐)を連結して形成することができる。
【0017】
別の局面において、本発明は、(1)DX−890、DX−88もしくはDX−1000のアミノ酸配列または、DX−890、DX−88もしくはDX−1000のアミノ酸配列と1個以上は異なるが、6、5、4、3または2個よりも少ないアミノ酸の差異(例えば、置換、挿入または欠失)を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、および(2)複数のポリエチレングリコール部分を含む化合物を特徴とする。各ポリエチレングリコール部分は分子量が20、19、18、15、12、11、10、9、8、7または6kDaより小さいことが可能であり、結合している。各ポリエチレン部分は一重共有結合によって上述のポリペプチドに結合することが可能である。
【0018】
一つの実施態様において、ポリエチレングリコールの1分子は、例えば、ポリペプチドが1個より多いリジン、例えば2個、3個または4個のリジンを含む場合に、上述のポリペプチドの各リジン側鎖に結合する。例えば、上述のポリペプチドはDX−890のアミノ酸配列と同一であり、ポリエチレングリコールの1分子は、DX−890の4つのリジン側鎖のそれぞれに、場合によってはN末端にも結合する。別例において、上述のポリペプチドは、DX−88またはDX−1000のアミノ酸配列と同一であり、ポリエチレングリコールの1分子は、DX−88またはDX−1000の3つのリジン側鎖のそれぞれに、場合によってはN末端にも結合している。一つの実施態様において、ポリエチレングリコールの上述の分子は、分子量が4から12kDaである。一つの実施態様において、上述のポリエチレングリコールはN末端および接触可能な各リジン側鎖に結合している。
【0019】
一つの実施態様において、上述のアミノ酸配列は、DX−890のアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なっている。上述のアミノ酸配列は、BPTI配列番号によれば、5、13、14、16、17、18、19、30、31、32、34、38、39、51、および55番目に対応する一つ以上の位置(例えば、2、3、5、7、10、12、13、14個または全部の位置)で、DX−890のアミノ酸配列と同一である。
【0020】
別の態様において、本発明は、特異的にプロテアーゼに結合して、これを阻害するKunitzドメインポリペプチドを含む調製物を特徴とする。調製物中のKunitzドメインポリペプチドの少なくとも40、50、70、80、85、90、92、95、97、98、99または99.5%は、(i)プロテアーゼに結合してこれを阻害し、(ii)第一の共通部位で結合したポリエチレングリコール部分と第二の共通部位で結合したポリエチレングリコール部分とを有する。典型的には、各結合ポリエチレングリコール部分の平均分子量は12、10または8kDaより小さい。一つの実施態様において、Kunitzドメインポリペプチドの所定の集団はさらに、第三の共通部位で結合したポリエチレングリコール部分と第四の共通部位で結合したポリエチレングリコール部分とを有する。例えば、Kunitzドメインポリペプチドの所定の集団は、接触可能な各第一級アミンおよび/またはN末端の第一級アミンに結合したポリエチレングリコール部分を有する。
【0021】
一つの実施態様において、調製物中の各Kunitzドメインポリペプチドはプロテアーゼに結合してこれを阻害する。例えば、所定集団のメンバーでないKunitzドメインポリペプチドも、プロテアーゼ、例えば同一または異なるプロテアーゼに結合してこれを阻害する。
【0022】
上述の集団のKunitzドメインポリペプチドは、例えば本明細書記載の他の特徴を含むことができる。
【0023】
本発明は、また、本明細書に記載されている化合物、例えば上記の化合物を含む調製物も特徴とする。例えば、上述の化合物は、1ミリリットルあたり少なくとも0.1、1、2または5mgの濃度で、例えばpH6から8の溶液中に存在する。一つの実施態様において、上述の化合物は、サイズ排除クロマトグラフィーで、注射剤に対して上述の化合物を70%以上含む主要なピークを生じる。一つの実施態様において、上述の化合物の種の95%の分子量は、上述の化合物の平均分子量である5、4、3、2または1kDaの範囲内にある。
【0024】
別の態様において、本発明は、(1)本明細書記載の化合物、および(2)薬学的に許容されうる担体を含む医薬調製物を特徴とする。一つの実施態様において、上述の調製物中の化合物の少なくとも60、70、80、85、90、95、97、98、99または100%が、それらに結合したPEG分子と同一の分布を有する。利用可能な第一級アミンのすべて(例えば、溶媒に接触可能な第一級アミンのすべてまたは第一級アミンのすべて)が修飾される化学反応を利用して、上述の化合物が同一のPEG分子分布を有する調製物を提供することができる。もちろん、化学反応に用いるPEG試薬の平均分子量に変動があるため、所定の分子上または分子間の異なる第一級アミンに結合した部分の分子量には、多少の変動が存在する。また、上述の調製物は、投入されたタンパク質に対して25、30、40、50、60、70、75、80または85%よりも多い収量を提供する方法を用いて製造することも可能である。
【0025】
一つの実施態様において、上述の調製物は水溶性であり、1ミリリットルあたり少なくとも0.1mgのポリペプチド濃度で存在する。一つの実施態様において、上述の調製物をマウスに注射すると、上述の化合物の50、30、25、15または10%より少ないものが、12時間後の上述の調製物よりも高移動性のSECピークとなる。
【0026】
上述の調製物は肺または消化器へ送達(例えば、摂食、直腸等)するのに適していることがある。
【0027】
別の態様において、本発明は(1)本明細書記載の化合物、および(2)薬学的に許容されうる担体を含む医薬調製物を特徴とする。一つの実施態様において、上述の調製物中のポリペプチドの少なくとも60、70、80、85、90、95、97、98、99または100%が、非タンパク質部分で改変された少なくとも2、3または4個の第一級アミンを有する。上述の調製物は、分子の大部分、例えば少なくとも60、70、80、90または95%が少なくとも2つ(または3つまたは4つ)の部位でペグ化されているが、上述の調製物中の分子上にあるそれらの部位(場合によっては、改変される部位の数)が変化する分子種の混合物を含むことも可能である。例えば、いくつかの分子は改変されたリジンA、BおよびDを有するが、他の分子はアミノ末端および改変されたリジンA、B、CおよびDを有する。いくつかの実施態様において、調製物は、非活性(例えば、5、2、1または0.1%未満)の化合物を少数含むことができるが、通常は、調製物中の化合物の大部分(例えば、少なくとも50%、90、95、98、99、99.5または99.9%)は活性型であり、例えば、プロテアーゼを阻害することができる。
【0028】
本発明のいくつかの態様において、異なった部位に結合した非タンパク質部分同士は、同一性またはサイズに関して同じである。他の態様において、ある非タンパク質部分がある第一級アミンに結合し、例えば型またはサイズが異なる、別の非タンパク質部分が、別の第一級アミンに結合する。例えば、あるサイズのPEGをN末端の第一級アミンに結合させるが、異なったサイズのPEGをリジン位置に結合するのが望ましいかもしれない。
【0029】
また、本発明は、分注装置と、本明細書記載の医薬調製物を含む区画とを含む医療装置も特徴とする。例えば、上述の分注装置は、吸入可能な形態の医薬調製物が生成されるように構成される。本発明はまた、分注装置と、本明細書記載の薬学的調製物を含む区画とを含む医療装置であって、上述の分注装置が、医薬調製物を被験体の循環系に送達するように構成されている医療装置も特徴とする。本発明はまた、本明細書中に記載の医薬調製物を含む坐剤も特徴とする。
【0030】
別の態様において、本発明は、ポリペグ化されたKunitzドメインを含む調製物を特徴とする。本調製物は実質的に(例えば、70、75、80、85、90、95または100%)単分散性であってもよい。例えば、ポリペグ化化合物は、1ミリリットルあたりにポリペプチドが少なくとも0.05、0.1、0.2、0.5、0.8、1.0、1.5、2.0または2.5ミリグラムという濃度、または1ミリリットルあたりにポリペプチドが0.05から10ミリグラムの濃度で存在している。一つの実施態様において、調製物は乾燥している。例えば、調製物は粒子を含むかまたは、粉末状である。
【0031】
別の態様において、本発明は、DX−890、DX−88またはDX−1000のアミノ酸配列、または本明細書中に記載の他のKunitzドメインの配列であって、少なくとも一つのリジンが、リジンでない一つのアミノ酸、例えばアルギニンで置換されている配列を含むポリペプチドを含む化合物を特徴とする。上述の化合物は、例えば、活性を実質的に変化させることなく、実質的に均質な結合体を産生するためにPEGが結合しているリジンの数を減らす上で有用である。一つの実施態様において、アミノ酸配列(例えばDX−890の配列)は3個のリジン置換と1個の置換されていないリジンを有する。別の実施態様において、アミノ酸は1個または2個のリジン置換を有する。一つの実施態様において、上述の化合物はさらに、非タンパク質部分、例えば、本明細書記載の親水性ポリマーを含む。ポリマーは置換されていないリジン残基、例えば1個の置換されていないリジン(例えば第1、第2、第3または第4番目のリジン)に結合することができる。
【0032】
別の態様において、本発明は、親水性かつ実質的に均質なポリマーの複数の部分に結合したKunitzドメインを含む化合物を含む調製物(例えば、水性調製物)を特徴とする。例えば、Kunitzドメイン成分のみの濃度は1ミリリットルあたり2mgより大きく、上述の調製物のpHは3より大きく、また、上述の調製物のイオン強度は0.5M NaClのイオン強度より小さい。一つの実施態様において、上述のKunitzドメインは、DX−890、DX−88もしくはDX−1000のアミノ酸配列、またはDX−890のアミノ酸配列と1個以上は異なるが、6、5、4、3または2個よりもアミノ酸の違い(例えば、置換、挿入または欠失)が少ないアミノ酸配列を含む。本発明は、調製物を含む密封容器も提供する。上述の容器は光を通しにくい。上述の容器は、容器の外側に印刷した情報を含むこともある。
【0033】
別の態様において、本発明は、以下の工程を包含する方法を特徴とする:Kunitzドメインを含むポリペプチドを提供する工程;利用可能な複数の部位(例えば、複数の第一級アミン、例えば、利用可能なすべての第一級アミン)で結合を形成するのに適した条件下で上述のポリペプチドと共有結合を形成することができる1個の反応基を含む親水性ポリマー(例えばポリアルキレンオキシド)に上述のポリペプチドを接触させることによって改変されたプロテアーゼインヒビターを提供する工程。
【0034】
一つの実施態様において、親水性ポリマーは単活性化されている。例えば、上述の親水性ポリマーはアルコキシ末端をもつ。一つの実施態様において、上述のポリマーはスクシンイミジル基を含む。
【0035】
一つの実施態様において、上述のポリマーは、例えばモノメトキシ−ポリエチレングリコールなどのポリエチレングリコールである。例えば、上述のポリマーはmPEGプロピオンアルデヒドまたはmPEGスクシンイミジルプロピオン酸である。
【0036】
一つの実施態様において、条件はpH6.5と9.0との間、例えば7.5と8.5との間である。一つの実施態様において、親水性ポリマーはポリペプチドのN末端に共有結合する。別の実施態様において、親水性ポリマーは、ポリペプチドのリジン側鎖に共有結合する。
【0037】
本方法はさらに、他の生成物および反応物から結合したポリマーを1個有するポリペプチドを分離することを含む。上述の方法はさらに、接触した生成物を、例えば、イオン交換クロマトグラフィーまたはサイズ排除クロマトグラフィーを用いて分離することを含み得る。
【0038】
また、本発明は、本明細書に記載の方法、例えば上記の方法によって調製した改変型Kunitzドメインを特徴とする。
【0039】
別の態様において、本発明はプロテアーゼの、過剰な活性または望ましくない活性により特徴づけられる疾患を治療する方法を特徴とする。上述の方法は、本明細書に記載の化合物または調製物を含む薬学的組成物を、障害を有するかまたは障害を有することが疑われる被験体に投与する工程を包含する。上述の化合物または調製物は、上述のプロテアーゼを阻害するKunitzドメインポリペプチドを含む。例えば、調製物は、親水性ポリマーが第1の共通部位および第2の共通部位に結合している少なくとも一定割合のKunitzドメインのポリペプチド分子を有する。例えば、少なくとも一定割合のKunitzドメインポリペプチド分子はさらに、第3、第4および場合によっては第5の共通部位に結合している親水性ポリマーを含む。
【0040】
一つの実施態様において、プロテアーゼはエラスターゼである。例えば、Kunitzドメインポリペプチドは、DX−890のアミノ酸配列、またはDX−890と少なくとも1個異なるが、6個よりは少ないアミノ酸変異をもつ配列を含む。エラスターゼ(例えばヒト好中球エラスターゼ)を阻害するKunitzドメインを用いて治療可能な疾患の例は、嚢胞性線維症、COPDおよび炎症性疾患などである。
【0041】
一つの実施態様において、プロテアーゼはカリクレインである。例えば、Kunitzドメインポリペプチドは、DX−88のアミノ酸配列、またはDX−88と少なくとも1個異なるが、6個よりは少ないアミノ酸変異を有する配列を含む。カリクレインを阻害するKunitzドメインを用いて治療可能な疾患の例は、凝固障害、線維素溶解、低血圧症、炎症、血友病、手術後出血、周術期出血、および遺伝性血管浮腫などである。
【0042】
一つの実施態様において、プロテアーゼはプラスミンであり、Kunitzドメインポリペプチドは、DX−1000のアミノ酸配列、またはDX−1000と少なくとも1個異なるが、6個よりは少ないアミノ酸変異を有する配列を含む。プラスミンを阻害するKunitzドメインを用いて治療可能な疾患の例は、線維素溶解、またはフィブリノーゲン溶解、血栓溶解剤に関連する過度の出血、術後出血、周術期出血、および不適切な雄核発生(inappropriate androgenesis)などである。
【0043】
別の態様において、本発明は肺疾患の治療または予防する方法を特徴とする。上述の方法は、例えば疾患の少なくとも一つの症状を改善するのに有効な量の、本明細書に記載の化合物を、被験者に投与する工程を含む。例えば、上述の化合物は、a)エラスターゼ(例えばヒト好中球エラスターゼ(hNE))に特異的に結合してこれを阻害するKunitzドメインを含むポリペプチドおよびb)上述のポリペプチドと物理的に結合していて、上述の化合物の分子量を増大させる非タンパク質部分を含む。例えば、上述の化合物は、(1)DX−890のアミノ酸配列、またはDX−890のアミノ酸配列と1個以上は異なるが、6、5、4、3または2個よりもアミノ酸の相違(例えば、置換、挿入または欠失)が少ないアミノ酸配列を含むポリペプチドおよび(2)ポリエチレングリコール部分の合計が分子量で少なくとも15、18、20、25、27または30kDaであるポリエチレングリコールを含む。
【0044】
一つの実施態様において、上述の化合物は12、24、36または72時間ごとに1回だけ投与される。別の実施態様において、上述の化合物は4、7、10、12または14日ごとに1回だけ投与される。上述の化合物は1回、または何回も(例えば定期的に)投与することが可能である。
【0045】
一つの実施態様において、投与する工程は、肺への送達を含む。例えば、上述の投与する工程は、吸入器具の作動および/または噴霧療法を含む。一つの実施態様において、上述の投与する工程は、循環器系への組成物の直接的または間接的な送達を含む。例えば、上述の投与する工程は、注射または静脈による送達を含む。
【0046】
一つの実施態様において、被験者は嚢胞性線維症を罹っているか、嚢胞性線維症遺伝子に遺伝的欠陥を有する。別の実施態様において、被験者は慢性閉塞性肺疾患を有する。
【0047】
上述の症状は、肺組織の完全性または組織破壊の指標であるかもしれない。
【0048】
別の態様において、本発明は炎症性疾患を治療および予防する方法を特徴とする。上述の方法は、本明細書に記載の化合物を、例えば上述の疾患の少なくとも一つの症状を改善するのに有効な量にして被験者に投与することを含む。例えば、上述の化合物は、a)エラスターゼ(例えばヒト好中球エラスターゼ(hNE))に特異的に結合してこれを阻害するKunitzドメインを含むポリペプチドおよびb)上述のポリペプチドと物理的に結合していて、上述の化合物の分子量を増大させる複数の非タンパク質部分を含む。例えば、上述の化合物は、(1)DX−890のアミノ酸配列、またはDX−890のアミノ酸配列と1個以上は異なるが、6、5、4、3または2個よりもアミノ酸の相違(例えば、置換、挿入または欠失)が少ないアミノ酸配列を含むポリペプチドおよび(2)複数のポリエチレングリコール部分であって、各ポリエチレングリコール部分が分子量で20、18、16、12、10、9、8または7kDaよりも小さいものを含む。
【0049】
一つの実施態様において、疾患は炎症性腸疾患、例えばクローン病または潰瘍性大腸炎である。一つの実施態様において、化合物は坐剤によって送達される。
【0050】
一つの実施態様において、化合物は12、24、36または72時間ごと1回だけ投与される。別の実施態様において、化合物は4、7、10、12または14日ごと1回だけに投与される。化合物は1回、または何回も(例えば定期的に)投与することが可能である。
【0051】
別の態様において、本発明は、少なくとも部分的に不適切なエラスターゼ活性または好中球活性によって特徴づけられる疾患を治療または予防する方法を特徴とする。上述の方法は、本明細書に記載の化合物を、例えば上述の疾患の少なくとも一つの症状を改善するか、または、エラスターゼまたは好中球活性を変える(例えば、エラスターゼ介在型タンパク質分解を低下させる)のに有効な量にして、被験体に投与することを含む。例えば、疾患は、慢性関節リウマチである。
【0052】
一つの実施態様において、化合物は12、24、36または72時間ごと1回だけ投与される。別の実施態様において、化合物は4、7、10、12または14日ごと1回だけに投与される。化合物は1回、または何回も(例えば定期的に)投与することが可能である。
【0053】
本明細書で提供される例の多くは、Kunitzドメインおよび特定の標的プロテアーゼであるエラスターゼに関係した方法および組成物を記載する。しかし、これらの方法および組成物は、他の標的、例えば、他のプロテアーゼまたは他のタンパク質、例えば、Kunitzドメイン以外のプロテアーゼ、特に、一つ以上のリジン残基を含むタンパク質に関連する対応する方法および組成物を提供するように改変され得る。例えば、リジンは、それらを改変しても機能を阻害することのない位置に置くことができる。同様に、記載した方法および化合物は、Kunitzドメインを含まないかまたは、Kunitzドメインおよび他の型のドメインを含む、ポリペプチドに関する、方法および化合物に対応して変更することが可能である。
【0054】
本明細書において使用されるように、「結合親和力」は、見かけの会合定数すなわちKaを意味する。Kaは解離定数(Kd)の逆数である。リガンドは、例えば、特定の標的分子に対して少なくとも10、10、10、10、10、1010、1011または1012−1の結合親和力を有する。リガンドの結合親和性が、第二の標的よりも第一の標的に対してより高いことは、第二の標的への結合に対するKa(または数値Kd)よりも第一の標的への結合に対するKaの方が大きいこと(またはより小さい数値Kd)で示すことができる。このような場合、リガンドは、第二の標的よりも第一の標的に対して特異性を有する。一般的に、hNEへの結合を表すKaの測定は、以下の条件下で行われる。100pMのhNEを用いて、30℃で、50mMのHEPES、pH7.5、150mMのNaCl、および0.1%のTritonX−100。
【0055】
結合親和力は、平衡透析、平衡結合、ゲル濾過、ELISA,表面プラズモン共鳴、または分光法(例えば、蛍光アッセイ法を用いる)などの種々の方法によって測定することができる。これらの技術を用いて、リガンド(または標的)濃度の関数として、結合リガンドおよび遊離リガンドの濃度を測定することができる。結合リガンドの濃度([Bound])は、遊離リガンドの濃度([Free])、および標的上のリガンドに対する結合部位の濃度に関係しているが、以下の等式では、(N)は、1標的分子あたりの結合部位の数である:
[Bound] = N・[Free]/((1/Ka)+[Free])。
【0056】
しかし、Kaの正確な決定は必ずしも必要ではない。なぜなら、Kaに比例し、かつ、より高い(例えば、2倍高い)親和性であるか否かを決定するような比較のために使用できる、親和性の定量的な測定値(例えば、ELISAまたはFACS分析のような方法を用いて決定される値)を得るだけで時には十分であるからである。
【0057】
「単離組成物」は、単離組成物を得ることができる天然の試料中の少なくとも一つの成分の90%以上から取り出される組成物を意味する。対象となる分子種または分子種の集団が重量/重量ベースで少なくとも5、10、25、50、75、80、90、95、98または99%の純度なら、合成または天然に産生された組成物は、「少なくとも組成物は」一定の純度であろう。
【0058】
「エピトープ」は、リガンド、例えば、Kunitzドメイン、小ペプチドまたは抗体などのポリペプチドリガンドが結合する標的化合物上の部位を意味する。例えば、標的化合物がタンパク質の場合には、エピトープはリガンドが結合するアミノ酸を意味する。そのようなアミノ酸は、基部にあるポリペプチドの主鎖に対して、隣接していても、していなくてもよい。重複エピトープは少なくとも一つの共通アミノ酸残基を含む。
【0059】
本明細書において、「実質的に同一」(または「実質的に相同な」)という用語は、第二アミノ酸配列またはヌクレオチドの配列に対して、十分な数の同一または等価の(例えば、類似の側鎖(例えば、保存的なアミノ酸置換)を有する)アミノ酸残基またはヌクレオチドを含む、第一アミノ酸配列またはヌクレオチドの配列のことを意味し、その結果、第一アミノ酸配列および第二アミノ酸配列またはヌクレオチド配列は、類似の活性を有する。Kunitzドメインの場合、第二ドメインは第一ドメインと同一の特異性を有し、例えば、第一ドメインの結合親和力の少なくとも0.5、5または50%を有する。十分な同一性の程度は、約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上であってもよい。
【0060】
本明細書で開示した配列に類似または相同な配列(例えば、配列が少なくとも約85%一致)もまた、本出願の一部である。ある実施態様において、配列の同一性は、約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上であってもよい。あるいは、核酸セグメントが選択的なハイブリダイゼーション条件(例えば、高ストリンジェントハイブリダイゼーション条件)下で、上述の鎖の相補物とハイブリダイズすれば、実質的な同一性が存在する。核酸は全細胞の中、細胞溶解液の中、または部分精製された形態、または実質的に純粋な形態で存在し得る。
【0061】
二つの配列間の「相同性」または「配列の同一性」(これらの用語は、本明細書では同義的に用いられる)の算出は、以下の通りに行われる。最適な比較を行うために配列をアライメントする(例えば、最適なアラインメントのために第一および第二のアミノ酸配列または核酸配列の一方または両方にギャップを導入してもよく、比較のためには非相同配列は無視することも可能である)。一つの好適な実施態様において、比較のためにアライメントした対照配列の長さは、その対照配列の長さの少なくとも30%、好適には少なくとも40%、より好適には少なくとも50%、さらにより好適には少なくとも60%、およびさらに一層好適には少なくとも70%、80%、90%、100%である。次に、対応するアミノ酸の位置またはヌクレオチドの位置にある、アミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第一の配列のある位置が、第二の配列の対応する位置にあるアミノ酸残基またはヌクレオチドと同じもので占められている場合、その位置において分子は同一である(本明細書では、アミノ酸または核酸の「同一性」は、アミノ酸または核酸の「相同性」と同じである)。二つの配列間の同一性パーセントは、2つの配列の最適なアライメントのために導入する必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮した上で、配列が共有する同一の位置数の関数である。
【0062】
配列比較、および2つの配列の同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを用いて行うことができる。好適な実施態様において、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、Blossum62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、ならびに16、14、12、10、8、6または4というギャップウェイト、および1、2、3、4、5または6という配列長ウェイトを用いて、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれているNeedlemanおよびWunsch((1970)J. Mol. Biol, 48:444−453)のアルゴリズムを用いて決定される。さらに別の好適な実施態様において、2つのヌクレオチド配列間の一致率は、NWSgapdna.CMPマトリックス、ならびに40、50、60、70または80というギャップウェイト、および1、2、3、4、5または6という配列長ウェイトを用いる、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて決定する。特に好適なパラメータのセット(および、実施者が、ある分子が本発明の配列同一性または相同性の限度内か否かを決定するのに、どんなパラメータを適用すべきかが不確かな場合に使用すべきセット)は、ギャップ・ペナルティー12、ギャップ・エクステンド・ペナルティー4、およびフレームシフト・ギャップ・ペナルティー5のBlossum62スコアリングマトリックスである。
【0063】
本明細書において、「相同性」という用語は「類似性」と同義であり、目的の配列が一つ以上のアミノ酸置換が存在することにより参照配列と異なることを意味する(ただし、適度なアミノ酸の挿入または欠失があってもよい)。参照配列に対する相同性または類似性の程度を算出する現状において好適な手段は、BLASTアルゴリズム(National Center of Biotechnology Information (NCBI), National Institutes of Health, Bethesda MDから入手可能)を使用することであり、それぞれの場合において、計算される配列の関連性の有意性を決定するためにアルゴリズム初期設定値または推奨パラメータを用いる。また、2つのアミノ酸配列間またはヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、PAM120ウェイト残基表、ギャップ長ペナルティー12、およびギャップ・ペナルティー4を用いる、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているE.Meyers and W.Miller((1989)CABIOS,4:11−17)のアルゴリズムを用いて決定可能である。
【0064】
本明細書において、「低ストリンジェント条件、中ストリンジェント条件、高ストリンジェント条件、極めて高ストリンジェント条件下でハイブリダイズする」という用語は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を記載している。ハイブリダイゼーション反応を行うための指針はCurrent Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,N.Y.(1989),6.3.1−6.3.6に見出され、上述の指針は参考として援用される。水性および非水性の方法が、前記の参考文献に記載されており、どちらを用いてもよい。本明細書において、具体的なハイブリダイゼーション条件は以下の通りである。1)低ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、約45℃の6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中で、次に少なくとも50℃(洗浄温度は、低ストリンジェント条件では55℃まで上げてもよい)で0.2×SSC、0.1%SDSの中で2回の洗浄することであり、2)中ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、約45℃で6×SSC、次に60℃で0.2×SSC、0.1%SDSの中で1回以上洗浄することであり、3)高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、約45℃で6×SSC、次に65℃で0.2×SSC、0.1%SDSの中で1回以上洗浄することであり、また、好適には、4)極めて高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、65℃で0.5Mリン酸ナトリウム、7%のSDS、次に65℃で0.2×SSC、1%SDSの中で1回以上洗浄することである。極めて高ストリンジェントな条件(4)が好適な条件であり、特段の記載がない限り用いられるべき条件である。したがって、本明細書に記載のポリペプチドをコードする核酸と適当なストリンジェンシーでハイブリダイズする核酸が、そのような核酸によってコードされるポリペプチドであるとして提供される。そのようなポリペプチドは、本明細書に記載されているのと同様に改変可能である。
【0065】
本明細書に記載のポリペプチド(例えば、Kunitzドメインを含むポリペプチド)が、本明細書に記載の具体的なポリペプチドに対して、ポリペプチドの機能に実質的な影響を及ぼさないような変異(例えば、保存的アミノ酸置換または非必須アミノ酸置換)を有することがあると理解される。具体的な置換が許容されるか否か、すなわち、結合活性のような所望の生物学的特性に悪影響を及ぼすか否かは、Bowie,et al.(1990)Science 247:1306−1310記載のように決定することができる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されていることである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖をもつアミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖をもつアミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性側鎖をもつアミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖をもつアミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β−分枝型側鎖をもつアミノ酸(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香側鎖をもつアミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などがある。多くのフレームワークおよびCDRアミノ酸残基にとって、一つ以上の保存的置換を含むことが可能である。
【0066】
「非必須」アミノ酸残基は、生物学的活性を失わせることなく、またはより好適には実質的に変えることなく、例えば抗体のような結合因子の野生型配列から変えることができる残基であるが、一方、「必須」アミノ酸残基はそのような変化をもたらす。
【0067】
「ポリペプチド」または「ペプチド」という用語(これらの用語は交換可能に使える)は、ペプチド結合で結合した3つ以上のアミノ酸のポリマー、例えば、長さが3と30、12と60または30と300の間または300超のアミノ酸のポリマーを意味する。ポリペプチドは1個以上の非天然アミノ酸を含むことができる。典型的には、ポリペプチドは天然アミノ酸のみを含む。「タンパク質」は一つ以上のポリペプチド鎖を含むことができる。したがって、「タンパク質」という用語はポリペプチドを包含する。タンパク質またはポリペプチドは一つ以上の改変、例えばグリコシル化、アミド化、リン酸化などを含むこともできる。「小ペプチド」という用語は、例えば、長さが8アミノ酸と24アミノ酸との間など、長さが3アミノ酸と30アミノ酸との間のポリペプチドを記載するのに用いることができる。
【0068】
「アルキル」という用語は、直鎖または分岐鎖であり得る炭化水素鎖であって、示された数の炭素原子を含む炭化水素鎖を意味する。例えば、C−C12アルキルは、上述の基が1個以上12個以下の炭素原子を有するものであることを示す。
【0069】
「アリール」という用語は、芳香族単環式、2環式または3環式の炭化水素環系であって、置換可能な任意の環原子が置換基により置換されうる環系を意味する。アリール部分の例としては、フェニル、ナフチル、およびアントラセニルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の一つ以上の実施態様の詳細は、添付図面および下記の説明に記載されている。本発明のその他の特徴、目的および利点は、明細書および図面から、また、特許請求の範囲からも明らかであろう。本明細書で引用した公開済みの特許出願、特許および参考文献はすべて、その全体が参考として援用される。特に、米国特許第5,663,143号;第5,223,409号、第6,010,080号、第6,103,499号および第6,333,402号は、その全体が参考として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、DX−890の構造と、その4つのリジン残基の位置を示す。
【図2】図2は、DX−88の構造と、その3つのリジン残基の位置を示す。
【図3】図3は、DX−1000の構造と、その3つのリジン残基の位置を示す。
【図4】図4は、例示的なペグ化のしくみを示す。反応pHは、pH7.8と8.5との間で行うことができる。
【図5】図5は、例示的なMALDI解析の結果を示す。
【図6−1】図6は、例示的なGP−HPLC操作の結果を示す。
【図6−2】図6は、例示的なGP−HPLC操作の結果を示す。
【図7】図7は、SDS−PAGE解析の例示的な結果を示す。
【図8−1】図8aは、マウスにおけるクリアランス実験の例示的な結果を示し、図8bは、ウサギにおけるクリアランス実験を示す。データは、二重4−パラメータ指数関数的減衰法を用いてプロットした。図8cは、ヒトに対する相対的成長の外挿(推定値)を示す。70kgのヒトにおける長半減クリアランス期に対する外挿値は以下のとおりである。DX−890、8.4時間;5−PEG5−DX−890、330時間または約14日間;DX−1000、1.7時間;4−PEG5−DX−1000、210時間または9日間。
【図8−2】図8aは、マウスにおけるクリアランス実験の例示的な結果を示し、図8bは、ウサギにおけるクリアランス実験を示す。データは、二重4−パラメータ指数関数的減衰法を用いてプロットした。図8cは、ヒトに対する相対的成長の外挿(推定値)を示す。70kgのヒトにおける長半減クリアランス期に対する外挿値は以下のとおりである。DX−890、8.4時間;5−PEG5−DX−890、330時間または約14日間;DX−1000、1.7時間;4−PEG5−DX−1000、210時間または9日間。
【図8−3】図8aは、マウスにおけるクリアランス実験の例示的な結果を示し、図8bは、ウサギにおけるクリアランス実験を示す。データは、二重4−パラメータ指数関数的減衰法を用いてプロットした。図8cは、ヒトに対する相対的成長の外挿(推定値)を示す。70kgのヒトにおける長半減クリアランス期に対する外挿値は以下のとおりである。DX−890、8.4時間;5−PEG5−DX−890、330時間または約14日間;DX−1000、1.7時間;4−PEG5−DX−1000、210時間または9日間。
【図9】図9は、さまざまな分配量におけるDX−88ポリペグ化のSDS−PAGE解析による例示的な結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
(詳細な説明)
本発明は、一つとして、プロテアーゼ(例えば、好中球エラスターゼなどのエラスターゼなど)に結合して、これを阻害する化合物を提供する。この化合物は、(i)Kunitzドメインを含むポリペプチド、および(ii)ポリペプチドだけのときに較べて化合物の分子量を増加させる複数の部分(ポリマー部分など)を含む。化合物に上述の部分を付加すると、化合物のインビボにおける循環半減期を長期化させることができる。実施態様によっては、上述の化合物は、高い親和性と選択性をもって、好中球エラスターゼを阻害することができる。
【0072】
(ポリマー)
さまざまな部分を用いて、Kunitzドメインまたは別のプロテアーゼを含むポリペプチドの分子量を増加させることができる。一つの実施態様において、この部分はポリマー、例えば、ホモポリマーまたは非生物学的ポリマーなどの水溶性ポリマーおよび/または実質的に非抗原性のポリマーである。実質的に非抗原性のポリマーとしては、例えば、ポリアルキレンオキシドまたはポリエチレンオキシドなどが挙げられる。この部分は、例えば、血液、血清、リンパ液またはこれら以外の組織などでの循環において、Kunitzドメインの安定化および/または保持を、例えば、1.5倍、2倍、5倍、10倍、50倍、75倍または100倍まで向上させることができる。複数の部分がKunitzドメインに結合することができる。例えば、ポリペプチドは、ポリマーの少なくとも3つの部分に結合する。ポリペプチドの各リジンは、ポリマーの一つの部分に結合し得る。
【0073】
適当なポリマーは、重さによって実質的に変化しうる。例えば、平均分子量が約200ダルトンから約40kDaの範囲内にある、例えば、1〜20kDa、4〜12kDa、3〜8kDa、例えば、約4、5、6または7kDaであるポリマーを使用することが可能である。一つの実施態様において、化合物と結合しているポリマーの各部分の平均分子量は、20、18、17、15、12、10、8または7kDaよりも小さい。最終的な分子量も、結合体の所望の有効サイズ、ポリマーの性質(例えば、直鎖状または分枝状などの構造)、および誘導体化の程度によって決めることができる。
【0074】
例示的なポリマーの非限定的リストには、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコールなどのポリアルキレンオキシドのホモポリマー、ポリオキシエチレン化されたポリオール、これらのコポリマーおよびこれらのブロックコポリマーが含まれる。ただし、ブロックコポリマーの水溶性が維持されていることを条件とする。このポリマーは、例えば、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンなどの親水性ポリビニルポリマーでもよい。さらなる有用なポリマーとしては、ポリオキシアルキレン(例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンならびにポリオキシエチレンおよびポリオキシプロピレンのブロックコポリマー(プルロニック類:Pluronics));ポリ乳酸;ポリグリコール酸;ポリメタクリル酸;カルボマー;糖モノマーである、D−マンノース、D−およびL−ガラクトース、フコース、フルクトース、D−キシロース、L−アラビノースおよびD−グルクロン酸、シアル酸、D−ガラクツロン酸、D−マンヌロン酸(例えば、ポリマンヌロン酸またはアルギン酸)、D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、D−グルコース、およびノイラミン酸を含む、分枝型および非分枝型の多糖類であって、これらとしては、ホモ多糖類およびヘテロ多糖類(例えば、ラクトース、セルロース、アミロペクチン、デンプン、ヒドロキシエチル・デンプン、アミロース、硫酸デキストラン、デキストラン、デキストリン、グリコーゲンまたは酸性ムコ多糖(例えばヒアルロン酸など)の多糖サブユニット)が挙げられる;ポリソルビトールおよびポリマンニトールなど、糖アルコールのポリマー;ヘパリンまたはヘパラン(heparon)。いくつかの実施態様において、このポリマーは様々な異なったコポリマーブロックを含む。
【0075】
Kunitzドメインを含むポリペプチドは、さまざまな方法で物理的にポリマーと結合させることができる。典型的には、このポリペプチドは、複数の部位でポリマーに共有結合する。例えば、ポリペプチドは、複数の第一級アミン(例えば、すべての接触可能な第一級アミンまたはすべての第一級アミン)において、ポリマーに結合する。その他の化合物(例えば、細胞毒素、標識または、別の標的剤(例えば、Kunitzドメインと同一の標的に結合する別のリガンド、もしくは、別の標的に結合するリガンド(例えば、無関係なリガンドなど)))も、上述の同じポリマーに結合することができる。その他の化合物が、ポリペプチドに結合していてもよい。
【0076】
一つの実施態様において、このポリマーは、ポリペプチドに結合する前には水溶性である(但し、そうである必要はない)。通常、ポリペプチドに結合した後に生成物が水溶性になり、例えば、少なくとも約0.01mg/ml、より好ましくは、少なくとも約0.1mg/ml、また、さらにより好ましくは、少なくとも約1mg/mlの水溶性を示す。さらに、このポリマーは、結合体の形で高度な免疫原性であるべきではなく、また、結合体を静脈内注入または注射という経路で投与しようとする場合には、それに適合しない粘性を有すべきでもない。
【0077】
一つの実施態様において、このポリマーは、反応性のある基を一つだけ含む。これは、一つのポリマーが、複数のタンパク質分子に結合するのを回避するのに役立つ。ポリペプチドと結合させるために、例えば、モノメトキシ末端ポリエチレングリコール(mPEG)などのモノ活性化型アルコキシ末端ポリアルキレンオキシド(PAO);C1―4アルキル末端ポリマー;およびビス活性化型ポリエチレンオキシド(グリコール)を用いることができる。例えば米国特許第5,951,974号参照。
【0078】
最も一般的な形態において、ポリ(エチレングリコール)すなわちPEGは、水酸基末端をもつ直鎖状または分枝状のポリエーテルである。直鎖状のPEGは、以下の一般構造を持ちうる:
HO−(CHCHO)−CHCH−OH
PEGは、エポキシド環上の水酸化物イオンを求核攻撃することによって開始される、エチレンオキシドのアニオン開環重合によって合成することができる。ポリペプチドの改変にとって特に有用なのは、モノメトキシPEGすなわちmPEGであり、以下の一般構造を有する:
CHO−(CHCHO)−CHCH−OH。
【0079】
さらなる説明については、例えば、Roberts et al.(2002)Advanced Drug Delivery Reviews 54:459−476を参照のこと。一つの実施態様において、結合に用いられるポリマー単位は、単分散性であるか、または高度に均質であり、例えば、95%またはすべての分子が互いに7、5、4、3、2または1kDaである調製物中に存在する。別の実施態様において、ポリマー単位は多分散性である。
【0080】
ポリマー単位間でのクロスリンクまたは複数のポリペプチドへの結合を低減させる反応条件を選ぶこと、および、ゲル濾過またはイオン交換クロマトグラフィーによって反応産物を精製して、例えば、単一のKunitzドメインポリペプチドだけを含有する誘導体のような、実質的に均質の誘導体を回収することが可能である。その他の実施態様において、ポリマーは、複数のポリペプチド(例えば、Kunitzドメインポリペプチドの複数単位)をポリマーに結合させるために2つ以上の反応基を含む。ここで再び、ゲル濾過またはイオン交換クロマトグラフィーを用いて、実質的に均質な形状の所望の誘導体を回収することができる。
【0081】
Kunitzドメインを含むポリペプチドは、通常、複数のPEG分子に結合している。例えば、20または30kDaよりも大きな化合物を形成させるために、Kunitzドメイン(約7kDa)を3個以上の8kDaのPEG分子と結合させることができる。これ以外に、例えば、2個、4個または5個のPEG分子などを組み合わせることも可能である。PEG分子の分子量を、化合物の最終的な分子量が所望の分子量(例えば、17〜35または20〜25または27〜33kDa)と等しいか、それよりも大きくなるように選択することも可能である。複数のPEG分子を、Kunitzドメインのいずれかの領域、好ましくは、標的と相互作用する領域から5、10または15オングストローム以上にある領域、もしくは標的と相互作用するアミノ酸から2、3または4残基の領域に結合させることができる。PEG分子は、例えば、リジン残基またはリジン残基とN末端との組み合わせに結合することができる。
【0082】
例えば、N末端アミノ基およびリジン残基に存在するイプシロンアミノ基ならびにその他のアミノ基、イミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基またはこの他の親水性基への結合などの共有結合を用いてポリペプチド(例えば、Kunitzドメインを含むポリペプチド)をポリマーに結合させることができる。多官能性(通常は二官能性)架橋剤を使用せずに、共有結合により直接ポリマーをポリペプチドに結合させることも可能である。アミノ基への共有結合は、塩化シアヌル、カルボニルジイミダゾール、アルデヒドの反応基(PEGアルコキシドにブロモアセトアルデヒドのジエチルアセタールを加えた物、PEGにDMSOおよび無水酢酸を加えた物または塩化PEGに4−ヒドロキシベンズアルデヒドのフェノキシドを加えた物、活性化型スクシンイミジルエステル類、活性化型ジチオ炭酸PEG、2,4,5−トリクロロフェニルクロロホルメートまたはP−ニトロフェニルクロロホルメート活性化PEG)に基づいた周知の化学法によって行うことができる。カルボキシル基は、カルボジイミドを用いてPEG−第一級アミンを結合させて誘導体化することができる。スルフヒドリル基は、マレイミド置換PEG(例えば、国際公開番号97/10847)またはPEG−マレイミド(例えば、Shearwater Polymers,Inc.,Huntsville,Alaから市販されている)に結合させて誘導体化することができる。あるいは、例えば、Pedley et al.,Br.J.Cancer,70:1126−1130(1994)に記載されているように、ポリペプチド上の遊離アミノ基(例えば、リジン残基上のイプシロンアミノ基)を2−イミノ−チオラン(Traut’s reagent)でチオール化してから、マレイミドを含むPEG誘導体に結合することができる。
【0083】
Kunitzドメインを含むポリペプチドに結合することができる官能化されたPEGポリマーには、例えば、Shearwater Polymers,Inc.,Huntsville,Alaから市販されているポリマーなどがある。そのようなPEG誘導体には、例えば、アミノ−PEG、PEGアミノ酸エステル、PEG−ヒドラジド、PEG−チオール、PEG−コハク酸、カルボキシメチル化PEG、PEG−プロピオン酸、PEGアミノ酸、PEGコハク酸スクシンイミジル、PEGプロピオン酸スクシンイミジル、カルボキシメチル化PEGのスクシンイミジルエステル、PEGの炭酸スクシンイミジル、アミノ酸PEGのスクシンイミジルエステル、PEG−オキシカルボニルイミダゾール、PEG−ニトロフェニルカーボネート、PEGトレシレート(PEG tresylate)、PEG−グリシジルエーテル、PEG−アルデヒド、PEGビニルスルホン、PEG−マレイミド、PEG−オルトピリジル−ジスルフィド、ヘテロ官能性PEG、PEGビニル誘導体、PEGシラン、およびPEGホスホリドなどがある。これらのPEG誘導体を結合させるための反応条件は、ポリペプチド、所望のペグ化の程度、および利用するPEG誘導体によって変化しうる。PEG誘導体の選択に関わる要因には、所望の結合点(リジンまたはシステインのR基など)、誘導体などの加水分解安定性および反応性、結合の安定性、毒性および抗原性、解析への適合性などがある。
【0084】
Kunitzドメインおよびポリマーを含むポリペプチドの結合体を、未反応の出発物質から、クロマトグラフィー法を用いて、例えばゲル濾過またはイオン交換クロマトグラフィー、すなわち、例えばHPLCによって分離することができる。同様にして、異種の結合体を互いから精製する。未反応のアミノ酸のイオン特性の違いによって、さまざまな種類(例えば、1個または2個のPEG残基を含む種)の分離することも可能である。例えば、国際公開番号96/34015を参照のこと。
【0085】
(Kunitzドメイン)
ここで、「Kunitzドメイン」は、51アミノ酸以上で、少なくとも2個および好ましくは3個のジスルフィドを含むポリペプチドドメインである。このドメインは折りたたまれて、1番目と6番目のシステイン、2番目と4番目および3番目と5番目のシステインがジスルフィド結合を形成する(例えば、58アミノ酸を有するKunitzドメインでは、下記に示すBPTI配列の番号によれば、5、14、30、38、51および55番目のアミノ酸に相当する位置にシステインが存在し、また、5位と55位との間、14位と38位の間、ならびに30位と51位の間のシステイン間でジスルフィドが形成されうる)かまたは、2個のジスルフィドが存在する場合には、それらは対応するシステインのサブセットの間で形成される。それぞれのシステインの間隔は、下記に示すBPTI配列の番号によれば、5から55位、14から38位、および30から51位に相当する間隔の7、5、4、3または2アミノ酸以内となろう。BPTI配列は、一般的なKunitzドメインにおける特定の位置を示すための参照として使用することができる。目的とするKunitzドメインとBPTIとの比較は、整列したシステインの数が最大になる最も適合したアラインメントを同定して行われる。
【0086】
BPTIのKunitzドメインの3D構造が(高解像度で)分かっている。X線構造の一つが、ブルックヘブン蛋白質データバンク(Brookhaven Protein Data Bankに「6PTI」として寄託されている。いくつかのBPTIホモログの3D構造(Eigenbrot et al.,(1990)Protein Engineering,3(7):591−598;Hynes et al.,(1990),Biochemistry,29:1008−10022)が知られている。少なくとも70種類のKunitzドメイン配列が知られている。既知のヒトホモログは、LACIの3つのKunitzドメイン(Wun et al.,(1988)J.Biol.Chem.263(13):6001−6004;Girard et al.,(1989)Nature,338:518−20;Novotny et al.,(1989)J.Biol.Chem.,264(31):18832−18837)、インター−α−トリプシンインヒビターAPP−Iの2つのKunitzドメイン(Kido et al.,(1988)J.Biol.Chem.,263(34):18104−18107)、コラーゲンのKunitzドメイン、およびTFPI−2の3つのKunitzドメイン(Sprecher et al.,(1994)PNAS USA,91:3353−3357)などである。LACIは、3つのKunitzドメインを含む、分子量39kDa(表1のアミノ酸配列)のヒト血清リン糖タンパク質である。
【0087】
【表1】

上記のKunitzドメインは、LACI−K1(50から107位の残基)、LACI−K2(121から178位の残基)およびLACI−K3(213から270位)と呼ばれる。LACIのcDNA配列は、Wun et al.,J.Biol.Chem.(1988)263(13):6001−6004で報告されている。Girard et al.,(Nature,1989,338:518−20)は、これら3つのKunitzドメインそれぞれのPl残基が変更した変異実験を報告している。LACI−K1は、第VIIa因子(F.VIIa)が組織因子と複合体を形成するとF.VIIaを阻害し、LACI−K2は、第Xa因子を阻害する。
【0088】
例示的なKunitzドメインを含むタンパク質には以下のものがある。括弧内は、SWISS−PROTアクセッション番号である:
【0089】
【表2−1】

【0090】
【表2−2】

【0091】
【表2−3】

【0092】
【表2−4】

さまざまな方法を用いて、配列データベースからKunitzドメインを同定することができる。例えば、あるKunitzドメインの既知のアミノ酸配列、コンセンサス配列またはモチーフ(例えば、ProSiteのモチーフ)を、GenBank配列データベース(National Center for Biotechnology Information, National Institutes of Health,Bethesda MD)に対して、例えばBLASTを用いて;HMM(隠れマルコフモデル:Hidden Markov Models)のPfamデータベースに対して(例えば、Pfam検索の初期設定パラメータを用いて);SMARTデータベースに対して;または、ProDomデータベースに対して検索することができる。例えば、Pfamリリース9のPfamアクセッション番号PF00014は、多数のKunitzドメインと、Kunitzドメインを同定するためのHMMを提示している。Pfamデータベースについての説明は、Sonhammer et al.(1997)Proteins 28(3):405−420に、また、HMMの詳細な説明は、例えば、Gribskov et al.(1990)Meth.Enzymol.183:146−159;Gribskov et al.(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:4355−4358;Krogh et al.(1994)J.Mol.Biol.235:1501−1531;およびStultz et al.(1993)Protein Sci.2:305−314に存在する。HMMのSMARTデータベース(調節因子構造研究用簡易ツール:Simple Modular Architecture Research Tool,EMBL,Heidelberg,DE)は、Schultz et al.(1998),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:5857およびSchultz et al.(2000)Nucl.Acids Res 28:231に記載されているとおりである。SMARTデータベースは、HMMer2検索プログラム(R.Durbin et al.(1998)Biological sequence analysis:probabilistic models of proteins and nucleic acids.Cambridge University Press)の隠れマルコフモデルを用いてプロファイリングすることによって同定されたドメインを含む。また、このデータベースは、註釈が付され、また追跡調査されている。ProDomタンパク質ドメインデータベースは、相同性ドメインを自動的に編集したものからなる(Corpet et al.(1999),Nucl.Acids Res.27:263−267)。ProDomの現行バージョンは、SWISS−PROT38およびTEMBLタンパク質データベースの帰納的PSI−BLAST検索(Altschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389−3402; Gouzy et al.(1999)Computers and Chemistry 23:333−340)を用いて構成されている。このデータベースは、各ドメインのコンセンサス配列を自動的に作成している。Prositeは、Kunitzドメインをモチーフとして列挙し、Kunitzドメインを含むタンパク質を同定している。例えば、Falquet et al.Nucleic Acids Res.30:235−238(2002)を参照のこと。
【0093】
プロテアーゼインヒビターを選択するために有用なKunitzドメインは、特定数のリジン残基をもつフレームワーク領域を有するKunitzドメインを含みうる。実施の一例では、4つのリジン残基をもつフレームワークが有用であり、平均分子量が、例えば3〜8kDa(例えば、約5kDa)のPEG部分を結合させることによって修飾することができる。例えば、ITIフレームワークは4つのリジンを有する。別の実施例では、3つのリジン残基をもつフレームワークが有用であり、平均分子量が、例えば4〜10kDa(例えば、約5kDaまたは7kDa)のPEG部分を結合させることによって改変することができる。また、フレームワークを改変して、例えば、結合ループの5つ、4つまたは3つの残基の中にあるリジンの数を減少させるか、または、小さなPEG部分(例えば、3〜8kDaのPEG部分)によってタンパク質を改変して、上述のタンパク質のサイズと上述のタンパク質のインビボにおける安定性を高めるのに十分な数のリジンを導入するなど、より少ないか、付加的なリジンが含まれるようにすることもできる。
【0094】
Kunitzドメインは、主に、2つのループ領域(「結合ループ」)中のアミノ酸を用いて、標的となるプロテアーゼと相互作用する。第1のループ領域は、BPTIの約11〜21位のアミノ酸に相当する残基の間にある。第2のループ領域は、BPTIの約31〜42位のアミノ酸に相当する残基の間にある。例示的なKunitzドメインのライブラリーは、第1および/または第2のループ領域内で1つ以上のアミノ酸を変更している。変更するのに特に有用な位置は、BPTIの配列では13、16、17、18、19、31、32、34および39位などである。これらの位置の少なくともいくつかは、標的プロテアーゼと密接に接触すると考えられている。
【0095】
Kunitzドメインの「フレームワーク領域」は、Kunitzドメインの一部の残基であると定義されるが、具体的には、第1および第2の結合ループ領域内の残基、すなわち、BPTIの約11〜21位および約31〜42位に相当する残基を除外している。
【0096】
逆に言えば、これらの特定の位置にないか、ループ領域にない残基は、これらのアミノ酸位置よりも広範なアミノ酸置換(例えば保存的置換および/または非保存的置換)を許容することができる。
【0097】
(エラスターゼ阻害Kunitzドメイン)
ヒト好中球エラスターゼ(hNE)に結合してこれを阻害する典型的なポリペプチドの一つはDX−890(「EPI−hNE4」としても知られている)。DX−890は、ヒト好中球エラスターゼ(hNE)の非常に特異的かつ強力(Ki=4×10−12M)なインヒビターである。DX−890は、以下のアミノ酸配列を含む:
【0098】
【表2−5】

DX−890は、インター−α−インヒビタータンパク質(ITI−D2)の第2のKunitz型ドメインに由来し、Pichia pastorisを用いて発酵させて生産することができる。これは、予想分子量6,237ダルトンの56アミノ酸を含む。DX−890は、酸化およびタンパク質分解不活性化に対して耐性がある。
【0099】
インビトロ、エクスビボおよびインビボにおける薬理学的研究によって、嚢胞性線維症の子供から採取した痰のhNEによって誘導された病変部に対するDX−890のhNE阻害能力と防御作用とが明らかにされている(参考文献であるDelacourt et al.2002を参照のこと)。カニクイザルにおけるエアロゾル化したDX−890の急性かつ亜慢性の4週間にわたる実験によって、臨床的または生物学的な毒性の徴候も、また、DX−890の投与によって誘発される組織病理学的な病変の徴候もないことが示された。
【0100】
健康なヒトのボランティアを用いた臨床研究で、DX−890は、用量を8倍に増やして吸入により(生理食塩に入れたDX−890を最長120分まで投与すると、吸入される量は約72mgになる)投与しても安全であることが分かった。
【0101】
エラスターゼ活性がもたらす結果には、補体レセプターおよびC3biの切断;免疫グロブリンの切断;エラスチンの分解(およびその結果としての気道閉塞、構造上の損傷、気管支拡張症など);高分子の分泌;インターロイキン−8の増加;PMNの増加(その結果としての酸素、過酸化水素、ロイコトリエンB4およびインターロイキン−8の放出);および細菌の残存などがある。エラスターゼのインヒビターは、これらの活性の一つ以上を減少させるために使用され得る。
【0102】
DX−890は、例えば、肺CF病変部における、好中球仲介性の炎症を標的とする抗炎症薬として使用することができる。例示的な肺における適応症は、嚢胞性線維症(CF)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)および慢性閉塞性肺疾患(COPD)などである。CF患者においては、タンパク質分解酵素とそれらのインヒビターのバランスが大きく乱れてしまう可能性がある。活性化された多形核白血球(PMN)は、ヒト好中球エラスターゼ(hNE)およびその他のプロテアーゼを産生する。hNEは、嚢胞性線維症に伴う肺組織損傷の主要な原因であると考えられている。したがって、hNEを阻害すれば、症状や損傷の結果を緩和するのではなく本来の損傷原因を攻撃することになるため、hNEの阻害は、CF肺疾患を治療するための論理的な手段である。
【0103】
例えば、DX−890は、噴霧によって肺に送達することが可能である。噴霧されたDX−890を吸入したボランティアの気管支−肺胞の洗浄液中でDX−890活性が検出された。12人の健康なボランティアに、それぞれ3.75mgまたは15mgの吸入量と推定される、5分または20分間にわたる噴霧によって1日1回のDX−890投薬を14日間受けさせた。耐容性は優良であり、顕著な有害作用は報告されなかった。臨床上または生物学的な異常も見られなかった。
【0104】
肺への適応症に関して、DX−890を使用して、例えば、嚢胞性線維症(CF)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、および慢性閉塞性肺疾患(COPD)を治療することができる。
【0105】
また、DX−890の構造とそのhNEへの結合能力との間には相関があることが知られている。例えば、米国特許第5,663,143号を参照のこと。また、米国特許第5,663,143号には、エラスターゼを阻害する他のKunitzドメインも記載されている。これら、および関連するドメイン(例えば、少なくとも70、75、80、85、90または95%一致するドメイン)を用いることもできる。
【0106】
血漿カリクレインを阻害するKunitzドメインの例は、例えば米国特許第6,057,287号に記載されている。
【0107】
プラスミンを阻害するKunitzドメインの例は、例えば米国特許第6,103,499号に記載されている。
【0108】
【表3−1】

「Protection against acute lung injury by intravenous or intratrachea pretreatment with EPI−HNE4, a new potent neutrophil elastase inhibitor.」Delacourt C,Herigault S,Delclaux C,et al.Am J Respir Cell Mol Biol 2002,26:290−7およびGrimbert et al.(2003)「Characteristics of EPI−hNE4 aerosol:a new elastase inhibitor for treatment of cystic fibrosis」J Aerosol Med.16(2):121−9。
【0109】
(Kunitzドメインおよびその他のプロテアーゼインヒビターの同定)
さまざまな方法を用いて、プロテアーゼに結合および/またはこれを阻害するタンパク質を同定することができる。これらの方法を用いて、本明細書に記載されている化合物の成分として用いることができる天然および非天然のKunitzドメインを同定することができる。
【0110】
例えば、Kunitzドメインは、複数のライブラリーのメンバーの各々がさまざまなKunitzドメインを含むタンパク質ライブラリーから同定することができる。このドメインでは、さまざまなアミノ酸を変えることができる。例えば、米国特許第5,223,409号;米国特許第5,663,143号および米国特許第6,333,402号を参照のこと。例えば、DNA突然変異誘発法、DNAシャッフリング、(例えば、サブユニットとしてコドンを用いる)オリゴヌクレオチドの化学合成法、および天然の遺伝子のクローニングを用いて、Kunitzドメインを変更することができる。例えば、米国特許第5,223,409号および米国特許第2003−0129659号を参照のこと。
【0111】
ライブラリーは、タンパク質を産生させるために使用される発現ライブラリーでもよい。タンパク質は、例えばタンパク質アレイを用いてアレイにすることができる。米国特許第5,143,854号;De Wildt et al.(2000) Nat.Biotechnol.18:989−994;Lueking et al.(1999)Anal.Biochem.270:103−111;Ge(2000)Nucleic Acids Res.28,e3,I−VII;MacBeath and Schreiber(2000)Science 289:1760−1763;国際公開番号WO0/98534,同WO01/83827,同WO02/12893,同WO00/63701、同WO01/40803および同WO99/51773。
【0112】
また、例えば、ファージディスプレイなどのファージライブラリー、酵母ディスプレイ・ライブラリー、リボソームディスプレイまたは核酸−タンパク質融合ライブラリーの形の複製可能な遺伝的パッケージ上に提示させることも可能である。ファージディスプレイおよびその他の方法については、例えば、米国特許第5,223,409号;Smith(1985)Science 228:1315−1317;国際公開番号WO92/18619;同WO91/17271;同WO92/20791;同WO92/15679;同WO93/0l288;同WO92/01047;同WO92/09690;同WO90/02809;de Haard et al.(1999)J.Biol.Chem 274:18218−30;Hoogenboom et al.(1998)Immunotechnology 4:1−20;Hoogenboom et al.(2000)Immunol Today 2:371−8;Fuchs et al.(1991)Bio/Technology 9:1370−1372;Hay et al.(1992)Hum Antibod Hybridomas 3:81−85;Huse et al.(1989)Science 246:1275−1281;Griffiths et al.(1993)EMBO J 12:725−734;Hawkins et al.(1992)J Mol Biol 226:889−896;Clackson et al.(1991)Nature 352:624−628;Gram et al.(1992)PNAS 89:3576−3580;Garrard et al.(1991)Bio/Technology 9:1373−1377;Rebar et al.(1996)Methods Enzymol.267:129−49;Hoogenboom et al.(1991) Nuc Acid Res 19:4133−4137;およびBarbas et al.(1991)PNAS 88:7978−7982を参照のこと。酵母細胞ディスプレイおよびその他の方法については、例えば、Boder and Wittrup(1997)Nat. Biotechnol.15:553−557および国際公開番号WO03/029456号を参照のこと。リボゾームディスプレイおよびその他の方法の例については、例えば、Mattheakis et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:9022およびHanes et al.(2000)Nat Biotechnol.18:1287−92;Hanes et al.(2000)Methods Enzymol.328:404−30およびSchaffitzel et al. (1999) J Immunol Methods. 231(1−2):119−35を参照のこと。核酸−タンパク質融合の例については、例えば、Roberts and Szostak(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:12297−12302、および米国特許第6,207,446号を参照のこと。これらのライブラリーは、ハイスループット方式でスクリーニングすることが可能である。例えば、US2003−0129659を参照のこと。
【0113】
Kunitzドメインのライブラリーは、本明細書に記載されたKunitzドメイン(例えば、本明細書に記載されているフレームワーク(例えば改変されたかまたは、天然に存在するフレームワーク領域)を有するKunitzドメイン)を用いて、一つ以上の結合部位ループアミノ酸残基を変化させて作成することができる。一つの実施態様において、変更する残基は、複数のアミノ酸の中でさまざまである。これらの複数のものは、リジンが利用できないように選択される。
【0114】
(ディスプレイ・ライブラリーのスクリーニング)
本節では、ディスプレイ・ライブラリーをスクリーニングして、エラスターゼと相互作用するポリペプチドを同定する方法の例を説明する。これらの方法は、別の標的、例えば別のプロテアーゼまたはその他のタンパク質と相互作用する別のポリペプチドを同定するために改変することができる。また、これらの方法は、別のタイプのライブラリー、例えば発現ライブラリーまたはタンパク質アレイなどと組み合わせて改変および使用することも可能である。
【0115】
例示的なディスプレイ・ライブラリーのスクリーニングにおいて、ファージライブラリーを標的エラスターゼタンパク質(例えば、活性型または非活性型(例えば、変異型または化学的不活性型のタンパク質)またはそれらの断片)に接触させて結合させることができる。スクリーニングの過程で結合するものとしないものとを分離するのを容易にするために、固体支持体の上にエラスターゼを固定することがしばしば便利であるが、まず、溶液中でエラスターゼに結合させてから、支持体に標的化合物を結合させることによって、結合しなかったものから結合したものを分離することも可能である。例として、エラスターゼ存在下でインキュベートすると、エラスターゼと相互作用するポリペプチドを提示するファージは、固体支持体に固定したエラスターゼと複合体を形成するが、非結合のファージは、溶液に残存して、バッファーとともに洗い流される。そして、バッファーを比較的高酸性または高塩基性のpH(例えばpH2またはpH10)のものに変えたり、バッファーのイオン強度を変えたり、変性剤を加えたり、競合物質を加えたり、感染できる宿主細胞を加えたり、その他の既知の方法など、数多くの方法によって結合ファージをエラスターゼから遊離させることができる。
【0116】
例えば、エラスターゼ結合ペプチドを同定するために、マルチウェル測定用プレートのウェルのプラスチック表面のような固体表面にエラスターゼを吸着させることができる。その後、ファージディスプレイ・ライブラリーの等量液をウェルに、pH6〜7など、固定されたエラスターゼと、ファージの構造を維持するのに適した条件の下で加える。固定されたエラスターゼに結合するポリペプチドを提示するライブラリー中のファージは、エラスターゼに結合してウェルの中に残る。結合しないファージを除去することができる。固定されたエラスターゼにファージライブラリーが結合する際に、ブロッキング剤や競合リガンドを含むことをも可能である。
【0117】
そして、固定化エラスターゼに結合したファージを、比較的強酸性のpH(例えばpH2)またはアルカリ性のpH(例えばpH8〜9)を有するバッファー溶液で洗浄することによって溶出させることができる。次に、エラスターゼから溶出されて回収されたファージ溶液を中和し、必要に応じて、エラスターゼ結合ペプチドを提示しているファージの混合ライブラリー集団を富化したものとしてプールすることも可能である。あるいは、各ライブラリーから溶出したファージは、エラスターゼ結合ファージのライブラリー特異的な富化集団として分離したままにしておくことも可能である。そして、さらにスクリーニングを繰り返すため、および/またはファージ上に提示されたペプチドを解析するため、および/または提示された結合ペプチドをコードするDNAの配列を決定するために、エラスターゼ結合ペプチドを提示するファージの富化集団を、標準的な方法によって増殖させることも可能である。
【0118】
多くの可能な代替的スクリーニングプロトコールの一つでは、ビオチン化されているため、例えば、粒子上にコートされているストレプトアビジンに結合させて捕捉することができるエラスターゼ標的分子が使用される。
【0119】
そして、回収されたファージをバクテリア細胞に感染させて増殖させることができ、今やエラスターゼに結合しないものが激減し、エラスターゼに結合するものが富化されているこの新しいファージプールを用いて、スクリーニング処理を繰り返すことができる。たとえ少しでも結合ファージが回収されれば、このプロセスを完成させるのに十分であろう。選抜工程を数回繰り返した後、結合プール内で選抜されたファージクローン由来の結合部分をコードする遺伝子配列を常法に従って決定し、標的に対するファージの結合親和性を付与するペプチド配列を明らかにする。選抜の各回の後に回収されたファージの数が増加して、よく似た配列が回収されれば、そのスクリーニングが、所望の特徴をもつライブラリーの配列に収束していることを示している。
【0120】
結合ポリペプチドのセットが同定された後、配列情報を用いて、別の二次ライブラリーを設計することができる。例えば、二次ライブラリーでは、配列スペースのより小さなセグメントを、最初のライブラリーよりもさらに詳しく調べることもできる。いくつかの実施態様において、二次ライブラリーは、例えば、ヒトタンパク質に対して高い一致率をもつ配列など、さらに所望の特性を有するメンバーへのバイアスがかかったタンパク質を含む。
【0121】
また、ディスプレイ技術を用いて、標的の特定のエピトープに特異的なポリペプチドを得ることも可能である。例えば、これは、特定のエピトープを持たないか、例えば、アラニンによってエピトープ内に変異が生じている、競合する非標的分子を用いて行うことができる。このような非標的分子は、後述するように、ディスプレイ・ライブラリーを標的に結合させるときの競合分子として、または、例えば、ディスプレイ・ライブラリーを解離させる洗浄溶液内で捕捉するための前溶出剤(pre−elution agent)として消極的選抜法で使用することができる。
【0122】
(反復選抜法)
一つの好適な実施態様において、ディスプレイ・ライブラリー技術を反復様式で利用する。第1のディスプレイ・ライブラリーを用いて、標的と相互作用する一つ以上のタンパク質を同定する。そして、第2のディスプレイ・ライブラリーを作成するために変異誘発法を用いて、同定されたタンパク質を変異させる。次に、この第2のライブラリーから、例えば、より高ストリンジェンシー、またはより競合的な結合および洗浄条件を用いて、より親和性の強いタンパク質を選抜する。
【0123】
いくつかの実施態様において、変異誘発法は、結合界面にあることが知られているか、その可能性の高い領域を標的とする。変異誘発技術の例には、変異性PCR(error−prone PCR)(Leung et al.,(1989)Technique 1:11−15)、組換え法、ランダムな切断を用いたDNAシャッフリング法(Stemmer(1994)Nature 389−391;「核酸シャッフリング」と呼ばれる)、登録商標RACHITT(Coco et al.(2001)Nature Biotech.19:354)、部位特異的変異誘発法(Zoller et al.(1987)Nucl.Acids Res 10:6487−6504)、カセット変異誘発法(Reihaar−Olson(1991)Methods Enzymol.208:564−586)および縮退オリゴヌクレオチドの取り込み(Griffiths et al.(1994)EMBO J 13:3245)などもある。Kunitzドメインについては、結合界面近くにある位置が数多く知られている。このような位置には、例えば、BPTI配列でいうと、13、16、17、18、19、31、32、34、および39位などがある(米国特許第6,333,402号に記載のBPTI番号による)。これらの位置を一定に保ち、別の位置を変化させることも、これらの位置自体を変えることも可能である。
【0124】
反復選抜法の一例において、本明細書記載の方法を用いて、少なくとも標的に対する最小の結合特異性または最小の活性、例えば、1nM、10nM、または100nMよりも大きな結合に対する平衡解離定数でエラスターゼに結合するディスプレイ・ライブラリーからタンパク質をまず同定する。最初に同定されたタンパク質をコードする核酸配列を、変異を導入するための鋳型核酸として用いて、例えば、最初のタンパク質リガンドと較べて強化された特性(例えば結合親和性、反応速度、または安定性)をもつ第二のタンパク質リガンドを同定する。
【0125】
(解離速度選抜法)
特に、タンパク質とその標的の間の相互作用に関して解離速度が遅いと高い親和性があると予測されることから、本明細書に記載の方法を用いて、標的との結合相互作用について所望の(すなわち低い)解離反応速度を有するタンパク質を単離することができる。
【0126】
解離が遅いタンパク質をディスプレイ・ライブラリーから選抜するために、ライブラリーを固定された標的(例えば、固定化エラスターゼ)に接触させる。そして、固定された標的を、非特異的または弱く結合している生体分子を除去する第一の溶液で洗浄する。そして、飽和量の遊離した標的、すなわち、粒子に結合していない標的の複製物を含む第二の溶液で、固定された標的を溶出する。遊離した標的は、標的から解離する生体分子に結合する。ずっと低い濃度の固定化標的に対して飽和量の遊離標的があることによって、再結合を効果的に防止することができる。
【0127】
第二の溶液は、実質的に生理学的であるか、ストリンジェントな溶液条件にすることができる。典型的には、第二溶液の溶液条件は、第一溶液の溶液条件と同一である。第二溶液の画分を時系列的に集めて、初期画分と後期画分を区別する。後期画分に、初期画分の生体分子よりもゆっくりと解離する生体分子が含まれる。
【0128】
さらに、インキュベーションを延長した後も標的に結合したままのディスプレイ・ライブラリーのメンバーを回収することも可能である。これらは、標的に結合している間、カオトロピックな条件を用いて解離するかあるいは、増幅することができる。例えば、標的に結合したファージをバクテリア細胞に接触させることができる。
【0129】
(特異性の選択またはスクリーニング法)
本明細書に記載されたディスプレイ・ライブラリーのスクリーニング法は、非標的分子、例えば、トリプシンのようなエラスターゼ以外のプロテアーゼに結合するディスプレイ・ライブラリーのメンバーを除去する選抜法またはスクリーニング法を含むこともある。一つの実施態様においては、非標的分子は、例えば、共有結合インヒビターなど、不可逆的に結合したインヒビターによる処置によって活性化されているエラスターゼである。
【0130】
一つの実施において、いわゆる「ネガティブセレクション」工程または「枯渇法」は、標的分子と、関係はあるが別個の非標的分子または無関係な非標的分子とを区別するために利用される。ディスプレイ・ライブラリーまたはそのプールを非標的分子に接触させる。非標的に結合しないサンプルのメンバーを集めて、標的分子への結合を引き続き選抜するか、さらには、引き続きネガティブセレクションを行うために使用する。ネガティブセレクション工程は、標的分子に結合するライブラリーのメンバーを選択する前か後に行うことができる。
【0131】
別の実施において、スクリーニング工程を利用する。ディスプレイ・ライブラリーのメンバーを、標的分子に結合するものについて単離した後、各単離ライブラリーメンバーが、非標的分子(例えば、上記した非標的分子)に結合できるかを調べる。例えば、ハイスループットELISAスクリーニング法を用いて、このデータを得ることができる。ELISAスクリーニング法は、各ライブラリーメンバーの標的に対する結合に関する定量的データを得るために利用することもできる。標的に特異的に結合するライブラリーメンバーを同定するために、非標的結合データと標的結合データを(例えば、コンピュータとソフトウエアを用いて)比較する。
【0132】
(ポリペプチドの改変および変更)
本明細書に記載のタンパク質を変異させて、類似または改善または変更された特性をもつ変異タンパク質を得ることも可能である。典型的には、多数の変異体が可能である。変異体は、調製してから、例えば、本明細書に記載された結合アッセイ法(蛍光異方性など)を用いて試験することができる。
【0133】
変異体の一つのタイプは、本明細書に記載のリガンド、または本明細書に記載の方法によって単離されたリガンドの短縮型である。本例において、変異体を、リガンドの1個以上のアミノ酸残基をN末端またはC末端から削除することによって調製する。場合によっては、このような一連の変異体を調製して試験する。この一連の変異体を試験して得られた情報を用いて、エラスターゼタンパク質に結合するのに必要なリガンドの領域を決定する。一連の内部欠失体または挿入体を同様に構築および試験することができる。Kunitzドメインについては、例えば、最初のシステインであるCからN末端側にある1個から5個の残基または1個から3個の残基を除去することができ、また、最後のシステインであるC55からC末端側にある1個から5個の残基または1個から3個の残基を除去することができる。但し、この場合、各システインは、BPTIにおけるそれぞれのシステイン番号に対応している。
【0134】
別のタイプの変異体は置換体である。一例において、リガンドにアラニンスキャニングを行って、結合活性に寄与する残基を同定する。別の例において、一つ以上の位置における置換体のライブラリーを構築する。このライブラリーは、バイアスをかけないこともできるが、特に、多数の位置が変化する場合には、本来の残基に対してバイアスをかける。場合によっては、置換はすべて保存的置換である。
【0135】
別のタイプの変異体は、1個以上の天然に存在しないアミノ酸を含む。このような変異リガンドは、化学合成法または改変法によって生成することができる。1個以上の位置で天然には存在しないアミノ酸に置換することができる。場合によっては、置換されたアミノ酸は、本来の天然に存在する残基と化学的に近縁のもの(例えば、脂肪族、荷電性、塩基性、酸性、芳香族、親水性)、または本来の残基の同配体であってもよい。
【0136】
非ペプチド結合および他の化学的改変を含むことも可能である。例えば、リガンドの全部または一部をペプチド模倣物質、例えばペプトイドとして合成することができる(例えば、Simon et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:9367−71 and Horwell(1995)Trends Biotechnol.13:132−4を参照のこと)。また、後述する別の改変法も参照されたい。
【0137】
(結合相互作用の特徴づけ)
タンパク質(例えば、Kunitzドメインを含むポリペプチド)の結合特性は、さまざまなアッセイ法を用いて容易に測定することができる。例えば、タンパク質の結合特性は、特定の標的に対するタンパク質の解離定数(K)または結合定数(K)の簡便かつ正確な測定法を提供する蛍光異方性によって、溶液中で測定することができる。このような方法の一つにおいて、評価すべきタンパク質をフルオレセインで標識する。フルオレセイン標識されたタンパク質を、マルチウェル測定用プレートのウェルの中でさまざまな濃度の特定の標的(例えば、エラスターゼ)と混合する。蛍光異方性測定法を、蛍光偏光プレート読み取り装置を用いて行う。
【0138】
(ELISA)
結合相互作用も、ELISAアッセイ法を用いて解析することができる。例えば、評価すべきタンパク質を、その底の表面が、標的、例えば限定された量の標的でコートされているマイクロタイター・プレートと接触させる。分子がプレートに接触する。プレートをバッファーで洗浄して、非特異的に結合した分子を除去する。そして、上述のタンパク質を認識する抗体によってプレートを探索して、プレートに結合したタンパク質の量を測定する。例えば、タンパク質には、エピトープタグも含まれうる。抗体は、アルカリホスファターゼなど、適当な基質が提供されると比色生成物を産生する酵素に結合することもできる。ディスプレイ・ライブラリーのメンバーに、試験すべきタンパク質が含まれる場合には、この抗体が、ディスプレイ・ライブラリーのメンバーすべてにとって不変な領域、例えば、ファージディスプレイ・ライブラリーのメンバーにとっては主要なファージコートタンパク質を認識することができる。
【0139】
(ホモジニアスアッセイ)
タンパク質と特定の標的との間の結合相互作用を、ホモジニアスアッセイ法を用いて分析することができる。すなわち、アッセイの構成成分をすべて加えた後は、さらなる液体操作を行う必要がない。例えば、蛍光エネルギー移動(FET)をホモジニアスアッセイ法として用いることができる(例えば、Lakowicz et al.,米国特許第5,631,169号;Stavrianopoulos,et al.,米国特許第4,868,103号参照)。第一の分子(例えば、画分中で同定される分子)上のフルオロフォア標識を選択して、それが放出する蛍光エネルギーを、第二の分子(例えば標的)が第一の分子の近傍にあれば、第二の分子上の蛍光標識によって吸収させるようにすることができる。第二の分子上にある蛍光標識は、移動エネルギーに吸収されると蛍光を発する。標識間でのエネルギー移動の効率が、上述の分子を隔てる距離に関係しているため、上述の分子間の空間関係を測定することができる。結合が分子間で起きる場合には、アッセイにおける「受容体」分子標識の蛍光放出が最大になるはずである。FET結合は、当上述の技術分野において公知の標準的な蛍光分析検出手段(例えば、蛍光光度計)によって簡便に測定することができる。第一または第二の結合分子の量を滴定することによって結合曲線を作成して、平衡結合定数を推定することができる。
【0140】
(表面プラズモン共鳴法(SPR))
タンパク質と特定の標的との間の結合相互作用を、SPRを用いて分析することができる。例えば、試料中に存在するディスプレイ・ライブラリーのメンバーの配列を決定し、また、選択的には、例えばELISAによって確認した後、提示されたタンパク質を多量に産生させ、SPRを用いて、標的への結合を測定することができる。SPRまたはリアルタイム生体分子相互作用解析法(BIA)によって、相互作用物(例えば、BIAcore)のいずれも標識することなく、リアルタイムで生体特異的な相互作用を検出する。BIAチップの結合表面での分子量の変化(結合が起きたことを示す)は、表面付近での光の屈折率の変化(表面プラズモン共鳴(SPR)という光学現象)をもたらす。屈折率の変化は、検出可能なシグナルを発生させ、それを、生体分子間のリアルタイムの反応を示すものとして測定する。SPRを使用する方法は、例えば、米国特許第5,641,640号;Raether(1988)Surface Plasmons Srpinger Verlag;Sjolander,S.and Urbaniczky,C.(1991)Anal.Chem.63;2338−2345;Szabo et al.(1995)Curr.Opin.Struct.Biol.5:699−705に記載されている。
【0141】
SPRからの情報を利用して、標的に対する生体分子の結合に関する平衡解離定数(K)、および、konおよびkoffなどの反応速度パラメータを正確かつ定量的に測定する手段を提供することができる。このようなデータを用いて、さまざまな生体分子を比較することができる。例えば、ディスプレイ・ライブラリーから選択されたタンパク質を比較して、標的に対して高親和性を有するもの、または遅いkoff値を有するものを同定することができる。また、生体分子同士に相関があれば、この情報を利用して、構造−活性相関(SAR)を展開することができる。例えば、タンパク質がすべて、単一の親抗体の突然変異体であるか、既知の親抗体のセットの突然変異体である場合には、例えば、高親和性および遅いkoffのような特定の結合パラメータと相関する変異アミノ酸で一定の位置にあるものを同定することができる。
【0142】
これら以外に結合親和性を測定する方法には、蛍光偏光法(FP)(例えば、米国特許第5,800,989号を参照のこと)、核磁気共鳴法(NMR)、および(例えば、蛍光エネルギー移動を用いた)結合滴定法(binding titration)などがある。
【0143】
結合特性を調べるその他の溶液測定法には、蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)およびNMRなどがある。
【0144】
(エラスターゼ阻害の特徴づけ)
化合物が、エラスターゼに特異的なKunitzドメインを有するポリペプチドを含む実施態様に関しては、上述のポリペプチドのエラスターゼ阻害能力について特徴を調べておくことが有益であろう。
【0145】
エラスターゼへの結合およびエラスターゼのタンパク質分解活性について、Kunitzドメインの阻害をスクリーニングすることができる。エラスターゼを阻害する能力および選択性について、Kunitzドメインを選択することが可能である。一例において、エラスターゼおよびその基質を、プロテアーゼとその基質が反応可能なアッセイ条件下で組み合わせる。Kunitzドメイン非存在下、および高濃度のKunitzドメイン存在下でアッセイを行う。被験化合物によってエラスターゼ活性の50%が阻害される被験化合物濃度が、その化合物のIC50値(阻害濃度)またはEC50(有効濃度)値である。一連のまたは一群のKunitzドメインの中で、より低いIC50またはEC50値を有するもの方が、より高いIC50またはEC50値を有する化合物よりもより強力なエラスターゼインヒビターであると考えられる。本態様による好適な化合物は、エラスターゼ活性の阻害のインビボアッセイ法で測定すると100nM以下のIC50値を有する。
【0146】
また、エラスターゼに対する選択性についてKunitzドメインを評価することもできる。セリンプロテアーゼおよびその他の酵素のパネルに対する有効性について、被験化合物を測定し、各ペプチドについてIC50値を決定する。エラスターゼ酵素に対して低いIC50値を示し、被験パネル内の別の酵素(例えばトリプシン、プラスミン、カリクレイン)に対して高いIC50値を示すKunitzドメインが、エラスターゼに対して選択的であると考えられる。通常、化合物のIC50値が、酵素パネルで測定された2番目に小さなIC50値よりも一桁以上小さければ、その化合物は選択的であると考えられる。
【0147】
エラスターゼの阻害を評価する具体的な方法を、後述の実施例で説明する。
【0148】
インビボ、または本明細書に記載の化合物を投与された被験者の試料(例えば、肺洗浄液)中のKunitzドメイン活性を評価することも可能である。
【0149】
(プロテアーゼ標的)
プロテアーゼは、炎症および組織損傷など広範な生体内作用に関係している。好中球などの炎症性細胞によって産生されるセリンプロテアーゼは、肺気腫など、さまざまな障害に関与している。好中球エラスターゼは、細胞外基質成分および病原体に対して活性を有する多形核白血球によって産生されるセリンプロテアーゼである。肺気腫は、肺機能の主な障害をもたらす肺胞の破壊を特徴とする。
【0150】
セリンプロテアーゼ・インヒビターであるα1−プロテアーゼインヒビター(APIまたはα1−PI、以前はα−1アンチトリプシンとして知られていた)の欠乏は、肺気腫の発症に関する危険因子である(Laurell,C.B.and Eriksson,S.(1963)Scand.J.Clin.Lab.Invest.15:132−140;Brantly,M.L.,et al.(1988)Am.Rev.Respir.Dis.138:327−336)。API欠乏は、好中球エラスターゼの無制御な活性をもたらし、肺気腫における肺組織の破壊に寄与することがある。同様に、APIの不活性化および慢性炎症は、過剰な好中球エラスターゼ活性と肺組織の病的破壊をもたらすことがある。
【0151】
ヒト好中球エラスターゼは、約218アミノ酸残基からなり、2つのアスパラギンに結合した炭化水素鎖を含み、また、2つのジスルフィド結合によって共に結合している(Sinha,S.,et al.Proc.Nat.Acad.Sci.84:2228−2232,1987)。正常には、成長中の好中球の中でプロ酵素として合成されるが、顆粒から放出されると完全な酵素活性を既に有する一次顆粒として活性型のまま、通常は、炎症部位で貯蔵される(Gullberg U.et al.Eur J Haematol.1997;58:137−153;Borregaard N,Cowland JB.Blood.1997;89:3503−3521)。
【0152】
別のプロテアーゼ標的の例には、プラスミン、カリクレイン、第VIIa因子、第XIa因子、トロンビン、ウロキナーゼ、および第IIa因子などがある。関連するプロテアーゼの種類には、血液凝固に関係するプロテアーゼ、補体に結合するプロテアーゼ、細胞外基質成分を分解するプロテアーゼ、基底膜を分解するプロテアーゼおよび内皮細胞に結合するプロテアーゼなどがある。例えば、プロテアーゼはセリンプロテアーゼである。
【0153】
(タンパク質の産生)
(ポリペプチドの組換えによる産生)
標準的な組換え核酸法を用いて、本明細書に記載の化合物(例えば、Kunitzドメインを含むポリペプチド)のポリペプチド成分を発現させることができる。通常、ポリペプチドをコードする核酸配列は、核酸発現ベクターにクローニングする。例えば、タンパク質が50アミノ酸よりも少ないペプチドであるなど、ポリペプチドが十分に小さければ、自動有機合成法を用いて上述のタンパク質を合成することができる。
【0154】
ポリペプチドを発現させるための発現ベクターは、上述のポリペプチドをコードするセグメントおよび作動可能に連結した調節配列(例えば、プロモーター)を含むことができる。本発明の組換え構築物を生成するのに適したベクターおよびプロモーターは、当業者に知られており、市販されている。例えば、Sambrook & Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.(2001)and Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology (Greene Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y.(1989)を参照のこと。
【0155】
Scopes(1994)Protein Purification:Principle and Practice,New York:Springer−Verlagおよびその他のテキストには、組換え体(および非組換え体)タンパク質を精製するための数多くの一般的方法が記載されている。
【0156】
(ペプチドの合成的生成)
化合物のポリペプチド成分はまた、合成的方法によって生成され得る。例えば、Merrifield (1963) J. Am. Chem. Soc. , 85: 2149を参照のこと。例えば、合成ペプチドまたは合成ペプチド模倣物の分子量は、約250ダルトンから約8,0000ダルトンまでであり得る。ペプチドは、例えば、このペプチドの有効分子量を増加させる部分への結合によって改変され得る。このペプチドが、例えば、(例えば、このペプチドの親和性および/または活性を増大させる)親水性ポリマーで、オリゴマー化、二量体化および/または誘導体化されるとき、この分子量は、増大し得、そして約500から約50,000ダルトンまでの範囲で変化し得る。
【0157】
(薬学的組成物)
例えば、薬学的に受容可能な組成物など、ポリペグ化されたKunitzドメインを含む組成物もまた、特徴とされる。一つの実施態様において、Kunitzドメインは、エラスターゼ、プラスミンまたはカリクレインなどのプロテアーゼに結合する。本明細書において、「薬学的組成物」は、治療または予防に利用する化合物だけでなく、診断(例えば、インビボ画像化)に使用する化合物(例えば、標識化合物)を含む。
【0158】
本明細書において、「薬学的に受容可能な担体」は、任意の、そしてすべての、溶媒、分散媒、被覆剤、抗殺菌剤および抗菌剤、等張剤および吸収遅延剤、および生理学的に適合性のあるものを含む。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または表皮に(注射または輸液によって)投与するのに適している。投与経路に応じて、酸の作用、および化合物を不活性化する可能性のあるその他の自然条件から化合物を保護するための物質の中で、活性型化合物を被覆することができる。
【0159】
「薬学的に受容可能な塩」は、元の化合物の所望の生物活性を保持し、望ましくない毒性作用を付与しない塩を意味する(例えば、Berge,S.M.,et al.(1977)J.Pharm.Sci.66:1−19を参照のこと)。このような塩の例は、酸付加塩および塩基付加塩である。酸付加塩は、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸などの非毒性無機塩に由来する塩、および、脂肪族モノカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸、フェニル置換されたアルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族のスルホン酸などの非毒性有機酸に由来する塩を含む。塩基付加塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属に由来する塩、および、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、クロリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどの非毒性有機アミンに由来する塩を含む。
【0160】
本発明の組成物はさまざまな形態のものがありうる。それらには、例えば、液体溶液(例えば注射液および輸液用溶液)、分散液または懸濁液、錠剤、丸薬、粉末、リポソーム、および坐剤など、液体、半固体および固体の投薬形態を含む。好適な形態は、意図した投与様式および治療への応用法に応じて決まる。一般的に好適な組成物は、ヒトに抗体を投与するために使用される組成物と同じ組成物のような、注射または輸液用の溶液である。好適な投薬方式は非経口様式(例えば静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。好適な実施態様において、静脈内輸液または注射によって化合物を投与する。別の好適な実施態様において、筋肉内注射または皮下注射によって化合物を投与する。
【0161】
本明細書における「非経口投与」および「非経口で投与される」という用語は、腸内投与および局所投与以外の投与方法であって、通常は注射によるが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心腔内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内への注射および輸液などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0162】
薬学的組成物は、典型的に、製造および貯蔵という状態では滅菌されており、安定していなければならない。薬学的組成物はまた、それが、確実に投与に関する規制基準および産業基準に合致するかを試験することも可能である。例えば、USP24/NF19法によるリムルスアメーバ様細胞ライセートアッセイを用いて(例えば、Bio Whittakerロット番号7L3790、感度0.125EU/mL)、製剤中のエンドトキシン量を調べることもできる。薬学的組成物の無菌度は、USP24/NF19法によるチオグリコール酸培地を用いて測定することができる。例えば、上述の製剤を用いて、チオグリコール酸培地に接種し、35℃にて14日間以上インキュベートする。この培地を定期的に検査して、微生物の増殖を検出する。
【0163】
組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、分散液、リポソーム、その他、高薬物濃度に適した秩序構造物として調剤することができる。必要量の活性化合物を、上に列挙した成分を一つまたは組み合わせたものとともに適当な溶媒に入れ、必要に応じて濾過滅菌することによって、無菌の注射液を調製することもできる。通常、分散液は、基剤となる分散媒を含む滅菌した賦形剤の中に、活性化合物および上に列挙したものの中から必要とされる別の成分を入れることによって調製される。無菌注射液を調製するための無菌粉末剤の場合には、調製に好適な方法は、活性成分に予め濾過滅菌した溶液由来の補助的な必要成分を加えたものの粉末を回収する真空乾燥および凍結乾燥である。例えば、レシチンなどの被覆剤を用いることによって、溶液の適当な流動性を維持することができ、分散液の場合には、界面活性剤を用いることによって必要な粒子サイズを維持できる。例えば、モノステアリン酸塩およびゼラチンなど、吸収を遅らせる薬剤を組成物中に含ませることによって、注射用組成物が長時間にわたって吸収されるようにすることができる。
【0164】
本明細書に記載のポリペグ化されたKunitzドメインを、当技術分野において公知の多様な方法によって投与することができる。多くの応用例では、投与経路/様式は静脈内注射または輸液である。例えば、治療への応用では、約1〜100mg/mまたは7〜25mg/mという用量になるまで30、20、10、5または1mg/分よりも低い速度で静脈内に注入して投与することができる。投与の経路および/または様式は、所望の結果に応じて異なる。特定の実施態様において、放出制御製剤のように、化合物が急速に放出されないよう保護する担体をもつ活性化合物を調製することが可能であり、インプラントおよびマイクロカプセル化送達系などがある。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸のような、生物分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる。このような剤形を調製する方法の多くは特許を付与されており、一般的に知られている。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978参照。医薬処方は、十分に確立された技術であって、さらに、Gennaro(ed.),Remington:The Science and Practice of Pharmacy,20thed.,Lippincott,Williams & Wilkins(2000)(ISBN:0683306472);Ansel et al.,Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,7thEd,Lippincott Williams & Wilkins Publishers(1999)(ISBN:0683305727);およびKibbe(ed.),Handbook of Pharmaceutical Excipients American Pharmaceutical Association,3rded.(2000)(ISBN: 091733096X)に記載されている。
【0165】
特定の実施態様において、例えば、不活性の希釈剤または吸収可能な可食担体とともに、組成物を経口投与することが可能である。また、化合物(および必要に応じて他の成分)を硬ゼラチンカプセルまたは軟ゼラチンカプセルに封入するか、錠剤に圧縮するかまたは、患者の食事の中に直接入れることも可能である。経口で治療薬を投与するには、化合物を賦形剤とともに取り込んで、可食性の錠剤、口腔錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウエハースなどの形にして使用することも可能である。非経口投与以外の方法で化合物を投与するには、化合物を、その不活性化を防止する物質で被覆するか、または上述の化合物とともに投与する必要があるかもしれない。
【0166】
薬学的組成物は、当技術分野において既知の医療装置によって投与することも可能である。例えば、好適な実施態様において、米国特許第5,399,163号、第5,383,851号、第5,312,335号、第5,064,413号、第4,941,880号、第4,790,824号または第4,596,556号に開示されている装置などの無針皮下注射装置によって本発明の薬学的組成物を投与することもできる。本発明において有用な周知のインプラントおよびモジュールの例としては:制御された速度で薬剤を投薬するための埋め込み可能な微量注入ポンプを開示する米国特許第4,487,603号;皮膚を通して薬剤を投与するための治療用装置を開示する米国特許第4,486,194号;正確な注入速度で薬剤を送達するための薬剤注入用ポンプを開示する米国特許第4,447,233号;継続的な薬剤送達をするための埋め込み可能な変流量注入装置を開示する米国特許第4,447,224号;マルチチャンバー区画をもつ浸透圧薬送達系を開示する米国特許第4,439,196号;および浸透圧薬送達系を開示する米国特許第4,475,196号などが挙げられる。もちろん、これら以外にも多くのインプラント、送達系、およびモジュールが知られている。
【0167】
特定の実施態様において、確実にインビボで適正に分布するように処方することもできる。例えば、血液脳関門(BBB)は、高度に親水性の化合物を排除する。本発明の治療用化合物が、(必要に応じて)BBBを確実に通過するよう、例えば、リポソームに処方することができる。リポソームを製造する方法については、例えば、米国特許第4,522,811号、第5,374,548号、および第5,399,331号を参照。リポソームは、特異的な細胞または器官に選択的に輸送されて、目的とされた薬剤送達を強化する一つ以上の部分を含むことが可能である(例えば、V.V.Ranade(1989)J.Clin.Pharmacol.29:685を参照のこと)。
【0168】
また、ポリペグ化Kunitzドメイン、および、例えば、治療、予防、または診断への使用など使用説明書を含むキットも本発明の範囲に含まれる。一つの実施態様において、キットは、(a)例えば、化合物を含む組成物などの化合物、および、選択的に、(b)情報資料を含む。この資料は、説明用、指示用、販売用、またはその他、本明細書記載の方法、および/または本明細書記載の方法のために上述の化合物を使用することに関連する資料でもよい。例えば、エラスターゼ活性を阻害するKunitzドメインの場合、情報資料には、エラスターゼ活性を低下させるため、または、肺障害(例えばCFまたはCOPD)、炎症性障害(例えばIBD)、もしくは過剰なエラスターゼ活性によって特徴づけられる障害を治療もしくは予防するために上述の化合物を投与する方法が記載される。
【0169】
一つの実施態様において、情報資料は、例えば、適当な用量、投薬形態、または投与方式(例えば、本明細書に記載されている用量、投薬形態、または投与方式)など、適当な方法で化合物を投与するための指示を含むことができる。別の実施態様において、情報資料は、例えばヒト、例えば、過剰なエラスターゼ活性によって特徴づけられる障害を有するか、その危険があるヒトなど、適当な被験体を同定するための指示を含むことも可能である。情報資料は、化合物の製造に関する情報、化合物の分子量、濃度、使用期限、バッチまたは製造地の情報などを含むことが可能である。キットの情報資料は、その形式に制限はない。多くの場合、例えば指示書などの情報資料は、例えば、ラベルや印刷された紙など、印刷された文章、図画および/または写真などの印刷物として提供される。しかし、情報資料は、点字、コンピュータに読み込み可能な資料、ビデオ録画、または音声録音など、別の形式で提供することも可能である。別の実施態様において、キットの情報資料は、例えば、実際の住所、電子メールのアドレス、ハイパーリンク、ウェブサイト、または電話番号などのリンク情報または連絡先であるが、その所で、キットの使用者は、化合物および/または本明細書記載の方法におけるその使用法についての確かな情報を得ることができる。もちろん、情報資料は、方式を併用して提供することも可能である。
【0170】
化合物に加えて、キットの組成物には、溶媒またはバッファー、安定化剤または保存剤、および/または、例えば、肺(例えばCFまたはCOPD)または炎症性(例えばIBDまたはRA)の障害など、本明細書記載の症状または疾患を治療するための第二の薬剤など、他の成分を含むことも可能である。あるいは、その他の成分がキット中に含まれることもあるが、上述の化合物とは別の組成物または容器に入れることも可能である。このような実施態様において、キットは、化合物とその他の成分を混合するための指示、または、化合物とその他の成分とともに使用するための指示を含むことができる。
【0171】
化合物は、例えば液体、乾燥または凍結乾燥の状態など、いかなる形態でも提供することができる。化合物は、実質的に純粋および/または無菌であることが好ましい。化合物が液体溶液で提供される場合、好ましくは、液体溶液は水性溶液であり、無菌の水性溶液が好適である。化合物が乾燥した状態で提供される場合には、通常、適当な溶媒を加えて再構成が行われる。例えば滅菌した水またはバッファーなどの溶媒を、選択的にキット中に提供することも可能である。
【0172】
キットは、化合物を含む組成物のために1個以上の容器を含むことがある。いくつかの実施態様において、キットは、組成物と情報資料のために別々の容器、仕切り、または区画を含む。例えば、組成物を瓶、バイアル、または注射器に含ませ、また、情報資料をプラスチック製のスリーブまたは包みの中に入れることができる。別の実施態様において、キットの別個の構成要素が一つの仕切りのない容器に入っている。例えば、組成物が、キットに付属した瓶、バイアル、または注射器の中に入っていて、情報資料がラベルの形で付いている。いくつかの実施態様において、キットは、複数(例えば、箱入り)の個別容器であって、それぞれに化合物の1単位以上の剤形(例えば、本明細書記載の剤形)が入っている容器を含む。例えば、キットは、それぞれに化合物の1単位用量が入っている、複数の注射器、アンプル、ホイル包み、またはブリスター包装を含む。キットの容器は、気密性、防水性(例えば、湿度や蒸発の変化に対し不透過である)、および/または遮光性であってもよい。
【0173】
化合物が、エラスターゼに結合するポリペプチドを含む実施態様において、診断への応用に関する指示には、インビトロで、例えば、肺障害を有する患者の生検または細胞などの試料中において、あるいはインビボにおいてエラスターゼを検出するための上述の化合物の使用法が含まれる。キットはさらに、例えば、本明細書に記載されているような診断薬または治療薬などの診断薬または治療薬のような付加的試薬を少なくとも一つ、および/または、肺障害を治療するための別の薬剤(例えば、別のエラスターゼインヒビター)を少なくとも一つ、適当に処方して、別の医薬調製物にして含むことがある。
【0174】
(治療)
ポリペグ化Kunitzドメインは、治療および予防にも役立つ。
【0175】
一つの実施態様において、ポリペグ化Kunitzドメインは、例えば、好中球エラスターゼなどのエラスターゼを阻害する。上述の化合物を被験体に投与して、不要または異常なエラスターゼ活性という特徴をもつ病気など、さまざまな障害を治療、予防、および/または診断することができる。例えば、上述の疾患または障害は、好中球のエラスターゼ活性の亢進によって特徴づけられうる。上述の疾患または障害は、例えば、肺の上皮表面などの上皮組織のような組織に対する好中球の負荷が増加することによって生じる可能性がある。例えば、エラスターゼを阻害するポリペプチドを用いて、嚢胞性線維症(CF)または慢性閉塞性肺疾患(COPD)、例えば肺気腫などの肺疾患を治療または予防することができる。また、化合物を、細胞、組織、または培養中の器官に、例えば、インビトロまたはエクスビボで投与することも可能である。
【0176】
その他のプロテアーゼを阻害するポリペグ化Kunitzドメインも、それら各々のプロテアーゼの活性に関連する疾患を治療または予防するために使用することができる。
【0177】
本明細書において、「治療する」または「治療」という用語は、ポリペグ化Kunitzドメインを単独または別の薬剤と組み合わせて、障害、障害の徴候または障害に対する素因を治療、治癒、緩和、軽減し、変化させ、改善し、改良し、向上させ、影響を与える目的で、被験体、例えば患者に適用または投与すること、あるいは、上述の薬剤を、被験体、例えば、障害(例えば、本明細書記載の障害)、障害の徴候または障害に対する素因を有する患者から単離された組織または細胞、例えば細胞株に適用または投与することと定義される。細胞を治療するとは、インビトロまたはインビボで細胞を阻害、除去、殺滅すること、または、別の方法で、例えば異常細胞などの細胞が、例えば、本明細書に記載されているような疾患(例えば肺疾患)などの疾患を仲介する能力を低下させることを意味する。一つの実施態様において、「細胞を治療する」とは、例えば、白血球または好中球などの細胞の活性および/または増殖を低下させることを意味する。このような低下は、細胞が完全に消滅することを必ずしも意味せず、例えば、統計的に有意な低下のような、細胞の活性または数量の低下も意味する。
【0178】
本明細書において、障害を治療するのに有効なポリペグ化Kunitzドメイン量、すなわち「治療上有効な量」とは、被験体に単回または多数回用量投与すると、被験体における障害の少なくとも一つの症状を、例えば治療、緩和、軽減、または改善するなど、そのような治療がない場合に期待される程度を超える程度まで被験体を治療するのに効果的な化合物量を意味する。例えば、障害は、例えば、本明細書記載の肺生涯などの肺障害であってもよい。
【0179】
「局所的に有効な量」は、例えば、エラスターゼに曝露された肺の一領域、または好中球などのエラスターゼ産生細胞などの組織中において、標的タンパク質(例えばエラスターゼ)の活性を検出可能なほど調節するのに有効な化合物量(例えば濃度)を意味する。調節が起きた証拠は、基質量の増加、例えば、細胞外基質のタンパク質分解の低下などである。
【0180】
本明細書においては、障害を予防するのに有効なポリペグ化Kunitzドメイン量、すなわち化合物の「予防上有効な量」とは、被験体に単回または多数回用量投与すると、障害、例えば肺障害などの開始または再発が起きるのを予防または遅延させるのに有効な、例えば、本明細書に記載のポリペプチド−ポリマー化合物などのエラスターゼ結合化合物の量を意味する。
【0181】
「誘導」、「阻害」、「強化」、「上昇」、「増加」、「減少」など、2つの状態の量的な違いを表す用語は、上述の2つの状態に、例えば、統計的に有意な差(例えば、P<0.05、0.02、または0.005)があることを意味する。
【0182】
用量を調節して、最適な所望の反応(例えば治療反応)を提供する。例えば、ボーラスを一回投与することも可能であり、いくつかの用量に分けて時間をかけて投与することも可能であり、または、治療状況の必要に応じて指示されたとおりに用量を均等に減らしたり増加させたりすることも可能である。投与を容易にし、投薬を均一にするために、非経口組成物を投薬単位剤形に処方するのが特に有利である。本明細書において、投薬単位剤形とは、治療すべき患者への単位剤形として適した物理的に別個の単位であって、各単位が、必要な医薬担体とともに所望の治療効果を生み出すよう計算された所定量の活性化合物を含む単位を意味する。
【0183】
本明細書記載の化合物の治療上または予防上有効な量の例示的かつ非限定的範囲は0.1〜20mg/kg、より好ましくは1〜10mg/kgである。化合物は、20、10、5または1mg/分よりも遅い速度で約1から50mg/mまたは約5から20mg/mになるまで静脈内注入して投与することができる。用量値は、緩和すべき症状の種類や重篤度によって変化しうることに注意すべきである。さらに、特定の被験体について、各人の必要や、上述の化合物の投与を行ったり管理したりする人の専門的な判断にしたがって、時間をかけて具体的な投薬量を調整すべきであって、本明細書に示した用量範囲は例示に過ぎないことは当然である。
【0184】
薬学的組成物は、本明細書記載の化合物、例えば、プロテアーゼ(例えばエラスターゼ)に結合してそれを阻害するポリペプチドを含む化合物などを「治療上有効な量」または「予防上有効な量」含むことができる。「治療上有効な量」は、必要とされる容量および期間に、所望の治療結果を達成するために効果的な量を意味する。組成物の治療上有効な量は、各人の病状、年齢、性別、および体重、ならびに、上述の化合物が各人の体内で所望の反応を誘発する能力などの因子によって変化しうる。また、治療上有効な量は、化合物の毒性または有害な作用を、治療上有益な効果が凌ぐ量でもある。「治療上有効な用量」は、好ましくは、例えば、未治療の被験体と比較して肺機能が上昇しているなど、測定可能なパラメータを阻害する。化合物が測定可能なパラメータを阻害する能力は、ヒトの障害における効能を予測する動物モデル系で評価することができる。あるいは、ある組成物のこの性質を、上述の化合物の阻害能力、例えば、本明細書記載のアッセイ法など、当業者に公知のアッセイ法によってインビトロでの阻害などを試験することによって評価することが可能である。
【0185】
「予防上有効な量」は、必要とされる用量および期間に、所望の予防結果を達成するために効果的な量を意味する。一般的には、予防的な用量は、疾患の初期段階になる以前またはその段階で被験体に使用されるため、予防上有効な量は、治療上有効な量よりも少ない可能性がある。
【0186】
本明細書において、「被験体」という用語は、ヒトおよびヒト以外の動物を含むものとする。本発明の「ヒト以外の動物」という用語は、非哺乳動物(ニワトリ、両生類、爬虫類など)、および、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ブタなどの哺乳動物など、すべての脊椎動物を含む。
【0187】
一つの実施態様において、被験体は、ヒト被験体である。あるいは、被験体は、ヒト好中球エラスターゼ、または内生的な非ヒト好中球エラスターゼタンパク質、または、エラスターゼ結合化合物が交差反応するエラスターゼ様抗原を発現しているヒト以外の哺乳動物でもよい。本発明の化合物は、ヒト被験体に治療目的で投与することができる(下でさらに検討する)。さらに、エラスターゼ結合化合物は、上述の化合物が結合するエラスターゼ様抗原を発現するヒト以外の哺乳動物(例えば、霊長類、ブタまたはマウス)に、獣医学的目的で、またはヒト疾患の動物モデルとして投与することができる。後者については、そのような動物モデルは、上述の化合物の治療上の効能を評価する(例えば、投与の用量および経時変化をテストする)のに役立つ可能性がある。
【0188】
本方法は、培養細胞に、例えばインビトロまたはエクスビボで使用することができる。本方法は、患者の体内に存在する細胞に対し、インビボ(例えば、治療または予防的な)プロトコールの一部として実行することができる。インビボでの実施態様について、接触工程は、被験体の体内で行われ、被験体の体内で上述の化合物を標的(例えばエラスターゼ)に結合させるのに効果的な条件下で、被験体に対してエラスターゼ結合化合物を投与することを含む。
【0189】
エラスターゼを阻害する化合物は、エラスターゼが介在する分解と、その結果である、持続感染や炎症など、組織の破壊(例えば気道上皮の破壊)に至るのを軽減することができる。
【0190】
化合物を投与する方法は、「薬学的組成物」に記載されている。使用される化合物の適当な投薬量は、被験体の年齢および体重、ならびに用いる具体的な薬剤によって異なる。化合物は、例えば、細胞外基質およびエラスターゼの間など、天然または病理学的な薬剤とエラスターゼとの間の相互作用など、望ましくない相互作用を阻害、低下させるための競合因子として使用することができる。
【0191】
一つの実施態様において、化合物を用いて、エラスターゼをインビボで発現する細胞を殺滅または除去する。化合物は、単独で用いることも、例えば、細胞毒性薬、放射性同位元素などの因子に結合することも可能である。この方法は、上述の化合物を、単独または細胞毒性薬に結合させて、そのような治療を必要とする被験体に投与することを含む。
【0192】
「細胞毒性薬」および「細胞増殖抑制薬」という用語は、成長または増殖を阻害する(例えば、細胞増殖抑制薬)か、または細胞の殺滅を誘導するという性質をもつ薬剤を意味する。
【0193】
また、ポリペグ化Kunitzドメインを用いて、治療薬、放射線を放つ化合物、植物、菌または細菌に由来する分子、生体タンパク質、およびこれらの混合物など、さまざまな薬剤を送達することができる。例えば、Kunitzドメインを用いて、Kunitzドメインと特異的に相互作用するプロテアーゼを含む被験体の領域へ運ばれるものを標的とすることができる。
【0194】
酵素的に活性のある毒素およびその断片の例は、ジフテリア毒素A断片、ジフテリア毒素の非結合活性断片、エクソトキシンA(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、α−サクリン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)のいくつかのタンパク質、ディアンシン(Dianthin)のいくつかのタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolacca americana)のタンパク質(PAP、PAPIIおよびPAP−S)、ツルレイシ(Mordica charantia)インヒビター、クルシン、クロタン、Saponaria officinalisインヒビター、ゲロニン(gelonin)、ミトギリン(mitogillin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、およびエノマイシン(enomycin)である。抗毒素の酵素的に活性をもつポリペプチドを調製するための手順については、国際公開番号WO84/03508およびWO85/03508に記載されている。抗体に結合することができる細胞毒素部分の例としては、アドリアマイシン、クロラムブシル、ダウノマイシン、メトトレキサート、ネオカルチノスタチン、およびプラチナなどが挙げられる。
【0195】
ポリペプチド毒素の場合、組換え核酸技術を用いて、Kunitzドメインと細胞毒素(またはそのポリペプチド成分)を含むポリペプチドを翻訳融合タンパク質としてコードする核酸を構築することができる。そして、組換え核酸を、例えば細胞の中で発現させて、コードされた融合ポリペプチドを単離する。次に、この融合タンパク質を、例えば、インビボにおける半減期を安定化させるために、化合物の分子量を増加させる部分と物理的に結合させてから、ある部分(例えばポリマー)に結合させる。
【0196】
タンパク質を細胞毒性薬に結合するための手順については、既述されている。クロラムブシルをタンパク質に結合させることについては、例えば、Flechner(1973)European Journal of Cancer,9:741−745;Ghose et al.(1972)British Medical Journal,3:495−499;およびSzekkerke,et al.(1972) Neoplasma,19:211−215を参照のこと。ダウノマイシンおよびアドリアマイシンをタンパク質に結合させることについては、例えば、Hurwitz,E.et al.(1975)Cancer Research,35:1175−1181およびArnon et al.(1982)Cancer Surveys,1:429−449を参照のこと。タンパク質−リシン結合体の調製については、例えば、米国特許第4,414,148号およびOsawa,T.,et al.(1982)Cancer Surveys,1:373−388およびそこで引用されている文献を参照のこと。結合処理手順についても欧州特許第226 419号に記載されている。
【0197】
予防用の化合物を使用することを含む、殺滅法または除去法も本発明に包含される。例えば、これらの物質を用いて、肺疾患の発症または進行を予防するか遅延させることができる。
【0198】
肺疾患を治療するために本発明の治療法を使用することには数多くの利点がある。本化合物のポリペプチド部分は特異的にカタラーゼを認識するため、他の組織を守りつつ、治療が必要な部位に大量の薬剤が送達される。本発明による治療は、臨床的指標によって効果的に監視することが可能である。あるいは、これらの指標を用いて、いつそのような治療を用いるべきかを指示することができる。
【0199】
(肺疾患および方法および処方)
ある部分(例えばポリマー)と物理的に結合しているhNEインヒビター・ポリペプチドを用いて、肺気腫、嚢胞性線維症、COPD、気管支炎、肺高血圧症、急性呼吸窮迫症候群、間質性肺炎、ぜんそく、喫煙中毒、気管支肺異形成症、肺炎、熱傷および肺移植片拒絶反応などの肺障害を治療することができる。
【0200】
(嚢胞性線維症)
嚢胞性線維症(CF)は、米国において約30,000人の子供と大人に影響を与えている遺伝病である。CF遺伝子に欠損があると、身体は、肺を塞ぎ、生死に関わる感染症をもたらす、異常に濃い粘着性の粘液を産生するようになる。この遺伝性障害の診断は、ガーゼまたは濾紙上に集めた汗の中の塩化物濃度の測定、ガーゼまたは濾紙上に集めた汗中のナトリウム濃度ならびに集めた汗におけるピロカルピン送達および電流密度の測定を含みうる、発汗試験を含む。CFの原因となる遺伝子は同定されており、上述の遺伝子における多数の変異が知られている。
【0201】
一つの実施態様において、ある部分(例えばポリマー)と物理的に結合しているhNEインヒビター・ポリペプチドを用いて、例えば、CF患者の肺における肺損傷を軽減するなど、CFの症状を少なくとも一つ緩和することができる。
【0202】
また、この化合物を用いて、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の少なくとも一つの症状を緩和することができる。慢性気管支炎とともに肺気腫は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の一部であり、重篤な肺疾患であって進行性であり、通常、高齢の患者で発症する。COPDは、肺胞または気嚢として知られている肺の構造物の過膨張をもたらす。肺胞の壁が崩壊して、肺の呼吸能力の低下が生じる。この疾患を有する患者は、まず、息切れおよび咳に悩むようになる。COPDを評価するための臨床的指標の一つは、肺胞中隔損傷および気腫の測定値を測定する破壊指標であり、機能的な異常、特に、弾性収縮力の喪失を厳密に反映する、肺破壊の感度のよい指標であると提唱されている。例えば、Am Rev Respir Dis 1991 Jul;144(1):156−9を参照のこと。上述の化合物を用いて、患者の破壊指標を、例えば、統計的に有意な量、例えば、相当する年齢および性別の正常な個体の少なくとも10、20、30もしくは40%まで、または少なくとも50、40、30もしくは20%の範囲内に低下させることができる。
【0203】
一つの態様において、本発明は、ポリペグ化Kunitzドメインが、肺障害(例えば、嚢胞性線維症、COPD)を治療するためのhNEインヒビターである組成物を提供する。上述の組成物は、吸入用や他の肺送達方式用に処方することが可能である。したがって、本明細書記載の化合物は、吸入によって肺組織に投与することができる。本明細書において「肺組織」という用語は、気道の組織を意味し、別段の記載がない限り、上気道および下気道の両方を含む。ある部分(例えばポリマー)と物理的に結合しているhNEインヒビター・ポリペプチドは、1種類以上の現行の肺疾患の療法と組み合わせて投与することも可能である。
【0204】
一例において、化合物を噴霧装置用に処方する。一つの実施態様において、化合物は、凍結乾燥状態で(例えば室温で)保存し、吸入する前に溶液で再構成することも可能である。別の実施態様において、化合物を酸性pH(例えばpH5、4または3未満)で保存した後、吸入する前に、塩基性pHの中和用バッファーと混合することも可能である。
【0205】
化合物を、例えば吸入装置などの医療装置を用いて、吸入用に処方することも可能である。例えば、米国特許第6,102,035号(粉末吸入装置)および第6,012,454号(乾燥粉末吸入装置)を参照のこと。吸入装置は、酸性pHの活性化合物と中和用バッファーのための別々の区画、および、噴霧する直前に上述の化合物を中和用バッファーと混ぜるための装置を含みうる。一つの実施態様において、吸入装置は定量吸入器である。
【0206】
肺の気道に局所的に送達するために使用される3つの一般的な装置は、乾燥粉末吸入装置(DPI)、定量吸入装置(MDI)および噴霧装置である。MDIは、吸入による投与の最も普通の方法であり、薬剤を可溶化状態で、または分散液として送達するために利用することができる。一般的には、MDIは、フロンガス、またはそれ以外の比較的高い蒸気圧の推進剤であって、装置を活性化すると、エアロゾル化された薬剤を気道の中に入り込ませる推進剤を含む。MDIとは異なり、DPIは、通常、乾燥粉末状態の薬剤を肺の中に吸い込もうとする患者の努力に完全に依存している。噴霧器は、液体溶液にエネルギーを付与して、吸入すべきエアロゾルを形成する。フルオロケミカル培地(fluorochemical medium)を用いた液体換気または肺洗浄の過程で薬剤を直接肺に送達することも検討されている。これら、およびその他の方法を用いて、ある部分(例えばポリマー)と物理的に結合しているhNEインヒビター・ポリペプチドを送達することができる。
【0207】
例えば、吸入によって投与するには、hNEを阻害するポリペグ化Kunitzドメインを、適当な推進剤を含む容器または分注器、すなわち噴霧装置に圧力をかけると出てくるエアロゾルスプレーの形で送達する。化合物は、乾燥粒子の形でも、液体としてでもよい。化合物を含む粒子は、スプレー乾燥によって、または、hNEを阻害するポリペグ化Kunitzドメインの水性溶液を電荷中和剤とともに乾燥させた後、その乾燥粉末から粒子を作成することによって、または、有機重合調製剤中で水性溶液を乾燥させた後、その乾燥粉末から粒子を作製することによって調製することができる。
【0208】
化合物は、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジエリロロテトラフルオロクトリアン(dielilorotetrafluoroctliane)、二酸化炭素、またはその他の適当なガスなど、適当な推進剤を用いることによって、圧力を加えた容器または噴霧器から現れるエアロゾルスプレーの形で適宜送達することが可能である。加圧エアロゾルの場合、計量した量を送達するためにバルブを提供して用量単位を測定することが可能である。粒子が製剤された粒子である場合には、hNEを阻害するポリペグ化Kunitzドメイン、および乳糖やデンプンなど適当な粉末基剤との粉末混合物を含む吸入装置または吸入器で使用するためのカプセルおよびカートリッジを工夫することが可能である。処方または未処方の化合物に加えて、100%DPPCまたはその他の界面活性剤など別の材料を、hNEを阻害するポリペグ化Kunitzドメインと混合して、処方または未処方の化合物の送達および分散を促進する。乾燥粒子を調製する方法は、例えば、PCT公開番号WO02/32406に記載されている。
【0209】
hNEを阻害するポリペグ化Kunitzドメインを、例えば乾燥エアロゾル粒子として投与すると、迅速に吸収されて、局所または全身における迅速な治療成果をもたらすことができる。投与は、検出可能な活性が投与後2分間、5分間、1時間、または3時間以内に提供されるよう調整することができる。いくつかの実施態様において、ピーク活性は、半時間以内またはさらに10分間以内など、より一層速く達成することも可能である。あるいは、hNEを阻害するポリペグ化Kunitzドメインを、より長い生体内半減期をもつよう製剤して、例えば、化合物を肺から循環器に入れて、他の器官または特定の標的器官に分布させるようにするなど、他の投与方式に代替するものとして利用することも可能である。
【0210】
一つの実施態様において、hNEを阻害するポリペグ化Kunitzドメインは、ポリペプチドの質量の5%以上が下気道または肺の深部に送達されるような量にして送達される。肺の深部は、毛細管のネットワークが極度に豊富である。毛細管腔を肺胞の空間から隔てている呼吸膜は非常に薄く(6μm以下)、極度に透過性である。さらに、肺胞の表面を裏打ちしている液体層は、肺表面活性剤に富んでいる。別の実施態様において、hNEを阻害するポリペグ化Kunitzドメインの化合物の少なくとも2%、3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、または80%が、下気道または肺の深部に送達される。これらの組織のどちらかまたは両方に送達されると、化合物の効率的な吸収と高い生物利用能とがもたらされる。一つの実施態様において、化合物は、例えば吸入装置または噴霧装置を用いて計量された量で提供される。例えば、化合物は、少なくとも約0.02、0.1、0.5、1、1.5、2、5、10、20、40、または50mg/一息、またはそれ以上の投薬単位形態で送達される。
【0211】
生物利用能の割合は、以下のとおり計算できる:生物利用能のパーセント=(AUC非侵襲性/AUC静脈内または皮下)×(用量静脈内または皮下/用量非侵襲性)×100。
【0212】
必要ではないが、界面活性剤などの送達促進剤を用いて、肺送達をさらに促進することも可能である。本明細書において、「界面活性剤」は、親水性で脂質親和性部分をもつ化合物であって、2つの不混和性相の間の界面と相互作用することによって薬剤の吸収を促進させる化合物を意味する。乾燥粒子中では界面活性剤は、例えば、粒子が塊になるのを抑える、マクロファージによる食作用を抑えるなど、いくつかの理由で有用である。肺表面活性剤と結合すると、DPPCなどの界面活性剤は、化合物が拡散するのを非常に容易にするため、上述の化合物のより効率的な吸収を行わせることができる。界面活性剤は、当技術分野において公知であり、例えば、ホスファチジルコリン、L−アルファ−ジホスファチジルコリン・ジパルミトイル(DPPC)およびジホスファチジル・グリセロール(DPPG)などのホスホグリセリド;ヘキサデカノール;脂肪酸;ポリエチレングリコール(PEG);ポリオキシエチレン−9−;ラウリルエーテル;パルミチン酸;オレイン酸;トリオレイン酸ソルビタン(Span85);グリココール酸;サーファクチン;ポロクサマー、脂肪酸ソルビタンエステル;トリオレイン酸ソルビタン;チロキサポール;およびリン脂質などであるが、これらに限定されるものではない。
【0213】
(IBDならびにその方法および処方)
一つの実施態様において、hNEを阻害するポリペグ化Kunitzドメインを用いて、例えば、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性大腸炎の少なくとも一つの症状を緩和する。
【0214】
通常、炎症性大腸炎(IBD)は慢性で再発性の腸炎である。IBDは、2つの別個の障害である、クローン病と潰瘍性大腸炎(UC)を意味する。どちらの病気も、胃腸管抗原に対する無調節な免疫反応、および/または持続性の腸感染症に対する有害な炎症反応を含む(例えば、MacDermott,R.P.,J Gastroenterology、31:907−916(1996)を参照のこと)。
【0215】
IBD患者において、腸の内層の潰瘍および炎症は、腹部の痛み、下痢および直腸出血をもたらす。潰瘍性大腸炎は、大腸で発生するが、クローン病は、小腸および大腸同様胃腸管全体に影響を与えうる。ほとんどの患者にとって、IBDは、何ヶ月も何年間も続く症状を示す慢性病である。IBDの臨床症状は、間歇的な直腸出血、けいれん性の腹痛、体重減少、および下痢である。IBDの診断は、臨床症状に基づいており、バリウム注腸を利用するが、直接的な映像化(S状結腸鏡検査法または結腸鏡検査法)が最も正確な検査法である。
【0216】
IBDの症状には、例えば、腹痛、下痢、直症出血、体重減少、発熱、食欲減退およびその他、脱水症、貧血、および栄養失調など、より重篤な合併症等が含まれる。このような症状のいくつか(例えば体重減少、熱、貧血など)を定量的に解析する。血液検査によって(例えば貧血)かまたは、血液の存在を検出する試験によって(例えば直腸出血)簡単に判定される症状もある。また、潰瘍性大腸炎に関する臨床活性指標(Clinical Activity Index for Ulcerative Colitis)などの臨床的指標を用いて、IBDを監視することも可能である。また、例えば、Walmsley et al.Gut.1998 Jul;43(1):29−32およびJowett et al.(2003)Scand J Gastroenterol.38(2):164−71も参照のこと。
【0217】
一つの実施態様において、潰瘍性大腸炎に罹患しているか、その素因を有する被験体に上述の化合物を投与すると、例えば、指標の統計的に有意な変化など、指標の改善がもたらされる。上述の化合物は、ある部分(例えば親水性ポリマー)に物理的に結合しているhNEインヒビター・ポリペプチドを含む。
【0218】
一つの実施態様において、IBDに罹患しているか、その素因を有する被験体に該化合物を投与すると、IBDの症状の少なくとも一つに改善が起きる。
【0219】
クローン病は、特発性の炎症性大腸疾患であるが、胃腸管のさまざまな部位に慢性の炎症が起きるという特徴をもつ。もっとも一般的に、クローン病は、回腸末端部と結腸に影響を与えるが、口から肛門および肛門周辺部までの胃腸管のどの部位にでも現れ得る。クローン病の予後および診断は、クローン病活性指標(Crohn’s Deasease Activity Index)などの臨床的指標を用いて測定することができる。例えば、American Journal of Natural Medicine,July/Aug 1997、およびBest WR,et al.,“Development of a Crohn’s deasease activity index”Gastroenterology 70:439−444,1976を参照のこと。一つの実施態様において、クローン病に罹患しているか、その素因を有する被験体に上述の化合物を投与すると、例えば、指標の統計的に有意な変化など、指標の改善、またはクローン病の症状の少なくとも一つの緩和がもたらされる。
【0220】
したがって、一つの態様において、本発明は、大腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、またはIBPなどの大腸炎)またはその他の胃腸管または直腸の疾患を治療するためにhNEを阻害するポリペグ化Kunitzドメインを含む組成物を提供する。上述の組成物は、坐剤として処方することも可能である。坐剤は、室温では固体のままであるが、体温で溶けるという性質をもつ、蝋、油脂および脂肪アルコールなどの基剤成分とともに処方することができる。本発明の活性成分は、ヒドロコルチゾン(1.0%)のような選択的な治療薬成分、ベンゾカイン(1.0から6.0%)のような局所麻酔剤、またはすでに列挙されているその他の成分とともに、またはこれらなしで、適当なpH値、例えば、オレイル・アルコール(45%から65%の範囲)、または、セチルアルコールまたはステアリルアルコールのような固体の高級脂肪酸(30%から50%)など、pH5の液体脂肪アルコールで調製することができる。基剤成分は、本産業の技術分野において公知である。例えば、米国特許第4,945,084号および第5,196,405号を参照のこと。
【0221】
また、化合物は、クリーム、ローション、軟膏、スプレー、パッド、パッチ、浣腸剤、泡剤、および坐剤などの活性成分として、または、リポソームまたはグリコスフィアのマイクロカプセル化などの送達媒体の活性成分として用いることができる。その他の送達技術には、防御および徐放のために活性成分を捕捉するマイクロスポンジや代用細胞膜(Completech(登録商標))などがある。直腸発泡剤は、局所的なエアロゾル組成物として調製することができ、(潰瘍性大腸炎、クローン病などの)治療のために使用することもできる
(診断用途)
ポリペグ化Kunitzドメインは、診断にも利用できる。
【0222】
一つの態様において、本発明は、インビトロ(例えば、組織、生検などの生体試料)またはインビボ(例えば、被験体のインビボ画像化)において、エラスターゼタンパク質の存在を検出する診断方法を提供する。上述の方法は、(i)試料を、例えば、エラスターゼ、プラスミン、またはカリクレインなどの標的プロテアーゼに結合するKunitzドメインなどのポリペグ化Kunitzドメインに接触させる工程および(ii)エラスターゼリガンドと試料が複合体を形成したことを検出する工程を包含する。上述の方法は、参照試料(例えば、コントロール試料)をリガンドに接触させる工程およびリガンドと試料の間における複合体形成の程度を、参照用試料に対するその程度とを比較して決定する工程も包含することが可能である。コントロール試料または被験者と比較して、上述の試料または被験者における複合体形成に変化、例えば、統計学的に有意な変化があると、上述の試料中にエラスターゼが存在することの指標となりうる。
【0223】
別の方法は、(i)化合物を被験体に投与する工程、および(iii)上述の化合物と標的プロテアーゼと間の複合体形成を検出する工程を包含する。検出は、複合体の形成される位置および時間を測定することを含みうる。
【0224】
化合物は、結合抗体または未結合抗体の検出を容易にするために、検出可能な物質で直接または間接的に標識することができる。適当な検出可能物質には、さまざまな酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質および放射性物質などが挙げられる。
【0225】
標的プロテアーゼに結合したリガンド、または未結合のリガンドのいずれかを測定または可視化することによって、化合物と標的プロテアーゼの間における複合体形成を検出することができる。例えば酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、または組織免疫組織化学法など、通常の検出アッセイ法を用いることができる。化合物を標識した上でさらに、検出可能物質で標識された標準と非標識プロテアーゼリガンドとを用いる競合免疫測定法によって、試料中の標的プロテアーゼの存在を測定することができる。このアッセイ法の一例において、生体試料、標識された標準、および化合物を混合して、非標識のリガンドに結合した標識標準の量を測定する。試料中の標的プロテアーゼの量は、上述の化合物に結合した標識標準の量に反比例する。
【0226】
蛍光プローブおよび発色プローブで標識したタンパク質リガンドを調製することができる。さまざまな適当な蛍光剤および発色プローブが、Styer(1968)Science,162:526およびBrand,L.et al.(1972)Annual Review of Biochemistry,41:843−868に記載されている。タンパク質リガンドは、米国特許第3,940,475号、第4,289,747号および第4,376,110号に開示されているような常法によって蛍光性の発色団を用いて標識することができる。上記した所望の性質をいくつか有する蛍光剤の一群は、キサンテン色素であり、フルオレセインとローダミンを含む。蛍光化合物の別の一群はナフチルアミン類である。蛍光プローブまたは発色プローブで標識されると、そのタンパク質リガンドを、例えば、蛍光顕微鏡(共焦点顕微鏡またはデコンボリューション(逆重畳)顕微鏡)を用いて、試料中の標的プロテアーゼの存在または局在を検出するために使用することができる。
【0227】
(タンパク質アレイ)
化合物は、タンパク質アレイに固定することもできる。タンパク質アレイは、診断用のツールとして、例えば、医療用試料(単離された細胞、血液、血清、生検など)をスクリーニングするためなどに用いることもできる。ポリペプチドアレイを作製する方法は、例えば上に記載されている。
【0228】
(インビボ画像化)
さらに別の実施態様において、本発明は、標的プロテアーゼまたは標的プロテアーゼ発現組織の存在をインビボで検出する方法を提供する。上述の方法は、(i)被験体(例えば、肺または呼吸器に障害をもつ患者)に、Kunitzドメインを含み、ポリペグ化されている化合物を検出用マーカーに結合したものを投与する工程、(ii)上述の被験体を、標的プロテアーゼを発現する組織または細胞に対する上述の検出用マーカーを検出するための装置に曝露する工程を包含する。例えば、NMRまたは他の断層撮影装置によって被験体を画像化する。
【0229】
本発明による診断用の画像化に有用な標識の例は、131I、111In、123I、99mTc、32P、125I、H、14C、および188Rhなどの放射性標識、フルオロセインおよびローダミンなどの蛍光標識、核磁気共鳴活性標識、ポジトロン断層(「PET」)走査装置によって検出できる陽子放出同位元素、ルシフェリンなどの化学発光剤、ペルオキシダーゼまたはホスファターゼなどの酵素マーカーなどである。近距離検出プローブによって検出可能な同位元素など、近距離発光体を用いることもできる。このような試薬によって、既知の方法を用いて、Kunitzドメインを含む化合物を標識することができる。例えば、タンパク質の放射性標識に関する技術については、Wensel and Meares(1983)Radioimmunoimaging and Radioimmunotherapy,Elsevier,New Yorkを参照のこと。また、D.Colcher et al.(1986)Meth.Enzymol.121:802−816を参照のこと。
【0230】
また、本発明の放射性標識化合物は、インビトロでの診断試験に使用することもできる。同位元素によって標識された化合物の特異的活性は、放射性標識の半減期、同位元素の純度および上述の標識がどのようにして化合物に取り込まれるかによって決まる。
【0231】
ポリペプチド(化合物のポリペプチド部分)を放射性同位元素(14C、H、35S、125I、32P、131Iなど)で標識する方法は、一般的に知られている。例えば、トリチウムで標識する方法は、米国特許第4,302,438号に記載されている。ヨウ素化、トリチウム標識、および35S標識の方法は、例えば、マウスモノクローナル抗体に適合させたものとして、例えば、Goding,J.W.(Monoclonal antibodies:principles and practice:production and application of monoclonal antibodies in cell biology, biochemistry,and immunology 2nd ed.London;Orlando:Academic Press,1986.pp 124−126)およびそこで引用されている文献に記載されている。ポリペプチドをヨウ素化する別の方法が、Hunter and Greenwood(1962)Nature 144:945,David et al.(1974)Biochemistry 13:1014−1021および米国特許第3,867,517号および第4,376,110号に記載されている。画像化するのに有用な放射性標識元素は、例えば123I、131I、111Inおよび99mTcなどである。ポリペプチドをヨウ素化する方法は、Greenwood,F.et al.(1963)Biochem.J.89:114−123;Marchalonis,J.(1969)Biochem.J.113:299−305;およびMorrison,M. et al.(1971)Immunochemistry 289−297に記載されている。99mTc標識する方法は、Rhodes,B.et al.in Burchiel,S.et al.(eds.),Tumor Imaging: The Radioimmunochemical Detection of Cancer, New York:Masson 111−123(1982)、およびそれらに引用されている文献に記載されている。111In標識抗体に適した方法は、Hnatowich,D.J.et al.(1983)J.Immul.Methods,65:147−157,Hnatowich,D.et al.(1984)J.Applied Radiation,35:554−557,およびBuckley,R.G.et al.(1984)F.E.B.S 166:202−204に記載されている。
【0232】
放射性標識された化合物の場合、化合物は、患者に投与され、化合物と相互作用する抗原を組織に局在され、例えば、ガンマカメラまたはエミッション・トモグラフィを用いる放射核スキャニングなど既知の技術を用いて、インビボで検出または「画像化」される。例えば、A.R.Bradwell et al.,”Developments in Antibody Imaging”,Monoclona1 antibodies for Cancer Detection and Therapy,R.W.Baldwin et al.,(eds.),pp 65−85(Academic Press 1985)を参照のこと。あるいは、Brookhaven National LaboratoryにあるPet VIと名付けられたもののように、放射性標識が陽子(例えば11C、18F、15O、および13N)を放出するポジトロン放出断層撮影走査装置を用いることができる。
【0233】
(MRI造影剤)
核磁気共鳴画像法(MRI)は、NMRを用いて、生体の内部的な特徴を可視化するため、予後、診断、治療および手術に役立つ。放射性の追跡化合物なしで使用することが可能であることが、MRIの明らかな利点である。いくつかのMRI技術が、欧州特許番号EP−A−0502814号に要約されている。通常、異なった環境における水プロトンの緩和時間定数T1およびT2に関する差異を利用して、画像を生成する。しかし、これらの違いは、鮮明で高解像度の画像を提供するには不十分である。
【0234】
これらの緩和時間定数の差を造影剤で増強することができる。そのような造影剤の例としては、数多くの磁性体、常磁性体(主にT1を変える)、および強磁性体、または超常磁性体U主にT2反応を変える)などが挙げられる。キレート剤(例えばEDTA、DTPAおよびNTAキレート剤)を用いて、いくつかの常磁性物質(例えばFe+3、Mn+2、Gd+3)の付着(および毒性を低下)させることができる。その他の磁性体は粒子の形、例えば、直径10μmよりも小さいものから約10nMまで)になっている。粒子は、強磁性、反強磁性または超常磁性の特性を有し得る。粒子は、例えば、マグネタイト(Fe)、γ−Fe、フェライト、およびその他、遷移元素の磁性鉱物の化合物を含みうる。磁性粒子は、非磁性物質の有無を問わず1種類以上の磁性結晶体を含むことができる。非磁性物質は、合成または天然のポリマー(セファロース、デキストラン、デキストリン、デンプンなど)を含みうる。
【0235】
また、化合物は、以下の理由で、NMR活性型19F原子、または同様の原子を複数含む指示基で標識することができる。すなわち、(i)天然に豊富なフッ素原子のほとんどすべては19Fの同位元素であり、そのため、フッ素含有化合物のほとんどすべてはNMR活性型である。(ii)トリフルオロ酢酸無水物など、化学的に活性なポリフッ化化合物の多くが比較的低価格で市販されている。また、(iii)多くのフッ化化合物は、ヘモグロビンの代替物として酸素を運搬するために利用されるペルフルオロ化ポリエステルなど、人体への使用が医学的に許容できることが分かっている。インキュベートする時間を置いた後、Pykett(1982)Scientific American,246:78−88に記載された装置の一つなどの装置を用いて全身MRIを行い、癌組織の位置を見つけて画像化する。
【0236】
また、標的プロテアーゼに結合する化合物、および例えば、インビトロ、例えば、試料中、例えば、肺疾患を有する患者の生検または細胞において、または、インビボ、例えば、患者を画像化するなどして標的プロテアーゼを検出するための化合物(例えばポリペグ化Kunitzドメイン)の用途などの使用説明書を含むキットも、本発明の範囲に含まれる。上述のキットはさらに、標識またはさらに別の診断薬など、少なくとも一つの付加的試薬を含むことが可能である。インビボで使用するために、化合物を薬学的組成物として処方することも可能である。
【0237】
ヒト好中球エラスターゼの典型的なアミノ酸配列:
(GenBank(登録商標)にも、gi|4502549|ref|NP_001963.1|エラスターゼ2、好中球[ホモ・サピエンス]としてリストされている。)
【0238】
【表3−2】

以下の非制限的な実施例で、本発明の態様をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0239】
ペプチドおよび小さなタンパク質は、インビボでは血液循環から速やかに除去される。速やかな除去(クリアランス)は、しばしば、治療可能性を大きく制約する。治療効果を発揮するためには高投薬量および頻繁な投与が必要となる。
【0240】
DX−890は、56アミノ酸からなり、3つの分子内ジスルフィド結合を含み、6,237Daという分子量を有する。第一級アミンによる結合について、DX−890上には、5つのペグ化部位と思われる部位、すなわち、4つの各リジン残基およびN末端がある。mPEGプロピオン酸スクシンイミジルを利用して、これらの部位、例えば、4つのリジン残基とN末端のそれぞれにPEGを結合させる。使用可能なPEG試薬は、平均分子量約5kDaのmPEGであろう。
【0241】
リジンの側鎖上のアミノ基およびN末端の改変を可能にするpHで、反応を完了するまで進めることができる。例えば、pHは7.5よりも大きくすることができ、例えば7.8と8.5の間にすることができる。この反応は、例えばTrisで停止させる。反応物をイオン交換カラムまたはサイズ排除カラムにロードして、ペグ化DX−890を含む画分を回収する。これらの関連画分を透析し、さらに精製してから、保存または解析することができる。
【0242】
ヒトプラスミンインヒビターであるDX−1000は、DX−890より少ないリジンを有するKunitzドメインであり、mPEGで改変するために利用可能な3つのリジンおよびN末端を有する。DX−1000は、平均分子量が約5kDaまたは7kDaのmPEGプロピオン酸スクシンイミジル試薬と結合させることができる。DX−1000は、例えばDX−890について記載したように、改変および精製することができる。米国特許第6,103,499号は、DX−1000に関連したインヒビターなど、他のプラスミンインヒビターも記載する。米国特許第6,103,499号記載の、配列を有するかまたは、モチーフに一致する、Kunitzドメインは、本明細書記載のように改変可能である。
【0243】
カリクレインインヒビターであるDX−88は、DX−890より少ないリジンを有するKunitzドメインであり、mPEGで改変するために利用可能な3つのリジンおよびN末端を有する。DX−88は、平均分子量が約5kDaまたは7kDaのmPEGプロピオン酸スクシンイミジル試薬と結合させることができる。DX−88は、例えばDX−890について記載したように、改変および精製することができる。米国特許第6,333,402号は、DX−88に関連したインヒビターなど、他のカリクレインインヒビターも記載する。例えば、上述の特許に記載の表6および表103を参照。米国特許第6,333,402号記載の、配列を有するかまたは、モチーフに一致する、Kunitzドメインは、本明細書に記載したように改変することが可能である。
【0244】
DX−890、DX−88およびDX−1000の推定される構造または実際の構造を、図1、図2および図3のそれぞれにリジン残基を摘示しつつ示す。
【0245】
(実施例)
上記の実施例は、多数または全ての可能な反応性部位で目的のタンパク質をペグ化する以下の方法によってさらに詳細に説明され、以下の実施形態において、上述の方法は、多数または全ての可能な第一級アミンにおいてKunitzドメインをポリペグ化するために用いられる。
【0246】
NEKTAR Therapeutics(カタログ番号:2M4M0H01)から入手した5kDaのアミノ反応性単官能基PEG(mPEG−SPA)をペグ化反応の材料として用いた。
【0247】
本発明者らは、4個または5個の5kDaのPEGによってDX−88、DX−890およびDX−1000をポリペグ化できることを発見した。さらに、ポリペグ化タンパク質は所望の治療活性を維持しつつ、循環半減期が延びた。また、非改変タンパク質を所望のペグ化型へ転換することに関して、反応条件は非常に効率的であった。この反応を用いるか、スケールアップして、ポリペグ化産物の常に均質な調製物を提供することができる。このように効率がよく、反応副産物がほとんど生じないため、ポリペグ化産物は、単一のペグ部分を含むKunitzドメインと比べて、より高い収率とより低いコストで合成可能である。本方法は、より制御されたバッチ間の濃度をもつ、より容易な製造可能性、および容易に十分な特徴づけができる最終産物を実現するのに役立つ。
【0248】
(材料)
・mPEG−SPA、分子量5,000Da、NEKTAR Therapeutics、 カタログ番号:2M4M0H01
(メトキシ−キャップをもつプロピオン酸リエチレングリコールのスクシンイミジルエステル)
・DX−88 API、分子量7,054Da、PBS,pH7.0中で約10mg/ml
・DX−890 API、分子量6,231Da、10mM NaAc,pH3.0中で約10mg/ml
・DX−1000 API、分子量7,167Da、 PBS,pH7.0中で約10mg/ml
・0.2〜0.3M Hepes,pH7.8〜8.5
・1M Tris,pH8.0
・1N HCl
(ペグ化反応I:)
1)ペグ:反応基を約10:1のモル比で、Kunitzドメインポリペプチドを反応させるのに必要なペグの量を算出する。例えば、DX−890は、全部で5つの反応基を有するので、ペグ:DX−890を50:1のモル比で用いる。Kunitzドメインポリペプチドおよび/または反応条件によって、典型的には25:1から50:1の比率を用いる。例えば、10mgのDX−890(分子量 6,231Da)を、ペグ:ペプチドを50:1のモル比でペグ化するには、401mgのPEG(分子量 5,000Da)が用いられよう。
2)KunitzドメインポリペプチドをPEGと反応させる直前に、必要量のKunitzドメインポリペプチドの貯蔵液を0.2M Hepes,pH7.8〜8.5のバッファーと1:1に希釈する。ペプチド貯蔵液は、一般的には約10.0mg/mlである。従って、希釈時のKunitzドメインポリペプチドの濃度は、0.1M Hepes,pH7.8〜8.5のバッファー中で、約5.0mg/mlである。DX−88およびDX−1000はともに、希釈時の可溶性に関して比較的安定している。しかし、DX−890は、希釈すると最初は溶けやすいが、時間がたつうちに沈殿する可能性がある。沈殿を最少にするために、反応時間を選ぶことができる。
3)1:1に希釈したKunitzドメインポリペプチド溶液を、直ちにPEG粉末に直接添加し、ボルテックス処理によってPEGを速やかに溶解する。完全に溶解したら、チューブにキャップをして、ホイルで包んで、2〜8℃から25℃までで2.5〜3時間ゆっくり振とう/回転させながら反応を行わせる。
4)2〜8℃から25℃までで30〜60分間穏やかに振とう/回転させながら、1/9量の1M Tris,pH8.0を添加して反応を終わらせる。
5)撹拌しながら1N HClを少しずつ添加して、反応停止させた反応混合物のpHが約7になるまで慎重かつゆっくり調整する。
6)中和反応物は、精製するまで、2〜8℃で保存するか、または−20℃から−80℃で凍結させてもよい。
【0249】
Kunitzドメインポリペプチド溶液を直接PEG粉末に添加すると、反応プロセスの工程数が簡略化し、また、反応前の加水分解の抑制に役立つ可能性がある。
【0250】
(ペグ化反応II:)
以下は、ポリペプチドをポリペグ化する別法である。
1)反応Iについて記載したように、PEGを検量して、反応直前に使うために取って置く。
2)0.3M Hepes,pH7.8〜8.5中で、Kunitzドメインポリペプチドを3〜5mg/mlに希釈する。
3)反応直前に、あらかじめ脱泡およびN飽和させてあるdHOの中で、200〜250mg/mlのPEG溶液(僅かに過剰)を素早く調製する。
4)混合しながら、Kunitzドメインポリペプチド溶液に、必要量のPEG溶液を直ちに添加する。チューブにキャップをして、ホイルで包み、2〜8℃から25℃までで、2.5〜3時間ゆっくりと振とう/回転させながら反応させる。
5)上記の工程4)から6)までを続ける。
【0251】
(実施例:分析法)
改変されたKunitzドメインは、多様な方法によって分析および特性評価を行うことができる。例示的な方法には、以下のものがある:
未精製の反応混合物は、別のプロトコールに記載されているように、クマシーおよびヨウ素染色法と、屈折率(RI)および280nm(UV)での吸光度を観察して、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC−HPLC)と還元/非還元SDS−PAGE分析法によって、ペグ化の程度を解析することが可能である。クマシー染色によるSDS−PAGE分析は、反応混合物(遊離および結合している)のポリペプチド成分のみを検出するが、一方、ヨード染色法は、(遊離および結合した)PEGを選択的に検出する。UV(abs. 280nm)によるSEC−HPLC分析法は(遊離および結合した)ペプチドを検出し、RIはペプチドおよびPEGを検出する。動的光散乱(LS)検出法により、絶対分子量および分子量分布の決定が可能になる。
【0252】
SDS−PAGEおよびSEC−HPLCはペグ化産物の分布を示すことができるが、絶対分子量はMALDI−TOF法または他の方法によって測定すべきである。その理由は、ペグ部分の流体力学半径が大きいために、ペグ化タンパク質は、非ペグ化タンパク質よりもゆっくりとゲルおよびSEC−HPLC上を動き、分子量の過大評価をもたらすからである。このことは、公知の絶対分子量をもつペグ化Kunitzドメインを標準として用いることによって克服できた。
【0253】
(ヨウ素染色法)
1本または2本のバンドのみに分離するペグ化試料について、まず、約2〜3mgのタンパク質(DX−1000、DX−88およびDX−890に対する)をゲルにロードする。結合に成功していれば、このようなローディングが、PEG:タンパク質の比率が25:1および50:1の反応にとって適当であることが非常に多い。しかし、より低い反応比率(1:1、5:1、および10:1)でペグ化した試料であって、多数のペグ化分子種を示すと予想される試料については、レーン当たり10〜15μgのタンパク質の方がより適当である(4〜5バンドが出現するかもしれないので)。試料を適量のNuPAGE LDS 試料用バッファーと混合する。ロードする前に、試料を70℃で10分間ボルテックスして加熱した。
【0254】
ゲルは、例えば、4〜12%Bis−Trisゲルを用いるInvitrogen NuPAGEシステムのような標準的な方法に従って、調製して解析することができる。例えば、NuPAGE Novex Bis−Tris Gels Quick Reference Card, Invitrogen Life Technologiesを参照のこと。
【0255】
ゲルは、脱イオン水の中で簡単に洗浄してから、シェーカー上で、10分間5%塩化バリウム溶液で覆う。ゲルを再び脱イオン水で洗浄してから、シェーカー上で少なくとも10分間0.1N ヨウ素溶液に浸す。ほとんどすぐにバンドが見えるはずである。完全な染色が10分後に完了する。そして、例えば、UVP Epi Chem II Darkroomおよび臭化エチジウムフィルターを用いて、ゲルを撮影する。
【0256】
ヨウ素染色してから、タンパク質を、クマシーによってタンパク染色することができる。ゲルはまず水の中で濯いで脱染してから、クマシーと混合し、その後、300mLのメタノール、100mLの氷酢酸、および600mLの水で脱染する。非ペグ化タンパク質のバンドは暗青色を呈し、ペグ化タンパク質は、あるとすれば、非常に薄い青色を呈するかもしれない。
【0257】
(クロマトグラフィー)
ここで用いたクロマトグラフィー装置(Waters Corporation)は、717プラス・オートサンプラー、996フォトダイオードアレイ検出器(PDA)および2414屈折率検出器を備えた、登録商標EMPOWERソフトウエアを実行する600システム(ポンプ/制御装置)であった。さらに、PD2010+動的光拡散(LS)検出器(Precision Detectors, Inc.)も続けて実行した。
【0258】
SECカラムクロマトグラフィーは以下の特徴を含むことがある。SECカラム:ガード(Tosoh Bioscience,カタログ番号:08541および08543)付きのTSK G3000SWxl (7.8mm ID×30cm L);流速:0.5 ml/分;泳動時間:35分間;移動相:0.05% NaNを含むPBS,pH7.2;試料注入量:25〜100μL;試料充填:注入1回あたり50〜100μg;検出:UV(280nm)、RIおよびLS;SEC標準:BioRad、カタログ番号:151−1901。
【0259】
(MALDI−TOF)
MALDI−TOF(マトリックス補助レーザー離脱イオン化飛行時間)質量分析装置(ABI,Applied Biosystem Voyager−DE)を用いて、反応生成物および被験体の実際の質量を測定できる。ポリペプチド分析には(例えば、反応の前に)、アルファ−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸を基質として用いることができる。反応産物またはポリペグ化種の分析には、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を基質として使用することができる。チップに試料:基質を1:1(0.5μL:0.5μL)の比率でスポッティングして、解析前に風乾することができる。
【0260】
(Ki値測定)
ポリペグ化タンパク質(例えば、ポリペグ化DX−890)の平衡阻害定数(Ki)を、可逆性複合体(1:1の化学量)を形成する強力結合阻害モデルに従って測定することができる。100pMの酵素(例えば、エラスターゼ)および50mM HEPES,pH7.5、150mM NaClおよび0.1%TritonX−100の中、30℃である範囲のインヒビター濃度(0〜4nM)を用いて反応を調整する。24時間インキュベートした後、基質を酵素インヒビター溶液に添加(25μM)して、基質の加水分解速度を360nmの励起および460nmの放射で観測する。非線形回帰分析による活性インヒビター濃度に対する残存活性の割合のプロットは、平衡解離定数を求める式1に適合する。非改変タンパク質およびポリペグ化タンパク質を、比較のために分析することができる。
【0261】
【表3−3】

ここで:
%A = 活性%
I = Kunitzドメインタンパク質濃度(例えば、DX−890)
E = 酵素(例えば、HNE)濃度
Ki = 平衡阻害定数。
【0262】
(動物における薬物動態)
以下の方法を用いて、例えば、マウスやウサギなどの動物中のポリペグ化タンパク質のようなタンパク質の薬物動態(PK)を評価することができる。
【0263】
試験されるタンパク質は、ヨードゲン法(Pierce)を用いてヨウ素(125I)で標識する。反応チューブは、反応用バッファー(25mM Tris、0.4M NaCl,pH7.5)で洗浄する。チューブを空にしてから、0.1mlの反応用バッファーおよび12μlの無担体ヨウ素126、約1.6mCiで置き換える。6分後、活性化したヨウ素を、試験すべきタンパク質を含むチューブに移す。9分後、反応を25μlの飽和チロシン溶液で停止させる。反応物は、Tris/NaCl中の5mlのD−saltポリアクリルアミド6000カラムで精製することができる。HSAを用いて、ゲルへの付着を最小限にすることができる。
【0264】
十分な数のマウス(約36匹)を入手する。各マウスの体重を記録する。マウスの場合には、動物の尾静脈に、試験すべきタンパク質を約5μg注射する。注射後約0、7、15、30、および90分、4時間、8時間、16時間、および24時間に、一時点当たり動物4匹を用いて、試料を動物ごとに各時点で回収する。試料(約0.5ml)を採取して、抗凝固剤(0.02mlのEDTA)の中に入れる。細胞を遠心沈殿して、血漿/血清から分離する。試料は、インライン放射線検出法を用いた、放射線計測、およびHPLC上のSECペプチドカラムによって解析することができる。
【0265】
ウサギでは、材料を耳静脈に注射する。試料は、注射後0、7、15、30、90分、4、8、16、24、48、72、96、120、および144時間で、採取することができる。マウスと同様に、試料を採取して分析することができる。
【0266】
データは、インビボにおけるクリアランスの「速い」、「遅い」および「最も遅い」という相を表現する2成分指数(式2)または3成分指数(式3)の崩壊曲線に適合しうる。
【0267】
【表3−4】

ここで:
y=投与後の時間=tにおいて血漿中に残存している標識の量
A=「速い」クリアランス相における全標識
B=「遅い」クリアランス相における全標識
C=「最も遅い」クリアランス相における全標識
α=「速い」クリアランス相の崩壊定数
β=「遅い」クリアランス相の崩壊定数
γ=「最も遅い」クリアランス相の崩壊定数
t=投与後経過時間。
【0268】
α、β、およびγ相の崩壊定数は、以下のようにそれぞれの相の半減期に変換することができる。
α相の半減期 = 0.69(1/α)
β相の半減期 = 0.69(1/β)
γ相の半減期 = 0.69(1/γ)。
【0269】
データが2成分指数の等式を用いると適合する場合には、αおよびβ相によってインビボで循環血から除去される全標識の割合を次の式で計算する:
%α相=[A/(A+B)]x100
%β相=[B/(A+B)]x100。
【0270】
データが3成分指数の等式を用いると適合する場合には、αおよびβ相によってインビボで循環血から除去される全標識の割合を次の式で計算する:
%α相=[A/(A+B+C)]x100
%β相=[B/(A+B+C)]x100
%γ相=[C/(A+B+C)]x100。
【0271】
【表4】

マウス(表4)およびウサギ(表5)の例では、DX−890またはDX−1000のいずれかをペグ化すると、アルファ経路によるクリアランスの割合が減少する。同時に、より長寿命の経路(ベータおよびガンマ)によるクリアランスの割合が増加する。
【0272】
ポリペグ化タンパク質もまた、SEC分析によってインビボにおける安定性を示した。
【0273】
(精製):
一つの例示的な精製方法は以下の通りである:
1)過剰/未反応PEG、および極微量の高分子量ペグ化分子種および低分子量のペグ化分子種の両方からのポリペグ化タンパク質の精製は、AKTA Basic10/100クロマトグラフィー装置(Amersham)におけるイオン交換クロマトグラフィーによって行うことができる。
2)例えば、少なくともペグ化DX−88およびペグ化DX−1000の場合では、強陽イオン交換樹脂(すなわち、Poros 50NS、Applied Biosystems、製品コード:1−3359−11)を、適当なサイズおよび容量のカラムに詰めることができる。
3)簡単に言うと、一定量のペグ化反応混合液を、必要に応じて、水で5から15倍に希釈してから、1M 酢酸(最終濃度100〜200mM)でpHを約3.0にpH調整し、伝導率を3mS/cmより小さく調製する。
4)カラムをまず、pH3.0の100mM 酢酸で平衡化する。線流速100cm/時。
5)同じ液で、約5カラム容量分をロードして洗浄する。ロード中の線流速は50cm/時である。
6)ペグ化タンパク質を、一連の段階勾配の中でカラムから溶出する。
7)第一段階の溶出は、HMW成分を除去するために、20mM NaCl入りの100mM 酢酸,pH3.2で行う。
8)第二段階の溶出は、50mM NaCl入りの100mM 酢酸,pH3.8(100cm/時で約10CV)で行い、主な生成物(すなわち、DX−88およびDX−1000については4×5kDa PEG/ペプチド)を溶出する。
9)第三の最終段階の溶出は、極微量のLMWペグ化種を除去するために、PBS,pH7.2(約5CV 100cm/時)で行う。
10)続いて、0.2M NaOHで洗浄する(30分の接触時間で約5CV)。
11)続いて、20%エタノール中でカラムを保存する(約10CV)。
12)プロファイルを横断して画分を回収し、まとめる前に、SDS−PAGEにより分析する。
13)そして、精製したペグ化タンパク質の最終プールは、利用可能な通常の手段を用いて、pH7.2のPBS中にUF/DFする。次に、最終物質を、0.22umで濾過し、(上記記載のように)abs.280nmによって定量し、小分けにして、使用するまで−20℃〜−80℃で凍結する。
【0274】
別の典型的な精製法であって、ポリペグ化DX−88の精製に用いることができる方法は、以下の通りである。
【0275】
反応生成物を陽イオン交換カラム上にロードする。Poros50HSは、このような小規模の場合に良好な結合能力(約3mg DX88−PEG5K/ml樹脂)を有するため、遊離PEGの分離を可能にし、ポリペグ化分子種を含む、適正に濃縮された溶出液をもたらすことが分かった。伝導率は2mS/cmよりも低く維持することができる。例えば、9.5cmのAKTA Poros50HS(幅1.1cm×高さ10cm)を用いてもよい。カラムを洗浄および清浄化して、エンドトキシンおよび他の混入物を除去する。カラムは、10mMの酢酸ナトリウム、pH3.5の中で平衡化してロードすることができる。
【0276】
(UF/DFおよび最終DX−88−PEG5Kプールの解析)
ポリペグ化DX−88を含む画分を、約6mLの試料全量となるようにまとめた。試料は、バッファーをInvitrogen(エンドトキシン規格<0.25EU/ml)から1×DPBS,pH7.2(未改変)に交換して、分子量カットオフ量10,000kDaおよび遠心分離力4500×gで2つのAmicon Ultra−15 Centrifugal Filter Deviceを用いて濃縮した。登録商標CENTRICONを0.1N NaOH(エンドトキシン産生を低下させるために1N NaOH、Acros、から希釈)で1時間洗浄した。最終交換因子は1×DPBSの中に300倍であった。濃縮され精製されたDX−88−PEG5Kをセントリコンから全量で3mL回収した。試料を1:10に希釈し、DX−88の吸光係数0.954を用いて、1×DPBSに対する吸光度280nmを測定して、上述の試料の最終濃度を4.97mg/mLと測定した。試料の最終pHは、Whatman pH Indicatorストリップ(pH0〜14)を用いて、約2と測定された。全濾液(全量33mL)をタンパク質含量について分析したところ、1×DPBSに対して、0.003以下の吸光度280nmを示した。精製したDX−88−PEG5Kの試料を、無菌チューブの中に0.5mL画分(それぞれ2.5mg)に小分けして、−80℃で凍結した。1:10で希釈した試料を、段階希釈してSDS−PAGEで分析して、目的の主生成物である4−PEG5K−DX−88の純度を推定した。4−PEG5K−DX−88の純度は約90%である。
【0277】
(DX−890)
本発明者らは、ポリペグ化DX−890を調製した。ゲル電気泳動およびクロマトグラフ分析は、5KPEG試薬に対して1:50または1:63という比率でDX−890を用いた反応が、主に(>85%)、5つの結合PEG部分を有する修飾DX−890である反応産物を生成することを示した。様々な比率でペグ化したDX−890は、コントロール(約10 U/mg)と較べて、その特異活性を維持した。
【0278】
ポリペグ化DX−890は、5つのPEG部分(それぞれが約5,266ダルトンの分子量を有する)に加えて、DX−890の質量(理論値:6,237ダルトン、観察値:6,229ダルトン)を有すると予測されている。推定総質量は34,682ダルトンである。MALDI−TOFによって観察された分子種の質量は約34,219ダルトンで、理論的予測と一致しており、各PEG部分の分子量は変化しうる。
【0279】
(DX−88)
本発明者らは、ポリペグ化DX−88を調製した。ゲル電気泳動およびクロマトグラフ分析は、pH7.8の5KPEG試薬に対して1:50という比率でDX−890を用いた反応によって、主に(>85%)4つの結合PEG部分を有する修飾DX−88である反応産物が生成されることを示した。
【0280】
ポリペグ化DX−88は、4つのPEG部分(それぞれが約5,266ダルトンの分子量を有する)に加えて、DX−88(7,054ダルトン)の質量を有すると予測されている。推定総質量は28,126ダルトンである。MALDI−TOFによって観察された分子種の質量は約29,680ダルトンで、理論的予測と一致しており、各PEG部分の分子量は変化しうる。
【0281】
他の実施態様は、以下の請求の範囲内に含まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−231115(P2011−231115A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123527(P2011−123527)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【分割の表示】特願2010−168706(P2010−168706)の分割
【原出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(506065987)ダイアックス コーポレーション (26)
【Fターム(参考)】